以下、本実施の形態を、図1乃至図4に沿って説明する。
まず、本自動変速機1の概略構成について、図1及び図2に沿って説明する。本自動変速機1は、後輪駆動車両の前部に縦置きに搭載される駆動源としてのエンジン(不図示)のクランクシャフトに接続されると共に、エンジンからの動力(トルク)を左右後の車輪(不図示)に伝達可能としている。自動変速機1は、発進装置3と、エンジン等から入力軸(中心軸)40に伝達された動力を変速して出力軸41に伝達する自動変速機構4と、これらを収容するミッションケース5とを備えている。
発進装置3は、トルクコンバータ20と、エンジンのクランクシャフト等に連結されたフロントカバーと自動変速機構4の入力軸40とを接続及び切断可能なロックアップクラッチ21と、フロントカバーと自動変速機構4の入力軸40との間で振動を減衰するダンパ機構22とを備えている。トルクコンバータ20は、フロントカバーに連結される入力側のポンプインペラ23と、自動変速機構4の入力軸40に連結される出力側のタービンランナ24と、ポンプインペラ23及びタービンランナ24の内側に配置されてタービンランナ24からポンプインペラ23への作動油の流れを整流するステータ25と、図示しないステータシャフトにより支持されると共にステータ25の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ26とを備えている。なお、トルクコンバータ20は、ステータ25を有さない流体継手であってもよい。
自動変速機構4は、10段変速式の変速機として構成されており、入力軸40と、図示しないデファレンシャルギヤ及びドライブシャフトを介して左右後の車輪7に連結される出力軸41と、入力軸40及び出力軸41の軸方向に並べて配設されるシングルピニオン式の第1プラネタリギヤ42及び第2プラネタリギヤ43と、ダブルピニオン式プラネタリギヤとシングルピニオン式プラネタリギヤとを組み合わせて構成されるラビニヨ式遊星歯車機構であるプラネタリギヤセット44とを備えている。また、自動変速機構4は、入力軸40から出力軸41までの動力伝達経路を変更するための6つの係合要素として、それぞれ係合自在に構成された第1クラッチC1(クラッチ)と、第2クラッチC2と、第3クラッチC3と、第4クラッチC4と、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2とを備えている。
本実施の形態では、第1及び第2プラネタリギヤ42,43、並びにプラネタリギヤセット44は、発進装置3即ちエンジン側(図1における左側)から、プラネタリギヤセット44、第2プラネタリギヤ43、第1プラネタリギヤ42という順番で並ぶようにミッションケース5内に配置されている。これにより、プラネタリギヤセット44は、発進装置3に近接するように車両の前部側に配置され、第1プラネタリギヤ42は、出力軸41に近接するように車両の後部側に配置され、第2プラネタリギヤ43は、プラネタリギヤセット44と第1プラネタリギヤ42との間に配置されている。
第1プラネタリギヤ42は、外歯歯車である第1サンギヤ42sと、第1サンギヤ42sと同心円上に配置される内歯歯車である第1リングギヤ42rと、それぞれ第1サンギヤ42s及び第1リングギヤ42rに噛合する複数の第1ピニオンギヤ42pと、複数の第1ピニオンギヤ42pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第1キャリヤ42cとを備えている。
第1プラネタリギヤ42の第1キャリヤ42cは、入力軸40に連結された自動変速機構4の中間軸47に常時連結(固定)されている。これにより、エンジン2から入力軸40に動力が伝達されている際、第1キャリヤ42cには、エンジン2からの動力が入力軸40及び中間軸47を介して常時伝達されることになる。第1キャリヤ42cは、第4クラッチC4の係合時に第1プラネタリギヤ42の入力要素として機能し、第4クラッチC4の解放時には空転する。また、第1リングギヤ42rは、第4クラッチC4の係合時に当該第1プラネタリギヤ42の出力要素として機能する。
第2プラネタリギヤ43は、外歯歯車である第2サンギヤ43sと、第2サンギヤ43sと同心円上に配置される内歯歯車である第2リングギヤ43rと、それぞれ第2サンギヤ43s及び第2リングギヤ43rに噛合する複数の第2ピニオンギヤ43pと、複数の第2ピニオンギヤ43pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第2キャリヤ43cとを備えている。
第2プラネタリギヤ43の第2サンギヤ43sは、第1プラネタリギヤ42の第1サンギヤ42sと一体化(常時連結)されており、当該第1サンギヤ42sと常時一体(かつ同軸)に回転または停止するようになっている。但し、第1サンギヤ42sと第2サンギヤ43sとは、別体に構成されると共に図示しない連結部材を介して常時連結されてもよい。また、第2プラネタリギヤ43の第2キャリヤ43cは、出力軸41に常時連結されており、当該出力軸41と常時一体(かつ同軸)に回転または停止するようになっている。これにより、第2キャリヤ43cは、第2プラネタリギヤ43の出力要素として機能する。更に、第2プラネタリギヤ43の第2リングギヤ43rは、当該第2プラネタリギヤ43の停止要素として機能する。なお、第2プラネタリギヤ43の第2サンギヤ42sは、後述の第3プラネタリギヤ45の第3サンギヤ45sに第2クラッチC2の係合により駆動連結される回転連結要素として機能する。
プラネタリギヤセット44は、ダブルピニオン式プラネタリギヤである第3プラネタリギヤ45と、シングルピニオン式プラネタリギヤである第4プラネタリギヤ46とを組み合わせて構成される複合遊星歯車機構である。なお、各プラネタリギヤは、エンジン2側から、第4プラネタリギヤ46、第3プラネタリギヤ45、第2プラネタリギヤ43、第1プラネタリギヤ42という順番で並ぶようにミッションケース5内に配置されている。
プラネタリギヤセット44は、外歯歯車である第3サンギヤ45s及び第4サンギヤ46sと、第3及び第4サンギヤ45s,46sと同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤ45rと、第3サンギヤ45sに噛合する複数の第3ピニオンギヤ(ショートピニオンギヤ)45pと、第4サンギヤ46s及び複数の第3ピニオンギヤ45pに噛合すると共に第3リングギヤ45rに噛合する複数の第4ピニオンギヤ(ロングピニオンギヤ)46pと、複数の第3ピニオンギヤ45p及び複数の第4ピニオンギヤ46pを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持する第3キャリヤ45cと、を備えている。
第3プラネタリギヤ45は、第3サンギヤ45sと、第3キャリヤ45cと、第3ピニオンギヤ45pと、第4ピニオンギヤ46pと、第3リングギヤ45rとにより構成されている。第4プラネタリギヤ46は、第4サンギヤ46sと、第3キャリヤ45cと、第4ピニオンギヤ46pと、第3リングギヤ45rとにより構成されている。
また、プラネタリギヤセット44を構成する回転要素のうち、第4サンギヤ46sは、プラネタリギヤセット44の固定可能要素として機能する。更に、第3キャリヤ45cは、入力軸40に常時連結(固定)されると共に、中間軸47を介して第1プラネタリギヤ42の第1キャリヤ42cに常時連結される。これにより、エンジン2から入力軸40に動力が伝達されている際、第3キャリヤ45cには、エンジン2からの動力が入力軸40を介して常時伝達されることになる。従って、第3キャリヤ45cは、プラネタリギヤセット44の入力要素として機能する。また、第3リングギヤ45rは、当該プラネタリギヤセット44の出力要素として機能し、第3サンギヤ45sは、当該プラネタリギヤセット44の出力要素として機能する。
第1クラッチC1は、常時連結された第1プラネタリギヤ42の第1サンギヤ42s及び第2プラネタリギヤ43の第2サンギヤ43sとプラネタリギヤセット44の第3リングギヤ45rとを互いに接続すると共に、両者の接続を解除するものである。第2クラッチC2は、常時連結された第1プラネタリギヤ42の第1サンギヤ42s及び第2プラネタリギヤ43の第2サンギヤ43sとプラネタリギヤセット44の第3サンギヤ45sとを互いに接続すると共に、両者の接続を解除するものである。第3クラッチC3は、第2プラネタリギヤ43の第2リングギヤ43rとプラネタリギヤセット44の第3リングギヤ45rとを互いに接続すると共に、両者の接続を解除するものである。第4クラッチC4は、第1プラネタリギヤ42の第1リングギヤ42rと出力軸41とを互いに接続すると共に、両者の接続を解除するものである。
第1ブレーキB1は、プラネタリギヤセット44の第4サンギヤ46sをミッションケース5に対して回転不能に固定(接続)すると共に、当該第4サンギヤ46sをミッションケース5に対して回転自在に解放するものである。第2ブレーキB2は、第2プラネタリギヤ43の第2リングギヤ43rをミッションケース5に対して回転不能に固定(接続)すると共に、当該第2リングギヤ43rをミッションケース5に対して回転自在に解放するものである。
本実施の形態では、第1クラッチC1〜第4クラッチC4として、ピストン、複数の摩擦係合プレート(例えば、環状部材の両面に摩擦材を貼着することにより構成された摩擦プレート及び両面が平滑に形成された環状部材であるセパレータプレート)、それぞれ作動油が供給される係合油室及び遠心油圧キャンセル室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチが採用されている。また、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2としては、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレート及びセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキが採用されている。そして、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は、油圧制御装置6による作動油の給排を受けて動作する。
図2は、自動変速機構4の各変速段と第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の作動状態との関係を示す係合表である。以上のように構成された自動変速機構4では、図1のスケルトン図に示す各第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2が、図2の係合表に示す組み合わせで選択的に同時係合されることにより、前進1速段(1st)〜前進10速段(10th)、及び後進段(Rev)が達成可能である。
ついで、本自動変速機1の第1クラッチC1近傍の詳細な構成を図3に沿って説明する。本自動変速機1の自動変速機構4は、図3に示すように、ミッションケース5に対して入力軸40及び中間軸47が自動変速機構4の略々中心に位置するように回転自在に支持されており、その入力軸40及び中間軸47の外周側に、軸方向に順に、プラネタリギヤセット44、第2クラッチC2、第1クラッチC1、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2が配置されている。
プラネタリギヤセット44は、入力軸40の外周側にあって、内周側から外周側へ順に、第3サンギヤ45s、第3ピニオンギヤ45pと第4ピニオンギヤ46pとを有する第3キャリヤ45c、第3リングギヤ45rが配置されており、該第3リングギヤ45rは、詳しくは後述する第1クラッチC1のクラッチドラム52のドラム部52dに形成されたスプライン部52sにスプライン係合されて、回転方向に駆動連結されている。
上記第3サンギヤ45sは、入力軸40の外周側において、該入力軸40に対してニードルベアリングb7及びスラストベアリングb8によって相対回転自在に支持された連結部材79の端部に一体的に形成されている。この連結部材79の外周側には、第2クラッチC2が配置されている。
第2クラッチC2は、大まかに、複数の外摩擦板61a及び複数の内摩擦板61bからなる摩擦板61と、この摩擦板61を押圧自在な油圧サーボ60とにより構成されている。油圧サーボ60は、シリンダ部材62と、ピストン部材63と、キャンセルプレートとしても機能するハブ部材64と、ピストン部材63とハブ部材64との間に縮設されたリターンスプリング65と、を有しており、シリンダ部材62とピストン部材63と連結部材79との間にシールリングd5,d6,d7でシールされた作動油室66が形成され、また、ピストン部材63とハブ部材64と連結部材79との間にシールリングd7,d8でシールされたキャンセル油室67が形成されている。
このうちの内摩擦板61bにスプライン係合するハブ部材64は、連結部材79にセレーション(又はスプライン)により駆動連結されており、一方の外摩擦板61aは、ドラム部材71にスプライン係合されている。このドラム部材71は、外周側が、詳しくは後述する第1クラッチC1の内摩擦板51bにスプライン係合するハブ部材72に溶接されていると共に、内周側が、スリーブ部材70に溶接されている。該スリーブ部材70は、スリーブ状のスリーブ部(第1スリーブ部)70aと、該スリーブ部70aから外周側にフランジ状に延設されたフランジ部70bとを有しており、入力軸40及び中間軸47の外周側にブッシュb1及びスラストベアリングb6等によって相対回転自在に支持されている。なお、該スリーブ部70aは、図3で図示を省略した部分で、第3サンギヤ45s及び第4サンギヤ46sに一体的に連結されている。
一方、第1クラッチC1は、大まかに、複数の外摩擦板51a及び複数の内摩擦板51bからなる摩擦板51と、この摩擦板51を押圧自在な油圧サーボ50とにより構成されている。油圧サーボ50は、クラッチドラム52と、ピストン部材53と、キャンセルプレート54と、ピストン部材53とキャンセルプレート54との間に縮設されたリターンスプリング55と、を有しており、クラッチドラム52とピストン部材53との間にシールリングd1,d2でシールされた作動油室56が形成され、また、ピストン部材53とキャンセルプレート54との間にシールリングd1,d3でシールされたキャンセル油室57が形成されている。
クラッチドラム52は、内周側に、スリーブ状のサーボ用スリーブ部52aと同じくスリーブ状の支持用スリーブ部52bとからなるスリーブ部(第2スリーブ部)52Aを有しており、それらサーボ用スリーブ部52a及び支持用スリーブ部52bが、上記スリーブ部材70のスリーブ部70aの外周側にサブブッシュ(第2軸受)b2、メインブッシュ(第1軸受)b3、スラストベアリングb4、及びスラストベアリングb5により相対回転自在に支持されている。このうちメインブッシュb3は、後述のフランジ部52cや第2径方向油路a13及び第3径方向油路a15に対して軸方向一方側(出力軸41側)にあって支持用スリーブ部52bの内周側に配置されている。また、サブブッシュb2は、後述のフランジ部52cや第2径方向油路a13及び第3径方向油路a15に対して軸方向他方側(トルクコンバータ20側)にあってサーボ用スリーブ部52aの内周側に配置されている。
また、上記スリーブ部材70のスリーブ部70aと、クラッチドラム52のサーボ用スリーブ部52aとの間には、環状の環状部材75が配置されており、該環状部材75は、サーボ用スリーブ部52aの内周側に圧入されて該サーボ用スリーブ部52aと一体回転するように構成されている。このサーボ用スリーブ部52aの外周側には、上記ピストン部材53が軸方向に摺動自在に配設されていると共に、上記キャンセルプレート54がスナップリング58によって規制されて軸方向に位置決め固定されている。要するに、このサーボ用スリーブ部52aの外周側に、第1クラッチC1の油圧サーボ50が配設されていることになる。
一方、クラッチドラム52にあって、サーボ用スリーブ部52aと支持用スリーブ部52bとの軸方向の間からは、フランジ状に外周側に延設されたフランジ部52cが、サーボ用スリーブ部52a及び支持用スリーブ部52bと一体的になるように形成されている。フランジ部52cの最も外周側には、軸方向に延設されたドラム部52dが形成されており、ドラム部52dの内周面に形成されたスプライン部52sには、上記複数の外摩擦板51aがスプライン係合されている。一方、フランジ部52cの径方向の略々中間部分からは、上記ドラム部52dとは軸方向反対側に延設された円筒状の円筒部52eが一体的に形成されており、該円筒部52eの外周側には、第3クラッチC3の摩擦板81がスプライン係合されている。
以上のように構成されたクラッチドラム52は、サーボ用スリーブ部52aに比して、フランジ部52cから軸方向にドラム部52dが長く延びている形状であるが、第2クラッチC2がドラム部52dの内周側に収納されているためにサーボ用スリーブ部52aを長く延ばすことができず、さらに、サーボ用スリーブ部52aに作動油室56までの第3径方向油路a15を形成する必要があることから、サブブッシュb2の長さを長くすることが難しい。そのため、クラッチドラム52は、スリーブ部材70に対して主にメインブッシュb3で支持される構造であるが、ドラム部52dが長いためにクラッチドラム52が軸芯に対いて傾斜する虞があるので、その傾斜を防止するための副次的な両持ち支持構造として、メインブッシュb3よりも短いサブブッシュb2でも支持する必要がある。なお、サブブッシュb2は、副次的にクラッチドラム52を支持するものであるので、短縮化することができる。
しかしながら、サーボ用スリーブ部52aに形成される第3径方向油路a15やスリーブ部材70に形成される第2径方向油路a13が大径となると、その分、サブブッシュb2を配置するスペースを第2クラッチC2側に延ばす必要が生じ、第1クラッチC1の油圧サーボ50と第2クラッチC2の油圧サーボ60との距離が長くなって、ひいては自動変速機1の軸方向の肥大化を招いてしまう虞がある。
そこで、本実施の形態では、特に第3径方向油路a15及び第2径方向油路a13に軸方向短縮化のための工夫を施している。まず、以下の説明では、自動変速機1の潤滑油路構造、第2クラッチC2の作動油の油路構造を説明し、その後、第1クラッチC1の作動油の油路構造、つまり第3径方向油路a15及び第2径方向油路a13の構造について図3及び図4に沿って詳細に説明する。
上記入力軸40には、中心に対して偏心した位置に互いに独立するように軸方向に向けて3本の軸方向油路a11,a21,a31が穿設されている。このうちの軸方向油路a31は、潤滑油を供給するための油路であり、不図示の油圧制御装置から例えばトルクコンバータ20と自動変速機構4との間を仕切る隔壁を介して、潤滑油が軸方向油路a31に導かれる。軸方向油路a31からは、径方向に外周側まで貫通するように径方向油路a32,a33,a34,a35,a36が穿設されており、それらの径方向油路a32〜a36から外周側に潤滑油が飛散される。なお、入力軸40の軸方向油路a31は、中間軸47における軸方向に穿設された油路a50に連通しており、自動変速機構4の第1クラッチC1よりも出力軸41側の各部にも潤滑油を供給する。
径方向油路a32から飛散された潤滑油は、ニードルベアリングb7を潤滑した後、スラストベアリングb8を通って、プラネタリギヤセット44の内側に導かれ、該プラネタリギヤセット44を潤滑する。径方向油路a33から飛散された潤滑油は、第2クラッチC2のキャンセル油室67に導かれ、キャンセル油室67が満たされて溢れた潤滑油は第2クラッチC2の摩擦板61やプラネタリギヤセット44の第3キャリヤ45cなどに導かれる。
径方向油路a34から飛散された潤滑油は、スラストベアリングb6を潤滑した後、ドラム部材71の内側を通って第1クラッチC1の摩擦板51などに導かれる。径方向油路a35から飛散される潤滑油は、ブッシュb1を潤滑した後、スリーブ部材70に穿設された油路a37を通ってサブブッシュb2やスラストベアリングb4を潤滑し、キャンセルプレート54に形成された油孔54aを通ってキャンセル油室57に導かれる。キャンセル油室57が満たされて溢れた潤滑油は、第1クラッチC1の摩擦板51などに導かれる。径方向油路a36から飛散される潤滑油は、スリーブ部材70に穿設された油路a38や油路a39に導かれ、メインブッシュb3やスラストベアリングb5を潤滑した後、第3クラッチC3のキャンセル油室などに導かれる。
次に、第2クラッチC2の作動油の供給部分について説明する。入力軸40に形成された3本の軸方向油路a11,a21,a31のうちの軸方向油路a21には(図4参照)、不図示の油圧制御装置から例えばトルクコンバータ20と自動変速機構4との間を仕切る隔壁を介して、第2クラッチC2の作動油が供給自在となっている。軸方向油路a21からは、径方向に外周側まで貫通するように径方向油路a22が穿設されており、この径方向油路a22からは連結部材79に穿設された径方向油路a22を介して作動油室66に作動油が供給自在となるように構成されている。
ついで、第1クラッチC1の作動油の供給部分について詳細に説明する。入力軸40に形成された3本の軸方向油路a11,a21,a31のうちの軸方向油路(クラッチ用軸方向油路)a11には(図4参照)、不図示の油圧制御装置から例えばトルクコンバータ20と自動変速機構4との間を仕切る隔壁を介して、第1クラッチC1の作動油が導通自在となっている。軸方向油路a11からは、径方向に外周側まで貫通するように第1径方向油路a12が穿設されており、第1径方向油路a12は、入力軸40の外周側において軸方向の両側に配置されたシールリングc1,c2によってシールされてスリーブ部材70に、該第1径方向油路a12と軸方向に対応する位置に貫通するように穿設された第2径方向油路a13に連通されている。さらに、第2径方向油路a13は、スリーブ部材70の外周側において軸方向の両側に配置されたシールリングc3,c4によってシールされて環状部材75に穿設された貫通孔a14に連通されており、この貫通孔a14を介してクラッチドラム52のサーボ用スリーブ部52aに該第2径方向油路a13と軸方向に対応する位置に貫通するように穿設された第3径方向油路a15に連通されて、作動油室56まで連通されている。要するに、軸方向油路a11からは、第1径方向油路a12、第2径方向油路a13、第3径方向油路a15を介して作動油室56に作動油が導通自在(供給自在)となるように構成されている。
図4に示すように、軸方向油路a11は入力軸40の中心に対して偏心した位置に形成されており、径方向に複数の油路を穿設することが困難であると共に、入力軸40の強度を保つ必要があるため、1本の第1径方向油路a12だけが形成されている。その外周側に配置されたスリーブ部材70のスリーブ部70aには、周方向に均等となる位置に3本(つまり2本以上)の第2径方向油路a13が第1径方向油路a12の内径D1よりも小径な内径D2で穿設されている。さらに、その外周側に配置されたクラッチドラム52のサーボ用スリーブ部52aには、周方向に均等となる位置に4本(つまり2本以上)の第3径方向油路a15が第1径方向油路a12の内径D1よりも小径な内径D2で穿設されている。
これら3本の第2径方向油路a13の内径D2の総断面面積は、第1径方向油路a12の内径D1の断面積よりも大きくなるように構成されており、さらに、これら4本の第3径方向油路a15の内径D3の総断面面積は、第1径方向油路a12の内径D1の断面積よりも大きくなるように構成されている。これにより、第1クラッチC1の作動油を供給する際に、第2径方向油路a13や第3径方向油路a15によって絞り効果(オリフィス効果)が発生せず、つまり第1径方向油路a12の断面積を第1クラッチC1の油圧制御における供給・排出の基準量(基準の孔径)として油圧制御装置を設計することができる。
このように、スリーブ部材70及びクラッチドラム52のサーボ用スリーブ部52aに穿設される第2径方向油路a13及び第3径方向油路a15が、2本以上であり、かつ第1径方向油路a12よりも小径に構成されているので、第1径方向油路a12から供給される第1クラッチC1の作動油を2本以上の油路に分けることで油路の総断面面積を大きくして、絞り効果の発生を防止して第1クラッチC1の制御性の低下を防止することができるものでありながら、それぞれの油路の小径化によって、特にサブブッシュb2の配置距離を確保しつつサーボ用スリーブ部52aを短縮化することができて、第1クラッチC1の油圧サーボ50と第2クラッチC2の油圧サーボ60とを近づけることができ、軸方向のコンパクト化を可能とすることができる。
なお、本実施の形態では、第2径方向油路a13の内径D2と第3径方向油路a15の内径D3とを同じ径に設定しているため、3本の第2径方向油路a13の内径D2の総断面面積よりも4本の第3径方向油路a15の内径D3の総断面面積の方が大きくなっているが。例えば第3径方向油路a15の内径D3を内径D2の3/4倍とすることで、同じ総断面面積としてもよく、つまり第2径方向油路a13の内径D2の総断面面積や第3径方向油路a15の内径D3の総断面面積は、第1径方向油路a12の内径D1の断面積よりも大きければよい。しかしながら、本実施の形態のように、第2径方向油路a13の本数よりも第3径方向油路a15の本数が多い場合は、管摩擦係数を考慮する分、第2径方向油路a13の内径D2の総断面面積よりも、第3径方向油路a15の内径D3の総断面面積が大きい方が好ましい。
ところで、スリーブ部材70とクラッチドラム52とは、第1クラッチC1が解放されている状態では相対回転し、第1クラッチC1が係合されると同回転となる。この場合、第1クラッチC1が係合完了した状態で、スリーブ部材70とクラッチドラム52との位相が固定されることになるが、例えば第2径方向油路a13と第3径方向油路a15とが同じ本数であると、第2径方向油路a13と第3径方向油路a15との位相が一致して固定される場合とそれらの位相がずれて固定される場合とが発生する虞がある。このように第2径方向油路a13と第3径方向油路a15とが同じ本数であると、位相が一致した状態で固定された場合には第1クラッチC1の作動油の供給時や排出時における油圧抵抗が小さくなり、反対に位相がずれた状態で固定された場合には第1クラッチC1の作動油の供給時や排出時における油圧抵抗が一致した場合に比して大きくなり、つまり第1クラッチC1の係合完了のタイミングによって第1クラッチC1の作動油の給排の制御性が大きく異なってしまう虞があり、好ましくない。
そこで本実施の形態では、第2径方向油路a13を3本で構成し、第3径方向油路a15を4本で構成し、つまり第2径方向油路a13と第3径方向油路a15とが異なる本数となるように構成している。これにより、第1クラッチC1の係合完了のタイミングがどのようなタイミングであっても、全ての第2径方向油路a13が全ての第3径方向油路a15と位相が一致することはなく、たとえ1本ずつの位相が一致しても他の何本かがずれた位置となるので、油圧抵抗のバラつきが小さくなり、つまり第1クラッチC1の作動油の給排の制御性が安定して、制御性が良好となる。
「本実施の形態をまとめ」
以上のように本自動変速機(1)によると、第1スリーブ部(70a)及び第2スリーブ部(52A)に穿設される第2径方向油路(a13)及び第3径方向油路(a15)が、2本以上であり、かつ第1径方向油路(a12)よりも小径に構成されているので、第1径方向油路(a12)から供給されるクラッチ(C1)の作動油を2本以上の油路に分けることで油路の総断面面積を大きくして、絞り効果の発生を防止してクラッチ(C1)の制御性の低下を防止することができるものでありながら、それぞれの油路の小径化によって軸方向のコンパクト化を可能とすることができる。
また、第1スリーブ部(70a)と第2スリーブ部(52A)との間に介在され、第2径方向油路(a13)及び第3径方向油路(a15)に軸方向に対応する位置に対して軸方向一方側に配置された第1軸受(b3)と、第1スリーブ部(70a)と第2スリーブ部(52A)との間に介在され、第2径方向油路(a13)及び第3径方向油路(a15)に軸方向に対応する位置に対して軸方向他方側に配置された第2軸受(b2)と、を備えているので、つまり第1スリーブ部(70a)に対して第2スリーブ部(52A)を両持ち支持する構造にあって、第2径方向油路(a13)及び第3径方向油路(a15)の小径化により第1軸受(b3)と第2軸受(b2)とを近づけることができ、それによって軸方向のコンパクト化を可能とすることができる。
また、第2スリーブ部(52A)が、外周側から軸方向他方側に延びて油圧サーボ(50)を内包すると共に先端部分でクラッチ(C1)の摩擦板(51)にスプライン係合するドラム部(52d)を有し、第1軸受が、ドラム部(52d)に対して軸方向一方側に配置されて第2スリーブ部(52A)を回転自在に支持するメインブッシュ(b3)であり、第2軸受が、ドラム部(52d)に対して軸方向他方側に配置されて第2スリーブ部(52A)を回転自在に支持すると共に、メインブッシュ(b3)よりも軸長が短いサブブッシュ(b2)であるので、副次的に第2スリーブ部(52A)を支持するサブブッシュ(b2)を短縮化することができ、それによって自動変速機(1)の軸方向のコンパクト化を可能とすることができる。
そして、第2径方向油路(a13)と第3径方向油路(a15)とは、異なる本数となるように、かつそれぞれが周方向に均等となる位置に穿設されているので、相対回転が固定する位置に拘らず、油圧抵抗のバラつきが小さくなり、クラッチ(C1)の制御性を良好とすることができる。
なお、本実施の形態においては、自動変速機1を例えば前進10速段及び後進段を達成するものを一例として説明したが、これに限らず、3重軸の外周側にクラッチの油圧サーボが配置されるような自動変速機であれば、どのような自動変速機であっても構わない。
また、本自動変速機1では、トルクコンバータ20を備えたものを説明したが、例えばトルクコンバータの代わりにモータ・ジェネレータを配置する等してハイブリッド化したものであっても構わない。
また、本実施の形態においては、中心軸の一例である入力軸40に3本の軸方向油路を形成したものを説明したが、3本以上の軸方向油路が中心軸に形成されたものであってもよい。