JP6354615B2 - SiC単結晶の製造方法 - Google Patents

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Description

本開示は、半導体素子として好適なSiC単結晶の製造方法に関する。
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有する。そのため、Si単結晶やGaAs単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高出力、高周波、耐電圧、耐環境性等を実現することが可能であり、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス材料、高速大容量情報通信用デバイス材料、車載用高温デバイス材料、耐放射線デバイス材料等、といった広い範囲における、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
従来、SiC単結晶の成長法としては、代表的には気相法、アチソン(Acheson)法、及び溶液法が知られている。気相法のうち、例えば昇華法では、成長させた単結晶にマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥等の格子欠陥及び結晶多形が生じやすい等の欠点を有するが、従来、SiCバルク単結晶の多くは昇華法により製造されており、成長結晶の欠陥を低減する試みも行われている。アチソン法では原料として珪石とコークスを使用し電気炉中で加熱するため、原料中の不純物等により結晶性の高い単結晶を得ることは不可能である。
そして、溶液法は、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi以外の金属を融解したSi融液を形成し、その融液中に黒鉛坩堝からCを溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させて成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ熱平衡に近い状態での結晶成長が行われるため、低欠陥化が最も期待できる。このため、最近では、溶液法によるSiC単結晶の製造方法がいくつか提案されている。
例えば、黒鉛坩堝の周囲に高周波コイルによる加熱手段を設けた装置を用いる溶液法による製造方法が開示されている(特許文献1)。
特開2012−180244号公報
溶液法によれば、他の方法よりも欠陥が少ないSiC単結晶を得られやすいものの、特許文献1に記載の方法では、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかった。
本開示の方法は上記課題を解決するものであり、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることができるSiC単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
本開示は、坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、高さxに対して、式(1):
-1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1)
(式中、xは0〜10)、且つ式(2):
y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2)
(式中、xは、0〜20)
を満たす形状を有し、
坩堝内に入れるSi−C溶液の深さを30mm以上とし、
坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、
SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法によれば、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることが可能となる。
図1は、本開示の方法において使用し得る単結晶製造装置の一例を表す断面模式図である。 図2は、本開示の方法に用いられる坩堝構造の一例を表す断面模式図である。 図3は、図2の坩堝の低側面部の領域40の拡大図である。 図4は、式(1)及び式(2)により、横軸を坩堝底部内壁からの高さxとし、縦軸を、坩堝の内径を基準とした底側面部の水平方向且つ内側方向の厚みyとして、グラフ化して表した坩堝10の底側面部内壁の形状である。 図5は、種結晶基板とSi−C溶液との間に形成されるメニスカスの断面模式図である。 図6は、実施例8におけるSi−C溶液の流動方向、流速分布、及び温度分布のシミュレーション結果である。 図7は、比較例6におけるSi−C溶液の流動方向、流速分布、及び温度分布について、シミュレーション結果である。 図8は、比較例7におけるSi−C溶液の流動方向、流速分布、及び温度分布について、シミュレーション結果である。 図9は、Si−C溶液の深さによる坩堝の底側面部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフである。 図10は、Si−C溶液の深さによる坩堝の底側面部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフである。 図11は、Si−C溶液の深さによる坩堝の底側面部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフである。
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
溶液法によるSiC単結晶の成長は、熱平衡に近い状態での結晶成長のため、低欠陥化が期待できるものの、従来の方法では、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が遅く、結晶成長面への溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が十分ではなかった。
そこで、本発明者等は、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速の向上について鋭意研究を行い、高周波コイルによる電磁撹拌効果を大きくしてSi−C溶液の上昇流速を向上することができるSiC単結晶の製造方法を見出した。坩堝の底側面部の形状を所定の形状にし、且つ坩堝内に収容するSi−C溶液の深さを30mm以上にすることにより高周波コイルによるSi−C溶液の電磁撹拌効果を大きくして、結晶成長面の中央部へ向かうSi−C溶液の上昇流速を向上することができる。
本開示は、坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、坩堝の底部内壁からの高さxの位置における、坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、高さxに対して、式(1):
-1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1)
(式中、xは0〜10)、且つ式(2):
y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2)
(式中、xは、0〜20)
を満たす形状を有し、坩堝内に入れるSi−C溶液の深さを30mm以上とし、坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法によれば、結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる。
本開示に係る方法は、溶液法によるSiC単結晶の製造方法である。溶液法においては、内部から表面(液面)に向けて液面に垂直方向に温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、SiC種結晶基板を接触させて、SiC単結晶を成長させることができる。Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板を基点として、SiC単結晶を成長させることができる。
図1に、本開示の方法に用いることができるSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種類以上の金属)の融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液24の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝10に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。XはSi以外の一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できるものであれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。例えば、坩堝10内にSiに加えて、Cr等を投入し、Si−Cr溶液等を形成することができる。
坩堝10は、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝であることができる。Cを含む坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝を、その側面部の周囲に配置した高周波コイルで加熱することにより、坩堝の外周部に高周波による誘起電流が流れ、この部分が加熱されて、内部のSi−C溶液が加熱され、また、高周波コイルによる電磁場の一部がSi−C溶液にまで及ぶため、高周波加熱に起因するローレンツ力が、黒鉛坩堝の内部のSi−C溶液に印加され、Si−C溶液を電磁撹拌する効果も得られる。
坩堝10の側面部の水平方向の厚み(肉厚)は、好ましくは5〜20mmである。坩堝10の側面部がこのような厚み範囲内にあることにより、より効果的に、高周波コイルによる電磁撹拌効果をSi−C溶液に及ぼすことができる。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
坩堝10は、上部に断熱材18を備え、断熱材18は、種結晶保持軸12を通す開口部28を備えている。開口部28における断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間(間隔)を調節することによって、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱の程度を変更することができる。概して坩堝10の内部は高温に保つ必要があるが、開口部28における断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間を大きく設定すると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を大きくすることができ、開口部28における断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間を狭めると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を小さくすることができる。開口部28における断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間(間隔)は好ましくは1〜5mmであり、より好ましくは3〜4mmである。後述するメニスカスを形成したときは、メニスカス部分からも輻射抜熱をさせることができる。
Si−C溶液24の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液24の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイル22の出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば溶液表面からの深さがおよそ1cmまでの範囲で、好ましくは10〜50℃/cmである。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、高周波コイルの出力制御、Si−C溶液24の表面からの抜熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
図2に、本開示の方法に用いることができる坩堝構造の断面模式図を示す。黒鉛製の坩堝10はSi−C溶液24を保持し、坩堝上部に配置した断熱材18に設けた開口部28を通して、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12を配置することができる。坩堝10は、坩堝内径17及び坩堝深さ16を有する。
本明細書において、坩堝の側面部、底側面部、及び底部とは、図2に例示した坩堝10の側面部1、底側面部2、及び底部3をいう。図12は、坩堝の断面模式図である。側面部1とは、坩堝の内壁が鉛直方向に直線状に延在する領域をいい、底部3とは、坩堝の内壁が水平方向に直線状に延在する領域をいい、底側面部2とは、側面部1と底部3との間の領域をいう。
図2に示すように、坩堝内径17は、Si−C溶液24を収容する坩堝内径の直径であり、坩堝深さ16は、Si−C溶液24を収容する坩堝の底部内壁の最も底の部分から坩堝の側面部の内壁の上端までの長さである。坩堝内径17は好ましくは50mm以上、より好ましくは70mm以上であり、また、好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下である。坩堝深さ16は好ましくは50mm以上、より好ましくは70mm以上であり、また好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下である。坩堝10がこのような坩堝内径17及び坩堝深さ16を有することにより、より安定してSi−C溶液24の電磁撹拌を行い、結晶成長面への高い上昇流速を得ることができる。
図3に、図2の坩堝の低側面部の領域40の拡大模式図を示す。図3に示すように、坩堝10の底側面部は、坩堝底部内壁からの高さxが大きくなるほど、底側面部の厚みyが小さくなる曲線形状を有する。厚みyは、高さxが大きくなるほど単調減少する図3に示すように、坩堝底部からの高さxは、坩堝10の底部内壁からの鉛直上方向の距離であり、坩堝の底側面部の厚みyは、坩堝10の内径位置を基準とした坩堝10の底側面部の内側方向且つ水平方向の厚みである。坩堝10の底側面部の内壁形状は、坩堝の内側(Si−C溶液側)に向かって凹形状の曲線形状であって、R10mm以上且つR20mm以下の曲線形状を有する。坩堝10の底側面部の内壁形状は、全体的に曲線形状であれば、直線状、曲線状、円弧状、またはそれらの組み合わせ等の任意の形状であることができる。
厚みyが上記変化を示し、且つ坩堝10の底側面部の内壁形状が、上記範囲の曲線形状を有することにより、結晶成長面に向かうSi−C溶液24の上昇流速を大きくすることができる。結晶成長面に向かうSi−C溶液24の上昇流速を大きくすることによって、より速い結晶成長を行うことができる。
厚みyの比率の好ましい範囲を、坩堝10の底部内壁から鉛直方向上方の高さxの関数として、式(1):
-1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1)
(式中、xは0〜10)、且つ式(2):
y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2)
(式中、xは、0〜20)
で表すことができる。
図4に、式(1)及び式(2)による、高さxに対する厚みyの好ましい範囲をグラフで示す。式(1)及び式(2)により描かれるグラフに囲まれた範囲が、yの好ましい範囲である。
坩堝10内に収容するSi−C溶液24の深さは30mm以上、好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上である。Si−C溶液24の深さを上記範囲にすることにより、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる。
高周波コイルの周波数は、特に限定されるものではないが、例えば1〜10kHzまたは1〜5KHzの周波数にすることができる。
本開示の方法においては、高周波加熱による電磁攪拌に、Si−C溶液の機械的攪拌を組み合わせてもよい。例えば、種結晶基板及び坩堝の少なくとも一方を回転させてもよい。種結晶基板及び坩堝の少なくとも一方を所定の速度で所定の時間以上、連続して一定方向に回転させ、回転方向を周期的に切り替えてもよい。種結晶基板及び坩堝の回転方向及び回転速度は任意に決定することができる。
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させることによって、同心円状にSiC単結晶を成長させることが可能となり、成長結晶中に発生し得る欠陥の発生を抑制することができるが、その際、同一方向の回転を所定の時間以上、維持することによって、結晶成長界面直下のSi−C溶液の流動を安定化することができる。回転保持時間が短すぎると、回転方向の切り替えを頻繁に行うことになり、Si−C溶液の流動が不十分または不安定になると考えられる。
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させる場合、同方向の回転保持時間は、30秒よりも長いことが好ましく、200秒以上がより好ましく、360秒以上がさらに好ましい。種結晶基板の同方向の回転保持時間を、前記範囲にすることでインクルージョン及び貫通転位の発生をより抑制しやすくなる。
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させる場合、回転方向を逆方向にきりかえる際の種結晶基板の停止時間は短いほどよく、好ましくは10秒以下、より好ましくは5秒以下、さらに好ましくは1秒以下、さらにより好ましくは実質的に0秒である。
SiC単結晶を成長させる際に、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら結晶成長させることが好ましい。
メニスカスとは、図5に示すように、表面張力によって種結晶基板14に濡れ上がったSi−C溶液24の表面に形成される凹状の曲面34をいう。種結晶基板14とSi−C溶液24との間にメニスカスを形成しながら、SiC単結晶を成長させることができる。例えば、種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させた後、種結晶基板14の下面がSi−C溶液24の液面よりも高くなる位置に種結晶基板14を引き上げて保持することによって、メニスカスを形成することができる。
成長界面の外周部に形成されるメニスカス部分は輻射抜熱により温度が低下しやすいので、メニスカスを形成することによって、温度勾配を大きくしやすくなる。また、結晶成長面の界面直下の中央部よりも外周部のSi−C溶液の温度が低くなる温度勾配を形成することができるので、成長界面の外周部のSi−C溶液の過飽和度を、成長界面の中心部のSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることができる。
このように結晶成長界面直下のSi−C溶液内にて水平方向の過飽和度の傾斜を形成することによって、凹形状の結晶成長面を有するようにSiC結晶を成長させることが可能となる。これにより、SiC単結晶の結晶成長面がジャスト面とならないように結晶成長させることができ、インクルージョン及び貫通転位の発生を抑制しやすくなる。
本開示の方法においては、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。
種結晶基板として、例えば、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶、(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面から0°よりも大きく例えば8°以下のオフセット角度を有するSiC単結晶、または成長面が凹形状を有し凹形状の成長面の中央部付近の一部に(0001)面または(000−1)面を有するSiC単結晶を用いることができる。
種結晶基板の全体形状は、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、接着剤等を用いて種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。
種結晶基板のSi−C溶液への接触は、種結晶基板を保持した種結晶保持軸をSi−C溶の液面に向かって降下させ、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して平行にしてSi−C溶液に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液面に対して種結晶基板を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
種結晶基板の保持位置は、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよい。種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶基板をSi−C溶液に接触させて種結晶基板の下面にSi−C溶液を接触させてから、所定の位置に引き上げる。種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にしてもよいが、上記のようにメニスカスを形成するために、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持して結晶成長させることが好ましい。また、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。メニスカスを形成することにより、種結晶保持軸へのSi−C溶液の接触防止を容易に行うことができる。これらの方法において、結晶成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
種結晶保持軸はその端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であることができる。種結晶保持軸は、円柱状、角柱状等の任意の形状であることができ、種結晶基板の上面の形状と同じ端面形状を有する黒鉛軸を用いてもよい。
Si−C溶液は、その表面温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃が好ましい。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
(結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速のシミュレーション)
溶液法(Flux法)でSiC単結晶を成長させる際の結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速について、CGSim(溶液からのバルク結晶成長シミュレーションソフトウェア、STR Japan製、Ver.14.1)を用いて、シミュレーションを行った。
シミュレーション条件として、以下の標準条件を設定した。
(標準モデルの作成)
単結晶製造装置として、図1及び図2に示すような単結晶製造装置100の構成の対称モデルを作成した。直径が9mm及び長さが180mmの円柱の先端に厚み2mm及び直径25mmの円板を備えた黒鉛軸を種結晶保持軸12とした。厚み1mm、直径25mmの円盤状4H−SiC単結晶を種結晶基板14とした。
種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面の中央部に保持させた。厚みが15mmの黒鉛の断熱材18の上部に開けた直径20mmの開口部28に種結晶保持軸12を通して、種結晶保持軸12及び種結晶基板14を配置した。開口部28における断熱材18と種結晶保持軸12との間の隙間はそれぞれ5.5mmとした。
側面部の水平方向の厚み(肉厚)及び最底部の鉛直方向の厚み(肉厚)が10mm、高さ(底部内壁から側面部内壁の上部先端までの鉛直方向の長さ)が120mmの黒鉛の坩堝10内に、Si融液を配置した。単結晶製造装置の内部の雰囲気をヘリウムとした。坩堝10の周囲に、それぞれ独立して出力の制御が可能な上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成される高周波コイル22を配置した。上段コイル22Aは5巻きの高周波コイルを備え、下段コイル22Bは10巻きの高周波コイルを備える。各コイルを、坩堝10の側面部外壁から水平方向に65mmの位置に鉛直方向に一列に並べ、坩堝10の底部外壁から鉛直上方向に54.5mmの位置から223.5mm(坩堝10の側面部内壁の上部先端から鉛直下方向に33.5mm)の位置までの範囲に均等に配置した。
種結晶基板14の下面が、Si−C溶液24の液面位置に対して1.5mm上方に位置するように、種結晶保持軸に保持された種結晶基板14を配置し、Si−C溶液が種結晶基板14の下面全体に濡れるように図5に示すようなメニスカスを形成した。Si−C溶液24の液面におけるメニスカス部分の直径を30mmとし、計算の簡略化のためにSi−C溶液24の液面と種結晶基板14の下面との間のメニスカスの形状を直線形状にした。Si−C溶液24の表面における温度を2000℃にし、Si−C溶液の表面を低温側として、Si−C溶液の表面における温度と、Si−C溶液24の表面から溶液内部に向けて鉛直方向の深さ10mmの位置における温度との温度差を25℃とした。坩堝10を5rpmで、種結晶保持軸12の中心軸を中心として、回転させた。
その他のシミュレーション条件は、次の通りである。
2D対称モデルを用いて計算;
各材料の物性は以下の通り:
坩堝10及び種結晶保持軸12:材質は黒鉛、2000℃における熱伝導率=17W/(m・K)、輻射率=0.9;
断熱材18:材質は黒鉛、2500℃における熱伝導率=1.2W/(m・K)、輻射率=0.8;
Si−C溶液:材質はSi融液、2000℃における熱伝導率=66.5W/(m・K)、輻射率=0.9、密度=2600kg/m3、導電率=2245000S/m;
He:2000℃における熱伝導率=0.579W/(m・K);
水冷チャンバー及び高周波コイルの温度=300K。
(実施例1〜9及び比較例1〜14)
上記の条件に加えて、上段コイル22Aのパワーを0、及び下段コイル22Bの周波数を5kHzとし、坩堝内径を100mmとして、坩堝の底側面部内壁の曲率形状をR0〜50mmの範囲、及びSi−C溶液の坩堝底部内壁からの深さ(高さ)を20〜70mmの範囲で変更して、Si−C溶液の結晶成長面に向かう上昇流速のシミュレーションを行った。Si−C溶液の上昇流速は、種結晶基板の下面の中央部の鉛直方向下方のSi−C溶液の液面の位置、すなわち、種結晶基板の成長面の中央部から1.5mm鉛直方向下の位置における鉛直上方向に向かうSi−C溶液の流速である。Si−C溶液の上昇流速のシミュレーションシミュレーション結果を表1に示す。
また、図6に実施例8、図7に比較例6、及び図8に比較例7の、Si−C溶液の流動方向、流速分布、及び温度分布について、シミュレーションを行った結果を示す。図9に、Si−C溶液の深さによる坩堝の底側面部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフを示す。シミュレーション結果は、いずれもSi−C溶液の流動が安定したときのSi−C溶液の流動状態を表している。
(実施例10〜17及び比較例15〜26)
坩堝内径を70mmとして、坩堝の底側面部内壁の曲率形状をR0〜35mmの範囲、及びSi−C溶液の坩堝底部からの深さ(高さ)を20〜50mmの範囲で変更したこと以外は、実施例1〜9及び比較例1〜14と同じ条件で、シミュレーションを行った。Si−C溶液の上昇流速のシミュレーション結果を表2に示す。図10に、Si−C溶液の深さによる坩堝の底側面部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフを示す。
(実施例18〜23及び比較例27〜36)
上段コイル22Aのパワーを0、及び下段コイル22Bの周波数を1kHzとし、坩堝内径を100mmとして、坩堝の底側面部内壁の曲率形状をR0〜35mmの範囲、及びSi−C溶液の坩堝底部内壁からの深さ(高さ)を20〜50mmの範囲で変更したこと以外は、実施例1〜9及び比較例1〜14と同じ条件で、シミュレーションを行った。Si−C溶液の上昇流速のシミュレーション結果を表3に示す。図11に、Si−C溶液の深さによる坩堝底部内壁の曲率RとSi−C溶液の上昇流速との関係を表すグラフを示す。
表1〜3及び図9〜11から、坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、高さに対して、式(1):
-1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1)
(式中、xは0〜10)、且つ式(2):
y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2)
(式中、xは、0〜20)
を満たし、且つ
坩堝内に入れるSi−C溶液の深さが30mm以上の範囲で、Si−C溶液の高い上昇流速が安定して得られることが分かる。
上記実施例1〜23に対応する条件を用いてSiC単結晶を実際に成長させたところ、シミュレーションにより得られた上昇流速にほぼ比例して、SiC単結晶の成長速度を向上することができた。
1 側面部
2 底側面部
3 底部
100 単結晶製造装置
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
16 坩堝深さ
17 坩堝内径
18 断熱材
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
28 坩堝上部の開口部
34 メニスカス
40 坩堝の底側面部の領域

Claims (1)

  1. 坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
    前記坩堝が、側面部、底側面部、及び底部を備え、
    前記側面部は、前記坩堝の内壁が鉛直方向に直線状に延在する領域であり、前記底部は、前記坩堝の内壁が水平方向に直線状に延在する領域であり、前記底側面部は、前記側面部と前記底部との間の領域であり且つ前記坩堝の内側に向かって凹形状の曲線形状である内壁形状を有し、
    前記坩堝の前記底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、前記坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の前記底側面部の厚みyが、前記高さxに対して、式(1):
    -1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1)
    (式中、xは0〜10)、且つ式(2):
    y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2)
    (式中、xは、0〜20)
    を満たす形状を有し、
    前記坩堝内に入れる前記Si−C溶液の深さを30mm以上とし、
    前記坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、前記Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、
    SiC単結晶の製造方法。
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