JP6269966B2 - 電極用バインダー組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、電極用バインダー組成物に関する。
近年、電気自動車、電子機器などの駆動用電源として、高電圧であり、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。この用途の蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、電極活物質と、バインダーとして機能する重合体粒子と、の混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより製造される。この重合体粒子に要求される特性として、例えば以下の諸特性を挙げることができる。
・電極活物質同士の結合能力および電極活物質と集電体との結着能力、
・電極を巻き取る工程における耐擦性、
・電極用組成物層形成後の裁断などによっても該組成物層の微粉などが発生しない粉落ち耐性、など。
重合体粒子がこれらの種々の要求特性を満足することにより、得られる電極の折り畳み方法、捲回半径の設定などの蓄電デバイスの構造設計の自由度が高くなり、デバイスの小型化を達成することができる。上記電極用活物質層は、本明細書において、以下、「電極活物質層」あるいは単に「活物質層」ともいう。
上記の電極活物質同士の結合能力および電極活物質層と集電体との接着能力、ならびに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。従って本明細書では、以下、これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
近年、このような蓄電デバイスの高出力化および高エネルギー密度化の要求を達成するために、リチウム吸蔵力の大きい材料を適用する検討が進められている。例えばケイ素は、リチウムとともに金属間化合物を形成することにより、リチウムを可逆的に吸蔵・放出することができる。このケイ素の理論容量は最大で約4,200mAh/gであり、従来用いられていた炭素材料の理論容量約370mAh/gと比較して極めて大きい。従って、ケイ素材料を負極活物質として用いることにより、蓄電デバイスの容量が大幅に向上するはずである。しかしながら、ケイ素材料は充放電に伴う体積変化が大きいことから、従来使用されている電極バインダー材料をケイ素材料に適用すると、初期密着性を維持することができずに充放電に伴って顕著な容量低下が発生する。
このようなケイ素材料を活物質層に保持するための電極バインダー材料として、ポリイミドを適用する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2および特許文献3)。これらの技術は、ポリイミドの剛直な分子構造でケイ素材料を束縛することによって、ケイ素材料の体積変化をおさえ込もうという技術思想に基づく。これらの文献では、ポリアミック酸を含有する電極用スラリーを集電体表面へ塗布して塗膜を形成した後、該塗膜を高温で加熱してポリアミック酸を熱イミド化することにより、ポリイミドが生成すると説明されている。しかしながら、これらのポリイミドを用いたバインダー材料は密着性が不十分であり、充放電を繰り返すことにより電極が劣化するため、十分な耐久性を発揮できない問題点を有する。
特開2007−95670号 特開2011−192563号 特開2011−204592号
本発明は、上記のような現状を打開しようとしてなされたものである。本発明の目的は、充放電容量が大きく、充放電サイクルの繰り返しによる容量劣化の程度が少ない蓄電デバイスを与える、電極用バインダー組成物を提供することにある。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
少なくとも
(A)重合体粒子、
(B)ポリアミック酸およびその部分イミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ならびに
(C)液状媒体
を含有することを特徴とする、蓄電デバイスの電極用バインダー組成物によって達成される。
本発明の電極用バインダー組成物は、密着性および充放電特性に優れる電極を製造することができる。本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造された電極は、機械的強度に優れているため、充放電の際に顕著な体積変化を示す電極活物質を用いた場合でも、電極特性に優れるものである。
合成例A2−1で合成した重合体粒子のDSCチャートである。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含むものとして理解されるべきである。
本明細書における「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜」および「メタクリル酸〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
1.電極用バインダー組成物
本実施の電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスに使用される電極を製造するために使用されるバインダー組成物であって、少なくとも、(A)重合体粒子、(B)ポリアミック酸およびその部分イミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ならびに(C)液状媒体を含有するものである。
本発明の電極用バインダー組成物における(B)重合体の含有割合は、(A)重合体粒子の含有量をMa(質量部)、(B)重合体の含有量をMb(質量部)としたときに、Ma/Mbの値が、1〜50となる割合とすることが好ましく、5〜30となる割合とすることが好ましい。また、本発明の電極用バインダー組成物の全量に対する(B)重合体の含有割合として、5,000〜100,000ppmwとすることが好ましく、10,000〜50,000ppmwとすることがより好ましく、特に15,000〜30,000ppmwとすることが好ましい。上記の「ppmw」は、質量基準の100万分の1を表す単位である。
電極用バインダー組成物中の(B)重合体の含有割合を前記の範囲内とすることにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量が増大するとともに、充放電特性も向上する。
すなわち、蓄電デバイスでは、一般に、活物質表面に付着したバインダー(重合体)は、電解液と活物質との間の電荷移動物質(例えば溶媒和したリチウムイオン)の移動を妨げるから、重合体の付着分だけ蓄電容量が減じることとなる。しかしながら、(B)重合体の含有割合を前記の範囲内とすることにより、バインダー作用を損なうことなくバインダーの電解液に対する膨潤性を向上することができる。電解液で膨潤したバインダーは電荷移動物質の移動を妨げないから、これを用いた蓄電デバイスは、大きな蓄電容量を有することとなるのである。
さらに、(B)重合体の含有割合を前記の範囲内とすることにより、蓄電デバイスの電極において、(A)重合体粒子の寄与による柔軟性と(B)重合体の寄与による機械的強度とがバランスよく発現することとなる。従って、このような電極は、バインダーとしての密着性を維持したまま充放電に伴う活物質の体積変化に追随できるから、優れた充放電特性を発現するのである。
(C)液状媒体の使用割合は、電極用バインダー組成物の固形分濃度(電極用バインダー組成物中の(C)液状媒体以外の成分の合計質量が電極用バインダー組成物の全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、5〜80質量%となる割合とすることが好ましく、20〜70質量%となる割合とすることがより好ましい。
以下、本実施の電極用バインダー組成物に含有される各成分について、詳細に説明する。
1.1 (A)重合体粒子
本発明の電極用バインダー組成物における(A)重合体粒子は、活物質層においてバインダーとなる成分である。
(A)重合体粒子の平均粒子径は、50〜400nmの範囲にあることが好ましく、100〜250nmの範囲にあることがより好ましい。(A)重合体粒子の平均粒子径が前記範囲にあることにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造される電極において、電極活物質の表面への(A)重合体粒子の吸着が効果的になされ、電極活物質の移動に伴って(A)重合体粒子も追随して移動することができることとなる。その結果、電極活物質粒子および重合体粒子のうちのどちらかのみが単独でマイグレートすることを抑制することができるので、充放電に伴う電気的特性の劣化を抑制することができる。
この平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、粒子を粒径の小さい順に累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このような粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LB−550、SZ−100シリーズ(以上、(株)堀場製作所製)、FPAR−1000(大塚電子(株)製)などを挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。従って、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、電極用バインダー組成物中に含有される(A)重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。(A)重合体粒子の平均粒子径は、本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製された電極用スラリーを遠心分離して電極活物質を沈降させた後、その上澄み液を上記の粒度分布測定装置によって測定する方法によっても測定することができる。
この(A)重合体粒子としては、例えば
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と
を有する重合体を含有する粒子(以下、「重合体粒子A1」という。)、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体を含有する粒子(以下、「重合体粒子A2」という。)などを挙げることができ、これらのうちのいずれかを使用することが好ましい。
1.1.1 重合体粒子A1
重合体粒子A1は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、を有する重合体を含有する粒子である。
この重合体粒子A1を示差走査熱量計(DSC)によって測定した場合、−40〜+25℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−30〜+20℃の範囲にあることがより好ましく、−25〜+10℃の範囲にあることがさらに好ましい。DSC分析における重合体粒子A1の吸熱ピークが1つのみであり、且つ該ピーク温度が上記の範囲にあるとき、該重合体は良好な密着性を示すとともに、厚物質層に適度の柔軟性を付与することができることとなり、好ましい。上記の吸熱ピークは、重合体粒子A1のガラス転移温度Tgであると考えられる。
重合体粒子A1は、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位およびその他の単量体に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される1種以上の繰り返し単位をさらに有していてもよい。
本発明における重合体粒子A1は、活物質層においてバインダーとなる成分であるから、結着性および導電付与剤に対する親和性のほかに、電解液に対する膨潤性が重要である。また、本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製される電極用スラリーは、経時的に安定であることが好ましい。このような観点から、重合体粒子A1は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位および芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位のほかに、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位および不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位をさらに有することが好ましく、これらの双方を有することがより好ましい。
上記共役ジエン化合物は、バインダー成分の結着性を向上する機能を有する単量体である。重合体粒子A1における共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、30〜60質量部であることが好ましく、35〜55質量部であることがより好ましい。共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、重合体粒子A1の結着性をさらに高くすることが可能となる。共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
上記芳香族ビニル化合物は、本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製された電極用スラリーが導電付与剤を含有する場合に、バインダー成分の該導電付与剤に対する親和性を向上する機能を有する単量体である。重合体粒子A1における芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、10〜40質量部であることが好ましく、15〜35質量部であることがより好ましい。芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、重合体粒子A1が、集電体および電極活物質(特にグラファイト)に対して適度な結着性を有することとなるとともに、活物質層の柔軟性を損なうことがない点で好ましい。芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロルスチレンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。芳香族ビニル化合物としては、スチレンを用いることが好ましい。
上記不飽和カルボン酸エステルは、電解液に対するバインダー成分の親和性を調整する機能を有する単量体である。重合体粒子A1における不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、5〜30質量部であることが好ましく、6〜20質量部であることがより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、電解液に対するバインダー成分の親和性が適度なものとなり、その結果、電極中でバインダー成分が電気抵抗成分となることによる電極内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば不飽和カルボン酸のアルキルエステル、不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルなどを使用することができる。これらの具体例としては、不飽和カルボン酸のアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルなどを;
上記不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される1種以上を使用することが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
上記α,β−不飽和ニトリル化合物は、バインダー成分の電解液に対する膨潤性を向上する機能を有する単量体である。このことにより、バインダー中へのイオンの拡散性が向上することとなり、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現できる電極を与えるものと考えられる。重合体粒子A1におけるα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、35質量部以下であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与することとなる。α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上を使用することが好ましく、アクリロニトリルを使用することがより好ましい。
上記不飽和カルボン酸は、本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製される電極用スラリーの安定性を向上する機能を有する単量体である。重合体粒子A1における不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、15質量部以下であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましい。不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、電極用スラリーの調製時における重合体粒子A1の分散安定性が優れることとなり、凝集物が生じ難くなるほか、電極用スラリーの経時的な粘度上昇を抑えることができる。不飽和カルボン酸としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸よりなる群から選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
上記その他の単量体は上記に示したカテゴリーに属さない単量体である。重合体粒子A1におけるその他の単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、1質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。その他の単量体として具体的には、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、ジビニルベンゼンなどの架橋性単量体;
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンなどのエチレン性不飽和結合を有する含フッ素単量体;
(メタ)アクリルアミド;
N−メチロールアクリルアミド;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル;
エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物;
アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミドなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。重合体粒子A1において、特に好ましくはその他の単量体を使用しないことである。
重合体粒子A1は、上記のような繰り返し単位を有する重合体のみからなる粒子であることが好ましい。
1.1.2 重合体粒子A1の合成
本発明における重合体粒子A1の合成方法については特に限定されないが、例えば公知の乳化重合法によって合成することができる。乳化重合は適当な水系媒体中で行うことが好ましく、特に水中で行うことが好ましい。
重合体粒子A1の合成のための乳化重合は、所定の単量体混合物を、例えば乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤などの存在下で、好ましくは40〜80℃において、好ましくは4〜12時間の乳化重合によって行うことができる。重合途中で反応温度を変更してもよい。ここで乳化重合における全固形分濃度(重合系における水系媒体以外の成分の合計質量が重合系の全質量に占める割合)を50質量%以下とすることにより、得られる重合体粒子の分散安定性が良好な状態で重合反応を進行させることができる。この全固形分濃度は、より好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。
重合体粒子A1の合成のための乳化重合における乳化剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.1〜2.0質量部とすることが好ましく、0.1〜1.0質量部とすることがさらに好ましい。上記乳化剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤;
ポリエチレングリコールのアルキルエステル、ポリエチレングリコールのアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤;
パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物などのフッ素系界面活性剤などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
重合開始剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.5〜2質量部とすることが好ましい。上記重合開始剤としては、例えば過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤;
クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)などの油溶性重合開始剤などを適宜選択して用いることができる。これらのうち、特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイドまたはt−ブチルハイドロパーオキサイドを使用することが好ましい。
分子量調節剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.1〜2.0質量部とすることが好ましい。上記分子量調整剤としては、例えばn−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;
ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;
ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム化合物;
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール化合物;
アリルアルコールなどのアリル化合物;
ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;
α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル化合物などのほか、
トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマーなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
重合体粒子A1の乳化重合終了後には重合混合物に中和剤を添加することにより、pHを5〜10程度に調整することが好ましい。pHは、より好ましくは6〜9であり、さらに7〜8.5であること好ましい。ここで使用する中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;アンモニアなどを挙げることができる。上記のpH範囲に設定することにより、重合体粒子の配合安定性が良好となる。
中和処理を行った後に、重合混合物を濃縮することにより、重合体粒子の良好な安定性を維持しながら固形分濃度を高くすることができる。
1.1.2 重合体粒子A2
本発明の電極用バインダー組成物における重合体粒子A2は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体を含有する粒子である。
本発明における重合体粒子A2は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のみを有していてもよく、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のほかにその他の単量体に由来する繰り返し単位を有していてもよい。
本発明における重合体粒子A2におけるフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子A2の全質量を基準として、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%であり、特に好ましくは20〜30質量%である。
上記フッ素原子を有する単量体としては、例えばフッ素原子を有するオレフィン化合物、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。フッ素原子を有するオレフィン化合物としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどを挙げることができる。フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば下記一般式(1)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピルなどを挙げることができる。
Figure 0006269966
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
上記一般式(1)中のRとしては、例えば炭素数1〜12のフッ化アルキル基、炭素数6〜16のフッ化アリール基、炭素数7〜18のフッ化アラルキル基などを挙げることができ、炭素数1〜12のフッ化アルキル基であることが好ましい。上記一般式(1)中のRの好ましい具体例としては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル基、β−(パーフルオロオクチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル基、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル基、1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル基、1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル基、パーフルオロオクチル基などを挙げることができる。フッ素原子を有する単量体としては、これらのうち、フッ素原子を有するオレフィン化合物が好ましく、特に好ましくはフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
上記フッ素原子を有する単量体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
上記その他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体(ただし不飽和カルボン酸エステルに該当するものを除く。以下同じ。)、架橋性単量体、α−オレフィン、芳香族ビニル化合物(ただし、前記の親水性単量体および架橋性単量体に該当するものを除く。以下同じ。)などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
重合体粒子A2が、上記のうちの不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を有することにより、密着性をより向上させることができるため好ましい。重合体粒子A2が、上記親水性単量体のうちの不飽和カルボン酸に由来する構成単位を有することにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリーの安定性が向上する点で好ましい。また、重合体粒子A2が上記親水性単量体のうちのα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、重合体粒子の電解液に対する膨潤性をより向上させることができる。すなわち、ニトリル基の存在によって重合体鎖からなる網目構造に溶媒(媒体)が侵入し易くなって網目間隔が広がるため、電荷移動物質(溶媒和したイオン)がこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、イオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができる点で好ましい。
本発明における重合体粒子A2におけるその他の単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子A2の全質量を基準として、それぞれ以下のとおりである。
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位:好ましくは95質量%以下、より好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは60〜80質量%;
親水性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは35質量%以下、より好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは4〜20質量%;そして
架橋性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下。
上記不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば不飽和カルボン酸のアルキルエステル、不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステル、不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、不飽和カルボン酸の多価アルコールエステルなどを挙げることができる。
上記不飽和カルボン酸のアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルなどを;
上記不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどを;
上記不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
上記親水性単量体としては、例えば不飽和カルボン酸、α,β−不飽和ニトリル化合物、水酸基を有する化合物などを挙げることができる。上記不飽和カルボン酸としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを;
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを;
上記水酸基を有する化合物としては、例えばp−ヒドロキシスチレンなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
上記架橋性単量体としては、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールなど;
上記α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレンなどを;
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロルスチレンなどを、それぞれ挙げることができ、いずれもこれらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
本発明における重合体粒子A2は、上記に例示したフッ素原子を有する単量体、不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物以外の単量体に由来する繰り返し単位を含有しないことが好ましい。
1.1.2.1 ポリマーアロイ粒子
本発明における重合体粒子A2としては、上記のようなフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子をそのまま用いてもよいし、あるいは
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A2a)と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する重合体(a2b)とを含有するポリマーアロイ粒子であってもよい。重合体粒子A2がポリマーアロイ粒子であるとき、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とを同時に発現することができる点で好ましい。
「ポリマーアロイ」とは、「岩波 理化学辞典 第5版.岩波書店」における定義によれば、「2成分以上の高分子の混合あるいは化学結合により得られる多成分系高分子の総称」であって「異種高分子を物理的に混合したポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(Interpenetrating Polymer Network、相互侵入高分子網目)など」を意味する。しかしながら、本発明のバインダー組成物に含有されるポリマーアロイ粒子は、「異種高分子成分が共有結合によって結合していないポリマーアロイ」のうちのIPNからなる粒子であることが好ましい。
ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A2a)は、イオン導電性に優れるとともに、結晶性樹脂のハードセグメントが凝集して、主鎖にC−H…F−Cのような疑似架橋点を与えているものと考えられる。このためバインダー材料として重合体(A2a)を単独で用いると、そのイオン導電性および耐酸化性は良好であるものの、密着性および柔軟性が不十分であるため密着性は低い。一方、ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A2b)は、密着性および柔軟性には優れるものの、耐酸化性が低いから、これをバインダー材料として単独で電極(特に正極)に使用した場合には、充放電を繰り返すことにより酸化分解して変質するため、良好な充放電特性を得ることができない。
しかしながら、重合体(A2a)および重合体(A2b)を含有するポリマーアロイ粒子を使用することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とを同時に発現することができ、良好な充放電特性を有する電極を製造することが可能となった。ポリマーアロイ粒子が重合体(A2a)と重合体(A2b)のみからなる場合、より耐酸化性を向上させることができ、好ましい。
ポリマーアロイ粒子は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、−50〜250℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−30〜+30℃の範囲にあることがより好ましい。
ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A2a)は、これが単独で存在する場合には、一般的に−50〜250℃に吸熱ピーク(融解温度)を有する。また、ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A2b)は、重合体(A2a)とは異なる吸熱ピーク(ガラス転移温度)を有することが一般的である。このため、粒子中における重合体(A2a)および重合体(A2b)が、例えばコア−シエル構造のように相分離して存在する場合、−50〜250℃において2つの吸熱ピークが観察されるはずである。しかし、−50〜250℃における吸熱ピークが1つのみである場合には、該粒子はポリマーアロイ粒子であると推定することができる。
さらに、ポリマーアロイ粒子の有する1つのみの吸熱ピークの温度が−30〜+30℃の範囲にある場合、該粒子は活物質層に対してより良好な柔軟性と粘着性とを付与することができ、従って密着性をより向上させることができることとなり、好ましい。
1.1.2.2 重合体(A2a)
本発明における重合体粒子A2としてのポリマーアロイ粒子は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A2a)を含有する。この重合体(A2a)における、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、重合体Aの全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
フッ素原子を有する単量体としては、上記のとおり、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、フッ素を有する単量体のすべてがフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
重合体(A2a)は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のほかに、他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位をさらに有していてもよい。上記他の不飽和単量体としては、上記で説明した不飽和カルボン酸のアルキルエステル、不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物を使用することができる。
重合体(A2a)における各単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体(A2a)の全質量を基準として、それぞれ以下のとおりである。
フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位:好ましくは50〜99質量%、より好ましくは80〜98質量%;
四フッ化エチレンに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%;そして
六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜25質量。
重合体(A2a)は、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位のみからなるものであることが、最も好ましい。
1.1.2.3 重合体(A2b)
本発明における重合体粒子A2としてのポリマーアロイ粒子は、フッ素原子を有する単量体以外の共重合可能な他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位を有する。この他の不飽和化合物としては、上記で説明した不飽和カルボン酸エステルであることが好ましく、これ以外に親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィン、芳香族ビニル化合物などを併用することができる。
一般的に重合体(A2b)のような成分は、密着性は良好であるが、イオン導電性および耐酸化性が不良であると考えられており、従来から正極には使用されてこなかった。しかし本発明は、このような重合体(A2b)を、重合体(A2a)と共にポリマーアロイ粒子として使用することにより、良好な密着性を維持しつつ、十分なイオン導電性および耐酸化性を発現することに成功したものである。
重合体(A2b)における各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、それぞれ以下のとおりである。以下はいずれも重合体(A2b)の質量を100質量%としたときの値である。
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以上、より好ましくは60〜95質量%;
親水性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは5〜40質量%;
架橋性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくはこれを含有しないこと;
α−オレフィンに由来する繰り返し単位:好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくはこれを含有しないこと;そして
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位:好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくはこれを含有しないこと。
重合体(A2b)は、上記に例示した不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物以外の単量体に由来する繰り返し単位を含有しないことが好ましい。
1.1.2.4 ポリマーアロイ粒子の合成
本発明における重合体粒子A2としてのポリマーアロイ粒子は、上記のような構成をとるものである限り、その合成方法は特に限定されないが、例えば公知の乳化重合工程またはこれを適宜に組み合わせることによって、容易に合成することができる。
例えば先ず、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A2a)を、公知の方法によって合成し、次いで
該重合体(A2a)に、重合体(A2b)を構成するための単量体を加え、重合体(A2a)からなる重合体粒子の編み目構造の中に、前記単量体を十分吸収させた後、重合体(A2a)の編み目構造の中で、吸収させた単量体を重合して重合体(A2b)を合成する方法により、ポリマーアロイを容易に合成することができる。このような方法によってポリマーアロイを製造する場合、重合体(A2a)に、重合体(A2b)の単量体を十分に吸収させることが必須である。吸収温度が低すぎる場合または吸収時間が短すぎる場合には単なるコアシェル型の重合体または表層の一部のみがIPN型の構造である重合体となり、本発明におけるポリマーアロイを得ることができない場合が多い。ただし、吸収温度が高すぎると重合系の圧力が高くなりすぎ、反応系のハンドリングおよび反応制御の面から不利となり、吸収時間を過度に長くしても、さらに有利な結果が得られるわけではない。
上記のような観点から、吸収温度は、30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃とすることがより好ましく;
吸収時間は、1〜12時間とすることが好ましく、2〜8時間とすることがより好ましい。このとき、吸収温度が低い場合には吸収時間を長くすることが好ましく、吸収温度が高い場合には短い吸収時間で十分である。吸収温度(℃)と吸収時間(h)を乗じた値が、おおむね120〜300(℃・h)、好ましくは150〜250(℃・h)の範囲となるような条件が適当である。
重合体(A2a)の網目構造の中に重合体(A2b)の単量体を吸収させる操作は、乳化重合に用いられる公知の媒体中、例えば水中で行うことが好ましい。
ポリマーアロイ粒子中の重合体(A2a)の含有量は、ポリマーアロイ粒子100質量%中、3〜60質量%であることが好ましく、5〜55質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましく、特に20〜40質量%であることが好ましい。ポリマーアロイが重合体(A2a)を前記範囲で含有することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とのバランスがより良好となる。また、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合が上記の好ましい範囲にある重合体(A2b)を用いた場合には、ポリマーアロイが重合体(A2a)を前記範囲で含有することにより、該ポリマーアロイ全体の各繰り返し単位の含有割合を上述の好ましい範囲に設定することが可能となり、このことにより蓄電デバイスの充放電特性が良好となることが担保される。
1.1.2.5 重合体粒子A2の合成
本発明における重合体粒子A2の合成、すなわち、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体を1段階重合で合成する場合の該重合、
重合体(A2a)の重合、ならびに
重合体(A2a)の存在下における重合体(A2b)の重合
は、それぞれ、公知の乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、分子量調整剤などの存在下で行うことができる。
この乳化重合は適当な水性媒体中で行うことが好ましく、特に水中で行うことが好ましい。乳化重合系中における単量体の合計の含有割合は、10〜50質量%とすることができ、20〜40質量%とすることが好ましい。乳化重合の条件としては、重合温度40〜85℃において重合時間2〜24時間とすることが好ましく、重合温度50〜80℃において重合時間3〜20時間とすることがさらに好ましい。
乳化剤の使用割合は、使用する単量体の合計(重合体粒子A2を1段階重合で合成する場合においては使用する単量体の合計、重合体(A2a)の合成においては重合体(A2a)を導く単量体の合計、重合体(A2a)の存在下に重合体(A2b)を重合する場合においては重合体(A2b)を導く単量体の合計。この項において以下同じ。)100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましく、0.02〜5質量部とすることがさらに好ましい。
重合開始剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.3〜3質量部とすることが好ましい。
分子量調節剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、5質量部以下とすることが好ましい。
上記の乳化剤、重合開始剤および分子量調整剤としては、それぞれ、重合体粒子A1の合成に使用することができるものとして上記に例示したものと同じものを使用することができる。
1.2 (B)重合体
本発明の電極用バインダー組成物における(B)重合体は、ポリアミック酸およびその部分イミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体である。電極用バインダー組成物が(B)重合体を含有することにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造された活物質層と集電体との間の結着性が、(A)重合体粒子だけを使用した場合よりも良好となる。そのため、充放電に伴う活物質の体積変化が発生しても、活物質層が集電体より剥離することなく電極に保持されることとなり、充放電の繰り返しによる容量低下を効果的に抑制することができる。
(B)重合体がポリアミック酸の部分イミド化重合体である場合、そのイミド化率は、75%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、特に30%以下であることが好ましい。前記範囲のイミド化率を有する部分イミド化重合体は水および有機溶媒に対する溶解性が高いから、該イミド化重合体の合成および電極用バインダー組成物の調製が容易であるとともに、該バインダー組成物を用いて調整される電極用スラリーの安定性を向上することができ、好ましい。
上記のイミド化率は、イミド化重合体におけるアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ポリアミック酸のイミド化率は、H−NMRを用いて求めることができる。
1.2.1 (B)重合体の合成
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることがでる。また、ポリアミック酸の部分イミド重合体は、上記ポリアミック酸のアミック酸構造の一部を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
本発明における(B)重合体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
テトラカルボン酸二無水物としては、上記のうち、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。本発明におけるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物のみからなるか、あるいは
芳香族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物の混合物のみからなるものであることが、本発明の電極用バインダー組成物の安定性の観点から好ましい。後者の場合、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、全テトラカルボン酸二無水物に対して、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
本発明における(B)重合体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
本発明における(B)重合体を合成するために用いられるジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。
本発明における(B)重合体を合成する際に用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、特に80モル%以上含むものであることが好ましい。
本発明における(B)重合体を合成するために用いられるジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号に記載のジアミンを用いることができる。
(B)重合体の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.9〜1.2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは1.0〜1.1当量となる割合である。
ポリアミック酸を合成するためのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20〜150℃、より好ましくは0〜100℃において、好ましくは0.1〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間行われる。ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノールおよびその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、炭化水素など一般的にポリアミック酸の合成反応に使用できる有機溶媒を使用することができる。有機溶媒として特に好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素およびヘキサメチルホスホルトリアミドよりなる群から選択される1種以上を使用することである。
部分イミド化重合体を合成するためのポリアミック酸の脱水閉環反応は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法またはポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記ポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は、好ましくは180〜250℃であり、より好ましくは180〜220℃である。反応温度が180℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が250℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下する場合がある。ポリアミック酸を加熱する方法における反応時間は、好ましくは0.5〜20時間であり、より好ましくは2〜10時間である。
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤の使用割合は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましく;
脱水閉環触媒の使用割合は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましい。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。
上記脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンなどを;
上記脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物などを、それぞれ用いることができる。
脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。
上記のようにして、(B)重合体を含有する溶液が得られる。
1.3 液状媒体
本発明の電極用バインダー組成物は、(C)液状媒体を含有する。
本発明の電極用バインダー組成物における(C)液状媒体は、水系媒体または非水系媒体であることができる。
上記水系媒体は、水を含有する。水系媒体は、水以外に水可溶性の非水媒体を少量含有することができる。水系媒体における水可溶性非水媒体の含有割合は、水系媒体の全部に対して好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
一方、上記非水系媒体は、水を含有せずに非水媒体のみからなる。
上記非水媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。非水媒体の具体例としては、例えばn−オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、デカリン、ピネン、クロロドデカンなどの脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロペンタンなどの環状脂肪族炭化水素;
クロロベンゼン、クロロトルエン、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;
メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリンなどのアルコール;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、イソホロンなどのケトン;
メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;
γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトンなどのラクトン;
β−ラクタムなどのラクタム;
ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの鎖状または環状のアミド化合物;
メチレンシアノヒドリン、エチレンシアノヒドリン、3,3’−チオジプロピオニトリル、アセトニトリルなどの、ニトリル基を有する化合物;
ピリジン、ピロールなどの含窒素複素環化合物;
エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール化合物;
ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテルなどのジエチレングリコールまたは誘導体;
ギ酸エチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、安息香酸メチル、酢酸メチル、アクリル酸メチルなどのエステルなどを挙げることができる。
本発明の電極用バインダー組成物における(C)液状媒体としては、水系媒体を使用することが好ましく、非水媒体を含有せずに水のみを使用することが最も好ましい。
1.4 電極用バインダー組成物およびその調製方法
本発明の電極用バインダー組成物は、少なくとも上記のような(A)重合体粒子および(B)重合体が(C)液状媒体に溶解された溶液であるか、あるいはこれらが(C)液状媒体に分散されたスラリーまたはラテックスであることが好ましく、特に好ましくはラテックスである。電極用バインダー組成物がラテックス状であることにより、これを電極活物質などと混合して調製される電極用スラリーの安定性が良好となり、また電極用スラリーの集電体への塗布性が良好となるため好ましい。
(A)重合体粒子は、上記の好ましい合成方法によると、水に分散されたラテックスとして得られる。
(C)液状媒体として水系媒体を使用する場合、(A)重合体粒子のラテックスは、そのまま電極用バインダー組成物の調製に供することができる。従って、本発明の電極用バインダー組成物は、(A)重合体粒子、(B)重合体および(C)液状媒体のほかに、(A)重合体粒子の合成に使用した重合触媒またはその残滓、残存単量体、乳化剤、界面活性剤、pH調整剤などを含有していても、本発明の効果が減殺されるものではない。しかしながら、得られる蓄電デバイスの電池特性を十分に高いレベルに維持する観点からは、これら(A)重合体粒子の製造に由来する成分の含有割合は可及的に少ないことが好ましく、電極用バインダー組成物の固形分に対して、5質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましく、特に好ましくはこれらを全く含有しないことである。
一方、(C)液状媒体として非水系媒体を使用する場合、(A)重合体粒子は、ラテックスから単離した固体状態、これを非水系媒体に溶解した溶液状態またはこれを非水系媒体に分散した分散液の状態で電極用バインダー組成物の調製に供することができる。ラテックスからの(A)重合体粒子の単離は、公知の方法によって行うことができる。
(B)重合体は、上記の好ましい合成方法によると、有機溶媒に溶解された溶液として得られる。
(C)液状媒体として水系媒体を使用する場合、(B)重合体は、溶液から単離し、好ましくは水系媒体、好ましくは水、に溶解または分散した状態で、電極用バインダー組成物の調製に供することが好ましい。溶液からの(B)重合体の単離は、公知の方法によることができる。単離した(B)重合体を水系媒体に溶解する際、使用する水系媒体の液性をアルカリ性側に調整しておくことが好ましい。ここで使用する水性媒体のpHは、好ましくは7.0〜9.5であり、より好ましくは7.5〜9.0である。水系媒体の液性の調整には、例えばアンモニア水を使用することが好ましい。単離した(B)重合体を水系媒体に分散するには公知の方法、例えば特開2011−144374号に記載の方法など、によることができる。
一方、(C)液状媒体として非水系媒体を使用する場合、上記の好ましい合成方法によって得られた(B)重合体の溶液は、これをそのまま電極用バインダー組成物の調製に供することができる。
本発明の電極用バインダー組成物の最も好ましい調製方法は、(A)重合体粒子のラテックスと(B)重合体の水溶液とを混合する方法によることである。この場合、ラテックス中の(A)重合体粒子の濃度は、15〜70質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがより好ましく;
水溶液中の(B)重合体の濃度は、1〜20質量%とすることが好ましく、1〜10質量%とすることがより好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物は、その液性が中性または少し塩基性であることが好ましく、pH7.0〜9.5であることがより好ましく、特にpH7.5〜9.0であることが好ましい。組成物の液性の調整には、公知の酸または塩基を用いることができる。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを;
塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などを、それぞれ挙げることができる。
従って本発明の電極用バインダー組成物は、上記の酸または塩基を、液性の調整に必要な範囲で含有していてもよい。
2.電極用スラリー
上記のような本発明の電極用バインダー組成物を用いて、電極用スラリーを製造することができる。電極用スラリーとは、集電体の表面上に電極活物質層を形成するために用いられる分散液のことをいう。本発明における電極用スラリーは、少なくとも本発明の電極用バインダー組成物および電極活物質(以下、単に「活物質」ともいう。)を含有する。
2.1 電極活物質
本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造される電極用スラリーにおける活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。粒子の平均粒子径(平均メジアン粒径、D50値)としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
活物質の使用割合は、電極用バインダー組成物中の(A)重合体粒子の量が活物質100質量に対して、0.1〜25質量部となる割合とすることが好ましく、0.5〜15質量部となる割合とすることがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を作成することができる。
本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造される電極用スラリーにおける活物質としては、例えば炭素材料、リチウム原子を含む酸化物、ケイ素原子を含む化合物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニム化合物、ポリアセン系有機半導体(PAS)などを挙げることができる。
上記炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることが得きる。
上記リチウム原子を含む酸化物としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどを挙げることができる。
上記ケイ素原子を含む化合物としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、特開2004−185810号に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄およびモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ化物は、高い電子伝導度を有し、且つ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダー成分との結着力がより良好になる点でも好ましい。上記ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素原子を含む化合物は、単結晶、多結晶および非晶質のいずれであってもよい。
上記における「酸化物」とは、酸素と、酸素よりも電気陰性度の小さい元素と、からなる化合物または塩を意味する概念であり、金属酸化物の他、金属のリン酸塩、硝酸塩、ハロゲンオキソ酸塩、スルホン酸塩などをも包含する概念である。
本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池の正極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、リチウム原子を含む酸化物であることが好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池の負極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、ケイ素原子を含む化合物を含有するものであることが好ましい。ケイ素原子はリチウムの吸蔵力が大きいから、活物質がケイ素原子を含む化合物を含有することにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力およびエネルギー密度を高くすることができる。活物質中に占めるケイ素原子を含む化合物の割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることがさらに好ましく、特に10〜40質量%とすることが好ましい。負極用の活物質としては、ケイ素原子を含む化合物と炭素材料との混合物からなることが好ましい。炭素材料は、充放電に伴う体積変化が小さいから、負極用活物質としてケイ素原子を含む化合物と炭素材料との混合物を使用することにより、ケイ素原子を含む化合物の体積変化の影響を緩和することができ、活物質層と集電体の密着性をより向上することができる。負極用活物質は、ケイ素原子を含む化合物とグラファイトとの混合物からなることが特に好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物を電気二重層キャパシタ用の電極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、例えば炭素材料、アルミニウム化合物、ケイ素酸化物などを用いることが好ましい。
さらに、本発明の電極用バインダー組成物をリチウムイオンキャパシタ用の電極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、例えば炭素材料、ポリアセン系有機半導体(PAS)などを用いることが好ましい。
2.2 任意的添加成分
本発明における電極用スラリーは、前述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば導電付与剤、増粘剤、液状媒体(ただし、電極用バインダー組成物からの持ち込み分を除く。)などを挙げることができる。
2.2.1 導電付与剤
電極用スラリーにおける導電付与剤の割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に2〜10質量部であることが好ましい。
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどを挙げることができる。カーボンとしては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。
2.2.2 増粘剤
電極用スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有することができる。増粘剤の使用割合としては、電極用スラリー中の増粘剤の重量(Wv)と活物質の重量(Wa)との比(Wv/Wa)が0.001〜0.1となる割合である。この比(Wv/Wa)は、0.005〜0.05であることが好ましい。
上記増粘剤の具体例としては、例えば例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;
上記セルロース誘導体のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;
ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;
上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;
ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸などの不飽和カルボン酸と、ビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。
2.3 液状媒体
電極用スラリーは、電極用バインダー組成物を含有するから、電極用バインダー組成物が含有していた(C)液状媒体を含有することとなる。しかしながら電極用スラリーは、電極用バインダー組成物から持ち込まれた液状媒体に加えて、さらなる液状媒体を追加で含有してもよい。
電極用スラリーにおける液状媒体(電極用バインダー組成物からの持ち込み分を含む。)の使用割合は、電極用スラリーの固形分濃度(電極用スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量が電極用スラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30〜70質量%となる割合とすることが好ましく、40〜60質量%となる割合とすることがより好ましい。
電極用スラリーに追加含有される液状媒体は、電極用バインダー組成物に含有されていた(C)液状媒体と同種であってもよく、異なっていてもよいが、電極用バインダー組成物における(C)液状媒体について上述した液状媒体から選択して使用されることが好ましい。
2.4 電極用スラリーの調製方法
電極用スラリーは、上記の各成分を含有するものである限り、どのような方法によって調製されたものであってもよい。
しかしながら、より良好な分散性および安定性を有する電極用スラリーを、より効率的且つ安価に調製するとの観点から、電極用バインダー組成物に、活物質および必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより調製することができる。
電極用バインダー組成物とその他の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
電極用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10〜5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
電極用スラリーを調製するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
3. 蓄電デバイス用電極の製造方法
蓄電デバイス用電極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造された電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜から液状媒体を除去することにより、製造することができる。この様にして製造された電極は、集電体上に、前述の重合体および活物質、さらに必要に応じて使用される任意添加成分を含有する活物質層が結着されてなるものである。集電体の表面に前述した電極用スラリーから形成された層を有する電極は、集電体と活物質層間と間の結着性に優れるとともに、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好である。
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用されるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、本発明の正極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。
集電体の形状および厚さは特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものとすることが好ましい。
電極用スラリーの集電体への塗布方法については、特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。電極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体を除去した後に形成される活物質層の厚さが、0.005〜5mmとなる量とすることが好ましく、0.01〜2mmとなる量とすることがより好ましい。
塗布後の塗膜からの液状媒体の除去方法についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
さらに、液状媒体除去後の集電体をプレスすることにより、活物質層の密度を高めることが好ましい。プレス後の活物質層の密度は、電極を正極として使用する場合には、1.5〜3.8g/cmとすることが好ましく、1.7〜3.6g/cmとすることがより好ましく;
電極を負極として使用する場合には、1.2〜1.9g/cmとすることが好ましく、1.3〜1.8g/cmとすることがより好ましい。
プレス方法としては、金型プレス、ロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類および活物質層の密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができるが、例えばロールプレスの場合、ロールプレス機の線圧力は0.1〜10t/cm、好ましくは0.5〜5t/cmの圧力において、例えばロール温度が20〜100℃において、分散媒除去後の塗膜の送り速度(ロールの回転速度)が1〜80m/分、好ましくは5〜50m/分で行うことができる。
プレス後の塗膜は、さらに、減圧下で加熱して液状媒体を完全に除去することが好ましい。この場合の減圧の程度としては、絶対圧として50〜200Paとすることが好ましく、75〜150Paとすることがより好ましい。加熱温度としては、100〜200℃とすることが好ましく、120〜180℃とすることがより好ましい。加熱時間は、2〜12時間とすることが好ましく、4〜8時間とすることがより好ましい。
このようにして製造された蓄電デバイス用電極は、集電体と活物質層との間の密着性に優れるとともに、電気的特性の一つであるサイクル特性が良好である。
4. 蓄電デバイス
上記のような本発明の蓄電デバイス用電極を用いて、蓄電デバイスを製造することができる。
蓄電デバイスは、前述した電極を備えるものであり、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と電極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、電極活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。
電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
上記電解質としては、例えばリチウムイオン二次電池においては、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;
γ−ブチルラクトンなどのラクトン化合物;
トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<(A)重合体粒子の合成>
合成例A1−1
(1)合成
攪拌機を備えた温度調節可能なオートクレーブ中に、水200質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、過硫酸カリウム1.0質量部、重亜硫酸ナトリウム0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.5質量部、ドデシルメルカプタン0.3質量部および表1に示した単量体を一括して仕込んだ後、70℃に昇温し、この温度を8時間維持して重合反応を行った。その後さらに温度を80℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を継続し、ラテックスを得た。このラテックスへ濃度15質量%のアンモニウム水を加えてpHを7.5に調節した後、濃度10質量%のトリポリリン酸ナトリウム水溶液50質量部(トリポリリン酸ナトリウムに換算して5質量部に相当)を加えた。次いで、残留単量体を水蒸気蒸留によって除去し、減圧下で濃縮することにより、重合体粒子P1−1を50質量%含有する水分散体を得た。
(2)平均粒子径の測定
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、形式「FPAR−1000」)を用いて得られた重合体粒子P1の粒度分布を測定し、その粒度分布から求めた平均粒子径(D50)は170nmであった。
(3)DSC測定
得られた水分散体に含有される重合体粒子P1−1を示差走査熱量計(DSC)によって測定したところ、ガラス転移温度Tgが−31℃に1つだけ観測された。融解温度は観測されなかった。
合成例A1−2およびA1−3
上記合成例A1−1において、仕込んだ単量体の種類および量を、それぞれ、第1表に記載のとおりとしたほかは合成例A1−1と同様にして、重合体粒子P1−2およびP1−3を、それぞれ50質量%含有する水分散体を得た。
上記合成例A1−1と同様にして測定した重合体粒子P1−2およびP1−3の平均粒子径およびTgを、それぞれ、第1表に合わせて示した。
Figure 0006269966
第1表における単量体欄の略称は、それぞれ以下の意味である。
BD:1,3−ブタジエン
ST:スチレン
AN:アクリロニトリル
AA:アクリル酸
TA:イタコン酸
MMA:メタクリル酸メチル
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
合成例A2−1
(1)重合体(A2a)の合成
電磁式撹拌機を備えた内容積約6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5Lおよび乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VF)70質量%および六フッ化プロピレン(HFP)30質量%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmに達するまで仕込んだ。さらに、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20質量%含有するフロン113(CClF−CClF)溶液25gを、窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始した。重合中は内圧が20kg/cmに維持されるように、VF65質量%およびHFP35質量%からなる混合ガスを逐次圧入した。重合が進行するに従って重合速度が低下するため、重合開始から3時間経過後に、先と同じ重合開始剤溶液の同量を窒素ガスにより圧入し、さらに3時間反応を継続した。その後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出して反応を停止することにより、重合体(A2a1)の微粒子を40質量%含有する水分散体を得た。得られた重合体について19F−NMRにより分析した結果、単量体の質量組成比はVF:HFP=24:1であった。
(2)ポリマーアロイ粒子の合成
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、上記の工程で得られた重合体(A2a1)の微粒子を含有する水分散体62.5質量部(重合体(A2a1)換算で25質量部に相当)、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製)0.5質量部、メタクリル酸メチル(MMA)30質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40質量部およびメタクリル酸(MAA)5質量部ならびに水130質量部をこの順で仕込み、70℃において3時間攪拌し、重合体(A2a1)に単量体を吸収させた。次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調節することにより、重合体粒子P2−1を40質量%含有する水分散体を得た。
(3)平均粒子径の測定
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、形式「FPAR−1000」)を用いて得られた重合体粒子P2−1の粒度分布を測定し、その粒度分布から求めた平均粒子径は330nmであった。
(4)DSC分析
得られた水分散体に含有される重合体粒子P2−1を示差走査熱量計(DSC)によって測定したところ、ガラス転移温度Tgが−5℃に1つだけ観測された。この重合体粒子P2−1は、2種類の重合体から構成されているにもかかわらず1つのTgしか示さないため、ポリマーアロイ粒子であると推測することができる。
DSC測定の際、重合体粒子P2−1の融解温度は観測されなかった。
ここで測定したDSCチャートを図1に示した。
合成例A2−2
上記合成例A2−1の(1)重合体(A2a)の合成において、
反応開始前に仕込むVF/HFP混合ガスおよび重合中の内圧維持のために逐次圧入するVF/HFP混合ガス(VF/HFP)の組成をそれぞれ変更したほかは、合成例A2−1の(1)重合体(A2a)の合成と同様にして重合体(A2a2)の微粒子を40質量%含有する水分散体を得た。得られた重合体について19F−NMRによって分析した単量体の質量組成比はVF:HFP=20:5であった。
上記合成例A2−1の(2)ポリマーアロイ粒子の合成において、重合体(A2a1)の微粒子を含有する水分散体の代わりに上記で得た重合体(A2a2)の微粒子を含有する水分散体62.5質量部(重合体(A2a2)換算で25質量部に相当)を用い、メタクリル酸(MAA)の代わりにアクリル酸(MA)5質量部を用いたほかは合成例A2−1の(2)ポリマーアロイ粒子の合成と同様にして、重合体粒子P5を40質量%含有する水分散体を得た。
上記合成例A2−1と同様にして測定した重合体粒子P2−2の平均粒径およびTgを第2表に合わせて示した。
合成例A2−3
容量7リットルのセパラブルフラスコに、水150質量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部を仕込み、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した。
一方、別の容器に、水60質量部、乳化剤としてエーテルサルフェート型乳化剤(商品名「アデカリアソープSR1025」、(株)ADEKA製)を固形分換算で0.8質量部ならびに単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)20質量部、アクリロニトリル(AN)10質量部、メチルメタクリレート(MMA)25質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)40質量部およびアクリル酸(AA)5質量部を加え、十分に攪拌して上記単量体の混合物を含有する単量体乳化液を調製した。
その後、上記セパラブルフラスコ内部の昇温を開始し、内部の温度が60℃に到達した時点で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5質量部を加えた。そして、セパラブルフラスコの内部の温度が70℃に到達した時点で、上記で調製した単量体乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内部の温度を70℃に維持したまま単量体乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、セパラブルフラスコの内部の温度を85℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を行った。3時間後、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止した後、濃度15質量%のアンモニウム水を加えてpHを7.6に調整することにより、重合体(P2−3)を30質量%含有する水分散体を得た。
上記合成例A2−1と同様にして測定した重合体粒子P2−2の平均粒子径およびTgを第2表に合わせて示した。なお、DSC測定の際、重合体粒子P2−2の融解温度は観測されなかった。
Figure 0006269966
第2表における単量体欄の略称は、それぞれ以下の意味である。
VF:フッ化ビニリデン
HFP:六フッ化プロピレン
TFEMA:メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル
MMA:メタクリル酸メチル
EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
AN:アクリロニトリル
第2表中のフッ素原子を有する単量体の量は、合成例A2−1およびA2−2については分析値であり、A2−3については仕込み量である。
<(B)重合体の合成>
合成例B−1
攪拌装置、温度計およびコンデンサーを備えた容量3Lのフラスコ内部を減圧した状態でヒートガンにて加熱して容器内部の残存水分を除去した後、乾燥窒素ガスを満たした。このフラスコに、溶媒として予め水素化カルシウムを用いた脱水蒸留法により脱水処理を施したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1,170g、テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.56g(0.250モル)およびジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル50.06g(0.250モル)を仕込み、25℃において3時間攪拌下に反応を行うことにより、ポリアミック酸B1を10質量%含有する重合体溶液を得た。
この重合体溶液の溶液粘度は16,200mPa・sであった。
合成例B−2〜B−4
上記合成例B−1において、使用したテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの種類および量を、それぞれ、第3表に記載のとおりとしたほかは合成例B−1と同様にして、ポリアミック酸B2〜B4をそれぞれ、10質量%含有する溶液を得た。
これらのポリアミック酸溶液の溶液粘度を、第3表に合わせて示した。
Figure 0006269966
第3表におけるテトラカルボン酸二無水物欄およびジアミン欄の略称は、それぞれ以下の意味である。
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
TDA:4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−カルボン酸無水物
DDE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
DDP:4,4’−ジアミノビフェニル
<ケイ素を含有する活物質の合成>
合成例A−1
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)と炭素粉末(平均粒径35μm)との混合物を、温度を1,100〜1,600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5〜1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒径8μm)を得た。
この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプによって絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1,100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2,000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1,100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被覆処理)を行った。黒鉛被覆処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被覆酸化ケイ素の粉末約330gを得た。
この黒鉛被覆酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(活物質)であり、その平均粒径は10.5μmであり、得られた黒鉛被覆酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被覆の割合は2質量%であった。
実施例1
(1)(B)重合体(ポリアミック酸)の水溶液の調製
上記合成例B−1で得られたポリアミック酸B1を含有する溶液100gを、約1Lの水中へ少量ずつ滴下して凝固させた。凝固物を流水中でよく洗ってNMPを十分に除去した後、室温で一晩減圧乾燥し、固体状のポリアミック酸とした。次いで、上記の固体状のポリアミック酸の10gを2質量%のアンモニア水溶液(pH11)90g中に入れて、室温において3時間撹拌することにより、ポリアミック酸を10質量%含有する水溶液を得た。
(2)バインダー組成物の調製
上記合成例A1−1で得た重合体粒子P1−1を含有する水分散体を190g(重合体粒子換算で95g)と、上記で得たポリアミック酸水溶液50g(ポリアミック酸換算で5g)と、を混合することにより、バインダー組成物を得た。このバインダー組成物の固形分濃度は41.7質量%であり、pHメーター((株)堀場製作所製、品名「D−51S」)を用いて測定したpHは7.6であった。
(3)バインダー組成物の密着性試験
上記で調製したバインダー組成物を、溶媒除去後の膜厚が約90μmになるように、10cm四方の銅板上およびガラス板上にそれぞれ塗布し、60℃において30分加熱することにより、銅板上およびガラス板上にそれぞれバインダー組成物の薄膜を形成した。
上記で形成したバインダー組成物の薄膜について、JIS K5400に準拠した碁盤目剥離試験をそれぞれ行った。
具体的には、カッターを用いて、薄膜の表面から銅板またはガラス板に達する深さまでの切り込みを1mm間隔で縦横それぞれ11本入れ、薄膜を碁盤目状の100マスの領域に分割した。これら100マスの領域の全域の表面に粘着テープ((株)テラオカ製、品番「650S」)を貼り付けて直ちに引き剥がした後、残存したマス目数をカウントした。
評価結果は、100マス中の残存したマス目の数として第4表に示した。
本発明者らの検討により、活物質層と集電体との密着性は、本試験における銅板と重合体フィルムとの間の密着性と比例の関係があることが経験的に明らかとなっている。また、活物質同士を結着するバインダーとしての結着性は、本試験におけるガラス板と重合体フィルムとの間の密着性と比例の関係があることが経験的に明らかとなっている。このため、ガラス板と重合体フィルムとの間の密着性が良好である場合、活物質同士を結着する重合体のバインダーとしての密着性が良好であると推定することができ、
Cu板と重合体フィルムとの間の密着性が良好である場合、集電体と活物質層の密着性が良好であると推定することができる。
この場合、残存するマス目の数が80個以上であれば密着性が良好であると判断することができ、
この数が90個以上であれば密着性が優良(極めて良好)であると判断することができる。残存するマス目の数は、最も好ましくは碁盤目100個中100個である。
(4)電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)中に、負極活物質として平均粒子径(D50値)22μmのグラファイト(日立化成(株)製、製品名「SMG−HE1」)80質量部および上記合成例A−1で調製した黒鉛被覆酸化ケイ素(C/SiO)20質量部ならびに導電付与剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)1質量部を投入して20rpmで3分間混合した。次いで予め固形分濃度2質量%に調整しておいたカルボキシメチルセルロース(CMC:日本製紙(株)(ケミカル事業本部)製、商品名「MAC−500LC」)50gおよびイオン交換水15.5gを加え、60rpmで30分混合した。その後これに、上記バインダー組成物2.4gおよびイオン交換水27gを加え、30rpmでさらに15分混合した。次いでスラリー中の気泡を取り除くため、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「ARV930−TWIN」)を使用して、絶対圧25kPaの減圧下において600rpmで5分間攪拌混合することにより、バインダー樹脂((A)重合体粒子)の固形分濃度1質量%、全固形分濃度52質量%の電極用スラリーを調製した。
(5)蓄電デバイス用電極の製造
厚み10μmの銅箔からなる集電体の表面に、上記「(4)電極用スラリーの調製」で調製した電極用スラリーを、溶媒除去後の活物質層が15mg/cmになるように膜厚を調整してドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃において5分間乾燥処理して塗膜を形成した。次いで上記塗膜を、ギャップ間調整式ロールプレス機(テスター産業(株)製、商品名「SA−601」)を用いて、ロール温度30℃、線圧力1t/cmおよび送り速度0.5m/分の条件でプレスし、電極層の密度を1.60g/cmに調整した。さらに、絶対圧100Paの減圧下、160℃において6時間加熱して活物質層中の微量水分を除去することにより、蓄電デバイス用電極を得た。
この蓄電デバイス用電極における活物質層の密度は1.62g/cmであった。
(6)蓄電デバイスの製造
露点が−80℃以下となるようアルゴン置換されたグローブボックス内で、上記「(5)蓄電デバイス用電極の製造」において製造した電極を直径15.5mmに打ち抜き成型したものを、活物質層を上側にして、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード製、商品名「セルガード#2400」)を上記の電極上に載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、対電極として厚さ200μmのリチウム箔を直径16.6mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。
ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液である。
この操作を繰り返し、合計2個の蓄電デバイスを製造した。このうちの1個を「(7)蓄電デバイスの評価(充放電サイクル特性の評価)」に供し、もう1個を「(8)活物質層の膜厚変化率の評価」に供した。
(7)蓄電デバイスの評価(充放電サイクル特性の評価)
上記「(6)蓄電デバイスの製造」で製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
次に、初回充放電を行った上記の蓄電デバイスにつき、0.5Cの充放電を、以下のようにして行った。
先ず定電流(0.5C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.5Cにおける放電容量(1サイクル目の0.5C放電容量=A)を測定した。
この0.5Cの充放電を繰り返し行い、100サイクル目の0.5C放電容量をBとしたとき、100サイクル後の容量維持率を下記数式(1)によって算出した。
容量維持率(%)=B/A×100 (1)
評価結果は第4表に示した。
この100サイクル後の容量維持率の値が90%以上95%未満であれば充放電サイクル特性は優良であると判断することができ、そして
95%以上であれば、充放電サイクル特性は極めて優良であると判断することができる。
(8)活物質層の膜厚変化率の評価
上記「(6)蓄電デバイスの製造」で得た蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
次に、初回充放電を行った上記蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。
この蓄電デバイスを露点が−60℃以下のドライルーム内(室温25℃)で解体し、蓄電デバイス用電極(負極)を取り出した。引き続きドライルーム内でこの電極をジメチルカーボネート中に1分間浸漬して洗浄した。電極をジメチルカーボネートから取り出した後、ドライルーム内に30分間静置することにより、ジメチルカルボネートを気化させて除去した。
この、充電後の電極の活物質層膜厚を測定し、予め測定しておいた製造直後の電極(未充電状態)の活物質層膜厚に対する充電後の電極の活物質層膜厚の比率(充電後の膜厚比率)を、下記数式(2)によって算出した。
充電後の膜厚比率(%)=(充電後の膜厚)/(製造直後の膜厚)×100 (2)
評価結果は第4表に示した。
この値が130%を超える場合には、活物質層において、充電に伴う活物質の体積膨張が緩和されていないことを示し、活物質に機械的応力が加えられると活物質が剥落する懸念がある。一方、この値が130%以下であると、充電に伴って活物質が体積膨張するにもかかわらず活物質が活物質層内に強固に保持されていることを示しており、活物質の剥落が抑制された良好な電極であると評価することができる。
(9)バインダー組成物の貯蔵安定性の評価
上記「(2)バインダー組成物の調製」において調製したバインダー組成物50gを容量100mLのバイアル瓶に入れて密閉し、5℃において3ヶ月間静置して貯蔵した。貯蔵後のバインダー組成物を用いて、上記(4)〜(8)と同様にして、蓄電デバイスを製造し、評価した。評価結果は第4表に示した。
実施例2〜11ならびに比較例1および2
上記実施例1において、第4表に記載の種類および量の(A)重合体粒子を含有する水分散体ならびに第4表に記載の種類および量の(B)重合体(ポリアミック酸)を含有するNMP溶液を使用したほかは実施例1と同様にしてバインダー組成物を調製した。このバインダー組成物を用い、グラファイトおよび黒鉛被覆酸化ケイ素(C/SiO)の使用量をそれぞれ第4表に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様に電極用スラリーを調製し、蓄電デバイスを製造して評価した。
評価結果は第4表に示した。
実施例12
(1)(A)重合体粒子のNMP分散体の調製
上記合成例A1−3で得た重合体粒子P1−3を含有する水分散体200g(重合体粒子換算100g)へ、210gのNMPを加えた後、エバポレーターを用いて合計質量が200gとなるまで濃縮することにより、重合体粒子P1−3を50質量%含有するNMP分散体を得た。
(2)バインダー組成物の調製
上記で得た重合体粒子P1−3を含有するNMP分散体200g(重合体粒子換算で100g)と、上記合成例B−3で得たポリアミック酸B3を含有するNMP溶液100g(ポリアミック酸換算で10g)と、を混合することにより、バインダー組成物を得た。このバインダー組成物の固形分濃度は37.7質量%であり、pHメーターを用いて測定したpHは8.1であった。
(3)評価
上記で調製したバインダー組成物を用いたほかは実施例1と同様にしてバインダー組成物を調製した。このバインダー組成物を用いたほかは実施例1と同様に電極用スラリーを調製し、蓄電デバイスを製造して評価した。
評価結果は第4表に示した。
Figure 0006269966
Figure 0006269966

Claims (6)

  1. 少なくとも
    (A)重合体粒子、
    (B)ポリアミック酸およびその部分イミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ならびに
    (C)液状媒体
    を含有し、そして
    上記(A)重合体粒子が、
    共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と
    芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と
    を有する重合体を含有する粒子である、
    ことを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物。
  2. 上記(A)重合体粒子が、さらに、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位および不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有する重合体を含有する粒子である、請求項1に記載の、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物。
  3. 少なくとも
    (A)重合体粒子、
    (B)ポリアミック酸およびその部分イミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ならびに
    (C)液状媒体
    を含有し、そして
    上記(A)重合体粒子が、
    フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体と
    不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する重合体と
    を含有するポリマーアロイ粒子である、
    ことを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物。
  4. 上記(C)液状媒体が水である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物。
  5. (A)重合体粒子のラテックスと(B)重合体の水溶液とを混合する工程を経ることを特徴とする、請求項4に記載の、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物の製造方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の、リチウムイオン二次電池の負極用バインダー組成物と
    電極活物質と
    を含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池の負極用スラリー。

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