JP6563336B2 - 表面処理アルミニウム材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
図1に示すように、本発明に係る表面処理アルミニウム材1の表面の一部には、耐食性酸化皮膜3が形成されている。また、図2に示すように、耐食性酸化皮膜3が形成されていないアルミニウム材2の表面の部位には、多孔性酸化皮膜4が形成されている。
本発明に用いるアルミニウム材としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金の成分には特に制限無く、JISに規定される合金をはじめとする各種合金を使用することができる。形状としては特に制限されるものではないが、安定して処理皮膜を形成できることから平板状のものが好適に用いられる。
図1に示すように、本発明に用いるアルミニウム材2の表面の一部には、厚さが10〜100nm、好ましくは20〜80nmの不定形の耐食性酸化皮膜3が形成される。この耐食性酸化皮膜3は単層構造の皮膜である。単層構造ではない複層構造の場合には、表層と中間層の間ですき間腐食が発生するため、十分な耐食性を示さない。また、アルミニウム材2の全面に耐食性酸化皮膜3を形成させることもできる。耐食性酸化皮膜3の厚さが10nm未満の場合には、十分な耐食性が得られない。一方、100nmを超える場合には、耐食性酸化皮膜厚さの制御が困難となり処理ムラが発生する。
耐食性酸化皮膜が形成されていない部位のアルミニウム材表面には、図2に示すように、多孔性酸化皮膜4が形成されている。多孔性酸化皮膜4は、アルミニウム材2の素地側のバリア型アルミニウム酸化皮膜層41と、表層側のポーラス型アルミニウム酸化皮膜層42とから構成される。
ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層42の厚さは、20〜500nmである。20nm未満では厚さが十分でないため、後述する小孔構造の形成が不十分になり易く接着力や密着力が低下する。一方、500nmを超えると、ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層自体が凝集破壊し易くなり接着力や密着力が低下する。ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層42の厚さは、好ましくは30〜400nmである。
バリア型アルミニウム酸化皮膜層41とは、厚さ3〜30nmの緻密な酸化皮膜である。厚さが3nm未満では、介在層としてポーラス型アルミニウム酸化皮膜層4とアルミニウム素地2との結合に十分な結合力を付与することができず、特に、高温・多湿等の過酷環境における結合力が不十分となる。一方、30nmを超えると、その緻密性ゆえにバリア型アルミニウム酸化皮膜層3が凝集破壊し易くなり、かえって接着力や密着力が低下する。なお、バリア型アルミニウム酸化皮膜層41の厚さは、好ましくは5〜25nmである。
多孔性酸化皮膜4全体の厚さ、すなわち、C−1に記載のポーラス型アルミニウム酸化皮膜層42とC−2に記載のバリア型アルミニウム酸化皮膜層41との厚さの合計は、多孔性酸化皮膜4が形成されたいかなる場所で測定しても、その変動幅が±50%以内でなければならず、好ましくは±20%以内である。すなわち、アルミニウム材表面における任意の複数箇所(10箇所以上が望ましく、これら各箇所においても10点以上の測定点とするのが望ましい)で測定した多孔性酸化皮膜全体厚さの算術平均値をT(nm)とした場合、これら複数測定箇所の全てにおける多孔性酸化皮膜全体厚さが(0.5×T)〜(1.5×T)の範囲にある必要がある。(0.5×T)未満の箇所が存在すると、その箇所の多孔性酸化皮膜がその周囲より薄くなる。そうすると、この薄い箇所では、接着すべき接着剤や密着すべき樹脂層などと多孔性酸化皮膜との間に隙間が生じ易くなり、十分な接触面積を確保できずに接着力や密着力が低下する。
以上のような条件を満たした耐食性酸化皮膜と多孔性酸化皮膜を表面に備えた表面処理アルミニウム材を製造するための一つの方法として、表面処理されるアルミニウム材の電極と、アルミニウム材に結線されてアルミニウム材表面近傍に設置される導電材と、対電極として後述の材質の電極とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5ppm以上1000ppm以下のアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理することにより、導電材に対向するアルミニウム材表面の部位には耐食性酸化皮膜が形成され、対電極に対向するアルミニウム材表面の部位には多孔性酸化皮膜が形成される方法を挙げることができる。なお、アルミニウム材の全表面を導電材に対向させることで、その表面に耐食性酸化皮膜のみを形成させることもできる。
以上のようにして作製した供試材に対し、TEMにより耐食性酸化皮膜の断面観察を実施した。具体的には、耐食性酸化皮膜の厚さを測定し、更に、耐食性酸化皮膜の構造(皮膜層が単層構造であるか否か)を観察した。耐食性酸化皮膜の厚さの測定、ならびに、耐食性酸化皮膜の構造の観察のために、ウルトラミクロトームを用いて供試材から断面観察用薄片試料を作製した。次に、この薄片試料において観察視野(1μm×1μm)中の任意の100点を選択してTEM断面観察により、耐食性酸化皮膜の厚さの測定、ならびに、耐食性酸化皮膜が単層構造でるか否かを観察した(単層構造の場合を○、単層構造でない場合を×とした)。耐食性酸化皮膜の厚さが10〜100nmであり、かつ、耐食性酸化皮膜が単層構造である場合の評価が合格(○)とし、耐食性酸化皮膜の厚さが10〜100nmの範囲にない場合及び耐食性酸化皮膜が単層構造でない場合の少なくともいずれかの場合の評価を不合格(×)とした。以上の結果を、表2に示す。
多孔性酸化皮膜層においても、TEMにより断面観察を実施した。具体的には、多孔性酸化皮膜層におけるポーラス型アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さ、ならびに、多孔性酸化皮膜層の小孔の直径を測定した。これらを測定するために、ウルトラミクロトームを用いて供試材から断面観察用薄片試料を作製した。次に、この薄片試料において観察視野(1μm×1μm)中の任意の100点を選択してTEM断面観察により、多孔性酸化皮膜層におけるポーラス型アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さ、多孔性酸化皮膜層の小孔の直径を各点で測定した。このようにして測定した100点のポーラス型アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の合計厚さの最大値、最小値及び算術平均値を求めた。また、ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅が算術平均値の±50%以内にあるか否かについても調べた。具体的には、算術平均値をT(nm)とした場合に、最大値及び最小値を含めた全ての合計厚さが(0.5×T)〜(1.5×T)の範囲にある場合を合格(○)とし、範囲にない場合を不合格(×)とした。なお、実施例24では、対電極と対向する側の面を用いた。以上の結果を、表2に示す。
各供試材から、長さ50mmで幅50mmに切断したものを10枚用意した。耐食性試験は、塩水噴霧試験方法(JIS Z 2371)に記載のCASS試験によって行った。得られた陽極酸化処理品をCASS試験にかけて3時間後に取出し、耐食性酸化皮膜における腐食面積を測定して腐食面積率の評価を行った。ここで、腐食面積率(%)とは、[(腐食面積)/(耐食性酸化皮膜の全面積)]×100とした。
○:腐食面積率が10%未満のもの
△:腐食面積率が10%以上50%未満のもの
×:腐食面積率が50%以上のもの
結果を表3に示す。同表には、10個の試験片のうちの上記○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが○の場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
FT−IRにより、耐食性酸化皮膜のピーク吸収波数b(cm−1)と、ピーク吸収波数bにおけるピーク吸収率a(%)を測定した。FT−IRのディテクター(検出器)は、測定可能な波数が広範囲(400〜4000cm−1)のものを使用した、試料面積は、30mm×50mmとした。結果を表3に示す。同表には、ピーク吸収率a(%)とピーク吸収波数b(cm−1)が、1≦a≦95、かつ、ピーク吸収率a(%)及びピーク吸収波数b(cm−1)の関係がb≧3a+710を満たす場合を合格(○)とし、範囲にない場合を不合格(×)とした。
供試材から、長さ50mmで幅25mmに切断したものを2枚用意した。これら2枚の供試材同士を全幅方向に沿って接着幅10mmをもって、多孔性酸化皮膜の形成面同士を重ね合わせ、市販の2液型エポキシ接着剤(主剤=変性エポキシ樹脂、硬化剤=変性ポリイミド、重量混合比=主剤100/硬化剤100)によって重ね合わせ部分を接着して、せん断試験片を作製した。2枚の供試材の長さ方向の端部を引張試験機により10mm/分の速度にて長さ方向に沿って反対向きに引張り、その荷重(せん断応力に換算)と剥離状態によって接着剤接着性を下記の基準で評価した。なお、せん断試験片は10組の試験片を作製して、それぞれについて評価した。なお、実施例24では、対電極と対向する側の面を用いた。
○:せん断応力が20N/mm2以上で、かつ、接着剤層自身が凝集破壊した状態
△:せん断応力が20N/mm2以上であるものの、接着剤層と供試材が界面剥離した状態
×:せん断応力が20N/mm2未満で、かつ、接着剤層と供試材が界面剥離した状態
結果を表3に示す。同表には、10組の試験片のうちの上記○、△、×の組数をそれぞれ示すが、全てが○の場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
上記供試材の多孔性酸化皮膜側の表面に大日本塗料(株)製「Vフロン#2000」を塗布しこれを乾燥して(160℃,20分)、30μmの厚さの樹脂塗膜を形成した密着性試験片を作製した。JIS−K5600−5−6に準拠した方法で、この密着性試験片の樹脂塗膜にカッターナイフを用いて1mm角の碁盤目カットを入れた。次いで、試験片に125℃で30分のレトルト浸漬処理を施した後に、直ちに処理液から取り出して水分をふき取った。この試験片に対して、透明感圧付着テープによる剥離試験を実施した。塗膜残存率によって密着性を下記の基準で評価した。なお、密着性試験片は同じ供試材から10個の試験片を作製して、それぞれについて評価した。なお、実施例24では、対電極と対向する側の面を用いた。
○:塗膜残存率が100%のもの
△:塗膜残存率が75%以上100%未満のもの
×:塗膜残存率が75%未満のもの
結果を表3に示す。同表には、10個の試験片のうちの上記○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが○の場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
耐食性酸化皮膜の耐食性評価と膜質評価、ならびに、多孔性酸化皮膜の接着剤接着性評価と塗膜密着性評価の全てが合格であったものの総合評価を合格とし、これら各評価の少なくともいずれか一つが不合格のものの総合評価を不合格とした。
2・・・アルミニウム材
3・・・耐食性酸化皮膜
4・・・多孔性酸化皮膜
41・・・バリア型アルミニウム酸化皮膜層
42・・・ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層
420・・・小孔
5・・・対電極
6・・・導電材
7・・・交流電源
8・・・電解溶液
Claims (8)
- アルミニウム材と、その表面の一部に形成された不定形で単層構造を有する耐食性酸化皮膜と、前記アルミニウム材表面の耐食性酸化皮膜が形成されていない部位に形成された多孔性酸化皮膜とを含み、
前記耐食性酸化皮膜は、10〜100nmの厚さを有し、FT−IR分析によるピーク吸収波数をb(cm−1)とし、ピーク吸収波数bにおけるピーク吸収率をa(%)とした際に、1≦a≦95、かつ、b≧3a+710の関係を満たし、
前記多孔性酸化皮膜は表面側に形成された厚さ20〜500nmのポーラス型アルミニウム酸化皮膜層と素地側に形成された厚さ3〜30nmのバリア型アルミニウム酸化皮膜層とから成り、前記ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層には直径5〜30nmの小孔が形成されており、アルミニウム材表面に形成された多孔性酸化皮膜全体において、前記ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅が、当該合計厚さの算術平均値の±50%以内であることを特徴とする表面処理アルミニウム材。 - 前記ピーク吸収波数b(cm−1)が、Al−Oの最も強い伸縮振動に起因するピークの波数であり、720≦b≦995の範囲に現れる、請求項1に記載の表面処理アルミニウム材。
- 前記ポーラス型アルミニウム酸化皮膜層の見かけ上の表面積に対する小孔の全孔面積の比が25〜75%である、請求項1又は2に記載の表面処理アルミニウム材。
- 表面処理されるアルミニウム材の電極と、対電極と、前記アルミニウム材電極に結線された導電材とを用い、pH9〜13で液温35〜85℃であり、かつ、溶存アルミニウム濃度が5ppm以上1000ppm以下のアルカリ性水溶液を電解溶液とし、周波数10〜100Hz、電流密度4〜50A/dm2及び電解時間5〜60秒間の条件で交流電解処理することにより、対電極に対向する前記アルミニウム材表面に多孔性酸化皮膜を形成するとともに、アルミニウム材電極と結線された導電材に対向する前記アルミニウム材表面に不定形で単層構造を有する耐食性酸化皮膜を同時に形成することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記表面処理されるアルミニウム材の電極と、対電極が共に平板状であり、電解溶液中の前記アルミニウム材電極に結線された導電材の面積は、耐食性酸化皮膜を形成させたい面積の80〜150%であり、前記導電材とアルミニウム材との距離が1〜50mmである、請求項4に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記アルミニウム材電極に結線された導電材がステンレス鋼材又は銅材からなる、請求項4又は5に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記アルミニウム材電極の一方の面側にこの面と対向するように導電材を配置し、アルミニウム材電極の他方の面側にこの面と対向するように対電極を配置することにより、アルミニウム材電極の前記一方の面に耐食性酸化皮膜が形成され、前記他方の面に多孔性酸化皮膜が形成される、請求項4〜6のいずれか一項に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
- 前記アルミニウム材電極の他方の面側にこの面と対向するように対電極を配置し、当該他方の面と対電極との間において、アルミニウム材電極の他方の面の一部と対向するように導電材を配置し、アルミニウム材電極の他方の面の前記一部と相補的な他の部位と対向するように前記対電極を配置することにより、アルミニウム材電極の他方の面の前記一部に耐食性酸化皮膜が形成され、アルミニウム材電極の前記他の部位に多孔性酸化皮膜が形成される、請求項4〜6のいずれか一項に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
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