本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
本開示は、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、メルトバックして形成された凹形状の結晶成長用の面を有する種結晶基板を用意すること、及び前記凹形状の結晶成長用の面から、SiC単結晶を成長させることを含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の製造方法によれば、結晶成長の初期段階からインクルージョンを発生させずにSiC単結晶を成長させることができる。
インクルージョンとは、SiC単結晶成長に使用するSi−C溶液の、成長結晶中の巻き込みである。成長結晶にインクルージョンが発生する場合、インクルージョンとして、例えば、Si−C溶液として用いる溶媒中に含まれ得るCrやNi等の溶媒成分を検出することができる。
本開示の方法においては、図2に示すような、メルトバックして形成された凹形状の結晶成長用の面を有する種結晶基板を用意し、次いで、種結晶基板の凹形状の結晶成長用の面から、SiC単結晶を成長させる。以下、結晶成長用の面を、成長面ともいう。
種結晶基板の凹形状の成長面とは、種結晶基板の成長面のジャスト面に対して、中央部の一部がほぼ平行であり、成長面の外周部ほど傾きが大きくなる凹形状の面をいう。図3に、破線部で表すジャスト面16を中央部に含む凹形状の成長面20を有する種結晶基板14の断面模式図を示す。ジャスト面とは、例えば、種結晶基板の成長面がフラットであり(0001)面または(000−1)面である場合、成長面の(0001)面または(000−1)面からのずれ角度が実質的にゼロである面をいう。
凹形状の成長面が得られているかどうかの判断は、種結晶基板の中央部と外周部の厚みを測定して行うことができる。ジャスト面16を有するフラットな面を有する種結晶基板をメルトバックして凹形状の成長面を形成するので、種結晶基板の中央部と外周部の厚みの大小関係を測定して、凹形状の成長面が得られているかどうかを判断することができる。
種結晶基板のジャスト面16に対する凹形状の成長面の傾き最大角θは、好ましくは0<θ≦8°の範囲内にあり、より好ましくは1≦θ≦8°の範囲内にあり、さらに好ましくは2≦θ≦8°の範囲内にあり、さらにより好ましくは4≦θ≦8°の範囲内にある。凹形状の成長面の傾き最大角θが上記範囲内にあることによって、インクルージョンの発生をより抑制しやすくなる。
ジャスト面を有する種結晶基板をメルトバックして、凹形状の成長面20を形成するので、傾き最大角θは、図3に示すように、種結晶基板14のジャスト面16に対する凹形状の成長面20の最外周部の接線の傾きを最大角θとして測定することができる。
メルトバックして形成された凹形状の結晶成長用の面を有する種結晶基板を外部から入手して使用してもよく、結晶成長を行う前に、同じSiC単結晶製造装置を用いて、メルトバックにより、凹形状の結晶成長用の面を有する種結晶基板を作製してもよい。
メルトバックして形成された凹形状の成長面を有する種結晶基板を外部から入手して使用する場合、凹形状の成長面が、Si−C溶液の液面に接触する下面となるように、種結晶保持軸の下端面に保持させて、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させることができる。
同じSiC単結晶製造装置を用いて、メルトバックにより、凹形状の結晶成長用の面を有する種結晶基板を作製する場合は、本開示の方法を以下のように行うことができる。種結晶保持軸に保持した種結晶基板の成長面をSi−C溶液に接触させて成長面をメルトバックして凹形状の成長面を形成した後、種結晶基板の凹形状の成長面をSi−C溶液に接触させたまま、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させてもよい。別法では、種結晶保持軸に保持した種結晶基板の成長面をSi−C溶液に接触させて成長面をメルトバックして凹形状の成長面を形成した後、一旦、種結晶基板とSi−C溶液を切り離し、再度、種結晶基板の凹形状の成長面をSi−C溶液に接触させて、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させてもよい。さらに別法では、種結晶基板の成長面をSi−C溶液に接触させて成長面をメルトバックして凹形状の成長面を形成した後、凹形状の成長面を有する種結晶基板を種結晶保持軸に保持させて、種結晶保持軸に保持した種結晶基板の凹形状の成長面をSi−C溶液に接触させて、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させてもよい。
メルトバックは、凹形状の成長面を得るように、種結晶基板のジャスト面である成長面の表面層をSi−C溶液中に溶解させて行うことができる。
メルトバックは、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら、Si−C溶液を昇温する方法、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら、坩堝の周囲に配置された高周波コイルに対する坩堝の鉛直方向の相対位置を下げて保持する方法、または種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら、Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、結晶成長を行うときとは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成する方法により行うことができる。
Si−C溶液を昇温する方法については、Si−C溶液を昇温することにより、種結晶基板の成長面直下のSi−C溶液の飽和度が低下するので、メルトバックを行うことができる。
坩堝の周囲に配置された高周波コイルに対する坩堝の鉛直方向の相対位置を下げて保持する方法については、坩堝の周囲に配置された高周波コイルの中心位置に対して坩堝中のSi−C溶液の液面の鉛直方向の相対位置を下げるほど、種結晶基板の成長面直下のSi−C溶液において、Si−C溶液の内部(深部)から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配が小さくなり、さらには温度勾配がゼロになるか、または溶液内部(深部)の温度が低く溶液の液面の温度が高い温度勾配が形成され得る。高周波コイルの中心位置とは、鉛直方向における高周波コイルの上端高さと下端高さの中間位置である。Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配は、結晶成長の駆動力となるため、この温度勾配が小さくなるか、ゼロになるか、または反対の温度勾配が形成されることにより、結晶成長よりもSi−C溶液中への種結晶基板の表面層の溶け出しが優勢となり、メルトバックを行うことができる。
結晶成長を行うときとは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成する方法については、結晶成長を行うときとは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより、種結晶基板の成長面直下のSi−C溶液の飽和度が低下するので、メルトバックを行うことができる。上記逆方向の温度勾配は、高周波コイルの出力を制御することによって、形成することができる。
種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成することにより、種結晶基板の成長面直下の外周部よりも中央部のSi−C溶液の温度が高くなる水平方向の温度分布を形成することができる。
種結晶基板の成長面の外周部に形成されるメニスカス部分は輻射抜熱により温度が低下しやすいので、成長面の界面直下の外周部よりも中央部のSi−C溶液の温度が高くなる水平方向の温度勾配が形成され、外周部よりも温度が高い中央部においてメルトバックが進み、種結晶基板に凹形状の成長面を形成することができる。
メニスカスとは、図4に示すように、表面張力によって種結晶基板14に濡れ上がったSi−C溶液24の液面(表面)に形成される凹状の曲面34をいう。種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、種結晶基板の下面がSi−C溶液の液面よりも高くなる位置に種結晶基板を引き上げて保持することによって、メニスカスを形成することができる。種結晶基板14とSi−C溶液24との間にメニスカスを形成しながら、メルトバックを行うことができる。
本開示の方法において、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させる際も、メニスカスを形成することが好ましい。種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながらSiC単結晶を成長させることによって、凹形状の成長面を維持しながらSiC単結晶を成長させることができ、成長開始時から成長終了までインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
同じSiC単結晶製造装置を用いてメルトバック及び結晶成長を行う場合、メルトバック時及び結晶成長時のメニスカスの高さは同じでも異なっていてもよい。好ましくは、結晶成長前のメルトバックにおいては、種結晶基板とSi−C溶液との間に第1の高さを有するメニスカスを形成して、凹形状の成長面を形成し、次いで、第1の高さよりも小さい第2の高さを有するメニスカスを形成して、凹形状の成長面を有する種結晶基板から、SiC単結晶を成長させる。
図4に示すように、メニスカスの高さ15とは、凹状の曲面34の中央部の鉛直方向の高さ、すなわち、種結晶基板14の成長面となる下面の中央部とSi−C溶液24の液面との間の鉛直方向の高さである。
メルトバックを開始するときのメニスカスの第1の高さを大きくすることにより、種結晶基板の直下のSi−C溶液において水平方向の温度勾配をより大きくすることができ、種結晶基板のフラットな面から凹形状の成長面をより形成しやすくなる。種結晶基板に凹形状の成長面を形成した後、メニスカスの高さを、第1の高さよりも小さい第2の高さに変更することにより、過度な凹面化を抑制しながら凹形状の結晶成長面を有するSiC単結晶を成長させることができる。
第1の高さは、第2の高さよりも大きい範囲で、成長結晶の狙いの口径等に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは1.0〜5.0mm、より好ましくは1.0〜4.0mm、さらに好ましくは1.0〜3.0mmである。メルトバックの開始時から上記範囲の第1の高さを有するメニスカスを形成することによって、種結晶基板に凹形状の成長面をより安定して形成することができる。
第2の高さは、第1の高さよりも小さい範囲で、成長結晶の狙いの口径等に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは0.3〜0.9mm、より好ましくは0.4〜0.9mm、さらに好ましくは0.5〜0.9mmである。上記範囲の第2の高さを有するメニスカスを形成することによって、第1の高さを有するメニスカスを形成して得られた凹形状の成長面を有する種結晶基板から、凹形状の結晶成長面を有するSiC単結晶をより安定して成長させることができる。
種結晶基板に凹形状の成長面が得られるタイミングが事前に分かっていれば、所定時間経過後に、結晶成長を開始してもよい。例えば、シードタッチ直後から40分間メルトバックを行い、次いで、結晶成長させることができる。メルトバックさせる時間は、例えば10分〜60分または20分〜40分であることができる。
凹形状の結晶成長用の面からSiC単結晶を成長させる時間は、所望の結晶成長厚みに応じて決定すればよく、例えば2時間〜100時間、または5時間〜50時間であることができる。
本開示の方法は溶液法を用いる。溶液法とは、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸の下端面に保持したSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法である。Si−C溶液の内部から溶液の液面(表面)に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板から、SiC単結晶を成長させることができる。
本開示の方法に用いられ得る種結晶基板として、例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を用いることができる。種結晶基板は、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶であることができる。種結晶基板の全体形状は、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
種結晶保持軸12に種結晶基板14を保持させることは、接着剤等を用いて種結晶基板14の上面を種結晶保持軸12の下端面に接着させることによって行うことができる。
インクルージョン有無の検査方法としては、特に限定されないが、図5(a)に示すように成長結晶40を成長方向に対して平行にスライスして、図5(b)に示すような成長結晶42を切り出し、成長結晶42の全面が連続した結晶であるかどうかを透過画像から観察してインクルージョンの有無を検査することができる。成長結晶40を実質的に同心円状に成長させた場合、切り出した成長結晶42の中央部にて、さらに半分に切断して、半分に切断した成長結晶42について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。また、成長結晶を成長方向に対して垂直にスライスして、切り出した成長結晶について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。あるいは、上記のように成長結晶を切り出して、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や波長分散型X線分析法(WDX)等により、切り出した成長結晶内のSi−C溶液成分について定性分析または定量分析を行って、インクルージョンを検出することもできる。
透過画像観察によれば、インクルージョンが存在する部分は可視光が透過しないため、可視光が透過しない部分をインクルージョンとして検出することができる。EDXやWDX等による元素分析法によれば、例えばSi−C溶液としてSi/Cr系溶媒、Si/Cr/Ni系溶媒等を用いる場合、成長結晶内にCrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分が存在するか分析し、CrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分を、インクルージョンとして検出することができる。
SiC単結晶の成長面は、(0001)面(Si面ともいう)または(000−1)面(C面ともいう)であることができ、好ましくは(000−1)面である。
本開示の方法により得られるSiC成長単結晶の直径は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、さらに好ましくは45mm以上、さらにより好ましくは50mm以上である。本開示の方法によれば、上記直径の範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
本開示の方法により得られるSiC成長単結晶の成長厚みは、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上、さらにより好ましくは4mm以上、さらにより好ましくは5mm以上である。本開示の方法によれば、上記厚みの範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
成長結晶についても凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは、種結晶基板の凹形状の成長面についての傾き最大角θの範囲と同じ範囲であることが好ましい。
なお、上記厚み及び/または直径を超える厚み及び/または直径を有するSiC単結晶を成長させてもよく、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域においてもインクルージョンを含まないことがさらに好ましい。ただし、本開示は、上記厚み及び/または直径を有する領域の全体にてインクルージョンを含まないSiC単結晶が得られれば、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域にインクルージョンを含むSiC単結晶を排除するものではない。
本願において、Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。
Si−C溶液はSi/Cr/X(XはSi及びCr以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするSi−C溶液が好ましい。さらに、原子組成百分率でSi:Cr:X=30〜80:20〜60:0〜10の融液を溶媒とするSi−C溶液が、Cの溶解量の変動が少なく好ましい。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
Si−C溶液は、その液面(表面)温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃が好ましい。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図6に、本開示の方法を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも液面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の液面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば溶液の液面からの深さがおよそ1cmまでの範囲で10〜50℃/cmにすることができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の液面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
(実施例1)
直径50.8mm及び厚み0.7mmの円盤状の4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面(ジャスト面)を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図6に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液24を収容する黒鉛坩堝に、Si/Cr/Niを原子組成百分率で55:40:5の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をヘリウムで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22の鉛直方向の中心位置を基準としてSi−C溶液24の液面位置が前記中心位置よりも鉛直方向に14mm上方に位置するように黒鉛坩堝10を配置し、高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr/Ni合金の融液を形成した。そしてSi/Cr/Ni合金の融液に黒鉛坩堝10から十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の液面における温度を1844℃まで昇温させ、並びに溶液の液面から1cmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配が29℃/cmとなるように高周波コイル22の出力を調節した。
黒鉛軸に接着した種結晶基板の(000−1)面である下面をSi−C溶液面に平行に保ちながら、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行った。シードタッチの直後に、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも1.1mm上方に位置するように、鉛直方向上方に黒鉛軸を引き上げてメニスカスを形成し、1.1mm引き上げた位置でメニスカスを形成しながら、高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の液面における温度を1975℃まで40分間で昇温させて、メルトバックを行い、種結晶基板に凹形状の成長面を形成した。
次いで、種結晶基板の下面の中央部の位置がSi−C溶液の液面よりも0.5mm上方に位置するように、黒鉛軸に保持した種結晶基板を鉛直方向下方に移動させた。この位置でメニスカスを形成しながら、Si−C溶液24の液面における温度を1975℃、Si−C溶液の液面から1cmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を29℃/cmとして、11時間20分保持してSiC結晶を成長させた。
結晶成長後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板から成長させたSiC結晶を、Si−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。
図5に示すように、成長させたSiC単結晶を種結晶基板とともに、成長方向に平行方向に、成長結晶の結晶成長面の中心部分が含まれるように1mm厚に切り出し、さらに中央部にて半分に切断し、鏡面研磨を行い、切り出した成長結晶の断面について、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
得られた成長結晶はSiC単結晶であり、凹形状の結晶成長面を有しており、インクルージョンを含んでおらず、2.45mmの成長厚みを有していた。成長厚みは、凹形状の結晶成長面の中央部における厚みである(以下、同様である)。
凹形状の成長面が得られた種結晶基板の断面の透過顕微鏡写真を図7に、種結晶基板の成長面の中心部から外周部に向かう距離に応じたメルトバック厚のグラフを図8に示す。
図8のグラフは、凹形状の成長面が得られた種結晶基板と用意した種結晶基板の厚みとの差から得たグラフである。中心部では70μmのメルトバック厚が得られ、外周部ではメルトバック厚が0μmであり、凹形状の成長面が得られていることが分かる。
(実施例2)
黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22の鉛直方向の中心位置を基準として、Si−C溶液24の液面位置が前記中心位置よりも鉛直方向に3mm上方に位置するように黒鉛坩堝10を配置し、Si−C溶液24の液面における温度を1929℃に昇温し、Si−C溶液の液面から1cmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を6℃/cmとして、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行い、シードタッチの直後に、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも0.5mm上方に位置するように、鉛直方向上方に黒鉛軸を引き上げてメニスカスを形成し、0.5mm引き上げた位置でメニスカスを形成しながら40分間保持してメルトバックを行い、種結晶基板に凹形状の成長面を形成した。
次いで、0.5mm引き上げた位置でメニスカスを形成しながら、黒鉛坩堝10の位置を11mm上方に移動させてSi−C溶液24の液面位置を前記中心位置よりも鉛直方向に14mm上方に配置し、Si−C溶液24の液面における温度を1929℃、Si−C溶液の液面から1cmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を29℃/cmとして、11時間20分保持してSiC結晶を成長させた。
上記以外は、実施例1と同じ条件でメルトバック及びSiC結晶を成長させて、結晶成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶はSiC単結晶であり、凹形状の結晶成長面を有しており、成長結晶にインクルージョンは含まれておらず、2.09mmの成長厚みを有していた。
(実施例3)
直径50.8mm及び厚み3.4mmの円盤状の4H−SiC単結晶を用い、メルトバック時のSi−C溶液の表面温度を1844℃から1971℃に昇温させたこと以外は実施例1と同様の条件で種結晶基板のメルトバックを行い、凹形状の成長面を有する種結晶基板を得た後、一旦、黒鉛軸から種結晶基板を取り外し、その後、凹形状の成長面を有する種結晶基板を黒鉛軸に保持させて、Si−C溶液の表面温度を1971℃にして12時間保持して結晶成長させたこと以外は実施例1と同様の条件で、凹形状の成長面からSiC単結晶を成長させて、結晶成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶の断面の透過顕微鏡写真を図9に示す。破線で囲んだ部分が種結晶基板であり、種結晶基板の凹形状の成長面から結晶成長していることが分かる。得られた成長結晶はSiC単結晶であり、凹形状の結晶成長面を有しており、成長結晶にインクルージョンは含まれておらず、1.91mmの成長厚みを有していた。
凹形状の成長面を有する種結晶基板の中心部からの外周部に向かう距離に応じた厚みを、図10に示す。中心部の厚みが最も小さく、中心部から外周部に向かって厚みが大きくなっており、凹形状の成長面が形成されていることが分かる。
(比較例1)
Si−C溶液24の液面における温度を1971℃にし、Si−C溶液の液面から1cmの範囲で溶液内部から溶液の液面に向けて温度低下する温度勾配を29℃/cmにして、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行い、シードタッチの直後に、種結晶基板の下面の位置がSi−C溶液の液面よりも0.5mm上方に位置するように、鉛直方向上方に黒鉛軸を引き上げてメニスカスを形成し、0.5mm引き上げた位置で20分間保持して、SiC単結晶を成長させた。
メルトバックを行わずに、上記の条件でSiC単結晶を成長させたこと以外は、実施例1と同じ条件でSiC結晶を成長させて、結晶成長面及び断面の観察を行った。
得られた成長結晶の結晶成長面全体の外観写真を図11に、結晶成長面の拡大顕微鏡写真を図12に示す。結晶成長面の中央部からの距離に応じた成長厚み分布のグラフを図13に示す。
得られた成長結晶は、外周部の一部において凹形状の結晶成長面を有していたが、それ以外の中央部を含む部分ではインクルージョンが発生していた。