JP2017159424A - 耐チッピング性と耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具を提供する。【解決手段】硬質被覆層は少なくともAlTiSiN層からなる下部層とAlCrSiNiZrN層からなる上部層を備え、上部層は、主相と、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、それぞれの組成を、組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ)1−xNxで表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比)、前記主相と、前記CrSiリッチパーティクルと、前記NiZrリッチパーティクルは、それぞれα、β、γ、δ、xが所要の値を満足し、かつ、硬質被覆層縦断面に占める長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルの面積率は、0.5〜5面積%、NiZrリッチパーティクルの面積率は0.3〜3面積%である。【選択図】図2

Description

本発明は、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、例えば、特許文献1に示されているように、工具基体の表面に、組成式:(Al1−x−yCrSi)(N1−z)(但し、0.3≦x≦0.7、0≦y≦0.1、0≦z≦0.3)で表される平均層厚0.5〜8.0μmの複合炭窒化物層または複合窒化物層からなる硬質皮膜を形成した表面被覆切削工具において、硬質皮膜は、構成元素の90原子%以上が金属元素である粒子を含有しており、前記粒子は、断面長径0.05〜1.0μmで前記硬質皮膜中に3〜20%の縦断面面積比率で分散分布し、前記粒子のうち、構成元素に50原子%以上のAlを含み、かつ縦断面形状のアスペクト比が2.0以上かつ断面長径が基板表面となす鋭角が45°以下である粒子の縦断面面積比率をA%、それ以外の粒子の縦断面面積比率をB%としたとき、0.3≦A/(A+B)を満足し、炭素鋼、合金工具鋼等の正面フライス加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具が知られている。
また、特許文献2に示されているように、工具基体の表面に、少なくとも、0.5〜10μmの層厚のAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆形成した表面被覆切削工具において、上記AlとCrの複合窒化物層中には、ポアおよびパーティクル(ドロップレット)が分散分布し、上記AlとCrの複合窒化物層の任意の断面における上記ポアの占有面積率および上記パーティクル(ドロップレット)の占有面積率は、それぞれ、0.5〜1面積%および2〜4面積%であり、さらに、上記パーティクル(ドロップレット)のうち、上記AlとCrの複合窒化物層の平均Al含有量よりもAl含有割合が高いAlリッチパーティクル(ドロップレット)が、上記AlとCrの複合窒化物層の任意の断面における全パーティクル(ドロップレット)面積の20面積%以上を占め、炭素鋼、合金工具鋼等の高速切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具が知られている。
また、特許文献3には、硬質被膜形成用のターゲットとして、Cr1−x−y−zAl[Ni1−aZrで表される組成を有し(但し、Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5)、相対密度が95%以上であるターゲットが提案されており、このターゲットを用いて形成された窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む硬質被膜を備えた被覆工具は、耐摩耗性及び密着性に優れることが知られている。
さらに、特許文献4には、工具基体表面に、少なくとも、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層を形成し、薄層Aは、組成式:[AlCrSi]N(原子比で、0.2≦X≦0.45、0.4≦Y≦0.75、0.01≦Z≦0.2、X+Y+Z=1)を満足する(Al,Cr,Si)N層、薄層Bは[AlTiSi]N(原子比で、0.05≦U≦0.75、0.15≦V≦0.94、0.01≦W≦0.1、U+V+W=1)を満足する(Al,Ti,Si)N層、にて構成することにより、高速切削加工における耐欠損性、耐摩耗性を改善した被覆工具が提案されている。
特開2013−56954号公報 特開2012−166333号公報 特開2008−238336号公報 特開2009−39838号公報
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、被覆工具は一段と過酷な条件下で使用されるようになってきており、耐チッピング性、耐摩耗性等を高めるために、前記特許文献1〜3に示されるような手法で、被覆工具の性能向上がなされてきているが、特に、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の切削加工においては、耐チッピング性と耐摩耗性の双方の特性を相兼ね備えた被覆工具の開発は未だ十分になされているとはいえない。
例えば、特許文献1に示される被覆工具においては、硬質皮膜中に含有される粒子を構成する元素の90原子%以上が金属元素であり、しかも、構成元素の50原子%以上Alが含有されているため、粒子組成がAlリッチであって融点が低く、耐溶着性が劣るため、耐チッピング性が十分ではなかった。
また、特許文献2に示される被覆工具においては、硬質皮膜中に存在するパーティクル(ドロップレット)の下部には空隙が形成されており、その空隙が存在することで、高負荷が作用した際の皮膜の強度が弱く、例えば、空隙をクラックが伝播・進展することによりチッピング発生に至るという問題があった。
また、特許文献3に示される被覆工具は、Cr−Al−Ni−N系の硬質被膜において、Niの一部をZrで置換するとともに、任意成分としてのSiを含有させることにより、密着性と耐摩耗性の改善を図ったものであるが、この被覆工具を、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工に供した場合には、耐チッピング性と耐摩耗性の両立を図ることはできなかった。
さらに、特許文献4に示される被覆工具では、薄層Aの有する耐摩耗性と薄層Bの有する高温靭性・高温強度を相兼ね備えるように交互積層構造を形成しているが、焼入れ鋼等の高硬度材の断続切削加工では、耐チッピング性、耐摩耗性が十分であるとはいえなかった。
そこで、本発明は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工(例えば、ミーリング加工)に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述のような観点から、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、耐チッピング性と耐摩耗性を両立し得る硬質被覆層の層構造について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得たのである。
即ち、工具基体表面に、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層を被覆形成した被覆工具において、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層内に成分系の異なる2種類のパーティクル、具体的には、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクル、を共存させ、しかも、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層に占める前記2種類のパーティックルの面積率をそれぞれ特定範囲に定めることにより、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層は耐溶着性とともにすぐれた硬さと強度を示すようになることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層と工具基体の密着強度を向上させるための下部層を設け、あるいは、密着強度をさらに高めるために、下部層と前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層との間に中間層を介在形成することによって、焼入れ鋼などの高硬度材の断続切削加工のような、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる切削加工条件においても、剥離等を発生することもなく、すぐれた耐チッピング性とすぐれた耐摩耗性の両立を図り得ることを見出したのである。
前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層、下部層、中間層は、いずれも工具基体表面に、PVD法により成膜することができる。
例えば、図3にその概略を示すアークイオンプレーティング(以下、「AIP」で示す)装置を用いて、前記の各層を成膜することができるが、特に、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層の成膜に際しては、その成膜条件として、特に、ターゲットに印加する磁束密度の強さ及びアーク電流の大きさを制御することによって、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層中に所定の面積率のCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルを共存生成させることができる。
そして、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層中に存在する所定の面積率のCrSiリッチパーティクルは、該層の耐溶着性、耐チッピング性向上に寄与すること、また、該層中に存在する所定の面積率のNiZrリッチパーティクルが、潤滑性向上に寄与することを見出したのである。
その結果、前記の硬質被覆層を被覆形成した本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、すぐれた耐溶着性、耐チッピング性および耐摩耗性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、少なくとも下部層と上部層からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記下部層は、AlとTiとSiの複合窒化物層からなり、
前記下部層を、
組成式:(Al1−a−bTiSi1−yで表した場合、
0.30≦a≦0.50、0.01≦b≦0.10、0.45≦y≦0.60(ただし、a、b、yはいずれも原子比)を満足し、
(b)前記上部層は、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなり、該層は、主相と、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、前記主相、CrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
(c)前記主相は、0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、
(d)前記CrSiリッチパーティクルは、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35を満足し、
(e)前記NiZrリッチパーティクルは、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35を満足し、
(f)前記上部層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記CrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下であり、また、前記上部層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記(1)に記載の表面被覆切削工具において、前記下部層と上部層との間に、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる合計平均層厚0.1〜1.0μmの中間層が介在して設けられており、
(a)前記薄層Aは、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、一層平均層厚0.005〜0.10μmのAlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなり、
(b)前記薄層Bは、
組成式:(Al1−a−bTiSi1−yで表した場合、
0.30≦a≦0.50、0.01≦b≦0.10、0.45≦y≦0.60(ただし、a、b、yはいずれも原子比)を満足し、一層平均層厚0.005〜0.10μmのAlとTiとSiの複合窒化物層からなることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細を説明する。
硬質被覆層:
本発明の硬質被覆層は、一つの態様として、図1(a)の模式図に示すように、AlとTiとSiの複合窒化物(以下、「AlTiSiN」で示す)層からなる下部層とAlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物(以下、「AlCrSiNiZrN」で示す)層からなる上部層との二層構造で構成される。
また、別の態様としては、図1(b)に示すように、AlTiSiN層からなる下部層とAlCrSiNiZrN層からなる上部層の間に、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなら中間層が介在形成された三層構造で構成される。
そして、前記二層構造であるか三層構造であるかにかかわらず、前記上部層は、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルとにより構成される。
下部層あるいは中間層の薄層Bを構成するAlTiSiN層の組成:
下部層あるいは中間層の薄層Bを構成するAlTiSiN層の組成式におけるAl成分、Si成分は、下部層あるいは中間層の薄層Bにおける耐摩耗性を向上し、また、Ti成分は下部層あるいは中間層の薄層Bにおける高温靭性、高温強度改善する。
さらに、AlTiSiN層は、工具基体および上部層あるいは中間層の薄層Aとの密着強度にすぐれるため、切削加工時に大きな衝撃的・機械的負荷が作用した場合に、硬質被覆層の耐剥離性を高める。
しかし、AlとTiとSiの合量に占めるTiの含有割合を示すa値が0.30(但し、aは原子比)未満の場合には、高温靭性、高温強度の向上効果を期待できず、一方、a値が0.50を超えるような場合には、相対的なAl成分、Si成分の含有割合の減少により、最低限必要とされる高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができなくなる。また、AlとTiとSiの合量に占めるSiの割合を示すb値が0.01未満では、最低限必要とされる所定の高温硬さ、高温耐酸化性、耐熱塑性変形性を確保することができなくなるため、耐摩耗性低下の原因となり、またb値が0.10を超えると、耐摩耗性向上作用に低下傾向がみられるようになる。
したがって、Tiの含有割合を示すa値は0.30≦a≦0.50、また、Siの含有割合を示すb値は0.01≦b≦0.10と定めた。上記a、bについて、望ましい範囲は、0.35≦a≦0.42、0.03≦b≦0.08である。
なお、AlTiSiN層を構成する成分の総量に対するN成分の含有割合yは、化学量論比である0.50には限定されず、これと同等な効果が得られる範囲である0.45≦y≦0.60の範囲であればよい。
下部層の平均層厚:
下部層は、工具基体表面と上部層あるいは中間層との付着強度をより高める作用を有するが、下部層の層厚が、0.3μm未満では、密着力向上効果が得られず、一方、層厚が3.0μmを超えると、残留圧縮応力の蓄積により、クラックが発生しやすくなり安定した密着力を確保できなくなることから、下部層の層厚は、0.3〜3.0μmとすることが望ましく、より望ましくは、0.5〜2.0μmの範囲である。
上部層の主相:
上部層の主相を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、その構成成分であるAl成分は高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分は高温強度を向上させ、Si成分は耐酸化性を向上させる。また、AlとCrとが共存することによって高温耐酸化性を向上させる作用がある。さらに、Ni成分は層の潤滑性を向上させ、Zr成分は層の硬さを高める作用がある。
そして、前記組成式において、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αが0.15未満であると、相対的にAl含有量が高くなるため、溶着性の高い被削材の断続切削加工において、被削材および切粉に対する耐溶着性を確保することができず、また、高温強度も低下するため、溶着、チッピングを発生しやすくなる。一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αが0.30を超えると、硬質被覆層をAIP装置で成膜する際に、ターゲット材の融点が高くなり、その結果、副次的に生成されるCrSiリッチパーティクルも高Cr濃度となり、融点が相対的に高くなる。そのため、CrSiリッチパーティクルの形状は球状に近くなり、長径が100nm以上のパーティクル形状が形成されず、パーティクルの下部に空隙が残る。そして、この空隙が、切削加工時のクラックの起点となりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
したがって、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αは、0.15≦α≦0.30とする。
また、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βが0.01未満では、耐酸化性向上効果が少ないばかりか、相対的にCr含有割合が高くなるため、粒子の融点が高くなり、耐チッピング性向上効果が少ない。一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βが0.15を超えると、主相の高温靭性、高温強度が低下するので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βは、0.01≦β≦0.15とする。
また、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γが0.001未満では、主相の潤滑性向上効果が少なく、一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γが0.02を超えると、主相の硬度を低下させることにより、耐摩耗性を低下させるので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γは、0.001≦γ≦0.02とする。
さらに、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δが0.001未満では、主相の硬度を高める効果が少なく、一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δが0.02を超えると、耐チッピング性を低下させるので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δは、0.001≦γ≦0.02とする。
なお、複合窒化物からなる主相において、主相を構成する成分の総量に対するN成分の含有割合xは、化学量論比である0.50には限定されず、これと同等な効果が得られる範囲である0.45≦x≦0.60の範囲であればよい。
また、上部層の層厚について本発明では特に制限するものではないが、上部層の層厚が0.5μm未満であると、十分な耐摩耗性を長期にわたって発揮することができず、一方、5.0μmを越えると、硬質被覆層中に蓄積される圧縮残留応力が大きくなるため、切削初期に切れ刃でのチッピング発生が生じやすくなり、また、硬質被覆層自体が自己破壊する恐れがある。
したがって、上部層の層厚は、0.5μm以上5.0μm以下とすることが望ましい。
上部層中のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクル:
上部層中には、前記主相に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクル(図2参照)が形成される。
CrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの生成は、図3に示すAIP装置を用いてAlCrSiNiZrN層を蒸着形成する際の蒸着条件、特に、ターゲットに印加する磁束密度の大きさ及びアーク電流の大きさをコントロールすることによって、それぞれのパーティクルを所望の組成とすることができ、さらに、主相中に存在するパーティクルのうち、長径が100nm以上のそれぞれのパーティクルが上部層の縦断面に占める面積率を所望の値とすることができる。
CrSiリッチパーティクル:
CrSiリッチパーティクルは、主相中に分散分布し、上部層の高温強度を向上し、その結果、切削加工時の耐チッピング性を向上させる。
CrSiリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、CrSiリッチパーティクルの組成が、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35の範囲を外れると、焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工において、被削材および切粉に対する高温強度を確保することができなくなるため、チッピングを発生しやすくなる。
Crの含有割合αが0.25未満では、主相に対して十分な強度が得られず、主相中へ分散した際に発揮する耐チッピング性向上の効果が小さくなる。一方、Crの含有割合が0.65を超えると、パーティクルが球状に近くなりパーティクル下に空隙が残りやすくなり、これがクラックの起点となりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
Siの含有割合βが0.15未満では、パーティクルの耐酸化性が低下し、0.50を超えると、パーティクルの高温靭性が低下し、パーティクル自体がクラックの起点になってしまう。
Ni、Zr含有割合が0.02を超えると、パーティクル自体の強度が低下し、CrSiリッチパーティクルを分散させることにより得られる耐チッピング性が十分発揮できなくなる。
Nの含有量xが0.05未満では、主相との親和性が低下しパーティクルと主相の界面がクラックの起点になってしまい、また、0.35を超えるとCrSiリッチパーティクルとしての効果が発揮されない。
NiZrリッチパーティクル:
NiZrリッチパーティクルは、主相中に分散分布し、硬質被覆層の潤滑性を高め、その結果、耐摩耗性を向上させる。
NiZrリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、NiZrリッチパーティクルの組成が、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35の範囲を外れると、耐摩耗性向上効果が低下する。
Niの含有割合γが0.20未満では、NiZrリッチパーティクルとしての潤滑性が発揮されず、一方、Niの含有割合γが0.40を超えると、パーティクルの硬さを低下し、これらが分散した膜全体の硬さを低下させ、耐摩耗性を低下させる。
Zrの含有割合δが0.30未満では、パーティクルの硬さが低下し、パーティクル部が局所的に損傷しやすくなり、膜全体の損傷の起点となる。一方、Zrの含有割合が0.045を超えると相対的にパーティクルの形状が球状に近くなりパーティクルの下に空隙が残りやすくなり、これがクラックの起点になりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
Crの含有割合αが0.05を超えると相対的にパーティクルの硬さが低下し、耐摩耗性を低下させる。
Siの含有割合βが0.10未満ではパーティクルの耐酸化性が発揮されず、0.25を超えると靭性が低下し、パーティクル部が損傷の起点となりやすくチッピングが発生しやすくなる。
Nの含有量xが0.10未満では、主相との親和性が低下しパーティクルと主相の界面がクラックの起点になってしまい、また、0.35を超えるとNiZrリッチパーティクルとしての効果が発揮されない。
なお、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの組成は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(SEM−EDS)を用いて測定することができる
本発明においては、上部層を、主相と該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルとで構成することによって、上部層がすぐれた耐溶着性、耐チッピング性、耐摩耗性を備えるようになるが、上部層中に存在するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの面積率によって、上部層の特性が影響を受けることから、上部層中に占める前記パーティクルの面積率を適正な範囲に維持することが重要である。
本発明の上部層は、AIP装置を用い、かつ、制御された成膜条件(特に、ターゲットに印加する磁束密度の強さ及びアーク電流の大きさ)のもとで蒸着することで、主相が形成されると同時に、該主相中にCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルが分散分布して形成される。
上部層の縦断面を観察した場合、上記パーティクルは、工具基体表面とほぼ平行な方向に直径を有する扁平形状のものとして形成される。その長径と短径の比からアスペクト比を測定しその平均を求めると2以上となる。
上記パーティクルのアスペクト比が2未満の場合、パーティクル形状が球状に近くなりパーティクル下に空隙が発生しやすくなり、この空隙はクラックの起点になりやすく、チッピングの原因となる。
そして、上記パーティクルのうちで、長径が100nm以上のパーティクルの存在が、上部層の特性に影響を及ぼすことから、長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルについては、上部層の縦断面に占める面積率を0.5面積%以上5面積%以下とし、また、NiZrリッチパーティクルについては、上部層の縦断面に占める面積率を0.3面積%以上3面積%以下とする。
これは、CrSiリッチパーティクルの面積率が0.5面積%未満の場合には、十分な耐チッピング性を発揮できない。
一方、CrSiリッチパーティクルの面積率が5面積%を超える場合には、皮膜全体の硬さを低下させる、という理由による。
また、NiZrリッチパーティクルの面積率を0.3面積%未満の場合には、十分な潤滑性を発揮できない。
一方、NiZrリッチパーティクルの面積率が3面積%を超える場合には、皮膜全体の硬さが低下し耐摩耗性を低下させる、という理由による。
なお、パーティクルの長径とは、基体表面に垂直な上部層断面におけるパーティクルの断面形状について測定した最も長い直径を意味するが、本発明においては、ほとんどすべてのパーティクルの長径が工具基体表面と平行な方向であるので、工具基体表面と平行な方向に測定したパーティクルの最大長さを長径とよび、また、該長径方向に直交するパーティクルの最大長さを短径とよぶ。
そして、アスペクト比とは、長径/短径の値であり、アスペクト比を複数個所で測定し、この測定値を平均した値が平均アスペクト比である。
中間層の合計平均層厚と薄層A、薄層Bの一層平均層厚:
本発明では、AlCrSiNiZrN層からなる上部層と工具基体との密着強度を向上させるために、工具基体表面にAlTiSiN層からなる下部層を形成するが、上部層と下部層との密着強度をより高めるために、上部層−下部層間に、薄層A、薄層Bの交互積層からなる中間層を介在形成する。
ここで、薄層Aは、上部層の主相と同一成分組成のAlCrSiNiZrN層で構成し、また、薄層Bは、下部層と同一成分組成のAlTiSiN層から構成する。
薄層A、薄層Bのそれぞれの一層平均層厚が0.005μm未満では、それぞれの薄層を所定組成のものとして明確に形成することが困難であるばかりか、薄層Aによる耐溶着性・耐摩耗性向上効果、薄層Bによる高温靭性改善効果が発揮されず、一方、薄層A、薄層Bそれぞれの一層層厚が0.10μmを超えた場合には、それぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば強度不足が、また、薄層Bであれば耐摩耗性不足が層内に局部的に現れ、中間層全体、ひいては、硬質被覆層全体としての特性低下を招く恐れがあるので、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚を0.005〜0.10μmとする。
すなわち、薄層Bは、薄層Aの有する特性のうちの不十分な特性を補うために設けたものであるが、薄層A、薄層Bそれぞれの層厚が0.005〜0.10μmの範囲内であれば、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層は、すぐれた耐溶着性、高温硬さを損なうことなく、すぐれた高温靭性、高温強度を具備したあたかも一つの層であるかのように作用し、しかも、上部層と下部層の密着強度を高めるが、薄層A、薄層Bの層厚が0.10μmを超えると、薄層Aの強度不足が、また、薄層Bの耐摩耗性不足が顕在化する。
また、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる中間層は、その合計平均層厚が0.1μm未満ではすぐれた特性を発揮することはできず、また、合計平均層厚が1.0μmを超えると、チッピング、欠損を発生しやすくなるので、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる中間層の合計平均層厚は、0.1〜1.0μmとするが、0.2〜0.5μmとすることがより望ましい。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層の上部層が、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、それぞれが所定の組成を有し、また、上部層の縦断面に占める長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下、また、NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であり、さらに、工具基体と上部層の密着強度を高めるための下部層が設けられ、あるいは、下部層と上部層の密着強度をさらに高めるために、薄層Aと薄層Bからなる中間層が介在形成されていることによって、本発明の硬質意被覆層は、すぐれた耐溶着性、耐チッピング性、耐摩耗性を備える。
したがって、本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工に用いた場合であっても、長期の使用にわたって、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
本発明被覆工具の硬質被覆層の概略縦断面模式図を示し、(a)は一つの態様を、(b)は別の態様を示す。 本発明被覆工具の上部層のTEM像の一例を示す。 本発明被覆工具の硬質被覆層を成膜するアークイオンプレーティング装置の概略説明図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
以下の実施例では、本発明の被覆工具をミーリング加工で使用した場合について説明するが、旋削加工、ドリル加工等について用いることを何ら排除するものではない。
また、WC基超硬合金を工具基体として用いた場合について説明するが、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体、高速度工具鋼を工具基体として用いた場合であっても同様である。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体に押出しプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が10mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが6mm×12mmの寸法で、ねじれ角30度の2枚刃ボール形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)1〜3をそれぞれ製造した。
(a)これらの工具基体1〜3を、図3に示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、AIP装置の一方に所定組成のAl−Ti−Si合金からなるターゲット(カソード電極)を、他方側に所定組成のAl−Cr−Si−Ni−Zr合金からなるターゲット(カソード電極)を配置し、
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を400℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Ti−Si合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す窒素圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表2に示す温度範囲内に維持するとともに、表2に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Ti−Si合金ターゲットとアノード電極との間に表2に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される組成および平均層厚のAlTiSiN層からなる下部層を蒸着形成し、
(d)ついで、表3に示す所定組成のAl−Cr−Si−Ni−Zr合金ターゲットの表面に、表3に示す種々の最大磁束密度に制御した磁場を印加し、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す窒素圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表3に示す温度範囲内に維持するとともに表3に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si−Ni−Zr合金ターゲットとアノード電極との間に表3に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記AlTiSiN層の表面に、表4に示される組成の主相、平均層厚、表5に示される組成、面積率、平均アスペクト比のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルが存在する上部層を蒸着形成することにより、表4、表5に示す下部層と上部層とからなる硬質被覆層を備えた本発明被覆工具1〜10を作製した。
前記本発明被覆工具1〜10の下部層及び上部層について、工具基体表面に垂直な各層断面の組織観察と組成分析を、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS)を用いて行った。
また、本発明被覆工具1〜10の上部層については、工具基体表面と平行方向に20μmの観察範囲において、上部層断面に対して0.01μm以下の空間分解能の元素マッピングを行い、被覆した上部層の主相およびCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルの組成を複数個所測定し、本発明で規定する範囲内であることを確認した。
また、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルが、上部層断面に占める面積率は、次のような方法で求めた。すなわち、各パーティクルを撮影したTEM―EDSマッピング像において、窒素量を分析したマッピング像を用いてパーティクルと主相の境界を区別し、パーティクルの外周部を選択し、囲まれた面積を、画像解析ソフト(例えば、Adobe photoshopなど)を用いて算出し、測定領域の上部層断面に占めるパーティクルの面積率として算出した。
なお、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルの面積率は、パーティクルの長径が100nm以上であるパーティクルのみを測定対象とした。
また、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルの工具基体表面に平行な方向の最大長さを長径として測定し、また、長径の方向に直交する方向の最大長さを短径として測定し、それぞれのパーティクルについてのアスペクト比(長径/短径)を求め、複数領域でアスペクト比を測定してこれらの値を平均することによった、パーティクルの平均アスペクト比を算出した。
さらに、下部層、上部層の層厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
表4、表5に、これらの測定値、算出値をそれぞれ示す。
次に、比較の目的で、前記AIP装置を用いて、工具基体1〜3の表面に、実施例1の前記工程(a)〜(c)と同様にして、表6に示す条件で表8に示される組成および目標平均層厚のAlTiSiN層からなる下部層を蒸着形成し(なお、一部については下部層を形成していない)、次いで、表7に示す条件で表8、表9に示す上部層を形成することにより、表8、表9に示す下部層および上部層を備えた比較被覆工具1〜10を作製した。
比較被覆工具1〜10についても、実施例1の場合と同様な方法で、下部層及び上部層の組成分析を行い、また、上部層にパーティクルが存在する場合には、該パーティクルの組成、面積率、平均アスペクト比を測定・算出し、さらに、下部層、上部層の層厚を測定した。
表8、表9に、これらの値をそれぞれ示す。









つぎに、前記本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10について、以下に示す条件で、ミーリング切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
≪切削条件A≫
被削材: JIS・SKH51(HRC64)のブロック材
回転速度: 5400/min.、
切削速度: 100m/min.、
切り込み: ae 0.2mm、ap 2.0mm
送り(1刃当り): 0.05mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 18 m、
≪切削条件B≫
被削材: JIS・SKD11(60HRC)のブロック材
回転速度: 5400/min.、
切削速度: 100m/min.、
切り込み: ae 0.3mm、ap 2.0mm
送り(1刃当り): 0.04mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 60m、
表10に、前記切削試験の結果を示すとともに、チッピング、溶着発生の有無を示す。

表4、5、8、9、10に示される結果から、本発明の被覆工具1〜10は、AlCrSiNiZrN層からなる硬質被覆層中に、所定の組成の主相とともに、所定組成のCrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルが所定の面積率で存在することによって、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示した。
これに対して、比較被覆工具1〜10は、硬質被覆層中に、パーティクルが形成されているものの、本発明で規定する範囲を外れているため、耐チッピング性あるいは耐摩耗性の両特性にすぐれるものであるとはいえない。
実施例1で用いた工具基体1〜3に対して、次のような方法で、下部層、中間層および上部層を蒸着形成することにより、下部層と、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる中間層と上部層からなる硬質被覆層を備えた本発明被覆工具11〜20を作製した。
(a)工具基体1〜3を、図3に示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、AIP装置の一方に所定組成のAl−Ti−Si合金からなるターゲット(カソード電極)を、他方側に所定組成のAl−Cr−Si−Ni−Zr合金からなるターゲット(カソード電極)を配置し、実施例1と同様な条件で工具基体表面をボンバード洗浄し、
(b)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表11に示す窒素圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表11に示す温度範囲内に維持するとともに、表11に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Ti−Si合金ターゲットとアノード電極との間に表11に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表14に示される組成および目標平均層厚のAlTiSiN層からなる下部層を蒸着形成し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表12に示す窒素圧とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表12に示す温度範囲内に維持するとともに、表12に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si−Ni−Zr合金ターゲットとアノード電極との間に表12に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記下部層表面に、表14に示される組成および一層平均層厚のAlCrSiNiZrN層からなる薄層Aを蒸着形成し、
(d)ついで、アーク放電を停止し、工具基体に表12に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Ti−Si合金カソード電極とアノード電極間に同じく表12に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させて、もって、前記で形成した薄層Aの表面に、表14に示される組成および一層平均層厚のAlTiSiN層からなる薄層Bを蒸着形成し、
(e)上記(c)と(d)を交互に繰り返し行うことによって、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる表14に示される所定の合計平均層厚となるまで中間層を蒸着形成し、
(f)ついで、前記Al−Cr−Si−Ni−Zr合金ターゲットの表面に表13に示す種々の最大磁束密度に制御した磁場を印加し、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表13に示す窒素圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表13に示す温度範囲内に維持するとともに表13に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si−Ni−Zr合金ターゲットとアノード電極との間に表13に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記中間層の表面に、表14に示される組成の主相、同じく表15に示される組成、面積率、平均アスペクト比のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルが存在する目標平均層厚の上部層を蒸着形成することにより、表14、表15に示す下部層、中間層および上部層とからなる硬質被覆層を備えた本発明被覆工具11〜20を作製した。
前記本発明被覆工具11〜20の下部層、中間層及び上部層について、工具基体表面に垂直な各層断面の組織観察と組成分析を、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS)を用いて行った。
また、本発明被覆工具11〜20の上部層については、実施例1の場合と同様にして、組成分析を行い、また、パーティクルが存在する場合には、該パーティクルの組成、面積率、平均アスペクト比を測定・算出した。
表14、表15に、これらの測定値、算出値をそれぞれ示す。
また、本発明被覆工具11〜20の下部層、薄層A、薄層Bおよび上部層の層厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
表14に、これらの値を示す。





つぎに、前記本発明被覆工具11〜20について、以下に示す条件で、ミーリング切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
≪切削条件A≫
被削材: JIS・SKH51(HRC64)のブロック材
回転速度: 5400/min.、
切削速度: 100m/min.、
切り込み: ae 0.2mm、ap 2.0mm
送り(1刃当り): 0.05mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 18 m、
≪切削条件B≫
被削材: JIS・SKD11(60HRC)のブロック材
回転速度: 5400/min.、
切削速度: 100m/min.、
切り込み: ae 0.3mm、ap 2.0mm
送り(1刃当り): 0.04mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 60m、
表16に、前記切削試験の結果を示す。

表14〜16に示される結果から、本発明の被覆工具11〜20は、下部層と上部層の間に、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる中間層が介在形成されていることによって、層間密着強度が向上し、さらに、AlCrSiNiZrN層からなる硬質被覆層中に、所定の組成の主相とともに、所定組成のCrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルが所定の面積率で存在することによって、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示した。
本発明の被覆工具は、焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工においてすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、使用寿命の延命化を可能とするものであるが、他の被削材の切削加工、他の条件での切削加工で使用することも勿論可能である。

Claims (2)

  1. 炭化タングステン基超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、少なくとも下部層と上部層からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    (a)前記下部層は、AlとTiとSiの複合窒化物層からなり、
    前記下部層を、
    組成式:(Al1−a−bTiSi1−yで表した場合、
    0.30≦a≦0.50、0.01≦b≦0.10、0.45≦y≦0.60(ただし、a、b、yはいずれも原子比)を満足し、
    (b)前記上部層は、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなり、該層は、主相と、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、前記主相、CrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルの組成を、
    組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
    で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
    (c)前記主相は、0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、
    (d)前記CrSiリッチパーティクルは、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35を満足し、
    (e)前記NiZrリッチパーティクルは、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35を満足し、
    (f)前記上部層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記CrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下であり、また、前記上部層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 請求項1に記載の表面被覆切削工具において、前記下部層と上部層との間に、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる合計平均層厚0.1〜1.0μmの中間層が介在して設けられており、
    (a)前記薄層Aは、
    組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
    で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
    0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、一層平均層厚0.005〜0.10μmのAlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなり、
    (b)前記薄層Bは、
    組成式:(Al1−a−bTiSi1−yで表した場合、
    0.30≦a≦0.50、0.01≦b≦0.10、0.45≦y≦0.60(ただし、a、b、yはいずれも原子比)を満足し、一層平均層厚0.005〜0.10μmのAlとTiとSiの複合窒化物層からなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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