以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態にかかるターボ過給機付きエンジンの排気装置について説明する。以下では、エンジン本体がロータリエンジンの場合について説明する。
(1)全体構成
図1は、ターボ過給機付きエンジンの排気装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。図2は、ロータリエンジン1の概略断面図である。
当実施形態に係るロータリエンジン1は、内側に2つのロータ収容室(気筒)31が形成され、これらロータ収容室31にそれぞれ回転軸X回りに回転するロータ2が1つずつ収容された2ロータタイプである。以下、ロータ2の配列方向を前後方向といい、図1の左側を前側、図1の右側を後側という。
ロータリエンジン1は、ロータ収容室31を区画する、2つのロータハウジング3、3と、インターミディエイトハウジング4と、サイドハウジング41,41とを有する。ロータハウジング3,3は、ロータ2の外周をそれぞれ囲む部材である。インターミディエイトハウジング4は、ロータ2の間に位置してロータ2を前後に隔てる隔壁である。サイドハウジング41,41は、ロータ収容室31を前後外側から塞ぐ部材である。
ロータハウジング3,3の内周面は、平行トロコイド曲線に沿って延びている。以下、この内周面を、トロコイド内周面3aという。これに伴い、ロータ収容室31は、ロータ2の回転軸Xの一方側から回転軸Xに沿う方向にロータリエンジン1を見たときに、繭のような略楕円形状となっている。
なお、各ロータ収容室31は、インターミディエイトハウジング4に対して対称に配置されており、ロータ2の位置及び位相が異なっている点を除けば構成は同じである。
ロータ2は、回転軸Xの方向から見て各辺の中央部が膨出する略三角形状を有し、前後方向に所定の厚みを有するブロック体である。ロータ2は、各頂部間に3つのフランク面2a,2a,2aを備えている。これらフランク面2aは、ロータ2の外周側からみて略長方形を有している。
ロータ2は、各頂部に図示しないアペックスシールを有する。これらアペックスシールは、ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しており、トロコイド内周面3aと、インターミディエイトハウジング4の内側面4aと、サイドハウジング41の内側面と、ロータ2のフランク面2aとによって、ロータ収容室31の内部には、3つの作動室8,8,8がそれぞれ区画形成されている。
ロータリエンジン1は、出力軸Xを構成するエキセントリックシャフト6を有している。エキセントリックシャフト6は、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング41を貫通して前後に延びている。
ロータ2は、エキセントリックシャフト6に対して遊星回転運動するように支持されている。ロータ2は、3つのシール部がそれぞれトロコイド内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪(偏心軸)6aの周りを自転しながら、回転軸Xの周りに自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含め、広い意味で単にロータの回転という)。エキセントリックシャフト6が3回転する間にロータ2は1回する。ロータ2の回転に伴い3つの作動室8,8,8は周方向に移動し、各作動室8,8,8にて吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われて、これにより発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
当実施形態では、ロータ2は、図2において、矢印で示すように時計回りに回転し、回転軸Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の右側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、左側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となるように構成されている。
なお、従来構成のロータリエンジンは、長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。つまり、本構成のロータリエンジンは、従来構成のロータリエンジンを、回転軸Xを中心として180°回転させたような状態で車両に搭載されている。
作動室8の位置と各行程について具体的に説明する。図2における右下の作動室8では、導入された吸気と噴射された燃料とによって混合気が形成される吸気行程が実施される。この作動室8がロータ2の回転に伴って左側に移行すると、混合気は圧縮され圧縮行程が実施される。その後、作動室8が図2の左側に示す位置にある状態において(圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて)、点火プラグ82,83により点火が行われ、これにより燃焼・膨張行程が実施される。そして、最後に作動室8が図2の右上の位置にある状態で、燃焼ガスが排気ポート10から排気されて排気行程が実施される。その後は、再び吸気行程に戻って各行程が繰り返される。
ロータ収容室31には、吸気行程にある作動室8と連通して、作動室8に吸気(空気)を導入するための吸気ポート11が連通している。なお、詳細な図示は省略するが、当実施形態では、インターミディエイトハウジング4と、サイドハウジング41とにそれぞれ吸気ポート11が形成されている。また、1つのロータ収容室31に2つの吸気ポート11が連通されており、前側のロータ収容室31に対応する吸気ポート11は、前側のサイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4とに形成されている。そして、後側のロータ収容室31に対応する吸気ポート11は、後側のサイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4とに形成されており、インターミディエイトハウジング4には、2つの吸気ポート11が形成されている。
インターミディエイトハウジング4に形成された吸気ポート11は、インターミディエイトハウジング4の内側面4aのうち吸気行程が実施される位置(図2の右下の位置)に開口している。当実施形態では、吸気ポート11は、インターミディエイトハウジング4の内側面4aのうち、ロータ収容室31の外周側の部分であって、回転軸Xを通るロータ収容室31の短軸Z寄りの部分に開口している。吸気ポート11は、この開口部分から、インターミディエイトハウジング4内を、前後方向(ほぼ水平方向)に延びて、ロータリエンジン1の側面に開口している。
サイドハウジング41に形成された吸気ポート11は、図示は省略するが、インターミディエイトハウジング4に形成された吸気ポート11に対向する位置に形成されており、ロータ収容室31の開口部分から、サイドハウジング41内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。
ロータリエンジン1の側面には、各吸気ポート11に連通して吸気通路12の一部を構成する吸気マニホールド12aが取り付けられている。
ロータ収容室31には、排気行程にある作動室8と連通して、作動室8から燃焼ガスを排出するための排気ポート10が連通している。当実施形態では、インターミディエイトハウジング4と、サイドハウジング41とにそれぞれ排気ポート10が形成されている。なお、吸気ポート11と同様に、1つのロータ収容室31に2つの排気ポート10が連通されており、前側のロータ収容室31に対応する排気ポート10は、前側のサイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4とに形成されている。そして、後側のロータ収容室31に対応する排気ポート10は、後側のサイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4とに形成されており、インターミディエイトハウジング4には、2つの排気ポート10が形成されている。
インターミディエイトハウジング4に形成された排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4の内側面4aのうち排気行程が実施される位置(図2の右上の位置)に開口している。当実施形態では、排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4の内側面4aのうち、ロータ収容室31の外周側の部分であって、回転軸Xを通るロータ収容室31の短軸Z寄りの部分に開口している。排気ポート10は、この開口部分から、インターミディエイトハウジング4内を、斜め上方に向かって延びて、ロータリエンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。
図1に示すように、サイドハウジング41に形成された排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4に形成された排気ポート10に対向する位置に形成されている。このサイドハウジング41に形成された排気ポート10も、サイドハウジング41内を斜め上方に向かって延びて、エンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。
サイドハウジング41に形成された排気ポート10の開口部分と、インターミディエイトハウジング4に形成された排気ポート10の開口部分とは、互いに同じ位置に同じ形状で形成されており、両排気ポート10が開くタイミングおよび閉じるタイミングは互いに同じとなっている。また、当実施形態では、いわゆるサイド排気方式が採用されており、排気ポート10の開口位置及び開口形状は、吸気のオープンタイミング(吸気ポート11が開口するタイミング)と排気のオープンタイミング(排気ポート10が開口するタイミング)とがオーバーラップしないように設定されている。これは、次行程に持ち込まれる残留排ガスを低減するためである。
以下では、サイドハウジング41に形成された排気ポート10を、プライマリポート10aと呼び、インターミディエイトハウジング4に形成された排気ポートを、セカンダリポート10bと呼び、それらの排気ポートを総称するときには、単に排気ポート10と呼ぶ場合がある。
各排気ポート10は、エンジン1の側面に接続された排気通路130に接続されている。
具体的には、前側のロータ収容室31a(以下、第1ロータ収容室31aという場合がある)のプライマリポート10aとセカンダリポート10bとは、共通の第1独立排気通路131に連通している。詳細には、第1ロータ収容室31aのプライマリポート10aは前側のサイドハウジング41に連結された排気通路131aに接続され、第1ロータ収容室31aのセカンダリポート10bはインターミディエイトハウジング4に連結された排気通路131bに接続されている。そして、これら排気通路131a,131bがともに第1独立排気通路131に接続されており、第1ロータ収容室31aから排出された排気はすべて第1独立排気通路131に流入するようになっている。
同様に、後側のロータ収容室31b(以下、第2ロータ収容室31bという場合がある)のプライマリポート10aとセカンダリポート10bとは、共通の第2独立排気通路132と連通している。詳細には、第2ロータ収容室31bのプライマリポート10aは後側のサイドハウジング41に連結された排気通路132aに接続され、第2ロータ収容室31bのセカンダリポート10bはインターミディエイトハウジング4に連結された排気通路132bに接続されている。そして、これら排気通路132a,132bがともに第2独立排気通路132に接続されており、第2ロータ収容室31bから排出された排気はすべて第2独立排気通路132に流入するようになっている。
第1独立排気通路131および第2独立排気通路132の下流側にはタービン50が設けられている。すなわち、当実施形態に係るエンジンシステムは、過給機(ターボ過給機)5aを備えており、排気通路130に設けられたタービン50と、吸気通路12に設けられてシャフト52を介してタービン50と連結されたコンプレッサ60とを有する。そして、排気によりタービン50が駆動されることでコンプレッサ60が吸気を過給し、これにより吸気効率が高められるようになっている。第1独立排気通路131と第2独立排気通路132とは、個別にタービン50に接続されている。タービン50の詳細については後述する。
当実施形態に係るエンジンシステムは、排気の一部を吸気に還流するEGR装置9を備えている。EGR装置9は、排気通路130と吸気通路12とを連通するEGR通路91と、EGR通路91を流通する排気を冷却するEGRクーラ92と、EGR通路91を開閉するEGRバルブ93とを備えている。後述するように、当実施形態では、EGR通路91は、タービン50のタービンハウジング150に接続されている。
作動室8内に燃料を供給するためのインジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に取り付けられており、このインターミディエイトハウジング4に設けた吸気ポート11内に燃料を噴射する。
ロータハウジング3の側部における、短軸Zを挟んだロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とにはそれぞれ、T側点火プラグ82とL側点火プラグ83とが取り付けられている。これら2つの点火プラグ82,83は、ロータ収容室31(作動室8)のうち圧縮・膨張行程が実施される部分に臨んでおり、作動室8内の混合気に、同時に点火、又は位相差を持って順に点火をする。
なお、図2の符号21は、ロータ2の側面に設けられたオイルシールであり、余分な潤滑オイルが作動室8内に流入することを防止するためのものである。また、図2の符号103は、排気通路13内に二次エアを供給するための二次エア通路である。
(2)タービン
タービン50の構成について、図3〜図5を用いて説明する。図3および図4は、タービン50の周辺部分をシャフト52の軸方向と直交する面で切断したときの概略図である。図5は、タービン50の周辺部分を、シャフト52の軸方向に沿う面で切断したときの概略図である。
タービン50は、いわゆるラジアルタービンであり、外周に複数の羽根51aを有しこれら羽根51aに排気が衝突することで回転するタービン本体(いわゆるタービンインペラ)51と、タービン本体51を内側に収容するタービンハウジング150とを有している。以下、適宜、タービン本体51の周方向を単に周方向といい、タービン本体51の径方向を単に径方向といい、タービン本体51の回転軸方向(シャフト52の軸方向)を単に軸方向という場合がある。
タービンハウジング150は、排気を内側に導入するための吸入部151と、吸入部151の下流端151aからタービン本体51の外周に沿って延びてタービン本体51を囲むタービンスクロール部155と、タービン本体51で膨張した後の排気を外側(排気通路130のうちタービン50よりも下流側の部分)に導出するための導出部159とを有する。
タービンスクロール部155は、図3に示すように、タービン本体51の外周全体にわたっており、その下流端には、吸入部151とタービンスクロール部155の下流側部分とを仕切る舌部155aが設けられている。タービンスクロール部155の流路面積は舌部155a(下流端)に向かって下流側ほど小さくなっており、タービンスクロール部155は渦巻状を有している。
図5に示すように、タービンスクロール部155は、その径方向中央部分が軸方向外側に膨出する形状を有しており、タービンスクロール部155の周方向に沿う断面積は、径方向中央において最も大きくなり径方向内側に向かって徐々に小さくなっている。これに伴い、タービンスクロール部155の径方向内側端、すなわち、タービン本体51の外周縁と対向する部分には、タービン本体51に排気を高速で流入させるために流路面積が絞られたタービンノズル部156が形成されている。タービンノズル部156は、タービン本体51の全周と対向して形成されている。
図3に示すように、タービンスクロール部155のうち径方向外側に位置する部分には、EGR通路91と連通するEGR用開口部155bが開口しており、タービンスクロール部155のうち径方向外側部分を通過する排気の一部がEGR通路91に流入するようになっている。当実施形態では、タービンスクロール部155の径方向外側端において軸方向に延びる壁に、当該壁を径方向に貫通する貫通孔であるEGR用開口部155bが形成されて、このEGR開口部155bにEGR通路91が接続されている。
吸入部151には、各独立排気通路131,132にそれぞれ個別に連通する2つの吸入通路152,153が形成されている。具体的には、第1独立排気通路131と連通する第1吸入通路152と、第2独立排気通路132と連通する第2吸入通路153とが形成されている。当実施形態では、各吸入通路152,153は、吸入部151の上流端から、下流端(舌部155a)よりも上流側の部分まで上下流方向に延びており、吸入部151のうちこれら吸入通路152,153よりもタービン本体51までの部分は、これら吸入通路152,153と連通する共通の空間、すなわち、吸入通路152,153を通過したガスが集合する1つの通路となっている。
第1吸入通路152と、第2吸入通路153とは、それぞれ、下流側ほど流路面積が小さくなり、各下流端152a,153a(図4参照)において流路面積が最も小さくなるような形状を有している。当実施形態では、第1吸入通路152および第2吸入通路153の流路面積は、下流に向かうに従って徐々に小さくされている。第1吸入通路152と、第2吸入通路とは、ほぼ同様の形状を有し、その下流端152a,153aの流路面積は同じに設定されている。
第1吸入通路152と第2吸入通路153の各下流端152a,153aの流路面積は、タービンノズル部156の流路面積の0.2倍以上0.4倍以下の面積に設定されている。例えば、下流端152a,153aの流路面積は、タービンノズル部156の流路面積の0.4倍に設定されている。
ここで、タービンノズル部156の流路面積とは、タービンノズル部156全体の流路面積であり、図3に破線で示す円周Q(タービン本体51の外周縁の円周とほぼ同じ)と、図5に示すタービンノズル部156の軸方向長さtとの積で算出される面積である。
当実施形態では、吸入部151の下流端部分すなわち吸入部151のうち各吸入通路152,153よりも下流側の部分も、下流側ほど流路面積が小さくなるような形状を有している。ただし、吸入部151の下流端部分の流路面積は、各吸入通路152,153の下流端152a,153aの各流路面積よりも十分に大きくなっている。
第1吸入通路152と、第2吸入通路153とは、周方向に並んでいる。当実施形態では、第1吸入通路152が径方向外側(タービン本体51よりも遠い側)に設けられ、第2吸入通路153が径方向内側(タービン本体51に近い側)に設けられている。そして、これら吸入通路152,153は、図4に示すように、それぞれが、その軸線L1,L2が、タービン本体51の外周縁と接するように延びている。具体的には、径方向内側の第2吸入通路153の軸線L2は、図4においてタービン本体51の上端付近に位置する部分P1の接線と一致しており、径方向外側の第1吸入通路153の軸線L1は、この接点P1よりも下流側の点P2におけるタービン本体51の外周面の接線と一致している。そして、これに伴い、当実施形態では、径方向内側の第1吸入通路152の下流端を延長した領域とタービン本体51の一部とが重複している。すなわち、タービン本体51は、舌部155aから上流側に延びる吸入部151の内側面を延長した線L0よりも径方向外側に飛び出るように配置されている。
なお、図5に示すように、各吸入通路152,153には、タービン本体51をバイパスさせて排気を流下させるためのウエストゲート160が設けられている(図5には、第1吸入通路151に設けられたウエストゲート160のみを示している)。また、各吸入通路152,153に連通する各独立排気通路131,132の流路面積は上下流方向についてほぼ一定とされている。
(3)作用等
以上のように、当実施形態に係るタービン50では、吸入部151に、各独立排気通路131,132とそれぞれ個別に連通する吸入通路152,153であって、下流端152a,153aの流路面積が最小とされるとともにこの下流端152a,153aの流路面積がタービンノズル部156の流路面積の0.2〜0.4倍とされた吸入通路152,153が設けられ、かつ、これら吸入通路152,153の下流端152a,153aからタービン本体51までが単一の通路とされている。そのため、タービン効率を高めつつ排気干渉を抑制することができる。より詳細には、同サイズのシングルスクロールタービンと同程度のタービン効率を得つつ、ツインスクロールタービンよりも排気干渉を抑制することができる。
図6および図7を用いて具体的に説明する。図6は、従来のシングルスクロールタービン250の概略構成図である、図7は、従来のツインスクロールタービン350の概略構成図である。
図6に示すように、シングルスクロールタービン250では、吸入口251が単一の通路で構成されており、タービン本体260を収容するタービンハウジング259の内側全体が単一の通路で構成されており、各独立排気通路131,132を流下した排気はタービンハウジング259の上流端において集合する。そのため、タービンハウジング259の上流端において、一方の独立排気通路131,132からタービンハウジング259に流入した排気の一部が他の独立排気通路に回り込んでしまい排気干渉が大きくなる。従って、シングルスクロールタービン250では、掃気性能が悪くなり高いエンジントルクを得ることができない。また、高い排気性能を得ることができない。
特に、ロータリエンジンでは、一方のロータ2の排気ポート10が開口しているタイミングと他方のロータ2の排気ポート10が開口しているタイミングとが重複する期間が長いため、シングルスクロールタービン250をロータリエンジンに適用した場合には、排気干渉によるエンジントルクの低下量が大きくなる。図8を用いて具体的に説明する。図8は、横軸をエキセントリックシャフトの角度(以下、適宜、エキセン角という)として各ロータ収容室31の排気ポート10の圧力変化を示したものである。図8において、実線と破線とはそれぞれ異なるロータ収容室31の排気ポート10の圧力変化を示している。この図8に示されるように、ロータリエンジンでは、各ロータ収容室31でそれぞれ270°EA(°EAは、エキセントリックシャフトの角度を表す)毎に排気ポート10が開口を開始して、およそ210°EA間排気ポート10が開口するとともに、所定のロータ2の排気ポート10が開口を開始してから135°EA後に他のロータ2の排気ポート10が開口を開始する。そのため、210°EAの開口期間のうちおよそ150°EA間、重複して2つのロータ2の排気ポート10が開口することなり、排気干渉が大きくなる。
一方、図7に示すように、ツインスクロールタービン350では、吸入部351およびタービンスクロール部355が2つの通路352,353に区画されている。すなわち、タービンハウジング359のうちその上流端からタービン本体360直前まで(タービンノズル部356まで)の空間が2つに区画されており、各空間にそれぞれ個別に独立排気通路131,132が連通している。これに伴い、ツインスクロールタービン350では、各独立排気通路131,132を流下した排気はそれぞれ軸方向一方側と他方側とに分かれてタービン本体360に向かう。そのため、ツインスクロールタービン350では、シングルスクロールタービン250に比べて一方の独立排気通路から排出された排気が他方の独立排気通路に回り込むのが抑制されて、排気干渉が小さく抑えられる。
図9は、ロータリエンジンにおいて、シングルスクロールタービン250を適用した場合とツインスクロールタービン350を適用した場合とにおけるロータ収容室31内の圧力(筒内圧P)とロータ収容室31の作動室8の容積(容積V)との変化を示したPV線図の一部を拡大して示した図である。この図9において、実線はシングルスクロールタービン250の線であり、破線はツインスクロールタービン350の線である。この図9の斜線部分のように、シングルスクロールタービン250が適用された場合では、他のロータから排出された排気が他のロータに回り込む結果、排気行程においてロータ収容室31(筒内)の圧力が大きくなり、ツインスクロールタービン350に比べて掃気性能が悪化しポンピングロスが増大する。
しかしながら、ツインスクロールタービン350では、タービン本体360の各羽根360aに対して軸方向一方側と他方側のいずれか片側にのみ排気が衝突する。そのため、タービン効率がシングルスクロールタービン250に比べて悪い。これは、タービン本体360の各羽根360aの軸方向下流側に排気が衝突した際に渦が発生して排気のエネルギーが各羽根360aに適切に付与されないためと考えられる。また、ツインスクロールタービン350では、このように排気のエネルギーが各羽根360aに適切に付与されず過給力が低くなることに伴って過給力を確保するべくタービン本体360の軸方向の長さを大きくする必要があり、タービン本体360の重量を大きくせざるを得ない。そのため、ツインスクロールタービン350では、タービン本体360のイナーシャ増大により、過給レスポンス(加速時の過給圧上昇の応答性)が低下する。
また、本発明者らは、鋭意研究の結果、ツインスクロールタービン350では、上記のようにシングルスクロールタービン250よりは排気干渉は小さく抑えられるものの、その抑制効果が十分ではないことを突き止めた。具体的には、ツインスクロールタービン350では、タービン本体360の直前まで空間が区画されていることで、一方の通路からタービン本体360に向かって噴出した排気がタービン本体360で反射し、この反射した排気の一部が他方の通路に回り込んでしまうことを突き止めた。
これに対して、当実施形態では、タービンハウジング150の吸入部151に、各独立排気通路131,132と個別に連通する吸入通路152,153が設けられるとともに、これら吸入通路152,153がタービン本体51から上流側に離間した位置(当実施形態では、タービンスクロール部155の上流端よりも上流側の位置)でとまり、各吸入通路152,153とタービン本体との間に各吸入通路152,153と連通する所定の空間が確保されている。そのため、一方の独立排気通路を流下した排気が、タービン本体51の各羽根51aで反射して他の独立排気通路に回り込むのを抑制することができる。
ここで、このように各独立排気通路131,132と個別に連通する吸入通路152,153と、タービン本体51との間に、各吸入通路152,153と連通する空間が区画されている場合、一方の独立排気通路および吸入通路を流下した排気が他の吸入通路および他の独立排気通路に回り込むおそれがある。これに対して、当実施形態では、各吸入通路152,153の流路面積が下流端において最も小さくされている。具体的には、上記のように吸入通路152,153の下流端152a,153aの流路面積がタービンノズル部の流路面積の0.2〜0.4倍と小さい値に設定されている。そのため、各吸入通路152,153の下流端から排気を高速で噴出させることができ、一方の吸入通路から排出された排気が他の吸入通路に回り込むのを回避して、排気干渉をより確実に抑制することができる。
しかも、当実施形態では、各吸入通路152,153とタービン本体51との間の所定の空間が確保されていることで、各吸入通路152,153から排出された排気をタービン本体51に流入する前に拡散させることができ、排気をタービン本体51の羽根51aの軸方向全体に衝突させることができる。そのため、上記のように排気干渉を抑制しつつタービン効率を高めることができる。
特に、吸入通路152,153の下流端152a,153aの流路面積をタービンノズル部の流路面積の0.2〜0.4倍とすることで、タービンノズル部156の流路面積を、同程度の過給力を得ることのできるシングルスクロールタービン250のタービンノズル部256の流路面積とほぼ同じとして、タービン本体51を大型化することなく、かつ、吸入通路152,153の下流端152a,153aの流路面積を同程度の過給力を得ることのできるツインスクロールタービン350の2つの通路のうち吸入部351の下流端に対応する部分352a,353aの流路面積(タービンスクロール部355の上流端における各通路352,353の流路面積)とほぼ同じとして、タービン効率をシングルロールタービンと同程度まで高めつつツインスクロールタービンと同程度あるいはそれ以上の排気干渉の抑制効果を得ることができる。
詳細には、シングルスクロールタービン250では、タービンノズル部256の流路面積をAとすると吸入部251の下流端251aの流路面積はAのおよそ0.3〜0.5倍に設定される。そして、これと同程度の過給力を得ることのできるツインスクロールタービン350では、タービンノズル部356の流路面積がおよそAの1.4倍とされ、2つの通路352,353のうち吸入部351の下流端に対応する部分352a,353aの流路面積がそれぞれAのおよそ0.2〜0.4倍とされる。従って、当実施形態では、タービンノズル部156の流路面積をAとして、吸入通路152、153の下流端152a、153aの流路面積をAの0.2〜0.4倍とすることで、上記各タービンと同程度の過給力を得つつ排気干渉を抑制しながらタービン効率をシングルスクロールタービン250と同程度にすることができる。
また、当実施形態では、各吸入通路152,153が、タービン本体51の周方向に沿って並んでいる。そのため、各吸入通路152,153から排出された排気をタービン本体51の羽根51aの軸方向全体により均一に衝突させることができる。
しかも、当実施形態では、上記のように、各吸入通路152,153を周方向に沿って並設しながら、各吸入通路152,153の軸線がそれぞれタービン本体51の外周縁における接線と一致するように構成されている。そのため、各吸入通路152,153から排出された排気をタービン本体51の各羽根51aに対してより垂直に近い角度で衝突させることができ、各羽根51aにより高いモーメントを加えることができる。従って、タービン50の駆動力すなわち過給力を高めることができる。特に、排気流量が少ない場合において、効果的に過給力を高めることができる。
ここで、このように各吸入通路152,153の軸線がそれぞれタービン本体51の外周縁における接線と一致するように配置し、各吸入通路152,53から排出された排気がタービン本体51の外周縁に向かうように構成した場合、排気がタービンスクロール部155の径方向内側部分を高速で流通することになる。そのため、タービンスクロール部155の径方向内側部分では排気脈動が比較的大きくなる。これに対して、当実施形態では、EGR通路91と連通するEGR用開口部155bがタービンスクロール部155の径方向外側部分であって排気脈動が比較的小さくなる部分に形成されている。従って、EGR通路91に流入する排気の脈動を小さく抑えてEGRガスの流量を安定させることができる。そして、吸気通路12に還流されるEGRガス量の変動を抑制して、EGRガス量を高い精度で吸気通路12に供給すること、ひいては、燃焼安定性を高めることができる。
(4)変形例
上記実施形態では、各吸入通路152,153の下流端152a,153aの位置が、吸入部151の下流端すなわちタービンスクロール部155の上流端の舌部155aよりも上流側の位置とされた場合について説明したが、これら下流端152a,153aの位置は、タービンノズル部156から上流側に離間した位置であればよく、これに限らない。例えば、これら下流端152a,153aの位置が、舌部155a付近とされてもよい。また、舌部155aよりも下流側とされてもよい。
また、上記実施形態では、各吸入通路152,153がタービン本体51の周方向に沿って並設された場合について説明したが、図10に示すように、各吸入通路552,553をタービン本体51の軸方向に並べてもよい。ただし、上記のように、各吸入通路152,153を径方向に配列すれば各吸入通路152,153から排出された排気をタービン本体51の各羽根51aの軸方向全体により均一に衝突させることができる。
また、上記実施形態では、第1ロータ収容室31aのプライマリポート10aとセカンダリポート10bとを共通の第1独立排気通路131に連通させ、第2ロータ収容室31aのプライマリポート10aとセカンダリポート10bとを共通の第2独立排気通路132に連通させた場合について説明したが、排気通路と排気ポートの接続構成はこれに限らない。例えば、図11に示すように、第1ロータ収容室31aのプライマリポート10aのみを第1独立排気通路131に連通させ、第2ロータ収容室31aのプライマリポート10aのみを第2独立排気通路132に連通させてこれら通路131,132をタービン50に接続し、第1ロータ収容室31aおよび第2ロータ収容室31aの各セカンダリポート10bはタービン50をバイパスするようにしてもよい。例えば、第1ロータ収容室31aおよび第2ロータ収容室31aの各セカンダリポート10bを一つの通路630にまとめてタービン50を通過することなくタービン50の下流側に設けられた触媒装置100に接続してもよい。
また、上記実施形態では、エンジン本体がロータリエンジンの場合について説明したが、複数の気筒を有する多気筒のレシプロエンジンに当実施形態に係る装置を適用してもよい。ただし、上記のように、ロータリエンジンでは排気干渉が特に大きくなるため、当実施形態に係る装置をロータリエンジンに適用すれば効果的に排気干渉を抑制することができる。
また、ロータリエンジンに適用した場合においても、ロータ収容室の数(気筒数)は上記に限らない。