JP6300352B2 - 中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物およびその製造方法に関する。
近年、疾病の予防の観点から、健康を自身で管理するセルフメディケーションが世界中で主流となってきており、日本でもメタボリックシンドロームの予防・改善目的で新たな健診が導入されている。その検査項目としては、血糖値、中性脂肪、コレステロール、そして高血圧があるが、特に中性脂肪は、肥満との高い相関関係が示唆されており、高血圧や糖尿病などの疾患との関係も示唆されている(非特許文献1)。
中性脂肪の測定方法としては、病院などで行う臨床検査(血液検査)が一般的であり、これは患者の血液から血清または血漿成分を分離し、これを試料として臨床検査機器や臨床検査用測定キットを使用する方法である。また最近では、簡便に測定が可能である、全血を試料とした使い捨て型のバイオセンサを用いる方法もある。この使い捨て型バイオセンサは、ハンディータイプの専用の測定器本体に挿入することができ、全血を点着して一定時間待機するだけで測定が可能である。
中性脂肪を測定可能な使い捨て型のバイオセンサは大きく2つに大別される。ひとつは、全血から血球成分を除いた血清または血漿を試料とし、試料中の中性脂肪を化学反応で呈色させて比色計で測定し算出する方法である(特許文献1)。このようなバイオセンサには、フィルターなどで血球成分と血清・血漿成分を分離する機能が備わっている。他方は、全血を試料とし、試料と酵素や電子伝達体等と直接反応させ、生成された還元型電子伝達体を電極上で酸化し、得られた電流値から算出する電気化学的方法である(特許文献2)。
臨床検査機器や臨床検査用測定キットには、製品の性能確認やゼロ補正を行うための標準物質が付属されている。その標準物質として、中性脂肪の中間分解物であるグリセロールの標準溶液を用いることが多く、また場合によっては市販の凍結保存や冷凍処理を施した血清や血漿を使用することも可能である。全血を試料とした使い捨て型のバイオセンサにおいても、比色計で測定する場合は同様な標準物質を使用することができる。
米国特許第7214504号明細書 特開2012−77514号公報
Nordestgaard BG, Benn M, et al. JAMA. 2007;298(3):299−308
しかしながら、全血を試料とする、特に電気化学的方法で測定するバイオセンサにて性能確認やゼロ補正を行う場合、グリセロール溶液、血清、血漿は、粘度の違いなどから誤差が生じやすく標準物質として使用するには適していない。また、これらを用いて製品の性能確認やゼロ補正に対応させるためには測定器本体に新たなプログラムを導入しなければならないなど煩雑な手段を踏まなければならない。
また、中性脂肪測定において標準物質として全血を用いた場合、食事や採血の時間帯などで血中の中性脂肪値そのものが変動し定量的な数値が得られにくいため、全血は中性脂肪測定の標準物質として適していない。さらには、電気化学的方法で測定するバイオセンサの場合、ヘマトクリット値やその他の血中成分による電流値の変動によって算出される中性脂肪値が変動する等のおそれがある。これらのことから、全血を中性脂肪測定での標準物質として用いることは好ましくない。
また他方で、従来では、同じ組成の標準物質を使用して中性脂肪値を測定しているにも関わらず、場合によっては測定値にバラツキが発生しうることがあることを見出した。
そこで本発明は、所望の中性脂肪濃度に容易に調整可能で、かつ全血と同等の反応を示し、かつ、測定値のバラツキを低減させる標準物質を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分が固定剤によって固定化されてなる固定化血球成分と、溶媒と、を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明によれば、所望の中性脂肪濃度に容易に調整可能で、かつ全血と同等の反応を示し、かつ、測定値のバラツキを低減させる標準物質を提供することができる。
本発明のバイオセンサの一実施形態を示す分解斜視図である。 図1のバイオセンサの断面図である。 実施例で製造したバイオセンサを示す分解斜視図である。 実施例・比較例で調製した標準物質組成物を用いて測定した保存安定性について示すグラフである。 実施例・比較例で調製した標準物質組成物を用いて測定した電流値を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。また、図面の比率は説明のために誇張されている場合もある。
本発明の一形態によれば、中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分が固定剤によって固定化されてなる固定化血球成分(本明細書中、単に「固定化血球成分」とも称する)と、溶媒と、を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物が提供される。
すなわち、本発明者らは、全血の血清・血漿部分を、人工的に調製した、中性脂肪とタンパク質と溶媒とを含む組成物(本明細書では、「疑似血清溶液」とも称する)で置換し、かつ、全血の血球成分として、固定化剤により固定化した固定化血球成分を使用することで、中性脂肪濃度を所望の濃度に調整することができ、全血と同等の反応を示し、さらに、測定値のバラツキを低減させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明によれば、全血と同等の反応を示し、また、測定値にバラツキを殆んどもたらさない、所望の中性脂肪濃度を有する標準物質組成物を調製することができ、また、この標準物質組成物を用いることで容易に中性脂肪濃度測定用バイオセンサの性能を確認することが可能となる。
以下、本発明の実施形態の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物について述べる。
本発明の実施形態の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物は、中性脂肪と、タンパク質と、固定化血球成分と、溶媒と、を含む。
より好ましい実施形態としては、中性脂肪は、タンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液(以下、単に「タンパク質溶液」とも称する。)に分散されている。よって、本発明の標準物質組成物は、好ましくは、中性脂肪がタンパク質溶液に分散された中性脂肪分散液を含む。
すなわち、本発明の好ましい実施形態によれば、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物は、中性脂肪がタンパク質溶液に分散された中性脂肪分散液と、固定化血球成分と、を含む。このように、全血の血清・血漿部分を、中性脂肪分散液を含む疑似血清溶液で置換することで、中性脂肪濃度を所望の濃度に調整することができ、かつ全血と同等の反応を示すことができる。また、標準物質組成物において、全血の血球成分が固定剤によって固定化されてなることで、測定値にバラツキを殆んどもたらさないセンサを提供することができる。
以下、本発明の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物を構成する各成分について説明する。
(タンパク質)
本発明の標準物質組成物は、タンパク質を含む。
本発明に用いられるタンパク質は、動物由来および植物由来のタンパク質なら特に制限されないが、好ましくは卵アルブミン、血清アルブミン、および乳アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つである。より好ましくは血清アルブミンであり、血清アルブミンのうち、さらに好ましくはウシ血清アルブミンである。
また、上述のように、タンパク質は、タンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液として、組成物に含まれるのが好ましい。
この際、タンパク質は、タンパク質溶液の全質量に対して、中性脂肪を分散させるのに十分なタンパク質を含有する観点で、0.1〜40%質量%含有されるのが好ましく、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜15質量%である。また、タンパク質溶液における溶媒としても特に制限はないが、水が好ましい。
本発明の標準物質組成物中においては、中性脂肪を分散させるのに十分なタンパク質を含有する観点で、タンパク質は、好ましくは0.016〜24質量%、より好ましくは0.16〜12質量%、さらに好ましくは0.4〜8質量%で含まれる。
(中性脂肪)
本発明の標準物質組成物は、中性脂肪を含む。
本発明に用いられる中性脂肪としては、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。より好ましくは、中性脂肪としてトリグリセリドを含む。
ここで、モノグリセリドとは、グリセロールの水酸基の一つに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味し、ジグリセリドとはグリセロールの水酸基の二つに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味し、トリグリセリドとはグリセロールの水酸基三つ全てに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味する。
これらのモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを構成する脂肪酸としては、特に制限されず、好ましくは炭素数3〜20の飽和または不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数8〜19の飽和または不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数12〜18の飽和または不飽和脂肪酸である。
炭素数1〜20の飽和または不飽和脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
モノグリセリドとしては、例えば、モノミリスチン、モノパルミチン、モノステアリン、モノオレインなどが挙げられ、ジグリセリドとしては、例えば、ジミリスチン、ジパルミチン、ジステアリン、ジオレインなどが挙げられ、トリグリセリドとしては、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリオレインなどが挙げられる。
また、中性脂肪としては、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドの少なくとも1つを含む天然油脂を使用することもでき、このような天然油脂としては、例えば、オリーブ油、ナタネ油、大豆油が挙げられる。これらのうち、中性脂肪としては、モノステアリン、モノオレイン、ジステアリン、ジオレイン、トリステアリン、トリオレインが好ましく、モノオレイン、ジオレイン、トリオレインがより好ましく、トリオレインであることがさらに好ましい。
上述のように、中性脂肪は、中性脂肪がタンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液に分散された中性脂肪分散液として組成物に含まれるのが好ましい。この際、中性脂肪は、タンパク質溶液1dLに対して、0〜8000mg含有されるのが好ましく、より好ましくは2〜6000mg、さらに好ましくは10〜4000mgである。
本発明の標準物質組成物における中性脂肪は、一般的な中性脂肪濃度の測定範囲を網羅する観点から、血球成分を含まない中性脂肪分散液(標準物質組成物を遠心分離して得られる血清)において、0を超えて2000mg/dL以下、より好ましくは0.1〜1500mg/dL、さらに好ましくは1〜1000mg/dLで含まれる。
また、中性脂肪は、一般的な中性脂肪濃度の測定範囲を網羅する観点から、標準物質組成物において、0を超えて1600mg/dL以下、より好ましくは0.04〜1200mg/dL、さらに好ましくは0.4〜800mg/dLで含まれる。
なお、中性脂肪分散液には、中性脂肪を分散させるために、乳化剤、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
これらの添加剤の濃度としては、中性脂肪分散液に対して、0.001〜20質量%であるのが好ましく、0.01〜10質量%であるのがより好ましい。安定化剤としては、トレハロース等が好適である。
なお、本発明の好ましい実施形態の中性脂肪分散液においては、リン酸緩衝液や、浸透圧の調節を目的として塩化ナトリウム等を含有させることができる。
(固定化血球成分)
本発明の標準物質組成物は、固定化剤で固定化された全血の固定化血球成分を含む。
本発明に用いられる全血としては、ヒト由来または動物由来であれば特に制限されないが、ヒト由来であるのが好ましい。
本発明の一実施形態では、(i)全血を洗浄して、血清・血漿成分を除去し、固定化剤により全血の血球成分を固定化する。その後、固定化剤を洗浄して、固定化血球成分を得る。
ここで、全血を洗浄することにより血球成分として得られるのは、全血に対して、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは28〜55質量%、さらに好ましくは34〜50質量%である。すなわち、全血を洗浄することにより、全血に対して、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは45〜72質量%、さらに好ましくは50〜66質量%の血清・血漿成分が除去される。
また、本発明の一実施形態では、(ii)全血と、固定化剤とを混合し、全血と、固定化剤との混合液を得、前記混合液を洗浄して血清・血漿成分および固定化剤を除去し、固定化血球成分を得る。
洗浄方法は、血清・血漿成分および固定化剤が除去された固定化血球成分を得る方法であれば、特に制限されず、詳細については後述する。
また、血清・血漿成分および固定化剤が除去された固定化血球成分は、後述する洗浄に用いた洗浄液を含みうる。血清・血漿成分および固定化剤が除去された固定化血球成分が含みうる洗浄液は、得られた血清・血漿成分および固定化剤が除去された固定化血球成分の全質量に対して、0〜5質量%含有されるのが好ましく、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。よって、得られた血清・血漿成分および固定化剤が除去された固定化血球成分のうち、好ましくは95〜100質量%、より好ましくは98〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%が固定化血球成分であると考えられる。
なお、本発明の標準物質組成物における固定化血球成分は、一般的な血球成分の割合を網羅する観点から、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜55質量%、さらに好ましくは35〜50質量%である。
(溶媒)
本発明の標準物質組成物は、溶媒を含む。
本発明に用いられる溶媒は、タンパク質溶液を構成する溶液(溶媒)として用いる。本発明に用いられる溶媒としては、特に制限されないが、タンパク質を溶解し、タンパク質の機能を阻害しないのであれば特に制限されないが、水、緩衝液が好ましい。
ここで、緩衝液としては、所望のpHを有するものであれば公知の緩衝液が適宜使用でき、特に限定されるものではないが、たとえば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、酢酸緩衝液、MOPS(3−モルホリノプロパンスルホン酸)(MOPS−NaOH緩衝液)もしくはHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)(HEPES−NaOH緩衝液)などのGOOD緩衝液、グリシン−塩酸緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、グリシルグリシン−NaOH緩衝液、グリシルグリシン−KOH緩衝液などのアミノ酸系緩衝液、トリス−ホウ酸緩衝液、ホウ酸−NaOH緩衝液、ホウ酸緩衝液などのホウ酸系緩衝液、またはイミダゾール緩衝液などが用いられる。
緩衝液の濃度としては、特に制限されず、0.1〜400mMであるのが好ましく、10〜350mMであるのがより好ましい。なお、本発明において緩衝液の濃度とは、緩衝液中に含まれる緩衝剤の濃度(mM)をいう。また、緩衝液のpHは、タンパク質の安定pHから極端に外れていなければよく、好ましくはpH4〜11、より好ましくはpH5〜10、さらに好ましくはpH6〜9の範囲である。
また、本発明の好ましい実施形態の標準物質組成物においては、一般的な中性脂肪濃度の測定範囲を網羅し、且つ一般的な血球成分の割合を網羅する観点から、上記のように、タンパク質は、好ましくは0.016〜24質量%、より好ましくは0.16〜12質量%、さらに好ましくは0.4〜8質量%で含まれ、中性脂肪は、0を超えて1600mg/dL以下、より好ましくは0.04〜1200mg/dL、さらに好ましくは0.4〜800mg/dLで含まれ、固定化血球成分は、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜55質量%、さらに好ましくは35〜50質量%で含まれる。
本発明において、上記範囲でそれぞれの成分が含有されることで、中性脂肪が均一な分散状態となり、標準物質組成物が安定した状態を保ち、本発明の効果が十分に発揮される。
本発明の標準物質組成物は、全血の血球成分以外の血中成分により生じる誤差を低減し、所望の中性脂肪値に調整することができ、かつ全血と同等の反応性を示し、かつ、測定値のバラツキを低減させる。よって、中性脂肪濃度測定において、好適な標準物質として用いることができる。特に、全血を試料とし、電気化学的方法で測定する中性脂肪測定において、その性能確認やゼロ補正のための標準物質として好適である。また、本発明の標準物質組成物は、後述する中性脂肪濃度測定用バイオセンサにおける標準物質として好適に用いられる。
本発明によれば、本発明の標準物質組成物を製造する方法も提供される。
すなわち、本発明の一形態によれば、(1)中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程と、(2)全血から、固定化剤で固定化された固定化血球成分を得る工程と、(3)前記中性脂肪分散液と、前記固定化血球成分とを混合する工程と、を有する、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物の製造方法が提供される。
ここで、工程(2)としては、(i)全血を洗浄して血清・血漿成分を除去し、血球成分を得、固定化剤で固定化し、その後固定化剤を洗浄して、固定化血球成分を得る方法や;(ii)全血と、固定化剤とを混合し、全血と、固定化剤との混合液を得、前記混合液を洗浄して血清・血漿成分および固定化剤を除去し、固定化血球成分を得る方法などが好適である。つまり、全血から血球成分を得てそれに固定化処理を施してもよいし、全血と固定化剤とを混合し、分離して、固定化血球成分を得てもよい。
以下に本発明の標準物質組成物の製造方法の好ましい実施形態について述べる。なお、本発明は、下記好ましい実施形態に限定されるものではない。
(1)中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程
工程(1)において、まずタンパク質溶液を準備する。タンパク質溶液の調製方法は特に制限されず、溶液(溶媒)にタンパク質を添加し、タンパク質が溶解するよう混合すればよい。溶媒としては、上述した溶媒が好適に用いられる。
次に、得られたタンパク質溶液に中性脂肪を添加し、中性脂肪を溶液中に分散させる。中性脂肪の分散方法としては、中性脂肪をタンパク質溶液中に分散できればよく、従来公知の技術が適宜使用できる。具体的には、超音波処理、スターラーによる撹拌処理、ホモジナイザー等による乳化処理などがあるが、より好ましくは超音波処理である。超音波処理であれば、中性脂肪をタンパク質溶液に均一に分散することができ、また、分散された中性脂肪の粒径が小さく、安定性がよい。中性脂肪は、溶液中で、タンパク質分子に包含された状態と考えられる。中性脂肪分散液を調製する際の超音波の条件としては、中性脂肪が分散できれば特に制限されず、たとえば、好ましくは5〜50kHz、より好ましくは10〜30kHzである。また超音波する際の温度としても特に制限されず、たとえば、好ましくは4〜25℃、より好ましくは4〜20℃である。また、超音波以外の中性脂肪分散液を調製する際の温度としても特に制限されず、たとえば、好ましくは0〜30℃、より好ましくは4〜25℃である。
(2)全血から、固定化剤で固定化された固定化血球成分を得る工程
上記のように、全血から、固定化剤で固定化された固定化血球成分を得る工程としては、(i)全血を洗浄して血清・血漿成分を除去し、血球成分を得、固定化剤で固定化し、その後固定化剤を洗浄して、固定化血球成分を得る方法や;(ii)全血と、固定化剤とを混合し、全血と、固定化剤との混合液を得、前記混合液を洗浄して血清・血漿成分および固定化剤を除去し、固定化血球成分を得る方法などが好適である。
固定化方法としては、従来公知の技術が適宜使用できる。より好ましい方法としては、固定化剤によって固定化する方法がある。前記固定剤としては、特に制限はないが、パラホルムアルデヒドを使用することが好適である。
添加する固定化剤の量は、(i)の方法を使用する場合、血球成分1gに対して1〜100g、より好ましくは2〜20gである。(ii)の方法を使用する場合、全血1mLに対して、固定化剤を好ましくは1〜100mL、より好ましくは2〜20mLを混合するとよい。
また、固定化する温度としては、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜26℃である。固定化する時間としては、好ましくは1〜48時間、より好ましくは12〜25時間である。
その後、洗浄を行うことによって、固定化血球成分を得る。洗浄方法としては、実質的に固定化血球成分のみを分離・回収できればよく、従来公知の技術が適宜使用できる。従来公知の技術としては、遠心分離を行うことが好適である。
遠心分離の条件としては、好ましくは500〜4000×G、より好ましくは1000〜3500×Gである。時間としても特に制限はないが、2〜10分、より好ましくは2〜10分である。また、遠心分離をする際の温度としては、好ましくは0〜30℃、より好ましくは4〜25℃である。
次に、廃棄した上清に対して、好ましくは0.5〜100容量倍、より好ましくは1〜20容量倍の洗浄液を用いて、血球成分を洗浄する。
具体的には、洗浄液(好ましくは、リン酸緩衝生理食塩水)で血球成分を懸濁させて洗浄し、上清の洗浄液を廃棄する。
この洗浄液による洗浄工程を、好ましくは1〜10回、より好ましくは2〜5回繰り返すことで血清・血漿成分および固定化剤がほぼ除去できる。
以上のようにして、全血の固定化血球成分を含む溶液が得られる。
なお、洗浄液としては、固定化血球成分と同等の浸透圧を有しているものであれば特に制限されず、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、上記のタンパク質溶液を構成する溶液(溶媒)と同様のものが用いられうる。緩衝液のうち、好ましくはリン酸緩衝液であり、より好ましくはリン酸緩衝生理食塩水である。緩衝液の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであるのが好ましく、1〜100mMであるのがより好ましい。また、緩衝液のpHは、好ましくはpH4〜11、より好ましくはpH5〜10、さらに好ましくはpH6〜9の範囲である。
(3)中性脂肪分散液と全血の固定化血球成分とを混合する工程
工程(3)は、所望の中性脂肪濃度の中性脂肪分散液と、洗浄した固定化血球成分とを混合すればよく、振とう、超音波処理、スターラーによる撹拌など従来公知の混合方法で混合することができる。
また、中性脂肪分散液と洗浄した固定化血球成分との混合比は、洗浄工程前の全血の容量を基準として計算するのが好ましい。具体的には、洗浄工程前の全血の容量に対して、好ましくは0.1〜2容量倍、より好ましくは0.5〜1容量倍の中性脂肪分散液を、洗浄した全血の固定化血球成分と混合する。
また混合する割合によってヘマトクリット値(血液中に占める血球成分の体積の割合)が異なるため、一般的な標準物質としては、通常、ヘマトリクット値35〜50%、より好ましくは42〜43%となるように調製するのが好ましい。
本発明の標準物質組成物は、中性脂肪濃度測定用バイオセンサの標準物質として用いるのが好ましい。特に、電気化学的方法による中性脂肪濃度測定に用いられるバイオセンサの標準物質として用いるのが好ましい。このようなバイオセンサとしては特に制限されず、公知のバイオセンサに本発明の標準物質組成物が標準物質として使用されうる。
下記に本発明の標準物質組成物が用いられうるバイオセンサの好適な実施形態について図1および図2を参照しながら述べる。なお、説明の都合上、図面の寸法比率は誇張されており、図示する形態が実際とは異なる場合がある。また、本発明は、下記好ましい実施形態に限定されるものではない。
図1および図2に示すとおり、本実施形態のバイオセンサは、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4を含む電極系が形成されてなる。なお、上記電極系は、少なくとも作用極2および対極4を含むものであればよい。このため、参照極3は省略することができる。また、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサを電気的に接続するための手段として機能している。
絶縁性基板は、プラスチック、紙、ガラス、セラミックなどの絶縁性材料により構成されうる。上記プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、プリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂などが挙げられる。絶縁性基板の形状やサイズについては、特に制限されない。
絶縁性基板上に形成される電極系は、バイオセンサの使用時において、反応層中の試料溶液に電位を印加するための電位印加手段、および、試料溶液中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。
図1および図2に示すバイオセンサは、絶縁性基板に作用極、参照極および対極が電極系として設けられる、三電極方式センサである。ただし、本発明で用いられるバイオセンサは三電極方式のみに制限されず、参照極を含まない電極系を備えた二電極方式センサであってもよい。なお、電極系における電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。その他、液量を感知するための感知電極等を含んでいてもよい。
作用極および対極は、バイオセンサの使用時に一対となって、反応層中の試料溶液に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサの使用時には、参照極を基準に、対極と作用極との間に所定の電位が印加される。
本発明において使用される電極は、測定対象物と試料との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、バイオセンサの電極系の形成に従来用いられる電極が適宜用いられうる。ただし、バイオセンサの応答感度をより一層向上させるという観点からは、電極系は表面抵抗値のより小さい材料から構成されることが好ましい。具体的な電極の一例としては、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極などが挙げられる。各電極(作用極、参照極、対極)を構成する材料は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。後述する作用部分については、耐腐食性およびコストの観点から、作用極および対極はカーボンを主成分として構成され、また、印加電位の安定性が高いという観点から、参照極は好ましくは銀/塩化銀により構成される。
電極系(作用極2、参照極3および対極4)の形成方法は特に制限されず、スクリーン印刷法やスパッタリング法などの従来公知の手法により形成されうる。この際、電極系を構成する材料は、ポリエステル等の樹脂バインダを含むペーストの形態で提供されうる。上記の手法により塗膜を形成した後には、塗膜を硬化させる目的で、加熱処理を施すとよい。
そして、絶縁性基板1上に形成された電極系(作用極2、参照極3および対極4)の一部が露出するように絶縁層5により被覆されている。当該絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙などにより構成されうる。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法、インクジェット法や接着法等の従来公知の手法により形成されうる。
また、絶縁層5から露出されている電極系(作用極2、参照極3および対極4)のそれぞれの一部が、試料供給部(より具体的には、第一の反応層8)と接触している。本明細書中では、第一の反応層8に接触している部分の電極系(作用極2、参照極3および対極4)を、特に、「作用部分(作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1)」とも称し、これらの作用部分の形状は特に限定されるものではない。また、図1および図2に示すように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1の表面上に、第一の反応層8と、第二の反応層9とが順次積層されている。この当該第二の反応層9とカバー7との間に形成される空間部S(図1では図示せず)と、第一の反応層8と、第二の反応層9と、が試料供給部を形成する。
本発明の好ましい実施形態によれば、第一の反応層における酸化還元酵素として、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む。また、本発明によれば、第二の反応層9は、第一の反応層8上に形成され、少なくとも、脂質分解酵素を含む。
ここで、上記作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時に、第一の反応層8中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、第一の反応層8中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。本発明に係るバイオセンサにおいて、参照極3を有する場合には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
本実施形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して第一の反応層8および第二の反応層9を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。なお、図1ではカバー7側のみに接着剤6を設けている。
本発明のバイオセンサにおいて、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。このような形態における電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、(ア)第一の反応層8が電子伝達体を含む(電子伝達体を第一の反応層8に配置する)形態、(イ)第二の反応層9が電子伝達体を含む(電子伝達体を第二の反応層9に配置する)形態、(ウ)電子伝達体を含む第三の反応層(図示せず)をさらに配置する形態等が挙げられる。これらの形態(ア)〜(ウ)のいずれかが適用されても、あるいは上記形態(ア)〜(ウ)の2以上が組み合わせて適用されてもよい。
上記(イ)(第二の反応層が電子伝達体を有する)の場合、図3に示されるように、界面活性剤を含む層(以下、界面活性剤層12とも称する)をさらに、前記第一の反応層8および第二の反応層9と離間して、設けることが好ましい。この際、界面活性剤層12の配置は特に制限されないが、例えば、図3に示されるように、界面活性剤層12が、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー側に形成されることが好ましい。その場合、界面活性剤層がカバー7側に形成されていると、カバー7が直接試料(血液など)に触れる場合よりも、カバー側への試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できる利点もある。界面活性剤層12を形成する界面活性剤については、後述する反応層に含まれうる界面活性剤が同様に適用できる。また、本発明の好ましい形態においては、第一の反応層8に界面活性剤が含まれる。このような形態により、タンパク質の電極表面への固着を防止する効果がある。
また、図3に示されるような、反応層として、第一の反応層8と、第二の反応層9とからなる形態においては、例えば、反応層として、界面活性剤層と、親水性高分子層と、GLDH層と、LPL層とからなるような形態と比較して、層の数を有意に低減することができるため、コスト的に見ても、また製造の容易さから見ても、量産化にとって非常に有利である。また、量産後、実際の使用に供されるまでの時間が長期間(例えば、90日〜2年後)になったとしても、本発明の構成によるバイオセンサの保存安定性は非常に高いため、この効果と相まって、好ましい。
本発明において、試料供給部は、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と、脂質分解酵素を含む第二の反応層9と、を有することが好ましい。
本発明において、第一の反応層8および第二の反応層9の平均厚みは、特に制限されず、通常の反応層の平均厚みとなるように適宜選択できる。第一の反応層8は、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μmである。また、第二の反応層9の平均厚みは、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μmである。厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、制御することができる。
また、本発明に係るバイオセンサにおいて、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー7側に界面活性剤層12が形成される場合がある(図3)。界面活性剤層12が形成される場合には、その平均厚みは0.01〜25μmが好ましく、より好ましくは0.025〜10μmである。第二の反応層9と、界面活性剤層との平均離間距離は好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.07〜1.25mmである。上記範囲であれば、毛細管現象が起こりやすく、試料が試料供給部に導入されやすい。
本発明の好ましい実施形態によるバイオセンサは、図3に示すように、反応層(第一の反応層8、第二の反応層9)と、界面活性剤層12と、を備えており、通常、空間部Sをさらに備える。そして、当該反応層および界面活性剤層は、それぞれ独立して、必要により、電子伝達体、界面活性剤、親水性高分子、糖、血液抗凝固剤、ホウ酸またはその誘導体およびトリスホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。また、以下、各成分について説明する。以下、図3を参照しながら説明する。
(酸化還元酵素)
本発明における好ましい実施形態においては、第一の反応層8は、酸化還元酵素を含む。酸化還元酵素としては、好ましくは、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、本発明の酸化還元酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存する。
補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ(GLDH)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5−ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼ等が挙げられる。
補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ等が挙げられる。
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼ(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)が特に好ましい。
上記の酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
当該酵素を産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属など様々な属に属する細菌が挙げられる。本実施形態では、特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく用いられうる。さらに、入手の容易さから、グルコノバクター属、特には、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276等が用いられうる。
これらの細菌からPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を得る手法については特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
なお、上記公知の方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法等を用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
本発明の酸化還元酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、電子伝達体の種類や、後述する親水性高分子の量等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、かつ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.05〜50U、さらに好ましくは0.1〜10Uであり、特に好ましくは、0.1〜0.5Uである。
なお、本明細書中、各構成成分の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、本明細書における「1センサ」とは、一般的なバイオセンサの大きさである、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μL(好ましくは0.5μL程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成成分の含有量を適宜調整することによって適用することができる。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素の活性単位(U)の定義および測定方法は、特開2006−271257号公報に記載の方法による。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含む酸化還元酵素は、例えば、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
(脂質分解酵素)
また、本発明における第二の反応層9は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素を含む。ゆえに、本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサとして使用することができる。かような脂質分解酵素として、特に制限されないが、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、1センサあたり、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは1〜500U、さらに好ましくは10〜200Uであり、特に好ましくは、30〜150Uである。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
本発明の好ましい実施形態におけるバイオセンサは、酸化分解酵素と脂質分解酵素とが、それぞれ、第一の反応層および第二の反応層という別の層に分かれて存在するため、脂質分解酵素による加水分解反応が効率よく進行するため好ましい。
(電子伝達体)
本発明に係るバイオセンサは、電子伝達体を含むことが好ましい。ここで、電子伝達体は、第一の反応層8または第二の反応層9に含まれてもよい。好ましくは、第二の反応層9に含まれる。なお、電子伝達体は、界面活性剤層12に含まれていてもよい。
電子伝達体は、バイオセンサの使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジンメトサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物等のルテニウム錯体等を好適に使用することができる。これらのうち、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物、フェリシアン化カリウムが好ましく、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物がより好ましく使用される。
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは1〜800mM、より好ましくは25〜600mM、特に好ましくは50〜400mMの電子伝達体が含まれるとよい。得に、50〜400mMであると、高い精度で安定した測定ができる効果がある。また、電子伝達体は、上記の塩成分を使用した緩衝液で調製しておくことも好ましい。
(界面活性剤)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、界面活性剤を有する。好ましい形態においては、電極表面へのタンパク質の固着を防止するとの観点から、第一の反応層8に、界面活性剤を有する。また、好ましい形態においては、本発明のバイオセンサにおいては、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されて、界面活性剤が含まれる界面活性剤層12がカバー7側に形成される。カバー7側に界面活性剤層が形成されていると、カバー7が直接試料に触れる場合よりも、カバー側への全血等の試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できるため好ましい。
本発明に用いられる界面活性剤としては、使用する本発明の酸化還元酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤等を適宜選択して使用することができる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリアルキレンオキサオド、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))等が好ましい。中でも、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))が好ましい。
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド等が好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))等が挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチン等のレシチン等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
上記の界面活性剤のうち、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のCHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。特に、0.1〜10μgであると、酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させない効果がある。
また、界面活性剤が複数の層に含まれる場合、それぞれの層の含有量の好ましい範囲は、それぞれの上記範囲から、その層の数を除することにより求めることができる。なおこの考えは、第一の反応層8、第二の反応層9、界面活性剤層12に含有される各構成成分についても同様に適用する。
ただし、界面活性剤が、界面活性剤層12と;第一の反応層8および第二の反応層9の少なくとも一方と;に含まれる場合、酵素活性を失わせないとの観点から、界面活性剤層における含有量を相対的に多くする方が好ましい。
また、かような界面活性剤は、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
(親水性高分子)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、親水性高分子を有する。この際、電極表面上に均一に固定化するとの観点から、第一の反応層8に含ませることが好ましい。
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体等が挙げられる。
これらのうち、本発明の酸化還元酵素の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールが好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、酵素や電子伝達体を固定化でき、且つ反応層の溶解性を下げないという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。特に、0.1〜10μgであると、酵素や電子伝達体を固定化でき、且つ反応層の溶解性を下げない効果がある。
親水性高分子は、例えば、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくこともよい。また、第一の反応層8および第二の反応層9の両層に親水性高分子を存在させる場合には、これらの反応層に含める各親水性高分子の種類や配合量は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第一の反応層8、第二の反応層9に含有される各構成成分との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
(糖)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、糖を有する。糖は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもないものを適宜選択して使用することができ、各層の固定化や安定化に寄与し得る。糖は、第一の反応層8または第二の反応層9のいずれに含まれてもよいが、両方の層に含まれることが好ましい。
糖としては、遊離性のアルデヒド基やケトン基を持たない、還元性を有していない非還元糖が好ましい。このような非還元糖としては、還元基同士の結合したトレハロース型小糖類、糖類の還元基および非糖類が結合した配糖体、糖類に水素添加して還元した糖アルコール等が挙げられる。より具体的には、スクロース、トレハロース、ラフィノース等のトレハロース型小糖類;アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体等の配糖体;およびアラビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。これら非還元糖は、単独で用いてもよいし、二種以上の混合物の形態で用いてもよい。中でも、トレハロース、ラフィノース、スクロースが好ましく、特にトレハロースが好ましい。
反応層に含まれうる糖の配合量は、1センサあたり好ましくは0.1〜500μg、より好ましくは0.5〜400μg、さらに好ましくは1〜300μgである。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
本発明の好ましい実施形態によると、第一の反応層8に含まれる糖(好ましくはトレハロースであり、以下「第一のトレハロース」とも称する)の含有量が、第二の反応層9に含まれる糖(好ましくはトレハロースであり、以下「第二のトレハロース」とも称する)の含有量よりも多い。このような実施形態とすることによって、保存時間が長い場合であっても、測定値のバラツキが生じない、信頼性がより向上されたバイオセンサを提供することができる。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが以下のようであると推測される。すなわち、酵素のみの比較においてLPLと比べGLDHは保存安定性が悪く、センサの安定性の低下に大きな影響を与える。そのため、第二の反応層と比較して第一の反応層にトレハロースを多く含有させることで、GLDHの保存安定性を向上させ、長期間保存したセンサであっても測定値のバラツキを生じさせないと考えられる。ただし、本発明の技術的範囲が、かかるメカニズムに制限させることはない。
なお、かかる実施形態において、第二のトレハロースの含有量に対する前記第一のトレハロースの含有量の比については、好ましくは1.2〜20であり、より好ましくは1.3〜18であり、さらに好ましくは1.5〜15である。かような範囲であれば、保存安定性を有意に向上させることができる。
なお、第二のトレハロースの含有量に対する前記第一のトレハロースの含有量の比は、2.5〜12であることが特に好ましい。かような範囲であれば、保存安定性がさらに向上するのみならず、安定した電流値も得ることができるという効果も有する。安定した電流値を得ることで、測定値のバラツキを有意に抑制することができる。なお、この範囲が特によいメカニズムについても必ずしも明確ではないが、以下のようであると推測される。すなわち、上記濃度範囲であれば、GLDHの保存安定性が向上することで酵素としての機能が保たれるため、また、反応層成分の溶解性を高めるため、長期間保存したセンサであっても基質を十分に分解できると考えられる。ただし、本発明の技術的範囲が、かかるメカニズムに制限させることはない。
かかる実施形態において、第二のトレハロースの含有量は、好ましくは0.1〜300μg、より好ましくは0.5〜60μg、さらに好ましくは1〜30μgであり、第一のトレハロースの含有量は、上記の含有量の比に応じて決定される。かような範囲であれば、保存時間が長い場合であっても、測定値のバラツキが生じないとの効果がある。
(血液抗凝固剤)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、血液抗凝固剤を有する。
ただし、センサ試料供給部への血液導入をより均一にする観点から、好ましい形態によれば、前記第一の反応層、前記第二の反応層および前記界面活性剤層が、いずれも、血液抗凝固剤を含む。
かかる血液抗凝固剤としては、従来公知のものを使用することができ、試料に応じて適宜決定できる。なお、血液抗凝固剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
血液抗凝固剤としては、より具体的には、ヘパリン、EDTA、クエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等を好適に使用することができる。これらのうち、必要量が微量であり、血液への溶解性も高く、そして酵素の保存安定性を低下させないという観点から、ヘパリンがより好ましく使用される。かような血液抗凝固剤は、血液への溶解性が高いとの観点から、塩の形態となっていてもよく、塩としても、ナトリウム、カリウムなどが好適である。
血液抗凝固剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、ヘパリンナトリウムを使用する場合、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは0.01U〜100U、より好ましくは0.05U〜50U、特に好ましくは0.1U〜10Uの血液抗凝固剤が含まれるとよい。この場合の1U(ユニット)とは、1mlの血液の凝固を1時間抑制する量であり、詳細は第十六改正日本薬局方ヘパリンナトリウムの定量法に従う。また、血液抗凝固剤は、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
(ホウ酸またはその誘導体)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、ホウ酸またはその誘導体を有する(ただし、かかる「ホウ酸またはその誘導体」の概念からは、後述する「トリスホウ酸」は除く)。これにより、測定値に対する血液中のグルコースの影響をほとんど無くすかまたはまったく無くすことができ、どのような血糖値であっても、所定の測定値が得られ、測定値のばらつきがほとんど生じない。
測定値に対する血液中のグルコースの影響を低減できるメカニズムについては、詳細なことは不明であるが、ホウ酸またはその誘導体を含むことによって、ホウ酸またはその誘導体と血中のグルコースとが結合し、GLDHの精製中に混入するGDHとグルコースとの反応を阻害するためであると考えられる。
本発明で用いられるホウ酸またはその誘導体の具体的な例としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、次ホウ酸、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛など)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウムなど)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウムなど)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウムなど)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀など)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅など)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウムなど)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛など)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケルなど)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウムなど)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウムなど)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガンなど)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウムなど)、ボロン酸、フェニルボロン酸、2−アセトアミドフェニルボロン酸、3−アセチルフェニルボロン酸、3−アミノカルボニルフェニルボロン酸、4−アミノ−3−ニトロフェニルボロン酸、p−ブロモフェニルボロン酸、p−クロロフェニルボロン酸、m−アミノフェニルボロン酸、2,4−ジクロロフェニルボロン酸、2,4−ジフルオロフェニルボロン酸、3−ビフェニルボロン酸、2,4−ジメトキシフェニルボロン酸、3−カルボキシフェニルボロン酸、(p−ヒドロキシフェニル)ボロン酸、p−(メタンスルホニル)ベンゼンボロン酸、ベンゼンボロン酸、3−カルボキシベンゼンボロン酸、ベンゼンジボロン酸、2,3−ジメトキシベンゼンボロン酸、トルエンボロン酸、2−フランボロン酸、5−インドールボロン酸、ナフタレンボロン酸、ブタンボロン酸、ピリジンボロン酸、キノリンボロン酸、テトラヒドロキシボロン、メチルボロン酸、エチルボロン酸、ブチルボロン酸、チオアニソールボロン酸、チオフェンボロン酸、シクロヘキシルボロン酸、m−フェニレンジボロン酸などが挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
これらホウ酸またはその誘導体の中でも、ホウ酸、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、フェニルボロン酸、m−アミノフェニルボロン酸が好ましく、四ホウ酸カリウム、が特に好ましい。ここで、四ホウ酸ナトリウムではなく、四ホウ酸カリウムが好ましい理由は、溶解性、阻害効果ともに高いためである。
ホウ酸またはその誘導体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、好ましくは1〜1000mM、より好ましくは5〜500mM、特に好ましくは10〜100mMが含まれるとよい。この範囲であれば、ホウ酸またはその誘導体と血中のグルコースとを効率良く結合させることができ、GLDHの精製中に混入するGDHとグルコースとの反応を効率良く阻害することができる。また特に、10〜100mMであると、測定電流値に影響を与えないため高い精度での測定が可能である効果もある。
なお、ホウ酸またはその誘導体は、第一の反応層8、第二の反応層9のいずれか一方の反応層に含まれてもよいし、両方の層に含まれてもよい。しかしながら、GLDH中に含まれるGDHとグルコースとの反応阻害効果の観点から、前記ホウ酸またはその誘導体は第二の反応層9に含まれることが好ましい。
上記ホウ酸またはその誘導体は、トリスホウ酸のような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
(トリスホウ酸)
本発明に係る好ましい実施形態のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および界面活性剤層12の少なくとも一層は、トリスホウ酸を含む。
そうすることで、トリスホウ酸が基質と酸化還元酵素との反応以外の反応によって生じた電子をキレートし、電子伝達体への電子移動が減少すると考えられる。その結果、バックグランド電流の発生(特に、保存期間の長期化に伴うバックグラウンド電流の発生)が抑制されるため、精度の高いバイオセンサとすることが可能となる。
なお、センサの測定の精度を保つとの観点から、本発明の好ましい形態によれば、第一の反応層および前記第二の反応層が、いずれも、トリスホウ酸を含む。
本発明に係るトリスホウ酸は、等モル濃度のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液(溶媒は水)とホウ酸溶液(溶媒は水)との混合物で使用すると好ましく、その混合割合を変えることでpHを適宜調整できる。好ましくはpH5〜9であり、さらに好ましくはpH6〜8である。
当該トリスホウ酸の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは5〜500mM含まれるとよく、特に好ましくは、10〜100mMである。特に、10〜100mMであると、基質に依存したバックグラウンド電流を抑制し、精度の高い測定ができる効果がある。
本発明に係るバイオセンサにおける第一の反応層8、第二の反応層9を形成する方法は、特に制限されることはない。例えば、それぞれの構成成分を含む溶液を塗布することによって任意の層上に形成することができる。ここで、塗布方法は、特に制限されず、それぞれの構成成分を含む溶液を、滴下により、あるいはスプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフ等の塗布器具を用いて塗布する方法が使用できる。所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後は、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
また、必要に応じて形成される界面活性剤層についても形成方法は特に制限されず、上記第一反応層および第二の反応層と同様の方法で形成することができる。
最後に、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1と、カバー7を、接着剤6を介して張り合わせることにより、バイオセンサを製造することができる。
続いて、本発明で用いられるバイオセンサの動作について説明する。
まず、濃度の測定を希望する成分(基質)を含む試料溶液の所定量を、バイオセンサの試料供給部に供給する。試料溶液の具体的な形態は特に制限されず、バイオセンサに用いられるグリセロールデヒドロゲナーゼの基質である中性脂肪を含む溶液が適宜用いられうる。試料としては、例えば、血液(全血)、血清、血漿、尿、唾液などの生体試料、果物、野菜、加工食品原料などの食品等が用いられうる。ただし、その他の溶液が試料として用いられてもよい。試料溶液は原液をそのまま用いてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈した溶液を用いてもよい。
試料溶液を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、所定量の試料溶液を試料供給部に対して垂直に直接滴下することにより供給してもよいし、別途設けた試料溶液供給手段により、試料供給部に対して水平方向から試料溶液を供給してもよい。
試料供給部へと試料溶液が供給されると、試料溶液が試料供給部上部から下部へ浸透するとともに、試料溶液中の基質である中性脂肪が試料供給部に含まれる脂質分解酵素の作用によって分解され、グリセロールおよび脂肪酸が生成する。例えば、脂質分解酵素がリポプロテインリパーゼである場合には、下記式に示されるように、中性脂肪がリポプロテインリパーゼによりグリセロールと脂肪酸とに変換されうる。
次いで、生成物であるグリセロールを含む試料溶液が、グリセロールデヒドロゲナーゼおよび電子受容体を含む反応層へと浸透する。これにより、試料溶液中のグリセロールは、酸化還元酵素であるグリセロールデヒドロゲナーゼの作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。グリセロールから放出された電子は、電子受容体に捕捉され、これに伴って電子受容体は酸化型から還元型へと変化する。
試料溶液の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、グリセロールデヒドロゲナーゼによって基質が完全に酸化され、一定量の電子受容体が酸化型から還元型へと変換される。グリセロールと酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料溶液を不織布層に添加した後、通常は10〜300秒間、好ましくは20〜240秒間、より好ましくは30〜120秒間である。
その後、電極系を介して、作用極と対極との間に、所定の電位を印加することにより、還元型の電子受容体が電気化学的に酸化される。この際に測定される酸化電流の値から、電位印加前の還元型の電子受容体の量が算出され、さらに、グリセロールデヒドロゲナーゼと反応したグリセロールの量が定量されうる。そして、最終的には、試料中の中性脂肪濃度が算出されうる。
酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜600mVの電位を、対極と作用極との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法を用いてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法を用いてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
以上、還元型の電子受容体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより中性脂肪濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子受容体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を採用してもよい。
本発明に係るバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサなど、様々な用途に使用できる。
以下、実施例を用いて本発明の好適な実施形態についてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例のみに限定して解釈されるべきではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
<実施例1−1>
(使い捨て型バイオセンサの作製)
本発明の標準物質組成物が用いられるバイオセンサの一例として、下記方法により使い捨て型バイオセンサを作製した。なお、当該使い捨て型バイオセンサを図3に示す。
使用する電極基板には、独自に設計・製造した3電極系の電極基板を使用した。この電極基板は、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる作用極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、カーボンからなる作用極作用部分2−1、銀/塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている(図3)。
図3に示されているように、このバイオセンサは、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1、対極作用部分4−1の上に第一の反応層8(GLDH層)、さらに第一の反応層の上に第二の反応層9(LPL層)が形成されている。またカバー7の内側に界面活性剤層12が形成されている。電極基板とカバー7との接着には両面テープ6を用いている。
(第一の反応層)
第一の反応層8(GLDH層)は以下の手順で形成した。
GLDH層あたり、終濃度で、
PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を0.375U;
エマルゲンPP−290(花王株式会社)を0.05質量%(0.25μg);
トリスホウ酸(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびホウ酸水溶液を等モル濃度で混合し、pH7.5に調整)を10mM(0.37μg);
トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を10.5質量%(52.5μg);
ポリビニルアルコール500(和光純薬工業株式会社製)を0.5質量%(2.5μg);
ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.1U;
になるように混合し、溶液を得た。得られたGLDH溶液を滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。
(第二の反応層)
第二の反応層9(LPL層)は以下の手順で形成した。
LPL層あたり、終濃度で、
リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を90U;
ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を200mM(62μg);
トリスホウ酸を10mM(0.37μg);
トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を3.0質量%(15.0μg);
四ホウ酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を80mM(12μg);
ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.1U;
になるように混合し、溶液を得た。得られたLPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、50℃で5分間乾燥させ、第二の反応層9(LPL層)を得た。このようにして、第一の反応層8であるGLDH層、さらにその上に第二の反応層9であるLPL層を形成(重層)した。
(界面活性剤層12)
界面活性剤層12は以下の手順で形成した。
界面活性剤層12あたり、終濃度で、
エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.1質量%(0.5μg)、
ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社)を0.08U;
になるように混合し、界面活性剤溶液を得た。得られた界面活性剤溶液を、PETからなるカバーに接着剤を貼り合わした隙間に滴下後、50℃で5分間乾燥させ、界面活性剤層を形成した。
(作製)
界面活性剤層が形成されているカバーに接着した接着剤(両面テープ)と、第一の反応層と第二の反応層とが形成されている電極基板とを互いに貼り合わせることにより、使い捨て型バイオセンサを作成した。
なお、この際、第一の反応層、第二の反応層、そして界面活性剤層の厚みはそれぞれ5μmであり、第二の反応層と界面活性剤層との離隔距離は0.1mmであった。
上記のようにして、使い捨て型バイオセンサを作製した。
<実施例1−2>
[標準物質組成物の作製]
(トリオレインエマルションの調製)
BSA(ウシ血清アルブミン、和光純薬工業株式会社製)を12質量%(12g)になるように蒸留水100mLに溶解し、BSA溶液を得た(タンパク質溶液)。その後、中性脂肪としてトリオレイン(ナカライテスク社)をBSA溶液1dLあたり2000mgとなるように混合した。得られた溶液を超音波破砕機(日本エマソン株式会社、SONIFIER 450A、20kHz)で氷冷しながら10分間処理し、トリオレインエマルション(中性脂肪分散液)を得た。トリオレインエマルションを調製する際の温度は10℃であった。また超音波処理以外の調製する際の温度は25℃であった。
(疑似血清溶液の調製)
下記成分を任意の順番で混合することによって疑似血清溶液を得た。この際の混合時間は5分で、疑似血清溶液の温度は25℃である。
上記のようにして、中性脂肪の終濃度が(3)500mg/dLであり、タンパク質濃度が3質量%である、疑似血清溶液を得た。
また、トリオレイン濃度のみを適宜変更することによって、タンパク質濃度が3質量%であり、中性脂肪濃度が、(1)0mg/dL、(2)250mg/dLである、疑似血清溶液を作製した。
(固定化血球成分の調製)
(1)ヒト血液3mLと、27mLの4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(和光純薬工業社製)とを混合液(全血と、固定化剤との混合液)を作製し、この混合液を室温(25℃)で24時間放置した。
(2)その後、50mL容量プラスティックチューブに、混合液を全量入れ、室温(25℃)、3,000rpmで5分間遠心分離を行った。その後、上清約29mLをデカンテーションで除去した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液、PBSタブレット(和光純薬工業株式会社製)29mLを添加して、懸濁させた(洗浄)。
(3)(2)終了後、(2)と同じ操作をさらに2回繰り返した。
(4)上記同条件で遠心して再度上清を除去することにより、固定化された血球成分(固定化血球成分)を1.5mL得た。
(標準物質組成物の調製)
上記で準備した固定化血球成分(全血3mLより調製した固定化血球成分)1.5mLと、疑似血清溶液(1.86mL)とを振とうして混合することで、固定化血球成分の体積が42%(46.2質量%)である標準物質組成物を得た。
なお、固定化血球成分の体積が42%であるかの確認は、以下のように行った。すなわち、ヘマトクリット毛細管(東京硝子器械株式会社製)に得られた標準物質組成物を導入し、シール用パテ(東京硝子器械株式会社製)で毛細管の片側に封をした。ヘマトクリット遠心機H−1200C(株式会社コクサン社製)にて12,000rpm、5分間遠心後、固定化血球成分と擬似血清成分との体積比を算出した。
以上より、得られた標準物質組成物中の「タンパク質」の濃度は、いずれも3質量%でる。また、得られた標準物質組成物中の「固定化血球成分」の濃度は、いずれも46.2g/dLである。また、得られた標準物質組成物中の「中性脂肪」の濃度は、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)130mg/dL、(3)260mg/dLであった。また、上記と同様の条件で1回遠心分離を行い得られた擬似血清溶液中の中性脂肪濃度を測定したところ、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dLであった。また、標準物質組成物には、溶媒として、疑似血清溶液に由来するリン酸緩衝液と、蒸留水とが含まれている。
<実施例1>
[中性脂肪センサを用いた全血との比較試験]
HZ−5000(北斗電工株式会社製)に使い捨て型バイオセンサを接続し、上記で調製した標準物質組成物を点着した。点着45秒後に参照極を基準として対極に対して作用極に+200mVの電位を印加して、得られた電流値を読み取った。
より具体的には、試料として標準物質組成物(遠心して得られた上清の中性脂肪濃度が、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dL)を用いて得られたそれぞれの値の結果を表2および図4に示す(なお、測定はそれぞれ2回ずつ測定を行った。また、測定には調製直後の標準物質組成物を使用した。)
<比較例1>
試料として固定化処理を行わなかった全血成分を用いて標準物質組成物を調製し、それを使用した以外は、実施例1と同様に行った。なお、比較例1の標準物質組成物における遠心して得られた上清の中性脂肪濃度も、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dLであり、それぞれ2回ずつ測定を行った。結果を表3および図4に示す。
結果、実施例1および比較例1ともに良好な直線性が得られ、また両電流値とも同等であった。
この結果から示唆されることは以下のとおりである。すなわち、標準物質組成物における全血成分として、固定化処理したものを使用しても、通常の全血成分を使用した標準物質組成物と同様の結果を得ることができ、つまりは、固定化処理したとしても精度に影響を与えないことが分かる。
<実施例2>
固定化した血球成分を用いて調製した標準物質組成物(遠心して得られた上清の中性脂肪濃度が、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dL)を試料とし、1.5mLエッペンチューブに分注して、作製直後の電流値および50℃で3日間および9日間保存した後の電流値を測定した(それぞれ2回ずつ測定)。結果を表4および図5に示す。
<比較例2>
未処理の血球成分を用いて調製した標準物質組成物(遠心して得られた上清の中性脂肪濃度が、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dL)を試料とし、1.5mLエッペンチューブに分注して、作製直後の電流値および50℃で3日間および9日間保存した後の電流値を測定した(それぞれ2回ずつ測定)。結果を表5および図5に示す。
結果、比較例2では保存日数とともに電流値の上昇が認められたが、実施例2では50℃9日間の保存においても変化は認められなかったことから、安定性が向上したことがわかった。また、以下のようなことも示唆される。すなわち、調製直後の標準物質組成物を試料として用いる場合、未処理の血球成分を用いたとしても、本発明に係る標準物質組成物と変わらない。しかしながら、未処理の血球成分を用いて調製された標準物質組成物を、50℃ 3日、9日後(通常の環境(25℃、相対湿度:50%)であれば、それぞれ、約30日後、約90日後に相当)に使用すると、電流値が上昇することが分かり、つまり、中性脂肪濃度の正確な測定ができないことが窺われる。これに対し、標準物質組成物として、本発明のものを用いると、通常の環境であれば、それぞれ約90日後に使用しても、製品としても問題ないことが示唆される。
1 絶縁性基板、
2 作用極、
2−1 作用極作用部分、
3 参照極、
3−1 参照極作用部分、
4 対極、
4−1 対極作用部分、
5 絶縁層、
6 接着剤、
7 カバー、
8 第一の反応層、
9 第二の反応層、
12 界面活性剤層、
S 空間部。

Claims (6)

  1. 中性脂肪と、
    タンパク質と、
    全血の血球成分が固定剤によって固定化されてなる固定化血球成分と、
    溶媒と、
    を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物。
  2. 前記固定剤が、パラホルムアルデヒドである、請求項1に記載の標準物質組成物。
  3. 前記タンパク質が、0.016〜24質量%、
    前記中性脂肪が、0を超えて1600mg/dL以下、
    前記固定化血球成分が、20〜60質量%、
    で含まれる、請求項1または2に記載の標準物質組成物。
  4. 前記中性脂肪が、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の標準物質組成物。
  5. 前記タンパク質が、卵アルブミン、血清アルブミン、および乳アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の標準物質組成物。
  6. (1)中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程と、
    (2)全血から、固定化剤で固定化された固定化血球成分を得る工程と、
    (3)前記中性脂肪分散液と、前記固定化血球成分とを混合する工程と、
    を有する、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物の製造方法。
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