JP6342173B2 - レーダー装置 - Google Patents

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本発明は、マグネトロン等の電子管を備えたレーダー装置、特にパルス幅の異なるマイクロ波送信信号を出力する電子管の寿命に関する。
近年、マグネトロン等の電子管の信頼性が非常に高まることにより長寿命化が図られ、プレジャーボート等で使用されるレーダー用電子管の寿命は、2万時間を超えるような設計がなされており、レーダー装置自体の寿命を超えた長寿命設計となっている場合が多い。
一方、使用頻度の高い長距離を航行する船舶、航空機等のレーダー装置、昼夜連続で監視を行うレーダー装置等では、1年間の稼働時問が8500時間を上回ることがあり、電子管の寿命がレーダーの寿命までには届かずに、交換が必要となる場合がある。そのようなレーダーでは、定期的な交換が行われることが多く、交換された電子管については、保証される寿命に対して実際の使用時間が短くなり、使用可能であるにも拘らず廃棄されるなど、不経済となっていた。また、電子管を寿命ぎりぎりまで使用する場合には、重要な局面で寿命に至ってしまうリスクも生じるという問題がある。
従来において、電子管の積算使用時間を知るには、図7に示すような構成が用いられており、電源1がオン(ON)されると、通電時間を積算時間計2で積算することで、使用時間の管理が行われている。しかし、諸条件により実際の電子管の消耗時間は異なるため、単なる通電時間では、諸条件による影響が考慮されておらず、実際の消耗時間を示していなかった。
電子管は、通常、電子を放出するカソードを利用して発振や増幅の機能を備えたデバイスとして利用されており、上記電子を放出するカソードには、仕事関数を下げた物質、例えばオキサイドやそれを含浸した金属や、金属そのものが利用される。いずれの場合も、電子を放出することにより消耗が発生し、ある一定レベルの消耗が発生すると、エミッション能力が低下し、発振や増幅を不安定にさせてしまい寿命となる。従って、このエミッション能力を知ることにより残存寿命を予測することが可能となる。
例えば、電子管のひとつであるマグネトロンでは、加熱用に使用されるものも含めて、上記エミッション能力の検知から残存寿命を知ることができる。即ち、実際に電子管を装置に搭載した状態でエミッション能力を直接測るのは困難であり、測定のための機材が複雑となることから、ヒータ電圧を何らかの手段で低下させ、カソード温度を下げて、そのときのモードジャンプ等の不安定発振を検出することにより、エミッション能力を判定することができる。下記特許文献1乃至5の例でも、通常の使用条件よりヒータ電圧を低下させ、エミッション能力を低下させ、安定発振するヒータ電圧範囲が通常の使用条件に対してどれだけ近い電圧で不安定発振となるかを検出している。
一方、特許文献6のマグネトロンでは、表面が絶縁された絶縁部をカソードに対向して配置し、カソードが動作時に失った物質を上記絶縁部で受け取る構造とし、この絶縁部に堆積した物質の抵抗からカソードが動作時に失った物質の量を推定し、残存寿命を予測している。
特開平05−021153号公報 特開平09−320480号公報 特開平10−223150号公報 特開2001−082744号公報 特開2008−300259号公報 英国特許GB−2447977B
しかしながら、上記特許文献1乃至5のように、敢えて発振不良(不安定発振)を起こさせるような動作では、不安定発振の一例であるモードジャンプが発生したときに、基本波以外の周波数成分の発振が行われることになり、レーダー装置においては、それがアンテナから輻射され、近隣に電波障害を与える場合がある。
また、レーダー装置では、遠くの物標からの極めて微弱な信号を受信可能なように高感度の受信機を有しており、不安定発振により基本波と異なる周波数成分が入力された場合、高周波リミタで阻止しきれず、受信系を破壊するリスクを持つことになる。
一方、上記特許文献6の場合、大型のマグネトロンでは、電子放出物質が大量に堆積するため、マグネトロン内の壁面に抵抗の変化を検出する装置を組み込めば、容易に抵抗の変化が検知できるが、小型のレーダー用のマグネトロンでは、電子放出物質の堆積量は小さく、正確な消耗量を把握することができない。
更に、従来では、寿命と判断される電子管は早目に交換するだけで、その電子管の寿命の延長を図ることはなされておらず、この寿命延長の対策、工夫が行われれば、電子管を有効にかつ経済的に利用することが可能になる。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発振不良を起こさせることなく、またカソードが失った物質量を特定することなく、電子管の劣化状態を把握すると共に、寿命延長の対策により電子管を有効かつ経済的に利用することが可能となるレーダー装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、マイクロ波をパルスで発振する発振デバイスとして電子管を用いるレーダー装置において、上記電子管から生成された送信信号(発振波)の劣化状態を特定する劣化検出回路と、この劣化検出回路から得られた劣化状態に応じて、上記電子管のヒータに一時的に高い電圧を印加し、その電圧を元に戻すように制御する制御回路と、を設けたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、上記劣化検出回路として、レーダースコープ上の映像鮮明度が劣化したと判断したとき、その劣化状態を上記制御回路へ入力するための劣化入力手段、上記電子管の不安定発振を検知する不安定発振検知回路、又は送信信号のパルス幅毎の積算時間に基づいて算出した電子管の消耗時間で劣化を判断する消耗時間算出回路を設けたことを特徴とする。
上記の構成によれば、例えば目視にてスコープ上の映像鮮明度が劣化したと判断したとき、スイッチ等の劣化入力手段の操作により送信信号の劣化状態を入力すると、制御回路は例えば電子管のヒータ電圧を上げるように制御する。これにより、電子管の能力が回復し、正常な送信信号の出力により良好な物標の捕捉が維持される。
また、制御回路により電子管のヒータに一時的に高い電圧を印加すると、電子放出能力が改善されることで、不安定発振が抑制される。
更に、上記の電子放出能力(又は温度と電流の関数である電子管の電子放出物質の消耗)は、使用される送信信号のパルス幅(ショートパルス、ミドルパルス、ロングパルス等)によって相違しているため、上記のように可変調整されるヒータ電圧においては、パルス幅で設定した異なる変化率の電圧を与えることで、電子放出能力を的確に改善することが可能となる。
本発明のレーダー装置によれば、発振不良を起こさせることなく、しかもカソードが失った物質量を特定することなく、電子管で生成された送信信号の劣化状態を特定する劣化検出回路を用いることで、電子管の劣化状態を把握することができ、また上記劣化検出回路から得られた劣化状態に基づき、電子管のヒータ電圧を調整することで、寿命延長を図ることができ、電子管を有効かつ経済的に利用することが可能となる。
更に、電子管の寿命により送信信号が劣化してきた場合でも、電子放出能力を改善した適正出力の送信信号の下に、長寿命化を図ることが可能になるという効果がある。
本発明の実施例に係るレーダー装置の第1構成を示す回路ブロック図である。 実施例のレーダー装置の第2構成を示す回路ブロック図である。 実施例の第2構成で不安定発振を検知する場合の構成を示す回路ブロック図である。 実施例で電子管のヒータ電圧を調整する一例を示すグラフ図である。 実施例の電子管において電子放出能力の改善を行ったときの特性例を示す図である。 実施例の電子管で異なるパルス幅毎に変化率を変えたヒータ電圧を示すグラフ図である。 従来のレーダー装置において消耗時間の算出をする回路構成を示す図である。
図1には、実施例の第1構成のレーダー装置が示されており、このレーダー装置は、電気的なオンオフにより送信信号(マイクロ波パルス)の劣化を判断者が入力するための映像劣化入力スイッチ10と、このスイッチ10からの劣化信号を受ける制御部12を有する。レーダー装置では、スコープ上に捕捉した物標が表示されており、このスコープを目視する者が映像の劣化を判断したとき、上記映像劣化入力スイッチ10を操作することで、制御回路12へ送信信号の劣化状態が入力される。
上記制御回路12は、劣化信号が入力されると、電子管のヒータ電圧を調整する。例えば、ヒータ電圧を上げること、一時的に高いヒータ電圧を印加すること、パルス幅毎に設定した異なる変化率のヒータ電圧を与えることが実行される。
図2には、実施例の第2構成のレーダー装置が示されており、このレーダー装置は、送信信号を形成・出力し、物標からの受信信号に基づき物標の映像表示のための処理をする受信信号処理回路14、この受信信号処理回路14で処理されたデータから不安定発振(探知能力の低下)を検知するか又は電子管の消耗時間を算出する不安定発振検知/消耗時間算出回路15、この検出回路15からの劣化信号を受ける制御部12を有する。上記受信信号処理回路14は、受信信号を映像処理することにより捕捉された物標をスコープ上に映像表示する。
図3には、上記不安定発振検知/消耗時間算出回路15で不安定発振(探知能力の低下)検知をする場合の構成が示されており、図3に示されるように、電子管18で発振されたマイクロ波出力は送信出力伝送系19を通過してアンテナ20より送信される。そして、上記送信出力伝送系19の一部に結合して信号の一部をピックアップするカップラ21、このピックアップされた信号を検波するRF出力検波器22、この検波した信号と比較基準レベルとを比較する比較回路23、上記比較基準レベルを出力する比較基準レベル設定器24、検出のトリガを入力するトリガ入力部25、同期回路26が設けられる。なお、上記比較基準レベルは、パルス幅毎や陽極電流に連動させてもよいし、本来の出力レベルに対して一定の率で低下した状態を検出するために、この比較基準レベルを、例えば最大検出レベルの70%程度に下げるように設定してもよい。
上記の構成によれば、比較回路23にて、RF出力検波器22からの検波信号と比較基準レベルが比較回路23で比較されることにより、不安定発振が検出される。即ち、レーダー装置では、パルス信号が用いられるため、トリガ入力部25からの信号を同期回路26により整形して比較回路23に送ることで、本来あるべきパルス出力に対しての発振の有無、発振レベルの低下(探知能力の低下)を検出することができ、これによって送信信号の劣化が検出される。
また、上記検出回路15の他の例として、電子管の使用時間(パルス幅毎の使用時間)を積算して電子管の消耗時間(或いは残存寿命)を検知する構成を用いてもよく、消耗時間によって送信信号の劣化が検出できる。
即ち、レーダー装置は、レンジ(距離レンジ)切替え器にて測定距離を切り替えられるように構成されており、例えば短距離にはショートパルス、中距離にはミドルパルス、遠距離にはロングパルスが使用される。このようなショートパルス、ミドルパルス、ロングパルスが用いられる場合、ショートパルス、ミドルパルス、ロングパルスのそれぞれについての使用時間を積算し、このパルス幅毎の積算時間に対しそれぞれで設定され係数(消耗速度に応じた係数)を掛算し、そのトータルを電子管の消耗時間として算出することができる。
このようにして検出された劣化信号は、制御回路16へ出力される。この制御回路16は、上記制御回路12と同様に、劣化信号が入力されると、電子管のヒータ電圧を調整し、ヒータ電圧を上げたり、一時的に高いヒータ電圧を印加したり、パルス幅毎に設定した異なる変化率のヒータ電圧を与えたりする。
次に、上述したヒータ電圧の調整について説明する。
上記制御回路12,16は、劣化信号から適切なタイミングを決定し、電子管のヒータ電圧を可変制御する。例えば、電子管の使い始めは電子放出能力が高いため、カソード温度は低くても安定に発振が行えるので、使い始めに不必要にカソード温度を高めると、電子放出物質の消耗が激しく寿命が短くなる。そこで、実施例では、入力された劣化信号に対応してヒータ電圧を調節し、エミッション能力を補償するように動作させ、図1の場合は、映像劣化入力スイッチ10により入力された劣化信号が正しいと判定された場合、図2の場合は、検出回路15により劣化信号が入力された場合に、ヒータ電圧が調整される。
図4には、ヒータ電圧の調整の一例が示されており、図示されるように、例えば5Vのヒータ電圧で動作中に、消耗時間(稼働時間)tに劣化信号が入力されたとき、約5.5Vに上げ、tに入力されたとき、約5.8Vに上げるというように、段階的に電圧を上昇させる。この結果、低下したエミッション能力を元に戻すことができる。
次に、ヒータ電圧につき一時的に高い電圧を印加する場合も、上記制御回路12,16は、劣化信号から適切なタイミングを決定し、高い電圧の印加を実行する。即ち、電子管では、使用するカソード表面の電気的特性の変化から電子放出能力が低下したり、また管球内でのガス発生等により真空度が劣化したりする場合があるが、このような場合、ヒータの電圧を一時的に上げると、カソード温度が上がり、カソードがフラッシュされたり、ゲッター効果が発生したりする。それにより電子放出能力が、一時的ではあるが、回復し本来の特性を取り戻すことが可能となる。探知が必要なレーダーでは、重要な局面で寿命に差し掛かった場合に、短時間における高いヒータ電圧の印加により、パフォーマンスが回復すれば、突然のブラックアウトがなくなり、レーダーの信頼性が高まり、保証できる寿命も延長できることになる。
実施例では、通常使用しているヒータ電圧より一時的に高めにフラッシングする電圧を印加することになる。カソード温度をほんの僅かな時間だけ高めることにより、寿命により低下した電子放出能力が改善させることが可能となる。例えば、オキサイドカソードの例では、通常のカソード温度の10〜35%程度高い温度に、30〜120秒程度上昇させるだけで、電子放出能力が印加前の150%から400%程度に高まる結果が得られている。このレベルの電子放出能力の改善は、不安定発振を起こし始めた電子管にとっては大きな効果があり、不安定発振が抑制される。
図5には、電子管において電子放出能力の改善を行ったときの特性例、即ち通常よりも32%高めたヒータ電圧を60秒間印加したときの電流の増加が示されており、図示されるように、印加前に比べて印加後には電流が171%に増加しており、電子放出能力が改善されたことが分かる。
次に、上述したように、パルス幅毎に異なる変化率のヒータ電圧を与えることについて説明する。
上述のように、レーダー装置では、レンジ切替え器にて測定距離が切り替えられ、例えばショートパルス、ミドルパルス、ロングパルスが使用される。即ち、一般に、レーダー装置では、近距離物標捕捉のため、ショートパルスを使用し送信時間を短くしてパルス送信の開始直後からの反射信号を検知し、遠距離物標捕捉のため、ロングパルスで信号の電力を大きくして遠くの反射信号を検知している。
上記のように送信信号のパルス幅が異なる場合、そのデューティ比(パルス幅/周期)等の発振条件によりカソードの温度は異なり、電子放出能力が大きく相違する(温度と電流の関数である電子管の電子放出物質の消耗は、パルス幅で異なる)ので、まずパルス幅が異なる信号毎に、ヒータ電圧リデュース量を変え、安定発振ができるようにする。例えば、ピーク出力25kWのレーダ装置において、ロングパルス、ミドルパルス、ショートパルスのデューティ比が、順に0.001、0.0005、0.0002に設定されているとすると、その平均出力は、順に25W、12.5W、5Wとなり、大幅に相違する。従って、通常のカソードに電流が流れることにより昇温及びバックボンバードメントによるカソード温度の昇温は大きく異なり(バックボンバードメントによる影響はパルス幅が長くなる程、大きい)、ヒータ電圧を低下させて適正温度にする方がよいことが分かる。
しかし、寿命末期においては電子管の消耗に伴い電子放出能力が低下し、それによる信号発振への影響もパルス幅によって異なるため、実施例では、調整されるヒータ電圧を異なるパルス幅で変化率を変えた設定として安定発振を実現している。上記制御回路12,16は、劣化信号から適切なタイミングを決定し、パルス幅毎に設定した異なる変化率(傾斜)で増加させたヒータ電圧を電子管に印加する。
図6には、ピーク出力25kWの電子管の各パルス幅における消耗時間(劣化状態)に対する適正ヒータ電圧が示されており、図6のように、ショートパルス、ミドルパルス、ロングパルスというようにパルス幅が長くなるにしたがって適正ヒータ電圧が下がり、消耗時間(運転時間)が長くなると、徐々に適正ヒータ電圧が上昇し、特にショートパルスで運転した方が適正ヒータ電圧は早く高い電圧となる。即ち、パルス幅を変更して平均出力電力が変わると、ヒータによる加熱の必要電圧が変わることになる。
そこで、実施例では、劣化状態(消耗時間)を検出したとき、図4の適正ヒータ電圧となるように、パルス幅に応じて増加率(傾斜)を変えた制御を実行しており、この結果、最も理想的な安定発振を得られる上に、寿命を長くすることが可能となる。
以上のように、実施例によれば、レーダーに使用される電子管の劣化状態を特定し、電子管の寿命を自動的に延長する機能、従来の寿命に到達した時点でも延長して使用可能とする機能を提供することが可能となる。その結果、突然の寿命によりレーダーがブラックアウトすることがなくなり、航海等の安全に寄与することができ、また電子管を寿命の終止点まで使用することができ、経済的な貢献、環境に対する貢献が可能となる。
1…電源スイッチ、 2…積算時間計、
10…映像劣化入力スイッチ、
12,16…制御部、 14…受信信号処理回路、
15…不安定発振検知/消耗時間算出回路、
18…電子管、 22…RF出力検波器、
23…比較回路。

Claims (2)

  1. マイクロ波をパルスで発振する発振デバイスとして電子管を用いるレーダー装置において、
    上記電子管から生成された送信信号の劣化状態を特定する劣化検出回路と、
    この劣化検出回路から得られた劣化状態に応じて、上記電子管のヒータに一時的に高い電圧を印加し、その電圧を元に戻すように制御する制御回路と、を設けたことを特徴とするレーダー装置。
  2. 上記劣化検出回路として、レーダースコープ上の映像鮮明度が劣化したと判断したとき、その劣化状態を上記制御回路へ入力するための劣化入力手段、上記電子管の不安定発振を検知する不安定発振検知回路、又は送信信号のパルス幅毎の積算時間に基づいて算出した電子管の消耗時間で劣化を判断する消耗時間算出回路を設けたことを特徴とする請求項1記載のレーダー装置。
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