本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
溶液法を用いたSiC単結晶の成長において、高速成長で高品質なSiC単結晶を得る方法の1つとして、Si−C溶液中の炭素溶解量(C溶解量)を増加させる手法がある。従来、特許文献1でも使用されているCeをSi−C溶液に添加することによって、Si−C溶液中のC溶解量を顕著に増加させることが知られている。
しかしながら、従来、成長結晶に多結晶が付着する問題があり、本発明者は鋭意研究したところ、CeはSiに対して融点が低く、Siが溶融する前にCeが融解し黒鉛坩堝と反応して、炭化セリウム(CeC2、Ce2C3等)が生成され、この炭化セリウムが溶媒中に溶けきらずに、成長結晶に多結晶が付着し得ることが分かった。
図1及び2に、炭化セリウムの発生メカニズムを表す。図1は、溶媒温度に対するSi及びCeの溶解割合を模式的に表したグラフであり、図2は、黒鉛坩堝中におけるCeの溶融状態を表した模式図である。Siの融点は1414℃であるのに対して、Ceの融点は795℃であり、Ceが先に溶融して黒鉛坩堝と反応して炭化セリウムが発生する。
本発明者はまた、Ce以外の希土類金属をSi−C溶液に添加しても、Si−C溶液中のC溶解量を顕著に増加させることができることを見出した。図3に、希土類金属の例として、Ce、La及びPrのSi/Cr溶媒中に含まれる含有量(at%)に対するC溶解量(at%)のグラフを示す。Pr及びLaは、Ceに対して同等のC含有量を示す。図17にLa−C二元系状態図、図18にCe−C二元系状態図、図19にPr−C二元系状態図を示す。状態図からも分かるように、La、Ce、及びPrは、SiC単結晶の成長温度である2000℃付近でC溶解量が多い。
しかしながら、本発明者はまた、Ce以外の希土類金属もSiに対して融点が低いものが多く、Siが溶融する前に希土類金属が融解し黒鉛坩堝と反応して、希土類の炭化物が生成され、この希土類の炭化物が溶媒中に溶けきらずに、成長結晶に多結晶が付着し得ることも知見した。
図4に、Si、Cr、Ce、Pr及びLaの溶媒温度に対する溶解割合を模式的に表したグラフを示す。Pr及びLaは、Ceよりも融点が高く、Ce溶融からSi溶融までの時間に対して、Pr及びLa溶融からSi溶融までの時間を短くすることができるため、Ceに比べて炭化物の生成量を低減することができる。しかしながら、Prの融点は935℃であり、Laの融点は918℃であり、Pr及びLaはSiより融点が低いため、炭化物の生成を十分に抑えることはできない。
このように、希土類金属は、Ceと同等のC溶解量を有するが、Siよりも融点が低いものが多いため、成長結晶への多結晶の混入を十分に抑制することができない。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を行い、Si−C溶液の溶媒構成元素としてSiの融点よりも低い融点を有する希土類金属を用いても、成長結晶への多結晶の混入を十分に抑制することができるSiC単結晶の製造方法を見出した。
本開示の方法は、黒鉛坩堝内に配置された内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、SiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、前記Si−C溶液が、Siと前記Siの融点よりも低い融点を有する希土類元素とを含む溶媒構成元素を含み、前記希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、及びYbからなる群から選択される少なくとも一種であり、前記希土類元素が合計で、前記溶媒構成元素の合計量を基準として、0.5〜13.7at%含まれ、前記希土類元素が単体で前記黒鉛坩堝に接触しない状態で前記Si及び前記希土類元素を溶融させて前記Si−C溶液の溶媒を形成すること、を含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
本開示の方法によれば、多結晶を取り込まずにSiC単結晶を成長させることができる。多結晶の混入を抑制することにより、成長結晶中のマクロ欠陥も低減することができる。また、マクロ欠陥が発生しにくくなるので、従来よりも高速成長が可能となる。
SiC成長結晶中の多結晶有無の判断は、光学顕微鏡を用いて、成長結晶の成長面及び側面を観察することによって行うことができる。
本開示の方法において、溶媒構成元素とは、Si−C溶液の溶媒を構成する元素、すなわち融液原料である。Si−C溶液を構成する溶媒とは、Cを溶解させるための融液である。Si−C溶液とは、上記溶媒としての融液にCが溶解した溶液である。
本開示の方法においては溶液法が用いられる。溶液法とは、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、SiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法である。Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶基板を基点として、SiC単結晶を成長させることができる。
本開示の方法においては、希土類元素が単体で黒鉛坩堝に接触しない状態でSi及び希土類元素を溶融させてSi−C溶液の溶媒を形成する。これにより、希土類元素単体と黒鉛坩堝とが反応して炭化物が生成することを抑制して、多結晶の混入を抑制してSiC単結晶を成長させることができる。
希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、及びYbからなる群から選択される少なくとも一種である。上記希土類元素をSi−C溶液の溶媒に加えると、Si−C溶液の炭素の溶解量を向上することができ、SiC単結晶の高速成長を可能にする。
La、Ce、及びPrのC溶解量は、それぞれ、La:11.0mol%、Ce:11.4mol%、及びPr:10.0mol%である。これらのC溶解量は、原子組成比率がSi:Cr=50:40(at%)の溶媒中に希土類元素が10at%含まれるときの2000℃におけるC溶解量である。La、Ce、及びPrの融点は上述の通りである。
La、Ce、及びPr以外の上記希土類元素も、同様のC溶解量向上効果が期待できる。La、Ce、及びPr以外の希土類元素の融点は、Nd:1021℃、Pm:1042℃、Sm:1072℃、Eu:826℃、Gd:1312℃、Tb:1356℃、Dy:1412℃、Yb:819℃である。
希土類元素は、好ましくは、La、Ce、及びPrからなる群から選択される少なくとも一種である。上記希土類元素をSi−C溶液の溶媒に加えると、Si−C溶液の炭素の溶解量をさらに向上することができ、SiC単結晶のさらなる高速成長を可能にする。
Si−C溶液の溶媒は、Siに加えて、Siの融点よりも低い融点を有する希土類元素を所定量で含む限り、Siの融点よりも高い融点を有する希土類元素を含んでもよい。Siの融点よりも高い融点を有する希土類元素としては、Ho:1474℃、Er:1529℃、Tm:1545℃、Lu:1663℃、Sc:1541℃、及びY:1526℃が挙げられる。
Si−C溶液は、好ましくは、SiとCrとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とを含む溶媒構成元素を含む。Si−C溶液が溶媒構成元素としてCrを含むことにより、炭素の溶解量をさらに増加させ、SiC単結晶の成長速度をさらに向上することができる。
Si−C溶液は、より好ましくは、SiとCrとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とX(Xは、Si、Cr、及びSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素以外の一種以上の金属)との融液である。Si−C溶液は、さらに好ましくは、SiとCrとCe、Pr及びLaのうち少なくとも一種とX(Xは、Si、Cr、Ce、Pr、La、及び希土類元素以外の一種以上の金属)との融液である。
Xは、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できる金属元素であれば特に制限されず、好ましくは、Al、Cu、Ge、Mg、Mn、Sb、Zn、Ti、Mn、Ni、Co、V、またはFeである。Al、Cu、Ge、Mg、Mn、Sb、及びZnは、Siよりも融点が低いが、実質的に炭化物を生成することはなく、これらの金属元素をSi−C溶液の溶媒に加えると、Si−C溶液の炭素の溶解量をさらに向上することができ、SiC単結晶のさらなる高速成長を可能にする。
本開示の方法においては、上記Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、希土類元素は合計で0.5〜13.7at%含まれる。
Si−C溶液に、希土類元素は合計で、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは1.0at%以上、より好ましくは2.0at%以上、さらに好ましくは3.0at%以上、さらにより好ましくは4.0at%以上、さらにより好ましくは5.0at%以上、さらにより好ましくは6.0at%以上含まれる。
また、Si−C溶液に、希土類元素は合計で、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは12.0at%以下含まれる。
上記範囲の量でSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種をSi−C溶液に含有させることにより、Si−C溶液中のC溶解量を向上して、多結晶の混入を抑制しつつSiC単結晶を成長させることが可能となる。
Si−C溶液中に含まれるSi量は、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは29.5〜69.5at%である。Siの量を上記範囲とすることにより、多結晶の混入を抑制したSiC単結晶をより安定して成長させることができる。
Si-C溶液がCrを含む場合、Si−C溶液中に含まれるCr量は、Si−C溶液を構成する溶媒の合計量を基準として、好ましくは30.0〜70.0at%である。Crの量を上記範囲とすることにより、多結晶の混入を抑制したSiC単結晶をより安定して成長させることができる。
Si−C溶液を構成する溶媒が、SiとCrとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とからなる融液で構成される場合、溶媒の組成は原子組成百分率で、Si:Cr:希土類元素=29.5〜69.5:30.0〜70.0:0.5〜13.7であることが好ましい。
Si−C溶液を構成する溶媒が、SiとCrとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とX(Xは、Si、Cr、希土類元素以外の一種以上の金属)とからなる融液で構成される場合、溶媒の組成は原子組成百分率で、Si:Cr:Ce、Pr及びLa:X=29.5〜69.5:20.0〜60.0:0.5〜13.7:0〜10.0であることが好ましい。
溶媒が上記組成を有することにより、Si−C溶液中のCの溶解量の変動を少なくすることができる。
本開示の方法の一実施形態を説明する。
一実施形態において、希土類元素が単体で黒鉛坩堝に接触しない状態でSi及び希土類元素を溶融させてSi−C溶液の溶媒を形成することには、好ましくは、希土類元素以外の溶媒構成元素のうち少なくともSiを黒鉛坩堝内で溶融させた後、黒鉛坩堝の周囲から冷却して、表面の少なくとも中央部に凹部を有する凝固溶媒を形成すること、凝固溶媒の凹部上に希土類元素を配置して、希土類元素を溶融させること、及び凝固溶媒を含む溶媒構成元素を溶融させて、Si−C溶液の溶媒を形成することが含まれる。
凝固溶媒の凹部上に希土類元素を配置して希土類元素を溶融させることにより、溶融する希土類元素は凹部に留まり黒鉛坩堝とは接触しない。希土類元素が溶融する際には、黒鉛坩堝の内面と希土類元素との間にSiの高融点層が形成されているため、希土類元素が単体で黒鉛坩堝と接触することを抑制することができ、炭化物の生成を抑制することができる。
一般的に、金属の融液が凝固するとき体積は減少する。希土類元素以外の溶媒構成元素のうち少なくともSiを黒鉛坩堝内で溶融させた後、黒鉛坩堝の周囲から冷却すると、黒鉛坩堝内の融液は周囲から凝固していくため、図5に模式的に示すように、凝固した溶媒の表面は、少なくとも中央部において凹部30を有する。図5は、黒鉛坩堝内において溶媒構成元素を溶融、凝固させたときの表面に凹部30を有する溶媒の断面形状、及び凹部30上に配置した希土類元素を溶融したときの溶融希土類元素の断面形状を表す模式図である。黒鉛坩堝を周囲から冷却するためには、黒鉛坩堝の周囲に配置された加熱装置の出力を下げればよい。
黒鉛坩堝を周囲から冷却する際、好ましくは、黒鉛坩堝の周囲に配置された加熱装置のうち、黒鉛坩堝に対して比較的上方に配置された加熱装置の出力よりも、比較的下方に配置された加熱装置の出力を下げるか、または、黒鉛坩堝に対して加熱装置を鉛直方向上方に移動させる。このように加熱装置の出力または加熱装置の位置を調節して、黒鉛坩堝の下方から冷却を進めることにより、凹部をより大きく形成することができる。
上記のように黒鉛坩堝の下方から冷却を進めることにより、図6に示すように、凹部30は、凹部30の少なくとも一部に追加凹部32を有することができる。図6は、黒鉛坩堝内において溶媒構成元素を溶融、凝固させたときの表面に凹部30及び追加凹部32を有する溶媒の断面形状、及び凹部上に配置した希土類元素を溶融したときの溶融希土類元素の断面形状を表す模式図である。追加凹部とは、凹部の一部において不連続に深くなっている部分をいう。凹部が追加凹部を有する場合、凝固溶媒の凹部上に希土類元素を配置して希土類元素を溶融させると、溶融する希土類元素は、追加凹部に流れ込むので、黒鉛坩堝との接触をより確実に抑制することができる。
本開示の方法の他の実施形態を説明する。
他の実施形態において、希土類元素が単体で黒鉛坩堝に接触しない状態でSi及び希土類元素を溶融させてSi−C溶液の溶媒を形成することには、好ましくは、金属製容器を用意すること、金属製容器内に溶媒構成元素を配置し、溶媒構成元素を溶融させてSi−C溶液の溶媒を形成すること、及び金属製容器内のSi−C溶液の溶媒を前記黒鉛坩堝内に移すことが含まれる。
一旦、金属製容器内で溶媒構成元素を溶融させてSi−C溶液の溶媒を形成し、金属製容器内の溶媒を黒鉛坩堝内に移すことにより、希土類元素が単体で黒鉛坩堝と接触することを抑制することができ、炭化物の生成を抑制することができる。
金属製容器内の溶媒を黒鉛坩堝内に移す際、溶媒を凝固状態で黒鉛坩堝に移せばよい。溶媒を凝固状態で黒鉛坩堝に移すためには、溶融した溶媒を冷却して凝固させ、凝固溶媒を金属製容器から取り出して、黒鉛坩堝に移せばよい。金属製容器内で形成した溶媒を、溶融状態で黒鉛坩堝に移してもよいが、高温であるため、凝固した状態で黒鉛坩堝に移した方が作業性の点で好ましい。
好ましくは、金属製容器内の凝固溶媒を黒鉛坩堝内に移す前に、再度、凝固溶媒を金属製容器で、溶融し、凝固させる。上記操作をさらに繰り返してもよい。このように、金属製容器内で溶媒の溶融、凝固を繰り返すことにより、凝固溶媒中の成分がより均一になり、溶媒を黒鉛坩堝内に移して溶融させる際に、希土類金属と黒鉛坩堝との反応をより抑制することができる。
より好ましくは、金属製容器内の凝固溶媒を一旦金属製容器から取り出し、凝固溶媒の金属製容器に接していた面とは反対側の面が金属製容器に接するように凝固溶媒を反転して、凝固溶媒を金属製容器に入れる。上記操作をさらに繰り返してもよい。このように、金属製容器に、凝固溶媒を反転して入れて、溶融、凝固させることにより、凝固溶媒中の成分がさらに均一になり、溶媒を黒鉛坩堝内に移して溶融させる際に、希土類金属と黒鉛坩堝との反応をさらに抑制することができる。
金属製容器内で溶媒構成元素を溶融させるには、好ましくは、アーク溶解が用いられる。図7に、金属製容器内の溶媒構成元素をアーク溶解して溶媒を形成する断面模式図を示す。金属製容器内に配置した溶媒構成元素にアークを当てて溶媒構成元素を溶融させる際、好ましくは、金属製容器は水冷されており、アークを停止することにより溶融した溶媒を凝固させることができる。上記方法で、金属製容器内で溶媒構成元素を溶融、凝固すると、金属製容器から凝固溶媒を容易に取り出すことができる。
金属製容器は、金属製または合金製である。金属製容器は、凝固溶媒を取り出し可能であり、且つ溶媒中に金属製容器の成分が不所望のレベルで混入しないものであれば特に制限されないが、好ましくは、銅製、銅合金製、ニッケル製、またはニッケル合金製である。
アーク溶解の方法は、金属製容器内で溶媒構成元素を溶融させることができれば特に限定されず、従来の方法であることができる。例えば、非消耗式タングステン電極を備えたボタンアーク溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気中でアルゴンガスでプラズマを作り、プラズマ中の電子を加熱源としてアーク熱により金属製容器内の溶媒構成元素を溶解し、凝固させることができる。
Si−C溶液中のC溶解量の測定方法は特に限定されないが、好ましくは、鉛直方向に移動可能であり且つTa製、Mo製またはW製の、Si−C溶液サンプリング部材を用いて、Si−C溶液中のC溶解量を測定することができる。
サンプリング部材は、高温のSi−C溶液をサンプリングすることができる部材である。Ta、Mo及びWは、Si−C溶液のSi、Cr、C等との反応による溶融が生じにくく、且つSi−C溶液との濡れ性がよく、Si−C溶液を良好にサンプリングできる。Taは融点が3020℃、Moの融点は2623℃、Wの融点は3422℃であり、融点が高く、Si−C溶液との反応性が低い。サンプリング部材は、好ましくはTa製である。Taは、Si−C溶液にさらに融解しにくく、より高温のSi−C溶液のサンプリングにも用いることができる。
サンプリング部材の形状は、Si−C溶液をサンプリングすることができ、且つ結晶成長中のSi−C溶液に着液したときにSi−C溶液の液面を変動させずに、安定してSiC単結晶成長を続けることができるものである限り、特に限定されるものではないが、好ましくは細長い棒形状を有し、さらに好ましくは筒形状または巻回形状を有し、さらにより好ましくは巻回形状を有する。
サンプリング部材が筒形状または巻回形状を有する場合、毛細管現象(表面張力)を利用してSi−C溶液をより良好にサンプリングすることができる。特にサンプリング部材が巻回形状を有する場合、表面積を大きくすることができるので毛細管現象により吸い上げるSi−C溶液の量をさらに多くすることができる。
図8に、棒形状を有するサンプリング部材の外観模式図を示す。サンプリング部材が細長い棒形状を有する場合、長さは好ましくは15〜100mm、より好ましくは30〜70mmであり、サンプリング部材の直径は好ましくは0.5〜5.0mm、より好ましくは1.5〜4.0mmである。
図9に、サンプリング部材が筒形状を有する場合の、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面模式図を示す。図10に、サンプリング部材が巻回形状を有する場合の、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面模式図を示す。サンプリング部材が巻回形状を有する場合、サンプリング部材の長手方向に垂直方向の断面は、渦巻き形状を有する。
サンプリング部材が巻回形状を有する場合、巻回数は好ましくは1.5回以上、より好ましくは2.0回以上である。
筒形状または巻回形状を有するサンプリング部材は、例えば、厚みが0.05〜0.2mm程度の金属板を巻いて作製され得る。
図11に示すように、サンプリング部材17は、鉛直方向に移動可能なサンプリング部材保持軸16の先端に配置され、SiC単結晶製造装置100に備えることができる。サンプリング部材17は、鉛直方向に移動可能であり、さらに水平方向等、その他の所望の方向にも移動可能であってもよい。サンプリング部材保持軸16は、黒鉛の軸であることができる。サンプリング部材保持軸16は、駆動機構及び電流計に接続されており、鉛直方向に任意に移動することができる。
サンプリング後に、サンプリング部材とサンプリング部材に付着固化したSi−C溶液を、そのままの状態で燃焼−赤外線吸収法によるCS計に入れて、C溶解量を分析することができる。
本開示の方法に用いられ得る種結晶基板として、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。例えば、昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、種結晶基板は。板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、上述のように、種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。種結晶基板の種結晶保持軸への保持には、カーボン接着剤を用いることができる。
種結晶基板のSi−C溶液への接触は、種結晶基板を保持した種結晶保持軸をSi−C溶液面に向かって降下させ、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して並行にしてSi−C溶液に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液面に対して種結晶基板を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
種結晶基板の保持位置は、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよいが、図12に示すように、種結晶基板14の下面にのみSi−C溶液24を濡らしてメニスカス34を形成するように、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に対して上方に位置することが好ましい。メニスカスを形成する場合、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に対して1〜3mm上方の位置に保持することが好ましい。種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶基板をSi−C溶液に接触させて種結晶基板の下面にSi−C溶液を接触させてから、所定の位置に引き上げる。
種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にしてもよいが、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。これらの方法において、単結晶の成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
本開示の方法において、Si−C溶液の表面温度の下限は好ましくは1800℃以上であり、上限は好ましくは2200℃であり、この温度範囲でSi−C溶液へのCの溶解量を多くすることができる。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図11に、本開示の方法を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とを含む融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、SiとSiの融点よりも低い融点を有する希土類元素のうち少なくとも一種とを含む融液にCを溶解させることによって調製される。黒鉛坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給方法として、黒鉛坩堝10の溶解に、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入する方法を組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば、溶液表面からの深さがおよそ1cmまで、または3cmまでの範囲で、10〜50℃/cmであることができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成されている。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
好ましくは、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。メルトバックはまた、炭素が飽和しないように昇温中のSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。
好ましくは、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
(実施例1)
直径が15mm、厚みが700μmの円盤状4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面を有する昇華法により作製したSiC単結晶を用意して、種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図8に示す単結晶製造装置100を用い、黒鉛坩堝10に、Si及びCrを、Si:Cr=5:4の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための溶媒構成元素として仕込んだ。
単結晶製造装置100の内部を1×10-3Paに真空引きした後、1気圧になるまでヘリウムガスを導入して、単結晶製造装置100の内部の空気をヘリウムで置換した。高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝内の溶媒構成元素を1700℃まで昇温して融解し、Si/Cr合金の融液を形成した。次いで、黒鉛坩堝10内の融液の下方から凝固させるように、黒鉛坩堝の周囲に配置した下段コイル22Bの出力を上段コイル22Aよりも小さくして、融液の鉛直方向下方側の温度が20℃/cm低くなる融液深部に向けて温度低下する温度勾配を形成しながら冷却を行い、室温まで冷却して、凹部及び追加凹部を表面に有する凝固溶媒を得た。図13に、黒鉛坩堝内で形成した凹部及び追加凹部を表面に有する凝固溶媒の断面写真を示す。
単結晶製造装置100を開けて、得られた凝固溶媒の凹部上に、Ce粉末を、Si、Cr、及びCeが、Si:Cr:Ce=50:40:10(at%)の原子組成比率でSi−C溶液の融液原料を形成するように配置して、再度、単結晶製造装置の内部を1×10-3Paに真空引きした後、1気圧になるまでヘリウムガスを導入して、単結晶製造装置の内部の空気をヘリウムで置換した。
黒鉛坩堝10の周囲に配置した高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内のCeを融解し、次いで凝固溶媒も融解して、Si/Cr/Ce合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝からSi/Cr/Ce合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の表面における温度を2000℃に昇温させ、並びにSi−C溶液24の表面から1cmの範囲で溶液内部から溶液表面に向けて温度低下する温度勾配が30℃/cmとなるように制御した。Si:Cr:Ce=50:40:10(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は11.4mol%であった。Si−C溶液24の表面の温度測定は放射温度計により行い、Si−C溶液24の温度勾配の測定は、鉛直方向に移動可能な熱電対を用いて行った。
黒鉛軸12に接着した種結晶基板14の下面をSi−C溶液面に並行にして、種結晶基板14の下面の位置を、Si−C溶液24の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液24に種結晶基板14の下面を接触させるシードタッチを行い、次いで、Si−C溶液24が濡れ上がって黒鉛軸12に接触しないように、黒鉛軸12を1.5mm引き上げ、その位置で7時間保持して、結晶を成長させた。
結晶成長の終了後、黒鉛軸12を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板を基点として成長したSiC結晶を、Si−C溶液24及び黒鉛軸12から切り離して回収した。同じ条件でSiC単結晶を合計で4つ成長させた。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均1.5個しか含まれておらず、良好なSiC単結晶が得られていた。図14に、成長結晶を成長面から観察した外観写真を示す。
(実施例2)
直径が10mm、深さが5mmの銅製の金属製容器を用意し、金属製容器内に、Si、Cr、及びCeを、Si:Cr:Ce=50.1:36.2:13.7(at%)の原子組成比率で、Si−C溶液を形成するための溶媒構成元素として仕込んだ。
金属製容器を水冷しながら、金属製容器内に配置した溶媒構成元素にアークを当てて、図7に示すようなアーク溶解を行った。アークを停止することにより溶融した溶媒を凝固させて、凝固溶媒を金属製容器から取り出した。アーク溶解は、非消耗式タングステン電極を備えたボタンアーク溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気中でアルゴンガスでプラズマを作り、プラズマ中の電子を加熱源としてアーク熱により金属製容器内の溶媒構成元素を溶解させることによって行った。上記操作を繰り返して、5個の凝固溶媒を形成した。
図8に示す単結晶製造装置100を用い、黒鉛坩堝10に、金属製容器から取り出した5個の凝固溶媒を配置し、黒鉛坩堝10の周囲に配置した高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の凝固溶媒を融解し、Si/Cr/Ce合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝からSi/Cr/Ce合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。上記のSi−C溶液24の形成方法以外は、実施例1と同様の方法でSiC単結晶を成長させた。Si:Cr:Ce=50.1:36.2:13.7(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は10.2mol%であった。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均1.0個しか含まれておらず、良好なSiC単結晶が得られていた。
(比較例1)
Si−C溶液を収容する黒鉛坩堝に、Si、Cr、及びCeをSi:Cr:Pr=50:40:10(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込み、高周波コイルに通電して加熱により黒鉛坩堝内の原料を融解し、Si/Cr/Ce合金の融液を形成し、黒鉛坩堝からSi/Cr/Ce合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液を形成したこと以外は、実施例1と同じ方法で結晶成長させた。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均6.0個含まれていた。
(比較例2)
Si、Cr、及びCeをSi:Cr:Ce=54:40:6(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、比較例1と同じ方法で結晶成長させた。Si:Cr:Ce=54:40:6(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は5.6mol%であった。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均2.0個含まれていた。
(比較例3)
Si、Cr、及びCeをSi:Cr:Ce=52:40:8(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、比較例1と同じ方法で結晶成長させた。Si:Cr:Ce=52:40:8(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は8.5mol%であった。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均1.5個含まれていた。図15に、成長結晶を成長面から観察した外観写真を示す。破線で囲んだ箇所に多結晶が発生していた。
(比較例4)
Si、Cr、及びLaをSi:Cr:La=52:40:8(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、比較例1と同じ方法で結晶成長させた。Si:Cr:La=52:40:8(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は8.5mol%であった。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均3.0個含まれていた。
(比較例5)
Si、Cr、及びPrをSi:Cr:Pr=52:40:8(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだこと以外は、比較例1と同じ方法で結晶成長させた。Si:Cr:Pr=52:40:8(at%)の溶媒組成の2000℃における炭素溶解量は8.5mol%であった。
得られた成長結晶を成長面から観察したところ、多結晶は直径50.8mmの範囲内で平均1.0個含まれていた。
図16に、溶媒組成に基づくC溶解量と多結晶の発生数との関係を示す。比較例1〜5の従来方法では、C溶解量が増えると、多結晶の発生も多くなったが、実施例1及び2では、C溶解量を大きくしても、C溶解量が少ない場合と同程度に多結晶の発生を抑制することができた。