JP6352087B2 - 表面処理アルミニウム材及びその製造方法 - Google Patents
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図1に示すように、第1実施態様の表面処理アルミニウム材は、アルミニウム材1の表面に酸化皮膜1が形成されている。酸化皮膜1は、アルミニウム材側のバリア型酸化皮膜層4とその上の樹枝状酸化皮膜層5とから構成される。樹枝状酸化皮膜層5の表面には、深さ方向に向かう小孔51が形成されている。
本発明に用いるアルミニウム材としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金の成分には特に制限無く、JISに規定される合金をはじめとする各種合金を使用することができる。
2層構造の酸化皮膜1におけるバリア型酸化皮膜層4の厚さは、30nmを超え2000nm以下であり、好ましくは50〜1500nmである。30nm以下では、厚さが十分ではないため、十分な耐食性や耐疵付き性が得られない。一方、2000nmを超えると、バリア型酸化皮膜層4にクラックが入り、反って局部的に耐食性が低下する。また、2000nmを超えると、直流電解処理において1000V以上の高電圧をかける必要があり、生産性が悪化する虞がある。
樹枝状酸化皮膜層5の厚さは、20〜500nmであり、好ましくは30〜400nmである。20nm未満では厚さが不十分となり、後述する小孔構造が形成され難くなり、樹脂との密着性が低下する。一方、500nmを超えると、樹枝状酸化皮膜層自体が凝集破壊し易くなり、樹脂との密着性が低下する。
図2に示すように、第2実施態様の表面処理アルミニウム材は、アルミニウム材1の表面に酸化皮膜2が形成されている。酸化皮膜2は、アルミニウム材側のバリア型酸化皮膜層4と、その上の多孔性酸化皮膜層6と、更にその上の樹枝状酸化皮膜層5とから構成される。樹枝状酸化皮膜層5の表面には、深さ方向に向かう小孔51が形成されている。すなわち、第2実施態様の表面処理アルミニウム材は、バリア型酸化皮膜層4と樹枝状酸化皮膜層5との間に、多孔性酸化皮膜層6が介在する点で、第1実施態様の表面処理アルミニウム材と構造上相違する。
アルミニウム材としては、第1実施態様と同様に、純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金の成分には特に制限無く、JISに規定される合金をはじめとする各種合金を使用することができる。
3層構造の酸化皮膜2におけるバリア型酸化皮膜層4の厚さは、2層構造の酸化皮膜1におけるバリア型酸化皮膜層4と同じく、30nmを超え2000nm以下であり、好ましくは50〜1500nmである。30nm以下では、厚さが十分ではないため、十分な耐食性や耐疵付き性が得られない。一方、2000nmを超えると、バリア型酸化皮層4にクラックが入り、反って局部的に耐食性が低下する。また、2000nmを超えると、直流電解処理において1000V以上の高電圧をかける必要があり、生産性が悪化する虞がある。
樹枝状酸化皮膜層5の厚さは、2層構造の酸化皮膜1における樹枝状酸化皮膜層5と同じく、20〜500nmであり、好ましくは30〜400nmである。20nm未満では厚さが不十分となり、後述する小孔構造が形成され難くなり、樹脂との密着性が低下する。一方、500nmを超えると、樹枝状酸化皮膜層自体が凝集破壊し易くなり、樹脂との密着性が低下する。
3層構造の酸化皮膜2における多孔性酸化皮膜層6の厚さは100nm以下であり、好ましくは85nm以下である。この多孔性酸化皮膜層6は、樹枝状酸化皮膜層5とは構造が異なり、小孔がアルミニウム材表面に対して垂直方向に成長していることが特徴である。この多孔性酸化皮膜層6が、バリア型酸化皮膜層4と樹枝状酸化皮膜層5の間に介在することにより、表面処理したアルミニウム材を曲げ加工した際に酸化皮膜2全体にクラック等が入り難くなり、また、表面処理アルミニウム材に対する耐疵付き性が更に向上して、いわば緩衝材の作用効果を奏する。この多孔性酸化皮膜層6の厚さが100nmを超えると、曲げ加工の際に多孔性酸化皮膜層内部にクラックが生じる虞がある。なお、図2に示す多孔性酸化皮膜層6の小孔は、多孔性酸化皮膜層6を深さ方向に貫通しているが、貫通していなくても良い。
以下に、本発明に係る表面処理アルミニウム材の製造方法について説明する。
以上のような条件を満たした2層構造の酸化皮膜を表面に備えた第1実施態様の表面処理アルミニウム材を製造するための一つの方法として、表面処理されるアルミニウム材の電極と対電極とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5〜1000ppmのアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理した後に、交流電解処理で用いた電解溶液又はこれと異なる電解溶液を用いて、定電圧30〜1000Vに達してからその電圧での保持時間を5秒未満とする条件で直流電解処理することにより、2層構造の酸化皮膜を形成する方法を挙げることができる。
上述の3層構造の酸化皮膜を表面に備えた第2実施態様の表面処理アルミニウム材を製造するための一つの方法として、表面処理されるアルミニウム材の電極と対電極とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5〜1000ppmのアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理した後に、交流電解処理で用いた電解溶液又はこれと異なる電解溶液を用いて、定電圧30〜1000Vに達してからその電圧での保持時間を5〜300秒とする条件で直流電解処理することにより、3層構造の酸化皮膜を形成する方法を挙げることができる。
電解処理されるアルミニウム材として、縦500mm×横500mm×板厚1.0mmを有するJIS5052の平板を使用した。互いに結線されて対向する2枚の黒鉛の対電極板間において、アルミニウム合金板の両面がそれぞれ、対抗する黒鉛の対電極板面と平行になるように配設して電解処理を行った。両対電極板の寸法は、縦500mm×横550mm×板厚2.0mmとした。実施例73〜74では、図3における接続スイッチ122を切ることで、図中右側面のみに電解処理を行なった。
実施例1で用いたのと同じアルミニウム材、2つの対電極、ならびに、電解溶液と電解槽を用いて、これまた実施例1と同じ電極の配置で電解処理を行った。
比較例33及び34では、交流電解処理は行わず、表7に示す条件で直流電解処理のみを行った。
比較例35及び36では、交流電解処理は行わず直流電解処理を2回行った。具体的には、まず、表7に示す条件で1度目の直流電解処理を行い、次いで、この直流電解処理終了後から2回目の直流電解処理開始前までの間、アルミニウム材を表7に示す時間そのままの状態で浸漬した。更に、第1回目と同じ電解槽中で表7に示す条件で2回目の直流電解処理を行った。
比較例37では、実施例1において、交流電解処理と直流電解処理を入れ替えて行った。交流電解処理、浸漬処理及び直流電解処理の条件は、実施例1と同じである。
比較例38では、直流電解処理は行わず交流電解処理を2回行った。具体的には、まず、表7に示す条件で1度目の交流電解処理を行い、次いで、この交流電解処理終了後から2回目の交流電解処理開始前までの間、アルミニウム材を表7に示す時間そのままの状態で浸漬した。更に、第1回目と同じ電解槽中で表7に示す条件で2回目の交流電解処理を行った。
以上のようにして作製したアルミニウム材の試料に対し、TEMにより酸化皮膜層の断面観察を実施した。具体的には、酸化皮膜層の厚さ、酸化皮膜層の構造(酸化皮膜層の層数及び形状)、ならびに、樹枝状酸化皮膜層の小孔の直径を測定した。酸化皮膜層の厚さ、酸化皮膜層の構造、ならびに、樹枝状酸化皮膜層の小孔の直径を観察するために、ウルトラミクロトームを用いて供試材から断面観察用薄片試料を作製した。次に、この薄片試料において観察視野(1μm×1μm)中の任意の100点を選択してTEM断面観察により、酸化皮膜層の厚さの測定、酸化皮膜層の構造観察、ならびに、樹枝状酸化皮膜層の小孔の直径を各点で測定した。結果を、表8〜14に示す。なお、これらの表に示す酸化皮膜層の厚さと樹枝状酸化皮膜層の小孔の直径については、100点の測定結果の算術平均値とした。なお、実施例73〜74では、酸化皮膜を形成した面で評価を実施した。
上記のように作製したアルミニウム材の試料から長さ50mm、50mmに切断した供試材を10枚用意した。耐食性試験は、塩水噴霧試験方法(JIS Z 2371)に記載の中性塩水噴霧試験によって行った。供試材を中性塩水噴霧試験にかけて48時間後に取出し、腐食減量を測定して下記の基準で評価した。
◎:腐食減量が1.0g/m2未満のもの
○:腐食減量が1.0g/m2以上1.5g/m2未満のもの
△:腐食減量が1.5g/m2以上2.0g/m2未満のもの
×:腐食減量が2.0g/m2以上のもの
結果を表15〜21に示す。同表には、10個の供試材のうちの上記◎、○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが◎又は○からなる場合を合格、それ以外を不合格と判定した。なお、実施例73〜74では、酸化皮膜を形成した面で評価を実施した。
上記のアルミニウム材の試料から長さ50mm、50mmに切断した供試材を10枚用意した。供試材表面に大日本塗料(株)製「Vフロン#2000」を塗布しこれを乾燥して(160℃,20分)、30μmの厚さの樹脂塗膜を形成した試験片を作製した。この樹脂被覆アルミニウム板についてグラベロメーターを用いてチッピング試験を実施し、剥離及び傷の度合いを評価した。チッピング試験には7号砕石(200g)を使用し、エア圧0.5MPaの条件で実施した。評価基準は、以下の通りである。
◎:樹脂被覆アルミニウム板全体の1%未満の面積に、傷が認められる。
○:樹脂被覆アルミニウム板全体の1%以上10%未満の面積に傷が認められる。
△:樹脂被覆アルミニウム板全体の10%以上30%未満の面積に傷が認められる。
×:樹脂被覆アルミニウム板全体の30%以上の面積に傷が認められる。
結果を表15〜21に示す。同表には、10個の試験片のうちの上記◎、○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが◎又は○からなる場合を合格、それ以外を不合格と判定した。なお、実施例73〜74では、酸化皮膜を形成した面で評価を実施した。
上記耐疵付き性試験で用いたのと同じ樹脂被覆アルミニウム板の試験片を作製した。試験片を中性塩水噴霧試験にかけて48時間後に取出した。この試験片に対して、透明感圧付着テープによる剥離試験を実施した。塗膜残存率によって密着性を下記の基準で評価した。なお、密着性試験片は同じ供試材から10個の試験片を作製して、それぞれについて評価した。
◎:塗膜残存率が95%以上のもの
○:塗膜残存率が80%以上95%未満のもの
△:塗膜残存率が65%以上80%未満のもの
×:塗膜残存率が65%未満のもの
結果を表15〜21に示す。同表には、10個の試験片のうちの上記◎、○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが◎又は○からなる場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
上記酸化皮膜の耐食性評価、耐疵付き性評価及び樹脂密着性評価の全てが合格であったものを総合評価が合格とし、これら各評価の少なくともいずれか一つが不合格のものを総合評価が不合格とした。
2‥‥‥3層構造の酸化皮膜
3‥‥‥アルミニウム材
4‥‥‥バリア型酸化皮膜層
5‥‥‥樹枝状酸化皮膜層
51‥‥‥小孔
6‥‥‥多孔性酸化皮膜層
7‥‥‥対電極板
8‥‥‥対電極板
9‥‥‥アルミニウム板電極
10‥‥‥交流電源
11‥‥‥直流電源
121‥‥‥電源切り替えスイッチ
122‥‥‥対電極接続スイッチ
13‥‥‥電解溶液
Claims (6)
- アルミニウム材と、その少なくとも一方の表面に形成された2層構造の酸化皮膜とを含み、前記酸化皮膜は、アルミニウム材側のバリア型酸化皮膜層と、当該バリア型酸化皮膜層上の樹枝状酸化皮膜層とからなり、前記バリア型酸化皮膜層が30nmを超え2000nm以下の厚さを有し、前記樹枝状酸化皮膜層が20〜500nmの厚さを有し、かつ、その表面に直径5〜30nmの小孔が形成されていることを特徴とする表面処理アルミニウム材。
- アルミニウム材と、その少なくとも一方の表面に形成された3層構造の酸化皮膜とを含み、前記酸化皮膜は、アルミニウム材側のバリア型酸化皮膜層と、当該バリア型酸化皮膜層上の多孔性酸化皮膜層と、当該多孔性酸化皮膜層上の樹枝状酸化皮膜層とからなり、前記バリア型酸化皮膜層が、30nmを超え2000nm以下の厚さを有し、前記樹枝状酸化皮膜層が20〜500nmの厚さを有し、かつ、その表面に直径5〜30nmの小孔が形成されており、前記多孔性酸化皮膜層が100nm以下の厚さを有することを特徴とする表面処理アルミニウム材。
- 請求項1に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法において、表面処理されるアルミニウム材の電極と対電極とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5〜1000ppmのアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理した後に、交流電解処理で用いた電解溶液又はこれと異なる電解溶液を用いて、定電圧30〜1000Vに達してからその電圧での保持時間を5秒未満とする条件で直流電解処理することにより、前記2層構造の酸化皮膜を形成することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 請求項2に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法において、表面処理されるアルミニウム材の電極と対電極とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5〜1000ppmのアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理した後に、交流電解処理で用いた電解溶液又はこれと異なる電解溶液を用いて、定電圧30〜1000Vに達してからその定電圧での保持時間を5〜300秒とする条件で直流電解処理することにより、前記3層構造の酸化皮膜を形成することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記アルミニウム材が、交流電解処理終了後から直流電解処理開始前までの間に、交流電解処理で用いた電解溶液中又は直流電解で用いる電解溶液中に浸漬されている時間が60秒以内である、請求項3又は4に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記直流電解処理に用いる電解溶液が、交流電解処理で用いる電解溶液と同じである、請求項3〜5のいずれか一項に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
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