JP2019094228A - SiC単結晶の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】多結晶の混入を抑制してSiC単結晶を成長させることができる溶液法によるSiC単結晶の製造方法を提供する。【解決手段】内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、前記Si−C溶液が、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含み、前記Mo及びWが合計で、前記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、0.5〜10.0at%含まれるSi−C溶液を用いることを含む、SiC単結晶の製造方法。【選択図】図11
Description
本開示は、SiC単結晶の製造方法に関する。
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有する。そのため、Si単結晶やGaAs単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高出力、高周波、耐電圧、耐環境性等を実現することが可能であり、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス材料、高速大容量情報通信用デバイス材料、車載用高温デバイス材料、耐放射線デバイス材料等、といった広い範囲における、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
SiC単結晶の成長法としては、代表的には気相法、アチソン(Acheson)法、及び溶液法が知られている。気相法のうち、例えば昇華法では、成長させた単結晶にマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥等の格子欠陥及びポリタイプが生じやすいという欠点を有するが、結晶の成長速度が大きいため、従来、SiCバルク単結晶の多くは昇華法により製造されており、成長結晶の欠陥を低減する試みも行われている。アチソン法では原料として珪石とコークスを使用し電気炉中で加熱するため、原料中の不純物等により結晶性の高い単結晶を得ることは不可能である。
溶液法は、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi以外の金属を融解したSi合金融液を形成し、その融液中にCを溶解させSi−C溶液を形成し、Si−C溶液の低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させて成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ熱平衡に近い状態での結晶成長が行われるため、昇華法よりも低欠陥化が期待できる。このため、最近では、溶液法によるSiC単結晶の製造方法がいくつか提案されている(特許文献1)。
特許文献1には、マクロ欠陥の低減を目的として、Si、Cr、及びCeを黒鉛坩堝内で融解した溶液を用いて結晶成長を行うSiC単結晶の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1等の従来技術では、依然として、成長結晶に多結晶が付着して高品質なSiC単結晶が得られないことがあった。したがって、多結晶の混入を抑制してSiC単結晶を成長させることができるSiC単結晶の製造方法が求められている。
本開示は、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
前記Si−C溶液が、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含み、
前記Mo及びWが合計で、前記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、0.5〜10.0at%含まれるSi−C溶液を用いることを含む、
SiC単結晶の製造方法を対象とする。
前記Si−C溶液が、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含み、
前記Mo及びWが合計で、前記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、0.5〜10.0at%含まれるSi−C溶液を用いることを含む、
SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法によれば、多結晶の混入を抑制してSiC単結晶を成長させることができる。
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
溶液法を用いたSiC単結晶の成長において、高速成長で高品質なSiC単結晶を得る方法の1つとして、Si−C溶液中のカーボン溶解量(C溶解量)を増加させる手法がある。Si−C溶液にCeを添加することによって、Si−C溶液中のC溶解量を顕著に増加させることが知られている。
しかしながら、従来、成長結晶に多結晶が付着する問題があり、本発明者は鋭意研究したところ、CeはSiに対して融点が低く、Siが溶融する前にCeが融解し黒鉛坩堝と反応して、炭化セリウム(CeC2、Ce2C3等)が発生し、この炭化セリウムが溶媒中に溶けきらずに、成長結晶に多結晶が付着し得ることが分かった。
図1及び2に、炭化セリウムの発生メカニズムを表す。図1は、溶媒温度に対するSi、Cr、及びCeの溶解割合を模式的に表したグラフであり、図2は、黒鉛坩堝中におけるCeの溶融状態を表した模式図である。Siの融点は1414℃であり、Si−C溶液に添加され得るCrの融点は1907℃であるのに対して、Ceの融点は795℃であり、Ceが先に溶融して黒鉛坩堝と反応して炭化セリウムが発生する。
本発明者はさらに、炭化セリウムの発生を抑えるために、Ceと同等のC溶解量を有し且つCeよりも融点が高いMo及びWのうち少なくとも一種を含むSi−C溶液を用いて、SiC単結晶を成長させることを見出した。
図3に、溶媒温度に対するSi、Cr、及びMoの溶解割合を模式的に表したグラフを示す。Moは、Si及びCrよりも融点が高いため炭化物の発生を抑制することができる。Moと同じ周期表第6族元素であるWも融点が高く、同様に炭化物の発生を抑制することができる。Moの融点は2623℃であり、Wの融点は3422℃である。
図4に、Mo−C二元系状態図を示す。Moは、SiC単結晶の成長温度である2273K(2000℃)付近でC溶解量が多い。図5に、Si/Cr溶媒に対する、Ce添加溶媒及びMo添加溶媒のC溶解量(at%)を比較したグラフを示す。図5では、Si:Cr=60:40(at%)の溶媒に対する、Si:Cr:Ce=54:40:6(at%)の溶媒及びSi:Cr:Mo=50:40:10(at%)の溶媒の、C溶解量(at%)を比較する。10at%のMoを含む溶媒は、6at%のCeを含む溶媒と同等のC溶解量を示す。Moと同じ周期表第6族元素であるWも、Moと同等のC溶解量を示す。
このように、Mo及びWは、Ceと同等のC溶解量を有し且つCeよりも融点が高いため、多結晶の混入を抑制しつつSiC単結晶を成長させることが可能となる。多結晶の混入を抑制することにより、成長結晶中のマクロ欠陥も低減することができる。また、マクロ欠陥が発生しにくくなるので、従来よりも高速成長が可能となる。
本開示は、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、前記Si−C溶液として、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含み、前記Mo及びWが合計で、前記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、0.5〜10.0at%含まれるSi−C溶液を用いること、を含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法においては溶液法が用いられる。溶液法とは、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、SiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法である。Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板を基点として、SiC単結晶を成長させることができる。
本開示の方法において、Si−C溶液を構成する溶媒とはCを溶解させるための融液であり、具体的には、SiとCrとMo及びWのうち少なくとも一種との融液、またはSiとCrとMo及びWのうち少なくとも一種とX(Xは、Si、Cr、Mo、及びW以外の一種以上の金属)との融液である。Si−C溶液とは、上記溶媒としての融液にCが溶解した溶液である。
本開示の方法においては、上記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、Mo及びWは合計で0.5〜10.0at%含まれる。
Si−C溶液に、Mo及びWは合計で、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは1.0at%以上、より好ましくは2.0at%以上、さらに好ましくは3.0at%以上、さらにより好ましくは4.0at%以上、さらにより好ましくは5.0at%以上、さらにより好ましくは6.0at%以上含まれる。
上記範囲の量でMo及びWのうち少なくとも一種をSi−C溶液に含有させることにより、多結晶の混入を抑制しつつSiC単結晶を成長させることが可能となる。
Si−C溶液中に含まれるCr量は、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは30.0〜70.0at%である。Si−C溶液中に含まれるSi量は、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは29.5〜69.5at%である。
Cr及びSiの量を上記範囲とすることにより、多結晶の混入を抑制したSiC単結晶をより安定して成長させることができる。
Si−C溶液は、Si、Cr、Mo、及びWに加えて、他の金属を含むことができるが、好ましくはCeの含有量は、Si−C溶液を構成する溶媒の全体量を基準として、5at%以下、より好ましくはCeを実質的に含まない。他の金属としては、Ceを除いて、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されず、例えば、Ti、Mn、Ni、Co、V、Fe、Al等を含んでもよい。
Si−C溶液を構成する溶媒が、SiとCrとMo及びWのうち少なくとも一種とからなる融液で構成される場合、溶媒の組成は原子組成百分率で、Si:Cr:Mo及びW=29.5〜69.5:30.0〜70.0:0.5〜10.0であることが好ましい。
Si−C溶液を構成する溶媒が、SiとCrとMo及びWのうち少なくとも一種とX(Xは、Si、Cr、Mo、及びW以外の一種以上の金属)とからなる融液で構成される場合、溶媒の組成は原子組成百分率で、Si:Cr:Mo及びW:X=29.5〜69.5:20.0〜60.0:0.5〜10.0:0〜10であることが好ましい。
溶媒が上記組成を有することにより、Si−C溶液中のCの溶解量の変動を少なくすることができる。
本開示の方法によれば、多結晶を取り込まずにSiC単結晶を成長させることができる。SiC成長結晶中の多結晶有無の判断は、成長結晶の成長面及び側面を肉眼または光学顕微鏡を用いて観察することによって行うことができる。
Si−C溶液中のC溶解量の測定方法は特に限定されないが、好ましくは、鉛直方向に移動可能であり且つTa製、Mo製またはW製の、Si−C溶液サンプリング部材を用いて、Si−C溶液中のC溶解量を測定することができる。
サンプリング部材は、高温のSi−C溶液をサンプリングすることができる部材である。Ta、Mo及びWは、Si−C溶液のSi、Cr、C等との反応による溶融が生じにくく、且つSi−C溶液との濡れ性がよく、Si−C溶液を良好にサンプリングできる。Taは融点が3020℃、Moの融点は2623℃、Wの融点は3422℃であり、融点が高く、Si−C溶液との反応性が低い。サンプリング部材は、好ましくはTa製である。Taは、Si−C溶液にさらに融解しにくく、より高温のSi−C溶液のサンプリングにも用いることができる。
サンプリング部材の形状は、Si−C溶液をサンプリングすることができ、且つ結晶成長中のSi−C溶液に着液したときにSi−C溶液の液面を変動させずに、安定してSiC単結晶成長を続けることができるものである限り、特に限定されるものではないが、好ましくは細長い棒形状を有し、さらに好ましくは筒形状または巻回形状を有し、さらにより好ましくは巻回形状を有する。
サンプリング部材が筒形状または巻回形状を有する場合、毛細管現象(表面張力)を利用してSi−C溶液をより良好にサンプリングすることができる。特にサンプリング部材が巻回形状を有する場合、表面積を大きくすることができるので毛細管現象により吸い上げるSi−C溶液の量をさらに多くすることができる。
図6に、棒形状を有するサンプリング部材の外観模式図を示す。サンプリング部材が細長い棒形状を有する場合、長さは好ましくは15〜100mm、より好ましくは30〜70mmであり、サンプリング部材の直径は好ましくは0.5〜5.0mm、より好ましくは1.5〜4.0mmである。
図7に、サンプリング部材が筒形状を有する場合の、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面模式図を示す。図8に、サンプリング部材が巻回形状を有する場合の、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面模式図を示す。サンプリング部材が巻回形状を有する場合、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面は、渦巻き形状を有する。
サンプリング部材が巻回形状を有する場合、巻回数は好ましくは1.5回以上、より好ましくは2.0回以上である。
筒形状または巻回形状を有するサンプリング部材は、例えば、厚みが0.05〜0.2mm程度の金属板を巻いて作製され得る。
図9に示すように、サンプリング部材17は、鉛直方向に移動可能なサンプリング部材保持軸16の先端に配置され、SiC単結晶製造装置100に備えることができる。サンプリング部材17は、鉛直方向に移動可能であり、さらに水平方向等、その他の所望の方向にも移動可能であってもよい。サンプリング部材保持軸16は、黒鉛の軸であることができる。サンプリング部材保持軸16は、駆動機構及び電流計に接続されており、鉛直方向に任意に移動することができる。
サンプリング後に、サンプリング部材とサンプリング部材に付着固化したSi−C溶液を、そのままの状態で燃焼−赤外線吸収法によるCS計に入れて、C溶解量を分析することができる。
本開示の方法に用いられ得る種結晶基板として、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。例えば、昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、種結晶基板は。板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、上述のように、種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。種結晶基板の種結晶保持軸への保持には、カーボン接着剤を用いることができる。
種結晶基板のSi−C溶液への接触は、種結晶基板を保持した種結晶保持軸をSi−C溶液面に向かって降下させ、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して並行にしてSi−C溶液に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液面に対して種結晶基板を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
種結晶基板の保持位置は、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよいが、図10に示すように、種結晶基板14の下面にのみSi−C溶液24を濡らしてメニスカス34を形成するように、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に対して上方に位置することが好ましい。メニスカスを形成する場合、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に対して1〜3mm上方の位置に保持することが好ましい。種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶基板をSi−C溶液に接触させて種結晶基板の下面にSi−C溶液を接触させてから、所定の位置に引き上げる。
種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にしてもよいが、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。これらの方法において、単結晶の成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
本開示の方法において、Si−C溶液の表面温度の下限は好ましくは1800℃以上であり、上限は好ましくは2200℃であり、この温度範囲でSi−C溶液へのCの溶解量を多くすることができる。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図9に、本発明を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含む融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含む融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば、溶液表面からの深さがおよそ1cmまで、または3cmまでの範囲で、10〜50℃/cmであることができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成されている。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
一実施態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。メルトバックはまた、炭素が飽和しないように昇温中のSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。
一実施態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
(実施例1)
直径が15mm、厚みが700μmの円盤状4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して、種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
直径が15mm、厚みが700μmの円盤状4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して、種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図9に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液を収容する黒鉛坩堝に、Si、Cr、及びMoを、Si:Cr:Mo=50:40:10(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだ。
単結晶製造装置の内部を1×10-3Paに真空引きした後、1気圧になるまでアルゴンガスを導入して、単結晶製造装置の内部の空気をアルゴンで置換した。高周波コイルに通電して加熱により黒鉛坩堝内の原料を融解し、Si/Cr/Mo合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝からSi/Cr/Mo合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液を形成した。
上段コイル及び下段コイルの出力を調節して黒鉛坩堝を加熱し、Si−C溶液の表面における温度を2000℃に昇温させ、並びにSi−C溶液の表面から1cmの範囲で溶液内部から溶液表面に向けて温度低下する温度勾配が30℃/cmとなるように制御した。Si−C溶液の表面の温度測定は放射温度計により行い、Si−C溶液の温度勾配の測定は、鉛直方向に移動可能な熱電対を用いて行った。
黒鉛軸に接着した種結晶基板の下面をSi−C溶液面に並行にして、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行い、次いで、Si−C溶液が濡れ上がって黒鉛軸に接触しないように、黒鉛軸を1.5mm引き上げ、その位置で7時間保持して、結晶を成長させた。
結晶成長の終了後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板を基点として成長したSiC結晶を、Si−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。同じ条件でSiC単結晶を合計で3つ成長させた。
図11に、成長結晶を成長面から観察した外観写真を示す。得られた成長結晶を成長面から観察したところ、成長結晶には多結晶は含まれておらず、良好なSiC単結晶が得られていた。
(実施例2)
Si−C溶液を形成するためのSi、Cr、及びMoの仕込み組成を、Si:Cr:Mo=55:40:5(at%)にしたこと以外は、実施例1と同じ方法で結晶成長させて、成長結晶を成長面から観察した。成長結晶には多結晶は含まれておらず、良好なSiC単結晶が得られていた。
Si−C溶液を形成するためのSi、Cr、及びMoの仕込み組成を、Si:Cr:Mo=55:40:5(at%)にしたこと以外は、実施例1と同じ方法で結晶成長させて、成長結晶を成長面から観察した。成長結晶には多結晶は含まれておらず、良好なSiC単結晶が得られていた。
(比較例1)
融液原料として、Si、Cr、及びCeをSi:Cr:Ce=54:40:6(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、実施例1と同じ方法で結晶成長させて、成長結晶を成長面から観察した。図12に、成長結晶を成長面から観察した外観写真を示す。丸印を付した箇所に多結晶が発生していた。全ての成長結晶に多結晶が含まれていた。
融液原料として、Si、Cr、及びCeをSi:Cr:Ce=54:40:6(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、実施例1と同じ方法で結晶成長させて、成長結晶を成長面から観察した。図12に、成長結晶を成長面から観察した外観写真を示す。丸印を付した箇所に多結晶が発生していた。全ての成長結晶に多結晶が含まれていた。
表1に、実施例1〜2及び比較例1における溶媒のMo含有量及びCe含有量と成長結晶の多結晶発生割合とを示す。
100 単結晶製造装置
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
16 サンプリング部材保持軸
17 サンプリング部材
18 断熱材
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
34 メニスカス
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
16 サンプリング部材保持軸
17 サンプリング部材
18 断熱材
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
34 メニスカス
Claims (1)
- 内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
前記Si−C溶液が、Siと、Crと、Mo及びWのうち少なくとも一種とを含み、
前記Mo及びWが合計で、前記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、0.5〜10.0at%含まれるSi−C溶液を用いることを含む、
SiC単結晶の製造方法。
Priority Applications (1)
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