JP6348786B2 - 多層シートの製造装置と製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱可塑性樹脂からなる多層シートの製造装置と製造方法に関する。
現在、高分子シートまたはフィルムの高機能化を目指して、様々な複合材料が検討されている。複合化のための代表的な方法として、高分子同士のアロイ化がある。しかし、アロイ化では均一に分散させるためには、高分子同士の相溶性や分散技術など、検討するべき課題も多い。また、樹脂種の組み合わせによっては、事前にコンパウンドを形成する工程が必要になり、コストアップにも繋がる。
別の複合化の方法として、複数の材料を多層積層させることで高機能性を付与する方法がある。この場合、異なる材料を積層するにあたって、多層シート材料の各層の厚さ分布を精度よく制御することが重要なポイントとなる。例えば、光学用途に使用される多層フィルムでは、厚さ分布の均一性がその多層フィルムの光学的特性を決定する。つまり、多層シートの機能性は各層の厚さ精度に大きく依存する。
多層シートを製造する方法として、複数のマニホールドから樹脂を押出し、一旦、少ない層数(2〜3)の積層体を作り、その積層体をスリットに通し、幅方向に分割し、その後それらを再び積層させることによって、多層の積層体を作り出す方法がある。しかし、このような方法であると、各層を積層後の樹脂流路が複雑になるため、積層する樹脂の溶融粘度や親和性などの特性が異なると、シート幅方向ならびにシート流れ方向での各層の厚さムラやシートの外観不良などの問題が生じ易い。このため、実際に使用できる樹脂の組み合わせは限られたものになり、狙った特性を引き出すことが難しくなる。
多層シートの各層の厚さムラを改善するために、マニホールドの構造の検討や多層スリットの構造の検討などが行われている(例えば、特許文献1〜3)。
特開2009―56797 特開2008―273186 特開2006−159537
これらの文献に記載された方法によれば、使用する熱可塑性樹脂(以下、単に「樹脂」ということもある。)がポリエステル系樹脂やポリカーボネート系樹脂等の比較的構造粘性の低い樹脂であれば、均一な層厚さとなる可能性を有している。しかし、ポリスチレン系樹脂やABS樹脂といった比較的構造粘性の高い樹脂を使用すると、メルトフラクチャー等が発生し易くなるため、均一な厚さの層構成とすることが困難となる。
本発明は、構造粘性の高い熱可塑性樹脂を使用した場合であっても、メルトフラクチャー等の外観不良が少なく、各層の厚さの均一性に優れた多層シートを製造する製造装置および製造方法を提供することを課題としている。
本発明者等は、上記課題を解決するために、検討を進めた結果、特に、多層シート製造装置を構成するスリットユニットの後部に、特定構造の並列部を設けること等によって、比較的溶融粘度の高い樹脂であっても、樹脂層の流動の乱れを抑えて、精度の高い多層構造を形成させることが可能となることを見出して、本発明に到達したものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有するものである。
(1)本発明の多層シート製造装置は、組成の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とが交互に積層した多層シートを製造するための多層シート製造装置であって、溶融した第1の熱可塑性樹脂と溶融した第2の熱可塑性樹脂とを異なる流路を介して、それぞれ複数のスリット流路に導入させる樹脂導入ユニットと前記第1の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路と、前記第2の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路とを有し、前者のスリット流路と後者のスリット流路が交互に積層して配置されているスリットユニットと、前記スリットユニットから導入された第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を、積層させた状態で合流させ、流路の幅方向に拡張させて導出する樹脂拡張ユニットと、前記樹脂拡張ユニットから導入された樹脂を多層シートとして押し出すTダイとを備え、前記スリットユニットのスリット流路数が合計9〜150であり、前記スリットユニットの樹脂導入口における各スリット流路の高さが0.5〜10mmであり、前記スリットユニットの後部に、各スリット流路の高さと幅と長さが同一で、長さが30〜70mmであるスリット流路が積層された並列部を有することを特徴としている。
(2)また、前記スリットユニットの各スリット流路の長さが50〜150mmである前記1に記載の多層シート製造装置である。
(3)また、前記樹脂拡張ユニットにおいて、樹脂導入部の開口部の断面積に対する樹脂導出部の開口部の断面積の比率が、0.30〜0.85である前記1または前記2に記載の多層シート製造装置である。
)本発明の多層シートの製造方法は、前記1〜前記のいずれか1項に記載の多層シート製造装置を使用する製造方法である。
)また、前記多層シートが、構造粘性の高い2種類の熱可塑性樹脂が交互に少なくとも9層積層された多層シートである前記に記載の多層シートの製造方法である。
本発明の製造装置および製造方法は、構造粘性の高い熱可塑性樹脂を使用した場合であっても、メルトフラクチャー等の外観不良が少なく、各層の厚さの均一性に優れた多層シートを製造することができる。
本実施形態に係る多層シート製造装置の模式的概要図である。図1(a)は平面図であり、図1(b)は断面図である。 本実施形態に係る多層シート製造装置のスリットユニットの模式的概要図である。図2(a)は平面図であり、図2(b)は(a)のX部分の拡大斜視図である。 本実施形態に係る多層シート製造装置の樹脂拡張ユニットの模式的概要図である。図3(a)は平面図であり、図3(b)は(a)のY部分の拡大斜視図である。 本発明の実施例に係る多層シートの拡大断面図である。 本発明の比較例に係る多層シートの拡大断面図である。 本発明の比較例に係る多層シートの外観平面図である。
以下に、本発明の実施形態について詳細に述べるが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
[多層シート製造装置]
本実施形態の多層シート製造装置は、組成の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とが交互に積層した多層シートを製造するための多層シート製造装置である。
図1は、本実施形態に係る多層シート製造装置1の模式的概要図である。図1(a)は平面図であり、図1(b)は断面図である。本実施形態に係る多層シート製造装置1は、その構成ユニットとして、樹脂導入ユニット2、スリットユニット3、樹脂拡張ユニット4およびTダイ5とを備えている。
以下、これらの構成ユニットについて、順次説明する。
(樹脂導入ユニット2)
樹脂導入ユニット2は、溶融した第1の熱可塑性樹脂と溶融した第2の熱可塑性樹脂とを異なる流路を介して、それぞれ複数のスリット流路に導入させるためのユニットである。マニホールドとも表現される。樹脂導入ユニット2は、第1の熱可塑性樹脂に係る樹脂流路7Aと第2の熱可塑性樹脂に係る樹脂流路7Bの2つの樹脂流路を有している(図1参照)。
第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂はそれぞれ、多層シート製造装置1の外部に存在する押出機等の加熱装置(不図示)によって、溶融混練された後、多層シート製造装置1に供給される。
第1の熱可塑性樹脂は、溶融した状態で、樹脂取り入れ口6Aに供給される。その後、第1の熱可塑性樹脂は、樹脂流路7A内を通過して、複数の流路に均等に分流され、次のスリットユニット3の中の第1の熱可塑性樹脂に係る複数のスリット流路8Aに導かれていく。
同様に、第2の熱可塑性樹脂は、溶融した状態で、樹脂取り入れ口6Bに供給される。その後、第2の熱可塑性樹脂は、樹脂流路7B内を通過して、複数の流路に均等に分流され、次のスリットユニット3の中の第2の熱可塑性樹脂に係る複数のスリット流路8Bに導かれていく。
すなわち、樹脂導入ユニット2内には、2種の溶融した熱可塑性樹脂の流れをそれぞれ、複数の流路に均等に分流させて、次のスリットユニット3中のスリット流路8A、8Bに導入させるための2組の樹脂流路7A、7Bが設置されている。樹脂導入ユニット2内には、所定の温度に制御できるようにヒータや冷却管が敷設されている。
(スリットユニット3)
スリットユニット3は、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とをそれぞれ、交互に重なった複数の異なるスリット流路8A、8B内を搬送させて、次の樹脂拡張ユニット4において円滑に交互に合流できるように、溶融樹脂の流れを制御するユニットである。
スリットユニット3は、第1の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路8Aと、第2の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路8Bとを有している。そして、前者の第1の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路8Aと後者の第2の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路8Bは、交互に積層して配置されている。また、第1の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Aと、第2の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Bとは、図1(a)の平面図で見た際に、互いにほぼ対称となるようにスリット流路が形成されている。このことによって、スリット流路8Aとスリット流路8Bを流れる2種の熱可塑性樹脂間に熱的・流体的な履歴に大きな差異が生じないようにしている。尚、スリットユニット3内には、所定の温度に制御できるようにヒータや冷却管が敷設されている。
図2は、本実施形態に係る多層シート製造装置1のスリットユニット3の模式的概要図である。図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のX部分の拡大斜視図である。図2において、スリット流路8A、8Bは、第1の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Aと第2の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Bとが互いにほとんど重なっていない部分と、互いに重なっている並列部9とに分けることができる。
スリットユニット3のスリット流路数は、合計9〜150である。スリット流路数は、合計15〜120であることがより好ましい。ここで、スリット流路数は、第1の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Aの数と第2の熱可塑性樹脂を搬送するためのスリット流路8Bの数との合計の数をいう。スリット流路数が合計9未満では、一般的に知られているフィードブロックやマルチマニホールドといった設備を用いて多層積層する方法に比べて設備が大型化し、複雑となり多層積層させる装置として好ましくない。またスリット流路数が合計150を超えると、多層シートでの各層厚さが均一に保てない。
スリットユニット3の各樹脂に対応する樹脂導入口10A、10Bにおける各スリット流路の高さHa、Hbはいずれも、0.5〜10mmである。0.8〜5mmであることがより好ましい。スリット流路の高さHが0.5mm未満であると、樹脂押出時の圧力損失が大きくなり、押出機にかかる樹脂圧力が高くなり、シート化に適さない。また、スリット流路の高さHが10mmを超えると、スリットユニット3が大型化し、多層シートでの各層厚さが均一に保てない。尚、第1の熱可塑性樹脂の樹脂導入口10Aにおける複数のスリット流路の高さHaと第2の熱可塑性樹脂の樹脂導入口10Bにおける複数のスリット流路の高さHbは、通常、同一である。
スリットユニット3における各スリット流路の長さL1は、50〜150mmであることが好ましく、70〜120mmであることがより好ましい。ここで、スリット流路の長さL1とは、スリットユニット3の樹脂導入口10A、10Bの辺と樹脂導出口11の辺間の最短距離を意味する。スリット流路の長さL1が50mmより短いと、スリット流路を通過後、各層が合流した際、各層同士の層界面が不明瞭となり、多層シートでの各層厚さが均一に保てなくなるおそれがある。また、スリット流路の長さL1が150mmより長いと、樹脂押出時の圧力損失が大きくなり、押出機にかかる樹脂圧力が高くなって、多層シート化ができなくなるおそれがある。
スリットユニット3における各スリット流路の幅は、多層シートの製造の容易性の観点から、10〜60mmであることが好ましく、20〜50mmであることがより好ましい。
スリットユニット3の並列部9は、スリットユニット3の後部に存在し、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂に係るそれぞれ複数のスリット流路8A、8Bが並列に積層した構造を有している。並列部9においては、各スリット流路8A、8Bの高さと幅と長さが同一である。すなわち、並列部9は、平面図で見ると矩形をしている(図面2(a)参照)。
並列部9におけるスリット流路の長さL2は30〜70mmである。40〜60mmであることがより好ましい。ここで、並列部9におけるスリット流路の長さL2とは、並列部9の樹脂導入口の辺と樹脂導出口11の辺間の最短距離を意味する。並列部9におけるスリット流路の長さL2が30mmよりも短いと、各層合流直後の層界面が安定せず、多層シートでの各層厚さが均一に保てない。また、並列部9におけるスリット流路の長さL2が70mmよりも長いと、樹脂押出時の圧力損失が大きくなり、押出機にかかる樹脂圧力が高くなりシート化に適さない。また、並列部9における各スリット流路の高さは0.5〜10mmであることが好ましい。並列部9における各スリット流路の幅は10〜60mmであることが好ましい。
スリットユニット3の並列部9において、各スリット流路8A、8Bを仕切る隔壁(金属板)の厚さは、0.5〜10mmであることが好ましく、0.8〜5mmであることがより好ましい。各スリット流路8A、8Bを仕切る隔壁の厚さが0.5mm未満では、樹脂押出時の圧力に金属板が耐えきれず変形してしまい、均一な層構成比率が得られなくなるおそれがある。また、隔壁の厚さが10mmを超えると、スリットユニット3が大型化し、シート化する際に圧縮割合が大きくなり、多層シートでの各層厚さが均一に保てなくなるおそれがある。
スリットユニット3の後部に、並列部9を設けることによって、溶融した各樹脂は、並列部9内を直線状に定常的に流れることとなり、並列部9に至るまでに外部から与えられ、内部に蓄積された溶融流体としての歪みからある程度開放されるものと推定している。その結果、その後、下記の樹脂拡張部4の導入部において、2種類の溶融した樹脂が積層されて合流するときにおいても、歪みが少ない状態で合体することとなり、界面の乱れやメルトフラクチャー等の歪みが生じにくいものとなる。この効果は、ポリスチレン樹脂やABS樹脂といった溶融時の粘度が高く、比較的構造粘性の高い樹脂を使用したときに、より顕著に有効に働くものである。
(樹脂拡張ユニット4)
樹脂拡張ユニット4は、スリットユニット3から導入された第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を、積層させた状態で合流させ、流路の幅方向に拡張させて導出するユニットである。スリットユニット3の積層された複数のスリット流路8A、8Bを通過してきた各熱可塑性樹脂は、樹脂拡張ユニット4の入口で、各スリット流路8A、8Bを仕切る隔壁がなくなるために、互いに合流することとなる。
図3は、本実施形態に係る多層シート製造装置1の樹脂拡張ユニット4の模式的概要図である。図3(a)は平面図であり、図3(b)は拡大斜視図である。スリットユニット3から導入された2種の熱可塑性樹脂は、樹脂拡張ユニット4の樹脂導入部13で合流して一体となった後に、樹脂流路12を通過していく間に、スリット状の流路の幅方向に伸ばされ、スリット状の流路の高さ方向に圧縮されていく。すなわち、樹脂拡張ユニット4において、次のTダイ5において積層シートを押し出す前段階として、所望の幅および厚さの積層シートへと成形される。尚、樹脂拡張ユニット4内には、所定の温度に制御できるようにヒータや冷却管が敷設されている。
樹脂拡張ユニット4の樹脂導入部13の開口部の断面積に対する樹脂導出部14の開口部の断面積の比率は、0.30〜0.85であることが好ましい。0.35〜0.80であることがより好ましい。このような開口部の断面積の比率のときに、樹脂圧力が適度に高められて、各層の厚さの均一性を高めることが可能となる。比率が0.30よりも小さいと、樹脂押出時の圧力損失が大きくなり、押出機にかかる樹脂圧力が高くなるおそれがある。また、比率が0.85を超えてしまうと、樹脂流路12において流路を圧縮する割合が小さくなり、樹脂の流れを制御することが不十分となり、多層シートでの各層厚さが均一に保てなくなるおそれがある。
樹脂拡張ユニット4の樹脂流路12の形状は、流路幅が直線状に拡大する形状となっていることが好ましい。すなわち、樹脂流路12の平面図では、左右対称の台形となっていることが好ましい(図3(a)参照)。台形の左右の辺は、内側に湾曲した曲線であったり、外側に湾曲した曲線であったりするよりも、直線であることが好ましい。台形の左右の辺が直線であるときに、中を流れる溶融した樹脂に対して歪みを与えることが少なく、メルトフラクチャー等の流動の歪みが生じることが少なくなるからである。
(Tダイ5)
Tダイ5は、樹脂拡張ユニット4から導入された樹脂を多層シートとして押し出すものである。樹脂拡張ユニット4において、所定の幅および厚さに成形された溶融した積層樹脂シートは、Tダイ5において、精度を高めた多層シートとなって、押し出される。Tダイ5内には、所定の温度に制御できるようにヒータや冷却管が敷設されている。Tダイ5としては公知のものを用いることができる。
Tダイ5から押し出された溶融した多層シートは、その後、必要に応じて、延伸工程や冷却工程等を経て、多層シートとして巻き取られることとなる。
(熱可塑性樹脂)
本実施形態において、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とは、組成が異なっている。ここで、組成が異なるとは、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂の化学構造が異なっていたり、結合の仕方(分岐構造、連鎖の順番、立体構造等)が異なっていたり、モルフォロジーが異なっていたり、溶融粘度が異なっていたりする場合を含んでいる。
本実施形態の第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂はそれぞれ、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂およびエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂から選択されたいずれか1種であるか、または2種以上の混合物であることが好ましい。これらの樹脂はいずれも、公知の製造方法により製造されたものを使用でき、その製造方法に限定されるものではなく、市販の樹脂を使用することができる。また、いずれも透明な樹脂を用いると、特異な光学的特性を発揮させることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン系樹脂、ポリ−1−ブテン等の脂肪族オレフィン化合物の単独重合体及びこれらの共重合体が挙げられる。共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−メチルペンテン共重合体等が挙げられる。尚、ポリプロピレン系樹脂とは、ポリプロピレンのホモポリマー及びプロピレンユニットを50モル%以上含有するポリオレフィン共重合体を含む。
ポリエステル系樹脂としては、芳香族または脂肪族多官能カルボン酸と多官能グリコールより得られるポリエステル樹脂以外に、ヒドロキシカルボン酸系のポリエステル樹脂も使用可能である。前者の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびこれらのその他の共重合体が挙げられる。共重合体としては、ポリアルキレングリコール、ポリカプロラクトンなどを共重合したポリエステル樹脂などが挙げられる。後者の具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。前者と後者の共重合体や混合物(ブレンド)も使用可能である。
ポリスチレン系樹脂としては、スチレンのホモポリマーであるGPポリスチレン、ポリブタジエンにスチレンがグラフト共重合したハイインパクトポリスチレン(以下、HIPSと略す。)、ポリスチレンとポリブタジエンのジブロック及びトリブロック共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体等が挙げられる。これらの中では、GPポリスチレン及びHIPSをそれぞれ第1の熱可塑性樹脂及び第2の熱可塑性樹脂として使用するのが好ましい。
ABS樹脂は、シアン化ビニル単量体−ジエン系ゴム−芳香族ビニル単量体の3元共重合体を主成分とするものである。代表的な樹脂としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの3元共重合体を主成分とする樹脂又は樹脂組成物がある。その具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体とアクリロニトリル−スチレン2元共重合体の混合物が挙げられる。
AS樹脂は、シアン化ビニル単量体−芳香族ビニル単量体の2元共重合体を主成分とするものである。代表的な樹脂としては、アクリロニトリル−スチレンの2元共重合体がある。ABS樹脂とAS樹脂の中では、ABS樹脂同士またはABS樹脂とAS樹脂をそれぞれ第1の熱可塑性樹脂及び第2の熱可塑性樹脂として使用するのが好ましい。
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物単位をカーボネート基で重合した構造を有している。ジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、特に、2つの芳香族ジヒドロキシ化合物がある種の結合基を介して結合した芳香族ジヒドロキシ化合物(ビスフェノール)が好ましい。公知の製造方法により製造されたものを使用でき、その製造方法に限定されるものではなく、市販の樹脂を使用することができる。
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、エチレンとビニルアルコールとの共重合体である。高いガスバリア性を有しているため、多層シートの一方の層を構成することによって、多層シートにガスバリア性を付与することができる。
本実施形態において、構造粘性の高い樹脂とは、多層シート製造時の温度において、剪断速度が30〜500(1/s)のときに、溶融粘度が500〜5000(Pa・s)であるものをいう。一方、構造粘性の低い樹脂とは、多層シート製造時の温度において、剪断速度が30〜500(1/s)のときに、溶融粘度が10(Pa・s)以上で500(Pa・s)未満であるものをいう。上記の各種樹脂の中では、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂などの非晶性樹脂が、構造粘性の高い樹脂に相当する。
以上説明してきたように、本実施形態の製造装置は、スリットユニット3の後部に、スリット流路が積層された並列部9を有していること、2種の熱可塑性樹脂を、積層させた状態で合流させ、流路の幅方向に拡張させて導出する樹脂拡張ユニット4を有していること、等の理由から、構造粘性の高い樹脂を使用した場合であっても、多層シートの製造時において、溶融樹脂の乱れの発生が極力小さく抑制され、メルトフラクチャー等の外観不良の少ない多層シートを製造することができる。
本実施形態の製造装置を使用することによって、メルトフラクチャー等の外観不良が少なく、各層の厚さの均一性に優れた多層シートを製造することができる。特に、構造粘性の高い2種類の熱可塑性樹脂が交互に少なくとも9層積層された多層シート等を製造することができる。
そして、各層の厚さの均一性に優れた多層シートであれば、光学的性能において精度が向上し、熱的性質や機械的性質において性能のばらつきを減少させることができる。
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
第1の熱可塑性樹脂としてHIPS(東洋スチレン社製、「H850」)を用い、第2の熱可塑性樹脂としてGPポリスチレン(東洋スチレン社製、「G200C」)を用いて、それぞれ別々のφ40mmの単軸押出機で溶融混練し240℃の溶融状態とし、これらの溶融樹脂を図1に示す樹脂導入ユニット2の樹脂取り入れ口6から導入した。その後、スリットユニット3、樹脂拡張ユニット4を経て、Tダイ5から押し出して、多層シート化した。その後、80℃に温調したロールで冷却固化させることで16層構成の多層シートを作製した。得られた多層シートの平均厚みは200μmであり、第1の熱可塑性樹脂層の平均厚みは12.5μm、第2の熱可塑性樹脂層の平均厚みは12.5μmであった。
尚、スリットユニット3のスリット流路数は、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂の流路数がそれぞれ8の合計16のものを用いた。スリットユニット3の構造は、各スリット流路の高さ4mm、各スリット流路の幅20mm、並列部9において各スリット流路の隔壁の厚さ2mm、各スリット流路の長さ(L1)80mm、並列部9における各スリット流路の長さ(L2)40mm、樹脂拡張ユニット4の樹脂導入部の開口部の断面積に対する樹脂導出部の開口部の断面積の比率(開口部断面積比)0.78とした。また、並列部における各スリット流路の高さは4mm、並列部における各スリット流路の幅は20mmとした。
(実施例2)
第1の熱可塑性樹脂としてABS樹脂(電気化学工業社製、「SE−10」)、第2の熱可塑性樹脂としてAS樹脂(電気化学工業社製、「GR−ATR」)を用いた以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(実施例3)
第1の熱可塑性樹脂としてPET樹脂(東レ社製、「F20S」)、第2の熱可塑性樹脂としてPC樹脂(帝人化成社製、パンライト(登録商標)「L―1225」)を用い、樹脂温度を280℃とした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(実施例4)
スリットユニット3のスリット流路数を150、スリット流路の高さを1mm、スリット流路の隔壁の厚さを1mm、スリット流路の長さを110mm、樹脂拡張ユニット4の開口部断面積比を0.35とした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(実施例5)
スリットユニット3のスリット流路数を9とした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。このとき、第1の熱可塑性樹脂であるHIPSのスリット流路数を5とした。
(実施例6)
スリットユニット3の各スリット流路の高さを0.5mm、各スリット流路の隔壁の厚さを1mm、各スリット流路の長さを110mmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(実施例7)
スリットユニット3の各スリット流路の高さを9mm、樹脂拡張ユニット4の開口部断面積比を0.68とした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(実施例8)
スリットユニット3の各スリット流路の長さを120mm、並列部9における各スリット流路の長さを70mmとした以外は、実施例1と同様にして多層積層シートを作製した。
(実施例9)
スリットユニット3の並列部9における各スリット流路の長さを30mmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(比較例1、比較例2)
スリットユニット3の各スリット流路の高さを0.4mmまたは11mmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(比較例3)
スリットユニット3の並列部9における各スリット流路の長さを10mmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(比較例4)
スリットユニット3の各スリット流路の長さを150mm、並列部9における各スリット流路の長さを80mmとした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(比較例5)
スリットユニット3のスリット流路数を170、各スリット流路の高さを1mm、各スリット流路の隔壁の厚さを1mm、各スリット流路の長さを110mm、樹脂拡張ユニット4の開口部断面積比を0.35とした以外は、実施例1と同様にして多層シートを作製した。
(多層シートの特性の評価方法)
各実施例および比較例で製膜した多層シートについて、以下の特性の評価を行った。
1.多層シートの外観
製膜した多層シート表面の外観不良(メルトフラクチャーや鮫肌模様)の有無を目視で確認した。製膜した多層シート10mを抜き出し、表面に外観不良が発生していなければ良好(○)、発生していれば不良(×)とした。
図6は、本発明の比較例1に係る多層シートの外観平面図である。メルトフラクチャーが発生して、木目状の模様が生じており、外観不良となるものである。
2.多層シートの厚さと層間厚さのばらつき
成形した多層シートの幅方向に均等な間隔で5箇所から、20mm四方の切片を切り出した。層構成を判断できるように端面を平滑にした後、レーザー顕微鏡(KEYENCE社製:VK−8510)でシート端面の厚さを測定した。厚さ測定は、任意の10層、または層数が10層未満の場合は全層の厚さの測定を行ない、その算術平均値を求めた。同様な方法により求めた計5箇所の算術平均値より、変動係数((標準偏差÷算術平均値)×100)(%)を求め、厚さのばらつきを評価した。なお、評価は以下の判断に従った。
○:変動係数が20%未満
△:変動係数が20%以上25%未満、
×:変動係数が25%以上
実施例と比較例で作製した多層シートの樹脂構成、製造条件、評価結果を表1に示した。また、シート成形時樹脂温度(240℃)において剪断速度が50(1/s)のときの各熱可塑性樹脂の溶融粘度の測定値も合わせて示した。
表1の結果から分かるように、本発明の構成を満足する実施例1〜9の多層シートは、多層シートの外観と厚さばらつきにおいて、優れた性能を有したものであった。但し、実施例4、実施例7、実施例9は、スリット流路数の多さや各スリット流路の高さ、並列部における各スリット流路の長さ等に起因して、厚さばらつきが若干存在していた。尚、実施例1〜2、実施例4〜9の多層シートは、構造粘性の高い2種類の熱可塑性樹脂が交互に少なくとも9層積層された多層シートである。
図4は、本発明の実施例1に係る多層シートの拡大断面図である。図4(a)〜(e)は多層シートの幅方向に均等な間隔で5箇所から得られた多層シートの断面写真である。いずれも層の厚さの乱れの少ない、厚さの均一性に優れたものとなっている。図4(f)は多層シートの幅方向の断面の模式図であるが、幅方向での層の厚さ乱れの少ない、厚さの均一性に優れたものとなっている。
比較例1は、各スリット流路の高さが本発明よりも小さいために、樹脂圧力上昇のために多層シートの作製が困難であった。比較例2は、各スリット流路の高さが本発明よりも高いために、層間の厚さばらつきが大きなものとなった。比較例3は、並列部における各スリット流路の長さが本発明よりも小さいために、層間の厚さばらつきが大きなものとなった。比較例4は、並列部における各スリット流路の長さが本発明よりも大きいために、樹脂圧力上昇のために多層シートの作製が困難であった。比較例5は、スリット流路数が合計170と本発明よりも多いものであり、層間の厚さばらつきが大きなものとなった。
図5は、本発明の比較例2に係る多層シートの拡大断面図である。図5(a)〜(e)は多層シートの幅方向に均等な間隔で5箇所から得られた多層シートの断面写真である。厚さ方向や幅方向で層の厚さの乱れが生じており、厚さの均一性に劣るものとなっている。図5(f)は多層シートの幅方向の断面の模式図であるが、幅方向での層の厚さの乱れがあり、厚さの均一性に劣るものとなっている。
1:多層シート製造装置
2:樹脂導入ユニット
3:スリットユニット
4:樹脂拡張ユニット
5:Tダイ
6、6A、6B:樹脂取り入れ口
7A、7B:樹脂流路
8A、8B:スリット流路
9:並列部
10A、10B:樹脂導入口
11:樹脂導出口
12:樹脂流路
13:樹脂導入部
14:樹脂導出部

Claims (5)

  1. 組成の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とが交互に積層した多層シートを製造するための多層シート製造装置であって、
    溶融した第1の熱可塑性樹脂と溶融した第2の熱可塑性樹脂とを異なる流路を介して、それぞれ複数のスリット流路に導入させる樹脂導入ユニットと
    前記第1の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路と、前記第2の熱可塑性樹脂を搬送するための複数のスリット流路とを有し、前者のスリット流路と後者のスリット流路が交互に積層して配置されているスリットユニットと、
    前記スリットユニットから導入された第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を、積層させた状態で合流させ、流路の幅方向に拡張させて導出する樹脂拡張ユニットと、
    前記樹脂拡張ユニットから導入された樹脂を多層シートとして押し出すTダイとを備え、
    前記スリットユニットのスリット流路数が合計9〜150であり、
    前記スリットユニットの樹脂導入口における各スリット流路の高さが0.5〜10mmであり、
    前記スリットユニットの後部に、各スリット流路の高さと幅と長さが同一で、長さが30〜70mmであるスリット流路が積層された並列部を有すること
    を特徴とする多層シート製造装置。
  2. 前記スリットユニットの各スリット流路の長さが50〜150mmである請求項1に記載の多層シート製造装置。
  3. 前記樹脂拡張ユニットにおいて、樹脂導入部の開口部の断面積に対する樹脂導出部の開口部の断面積の比率が、0.30〜0.85である請求項1または請求項2に記載の多層シート製造装置。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の多層シート製造装置を使用する多層シートの製造方法。
  5. 前記多層シートが、構造粘性の高い2種類の熱可塑性樹脂が交互に少なくとも9層積層された多層シートである請求項に記載の多層シートの製造方法。
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