以下、ここに開示するターボ過給機付きエンジンの排気装置について、図面を参照しながら説明をする。
(多気筒ロータリーピストンエンジンの構成例)
ここでは、多気筒ロータリーピストンエンジンを例に、説明をする。尚、以下に示すロータリーピストンエンジンの構成は例示である。
図1及び図2は、ロータリーピストンエンジン1(以下、単にロータリーエンジン1ともいう)の構造を示している。ロータリーエンジン1は、図2に示すように、2つのロータ2を備えた2ロータタイプである。2ロータの(言い換えると2気筒の)ロータリーエンジン1は、前側(便宜上、図2における紙面左側)及び後側(便宜上、図2における紙面右側)の2つのロータハウジング3、3が、インターミディエイトハウジング(つまり、サイドハウジング)4をその間に挟んだ状態で、これらの両側からさらに2つのサイドハウジング41、41で挟み込むようにして一体化されることによって構成されている。尚、ロータ2の個数(つまり、気筒数)はこれに限定されるものではない。
ロータハウジング3の、平行トロコイド曲線で描かれるトロコイド内周面3aと、これらロータハウジング3を両側から挟むサイドハウジング41の側面41aと、インターミディエイトハウジング4の両側の側面4aとによって、回転軸Xの一方側から回転軸Xに沿う方向にロータリーピストンエンジン1を見たときに、繭のような略楕円形状をしたロータ収容室31が、前側及び後側の2つ横並びに区画されている。これらロータ収容室31にロータ2が1つずつ収容されている。各ロータ収容室31は、インターミディエイトハウジング4に対して対称に配置されている。ロータ2の位置及び位相が異なっている点を除けば構成は同じであるため、以下、1つのロータ収容室31について説明する。
ロータ2は、回転軸Xの方向から見て各辺の中央部が膨出する略三角形状をしたブロック体からなる。ロータ2は、その外周に、各頂部間に3つの略長方形をしたフランク面2a、2a、2aを備えている。
ロータ2は、各頂部に図示しないアペックスシールを有している。これらアペックスシールは、ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接する。このロータハウジング3のトロコイド内周面3aと、インターミディエイトハウジング4の側面4aと、サイドハウジング41の側面41aと、ロータ2のフランク面2aとで、ロータ収容室31の内部に、3つの作動室8、8、8がそれぞれ区画形成されている。従ってこのエンジン1は、前側気筒31aに第1〜第3の3つの作動室8と、後側気筒31bに第4〜第6の3つの作動室8の、合計6個の作動室を有している。
ロータ2の内側には位相ギアが設けられている(図示せず)。すなわち、ロータ2の内側の内歯車(ロータギア)とサイドハウジング41側の外歯車(固定ギア)とが噛合する。ロータ2は、出力軸Xを構成するエキセントリックシャフト6に対して、遊星回転運動をするように支持されている。エキセントリックシャフト6は、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング41を貫通する。尚、符号21は、ロータ2の側面に設けられたオイルシールであり、余分な潤滑オイルが作動室8内に流入することを防止する。
ロータ2の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定される。ロータ2は、3つのシール部が各々ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪(偏心軸)6aの周りを自転しながら、回転軸Xの周りに自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含め、広い意味で単にロータの回転という)。そして、ロータ2が1回転する間に3つの作動室8、8、8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われる。このサイクルによって発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
より具体的に、ロータ2は矢印で示すように、時計回りに回転する。回転軸Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の右側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、左側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。
ここで、従来構成のロータリーピストンエンジンは、長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。本構成のロータリーピストンエンジンは、従来構成のロータリーピストンエンジンを、回転軸Xを中心として180°回転させたような状態で車両に搭載している。但し、ロータリーピストンエンジンの搭載状態は、従来と同じ搭載状態にしてもよい。
図1における右下の作動室8に着目すると、これは吸気と噴射された燃料とによって混合気を形成する吸気行程を示している。この作動室8がロータ2の回転につれて圧縮行程に移行すると、その内部にて混合気が圧縮される。その後、図1の左側に示す作動室8のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ82、83により点火されて、燃焼・膨張行程が行われる。そして、最後に図1の右上の作動室8のような排気行程に至ると、燃焼ガスが排気ポート10から排気された後、再び吸気行程に戻って各行程が繰り返されるようになっている。
吸気行程の状態にある作動室8には、吸気ポート11が連通している。吸気ポート11の開口部は、より詳細には、吸気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の側面4aに、ロータ収容室31の外周側の、回転軸Xを通るロータ収容室31の短軸Z寄りで設けられている。吸気ポート11は、インターミディエイトハウジング4内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。また、図示は省略するが、吸気行程の状態にある作動室8に面するサイドハウジング41の側面41aにも、吸気ポート11の開口部に対向するように、別の吸気ポートの開口部が設けられている。この吸気ポートも、サイドハウジング41内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。エンジン1の側面には、吸気ポート11に連通する吸気マニホールドの独立通路12が取り付けられる。
排気行程の状態にある作動室8には、排気ポート10が連通している。排気ポート10の開口部は、より詳細には、排気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の側面4a、及び/又は、サイドハウジング41の側面41aに、ロータ収容室31の外周側の短軸Z寄りで設けられている。排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4又はサイドハウジング41内を、斜め上方に向かって延びて、エンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。このエンジン1では、いわゆるサイド排気方式が採用されており、この排気ポート10の開口部の位置及び形状は、吸気のオープンタイミングと排気のオープンタイミングとがオーバーラップしないように設定されている。これによって、次行程に持ち込まれる残留排気ガスを低減している。エンジン1には、排気ポート10に連通する排気通路13が接続される。排気ポート10及び排気通路13の構成についての詳細は、後述する。
作動室8内に燃料を供給するためのインジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に取り付けられている。インジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に設けた吸気ポート11内に燃料を噴射する。
ロータハウジング3の側部における、短軸Zを挟んだロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とにはそれぞれ、T側点火プラグ82とL側点火プラグ83とが取り付けられている。これら2つの点火プラグ82、83は、圧縮・膨張状態にある作動室8に臨んでおり、作動室8内の混合気に、同時に点火、又は位相差を持って順に点火をする。
図2は、ターボ過給機付きロータリーエンジン1の排気装置の構成を示している。排気装置は、排気ポートに接続される排気通路13と、ターボ過給機5のタービン51と、その下流の触媒装置100と、を備えている。触媒装置100は、例えば三元触媒を備えて構成される。
前述したように、2ロータタイプのロータリーエンジン1において、各気筒(つまり、ロータ2を収容するロータ収容室31であり、以下、説明の便宜上、図2における左側の気筒を前側気筒31aと呼び、図2における右側の気筒を後側気筒31bと呼ぶ)には、排気ポート10が設けられている。
前側気筒31aの排気ポート10は、サイドハウジング41とインターミディエイトハウジング4との両方に設けられている。つまり、前側気筒31aの排気ポート10は、サイドハウジング41に設けられた排気ポート10aと、インターミディエイトハウジング4に設けられた排気ポート10bとを含む。ここで、インターミディエイトハウジング4には、前側気筒31aの排気ポート10bのみが設けられている。インターミディエイトハウジング4の厚みを比較的薄くしつつも、十分な通路断面積を有する排気ポート10bを形成することが可能になる。
前側気筒31aの排気ポート10には、第1の排気通路131が接続されている。第1の排気通路131は、2つの排気ポート10a及び10bのそれぞれに接続される独立通路と、2つの独立通路が合流した合流通路とを含んでいる。タービン51を収容するタービンハウジング53は、合流通路の途中に設けられている。第1の排気通路131は、タービン51に接続されるため、熱対策として鋳物によって構成されている。図2では、鋳物により構成される第1の排気通路131を、厚肉に描いている。このロータリーエンジン1では、前側気筒31aが、タービン51に接続される第1種の気筒に相当する。前側気筒31aに接続される第1の排気通路131は、後側気筒31bとは独立しているため、排気干渉を回避して、高い排気エネルギをタービン51に供給することが可能である。
後側気筒31bの排気ポート10cは、サイドハウジング41にのみ設けられている。従って、前側気筒31aの排気ポート10a、10bの通路断面積の合計は、後側気筒31bの排気ポート10cの通路断面積よりも大きい。タービン51に接続される第1の排気通路131は排気抵抗が高くなり得るが、排気ポート10a、10bの通路断面積が相対的に大きいため、前側気筒31aは、排気抵抗の増大が抑制される。
後側気筒31bの排気ポート10cには、第2の排気通路132が接続されている。第2の排気通路132は、タービン51をバイパスして、タービン51の下流において、第1の排気通路131と集合する。第2の排気通路132に接続される排気ポート10cは、通路断面積が相対的に小さくなるが、第2の排気通路132はタービン51をバイパスするため、後側気筒31bも、排気抵抗の増大が抑制される。
第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所において、第2の排気通路132の開口端部は、第1の排気通路131の開口端部に対して隣り合うように設けられる。図2の例では、第1の排気通路131の開口端部の周囲を囲むように、第2の排気通路132の開口端部が設けられる。これにより、第1の排気通路131の開口端部から吐き出される排気ガスの流れと、第2の排気通路132の開口端部から吐き出される排気ガスの流れとは、実質的に同じ方向になる。第2の排気通路132の開口端部にはまた、その通路面積が縮小する絞り1321が設けられている。これにより、第2の排気通路132から吐き出される排気ガスの流速が高まり、第2の排気通路132の開口端部の周囲に、エゼクタ効果によって、強い負圧が発生する。この強い負圧が、第1の排気通路131から排気ガスを吸い出すようになり、タービン51の下流側の圧力が低下する。その結果、タービン51の上流側と下流側との圧力差が大きくなり、タービン効率が高まる。
第2の排気通路132は、タービン51をバイパスする通路であるため、第1の排気通路131と比較して温度が低くなる。第2の排気通路132は、シート材(例えば鋼板)によって構成される。これにより、第2の排気通路132の熱容量は、第1の排気通路131の熱容量よりも小さくなる。尚、図2では、シート材により構成される第2の排気通路132を、薄肉に描いている。このロータリーエンジン1では、後側気筒31bが、タービン51をバイパスする第2種の気筒に相当する。
触媒装置100は、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流に配設されている。
排気通路13にはまた、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流でかつ、触媒装置100の上流に、O2センサ134が配設されている。O2センサ134は、排気ガス中の酸素濃度を検知するよう構成されている。O2センサ134の検知結果は、様々な制御に利用される。ここでは特に、ロータリーエンジン1における燃焼状態を検知するために利用される。具体的には、不完全燃焼の発生等を検知する。
燃焼状態の検知に関連し、燃焼状態が悪化した気筒を識別するためのO2センサ135(つまり、気筒識別用O2センサ135)が、第1の排気通路131に配設されている。気筒識別用O2センサ135は、より詳細には、タービン51の下流でかつ、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも上流に配設されている。排気通路13におけるこの箇所は、前側気筒31aから排出された排気ガスのみが通る箇所である。従って、触媒装置100の上流のO2センサ134の検出値と、気筒識別用O2センサ135の検出値との比較によって、前側気筒31aと後側気筒31bとの識別が可能になる。具体的に、触媒装置100の上流のO2センサ134の検出値に基づき、不完全燃焼の発生等を検知したときに、気筒識別用O2センサ135の検出値も、同様の傾向を示すときには、前側気筒31aにおいて不完全燃焼等が発生していると判定することが可能である。逆に、気筒識別用O2センサ135の検出値が、同様の傾向を示さないときには、後側気筒31bにおいて不完全燃焼等が発生していると判定することが可能である。多気筒のロータリーピストンエンジン1は排気行程が重なるため、レシプロエンジンにおいて採用されている一つのO2センサを利用して、各気筒の空燃比を変更することで気筒識別を行う手法では、正確な気筒識別が困難であるが、第1の排気通路131におけるタービン51の下流と、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所よりも下流と、のそれぞれにO2センサ134、135を配設することによって、前述したように、ロータリーピストンエンジン1においても気筒識別が可能になる。
また、タービン51の下流側は、排気ガスの温度が低下しているから、第1の排気通路131におけるタービン51の下流にO2センサ135を配置することは、耐熱温度が低いO2センサを用いることが可能になるという利点もある。
ターボ過給機5は、図2に模式的に示すように、タービンハウジング53内にベーン54が設けられたVGTである。つまり、VGTは、ロータリーエンジン1の運転状態に応じて、ベーン54の角度を変更することにより、タービンハウジング53内の、排気ガスの通路面積を変化させるよう構成されている。詳細は後述するが、このロータリーエンジン1では、ロータリーエンジン1の運転状態に応じてベーン54の角度を変更すること以外に、触媒装置100の未活性時にも、排気ガスの通路面積が小さくなるように、ベーン54の角度を変化させる。
ターボ過給機5には、ウェストゲートバルブ136が設けられている。ウェストゲートバルブ136は、ここでは、電動のバルブであり、所定の過給圧以上のときに開弁する。ウェストゲートバルブ136が開弁することにより、排気ガスの一部はタービンをバイパスするようになる。ウェストゲートバルブ136は、後述するように、触媒装置100の未活性時にも開弁する。
尚、ターボ過給機5のベーン54の角度、及び、電動のウェストゲートバルブ136の開度は、図示を省略するPCM(Powertrain Control Module)によって、その動作が制御される。
尚、ターボ過給機5のコンプレッサ52は、図2では図示しないが、吸気通路に配設される。吸気通路は、コンプレッサ52の下流において、前側気筒31aに接続される独立通路12と、後側気筒31bに接続される独立通路12とに分岐する。従って、ターボ過給機5のタービン51には、前述したように、前側気筒31a及び後側気筒31bの内の、前側気筒31aのみが接続されるが、コンプレッサ52には、前側気筒31a及び後側気筒31bの両方が接続される。前側気筒31a及び後側気筒31bのそれぞれに対して過給が行われる。
尚、ここに開示する技術は、2気筒のロータリーピストンエンジン1に適用することに限定されない。図示は省略するが、例えば3気筒のロータリーピストンエンジンに、ここに開示する技術を適用することも可能である。この場合は、例えば3つ並んだ気筒の内、中央の1つの気筒を第1種の気筒とし、両端の2つの気筒を第2種の気筒としてもよい。この構成では、2つのインターミディエイトハウジングにはそれぞれ、第1種の気筒の排気ポートを形成し、2つのサイドハウジングにはそれぞれ、第2種の気筒の排気ポートを形成してもよい。
以上説明したように、ここに開示するターボ過給機付きエンジンの排気装置は、複数の気筒31a、31bを有するよう構成されたエンジン1と、前記複数の気筒31a、31bそれぞれから排出される排気ガスが流れるよう構成された排気通路13と、前記排気通路13に配設されたタービン51を有するよう構成されたターボ過給機5と、を備える、
前記複数の気筒31a、31bは、一つの、又は、排気干渉をしない複数の気筒であると共に、第1の排気通路131を通じて前記タービン51に接続される第1種の気筒(つまり、前側気筒31a)と、一つの、又は、排気干渉をしない複数の気筒であると共に、前記タービン51をバイパスする第2の排気通路132を通じて前記タービン51の下流で前記第1の排気通路131と集合する第2種の気筒(つまり、後側気筒31b)とを含み、前記第2の排気通路132において、前記タービン51の下流側で前記第1の排気通路131と集合する開口端部は、前記第1の排気通路131の流れ方向と実質的に同じになるように前記第1の排気通路131の開口端部に隣り合って設けられると共に、通路面積を縮小する絞り1321が設けられている。
この構成によると、エンジン1が有する複数の気筒は、前側気筒31aと後側気筒31bとを含む。前側気筒31aは、第1の排気通路131を通じてタービン51に接続される。後側気筒31bは、第2の排気通路132によって、タービン51をバイパスし、タービン51の下流で第1の排気通路131と集合する。ロータリーピストンエンジン1では、2つの気筒の排気行程が重なり合うが、タービン51の上流において、第1の排気通路131と第2の排気通路132とが互いに独立であるから、排気干渉が生じない。排気干渉が回避されることで、第1の排気通路131を通じてタービン51に供給する排気エネルギを高めることが可能になる。また、前側気筒31a及び後側気筒31b内の残留排気ガスを少なくすることが可能になる。
第2の排気通路132の、第1の排気通路131との集合箇所に絞り1321を設けることにより、第2の排気通路132からの排気ガスの流れの流速が、絞り1321によって高められ、第2の排気通路132の開口端部の周囲に強い負圧が発生する(エゼクタ効果)。このエゼクタ効果によって、第1の排気通路131を流れる排気ガスが吸い出され、タービン51の下流側の圧力が低下する。タービン51の上流側と下流側との圧力差が大きくなり、タービン効率が高まる。この構成の排気装置は、部分過給構成であるため、タービン51に供給される排気エネルギは、低下し得るものの、タービン51をバイパスする後側気筒31bから排出された排気ガスのエネルギを利用してタービン前後の圧力差を高め、それによってタービン効率を高めることにより、タービン51に供給される排気エネルギの低下分を補って、過給能力を高めることが可能になる。その結果、前側気筒31a及び後側気筒31bを含むエンジン全体の吸気充填効率が高まる。
また、エンジンの高回転域では、エゼクタ効果によってタービン51の下流側の圧力が低下することで、ポンプ損失が低減するという利点もある。
さらに、前側気筒31aの排気ポート10a、10b、及び、第1の排気通路131は、タービン51に接続されるため、排気抵抗が高くなり得るが、通路断面積を大きくすることで、排気抵抗の増大が抑制される。前側気筒31aから排出される排気ガスのエネルギを、効率良く、タービン51に供給することが可能になる。
一方、後側気筒31bの排気ポート10c、及び、第2の排気通路132は、通路断面積が相対的に小さくなるが、第2の排気通路132はタービン51に接続されないため、排気抵抗が低い。このため、通路断面積が相対的に小さくても、第2の排気通路132は、排気抵抗の増大が抑制される。後側気筒31bから排出される排気ガスも、スムースに排出することが可能になる。
こうして、排気干渉の回避と共に、第1及び第2の排気通路132における排気抵抗の低減によって、ターボ過給機付きロータリーピストンエンジン1のポンプ損失が低減する。
前記第1の排気通路131には、所定の過給圧以上のときに開弁することによって、前記タービン51をバイパスして前記排気ガスを流すよう構成されたウェストゲートバルブ136が配設されている。
これにより、エンジン1の高回転域では、前側気筒31aから排出された排気ガスが、タービン51をバイパスして流れるようになるため、エンジン1の背圧が低下する。一方、後側気筒31bから排出された排気ガスは、タービン51をバイパスする第2の排気通路132を流れるため、エンジン1の高回転域でもエンジンの背圧上昇が抑制される。こうして、高回転域において、エンジン1のポンプ損失が低減する。また、エンジン1の高回転域では、エゼクタ効果によってタービン51の下流側の圧力が低下することでも、ポンプ損失が低減する。
前記ターボ過給機5は、前記タービン51における前記排気ガスの通路面積が変化するよう構成されたVGTであり、前記ターボ過給機5は、前記エンジン1が低回転域にあるときに、前記タービン51における前記排気ガスの通路面積を絞るように、ベーン54の角度を変更する。
こうすることで、エンジン1の低回転域では、VGTのベーン54によって排気ガスの通路面積を絞ることと、第1の排気通路131と第2の排気通路132との集合箇所におけるエゼクタ効果と、によって、タービン効率を高めることが可能になる。エンジン1の低回転域においてターボ過給機5の過給能力が高まって、吸気充填効率が高めることが可能になる。
さらに、このエンジン1では、触媒装置100が未活性のときには、ベーン54の角度を変更することにより、前側気筒31aから排出された排気ガスがタービン51に流入することを制限しつつ、電動のウェストゲートバルブ136を開けることにより、タービン51をバイパスして前側気筒31aから排出された排気ガスを触媒装置100に送る。これにより、触媒装置100の未活性時には、前側気筒31a及び後側気筒31bのそれぞれから排出された排気ガスが、タービン51をバイパスして触媒装置100に送られるようになる。
また、第2の排気通路132は、シート材から構成されている。これにより、第2の排気通路132の熱容量が小さくなる。そのため、触媒装置100が未活性のときに、温度の高い排気ガスを触媒装置100に送ることが可能になる。これにより、触媒装置100の早期活性化が図られる。
また、エンジン1の高負荷高回転域では、タービン51を通過することによって温度が低下した排気ガスが、タービン51をバイパスした排気ガスと混ざり合って、触媒装置100に送られる。エンジン1の高負荷高回転域では、触媒装置100に送られる排気ガスの温度が過剰に高くなるという懸念があるが、排気ガスの一部が、タービン51を通過することにより、触媒装置100に送られる排気ガスの温度を低くして、触媒装置100の劣化を防止することが可能になる。
(多気筒レシプロエンジンの構成例)
図3は、ここに開示する技術を、多気筒レシプロエンジンに適用した構成例を示している。このレシプロエンジン101は、第1〜第4の4つの気筒311、312、313、314を有している。4つの気筒311、312、313、314は、クランク軸方向に一列に並んでいる。このレシプロエンジン101は、直列4気筒エンジンである。尚、レシプロエンジンの気筒数、及び、気筒の配列はこれに限定されない。
このエンジンは、4サイクルエンジンである。4つの気筒311〜314はそれぞれ、吸気、圧縮、膨張(燃焼)、及び排気の各行程を、異なる位相で行う。4つの気筒311〜314の点火順は、第1気筒311、第3気筒313、第4気筒314、第2気筒312の順に設定されている。従って、第1気筒311と第4気筒314とは、排気順序が隣り合わず、それによって排気干渉が生じない気筒同士となる。同様に、第2気筒312と第3気筒313とは、排気順序が隣り合わずに、排気干渉が生じない気筒同士となる。
図3に模式的に示すように、各気筒311〜314には、排気ポート315が連通している。排気ポート315は、図3では図示を省略する排気弁によって開閉する。
排気ポート315には、排気通路130が接続される。排気通路130は、第2及び第3気筒312、313の排気ポート315に接続される第1の排気通路1310と、第1及び第4気筒311、314の排気ポート315に接続される第2の排気通路1320と、に分けられる。第1の排気通路1310と第2の排気通路1320とは、下流側において互いに集合する。触媒装置100は、集合通路上に配設されている。
第1の排気通路1310は、第2気筒312の排気ポート315及び第3気筒313の排気ポート315のそれぞれに対して、独立して接続される独立通路と、2つの独立通路が合流した合流通路とを含んでいる。ターボ過給機5のタービン51を収容するタービンハウジング53は、合流通路の途中に設けられている。第1の排気通路1310は、タービン51に接続されるため、熱対策として鋳物によって構成されている。このレシプロエンジン101では、第2気筒312及び第3気筒313が、タービン51に接続される第1種の気筒に相当する。
第2の排気通路1320は、第1気筒311の排気ポート315に接続される独立通路と、第4気筒314の排気ポート315に接続される独立通路とを含んでいる。第2の排気通路1320は、タービン51をバイパスして、タービン51の下流において、第1の排気通路131と集合する。
第1の排気通路1310と第2の排気通路1320との集合箇所において、第2の排気通路1320の開口端部は、第1の排気通路1310の開口端部に対して隣り合うように設けられる。図3の例では、第1の排気通路1310の開口端部を挟んだ両側それぞれに、第1気筒311の排気ポート315に接続される第2の排気通路1320の開口端部と、第4気筒314の排気ポート315に接続される第2の排気通路1320の開口端部とが配設される。この構成により、第1の排気通路1310の開口端部から吐き出される排気ガスの流れと、第2の排気通路1320の開口端部から吐き出される排気ガスの流れとは、実質的に同じ方向になる。第2の排気通路1320の開口端部にはまた、その通路面積が縮小する絞り1321が設けられている。これにより、第2の排気通路1320から吐き出される排気ガスの流速が高まり、第2の排気通路1320の開口端部の周囲に、エゼクタ効果によって、強い負圧が発生する。この強い負圧によって第1の排気通路1310から排気ガスが吸い出され、タービン51の下流側の圧力が低下する。
第2の排気通路1320は、タービン51をバイパスする通路であるため、第1の排気通路1310と比較して温度が低くなる。第2の排気通路1320は、シート材(例えば鋼板)によって構成される。これにより、第2の排気通路1320の熱容量は、第1の排気通路1310の熱容量よりも小さくなる。このレシプロエンジン101では、第1気筒311及び第4気筒314が、タービン51をバイパスする第2種の気筒に相当する。
ターボ過給機5は、前述した構成例と同様に、タービンハウジング53内にベーン54が設けられたVGTである。ベーン54の角度は、レシプロエンジン101の運転状態に応じて変更される。また、レシプロエンジン101においても、触媒装置100の未活性時には、排気ガスの通路面積が小さくなるように、ベーン54の角度を変化させる。
また、このターボ過給機5にも、電動のウェストゲートバルブ136が設けられている。ウェストゲートバルブ136は、所定の過給圧以上で開弁する他、触媒装置100の未活性時にも開弁をする。
尚、図3では図示を省略するが、ターボ過給機5のコンプレッサ52は、吸気通路における共通通路に配設される。これにより、第1〜第4の各気筒311〜314に対して過給が行われる。
尚、レシプロエンジン101においては、従来公知の技術によって気筒識別を行うことが可能であるため、ロータリーピストンエンジン1とは異なり、図3に示す構成例では、第1の排気通路1310に、気筒識別用のO2センサを配設していない。しかし、第1の排気通路1310に、気筒識別用のO2センサを配設するようにしてもよい。
このレシプロエンジン101においても、第1種の気筒である第2気筒312及び第3気筒313は、第1の排気通路1310を通じてタービン51に接続される。第2種の気筒である第1気筒311及び第4気筒314は、第2の排気通路1320によって、タービン51をバイパスし、タービン51の下流で第1の排気通路1310と集合する。第2気筒312と第3気筒313とは排気干渉しない気筒同士であり、タービン51の上流において、第1の排気通路1310と第2の排気通路1320とが互いに独立であるから、このレシプロエンジン101においても、排気干渉が生じない。排気干渉が回避されることで、第1の排気通路1310を通じてタービン51に供給する排気エネルギを高めることが可能になる。また、各気筒311〜314内の残留排気ガスを少なくすることが可能になる。
また、第1の排気通路1310と第2の排気通路1320との集合箇所におけるエゼクタ効果によって、タービン下流側の圧力が低下し、タービンの上流側と下流側との圧力差が大きくなって、タービン効率が高まる。その結果、部分過給構成であるためタービン51に供給される排気エネルギは低下するが、その低下分を補って、過給能力が高まり、第1〜第4気筒311〜314を含むエンジン全体の吸気充填効率が高まる。また、レシプロエンジン101の高回転域において、ウェストゲートバルブ136が開弁することで、第2及び第3気筒312、313から排出された排気ガスがタービン51をバイパスして流れるようになり、かつ、第1及び第4気筒311、314から排出された排気ガスは、第2の排気通路1320を通じてタービン51をバイパスして流れるため、エンジン101の背圧を低下させることが可能になる。これにより、レシプロエンジン101の高回転域においてポンプ損失が低減する。
さらに、レシプロエンジン101の低回転域においては、VGTのベーン54によってタービンハウジング53内の排気ガスの通路面積を絞ることによる流速向上と、エゼクタ効果によるタービン51の下流の圧力低下とによって、タービン効率を高めることが可能になる。その結果、レシプロエンジン101の低回転域においては、ターボ過給機5の過給能力が高まって、吸気充填効率が高まる。
さらに、触媒装置100の未活性時には、ベーン54の角度を変更することにより、前記前側気筒31aから排出された排気ガスが前記タービン51に流入することを制限しつつ、ウェストゲートバルブ136が開弁することにより、タービン51をバイパスして第2及び第3気筒312、313から排出された排気ガスを触媒装置100に送る。これにより、触媒装置100の未活性時には、全ての気筒311〜314のそれぞれから排出された排気ガスが、タービン51をバイパスして触媒装置100に送られるようになる。
また、第2の排気通路132は0、シート材から構成されている。これにより、第2の排気通路1320の熱容量が小さくなる。そのため、触媒装置100が未活性のときに、温度の高い排気ガスを触媒装置100に送ることが可能になる。これにより、触媒装置100の早期活性化が図られる。
また、エンジン1の高負荷高回転域では、タービン51を通過することによって温度が低下した排気ガスが、タービン51をバイパスした排気ガスと混ざり合って、触媒装置100に送られる。触媒装置100に送られる排気ガスの温度を低くして、触媒装置100の劣化を防止することが可能になる。