特許文献1に記載されたロータリーピストンエンジンでは、連通部によって、2つの気筒の排気ポート同士が連通している。2気筒のロータリーピストンエンジンでは、2つの気筒の排気行程の一部期間が重なり合うため、一方の気筒から排出された排気ガスの一部が、他方の気筒に流入する排気干渉を招く。
また、特許文献1に記載されている特殊な構成ではなく、一般的に、各気筒がサイド排気ポートを有するよう構成された、多気筒のロータリーピストンエンジンでは、インターミディエイトハウジング内に、両側の気筒それぞれに連通する2つのサイド排気ポートが独立して形成される。インターミディエイトハウジングは、その厚みを分厚くすることが難しい。そのため、インターミディエイトハウジング内に形成された2つのサイド排気ポートは、それぞれの通路面積が小さくなりかつ、途中で合流するように構成されるが、この構成は排気干渉を招く。排気干渉により、気筒内の残留排気ガスが増えるという不都合がある。また、ポンプ損失の増大を招く。さらに、ターボ過給機付きのロータリーピストンエンジンでは、排気干渉によってタービンに供給される排気エネルギが低下するため、タービン効率が下がるという不都合もある。また、タービンによって排気抵抗が高くなるため、ターボ過給機付きのロータリーピストンエンジンでは、排気干渉が助長されることにもなる。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、各気筒がサイド排気ポートを有する多気筒の、ターボ過給機付きロータリーピストンエンジンにおいて、排気干渉を防止することで、残留排気ガスの低減、ポンプ損失の低減、及びタービン効率の向上を図ることにある。
ここに開示する技術は、ターボ過給機付きロータリーピストンエンジンに係る。このターボ過給機付きロータリーピストンエンジンは、複数の気筒を有するよう構成されたエンジンと、前記複数の気筒それぞれから排出される排気ガスが流れるよう構成された排気通路と、前記排気通路に配設されたタービンを有するよう構成されたターボ過給機と、を備える。
前記エンジンは、前記複数の気筒に対応する複数のロータと、前記複数のロータそれぞれが摺動するトロコイド内周面を有するよう構成されたロータハウジングと、前記ロータハウジング同士の間、及び、前記ロータハウジングの側部に配設されることによって、前記ロータハウジングと共に、前記ロータを収容する前記気筒を区画するよう構成されたサイドハウジングと、を有する。
前記気筒と前記排気通路とをつなぐ排気ポートは、前記サイドハウジング内に設けられると共に、前記気筒内に臨むように前記サイドハウジングの側面に開口しており、前記複数の気筒は、第1の排気通路を通じて前記タービンに接続される第1種の気筒と、前記タービンの下流で前記第1の排気通路と集合する第2の排気通路が接続されることで前記タービンをバイパスする第2種の気筒とを含み、前記第1種の気筒の前記排気ポートは、前記ロータハウジングを挟んだ両側の前記サイドハウジングのそれぞれに設けられかつ、それぞれの排気ポートが前記第1種の気筒内に開口し、前記第2種の気筒の前記排気ポートは、前記ロータハウジングの一側の、前記第1種の気筒の前記排気ポートが設けられていない前記サイドハウジングに設けられかつ、前記第2種の気筒内に開口し、前記第1種の気筒の一気筒当たりの前記排気ポートの通路断面積の合計は、前記第2種の気筒の一気筒当たりの前記排気ポートの通路断面積の合計よりも大きい。
この構成によると、多気筒のロータリーピストンエンジンにおいて、複数の気筒は、第1種の気筒と、第2種の気筒とに分けられる。第1種の気筒は、一つである場合、又は、複数である場合が含まれる。尚、第1種の気筒が複数の場合、それら複数の気筒は、排気干渉をしない気筒であることが望ましい。同様に、第2種の気筒は、一つである場合、又は、複数である場合が含まれる。尚、第2種の気筒が複数の場合、それら複数の気筒は、排気干渉をしない気筒であることが望ましい。
第1種の気筒は、第1の排気通路を通じてタービンに接続される。第2種の気筒は、第2の排気通路により、タービンをバイパスする。第2の排気通路は、タービンの下流で第1の排気通路と集合する。
第1種の気筒の排気ポートは、ロータハウジングを挟んだ両側のサイドハウジングのそれぞれに設けられ、それぞれの排気ポートが第1種の気筒内に開口する。ここで、サイドハウジングには、ロータハウジングとロータハウジングとの間に配設されるインターミディエイトハウジングも含まれる。後述の通り、第2種の気筒の排気ポートは、第1種の気筒の排気ポートが設けられていないサイドハウジングに設けられるため、インターミディエイトハウジングには、第1種の気筒の排気ポートのみが設けられる。インターミディエイトハウジングの厚みを比較的薄くしつつも、十分な通路断面積を有する第1種の気筒の排気ポートを形成することが可能になる。また、ロータハウジングの側部に配設されるサイドハウジングにも、十分な通路断面積を有する、第1種の気筒の排気ポートを形成することが可能になる。
第2種の気筒の排気ポートは、ロータハウジングの一側のサイドハウジングに設けられかつ、第2種の気筒内に開口する。第2種の気筒の排気ポートは、第1種の気筒の排気ポートが設けられていないサイドハウジングに設けられるため、十分な通路断面積を有する第2種の気筒の排気ポートを形成することが可能になる。
こうして、タービンの上流において、第1種の気筒の排気ポート及び第1の排気通路、並びに、第2種の気筒の排気ポート及び第2の排気通路が、互いに独立するようになる。その結果、各気筒がサイド排気ポートを有する多気筒のロータリーピストンエンジンにおいて、排気干渉が無くなる。気筒内の残留排気ガスを少なくすることが可能になる。
また、排気干渉がなくなる分、第1の排気通路を通じてタービンに供給される排気エネルギを高めることが可能になる。タービン効率の向上が図られる。
ここで、第1種の気筒の一気筒当たりの排気ポートの通路断面積の合計は、第2種の気筒の一気筒当たりの排気ポートの通路断面積の合計よりも大きい。タービンに接続される第1種の気筒の排気ポート、及び、第1の排気通路は、排気抵抗が高くなり得るが、通路断面積を比較的大きくすることで、排気抵抗の増大が抑制される。第1種の気筒から排出される排気ガスのエネルギを、効率良く、タービンに供給することが可能になる。
一方、第2種の気筒の排気ポート、及び、第2の排気通路は、通路断面積が相対的に小さくなるが、第2の排気通路はタービンに接続されないため、排気抵抗が相対的に低い。第2の排気通路は、通路断面積が相対的に小さくても、排気抵抗の増大が抑制される。第2種の気筒から排出される排気ガスも、スムースに排出することが可能になる。
排気干渉の回避と共に、排気抵抗の低減によって、ターボ過給機付きエンジンにおいて、ポンプ損失が低減する。
前記第2の排気通路において、前記タービンの下流側で前記第1の排気通路と集合する開口端部は、前記第1の排気通路の流れ方向と実質的に同じになるように前記第1の排気通路の開口端部に隣り合って設けられると共に、通路面積を縮小する絞りが設けられている、としてもよい。
この構成により、第1の排気通路と第2の排気通路との集合箇所において、第2の排気通路からの排気ガスの流れの流速が、絞りによって高められ、第2の排気通路の開口端部の周囲に強い負圧が発生する(エゼクタ効果)。このエゼクタ効果によって、第1の排気通路を流れる排気ガスが吸い出され、タービンの下流側の圧力が低下する。タービンの上流側と下流側との圧力差が大きくなり、タービン効率が高まる。この構成は、多気筒のロータリーピストンエンジンにおいて、一部の気筒から排出される排気ガスのみをタービンに供給している前記の構成、つまり、タービンに供給される排気エネルギが低くなり得る構成において、所望の過給圧を実現する上で有利になる。
前記第2の排気通路は、シート材から構成されている、としてもよい。
第2の排気通路は、前述したように、タービンをバイパスする排気通路であるため、温度が相対的に低くなる。第2の排気通路は、シート材によって構成することが可能である。一方、第1の排気通路は、タービンに接続される排気通路であるため、温度が相対的に高くなる。第1の排気通路は、シート材によって構成することが難しい。第1の排気通路は、例えば鋳物により構成される。
第2の排気通路は、シート材によって構成することにより熱容量が小さくなる。触媒装置の未活性時には、第2の排気通路を通じて、比較的温度の高い排気ガスを触媒装置に送ることが可能になる。触媒装置の早期活性化に有利になる。
前記第1の排気通路における前記タービンの上流には、前記タービンへの排気ガスの流入を制限可能に構成された制限部と、前記制限部よりも上流において前記第2の排気通路に連通する状態と連通しない状態とに切り替わるよう構成された連通部と、が配設され、前記第1の排気通路と前記第2の排気通路との集合箇所よりも下流に配設された触媒装置が未活性のときには、前記制限部により、前記第1種の気筒から排出された排気ガスが前記タービンに流入することを制限しつつ、前記連通部が連通状態になることにより、前記タービンをバイパスして前記第1種の気筒から排出された排気ガスを前記第2の排気通路に送る、としてもよい。
第2の排気通路は、タービンをバイパスして触媒装置に接続されるため、比較的高温の排気ガスを触媒装置に供給することが可能になる。そこで、触媒装置が未活性のときには、第1種の気筒から排出された排気ガスがタービンに流入することを、制限部によって制限しつつ、連通部が連通状態になることによって、第1種の気筒から排出された排気ガスを、タービンをバイパスして第2の排気通路に送る。こうすることで、触媒装置の未活性時には、第1種の気筒及び第2種の気筒のそれぞれから排出された排気ガスが、できる限り、タービンをバイパスして触媒装置に送られる。その結果、触媒装置に高温の排気ガスが供給されるようになる。触媒装置の活性化が図られ、触媒装置が早期に活性化する。
特に、第2の排気通路をシート材によって構成した場合には、第1種の気筒及び第2種の気筒のそれぞれから排出された排気ガスを、熱容量の小さい第2の通路を通じて触媒装置に送ることになるから、より一層高温の排気ガスを触媒装置に送ることが可能になる。触媒装置を速やかに活性化することが可能になる。
尚、制限部は、例えばタービンのハウジング内で、排気ガスの通路面積を変化させるよう構成されたVGT(Variable Geometry Turbo)のベーンによって構成してもよい。ベーンの角度を変更することによって、排気ガスの通路面積が小さくなり、排気ガスがタービンに流入することが制限される。また、連通部は、第1の排気通路と第2の排気通路とを連通する箇所に設けた開閉弁によって構成してもよい。
前記第1の排気通路において、前記タービンよりも下流でかつ、前記第2の排気通路と集合する箇所の上流には、気筒識別用のO2センサが配設されているとしてもよい。
多気筒のロータリーピストンエンジンは、気筒間で排気行程が大きく重なる。レシプロエンジンにおいて採用されているように、各気筒からの排気ガスの集合箇所よりも下流に配設したO2センサを利用し、各気筒における空燃比を変更することで気筒識別を行う手法を、ロータリーピストンエンジンに採用しようとしても、正確な気筒識別が困難である。
前記の構成は、第1種の気筒に接続される第1の排気通路と、第2種の気筒に接続される第2の排気通路とが独立している。つまり、タービンよりも下流でかつ、第2の排気通路と集合する箇所の上流は、第1種の気筒から排出された排気ガスのみが流れる。そこで、この箇所にO2センサが配設することにより、第1種の気筒と第2種の気筒との識別が可能になる。この構成は、特に2気筒のロータリーピストンエンジンにおける気筒識別に有効である。
以上説明したように、前記のターボ過給機付きロータリーピストンエンジンによると、第1種の気筒に接続される排気ポート及び第1の通路を、タービンに接続する一方、第2種の気筒に接続される排気ポート及び第2の通路を、タービンをバイパスして第1の通路に集合し、第1種の気筒の排気ポートの通路断面積を、第2種の気筒の排気ポートの通路断面積よりも大にすることで、排気干渉が防止され、ターボ過給機付きロータリーピストンエンジンにおいて、残留排気ガスの低減、ポンプ損失の低減、及びタービン効率の向上を図ることができる。
以下、ここに開示するターボ過給機付きロータリーピストンエンジンについて、図面を参照しながら説明をする。尚、以下に示すターボ過給機付きロータリーピストンエンジンの構成は、一例である。図1及び図2は、ロータリーピストンエンジン1(以下、単にロータリーエンジン1ともいう)の構造を示している。ロータリーエンジン1は、図2に示すように、2つのロータ2を備えた2ロータタイプである。2ロータの(言い換えると2気筒の)ロータリーエンジン1は、前側(便宜上、図2における紙面左側)及び後側(便宜上、図2における紙面右側)の2つのロータハウジング3、3が、インターミディエイトハウジング(つまり、サイドハウジング)4をその間に挟んだ状態で、これらの両側からさらに2つのサイドハウジング41、41で挟み込むようにして一体化されることによって構成されている。尚、ロータ2の個数(つまり、気筒数)はこれに限定されるものではない。
ロータハウジング3の、平行トロコイド曲線で描かれるトロコイド内周面3aと、これらロータハウジング3を両側から挟むサイドハウジング41の側面41aと、インターミディエイトハウジング4の両側の側面4aとによって、回転軸Xの一方側から回転軸Xに沿う方向にロータリーピストンエンジン1を見たときに、繭のような略楕円形状をしたロータ収容室31が、前側及び後側の2つ横並びに区画されている。これらロータ収容室31にロータ2が1つずつ収容されている。各ロータ収容室31は、インターミディエイトハウジング4に対して対称に配置されている。ロータ2の位置及び位相が異なっている点を除けば構成は同じであるため、以下、1つのロータ収容室31について説明する。
ロータ2は、回転軸Xの方向から見て各辺の中央部が膨出する略三角形状をしたブロック体からなる。ロータ2は、その外周に、各頂部間に3つの略長方形をしたフランク面2a、2a、2aを備えている。
ロータ2は、各頂部に図示しないアペックスシールを有している。これらアペックスシールは、ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接する。このロータハウジング3のトロコイド内周面3aと、インターミディエイトハウジング4の側面4aと、サイドハウジング41の側面41aと、ロータ2のフランク面2aとで、ロータ収容室31の内部に、3つの作動室8、8、8がそれぞれ区画形成されている。従ってこのエンジン1は、前側気筒31aに第1〜第3の3つの作動室8と、後側気筒31bに第4〜第6の3つの作動室8の、合計6個の作動室を有している。
ロータ2の内側には位相ギアが設けられている(図示せず)。すなわち、ロータ2の内側の内歯車(ロータギア)とサイドハウジング41側の外歯車(固定ギア)とが噛合する。ロータ2は、出力軸Xを構成するエキセントリックシャフト6に対して、遊星回転運動をするように支持されている。エキセントリックシャフト6は、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング41を貫通する。尚、符号21は、ロータ2の側面に設けられたオイルシールであり、余分な潤滑オイルが作動室8内に流入することを防止する。
ロータ2の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定される。ロータ2は、3つのシール部が各々ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪(偏心軸)6aの周りを自転しながら、回転軸Xの周りに自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含め、広い意味で単にロータの回転という)。そして、ロータ2が1回転する間に3つの作動室8、8、8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われる。このサイクルによって発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
より具体的に、ロータ2は矢印で示すように、時計回りに回転する。回転軸Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の右側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、左側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。
ここで、従来構成のロータリーピストンエンジンは、長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。本構成のロータリーピストンエンジンは、従来構成のロータリーピストンエンジンを、回転軸Xを中心として180°回転させたような状態で車両に搭載している。但し、ロータリーピストンエンジンの搭載状態は、従来と同じ搭載状態にしてもよい。
図1における右下の作動室8に着目すると、これは吸気と噴射された燃料とによって混合気を形成する吸気行程を示している。この作動室8がロータ2の回転につれて圧縮行程に移行すると、その内部にて混合気が圧縮される。その後、図1の左側に示す作動室8のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ82、83により点火されて、燃焼・膨張行程が行われる。そして、最後に図1の右上の作動室8のような排気行程に至ると、燃焼ガスが排気ポート10から排気された後、再び吸気行程に戻って各行程が繰り返されるようになっている。
吸気行程の状態にある作動室8には、吸気ポート11が連通している。吸気ポート11の開口部は、より詳細には、吸気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の側面4aに、ロータ収容室31の外周側の、回転軸Xを通るロータ収容室31の短軸Z寄りで設けられている。吸気ポート11は、インターミディエイトハウジング4内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。また、図示は省略するが、吸気行程の状態にある作動室8に面するサイドハウジング41の側面41aにも、吸気ポート11の開口部に対向するように、別の吸気ポートの開口部が設けられている。この吸気ポートも、サイドハウジング41内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。エンジン1の側面には、吸気ポート11に連通する吸気マニホールドの独立通路12が取り付けられる。
排気行程の状態にある作動室8には、排気ポート10が連通している。排気ポート10の開口部は、より詳細には、排気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の側面4a、及び/又は、サイドハウジング41の側面41aに、ロータ収容室31の外周側の短軸Z寄りで設けられている。排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4又はサイドハウジング41内を、斜め上方に向かって延びて、エンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。このエンジン1では、いわゆるサイド排気方式が採用されており、この排気ポート10の開口部の位置及び形状は、吸気のオープンタイミングと排気のオープンタイミングとがオーバーラップしないように設定されている。これによって、次行程に持ち込まれる残留排気ガスを低減している。エンジン1には、排気ポート10に連通する排気通路13が接続される。排気ポート10及び排気通路13の構成についての詳細は、後述する。
作動室8内に燃料を供給するためのインジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に取り付けられている。インジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に設けた吸気ポート11内に燃料を噴射する。
ロータハウジング3の側部における、短軸Zを挟んだロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とにはそれぞれ、T側点火プラグ82とL側点火プラグ83とが取り付けられている。これら2つの点火プラグ82、83は、圧縮・膨張状態にある作動室8に臨んでおり、作動室8内の混合気に、同時に点火、又は位相差を持って順に点火をする。
図2は、ターボ過給機付きロータリーエンジン1の排気装置の構成を示している。排気装置は、排気ポートに接続される排気通路13と、ターボ過給機5のタービン51と、その下流の触媒装置100と、を備えている。触媒装置100は、例えば三元触媒を備えて構成される。
前述したように、2ロータタイプのロータリーエンジン1において、各気筒(つまり、ロータ2を収容するロータ収容室31であり、以下、説明の便宜上、図2における左側の気筒を前側気筒31aと呼び、図2における右側の気筒を後側気筒31bと呼ぶ)には、排気ポート10が設けられている。
前側気筒31aの排気ポート10は、サイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4との両方に設けられている。つまり、前側気筒31aの排気ポート10は、サイドハウジング41に設けられた排気ポート10aと、インターミディエイトハウジング4に設けられた排気ポート10bとを含む。ここで、インターミディエイトハウジング4には、前側気筒31aの排気ポート10bのみが設けられている。インターミディエイトハウジング4の厚みを比較的薄くしつつも、十分な通路断面積を有する排気ポート10bを形成することが可能になる。
前側気筒31aの排気ポート10には、第1の排気通路131が接続されている。第1の排気通路131は、2つの排気ポート10a及び10bのそれぞれに接続される独立通路と、2つの独立通路が合流した合流通路とを含んでいる。タービン51を収容するタービンハウジング53は、合流通路の途中に設けられている。第1の排気通路131は、タービン51に接続されるため、熱対策として鋳物によって構成されている。図2では、鋳物により構成される第1の排気通路131を、厚肉に描いている。このロータリーエンジン1では、前側気筒31aが、タービン51に接続される第1種の気筒に相当する。前側気筒31aに接続される第1の排気通路131は、後側気筒31bとは独立しているため、排気干渉を回避して、高い排気エネルギをタービン51に供給することが可能である。
後側気筒31bの排気ポート10cは、サイドハウジング41にのみ設けられている。従って、前側気筒31aの排気ポート10a、10bの通路断面積の合計は、後側気筒31bの排気ポート10cの通路断面積よりも大きい。タービン51に接続される第1の排気通路131は排気抵抗が高くなり得るが、排気ポート10a、10bの通路断面積が相対的に大きいため、前側気筒31aは、排気抵抗の増大が抑制される。
後側気筒31bの排気ポート10cには、第2の排気通路132が接続されている。第2の排気通路132は、タービン51をバイパスして、タービン51の下流において、第1の排気通路131と集合する。第2の排気通路132に接続される排気ポート10cは、通路断面積が相対的に小さくなるが、第2の排気通路132はタービン51をバイパスするため、後側気筒31bも、排気抵抗の増大が抑制される。
第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所において、第2の排気通路132の開口端部は、第1の排気通路131の開口端部に対して隣り合うように設けられる。図2の例では、第1の排気通路131の開口端部の周囲を囲むように、第2の排気通路132の開口端部が設けられる。これにより、第1の排気通路131の開口端部から吐き出される排気ガスの流れと、第2の排気通路132の開口端部から吐き出される排気ガスの流れとは、実質的に同じ方向になる。第2の排気通路132の開口端部にはまた、その通路面積が縮小する絞り1321が設けられている。これにより、第2の排気通路132から吐き出される排気ガスの流速が高まり、第2の排気通路132の開口端部の周囲に、エゼクタ効果によって、強い負圧が発生する。この強い負圧が、第1の排気通路131から排気ガスを吸い出すようになり、タービン51の下流側の圧力が低下する。その結果、タービン51の上流側と下流側との圧力差が大きくなり、タービン効率が高まる。
第2の排気通路132は、タービン51をバイパスする通路であるため、第1の排気通路131と比較して温度が低くなる。第2の排気通路132は、シート材(例えば鋼板)によって構成される。これにより、第2の排気通路132の熱容量は、第1の排気通路131の熱容量よりも小さくなる。尚、図2では、シート材により構成される第2の排気通路132を、薄肉に描いている。このロータリーエンジン1では、後側気筒31bが、タービン51をバイパスする第2種の気筒に相当する。
第1の排気通路131のタービン上流と、第2の排気通路132の集合箇所上流とは、互いに連通している。この連通箇所には、バイパス弁133が介設している。バイパス弁133は、図2に実線で示す開弁時に、第1の排気通路131におけるタービン51の上流側を、第2の排気通路132に連通し、図2に仮想的に示す閉弁時に、タービン51の上流において、第1の排気通路131と第2の排気通路132とを互いに独立させる。後述するように、触媒装置100が未活性のときには、バイパス弁133が開弁する。触媒装置100は、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流に配設されている。
排気通路13にはまた、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流でかつ、触媒装置100の上流に、O2センサ134が配設されている。O2センサ134は、排気ガス中の酸素濃度を検知するよう構成されている。O2センサ134の検知結果は、様々な制御に利用される。ここでは特に、ロータリーエンジン1における燃焼状態を検知するために利用される。具体的には、不完全燃焼の発生等を検知する。
燃焼状態の検知に関連し、燃焼状態が悪化した気筒を識別するためのO2センサ135(つまり、気筒識別用O2センサ135)が、第1の排気通路131に配設されている。気筒識別用O2センサ135は、より詳細には、タービン51の下流でかつ、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも上流に配設されている。排気通路13におけるこの箇所は、前側気筒31aから排出された排気ガスのみが通る箇所である。従って、触媒装置100の上流のO2センサ134の検出値と、気筒識別用O2センサ135の検出値との比較によって、前側気筒31aと後側気筒31bとの識別が可能になる。具体的に、触媒装置100の上流のO2センサ134の検出値に基づき、不完全燃焼の発生等を検知したときに、気筒識別用O2センサ135の検出値も、同様の傾向を示すときには、前側気筒31aにおいて不完全燃焼等が発生していると判定することが可能である。逆に、気筒識別用O2センサ135の検出値が、同様の傾向を示さないときには、後側気筒31bにおいて不完全燃焼等が発生していると判定することが可能である。また、タービン51の下流側は、排気ガスの温度が低下しているから、この箇所にO2センサ135を配置することは、耐熱温度が低いO2センサを用いることが可能になるという利点もある。
ターボ過給機5は、図2に模式的に示すように、タービンハウジング53内にベーン54が設けられたVGTである。つまり、VGTは、ロータリーエンジン1の運転状態に応じて、ベーン54の角度を変更することにより、タービンハウジング53内の、排気ガスの通路面積を変化させるよう構成されている。詳細は後述するが、このロータリーエンジン1では、ロータリーエンジン1の運転状態に応じてベーン54の角度を変更すること以外に、触媒装置100の未活性時にも、排気ガスの通路面積が小さくなるように、ベーン54の角度を変化させる。
尚、ターボ過給機5のベーン54の角度、及び、前述したバイパス弁133の開閉は、図示を省略するPCM(Powertrain Control Module)によって、その動作が制御される。
尚、ターボ過給機5のコンプレッサ52は、図2では図示しないが、吸気通路に配設される。吸気通路は、コンプレッサ52の下流において、前側気筒31aに接続される独立通路12と、後側気筒31bに接続される独立通路12とに分岐する。従って、ターボ過給機5のタービン51には、前述したように、前側気筒31a及び後側気筒31bの内の、前側気筒31aのみが接続されるが、コンプレッサ52には、前側気筒31a及び後側気筒31bの両方が接続される。前側気筒31a及び後側気筒31bのそれぞれに対して過給が行われる。
以上説明したように、ここに開示するターボ過給機付きロータリーピストンエンジン1は、複数の気筒31a、31bを有するよう構成されたエンジン1と、前記複数の気筒31a、31bそれぞれから排出される排気ガスが流れるよう構成された排気通路13と、前記排気通路13に配設されたタービン51を有するよう構成されたターボ過給機5と、を備える。
前記ロータリーピストンエンジン1は、前記複数の気筒31a、31bに対応する複数のロータ2と、前記複数のロータ2それぞれが摺動するトロコイド内周面3aを有するよう構成されたロータハウジング3と、前記ロータハウジング3同士の間、及び、前記ロータハウジング3の側部に配設されることによって、前記ロータハウジング3と共に、前記ロータ2を収容する前記気筒31a、31bを区画するよう構成されたサイドハウジング41及びインターミディエイトハウジング4と、を有する。
前記気筒31a、31bと前記排気通路13とをつなぐ排気ポート10a、10b、10cは、前記サイドハウジング41及びインターミディエイトハウジング4内に設けられると共に、前記気筒31a、31b内に臨むように前記サイドハウジング41及びインターミディエイトハウジング4の側面に開口しており、前記複数の気筒31a、31bは、第1の排気通路131を通じて前記タービン51に接続される第1種の気筒(つまり、前側気筒31a)と、前記タービン51の下流で前記第1の排気通路131と集合する第2の排気通路132が接続されることで前記タービン51をバイパスする第2種の気筒(つまり、後側気筒)31bとを含み、前記前側気筒31aの前記排気ポート10a、10bは、前記ロータハウジング3を挟んだ両側の前記サイドハウジング41及びインターミディエイトハウジング4のそれぞれに設けられかつ、それぞれの排気ポート10a、10bが前記前側気筒31a内に開口し、前記後側気筒31bの前記排気ポート10cは、前記ロータハウジング3の一側の、前記前側気筒31aの前記排気ポート10a、10bが設けられていない前記サイドハウジング41に設けられかつ、前記後側気筒31b内に開口し、前記前側気筒31aの前記排気ポート10a、10bの通路断面積の合計は、前記後側気筒31bの前記排気ポート10cの通路断面積(の合計)よりも大きい。
この構成により、インターミディエイトハウジング4には、前側気筒31aの排気ポート10bのみが設けられる。インターミディエイトハウジング4の厚みを比較的薄くしつつも、十分な通路断面積を有する排気ポート10bを形成することが可能になる。
また、前側気筒31aの排気ポート10a、10b及び第1の排気通路131、並びに、後側気筒31bの排気ポート10c及び第2の排気通路132が、互いに独立するようになる。ロータリーピストンエンジン1では、2つの気筒の排気行程が重なり合うが、タービン51の上流において、2つの気筒の排気ポート及び排気通路が互いに独立しているため、排気干渉が生じない。これにより、前側気筒31a及び後側気筒31b内の残留排気ガスを少なくすることが可能になる。
また、排気干渉がなくなる分、第1の排気通路131を通じてタービン51に供給される排気エネルギを高めることが可能になる。タービン効率の向上が図られる。
さらに、前側気筒31aの排気ポート10a、10b、及び、第1の排気通路131は、タービン51に接続されるため、排気抵抗が高くなり得るが、通路断面積を大きくすることで、排気抵抗の増大が抑制される。前側気筒31aから排出される排気ガスのエネルギを、効率良く、タービン51に供給することが可能になる。
一方、後側気筒31bの排気ポート10c、及び、第2の排気通路132は、通路断面積が相対的に小さくなるが、第2の排気通路132はタービン51に接続されないため、排気抵抗が低い。このため、通路断面積が相対的に小さくても、第2の排気通路132は、排気抵抗の増大が抑制される。後側気筒31bから排出される排気ガスも、スムースに排出することが可能になる。
こうして、排気干渉の回避と共に、第1及び第2の排気通路132における排気抵抗の低減によって、ターボ過給機付きロータリーピストンエンジン1のポンプ損失が低減する。
前記第2の排気通路132において、前記タービン51の下流側で前記第1の排気通路131と集合する開口端部は、前記第1の排気通路131の流れ方向と実質的に同じになるように前記第1の排気通路131の開口端部に隣り合って設けられると共に、通路面積を縮小する絞り1321が設けられている。
この構成により、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所において、第2の排気通路132からの排気ガスの流れの流速が、絞り1321によって高められ、エゼクタ効果が得られる(図2の白抜きの矢印参照)。エゼクタ効果によって第2の排気通路132の開口端部の周囲に強い負圧が発生する。これにより、第1の排気通路131を流れる排気ガスが吸い出され、タービン51の下流側の圧力が低下する。タービン51の上流側と下流側との圧力差が大きくなり、タービン効率が高まる。タービン51には、前側気筒31aからの排気ガスのみを供給していて、タービン51に供給される排気エネルギは相対的に低下し得るが、タービン51をバイパスする、後側気筒31bから排出された排気ガスのエネルギを利用してタービン効率を高めることで、所望の過給圧を実現することが可能になる。
また、エンジンの高回転域では、エゼクタ効果によってタービン51の下流側の圧力が低下することで、ポンプ損失が低減する。
前記第1の排気通路131における前記タービン51の上流には、前記タービン51への排気ガスの流入を制限可能に構成された制限部(つまり、VGTのベーン54)と、前記ベーン54よりも上流において前記第2の排気通路132に連通する状態と連通しない状態とに切り替わるよう構成された連通部(つまり、バイパス弁133)と、が配設され、前記第1の排気通路131と前記第2の排気通路132との集合箇所よりも下流に配設された触媒装置100が未活性のときには、前記ベーン54の角度を変更することにより、前記前側気筒31aから排出された排気ガスが前記タービン51に流入することを制限しつつ、前記バイパス弁133を開けることにより、前記タービン51をバイパスして前記前側気筒31aから排出された排気ガスを前記第2の排気通路132に送る。
これにより、触媒装置100の未活性時には、前側気筒31a及び後側気筒31bのそれぞれから排出された排気ガスが、タービン51をバイパスして触媒装置100に送られるようになる。
また、前記第2の排気通路132は、シート材から構成されている。これにより、第2の排気通路132の熱容量が小さくなる。そのため、触媒装置100が未活性のときには、温度の高いままで、排気ガスを触媒装置100に送ることが可能になる。これにより、触媒装置100の早期活性化が図られる。
また、エンジン1の高負荷高回転域では、バイパス弁133が閉じることで、タービン51を通過することによって温度が低下した排気ガスが、タービン51をバイパスした排気ガスと混ざり合って、触媒装置100に送られる。エンジン1の高負荷高回転域では、触媒装置100に送られる排気ガスの温度が過剰に高くなるという懸念があるが、排気ガスの一部を、タービン51を通過させることにより、触媒装置100に送られる排気ガスの温度を低くして、触媒装置100の劣化を防止することが可能になる。
尚、制限部は、VGTのベーン54によって構成することに限らない。例えばターボ過給機がVGTでない場合には、タービン51への排気ガスの流入を制限可能な調整弁を、別途、設けるようにしてもよい。
前記第1の排気通路131において、前記タービン51よりも下流でかつ、前記第2の排気通路132と集合する箇所の上流には、気筒識別用のO2センサ135が配設されている。
多気筒のロータリーピストンエンジン1は、レシプロエンジンにおいて採用されている一つのO2センサを利用して気筒識別を行う手法では、正確な気筒識別が困難であるが、第1の排気通路131におけるタービン51の下流と、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流と、のそれぞれにO2センサ134、135を配設することによって、前述したように、ロータリーピストンエンジン1においても気筒識別が可能になる。
尚、ここに開示する技術は、2気筒のロータリーピストンエンジン1に適用することに限定されない。図示は省略するが、例えば3気筒のロータリーピストンエンジンに、ここに開示する技術を適用することも可能である。この場合は、3つ並んだ気筒の内、中央の1つの気筒を第1種の気筒とし、両端の2つの気筒を第2種の気筒としてもよい。この構成では、2つのインターミディエイトハウジングにはそれぞれ、第1種の気筒の排気ポートが形成され、2つのサイドハウジングにはそれぞれ、第2種の気筒の排気ポートが形成される。尚、第2種の気筒の排気ポートは、一つの気筒に対して一つである。