JP6366300B2 - 全固体リチウムイオン二次電池およびその製造法 - Google Patents

全固体リチウムイオン二次電池およびその製造法 Download PDF

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Description

本発明は、正極活物質と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備える全固体リチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、LiPF6、LiBF4等のリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水溶媒電解液を用いたものが広く普及している。その非水溶媒は可燃性であることから、リチウムイオン二次電池には安全面の対策が厳しく求められる。この問題を抜本的に回避する方策として、非水溶媒を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発が進められている。一般に全固体リチウムイオン二次電池は、非水溶媒電解液タイプのものより電池容量が小さい。全固体リチウムイオン二次電池の普及には電池容量に関する改善が不可欠である。
全固体リチウムイオン二次電池を構成する固定電解質としては、酸化物系と硫化物系が知られており、イオン伝導性の点で硫化物系が有利である。しかし、硫化物系固体電解質では、当該電解質の成分である硫黄が正極活物質中の遷移金属と反応することによる硫化物生成が問題となる。硫化物が生成しやすい電池では、特に充放電を繰り返すことによって電池容量が著しく低下する。
特許文献1には、硫黄やリンで電極材料の表面処理を行ってイオン伝導パスを改善した全固体二次電池が開示されている。しかし、この技術では固体電解質中の硫黄と正極活物質中の遷移金属との反応を防ぐことはできない。
特許文献2には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の被覆層を形成した正極活物質が開示されている。これにより、正極活物質の電気抵抗を低減させることができ、固体電解質中の硫黄との反応も抑制される。しかし、ニオブは産地が偏在する希少金属であり、電池材料として使用するには原料コストが高い。
特許文献3には、第1リチウム伝導体と第2リチウム伝導体を含有する反応制御部(被覆層)を形成した正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池が開示されている。それらのリチウム伝導体として数多くの物質が列挙されており、第1リチウム伝導体の一種としてナシコン型リン酸化合物のLi1+XAlXTi2-X(PO4)3、0≦X≦2、(LATP)も挙げられている(段落0029)。ただし、実際にLATPを単独で使用した電池の具体例は示されていない。特許文献3に開示の技術は、内側層と外側層によって正極活物質を被覆するものであり(段落0066〜0070、図2)、実施例ではニオブ酸リチウムを併用している(図4)。複層のコーティングは製造コストの増大となり、ニオブ酸リチウムの使用は原料コストの増大となる。
特開2008−27581号公報 特開2012−74240号公報 特開2013−26003号公報
本発明は、ニオブ酸リチウム等の高価なイオン伝導物質を使用せずに、単一のコーティングであっても硫黄との反応が効果的に抑制される正極活物質を適用した、電池容量の維持特性に優れる全固体リチウムイオン二次電池を提供しようというものである。
上記目的は、Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される正極活物質と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池において、
正極活物質は、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3、ただし0≦X≦0.5、で表されるイオン伝導物質(以下「LATP」という。)の被覆層を表面に有する粒子として電池内に収容され、前記イオン伝導物質は正極活物質および硫化物系固体電解質の双方と界面を形成する全固体リチウムイオン二次電池によって達成される。
その電池の製造法として、Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される正極活物質と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の製造において、
Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される粉体を液中で撹拌状態とし、その液に、Li、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む溶液(「LATPコート液」という。)を添加することにより、前記粉体の粒子表面に前記各元素を被着させたのち濾過する工程、および300〜950℃の温度範囲で熱処理する工程を有するプロセスで得られた、Li 1+X Al X Ti 2-X (PO 4 ) 3 、ただし0≦X≦0.5、で表されるイオン伝導物質の被覆層を表面に有する正極活物質の粒子を、電池内に収容し、前記イオン伝導物質が正極活物質および硫化物系固体電解質の双方と界面を形成する構造とする、全固体リチウムイオン二次電池の製造法が提供される
前記LATPコート液として、例えばチタンが[Ti(OH) 3 2 ] - 、リチウムがLi + 、アルミニウムを含有する場合にはアルミニウムがAlO 2 - 、[Al(OH) 4 ] - または[Al(OH) 4 (H 2 O) 2 ] - 、リンがPO 4 3- 、HPO 4 2- またはH 2 PO 4 - の形で溶解している液を使用することができる。
上記正極活物質としては、下記(A)による活物質成分検出率Rが0(測定限界以下)〜75%である粉体を使用することが好適である。
(A)XPS(X線光電子分光分析法)により、粉体の最表面からSiO2換算エッチング深さ1nmまで0.1nm刻み11段階の各エッチング深さで前記元素M、Al、TiおよびPの含有量(モル%)を測定し、それぞれの元素について各エッチング深さでの含有量の平均値(モル%)を求め、それらの値を下記(1)式の対応する元素記号の箇所に代入して活物質成分検出率R(%)を算出する。ただし、正極活物質がAlを含有する物質の場合(Alが正極活物質原料粉の遷移元素Mに対して0.1モル%以上含まれる場合)は、下記(1)式に代えて下記(2)式を適用する。
R(%)=M/(Al+Ti+P+M)×100 …(1)
R(%)=M/(Ti+P+M)×100 …(2)
上記遷移金属Mは、例えばCo、Ni、Mn、Feの1種以上の元素である。Mが2種以上の元素であるときは、各エッチング深さで測定した各M元素の合計含有量(モル%)の平均値を上記(1)式または(2)式のMの箇所に代入する。
た、上記正極活物質の粉体は、下記(3)式により算出されるLATP被覆層の平均厚さが例えば1〜30nmである。
LATP被覆層の平均厚さ(nm)=10×A/(d×S) …(3)
ここで、Aは正極活物質粉体に占めるLATPの質量割合(質量%)、dはLATPの密度2.9(g/cm 3 )、Sは正極活物質原料粉のBET比表面積(m 2 /g)である。
本発明によれば、ニオブ酸リチウム等の高価なイオン伝導物質を使用することなく、電池容量の維持特性に優れた全固体リチウム二次電池が実現された。正極活物質のコーティングも単一物質層であってもよいことから、製造コストの上昇が抑えられ、工業生産に適する。従って本発明は、今後需要の増大が見込まれる全固体リチウムイオン二次電池の普及に寄与しうる。
全固体リチウムイオン二次電池の組み立て方法を説明するための断面図。
本発明に従う全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質の粉体と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備えるタイプの、従来から開発が進められている各種全固体リチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができる。ただし、少なくとも、正極活物質の粉体粒子が、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3、ただし0≦X≦0.5、で表されるイオン伝導物質(以下、この物質を「LATP」と呼ぶ)からなる均一性の高い被覆層を有している点で、従来のものと相違する。このLATP被覆層は、正極活物質に直接被着している。同時に、このLATP被覆層は、電池内部に収容された状態で硫化物系固体電解質とも直接的に接触する。従って、正極活物質と硫化物系固体電解質の間のリチウムイオンの移動は、LATPからなる単一物質のイオン伝導層を介して行われる。
なお、本明細書では、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3組成においてX=0、すなわちAlを含有しないものについても、便宜上LATPと呼ぶ。
〔正極活物質〕
本発明で適用対象となる正極活物質は、Liと遷移金属Mの複合酸化物でからなるものであり、従来からリチウムイオン二次電池に使用されている物質が含まれる。例えば、Li1+XCoO2、Li1+XNiO2、Li1+XMn24、Li1+XNi1/2Mn1/22、Li1+XNi1/3Co1/3Mn1/32(いずれも−0.1≦X≦0.3)、Li1-X[NiYLi1/3-2Y/3Mn2/3-Y/3]O2(0≦X≦1、0<Y<1/2)や、これらのLiあるいは遷移金属元素の一部をAlその他の元素で置換したリチウム遷移金属酸化物や、Li1+XFePO4、Li1+XMnPO4(いずれも−0.1≦X≦0.3)などのオリビン構造を持つリン酸塩などが適用対象となる。
本発明では、これらの物質からなる原料粉体の粒子表面に、LATPを均一性高くコーティングした粉体を正極活物質に用いる。LATPは優れたリチウムイオン伝導性を示し、かつ硫黄に対して非常に高いバリア性を有している。従来、粉体粒子の表面にLATPを高い均一性でコーティングすることは困難であった。発明者らは、後述のLATP塗工液を用いたコーティング技術を開発し、これを可能にした。
正極活物質の原料粉体としては、例えば平均粒子径(レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の累積50%粒子径D50)が1〜20μm、BET比表面積が0.1〜10m2/g程度のものを適用すればよい。
均一性の高いLATP被覆層を有しているかどうかについては、上述の(A)に従うXPSを用いた表面分析によって評価できる。XPSでは数nm深さまでの情報を拾う。被覆層の均一性が悪く、LATP皮膜に非常に薄い部分や下地の正極活物質が露出している部分が存在する場合には、下地元素に起因する光電子の割合が非常に多くなる。前記(1)式または(2)式によって定まる活物質成分検出率R(%)が75%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。実験によれば、Rが0%(測定限界以下)の正極活物質粉体を得ることも可能である。
LATP被覆層を形成した正極活物質粉体に占めるLATPの質量割合をA(質量%)、LATPの密度をd(g/cm3)、正極活物質原料粉(コーティング前)のBET比表面積をS(m2/g)とするとき、LATP被覆層の平均厚さ(nm)は下記(3)式により計算できる。
LATP被覆層の平均厚さ(nm)=10×A/(d×S) …(3)
ここで、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3で表されるLATPの密度dは、0≦X≦0.5の範囲で2.9g/cm3として計算すればよい。右辺の係数10は単位換算係数である。
このようにして求まる平均厚さは1〜80nmの範囲にあることが望ましい。薄すぎると正極活物質の下地が露出しやすい。厚すぎると導電性が低下し、また不経済となる。1〜30nmの範囲に調整することがより好ましい。
〔固体電解質〕
固体電解質は、全固体リチウムイオン二次電池において正極と負極を分離するセパレータの役割と、正極活物質と負極活物質の間のイオン伝導体の役割を担う。本発明では酸化物系に比べ、イオン伝導性の点で有利な硫化物系の固体電解質を適用する。常温でのイオン伝導度が10-5S/cm以上であるものが好ましい。硫化物イオンは分極率の大きい陰イオンであり、硫化物イオンの含有量が多いほどイオン伝導度は向上する傾向を示す。硫化物イオンと酸化物イオンの合計に対し、硫化物イオンが60モル%以上となる組成のものが採用される。このような組成の固体電解質を本明細書では硫化物系固体電解質と称している。例えば酸化物イオンは構造中において強固な結合を形成するため、少量の酸化物イオンの含有は構造の安定化に有効である。
硫化物イオンと酸化物イオンを含有する固体電解質としては、Li3PO4−Li2S−SiS2系や、Li4SiO4−Li2S−SiS2系などのオキシ硫化物ガラスが挙げられる。硫化物イオンのみを含有する固体電解質としては、Li2S−GeS2−P25系、Li2S−P25系などのガラスセラミックが挙げられる。また、LiI−Li2S−P25系、LiI−Li2S−B23系、LiI−Li2S−Si22系などのLiI含有硫化物ガラスを用いることもできる。
これらの硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導性には優れる反面、その硫化物イオンが正極活物質の構成元素である遷移金属(Ni、Co、Mn、Feなど)と反応して硫化物を形成しやすい。本発明では上述の正極活物質に均一性の高いLATP被覆を施しているので、この硫化物形成反応が効果的に抑止される。
〔負極活物質〕
負極活物質については、本発明では特にこだわらない。従来公知の負極活物質を適用すればよい。
正極活物質のコーティング処理〕
上記の均一性の高い被覆層は、Li、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む溶液を用いてコーティング処理することにより実現できる。すなわち、正極活物質の原料粉体粒子の表面に、Li、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む液を接触させて、前記各元素を含む固形物層をコーティングした後、その粒子を酸素含有雰囲気で熱処理して前記固形物層を結晶化させ、上述の固体電解質の層を形成する。上記の固形物層をコーティングする手法としては、例えば、(i)原料粉体を流動させた状態でLi、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む液を噴霧する方法、(ii)原料粉体粒子を直接Li、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む液に入れて撹拌したのち乾固させる蒸発乾固法、(iii)原料粉体を液中で撹拌状態としてLi、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む調整液を少しずつ添加して粉体粒子表面に被着させたのち濾過する液中コート法、などが採用できる。薄く均一な被覆層を形成するためには(iii)の方法が有利である。
発明者らは詳細な検討の結果、上記コーティング処理に用いる溶液として、チタンが[Ti(OH)32]-、リチウムがLi+、アルミニウムがAlO2 -、[Al(OH)4]-または[Al(OH)4(H2O)2]-、リンがPO4 3-、HPO4 2-またはH2PO4 -の形で溶解している液が適していることを見出した。
上記のようにして原料粉体粒子表面にLi、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含有する固形物層を形成したのち、その粒子を酸素含有雰囲気で熱処理することによって、上述の被覆層を形成することができる。熱処理雰囲気は炭酸を含まない空気か、酸素が良い。炭酸を含むと炭酸リチウムの層が生成し、電池の内部抵抗を増大させる要因となる。Li1+XAlXTi2-X(PO4)3、ただし0≦X≦0.5、で表される物質の結晶化は概ね300℃以上で開始するため、熱処理温度は300℃以上とすることが望ましく、500℃以上とすることがより好ましい。500℃以上で結晶化スピードが顕著に向上する。ただし、950℃を超えると、活物質内部への固体電解質の拡散が大きくなるので、950℃以下の温度とすることが望ましい。
以下において、LATP被覆層を形成するための塗工液を「LATPコート液」という。また、粉体の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の累積50%粒子径D50を意味する。
《実施例1》
〔正極活物質原料粉Aの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水126gに硝酸コバルト六水和物355gを溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を1.3g/minで添加した。その間、槽内のpHが11になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は700rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化コバルト粉体を得た。この水酸化コバルト粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Co:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気900℃で2時間焼成し、平均粒子径5.1μm、BET比表面積0.23m2/gのコバルト酸リチウム(LiCoO2)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉A」と呼ぶ。
BET比表面積は、ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUSを用いて、BET一点法により求めた(以下の各例において同じ)。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水1.2g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.028gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.25gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.019gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)0.14gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0028g、濃度28質量%のアンモニア水1.0g、純水8.7gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Aを30g投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中600℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
〔正極活物質〕
得られた正極活物質粉体について、上述(3)式に従ってLATP被覆層の平均厚さを求めた結果、10nmであった。
上述(A)に従う手法で、XPSの分析結果に基づく「活物質成分検出率R」を求めた結果、R=10%であった。なお、XPS装置は、アルバック・ファイ社製PHI5800 ESCA SYSTEMを使用し、測定条件は、分析エリア:φ800μm、X線源:Al管球、X線源出力:150W、分析角度:45°、スペクトル種:Co、Ti、Al、P、Ni、Mnとも2p軌道とした。バックグラウンド処理はshirley法を用いた。
正極活物質粉体を硝酸等で溶解し、ICPにて化学分析を行った結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
〔全固体リチウムイオン二次電池の作製〕
[1]硫化物系固体電解質
25(アルドリッチ社製)0.927gと、Li2S(アルドリッチ社製)0.573gを、ジルコニアボールφ10mmとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて、アルゴンガス雰囲気中350rpmで35時間撹拌混合して、淡い黄色の硫化物系固体電解質の粉体を得た。
[2]負極
インジウム箔(φ8mm、厚さ0.1mm)にリチウム箔(φ6mm、厚さ0.1mm)を圧接し、インジウム中にリチウムを拡散させることにより負極を得た。
[3]正極合材
正極活物質粉体60mgと、上記硫化物系固体電解質39mg、導電剤(ケッチャンブラック、ライオンEJ300J)1mgを混合して得た混合物から7mgを分取し、成形荷重10kNでプレス成形して、φ8mm×厚さ0.1mmの成形体からなる正極合材を得た。
[4]電池の組み立て
図1に、全固体リチウムイオン二次電池の組み立て方法を表す断面図を模式的に示す。内径φ10mm、高さ12mmのポリエチレン製円筒1の内部に、ステンレス鋼からなる正極集電体2、前記正極合材3、および60mgの前記硫化物系固体電解質4を入れ、36kNの荷重を付与して加圧成形体を得た。この成形体の上に前記負極5、およびステンレス鋼からなる負極集電体6をセットして、20kNの荷重を付与して加圧成形し、3層構造のセルを有する全固体リチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池の正極層、電解質層、および負極層の厚さは、それぞれ約100μm、500μmおよび100μmである。正極側の電極面積は0.5cm2(φ8mm)である。なお、図1は、セルの直径に対し、厚さ(図の縦方向長さ)を極めて誇張して描いてある。
〔電池評価〕
作製した電池について、以下の放電容量A、Bを調べ、変化率を求めた。
[1]放電容量A
電流密度0.1mA/cm2で3.8Vまで定電流充電した後、電流密度が0.001mA/cm2となるまで3.8Vで定電圧充電を行った。その後、3.8Vから2.0Vまで(Li電位基準で4.4Vから2.6Vまで)0.1mA/cm2で放電を行い、放電容量の測定を行った。そして、正極活物質の単位質量あたりの放電容量を「放電容量A」とした。放電容量Aの値が大きい電池ほど、エネルギー密度の大きい電池であると評価される。
[2]放電容量B
放電容量Aの測定後、電流密度0.3A/cm2で3.8Vまで定電流充電した後、電流密度が0.003mA/cm2となるまで3.8Vで定電圧充電を行った。その後、3.8Vから2.0Vまで(Li電位基準で4.4Vから2.6Vまで)0.3mA/cm2で放電を行い、放電容量の測定を行った。そして、正極活物質の単位質量あたりの放電容量を「放電容量B」とした。
[3]変化率
下記(4)式により、変化率(%)を求めた。
変化率(%)=(放電容量A−放電容量B)/放電容量A×100 …(4)
この変化率が小さいほど、低電流と高電流で充放電した際の電池容量変化が少ないため、当該正極活物質を使用した電池の設計が容易となる。すなわち、変化率が低いものほど、正極活物質の遷移金属と固体電解質の硫黄の反応が抑制され、優れた性能を有する正極を備えていると判断できる。
以上の結果を表1中に示す(以下の各例において同じ)。
《実施例2》
正極活物質原料粉として、以下のようにして作成した「正極活物質原料粉B」を使用したこと、並びにLATPコート液の作成および被覆を以下のようにして行って正極活物質粉体を用意したことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
〔正極活物質原料粉Bの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水486gに硝酸ニッケル六水和物87.1g、硝酸コバルト六水和物87.3g、硝酸マンガン六水和物86.2を溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を6.4g/minで添加した。その間、槽内のpHが11になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は400rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化物の粉体を得た。この水酸化粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Ni+Mn+Co:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気880℃で2時間焼成し、平均粒子径7.2μm、BET比表面積1.0m2/gのニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉B」と呼ぶ。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水1.1g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.025gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.22gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.017gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)0.12gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0025g、濃度28質量%のアンモニア水0.9g、純水7.6gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Bを20gを投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中500℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
正極活物質粉体を硝酸等で溶解し、ICPにて化学分析を行った結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
《実施例3》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水2.7g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.062gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水0.55gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.041gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)0.30gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.0061g、濃度28質量%のアンモニア水2.3g、純水19.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
《実施例4》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水5.3g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.12gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水1.1gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.083gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)0.60gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.012g、濃度28質量%のアンモニア水4.5g、純水38.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
《実施例5》
以下のようにして作成したLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水10.7g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.25gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水2.0gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.17gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)1.2gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.025g、濃度28質量%のアンモニア水9.0g、純水76.0gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
参考例
以下のようにして作成したAlを含有しないLATPコート液を用いて、LATP被覆層の厚さを増大させたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水5.4g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.15gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水1.1gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.064gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)0.61gを添加した。その後。完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のAl、Ti、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
《実施例7》
正極活物質原料粉として、以下のようにして作成した「正極活物質原料粉C」を使用したこと、並びにLATPコート液の作成および被覆を以下のようにして行って正極活物質粉体を用意したことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
〔正極活物質原料粉Cの作成〕
容量1リットルのガラス製ビーカーを用いた反応槽に、純水200gと、硝酸アンモニウム90gを入れ、50℃、700rpmで撹拌して硝酸アンモニウムを溶解させた。原料液として、純水126gに硝酸ニッケル六水和物308.9g、硝酸コバルト六水和物35.5g、硝酸アルミニウム九水和物13.7gを溶解させた液を用意した。反応槽中に上記原料液を1.3g/minで添加した。その間、槽内のpHが10になるように濃度48%の苛性ソーダ水溶液を添加した。撹拌は、原料添加中は700rpmで継続し、槽内温度は50℃をキープした。原料を添加し終わると、そのまま30分間、温度と撹拌をキープし、その後、30℃まで冷却した。槽内に得られたスラリーを濾過、水洗し、120℃で6時間乾燥させ、水酸化物の粉体を得た。この水酸化粉体と、水酸化リチウム一水和物を、Ni+Co+Al:Liモル比が1:1.03となるように混合したのち、この混合物を酸素雰囲気800℃で2時間焼成し、平均粒子径7.0μm、BET比表面積2.2m2/gのニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(LiNi0.87Co0.10Al0.032)の粉体を得た。この粉体を「正極活物質原料粉C」と呼ぶ。
〔LATPコート液の作成〕
濃度30%の過酸化水素水11.8g中へ、チタン粉末(和光純薬工業社製)0.27gを添加した後、更に濃度28%のアンモニア水2.4gを添加し、十分に撹拌して黄色の透明溶液を得た。この溶液に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)0.18gと、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)1.3gを添加した。更にその溶液に、アルミニウム箔0.027g、濃度28質量%のアンモニア水10.0g、純水83.6gをそれぞれ添加し、完全に透明になるまで3時間撹拌を続け、LATPコート液を得た。
〔LATPの被覆〕
1リットルのガラス製ビーカーに、イソプロピルアルコール100gと、前記正極活物質原料粉Cを20gを投入し、撹拌機を用いて撹拌した。温度は40℃に設定し、原料粉が沈殿しないように600rpmで撹拌を維持した。雰囲気中の炭酸ガスの吸収を防ぐ目的で、撹拌は窒素ガス雰囲気中で行った。この撹拌中の液に前記LATPコート液を120分間かけて連続的に添加した。添加終了後、更に40℃で600rpmの撹拌を継続し、反応を進行させた。反応終了後、得られたスラリーを加圧濾過器に投入し、固液分離を行った。固形分として得られた粉体を、脱炭酸空気中で1時間かけて乾燥した。得られた乾燥粉体を空気中300℃で3時間焼成し、LATPで粒子表面が被覆された正極活物質粉体を得た。
上記LATPコート液を実施例2と同様の方法で被覆して得た正極活物質粉体をICPで分析した結果、投入した原料のTi、Pの比率が、ほぼそのままの比率で検出された。
《比較例1》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉A」を用いたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
《比較例2》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉B」を用いたことを除き、実施例2と同様の実験を行った。
《比較例3》
正極活物質粉体として、LATP被覆を施す前の「正極活物質原料粉C」を用いたことを除き、実施例7と同様の実験を行った。
Figure 0006366300
表1からわかるように、上述の手法でLATP被覆層を形成した正極活物質粉体を用いた各実施例の全固体リチウムイオン二次電池では、当該被覆層を持たない正極活物質粉体を用いた比較例のものより、放電容量の変化率が顕著に減少した。
1 ポリエチレン製円筒
2 正極集電体
3 正極合材
4 硫化物系固体電解質
5 負極
6 負極集電体

Claims (4)

  1. Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される正極活物質と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池において、
    前記正極活物質は、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3、ただし0X≦0.5、で表されるイオン伝導物質(以下「LATP」という。)の被覆層を表面に有する粒子からなり、下記(3)式により算出されるLATP被覆層の平均厚さが1〜30nm、下記(A)による活物質成分検出率Rが0〜75%である粉体を使用したものである、全固体リチウムイオン二次電池。
    (A)XPS(X線光電子分光分析法)により、粉体の最表面からSiO2換算エッチング深さ1nmまで0.1nm刻み11段階の各エッチング深さで前記元素M、Al、TiおよびPの含有量(モル%)を測定し、それぞれの元素について各エッチング深さでの含有量の平均値(モル%)を求め、それらの値を下記(1)式の対応する元素記号の箇所に代入して活物質成分検出率R(%)を算出する。ただし、正極活物質がAlを含有する物質の場合は、下記(1)式に代えて下記(2)式を適用する。
    R(%)=M/(Al+Ti+P+M)×100 …(1)
    R(%)=M/(Ti+P+M)×100 …(2)
    LATP被覆層の平均厚さ(nm)=10×A/(d×S) …(3)
    ここで、Aは正極活物質粉体に占めるLATPの質量割合(質量%)、dはLATPの密度2.9(g/cm3)、Sは正極活物質原料粉のBET比表面積(m2/g)である。
  2. 遷移金属Mが、Co、Ni、Mn、Feの1種以上の元素である請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  3. Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される正極活物質と、硫化物系固体電解質と、負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の製造において、
    Liおよび遷移金属Mの複合酸化物で構成される粉体を液中で撹拌状態とし、その液に、Li、Al、Ti、Pの各元素またはLi、Ti、Pの各元素を含む溶液(「LATPコート液」という。)を添加することにより、前記粉体の粒子表面に前記各元素を被着させたのち濾過する工程、および300〜950℃の温度範囲で熱処理する工程を有するプロセスで得られた、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3、ただし0X≦0.5、で表されるイオン伝導物質の被覆層を表面に有する正極活物質の粒子を、電池内に収容し、前記イオン伝導物質が正極活物質および硫化物系固体電解質の双方と界面を形成する構造とする、請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造法。
  4. 前記LATPコート液として、チタンが[Ti(OH)32]-、リチウムがLi+、アルミニウムを含有する場合にはアルミニウムがAlO2 -、[Al(OH)4]-または[Al(OH)4(H2O)2]-、リンがPO4 3-、HPO4 2-またはH2PO4 -の形で溶解している液を使用する、請求項3に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造法。
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