JP2011122529A - デュアルフューエルエンジンの制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】吸気を過給する過給機20を備え、ガソリンと水素燃料とを選択的に使用可能なデュアルフューエルエンジン1において、あまり過給効果を期待できない低回転域(a2)でガソリン使用時のノッキングを抑制する一方、水素燃料を使用するときのエンジン出力を確保する。
【解決手段】エンジン1の低回転域においてガソリンを使用するとき高負荷側(b1)では、ミラーサイクル化等により作動室の有効圧縮比を低下させ、ノッキングを抑制する。一方、低負荷側(b2)では相対的に有効圧縮比を高くして、混合気の着火性、燃焼安定性を確保する。また、水素燃料を使用するときには、過給効果の期待できない低回転域(a2)の全域で相対的に高い有効圧縮比とすることによって、エンジン出力の確保を図る。
【選択図】 図3

Description

本発明は、例えば水素のような気体燃料と、ガソリンのような液体燃料とを切り替えて運転することのできるエンジン(バイフューエル、デュアルフューエルエンジンという)の制御装置に関し、特に、燃料性状の違いに着目した有効圧縮比の可変制御に係る。
近年、原油価格の上昇傾向や地球環境への関心の高まりとともに、種々の代替燃料を使用するエンジンに注目が集まっており、その中でも排気のクリーンな水素エンジンには多大な期待が寄せられている。しかし、水素のような気体燃料を空気と共に気筒へ充填しようとすると、その充填効率が低くなってしまい、ガソリンに比べて出力が不足し易い。
この点につき、エンジン出力の向上のために気筒への吸気を過給して充填効率を高めることは従来より広く行われており、例えば特許文献1には、CNG(気体燃料)とガソリン(液体燃料)とを切替えて使用するバイフューエルエンジンにおいて、排気ターボ過給機を利用することが記載されている。
同文献に記載の排気ターボ過給機は、エンジンの中、高回転域においてウエストゲート弁の作動する最大限界過給圧、即ち過給圧の上限値を変更可能なものであり、この最大限界過給圧をガソリンの使用時にはCNGの使用時に比べて低くするようにしている。こうすれば、ガソリンの使用時とCNGの使用時とでエンジンの最大出力の差が小さくなり、また、ガソリン使用時の出力過多によるエンジンの耐久性低下を防ぐことができる。
特開2006−329165号公報
ところで一般にエンジンは、低回転でありながら高負荷の運転状態では、高負荷に対応して燃料噴射量が多くなり、気筒内の温度が高くなるとともに、低回転であるが故に点火から圧縮上死点までの時間が長くなるため、ノッキングが発生し易い。
この点、気体燃料として水素のように燃焼速度の高いものを用いればノッキングは抑制できるが、一方で水素燃料は、ガソリンのような化石燃料に比べてエネルギ密度が低いことから、特に出力不足が生じ易く、たとえ排気ターボ過給機を設けていても、過給効果の低い低回転域では出力の確保が難しい。
このような燃料性状の違いに着目して本発明の目的は、エンジンの低回転域においてガソリンのような液体燃料を使用するときのノッキングを抑制する一方、水素のような気体燃料を使用するときのエンジン出力を確保することにある。
前記の目的を達成するために本発明に係る制御装置では、公知のミラーサイクル化等の手法を用い、エンジンの低回転域において使用する燃料の性状に応じて、気筒の有効圧縮比を適宜、変更するようにしたものである。
すなわち、請求項1の発明は、吸気を過給する過給機を備えるとともに、液体燃料と、これに比べて燃焼速度の高い気体燃料とを選択的に使用可能なデュアルフューエルエンジンの制御装置を対象として、エンジン回転数が設定回転数未満の相対的に低回転側の運転域において少なくとも高負荷側では、前記液体燃料を使用するときの気筒の有効圧縮比を、前記気体燃料を使用するときよりも低くなるように制御する有効圧縮比制御手段を備えている。
前記の構成により、エンジン回転数が設定回転数未満の相対的に低回転側の運転域で液体燃料を使用する場合には、少なくとも、ノッキングの心配がある高負荷側において気筒の有効圧縮比を低下させることにより、圧縮上死点近傍における気筒内温度の上昇を抑えて、ノッキングを抑制することができる。
一方で、出力の確保が難しい気体燃料の使用時には、相対的に高い有効圧縮比とすることによって出力の確保を図る。例えば水素のように燃焼速度の高い燃料を使用する場合、有効圧縮比が高くてもノッキングの心配はない。また、過給圧の低い低回転域では過早着火も起こり難い。
但し、そうして低回転域にて液体燃料を使用するときでも、例えばアイドルやその近傍のような極低負荷域では、それ以外の負荷域よりも有効圧縮比を高くすることが好ましい(請求項2)。そのような極低負荷域では吸気の充填効率が低くなって、その流動も弱くなるので、混合気の着火性が低下し易いからである。
また、好ましいのは、前記の低回転域において液体燃料を使用しているときに、前記の極低負荷域からそれ以外の負荷域へ移行すれば、反対に該極低負荷域へそれ以外の負荷域から移行したときに比べて、有効圧縮比の変化を遅くすることである(請求項3)。
すなわち、極低負荷域からそれ以外の負荷域、つまり高負荷側への移行時には車両が、発進ないし加速状態にあると考えられるので、このときには過渡的に有効圧縮比が高めの状態とすることで、エンジン出力を高めて発進性、加速応答性の向上を図るものである。尚、高負荷側に移行した直後は気筒内の温度状態があまり高くないので、ノッキングの起きる心配はない。
上述のように気筒の有効圧縮比を変更するための手法は従来より種々、知られているが、慣用されているのは吸気ポートの閉じ時期を変更することである。すなわち、吸気ポートを気筒の吸気下死点以外、即ち吸気行程で早閉じするか、或いは圧縮行程で遅閉じするか、のいずれかによって有効圧縮比を変更することができる。
それ以外にも、気筒の圧縮行程で一旦、閉じた吸気ポートを再び開いたり、或いは排気ポートを開いたり、さらには別途、設けた専用のポートを開いて、これらのポートが開かれている期間の圧縮ストロークをデッドストロークとすることによって、有効圧縮比を変更することができる。これらの手法を纏めて以下では便宜上、ミラーサイクル化と呼ぶことにする。
そうして気筒の有効圧縮比を低下させると通常、これに伴い吸気の充填効率も低下するので、併せて吸気通路のスロットル弁の開度を大きめにすれば、吸気損失が減少して燃費の低減が図られる。この吸気損失の低減という観点から特に好ましいのは、エンジンが複数の気筒を有するものである場合に前記有効圧縮比制御手段として、圧縮行程にあるいずれかの気筒を吸気行程にある他の気筒に連通する構成とすることである(請求項4)。
以上、説明したように本発明に係るデュアルフューエルエンジンの制御装置によると、低回転域において液体燃料を使用するときには、少なくとも高負荷側においてミラーサイクル化等の手法により気筒の有効圧縮比を低下させ、圧縮による気筒内温度の上昇を抑えてノッキングを抑制することができる。一方でアイドル近傍等の極低負荷域では、相対的に有効圧縮比を高くすることで、混合気の着火性、燃焼安定性を確保することができる。
また、過給効果の期待できない低回転域において気体燃料を使用するときには、負荷に依らず低回転域の全域で相対的に高い有効圧縮比とすることによって、出力を確保することができる。
本発明の実施形態に係るエンジン制御装置を模式的に示す説明図である。 連通ポートによるミラーサイクル化についての説明図である。 水素運転時(a)及びガソリン運転時(b)の各々における連通制御弁の制御と、これによる過給圧及びエンジントルクの変化とを示すイメージ図である。 過給及びミラーサイクル化による吸気温度、圧縮端温度の変化を示すグラフ図である。 連通制御弁の制御手順を示すフローチャート図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(エンジン及び制御装置の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るエンジン制御装置の概略構成を示し、図の例ではエンジン1は自動車等の車両に搭載され、燃料としての性状が互いに異なる水素燃料(気体燃料)及びガソリン(液体燃料)を切換えて使用可能なものである。
また、この実施形態ではエンジン1は所謂ヴァンケル・ロータリエンジンであり、図1に模式的に示すように、トロコイド内周面を有する繭状のロータハウジング2とサイドハウジング3とに囲まれたロータ収容室Rには概略三角形状のロータ4が収容されていて、その外周側に3つの作動室(気筒)が形成されている。尚、図の例ではエンジン1は、2つのロータハウジング2を3つのサイドハウジング3の間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つのロータ収容室Rにそれぞれロータ4を収容した2ロータタイプのものであり、図には2つのロータ収容室Rを展開した状態で示している。
図示のようにそれぞれのロータ収容室Rにおいてロータ4は、サイドハウジング3を貫通するエキセントリックシャフト5に対し遊星回転運動をするように支持されている。すなわち、ロータ4は、その外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジング2のトロコイド内周面に摺接しつつ、エキセントリックシャフト5の偏心輪の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト5の軸心の周りを図の時計回りに公転する。
そうしてロータ4が1回転(公転)する間に、ロータ4の各頂部間にそれぞれ形成された3つの作動室は各々周方向に、即ち該ロータ4の周りに図の時計回りに移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の4つの行程からなる燃焼サイクルを行い、これにより発生する回転力がロータ4を介してエキセントリックシャフト5から出力される。
詳しくは、図の左側に示すフロント側のロータ4の周りでは、図2の上段に示すようにエキセントリックシャフト5の回転角(以下、エキセン角と略称する)で1080°、即ち3回転の間にロータ4が1回転(公転)し、3回の燃焼サイクルが行われる。また、同図の下段に示すようにリヤ側のロータ4の周りでも、エキセントリックシャフト5が3回転する間(図ではエキセン角で180〜1260°)にロータ4が1回転し、3回の燃焼サイクルが行われる。
そして、フロント側、リヤ側の2つのロータ4,4の位相が相互に180度ずれているため、この実施形態のような2ロータタイプのロータリエンジンでは、エキセントリックシャフト5の1回転につき2回の爆発が等間隔(エキセン角で180°間隔)で行われることになる。図1に戻って左側のフロント側ロータ4の周りでは、右上側の作動室が圧縮行程に、また、右下側の作動室が膨張行程にあり、左側の狭い作動室は、圧縮行程から吸気行程に移行する途中、即ち吸気上死点(吸TDC)の直前にある。
同様に、図の右側に位置するリヤ側ロータ4の周りでは、左上側の作動室が吸気行程にあり、左下側の作動室が排気行程にあり、右端の狭い作動室は圧縮上死点(圧TDC)の直前にある。そして、その圧縮上死点近傍の作動室において混合気に点火するように、各ロータ収容室Rにはロータハウジング2の短軸近傍に2つの点火プラグ6,6が並んで設けられている。
一方でロータハウジング2の長軸近傍には、図外の水素燃料タンクから供給される水素燃料を吸気から圧縮行程にかけて作動室に噴射するように水素燃料用の噴射弁7(以下、水素噴射弁)が設けられている。また、各ロータ収容室Rには、吸気行程にある作動室に臨んで開口するように吸気ポート8が、また、排気行程にある作動室に臨んで開口するように排気ポート9が、それぞれサイドハウジング3に形成されている。
そうしてサイドハウジング3に形成された吸気ポート8の上流端は、吸気通路10に連通している。図の例では吸気通路10の下流側が2つに分岐して、それぞれ吸気ポート8に連通する一方、上流側では一つに合流しており、そこには後述のタービン17により駆動されるコンプレッサ11と、このコンプレッサ11により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ12とが、上流側から順に配設されている。尚、コンプレッサ11の上流側にはエアクリーナやエアフローセンサも配設されている。
また、前記のように吸気通路10が分岐する直前には、ステッピングモータ等のアクチュエータにより駆動されるスロットル弁13が配設されており、これにより吸気の流れを絞ってその流量を調節することができる。さらに、分岐した後の吸気通路10の下流端から吸気ポート8にかけて各ロータ収容室R毎に、図外のガソリン燃料タンクから供給されるガソリンを噴射するためのガソリン噴射弁14が配設されている。
一方、吸気ポート8と同じくサイドハウジング3に形成された排気ポート9の下流端は、排気通路15に連通している。この排気通路15のうち、各ロータ収容室R毎の分岐通路は排気マニホルドとして構成され、その集合部の下流側には、排気流を受けて回転されるタービン17と、このタービン17をバイパスする通路18と、ウエストゲート弁19とを備えた排気ターボ過給機20が配設されている。
前記ウエストゲート弁19は周知の如くばね力と過給圧とのバランスで開閉され、過給圧が予め設定した上限値(所謂最高過給圧)になるとバイパス通路18を開放して、排気の流れをバイパスさせるようにしたものである。特にこの実施形態では、アクチュエータによりばね力を調整することで、前記過給圧の上限値を変更調整可能な可変式ウエストゲート弁を用いている。このウエストゲート弁19が、過給圧が所定の上限値以下になるように排気ターボ過給機20の作動を制限するとともに、その過給圧の上限値を変更調整可能な過給圧制限手段である。
さらに、この実施形態のエンジン1では固有の構造として、2つのロータ収容室Rの中間のサイドハウジング3(インターミディエイトハウジングともいう)に、両者を連通するように連通ポート21が形成されている。図1に示すように連通ポート21は、吸気ポート8よりもロータ4の回転方向前側(リーディング側)寄りに開口しており、そのロータ4の回転に伴い吸気行程においては吸気ポート8よりも遅角側で開かれ且つ圧縮行程において、より遅角側で閉じられる。
また、連通ポート21にはこれを開閉可能な蝶弁からなる連通制御弁22が設けられており、この連通制御弁22が開くと、フロント側、リヤ側のいずれか一方のロータ収容室Rにおいて圧縮行程にある作動室が、他方のロータ収容室Rにおいて吸気行程にある作動室に連通され、図では左側の圧縮行程の作動室から吸気の一部が押し出されて、図では右側の吸気行程の作動室へと送られるようになっている。
すなわち、図2を参照して上述したように2つのロータ4,4の位相は相互に180度ずれているから、フロント側(若しくはリヤ側)の3つの作動室のいずれかが圧縮行程の後半にあるときには、これに対応してリヤ側(若しくはフロント側)のいずれかの作動室が吸気行程の前半にあって、同図に矢印で示すように、その吸気行程の作動室に圧縮行程の作動室から吸気が送り込まれるのである。
このことは、連通制御弁22が閉じるまでの圧縮ストロークが、デッドストロークになって有効圧縮比が低下するということであり、レシプロエンジンにおいて慣用されているように、吸気弁の閉じる時期を遅角させるのと同様に所謂ミラーサイクル化がなされる。これに併せてスロットル弁13の開度を大きめにすれば吸気損失の低減が図られ、さらに、前記のように圧縮行程の作動室から吸気行程の作動室に吸気が供給されることによっても、吸気損失が低減される。
(エンジンの制御)
以上の如き構成のエンジン1において点火プラグ6、水素及びガソリンの各噴射弁7,14、スロットル弁13、連通制御弁22等は、パワートレインコントロールモジュール25(以下、PCM25と呼ぶ)によって制御される。すなわち、図1の(b)に模式的に示すように、PCM25には少なくとも、吸気通路10のエアフローセンサ26や吸気圧センサ27からの信号と、エキセン角を検出する回転センサ28からの信号とが入力される他、車両の乗員によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ29からの信号と、乗員によって操作される燃料選択スイッチ(燃料選択SW)30からの信号とが入力される。
そして、それらの信号に基づいてPCM25は、エンジン1に要求されるトルクを演算し、この要求トルクが得られるようにスロットル弁13の開度を制御して、各作動室への吸気充填量を調整するとともに、これに対して適切な空燃比となるようにいずれかの噴射弁7,14による燃料の噴射量を制御し、さらに各作動室毎に適切な時期(点火時期)に点火プラグ6へ通電する。
加えて、この実施形態でPCM25は、前記要求トルクとエンジン回転数とに基づいて連通制御弁22を開いたり、閉じたりすることによって、前記のように作動室の有効圧縮比を変化させる(ミラーサイクル化)とともに、これによるエンジントルクの変化を相殺するようにスロットル開度を補正するようにしている。
−水素燃料による運転時−
具体的に、水素燃料による運転時には図3(a)に示すように、設定回転数Ne1以上で所期の過給効果を期待できる運転域(a1)において連通制御弁22を開き、ミラーサイクル化するとともに、スロットル弁13の開度は相対的に大きめにする。このような相対的に高回転側の運転域では、排気ターボ過給機20のタービン17の回転数が高くなり、過給圧が所定以上に高くなるので、ミラーサイクル化しても吸気の充填効率は十分に高くすることができる。
しかも、そうして排気ターボ過給機20のタービン17により圧縮された吸気が、インタークーラ21で冷却された後に作動室に充填されるようになるので、その温度の上昇幅が小さくなり、さらにミラーサイクル化によって有効圧縮比を低下させれば、異常燃焼を効果的に抑制しながら十分な高出力を得ることができる。特に水素燃料の場合はガソリンに比べて燃焼速度が高いことから、ノッキングの起きる心配もない。
図4には、前記のように吸気を過給(外部圧縮)し且つ冷却するとともに、ミラーサイクル化したときの吸気温度上昇のシミュレーション結果を示す。ミラーサイクル化に伴う充填効率の低下を相殺すべく同図(a)に示すように過給圧を高めると、インタークーラで冷却していても吸気温度はやや高くなるものの(図(b))有効圧縮比が低下しているため、圧縮上死点近傍での作動室の温度(圧縮端温度)は図(c)のように大幅に低下し(図例では約15℃低下)、異常燃焼は効果的に抑制される。
図3(a)に戻って、水素燃料の使用時に前記設定回転数Ne1未満の低回転域(a2)においては、連通制御弁22を閉じて本来の圧縮比、即ち中、高回転域(a1)に比べて高い有効圧縮比となるようにし、出力を確保する。水素のように燃焼速度の高い燃料を使用する場合、有効圧縮比が高くてもノッキングの心配はない。また、過給圧の低い低回転域では過早着火も起こり難い。
上述したように相対的に高回転側の運転域(a1)では吸気の過給、冷却及びミラーサイクルの組合せによって異常燃焼を抑制できることから、この実施形態のエンジン1では、従来一般的な過給エンジンのように幾何学的な圧縮比を低めに設定する必要がなく、あまり過給効果の得られない状態であってもエンジン出力を確保し易い。
尚、前記の設定回転数Ne1は、エンジン全負荷で過給圧が最高過給圧に達してウエストゲート弁19が開く回転数Ne2(所謂インターセプト回転数)に比べて、低回転側に設定している。これは、過給圧があまり高くなる前に前記のようにミラーサイクル化して圧縮端温度を低下させるためであり、こうすることで、着火性の高い水素燃料の使用時における過早着火の防止が図られている。
−ガソリンによる運転時−
前記のような水素燃料による運転時に対してガソリンによる運転時には、図3(b)に符号(b1)として示すように低回転から高回転までの殆ど全回転域で連通制御弁22を開き、ミラーサイクル化することを基本とする。これは、ガソリンによる運転時は水素燃料に比べてノッキングが起き易いことを考慮して、過給圧の低い低回転域でも有効圧縮比を低下させ、圧縮行程における作動室内温度の上昇を抑えるためである。
また、中、高回転域では前記水素燃料の使用時と同じく、吸気の過給、冷却及びミラーサイクルの組合せによって異常燃焼を抑制しつつ、所要のエンジン出力を確保することができ、しかも、過給及びミラーサイクル化の相乗効果で吸気損失が大幅に低減され、燃費の低減が図られる。
但し、そうして有効圧縮比を低下させると負荷の低い状態では、前記のように過給圧の低い低回転域は勿論のこと、たとえ過給圧の高い中、高回転域であっても、燃焼安定性が低下する虞れがある。すなわち、アイドルやコースティング状態のようにエンジン負荷の非常に低い状態では自ずと吸気の充填効率がかなり低くなる上に、吸気の流動も弱くなるので、混合気の形成に時間がかかるガソリンの使用時には、その着火性が低下してしまい、燃焼安定性も損なわれるのである。
そこで、ガソリンによる運転時には前記のように連通制御弁22を開いて、ミラーサイクル化することを基本としつつ、図3(b)のように予め設定した極低負荷域(b2)においては連通制御弁22を閉じるようにしている。これによりエンジン1の作動室は本来の圧縮比(幾何学的な圧縮比)で、即ち極低負荷域(b2)以外の運転域(b1)に比べて高い有効圧縮比で作動するようになり、混合気の着火性、燃焼安定性の確保が図られる。
尚、そうして連通制御弁22を閉じる極低負荷域(b2)とそれ依りも高負荷側の運転荷域(b1)との境界線は、低回転側から高回転側に向かって緩やかな右下がりになっていて、低回転側ほど、より高負荷側まで連通制御弁22を閉じるようにしている。これは、過給効果の低い低回転側ほど、より高負荷側まで混合気の着火性が低下しやすいためである。
−選択燃料に応じた有効圧縮比の制御−
以下に、PCM25による連通制御弁22の制御の具体的な手順を、図5のフローチャートを参照しながら説明する。まず、スタート後のステップSA1では、エアフローセンサ26、吸気圧センサ27、回転センサ28、アクセル開度センサ29、及び燃料切換えスイッチ30等からの信号を入力して、吸気量、過給圧、エンジン回転数Ne、アクセル開度、現在、選択されている燃料等の情報を読み込む。
続いてステップSA2において水素燃料が選択されているかどうか判定し、NOでガソリンが選択されているのであれば、後述するガソリン使用時の制御ルーチン(SA8〜SA13)へ進む一方、水素燃料が選択されているYESであれば、ステップSA3に進んで今度はエンジン回転数Neが設定回転数Ne1以上かどうか判定する。この判定がNOで設定回転数Ne1未満の低回転域にあれば、ステップSA4に進んで連通制御弁22が全閉かどうか確認し、全閉でなければ(NO)ステップSA5で全閉にした後に、リターンする。
つまり、水素燃料による運転時には、あまり過給効果を期待できない設定回転数Ne1未満の低回転域においてミラーサイクル化は行わず、作動室を本来の幾何学的な圧縮比で作動させることによって、エンジン出力を確保する。
一方、設定回転数Ne1以上の中、高回転域にあれば(YES)ステップSA6に進んで連通制御弁22が全開かどうか確認し、全開であれば(YES)リターンする一方、全開でなければ(NO)ステップSA7に進んで連通制御弁22を、エンジン回転数の上昇に応じて徐々に開放して、しかる後にリターンする(連通制御弁を徐々に開く)。
つまり、水素燃料による運転時に所期の過給効果を期待できる中、高回転域であれば、連津制御弁22を開いてミラーサイクル化することにより、吸気の過給及び冷却と併せて異常燃焼を抑制しながら、十分に高いエンジン出力が得られる。
尚、前記ステップSA6においてNOと判定するのは、低回転域(a2)から中、高回転域(a1)に移行した直後で大体、設定回転数Ne1からインターセプト回転数Ne2までの回転域にあると考えられる。このときには連通制御弁22を一気に開くのではなく、エンジン回転数の上昇に応じて徐々に開放することで、過給圧が徐々に高くなるのに対応するよう徐々に有効圧縮比を低下させることができ、これにより落ち込みの少ない自然なトルク特性が得られる。
これに対し、前記ステップSA2においてガソリンが選択されている(NO)と判定して進んだステップSA8ではウエストゲート弁19のアクチュエータを作動させ、排気ターボ過給機20の最高過給圧を、水素燃料の使用時に比べて低い値に設定する(最高過給圧を低めに設定)。こうすると、水素燃料の使用時とガソリンの使用時とでエンジン1の最大トルクの差を小さくすることができる。
続いてステップSA9では、予め設定した極低負荷域(b2)にあるかどうか判定し、この判定がYESで極低負荷域にあれば、ステップSA10に進んで連通制御弁22が全閉かどうか確認して、全閉でなければ(NO)ステップSA11で全閉にした後に、リターンする。つまり、ガソリンによる運転時にも極低負荷域(b2)においては、前記水素燃料による運転時の低回転域(a2)と同様に相対的に高い有効圧縮比とすることで、混合気の着火性、燃焼安定性を確保する。
一方、前記ステップSA9においてNO、即ち極低負荷域(b2)以外にあると判定されればステップSA12に進み、ここでは連通制御弁22が全開かどうか確認して、全開であれば(YES)リターンする。一方、全開でなければ(NO)ステップSA13に進んで、前記ステップSA11において全閉にするときよりも遅い動作速度で、連通制御弁22を全開になるまで開作動させて、しかる後にリターンする(連通制御弁を徐々に開く)。
つまり、ガソリンによる運転時には、過給圧の高くなる中、高回転域において前記水素燃料による運転時と同じく過給、吸気冷却及びミラーサイクル化の組合せによって、異常燃焼を抑制しながら所要のエンジン出力を確保し、且つ燃費の低減を図る。また、ガソリンによる運転時には低回転域でも高負荷側ではミラーサイクル化し、ノッキングの抑制を図る。
さらに、前記ステップSA12においてNOと判定するのは、極低負荷転(b2)からそれ以外の運転域(b1)に移行した直後であり、このときには車両が発進、或いは加速状態にあると考えられる。このときには前記のように連通制御弁22の開作動を遅くすることによって過渡的に有効圧縮比を高めの状態に保ち、エンジン1の出力を高めるのである。
前記したフローのステップSA6,SA7,SA9〜SA13により、エンジン回転数Neが設定回転数Ne1以上の中、高回転域においてガソリンを使用するときに、所定の極低負荷域(b2)以外では該極低負荷域(b2)よりも有効圧縮比を低下させる一方、水素燃料を使用するときには前記中、高回転域の全域で、前記ガソリン使用時の極低負荷域(b2)よりも有効圧縮比を低下させる、有効圧縮比制御手段25aが構成されている。
特にステップSA13の手順から、前記有効圧縮比制御手段25aは、前記中、高回転域においてガソリンを使用していて且つ前記極低負荷域(b2)からそれ以外の負荷域(b1)へ移行したときには、反対に該極低負荷域(b2)へそれ以外の負荷域(b1)から移行したときに比べて、有効圧縮比の変化が遅くなるように制御するものである。
また、ステップSA8によって、水素燃料による運転時に排気ターボ過給機20の最高過給圧がガソリンによる運転時よりも低くなるように、ウエストゲート弁19を制御する過給圧制御手段25bが構成されている。
それら有効圧縮比制御手段25a及び過給圧制御手段25bは、前記図5の制御プログラムをPCM25のCPUが実行することによって実現されるものであり、この意味で、PCM25がソフトウエアプログラムの形態で各手段を備えていると言える。
(作用効果)
したがって、この実施形態に係るデュアルフューエルエンジンの制御装置によると、まず、出力の確保が課題となる水素燃料による運転時に、所期の過給効果が期待できる中、高回転域(a1)においては、過給された吸気をインタークーラ12により冷却して作動室に充填することにより、吸気温度の上昇を抑制しつつ充填効率を十分に高くすることができ、さらにミラーサイクル化によって有効圧縮比を低下させることで異常燃焼を抑制しながら、十分な高出力を得ることができる。
そうして吸気の充填効率を高めつつ異常燃焼を抑制できることから、その分、高めに最高過給圧を設定でき、排気エネルギの利用効率が高くなるとともに、過給とミラーサイクルとの相乗効果で吸気損失が非常に少なくなり、燃費の低減が図られる。特に、この実施形態では、フロント側及びリヤ側のロータ収容室R同士を連通するポート21を設けて、これにより圧縮行程にある作動室から吸気の一部を吸気行程にある作動室へ送り込むようにしており、このことによっても吸気損失の低減が図られる。
また、あまり過給効果の期待できない低回転域(a2)においてはミラーサイクル化を行わず、作動室本来の幾何学的な圧縮比、即ち前記中、高回転域(a1)に比べて高い有効圧縮比とすることで、エンジン出力を確保する。前記のように中、高回転域でもミラーサイクル化によって異常燃焼を抑制できることから、この実施形態のエンジン1では作動室の幾何学的圧縮比を低めに設定する必要がなく、過給効果の期待できない低回転域(a2)においてもエンジン出力を確保し易い。
一方、ガソリンによる運転時に中、高回転域においては、前記の水素燃料による運転時と同様に吸気の過給及び冷却とミラーサイクル化との組合せによって、所要の出力を確保しながら異常燃焼を抑制することができるとともに、吸気損失の低減により燃費を低減することができる。しかも、出力に余裕のあるガソリンの使用時には水素燃料の使用時に比べて最高過給圧を低めにし、最大トルクの差を小さくしているので、乗員が違和感を感じ難い。
また、ガソリンの使用時には低回転域においても高負荷側ではミラーサイクル化して、ノッキングを抑制する一方で、予め設定した極低負荷域(b2)ではミラーサイクル化は行わず、有効圧縮比を相対的に高くすることによって混合気の着火性、燃焼安定性を確保することができる。
さらに、この実施形態では前記のように有効圧縮比の相対的に高い極低負荷域(b2)からそれ以外の運転域(b1)へ移行したとき、連通制御弁22の開作動を遅くすることによって過渡的に有効圧縮比が高めの状態に保って、エンジン出力を高め、加速応答性を向上することができる。こうして運転域(b1)に移行した直後であれば作動室の温度状態があまり高くないので、異常燃焼の起きる心配はない。
尚、本発明の構成は前記の実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成も包含する。すなわち前記実施形態では、エンジン1の使用燃料としてガソリンと水素燃料とを切換え可能になっているが、これに限ったものではなく、例えば水素燃料の代わりに圧縮天然ガスを採用してもよいし、ガソリンの代わりに軽油を採用してもよい。
また、前記実施形態では排気ターボ過給機20のウエストゲート弁19を、最高過給圧の変更調整可能な可変式のものとしているが、これは最高過給圧の固定されるものであってもよい。また、インタークーラ12も省略可能である。
さらに、エンジン1はロータリエンジンに限らず、レシプロエンジンであってもよい。この場合、ミラーサイクル化は周知の如く可変動弁機構によって行うことができる。
以上、説明したように本発明は、過給機付きデュアルフューエルエンジンの低回転域においてガソリンの使用時にノッキングを抑制でき、水素燃料の使用時には過給圧が低くても出力を確保できるもので、自動車用等に好適である。
1 ロータリエンジン(デュアルフューエルエンジン)
20 排気ターボ過給機(過給機)
21 連通ポート(有効圧縮比制御手段)
22 連通制御弁(有効圧縮比制御手段)
25 PCM:パワートレインコントロールモジュール
25a 有効圧縮比制御手段
R ロータ収容室

Claims (4)

  1. 吸気を過給する過給機を備えるとともに、液体燃料と、これに比べて燃焼速度の高い気体燃料とを選択的に使用可能なデュアルフューエルエンジンの制御装置であって、
    エンジン回転数が設定回転数未満の相対的に低回転側の運転域において少なくとも高負荷側では、前記液体燃料を使用するときの気筒の有効圧縮比を、前記気体燃料を使用するときよりも低くなるように制御する有効圧縮比制御手段を備える
    ことを特徴とするデュアルフューエルエンジンの制御装置。
  2. 前記有効圧縮比制御手段は、前記相対的に低回転側の運転域において液体燃料を使用するとき、所定の極低負荷域ではそれ以外の負荷域よりも有効圧縮比を高くするものである、請求項1に記載のデュアルフューエルエンジンの制御装置。
  3. 前記有効圧縮比制御手段は、前記相対的に低回転側の運転域において液体燃料を使用していて、且つ前記極低負荷域からそれ以外の負荷域へ移行したときには、反対に該極低負荷域へそれ以外の負荷域から移行したときに比べて、有効圧縮比の変化が遅くなるように制御するものである、請求項2に記載のデュアルフューエルエンジンの制御装置。
  4. エンジンは複数の気筒を有するものであり、
    前記有効圧縮比制御手段は、前記複数の気筒のうち、圧縮行程にあるいずれかの気筒を吸気行程にある他の気筒に連通させるものである、請求項1〜3のいずれか1つに記載のデュアルフューエルエンジンの制御装置。
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