JP5531596B2 - 過給機付きエンジンの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、過給機付きエンジンの制御装置に関し、特に気体燃料を用いる場合に好適な有効圧縮比の可変制御に係る。
近年、原油価格の上昇傾向や地球環境への関心の高まりとともに、種々の代替燃料を用いたエンジンに注目が集まっており、その中でも排気のクリーンな水素エンジンには多大な期待が寄せられている。水素はエンジンの燃料として見ると、ガソリンに比べて遙かに燃焼速度が高いことから、所謂ノッキングは発生し難い一方で、着火性は高いので過早なタイミングで自己着火し易い。
また、水素は常温では気体であるため、空気と共に気筒へ充填する際の効率が低くなり易く、ガソリンに比べてエネルギ密度が低いこともあって、出力の確保は容易ではない。この点、エンジン出力の向上のために気筒への吸気を過給して充填効率を高めることは従来より広く行われており、例えば特許文献1にはCNG(圧縮天然ガス)等の気体燃料を使用するエンジンにおいて、排気ターボ過給機を利用することが記載されている。
特開2005−140040号公報
ところで一般的に排気ターボ過給機を備えたエンジンでは、ノッキング等の異常燃焼を防止するために気筒の幾何学的な圧縮比を非過給のものに比べて低めに設定することが多く、これによる効率の低下が懸念されるとともに、十分な過給効果が得られない低回転域ではむしろ出力が低くなるという不具合がある。
また、排気ターボ過給機はエンジンの中、高回転域で過給圧が高くなり過ぎないよう、所定の上限値(最高過給圧)になるとウエストゲート弁が開かれて、排気の流れをバイパスさせるようになっており、そうなると排気エネルギの利用効率が低下してしまう。
斯かる諸点に鑑みて本発明の目的は、過給圧の不足しがちな低回転域でエンジン出力を確保するとともに、過給圧の高くなる中、高回転域では異常燃焼を抑制しつつ、過給圧の上限を高めて排気エネルギの利用効率を向上させることにある。
前記の目的を達成するために本発明に係る制御装置では、公知のミラーサイクル化等の手法によって気筒の有効圧縮比を変更するようにしたものであり、具体的に請求項1の発明では、吸気を過給する過給機と、過給された吸気を冷却するインタークーラとを備えたエンジンの制御装置を対象として、前記エンジンは、燃料として水素とガソリンとを切り換えて使用可能なものであり、前記エンジンの水素燃料による運転時に、エンジン回転数が設定回転数以上の中、高回転域では、該設定回転数未満のときよりも気筒の有効圧縮比が低くなるように制御する、有効圧縮比制御手段と、吸気の過給圧が所定の上限値以下になるように前記過給機の作動を制限する過給圧制限手段とを備え、前記設定回転数は、エンジン全負荷で過給圧が前記上限値に達するエンジン回転数であるインターセプト回転数よりも低回転側に設定され、前記設定回転数からインターセプト回転数までの回転域において、気筒の有効圧縮比の低下によるエンジントルクの低下を補うように、トルク増大補正を行うトルク補正手段を更に備え、前記エンジンの空燃比は、少なくとも前記インターセプト回転数未満のときに理論空燃比よりも大きくなるように制御され、前記トルク補正手段は、前記設定回転数から前記インターセプト回転数までの回転域において前記空燃比を燃料リッチ側に補正するものであって、前記設定回転数での空燃比のリッチ化補正量を最大とし、そこからインターセプト回転数まで徐々に補正量を減少させるものであり、前記有効圧縮比制御手段は、前記設定回転数から前記インターセプト回転数までの回転域において前記気筒の有効圧縮比を前記インターセプト回転数以上のときの値にするものである
尚、気筒の有効圧縮比を変更するための手法は種々、知られているが、慣用されているのは吸気ポートの閉じ時期を変更することである。この明細書ではそれ以外にも、気筒の圧縮行程で一旦、閉じた吸気ポートを再び開いたり、或いは排気ポートを開いたり、さらには別途、設けた専用のポートを開いて、これらのポートが開かれている期間の圧縮ストロークをデッドストロークとするような手法を便宜上、ミラーサイクル化と呼ぶ。
前記の構成により、エンジン回転数が設定回転数以上で、所期の過給効果が期待できる中、高回転域においては、過給機により圧縮された吸気がインタークーラで冷却された後に気筒へ充填されることで、吸気温度の上昇を抑制しつつ充填効率を十分に高くすることができる。その上で前記のミラーサイクル化の手法により気筒の有効圧縮比を低下させれば、圧縮上死点近傍における気筒内温度の上昇を抑えて、異常燃焼を抑制することができる。
そうして吸気の充填効率を高めつつ異常燃焼を抑制できることから、その分、過給圧の上限は高めに設定することが可能になって、効率良く排気エネルギを回収できるとともに、過給とミラーサイクルとの相乗効果で吸気損失が非常に少なくなり、燃費の低減が図られる
また、そうして有効圧縮比の低下によって異常燃焼を抑制できることから、過給エンジンであっても従来までのように気筒の幾何学的な圧縮比を低めに設定する必要がなくなり、十分な過給効果が得られない低回転域においてもエンジン出力を確保し易い。
上述のような作用効果は一般的なガソリンエンジンにおいても得られるが、燃料としてガソリンよりも燃焼速度の高い水素を用いれば、所謂ノッキングの起きる心配がなくな。一方で水素は着火性が高く、点火前の過早着火はむしろ起こり易いから、気筒壁面からの熱の授受が大きくなる比較的低回転の状態で過給圧があまり高くなるのは好ましくない。
そこで、エンジン全負荷で過給圧が高くなり、所定の上限値に達してウエストゲート弁(過給圧制限手段)が開くようなエンジン回転数(所謂インターセプト回転数)に対して、前記設定回転数は低回転側に設定するこうすれば、過給圧が上限に達する前に上述の如く有効圧縮比を低下させることができる。
但し、そうすると設定回転数からインターセプト回転数までの回転域においてエンジンの最大トルクが落ち込み、不自然なトルク特性になる虞れがある。これは、過給圧がエンジン回転数の上昇に連れて徐々に高くなるのに対して、気筒の有効圧縮比が設定回転数を境に急に低下すると、過給圧の高いインターセプト回転数までの範囲で充填効率が低下してしまうからである。
そこで、前記設定回転数からインターセプト回転数までの回転域において、前記のように気筒の有効圧縮比が低下することによるエンジントルクの低下を補うように、トルクの増大補正を行う。
具体的には、空燃比を少なくとも前記インターセプト回転数未満のときに理論空燃比よりも大きくなるように制御、前記設定回転数からインターセプト回転数までの回転域において前記空燃比を燃料リッチ側に補正することによって、トルクを増大補正する。
そして、前記設定回転数での空燃比のリッチ化補正量を最大とし、そこからインターセプト回転数まで徐々に補正量を減少させるこうすれば自然なトルク特性が得られる
吸気損失の低減という観点から特に好ましいのは、エンジンが複数の気筒を有するものである場合に前記有効圧縮比制御手段として、圧縮行程にあるいずれかの気筒を吸気行程にある他の気筒に連通する構成とすることである(請求項2)。
以上、説明したように本発明に係る過給機付きエンジンの制御装置によると、所期の過給効果が期待できる中、高回転域では過給により吸気の充填効率を高めつつ、インタークーラにより冷却して吸気温度の上昇を抑え、さらに気筒の有効圧縮比を低下させることにより、異常燃焼を抑制しながら十分な高出力を得ることができる。
そうして異常燃焼を抑制できることから、過給エンジンであっても従来までのように気筒の幾何学的な圧縮比を低めに設定する必要がなくなり、過給効果の期待できない低回転域においてもエンジン出力を確保することができる。
また、所謂インターセプト回転数よりも低回転側の設定回転数において有効圧縮比を低下させることで、水素燃料を用いた場合でも過早着火を抑制できるし、その場合に設定回転数からインターセプト回転数までの回転域においてトルクの増大補正を行うことで、エンジントルクの落ち込みも解消できる。
本発明の実施形態に係るエンジン制御装置を模式的に示す説明図である。 連通ポートによるミラーサイクル化についての説明図である。 水素運転時における連通制御弁の制御と、これによる過給圧及びエンジントルクの変化とを示すイメージ図である。 過給及びミラーサイクル化による吸気温度、圧縮端温度の変化を示すグラフ図である。 連通制御弁の制御手順の参考例1を示すフローチャート図であり、同図(b)には開度目標値のテーブルの一例を示す。 最高過給圧を調整するようにした参考に係る図5相当図である。 空燃比のリッチ化によりトルク補正を行う実施例に係る図5相当図である。 エンジン制御装置をハイブリッド自動車に搭載した参考態に係る駆動系の概略構成明図である。 参考形態における電動機によりトルクアシストを行う制御フローを示した図5相当図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない
図1は、本発明の実施形態に係るエンジン制御装置の概略構成を示し、図の例ではエンジン1は自動車等の車両に搭載され、燃料としての性状が互いに異なる水素燃料(気体燃料)及びガソリンを切換えて使用可能なものである。
また、この実施形態ではエンジン1は所謂ヴァンケル・ロータリエンジンであり、図1に模式的に示すように、トロコイド内周面を有する繭状のロータハウジング2とサイドハウジング3とに囲まれたロータ収容室Rには概略三角形状のロータ4が収容されていて、その外周側に3つの作動室(気筒)が形成されている。尚、図の例ではエンジン1は、2つのロータハウジング2を3つのサイドハウジング3の間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つのロータ収容室Rにそれぞれロータ4を収容した2ロータタイプのものであり、図には2つのロータ収容室Rを展開した状態で示している。
図示のようにそれぞれのロータ収容室Rにおいてロータ4は、サイドハウジング3を貫通するエキセントリックシャフト5に対し遊星回転運動をするように支持されている。すなわち、ロータ4は、その外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジング2のトロコイド内周面に摺接しつつ、エキセントリックシャフト5の偏心輪の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト5の軸心の周りを図の時計回りに公転する。
そうしてロータ4が1回転(公転)する間に、ロータ4の各頂部間にそれぞれ形成された3つの作動室は各々周方向に、即ち該ロータ4の周りに図の時計回りに移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の4つの行程からなる燃焼サイクルを行い、これにより発生する回転力がロータ4を介してエキセントリックシャフト5から出力される。
詳しくは、図の左側に示すフロント側のロータ4の周りでは、図2の上段に示すようにエキセントリックシャフト5の回転角(以下、エキセン角と略称する)で1080°、即ち3回転の間にロータ4が1回転(公転)し、3回の燃焼サイクルが行われる。また、同図の下段に示すようにリヤ側のロータ4の周りでも、エキセントリックシャフト5が3回転する間(図ではエキセン角で180〜1260°)にロータ4が1回転し、3回の燃焼サイクルが行われる。
すなわち、フロント側、リヤ側の2つのロータ4,4の位相が相互に180度ずれているため、この実施形態のような2ロータタイプのロータリエンジンでは、エキセントリックシャフト5の1回転につき2回の爆発が等間隔(エキセン角で180°間隔)で行われることになる。図1に戻って左側のフロント側ロータ4の周りでは、右上側の作動室が圧縮行程に、また、右下側の作動室が膨張行程にあり、左側の狭い作動室は、圧縮行程から吸気行程に移行する途中、即ち吸気上死点(吸TDC)の直前にある。
同様に、図の右側に位置するリヤ側ロータ4の周りでは、左上側の作動室が吸気行程にあり、左下側の作動室が排気行程にあり、右端の狭い作動室は圧縮上死点(圧TDC)の直前にある。そして、その圧縮上死点近傍の作動室において混合気に点火するように、各ロータ収容室Rにはロータハウジング2の短軸近傍に2つの点火プラグ6,6が並んで設けられている。
一方でロータハウジング2の長軸近傍には、図外の水素燃料タンクから供給される水素燃料を吸気から圧縮行程にかけて作動室に噴射するように水素燃料用の噴射弁7(以下、水素噴射弁)が設けられている。また、各ロータ収容室Rには、吸気行程にある作動室に臨んで開口するように吸気ポート8が、また、排気行程にある作動室に臨んで開口するように排気ポート9が、それぞれサイドハウジング3に形成されている。
そうしてサイドハウジング3に形成された吸気ポート8の上流端は、吸気通路10に連通している。図の例では吸気通路10の下流側が2つに分岐して、それぞれ吸気ポート8に連通する一方、上流側では一つに合流しており、そこには後述のタービン17により駆動されるコンプレッサ11と、このコンプレッサ11により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ12とが、上流側から順に配設されている。尚、コンプレッサ11の上流側にはエアクリーナやエアフローセンサも配設されている。
また、前記のように吸気通路10が分岐する直前には、ステッピングモータ等のアクチュエータにより駆動されるスロットル弁13が配設されており、これにより吸気の流れを絞ってその流量を調節することができる。さらに、分岐した後の吸気通路10の下流端から吸気ポート8にかけて各ロータ収容室R毎に、図外のガソリン燃料タンクから供給されるガソリンを噴射するためのガソリン噴射弁14が配設されている。
一方、吸気ポート8と同じくサイドハウジング3に形成された排気ポート9の下流端は、排気通路15に連通している。この排気通路15のうち、各ロータ収容室R毎の分岐通路は排気マニホルドとして構成され、その集合部の下流側には、排気流を受けて回転されるタービン17と、このタービン17をバイパスする通路18と、ウエストゲート弁19とを備えた排気ターボ過給機20が配設されている。
前記ウエストゲート弁19としては、周知の如くばね力と過給圧とのバランスで開閉され、過給圧が予め設定した上限値(所謂最高過給圧)になるとバイパス通路18を開放して、排気の流れをバイパスさせるようにしたものを用いればよい。このウエストゲート弁19が、過給圧が所定の上限値以下になるように排気ターボ過給機20の作動を制限する過給圧制限手段である。
さらに、この実施形態のエンジン1では固有の構造として、2つのロータ収容室Rの中間のサイドハウジング3(インターミディエイトハウジングともいう)に、両者を連通するように連通ポート21が形成されている。図1に示すように連通ポート21は、吸気ポート8よりもロータ4の回転方向前側(リーディング側)寄りに開口しており、そのロータ4の回転に伴い吸気行程においては吸気ポート8よりも遅角側で開かれ且つ圧縮行程において、より遅角側で閉じられる。
また、連通ポート21にはこれを開閉可能な蝶弁からなる連通制御弁22が設けられており、この連通制御弁22が開くと、フロント側、リヤ側のいずれか一方のロータ収容室Rにおいて圧縮行程にある作動室が、他方のロータ収容室Rにおいて吸気行程にある作動室に連通され、図では左側の圧縮行程の作動室から吸気の一部が押し出されて、図では右側の吸気行程の作動室へと送られるようになっている。
すなわち、図2を参照して上述したように2つのロータ4,4の位相は相互に180度ずれているから、フロント側(若しくはリヤ側)の3つの作動室のいずれかが圧縮行程の後半にあるときには、これに対応してリヤ側(若しくはフロント側)のいずれかの作動室が吸気行程の前半にあって、同図に矢印で示すように、その吸気行程の作動室に圧縮行程の作動室から吸気が送り込まれるのである。
このことは、連通制御弁22が閉じるまでの圧縮ストロークが、デッドストロークになって有効圧縮比が低下するということであり、レシプロエンジンにおいて慣用されているように、吸気弁の閉じる時期を遅角させるのと同様に所謂ミラーサイクル化がなされ、これに併せてスロットル弁13の開度を大きめにすれば、吸気損失を軽減することができる。しかも、前記のように圧縮行程の作動室から吸気行程の作動室に吸気が供給されることによっても、吸気損失が低減される。
−エンジン制御の概要−
以上の如き構成のエンジン1において点火プラグ6、水素及びガソリンの各噴射弁7,14、スロットル弁13、連通制御弁22等は、パワートレインコントロールモジュール25(以下、PCM25と呼ぶ)によって制御される。すなわち、図1の(b)に模式的に示すように、PCM25には少なくとも、吸気通路10のエアフローセンサ26や吸気圧センサ27からの信号と、エキセン角を検出する回転センサ28からの信号とが入力される他、車両の乗員によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ29からの信号と、乗員によって操作される燃料選択スイッチ(燃料選択SW)30からの信号とが入力される。
そして、それらの信号に基づいてPCM25は、エンジン1に要求されるトルクを演算し、この要求トルクが得られるようにスロットル弁13の開度を制御して、各作動室への吸気充填量を調整するとともに、これに対して適切な空燃比となるようにいずれかの噴射弁7,14による燃料の噴射量を制御し、さらに各作動室毎に適切な時期(点火時期)に点火プラグ6へ通電する。
加えて、この実施形態でPCM25は、前記要求トルクとエンジン回転数とに基づいて連通制御弁22を開いたり、閉じたりすることによって、前記のように作動室の有効圧縮比を変化させる(ミラーサイクル化)とともに、これによるエンジントルクの変化を相殺するようにスロットル開度を補正するようにしている。
例えば水素燃料による運転時には、図3に示すように設定回転数Ne1以上で所期の過給効果を期待できる運転域(I)において連通制御弁22を開き、ミラーサイクル化するとともに、スロットル弁13の開度は相対的に大きめにする。このような中、高回転域では、排気ターボ過給機20のタービン17の回転数が高くなり、過給圧が所定以上に高くなるので、ミラーサイクル化しても吸気の充填効率は十分に高くなる。
しかも、そうして排気ターボ過給機20のタービン17により圧縮された吸気が、インタークーラ21で冷却された後に作動室に充填されるようになるので、その温度の上昇幅が小さくなり、さらにミラーサイクル化によって有効圧縮比を低下させれば、異常燃焼を効果的に抑制しながら十分な高出力を得ることができる。特に水素燃料の場合はガソリンに比べて燃焼速度が高く、ノッキングの起きる心配もない。
図4には、前記のように吸気を過給(外部圧縮)し且つ冷却するとともに、ミラーサイクル化したときの吸気温度上昇のシミュレーション結果を示す。ミラーサイクル化に伴う充填効率の低下を相殺すべく同図(a)に示すように過給圧を高めると、インタークーラで冷却していても吸気温度はやや高くなるものの(図(b))有効圧縮比が低下しているため、圧縮上死点近傍での作動室の温度(圧縮端温度)は図(c)のように大幅に低下し(図例では約15℃低下)、異常燃焼は効果的に抑制される。
一方で、前記設定回転数Ne1未満の低回転域(II)においては、連通制御弁22を閉じて本来の圧縮比、即ち中、高回転域(I)に比べて高い有効圧縮比となるようにする。上述したように中、高回転域(I)では過給、吸気冷却及びミラーサイクルの組合せによって異常燃焼を抑制できることから、この実施形態のエンジン1では、従来一般的な過給エンジンのように幾何学的な圧縮比を低めに設定する必要がなく、あまり過給効果の得られない状態であってもエンジントルクを確保し易い。
ところで前記の設定回転数Ne1は、図3に示すように所謂インターセプト回転数Ne2、即ちエンジン全負荷で過給圧が最高過給圧に達してウエストゲート弁19が開く回転数に比べて、低回転側に設定している。これは、過給圧があまり高くなる前に前記のようにミラーサイクル化して、圧縮端温度を低下させるためであり、こうすることで、着火性の高い水素燃料であっても過早着火を防止することができる。
しかしながら、そうして設定した回転数Ne1を境に連通制御弁22を開いたり閉じたりすると、ここからインターセプト回転数Ne2までの回転域において、図3に破線で示すようにエンジントルクが落ち込み、不自然なトルク特性になる虞れがある。すなわち、まず、上述の如くミラーサイクル化によって有効圧縮比を低下させるようにした場合、これに伴い吸気の充填効率も低下することから排気エネルギが減少し、同じエンジン回転数Neであれば過給圧は低くなってしまう(図3の破線を参照)。
そのため、前記のように設定回転数Ne1を境に有効圧縮比を切り替えるようにすると、この設定回転数Ne1未満では相対的に高い過給圧(図3の実線)が、当該設定回転数Ne1を境に破線のように大きく落ち込んでしまい、そこからインターセプト回転数Ne2までの間に大きな落差が生じることになる。つまり、過給圧がエンジン回転数Neの上昇に連れて徐々に高くなるのに対して、有効圧縮比が設定回転数Ne1を境に急に低下することが、前記トルクの落ち込みを生じる原因である。
そこで、この実施形態では、前記設定回転数Ne1を境に一気に連通制御弁22を開閉するのではなく、設定回転数Ne1を越えた辺りでは極く僅かに連通制御弁22を開き、そこからインターセプト回転数Ne2までのエンジン回転数Neの上昇に連れて徐々に過給圧が高くなるのに対応するよう、漸進的に連通制御弁22を開くようにしたものである。こうすれば、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2まで徐々に有効圧縮比が低下するようになって、不自然なトルクの落ち込みが解消される(図3の実線)。
−水素燃焼時の有効圧縮比の制御−
以下に、PCM25による連通制御弁22の制御の具体的な手順を説明する。最初に参考例1,2を説明した後、本発明の実施例を説明する。
−参考例1−
図5のフローチャートは、参考例1に係る連通制御弁22の制御手順を示す。まず、スタート後のステップSA1では、エアフローセンサ26、吸気圧センサ27、回転センサ28、アクセル開度センサ29、及び燃料切換えスイッチ30等からの信号を入力して、吸気量、過給圧、エンジン回転数Ne、アクセル開度、現在、選択されている燃料等の情報を読み込む。
続いてステップSA2において水素燃料が選択されているかどうか判定し、NOでガソリンが選択されているのであれば、詳細は省略するガソリン使用時の制御ルーチンへ進む。一方、水素燃料が選択されているYESであれば、ステップSA3に進んで今度は全負荷域にあるかどうか判定する。全負荷域ではスロットル弁13が概ね全開になっていて、さらに開いてもエンジントルクは殆ど変化しない。
そして全負荷域であれば(YES)ステップSA4に進み、エンジン回転数Neが設定回転数Ne1以上かどうか判定する。この判定がNOで設定回転数Ne1未満の低回転域にあれば、ステップSA5に進んで連通制御弁22が全閉かどうか確認し、全閉でなければ(NO)ステップSA6で全閉にした後に、リターンする。つまり、過給効果を期待できない設定回転数Ne1未満の低回転域ではミラーサイクル化は行わず、作動室を本来の幾何学的な圧縮比で作動させることで、エンジントルクを確保する。
一方、設定回転数Ne1以上の中、高回転域にあれば(YES)ステップSA7に進み、今度はインターセプト回転数Ne2以上かどうか判定する。この判定がYESであればステップSA8にて連通制御弁22を全開にして、リターンする。インターセプト回転数Ne2以上では過給圧が最高過給圧に維持され、過給効果が高くなるので、ミラーサイクル化しても十分に高い出力が得られ、しかも、有効圧縮比の低下によって異常燃焼が効果的に抑制される。
これに対し、前記設定回転数Ne1以上で且つインターセプト回転数Ne2未満の回転域にあれば、前記ステップSA7にてNOと判定してステップSA9に進み、連通制御弁22の開度をエンジン回転数Neに応じて制御して、しかる後にリターンする。この際、連通制御弁22の目標開度は予め設定してあるテーブルから読み込む。図(b)に一例を示すように、前記のテーブルには、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までのエンジン回転数Neの上昇に連れて、連通制御弁22の開度が漸進的に増大するように設定されている。
つまり、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域においては、エンジン回転数Neの上昇に対応するよう徐々に連通制御弁22を開くようにしており、これにより有効圧縮比が徐々に低下するようになって、前記の図3に実線で示すようにエンジントルクを維持することができる。
尚、前記のテーブルに設定する連通制御弁22の目標開度を、エンジン回転数Neの上昇に対してより緩やかに、より漸進的に増大するように設定し、有効圧縮比がより緩やかに低下するようにすれば、図3に仮想線で示すように設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2まで、よりスムーズに過給圧を変化させることができ、より自然なトルク特性が得られる。
前記フローのステップSA7〜SA9により、エンジン回転数Neが設定回転数Ne1以上の中、高回転域(I)において、該設定回転数Ne1未満のときよりも有効圧縮比が低くなるよう、連通制御弁22を開いてミラーサイクル化する有効圧縮比制御手段25aが構成されている。
特に同ステップSA9の手順は、連通制御弁22の開度をエンジン回転数Neに応じて設定することにより、前記設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域において、有効圧縮比の低下によるエンジントルクの低下を補うように補正を行うトルク補正手段25bに対応している。
それら有効圧縮比制御手段25a及びトルク補正手段25bは、前記図5の制御プログラムをPCM25のCPUが実行することによって実現されるものであり、この意味で、PCM25がソフトウエアプログラムの形態で各手段を備えていると言える。
したがって、この実施形態に係る過給機付きエンジンの制御装置によると、水素燃料による運転時にエンジン回転数Neが設定回転数Ne1以上になって、所期の過給効果が期待できる運転域(I)において、過給された吸気をインタークーラ12により冷却して作動室に充填することにより、吸気温度の上昇を抑制しつつ充填効率を十分に高くすることができ、さらにミラーサイクル化によって有効圧縮比を低下させることで異常燃焼を抑制しながら、十分な高出力を得ることができる。
そうして吸気の充填効率を高めつつ異常燃焼を抑制できることから、その分、高めに最高過給圧を設定でき、排気エネルギの利用効率が高くなるとともに、過給とミラーサイクルとの相乗効果で吸気損失が非常に少なくなり、燃費の低減が図られる。特にこの実施形態では、フロント側及びリヤ側のロータ収容室R同士を連通するポート21を設けて、これにより圧縮行程にある作動室から吸気の一部を吸気行程にある作動室へ送り込むようにしており、このことによっても吸気損失の低減が図られる。
また、そうして有効圧縮比を低下させて異常燃焼を抑制できることから、過給エンジンであっても従来までのように幾何学的な圧縮比を低めに設定する必要がなく、十分な過給効果が得られない低回転域(II)においてもエンジン出力を確保することができる。
さらに、この実施形態では前記のように連通ポート21を開閉する設定回転数Ne1をインターセプト回転数Ne2よりも低回転側に設定しており、これにより、最高過給圧に達する前に有効圧縮比を低下させて(ミラーサイクル化)、水素燃料の使用時に懸念される過早着火を防止することができる。
その上さらに前記の設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域においてはエンジン回転数Neの上昇に連れて、連通制御弁22の開度を漸進的に増大させるようにしており、このことで落ち込みのない自然なトルク特性が得られる。
参考
図6は、参考に係る連通制御弁22の制御手順を示し、この参考では、ウエストゲート弁19が最高過給圧を変更調整可能なものである場合に、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域において、エンジン回転数Neの上昇に応じて最高過給圧が徐々に高くなるように調整するようにしている。
すなわち、同図に示すフローのステップSB1〜SB6は各々SA1〜SA6と同じであり、ステップSB7では設定回転数Ne1未満のときの最高過給圧を該設定回転数Ne1以上のときの最高過給圧(P2)よりも低い値(P1)に設定する。また、ステップSB8,SB9は各々SA7,SA8と同じであり、ステップSB10では最高過給圧を、前記の最高過給圧(P1)よりも高い値(P2)に設定する。
さらに、ステップSB11はSA9と同じであり、これに続くステップSB12では、エンジン回転数Neの上昇に応じて徐々に最高過給圧を高くしてゆく(P1→P2)。こうして最高過給圧を変更することで、この参考によれば、吸気の充填効率が過大になることがなく、異常燃焼の起きることをより確実に阻止できる。
尚、前記のステップSB8,SB9,SB11が有効圧縮比制御手段25aに対応し、特にステップSB11が、トルク補正手段に対応している。また、ステップSB7,SB10,SB12によって、設定回転数Ne1未満のときの最高過給圧が該設定回転数Ne1以上のときよりも低くなるとともに、該設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までのエンジン回転数Neの上昇に応じて徐々に高くなるようにウエストゲート弁19を制御する、過給圧制御手段25cが構成されている。
−実施例−
次に図7は、本発明の実施例に係る有効圧縮比の制御手順を示し、この実施例では、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域において、空燃比を燃料リッチ化させることにより、エンジントルクの落ち込みを防止するようにしている。すなわち、水素燃料での運転時は通常、空燃比を理論空燃比よりも大きくなるように、即ちリーン空燃比に制御しているので、これを燃料リッチ側に補正することによってトルクを増大させることができるのである。
具体的に、図示のフローのステップSC1〜SC7は各々SA1〜SA7と同じであり、そのステップSC7でNOと判定されたとき、即ち設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域において空燃比をリッチ化補正(SC8)した後に、ステップSC9に進んで連通制御弁22を全開にする。
前記ステップSC8における空燃比のリッチ化補正量は、一例を同図(b)に示すようなテーブルに設定されていて、この例では設定回転数Ne1でのリッチ化補正量が最大で、そこからインターセプト回転数Ne1まで徐々に減少するようになっている。このため、エンジントルクの増大補正量も設定回転数Ne1付近で最大になり、そこからインターセプト回転数Ne1まで徐々に減少するようになる。
尚、図7のフローにおいてはステップSC9が有効圧縮比制御手段25aに対応する。また、ステップSC8によって、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域において空燃比を燃料リッチ側に補正することにより、エンジントルクを増大補正するトルク補正手段25bが構成されている。
参考態)
図8、9には、本発明に係るエンジン制御装置をハイブリッド自動車に搭載した参考態を示す。尚、エンジン1等の構成は前記実施形態と同じであり、同一部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
まず、図8にはハイブリッド自動車Vの駆動系の構成を模式的に示す。この自動車Vは、エンジン1及びモータM(電動機)の双方で駆動輪Wを駆動可能な所謂シリーズ・パラレル・ハイブリッド自動車であり、その駆動輪Wは動力分配機構Pを介してエンジン1に連結されるとともに、電動モータMからも駆動力を伝達されるようになっている。つまり、図示の駆動系においてモータMは、エンジン1からの出力経路に動力を付加するように設けられている。
また、前記動力分配機構Pを介してエンジン1にはジェネレータG(発電機)が連結されており、少なくとも該ジェネレータGからの発電電力を供給されて充電されるバッテリBと、このバッテリBの充放電電力の変換制御を行うインバータ・コンバータIとが設けられている。モータMは、前記ジェネレータG及びバッテリBの少なくとも一方から電力の供給を受ける。インバータ・コンバータIは、バッテリB、ジェネレータG及びモータMの相互間で電力変換を行う。
前記の動力分配機構Pやインバータ・コンバータIは、同図には示さないが、PCM25により制御される。PCM25は、駆動輪Wの駆動に必要な要求トルクがエンジントルクを上回っているときに、両者の差分の動力をモータMの動力で賄えるように、インバータ・コンバータIを制御してモータMに電力を供給する一方、車両要求トルクがエンジントルクを下回っているときには、両者の差分の動力でもってジェネレータGを駆動して、発電電力をバッテリBに供給する。
そして、この参考態のエンジン制御装置は、上述した実施形態と同じく水素燃料による運転時に中、高回転域(I)において連通制御弁22を開き、ミラーサイクル化するとともに、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域においてモータMの作動によりトルクの増大補正(トルクアシスト)を行うようにしている。
PCM25による具体的な制御の手順は図9のフローチャートに示されている。このフローのステップSD1〜SD7は、図5に示す実施形態のフローのステップSA1〜SA7と同じであり、ステップSD7でNOと判定されたとき、即ち設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域においては、エンジン回転数に応じてモータMの駆動出力を増大させる、所謂トルクアシストを行ってから(SD8)、ステップSD9に進んで連通制御弁22を全開にする。
前記ステップSD8におけるトルクアシスト量は、一例を同図(b)に示すようなテーブルに設定されている。この例では設定回転数Ne1でのトルクアシスト量が最大になり、そこからインターセプト回転数Ne1まで徐々に減少するようになっており、これにより前記図3に実線で示したような自然なトルク特性が得られる。
前記図9のフローにおいてもステップSD9が有効圧縮比制御手段25aに対応する。また、モータMの作動によってトルクアシストを行うステップSD8が、トルク補正手段25bに対応する。
(他の実施形態)
本発明の構成は前記の実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。すなわち、前記実施形態では、エンジン1の使用燃料としてガソリンと水素燃料とを切換え可能になっているが、これに限ったものではなく、ガソリンの代わりに軽油を採用してもよい
また、エンジン1はロータリエンジンに限らず、レシプロエンジンであってもよい。この場合、ミラーサイクル化は周知の如く可変動弁機構によって行うことができる。
以上、説明したように本発明は、過給圧の高くなる中、高回転域で異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン出力が得られるとともに、過給圧の不足しがちな低回転域でもエンジン出力を確保し易いもので、特に自動車用エンジンとして好適である。
1 ロータリエンジン(エンジン)
11 コンプレッサ(過給機)
12 インタークーラ
19 ウエストゲート弁(過給圧制限手段)
20 排気ターボ過給機(過給機)
21 連通ポート(有効圧縮比制御手段)
22 連通制御弁(有効圧縮比制御手段)
25 PCM:パワートレインコントロールモジュール
25a 有効圧縮比制御手段
25b トルク補正手段
25c 過給圧制御手段
M モータ(電動機)
R ロータ収容室

Claims (2)

  1. 吸気を過給する過給機と、過給された吸気を冷却するインタークーラとを備えたエンジンの制御装置であって、
    前記エンジンは、燃料として水素とガソリンとを切り換えて使用可能なものであり、
    前記エンジンの水素燃料による運転時に、気筒の有効圧縮比を、エンジン回転数が設定回転数以上の中、高回転域において該設定回転数未満のときよりも低くなるように制御する、有効圧縮比制御手段と、
    吸気の過給圧が所定の上限値以下になるように前記過給機の作動を制限する過給圧制限手段とを備え
    前記設定回転数は、エンジン全負荷で過給圧が前記上限値に達するエンジン回転数であるインターセプト回転数よりも低回転側に設定され、
    前記設定回転数からインターセプト回転数までの回転域において、気筒の有効圧縮比の低下によるエンジントルクの低下を補うように、トルク増大補正を行うトルク補正手段を更に備え、
    前記エンジンの空燃比は、少なくとも前記インターセプト回転数未満のときに理論空燃比よりも大きくなるように制御され、
    前記トルク補正手段は、前記設定回転数から前記インターセプト回転数までの回転域において前記空燃比を燃料リッチ側に補正するものであって、前記設定回転数での空燃比のリッチ化補正量を最大とし、そこからインターセプト回転数まで徐々に補正量を減少させるものであり、
    前記有効圧縮比制御手段は、前記設定回転数から前記インターセプト回転数までの回転域において前記気筒の有効圧縮比を前記インターセプト回転数以上のときの値にするものである、ことを特徴とする過給機付きエンジンの制御装置。
  2. エンジンは複数の気筒を有するものであり、
    前記有効圧縮比制御手段は、前記複数の気筒のうち、圧縮行程にあるいずれかの気筒を吸気行程にある他の気筒に連通させるものである、請求項1記載の過給機付きエンジンの制御装置。
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