JP6399401B2 - 耐チッピング性、耐溶着性及び耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents
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即ち、前記特許文献1の被覆工具では、硬質被覆層表面のドロップレットの組成を制御することによって、すくい面ではクレーター摩耗が減少し、また、逃げ面では耐欠損性の向上が図られるが、切削開始初期における効果は高いが、長時間切削においては効果が低下し、短寿命である。
また、前記特許文献2に記載される被覆工具は、硬質被覆層が(Al,Cr)N層からなる場合には効果的であるが、他の成分系の硬質被覆層においては耐欠損性、耐摩耗性が十分ではない。
さらに、前記特許文献3の被覆工具では、Alが高濃度の金属粒子が存在し、この金属粒子は融点が低いために、切削加工時に低融点金属粒子が溶着を発生し易い。
なお、本発明でいう「空隙」とは、硬質被覆層内で粒子に接して存在する空隙であって、該空隙を画成する壁面は、(Al,Ti,Si)N層からなる壁面と粒子表面からなる壁面によって形成される空隙をいう。
また、(Al,Ti,Si)N層における粒子の成分組成、アスペクト比が1〜1.5である粒子の個数割合、粒子の面積率A、空隙の面積率B、粒子と空隙の面積比率A/Bは、アーク電流、バイアス電圧、N2分圧等を制御することで調整できることを見出した。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、物理蒸着法によって硬質被覆層を被覆形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、1または2以上の層から形成され、そのうちの少なくとも1層は、組成式:(Al1−x−yTixSiy)N(但し、x、yはいずれも原子比で、0.3≦x≦0.6、0.01≦y≦0.1を満足する)で表される平均層厚0.5〜8.0μmの複合窒化物層からなり、
(b)前記複合窒化物層は、30原子%以下のNと、Al,Ti,Siのうち1種または2種以上から選択される元素を含有する粒子が分散分布するとともに、この粒子に接する空隙が存在し、
(c)前記(b)の全粒子数の90%以上の個数割合の粒子が、組成式:AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される組成を有し、かつ、縦断面形状のアスペクト比が1〜1.5であって、
(d)前記(b)の粒子の前記複合窒化物層における縦断面面積比率Aは、0.5〜2面積%であり、前記空隙の縦断面面積比率Bは、2≦A/B≦5を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(c)に記載される組成式で表される粒子において、cの値が、0.3≦c≦0.4である粒子の個数割合が、全粒子数の10%以上を占めることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有する。
図2に示すように、本発明の被覆工具は、1または2以上の層から形成される硬質被覆層のうち、少なくとも1層は、組成式:(Al1−x−yTixSiy)N(但し、x、yはいずれも原子比で、0.3≦x≦0.6、0.01≦y≦0.1を満足する)で表される(Al,Ti,Si)Nからなる複合窒化物層で構成し、かつ、該複合窒化物層中に、組成式:AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、d≦0.3、a+b+c+d=1を満足する)で表される粒子が含有され、かつ、該粒子に接して空隙が形成されている。
前記(Al,Ti,Si)N層(AlとTiとSiの複合窒化物層)において、その構成成分であるAl成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Ti成分が高温強度を向上させ、また、Si成分が耐酸化性を向上させる。さらに、AlとTiとが共存することによって高温耐酸化性を向上させる作用がある。ところが、(Al,Ti,Si)N層において、AlとTiとSiとの合量に占めるTiの含有割合が30原子%未満であると、溶着性の高い被削材のミーリング切削加工において、被削材および切粉に対する耐溶着性を確保することができず、また、高温強度も低下するため、溶着、欠損を発生しやすくなる。一方、AlとTiとSiとの合量に占めるTiの含有割合が60原子%を超えると、相対的なAl含有割合の減少により、高温硬さの低下、耐熱性の低下が生じ、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が低下する。したがって、AlとTiとSiとの合量に占めるTiの含有割合x(但し、原子比)は、0.3≦x≦0.6とする。
また、(Al,Ti,Si)N層において、AlとTiとSiとの合量に占める割合でSiを1原子%以上含有させることにより耐酸化性が向上し、高温硬さも向上するがため、Siの含有割合が10原子%を超えると、(Al,Ti,Si)N層の高温靭性、高温強度が低下するので、AlとTiとSiとの合量に占めるSiの含有割合y(但し、原子比)は、0.01≦y≦0.1とする。なお金属成分であるAl,Ti,Siの合計量と非金属成分であるNの比は、化学量論比である1:1に限定されず、1:1の場合と同一の結晶構造が維持されていれば本発明の効果を得ることができる。
また、前記(Al,Ti,Si)N層の層厚が0.5μm未満だと粒子を内部に分散させても所望の効果が得ることができず、一方、8.0μmを越えると切刃部に欠損が生じやすくなるため、平均層厚は0.5〜8.0μmとした。
(Al,Ti,Si)N層中に形成される粒子の成分組成は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(SEM−EDS)を用いて測定することができるが、粒子の成分組成を、AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比。a+b+c+d=1)で表した場合、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5の範囲外の個数割合が10%を超える場合には、形成される粒子が低融点化するため、前記(Al,Ti,Si)N層の耐溶着性が低下する。
したがって、前記(Al,Ti,Si)N層中に形成される粒子の組成は、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5を満足することが必要である。
なお、ここでいう粒子とは、窒素含有割合dが0.3以下(即ち、30原子%以下)の塊を意味する。
本発明では、前記AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される成分組成の粒子に接して、所定の縦断面面積比率を有する空隙を形成するために、アスペクト比が1以上である粒子を全粒子の90%以上形成するが、アスペクト比が1未満あるいは1.5を超える粒子が全粒子の10%を超えて形成されると、粒子に接して所定の縦断面面積比率を有する空隙が形成されなくなり、空隙を形成することによってもたらされる硬質被覆層全体、特に、(Al,Ti,Si)N層、における応力緩和効果の向上を期待できなくなる。
したがって、本発明では、(Al,Ti,Si)N層中に形成されるAlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される成分組成の粒子を有し、かつ、アスペクト比が1〜1.5である粒子の個数割合を、全粒子の90%以上と定めた。
なお、本発明では、図3に示すように、個々の粒子について、粒子の短辺の長さをR1、また、粒子の長辺の長さをR2とした場合に、R2/R1の値を個々の粒子のアスペクト比と定義する。
また、上記粒子において、0.3≦c≦0.4を満足する粒子が、全粒子の個数の10%以上存在する場合には、粒子の低融点化を抑える効果が大きい。
したがって、耐溶着性向上の観点からは、0.3≦c≦0.4を満足する粒子が、全粒子の個数の10%以上存在することが望ましい。
(Al,Ti,Si)N層の縦断面に占める粒子の縦断面面積比率Aは、(Al,Ti,Si)N層の断面SEM観察画像から求めることができるが、粒子の縦断面面積比率Aが0.5面積%未満であると、硬さの小さい粒子の割合が少なくなるため、耐チッピング性の向上を期待できなくなるばかりか、粒子に接して形成される空隙の形成割合も低下するため、(Al,Ti,Si)N層の応力緩和効果が少なくなる。一方、粒子の縦断面面積比率Aが2面積%より大きくなると、(Al,Ti,Si)N層全体としての硬さが低下するために耐摩耗性が低下する。
したがって、前記組成を有し、かつ、前記アスペクト比を有する粒子は、(Al,Ti,Si)N層中に、0.5〜2%の縦断面面積比率で分散分布させることが必要である。
(Al,Ti,Si)N層中に形成される粒子の縦断面面積比率Aと、空隙に露出する粒子の表面からなる壁面と空隙に露出する(Al,Ti,Si)N層の壁面とによって画成され空隙の縦断面面積比率Bは、(Al,Ti,Si)N層の断面SEM観察画像から求めることができるが、A/Bが2未満である場合には、粒子に隣接して形成される空隙の面積割合が大きいため、(Al,Ti,Si)N層が疎な構造となり、(Al,Ti,Si)N層の硬さが低下する。一方、A/Bが5を超える場合には、形成される空隙の面積割合が小さくなるため、(Al,Ti,Si)N層の残留応力低減効果が減少する。
したがって、本発明では、(Al,Ti,Si)N層中に形成される前記組成を有し、かつ、前記アスペクト比を有する粒子の縦断面面積比率Aと、空隙に露出する該粒子の表面からなる壁面と空隙に露出する(Al,Ti,Si)N層の壁面とによって画成され空隙の縦断面面積比率Bの比率A/Bを、2≦A/B≦5と定める。
そして、これによって、耐チッピング性と耐摩耗性を両立させることができ、所定の硬さと低減された残留応力を備えた(Al,Ti,Si)N層を形成することができる。
本発明では、前記組成を有し、かつ、前記アスペクト比を有する粒子および該粒子に接して形成される空隙について、空隙に露出する該粒子の表面からなる壁面のなす最小曲率半径r1と、該粒子に接して形成される空隙に露出する(Al,Ti,Si)N層の壁面のなす最小曲率半径r2を、(Al,Ti,Si)N層の縦断面を、SEM観察することによって測定したところ、(Al,Ti,Si)N層中に形成される前記粒子数の90%以上の個数割合の粒子が、r1>r2を満足する空隙に接していることを確認した。
なお、SEM観察におけるr1、r2の測定は、例えば、以下のとおり行うことができる。
図4に示すように、空隙に露出する粒子及び該粒子に接して存在する空隙を、空隙に露出する粒子を中心にして、層厚方向および基体水平方向に4等分して領域1,領域2,領域3および領域4に区分し、例えば、領域1における空隙に露出する粒子の表面からなる壁面の形状を曲線で近似し、近似した曲線のなす最小曲率半径をr1として求め、また、領域1において、粒子左下部に対向して位置し、空隙を介して該粒子左下部に相対する空隙に露出する(Al,Ti,Si)N層の壁面の形状を曲線で近似し、近似した曲線のなす最小曲率半径をr2として求める。また、同様にして、粒子右下部の領域4についても、それぞれr1,r2を求めることができる。
ただし、図4における領域2(粒子左上部)については、粒子に接して空隙が形成されていないこと、言い換えれば、空隙に露出する(Al,Ti,Si)N層の壁面が、空隙を介して該粒子左上部に相対していないことから、本発明におけるr1、r2を測定する対象領域とはしない。また、図4における領域3(粒子右上部)については、そもそも粒子に接する空隙が無いことから、r1、r2の測定対象外の領域である。
また、例えば、図4の領域1における空隙はr1>r2を満たしているが、領域4における空隙がr1>r2を満たしていない場合においては、粒子に接する空隙の少なくとも1つがr1>r2を満たしていれば、その粒子は、r1>r2を満足する空隙に接している粒子であると判定することとする。これは、粒子に接する空隙の1つの領域でもr1>r2という条件を満たせば、所望の残留応力緩和効果が得られるという理由による。
そして、本発明では、r1>r2を満足する空隙に接する粒子の個数割合が、前記粒子数の90%以上であることから、(Al,Ti,Si)N層の硬さ、残留応力値を適正化され、切削加工時における耐チッピング、耐摩耗性がさらに向上する。
すなわち、所定の成分組成、かつ、所定のアスペクト比の粒子を所定の面積割合で(Al,Ti,Si)N層内に分散分布させ、かつ、該粒子に隣接して所定の面積割合の空隙を形成することによって、(Al,Ti,Si)N層内の残留応力を緩和してすぐれた耐チッピング性、耐溶着性を確保すると同時に、(Al,Ti,Si)N層を所定の硬さに維持することによって、長期の使用にわたる耐摩耗性を確保するものである。
さらに、空隙に露出する粒子の表面からなる壁面の形状および空隙に露出し、かつ、粒子に相対する(Al,Ti,Si)N層の壁面の形状を曲線で近似し、近似した曲線の曲率半径の最小値からr1およびr2を求めた。さらに、r1>r2を満足する空隙に接する粒子の個数割合(但し、AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される成分組成を有し、かつ、アスペクト比が1〜1.5である粒子数に対する個数割合)を求めた。
測定法:SEM−EDSマッピング、
加速電圧:7.0kV、
SEM―EDSスポットサイズ:直径1μm、
観察倍率:30000倍とし、
1視野約4μm×3μmのエリアを3視野用いた。
次いで、同一視野のSEM像及びEDSマッピング像を用い、粒子の形状および空隙の形状をそれぞれ曲線で近似し、マーキングする。
次いで、3視野合計の(Al,Ti,Si)N層中の合計断面積、マーキングに基づいて3視野の粒子の合計断面積、3視野の空隙合計断面積を算出する。
そして、(Al,Ti,Si)N層中の合計断面積に対する粒子の合計断面積の面積比率をA、また、(Al,Ti,Si)N層中の合計断面積に対する空隙合計断面積の面積比率をBとすることにより、A/Bを算出する。
また、(Al,Ti,Si)N層中の粒子と空隙以外の箇所で組成を3箇所抽出し、これを平均して(Al,Ti,Si)N層の成分組成とする。また、各粒子の組成を3箇所抽出し、これを平均して粒子の成分組成とする。
また、粒子のアスペクト比は、図3に示すように、工具基体表面に垂直な方向に測定した粒子の短辺の長さの最大値をR1、また、工具基体表面に平行な方向に測定した粒子の長辺の長さの最大値をR2とし、R2/R1を算出することによって個々の粒子のアスペクト比を求め、さらに、R2/R1が1〜1.5である粒子の全粒子に占める個数割合を測定する。
さらに、マーキングした粒子の形状および空隙の形状に基づき、空隙に露出する粒子の表面からなる壁面の形状を近似した曲線から曲率半径の最小値を算出してこれをr1とし、また、この粒子に接する空隙に露出し、かつ、粒子に相対する(Al,Ti,Si)N層の壁面の形状を近似した曲線から曲率半径を算出してこれをr2とすることによって、r1、r2を求めることができ、ついで、r1、r2の大小を判定する。さらに、r1>r2を満足する空隙に接する粒子の個数割合(但し、AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される成分組成を有し、かつ、アスペクト比が1〜1.5である粒子数に対する個数割合)を求めた。
これらの値を同じく表5にそれぞれ示す。
被削材: JIS・SKD11(60HRC)のブロック材
回転数: 5400 /min、
切削速度: 100 m/min、
送り: 540mm/min
切り込み量: ae0.2 mm、ap2.0 mm、
一刃送り量: 0.05 mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 200m、
表6に、前記切削試験の結果を示す。
また前記実施例では1層の(Al,Ti,Si)N層からなる硬質被覆層について説明したが、硬質被覆層が2層以上からなる場合であっても、少なくとも1層が前記実施例に記載の(Al,Ti,Si)N層であれば同様の効果を奏するものである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、物理蒸着法によって硬質被覆層を被覆形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、1または2以上の層から形成され、そのうちの少なくとも1層は、組成式:(Al1−x−yTixSiy)N(但し、x、yはいずれも原子比で、0.3≦x≦0.6、0.01≦y≦0.1を満足する)で表される平均層厚0.5〜8.0μmの複合窒化物層からなり、
(b)前記複合窒化物層は、30原子%以下のNと、Al,Ti,Siのうち1種または2種以上から選択される元素を含有する粒子が分散分布するとともに、この粒子に接する空隙が存在し、
(c)前記(b)の全粒子数の90%以上の個数割合の粒子が、組成式:AlaTibSicNd(但し、a、b、c、dはいずれも原子比で、a≦0.3、b≧0.4、c≦0.5、a+b+c+d=1を満足する)で表される組成を有し、かつ、縦断面形状のアスペクト比が1〜1.5であって、であって、
(d)前記(b)の粒子の前記複合窒化物層における縦断面面積比率Aは、0.5〜2面積%であり、前記空隙の縦断面面積比率Bは、2≦A/B≦5を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記(c)に記載される組成式で表される粒子において、cの値が、0.3≦c≦0.4である粒子の個数割合が、全粒子数の10%以上を占めることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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