JP4438546B2 - 高速重切削で表面被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents

高速重切削で表面被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 Download PDF

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この発明は、表面被覆層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度に加えて、すぐれた潤滑性を有し、したがって特に各種のAlおよびAl合金やCuおよびCu合金、さらにTiおよびTi合金などの非鉄材料の切削加工を、特に高熱発生を伴う高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合に、表面被覆層にチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
一般に、被覆超硬工具には、各種の材質の被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、特に上記の非鉄材料からなる被削材の切削加工に用いられる被覆超硬工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
(a)下部層として、1.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ組成式:(Ti1-(A+Z)AlSi)N(ただし、原子比で、Aは0.30〜0.55、Z:0.05〜0.15を示す)を満足するTiとAlとSiの複合窒化物[以下、(Ti,Al,Si)Nで示す]層からなる硬質層、
(b)上部層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、WCターゲットを用い、炭化水素の分解ガスとArの混合ガスからなる反応雰囲気で形成され、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成をする非晶質炭素系潤滑層、
を蒸着形成してなる被覆超硬工具が知られており、かつ前記被覆超硬工具の表面被覆層の硬質層である(Ti,Al,Si)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Tiによって高温強度を有し、さらに同Si含有によって一段と耐熱性が向上し、また同上部層である非晶質炭素系潤滑層の共存と相俟って、、上記の非鉄材料などの被削材の連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
さらに、上記の被覆超硬工具が、例えば図4に概略説明図で示される蒸着装置、すなわちカソード電極(蒸発源)として所定組成を有するTi−Al−Si合金がセットされたアーク放電装置と、カソード電極(蒸発源)としてWCターゲットがセットされたスパッタリング装置を備えた蒸着装置を用い、これに上記の超硬基体を装入し、
(a)まず、上記下部層として、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と上記Ti−Al−Si合金のカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記超硬基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬基体の表面に、上記(Ti,Al,Si)N層からなる硬質層を蒸着形成し、
(b)つぎに、上部層として、例えば装置内の加熱温度を200℃とした状態で、Cなどの炭化水素とArを、C流量:40〜80sccm、Ar流量:250sccmの割合で導入して、例えば1Paの炭化水素の分解ガスとArの混合ガスからなる反応雰囲気とし、例えば上記超硬基体に印加するバイアス電圧を−20Vとし、WCターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:4〜6kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加した条件で、上記(Ti,Al,Si)N層からなる硬質層の上に非晶質炭素系潤滑層を蒸着形成することにより製造されることも知られている。
特表2002−513087号明細書 特許第2793773号明細書
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向を深め、かつ高切り込みや高送りなどの重切削条件での切削加工が強く求められる傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを通常の切削加工条件で用いた場合には問題はないが、特に上記の非鉄材料などの被削材の切削加工を、高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合には、表面被覆層の硬質層にあっては高温硬さおよび耐熱性、さらに高温強度、また同非晶質炭素系潤滑層にあっては高温強度がそれぞれ不十分であるために、チッピングが発生し易く、かつ摩耗進行も一段と促進するようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に上記の非鉄材料などの被削材の高速重切削加工で表面被覆層が、チッピングの発生なく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具を開発すべく、上記の従来被覆超硬工具に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の図4の蒸着装置のアーク放電装置を用いて形成された従来被覆超硬工具の表面硬質層を構成する(Ti,Al,Si)N層の下部層(硬質層)は、層厚全体に亘って実質的に均一な組成を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに高温強度を有するが、例えば図2(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高い(Ti含有量の低い)Al−Ti−Si合金、他方側に相対的にTi含有量の高い(Al含有量の低い)Ti−Al−Si合金をそれぞれカソード電極(蒸発源)として対向配置し、さらに前記両カソード電極に対して90度回転した位置にもカソード電極(蒸発源)として金属Crを装着したアークイオンプレーティング装置を用い、この蒸着装置の前記回転テーブル上に、これの中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に複数の超硬基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される下部層(硬質層)の層厚均一化を図る目的で超硬基体自体も自転させながら、前記の図面上左右両側のそれぞれのカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面にAlとTiとSiの複合窒化物[以下、(Al/Ti,Si)Nで示す]層を形成すると、この結果の(Al/Ti,Si)N層においては、回転テーブル上にリング状に配置された前記超硬基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高い(Ti含有量の低い)Al−Ti−Si合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で層中にAl最高含有点が形成され、また前記超硬基体が上記の他方側の相対的にTi含有量の高い(Al含有量の低い)Ti−Al−Si合金のカソード電極に最も接近した時点で層中にTi最高含有点が形成され、上記回転テーブルの回転によって層中には層厚方向にそって前記Al最高含有点とTi最高含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する組成変化構造をもつようになること。
(b)上記(a)の組成変化構造を有する(Al/Ti,Si)N層の形成において、対向配置の一方側のカソード電極(蒸発源)であるAl−Ti−Si合金におけるAl含有量を上記の従来Ti−Al−Si合金のAl含有量に比して相対的に高いものとし、かつ同他方側のカソード電極(蒸発源)であるTi−Al−Si合金におけるTi含有量を上記の従来Ti−Al−Si合金のTi含有量に比して相対的に高いものとする共に、超硬基体が装着されている回転テーブルの回転速度を制御して、
上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Z) TiXSiZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYSiZ)N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の厚さ方向の間隔を0.01〜0.1μmとすると、
上記Al最高含有点部分では、上記の従来(Ti,Al,Si)N層に比してAl含有量が相対的に高くなることから、より一段とすぐれた高温硬さと耐熱性(高温特性)を示し、一方上記Ti最高含有点部分では、前記従来(Ti,Al,Si)N層に比してTi含有量が相対的に高くなることから、一段と高い高温強度を具備し、かつこれらAl最高含有点とTi最高含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、層全体の特性としてすぐれた高温強度を保持した状態ですぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになること。
(c)つぎに、例えば図3(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される通り、カソード電極(蒸発源)がTiターゲットのマグネトロンスパッタリング装置と、カソード電極(蒸発源)がWCターゲットのマグネトロンスパッタリング装置を備えた蒸着装置の回転テーブル上に、上記の下部層を形成した超硬基体を装着し、回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される上部層(非晶質炭素系潤滑層)の層厚均一化を図る目的で前記超硬基体自体も自転させ、電磁コイルにより磁場を形成して、前記超硬基体の装着部における磁束密度を100〜300G(ガウス)とし、前記装置内の加熱温度を300〜500℃とした状態で、かつ装置内に反応ガスとして、例えばCなどの炭化水素と窒素とArを、望ましくはC流量:25〜100sccm、窒素流量:200〜300sccm、Ar流量:150〜250sccmの割合で導入して、反応雰囲気を、例えば1PaのCの分解ガスと窒素とArの混合ガスとすると共に、前記両マグネトロンスパッタリング装置のWCターゲットのカソード電極(蒸発源)には、例えば出力:1〜3kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力、同Tiターゲットには、例えば出力:3〜8kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を同時に印加した条件で非晶質炭素系潤滑層(上部層)の形成を行うと、この結果形成された非晶質炭素系潤滑層は、これの透過型電子顕微鏡による組織観察結果が図1に模式図で示される通りW成分含有の炭素系非晶質体の素地に、結晶質炭窒化チタン系化合物の微粒[以下、「結晶質Ti(C,N)系化合物微粒」で示す]が分散分布した組織をもつようになること。
(d)上記(c)の非晶質炭素系潤滑層を形成するに際して、蒸着装置内に導入される反応ガスとしての炭化水素と窒素とArのそれぞれの流量と、マグネトロンスパッタリング装置のWCターゲットとTiターゲットに印加されるスパッタ電力を調整して、前記非晶質炭素系潤滑層が、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
Ti:5〜20原子%、
窒素:0.5〜18原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有するようにすると、この結果形成された非晶質炭素系潤滑層は、これの素地が含有するW成分の作用と、結晶質Ti(C,N)系微粒の分散分布効果、および前記電磁コイルによる磁場成膜に際しての細粒化効果で、高温強度が著しく向上するようになること。
(e)上記の下部層が組成変化構造を有する(Al/Ti,Si)N層、上部層が非晶質炭素系潤滑層で構成された表面被覆層を蒸着形成してなる被覆超硬工具は、特に著しい高熱発生と高い機械的衝撃を伴う上記の非鉄材料などの被削材の高速重切削でも、下部層である(Al/Ti,Si)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、かつ上部層である非晶質炭素系潤滑層も、すぐれた高温強度を具備するようになることから、表面被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(e)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)下部層として、1.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Z) TiXSiZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYSiZ)N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、を満足し、
かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmからなる組成変化構造を有する(Al/Ti,Si)N層からなる硬質層、
(b)上部層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつマグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、WCターゲットとTiターゲットを用い、炭化水素の分解ガスと窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
Ti:5〜20原子%、
窒素:0.5〜18原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有すると共に、透過型電子顕微鏡による観察で、W成分含有の炭素系非晶質体の素地に、結晶質Ti(C,N)系化合物微粒が分散分布した組織を有する非晶質炭素系潤滑層、
以上(a)および(b)で構成された表面被覆層を蒸着形成してなる、特に高速重切削加工で表面被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆超硬工具の表面被覆層の構成層に関し、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(A)下部層[(Al/Ti,Si)N層]
(a)Al最高含有点の組成
下部層である(Al/Ti,Si)N層におけるAl成分は、高温硬さおよび耐熱性を向上させ、同Ti成分は高温強度を向上させ、さらに同Si成分は一段と耐熱性を向上させる作用があり、したがって相対的にAl成分の含有割合が高いAl最高含有点では一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになり、高熱発生を伴う高速切削条件で、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになるが、Tiの割合を示すX値がAlとSiの合量に占める割合(原子比)で0.05未満になると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、すぐれた高温強度を有するTi最高含有点が隣接して存在しても層自体の強度低下は避けられず、この結果高速重切削条件ではチッピングなどが発生し易くなり、一方Ti成分の割合を示すX値が同0.25を越えると、相対的にAlの割合が少なくなり過ぎて、所望のすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができなくなり、またSi成分の割合を示すZ値がAlとTiの合量に占める割合(原子比)で0.05未満では所望の耐熱性向上効果が得られず、さらに同Z値が0.15を超えると、強度が急激に低下するようになることから、X値を0.05〜0.25、Z値を0.05〜0.15とそれぞれ定めた。
(b)Ti最高含有点の組成
上記の通りAl最高含有点は高温硬さおよび耐熱性のすぐれたものであるが、反面高温強度の劣るものであるため、このAl最高含有点の高温強度不足を補う目的で、相対的にTi含有割合が高く、これによってすぐれた高温強度を有するようになるTi最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってAlの割合を示すY値がTiとSiの合量に占める割合(原子比)で0.25を越えると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、所望のすぐれた高温強度を確保することができず、一方同Y値が同じく0.05未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、Ti最高含有点に所望の高温硬さおよび耐熱性を具備せしめることができなくなり、摩耗進行促進の原因となることから、Y値を0.05〜0.25と定めたものであり、またSi成分の割合を示すZ値は上記のAl最高含有点におけると同じ理由で0.05〜0.15と定めた。
(c)Al最高含有点とTi最高含有点間の間隔
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果層に所望のすぐれた高温強度と、すぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば高温強度不足、Ti最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
(d)平均層厚
その層厚が1.5μm未満では、所望の耐摩耗性を長期に亘って確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1.5〜10μmと定めた。
(B)上部層(非晶質炭素系潤滑層)
(a)W含有量
W成分は、上記の非晶質炭素系潤滑層の素地に含有して、層の高温強度を向上させる作用があるが、その含有量が5原子%未満では所望のすぐれた高温強度を確保することができず、一方その含有量が20原子%を越えると潤滑性が急激に低下するようになることから、その含有量を5〜20原子%と定めた。
(b)TiおよびN含有量
Ti成分とN成分、さらにC(炭素)成分は磁場成膜下で結合して、被膜中に結晶質のTi(C,N)系化合物微粒として存在し、層の具備するすぐれた潤滑性を損なうことなく、高温強度を著しく向上させる作用があるが、その含有量がTi成分が5原子%未満、およびN成分が0.5原子%未満では、層中にTi(C,N)系微粒として存在する割合が少なくて、所望のすぐれた高温強度を確保することができず、一方その含有量がTi成分が20原子%、およびN成分が18原子%を越えると高温硬さおよび潤滑性が急激に低下するようになることから、その含有量をそれぞれTi:5〜20原子%、N:0.5〜18原子%と定めた。
(c)平均層厚
その平均層厚が1μm未満では、所望の潤滑効果を長期に亘って確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜10μmと定めた。
この発明の被覆超硬工具は、表面被覆層を構成する下部層の(Al/Ti,Si)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、かつ同上部層である非晶質炭素系潤滑層が、これの炭素系非晶質体の素地が含有するW成分の作用、並びに前記素地に磁場成膜により超微細となった状態で分散分布する結晶質Ti(C,N)系化合物微粒の作用によって、一段とすぐれた高温強度を具備するようになることから、特に著しい高熱発生と高い機械的衝撃を伴う上記の非鉄材料などの被削材の高速重切削でも、表面被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.7〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1415℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、研磨加工を施し、さらに切刃部分にR:0.01のホーニング加工を施してISO規格・TEGX160304Lのチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A−1〜A−10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1505℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、研磨加工を施し、さらに切刃部分にR:0.01のホーニング加工を施してISO規格・TEGX160304Lのチップ形状をもったTiCN系超硬製の超硬基体B−1〜B−6を形成した。
(a)つぎに、図2に示されるアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高いAl−Ti−Si合金、他方側に相対的にTi含有量の高いTi−Al−Si合金をそれぞれカソード電極(蒸発源)として装着し、さらに前記両カソード電極に対して90度回転した位置にカソード電極(蒸発源)として金属Crを装着したアークイオンプレーティング装置を用い、上記の超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、前記蒸着装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極として装着した前記金属Crとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記金属Crによってボンバード洗浄し、
(c)ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−60Vの直流バイアス電圧を印加し、かつそれぞれ対向配置した両カソード電極(前記Ti最高含有点形成用Ti−Al−Si合金およびAl最高含有点形成用Al−Ti−Si合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、層厚方向に沿って表3に示される目標組成のAl最高含有点とTi最高含有点とが交互に同じく表3に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する組成変化構造を有し、かつ同じく表3に示される目標層厚の(Al/Ti,Si)N層を表面被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)つぎに、図3に示される蒸着装置、すなわち一方側のマグネトロンスパッタリング装置のカソード電極(蒸発源)として、純度:99.9質量%のTiターゲット、他方側のマグネトロンスパッタリング装置のカソード電極(蒸発源)として、純度:99.6質量%のWCターゲットを回転テーブルを挟んで対向配置した蒸着装置を用い、装置内の回転テーブル上に、これの中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に上記の下部層形成の超硬基体をリング状に装着し、
(e)電磁コイルに印加する条件を、電圧:50〜100V、電流:10〜20Aの範囲内の所定の値として、上記下部層形成の超硬基体の装着部における磁束密度を100〜300G(ガウス)の範囲内の所定の値とし、前記蒸着装置内の加熱温度を400℃、前記超硬基体に−100Vのバイアス電圧を印加し、一方前記蒸着装置内には反応ガスとして、C(炭化水素)と窒素とArを、C流量:25〜100sccm、窒素流量:200〜300sccm、Ar流量:150〜250sccmの範囲内の所定の流量で導入して、反応雰囲気を、1PaのCの分解ガスと窒素とArの混合ガスとすると共に、前記両マグネトロンスパッタリング装置のWCターゲットのカソード電極(蒸発源)には、例えば出力:1〜3kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力、同Tiターゲットには、出力:3〜8kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力を同時に印加した条件で、同じく表3,4に示される目標組成および目標層厚の非晶質炭素系潤滑層を上部層として蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
(a)また、比較の目的で、上記の超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図4に示される蒸着装置、すなわちカソード電極(蒸発源)として所定組成を有するTi−Al−Si合金がセットされたアーク放電装置と、カソード電極(蒸発源)としてWCターゲットがセットされたスパッタリング装置を備えた蒸着装置に装入し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記Ti−Al−Si合金でボンバード洗浄し、
(c)上記装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記Ti−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれの表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al,Si)N層を表面被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、上記蒸着装置内の加熱温度を200℃とした状態で、CとArを、C流量:40〜80sccm、Ar流量:250sccmの範囲内の所定の流量で導入して、1PaのCの分解ガスとArの混合ガスからなる反応雰囲気とすると共に、上記の下部層形成の超硬基体に印加するバイアス電圧を−20Vとし、WCターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:4〜6kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力を印加した条件で、上記下部層の上に、同じく表5,6に示される目標組成および目標層厚の非晶質炭素系潤滑層を蒸着形成することにより、従来被覆超硬工具に相当する比較表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、比較被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜16および比較被覆チップ1〜16について、
被削材:JIS・A5052の丸棒、
切削速度:800m/min.、
切り込み:7.1mm、
送り:0.1mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件A)でのAl合金の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは400m/min.および2mm)、
被削材:JIS・C3710の丸棒、
切削速度:380m/min.、
切り込み:6.6mm、
送り:0.12mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件B)でのCu合金の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは200m/min.および2mm)、
被削材:JIS・TB340Hの丸棒、
切削速度:150m/min.、
切り込み:6.2mm、
送り:0.1mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件(切削条件C)でのTi合金の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは100m/min.および1.5mm)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
Figure 0004438546
Figure 0004438546
Figure 0004438546
Figure 0004438546
Figure 0004438546
原料粉末として、平均粒径:3.8μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表6に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表7に示される目標組成のAl最高含有点とTi最高含有点とが交互に同じく表7に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する組成変化構造を有し、かつ表7に示される目標層厚の(Al/Ti,Si)N層を表面被覆層の下部層(硬質層)として蒸着形成し、ついで前記下部層形成の超硬基体を同じく図3に示される蒸着装置に装入し、同じく表7に示される目標組成および目標層厚の非晶質炭素系潤滑層を同上部層として蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図4に示される蒸着装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表8に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al,Si)N層および非晶質炭素系潤滑層をそれぞれ表面被覆層の下部層および上部層として蒸着形成することにより、従来被覆超硬工具に相当する比較表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜8および比較被覆エンドミル1〜8のうち、本発明被覆エンドミル1〜3および比較被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C3710の板材、
切削速度:170m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:480mm/分、
の条件でのCu合金の乾式高速高切り込み溝切削加工試験(通常の切削速度および溝深さは150m/min.および2mm)、本発明被覆エンドミル4〜6および比較被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・TP340HVの板材、
切削速度:180m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:450mm/分、
の条件でのTi合金の乾式高速高切り込み溝切削加工試験(通常の切削速度および溝深さは150m/min.および4mm)、本発明被覆エンドミル7,8および比較被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・A5052の板材、
切削速度:200m/min.、
溝深さ(切り込み):16mm、
テーブル送り:500mm/分、
の条件でのAl合金の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度および溝深さは180m/min.および8mm)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果をそれぞれ表7,8に示した。
Figure 0004438546
Figure 0004438546
Figure 0004438546
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表9に示される目標組成のAl最高含有点とTi最高含有点とが交互に同じく表9に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する組成変化構造を有し、かつ表9に示される目標層厚の(Al/Ti,Si)N層を表面被覆層の下部層(硬質層)として蒸着形成し、ついで前記下部層形成の超硬基体を同じく図3に示される蒸着装置に装入し、同じく表9に示される目標組成および目標層厚の非晶質炭素系潤滑層を同上部層として蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図4に示される蒸着装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表10に示される目標組成および目標層厚を有する(Ti,Al,Si)N層および非晶質炭素系潤滑層をそれぞれ表面被覆層の下部層および上部層として蒸着形成することにより、従来被覆超硬工具に相当する比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および比較被覆ドリル1〜8のうち、本発明被覆ドリル1〜3および比較被覆ドリル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・A5052の板材、
切削速度:100m/min.、
送り:0.5mm/rev、
穴深さ:6mm、
の条件でのAl合金の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは80m/min.および0.2mm/rev)、本発明被覆ドリル4〜6および比較被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C3710の板材、
切削速度:100m/min.、
送り:0.55mm/rev、
穴深さ:12mm、
の条件でのCu合金の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは80m/min.および0.25mm/rev)、本発明被覆ドリル7,8および比較被覆ドリル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・TP340Hの板材、
切削速度:60m/min.、
送り:0.5mm/rev、
穴深さ:20mm、
の条件でのTi合金の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは40m/min.および0.2mm/rev)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果をそれぞれ表9,10に示した。
Figure 0004438546
Figure 0004438546
この結果得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬チップ1〜16、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、および本発明被覆超硬ドリル1〜8、並びに従来被覆超硬工具としての比較被覆超硬チップ1〜16、比較被覆超硬エンドミル1〜8、および比較被覆超硬ドリル1〜8を構成する表面被覆層の下部層を構成する(Al/Ti,Si)N層および(Ti,Al,Si)N層について、厚さ方向に沿ってAl、Ti、およびSi成分の含有量をオージェ分光分析装置、その層厚を走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、前記本発明被覆超硬工具の(Al/Ti,Si)N層では、Al最高含有点とTi最高含有点とがそれぞれ目標値と実質的に同じ組成および間隔で交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する組成変化構造を有することが確認され、さらに平均層厚も目標層厚と実質的に同じ値を示した。一方、前記従来被覆超硬工具の(Ti,Al,Si)N層では、目標組成と実質的に同じ組成および目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示すものの、厚さ方向に沿った組成変化は見られず、層全体に亘って均質な組成を示すものであった。
さらに、同上部層を構成する非晶質炭素系潤滑層についても、その組成をオージェ分光分析装置、その層厚を走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、いずれも目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚(断面5箇所の平均値)を示し、また、その組織を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、前記本発明被覆超硬工具は、図1に示される通り炭素系非晶質体の素地に、結晶質のTi(C,N)系化合物微粒が分散分布した組織を示し、一方前記従来被覆超硬工具は、炭素系非晶質体の単一相からなる組織を示した。
表3〜10に示される結果から、本発明被覆超硬工具は、いずれも著しい高熱発生および高い機械的衝撃を伴なう非鉄材料の高速重切削でも、表面被覆層の下部層である(Al/Ti,Si)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、かつ同上部層である非晶質炭素系潤滑層が、W成分含有の炭素系非晶質体の素地に、結晶質のTi(C,N)系化合物微粒が分散分布した組織を有し、すぐれた高温強度を具備することから、表面被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、表面被覆層の下部層が(Ti,Al,Si)N層、同上部層が炭素系非晶質体の単一相からなる組織を有する非晶質炭素系潤滑層で構成された従来被覆超硬工具においては、いずれも非鉄材料の高速重切削加工では表面被覆層の摩耗進行が速く、かつチッピングも発生することから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、特に各種の非鉄材料などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高い発熱および機械的衝撃を伴なう高速重切削加工でもすぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化および自動化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
この発明の被覆超硬工具を構成する非晶質炭素系潤滑層を透過型電子顕微鏡を用いて組織観察した結果を示す模式図である。 本発明被覆超硬工具の表面被覆層の下部層である(Al/Ti,Si)N層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。 この発明の被覆超硬工具の表面被覆層の上部層である非晶質炭素系潤滑層を形成するのに用いた蒸着装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。 従来被覆超硬工具の表面被覆層の下部層である(Ti,Al,Si)N層および上部層である非晶質炭素系潤滑層を形成するのに用いた蒸着装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
    (a)下部層として、1.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点とTi最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Ti最高含有点、前記Ti最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
    さらに、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Z) TiXSiZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、
    上記Ti最高含有点が、組成式:(Ti1-(Y+Z)AlYSiZ)N(ただし、原子比で、Yは0.05〜0.25、Zは0.05〜0.15を示す)、
    を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とTi最高含有点の間隔が、0.01〜0.1μmからなる組成変化構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物層からなる硬質層、
    (b)上部層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつマグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、炭化タングステンターゲットとTiターゲットを用い、炭化水素の分解ガスと窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、オージェ分光分析装置で測定して、
    W:5〜20原子%、
    Ti:5〜20原子%、
    窒素:0.5〜18原子%、
    を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有すると共に、透過型電子顕微鏡による観察で、W成分含有の炭素系非晶質体の素地に、結晶質炭窒化チタン系化合物の微粒が分散分布した組織を有する非晶質炭素系潤滑層、
    以上(a)および(b)で構成された表面被覆層を蒸着形成してなる、高速重切削加工で表面被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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