以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、変速機200を搭載する車両の概略構成図である。車両は、エンジン2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6と、油圧回路100と、を備える。
エンジン2は、車両の駆動源を構成する。エンジン2の出力は、前後進切替機構3、バリエータ4、終減速機構5を介して駆動輪6へと伝達される。したがって、バリエータ4は、前後進切替機構3や終減速機構5とともに、エンジン2から駆動輪6に動力を伝達する動力伝達経路に設けられる。
前後進切替機構3は、上述の動力伝達経路においてエンジン2とバリエータ4との間に設けられる。前後進切替機構3は、前進走行に対応する正転方向と後退走行に対応する逆転方向との間で、入力される回転の回転方向を切り替える。
前後進切替機構3は具体的には、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を備える。前進クラッチ31は、回転方向を正転方向とする場合に連結される。後退ブレーキ32は、回転方向を逆転方向とする場合に連結される。前進クラッチ31及び後退ブレーキ32の一方は、エンジン2とバリエータ4と間の回転を断続するクラッチとして構成することができる。
バリエータ4は、プライマリプーリ41と、セカンダリプーリ42と、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42に巻き掛けられたベルト43と、を有する。以下では、プライマリをPRIとも称し、セカンダリをSECとも称す。バリエータ4は、PRIプーリ41とSECプーリ42との溝幅をそれぞれ変更することでベルト43の巻掛け径を変更して変速を行うベルト式無段変速機構を構成している。
PRIプーリ41は、固定プーリ41aと、可動プーリ41bと、PRI室41cと、を有する。PRIプーリ41では、PRI室41cに供給される油圧を制御することにより、可動プーリ41bが作動し、PRIプーリ41の溝幅が変更される。
SECプーリ42は、固定プーリ42aと、可動プーリ42bと、SEC室42cと、を有する。SECプーリ42では、SEC室42cに供給される油圧を制御することにより、可動プーリ42bが作動し、SECプーリ42の溝幅が変更される。
ベルト43は、PRIプーリ41の固定プーリ41aと可動プーリ41bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面と、SECプーリ42の固定プーリ42aと可動プーリ42bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面に巻き掛けられる。
PRI室41cは具体的には、第1PRI室41caと第2PRI室41cbとで構成された2重の油圧室となっている。第1PRI室41caは、変速用の推力を発生させる推力発生室であり、第2PRI室41cbは、ベルト43の滑り防止用の推力を発生させる推力発生室である。
SEC室42cは具体的には、第1SEC室42caと第2SEC室42cbとで構成された2重の油圧室となっている。第1SEC室42caは、変速用の推力を発生させる推力発生室であり、第2SEC室42cbは、ベルト43の滑り防止用の推力を発生させる推力発生室である。第1SEC室42caと第2SEC室42cbとは、連通路42dによって常時連通するように設けられる。SEC室42c具体的には第1SEC室42caには、可動プーリ42bを付勢するリターンスプリング42eが設けられる。
終減速機構5は、バリエータ4からの出力回転を駆動輪6に伝達する。終減速機構5は、複数の歯車列やディファレンシャルギアを有して構成される。終減速機構5は、車軸を介して駆動輪6を回転する。
油圧回路100は、バリエータ4、具体的にはPRIプーリ41及びSECプーリ42に油圧を供給する。油圧回路100は、前後進切替機構3にも油圧を供給する。油圧回路100は具体的には、次のように構成される。
図2は、油圧回路100の概略構成図である。油圧回路100は、油圧ポンプ101と、ライン圧調整弁102と、減圧弁103と、ライン圧ソレノイドバルブ104と、前後進切替機構用ソレノイドバルブ105と、PRI圧ソレノイドバルブ106と、SEC圧ソレノイドバルブ107と、マニュアルバルブ108と、ライン圧油路109と、選択回路部110と、低圧系制御弁130と、を備える。以下では、ソレノイドバルブをSOLと称す。
油圧ポンプ101は、エンジン2の動力によって駆動する。油圧ポンプ101は、ライン圧油路109を介して、ライン圧調整弁102、減圧弁103、PRI圧SOL106及びSEC圧SOL107と接続される。ライン圧油路109はライン圧PLの油路を構成する。ライン圧PLは、後述するPRI圧やSEC圧の元圧となる油圧である。
ライン圧調整弁102は、油圧ポンプ101が発生させる油圧を調整してライン圧PLを生成する。油圧ポンプ101がライン圧PLを発生させることは、このようなライン圧調整弁102の作用のもと、ライン圧PLを発生させることを含む。ライン圧調整弁102が調圧時にリリーフするオイルは、低圧系制御弁130を介して潤滑系に供給される。
減圧弁103は、ライン圧PLを減圧する。減圧弁103によって減圧された油圧は、ライン圧SOL104や前後進切替機構用SOL105に供給される。減圧弁103によって減圧された油圧はさらに、緊急事態用SOL111を介して切替弁112にパイロット圧PPとして供給される。緊急事態用SOL111と切替弁112とについては、後述する。
ライン圧SOL104は、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じた制御油圧を生成する。ライン圧SOL104が生成した制御油圧は、ライン圧調整弁102に供給され、ライン圧調整弁102は、ライン圧SOL104が生成した制御油圧に応じて作動することで調圧を行う。このため、ライン圧SOL104への制御電流によってライン圧PLの指令値を設定することができる。
前後進切替機構用SOL105は、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じた油圧を生成する。前後進切替機構用SOL105が生成した油圧は、運転者の操作に応じて作動するマニュアルバルブ108を介して前進クラッチ31や後退ブレーキ32に供給される。
PRI圧SOL106は、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じてPRI圧を生成する。このため、PRI圧SOL106への制御電流によってPRI圧の指令値を設定することができる。PRI圧SOL106が生成したPRI圧は、第1PRI室41caに供給される。PRI圧は例えば、制御電流に応じた制御油圧を生成するSOLと、当該SOLが生成した制御油圧に応じてライン圧PLからPRI圧を生成する調圧弁とによって生成されてもよい。
SEC圧SOL107は、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じてSEC圧を生成する。このため、SEC圧SOL107への制御電流によってSEC圧の指令値を設定することができる。SEC圧SOL107が生成したSEC圧は、SEC室42cに供給される。SEC圧は具体的には、第1SEC室42caに供給される。SEC圧は例えば、制御電流に応じた制御油圧を生成するSOLと、当該SOLが生成した制御油圧に応じてライン圧PLからSEC圧を生成する調圧弁とによって生成されてもよい。
選択回路部110は、緊急事態用SOL111と、切替弁112と、を備える。以下では、緊急事態用SOL111を単にE−SOL111と称す。
E−SOL111は、入力ポート111aと出力ポート111bとを有する。切替弁112は、第1入力ポート112aと第2入力ポート112bと出力ポート112cとパイロットポート112pとを有する。
E−SOL111は、入力ポート111aを介して減圧弁103に下流側から接続し、出力ポート111bを介して切替弁112のパイロットポート112pに接続する。切替弁112は、第1入力ポート112aを介して第1PRI室41caに接続し、第2入力ポート112bを介してSEC室42cに接続する。切替弁112はさらに、出力ポート112cを介して第2PRI室41cbに接続する。
E−SOL111は、切替弁112に対してパイロット圧PPの入力、遮断を行う。具体的にはE−SOL111は、ONのときすなわち通電時に切替弁112に対してパイロット圧PPの入力を行い、OFFのときすなわち非通電時に切替弁112に対してパイロット圧PPの遮断を行う。
切替弁112は、パイロット圧PPの入力、遮断に応じて、第2PRI室41cbの連通先を第1PRI室41caとSEC室42cとの間で切り替える。具体的には切替弁112は、パイロット圧PPが入力された場合に第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通し、パイロット圧PPが遮断された場合に第2PRI室41cbをSEC室42cと連通する。
このように構成された選択回路部110は、第2PRI室41cbを第1PRI室41ca及びSEC室42cと選択的に連通する。選択回路部110が第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通した場合、第2PRI室41cbにもPRI圧が供給される。このためこの場合には、PRI圧とSEC圧との差圧に応じた差推力を第2PRI室41cb及びSEC室42c間でも発生させることができる。
図1に戻り、車両はコントローラ10をさらに備える。コントローラ10は電子制御装置であり、センサ・スイッチ群11からの信号に基づき油圧回路100を制御する。本実施形態において、変速機200は、バリエータ4と、コントローラ10と、油圧回路100とを備える構成となっている。
センサ・スイッチ群11は例えば、車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサや、車両のブレーキ踏力を検出するブレーキセンサや、車速Vspを検出する車速センサや、エンジン2の回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサを含む。
センサ・スイッチ群11はさらに例えば、PRI圧を検出するPRI圧センサや、SEC圧を検出するSEC圧センサや、PRIプーリ41の入力側回転速度を検出するPRI回転速度センサや、SECプーリ42の出力側回転速度を検出するSEC回転速度センサを含む。センサ・スイッチ群11からの信号は例えば、他のコントローラを介してコントローラ10に入力されてもよい。センサ・スイッチ群11からの信号に基づき他のコントローラが生成した情報等を示す信号についても同様である。
油圧回路100を制御するにあたり、コントローラ10は、図2に示す選択回路部110、具体的にはE−SOL111を制御する。コントローラ10はさらに、ライン圧SOL104や前後進切替機構用SOL105やPRI圧SOL106やSEC圧SOL107を制御するように構成される。
次に、本実施形態の変速機200の主な作用効果について説明する。変速機200は、バリエータ4と、油圧回路100と、を備える。バリエータ4は、第1PRI室41ca及び第2PRI室41cbを有し第1PRI室41ca及び第2PRI室41cbに供給される油圧を制御することにより溝幅が変更されるPRIプーリ41と、SEC室42cを有しSEC室42cに供給される油圧を制御することにより溝幅が変更されるSECプーリ42と、PRIプーリ41及びSECプーリ42に巻き掛けられたベルト43と、を有する。油圧回路100は、第2PRI室41cbを第1PRI室41ca及びSEC室42cと選択的に連通する選択回路部110を含む。
このように構成された変速機200によれば、PRI室41cを第1PRI室41ca及び第2PRI室41cbの2重の油室で構成したので、受圧面積を大きく確保することができる分、PRIプーリ41で必要とされる油圧を低下させることができる。また、第2PRI室41cbをSEC室42cと連通することで、ベルト43の滑りを防止するにあたり、バリエータ4への供給油量を低下させることができる。
したがって、このように構成された変速機200によれば、固有吐出量のより小さいポンプを油圧ポンプ101に用いることができるので、油圧ポンプ101の仕事低減による燃費向上を図ることができる。
さらにこのような構成の変速機200によれば、第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通することで、第1PRI室41ca及びSEC室42c間に加え第2PRI室41cb及びSEC室42c間でも差圧に応じた差推力を発生させることができる。このため、このような構成の変速機200によれば、変速応答性を高めることもできる(請求項1及び5に対応する効果)。
(第2実施形態)
図3は、本実施形態の変速機200が備える油圧回路100の概略構成図である。本実施形態の変速機200では、油圧回路100が蓄圧回路部120をさらに備える。
蓄圧回路部120は、ライン圧油路109に設けられる。蓄圧回路部120は、アキュムレータ121、SOL122、チェック弁123及びリリーフ弁124を有する。蓄圧回路部120は、アキュムレータ121とライン圧油路109との連通及び連通の遮断を行う。
アキュムレータ121は、油圧P1を蓄え、また、蓄えた油圧P1を放出する。アキュムレータ121は、SOL122を介してライン圧油路109に接続されるとともに、チェック弁123を介してライン圧油路109に接続される。アキュムレータ121はさらに、リリーフ弁124に接続される。
SOL122は、アキュムレータ121とライン圧油路109との連通及び連通の遮断を行う。SOL122には、ノーマルクーロズタイプのバルブが適用されている。このため、SOL122は、ONのときにアキュムレータ121とライン圧油路109とを連通し、OFFのときにアキュムレータ121とライン圧油路109との連通を遮断する。
SOL122は、アキュムレータ121とライン圧油路109との連通及び連通の遮断を行うことで、アキュムレータ121からライン圧油路109への油圧P1の放出及び放出の禁止を行う。SOL122は、チェック弁123が閉弁する圧力状態で、このようにしてアキュムレータ121からライン圧油路109への油圧P1の放出及び放出の禁止を行うことができる。
チェック弁123は、ライン圧油路109側からアキュムレータ121側への流通を許容し、アキュムレータ121側からライン圧油路109側への流通を禁止するように設けられる。このため、アキュムレータ121には、ライン圧油路109からチェック弁123を介して蓄圧を行うことができる。
リリーフ弁124は、オイルをリリーフする。リリーフ弁124は、パイロットポート124aを有する。パイロットポート124aは、アキュムレータ121の油圧P1をパイロット圧としてリリーフ弁124に導入する。パイロットポート124aは、アキュムレータ121とリリーフ先のオイルパンとを連通する方向に油圧P1を作用させる。
このように構成されたリリーフ弁124は、アキュムレータ121の油圧P1が設定値PS1になった場合に、油圧P1の上昇を抑制するオイルリリーフ機構として機能する。リリーフ弁124は、このようなリリーフ機構として機能することで、アキュムレータ121の蓄圧設定値を設定値PS1に設定する。設定値PS1は、例えば5MPaである。
蓄圧回路部120には、アキュムレータ121の油圧P1を検知する圧力センサ125がさらに設けられる。圧力センサ125は、センサ・スイッチ群11に含まれる。したがって、本実施形態の変速機200では、さらに圧力センサ125からの信号がコントローラ10に入力される。本実施形態の変速機200では、コントローラ10は次に説明する制御を行うように構成される。
図4及び図5は、本実施形態のコントローラ10が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ10は、図4及び図5のフローチャートに示す処理を微小時間毎に繰り返し実行することができる。
図4に示すように、ステップS1で、コントローラ10は定常走行時であるか否かを判定する。定常走行時であるか否かは例えば、車速Vspがゼロよりも大きく且つ一定であるか否かで判定することができる。ステップS1で肯定判定の場合、処理はステップS2に進む。
ステップS2で、コントローラ10はE−SOL111とSOL122とをOFFにする。これにより、第2PRI室41cbがSEC室42cと連通する。また、アキュムレータ121からの油圧P1の放出が禁止される。
ステップS3で、コントローラ10はライン圧PLを必要ライン圧に設定する。ライン圧PLの設定は、ライン圧PLの指令値の設定により行うことができる。必要ライン圧は、車速Vspやバリエータ4への入力トルクなど車両の運転状態に応じて予め設定することができる。
ステップS4で、コントローラ10はバランス推力比λを演算する。バランス推力比λは、バリエータ4の設定変速比を維持するためのバランス推力比である。また、バランス推力比は、PRIプーリ41の推力FzpとSECプーリ42の推力Fzsとの比Fzp/Fzsである。
バリエータ4の変速比はバランス推力比λによって決まってくる。このため、バランス推力比λは、バリエータ4の設定変速比に基づき算出することができる。
ステップS5で、コントローラ10は第1PRI室41caの必要油圧PAを演算する。必要油圧PAは、次の数1及び数2に基づき算出することができる。受圧面積SAは第1PRI室41caの受圧面積、受圧面積SBは第2PRI室41cbの受圧面積、受圧面積SCは第1SEC室42caの受圧面積、受圧面積SDは第2SEC室42cbの受圧面積である。
[数1]
PA=(λ×Fzs−SB×PL)/SA
[数2]
Fzs=(SC+SD)×PL
ステップS6で、コントローラ10は、第1PRI室41caの油圧Paを必要油圧PAに設定する。油圧Paの設定は、PRI圧の指令値の設定により行うことができる。ステップS6の後には、本フローチャートを一旦終了する。
ステップS1で否定判定であった場合、処理はステップS7に進む。この場合、コントローラ10は、バリエータ4のダウンシフト時であるか否かを判定する。ダウンシフト時であるか否かは例えば、バリエータ4の実変速比が目標変速比よりも小さいか否か、すなわちHigh側にあるか否かで判定することができる。ステップS7で肯定判定の場合、処理はステップS8に進む。
ステップS8で、コントローラ10は、バリエータ4に対する要求変速速度Vcが所定値αよりも高いか否かを判定する。要求変速速度Vcが所定値αよりも高い場合とは、換言すれば油圧ポンプ101に対するバリエータ4の要求仕事率が所定よりも高い場合である。
要求変速速度Vcが所定値αよりも高いか否かは例えば、キックダウン指令があるか否かで判定することや、急制動Low戻し指令があるか否かで判定することや、急制動ベルト保護指令があるか否かで判定することができる。
キックダウン指令は、急加速に応じてバリエータ4の変速比を最Low変速比などLow側にシフトするための指令である。キックダウン指令があるか否かは例えば、アクセルペダルが瞬時に最大限踏み込まれたか否かで判定することができる。キックダウン指令があるか否かは、所定時間内に所定量以上のアクセルペダルの踏み込みがあったか否かなどで判定されてもよい。
急制動Low戻し指令は、低車速下での急制動に応じてバリエータ4の変速比を最Low変速比など所定の変速比にダウンシフトするための指令である。急制動Low戻し指令があるか否かは例えば、車速Vspが所定値V1よりも低いときに、急制動があったか否かで判定することができる。所定値V1は、実験等により予め設定することができる。
急制動ベルト保護指令は、急制動に応じてベルト43の滑りを防止するための指令である。急制動ベルト保護指令があるか否かは例えば、車速Vspが所定値V2よりも高いときに、急制動があったか否かで判定することができる。所定値V2は、実験等により予め設定することができる。
急制動Low戻し指令及び急制動ベルト保護指令につき、急制動があったか否かは例えば、ブレーキペダルが瞬時に最大限踏み込まれたか否かで判定することができる。急制動があったか否かは、所定時間内に所定量以上のブレーキペダルの踏み込みがあったか否かなどで判定されてもよい。所定時間や所定量は、実験等により予め設定することができる。
ステップS8で肯定判定であれば、処理はステップS9に進む。この場合、コントローラ10は、E−SOL111をONにする。これにより、第2PRI室41cbが第1PRI室41caと連通する。
ステップS10で、コントローラ10は、アキュムレータ121の油圧P1が十分高いか否かを判定する。油圧P1が十分高いか否かは例えば、油圧P1がライン圧PLと所定値との和よりも高いか否かで判定することができる。所定値は、マージンを設けるための値であり、実験などに基づき予め設定することができる。所定値はゼロであってもよい。油圧P1が十分高いか否かを判定するにあたり、ライン圧PLはライン圧PLの指令値とされてもよい。
ステップS10では、アキュムレータ121の油圧P1が十分高いか否かを判定することで、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態であるか否かが判定される。
ステップS10で肯定判定であれば、処理はステップS11に進む。この場合、コントローラ10はSOL122をONにする。これにより、アキュムレータ121の油圧P1がライン圧油路109に放出される。
ステップS10で否定判定であれば、処理はステップS12に進む。この場合、コントローラ10はSOL122をOFFにする。結果、チェック弁123を介したアキュムレータ121への蓄圧が可能になる。ステップS12の後には、処理はステップS13に進む。
ステップS11又はステップS12に続き、ステップS13で、コントローラ10は変速のための差推力を考慮したライン圧にライン圧PLを設定する。この場合のライン圧PLは、次の数3に基づき算出することができる。ライン圧PL0は、現時刻の変速比ipを維持するためのライン圧であり、圧力ΔPは、差推力を発生させるための圧力である。圧力ΔPは、さらにアキュムレータ121への蓄圧を考慮した値に設定することができる。
[数3]
PL=PL0+ΔP
ステップS14で、コントローラ10はバランス推力比λを演算する。バランス推力比λは具体的には、バリエータ4の現時刻の変速比を維持するためのバランス推力比である。このため、バランス推力比λは、バリエータ4の現時刻の変速比に基づき算出することができる。
ステップS15で、コントローラ10は第1PRI室41caの必要油圧PAを演算する。この場合の必要油圧PAは、次の数4及び数5に基づき算出することができる。
[数4]
PA=λ×Fzs/(SA+SB)
[数5]
Fzs=(SC+SD)×PL
ステップS16で、コントローラ10は油圧Paを必要油圧PAに設定する。この場合、ステップS9でE−SOL111をONにしているので、第2PRI室41cbの油圧Pbも必要油圧PAに設定される。ステップS16の後には、本フローチャートを一旦終了する。
ステップS8で否定判定であった場合、処理は図5に示すステップS17に進む。ステップS17で、コントローラ10は、ステップS2同様、E−SOL111とSOL122とをOFFにする。
ステップS18で、コントローラ10は変速のための差推力を考慮したライン圧にライン圧PLを設定する。この場合のライン圧PLは、次の数6に基づき算出することができる。圧力ΔPsは、SECプーリ42で差推力を発生させるための圧力である。
[数6]
PL=PL0+ΔPs
ステップS19で、コントローラ10はステップS14同様、バランス推力比λを演算する。
ステップS20で、コントローラ10は必要油圧PAを演算する。この場合の必要油圧PAは、次の数7及び数8に基づき算出することができる。
[数7]
PA=(λ×Fzs−SB×PL)/SA
[数8]
Fzs=(SC+SD)×PL
ステップS21で、コントローラ10は油圧Paを必要油圧PAに設定する。ステップS21の後には、本フローチャートを一旦終了する。
ステップS22の処理は、図4に示すステップS7で否定判定であった場合に行われる。ステップS22で、コントローラ10は、ステップS2やステップS17と同様、E−SOL111とSOL122とをOFFにする。
ステップS23で、コントローラ10はライン圧PLをライン圧PL0に設定する。また、ステップS24で、コントローラ10は、ステップS14やステップS19と同様、バランス推力比λを演算する。
ステップS25で、コントローラ10は必要油圧PAを演算する。この場合の必要油圧PAは、次の数9及び数10に基づき算出することができる。ΔPpは、PRIプーリ41で差推力を発生させるための圧力である。したがって、この場合には変速のための差推力がPRI圧で考慮される。
[数9]
PA=(λ×Fzs−SB×PL0)/SA+ΔPp
[数10]
Fzs=(SC+SD)×PL0
ステップS26で、コントローラ10は油圧Paを必要油圧PAに設定する。ステップS26の後には、本フローチャートを一旦終了する。
図6は、蓄圧制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ10は、図6のフローチャートに示す処理を微小時間毎に繰り返し実行することができる。
ステップS31で、コントローラ10は、ブレーキONすなわちブレーキペダルが踏み込まれた状態での減速走行時であるか否かを判定する。ステップS31で肯定判定であれば、処理はステップS32に進む。
ステップS32で、コントローラ10は、車速Vspが所定値Vthよりも高いか否かを判定する。所定値Vthは、アキュムレータ121への蓄圧で設定値PS1の大きさの油圧P1を確保するか否かを判定するための値である。所定値Vthは、実験などによって予め設定することができる。ステップS32で肯定判定であれば、処理はステップS33に進む。
ステップS33で、コントローラ10は、油圧P1が設定値PS1以上であるか否かを判定する。ステップS33で否定判定であれば、処理はステップS34に進む。
ステップS34で、コントローラ10は、ライン圧PLを最大値に設定する。これにより、アキュムレータ121への蓄圧で設定値PS1の大きさの油圧P1を確保することが可能になる。ステップS34の後には、本フローチャートの処理を一旦終了する。その後のルーチンでは、処理がステップS34に進む限り、アキュムレータ121への蓄圧が継続される。
ステップS33で肯定判定であれば、処理はステップS35に進む。ステップS35で、コントローラ10は、ライン圧PLの最大値設定を解除する。これにより、ライン圧PLを通常時のライン圧PL等に制御することができる。ステップS31又はステップS32で否定判定であった場合も同様である。ステップS35の後には、本フローチャートの処理を一旦終了する。
図7は、コントローラ10が行う制御に対応する各種パラメータの変化を示すタイミングチャートの第1の例を示す図である。図7では、減速走行時のダウンシフトに続いて定常走行が行われ、さらにその後キックダウンが行われる場合について説明する。
タイミングT11では、アクセル開度がゼロになり、ブレーキ踏力がゼロよりも大きくなる。結果、タイミングT11からは、車速Vspが減少し始める。また、タイミングT11からは、変速比のLow戻しが開始される結果、バリエータ4の変速比がLow側にシフトし始める。
タイミングT11では、車速Vspが所定値Vthよりも高くなっている。このため、ライン圧PLは最大値に設定される。この例において、ライン圧PLは同時に第1SEC室42caの油圧Pcを示す。すなわち、油圧Pcはライン圧PLになるように制御されている。タイミングT11からは、アキュムレータ121への蓄圧が行われ、油圧P1が上昇する。
この例では、タイミングT11で、変速要求速度Vcが所定値αよりも低くなっている。したがって、タイミングT11で、SOL122はOFFになっている。E−SOL111については、この例に示すように、コントローラ10は、設定値PS1の大きさの油圧P1を確保するためのアキュムレータ121への蓄圧を行っている場合に、E−SOL111をONにしてもよい。これにより、第1PRI室41caの油圧Paと第2PRI室41cbの油圧Pbとが等しくなる。
タイミングT12では、油圧P1が設定値PS1になる。このため、タイミングT12では、E−SOL111がOFFになり、油圧Pbは油圧Paと同じではなくなる。変速比のLow戻しは、減速走行が終了するタイミングT13まで継続される。
タイミングT13では、ブレーキ踏力がゼロになる。タイミングT13からは、アクセル開度がゼロよりも大きくなり、車速Vspが一定に維持される。このため、タイミングT13からは、定常走行が行われ、E−SOL111及びSOL122はOFFのままとなる。
タイミングT14では、アクセル開度が瞬時に最大になり、キックダウンが開始される。このとき、要求変速速度Vcは所定値α以上になる。このため、タイミングT14では、E−SOL111がONにされる。結果、油圧Paと油圧Pbとが等しくなる。タイミングT14ではさらに、ライン圧PLが高められる。
タイミングT14では、アキュムレータ121の油圧P1がライン圧PLと比較して十分に高いため、SOL122がONにされる。結果、アキュムレータ121から油圧P1の放出が行われる。
タイミングT15では、油圧P1がライン圧PLと比較して十分に高い状態ではなくなる。結果、SOL122がOFFにされ、アキュムレータ121からの油圧P1の放出が禁止される。
タイミングT16では、バリエータ4の変速比が最Low変速比になり、キックダウンが完了する。要求変速速度Vcは所定値αよりも低くなる。このため、タイミングT16では、E−SOL111がOFFになる。結果、油圧Pbは油圧Paと同じではなくなる。
図8は、コントローラ10が行う制御に対応する各種パラメータの変化を示すタイミングチャートの第2の例を示す図である。図8では、減速走行時のダウンシフトが行われ、さらにダウンシフトの最中に急制動Low戻しが行われた場合について説明する。
タイミングT21では、アクセル開度がゼロになり、ブレーキ踏力がゼロよりも大きくなる。結果、車速Vspが減少し始める。また、タイミングT21からは、変速比のLow戻しが開始される結果、バリエータ4の変速比がLow側にシフトし始める。このときの変速要求速度Vcは所定値αよりも低くなっている。
このため、タイミングT21では、E−SOL111とSOL122とはOFFのままになる。結果、油圧Paと油圧Pbとは異なったままとなる。タイミングT21ではさらに、ライン圧PLが高められる。また、油圧Pa及び油圧Pbがダウンシフトに応じた油圧に変化する。タイミングT21では、設定値PS1の大きさの油圧P1が確保されている。このため、設定値PS1の大きさの油圧P1を確保するためのアキュムレータ121への蓄圧は行われない。
タイミングT22では、ブレーキ踏力が瞬時に最大となり、急制動Low戻しが開始される。このとき、要求変速速度Vcは所定値α以上になる。このため、タイミングT22では、E−SOL111がONにされる。結果、油圧Paと油圧Pbとが等しくなる。タイミングT22ではさらに、ライン圧PLが高められる。
タイミングT22では、アキュムレータ121の油圧P1がライン圧PLと比較して十分に高い。このため、タイミングT22では、SOL122がONにされ、アキュムレータ121から油圧P1の放出が行われる。
油圧P1は、車速VspがゼロになるタイミングT23よりも前に、ライン圧PLと比較して十分高い状態ではなくなる。結果、SOL122は、タイミングT23よりも前にOFFにされ、アキュムレータ121からの油圧P1の放出が禁止される。バリエータ4の変速比は、タイミングT23よりも前に最Low変速比になる。
タイミングT23では、車速Vspがゼロになり、急制動Low戻しが完了する。このため、タイミングT23では、E−SOL111がOFFになり、油圧Pbが油圧Paと同じではなくなる。
次に、本実施形態の変速機200の主な作用効果について説明する。
本実施形態の変速機200では、前述した図4及び図5に示すフローチャートにおいて、ステップS1で肯定判定された場合や、ステップS7で否定判定された場合や、ステップS8で否定判定された場合に、続くステップそれぞれでE−SOL111をOFFにする。
すなわち、本実施形態の変速機200では、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態であっても、蓄圧回路部120がアキュムレータ121に蓄えられた油圧P1をアキュムレータ121からライン圧油路109に放出しない場合に、選択回路部110が第2PRI室41cbをSEC室42cと連通する。
また、本実施形態の変速機200では、前述した図4及び図5に示すフローチャートにおいて、ステップS8で肯定判定された場合に、ステップS9でE−SOL111をONにする。また、本実施形態の変速機200では、このようにしてE−SOL111をONにすることで、ステップS10及びステップS11からわかるように、油圧P1が十分高い場合に、油圧P1をライン圧油路109に放出する。
したがって、本実施形態の変速機200では、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態であるときに、蓄圧回路部120がアキュムレータ121に蓄えられた油圧P1をアキュムレータ121からライン圧油路109に放出する場合に、選択回路部110が第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通する。
このように構成された変速機200によれば、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1の放出が求められる場合には、第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通するので、変速のための差推力を必要に応じて確保することができる(請求項2に対応する効果)。
ところで、素早い変速が求められる場合には、油圧ポンプ101に対するバリエータ4の要求仕事率が所定よりも高くなる。
このような事情に鑑み、本実施形態の変速機200では、前述した図4及び図5に示すフローチャートにおいて、ステップS8で肯定判定された場合に、ステップS11でSOL122をONにする。
すなわち、本実施形態の変速機200では、油圧ポンプ101に対するバリエータ4の要求仕事率が所定よりも高い場合に、蓄圧回路部120がアキュムレータ121に蓄えられた油圧P1をライン圧油路109に放出する。
このような構成の変速機200によれば、変速のための差推力が適切に確保される(請求項4に対応する効果)。
(第3実施形態)
図9は、本実施形態の変速機200が備える油圧回路100の概略構成図である。本実施形態の変速機200では、蓄圧回路部120がシャットオフ弁126とチェック弁127とをさらに備える。また、チェック弁123がアキュムレータ121側からライン圧油路109側への流通を許可し、ライン圧油路109側からアキュムレータ121側への流通を禁止するように設けられる。
シャットオフ弁126は、チェック弁123が設けられた分岐油路にチェック弁123と直列に配置される。シャットオフ弁126には、パイロット作動型のバルブが適用されている。シャットオフ弁126には、切替弁112と同様、パイロット圧PPが導入される。
シャットオフ弁126は、パイロット圧PPが作用した場合に開弁することで、アキュムレータ121からライン圧油路109への油圧の放出を許可する。また、シャットオフ弁126は、パイロット圧PPの入力が遮断された場合に閉弁することで、アキュムレータ121からライン圧油路109への油圧の放出を禁止する。
チェック弁127は、SOL122が設けられた分岐油路にSOL122と直列に配置される。チェック弁127は、ライン圧油路109側からアキュムレータ121側への流通を許可し、アキュムレータ121側からライン圧油路109側への流通を禁止するように設けられる。
このように構成された蓄圧回路部120では、チェック弁127及びSOL122を介してアキュムレータ121への蓄圧が行われ、チェック弁123及びシャットオフ弁126を介してアキュムレータ121からの油圧P1の放出が行われる。
また、このように構成された蓄圧回路部120では、チェック弁123は、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態でない場合に、開弁したシャットオフ弁126を介してアキュムレータ121の蓄圧が行われることを防止する。
本実施形態の変速機200では、コントローラ10が次に説明する制御を行うように構成される。
図10及び図11は、本実施形態のコントローラ10が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。以下では、図4及び図5のフローチャートと異なる点について主に説明する。なお、本実施形態のコントローラ10が行う蓄圧制御については、第2実施形態の場合と同様である。
本実施形態では、コントローラ10は、ダウンシフト時にSOL122を介して蓄圧を行うために、ステップS10の肯定判定に続くステップS11´でSOL122をOFFにし、ステップS10の否定判定に続くステップS12´でSOL122をONにする。
図12は、本実施形態のコントローラ10が行う制御に対応する各種パラメータの変化を示すタイミングチャートの第1の例を示す図である。図12では、以下で説明する油圧P1の状態を除き、図7と同様の場合について説明する。以下では、図7のタイミングチャートと異なる点について主に説明する。
この例では、ダウンシフトが開始するタイミングT11で油圧P1が図7に示す場合よりも低くなっている。この例では、タイミングT11でSOL122がONにされる。これにより、アキュムレータ121の蓄圧が行われる。この例では、タイミングT11でE−SOL111はONにされない。
タイミングT14では、E−SOL111がONにされることで、シャットオフ弁126にパイロット圧PPが作用する。結果、シャットオフ弁126が開弁する。これにより、タイミングT14から油圧P1の放出が開始される。タイミングT14で、SOL122はOFFのままである。この例では、油圧P1がライン圧PLよりも低くなった段階で、油圧P1の放出がチェック弁123によって禁止される。
図13は、本実施形態のコントローラ10が行う制御に対応する各種パラメータの変化を示すタイミングチャートの第2の例を示す図である。図13では、図8と同様の場合について説明する。以下では、図8のタイミングチャートと異なる点について主に説明する。
タイミングT22では、E−SOL111がONになることで、シャットオフ弁126にパイロット圧PPが作用する。結果、シャットオフ弁126が開弁し、油圧P1の放出が開始される。SOL122はOFFのままである。この例では、E−SOL111の閉弁に応じてシャットオフ弁126が閉弁するタイミングT23で、油圧P1の放出が禁止される。
次に本実施形態の変速機200の主な作用効果について説明する。
本実施形態の変速機200では、蓄圧回路部120はシャットオフ弁126をさらに含み、選択回路部110は切替弁112を含む。
変速機200は、このような構成である場合に、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態であっても、蓄圧回路部120がアキュムレータ121に蓄えられた油圧P1をアキュムレータ121からライン圧油路109に放出しない場合に、E−SOL111をOFFにすることで、選択回路部110が第2PRI室41cbをSEC室42cと連通する構成とすることができる(請求項3に対応する効果)。
また、変速機200は、このような構成である場合に、アキュムレータ121に蓄えられた油圧P1を放出可能な圧力状態であるときに、蓄圧回路部120がアキュムレータ121に蓄えられた油圧P1をアキュムレータ121からライン圧油路109に放出する場合に、E−SOL111をONにすることで、選択回路部110が第2PRI室41cbを第1PRI室41caと連通する構成とすることができる(請求項3に対応する効果)。
したがって、このように構成された変速機200によれば、第2実施形態の変速機200と同様、油圧P1の放出が求められる場合に、変速のための差推力を必要に応じて確保することができる(請求項3に対応する効果)。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。