以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
[第一実施形態:正帯電単層型電子写真感光体]
第一実施形態は、正帯電単層型電子写真感光体(以下、「感光体」と記載する場合がある)に関する。以下、図1を参照して、本実施形態の感光体1について説明する。図1は、本実施形態に係る感光体1の構造を示す概略断面図である。
感光体1は、例えば図1(a)に示すように、感光層3を備える。感光層3は、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を少なくとも含有する。感光層3は、正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体、及び一般式(2)で表されるトリアリールアミン誘導体のうちの1種以上を含む。以下、一般式(1)及び(2)で表されるトリアリールアミン誘導体を、各々トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)と記載する場合がある。
感光体1は、転写メモリーの発生を抑制することができる。その理由は、以下のように推測される。
便宜上、はじめに転写メモリーについて説明する。電子写真方式の画像形成では、例えば、以下の1)〜4)の工程を含む画像形成プロセスが実施される。
1)像担持体(感光体に相当)の表面を帯電する帯電工程、
2)帯電された像担持体の表面を露光して、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光工程、
3)静電潜像をトナー像として現像する現像工程、及び
4)形成されたトナー像を、像担持体から被転写体へ転写する転写工程。
しかし、このような画像形成プロセスでは、像担持体を回転させて使用するため、転写工程に起因する転写メモリーが発生する場合がある。具体的には、以下の通りである。帯電工程において、像担持体の表面は、一様に一定の正極性の電位まで帯電される。続いて、露光工程及び現像工程を経て、転写工程において、帯電とは逆極性(負極性)の転写バイアスが、被転写体を介して像担持体に印加される。具体的には、印加された逆極性の転写バイアスの影響により、像担持体表面の非露光領域(非画像領域)の電位が大きく低下し、低下した状態が保持されることがある。この電位低下の影響を受け、非露光領域は、次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され難くなる。一方、転写バイアスが印加された状態であっても、露光領域にトナーが付着しているため感光体表面に転写バイアスが直接印加され難いことから、露光領域(画像領域)の電位は低下し難い。このため、露光領域は、次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され易い。その結果、露光領域と非露光領域とで帯電電位が異なり、像担持体の表面を一様に一定の正極性の電位まで帯電させることが困難となる場合がある。このように、感光体の前周の作像工程(画像形成プロセス)における転写の影響を引きずって非露光領域の帯電能が低下してしまい、帯電電位に電位差が生じる現象を、転写メモリーという。
しかし、既に述べたように、本実施形態の感光体1は、正孔輸送剤として、トリアリールアミン誘導体(1)及びトリアリールアミン誘導体(2)のうちの1種以上を含む。トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)には、各々、2個の窒素原子の間に二重結合が存在している。このような構造のトリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの1種以上が含有される感光層3は、優れた電気的特性を有する傾向にある。
更に、トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)は、このような構造を有することにより、溶剤への溶解性、及びバインダー樹脂との相溶性が優れる傾向にある。このため、正孔輸送剤であるトリアリールアミン誘導体(1)及び(2)を、感光層3中で均一に分散できると考えられる。正孔輸送剤であるトリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの1種以上が均一に分散している感光層3は、正孔輸送能が優れるだけでなく、電子輸送剤における電子輸送を阻害し難く電子輸送能にも優れる傾向がある。
その結果、逆極性の転写バイアスが感光体1に印加した状態であっても、感光層3中の電子は速やかに移動し、感光層3中に電子が残留し難い。従って、感光体1は、転写メモリーの発生を抑制できると考えられる。
引き続き、感光体1について説明する。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、図1(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3を直接設けてもよい。あるいは、例えば、図1(b)に示すように、導電性基体2と感光層3との間に中間層4が適宜に設けられていてもよい。また、図1(a)及び図1(b)に示すように、感光層3が最外層として露出していてもよい。あるいは、図1(c)に示すように、感光層3上に保護層5が適宜に備えられていてもよい。
感光層3の厚さは、感光層として充分に作用することができる限り、特に限定されない。感光層3の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下であり、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
以下、導電性基体2、及び感光層3について説明する。更に、中間層4、及び感光体1の製造方法について説明する。
[1.導電性基体]
導電性基体2は、感光体1の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体2としては、少なくとも表面部が導電性を有する材料で構成される導電性基体を用いることができる。導電性基体2としては、例えば、導電性を有する材料で構成される導電性基体;又は導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、又は真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層3から導電性基体2への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体2の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができる。例えば、シート状の導電性基体、又はドラム状の導電性基体を使用することができる。また、導電性基体2の厚みは、導電性基体2の形状に応じて、適宜選択することができる。
[2.感光層]
既に上述したように、感光層3は、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を同一層に含有する。以下、感光層3に含まれる、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂について説明する。また、感光層3に必要に応じて含まれてもよい添加剤について説明する。
[2−1.電荷発生剤]
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。フタロシアニン系顔料としては、例えば、下記式(H2Pc)で表される無金属フタロシアニン、又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、下記式(TiOPc)で表されるチタニルフタロシアニン、又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(例えば、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン)が挙げられる。無金属フタロシアニン、又は金属フタロシアニンは、誘導体化して使用されてもよい。
無金属フタロシアニンは、結晶であってもよい。無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、X型無金属フタロシアニンが挙げられる。また、チタニルフタロシアニンは、結晶であってもよい。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、又はY型チタニルフタロシアニンが挙げられる。
これらの電荷発生剤のうち、フタロシアニン系顔料が好ましく、X型無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましい。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学系の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター、又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。そのため、例えば、フタロシアニン系顔料(例えば、X型無金属フタロシアニン、又はY型チタニルフタロシアニン)が好適に用いられる。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、又はY型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下程度の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、又はペリレン系顔料が好適に用いられる。
電荷発生剤の含有量は、感光層3においてバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
[2−2.正孔輸送剤]
感光層3には、正孔輸送剤として、トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの1種以上が含有される。
一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。k及びlは、各々独立して0以上4以下の整数を表す。mは、1以上3以下の整数を表す。
一般式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。p及びqは、各々独立して0以上4以下の整数を表す。r及びsは、各々独立して1以上3以下の整数を表す。
一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4が表すハロゲン原子は、例えば、フッ素、塩素又は臭素である。
一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4が表す炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、又はヘキシル基である。
一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4が表す炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、又はヘキシルオキシ基である。
一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4が表す炭素原子数6以上12以下のアリール基は、フェニル基、又はナフチル基である。
上述の炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上12以下のアリール基は、置換基を有してもよい。R1、R2、R3、及びR4が置換基を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は置換基を有する炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基である場合、置換基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上12以下のアリール基が挙げられる。R1、R2、R3、及びR4が置換基を有する炭素原子数6以上12以下のアリール基である場合、置換基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上12以下のアリール基が挙げられる。置換基としての炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上12以下のアリール基としては、例えば、一般式(1)及び(2)中のR1、R2、R3、及びR4が表す炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上12以下のアリール基と同様の基が挙げられる。
一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4の置換位置は特に限定されない。例えば、R1は、R1を有するフェニル基が結合する窒素原子に対して、オルト位(o位)、メタ位(m位)、及びパラ位(p位)の何れにも位置することができる。
一般式(1)及び(2)中、k、l、p、及びqが各々2以上の整数である場合、同一芳香環に存在する複数のR1、複数のR2、複数のR3、及び複数のR4は各々同一であっても異なっていてもよい。以下、下記一般式(1−1)及び(2−1)を参照しながら詳細に説明する。一般式(1−1)及び(2−1)は、各々、一般式(1)及び(2)に対応する。
一般式(1−1)中、R1a、R1b、R1c、R1d、R1e、R2a、R2b、R2c、R2d、及びR2eは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。但し、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eから選択されるk個の基は、水素原子ではない。また、R2a、R2b、R2c、R2d、及びR2eから選択されるl個の基は、水素原子ではない。k及びlは、各々独立して0以上4以下の整数を表す。mは、1以上3以下の整数を表す。
一般式(2−1)中、R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。但し、R3a、R3b、R3c、R3d、及びR3eから選択されるp個の基は、水素原子ではない。また、R4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eから選択されるq個の基は、水素原子ではない。p及びqは、各々独立して0以上4以下の整数を表す。r及びsは、各々独立して1以上3以下の整数を表す。
例えば、一般式(1)中、kが2以上の整数である場合、同一芳香環に複数存在するR1が同一であっても異なっていてもよいとは、以下を意味する。一般式(1−1)の芳香環(A)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eは、各々、同一の基であっても、異なる基であってもよい。但し、芳香環(A)に存在するR1aと、芳香環(B)に存在するR1aとは同一の基である。芳香環(A)に存在するR1b、R1c、R1d、及びR1eと、芳香環(B)に存在するR1b、R1c、R1d、及びR1eとも、各々同一の基である。
一般式(1)中、lが2以上の整数である場合、一般式(1−1)の芳香環(C)に存在するR2a、R2b、R2c、R2d、及びR2eと、芳香環(D)に存在するR2a、R2b、R2c、R2d、及びR2eとの関係は、一般式(1−1)の芳香環(A)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eと、芳香環(B)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eとの関係と同様である。
一般式(2)中、pが2以上の整数である場合、一般式(2−1)の芳香環(E)に存在するR3a、R3b、R3c、R3d、及びR3eと、芳香環(F)に存在するR3a、R3b、R3c、R3d、及びR3eとの関係は、一般式(1−1)の芳香環(A)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eと、芳香環(B)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eとの関係と同様である。
一般式(2)中、qが2以上の整数である場合、一般式(2−1)の芳香環(G)に存在するR4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eと、芳香環(H)に存在するR4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eとの関係は、一般式(1−1)の芳香環(A)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eと、芳香環(B)に存在するR1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eとの関係と同様である。
以上、一般式(1)及び(2)中、k、l、p、及びqが2以上の整数である場合について説明した。引き続き、一般式(1)及び(2)について説明する。
転写メモリーの発生を抑制するという観点から、一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、及びR4は、各々独立して炭素原子数1以上6以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基、又はエチル基であることがより好ましい。
転写メモリーの発生を抑制するという観点から、一般式(1)中、kは0であることが好ましく、lは1であることが好ましい。lが1である場合、R2は、R2を有するフェニル基が結合する窒素原子に対してパラ位に存在することが好ましい。
転写メモリーの発生を抑制するという観点から、一般式(2)中、pは0又は1であることが好ましく、qは1又は2であることが好ましい。
pが1である場合、R3は、R3を有するフェニル基が結合するアルケニル基に対してパラ位に存在することが好ましい。qが1である場合、R4は、R4を有するフェニル基が結合する窒素原子に対してパラ位に存在することが好ましい。qが2である場合、同一芳香環に存在する2個のR4は何れも、R4を有するフェニル基が結合する窒素原子に対してオルト位に存在することが好ましい。同一芳香環に存在する2個のR4は同一でも異なっていてもよい。
同一芳香環に存在する2個のR4は同一でも異なっていてもよいとは、以下を意味する。式(2−1)において、芳香環(G)に存在するR4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eのうちの2個の基は、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される、同一又は異なる基である。芳香環(G)に存在するR4a、R4b、R4c、R4d、及びR4eのうちの2個以外の基は、水素原子である。但し、芳香環(G)に存在するR4aと、芳香環(H)に存在するR4aとは同一の基である。芳香環(G)に存在するR4b、R4c、R4d、及びR4eと、芳香環(H)に存在するR4b、R4c、R4d、及びR4eとも、各々同一の基である。
転写メモリーの発生を抑制するという観点から、一般式(2)中、rは1又は2であり、sは2又は3であることが好ましい。R3を有するフェニル基が結合するアルケニル基に存在する二重結合の数sが、2個の窒素原子間の結合に存在する二重結合の数rと同じ、又は二重結合の数rよりも大きい場合、感光層3の電気的特性が一層向上し、転写メモリーの発生を一層抑制することができる。
転写メモリーの発生を抑制するという観点から、トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のなかでも、トリアリールアミン誘導体(2)を使用することが好ましい。感光層3にトリアリールアミン誘導体(2)のうちの1種以上が含まれることにより、転写メモリーの発生が一層抑制される傾向にある。
感光層3には、正孔輸送剤として、トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの2種以上を含むことができる。トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの2種以上が含まれる場合、トリアリールアミン誘導体(1)のうちの1種以上と、トリアリールアミン誘導体(2)のうちの1種以上とを、併用してもよい。あるいは、トリアリールアミン誘導体(1)のうちの2種以上を使用してもよい。あるいは、トリアリールアミン誘導体(2)のうちの2種以上を使用してもよい。
トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)のうちの1種以上に加えて、トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)以外の別の正孔輸送剤を組み合わせて用いてもよい。別の正孔輸送剤は、公知の正孔輸送剤から適宜選択できる。
正孔輸送剤の合計含有量は、感光層3においてバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)の具体例としては、式(HT−1)〜(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体が挙げられる。以下、式(HT−1)〜(HT−9)で表されるトリアリールアミン誘導体を、各々、トリアリールアミン誘導体(HT−1)〜(HT−9)と記載する場合がある。
トリアリールアミン誘導体(HT−1)〜(HT−9)のうち、トリアリールアミン誘導体(HT−1)〜(HT−7)の1H−NMRチャートを、それぞれ図2〜図8に示す。
トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)は、例えば、以下のような工程を含む製造方法で製造できる。詳しくは、トリアリールアミン誘導体(1)の製造方法は、反応式(R−1)及び(R−2)にて表される反応を行う工程を含む。
また、トリアリールアミン誘導体(2)の製造方法は、反応式(R−3)及び(R−4)にて表される反応を行う工程を含む。
反応式(R−1)〜(R−4)中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基からなる群から選択される。k、l、p及びqは、各々独立して0以上4以下の整数を表す。m、r、及びsは、1以上3以下の整数を表す。Xは、例えば塩素、又はフッ素のようなハロゲン原子を示す。
なお、反応式(R−1)〜(R−4)で表される反応は、カップリング反応である。
反応式(R−1)で表される反応では、一般式(3)で表される化合物(アニリン誘導体)と、一般式(4)で表される化合物(ベンゼン誘導体)とを反応させて、一般式(5)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体(1)の中間体。以下「一般式(5)で表される中間体」と記載する場合がある。)を得る。
アニリン誘導体と、ベンゼン誘導体との反応比率は、(アニリン誘導体)/(ベンゼン誘導体)のモル比率が1/2以上2/1以下であることが好ましい。ベンゼン誘導体の反応比率が過小であると、一般式(5)で表される中間体の収率が過度に低くなることがある。一方、ベンゼン誘導体の反応比率が過大であると、過剰となったベンゼン誘導体が未反応のまま過度に残留することがある。
反応式(R−1)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−1)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−1)で表される反応においては、活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、一般式(5)で表される中間体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類、二価パラジウム化合物類、又はその他のパラジウム化合物類が挙げられる。四価パラジウム化合物類としては、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物が挙げられる。二価パラジウム化合物類としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)が挙げられる。その他のパラジウム化合物類としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−1)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−1)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素が速やかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(5)で表される中間体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下であることが好ましく、1モル以上5モル以下であることがより好ましい。
反応式(R−1)で表される反応は、溶剤中で行うことができる。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次に、反応式(R−2)で表される反応について説明する。
反応式(R−2)においては、一般式(5)で表される中間体と、一般式(6)で表される化合物(スチルベン誘導体)とを反応させて、トリアリールアミン誘導体(1)を得る。
反応式(R−2)で表される反応において、一般式(5)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応比率は、(中間体)/(スチルベン誘導体)のモル比率が1/2.5以上1/1以下であることが好ましい。スチルベン誘導体の反応比率が過小であると、トリアリールアミン誘導体(1)の収率が過度に低下する場合がある。一方、スチルベン誘導体の反応比率が過大であると、反応後に未反応のスチルベン誘導体が過度に残留し、トリアリールアミン誘導体(1)の精製が困難となることがある。
反応式(R−2)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−2)で表される反応は触媒の存在下にて行うことができる。用いられる触媒としては、例えば、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、又はナトリウムエトキシド)、金属水素化物(水素化ナトリウム、又は水素化カリウム)、又は金属塩(例えば、n−ブチルリチウム)が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。こうした触媒の添加量は、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体の合計1モルに対して、1モル以上2モル以下であることが好ましい。こうした触媒の添加量が過少であると、一般式(5)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応性が著しく低下することがある。一方、こうした触媒の反応量が過多であると、反応の制御が困難になることがある。
反応式(R−2)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−2)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、トリアリールアミン誘導体(1)の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類、二価パラジウム化合物類、又はその他のパラジウム化合物類が挙げられる。四価パラジウム化合物類としては、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物が挙げられる。二価パラジウム化合物類としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)が挙げられる。その他のパラジウム化合物類としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)、又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(5)で表される中間体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−2)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−2)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素が速やかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、トリアリールアミン誘導体(1)の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(5)で表される中間体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下であることが好ましく、1モル以上5モル以下であることがより好ましい。
反応式(R−2)で表される反応は、例えば溶剤中で実行される。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次いで、トリアリールアミン誘導体(2)を製造する方法について述べる。トリアリールアミン誘導体(2)の製造方法は、例えば、反応式(R−3)及び反応式(R−4)で表される反応を行う工程を含む。
反応式(R−3)で表される反応では、一般式(3)で表される化合物(アニリン誘導体)と、一般式(7)で表される化合物(ベンゼン誘導体)とを反応させて、一般式(8)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体(2)の中間体。以下「一般式(8)で表される中間体」と記載する場合がある)を得る。
アニリン誘導体と、ベンゼン誘導体との反応比率は、(アニリン誘導体)/(ベンゼン誘導体)のモル比率が1/2以上2/1以下であることが好ましい。ベンゼン誘導体の反応比率が過小であると、一般式(8)で表される中間体の収率が過度に低くなることがある。一方、ベンゼン誘導体の反応比率が過大であると、過剰となったベンゼン誘導体が未反応のまま過度に残留することがある。
反応式(R−3)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−3)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−3)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、一般式(8)で表される中間体の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類、二価パラジウム化合物類、又はその他のパラジウム化合物類が挙げられる。四価パラジウム化合物類としては、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物が挙げられる。二価パラジウム化合物類としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)が挙げられる。その他のパラジウム化合物類としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(3)で表されるアニリン誘導体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−3)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−3)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素が速やかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、一般式(8)で表される中間体の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(7)で表されるスチルベン誘導体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下であることが好ましく、1モル以上5モル以下であることがより好ましい。
反応式(R−3)で表される反応は、溶剤中で行うことができる。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
次に、反応式(R−4)で表される反応について説明する。
反応式(R−4)においては、一般式(8)で表される中間体と、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体とを反応させて、トリアリールアミン誘導体(2)を得る。
反応式(R−4)で表される反応において、一般式(8)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応比率は、(中間体)/(スチルベン誘導体)のモル比率が1/2.5以上1/1以下であることが好ましい。スチルベン誘導体の反応比率が過小であると、トリアリールアミン誘導体(2)の収率が過度に低下する場合がある。一方、スチルベン誘導体の反応比率が過大であると、反応後に未反応のスチルベン誘導体が過度に残留し、トリアリールアミン誘導体(2)の精製が困難となることがある。
反応式(R−4)で表される反応に関し、反応温度は80℃以上140℃以下であることが好ましい。反応時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
反応式(R−4)で表される反応は触媒の存在下にて行うことができる。用いられる触媒としては、例えば、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、又はナトリウムエトキシド)、金属水素化物(水素化ナトリウム、又は水素化カリウム)、又は金属塩(例えば、n−ブチルリチウム)が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。こうした触媒の添加量は、一般式(6)で表されるスチルベン誘導体の合計1モルに対して、1モル以上2モル以下であることが好ましい。こうした触媒の添加量が過少であると、一般式(8)で表される中間体と一般式(6)で表されるスチルベン誘導体との反応性が著しく低下することがある。一方、こうした触媒の反応量が過多であると、反応の制御が困難になることがある。
反応式(R−4)で表される反応においては、触媒としてパラジウム化合物を用いることが好ましい。触媒としてパラジウム化合物を用いることにより、反応式(R−4)で表される反応における活性化エネルギーが効果的に低下する。その結果、トリアリールアミン誘導体(2)の収率を向上させることができる。
パラジウム化合物の具体例としては、四価パラジウム化合物類、二価のパラジウム化合物類、又はその他のパラジウム化合物類が挙げられる。四価パラジウム化合物類としては、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、又はヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物が挙げられる。二価のパラジウム化合物類としては、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、又はジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)が挙げられる。その他のパラジウム化合物類としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)、又はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。また、パラジウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
パラジウム化合物の添加量は、一般式(8)で表される中間体1モルに対して、0.0005モル以上20モル以下であることが好ましく、0.001モル以上1モル以下であることがより好ましい。
また、反応式(R−4)で表される反応は、塩基の存在下で実行されることが好ましい。
反応式(R−4)で表される反応を塩基の存在下で実行することにより、反応系中で発生するハロゲン化水素が速やかに中和され、触媒活性が向上する。その結果、トリアリールアミン誘導体(2)の収率を向上させることができる。
塩基は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属アルコシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、又はカリウム−tert−ブトキシド)が好ましく、ナトリウム−tert−ブトキシドがより好ましい。また、無機塩基としては、リン酸三カリウム、又はフッ化セシウムが挙げられる。
一般式(8)で表される中間体1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合、塩基の添加量は1モル以上10モル以下であることが好ましく、1モル以上5モル以下であることがより好ましい。
反応式(R−4)で表される反応は、例えば溶剤中で実行される。溶剤としては、例えば、キシレン(o−、m−、又はp−)、トルエン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミドが挙げられる。
トリアリールアミン誘導体(1)及び(2)の製造方法では、反応式(R−1)及び(R−2)で表される反応、又は反応式(R−3)及び(R−4)で表される反応を行う工程以外に、必要に応じて適宜な工程を含んでいてもよい。
[2−3.電子輸送剤]
既に述べたように、感光層3は、電子輸送剤を含有する。感光層3が電子輸送剤を含有すると、電子が輸送され易くなり、転写メモリーの発生が抑制される。
電子輸送剤としては、例えば、キノン系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ナフトキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アゾキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
キノン系化合物の具体例としては、一般式(ET−I)〜(ET−III)で表される化合物が挙げられる。
ヒドラゾン系化合物の具体例としては、一般式(ET−IV)で表される化合物が挙げられる。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中、R11〜R22は、各々独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R23は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、アルキル基としては、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基のなかでも、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基がより好ましく、メチル基、tert−ブチル基、又は1,1−ジメチルプロピル基が特に好ましい。アルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、又はこれらを組み合わせたアルキル基であってもよい。アルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2以上10以下のアルケニル基が挙げられ、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基が好ましく、炭素原子数2以上4以下のアルケニル基がより好ましい。アルケニル基は、直鎖状アルケニル基、分岐鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、又はこれらを組み合わせたアルケニル基であってもよい。アルケニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、アルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基は、直鎖状アルコキシ基、分岐鎖状アルコキシ基、環状アルコキシ基、又はこれらを組み合わせたアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、アラルキル基としては、例えば、炭素原子数7以上15以下のアラルキル基が挙げられ、炭素原子数7以上13以下のアラルキル基が好ましく、炭素原子数7以上12以下のアラルキル基がより好ましい。アラルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2個又は3個のベンゼン環が縮合されることにより形成される基、又は2個若しくは3個のベンゼン環が単結合により連結されることにより形成される基が挙げられる。芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環の数は、例えば、1以上3以下であり、1又は2であることが好ましい。芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(ET−I)〜(ET−IV)中のR11〜R23において、複素環基としては、例えば、N、S、及びOからなる群より選択される1以上のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基が挙げられる。複素環基が縮合環である場合、縮合環に含まれる環の数は3以下であることが好ましい。複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(ET−IV)中のR23において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。
一般式(ET−I)〜一般式(ET−IV)で表される化合物のなかでも、転写メモリーの発生を抑制するという観点から、感光層3には電子輸送剤として、一般式(ET−I)又は一般式(ET−II)で表される化合物が含有されることが好ましい。
電子輸送剤の含有量は、感光層3においてバインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
[2−4.バインダー樹脂]
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、又はポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリレート樹脂、又はウレタン−アクリレート共重合樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性、及び/又は耐摩耗性のバランスに優れた感光層3が得られることから、ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールB型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、又はビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂としてより具体的には、式(Resin−I)で表されるポリカーボネート樹脂が挙げられる。
バインダー樹脂の分子量は、粘度平均分子量で40000以上であることが好ましく、40000以上52500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が40000以上であると、バインダー樹脂の耐摩耗性を十分に高めることができ、感光層3が摩耗し難くなる。また、バインダー樹脂の分子量が52500以下であると、感光層3の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層3を形成し易くなる。
[2−5.添加剤]
感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、感光層3は各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤、又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
[3.中間層]
感光体1において、中間層4(特に、下引き層)は、導電性基体2と感光層3との間に位置することができる。中間層4は、例えば、無機粒子、及び中間層4に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層4の存在により、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体1を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇を抑えることができる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄、又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛)の粒子、又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層4を形成する樹脂として用いることができる樹脂である限り、特に限定されない。
中間層4は、感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層3の添加剤と同様である。
[4.製造方法]
次に、図1を参照して、感光体1の製造方法について説明する。感光体1の製造方法は、感光層形成工程を有することができる。感光層形成工程では、感光層用塗布液を、導電性基体2上に塗布し、塗布した感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去して感光層3を形成する。感光層用塗布液は、電荷発生剤と、トリアリールアミン誘導体(1)と、電子輸送剤と、バインダー樹脂と、溶剤とを少なくとも含むことができる。感光層用塗布液は、電荷発生剤、一般式(1)で表されるトリフェニルアミンヒドラジン誘導体、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製することができる。感光層用塗布液は、必要に応じて各種添加剤を加えてもよい。
感光層用塗布液に含有される溶剤は、感光層用塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール)、脂肪族系炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル、又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、非ハロゲン系溶剤が好ましい。
感光層用塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器を用いることができる。
感光層用塗布液は、各成分の分散性、又は形成される各々の層の表面平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
感光層用塗布液を塗布する方法としては、例えば、導電性基体2上に均一に感光層用塗布液を塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去する方法は、感光層用塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法である限り、特に限定されない。溶剤を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体1の製造方法は、必要に応じて、中間層4を形成する工程、及び/又は保護層5を形成する工程を更に含んでいてもよい。中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程では、公知の方法を適宜選択することができる。
感光体1は、像担持体と接触して直流電圧を印加する帯電部を備える画像形成装置において像担持体として使用される。なお、画像形成装置については後述する。
以上、図1を参照して、第一実施形態に係る感光体1を説明した。第一実施形態に係る感光体1によれば、転写メモリーの発生を抑制することができる。第一実施形態に係る感光体1によれば、転写メモリーが発生し易い、像担持体と接触して直流電圧を印加する帯電部を備える画像形成装置においても、転写メモリーの発生を効果的に抑制することができる。
[第二実施形態:画像形成装置]
第二実施形態は、画像形成装置に関する。以下、図6を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6の一態様について説明する。図6は、本実施形態に係る画像形成装置6の一態様の構成を示す概略図である。
以下、画像形成装置6が中間転写方式を採用する場合を、例に挙げて説明する。なお、画像形成装置6が直接転写方式を採用する場合については後述する。
画像形成装置6は、感光体に相当する像担持体1と、帯電部27と、露光部28と、現像部29と、転写部とを備える。帯電部27は像担持体1の表面を帯電する。帯電部27は、像担持体1と接触して直流電圧を印加する。帯電部27の帯電極性は、正極性である。露光部28は、帯電された像担持体1の表面を露光して、像担持体1の表面に静電潜像を形成する。現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部は、像担持体1から被転写体へトナー像を転写する。画像形成装置6が中間転写方式を採用する場合、転写部は、一次転写ローラー33、及び二次転写ローラー21に相当する。被転写体は、中間転写ベルト20、及び記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。像担持体1として、第一実施形態に係る感光体1が備えられる。
画像形成装置6は、感光体1を備えるため、転写メモリーにより引き起こされる画像不良(例えば、画像ゴースト)の発生を抑制することができる。その理由は、以下のように推測される。
まず、便宜上、転写メモリーにより引き起こされる画像不良について説明する。上述のように転写メモリーが発生すると、像担持体1の表面において、次の周の帯電工程で所望の電位が得られない領域は、次の周の帯電工程で所望の電位が得られる領域に比べ、電位が低下する傾向にある。具体的には、像担持体1の表面における前周回の非露光領域は、前周回の露光領域に比べ、電位が低下する傾向にある。このため、前周回の非露光領域は、前周回の露光領域に比べて電位が低下し易いため、正帯電トナーを引き付け易くなる。その結果、前周回の非画像部(非露光領域)を反映した画像が形成され易い。このような前周回の非画像部を反映した画像が形成される画像不良が、転写メモリーにより引き起こされる画像不良である。
第一実施形態に係る感光体1は、上述のように転写メモリーの発生を抑制することができる。画像形成装置6は、像担持体として第一実施形態に係る感光体1を備えるため、転写メモリーにより引き起こされる画像不良を抑制することができると考えられる。
画像形成装置6は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置6は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。異なる色のトナーによる各色のトナー像を形成するために、画像形成装置6は、タンデム方式のカラー画像形成装置であってもよい。
以下、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて、画像形成装置6を説明する。画像形成装置6は、所定方向に並設された複数の感光体1と、複数の現像部29とを備える。複数の現像部29は、各々、感光体1に対向して配置される。複数の現像部29は、各々、現像ローラーを備える。現像ローラーは、トナーを担持して搬送し、対応する像担持体1の表面にトナーを供給する。
図6に示すように、画像形成装置6は、箱型の機器筺体7を更に備える。機器筺体7内には、給紙部8、画像形成部9、及び定着部10が設けられる。給紙部8は、用紙Pを給紙する。画像形成部9は、給紙部8から給紙された用紙Pを搬送しながら、用紙Pに画像データに基づくトナー像を転写する。定着部10は、画像形成部9で用紙P上に転写された未定着のトナー像を、用紙Pに定着させる。更に、機器筺体7の上面には、排紙部11が設けられる。排紙部11は、定着部10で定着処理された用紙Pを排紙する。
給紙部8には、給紙カセット12、第一ピックアップローラー13、給紙ローラー14、15、及び16、並びにレジストローラー対17が備えられる。給紙カセット12は、機器筺体7から挿脱可能に設けられる。給紙カセット12には、各種サイズの用紙Pが貯留される。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12の左上方位置に設けられる。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー14、15、及び16は、第一ピックアップローラー13によって取り出された用紙Pを搬送する。レジストローラー対17は、給紙ローラー14、15、及び16によって搬送された用紙Pを、一時待機させた後に、所定のタイミングで画像形成部9に供給する。
また、給紙部8は、手差しトレイ(不図示)と、第二ピックアップローラー18とを更に備えている。手差しトレイは、機器筺体7の左側面に取り付けられる。第二ピックアップローラー18は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。第二ピックアップローラー18によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー14、15及び16によって搬送され、レジストローラー対17によって、所定のタイミングで画像形成部9に供給される。
画像形成部9には、画像形成ユニット19、中間転写ベルト20、及び二次転写ローラー21が備えられる。中間転写ベルト20には、画像形成ユニット19によって、中間転写ベルト20の表面(一次転写ローラー33との接触面)に、トナー像が一次転写される。なお、一次転写されるトナー像は、コンピューターのような上位装置から伝送された画像データに基づいて形成される。二次転写ローラー21は、中間転写ベルト20上のトナー像を、給紙カセット12から送り込まれた用紙Pに二次転写する。
画像形成ユニット19には、イエロートナー供給用ユニット25を基準として中間転写ベルト20の回転方向の上流側(図6では右側)から下流側に向けて、イエロートナー供給用ユニット25、マゼンタトナー供給用ユニット24、シアントナー供給用ユニット23、及びブラックトナー供給用ユニット22が順次配設されている。ユニット22、23、24、及び25には、各ユニットの中央位置に、感光体1が配設されている。感光体1は、矢符(時計回り)方向に回転可能に配設されている。なお、ユニット22、23、24、及び25は、画像形成装置6本体に対して脱着される後述のプロセスカートリッジであってもよい。
そして、各像担持体1の周囲には、帯電部27、露光部28、現像部29が、帯電部27を基準として各像担持体1の回転方向の上流側から順に配置されている。
像担持体1の回転方向における帯電部27の上流側には、除電器(不図示)、及びクリーニング装置(不図示)が設けられてもよい。除電器は、中間転写ベルト20へのトナー像の一次転写が終了した後、像担持体1の周面を除電する。クリーニング装置及び除電器によって清掃及び除電された像担持体1の周面は、帯電部27へ送られ、新たに帯電処理される。画像形成装置6がクリーニング装置及び/又は除電器を備える場合、各像担持体1の回転方向の上流側から帯電部27を基準として、帯電部27、露光部28、現像部29、一次転写ローラー33、クリーニング装置、及び除電器の順で配置される。
既に述べたように、帯電部27は、像担持体1の表面を帯電する。具体的には、帯電部27は、矢符方向に回転されている像担持体1の周面を均一に正極性に帯電する。帯電部27は、像担持体1と接触して直流電圧を印加する。帯電部27は、いわゆる、接触方式の帯電部とも称される。このような帯電部27としては、例えば、帯電装置が挙げられ、より具体的には、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。なかでも、帯電ローラーが好ましい。
このような帯電ローラーとしては、例えば、像担持体1と接触したまま、像担持体1の回転に従属して回転する帯電ローラーが挙げられる。また、帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成された帯電ローラーが挙げられる。具体的には、帯電ローラーは、例えば、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備える。このような帯電ローラーを備えた帯電部27は、電圧印加部が芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体1の表面を帯電させることができる。
帯電ローラーの樹脂層を構成する樹脂は、像担持体1の周面を良好に帯電できる限り特に限定されない。樹脂層を構成する樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、又はシリコーン変性樹脂が挙げられる。樹脂層には、無機充填材を含有させてもよい。
上述のような接触方式の帯電部27を使用することにより、帯電部27から発生する活性ガス(例えば、オゾン、又は窒素酸化物)の排出を抑えることができると考えられる。その結果、活性ガスによる感光層3の劣化が抑制されるとともに、オフィス環境に配慮した設計が達成できると考えられる。
直流電圧のみを印加する帯電部27は、交流電圧を印加する帯電部、又は直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する帯電部と比較して、以下に示す優位性がある。帯電部27が直流電圧のみを印加すると、像担持体1に印加される電圧値が一定であるため、像担持体1の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光層3の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができる。帯電部27が感光体1に印加する直流電圧は、1000V以上2000V以下であることが好ましく、1200V以上1800V以下であることがより好ましく、1400V以上1600V以下であることが特に好ましい。
露光部28としては、例えば、露光装置が挙げられ、より具体的には、レーザー走査ユニットが挙げられる。露光部28は、帯電された像担持体1の表面を露光して、像担持体1の表面に静電潜像を形成する。具体的には、露光部28は、帯電部27によって均一に帯電された像担持体1の周面に、パーソナルコンピューターのような上位装置から入力された画像データに基づくレーザー光を照射する。これにより、像担持体1の周面に、画像データに基づく静電潜像が形成される。
現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。具体的には、現像部29は、静電潜像が形成された像担持体1の周面にトナーを供給し、画像データに基づくトナー像を形成する。現像部29としては、例えば、現像装置が挙げられる。
転写部(一次転写ローラー33、及び二次転写ローラー21に相当)は、像担持体1の表面に形成されたトナー像を被転写体(中間転写ベルト20、及び用紙Pに相当)に転写する。中間転写ベルト20は、無端状のベルト回転体である。中間転写ベルト20は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33に架け渡されている。複数の像担持体1の周面が、各々、中間転写ベルト20の表面(接触面)に当接するように、中間転写ベルト20は配置されている。
また、中間転写ベルト20は、各像担持体1に対向して配置される一次転写ローラー33によって、像担持体1に押圧される。押圧された状態で、中間転写ベルト20は、複数の駆動ローラー30によって矢符(反時計回り)方向に無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターなどの駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト20を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33は、回転自在に設けられる。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30による中間転写ベルト20の無端回転に伴って、従動回転する。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30の主動回転に応じて中間転写ベルト20を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト20を支持する。
一次転写ローラー33は、一次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を中間転写ベルト20に印加する。その結果、各像担持体1上に形成されたトナー像は、各像担持体1と一次転写ローラー33との間で、周回する中間転写ベルト20に対して、順次転写(一次転写)される。なお、トナーの帯電極性は正極性である。
二次転写ローラー21は、二次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を用紙Pに印加する。その結果、中間転写ベルト20上に一次転写されたトナー像は、二次転写ローラー21とバックアップローラー32との間で用紙Pに転写される。これにより、未定着のトナー像が用紙Pに転写される。
定着部10は、画像形成部9で用紙Pに転写された未定着トナー像を定着させる。定着部10は、加熱ローラー34と、加圧ローラー35とを備えている。加熱ローラー34は、通電発熱体により加熱される。加圧ローラー35は、加熱ローラー34に対向配置され、加圧ローラー35の周面が加熱ローラー34の周面に押圧される。
画像形成部9で二次転写ローラー21により用紙Pに転写された転写画像は、用紙Pが加熱ローラー34と加圧ローラー35との間を通過する際の加熱による定着処理により用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部11へ排紙される。また、定着部10と排紙部11との間の適所に、複数の搬送ローラー36が配設されている。
排紙部11は、機器筺体7の頂部が凹没されることによって形成される。凹没した凹部の底部に、排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ37が設けられる。以上、図6を参照して、本実施形態の一態様の画像形成装置6について説明した。
以下、図7を参照して、本実施形態の別の態様の画像形成装置について説明する。図7は、本実施形態に係る画像形成装置6の別の態様の構成を示す概略図である。図7に示す画像形成装置6は、直接転写方式を採用する。図7に示す画像形成装置6において、転写部は、転写ローラー41に相当する。被転写体は、記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。なお、図7において、図6に対応する要素には同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
直接転写方式を採用した画像形成装置6では、像担持体が転写バイアスの影響を受け易いため、通常、転写メモリーが発生し易い。しかし、上述のように第一実施形態に係る感光体1は、転写メモリーの発生を抑制する傾向にある。そのため、図7に示す画像形成装置6は、像担持体1として第一実施形態に係る感光体1を備えるため、画像形成装置6が直接転写方式を採用する場合であっても、転写メモリーにより引き起こされる画像不良の発生が抑制されると考えられる。
図7に示すように、転写ベルト40は、無端状でベルト状の回転体である。転写ベルト40は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41に架け渡されている。各像担持体1の周面が転写ベルト40の表面(接触面)に当接するように、転写ベルト40は配置される。転写ベルト40は、各像担持体1に対向して配置される各転写ローラー41によって、像担持体1に押圧される。押圧された状態で、転写ベルト40は、複数のローラー30、31、32、及び41によって無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターのような駆動源によって回転駆動し、転写ベルト40を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び転写ローラー41は、回転自在に設けられる。駆動ローラー30による転写ベルト40の無端回転に伴って、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41は従動回転する。これらのローラー31、32、41は、従動回転するとともに、転写ベルト40を支持する。レジストローラー対17から供給された用紙Pは、吸着ローラー42によって転写ベルト40上に吸着される。転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、転写ベルト40の回転に伴い、各像担持体1と対応する転写ローラー41との間を通過する。
転写ローラー41は、像担持体1から用紙Pへトナー像を転写する。トナー像を転写するときに、像担持体1は用紙Pと接触している。具体的には、各転写ローラー41は、転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を、転写ベルト40上に吸着された用紙Pに印加する。これにより、像担持体1上に形成されたトナー像は、各像担持体1と対応する転写ローラー41との間で、用紙Pに転写される。転写ベルト40は、駆動ローラー30の駆動により矢符(時計回り)方向に周回する。これに伴い、転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、各像担持体1と対応する転写ローラー41との間を順次通過する。通過する際に、各像担持体1上に形成された対応する色のトナー像が、重ね塗り状態で順次用紙Pに転写される。この後、各像担持体1は更に回転し、次のプロセスに移行する。以上、図7を参照して、本実施形態の別の態様に係る直接転写方式を採用する画像形成装置について説明した。
図6及び図7を参照して説明したように、第二実施形態に係る画像形成装置6は、像担持体として、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は転写メモリーの発生を抑制可能である。そのため、このような感光体1を備えることで、第二実施形態に係る画像形成装置6は、画像不良の発生を抑制することができる。更に、第二実施形態に係る画像形成装置6は、像担持体1と接触して直流電圧を印加する帯電部27を備える場合であっても、転写メモリーにより引き起こされる画像不良の発生を効果的に抑制することができる。
[第三実施形態:プロセスカートリッジ]
第三実施形態は、プロセスカートリッジに関する。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、像担持体として第一実施形態に係る感光体1を備える。第一実施形態に係る感光体1は、上述のように転写メモリーの発生を抑制できる。従って、本実施形態に係るプロセスカートリッジは、画像形成装置に備えられた場合に、転写メモリーにより引き起こされる画像不良を抑制できると考えられる。
プロセスカートリッジは、例えば、像担持体としてユニット化された第一実施形態に係る感光体1を備えることができる。プロセスカートリッジは、第二実施形態に係る画像形成装置6に対して着脱自在に設計されてもよい。プロセスカートリッジには、例えば、像担持体以外に、帯電部、露光部、現像部、転写部、クリーニング部、及び除電部からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成を採用することができる。ここで、帯電部、露光部、現像部、転写部、クリーニング部、及び除電部は、各々、第二実施形態で上述した、帯電部27、露光部28、現像部29、転写部、クリーニング装置、及び除電器と同様の構成とすることができる。
以上、第三実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明した。第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、転写メモリーにより引き起こされる画像不良の発生を抑制することができる。更に、このようなプロセスカートリッジは取り扱いが容易であるため、感光体の感度特性等が劣化した場合に、感光体を含めて、容易かつ迅速に交換することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
[1.感光体の調製]
電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を用いて、感光体(A−1)〜(A−37)、及び(B−1)〜(B−4)を作製した。
[1−1.電荷発生剤の調製]
感光体(A−1)〜(A−37)、及び(B−1)〜(B−4)の作製には、以下の電荷発生剤の何れかを用いた。具体的には、X型無金属フタロシアニン(以下、「電荷発生剤(X−H2Pc)」と記載する場合がある)又はチタニルフタロシアニン(以下「電荷発生剤(TiOPc)」と記載する場合がある)を用いた。
[1−2.正孔輸送剤の調製]
感光体(A−1)〜(A−37)の作製には、正孔輸送剤として第一実施形態で上述したトリアリールアミン誘導体(HT−1)〜(HT−9)を用いた。これらのトリアリールアミン誘導体の合成方法については後述する。また、感光体(B−1)〜(B−4)の作製には、式(HT−A)で表される正孔輸送剤を用いた。
[1−2−1.トリアリールアミン誘導体(HT−1)の調製]
反応式(R−5)〜(R−10)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−1)を合成した。
まず、反応式(R−5)で表される反応を行った。詳しくは、200mL容のフラスコに式(9)で表されるベンゼン誘導体16.1g(0.1モル)と、式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、式(11)で表されるホスホナート誘導体(白色液体)24.1g(収率:92%)を得た。
そして、反応式(R−6)で表される反応を行った、詳しくは、内温を0℃に調節した500mLの2口フラスコに、式(11)で表されるホスホナート誘導体13.0g(0.05モル)を投入し、アルゴンガス置換を行った。ここに、乾燥させたテトラヒドロフラン(THF)100mLと、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度28質量%)9.3g(0.05モル)とを加え、0℃で30分間攪拌した。この反応液に、式(12)で表されるベンズアルデヒド5.0g(0.05モル)を乾燥THF300mLに溶解させた混合液を投入し、室温で12時間攪拌した。
その後、反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンにて抽出して有機相(トルエン相)を得た。この有機相をイオン交換水にて5回洗浄した。次いで、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶剤を留去して残渣を得た。その後、残渣を溶剤(トルエン20mLとメタノール100mLとの混合溶剤)で再結晶させることにより精製し、式(13)で表されるスチルベン誘導体(白色結晶)9.3g(収率:92%)を得た。
次いで、反応式(R−7)で表される反応を行った。具体的には、200mL容のフラスコに式(14)で表されるジブロモブテン16.1g(0.075モル)と、式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、式(15)で表されるホスホナート誘導体(無色液体)22.5g(収率:91%)を得た。
次いで、反応式(R−8)で表される反応を行った。詳しくは、内温を0℃に調節した500mLの2口フラスコに、式(15)で表されるホスホナート誘導体8.0g(0.024モル)を投入し、アルゴンガス置換を行った。ここに、乾燥させたテトラヒドロフラン(THF)100mLと、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度28質量%)9.3g(0.05モル)とを加え、0℃で30分間攪拌した。この反応液に、式(16)で表されるクロロベンズアルデヒド7.0g(0.05モル)を乾燥THF300mLに溶解させた混合液を投入し、室温で12時間攪拌した。
その後、反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンにて抽出して有機相(トルエン相)を得た。この有機相をイオン交換水にて5回洗浄した。次いで、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶剤を留去して残渣を得た。その後、残渣を溶剤(トルエン20mLとメタノール100mLとの混合溶剤)で再結晶させることにより精製し、式(17)で表されるスチルベン誘導体(白色結晶)2.0g(収率:27%)を得た。
次いで、反応式(R−9)にて表される反応を行った。詳しくは、2L容の3口のフラスコに、式(18)で表されるアニリン誘導体2.7g(0.02モル)と、式(19)で表されるスチルベン誘導体4.4g(0.02モル)と、トリシクロヘキシルホスフィン(Pcy3)0.072g(0.002049モル)と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)0.047g(0.00005123モル)とナトリウム−tert−ブトキシド(t−BuONa)2g(0.021モル)とを投入した。更に、蒸留したo−キシレンを100mL加えた。その後、アルゴンガス置換を行い、120℃で攪拌しつつ5時間反応を行った。
次に、反応液(反応生成物とo−キシレンとを含む溶液)を室温まで冷却し、有機相を得た。この有機相をイオン交換水を用いて3回洗浄した。更に、有機相に対し、無水硫酸ナトリウム及び活性白土を用いて、乾燥及び吸着処理を行った。その後、o−キシレンを減圧留去し残渣を得た。
得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンとの混合溶媒)を用いて精製し、式(20)で表される中間体5.5g(収率:86%)を得た。
次いで、反応式(R−10)で表される反応を行った。詳しくは、3口フラスコに、式(20)で表される中間体3.0g(0.01モル)と、トリシクロヘキシルホスフィン0.035g(0.00009967モル)と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.046g(0.00004983モル)と、ナトリウム−tert−ブトキシド(t−BuONa)1.0g(0.01モル)と、式(17)で表されるスチルベン誘導体1.5g(0.05モル)とを投入した。更に、蒸留したo−キシレン200mLを加えた。その後、アルゴンガス置換を行い、120℃で攪拌しつつ5時間反応を行った。
次いで、反応液を室温まで冷却し有機相を得た。得られた有機相をイオン交換水で3回洗浄し、更に、無水硫酸ナトリウム及び活性白土を用いて乾燥及び吸着処理を行った。その後、o−キシレンを減圧留去し残渣を得た。
得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンとの混合溶媒)を用いて精製し、トリアリールアミン誘導体(HT−1)3.2gを得た(収率:75%)。
トリアリールアミン誘導体(HT−1)をプロトン核磁気共鳴分光計(1H−NMR、300MHz)によって測定した。溶媒としてCDCl3を用いた。内部基準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。1H−NMRチャートによりトリアリールアミン誘導体(HT−1)が得られていることを確認した。トリアリールアミン誘導体(HT−1)の1H−NMRチャートを図2に示す。
[1−2−2.トリアリールアミン誘導体(HT−2)の合成]
反応式(R−11)〜(R−14)で示すような反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−2)を合成した。
まず、(R−11)においては、200mL容のフラスコに式(9)で表されるベンゼン誘導体16.1g(0.1モル)と、式(10)で表される亜リン酸トリエチル25g(0.15モル)とを投入した。これを、180℃で加熱しながら8時間攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去して、式(11)で表されるホスホナート誘導体(白色液体)24.1g(収率:92%)を得た。
次いで、式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて式(21)で表されるシンナムアルデヒドを用い、反応式(R−6)に代えて反応式(R−12)で表される反応を行った。その結果、式(22)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、反応式(R−13)及び(R−14)で表される反応を行った。まず、反応式(R−13)では、式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(22)で表されるスチルベン誘導体を用いた以外は、反応式(R−9)と同様にして、式(23)で表される中間体を得た(収率:83%)。その後、反応式(R−14)で表される反応では、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて、式(17)で表されるスチルベン誘導体を用いた以外は、反応式(R−10)で表される反応と同様にして、トリアリールアミン誘導体(HT−2)を合成した(収率:75%)。
トリアリールアミン誘導体(HT−2)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図3に示す。
なお、トリアリールアミン誘導体(HT−2)の合成、及び後述の式(HT−3)〜トリアリールアミン誘導体(HT−9)の合成においては、それらのモルスケールがトリアリールアミン誘導体(HT−1)の合成におけるモルスケールと等しくなるように、材料の配合量などを調整した。
[1−2−3.トリアリールアミン誘導体(HT−3)の合成]
反応式(R−15)及び(R−16)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−3)を合成した。
詳しくは、式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(25)で表されるベンゼン誘導体を用い、更に式(18)で表されるアニリン誘導体に代えて式(24)で表されるアニリン誘導体を用い、反応式(R−9)に代えて反応式(R−15)で表される反応を行った。その結果、式(26)にて表される中間体を得た(収率:85%)。次いで、式(17)で表されるスチルベン誘導体を用いて反応式(R−10)で表される反応と同様にして、反応式(R−16)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−3)を得た(収率:77%)。トリアリールアミン誘導体(HT−3)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図4に示す。
[1−2−4.トリアリールアミン誘導体(HT−4)の合成]
反応式(R−17)〜(R−20)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−4)を合成した。
まず、反応式(R−5)で表される反応と同様の手法により式(R−17)で表される反応を実行した。次いで、式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて式(21)で表されるシンナムアルデヒド誘導体を用い、反応式(R−12)に代えて反応式(R−18)で表される反応を行った。その結果、式(27)で表されるスチルベン誘導体を得た(収率:70%)。
次いで、反応式(R−9)で表される反応と同様の手法により、反応式(R−19)で表される反応を行った。その結果、式(20)で表される中間体を得た(収率:85%)。次いで、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−10)に代えて反応式(R−20)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−4)を合成した(収率:80%)。トリアリールアミン誘導体(HT−4)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図5に示す。
[1−2−5.トリアリールアミン誘導体(HT−5)の合成]
反応式(R−21)及び(R−22)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−5)を合成した。
まず、反応式(R−13)と同様の手法により反応式(R−21)で表される反応を行った。その結果、式(23)で表される中間体(23)を得た(収率:80%)。次いで、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−14)に代えて反応式(R−22)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−5)を合成した(収率:80%)。トリアリールアミン誘導体(HT−5)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図6に示す。
[1−2−6.トリアリールアミン誘導体(HT−6)の合成]
反応式(R−23)〜(R−26)で表される反応を行って、式(HT−6)を合成した。
まず、反応式(R−5)で表される反応と同様にして反応式(R−23)で表される反応を行った。その結果、式(11)で表されるホスホナート誘導体を得た。次いで、式(12)で表されるアルデヒド誘導体に代えて式(16)で表されるアルデヒド誘導体を用い、反応式(R−6)に代えて反応式(R−24)で表される反応を行った。その結果、式(28)で表されるスチルベン誘導体を得た(収率:75%)。
次いで、反応式(R−9)で表される反応と同様にして式(R−25)で表される反応を行った。その結果、式(20)で表される中間体を得た(収率:85%)。その後、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(28)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−10)に代えて反応式(R−26)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−6)を合成した(収率:85%)。トリアリールアミン誘導体(HT−6)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図7に示す。
[1−2−7.トリアリールアミン誘導体(HT−7)の合成]
反応式(R−27)及び(R−28)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−7)を合成した。
反応式(R−13)で表される反応と同様にして、反応式(R−27)で表される反応を行った。その結果、式(23)で表される中間体を得た(収率:83%)。次いで、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(28)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−14)に代えて反応式(R−28)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−7)を合成した(収率:85%)。トリアリールアミン誘導体(HT−7)の1H−NMRチャート(溶媒:CDCl3、内部基準物質:TMS)を図8に示す。
[1−2−8.トリアリールアミン誘導体(HT−8)の合成]
反応式(R−29)〜(R−32)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−8)を合成した。
式(9)で表されるベンゼン誘導体に代えて式(29)で表されるベンゼン誘導体を用い、反応式(R−9)に代えて反応式(R−29)で表される反応を行った。その結果、式(30)で表されるホスホナート誘導体を得た。
次いで、式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて式(21)で表されるベンゼン誘導体を用い、反応式(R−6)に代えて反応式(R−30)で表される反応を行った。その結果、式(31)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(31)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−9)に代えて反応式(R−31)で表される反応を行った。その結果、式(32)で表される中間体を得た(収率:75%)。次いで、式(17)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(27)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−10)で表される反応に代えて反応式(32)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−8)を合成した(収率:73%)。
[1−2−9.トリアリールアミン誘導体(HT−9)の合成]
反応式(R−33)〜(R−37)で表される反応を行って、トリアリールアミン誘導体(HT−9)を合成した。
まず、反応式(R−5)で表される反応と同様にして反応式(R−33)で表される反応を行った。その結果、式(11)で表されるホスホナート誘導体を得た。次いで、式(12)で表されるベンズアルデヒドに代えて式(32)で表されるベンゼン誘導体を用い、反応式(R−6)で表される反応に代えて反応式(R−34)で表される反応を行った。その結果、式(32)で表されるスチルベン誘導体を得た。
次いで、式(18)で表されるアニリン誘導体に代えて式(34)で表されるアニリン誘導体を用い、更に式(19)で表されるスチルベン誘導体に代えて式(33)で表されるスチルベン誘導体を用い、反応式(R−9)に代えて反応式(R−36)で表される反応を行った。その結果、式(35)で表される中間体を得た(収率:78%)。更に、式(20)で表される中間体に代えて式(35)で表される中間体を用い、反応式(R−10)で表される反応に代えて反応式(R−37)で表される反応を行った。その結果、トリアリールアミン誘導体(HT−9)を合成した(収率:70%)。
[1−3.電子輸送剤の調製]
感光体(A−1)〜(A−37)及び(B−1)〜(B−4)の調製には、第一実施形態で上述した一般式(ET−I)〜(ET−IV)で表される化合物のうち、以下に示す電子輸送剤(ET−1)〜(ET−4)の何れかを用いた。なお、電子輸送剤(ET−1)は、一般式(ET−I)で表される化合物である。更に一般式(ET−I)中、R11はメチル基を表し、R12はtert−ブチル基を表し、R13はメチル基を表し、R14はtert−ブチル基を表す。電子輸送剤(ET−2)は、一般式(ET−II)で表される化合物である。更に一般式(ET−II)中、R15はメチル基を表し、R16はtert−ブチル基を表し、R17はメチル基を表し、R18はtert−ブチル基を表す。電子輸送剤(ET−3)は、一般式(ET−III)で表される化合物である。更に一般式(ET−III)中、R19及び、R20は各々、1,1−ジメチルプロピル基を表す。電子輸送剤(ET−4)は、一般式(ET−IV)で表される化合物である。更に一般式(ET−IV)中、R21はtert−ブチル基を表し、R22はtert−ブチル基を表し、R23は窒素原子に対してパラ位に位置する塩素原子を表す。
[1−4.バインダー樹脂の調製]
感光体(A−1)〜(A−37)及び(B−1)〜(B−4)の調製には、バインダー樹脂として、第一実施形態で上述した式(Resin−1)で表されるポリカーボネート樹脂(以下、バインダー樹脂(Resin−1)と記載する場合がある)を用いた。バインダー樹脂(Resin−1)として、具体的には、帝人株式会社製「パンライト(登録商標)TS−2050」(粘度平均分子量:50000)を使用した。
[1−5.感光体(A−1)の製造]
容器内に、電荷発生剤(X−H2Pc)5質量部と、正孔輸送剤としてのトリアリールアミン誘導体(HT−1)50質量部と、電子輸送剤(ET−1)35質量部と、バインダー樹脂(Resin−1)100質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800質量部とを投入した。ボールミルを用いて、これらを50時間混合して分散し、感光層用塗布液を調製した。
ディップコート法を用いて、導電性基体上に感光層用塗布液を塗布し、導電性基体上に塗布膜を形成した。続いて、100℃で40分間乾燥させ、塗布膜中からテトラヒドロフランを除去した。これにより、導電性基体上に膜厚30μmの感光層を備える感光体(A−1)を得た。
[1−6.感光体(A−2)〜(A−37)及び(B−1)〜(B−4)の調製]
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の調製と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−37)及び(B−1)〜(B−4)を調製した。感光体(A−1)の調製に用いた電荷発生剤(X−H2Pc)、トリアリールアミン誘導体(HT−1)、及び電子輸送剤(ET−1)に代えて、各々、後述の表1及び表2に示す電荷発生剤(CGM)、正孔輸送剤(HTM)、及び電子輸送剤(ETM)を用いた。
[2.感光体の性能評価]
感光体(A−1)〜(A−37)及び(B−1)〜(B−4)の何れかに対し、下記のような評価を行った。
[2−1.転写メモリーの評価]
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、中間転写方式を採用する。また、この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備える。帯電部として、帯電性スリーブを感光体に接触させて感光体表面を帯電する帯電ローラーを用いた。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムから構成される。この帯電ローラーを用いて感光体の表面を+600Vに帯電させた。続いて感光体の表面を露光した。
続いて、感光体に転写バイアスを印加しない場合の感光体の非露光部の表面電位(VOFF)と、感光体に転写バイアスを印加した場合の感光体の非露光部の表面電位(VON)とを順に測定した。なお、感光体には−2KVの転写バイアスを印加した。測定環境は、温度23℃かつ湿度50%RHであった。
測定した感光体の表面電位から表面電位の差(VON−VOFF)を算出した。算出した表面電位の差を転写メモリー電位とした。転写メモリー電位を表1及び表2に示す。なお、表面電位の差の絶対値が大きいほど、転写メモリーが発生していることを示す。
次に、画像形成装置に備えられる帯電部を、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーから、交流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーに変更した。そして、感光体(A−1)を用いて、上記転写メモリーの評価と同様の方法により、転写メモリー電位を求めようとした。しかし、感光体の表面電位の低下が著しく、感光体の表面電位が安定しなかった。そのため、交流電圧を印加した場合の転写メモリーの評価を行うことはできなかった。
[2−2.画像評価]
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、中間転写方式を採用する。また、この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備える。帯電ローラーは、帯電性スリーブを感光体に接触させて、感光体表面を帯電する。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムから構成される。画像形成装置中の感光体の動作を安定させるために、アルファベットの画像を1時間印刷した。続いて、画像Aを1枚印刷した。画像Aは、ドーナツ型の白抜きパターンから構成される画像である。ドーナツ型の白抜きパターンは、2つの同心円1組から構成される。画像Aの画像部(ドーナツ型の白抜き部以外の領域)の画像濃度は100%であった。画像Aは感光体の1周目に形成される画像相当する。続いて、全面ハーフトーンの画像B(画像濃度12.5%)を1枚印刷し、画像ゴーストの評価用サンプルとした。画像Bは感光体の2周目に形成される画像に相当する。
得られた評価用サンプルを目視で観察し、画像Aに由来する画像ゴーストの有無を確認した。画像ゴーストの有無は、以下の基準に基づいて評価した。画像評価の結果を表1及び表2に示す。
◎(良好):画像Aに由来する画像ゴーストが観察されなかった。
○(普通):画像Aに由来する画像ゴーストがわずかに観察された。
×(不良):画像Aに由来する画像ゴーストが明確に観察された。
表2中「HT−1/HT−2(1:1)」は、正孔輸送剤としてのトリアリールアミン誘導体(HT−1)と(HT−2)とを質量比1:1(各々25質量部)で感光体(A−38)に含有させたことを示す。
表1及び表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−37)にはトリアリールアミン誘導体(HT−1)〜(HT−9)が含有されていた。そのため、感光体(A−1)〜(A−37)では、転写メモリー電位の絶対値が小さく、転写メモリーの発生が抑制されていた。一方、感光体(B−1)〜(B−4)には、一般式(1)及び(2)で表されるトリアリールアミン誘導体が何れも含有されていなかった。そのため、転写メモリー電位の絶対値が大きく、転写メモリーが発生していた。
感光体(A−1)〜(A−37)を備える画像形成装置で形成される画像の評価はすべて良好又は普通であった。感光体(B−1)〜(B−4)を備える画像形成装置で形成される画像の評価は、すべて不良であった。このため、感光体(A−1)〜(A−37)を備える画像形成装置は、感光体(B−1)〜(B−4)を備える画像形成装置に比べ、画像ゴーストの発生を抑制することが示された。
以上から、本発明に係る感光体は転写メモリーの発生を抑制し、このような感光体を備える画像形成装置は、画像不良(例えば、画像ゴースト)の発生を抑制することが示された。