特許文献1には、「左右のうちの一方(図面右側)の袖部12の上側には、袖口から肩部対応部位まで開閉自在な第1開閉部16を形成し、襟部側の端部に、開閉しないで閉ループ状を保つ閉ループ部17を形成している」(段落「0022」、図1参照。)、「他方(図面左側)の袖部13の下側に、その長さ方向の全体にわたる第2開閉部18を形成するとともに、これに連なる身頃部14における側部に、第3開閉部19を形成している」(段落「0023」、図1参照。)、「これら開閉部15,16,18,19はいずれも、図2に示したように、相互に重合する合わせ部を設け、これら合わせ部の対向面に、相互に係合する一組の面ファスナ20(20a及び20b)を設けて構成している。面ファスナ20は、細幅帯状のテープ21上に離間配置し、全体ではなく部分的に閉じられるようにして、係脱の容易化を図っている」(段落「0024」、「0025」、図2参照。)と記載されている。特許文献1には、「面ファスナ20(20a及び20b)」の素材については記載されていないが、一般的に、衣服に用いる面ファスナは、合成樹脂で形成されていることが多く、合成樹脂は、金属ほど硬くはないが、例えば、高齢の被介護者や、長期の寝たきりの被介護者等は、健常者に比べて肌(皮膚)が弱くなっており、合成樹脂製の面ファスナが接触することで肌を傷つける虞がある。
また、特許文献1に記載の発明では、「開閉部15,16,18,19」を開閉するために、多数の「相互に係合する一組の面ファスナ20(20a及び20b)」を一つ一つ係止させるという煩雑な係止作業を必要とし、特に、被介護者がベッドに寝た状態では、被介護者を着替えさせるためには、被介護者の体を抱き起こしたり移動させたりしなければならないので、上記の煩雑な係止作業を行うことは、介護者にとっても被介護者にとっても、大きな労力を要するものと思われる。また、一つ一つの「面ファスナ20(20a及び20b)」が、ズレることなくきちんと係止されていないと、外観視において見栄えが悪くなってしまうので、見栄え良くするためにより慎重な係止作業を要し、また、係止作業のやり直しも増える虞がある。被介護者を介護する家族にとっても、被介護者が寝たきり状態であったとしても、被介護者の尊厳をできるだけ損なうことがないように、健常者要の衣服とできるだけ遜色ない見栄えの良い衣服を着用させたいと願うものである。
特許文献2には、「(ロ)スリットは、長袖衣服の場合の腕部は脇の下から肘部まで、半袖衣服の場合は脇の下から袖縁の数cm内側までで、胴の側部は脇の下から真下に向かい、腕を脇に付けた時の肘が当たる位置までの長さにする」(段落「0004」、図1〜図3参照。)と記載されており、特許文献1の「要介護者用寝間着」に比べて、加工の程度は軽減されているものの、「(ハ)スリットにファスナーを取り付ける」(段落「0004」、図1〜図3参照。)と記載されており、特許文献2に記載の「衣服」では、特許文献1と同様に、「ファスナー」が接触することで、被介護者である「五十肩や腕や肩に障害のある人や、年老いて腕を上げるのが困難な人」の肌を傷つける虞がある。また、特許文献2に記載された「スリット」は、不自由な一方の腕に対応するものであり、他方の腕が自由・不自由な場合については何ら記載されていないものと認められる。
特許文献3には、「ニットウェアはその柔軟な素材の特性から、左右袖部3a、3bを伸ばして左右を比較して見ない限りは左右の袖部の袖巾が違っているとは外観されにくく」(段落「0014」参照。)と記載されているので、特許文献3に記載の技術思想を非ニット素材の衣服、例えば、綿素材の衣服に適用すると、外観視において、「左右の袖部の袖巾が違っている」ことが容易に視認され、介護用に加工されているという印象が強く、見栄えが悪いものと思われる。
また、特許文献3に記載の「衣服」は、「左右いずれか一方の袖部の袖巾が他方の袖部の袖巾より20%以上大きく形成されているので、袖巾が大きい方の袖部はアームホールも大きく」(段落「0008」、図1参照。)形成されたものであり、「上半身部4は前身頃1に開閉部がなく」(段落「0012」参照。)、「上下揃いのスウェットスーツの他、上半身部だけのトレーナ、Tシャツ、肌着、セーター等」(段落「0015」参照。)のようなプルオーバー形態の衣服を想定しているので、例えば、介護者が、ベッドに寝たきりで自力で腕を動かすことができない被介護者を、プルオーバー形態の「衣服」で着替えさせることは、介護者にとっても被介護者にとっても、大変な労力を要し、負担が大きいものと思われる。
また、特に、被介護者が長期間寝たきり状態であるときは、介護者である家族も長期間の介護で心身ともに疲労が蓄積し、介護に対するモチベーションが維持できない虞がある。このような状況では、被介護者の衣服が、できるだけ健常者の衣服と遜色ない程度で見栄えの良いものであると、介護者の介護に対するモチベーション維持に効果を奏するものと考えられる。しかしながら、このような課題は、上記の特許文献1〜3を含み、他の従来技術においても見当たらない。
このため、本発明では、少なくとも一方の腕が不自由で自力での脱ぎ着が困難な被介護者のための寝間着であって、可能な限り加工を少なくして被介護者の尊厳を損なわない程度に見栄えを良くし、被介護者が寝間着の開閉具や留め具等で傷つくことなく、被介護者及び介護者にとって着替え作業の負担を軽減することができ、介護者の被介護者に対する介護のモチベーションを維持することができる被介護者用寝間着を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、前身頃及び後ろ身頃を有し前開きに構成された身頃部と、右袖部及び左袖部から構成された袖部とを備えた被介護者用寝間着であって、前記右袖部には、右袖下の一部を開放して形成された右袖開放部が設けられ、前記身頃部の右脇部には、前記右袖開放部と連結され、一部を開放して形成された右脇開放部が設けられ、前記左袖部には、左袖下の一部を開放して形成された左袖開放部が設けられ、前記身頃部の左脇部には、前記左袖開放部と連結され、一部を開放して形成された左脇開放部が設けられ、前記被介護者の左右の腕のいずれか一方が不自由であり、いずれか他方が自由であることに応じて、前記右袖開放部の寸法と、前記右脇開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法と、前記左脇開放部の寸法のうち、少なくとも、前記右袖開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法とが、異ならせて形成されており、前記右袖部と前記左袖部は、いずれか一方が、前記被介護者の不自由な方の腕に対応して形成され、いずれか他方が、前記被介護者の自由な方の腕に対応して形成されており、前記右袖開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法のうち、前記被介護者の自由な方の腕に対応する側の寸法が、前記被介護者の不自由な方の腕に対応する側の寸法よりも長く形成されていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前身頃及び後ろ身頃を有し前開きに構成された身頃部と、右袖部及び左袖部から構成された袖部とを備えた被介護者用寝間着であって、前記右袖部には、右袖下の一部を開放して形成された右袖開放部が設けられ、前記身頃部の右脇部には、前記右袖開放部と連結され、一部を開放して形成された右脇開放部が設けられ、前記左袖部には、左袖下の一部を開放して形成された左袖開放部が設けられ、前記身頃部の左脇部には、前記左袖開放部と連結され、一部を開放して形成された左脇開放部が設けられ、前記被介護者の左右の腕のいずれも不自由であることに応じて、前記右袖開放部の寸法と、前記右脇開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法と、前記左脇開放部の寸法のうち、少なくとも、前記右袖開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法とが、異ならせて形成されていることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の被介護者用寝間着であって、前記右袖部と前記左袖部は、いずれか一方が、前記被介護者の不自由な方の腕に対応して形成され、いずれか他方が、前記被介護者の自由な方の腕に対応して形成されており、前記右袖開放部の寸法と、前記左袖開放部の寸法のうち、前記被介護者の自由な方の腕に対応する側の寸法が、前記被介護者の不自由な方の腕に対応する側の寸法よりも長く形成されていることを特徴とする。
本発明の被介護者用寝間着によれば、健常者用の寝間着に比べ加工の程度を極力軽減したので、被介護者の尊厳を損なわない程度に見栄え良く構成することができるという顕著な効果を奏することができる。
また、本発明の被介護者用寝間着によれば、開閉部の留め具に綿素材の綾テープを用いたので、被介護者の肌を傷つけることがないという顕著な効果を奏することができる。
また、本発明の被介護者用寝間着によれば、介護者が被介護者の着替えをさせるときに、被介護者の体(特に、手・腕等の上肢)を無理に動かすことなく、また、介護者の作業の労力を少なくすることができるので、被介護者及び介護者のいずれにとっても、着替え作業の負担を軽減することができるという顕著な効果を奏することができる。換言すれば、本発明の被介護者用寝間着によれば、介護者が負担無く被介護者に容易に着替えをさせることができるという顕著な効果を奏することができる。
また、本発明の被介護者用寝間着によれば、介護者が長期間の介護をすることになっても、被介護者への介護に対するモチベーションを維持することができるという顕著な効果を奏することができる。
以下、好適な実施形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態では、被介護者用寝間着としての長袖の寝間着1を例に説明する。図1に本発明の第1実施形態の寝間着1の正面図を示し、図2に図1の一部破断図を示し、図3に寝間着1の背面図を示し、図4に図1の要部を拡大した説明図を示し、図5及び図6に寝間着1を被介護者に着用させるときの様子を説明する図を示し、図7に寝間着1を被介護者に着用させた状態の様子を示す図を示す。なお、図2では、図の説明の便宜上、留め具、ポケットは不図示である。本実施形態では、被介護者が寝たきりの状態で自力での寝間着の着替えが困難であり、被介護者の右腕が不自由で、左腕が自由である状態を想定して説明する。説明の便宜上、ベッド、介護者は不図示である。
従来、寝たきり状態の被介護者は、腕を曲げる又は伸ばす等、自分の意思によって自由に腕を動かすことは困難であるので、寝間着等の着替え作業は介護者の手助けを必要とし、介護者及び被介護者の双方にとって労力を要し負担が大きいが、被介護者の少なくとも一方の腕が麻痺その他の障害により不自由な状態では、介護者及び被介護者の着替え作業の負担がさらに増加する。本実施形態では、被介護者がこのような状態にあっても、介護者及び被介護者双方の着替え作業の負担を軽減することを目的の一つとしている。
図1〜図4に示すように、寝間着1は、基本的な構成として、見頃部2と、袖部3と、襟部4を備えている。見頃部2は、前身頃2aと後ろ身頃2bを有し、前開き(「前明き」ともいう。)の形態に構成されている。寝間着1は、男性用を想定しているので、右前に構成されており、前身頃2aの右側(右前身頃)が左側(左前身頃)の内側になるように構成され、前身頃2aの左側(左前身頃)の前部には複数のボタンホール5aが設けられ、前身頃2aの右側(右前身頃)の前部には複数のボタン5bが、ボタンホール5aに対応する位置に取り付けられている。女性用の寝間着のときは、左前に構成される。また、身頃部2には襟部4が設けられ、前身頃2aには、ポケット11が設けられている。寝間着1を構成する身頃部2、袖部3、襟部4は、全て綿素材で形成されている。袖部3は、右袖下3cを有する右袖部3aと、左袖下3dを有する左袖部3bから構成されている。本発明の寝間着1は、左袖刳り下端部3e及び右袖刳り下端部3f近傍の身頃部2及び袖部3の一部が縫合されず、開放されており、この開放された部分の所定位置に留め具(9a,9b,9c)が設けられているが(詳細は後述する。)、図示するように、外観視で留め具が視認される場合があるだけであり(留め具を隠すことも可能である。)、健常者用の寝間着と限りなく遜色ないよう見栄え良く構成されている。
本実施形態の身頃部2の右脇部2cの一部、身頃部2の左脇部2dの一部、右袖部3aの右袖下3cの一部、左袖部3bの左袖下3dの一部は、縫合されずに開放されている。以下、具体的に説明する。右袖部3aは、一枚裁ちの普通袖(「一枚袖」ともいう。)であるが、健常者用の一般的な寝間着の普通袖とは異なり、右袖下3cが全て縫合されるのではなく、右袖刳り下端部3eから右袖口3g方向の右袖下3cの一部が縫合されずに開放された右袖開放部6aを有している。右袖下3cの右袖開放部6aの先端から右袖口3gまでの部分は、健常者用の一般的な前開き形態の寝間着と同様に縫合されている。
同様に、左袖部3bは、一枚裁ちの普通袖であるが、健常者用の一般的な寝間着の普通袖とは異なり、左袖下3dが全て縫合されるのではなく、左袖刳り下端部3fから左袖口3h方向の左袖下3dの一部が縫合されずに開放された左袖開放部6bを有している。左袖下3dの左袖開放部6bの先端から左袖口3hまでの部分は、健常者用の一般的な寝間着と同様に縫合されている。
そして、健常者用の一般的な寝間着は、前身頃と後ろ身頃は、右袖刳り下端部から裾部までの右脇部は連続して縫合され、また、左袖刳り下端部から裾部までの左脇部は連続して縫合されているが、本発明の寝間着1の前身頃2aと後ろ身頃2bは、右袖刳り下端部3eから裾部2e方向の右脇部2cの一部が縫合されずに、開放された右脇開放部7aを有している。また、寝間着1の前身頃2aと後ろ身頃2bは、左袖刳り下端部3fから裾部2e方向の左脇部2dの一部が縫合されずに、開放された左脇開放部7bを有している。右脇部2cの右脇開放部7aの先端から裾部2eまでの部分は健常者用の一般的な寝間着と同様に縫合され、左脇部2dの左脇開放部7bの先端から裾部2eまでの部分は健常者用の一般的な寝間着と同様に縫合されている。
右袖開放部6aと右脇開放部7aとは、連結されて一体的な一つの空間部を形成する右開閉部8aを構成しており、この右開閉部8aを利用して、被介護者の不自由な方の右腕を右袖部3aに容易に脱ぎ着させることができる。また、左袖開放部6bと左脇開放部7bとは、連結されて一体的な一つの空間部を形成する左開閉部8bを構成しており、この左開閉部8bを利用して、被介護者の自由な方の左腕を左袖部3bに脱ぎ着させることができる。
右袖開放部6a、右脇開放部7aには、補強のために帯状の当て布(「力布」ともいう。)10aが縫合され、左袖開放部6b、左脇開放部7bには、補強のために帯状の当て布10bが縫合されている。後述する留め具9aは、右袖部3aと当て布10aの間に縫合され、留め具9bは、身頃部2と当て布10bとの間に縫合され、留め具9cは、左袖部3bと当て布10bとの間に縫合されている。当て布10a,10bは、被介護者の肌に直接接触するので、肌を傷つけないような軟らかい素材を用いて形成されており、例えば、留め具(9a,9b,9c)と同様の綿素材の綾テープを素材にして形成されている。
ここで、右袖開放部6aの右袖下3c方向の寸法をL6a、左袖開放部6bの左袖下3d方向の寸法をL6b、右脇開放部7aの右脇部2c方向の寸法をL7a、左脇開放部7bの左脇部2d方向の寸法をL7bとすると、本実施形態では、右脇開放部7aの寸法L7aと左脇開放部7bの寸法L7bとを同じ長さにして、左袖開放部6bの寸法L6bを右袖開放部6aの寸法L6aよりも長く形成している。また、右開閉部8aの寸法をL8a、左開閉部8bの寸法をL8bとすると、寸法L8aは寸法L6aと寸法L7aとの合計の長さであり、寸法L8bは、寸法L6bと寸法L7bとの合計の長さであるので、寸法L8bは、寸法L8aよりも長く形成されていることになる。
介護者が、寝たきりの被介護者に寝間着1を着せるときには、まず、不自由な方の腕を先に袖に通して、その後、自由な方の腕を袖に通す方がよい。この理由は、後から袖に通す腕の動きの方が、先に袖に通す腕の動きよりも大きくなり、後から袖に通す腕にかかる負担が大きくなるからである。もし、自由な方の腕を先に袖に通すと、後から袖に通す不自由な方の腕に負担が掛かる。片麻痺や長期間寝たきり状態のような被介護者は、不自由な方の腕の筋力が低下したり、骨粗鬆症により腕の骨が脆弱化することで、着替え動作時の負担で腕を脱臼あるいは骨折する虞がある。介護者にとっても、被介護者の不自由な方の腕にできるだけ負担が掛からないように慎重に着替え作業をしなければならないので、慎重且つ多大な労力を要する。
なお、特許文献3には、本実施形態の前開き形態の寝間着1とは異なるプルオーバー形態の「衣服」において、「不自由な腕」を通す方の「右袖部3a」の「袖巾A」を、「健常の方の手を通す左袖部3b」の「袖巾B」よりも「大きく形成」されている(特許文献3の段落「0012」等参照。)が、上述したように、本実施形態では、逆の発想により、本願の課題を解決している。
ここで、左右開閉部8a,8bの寸法L8a,L8bを、例えば特許文献1の「第2開閉部18」、「第3開閉部19」のように長くし過ぎると、被介護者を着替えさせるときの介護者の作業が却って煩雑になり、介護者の負担が増加する。また、開閉部を大きくすることは、それだけ、見栄えを悪くすることになる。本発明では、被介護者の尊厳を損なわないように見栄えの良い被介護者用寝間着を提供することも課題の一つであるので、外観で一見して視認することができるような加工は、できるだけ少なくされている。したがって、右開閉部8aの加工の程度、つまり、右袖開放部6aの寸法L6aの長さ、及び、右脇開放部7aの寸法L7aの長さは、着替え作業時に被介護者の不自由な右腕に負担がかかることなく、且つ、介護者にとっても負担が最小限で済むように設定され、左開閉部8bの加工の程度、つまり、左袖開放部6bの寸法L6bの長さ、及び、左脇開放部7bの寸法L7bの長さは、被介護者の自由な左腕に負担がかかることなく、且つ、介護者にとっても負担が最小限で済むように設定されている。
また、本実施形態では、右袖部3a、左袖部3bに被介護者の左右の腕Ra,Laを通した後は、見栄えと安全性を考慮して、右開閉部8a及び左開閉部8b、つまり、右袖開放部6a、左袖開放部6b、右脇開放部7a、左脇開放部7bを閉じるために、綿素材の綾テープで形成された一対の右留め具9a及び二対の左留め具9b,9cが設けられている。右留め具9aは、右袖開放部6a及び右脇開放部7aの開放状態を閉じるためのものであり、右袖開放部6aと右脇開放部7aとの連結部である右袖刳り下端部3e近傍の右袖部3aに、一対の右留め具9a,9aのそれぞれの一端が縫合されて固定されている。左留め具9b及び9cは、左袖開放部6b及び左脇開放部7bの開放状態を閉じるためのものであり、左留め具9bは、左袖開放部6bと左脇開放部7bとの連結部である左袖刳り下端部3f近傍の前身頃2aと後ろ身頃2bに、一対の左留め具9b,9bのそれぞれの一端が縫合されて固定され、また、左袖開放部6bの略中央部に一対の左留め具9c,9cのそれぞれの一端が縫合されて固定されている。右留め具9a,9a、左留め具9b,9b、左留め具9c,9cの、それぞれ固定されていない他端同士を結ぶことで、右開閉部8a、左開閉部8bを閉じることができる。
留め具として、一般に、スライドファスナー、面ファスナー、ボタン、スナップ、ホック等が知られているが、スライドファスナー、面ファスナー、ボタンは、一般に素材が合成樹脂であり、スナップ、ホックは、一般に素材が金属である。被介護者、特に、長期間寝たきり状態の被介護者の肌は、健常者に比べ著しく劣化して傷つき易くなっているので、留め具も軟らかい素材を用いた方よい。したがって、本実施形態では、留め具の素材として、合成樹脂や金属で形成されたものを用いず、綿素材の綾テープを用いている。右留め具9a,左留め具9b,9cは、綿素材を綾織りされたテープ(紐)であるので、合成樹脂や金属に比べて、格段に柔らかく、被介護者の肌を傷つける虞がない。
左側の留め具を、左留め具9b,9bと、左留め具9c,9cの二対にしたのは、左袖開放部6bの寸法L6bを、右袖開放部6aの寸法L6aよりも長くしたので、被介護者の自由な方の左腕が、左袖部3bに通された後、不用意に抜けないようにするためである。なお、左右の留め具をさらに多く設けると、見栄えが悪くなるので、被介護者の腕が不用意に抜けないための最少の数の二対にしているのである。なお、このような観点から、右留め具9a,9aは、右腕を右袖部3aに通した後、不用意に抜けないための最少の数の一対である。
このように、本発明の寝間着1は、外観視では、健常者用の通常の寝間着と可能な限り遜色なく構成されており、被介護者の尊厳を損なうことなく、非常に見栄え良く構成され、且つ、被介護者の肌を傷つけることがないように安全に構成され、且つ、介護者が被介護者の着替えをさせるときに、被介護者及び介護者のいずれも着替え作業の負担を軽減することができ、さらには、介護者が長期間の介護をすることになっても、被介護者への介護に対するモチベーションを維持することができるという顕著な効果を奏することができる。
図5、図6に、本実施形態の寝間着1を被介護者Pに着用させるときの様子を示す。なお、被介護者Pは、ベッドに寝たきりの状態であり、寝間着1の着替えは自力でできないので介護者の手助けを要することを想定しているが、ベッド及び介護者は図示していない。図5(a)及び図5(b)に示すように、寝間着1を被介護者Pに着用させるときは、まず、被介護者Pの不自由な方の右腕Raを、右開閉部8aを利用して右袖部3aに挿通する。このとき、右留め具9a及び左留め具9b,9cは、開放しておく。右開閉部8aは、寸法L8a(寸法L6aと寸法L7aの合計)に開口された空間部を有するので、被介護者Pの右腕Raが不自由であっても、右開閉部8aの空間部を利用して、被介護者Pに負担を掛けることなく、右腕Raを右袖部3aに挿通させることができる。そして、右開閉部8aを構成する右袖開放部6a及び右脇開放部7aは、被介護者Pの不自由な右腕Raに負担が掛かることなくスムーズに右袖部3aに右腕Raを通すことができる最小限の寸法に形成されているので、被介護者P及び介護者の着替え作業の負担が軽減される。被介護者Pの右腕Raを右袖部3aに通し終えたら、右留め具9aを結び、右開閉部8aを閉じる。なお、右留め具9aは、左腕Laを左袖部3bに通した後、つまり、着替え作業の最後の段階で結んでもよい。
次に、図6(a)及び図6(b)に示すように、自由な方の左腕Laを左袖部3bに通すのであるが、先に右腕Raを右袖部3aに通しており、身頃部2の右側部分、及び、右袖部3aは、被介護者Pの体に密接しているので、左袖部3bや身頃部2の左側部分は、被介護者Pの左腕Laを通すためにはあまり自由に大きく動かすことができない。したがって、被介護者Pの左腕Laを動かして左袖部3bに通すことになるが、左開閉部8bは、寸法L8b(寸法L6bと寸法L7bの合計)に開口された空間部を有するので、左開閉部8bの空間部を利用して、被介護者Pに負担を掛けることなく、左腕Laを左袖部3bに挿通させることができる。そして、左袖開放部6bが、左腕Laを負担無く左袖部3bに通すことが可能な最小の大きさ(最短の寸法)に形成されているので、被介護者Pにも介護者にも負担なく作業を完了することができる。被介護者の左腕Laを左袖部3bに通し終えたら、左留め具9b,9b、左留め具9c,9cのそれぞれを結び、左開閉部8bを閉じる。
このようにして、被介護者Pに寝間着1を着用させたときの外観状態を図7に示す。図7に示すように、被介護者Pに着用された寝間着1は、外観視において、留め具9a,9b,9cが視認されるだけであり、被介護者の尊厳を損なうことなく、非常に見栄えが良い。また、留め具9a,9b,9cは、綿素材の綾テープで形成されているので、被介護者に接触しても、被介護者の肌を傷つける虞がない。なお、留め具9a,9b,9cは、左右の袖部3a,3の内側、又は、身頃部2の内側に収納すれば、見栄えもさらに良くなる。
本実施形態では、被介護者Pの右腕Raが不自由で左腕Laが自由な場合を想定して説明したが、被介護者Pの右腕Raが自由で、左腕Laが不自由な状態では、上述した、右開閉部8aの寸法L8a(右袖開放部6aの寸法L6a)、左袖開閉部8bの寸法L8b(左袖開放部6bの寸法L6b)を、逆に構成して、被介護者Pの左腕Laを先に左袖部3bに通し、その後、被介護者Pの右腕Raを右袖部3aに通すようにすればよい。
また、介護者が、被介護者Pから、着用している寝間着1を脱がすときには、上述した着用時の動作と逆の動作をすればよい。つまり、被介護者Pの動作が大きくされる自由な左腕Laを先に左袖部3bから脱がして、その後、被介護者Pの不自由な右腕Raを右袖部3aから脱がすようにすれば、介護者・被介護者Pの双方にとって着替え作業の負担を軽減することができる。被介護者Pの右腕Raが自由で、左腕Laが不自由な状態での、寝間着1を脱がす場合は、先に右腕Raを右袖部3aから脱がした後で、左腕Laを左袖部3bから脱がすようにすればよい。
なお、本実施形態では、被介護者が寝たきりの状態を想定して説明したが、本発明は、被介護者が寝たきりでなくても、例えば、何らかの障害で少なくとも左右いずれか一方の腕が不自由でいずれか他方の腕が自由であり、被介護者が自力で寝間着の着替えをすることができない状態で、着替え作業に介護者の手助けが必要な場合であっても、適用することができる。
(第2実施形態)
第1実施形態では、被介護者が寝たきりの状態で、自力での寝間着の着替えが困難であり、被介護者の左右の腕のいずれか一方が不自由であり、いずれか他方が自由である状態を想定して説明した。これは、寝たきりの被介護者に拘わらず、自力で衣服の着替えが困難な被介護者は、左右両方の腕が不自由であるケースよりも、左右いずれか一方の腕が不自由で、他方の腕は自由であるケースの方が多いと考えられるためである。しかしながら、本発明は、左右両方の腕が不自由な被介護者用の寝間着としても用いることが可能であるので、第2実施形態として、以下、説明する。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、可能な限り加工を少なくして被介護者の尊厳を損なわない程度に見栄えを良くし、被介護者が寝間着の開閉具や留め具等で傷つくことなく安全であり、被介護者及び介護者にとって着替え作業の負担を軽減することができ、介護者の被介護者に対する介護のモチベーションを維持することができる被介護者用寝間着を提供することを目的としている。この目的を実現するための第2実施形態の寝間着の構成は、第1実施形態の寝間着1の構成とほぼ同じであるので、第1実施形態の寝間着1を参照して説明する。なお、ここでは、第2実施形態の寝間着の特徴的な部分を中心に説明する。
ここで、説明の便宜上、第1実施形態の寝間着1を、第2実施形態の寝間着100(不図示)とすれば、寝間着100の構成部品は、寝間着1の構成部品(図1〜図4)と同じである。寝間着1の構成部品については上述したので重複する説明は省略する。以下、寝間着100を被介護者に着用させるときの様子について、図5〜図7を参考にして説明する。
被介護者Pは、右腕Ra,左腕La共に不自由な状態を想定する。第1実施形態の説明と同様に、まず、不自由な右腕Raについては、右開閉部8aを利用して、右袖部3aに通すことができる(図5参照。)。右開閉部8aを構成する右袖開放部6a及び右脇開放部7aは、被介護者Pの不自由な右腕Raに負担が掛かることなくスムーズに右袖部3aに右腕Raを通すことができる最小限の寸法に形成されているので、介護者・被介護者双方にとって着替え作業の負担が軽減される。
次に、図6(a)及び図6(b)に示すように、不自由な方の左腕Laを左袖部3bに通すのであるが、先に右腕Raを右袖部3aに通しており、右袖部3a、身頃部2の右側は、被介護者Pの体に密接しているので、左袖部3bや身頃部2の左側部分は、被介護者Pの不自由な左腕Laを通すためにはあまり自由に大きく動かすことができない。しかも、左腕Laは、第1実施形態と異なり不自由な状態であるから、第1実施形態と同程度に大きく動かすことはできない。このため、第2実施形態の寝間着100では、左開閉部8bの寸法L8bを第1実施形態の左開閉部8bの寸法L8bよりも長く形成されている。左開閉部8bは、左袖開放部6bと左脇開放部7bとで構成されており、左開閉部8bの寸法L8bは、左袖開放部6bの寸法L6bと左脇開放部7bの寸法L7bとの合計であるので、例えば、左袖開放部6bの寸法L6bを第1実施形態よりも長くすることで、不自由な左腕Laを、無理に大きく動かすことなく左袖部3bに通すことができる。つまり、被介護者Pにも介護者にも負担なく作業を完了することができる。このとき、左袖開放部6bは、左腕Laを負担無く左袖部3bに通すことができる最小の大きさに形成されている、つまり、左袖開放部6bの寸法L6bが左腕Laを負担無く左袖部3bに通すことができる最短の寸法に形成されているので、加工の程度は最小限で済み、寝間着100の外観視は、第1実施形態と同様の効果を奏することができる(図7参照。)。
なお、寝間着100において、右開閉部8aの寸法L8aと、左開閉部8bの寸法L8bとを上記と逆に構成した場合は、被介護者Pの左腕Laを先に左袖部3bに通し、その後で、右腕Raを右袖部3aに通すようにすればよい。また、寝間着1を被介護者から脱がすときは、実施形態1で説明した方法と同様に行えばよい。つまり、第2実施形態では、被介護者Pが、左右両方の腕Ra及びLaが不自由な状態であるときは、寝間着100は、左開閉部8bの寸法L8bが右開閉部8aの寸法L8aの寸法より長く形成されていても、右開閉部8aの寸法L8aが左開閉部8bの寸法L8bの寸法より長く形成されていても、先に通す腕の順番を変えるだけでよいといえる。
このように、第2実施形態においても、第1実施形態と同じ技術思想で構成された寝間着1を用いて、被介護者Pが左右両方の腕Ra,Laが不自由な状態でも、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
ここで、第1実施形態の左右開閉部8a,8bの寸法L8a,L8bの具体的な一例を示すと、一般的なLサイズの寝間着1において、右脇開放部7aの寸法L7a及び左脇開放7bの寸法L7bをそれぞれ16cmで同じにし、右袖開放部6aの寸法L6aを18.5cmにし、左袖開放部6bの寸法L6bを25cmにし、この構成を備えた寝間着1を、右腕が不自由で、左腕が自由で、自力で着替えが困難な寝たきり状態の被介護者に適用して、本願発明の目的を達成し、効果を奏することを確認した。