JP6500828B2 - SiC単結晶の製造方法 - Google Patents

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Description

本開示は、SiC単結晶の製造方法に関する。
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有する。そのため、Si単結晶やGaAs単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高出力、高周波、耐電圧、耐環境性等を実現することが可能であり、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス材料、高速大容量情報通信用デバイス材料、車載用高温デバイス材料、耐放射線デバイス材料等、といった広い範囲における、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
従来、SiC単結晶の成長法としては、代表的には気相法、アチソン(Acheson)法、及び溶液法が知られている。気相法のうち、例えば昇華法では、成長させた単結晶にマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥等の格子欠陥が生じやすい等の欠点を有するが、従来、SiCバルク単結晶の多くは昇華法により製造されており、成長結晶の欠陥を低減する試みも行われている。アチソン法では原料として珪石とコークスを使用し電気炉中で加熱するため、原料中の不純物等により結晶性の高い単結晶を得ることは不可能である。
溶液法は、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi以外の金属を融解したSi融液を形成し、その融液中にCを溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させて成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ熱平衡に近い状態での結晶成長が行われるため、低欠陥化が期待できる。このため、最近では、溶液法によるSiC単結晶の製造方法がいくつか提案されている(特許文献1)。
特開2014−019614号公報
SiC単結晶の成長においては、ステップが横方向に成長することにより、結晶成長が進行する。このようなステップフロー成長をする単結晶では、上段のステップの成長が下段のステップの成長に追いつくことにより、ステップバンチングが発生する。ステップバンチングが進行すると、インクルージョンが発生する。
特許文献1に記載されるように、溶液法によるSiC単結晶成長において、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成すると、種結晶基板の結晶成長面の外周部の温度を低くすることができる。メニスカスの形成により結晶成長面の外周部の温度を低くすることは、成長結晶の成長面が凹形状を有するように結晶成長させることができ、ステップバンチング及びインクルージョンの発生を抑制する上で効果的である。しかしながら、特許文献1等の従来技術においても、成長の初期段階でインクルージョンが発生し得ることが分かった。
凹形状の成長面を有するように結晶成長させるためには、結晶成長界面直下の中心部から外周部に向かって温度が低下する水平方向の温度分布が必要である。このような温度分布を形成することにより、結晶成長界面直下の外周部のSi−C溶液の過飽和度を、結晶成長界面直下の中央部のSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることができる。しかしながら、結晶成長の初期段階では、種結晶保持軸を介した抜熱や種結晶基板の成長面端部のメルトバックによって、種結晶基板の成長面の中央部から凸面成長が生じることがあり、このような凸面成長が起きると、ステップバンチングが発生し、さらにはインクルージョンが発生することが分かった。
そのため、成長の初期段階においてもインクルージョンが発生しないSiC単結晶の製造方法が望まれている。
本開示は、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
前記結晶成長の開始時から、前記種結晶基板と前記Si−C溶液との間に第1の高さを有するメニスカスを形成して、凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させること、及び
前記第1の高さよりも小さい第2の高さを有するメニスカスを形成して、前記凹形状の成長面を有するSiC単結晶から、さらにSiC単結晶を成長させること
を含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示によれば、成長の初期段階においてもインクルージョンを含まないSiC単結晶を成長させることができる。
図1は、種結晶基板とSi−C溶液との間に形成されるメニスカスの断面模式図である。 図2は、凹形状の成長面を有するSiC単結晶の断面模式図である。 図3は、成長結晶中のインクルージョンの有無を検査するときの、成長結晶の切り出し箇所を示した模式図である。 図4は、本開示の方法に用いられ得るSiC単結晶製造装置の一例を表す断面模式図である。 図5は、実施例で成長させたSiC結晶の成長面の観察写真である。 図6は、実施例で成長させたSiC結晶の断面の透過顕微鏡写真である。 図7は、比較例で成長させたSiC結晶の成長面の観察写真である。 図8は、比較例で成長させたSiC結晶の断面の透過顕微鏡写真である。 図9は、参考例で成長させたSiC結晶の成長面の観察写真である。 図10は、参考例で成長させたSiC結晶の成長面の観察写真である。
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
本開示は、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、前記結晶成長の開始時から、前記種結晶基板と前記Si−C溶液との間に第1の高さを有するメニスカスを形成して、凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させること、及び前記第1の高さよりも小さい第2の高さを有するメニスカスを形成して、前記凹形状の成長面を有するSiC単結晶から、さらにSiC単結晶を成長させることを含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の製造方法によれば、結晶成長の初期段階からインクルージョンを発生させずにSiC単結晶を成長させることができる。
インクルージョンとは、SiC単結晶成長に使用するSi−C溶液の、成長結晶中の巻き込みである。成長結晶にインクルージョンが発生する場合、インクルージョンとして、例えば、Si−C溶液として用いる溶媒中に含まれ得るCrやNi等の溶媒成分を検出することができる。
本開示の方法において、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成する。メニスカスを形成することによって、結晶成長面直下の中央部よりも外周部のSi−C溶液の温度が低くなる水平方向の温度分布をより形成しやすくなる。
メニスカスとは、図1に示すように、表面張力によって種結晶基板14に濡れ上がったSi−C溶液24の液面(表面)に形成される凹状の曲面34をいう。種結晶基板14とSi−C溶液24との間にメニスカスを形成しながら、SiC単結晶を成長させることができる。種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、種結晶基板の下面がSi−C溶液の液面よりも高くなる位置に種結晶基板を引き上げて保持することによって、メニスカスを形成することができる。
メニスカスの高さ15とは、凹状の曲面34の鉛直方向の高さ、すなわち、種結晶基板14の成長面となる下面とSi−C溶液24の液面との間の鉛直方向の高さである。
本開示の方法において、結晶成長の開始時から、種結晶基板とSi−C溶液との間に第1の高さを有するメニスカスを形成して、凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させる。次いで、第1の高さよりも小さい第2の高さを有するメニスカスを形成して、第1の高さを有するメニスカスを形成して成長させた凹形状の成長面を有するSiC単結晶から、さらにSiC単結晶を成長させる。
成長面の外周部に形成されるメニスカス部分は輻射抜熱により温度が低下しやすいので、メニスカスを形成することによって、結晶成長面の界面直下の中央部よりも外周部のSi−C溶液の温度が低くなる温度勾配を形成して、凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させることができる。
成長開始時のメニスカスの高さ15を大きくすることにより、種結晶基板の成長面の中央部から凸面成長が生じることを抑制して、成長初期に凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させることができる。成長初期に凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させた後、メニスカスの高さを、第1の高さよりも小さい第2の高さに変更することにより、過度な凹面化を抑制しながら凹形状の成長面を有するSiC単結晶の成長を継続することができる。
第1の高さは、第2の高さよりも大きい範囲で、成長結晶の口径等に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.0〜5.0mm、より好ましくは2.0〜4.0mm、さらに好ましくは2.0〜3.0mmである。結晶成長の開始時から上記範囲の第1の高さを有するメニスカスを形成することによって、より安定して凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させることができる。
第2の高さは、第1の高さよりも小さい範囲で、成長結晶の口径等に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.5〜1.5mm、さらに好ましくは1.0〜1.5mmである。上記範囲の第2の高さを有するメニスカスを形成することによって、第1の高さを有するメニスカスを形成して成長させた凹形状の成長面を有するSiC単結晶から、より安定して凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させることができる。
凹形状の成長面とは、結晶成長ジャスト面に対して、中央部の一部がほぼ平行であり、成長面の外周部ほど傾きが大きくなる凹形状の結晶成長面をいう。図2に、種結晶基板14のジャスト面16を成長面として、ジャスト面16から成長した凹形状の成長面20を有するSiC単結晶40の断面模式図を示す。ジャスト面とは、例えば種結晶基板の成長面がフラットであり(0001)面または(000−1)面を有する場合、成長面の(0001)面または(000−1)面からのずれ角度が実質的にゼロである面をいう。
凹形状の成長面が得られているかどうかの判断は、成長結晶の中央部と外周部の厚みを測定して行うことができる。ジャスト面16を有するフラットな成長面を有する種結晶基板を用いれば、単に成長結晶の中央部と外周部の厚みの大小関係を測定して、凹形状の成長面が得られているかどうかを判断することができる。
凹形状の成長面が得られるタイミングが事前に分かっていれば、所定時間経過後にメニスカスの高さを、第1の高さから第2の高さに変更してもよい。シードタッチ直後にメニスカスの高さを第1の高さにして、例えば30分保持して結晶成長させ、次いでメニスカスの高さを第2の高さに変更してもよい。メニスカスの高さを第1の高さに保持して結晶成長させる時間は、例えば10分〜60分または20分〜40分であることができる。
メニスカスの高さを第2の高さに保持して結晶成長させる時間は、所望の結晶成長厚みに応じて決定すればよく、例えば2時間〜100時間、または5時間〜50時間であることができる。
ジャスト面16に対する凹形状の成長面の傾き最大角θは、好ましくは0<θ≦8°の範囲内にあり、より好ましくは1≦θ≦8°の範囲内にあり、さらに好ましくは2≦θ≦8°の範囲内にあり、さらにより好ましくは4≦θ≦8°の範囲内にある。凹形状の結晶成長面の傾き最大角θが上記範囲内にあることによって、ステップバンチング及びインクルージョンの発生を抑制しやすくなる。
傾き最大角θは、任意の方法で測定され得る。例えば、図2に示すように、ジャスト面16を有する種結晶基板14を用いて、凹形状の結晶成長面20を有するSiC単結晶を成長させた場合、種結晶基板14のジャスト面16に対する凹形状の結晶成長面20の最外周部の接線の傾きを最大角θとして測定することができる。
本開示の方法は溶液法を用いる。溶液法とは、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸の下端面に保持したSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法である。Si−C溶液の内部から溶液の液面(表面)に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板から、SiC単結晶を成長させることができる。
本開示の方法に用いられ得る種結晶基板として、例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を用いることができる。種結晶基板は、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶であることができる。種結晶基板の全体形状は、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
種結晶保持軸12に種結晶基板14を保持させることは、接着剤等を用いて種結晶基板14の上面を種結晶保持軸12の下端面に接着させることによって行うことができる。
インクルージョン有無の検査方法としては、特に限定されないが、図3(a)に示すように成長結晶40を成長方向に対して平行にスライスして、図3(b)に示すような成長結晶42を切り出し、成長結晶42の全面が連続した結晶であるかどうかを透過画像から観察してインクルージョンの有無を検査することができる。成長結晶40を実質的に同心円状に成長させた場合、切り出した成長結晶42の中央部にて、さらに半分に切断して、半分に切断した成長結晶42について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。また、成長結晶を成長方向に対して垂直にスライスして、切り出した成長結晶について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。あるいは、上記のように成長結晶を切り出して、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や波長分散型X線分析法(WDX)等により、切り出した成長結晶内のSi−C溶液成分について定性分析または定量分析を行って、インクルージョンを検出することもできる。
透過画像観察によれば、インクルージョンが存在する部分は可視光が透過しないため、可視光が透過しない部分をインクルージョンとして検出することができる。EDXやWDX等による元素分析法によれば、例えばSi−C溶液としてSi/Cr系溶媒、Si/Cr/Ni系溶媒等を用いる場合、成長結晶内にCrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分が存在するか分析し、CrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分を、インクルージョンとして検出することができる。
ステップバンチング有無の検査方法としては、光学顕微鏡を用いて成長結晶の成長面を外観観察して、バンチングの有無を確認することができる。
SiC単結晶の成長面は、(0001)面(Si面ともいう)または(000−1)面(C面ともいう)であることができる。
本開示の方法により得られるSiC成長単結晶の直径は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、さらに好ましくは45mm以上、さらにより好ましくは50mm以上である。本開示の方法によれば、上記直径の範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
本開示の方法により得られるSiC成長単結晶の成長厚みは、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上、さらにより好ましくは4mm以上、さらにより好ましくは5mm以上である。本開示の方法によれば、上記厚みの範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
なお、上記厚み及び/または直径を超える厚み及び/または直径を有するSiC単結晶を成長させてもよく、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域においてもインクルージョンを含まないことがさらに好ましい。ただし、本開示は、上記厚み及び/または直径を有する領域の全体にてインクルージョンを含まないSiC単結晶が得られれば、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域にインクルージョンを含むSiC単結晶を排除するものではない。したがって、凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは、例えば結晶成長面20内の所望の直径が得られる位置におけるジャスト面16に対する角度として測定してもよい。
本願において、Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。
Si−C溶液はSi/Cr/X(XはSi及びCr以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするSi−C溶液が好ましい。さらに、原子組成百分率でSi:Cr:X=30〜80:20〜60:0〜10の融液を溶媒とするSi−C溶液が、Cの溶解量の変動が少なく好ましい。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
Si−C溶液は、その液面(表面)温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃が好ましい。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図4に、本開示の方法を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも液面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の液面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば溶液の液面からの深さがおよそ1cmまでの範囲で10〜50℃/cmにすることができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の液面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
いくつかの態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
(実施例1)
直径12mm及び厚み0.7mmの円盤状の4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図4に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液24を収容する黒鉛坩堝に、Si/Crを原子組成百分率で60:40の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をヘリウムで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr合金の融液を形成した。そしてSi/Cr合金の融液に黒鉛坩堝10から十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の液面における温度を2000℃まで昇温させ、並びに溶液の液面から3mmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配が20℃/cmとなるように高周波コイル22の出力を調節した。
黒鉛軸に接着した種結晶基板の(000−1)面である下面をSi−C溶液面に平行に保ちながら、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行った。シードタッチの直後に、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも2.0mm上方に位置するように、鉛直方向上方に黒鉛軸を引き上げてメニスカスを形成した。2.0mm引き上げた位置でメニスカスを形成しながら30分間保持してSiC結晶を成長させた。
次いで、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも1.5mm上方に位置するように、黒鉛軸に保持した種結晶基板を鉛直方向下方に移動させた。この位置でさらにメニスカスを形成しながら9.5時間保持してSiC結晶を成長させた。
結晶成長後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板から成長させたSiC結晶を、Si−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。
得られた成長結晶の成長面の外観を観察した。また、図3に示すように、成長させたSiC単結晶を種結晶基板とともに、成長方向に平行方向に成長面の中心部分が含まれるように1mm厚に切り出し、さらに中央部にて半分に切断し、鏡面研磨を行い、切り出した成長結晶の断面について、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
得られた成長結晶の成長面の外観写真を図5に、成長結晶の断面の透過顕微鏡写真を図6に示す。得られたSiC結晶は単結晶であり、凹形状の成長面を有しており、ステップバンチング及びインクルージョンを含んでいなかった。
(比較例1)
シードタッチの直後に、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも1.5mm上方に位置するように、鉛直方向上方に黒鉛軸を引き上げ、1.5mm引き上げた位置でメニスカスを形成しながら10時間保持してSiC結晶を成長させ、成長結晶を回収したこと以外は、実施例1と同じ条件でSiC結晶を成長させて、成長面及び断面の観察を行った。すなわち、成長途中でメニスカスの高さを変更せずにSiC結晶の成長を行った。
得られた成長結晶の成長面の外観写真を図7に、成長結晶の断面の透過顕微鏡写真を図8に示す。得られたSiC結晶は単結晶であり、凹形状の成長面を有しており、成長面は良好なモルフォロジーを有しておりステップバンチングはみられなかったが、図8に示すように、断面観察から、成長初期にインクルージョンが混入していることが分かった。
(参考例1)
比較例1で成長させたSiC結晶にインクルージョンが発生した原因を調査するために、結晶成長の保持時間を30分にしてSiC結晶を成長させたこと以外は、比較例1と同じ条件でSiC結晶を成長させて、成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶の成長面の外観写真を図9に示す。得られた成長結晶は凸形状の成長面を有しており、成長面にステップバンチングが発生していた。これにより、比較例1で成長させたSiC結晶においては、成長初期には成長面が凸形状でありインクルージョンが発生しており、その後の成長中に成長面が凹形状に変化し、成長面の平坦性が回復したということが分かった。
(参考例2)
メニスカス高さを2.0mmにしてSiC結晶を成長させたこと以外は、参考例1と同じ条件でSiC結晶を成長させて、成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶は凹形状の成長面を有しており、成長面にバンチングが発生しておらず、成長結晶にインクルージョンは含まれていなかった。
(参考例3)
結晶成長の保持時間を10時間にしてSiC結晶を成長させたこと以外は、参考例2と同じ条件でSiC結晶を成長させて、成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶の成長面の外観写真を図10に示す。得られた成長結晶は凹形状の成長面を有しており、インクルージョンを含んでいなかったが、成長面にバンチングが発生していた。
100 単結晶製造装置
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
15 メニスカスの高さ
16 種結晶基板のジャスト面
18 断熱材
20 成長面
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
34 メニスカス
40 SiC成長結晶
42 切り出した成長結晶

Claims (1)

  1. 内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持した種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
    前記結晶成長の開始時から、前記種結晶基板と前記Si−C溶液との間に第1の高さを有するメニスカスを形成して、前記第1の高さを有するメニスカスを10分間〜60分間保持して凹形状の成長面を有するSiC単結晶を成長させること、及び
    前記第1の高さよりも小さい第2の高さを有するメニスカスを形成して、前記第2の高さを有するメニスカスを2時間〜100時間保持して、前記凹形状の成長面を有するSiC単結晶から、さらにSiC単結晶を成長させること
    を含
    結晶成長ジャスト面に対する前記凹形状の成長面の傾き最大角θが、0<θ≦8°である、
    SiC単結晶の製造方法。
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