次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る変速装置としての自動変速機20を含む動力伝達装置10の概略構成図であり、図2は、動力伝達装置10を示す断面図である。これらの図面に示す動力伝達装置10は、後輪駆動車両の前部に縦置きに搭載される駆動源としての図示しないエンジン(内燃機関)のクランクシャフトおよび/または電気モータのロータに接続されると共にエンジン等からの動力(トルク)を図示しない左右の後輪(駆動輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置10は、自動変速機20に加えて、トランスミッションケース(静止部材)11や、発進装置(流体伝動装置)12、オイルポンプ17等を含む。
発進装置12は、上述のような駆動源に連結される入力側のポンプインペラ14pや、自動変速機20の入力軸(入力部材)20iに連結される出力側のタービンランナ14t、ポンプインペラ14pおよびタービンランナ14tの内側に配置されてタービンランナ14tからポンプインペラ14pへの作動油の流れを整流するステータ14s、ステータシャフト14z(図2参照)より支持されると共にステータ14sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ14o等を有するトルクコンバータを含む。更に、発進装置12は、エンジンのクランクシャフト等に連結されたフロントカバーと自動変速機20の入力軸20iとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するロックアップクラッチ15と、フロントカバーと自動変速機20の入力軸20iとの間で振動を減衰するダンパ機構16とを有する。なお、発進装置12は、ステータ14sを有さない流体継手を含むものであってもよい。
オイルポンプ17は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、チェーンまたはギヤ列を介して発進装置12のポンプインペラ14pに連結された外歯ギヤ(インナーロータ)、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ(アウターロータ)等を有するギヤポンプとして構成される。オイルポンプ17は、エンジン等からの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して油圧制御装置60(図2参照)へと圧送する。
自動変速機20は、10段変速式の変速機として構成されており、図1および図2に示すように、入力軸20iに加えて、図示しないデファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して左右の後輪に連結される出力軸(出力部材)20oや、自動変速機20(入力軸20iや出力軸20o)の軸方向に並べて配設されるシングルピニオン式の第1遊星歯車21および第2遊星歯車22、シングルピニオン式の第3遊星歯車23および第4遊星歯車24を含むシンプソン型の複合遊星歯車列(複合遊星歯車機構)25を含む。更に、自動変速機20は、入力軸20iから出力軸20oまでの動力伝達経路を変更するためのクラッチC1(第4クラッチ)、クラッチC2(第3クラッチ)、クラッチC3(第2クラッチ)、クラッチC4(第1クラッチ)、ブレーキB1(第2ブレーキ)およびブレーキB2(第1ブレーキ)を含む。
本実施形態において、第1および第2遊星歯車21,22並びに複合遊星歯車列25は、発進装置12すなわちエンジン側(図1および図2における左側)から、複合遊星歯車列25、第2遊星歯車22、第1遊星歯車21、すなわち、第4遊星歯車24、第3遊星歯車23、第2遊星歯車22、第1遊星歯車21という順番で並ぶようにトランスミッションケース11内に配置される。これにより、複合遊星歯車列25(第4遊星歯車24)は、図示しないエンジンに近接するように車両の前部側に配置され、第1遊星歯車21は、出力軸20oに近接するように車両の後部側に配置され、第2遊星歯車22は、複合遊星歯車列25(第3遊星歯車23)と第1遊星歯車21との間に配置される。
第1遊星歯車21は、外歯歯車である第1サンギヤ21sと、第1サンギヤ21sと同心円上に配置される内歯歯車である第1リングギヤ21rと、それぞれ第1サンギヤ21sおよび第1リングギヤ21rに噛合する複数の第1ピニオンギヤ21pと、複数の第1ピニオンギヤ21pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第1キャリヤ21cとを有する。本実施形態において、第1遊星歯車21のギヤ比λ1(第1サンギヤ21sの歯数/第1リングギヤ21rの歯数)は、例えば、λ1=0.277と定められている。
第1遊星歯車21の第1キャリヤ21cは、図1に示すように、入力軸20iに連結された自動変速機20の中間軸(インターミディエイトシャフト)20mに常時連結(固定)される。これにより、エンジン等から入力軸20iに動力が伝達されている際、第1キャリヤ21cには、エンジン等からの動力が入力軸20iおよび中間軸20mを介して常時伝達されることになる。従って、第1キャリヤ21cは、クラッチC1(第3クラッチ)の係合時に第1遊星歯車21の入力要素(自動変速機20の第1入力要素)として機能する。また、第1遊星歯車21の第1リングギヤ21rは、当該第1遊星歯車21の出力要素(自動変速機20の第1出力要素)として機能する。なお、第1キャリヤ21cは、クラッチC1(第3クラッチ)の解放時に空転する。
第2遊星歯車22は、外歯歯車である第2サンギヤ22sと、第2サンギヤ22sと同心円上に配置される内歯歯車である第2リングギヤ22rと、それぞれ第2サンギヤ22sおよび第2リングギヤ22rに噛合する複数の第2ピニオンギヤ22pと、複数の第2ピニオンギヤ22pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第2キャリヤ22cとを有する。本実施形態において、第2遊星歯車22のギヤ比λ2(第2サンギヤ22sの歯数/第2リングギヤ22rの歯数)は、例えば、λ2=0.244と定められている。
第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sは、図1に示すように、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sと一体に連結(常時連結)されており、当該第1サンギヤ21sと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。ただし、第1サンギヤ21sと第2サンギヤ22sとは、別体に構成されると共に図示しない連結部材(第1連結部材)を介して常時連結されてもよい。また、第2遊星歯車22の第2キャリヤ22cは、出力軸20oに常時連結されており、当該出力軸20oと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。これにより、第2キャリヤ22cは、第2遊星歯車22の出力要素(自動変速機20の第2出力要素)として機能する。更に、第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rは、当該第2遊星歯車22の固定可能要素(自動変速機20の第1固定可能要素)として機能する。
複合遊星歯車列25を構成する第3遊星歯車23は、外歯歯車である第3サンギヤ23sと、第3サンギヤ23sと同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤ23rと、それぞれ第3サンギヤ23sおよび第3リングギヤ23rに噛合する複数の第3ピニオンギヤ23pと、複数の第3ピニオンギヤ23pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第3キャリヤ23cとを有する。本実施形態において、第3遊星歯車23のギヤ比λ3(第3サンギヤ23sの歯数/第3リングギヤ23rの歯数)は、例えば、λ3=0.581と定められている。
複合遊星歯車列25を構成する第4遊星歯車24は、外歯歯車である第4サンギヤ24sと、第4サンギヤ24sと同心円上に配置される内歯歯車である第4リングギヤ24rと、それぞれ第4サンギヤ24sおよび第4リングギヤ24rに噛合する複数の第4ピニオンギヤ24pと、複数の第4ピニオンギヤ24pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する第4キャリヤ24cとを有する。本実施形態において、第4遊星歯車24のギヤ比λ4(第4サンギヤ24sの歯数/第4リングギヤ24rの歯数)は、例えば、λ4=0.378と定められている。
第3遊星歯車23の第3サンギヤ23sと第4遊星歯車24の第4サンギヤ24sとは、図1に示すように、一体に連結(常時連結)されており、両者は、常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。このように常時連結された第3サンギヤ23sと第4サンギヤ24sとは、複合遊星歯車列25の固定可能要素(自動変速機20の第2固定可能要素)として機能する。また、第3遊星歯車23の第3キャリヤ23cは、図1に示すように、入力軸20iに常時連結(固定)されると共に、連結部材(第2連結部材)としての中間軸20mを介して第1遊星歯車21の第1キャリヤ21cに常時連結される。これにより、エンジン等から入力軸20iに動力が伝達されている際、第3キャリヤ23cには、エンジン等からの動力が入力軸20iを介して常時伝達されることになる。従って、第3キャリヤ23cは、複合遊星歯車列25の入力要素(自動変速機20の第2入力要素)として機能する。更に、第3遊星歯車23の第3リングギヤ23rと第4遊星歯車24の第4キャリヤ24cとは、図1に示すように、一体に連結(常時連結)されており、両者は、常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。このように常時連結された第3リングギヤ23rと第4キャリヤ24cとは、複合遊星歯車列25の第1出力要素として機能する。また、第4遊星歯車24の第4リングギヤ24rは、複合遊星歯車列25の第2出力要素として機能する。
クラッチC1は、第1遊星歯車21の出力要素である第1リングギヤ21rと出力軸20oとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。本実施形態において、クラッチC1は、上記6つのクラッチC1〜C4およびブレーキB1,B2の中で最も出力軸20oに近接するように第1遊星歯車21よりも車両後部側(図1および図2における右側)に配置される。クラッチC2は、第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第1出力要素である第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。本実施形態において、クラッチC2は、第2遊星歯車22に近接するように第2遊星歯車22と複合遊星歯車列25(第3遊星歯車23)との間に配置される。
クラッチC3は、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第2出力要素である第4リングギヤ24rとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。本実施形態において、クラッチC3は、第3遊星歯車23の少なくとも一部を囲むように配置される。クラッチC4は、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第1出力要素である第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。本実施形態において、クラッチC4は、複合遊星歯車列25(第3遊星歯車23)に近接するようにクラッチC2とクラッチC3との間に配置される。
ブレーキB1は、第2遊星歯車22の固定可能要素である第2リングギヤ22rをトランスミッションケース11に対して回転不能に固定(接続)すると共に当該第2リングギヤ22rを静止部材としてのトランスミッションケース11に対して回転自在に解放するものである。本実施形態において、ブレーキB1は、クラッチC2の少なくとも一部を囲むように配置される。ブレーキB2は、複合遊星歯車列25の固定可能要素である第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24sを静止部材としてのトランスミッションケース11に対して回転不能に固定(接続)すると共に両者をトランスミッションケース11に対して回転自在に解放するものである。本実施形態において、ブレーキB1は、第4遊星歯車24の第4遊星歯車24の少なくとも一部を囲むように配置される。
本実施形態では、クラッチC1〜C4として、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)が採用される。また、ブレーキB1およびB2としては、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキが採用される。そして、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、油圧制御装置60による作動油の給排を受けて動作する。
図3は、自動変速機20における入力軸20iの回転速度(入力回転速度)に対する各回転要素の回転速度の比を示す速度線図である(ただし、入力軸20iすなわち第1キャリヤ21cおよび第3キャリヤ23cの回転速度を値1とする)。また、図4は、自動変速機20の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の作動状態との関係を示す作動表である。
図3に示すように、シングルピニオン式の第1遊星歯車21を構成する3つの回転要素、すなわち第1サンギヤ21s、第1リングギヤ21rおよび第1キャリヤ21cは、当該第1遊星歯車21の速度線図(図3における右側の速度線図)上でギヤ比λ1に応じた間隔をおいて図中左側から第1サンギヤ21s、第1キャリヤ21c、第1リングギヤ21rという順番で並ぶ。このような速度線図での並び順に従い、本発明では、第1サンギヤ21sを自動変速機20の第1回転要素とし、第1キャリヤ21cを自動変速機20の第2回転要素とし、第1リングギヤ21rを自動変速機20の第3回転要素とする。従って、第1遊星歯車21は、速度線図上でギヤ比λ1に応じた間隔をおいて順番に並ぶ自動変速機20の第1回転要素、第2回転要素および第3回転要素を有する。
また、シングルピニオン式の第2遊星歯車22を構成する3つの回転要素、すなわち第2サンギヤ22s、第2リングギヤ22rおよび第2キャリヤ22cは、当該第2遊星歯車22の速度線図(図3における中央の速度線図)上でギヤ比λ2に応じた間隔をおいて図中左側から第2サンギヤ22s、第2キャリヤ22c、第2リングギヤ22rという順番で並ぶ。このような速度線図での並び順に従い、本発明では、第2サンギヤ22sを自動変速機20の第4回転要素とし、第2キャリヤ22cを自動変速機20の第5回転要素とし、第2リングギヤ22rを自動変速機20の第4回転要素とする。従って、第2遊星歯車22は、速度線図上でギヤ比λ2に応じた間隔をおいて順番に並ぶ自動変速機20の第4回転要素、第5回転要素および第6回転要素を有する。
更に、シンプソン型の複合遊星歯車列25を構成する4つの回転要素、すなわち固定可能要素としての第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s、入力要素としての第3キャリヤ23c、第1出力要素としての第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c、並びに第2出力要素としての第4リングギヤ24rは、この順番で図中左側から第3および第4遊星歯車23,24のギヤ比λ3,λ4に応じた間隔をおいて当該複合遊星歯車列25の速度線図(図3における左側の速度線図)上に並ぶ。このような速度線図での並び順に従い、本発明では、第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24sを自動変速機20の第7回転要素とし、第3キャリヤ23cを自動変速機20の第8回転要素とし、第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cを自動変速機20の第9回転要素とし、第4リングギヤ24rを自動変速機20の第10回転要素とする。従って、複合遊星歯車列25は、速度線図上でギヤ比λ3,λ4に応じた間隔をおいて順番に並ぶ自動変速機20の第7回転要素、第8回転要素、第9回転要素および第10回転要素を有する。
そして、自動変速機20では、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図4に示すように係合または解放させて上述の第1〜第10回転要素(ただし、第1回転要素と第4回転要素が常時連結に連結されているので、実質的には合計9個の回転要素)の接続関係を変更することで、入力軸20iから出力軸20oまでの間に前進回転方向に10通りおよび後進回転方向に1通りの動力伝達経路、すなわち第1速段から第10速段の前進段と後進段とを設定することができる。
具体的には、前進第1速段は、クラッチC3、クラッチC4およびブレーキB1を係合させると共に、残余のクラッチC1,C2およびブレーキB2を解放させることにより形成される。すなわち、前進第1速段の形成に際しては、クラッチC3により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24r(第2出力要素)とが互いに接続されると共に、クラッチC4により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB1により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22r(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態(第1〜第4遊星歯車21〜24のギヤ比がλ1=0.277,λ2=0.244,λ3=0.581,λ4=0.378である場合、以下同様)において、前進第1速段におけるギヤ比(入力軸20iの回転速度/出力軸20oの回転速度)γ1は、γ1=5.091となる。
前進第2速段は、クラッチC4、ブレーキB1およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC1,C2およびC3を解放させることにより形成される。すなわち、前進第2速段の形成に際しては、クラッチC4により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB1により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22r(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定されると共に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第2速段におけるギヤ比γ2は、γ2=3.219となる。また、前進第1速段と前進第2速段との間のステップ比は、γ1/γ2=1.581となる。
前進第3速段は、クラッチC3、ブレーキB1およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC1,C2およびC4を解放させることにより形成される。すなわち、前進第3速段の形成に際しては、クラッチC3により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24r(第2出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB1により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22r(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定されると共に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第3速段におけるギヤ比γ3は、γ3=2.337となる。また、前進第2速段と前進第3速段との間のステップ比は、γ2/γ3=1.378となる。
前進第4速段は、クラッチC1、ブレーキB1およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC2,C3およびC4を解放させることにより形成される。すなわち、前進第1速段の形成に際しては、クラッチC1により第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(出力要素)と出力軸20oとが互いに接続され、更に、ブレーキB1により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22r(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定されると共に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第4速段におけるギヤ比γ4は、γ4=1,886となる。また、前進第3速段と前進第4速段との間のステップ比は、γ3/γ4=1.239となる。
前進第5速段は、クラッチC1、クラッチC3およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC2,C4およびブレーキB1を解放させることにより形成される。すなわち、前進第5速段の形成に際しては、クラッチC1により第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(出力要素)と出力軸20oとが互いに接続されると共に、クラッチC3により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24r(第2出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第5速段におけるギヤ比γ5は、γ5=1.484となる。また、前進第4速段と前進第5速段との間のステップ比は、γ4/γ5=1.271となる。
前進第6速段は、クラッチC1、クラッチC4およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC2,C3およびブレーキB1を解放させることにより形成される。すなわち、前進第6速段の形成に際しては、クラッチC1により第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(出力要素)と出力軸20oとが互いに接続されると共に、クラッチC4により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第6速段におけるギヤ比γ6は、γ6=1.192となる。また、前進第5速段と前進第6速段との間のステップ比は、γ5/γ6=1.245となる。
前進第7速段は、クラッチC1、クラッチC2およびクラッチC4を係合させると共に、残余のクラッチC3,ブレーキB1およびB2を解放させることにより形成される。すなわち、前進第7速段の形成に際しては、クラッチC1により第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(出力要素)と出力軸20oとが互いに接続されると共に、クラッチC2により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、クラッチC4により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続される。本実施形態において、前進第7速段におけるギヤ比γ7は、γ7=1.000となる。また、前進第6速段と前進第7速段との間のステップ比は、γ6/γ7=1.192となる。
前進第8速段は、クラッチC1、クラッチC2およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC3,C4およびブレーキB1を解放させることにより形成される。すなわち、前進第8速段の形成に際しては、クラッチC1により第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(出力要素)と出力軸20oとが互いに接続されると共に、クラッチC2により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第8速段におけるギヤ比γ8は、γ8=0.785となる。また、前進第7速段と前進第8速段との間のステップ比は、γ7/γ8=1.273となる。
前進第9速段は、クラッチC2、クラッチC4およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC1,C3およびブレーキB1を解放させることにより形成される。すなわち、前進第9速段の形成に際しては、クラッチC2により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続されると共に、クラッチC4により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第9速段におけるギヤ比γ9は、γ9=0.632となる。また、前進第8速段と前進第9速段との間のステップ比は、γ8/γ9=1.242となる。
前進第10速段は、クラッチC2、クラッチC3およびブレーキB2を係合させると共に、残余のクラッチC1,C4およびブレーキB1を解放させることにより形成される。すなわち、前進第10速段の形成に際しては、クラッチC2により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続されると共に、クラッチC3により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24r(第2出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB2により複合遊星歯車列25の第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24s(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、前進第10速段におけるギヤ比γ10は、γ10=0.589となる。また、前進第9速段と前進第10速段との間のステップ比は、γ9/γ10=1.074となる。そして、自動変速機20におけるスプレッド(ギヤ比幅=最低変速段である前進第1速段のギヤ比γ1/最高変速段である前進第10速段のギヤ比γ10)は、γ1/γ10=8.648となる。
後進段は、クラッチC2、クラッチC3およびブレーキB1を係合させると共に、残余のクラッチC1,C4およびブレーキB2を解放させることにより形成される。すなわち、後進段の形成に際しては、クラッチC2により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22rと複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24c(第1出力要素)とが互いに接続されると共に、クラッチC3により第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sと複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24r(第2出力要素)とが互いに接続され、更に、ブレーキB1により第2遊星歯車22の第2リングギヤ22r(固定可能要素)がトランスミッションケース11に対して回転不能に固定される。本実施形態において、後進段におけるギヤ比γrevは、γrev=−4.954となる。また、前進第1速段と後進段との間のステップ比は、|γrev/γ1|=0.973となる。
上述のように、自動変速機20によれば、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の係脱により第1速段から第10速段までの前進段と後進段とを提供することが可能となる。この結果、自動変速機20では、スプレッドをより大きくして(本実施形態では、8.648)特に高車速時の車両の燃費や各変速段での加速性能を向上させると共に、ステップ比を適正化(より大きくなるのを抑制)して変速フィーリングを向上させることができる。従って、自動変速機20によれば、車両の燃費とドライバビリティーとの双方を良好に向上させることができる。
また、自動変速機20では、6つの係合要素、すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2のうち、何れか3つを係合させると共に残余の3つを解放させることにより前進第1速段から前進第10速段および後進段が形成される。これにより、例えば6つのクラッチやブレーキのうちの2つを係合させると共に残余の4つを解放させることにより複数の変速段を形成する変速機に比べて、変速段の形成に伴って解放される係合要素の数を減らすことが可能となる。この結果、変速段の形成に伴って解放された係合要素における部材間の僅かな接触に起因した引き摺り損失を低減させて、自動変速機20における動力の伝達効率をより一層向上させることができる。
更に、自動変速機20では、複合遊星歯車列25の第3キャリヤ23c(入力要素)と同様に、第1遊星歯車21の第1キャリヤ21c(第2回転要素)が中間軸20mを介して入力軸20iに常時連結され、前進第4速段から前進第8速段の形成時に、第1遊星歯車21の第1リングギヤ21r(第3回転要素)がクラッチC1により出力軸20o(第2遊星歯車22の第2キャリヤ22c)に接続される。これにより、例えば第1遊星歯車の第1リングギヤ(第3回転要素)が第2遊星歯車の第2キャリヤ(第5回転要素)と共に出力軸に常時連結され、かつ第1遊星歯車の第1キャリヤ(第2回転要素)が入力軸に選択的に接続される変速機(特許文献1のFIG.2参照)において第1キャリヤ(第2回転要素)と入力軸とを選択的に接続させるクラッチに比べて、クラッチC1のトルク分担を低減させることができる。
すなわち、第1遊星歯車21の第1キャリヤ21cを入力軸20iに常時連結される第2回転要素とすると共に、第1遊星歯車21の第1リングギヤ21rをクラッチC1により出力軸20oに選択的に接続される第3回転要素とすることで、例えば第1遊星歯車の第1リングギヤが第2遊星歯車22の第2キャリヤと共に出力軸に常時連結されると共に第1遊星歯車の第1キャリヤが入力軸に選択的に接続される変速機において第1キャリヤと入力軸とを選択的に接続させるクラッチに比べて、係合したクラッチC1を介して伝達されるトルクを低下させる(1/(1+λ1)にする)ことができる。従って、自動変速機20では、クラッチC1のトルク分担を良好に低減させることが可能となる。この結果、自動変速機20では、クラッチC1を軸方向および径方向の少なくとも何れか一方においてコンパクト化することができる。従って、自動変速機20によれば、動力の伝達効率とドライバビリティーとの双方を向上させると共に、装置全体の大型化を抑制することが可能となる。
また、第1および第2遊星歯車21,22をシングルピニオン式の遊星歯車とすることで、両者を例えばダブルピニオン式の遊星歯車とした場合に比べて、第1および第2遊星歯車21,22における回転要素間の噛み合い損失を低減させて自動変速機20における動力の伝達効率をより向上させると共に、部品点数を削減して装置全体の重量増を抑制しつつ組立性を向上させることが可能となる。更に、上記自動変速機20のように、2つのシングルピニオン式の第3および第4遊星歯車23,24を含むシンプソン型(SS−CR型)の複合遊星歯車列25を採用すれば、複合遊星歯車列25の回転要素間の噛み合い損失を低減させて自動変速機20における動力の伝達効率をより向上させると共に、部品点数を削減して装置全体の重量増を抑制しつつ組立性を向上させることが可能となる。
続いて、自動変速機20の具体的構成について詳細に説明する。
まず、図5を参照しながら、自動変速機20のクラッチC1について説明する。同図に示すように、自動変速機20のクラッチC1は、クラッチハブ100と、クラッチドラム110と、クラッチハブ100に内周部が嵌合されて当該クラッチハブ100により移動自在に支持される複数の摩擦プレート(第1摩擦係合プレート)105と、クラッチドラム110に外周部が嵌合されて当該クラッチドラム110により移動自在に支持される複数のセパレータプレート(第2摩擦係合プレート)115とを含む。クラッチC1のクラッチハブ100は、ラジアル軸受を介して中間軸20mにより回転自在に支持されると共に、前後に配置される2つのスラスト軸受を介して中間軸20mに形成されたフランジ部と出力軸20oとにより軸方向に支持される。更に、クラッチハブ100は、スプラインおよびスナップリングを介して第1遊星歯車21の第1リングギヤ21rに固定され、当該第1リングギヤ21rと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。クラッチハブ100に嵌合される摩擦プレート105は、環状部材の両面に摩擦材を貼着することにより構成される。
また、クラッチC1のクラッチドラム110は、出力軸20oに形成された拡径部291に溶接等により固定される環状壁部111と、環状壁部111の外周部に溶接等により接合されて出力軸20o等の軸方向に沿って延びる外筒部112とを有する。外筒部112の内周面には、セパレータプレート115の外周部と係合するスプラインが形成されており、外筒部112の遊端部は、スプラインおよびスナップリングを介して第2遊星歯車22の第2キャリヤ22cに固定される。これにより、クラッチドラム110は、出力軸20oおよび第2遊星歯車22の第2キャリヤ22cと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。クラッチドラム110に嵌合されるセパレータプレート115は、両面が平滑に形成された環状部材である。
更に、クラッチC1は、セパレータプレート115および摩擦プレート105を押圧して摩擦係合させるピストン120と、キャンセルプレート(キャンセル油室画成部材)130と、複数のリターンスプリング140とを含む。ピストン120は、クラッチドラム110の外筒部112内で環状壁部111よりも第1遊星歯車21側(車両前部側)に位置するように出力軸20oにより軸方向に移動自在に支持され、油室画成部としてのクラッチドラム110や出力軸20oと共に係合油室150を画成する。キャンセルプレート130は、ピストン120よりも第1遊星歯車21側(車両前部側)に位置するように出力軸20oに取り付けられ、ピストン120と共に係合油室150内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室160を画成する。また、複数のリターンスプリング140は、ピストン120とキャンセルプレート130との間に周方向に間隔おいて配置される。
図5に示すように、出力軸20oは、スリーブやラジアル軸受、スラスト軸受を介してトランスミッションケース11に形成されたシャフト支持部11aにより回転自在に支持される。トランスミッションケース11のシャフト支持部11aには、油圧制御装置60に接続されるケース内油路11bが形成されており、当該ケース内油路11bには、油圧制御装置60からクラッチC1への係合油圧(作動油)が供給される。更に、出力軸20oの上記拡径部291の近傍には、クラッチC1の係合油室150と直接連通すると共にトランスミッションケース11のケース内油路11bと連通するように油路292が形成されている。また、トランスミッションケース11のシャフト支持部11aと出力軸20oとの間には、ケース内油路11bと油路292との連通部を前後から挟むように2つのシール部材170が介設される。
これにより、クラッチC1の係合油室150には、トランスミッションケース11のケース内油路11bと出力軸20oの油路292とを介して油圧制御装置60からの係合油圧が供給されることになる。そして、係合油室150内の油圧の高まりに応じてピストン120が出力軸20oの軸方向に移動してセパレータプレート115および摩擦プレート105が押圧すると、クラッチC1が係合して第1遊星歯車21の第1リングギヤ21rと出力軸20oとが互いに接続されることになる。なお、クラッチC1のキャンセル油室160には、トランスミッションケース11や出力軸20o等に形成された油路を介して油圧制御装置60からの作動油(例えば、潤滑・冷却用のドレン油)が供給される。
このように、第1遊星歯車21の第1リングギヤ21rと、デファレンシャルギヤを介して車両の後輪に連結される出力軸20oとを選択的に接続するクラッチC1では、出力軸20oと一体に回転する油室画成部としてのクラッチドラム110、ピストン120および出力軸20oにより係合油室150を画成することができる。更に、クラッチC1では、係合油室150に係合油圧を供給するための油路292を出力軸20oに形成して、当該係合油室150と出力軸20oの油路292とを直接連通させることができる。
この結果、自動変速機20では、入力軸20iや中間軸20mに形成された長い油路を介して複合遊星歯車列25側(車両前部側)からクラッチC1の係合油室150に係合油圧を供給する必要がなくなり、係合油室150に出力軸20o側(車両後部側)から容易に係合油圧を供給することが可能となる。また、例えば第1遊星歯車の第1キャリヤがクラッチにより入力軸に選択的に接続される変速機では、当該クラッチの係合油室を画成する部材が入力軸(中間軸)側に設けられることから、当該係合油室に出力軸側から係合油圧を供給するためには、出力軸に形成された油路と入力軸(中間軸)に形成された油路とを連通させなければならず、シール部材(シール部)の数が増加してしまう。そして、かかる変速機では、入力軸(中間軸)の油路と出力部材の油路との連通部で、シール部材が増加する分だけ作動油の漏量が増加したり、シール部材の引き摺り損失が増加したりするおそれがある。これに対して、自動変速機20では、クラッチC1の係合油室150と出力軸20oの油路292とを直接連通させることができるので、シール部材170(シール部)の数を低減させて作動油の漏量の増加やシール部材170の引き摺り損失の増加を良好に抑制することが可能となる。
次に、図6から図8を参照しながら、自動変速機20のクラッチC3およびC4について説明する。これらの図面に示すように、クラッチC3とクラッチC4とは、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sに連結されると共にクラッチC3のクラッチドラムおよびクラッチC4のクラッチハブとして機能するハブ部材500を共用する。ハブ部材500は、ハブ本体510と、当該ハブ本体510に嵌合(インロー嵌め)されるスリーブ部材520とを含む。
ハブ部材500のハブ本体510は、外周側にスプラインを有する第1筒状部501と、内周側にスプラインを有する第2筒状部502と、略円筒状の内筒部503および当該内筒部503から径方向外側に延出されて第1および第2筒状部501,502を支持する環状壁部504を含む環状部505とを有する。第1筒状部501は、環状部505を構成する環状壁部504の外周部から内筒部503を囲むように軸方向(図7および図8における右側)に延出され、第2筒状部502は、当該環状壁部504の外周部から第1筒状部501とは反対側かつ軸方向に延出される。
また、環状部505の環状壁部504は、図7および図8に示すように、第2筒状部502側から第1筒状部501側に向けて突出するように形成されており、第1筒状部501の内周面と間隔を置いて対向する外周面をもった環状の突出部507を有する。更に、環状部505を構成する環状壁部504の第2筒状部502側の端面(図7および図8における左側の端面)からは、内筒部503よりも大径かつ突出部507よりも小径の筒状延出部509が第1筒状部501および内筒部503とは反対側に第2筒状部502の内側に位置するように延出されている。
ハブ部材500のスリーブ部材520は、ハブ本体510と一体に回転するように環状部505を構成する内筒部503内に嵌合されると共に入力軸20iの外周面により回転自在に支持される。図7および図8に示すように、スリーブ部材520は、一端(図7および図8における左端)側にハブ本体510の環状部505の筒状延出部509内に嵌合されるスリーブ側拡径部525を有する。本実施形態において、環状部505の筒状延出部509の内周面とスリーブ側拡径部525の外周面とには、セレーションが形成されており、筒状延出部509すなわちハブ本体510と、スリーブ側拡径部525すなわちスリーブ部材520とは、セレーションを介して軸方向に互いに移動不能かつ互いに一体回転可能に連結される。更に、スリーブ側拡径部525の外周面からは、環状部505の筒状延出部509の一端面(図7および図8における左側の端面)と当接するように環状のフランジ部527が外方に延出されている。そして、スリーブ部材520の他端部は、図2等に示すように、第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sに連結される。また、スリーブ部材520は、上述の連結スリーブ250を回転自在に支持する。
上述のようなクラッチC3のクラッチドラムおよびクラッチC4のクラッチハブとして機能するハブ部材500を用いることで、クラッチC3およびC4の配置スペースを削減して自動変速機20の大型化を良好に抑制することができる。また、ハブ部材500では、第1および第2筒状部501、502、更には、環状の突出部507の一部や筒状延出部509がそれぞれリブとして機能することから、その強度をより向上させることができる。この結果、ハブ部材500の強度確保に伴う肉厚の増加やコストアップ、すなわち自動変速機20の大型化やコストアップをより良好に抑制することが可能となる。
ハブ部材500をクラッチドラムとして利用するクラッチC3は、外周側にスプラインを有するクラッチハブ300と、クラッチハブ300に内周部が嵌合(スプライン嵌合)されて当該クラッチハブ300により移動自在に支持される複数の摩擦プレート(第1摩擦係合プレート)310と、クラッチドラムとしての上記ハブ部材500の第2筒状部502に外周部が嵌合(スプライン嵌合)されて当該ハブ部材500(第2筒状部502)により移動自在に支持される複数のセパレータプレート(第2摩擦係合プレート)315とを含む。更に、クラッチC3は、セパレータプレート315および摩擦プレート310を押圧して摩擦係合させるピストン320と、キャンセルプレート(キャンセル油室画成部材)330と、複数のリターンスプリング340とを含む。
クラッチC3のクラッチハブ300は、入力軸20iに固定された第3遊星歯車23の第3キャリヤ23cによりラジアル軸受等を介して回転自在に支持されると共に、前後に配置される2つのスラスト軸受を介して第3キャリヤ23cとハブ部材500(スリーブ部材520)とにより軸方向に支持される。本実施形態において、クラッチハブ300の内筒部は、ラジアル軸受や第3キャリヤ23cの一部と共にハブ部材500を構成するスリーブ部材520のスリーブ側拡径部525の内側に配置される。これにより、自動変速機20の軸長の増加を抑制することができる。そして、クラッチハブ300は、第4遊星歯車24の第4リングギヤ24rに溶接等により固定され、当該第4リングギヤ24rと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。クラッチハブ300に嵌合される摩擦プレート310は、環状部材の両面に摩擦材を貼着することにより構成される。また、ハブ部材500の第2筒状部502に嵌合されるセパレータプレート315は、両面が平滑に形成された環状部材である。
ピストン320は、ハブ本体510(ハブ部材500)の第2筒状部502の内側でハブ部材500の筒状延出部509と第2筒状部502のスプラインとにより軸方向に移動自在に支持され、ハブ部材500の環状壁部504(突出部507の背面)と共に係合油圧が供給されるクラッチC3の係合油室350を画成する。また、キャンセルプレート330は、ハブ本体510(ハブ部材500)の筒状延出部509の先端部(図7および図8における左側の端部)付近に取り付けられ、ピストン320と共に係合油室350内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室(第2キャンセル油室)360を画成する。更に、複数のリターンスプリング340は、ピストン320とキャンセルプレート330との間に周方向に間隔おいて配置される。
ハブ部材500をクラッチハブとして利用するクラッチC4は、内周側にスプラインを有するクラッチドラム400と、クラッチドラム400に外周部が嵌合(スプライン嵌合)されて当該クラッチドラム400により移動自在に支持される複数の摩擦プレート(第2摩擦係合プレート)410と、クラッチハブとしての上記ハブ部材500の第1筒状部501に外周部が嵌合(スプライン嵌合)されて当該ハブ部材500(第1筒状部501)により移動自在に支持される複数のセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)415とを含む。更に、クラッチC4は、セパレータプレート415および摩擦プレート410を押圧して摩擦係合させるピストン420と、油室画成部材430と、複数のリターンスプリング440とを含む。
クラッチC4のクラッチドラム400は、第4遊星歯車24の第4キャリヤ24cに溶接等により固定された連結部材405に連結(噛み合い嵌合)され、当該第4キャリヤ24cと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。また、クラッチドラム400は、クラッチC2のクラッチハブ200(図6参照)に連結されると共にブッシュ(軸受)を介して連結スリーブ250にリベットにより固定される。なお、図5に示すように、連結スリーブ250と上記ハブ部材500の内筒部503との間には、環状プレート506およびスラスト軸受が配置される。これにより、ハブ部材500は、前後に配置されたスラスト軸受を介して連結スリーブ250とクラッチC3のクラッチハブ300とにより軸方向に支持される。
クラッチドラム400に嵌合される摩擦プレート410は、環状部材の両面に摩擦材を貼着することにより構成される。また、ハブ部材500の第1筒状部501に嵌合されるセパレータプレート415は、両面が平滑に形成された環状部材である。ピストン420は、ハブ本体510(ハブ部材500)の第1筒状部501の内側で内筒部503により軸方向に移動自在に支持される。また、油室画成部材430は、環状に形成されており、ピストン420よりもセンターサポート11c側に位置するように内筒部503の先端部(図7および図8における右側の端部)に取り付けられる。
ピストン420と油室画成部材430とは、それぞれ独立に係合油圧(作動油)が供給される第1係合油室451および第2係合油室452を画成する。すなわち、本実施形態の自動変速機20では、クラッチC4の係合時におけるトルク分担の最小値と最大値との差が比較的大きくなっている。このため、クラッチC4には、トルク分担の大小に拘わらず係合油圧を適正にピストン420に作用させるべく、それぞれ独立に係合油圧が供給される第1および第2係合油室451,452が設けられる。本実施形態において、第1係合油室451は、ピストン420およびハブ部材500により第2係合油室452よりも入力軸20iに近接するように画成され、当該第1係合油室451のチャンバ径(第1係合油室451におけるピストン420の受圧面積)は、第2係合油室452のチャンバ径(第2係合油室452におけるピストン420の受圧面積)よりも小さい。
クラッチC4のピストン420は、図8に示すように、第1係合油室451と対向する環状の第1受圧部421と、第1受圧部421の外周部から径方向外側に延出されると共に軸方向に突出して第2係合油室と対向する第2受圧部422とを有する。第1受圧部421は、ハブ本体510(ハブ部材500)の内筒部503により軸方向に移動自在に支持され、内筒部503と第1受圧部421との間には、シール部材91が介設される。また、第2受圧部422には、図示するように、ハブ本体510(ハブ部材500)の環状壁部504側(第1受圧部421側)で開口する環状凹部422rが形成されており、当該環状凹部422r内には、各リターンスプリング440の一端側が差し込まれる(収容される)。各リターンスプリング440の他端は、スプリングシートを介してハブ本体510(ハブ部材500)の環状壁部504により支持される。
更に、ピストン420は、第2受圧部422の外周部から第1受圧部421から離間するように(図8における右側に向けて)軸方向に延出された外筒部423と、ハブ部材500の第1筒状部501に嵌合されたセパレータプレート415と当接可能となるように外筒部423から延出された環状の押圧部424と、第2受圧部422の外周部から外筒部423とは反対側に突出するように形成された筒状延出部425とを有する。図示するように、筒状延出部425は、第2受圧部422の外周部からハブ本体510(ハブ部材500)の環状壁部504に向けて突出し、筒状延出部425内には、環状壁部504に形成された突出部507が嵌合される。そして、筒状延出部425の内周面は、ハブ本体510の環状壁部504に形成された突出部507の外周面に摺接し、筒状延出部425と突出部507との間には、シール部材92が介設される。
また、油室画成部材430は、ハブ本体510(ハブ部材500)の内筒部503に圧入されると共にスナップリングを介して固定される環状基部431と、当該環状基部431から径方向外側に延出された環状壁部432とを有する。油室画成部材430の環状基部431は、ピストン420の第2受圧部422の内周面422iに摺接するように当該第2受圧部422(その内側)に嵌合され、環状基部431とピストン420の第2受圧部422との間には、シール部材93が介設される。更に、油室画成部材430の環状壁部432の外周面は、ピストン420の外筒部423の内周面に摺接し、環状壁部432と外筒部423との間には、シール部材94が介設される。
これにより、油室画成部材430の環状基部431は、ピストン420の第2受圧部422の内周面422iの内側に第1受圧部421と共に第1係合油室451を画成する。また、油室画成部材430の環状壁部432は、ピストン420の外筒部423の内周面の内側に第2受圧部422と共に第2係合油室452を画成する。この結果、第1係合油室451は、図7および図8に示すように、第2係合油室452よりも内側で当該第2係合油室452からピストン420の軸方向すなわち当該ピストン420によるセパレータプレート415および摩擦プレート410の押圧方向に離間するようにハブ部材500の環状壁部504側(図7および図8における左側)にオフセットして画成されることになる。また、複数のリターンスプリング440は、第1係合油室451や油室画成部材430の環状基部431を囲むようにピストン420とハブ本体510(ハブ部材500)の環状壁部504との間に周方向に間隔おいて配置され、第2係合油室452と軸方向に並ぶ(軸方向からみて重なり合う)と共に第1係合油室451と径方向に並ぶ(径方向からみて重なり合う)ことになる。なお、本実施形態において、第1および第2係合油室451,452は径方向からみて互いに重なり合わないように画成されるが、両者は、径方向からみて部分的に重なり合うように画成されてもよい。
更に、ハブ本体510(ハブ部材500)の第1筒状部501とピストン420の筒状延出部425との間には、図7および図8に示すように、環状の空間470が画成される。また、クラッチC4のクラッチドラム400とピストン420の背面(図7および図8における右側の面)との間には、作動油流通空間(油路)480が画成される。また、ピストン420には、第1筒状部501と筒状延出部425との間の空間470と、作動油流通空間480とを連通させる複数の油孔(貫通孔)427が第1および第2係合油室451,452よりも外側(第1筒状部501側)に位置するように例えば等間隔に形成される。
上述のように、自動変速機20のクラッチC4では、各リターンスプリング440が第1および第2係合油室451,452の双方とピストン420の押圧方向(軸方向)に並ばないようにして、クラッチC4の軸長を短縮化することができる。この結果、クラッチC4の自動変速機20への搭載性を向上させると共にクラッチC4の配置スペースを削減することが可能となる。また、上述のような第1および第2受圧部421,422や外筒部423を有するピストン420を用いれば、複数のリターンスプリング440を内側の第1係合油室451を囲んで当該第1係合油室451と径方向に並ぶと共に外側の第2係合油室452と軸方向に並ぶように配置することができる。更に、上述のような環状基部431および環状壁部432を有する油室画成部材430を用いれば、クラッチC4の短縮化を図りつつピストン420と油室画成部材430とによって第1および第2係合油室451,452を画成することが可能となる。
また、クラッチC4では、上述のように、筒状延出部425内にハブ本体510の環状壁部504に形成された突出部507が嵌合され、当該筒状延出部425の内周面が突出部507の外周面に摺接する。これにより、ハブ部材500とピストン420とは、筒状延出部425の内周面の内側に、第1および第2係合油室451,452内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室460(第1キャンセル油室)を画成する。このように、突出部507の外周面に摺接する筒状延出部425の内周面の内側にキャンセル油室460を画成することで、キャンセル油室460のチャンバ径(キャンセル油室460における遠心油圧や受圧面積)を十分に確保することが可能となる。
引き続き、クラッチC3の係合油室350およびキャンセル油室360、クラッチC4の第1および第2係合油室452並びにキャンセル油室460に作動油を供給するための自動変速機20の油路構造について説明する。自動変速機20では、クラッチC3の係合油室350や、クラッチC4の第1および第2係合油室451,452に対して、油圧制御装置60からの作動油(係合油圧)がトランスミッションケース11に固定されたフロントサポート(支持部材)11f(図2および図6参照)に形成された油路や入力軸20iを介して車両前部側から供給される。また、クラッチC3およびC4のキャンセル油室360,460に対しては、油圧制御装置60からの作動油(例えば、潤滑・冷却用のドレン油)が出力軸20oや中間軸20m等を介して車両後部側から供給される。
図6および図7に示すように、入力軸20iには、クラッチC4の第1係合油室451に作動油を供給するための第1軸内油路L1と、クラッチC4の第2係合油室452に作動油を供給するための第2軸内油路L2と、クラッチC3の係合油室350に作動油を供給するための第3軸内油路L3とが形成されている。クラッチC4に対応した第1および第2軸内油路L1,L2は、入力軸20iの中間軸20m側(図6等における右側)の端部から長手方向における中央部付近まで穿設されると共に中間軸20m側で閉塞部材80により閉塞された軸方向油路と、当該軸方向油路の両端部付近から延出された2本の径方向油路とをそれぞれ含む。
クラッチC3に対応した第3軸内油路L3も、第1および第2軸内油路L1,L2と同様に、入力軸20iの中間軸20m側の端部から長手方向における中央部付近まで穿設された軸方向油路を含む。ただし、第3軸内油路L3の軸方向油路は、図6および図7に示すように、第1および第2軸内油路L1,L2の閉塞部材80よりも車両前部側に配置される閉塞部材80により前側軸方向油路L3aと後側軸方向油路L3bとに2分割されている。前側軸方向油路L3aは、その両端部付近に形成された2本の径方向油路と連通する。また、後側軸方向油路L3bは、閉塞部材80すなわち閉鎖端付近に形成された1本の径方向油路と連通し、その開放端(図7等における右端)は、中間軸20mの内部に形成された油路L4と連通する。
第1軸内油路L1の車両前部側の径方向油路は、図6に示すように、フロントサポート11fと入力軸20iとの間にその内周面が入力軸20iの外周面に摺接するように配置される筒状部材としてのステータシャフト14zに形成された第1油路14aと連通する。また、第2軸内油路L2の車両前部側の径方向油路は、図6に示すように、ステータシャフト14zに形成された第2油路14bと連通する。更に、第3軸内油路L3の前側軸方向油路L3aに車両前部側で連通する径方向油路は、図6に示すように、ステータシャフト14zに形成された第3油路14cと連通する。
ステータシャフト14zの第1〜第3油路14a〜14cは、フロントサポート11fやトランスミッションケース11等に形成された油路を介して、油圧制御装置60のそれぞれに対応した油路(リニアソレノイドバルブ)に接続される。これにより、第1軸内油路L1や第2軸内油路L2、第3軸内油路L3の前側軸方向油路L3aには、油圧制御装置60により圧送されるクラッチC3の係合油室350やクラッチC4の第1係合油室451、第2係合油室452への作動油(係合油圧)が車両前部側から供給されることになる。
図6に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1軸内油路L1(径方向油路)とステータシャフト14zの第1油路14aとの第1前側連通部と、クラッチC4の第2係合油室452に対応した第2軸内油路L2(径方向油路)とステータシャフト14zの第2油路14bとの第2前側連通部と、クラッチC3の係合油室350に対応した前側軸方向油路L3a(それに連通する径方向油路)とステータシャフト14zの第3油路14cとの第3前側連通部とは、入力軸20iの軸方向において互いに離間する。すなわち、自動変速機20において、当該第1〜第3前側連通部は、車両前部側から、第3前側連通部、第1前側連通部、第2前側連通部という順番に並ぶ。
そして、図6に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1前側連通部と、クラッチC4の第2係合油室452に対応した第2前側連通部との間には、入力軸20iとステータシャフト14zとの隙間を封止するように1つのシール部材70が介設される。また、図6に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1前側連通部と、クラッチC3の係合油室350に対応した第3前側連通部との間には、入力軸20iとステータシャフト14zとの隙間を封止するように2つのシール部材70が軸方向に離間するように介設される。更に、図6に示すように、ステータシャフト14zには、第1前側連通部と第3前側連通部との間に配置された2つのシール部材70の間で内側すなわち入力軸20iに開口すると共に、外側すなわちフロントサポート11f側で複合遊星歯車列25(第3および第4遊星歯車23,24)の周囲と連通するドレン油路14dが形成される。
一方、第1軸内油路L1の車両後部側の径方向油路は、図7および図8に示すように、ハブ部材500を構成すると共にその内周面が入力軸20iの外周面に摺接するように配置される筒状部材としてのスリーブ部材520に形成された第1油路521と連通する。また、第2軸内油路L2の車両後部側の径方向油路は、図7および図8に示すように、スリーブ部材520に形成された第2油路522と連通する。更に、第3軸内油路L3の前側軸方向油路L3aに車両後部側で連通する径方向油路は、図7および図8に示すように、スリーブ部材520に形成された第3油路523と連通する。スリーブ部材520に形成された第1〜第3油路521〜523は、ハブ部材500のハブ本体510の内筒部503や油室画成部材430に形成された油路を介して、それぞれに対応した第1係合油室451,第2係合油室452または係合油室350と連通する。
また、図7および図8に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1軸内油路L1(径方向油路)とスリーブ部材520の第1油路521との第1後側連通部と、クラッチC4の第2係合油室452に対応した第2軸内油路L2(径方向油路)とスリーブ部材520の第2油路522との第2後側連通部と、クラッチC3の係合油室350に対応した前側軸方向油路L3a(それに連通する径方向油路)とスリーブ部材520の第3油路523との第3後側連通部とは、入力軸20iの軸方向において互いに離間する。すなわち、自動変速機20において、当該第1〜第3後側連通部は、車両前部側から、第3後側連通部、第1後側連通部、第2後側連通部という順番に並ぶ。
そして、図7および図8に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1後側連通部と、クラッチC4の第2係合油室452に対応した第2後側連通部との間には、入力軸20iとハブ部材500のスリーブ部材520との隙間を封止するように1つのシール部材70が介設される。更に、図7および図8に示すように、クラッチC4の第1係合油室451に対応した第1後側連通部と、クラッチC3の係合油室350に対応した第3後側連通部との間には、入力軸20iとスリーブ部材520との隙間を封止するように2つのシール部材70が軸方向に離間するように介設される。また、図7および図8に示すように、スリーブ部材520には、第1後側連通部と第3後側連通部との間に配置された2つのシール部材70の間で内側すなわち入力軸20iに開口して第3軸内油路L3の後側軸方向油路L3bから閉塞部材80の近傍で延出された径方向油路と連通する油路524が形成される。
更に、ハブ部材500を構成するハブ本体510の内筒部503および筒状延出部509の内周面には、スリーブ部材520の油路524と連通するように入力軸20iの軸方向に延びる油路530が形成されている。図7に示すように、ハブ本体510とスリーブ部材520との間に形成される油路530の一端(図7における左端)は、ハブ本体510(環状部505)の筒状延出部509の一端面(図7における左側の端面)と当接するフランジ部527により閉鎖される。すなわち、スリーブ部材520にハブ本体510の筒状延出部509の一端面と当接するフランジ部527を設けておけば、ハブ部材500に対して一端が閉鎖された油路530を容易に形成することが可能となる。油路530は、図7に示すように、ハブ部材500に形成された他の油路を介して、クラッチC3のキャンセル油室360およびクラッチC4のキャンセル油室460の双方と連通する。
また、第3軸内油路L3の後側軸方向油路L3bの開放端(図7等における右端)は、中間軸20mの内部に形成された油路L4と連通する。更に、中間軸20mの油路L4には、トランスミッションケース11や出力軸20o等に形成された油路を介して油圧制御装置60からの作動油(例えば、潤滑・冷却用のドレン油)が供給される。これにより、クラッチC3のキャンセル油室360およびクラッチC4のキャンセル油室460には、第3軸内油路L3の閉塞部材80よりも車両後部側の領域すなわち後側軸方向油路L3bやハブ部材500の油路530等を経由して作動油が供給されることになる。
一方、ハブ部材500すなわちハブ本体510とスリーブ部材520との間に形成される油路530の他端(図7における右端)は、上述の環状プレート506に形成された油溝を介してクラッチC4のクラッチドラム400とピストン420の背面との間に画成される作動油流通空間480と連通する。これにより、第3軸内油路L3の後側軸方向油路L3bから油路530に供給された作動油は、作動油流通空間480にも供給され、当該作動油は、クラッチC4のピストン420に形成された油孔427を介して、ハブ部材500の第1筒状部501とピストン420の筒状延出部425との間に画成される空間470内に導入され、クラッチC4のハブ部材500の第1筒状部501に形成された複数の油孔511(図8参照)を介して複数の摩擦プレート410に供給される。
従って、クラッチC4では、第1筒状部501とピストン420の筒状延出部425との間に画成される空間470に供給された作動油を第1筒状部501に嵌合されたセパレータプレート415やクラッチドラム400に嵌合された摩擦プレート410の潤滑・冷却に供することが可能となる。更に、このように第1筒状部501とピストン420の筒状延出部425との間に空間470を画成することで、当該空間に470に作動油を導入するための油孔427の軸長を短くして当該油孔427をピストン420に容易に形成することができるので、ハブ部材500に長い斜め孔を形成する必要が無くなる。この結果、クラッチC4のピストン420やハブ部材500の加工性を向上させつつ、クラッチC4の性能を良好に確保することが可能となる。
そして、上述のように、自動変速機20では、クラッチC3の係合油室350やクラッチC4の第1および第2係合油室451,452に対して入力軸20iの第1軸内油路L1や、第2軸内油路L2、第3軸内油路L3(前側軸方向油路L3a)を介して車両前部側から作動油(係合油圧)が供給される。また、第3軸内油路L3は、中途に配置される閉塞部材80により2分割され、クラッチC3およびC4のキャンセル油室360,460には、第3軸内油路L3の閉塞部材80よりも車両後部側の後側軸方向油路L3bを経由して作動油が供給される。
これにより、5つの油室、すなわち第1および第2係合油室452、クラッチC3の係合油室350、キャンセル油室360および460に対して、入力軸20iに形成された3本の第1〜第3軸内油路L1〜L3から作動油を供給することができる。この結果、入力軸20iに形成すべき油路の数を抑えて、すなわち本来最低4本形成されるべき軸内油路を3本として、入力軸20iの外径の増加や強度確保に伴うコストアップを抑制することが可能となり、それにより自動変速機20の大型化やコストアップを抑制することができる。
ここで、第1および第2係合油室452は、いずれもクラッチC4を係合させる際に作動油が供給されるものであることから、上述の第1前側連通部と第2前側連通部との間や第1後側連通部と第2後側連通部との間で僅かな量の作動油が流通したしても、実質的にクラッチC4の正常な動作が損なわれることはない。従って、自動変速機20では、第1前側連通部と第2前側連通部との間および第1後側連通部と第2後側連通部との間に入力軸20iとステータシャフト14zやハブ部材500のスリーブ部材520との隙間を封止するようにそれぞれ1つのシール部材70が介設される。
これに対して、クラッチC3およびクラッチC4は、常時同時に係合されるものではないことから、クラッチC4に対応した第1前側連通部や第1後側連通部とクラッチC3に対応した第3前側連通部や第3後側連通部との間では、作動油の流通を極力抑制する必要がある。このため、自動変速機20では、第1前側連通部と第3前側連通部との間および第1後側連通部と第3後側連通部との間に入力軸20iとステータシャフト14zやスリーブ部材520との隙間を封止するように2つのシール部材70が軸方向に離間して介設される。更に、ステータシャフト14zには、第1前側連通部と第3前側連通部との間に配置された2つのシール部材70の間で開口するドレン油路14dが形成され、スリーブ部材520には、第1後側連通部と第3後側連通部との間に配置された2つのシール部材70の間で開口する油路524が形成される。
これにより、自動変速機20では、2つのシール部材70により第1前側連通部と第3前側連通部との間および第1後側連通部と第3後側連通部との間で作動油が流通するのを良好に抑制することができる。更に、自動変速機20では、第1前側連通部や第3前側連通部から両者の間に僅かな量の作動油が漏れ出しても、漏れ出した作動油をステータシャフト14zに形成されたドレン油路14d内に集めて、第1前側連通部および第3連通部以外の箇所、すなわち複合遊星歯車列25(第3および第4遊星歯車23,24)の周囲に導くことができる。また、第1後側連通部や第3後側連通部から両者の間に僅かな量の作動油が漏れ出したりしても、漏れ出した作動油をスリーブ部材520に形成された油路524内に集めて、キャンセル油室360,460や作動油流通空間480等に導くことができる。この結果、自動変速機20では、単一の係合油室350を有するクラッチC3並びに互いに独立した第1および第2係合油室451,452を有するクラッチC4への作動油の供給に伴うシール部材70の増加を抑制しつつ、クラッチC3およびC4を円滑に作動させることが可能となる。
そして、自動変速機20の複合遊星歯車列25は、図3に示すように、固定可能要素としての第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24sがブレーキB2により回転不能に固定された際に入力要素としての第3キャリヤ23cに伝達された動力を増速して第1出力要素としての第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cと第2出力要素としての第4リングギヤ24rとに伝達する。また、クラッチC3およびC4の動力の伝達対象(締結対象)である第1および第2遊星歯車21,22の第1および第2サンギヤ21s,22s(他の回転要素)の最高回転速度は、図3に示すように、自動変速機20を構成する回転要素の中で最も高くなる。
これらを踏まえて、自動変速機20では、上述のように、複合遊星歯車列25の第4リングギヤ24rを第1および第2遊星歯車21,22の第1および第2サンギヤ21s,22sに選択的に接続するクラッチC3と、複合遊星歯車列25の第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cを第1および第2遊星歯車21,22の第1および第2サンギヤ21s,22sに選択的に接続するクラッチC4とが当該複合遊星歯車列25よりも第1および第2遊星歯車22,22側すなわち車両後部側(複合遊星歯車列25とセンターサポート11cとの間))かつ入力軸20i上に配置される。このようにクラッチC3およびC4を複合遊星歯車列25よりも車両後部側(第1および第2遊星歯車21,22側)かつ入力軸20i上に配置することで、クラッチC3のドラムおよびクラッチC4のクラッチハブとして機能するハブ部材500や、クラッチC3のクラッチハブ300、クラッチC4のクラッチドラム400といった構成要素の外周を入力軸20i(軸心)により近接させることができる。
これにより、クラッチC3やクラッチC4の係合時に、ブレーキB2の係合に伴って高速回転する第3リングギヤ23rおよび第4キャリヤ24cや第4リングギヤ24rと共に回転するクラッチC3,C4のハブ部材500や、クラッチハブ300、クラッチドラム400等の最高回転速度が高くなったとしても、これらのハブ部材500等に作用する遠心力が大きくなるのを抑制することができる。この結果、クラッチC3,C4のハブ部材500や、クラッチハブ300、クラッチドラム400等の強度確保に伴う大型化やコストアップを抑制することが可能となり、それにより自動変速機20の大型化やコストアップを抑制することができる。更に、クラッチC3およびC4により共用されると共に自動変速機20を構成する回転要素の中で最も高速回転する第1および第2遊星歯車21,22の第1および第2サンギヤ21s,22sに連結されるハブ部材500(スリーブ部材520)を入力軸20iの外周面により回転自在に支持することで、ハブ部材500すなわち第1および第2筒状部501,502の外周を入力軸20i(軸心)により近接させて当該ハブ部材500に作用する遠心力が大きくなるのを抑制することが可能となる。
なお、上述のような自動変速機20では、クラッチC3の係合油室350およびキャンセル油室360や、クラッチC4の第1および第2係合油室451,452やキャンセル油室460に対して入力軸20iや中間軸20m等を介さずにフロントサポート11fあるいはセンターサポート11cから作動油(油圧)を供給することも考えられる。しかしながら、係合油室350、第1および第2係合油室451,452、キャンセル油室360および460に対してフロントサポート11fあるいはセンターサポート11cから作動油(油圧)を供給する場合、フロントサポート11fあるいはセンターサポート11cに形成される筒状部によりクラッチC3,C4のクラッチハブやクラッチドラムといった構成要素を回転自在に支持しなければならず、それにより当該構成要素の外周を入力軸20i(軸心)により近接させ得なくなってしまう。従って、上述のような入力軸20iを利用した油路構造を採用することは、クラッチC3のドラムおよびクラッチC4のクラッチハブとして機能するハブ部材500や、クラッチC3のクラッチハブ300、クラッチC4のクラッチドラム400といった構成要素の外周を入力軸20i(軸心)により近接させる上で極めて有用となる。
以上説明したように、自動変速機20では、スプレッドをより大きくして動力の伝達効率すなわち車両の燃費や加速性能を向上させると共に、ステップ比を適正化して変速フィーリングを向上させることができる。また、自動変速機20では、クラッチC1のトルク分担を良好に低減させることができるので、クラッチC1を軸方向および径方向の少なくとも何れか一方においてコンパクト化することができる。従って、自動変速機20によれば、動力の伝達効率とドライバビリティーとの双方を向上させると共に、装置全体の大型化を抑制することが可能となる。
更に、自動変速機20では、出力軸20oと一体に回転する油室画成部としてのクラッチドラム110、ピストン120および出力軸20oによりクラッチC1の係合油室150を画成すると共に、係合油室150に係合油圧を供給するための油路292を出力軸20oに形成して、当該係合油室150と出力軸20oの油路292とを直接連通させることができる。これにより、入力軸20iや中間軸20mに形成された長い油路を介して複合遊星歯車列25側(車両前部側)からクラッチC1の係合油室150に係合油圧を供給する必要がなくなり、係合油室150に出力軸20o側(車両後部側)から容易に係合油圧を供給することが可能となる。そして、自動変速機20では、クラッチC1の係合油室150と出力軸20oの油路292とを直接連通させることができるので、シール部材170(シール部)の数を低減させて作動油の漏量の増加やシール部材170の引き摺り損失の増加を良好に抑制することが可能となる。
また、自動変速機20では、クラッチC4の軸長を短縮化して、その配置スペースを削減することができる。更に、自動変速機20では、ハブ部材500がクラッチC3およびC4により共用されるように構成されているので、クラッチC3の配置スペースをも削減することが可能となる。従って、自動変速機20では、装置全体の大型化を良好に抑制することができる。また、自動変速機20では、単一の係合油室350を有するクラッチC3並びに互いに独立した第1および第2係合油室451,452を有するクラッチC4への作動油の供給に伴うシール部材70の増加を抑制しつつ、クラッチC3およびC4を円滑に作動させることが可能となる。更に、自動変速機20では、入力軸20iの外径の増加や強度確保に伴うコストアップを抑制することが可能となり、それにより装置全体の大型化やコストアップを抑制することができる。加えて、自動変速機20では、クラッチC3,C4のハブ部材500や、クラッチハブ300、クラッチドラム400等の強度確保に伴う大型化やコストアップを抑制することが可能となり、それにより自動変速機20の大型化やコストアップを抑制することができる。
図9は、本発明の他の実施形態に係る変速装置としての自動変速機20Bを含む動力伝達装置10Bの概略構成図である。同図に示す動力伝達装置10Bの自動変速機20Bは、上述の自動変速機20において、シンプソン型の複合遊星歯車列25を2つのシングルピニオン式の第3および第4遊星歯車23,24を含む、いわゆるCR−CR型の複合遊星歯車列25Bで置き換えたものに相当する。このように、CR−CR型の複合遊星歯車列25Bを採用した自動変速機20Bにおいても、複合遊星歯車列25Bの回転要素間の噛み合い損失を低減させて動力の伝達効率をより向上させると共に、部品点数を削減して装置全体の重量増を抑制しつつ組立性を向上させることが可能となる。
図9に示すように、自動変速機20Bにおいて、第4遊星歯車24の第4サンギヤ24sは、自動変速機20Bの第7回転要素(第2固定可能要素)に相当する複合遊星歯車列25Bの固定可能要素として機能する。また、第3遊星歯車23の第3リングギヤ23rと第4遊星歯車24の第4キャリヤ24cとは、図6に示すように、一体に連結(常時連結)されると共に、入力軸20iに連結(固定)される。これにより、エンジン等から入力軸20iに動力が伝達されている際、常時連結された第3リングギヤ23rと第4キャリヤ24cとには、エンジン等からの動力が入力軸20iを介して常時伝達されることになる。従って、第3リングギヤ23rと第4キャリヤ24cとは、自動変速機20Bの第8回転要素(第2入力要素)に相当する複合遊星歯車列25Bの入力要素として機能する。更に、第3遊星歯車23の第3キャリヤ23cと第4遊星歯車24の第4リングギヤ24rとは、図6に示すように、一体に連結(常時連結)されており、両者は、常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。このように常時連結された第3キャリヤ23cと第4リングギヤ24rとは、自動変速機20Bの第9回転要素(第3出力要素)に相当する複合遊星歯車列25Bの第1出力要素として機能する。そして、第3遊星歯車23の第3サンギヤ23sは、自動変速機20Bの第10回転要素(第4出力要素)に相当する複合遊星歯車列25Bの第2出力要素として機能する。
図10は、本発明の更に他の実施形態に係る多段変速機としての自動変速機20Cを含む動力伝達装置10Cの概略構成図であり、図11は、自動変速機20Cを示す断面図である。これらの図面に示す動力伝達装置10Cの自動変速機20Cは、上述の自動変速機20において、シンプソン型の複合遊星歯車列25を複合遊星歯車列としてのラビニヨ式遊星歯車機構25Cで置き換えたものに相当する。ラビニヨ式遊星歯車機構25Cは、外歯歯車である第3サンギヤ23sおよび第4サンギヤ24sと、第3および第4サンギヤ23s,24sと同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤ23rと、第3サンギヤ23sに噛合する複数の第3ピニオンギヤ(ショートピニオンギヤ)23pと、第4サンギヤ24sおよび複数の第3ピニオンギヤ23pに噛合すると共にリングギヤ23rに噛合する複数の第4ピニオンギヤ(ロングピニオンギヤ)24pと、複数の第3ピニオンギヤ23pおよび複数の第4ピニオンギヤ24pを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持する第3キャリヤ23cとを有する。
ラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第3サンギヤ23s、第3キャリヤ23c、第3および第4ピニオンギヤ23p,24p、並びに第3リングギヤ23rは、複合遊星歯車列25,25Bにおける第3遊星歯車23に対応したダブルピニオン式遊星歯車を構成する。また、ラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第4サンギヤ24s、第3キャリヤ23c、第4ピニオンギヤ24p、および第3リングギヤ23rは、複合遊星歯車列25,25Bにおける第4遊星歯車24に対応したシングルピニオン式遊星歯車を構成する。そして、ラビニヨ式遊星歯車機構25Cは、第3遊星歯車としてのダブルピニオン式遊星歯車のギヤ比(第3サンギヤ23sの歯数/第3リングギヤ23rの歯数)が上述の複合遊星歯車列25,25Bを構成する第3遊星歯車23のギヤ比λ3と同一(λ3=0.581)となり、かつ第4遊星歯車としてのシングルピニオン式遊星歯車のギヤ比(第4サンギヤ24sの歯数/第3リングギヤ23rの歯数)が上述の複合遊星歯車列25,25Bを構成する第4遊星歯車24のギヤ比λ4と同一(λ4=0.378)となるように構成される。
図12は、図10の自動変速機20Cにおける入力回転速度に対する各回転要素の回転速度の比を示す速度線図である。図10および図12に示すように、ラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第4サンギヤ24sは、ブレーキB2によりトランスミッションケース11に対して回転不能に固定(接続)され得るものであり、自動変速機20Cの第7回転要素(第2固定可能要素)に相当するラビニヨ式遊星歯車機構25Cの固定可能要素として機能する。また、ラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第3キャリヤ23cは、入力軸20iに常時連結(固定)され、エンジン等から入力軸20iに動力が伝達されている際、第3キャリヤ23cには、エンジン等からの動力が入力軸20iを介して常時伝達されることになる。従って、第3キャリヤ23cは、自動変速機20Cの第8回転要素(第2入力要素)に相当するラビニヨ式遊星歯車機構25Cの入力要素として機能する。更に、第3遊星歯車23の第3リングギヤ23rは、自動変速機20Cの第9回転要素(第3出力要素)に相当するラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第1出力要素として機能する。そして、ラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第3サンギヤ23sは、自動変速機20Cの第10回転要素(第4出力要素)に相当するラビニヨ式遊星歯車機構25Cの第2出力要素として機能する。
上述のようなダブルピニオン式遊星歯車(第3遊星歯車)とシングルピニオン式遊星歯車(第4遊星歯車)とを組み合わせて構成される複合遊星歯車列であるラビニヨ式遊星歯車機構25Cを採用した自動変速機20Cにおいても、部品点数を削減して装置全体の重量増を抑制しつつ組立性を向上させることが可能となる。
また、自動変速機20Cにおいて、ラビニヨ式遊星歯車機構25cは、固定可能要素としての第4サンギヤ24sがブレーキB2により回転不能に固定された際に、入力要素としての第3キャリヤ23cに伝達された動力を増速して第1出力要素としての第3リングギヤ23rと第2出力要素としての第3サンギヤ23sとに伝達する。そして、自動変速機20Cでは、図12からわかるように、出力軸20oが車両前進方向に回転する際、第1出力要素としての第3リングギヤ23rに比べて、それよりも小径であって強度を容易に確保することができる第2出力要素としての第3サンギヤ23sの最高回転速度が高くなる。従って、自動変速機20Cでは、大径の第4リングギヤ24rが第1出力要素に比べて高速回転する第2出力要素となる自動変速機20に比べて、第2出力要素としての第3サンギヤ23sと一体に回転するクラッチC3のクラッチハブやピストン、キャンセルプレートといった構成部材の強度確保に伴う寸法(外径や厚み等)すなわち重量の増加を抑制することができる。この結果、第3サンギヤ23sおよびそれと一体に回転する部材の回転時のイナーシャを良好に低減化して自動変速機20Cの変速性能を向上させることが可能となる。
更に、自動変速機20Cにおいて、高速回転する第3サンギヤ23sに対応したクラッチC3は、上述のように小径の第3サンギヤ23sと、同様に小径であって常時連結された第1遊星歯車21の第1サンギヤ21sおよび第2遊星歯車22の第2サンギヤ22sとを接続・断接するものである。従って、自動変速機20Cでは、クラッチC3の構成部材、すなわち第3サンギヤ23sと一体に回転するクラッチC3のクラッチハブやピストン、キャンセルプレート、第1および第2サンギヤ21s,22sと一体に回転するクラッチドラム(少なくともその一部)等を自動変速機20Cの軸心すなわち入力軸20iや中間軸20mにできるだけ近接するように、ラビニヨ式遊星歯車機構25cと第2遊星歯車22(第1および第2遊星歯車21,22のうちのラビニヨ式遊星歯車機構25cに近接して配置される一方)との間に配置することができる。この結果、自動変速機20Cでは、高速回転する第3サンギヤ23sおよびそれと一体に回転する部材や、図12に示すように第3サンギヤ23sよりも高速で回転する第1および第2サンギヤ21s,22sおよびそれと一体に回転する部材の回転時のイナーシャをより一層良好に低減化することが可能となる。
なお、上述の自動変速機20〜20Cにおいて、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチあるいはドグブレーキといった噛み合い係合要素とされてもよい。例えば、自動変速機20〜20Cでは、前進第1速段から前進第4速段の形成に際して連続して係合されると共に、後進段の形成に際して係合されるブレーキB1として、ドグブレーキを採用してもよい。また、自動変速機20等において、第1〜第4遊星歯車21〜24のギヤ比λ1〜λ4は、上記説明において例示されたものに限られるものではない。更に、自動変速機20等において、第1および第2遊星歯車21,22の少なくとも何れかをダブルピニオン式の遊星歯車としてもよく、複合遊星歯車列をシンプソン型やCR−CR型、ラビニヨ式以外の形式のものとしてもよい。また、上述のクラッチC3およびC4周辺の構造は、クラッチC3の2つの接続対象(締結対象)と、クラッチC4の2つの接続対象(締結対象)とがすべて異なる自動変速機にも適用され得ることはいうまでもない。更に、上述の自動変速機20〜20Cは、前輪駆動車両に搭載される変速機として利用されてもよい。
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。