以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。図1において、実線BBLはビードベースラインを表している。このビードベースラインは、タイヤ2が装着されるリム(図示されず)のリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインは、軸方向に延びる。
このタイヤ2は、トレッド4、一対のウィング6、一対のサイドウォール8、一対のクリンチ10、一対のビード12、カーカス14、補強層16、インナーライナー18、一対のチェーファー20及び一対の介在層22を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面24を形成する。トレッド4には、溝26が刻まれている。この溝26により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、キャップ層28とベース層30とを有している。
キャップ層28は、ベース層30の半径方向外側に位置している。キャップ層28は、ベース層30に積層されている。
このタイヤ2では、キャップ層28は非導電性である。本発明において非導電性とは、当該部材の体積固有抵抗が1.0×108Ω・cm以上であることを意味する。特には、非導電性の部材の体積固有抵抗は、1.0×1010Ω・cm以上である。
本願においては、キャップ層28の体積固有抵抗は、JIS−K6271に規定の二重リング電極法に準拠して、その温度が25℃とされた条件下で測定される。測定には、シート(厚さ=2mm)が用いられる。キャップ層28のためのゴム組成物を温度が170℃である金型内で30分保持することにより、このシートは得られる。後述する他の部材の体積固有抵抗も、同様にして測定される。
キャップ層28は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。つまりキャップ層28は架橋ゴムである。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及びポリクロロプレン(CR)が挙げられる。ジエン系ゴムには、共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル系モノマーとの共重合体が含まれる。この共重合体の具体例としては、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体(S−SBR)及び乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体(E−SBR)が挙げられる。
キャップ層28のゴム組成物は、主たる補強剤として、シリカを含んでいる。このキャップ層28を備えたタイヤ2の転がり抵抗は、小さい。シリカは、タイヤ2の低燃費性能に寄与する。低燃費性能とキャップ層28の強度との観点から、シリカの量は、基材ゴム100質量部に対して40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。なお、本願においては、補強剤全量の60質量%以上を占める補強剤が主たる補強剤である。
キャップ層28のゴム組成物は、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ及びコロイダルシリカを含みうる。シリカの窒素吸着比表面積(BET)は150m2/g以上が好ましく、175m2/g以上が特に好ましい。入手容易なシリカの窒素吸着比表面積は、250m2/g以下である。
キャップ層28のゴム組成物は、シリカと共に、シランカップリング剤を含んでいる。このカップリング剤により、ゴム分子とシリカとの間の堅固な結合が達成されると推測される。このカップリング剤により、シリカと他のシリカとの間の堅固な結合が達成されると推測される。
キャップ層28のゴム組成物が、他の補強剤として、少量のカーボンブラックを含んでもよい。カーボンブラックは、トレッド4の耐摩耗性に寄与する。少量のカーボンブラックは、シリカによる低燃費性能を大幅には阻害しない。カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
キャップ層28のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
ベース層30は、半径方向において、キャップ層28の内側に位置している。ベース層30は、キャップ層28と接合されている。ベース層30は、補強層16に積層されている。
このタイヤ2では、ベース層30は導電性である。本発明において導電性とは、当該部材の体積固有抵抗が1.0×108Ω・cm未満であることを意味する。特には、導電性の部材の体積固有抵抗は、1.0×107Ω・cm以下である。
ベース層30は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、ベース層30にも用いられうる。
ベース層30のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。カーボンブラックは、導電性物質である。ゴム組成物が、主たる補強剤としてカーボンブラックを含むことで、ベース層30の導電性が達成されている。導電性の観点から、カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、65質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
ベース層30のゴム組成物は、カーボンブラックとして、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックを含みうる。カーボンブラックの吸油量は5cm3/100g以上300cm3/100g以下が好ましい。
ベース層30のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
このタイヤ2では、トレッド4は貫通部32をさらに備えている。貫通部32は、キャップ層28及びベース層30を貫通している。貫通部32の半径方向外側部分は、キャップ層28と接合されている。貫通部32の半径方向内側部分は、ベース層30と接合されている。貫通部32の一端は、トレッド面24の一部をなしている。貫通部32の他端は、補強層16と接触している。貫通部32は、周方向に延在している。換言すれば、貫通部32は環状である。タイヤ2が、環状ではなく、周方向において互いに離間した複数の貫通部32を備えてもよい。貫通部32は、導電性である。
貫通部32は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、貫通部32にも用いられうる。
貫通部32のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、貫通部32にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
貫通部32のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
それぞれのウィング6は、トレッド4の軸方向外側に位置している。ウィング6は、サイドウォール8の半径方向外側に位置している。ウィング6は、トレッド4とサイドウォール8との間に位置している。ウィング6は、トレッド4のキャップ層28及びベース層30並びにサイドウォール8のそれぞれと接合している。ウィング6は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。
それぞれのサイドウォール8は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール8の半径方向外側部分は、トレッド4のベース層30及びウィング6と接合されている。このサイドウォール8の半径方向内側部分は、クリンチ10と接合されている。サイドウォール8は、カーカス14よりも軸方向外側に位置している。このサイドウォール8は、カーカス14の損傷を防止する。
サイドウォール8は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、サイドウォール8にも用いられうる。
サイドウォール8のゴム組成物は、主たる補強剤として、シリカを含んでいる。キャップ層28に関して前述されたシリカを、サイドウォール8は含みうる。このサイドウォール8を備えたタイヤ2の転がり抵抗は、小さい。シリカは、タイヤ2の低燃費性能に寄与する。低燃費性能とサイドウォール8の強度との観点から、シリカの量は、基材ゴム100質量部に対して35質量部以上が好ましく、45質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
サイドウォール8のゴム組成物が、他の補強剤として、少量のカーボンブラックを含んでもよい。カーボンブラックは、サイドウォール8の強度に寄与する。少量のカーボンブラックは、シリカによる低燃費性能を大幅には阻害しない。カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
サイドウォール8のゴム組成物は、シランカップリング剤を含んでいる。このゴム組成物はさらに、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
それぞれのクリンチ10は、サイドウォール8の端から半径方向略内向きに延びている。クリンチ10は、軸方向において、ビード12及びカーカス14よりも外側に位置している。クリンチ10は、導電性である。クリンチ10は、リムのフランジ(図示されず)と当接する。フランジは、スチール又はアルミニウム合金からなる。従って、フランジは、導電性である。
クリンチ10は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、クリンチ10にも用いられうる。
クリンチ10のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、クリンチ10にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
クリンチ10のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
それぞれのビード12は、クリンチ10の軸方向内側に位置している。ビード12は、コア34と、このコア34から半径方向外向きに延びるエイペックス36とを備えている。コア34はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス36は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス36は、高硬度な架橋ゴムからなる。エイペックス36は、導電性である。
エイペックス36は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、エイペックス36にも用いられうる。
エイペックス36のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、クリンチ10にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
エイペックス36のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
カーカス14は、カーカスプライ38からなる。カーカスプライ38は、両側のビード12の間に架け渡されている。カーカスプライ38は、トレッド4、サイドウォール8及びクリンチ10の内側に沿っている。カーカスプライ38は、コア34の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ38には、主部40と折り返し部42とが形成されている。
このタイヤ2では、カーカス14は2枚以上のカーカスプライ38を有してもよい。軽量化の観点から、カーカス14は、図示されているように、1枚のカーカスプライ38で構成されるのが好ましい。
このタイヤ2では、折り返し部42の端44はエイペックス36の外端46よりも半径方向内側に位置している。詳細には、ビードベースラインからの半径方向高さが15〜25mmの範囲に、折り返し部42の端44が位置している。このタイヤ2のカーカスプライ38は「LTU」構造を有している。この折り返し部42の端44がエイペックス36の外端46よりも半径方向外側に位置してもよい。この折り返し部42の端44がこのタイヤ2の最大幅位置(図1中の符号Pw)よりも半径方向外側に位置してもよい。折り返し部42の長さは、タイヤ2の質量に影響する。軽量化の観点から、図1に示された「LTU」構造を有するカーカスプライ38が好ましい。
図示されていないが、カーカスプライ38は並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス14はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
このタイヤ2では、カーカスプライ38のトッピングゴムは導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、カーカスプライ38のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
補強層16は、トレッド4の半径方向内側においてカーカス14と積層されている。この補強層16は、トレッド4のベース層30で覆われている。このタイヤ2では、補強層16はベルト48及びバンド50により構成されている。ベルト48のみから、補強層16が構成されてもよい。バンド50のみから、補強層16が構成されてもよい。
ベルト48は、補強層16の半径方向内側部分を構成している。ベルト48は、バンド50よりも半径方向内側に位置している。ベルト48は、カーカス14と積層されている。ベルト48は、カーカス14を補強する。ベルト48は、内側層52及び外側層54からなる。図1から明らかなように、軸方向において、内側層52の幅は外側層54の幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層52及び外側層54のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層52のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層54のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト48の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。ベルト48が、3以上の層を備えてもよい。
ベルト48のトッピングゴムは、導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、ベルト48のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
バンド50は、補強層16の半径方向外側部分を構成している。バンド50は、トレッド4のベース層30で覆われている。トレッド4の貫通部32は、バンド50と接触している。バンド50は、ベルト48よりも半径方向外側に位置している。バンド50は、ベルト48と積層されている。軸方向において、バンド50の幅はベルト48の幅と同等である。図示されていないが、このバンド50は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド50は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト48が拘束されるので、ベルト48のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
バンド50のトッピングゴムは、導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層30に関して前述されたカーボンブラックが、バンド50のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
インナーライナー18は、カーカス14の内側に位置している。インナーライナー18は、カーカス14の内面に接合されている。インナーライナー18は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
それぞれのチェーファー20は、ビード12の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー20がリムと当接する。この当接により、ビード12の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー20は、布とこの布に含浸した架橋ゴムとからなる。
それぞれの介在層22は、サイドウォール8の軸方向内側においてカーカス14と積層されている。介在層22は、補強層16の端からクリンチ10に向かって半径方向略内向きに延在している。このタイヤ2では、介在層22は導電性である。
介在層22は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層28に関して前述されたジエン系ゴムが、介在層22にも用いられうる。
介在層22のゴム組成物は、導電性の粉末を含んでいる。好ましい導電性の粉末は、カーボンブラックである。カーボンブラックの具体例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックが挙げられる。導電性の観点から、介在層22に特に適したカーボンブラックはファーネスブラックである。ファーネスブラックとして、FEF、GPF、HAF、ISAF及びSAFが例示される。導電性の観点から、介在層22に特に適したファーネスブラックはFEFである。
このタイヤ22では、導電性の粉末の好ましい配合量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上100質量部以下である。この配合量が45質量部以上に設定されることにより、介在層22は導電性を発揮する。この介在層22は、電気を通しやすい。この配合量が100質量部以下に設定されることにより、介在層22の柔軟性が維持される。この介在層22は、割れにくい。
このタイヤ2では、介在層22の体積固有抵抗は1.0×106Ω・cm以下である。この介在層22の体積固有抵抗はかなり低い。この介在層22は、電気をかなり通しやすい。この介在層22では、薄い厚さが採用されても、十分な導電性が発揮される。
このタイヤ2では、トレッド4のキャップ層28だけでなく、サイドウォール8も主たる補強剤としてシリカを含んでいる。言い換えれば、サイドウォール8はシリカを含むゴム組成物を用いて形成されている。このサイドウォール8では、主たる補強剤としてカーボンブラックを含む、従来のサイドウォール8よりも、変形に伴う発熱が抑えられている。このサイドウォール8は、転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、このタイヤ2では、サイドウォール8の損失正接(tanδ)は0.08以下が好ましい。なお、損失正接は低いほど好ましいので、この損失正接の下限は設定されない。
本発明では、サイドウォール8の損失正接は「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
このタイヤ2では、貫通部32、ベース層30、補強層16及びクリンチ10は導電性である。クリンチ10は、リムと接触する。補強層16はベース層30で覆われており、貫通部32はこのベース層30及び補強層16と接触している。そして貫通部32は、路面と接触する。
このタイヤ2では、サイドウォール8の体積固有抵抗は1.0×108Ω・cm以上である。このサイドウォール8は、非導電性である。
このタイヤ2では、サイドウォール8とカーカス14との間に介在層22が設けられている。図示されているように、この介在層22の半径方向外側部分は補強層16と接合されており、その半径方向内側部分はクリンチ10と接合されている。
前述したように、介在層22の体積固有抵抗は1×106Ω・cm以下である。このタイヤ2では、導電性の介在層22がサイドウォール8の軸方向内側においてカーカス14に沿って半径方向に延在している。このタイヤ2では、補強層16とクリンチ10との間が導電性の介在層22で架け渡されている。このタイヤ2では、サイドウォール8の部分において、この介在層22が主な導電経路として機能する。このタイヤ2では、非導電性のサイドウォール8を採用しているにもかかわらず、静電気が放電されやすい。前述したように、このタイヤ2では、サイドウォール8が転がり抵抗の低減に寄与する。本発明によれば、小さな転がり抵抗を有し、静電気が放電されやすい空気入りタイヤ2が得られる。
図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。この図2において、上下方向がタイヤ2の周方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の半径方向である。この図2において、両矢印tは介在層22の厚さを表している。図1におけるII−II線は、このタイヤ2の最大幅を示す位置Pwを通り軸方向に延びる直線である。
このタイヤ2では、介在層22の厚さtは0.1mm1mm以下が好ましい。この厚さtが0.1mm以上に設定されることにより、介在層22が導電経路として十分に機能する。この厚さが1mm以下に設定されることにより、介在層22による質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。この観点から、0.8mm以下がより好ましい。優れた導電性及び小さな転がり抵抗の観点から、この厚さtは0.3mm以下がさらに好ましい。
図3には、タイヤ2と共に、リム56及び電気抵抗測定装置58が示されている。この装置58は、絶縁板60、金属板62、軸64及び抵抗計66を備えている。絶縁板60の電気抵抗は、1.0×1012Ω以上である。金属板62の表面は、研磨されている。この金属板62の電気抵抗は、10Ω以下である。この装置58が用いられ、ISO16392規格に準拠して、タイヤ2の電気抵抗Rtが測定される。測定前に、タイヤ2の表面に付着した汚れ及び離型剤が除去される。このタイヤ2は、十分に乾燥させられる。このタイヤ2が、アルミニウム合金製のリム56に組み込まれる。組み込みのとき、タイヤ2とリム56との接触部に、潤滑剤として石けん水が塗布される。このタイヤ2に、内圧が230kPaとなるように、空気が充填される。このタイヤ2及びリム56が、試験室で2時間保持される。試験室の、温度は25℃であり、湿度は50%である。このタイヤ2及びリム56が、軸64に取り付けられる。このタイヤ2及びリム56に、2.66kNの荷重が0.5分間負荷されてから、この荷重が開放される。このタイヤ2及びリム56に、再度2.66kNの荷重が0.5分間負荷されてから、この荷重が開放される。さらに、このタイヤ2及びリム56に、2.66kNの荷重が2.0分間負荷されてから、この荷重が開放される。その後、軸64と金属板62との間に、100Vの電圧が印可される。印可が開始されてから5分経過後の、軸64と金属板62との間の電気抵抗が、抵抗計66で測定される。測定は、タイヤ2の周方向に沿って90°刻みの4カ所で行われる。得られた4つの電気抵抗のうちの最大値が、このタイヤ2の電気抵抗Rtである。
電気抵抗Rtは、1.0×108Ω未満が好ましい。電気抵抗Rtが1.0×108Ω未満であるタイヤ2では、静電気が帯電しにくい。この観点から、電気抵抗Rtは1.0×107Ω以下がより好ましく、1.0×106Ω以下が特に好ましい。
以上説明されたタイヤ2は、次のようにして製造される。このタイヤ2の製造では、介在層22のためのゴム組成物が準備される。このゴム組成物を押し出して、介在層22のためのシートが得られる。
このタイヤ2の製造では、サイドウォール8のためのゴム組成物及びクリンチ10のためのゴム組成物が準備される。これらのゴム組成物を同時に押し出して、サイドウォール8及びクリンチ10からなるシード状の成形物が得られる。
このタイヤ2の製造では、介在層22のためのシートは前述の成形物に貼り合わせられる。これにより、サイドウォール8及びクリンチ10並びに介在層22からなる、タイヤ2の側面をなすゴム部材(以下、サイド部材とも称される)が得られる。このサイド部材を他のゴム部材とアッセンブリーして、ローカバー(未加硫タイヤ2)が得られる。
このタイヤ2の製造では、ローカバーはモールド(図示されず)に投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー(図示されず)又は中子(図示されず)に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。そのキャビティ面に凸凹模様を有するモールドが用いられることにより、タイヤ2に凹凸模様が形成される。
薄い介在層22では、質量及び転がり抵抗への影響が小さい。一方薄い介在層22では、シワが生じやすい。シワの生じた介在層22は、サイドウォール8及びクリンチ10からなるシード状の成形物に貼り付けにくい。
このタイヤ2の製造では、好ましくは、シート状に押し出された介在層22は、そのまま、同じように押し出して得た、サイドウォール8及びクリンチ10からなるシード状の成形物に、圧着される。これにより、介在層22にシワが発生する前に、この介在層22が成形物に貼り合わされる。このタイヤ2の製造では、介在層22にシワがない、高品質なサイド部材が得られる。
このタイヤ2の製造では、介在層22が塗料を用いて形成されてもよい。この場合、介在層22のためのゴム組成物が溶剤に混ぜ合わされ、塗料が準備される。前述したように、介在層22のためのゴム組成物は基材ゴム及び導電性の粉末を含む。この塗料は、基材ゴム、導電性の粉末及び溶剤を含んでいる。このタイヤ2の製造では、基材ゴム及び導電性の粉末を直接溶剤に投入しこれらを混ぜ合わせることにより、この塗料が形成されてもよい。
このタイヤ2の製造では、塗料のための溶剤としては、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブタノール、セロソルブ、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、n−ブチル酢酸塩、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレンが例示される。ナフサ又は灯油が、溶剤として用いられてもよい。塗料における溶剤の比率は、20質量%以上70質量%以下が好ましい。
図4には、介在層22の形成の様子が模式的に表されている。この図4には、製造に用いる設備として、サイドウォール8及びクリンチ10からなるシート状の成形物を得るための成形機68(いわゆる、押し出し機)、塗料を噴射するためのスプレー70、及び、塗料を乾燥するための乾燥室72が、表されている。
このタイヤ2の製造では、成形機68から、一対のシート状の成形物74が押し出される。これらの成形物74は、スプレー70の前を通過する。スプレー70は、塗料76を噴射する。これにより、成形物74に塗料76が塗布される。
このタイヤ2の製造では、塗料76が塗布された成形物74は、乾燥室72に投入される。乾燥室72は、成形物74の搬送方向に並列した多数のローラー78を備えている。このタイヤ2の製造では、成形物74はこれらのローラー78上を通過することにより、その形状が整えられると共に、塗料76が乾燥させられる。塗料76の溶剤が揮発するので、この乾燥によりゴム組成物からなる介在層22が形成される。これにより、前述された、サイド部材が得られる。
このタイヤ2の製造では、導電性の粉末を含む塗料76を用いて形成された介在層22は塗膜である。この介在層22はかなり薄い。塗料76の塗布により介在層22が形成されるので、ゴム組成物を薄いシート状に加工して得られる介在層22で散見されるような、シワは生じない。サイドウォール8及びクリンチ10からなるシート状の成形物74に、シート状に形成された介在層22を圧着するための設備も不要である。このタイヤ2の製造は、高品質なタイヤ2の生産及び生産コストの低減に寄与する。
前述したように、この介在層22の体積固有抵抗は1.0×106Ω・cm以下である。このため、薄い厚さを採用しても、この介在層22は十分な導電性を発揮する。しかも薄い介在層22では、質量及び転がり抵抗への影響が小さい。このタイヤ2の製造では、さらに小さな転がり抵抗を有し、静電気がさらに放電されやすいタイヤ2が得られる。
荷重が付与されることにより、タイヤ2は撓む。これにより、タイヤ2の外側部分は伸張させられ、その内側部分は圧縮させられる。
このタイヤ2では、薄い介在層22はサイドウォール8とカーカス14との間に位置している。このタイヤ2では、介在層22は表面に露出していない。このタイヤ2では、介在層22の伸張が適度に抑えられている。しかも介在層22は、サイドウォール8及びクリンチ10で覆われている。このタイヤ2では、薄い介在層22を採用しても、この介在層22に亀裂は生じにくい。このタイヤ2では、良好な導電性が持続する。このタイヤ2では、小さな転がり抵抗及び良好な導電性の両立が達成される。
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤ2の場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。後述するタイヤも同様である。
図5には、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ80の一部が示されている。図5において、上下方向がタイヤ80の半径方向であり、左右方向がタイヤ80の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ80の周方向である。図5において、一点鎖線CLはタイヤ80の赤道面を表わす。このタイヤ80の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
このタイヤ80は、トレッド82、一対のウィング84、一対のサイドウォール86、一対のクリンチ88、一対のビード90、カーカス92、補強層94、インナーライナー96、一対のチェーファー98及び一対の介在層100を備えている。このタイヤ80は、図1に示されたタイヤ2の構成と略同等の構成を有している。
このタイヤ80では、介在層100の体積固有抵抗は1.0×106Ω・cm以下である。この介在層100の体積固有抵抗はかなり低い。この介在層100は、電気をかなり通しやすい。この介在層100では、薄い厚さが採用されても、十分な導電性が発揮される。
このタイヤ80では、図1に示されたタイヤ2と同様、トレッド82のキャップ層102だけでなく、サイドウォール86も主たる補強剤としてシリカを含んでいる。このサイドウォール86は、転がり抵抗の低減に寄与する。
このタイヤ80では、貫通部104、ベース層106、補強層94及びクリンチ88は導電性である。クリンチ88は、リムと接触する。補強層94はベース層106で覆われており、貫通部104はこのベース層106及び補強層94と接触している。そして貫通部104は、路面と接触する。
このタイヤ80では、サイドウォール86の体積固有抵抗は1.0×108Ω・cm以上である。このサイドウォール86は、非導電性である。
このタイヤ80では、図1に示されたタイヤ2と同様、サイドウォール86とカーカス92との間に介在層100が設けられている。この介在層100の半径方向外側部分は補強層94と接合されており、その半径方向内側部分はクリンチ88と接合されている。この介在層100の半径方向内側部分は、さらに導電性のエイペックス108とも接合されている。このエイペックス108は、クリンチ88とも接合されている。
前述したように、介在層100の体積固有抵抗は1×106Ω・cm以下である。このタイヤ80では、導電性の介在層100がサイドウォール86の軸方向内側においてカーカス92に沿って半径方向に延在している。このタイヤ80では、補強層94とクリンチ88との間が導電性の介在層100で架け渡されている。このタイヤ80では、サイドウォール86の部分において、この介在層100が主な導電経路として機能する。このタイヤ80では、非導電性のサイドウォール86を採用しているにもかかわらず、静電気が放電されやすい。前述したように、このタイヤ80では、サイドウォール86が転がり抵抗の低減に寄与する。本発明によれば、小さな転がり抵抗を有し、静電気が放電されやすい空気入りタイヤ80が得られる。
このタイヤ80では、ISO16392規格に準拠して測定された電気抵抗Rtは1.0×108Ω未満が好ましい。電気抵抗Rtが1.0×108Ω未満であるタイヤ80では、静電気が帯電しにくい。この観点から、電気抵抗Rtは1.0×107Ω以下がより好ましく、1.0×106Ω以下が特に好ましい。なお、この電気抵抗Rtは、図1に示されたタイヤ2の電気抵抗Rtと同様にして計測される。
以上説明されたタイヤ80は、次のようにして製造される。このタイヤ80の製造では、介在層100のためのゴム組成物が準備される。このゴム組成物を押し出して、介在層100のためのシートが得られる。
このタイヤ80の製造では、カーカス92のためのカーカスプライ110が準備される。このカーカスプライ110の準備では、並列された多数のコードと共にトッピングゴムを押し出して、長尺シートが形成される。長尺シートでは、その長さ方向に、各コードは延在している。このタイヤ80の製造では、長尺シートが切断され短尺シートが形成される。
図6には、長尺シート112から短尺シート114が形成される様子が示されている。このタイヤ80の製造では、ドラム116から引き出された長尺シート112がカッター118により切断される。これにより、短尺シート114が得られる。このタイヤ80の製造では、多数の短尺シート114を継ぎ合わせてカーカスプライ110が形成される。
図7には、カーカスプライ110の形成の様子が示されている。図示されているように、多数の短尺シート114が順に並べられ、一の短尺シート114とこの一の短尺シート114の隣に位置する他の短尺シート114とがロール120を用いて圧着される。これにより、カーカスプライ110が得られる。このタイヤ80の製造では、短尺シート114は、コードの延在方向に対して垂直な方向に搬送される。このため、カーカスプライ110に含まれる多数のコードは、このカーカスプライ110の幅方向に延在している。言い換えれば、カーカスプライ110は、その長さ方向に並列された多数のコードを含んでいる。
このタイヤ80の製造では、カーカスプライ110は円筒状に巻回される。円筒状のカーカスプライ110に、前述された介在層100のためのシートが貼り付けられる。トレッド82、サイドウォール86等の部材がアッセンブリーされて、ローカバー(未加硫タイヤ80)が得られる。このタイヤ80の製造では、このローカバーを、図1に示されたタイヤ2のローカバーと同様にして、加熱及び加圧することにより、図7に示されたタイヤ80が得られる。
このタイヤ80の製造では、図1に示されたタイヤ2と同様、導電性の粉末を含む塗料を用いて、介在層100が形成されてもよい。この場合、介在層100のためのゴム組成物が溶剤に混ぜ合わされ、塗料が準備される。基材ゴム及び導電性の粉末を直接溶剤に投入しこれらを混ぜ合わせることにより、この塗料が形成されてもよい。
図8には、介在層100の形成の様子が模式的に表されている。この図8には、製造に用いる設備として、塗料を噴射するためのスプレー122、及び、塗料を乾燥するための乾燥室124、カーカスプライ110を巻き取るためのドラム126が、表されている。
このタイヤ80の製造では、短尺シート114を継ぎ合わせてカーカスプライ110を形成した後、このカーカスプライ110はスプレー122の下方を通過する。スプレー122は、塗料128を噴射する。これにより、カーカスプライ110に塗料128が塗布される。
このタイヤ80の製造では、塗料128が塗布されたカーカスプライ110は、乾燥室124に投入される。乾燥室124において、塗料128が乾燥させられる。これにより、塗料128の溶剤が揮発し、ゴム組成物からなる介在層100が形成される。乾燥室124の内部温度は、溶剤の揮発が考慮され適宜決められる。通常、乾燥室124の内部温度は70〜80℃に設定される。
このタイヤ80の製造では、導電性の粉末を含む塗料128を用いて形成された介在層100は塗膜である。この介在層100はかなり薄い。塗料128をカーカスプライ110に直接塗布することによりこの介在層100が得られるので、ゴム組成物を薄いシート状に加工して得られる介在層100で散見されるような、シワは生じない。ゴム組成物を薄いシート状に加工して得られる介在層100を、カーカスプライ110に圧着するための設備も不要である。このタイヤ80の製造は、高品質なタイヤ80の生産及び生産コストの低減に寄与する。
前述したように、介在層100の体積固有抵抗は1.0×106Ω・cm以下である。このため、薄い厚さを採用しても、この介在層100は十分な導電性を発揮する。しかも薄い介在層100では、質量及び転がり抵抗への影響が小さい。このタイヤ80の製造では、さらに小さな転がり抵抗を有し、静電気がさらに放電されやすいタイヤ80が得られる。
このタイヤ80では、薄い介在層100はサイドウォール86とカーカス92との間に位置している。このタイヤ80では、介在層100は表面に露出していない。このタイヤ80では、介在層100の伸張が適度に抑えられている。しかも介在層100は、サイドウォール86及びエイペックス108で覆われている。このタイヤ80では、薄い介在層100を採用しても、この介在層100に亀裂は生じにくい。このタイヤ80では、良好な導電性が持続する。このタイヤ80では、小さな転がり抵抗及び良好な導電性の両立が達成される。
図9は、図5のIX−IX線に沿った断面図である。この図9において、上下方向がタイヤ80の周方向であり、左右方向がタイヤ80の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ80の半径方向である。この図9において、両矢印tは介在層100の厚さを表している。図5におけるIX−IX線は、このタイヤ80の最大幅を示す位置Pwを通り軸方向に延びる直線である。
このタイヤ80では、介在層100の厚さtは0.1mm1mm以下が好ましい。この厚さtが0.1mm以上に設定されることにより、介在層100が導電経路として十分に機能する。この厚さが1mm以下に設定されることにより、介在層100による質量及び転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。この観点から、0.8mm以下がより好ましい。優れた導電性及び小さな転がり抵抗の観点から、この厚さtは0.3mm以下がさらに好ましい。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、195/65R15である。介在層は、図4に示された設備を用いて、塗料を用いて形成された。介在層が塗料を用いて形成されたことが、「介在層」の欄に、「P」で表されている。この塗料は、ゴム組成物を溶剤に混ぜ合わせることにより調整した。このゴム組成物の組成は、下記の表1の通りである。溶剤には、メチルエチルケトンが用いられた。サイドウォールには、変形に伴う発熱が抑えられたゴムが用いられた。このことが、「サイドウォール」の欄に、「L」で表されている。サイドウォールの損失正接(tanδ)は、0.07であった。このサイドウォールの体積固有抵抗は、1×1010Ω・cmであった。
表1に示された各成分の詳細は次の通りである。
1) 基材ゴム:天然ゴム(RSS#3)
2) カーボンブラック(FEF):三菱化学社製の商品名「ダイアブラックN550」
3) オイル:出光興産社製の商品名「ダイアナプロセスオイルAH−16」
4) タックレジン:JX日興日石エネルギー社製の商品名「日石ネオポリマー130」
5) ステアリン酸:日本油脂社製の商品名「ビーズステアリン酸椿」
6) 亜鉛華:三井金属工業社製の商品名「亜鉛華1号」
7) 硫黄:(株)軽井沢製錬所社製の商品名「粉末硫黄」
8) 加硫促進剤:大内新興化学工業社製の商品名「ノクセラーCZ」
[実施例2−3]
介在層の厚みを下記の表2及び3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−3のタイヤを得た。
[比較例2−3]
カーボンブラックの配合量を調節して介在層の体積固有抵抗を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2−3のタイヤを得た。
[実施例4−7]
介在層を塗料ではなく、表1のゴム組成物を押し出して形成したシート状の成形物を用いて形成するとともに、介在層の厚みを下記の表3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4−7のタイヤを得た。介在層を、ゴム組成物を押し出して形成したシート状の成形物を用いて形成したことが、「介在層」の欄に、「R」で表されている。
[実施例10]
図5に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、195/65R15である。介在層は、図8に示された設備を用いて、塗料を用いて形成された。この塗料は、実施例1の塗料と同等である。サイドウォールには、変形に伴う発熱が抑えられたゴムが用いられた。このサイドウォールの損失正接(tanδ)は、0.07であった。このサイドウォールの体積固有抵抗は、1×1010Ω・cmであった。
[実施例8−9]
介在層の厚みを下記の表4に示される通りとした他は実施例10と同様にして、実施例8−9のタイヤを得た。
[実施例11−14]
介在層を塗料ではなく、表1のゴム組成物を押し出して形成したシート状の成形物を用いて形成するとともに、介在層の厚みを下記の表5に示される通りとした他は実施例10と同様にして、実施例11−14のタイヤを得た。
[比較例1及び4]
比較例1及び4は、従来のタイヤである。この比較例1及び4には、介在層は設けられていない。比較例1では、導電性のサイドウォールが採用されている。このことが、「サイドウォール」の欄に「N」で表されている。この比較例1のサイドウォールの体積固有抵抗は、1×106Ω・cmであった。この比較例1のサイドウォールの損失正接は、0.12であった。比較例4では、非導電性のサイドウォールが採用されている。この比較例4のサイドウォールのためのゴム組成物は、実施例1のサイドウォールのためのゴム組成物と同等である。したがって、この比較例4のサイドウォールの損失正接は、0.07であり、その体積固有抵抗は、1×1010Ω・cmである。
[転がり抵抗係数(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗係数(RRC)を測定した。
使用リム:15×6JJ(アルミニウム合金製)
内圧:210kPa
荷重:3.55kN
速度:80km/h
この結果が、比較例1を100とした指数で、下記の表2−5に示されている。数値が小さいほど好ましい。
[電気抵抗]
図3に示された方法にて、タイヤの電気抵抗Rtを測定した。この結果が、下記の表2−5に示されている。数値が小さいほど導電性に優れる。なお、電気抵抗Rtが1.0×108Ω未満である場合が合格である。
表2−5に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。