以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。さらに、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している場合がある。
(第1実施形態)
図1及び図2に示す本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤ(以下、単にタイヤという)1は、トレッド部1a、一対のショルダー部1b、一対のサイド部1c、及び一対のビード部1dを備える。トレッド部1aのタイヤ幅方向の両端から、ショルダー部1bを介して、サイド部1cがタイヤ径方向に延びている。サイド部1cの端部にビード部1dが設けられている。
一対のビード部1d間には、カーカス2が設けられている。本実施形態では、カーカス2は2枚のカーカスプライ3,4を備える。また、タイヤ1の径方向最内周面にはインナーライナー5が設けられている。さらに、トレッド部1aでは、カーカス2のタイヤ径方向外側にベルト6が設けられている。本実施形態では、ベルト6は3枚のベルトプライ7,8,9を備える。
以下の説明では、タイヤ子午線断面においてビード部1dとトレッド部1aが対向する方向(図において矢印Hで概念的に示す)を、タイヤ高さ方向という場合がある。また、タイヤ高さ方向Hについて、トレッド部1a側を上側又は上向き、ビード部1d側を下側又は下向きという場合がある。
ビード部1dには、環状のビードコア11が設けられている。ビードコア11に対してタイヤ高さ方向Hの上側に隣接して、環状のビードフィラー12が設けられている。ビードフィラー12のタイヤ子午線断面での断面形状は、ビードコア11側の基端12aから先端12bに向けてタイヤ高さ方向Hに延びており、かつ基端12aから先端12bに向けて先細りとなっている。
ビード部1dでは、ビードフィラー12及びビードコア11に対してタイヤ幅方向内側に密接して配置されたカーカス2が、タイヤ高さ方向Hの下向きに延びている。カーカス2は、ビードコア11の周囲に巻き付けられることで、タイヤ幅方向外側に折り返され、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向外側に密接してタイヤ高さ方向Hの上向きに延びている。本実施形態では、内層のカーカスプライ3は、ビードフィラー12の先端12bの部分からカーカスプライ3の端部3aまでの部分がビードフィラー12及びビードコア11に密接している。また、内層のカーカスプライ3の上に外層のカーカスプライ4が密接している。本実施形態では、内層のカーカスプラス3の端部3aのタイヤ高さ方向Hの位置はビードフィラー12の基端12aと先端12bの間であり、外層のカーカスプラス4の端部4aはサイド部1cに位置する。
ビード部1dでは、カーカス2のビードコア11及びビードフィラー12に巻き付けられた部分の外側に隣接して、チェーファー14が設けられている。チェーファー14はビードフィラー12のタイヤ幅方向内側から延びてビードコア11の周囲で折り返され、さらにビードフィラー12のタイヤ幅方向外側まで延びている。本実施形態では、チェーファー14の内端14a(ビードコア11及びビードフィラー12に対してタイヤ幅内側に位置する端部)のタイヤ高さ方向Hの位置は、チェーファー14の外端14b(ビードコア11及びビードフィラー12に対してタイヤ幅方向外側に位置する端部)よりも下側である。
図2を参照すると、ビード部1dには、チェーファー14のタイヤ幅方向外側に隣接して、本実施形態における補強層20を構成する環状の補強シート21が設けられている。タイヤ子午線断面で見ると、補強シート21は、下端21a(タイヤ高さ方向Hで下側の端部)から上端21b(タイヤ高さ方向Hで上側の端部)に向けて、タイヤ高さ方向Hに延びている。
補強シート21は、チェーファー14の外端14bを覆うように設けられている。具体的には、まず前述のように、補強シート21はチェーファー14に対してタイヤ幅方向外側に隣接している。また、補強シート21の上端21b(タイヤ高さ方向Hで上側の端部)はチェーファー14の外端14bよりもタイヤ高さ方向Hで上側に位置し、補強シート21の下端21a(タイヤ高さ方向Hで下側の端部)はチェーファー14の外端14bよりもタイヤ高さ方向Hの下側に位置する。言い換えれば、チェーファー14の外端14bは、補強シート21の上端21bと下端21aとの間に位置している。
補強シート21の下端21aからタイヤ高さ方向Hの中央付近にいたる部分では、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側に隣接して配置され、補強シート21の内面(タイヤ幅方向内側の面)21cがチェーファー14に密接している。また、補強シート21のタイヤ高さ方向Hの中央部分付近から上端21bにいたる部分では、補強シート21はカーカス2に対してタイヤ幅方向外側に隣接して配置され、補強シート21の内面21cがカーカス2(外層のカーカスプライ4)に密接している。
補強シート21は、図3に示すように、いわゆるハニカム形態の基材119と被腹部120とを備える。補強シート21の具体的に構成は、後に詳述する。
チェーファー14の外端14bを含む部分(ビードコア11及びビードフィラー12よりもタイヤ径方向外側に位置する部分)は、カーカス2に密接している。タイヤ1に作用する荷重は、このチェーファー14の外端14bを含む部分をカーカス2から引き剥がす方向に作用する。しかし、本実施形態では、チェーファー14の外端14bを覆うように補強シート21を設けているので、チェーファー14の外端14bを含む部分のカーカス2に対する接着力が増加する。
タイヤ1に作用する荷重に起因してビード部1dに加わる応力とそれに起因するひずみは、ビード部1dの構成部品の端部に集中する傾向がある。チェーファー14の場合、特に外端14bに応力ないしひずみが集中する傾向がある。しかし、本実施形態では、前述のようにチェーファー14の外端14bを覆うように補強シート21を設けているので、チェーファー14の外端14bを含む領域に作用する応力とそれに起因するひずみを拡散させることができる。言い換えれば、補強シート21を設けることで、チェーファー14の外端14bへの応力ないしひずみの集中を緩和できる。
以上のように、チェーファー14の外端14bを覆うように補強シート21を設けることで、チェーファー14の外端14bを含む部分の接着力の向上、及びこの部分での応力ないしひずみの集中緩和によって、ビードセパレーションを効果的に抑制し、タイヤ1のビード部1dの耐久性を向上できる。
また、以下に詳述するように、補強シート21の上端21b及び下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置を適切に設定しているので、操縦安定性能、乗心地性能、及びビード部1dのリム24(図2に概念的に示す)への組付性を損なうことなく、セパレーション抑制効果によるビード部1dの耐久性向上を実現できる。
図2を参照すると、以下の説明では、チェーファー14の外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置CHEから、ビードフィラー12の先端12bまでのタイヤ高さ方向Hの距離を、ビードフィラー12の上側高さHUという。また、チェーファー14の外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置CHEから、ビードフィラー12の基端12aまでのタイヤ高さ方向Hの距離を、ビードフィラー12の下側高さHLという。
補強シート21の上端21bのタイヤ高さ方向Hの位置RFUは、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の上側高さHUの20%以上90%以下(0.2HU〜0.9HU)の範囲に設定することが好ましい。補強シート21の上端21bの位置RFUを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の上側高さHUの20%未満に設定した場合(補強シート21の上端21bの位置RFUが過度に低い場合)、補強シート21がチェーファー14の外端14bを超えてタイヤ高さ方向Hの上側に延びる部分の長さが短いので、チェーファー14の外端14bを含む部分の接着力を高める効果が十分でない。そのため、この場合には、ビードセパレーション抑制効果が必ずしも十分に得られない。一方、補強シート21の上端21bの位置RFUを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の上側高さHUの90%以上に設定した場合(補強シート21の上端21bの位置RFUが過度に高い場合)、ビード部1dの剛性が過度に高くなり操縦安定性能や乗心地性能が損なわれる。以上のように、補強シート21の上端21bのタイヤ高さ方向Hの位置RFUを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の上側高さHUの20%以上90%以下に設定することで、操縦安定性能や乗心地性能を確保しつつ、十分なビードセパレーション抑制効果とそれによるビード部1dの耐久性向上を実現できる。
補強シート21の下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFLは、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の下側高さHLの20%以上90%以下(0.2HL〜0.9HL)の範囲に設定することが好ましい。補強シート21の下端21aの位置RFLを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の下側高さHLの20%未満に設定した場合(補強シート21の下端21aの位置RFLが過度に高い場合)、補強シート21がチェーファー14の外端14bを超えてタイヤ高さ方向Hの下側へ延びる部分の長さが短いので、チェーファー14の外端14bを含む部分の接着力を高める効果が十分でない。そのため、この場合には、ビードセパレーションを抑制する効果が必ずしも十分に得られない。一方、補強シート21の下端21aの位置RFLを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の下側高さHLの90%以上に設定した場合(補強シート21の下端21aの位置RFLが過度に低い場合)、ビード部1dのリム24(図2に概念的に示す)に対する組付性が低下する。以上のように、補強シート21の下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFLを、チェーファー14の外端14bの位置CHEから計ってビードフィラー12の下側高さHLの20%以上90%以下に設定することで、リム24への組付性を確保しつつ、十分なビードセパレーション抑制効果とそれによる耐久性向上を実現できる。
補強シート21の上端21bと下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFU,RFLはいずれも、ビードフィラー12の先端12b、ビードフィラー12の基端12a、チェーファー14の外端14b、及び内層のカーカスプライ3の端部3aのタイヤ高さ方向Hの位置と一致しないように設定されている。前述のように、タイヤ1に作用する荷重に起因してビード部1dに発生する応力とひずみは、ビード部1dの構成部品の端部に集中する傾向がある。仮に補強シート21の上端21bと下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFU,RFLが、ビードフィラー12の基端12a又は先端12bのタイヤ高さ方向Hの位置と一致する場合や、チェーファー14の内端14a又は外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置と一致する場合、応力ないしひずみの集中がさらに促進される。本実施形態では、補強シート21の上端21bと下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFU,RFLをビードフィラー12の基端12a及び先端12bや、チェーファー14の内端14a及び外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置と異ならせることで、かかる応力ないしひずみの集中促進を回避し、より効果的にビードセパレーションを抑制している。本実施形態では、同様の理由から、チェーファー14の外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置は、内層のカーカスプライ3の端部3aのタイヤ高さ方向Hの位置と異なるように設定されている。
補強シート21の下端21aのタイヤ高さ方向Hの位置RFLは、ビード部1dとリム24の接触部C(図2に概念的に示す)のタイヤ高さ方向Hの位置と一致しないように設定されている。仮に補強シート21の下端21aの位置RFLと、ビード部1dとリム24の接触部Cとが一致していると、補強シート21の下端21aに過度な応力が作用する。補強シート21の下端21aの位置RFLと、ビード部1dとリム24の接触部Cとを異ならせることで、補強シート21の下端21aに過度な応力が作用するのを防止できる。
次に、補強シート21の構成を説明する。
図3を参照すると、補強シート21は、基材119と、基材119の表面を覆う被腹部120を備える。基材119は、複数本の線材121を所定位置で捩り合わせて複数の多角形部122を形成してシート状としたものである。線材121には、スチール等の金属材料、ポリエステル、アラミド、レーヨン、ナイロン等の有機繊維からなる樹脂材料等を使用することができる。各線材121は、1本で構成してもよいが、より細い複数本を束ねてあるいは撚り合わせて1本とした構成とすることもできる。
図3及び図4を参照すると、基材119は、1本の線材121を、上下方向(縦方向)に複数本並設し、隣り合う線材同士を上下方向に所定ピッチで捩り合わせたものである。すなわち、隣り合う線材同士が捩り合わされた捩合部123と、この捩合部123から延びる一方の線材121からなる単線部124とで囲まれた多角形部122が形成される。ここでは、多角形部122は正六角形で構成されている。また、捩合部123は、線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成する。ここでは、線材同士を2回半捩り合わせることで捩合部123を形成している(図4では、捩合部123の中心位置に円形の空間部が示されているが、これは捩合状態をわかりやすくするためのものであって、実際には空間部は形成されない。この点はその他の図面についても同様である。)。両側部の線材121(縦線材125)は図において上下方向に真っ直ぐ延びたままで使用する。多角形部22は、縦線材25の間で同一平面上に連続的に形成され、ハニカム形態を構成する。本実施形態では、縦線材125の延びる方向はタイヤ高さ方向Hに直交している。しかし、縦線材125の延びる方向はタイヤ高さ方向Hに沿っていいてもよい。以下の基材21に関する説明では、縦線材125の延びる方向を縦方向といい、縦線材125の延びる方向と直交する方向を横方向という場合がある。
図5を参照して、1つの多角形部122をより詳細に説明する。この多角形部122は、隣接する2本の線材121を捩り合わせた捩合部123から分岐してそれぞれ延びる第1線材121Aからなる第1単線部124Aと、第2線材121Bからなる第2単線部124Bとを有する。また、第1線材121Aと、この第1線材121Aに対して第2線材121Bとは反対側に隣接する第3線材121Cとを捩り合わせた第1捩合部123Aを有する。さらに、第2線材121Bと、この第2線材121Bに対して第1線材121Aとは反対側に隣接する第4線材121Dとを捩り合わせた第2捩合部123Bを有する。さらにまた、第1捩合部123Aから分岐した1第3線材21Cからなる第3単線部124Cと、第2捩合部123Bから分岐した第4線材121Dからなる第4単線部124Dとを有する。第3単線部124Cと第4単線部124Dとは捩り合わされて捩合部123となる。
多角形部122の形状は捩合部ピッチすなわちハニカム密度を変更することにより、縦長あるいは横長の形状に変更することができる。ここに、捩合部ピッチとは、図4に示すように、縦方向の捩合部123の間隔(ここでは中心位置の間隔を使用)である縦ピッチP1と、横方向の捩合部123の間隔である横ピッチP2とを意味する。
縦ピッチP1の調整は、捩合部123の捩合回数の増減、あるいは、単線部124の傾斜角度の調整により行うことができる。
捩合部123の捩合回数は増やせば増やすほど、線材同士が擦れにくい構成とすることができるが、前述の通り使用時の線材同士の擦れを十分に防止できる2回以上であればよい。捩合回数を調整することで、捩合部23の長さを変更して縦ピッチP1を調整することができる。例えば、図6に示すように、捩合回数を増やすことで、各正六角形を縦長の形状とすることができるし、捩合回数を減少させることで、図示しないが横長の形状とすることもできる。
また、捩合部23から延びる単線部24の傾斜角度(図5の上下方向(縦方向)に対する単線部24の傾斜角度θ)を変更することによっても縦ピッチP1を調整することができる。図7では、捩合部23に対する傾斜角度、すなわち縦方向に対する傾斜角度θを大きくして横長形状としている。図8では、捩合部23に対する傾斜角度、すなわち縦方向に対する傾斜角度θを小さくして縦長形状としている。
横ピッチP2の調整は、線材121の間隔を調整することにより行うことができる。すなわち、線材121の間隔を広くすることにより多角形部122を横長とすることができ、狭くすることにより縦長とすることができる。
このように、捩合部123の捩合回数の増減又は単線部124の傾斜角度θの調整により正六角形を縦長又は横長のいずれの形状にも調整することができる。縦長形状とすることにより、横方向に比べて縦方向の剛性を小さくすることができる。一方、横長形状とすることにより、縦方向に比べて横方向の剛性を小さくすることができる。
また、基材119の多角形部122の形状は六角形(正六角形のほか、縦長又は横長の六角形を含む)に限らず、図9に示す四角形としてもよい。すなわち、捩合部123に対して単線部124の長さを十分に大きくすることにより四角形とすることができる。図9では多角形部122は菱形形状となっている。
本記実施形態では、横方向に並設した複数本の線材21を、隣接する線材同士で縦方向の所定位置で捩り合わせることにより基材19を形成するようにしているが、互いに交差する斜め方向に延びる線材同士を互いに捩り合わせることによって基材119を形成してもよい。
図10に示すように、縦線材125を3本設けることにより、補強シート21の基材119を2箇所の分割領域(第1分割領域126及び第2分割領域127)を有する構成とし、各分割領域126、127で多角形部122の形状やサイズを変更する等により、密度や剛性を相違させるようにしてもよい。
図11に示すように、縦線材125を4本設けることにより補強シート21の基材119を3箇所の分割領域(第1分割領域126、第2分割領域127、及び第3分割領域128)を有する構成とし、前記同様にして各分割領域126,127,128で多角形部22の密度や剛性を相違させるようにしてもよい。
分割領域はこれら例示の数に限らず、用途に応じて分割数を自由に変更することも可能である。
さらにまた、各分割領域の多角形部122は、全て六角形で構成したが、図9と同様に、四角形等の他の多角形で構成してもよい。また各分割領域で、多角形の形状を相違させてもよい。例えば、多角形部122を、第1分割領域126では六角形、第2領域127では四角形としてもよい。また、境界部分の縦線材125に形成される捩合部123の長さは同じでなくてもよく、位置も縦方向にずれていてもよい。これは、多角形部122がいずれの形状のものであっても同じである。
前記構成からなる基材119は、図示しない薄いゴム(トッピングゴム)で被覆したり、フィルム状の合成樹脂を熱溶着させてコーティングしたりして被覆部120を形成することにより補強シート21となる。
以上のような基材119を備える補強シート121は、従来では調整が困難であった縦剛性と横剛性のバランスを自由に設定することができる。また、線材同士の捩合部123は、2回以上の捩合回数で捩り合わせるようにしているので、使用(タイヤによる走行)状態で線材同士が擦れることがない。従って、線材121が摩耗により損傷して切断に至る心配がない。さらに、以下に説明するように、多角形部122の密度が異なる領域を設けることで、補強シート21のタイヤ高さ方向Hの剛性を容易に調整できる。
図10及び図11を参照して説明したように、基材119を構成する多角形部122の形状やサイズを異なる領域を設けることができ、それによって補強シート21に多角形部122の密度が異なる複数の領域を設けることができる。
図2を併せて参照すると、補強シート21の基材119の多角形部122の密度を、チェーファー14の外端14bのタイヤ高さ方向Hの位置CHEよりもタイヤ高さ方向Hで上側と下側で異ならせてもよい。例えば、位置CHEよりもタイヤ高さ方向Hで上側(上端21b側)の領域における補強シート21の基材119の多角形部122の密度を、位置CHEよりもタイヤ高さ方向Hで下側(下端21a側)の領域における補強シート21の基材119の多角形部122の密度よりも密に設定してもよい。この場合、補強シート21のタイヤ高さ方向Hの中央付近よりも上側で多角形部122の密度を密にして剛性を高めることで、チェーファー14の外端14bを含む部分のカーカス2に対する接着力をより効果的に増加させることができる。
また、位置CHEから上側(上端21b側)に所定範囲(例えば上側高さHUの25%)と下側(下端21a側)に所定範囲(例えば下側高さHLの25%)の領域(中央領域)と、この中央領域よりもタイヤ幅方向Hで上側(上端21b側)の領域(上側領域)と、中央領域よりもタイヤ幅方向Hで下側(下端21a側)の領域(下側領域)とを設定してもよい。例えば、中央領域における基材119の多角形部122の密度を、上側領域及び下側領域よりも密に設定し、上側領域と下側領域における基材119の多角形部122の密度を同一に設定してもよい。この場合、補強シート21のタイヤ高さ方向Hの中央付近で多角形部122の密度を密にして剛性を高めることで、チェーファー14の外端14bを含む部分のカーカス2に対する接着力をより効果的に増加させることができる。
以下、本発明の第2及び第4実施形態を説明する。これらの実施形態について特に言及しない構成と効果は、第1実施形態と同様である。また、これらの実施形態に関する図面において、第1実施形態と同一ないし同様の要素には、同一の符号を付している。
(第2実施形態)
図11に示す本発明の第3実施形態に係るタイヤ1では、ビード部1dが備える補強層20は、互いに密接するように積層配置された2枚の補強シート21A,21Bにより構成されている。外層の補強シート21Aは、内層の補強シート21Bよりもタイヤ高さ方向Hの長さが長い。外層の補強シート21Aの上端21bは、内層の補強シート21Bの上端21bよりもタイヤ高さ方向Hで上側に位置する。外層の補強シート21Aの下端21aは、内層の補強シート21Bの下端21aよりもタイヤ高さ方向Hで下側に位置する。
3枚以上の補強シートを積層して補強層20を構成してもよい。
(第3実施形態)
図12に示す本発明の第4実施形態に係るタイヤ1では、ビード部1dが備える補強シート21(補強層20)は、チェーファー14の外端14bを含む部分に対して、タイヤ幅方向外側ではなく、タイヤ幅方向内側に隣接して配置されている。補強シート21の外面21dにチェーファー14の外端14bを含む部分が密接し、補強シート21の内面21cはカーカス2(外層のカーカスプライ4)に密接している。本実施形態のようにチェーファー14よりもタイヤ幅方向内側に補強シート21を設けることによっても、チェーファー14の外端14bでの応力ないしひずみの集中を緩和して、ビードセパレーションを効果的に抑制して耐久性を向上できる。
以下の比較例1,2と実施例1〜8のタイヤ1について、操縦安定性能、乗心地性能、及び耐久性の評価試験を行った。
比較例1のタイヤ1(図14参照)では、補強シート21をビードコア11及びビードフィラー12に対してタイヤ幅方向内側に配置している。補強シート21の上端21bの位置RFUの、チェーファー14の外端の位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の上側高さHUの30%(0.3HU)に設定した。また、補強シート21の下端21aの位置RFLの、チェーファー14の外端14bの位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の下側高さHLの30%(0.3HL)に設定した。補強シート21には、図3に図示するようなハニカム形態の基材21に代えて、タイヤ周方向に延びる長繊維からなる複数の補強繊維を設けている。
比較例2のタイヤ1(図14参照)では、比較例1と同様に、補強シート21をビードコア11及びビードフィラー12に対してタイヤ幅方向内側に配置している。補強シート21の上端21bの位置RFUの、チェーファー14の外端14bの位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の上側高さHUの110%(1.1HU)に設定した。つまり、比較例2では、補強シート21の上端21bの位置RFUを、ビードフィラー12の先端12bよりもビードフィラー12の上側高さHUの10%だけタイヤ高さ方向Hで上側に設定した。また、補強シート21の下端21aの位置RFLの、チェーファー14の外端の位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の下側高さHLの55%(0.55HL)に設定した。補強シート21には、タイヤ周方向に延びる長繊維からなる複数の補強繊維を設けている。
実施例1は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側に密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの、チェーファー14の外端14bの位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の上側高さHUの55%(0.55HU)に設定した。また、補強シート21の下端21aの位置RFLの、チェーファー14の外端14bの位置CNEから計ったタイヤ高さ方向Hの距離は、ビードフィラー12の下側高さHLの55%(0.55HL)に設定した。つまり、実施例1では、補強シート21の上端21bの位置RFUを前述した好ましい範囲(0.2HU〜0.9HU)の中央付近に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLも前述した好ましい範囲(0.2HL〜0.9HL)の中央付近に設定した。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例2は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離をビードフィラー12の上側高さHUの90%(0.9HU)に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離を、ビードフィラー12の下側高さHLの90%(0.9HL)に設定した。つまり、実施例2では、補強シート21の上端21bの位置RFUを前述した好ましい範囲(0.2HU〜0.9HU)の上限に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLを前述した好ましい範囲(0.2HL〜0.9HL)の下限に設定した。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例3は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離をビードフィラー12の上側高さHUの20%(0.2HU)に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離を、ビードフィラー12の下側高さHLの20%(0.2HL)に設定した。つまり、実施例3では、補強シート21の上端21bの位置RFUを前述した好ましい範囲(0.2HU〜0.9HU)の下限に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLを前述した好ましい範囲(0.2HL〜0.9HL)の上限に設定した。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例4は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離をビードフィラー12の上側高さHUの90%(0.9HU)に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離を、ビードフィラー12の下側高さHLの20%(0.2HL)に設定した。つまり、実施例4では、補強シート21の上端21bの位置RFUを前述した好ましい範囲(0.2HU〜0.9HU)の上限に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLも前述した好ましい範囲(0.2HL〜0.9HL)の上限に設定した。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例5は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。この実施例5では、補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離は上側高さHUの90%であり、前述した好ましい範囲内(上側高さHUの20%以上90%以下)にある。しかし、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離は下側高さHLの5%であり、前述した好ましい範囲(下側高さHLの20%以上90%以下)から外れている。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例6は、図13に示す第3実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向内側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離は、ビードフィラー12の上側高さHUの55%(0.55HU)に設定した。また、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離も、ビードフィラー12の下側高さHLの55%(0.55HL)に設定した。つまり、実施例1では、補強シート21の上端21bの位置RFUを前述した好ましい範囲(0.2HU〜0.9HU)の中央付近に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLも前述した好ましい範囲(0.2HL〜0.9HL)の中央付近に設定した。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、補強シート21の下端21aから上端21bまでの全領域で均一に設定した。
実施例7は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離をビードフィラー12の上側高さHUの55%(0.55HU)に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離を、ビードフィラー12の下側高さHLの55%(0.55HL)に設定した。つまり、実施例7では、補強シート21が設けられているタイヤ高さ方向Hの範囲は実施例1と同一である。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、タイヤ高さ方向Hで異ならせた。具体的には、位置CHEよりもタイヤ高さ方向Hで上側(上端21b側)の領域における補強シート21の基材119の多角形部122の密度を、位置CHEよりもタイヤ高さ方向Hで下側(下端21a側)の領域における補強シート21の基材119の多角形部122の密度よりも密に設定した。
実施例8は、図2に示す第1実施形態のタイヤ1であり、補強シート21はチェーファー14の外端14bを含む部分に対してタイヤ幅方向外側から密接するように配置されている。補強シート21の上端21bの位置RFUの位置CNEから計った距離をビードフィラー12の上側高さHUの55%(0.55HU)に設定し、補強シート21の下端21aの位置RFLの位置CNEから計った距離を、ビードフィラー12の下側高さHLの55%(0.55HL)に設定した。つまり、実施例8では、補強シート21が設けられているタイヤ高さ方向Hの範囲は実施例1と同一である。補強シート21の基材119における多角形部122の密度は、タイヤ高さ方向Hで異ならせた。具体的には、位置CHEから上側(上端21b側)に上側高さHUの25%までと下側(下端21a側)に下側高さHLの25%までの中央領域における、基材119の多角形部122の密度を、位置CHEから上側に上側高さHUの25%以上の上側領域と、位置CHEから下側に下側高さHLの25%以上である下側領域よりも密に設定した。
操縦安定性能及び乗心地性能の評価試験では、テストタイヤ(タイヤサイズ205/60R16)を空気圧250kPaとし、装着するリムに16×6−IJを使用した。
操縦安定性能の評価試験では、実車を用いて、ドライ路面走行及びウエット路面走行の官能評価により比較を実施した。比較例1の場合を100として比較例2と実施例1〜8を指数で評価した。数値が大きいほど操縦安定性能が高く好ましい。
乗心地性能の評価試験では、実車を用いて、ドライ路面走行及びウエット路面走行の官能評価により比較を実施した。比較例1の場合を100として比較例2と実施例1〜8を指数で評価した。数値が大きいほど乗心地性能が高く好ましい。
耐久性の評価試験では、JIS D4230に準拠してタイヤの耐久性能試験を行い、測定値を指数化した。数値が大きい程、耐久性に優れていることを示す。
これらの評価試験の結果を、以下の表1に示す。
耐久性について、比較例1,2と実施例1〜8を比較すると、実施例1〜4,6〜8はいずれも比較例1,2よりも耐久性が大幅に向上している。また、実施例5は、比較例1,2と同程度の耐久性が得られている。また、操縦安定性能について、比較例1,2と実施例1〜8を比較すると、実施例1〜4,6〜8のいずれについても、比較例1,2と同等以上の操縦安定性能が得られている。さらに、乗心地性能について、比較例1,2と実施例1〜8を比較すると、実施例1〜8のいずれについても、比較例1,2と同等程度の操縦安定性能が得られている。
以上より、実施例1〜4,6〜8(補強シート21の上端21b及び下端21aの位置RFU,RFLは前述の好ましい範囲内)については、操縦安定性能と乗心地性能を確保しつつ、耐久性が向上されていることが確認できる。また、実施例5(補強シート21の上端21bの位置RFUは前述の好ましい範囲内で、下端21aの位置RFLは前述の好ましい範囲外)については、耐久性の評価は比較例1と同じ(指数100)であり、乗心地性能の評価も比較例1と顕著な差はなく(比較例1は指数100、実施例5は指数98)、操縦安定性については比較例1よりも良好である(比較例1は指数100、実施例5は指数102)。