JP6052520B2 - 電極用バインダー組成物の貯蔵方法 - Google Patents

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Description

本発明は、電極用バインダー組成物の貯蔵方法に関する。
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧であり、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。この用途の蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、電極活物質と、バインダーとして機能する重合体粒子と、の混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより製造される。この重合体粒子に要求される特性として、例えば以下の諸特性を挙げることができる。
・電極活物質同士の結合能力および電極活物質と集電体との結着能力、
・電極を巻き取る工程における耐擦性、
・電極用組成物層形成後の裁断などによっても該組成物層の微粉などが発生しない粉落ち耐性、など。
重合体粒子がこれらの種々の要求特性を満足することにより、得られる電極の折り畳み方法、捲回半径の設定などの蓄電デバイスの構造設計の自由度が高くなり、デバイスの小型化を達成することができる。上記電極用活物質層は、本明細書において、以下、「電極活物質層」あるいは単に「活物質層」ともいう。
上記の電極活物質同士の結合能力および電極活物質層と集電体との接着能力、ならびに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。従って本明細書では、以下、これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
電極用バインダーとしては、正極を製造する場合には、密着性にはやや劣るが耐酸化性に優れる含フッ素系有機重合体を使用することが有利であり、
一方、負極を製造する場合には、耐酸化性にはやや劣るが密着性に優れる(メタ)アクリル酸系重合体を使用することが有利であると考えられている。
現在までに、電極用バインダーに使用される重合体の耐酸化性、密着性などの特性を向上させる技術が種々検討され、種々提案されている。例えば特許文献1には、ポリフッ化ビニリデンとゴム系高分子とを併用することにより、負極用バインダーにおいて、耐酸化性および密着性を両立しようとする技術が提案されている。特許文献2には、ポリフッ化ビニリデンを特定の有機溶媒へ溶解し、これを集電体表面上に塗布した後、低温で溶媒を除去する工程を経ることによって密着性を向上させようとする技術が提案されている。さらに特許文献3には、フッ化ビニリデン共重合体からなる主鎖に、フッ素原子を有する側鎖を有する構造の電極用バインダーを適用することによって、密着性を向上させようとする技術が提案されている。これら以外にも、バインダーの組成を制御することによって上記特性を向上しようとする技術(特許文献4)、エポキシ基、ヒドロキシル基などの官能基を有するバインダーを用いて上記特性を向上しようとする技術(特許文献5)および(特許文献6)などが提案されている。
ところで、バインダー組成物を実際の製造ラインで使用するには、倉庫などで長期間にわたって電極用バインダー組成物を貯蔵しておく必要がある。従って、電極用バインダー組成物は、長期間貯蔵した後であっても、重合体の沈降などの変質が抑制されている必要がある。電極用バインダー組成物の長期貯蔵安定性を向上する技術として、例えば特許文献7および(特許文献8)では、イソチアゾリン系化合物を使用する方法が提案されている。
近年、蓄電デバイスの高出力化および高エネルギー密度化の要求を達成するために、リチウム吸蔵力の大きい材料を適用する検討が進められている。例えばケイ素は、リチウムとともにケイ素−リチウム金属間化合物を形成する。この金属間化合物はリチウムを可逆的に吸蔵・放出することができる。ケイ素の理論容量は最大で約4,200mAh/gである。この値は、従来用いられている炭素材料の理論容量約370mAh/gと比較して極めて大きい。従って、ケイ素材料を負極活物質として用いることによって、蓄電デバイスの容量が大幅に向上するはずである。しかしながら、ケイ素材料は充放電に伴う体積変化が大きいから、従来使用されている電極バインダーをケイ素材料に適用すると初期密着性を維持することができず、充放電の繰り返しに伴って顕著な容量低下が発生する。
特許文献9および特許文献10では、上記のようなケイ素材料を活物質層に保持するための電極バインダーとして、ポリイミドを適用する方法が提案されている。
特開2011−3529号公報 特開2010−55847号公報 特開2002−42819号公報 特開2000−299109号公報 特開2010−205722号公報 特開2010−3703号公報 国際公開第2012/002451号 特開2012−9775号公報 特開2011−192563号公報 特開2011−204592号公報
含フッ素系有機重合体とゴム系高分子とを併用する特許文献1の技術によると、密着性は向上するものの、有機重合体の耐酸化性が大きく損なわれる。そのため、特許文献1の技術を適用して製造される蓄電デバイスは、充放電の繰り返しによって充放電特性が不可逆的に劣化してしまうという問題がある。電極用バインダーとして含フッ素系有機重合体のみを使用する特許文献2および3の技術によると、密着性のレベルは未だ不十分である。また、特許文献4〜6のようなバインダー組成によると、密着性は向上するものの、電極活物質に付着するバインダー自身が電極の抵抗成分となり、良好な充放電特性を長期にわたって維持することは困難である。
さらに、これらの電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスの特性に着目してその優劣を評価しているにすぎず、実用化にあたって重要となる電極用バインダー組成物の長期間にわたる貯蔵安定性に関しては検討されていない。この点、特許文献7および8は、電極用バインダー組成物におけるイソチアゾリン系化合物の防腐特性を検討しており、該化合物の配合によって長期貯蔵安定性に一定の効果を示すことが明らかにされている。しかしながら特許文献7および8は、蓄電デバイスの性能評価としては、調製直後のバインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイスの優劣を評価しているにすぎず、長期間貯蔵後のバインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイスの特性については、何らの検討も行っていない。
一方、ケイ素材料を活物質層に保持するための電極バインダーとして提案された特許文献9および10の技術は、ポリイミドの剛直な分子構造でケイ素材料を束縛することによって、ケイ素材料の体積変化をおさえ込もうという技術思想である。しかし、これらの技術によって得られる電極は、その密着性が未だ不十分であり、充放電を繰り返すことによって劣化するため、十分な耐久性を発揮することはできない。
本発明は、上記のような現状を打開しようとしてなされたものである。
本発明の目的は、長期間にわたる貯蔵安定性に優れるとともに、長期貯蔵後においても密着性および充放電特性の双方が良好な蓄電デバイスの電極を製造することができ、さらにケイ素材料を用いた活物質層に適用した場合でも長期にわたって優れた密着性を発現できる、電極用バインダー組成物の貯蔵方法を提供することである。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
少なくとも
(A)重合体粒子、および
(C)液状媒体
を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物を貯蔵する方法であって、前記組成物を、(B)過酸化物を含有するものとすることを特徴とする前記方法によって達成される。
本発明の電極用バインダー組成物は、密着性および充放電特性に優れる電極を製造することができる。また、本発明の電極用バインダー組成物は、長期貯蔵安定性に優れるから、工業的に通常行われる貯蔵環境で長期間、例えば数か月〜数年間貯蔵した後に使用した場合であっても、調製直後と同様の高性能の電極を製造することができる。
実施例3で得られた重合体粒子のDSCチャートである。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含むものとして理解されるべきである。
本明細書における「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜」および「メタクリル酸〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
1.電極用バインダー組成物
本実施の電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスに使用される電極を製造するために使用されるバインダー組成物であって、少なくとも(A)重合体粒子、(B)過酸化物および(C)液状媒体を含有する。
以下、本実施の電極用バインダー組成物に含有される各成分について、詳細に説明する。
1.1 (A)重合体粒子
本発明の電極用バインダー組成物に含有される(A)重合体粒子は、活物質層においてバインダーとなる成分である。この(A)重合体粒子としては、例えば
(A1)フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子(以下、「重合体粒子(A1)」という。)、
(A2)共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子(以下、「重合体粒子(A2)」という。)、
(A3)ポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体からなる粒子(以下、「重合体粒子(A3)」という。)
などを挙げることができる。
1.1.1 重合体粒子(A1)
本発明における重合体粒子(A1)は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子である。
本発明における重合体粒子(A1)は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のみを有していてもよく、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のほかにその他の単量体に由来する繰り返し単位を有していてもよい。
ここで使用することのできるその他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体(ただし不飽和カルボン酸エステルに該当するものを除く。以下同じ。)、架橋性単量体、α−オレフィン、芳香族ビニル化合物(ただし、前記の親水性単量体および架橋性単量体に該当するものを除く。以下同じ。)などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。本発明における重合体粒子(A1)は、フッ素原子を有する単量体、不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物以外の単量体に由来する繰り返し単位を含有しないことが好ましい。
重合体粒子(A1)が、上記のうちの不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を有することにより、重合体粒子(A1)の密着性をより向上させることができるため、好ましい。重合体粒子(A1)が、上記親水性単量体のうちの不飽和カルボン酸に由来する構成単位を有することにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリーの安定性が向上する点で好ましい。また、重合体粒子(A1)が上記親水性単量体のうちのα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、重合体粒子の電解液に対する膨潤性をより向上させることができる。すなわち、ニトリル基の存在によって重合体鎖からなる網目構造に溶媒(媒体)が侵入し易くなって網目間隔が広がるため、溶媒和したイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、イオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができる点で好ましい。
重合体粒子(A1)におけるフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子(A1)の全質量を基準として、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%であり、特に好ましくは20〜30質量%である。
上記フッ素原子を有する単量体としては、例えばフッ素原子を有するオレフィン化合物、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。フッ素原子を有するオレフィン化合物としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどを挙げることができる。フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば下記一般式(1)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピルなどを挙げることができる。
Figure 0006052520
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
上記一般式(1)中のRとしては、例えば炭素数1〜12のフッ化アルキル基、炭素数6〜16のフッ化アリール基、炭素数7〜18のフッ化アラルキル基などを挙げることができ、炭素数1〜12のフッ化アルキル基であることが好ましい。上記一般式(1)中のRの好ましい具体例としては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル基、β−(パーフルオロオクチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル基、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル基、1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル基、1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル基、パーフルオロオクチル基などを挙げることができる。フッ素原子を有する単量体としては、これらのうち、フッ素原子を有するオレフィン化合物が好ましく、特に好ましくはフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
上記フッ素原子を有する単量体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
重合体粒子(A1)における不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子(A1)の全質量を基準として、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは30〜90質量%であり、さらに好ましくは40〜85質量%である。
上記不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば不飽和カルボン酸のアルキルエステル、不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステル、不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、不飽和カルボン酸の多価アルコールエステルなどを挙げることができる。上記不飽和カルボン酸のアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルなどを;
上記不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどを;
上記不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどを;
上記不飽和カルボン酸の多価アルコールエステルとして、例えば(メタ)アクリル酸エチレングリコールなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
重合体粒子(A1)における親水性単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子(A1)の全質量を基準として、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは2〜30質量%であり、さらに好ましくは4〜25質量%である。
上記親水性単量体としては、例えば不飽和カルボン酸、α,β−不飽和ニトリル化合物、水酸基を有する化合物(前記不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを除く。以下同じ。)などを挙げることができる。上記不飽和カルボン酸としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを;
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを;
上記水酸基を有する化合物としては、例えばp−ヒドロキシスチレンなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
重合体粒子(A1)における架橋性単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体粒子(A1)の全質量を基準として、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。
上記架橋性単量体としては、例えばジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールなどを、挙げることができる。
さらに、上記α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレンなどを;
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロルスチレンなどを、それぞれ挙げることができ、いずれもこれらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
1.1.1.1 ポリマーアロイ粒子
本発明における重合体粒子(A1)としては、上記のようなフッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子をそのまま用いてもよいし、あるいは
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A1a)と、
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する重合体(a1b)と
を含有するポリマーアロイ粒子であってもよい。重合体粒子(A1)がポリマーアロイ粒子であるとき、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とを同時に発現することができる点で好ましい。
「ポリマーアロイ」とは、「岩波 理化学辞典 第5版.岩波書店」における定義によれば、「2成分以上の高分子の混合あるいは化学結合により得られる多成分系高分子の総称」であって「異種高分子を物理的に混合したポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(Interpenetrating Polymer Network、相互侵入高分子網目)など」をいう。しかしながら、本発明の正極用バインダー組成物に含有されるポリマーアロイ粒子は、「異種高分子成分が共有結合によって結合していないポリマーアロイ」のうちのIPNからなる粒子であることが好ましい。
ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A1a)は、イオン導電性に優れるとともに、結晶性樹脂のハードセグメントが凝集することによって、主鎖同士の間にC−H・・・F−Cのような疑似架橋点が生成しているものと考えられる。このためバインダー樹脂として重合体(A1a)を単独で用いると、そのイオン導電性および耐酸化性は良好であるものの、粘着性および柔軟性が不十分であるため密着性は低い。一方、ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A1b)は、密着性および柔軟性には優れるものの、耐酸化性が低い。従って、重合体(A1b)を単独でバインダー樹脂として正極に使用した場合には、充放電を繰り返すことによって酸化分解して変質するため、良好な充放電特性を得ることができない。
しかしながら、重合体(A1a)および重合体(A1b)を含有するポリマーアロイ粒子を使用することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とを同時に発現することができ、良好な充放電特性を有する正極を製造することが可能となる。ポリマーアロイ粒子が重合体(A1a)と重合体(A1b)のみからなる場合、耐酸化性を最大限に向上させることができ、好ましい。
ポリマーアロイ粒子は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、−50〜250℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−30〜+30℃の範囲にあることがより好ましい。
ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A1a)は、これが単独で存在する場合には、一般的に−50〜250℃に吸熱ピーク(融解温度)を有する。また、ポリマーアロイ粒子を構成する重合体(A1b)は、重合体(A1a)とは異なる吸熱ピーク(ガラス転移温度)を有することが一般的である。このため、粒子中における重合体(A1a)および重合体(A1b)が、例えばコア−シエル構造のように相分離して存在する場合、−50〜250℃において2つの吸熱ピークが観察されるはずである。しかし、−50〜250℃における吸熱ピークが1つのみである場合には、該粒子はポリマーアロイ粒子であると推定することができる。
さらに、ポリマーアロイ粒子の有する1つのみの吸熱ピークの温度が−30〜+30℃の範囲にある場合、該粒子は活物質層に対してより良好な柔軟性と粘着性とを付与することができ、従って密着性をより向上させることができることとなり、好ましい。
ポリマーアロイ粒子中の重合体(A1a)の含有量は、ポリマーアロイ粒子100質量%中、3〜60質量%であることが好ましく、5〜55質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましく、特に20〜40質量%であることが好ましい。ポリマーアロイが重合体(A1a)を前記範囲で含有することにより、イオン導電性および耐酸化性と、密着性とのバランスがより良好となる。また、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合が上記の好ましい範囲にある重合体(A1b)を用いた場合には、ポリマーアロイが重合体(A1a)を前記範囲で含有することにより、該ポリマーアロイ全体の各繰り返し単位の含有割合を上述の好ましい範囲に設定することが可能となり、このことにより蓄電デバイスの充放電特性が良好となることが担保される。
1.1.1.2 重合体(A1a)
本発明における重合体粒子(A1)としてのポリマーアロイ粒子は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A1a)を含有する。このフッ素原子を有する単量体としては、上記のとおり、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
重合体(A1a)は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位のほかに、他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位をさらに有していてもよい。ここで、他の不飽和単量体としては、上記で説明した不飽和カルボン酸のアルキルエステル、不飽和カルボン酸のシクロアルキルエステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物を使用することができる。
この重合体(A1a)における、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、重合体(A1)の全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。この場合のフッ素原子を有する単量体は、そのすべてがフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
重合体(A1a)における各単量体に由来する繰り返し単位の好ましい含有割合は、重合体Aの全質量を基準として、それぞれ以下のとおりである。
重合体(A1a)におけるフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位:好ましくは50〜99質量%、より好ましくは80〜98質量%;
四フッ化エチレンに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%;そして
六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜25質量。
重合体(A1a)は、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位のみからなるものであることが、最も好ましい。
1.1.1.3 重合体(A1b)
本発明における重合体粒子(A1)としてのポリマーアロイ粒子は、フッ素原子を有する単量体以外の共重合可能な他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A1b)を含有する。この、他の不飽和化合物としては、不飽和カルボン酸エステルを使用することが好ましい。他の不飽和化合物として、不飽和カルボン酸エステルとともに、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物などを併用してもよい。
重合体(A1b)における各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、それぞれ以下のとおりである。以下はいずれも重合体(A1b)の質量を100質量%としたときの値である。
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以上、より好ましくは60〜95質量%;
親水性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは50質量%以下、より好ましくは5〜40質量%。;
架橋性単量体に由来する繰り返し単位:好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下;
α−オレフィンに由来する繰り返し単位:好ましくは5質量%以下、より好ましくはこれを含有しないこと;そして
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位:好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下。
重合体(A1b)における不飽和カルボン酸エステル、親水性単量体、架橋性単量体、α−オレフィンおよび芳香族ビニル化合物の詳細については、上記重合体(A1)の説明において記載したところと同じである。
一般的に重合体(A1b)のような成分は、密着性は良好であるが、イオン導電性および耐酸化性が不良であると考えられており、従来から正極には使用されてこなかった。しかし本発明は、このような重合体(A1b)を、重合体(A1a)と共にポリマーアロイ粒子として使用することにより、良好な密着性を維持しつつ、十分なイオン導電性および耐酸化性を発現することに成功したものである。
1.1.1.4 ポリマーアロイ粒子の調製
本発明における重合体粒子(A1)としてのポリマーアロイ粒子は、上記のような構成をとるものである限り、その合成方法は特に限定されないが、例えば公知の乳化重合工程またはこれを適宜に組み合わせることによって、容易に合成することができる。
例えば先ず、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体(A1a)を、公知の方法によって合成し、次いで
該重合体(A1a)に、重合体(A1b)を構成するための単量体を加え、重合体(A1a)からなる重合体粒子の編み目構造の中に、前記単量体を十分吸収させ、その後、
重合体(A1a)の編み目構造の中で、吸収させた単量体を重合して重合体(A1b)を合成する方法により、ポリマーアロイを容易に製造することができる。このような方法によってポリマーアロイを製造する場合、重合体(A1a)に、重合体(A1b)の単量体を十分に吸収させることが必須である。吸収温度が低すぎる場合または吸収時間が短すぎる場合には、単なるコアシェル型の重合体または表層の一部のみがIPN型の構造である重合体となり、本発明におけるポリマーアロイを得ることができない場合が多い。ただし、吸収温度が高すぎると重合系の圧力が高くなりすぎて、反応系のハンドリングおよび反応制御の面から不利となり;吸収時間を過度に長くしても、さらに有利な結果が得られるわけではない。
上記のような観点から、吸収温度は、30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃とすることがより好ましく;
吸収時間は、1〜12時間とすることが好ましく、2〜8時間とすることがより好ましい。このとき、吸収温度が低い場合には吸収時間を長くすることが好ましく、吸収温度が高い場合には短い吸収時間で十分である。吸収温度(℃)と吸収時間(h)を乗じた値が、おおむね120〜300(℃・h)、好ましくは150〜250(℃・h)の範囲となるような吸収条件が適当である。
重合体(A1a)の網目構造の中に重合体(A1b)の単量体を吸収させる操作は、乳化重合に用いられる公知の媒体中、例えば水中で行うことが好ましい。
1.1.1.5 重合体粒子(A1)の製造
本発明における重合体粒子(A1)の製造、すなわち、
フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体を1段階重合で合成する場合の該重合、
重合体(A1a)の重合、ならびに
重合体(A1a)の存在下における重合体(A1b)の重合
は、それぞれ、公知の乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、分子量調節剤などの存在下で、好ましくは乳化重合として行うことができる。
乳化重合は適当な水性媒体中で行うことが好ましく、特に水中で行うことが好ましい。この水性媒体中におけるモノマーの合計の含有割合は、10〜50質量%とすることができ、20〜40質量%とすることが好ましい。
乳化重合の条件としては、重合温度40〜85℃において重合時間2〜24時間とすることが好ましく、重合温度50〜80℃において重合時間3〜20時間とすることがさらに好ましい。
上記乳化剤の使用割合は、使用する単量体の合計(重合体粒子(A1)を1段階重合で合成する場合においては使用する単量体の合計、重合体(A1a)の製造においては重合体(A1a)を導く単量体の合計、重合体(A1a)の存在下に重合体(A1b)を重合する場合においては重合体(A1b)を導く単量体の合計。以下同じ。)100質量部に対して、0.01〜10質量部とすることが好ましく、0.02〜5質量部とすることがさらに好ましい。
乳化剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤;
ポリエチレングリコールのアルキルエステル、ポリエチレングリコールのアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールのアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤;
パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物などのフッ素系界面活性剤などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
上記重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせなどを考慮して適宜設定される。重合開始剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、0.3〜3質量部とすることが好ましい。
重合開始剤としては、例えば過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤;
クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)などの油溶性重合開始剤などの中から、適宜選択して用いることができる。これらのうち、特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイドまたはt−ブチルハイドロパーオキサイドを使用することが好ましい。
上記分子量調節剤の使用割合は、使用する単量体の合計100質量部に対して、5質量部以下とすることが好ましい。
分子量調節剤としては、例えばn−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;
ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;
ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム化合物;
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール化合物;
アリルアルコールなどのアリル化合物;
ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;
α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル化合物などのほか、
トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマーなどを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
1.1.2 重合体粒子(A2)
本発明における重合体粒子(A2)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子である。
この重合体粒子(A2)をDSCによって測定した場合、−40〜+25℃の温度範囲において吸熱ピークを1つしか有さないものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、−30〜+20℃の範囲にあることがより好ましく、−25〜+10℃の範囲にあることがさらに好ましい。DSC分析における重合体粒子(A2)の吸熱ピークが1つのみであり、且つ該ピーク温度が上記の範囲にあるとき、該重合体は良好な密着性を示すとともに、厚物質層に適度の柔軟性を付与することができることとなり、好ましい。
重合体粒子(A2)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位のみからなっていてもよく、あるいは共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位のほかに、他の単量体に由来する繰り返し単位を有していてもよい。
重合体粒子(A2)における共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、30質量部以上であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましく、35〜55質量部であることがさらに好ましい。共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、重合体粒子(A2)の結着性をさらに高くすることが可能となる。
共役ジエン化合物が(共)重合体中に取り込まれる態様としては、1,2−結合または3,4−結合と、1,4−結合とが知られている。本発明では、重合体粒子(A2)における1,2−結合および3,4−結合の合計の存在割合は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の全量に対して、5モル%以上であることが好ましい。このような結合割合の重合体粒子(A2)を使用すると、(B)過酸化物として有機過酸化物を使用したときに、該重合体粒子(A2)が活物質層中で適度の架橋密度が得られることとなり、バインダーとしての良好な密着性を実現できる点で好ましい。一方で、架橋密度が過度に高いと密着性がかえって損なわれる。そのため、上記1,2−結合および3,4−結合の合計の存在割合は、重合体粒子(A2)の全繰り返し単位に対して、20モル%以下とすることが好ましい。重合体粒子(A2)を後述の好ましい方法によって調製した場合、上記1,2−結合および3,4−結合の合計の存在割合は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の全量に対して、20モル%以下に抑制される。
上記共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
上記他の単量体に由来する繰り返し単位としては、例えば芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位、(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位およびその他の単量体に由来する繰り返し単位を挙げることができる。重合体粒子(A2)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位のほかに、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位および(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有することが好ましい。
重合体粒子(A2)が芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、電極用スラリーが導電付与剤を含有する場合に、該導電付与剤に対する親和性を高めることができる。重合体粒子(A2)における芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、10〜40質量部であることが好ましく、15〜35質量部であることがより好ましい。芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、重合体粒子(A2)が、集電体および電極活物質(特にグラファイト)に対して適度な結着性を有することとなるとともに、活物質層の柔軟性を損なうことがない。
このような芳香族ビニル化合物としては、重合体粒子(A1)を合成するための単量体である芳香族ビニル化合物として上記に例示した単量体と同じもののほか、ジビニルベンゼンを使用することができる。芳香族ビニル化合物としては、特にスチレンを使用することが好ましい。
重合体粒子(A2)が(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、該重合体粒子(A2)と電解液との親和性が適度の範囲に調整されることとなる。重合体粒子(A2)における(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、5〜40質量部であることが好ましく、6〜30質量部であることがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、得られるジエン系重合体粒子は電解液との親和性が適度なものとなり、その結果、電極中で重合体が電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
このような(メタ)アクリレート化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される1種以上を使用することが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
重合体粒子(A2)が不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有することにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いて得られる電極用スラリーの安定性が向上する。重合体粒子(A2)における不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、15質量部以下であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましい。不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、電極用スラリー調製時における重合体粒子(A2)の分散安定性が優れることとなる。そのため、電極用バインダー組成物中に凝集物が生じ難くなるほか、組成物の経時的な粘度上昇を抑えることができる。
このような不飽和カルボン酸としては、重合体粒子(A1)を合成するための単量体である不飽和カルボン酸として上記に例示した単量体と同じものを使用することができる。不飽和カルボン酸としては、特にアクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
重合体粒子(A2)がα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有することにより、該重合体の電解液に対する膨潤性を高くすることができる。このことにより、イオンが重合体中へ拡散し易くなり、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができる。重合体粒子(A2)におけるα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に、35質量部以下であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあることにより、使用する電解液との親和性に優れながら、膨潤率が大きくなり過ぎないから、電池特性の向上に寄与することができる。
このようなα,β−不飽和ニトリル化合物としては、重合体粒子(A1)を合成するための単量体であるα,β−不飽和ニトリル化合物として上記に例示した単量体と同じものを使用することができる。α,β−不飽和ニトリル化合物としては、特にアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上であることが好ましく、アクリロニトリルであることがとりわけ好ましい。
上記その他の単量体としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンなどのエチレン性不飽和結合を有する含フッ素化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル;エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミドなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
1.1.2.1 重合体粒子(A2)の調製
ジエン系重合体粒子の合成方法については特に限定されないが、例えば公知の乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、分子量調整剤などの存在下で行う乳化重合法によって調製することができる。上記乳化剤、重合開始剤および分子量調整剤としては、それぞれ、重合体粒子(A1)の製造方法として上記に説明した乳化重合法におけるのと同じものを使用することができる。
重合体粒子(A2)の調製のための乳化重合は1段重合として行ってもよく、2段重合法によってもよい。
重合体粒子(A2)の調製を1段重合によって行う場合、上記の単量体混合物を、適当な乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤などの存在下で、好ましくは40〜80℃において、好ましくは4〜12時間の乳化重合によることができる。
重合体粒子(A2)の調製を2段重合によって行う場合、各段階の重合は、以下のように設定することが好ましい。
1段目重合に使用する単量体の使用割合は、単量体の全質量(1段目重合に使用する単量体の質量と2段目重合に使用する単量体の質量との合計)に対して、5〜50質量%の範囲とすることが好ましく、10〜40質量%の範囲とすることが好ましい。1段目重合をこのような量の単量体で行うことにより、分散安定性に優れ、凝集物が生じ難い重合体粒子を得ることができるとともに、組成物の経時的なスラリー粘度の上昇も抑制されることとなり、好ましい。
1段目重合に使用する単量体の種類およびその使用割合と、2段目重合に使用する単量体の種類およびその使用割合とは、同じとしてもよく、異ならせてもよい。ただし、単量体としてジエン系単量体との反応性の高い単量体(例えばα,β−不飽和ニトリル化合物など)を使用する場合には、急激に重合反応が進んで反応熱が一度に発生し、重合の温度制御が困難となることがある。このような単量体を使用する場合には、そのうちの好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上を2段目の重合に供することが、重合の温度制御をより安定にするとの観点から好ましい。
各段の重合の条件は、得られる重合体粒子の分散性の観点から、以下のように設定することが好ましい。
1段目重合;好ましくは40〜80℃の温度;好ましくは2〜4時間の重合時間;好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の重合転化率。
2段目重合;好ましくは40〜80℃の温度;好ましくは2〜6時間の重合時間。
乳化重合における全固形分濃度を50質量%以下とすることにより、得られる重合体粒子の分散安定性が良好な状態で重合反応を進行させることができる。この全固形分濃度は、より好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。上記「全固形分濃度」とは、乳化重合反応系中の溶媒以外の成分の合成質量が、反応系の全質量に対して占める割合をいう。
重合体粒子(A2)の調製を1段重合として行う場合であっても、2段重合法による場合であっても、乳化重合終了後には重合混合物に中和剤を添加することにより、pHを5〜10程度に調整することが好ましい。pHは、より好ましくは6〜9であり、さらに7〜8.5であることが好ましい。ここで使用する中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;アンモニアなどを挙げることができる。上記のpH範囲に設定することにより、重合体粒子の配合安定性が良好となる。
中和処理を行った後に、重合混合物を濃縮することにより、重合体粒子の良好な安定性を維持しながら固形分濃度を高くすることができる。
1.1.3 重合体粒子(A3)
本発明における重合体粒子(A3)は、ポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体からなる粒子である。
重合体粒子(A3)がポリアミック酸のイミド化重合体を含有する場合、該イミド化重合体のイミド化率は、50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。電極用バインダー組成物に含有されるイミド化重合体のイミド化率を上記の範囲とすることにより、該バインダー組成物を用いて調製される電極用スラリーの安定性を損なうことがなく、密着性および充放電特性に優れる電極を製造することができることとなり、好ましい。
このイミド化率は、ポリアミック酸のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ポリアミック酸のイミド化率は、H−NMRを用いて求めることができる。
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることがでる。また、ポリアミック酸のイミド化重合体は、上記ポリアミック酸のアミック酸構造の一部を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
本発明における重合体粒子(A3)を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、これらのうち、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。本発明におけるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物のみからなるか、あるいは芳香族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物の混合物のみからなるものであることが、本発明の電極用バインダー組成物の安定性の観点から好ましい。後者の場合、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、全テトラカルボン酸二無水物に対して、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
本発明における重合体粒子(A3)であるポリアミック酸を合成するために用いられるジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。本発明における重合体粒子(A3)であるポリアミック酸を合成する際に用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、特に80モル%以上含むものであることが好ましい。
これらジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.9〜1.2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは1.0〜1.1当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20℃〜150℃、より好ましくは0〜100℃において、好ましくは0.1〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間行われる。
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノールおよびその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、炭化水素など一般的にポリアミック酸の合成反応に使用できる有機溶媒を使用することができる。
ポリアミック酸の脱水閉環反応は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法またはポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記ポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は、好ましくは180〜250℃以下であり、より好ましくは180〜220℃である。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下する場合がある。ポリアミック酸を加熱する方法における反応時間は、好ましくは0.5〜20時間であり、より好ましくは2〜10時間である。
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用割合は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用割合は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。
1.1.4 (A)重合体粒子の特徴
1.1.4.1 テトラヒドロフラン(THF)不溶分
(A)重合体粒子のTHF不溶分は、80質量%以上であることが好ましく、90%質量以上であることがより好ましい。このTHF不溶分は、蓄電デバイスにおいて使用される電解液に対する不溶分量とほぼ比例することが経験的に確認されている。このため、THF不溶分が前記範囲である(A)重合体粒子を用いて蓄電デバイスを製造すれば、長期間にわたって充放電を繰り返した場合でも電解液への重合体の溶出を抑制できるため、好ましい。
1.1.4.2 最頻粒径
(A)重合体粒子の最頻粒径は、50〜400nmの範囲にあることが好ましく、100〜250nmの範囲にあることがより好ましい。(A)重合体粒子の最頻粒径が前記範囲にあることにより、電極活物質の表面への(A)重合体粒子の吸着が効果的になされ、電極活物質の移動に伴って(A)重合体粒子も追随して移動することができることとなる。その結果、両者の粒子のうちのどちらかのみが単独でマイグレートすることを抑制することができるので、電気的特性の劣化を抑制することができる。
この最頻粒径は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、粒子を粒径の小さい順に累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このような粒度分布測定装置としては、例えばコールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)、FPAR−1000(大塚電子(株)製)などを挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。従って、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、電極用バインダー組成物中に含有される重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。(A)重合体粒子の最頻粒径は、電極用スラリーを遠心分離して電極活物質を沈降させた後、その上澄み液を上記の粒度分布測定装置によって測定する方法によっても測定することができる。
1.2 (B)過酸化物
本発明の電極用バインダー組成物は、(B)過酸化物を含有する。
電極用バインダー組成物が(B)過酸化物を含有することにより、該過酸化物が組成物中で防腐剤として作用して、該組成物を長期間貯蔵した場合でも、細菌、黴などの増殖による異物の発生を抑制することができるほか;
本発明のバインダー組成物に含有される重合体粒子が重合体粒子(A2)である場合には、該(B)過酸化物が架橋剤として作用して重合体粒子(A2)が活物質層中で適度の架橋密度を有するバインダーとなり、その結果、好適な密着性を示すこととなる点で好ましい。本発明の電極用バインダー組成物における(B)過酸化物の濃度は、好ましくは20ppmw〜50質量%である。
本発明における(B)過酸化物としては、過酸化水素、過酸または有機過酸化物が好ましい。上記過酸としては、例えば過酢酸、過安息香酸などを挙げることができる。
これらのうち、(B)過酸化物の防腐性能を重視する場合には、電気特性に対する影響、取り扱いやすさなどの観点から、過酸化水素または過酢酸を使用することが好ましく、特に過酸化水素を使用することが好ましく;
(B)過酸化物の架橋剤としての機能を重視する場合には、有機過酸化物を使用することが好ましい。以下、(B)過酸化物の防腐性能を重視する場合と、架橋剤としての機能を重視する場合とに分けて、順次説明する。
上記のとおり、防腐性能を重視する場合には、(B)過酸化物として過酸化水素を使用することが好ましい。
後述のように、本発明の電極用バインダー組成物の好ましい態様では、(C)液状媒体が水を含有する。過酸化水素は水との親和性が高いから、水を含有する組成物中の過酸化水素は(A)重合体粒子へ吸着しないものと推察される。そのため、(B)過酸化物として過酸化水素を含有する電極用バインダー組成物は、これを長期間貯蔵した場合でも重合体粒子の酸化変質が抑制されることとなり、重合体のバインダー機能が損なわれることがなく、好ましい。
さらに、後述する通り、本発明の電極用バインダー組成物は、好ましくは、(A)重合体粒子を含有するラテックスに(B)過酸化物を添加して混合することにより調製される。ここで、一般に、安定して存在するラテックスに新たな成分を添加すると、その新たな成分がトリガーとなって重合体の凝集が生ずることが多い。しかし、過酸化水素は重合体粒子への吸着性が低いから、これを(B)過酸化物として用いるとラテックスの分散性に与える影響が小さく、凝集体の発生を抑制することができる。
本発明の電極用バインダー組成物中の過酸化水素の濃度は、20〜3,000ppmwであることが好ましく、30〜2,000ppmwであることがより好ましく、40〜1,500ppmwであることが特に好ましい。電極用バインダー組成物中の過酸化水素の濃度を前記の範囲内とすることにより、該組成物の長期貯蔵安定性が向上するとともに、集電体および活物質の酸化変質が進行しないため、これを使用して製造された電極を備える蓄電デバイスは、良好な充放電特性を示すこととなり、好ましい。また、過酸化水素の濃度を前記の範囲内とすることによって、過酸化水素の防腐効果の発現を担保しつつ、電極製造の際に過酸化水素の分解によって発生する酸素による発泡が抑制されるため、充放電特性に優れる均質な電極を製造することができ、好ましい。上記の単位「ppmw」は、質量基準の100万分の1を表す単位である(以下同じ)。
(B)過酸化物の防腐性能を重視する場合、(B)過酸化物としての過酸化水素とともに、酸化剤を併用してもよい。この酸化剤としては、例えば酸化剤分子を構成する原子の酸化数の変化を利用する酸化剤などを挙げることができる。酸化数が変化する原子としては、例えば硫黄原子またはハロゲン原子を挙げることができる。硫黄原子の酸化数変化を利用する酸化剤としては、例えば過硫酸およびその塩などを;
ハロゲン原子の酸化数変化を利用する酸化剤としては、例えば過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過臭素酸、臭素酸、亜臭素酸、次亜臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、亜ヨウ素酸および次亜ヨウ素酸ならびにこれらの塩などを、それぞれ挙げることができる。上記の塩における対カチオンとしては、例えばアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどを挙げることができる。
一方、(B)過酸化物の架橋剤としての機能を重視する場合、該(B)過酸化物としては有機過酸化物を使用することが好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物中の有機過酸化物の濃度は、0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることが特に好ましく、とりわけ好ましくは1.5〜7.5質量%である。電極用バインダー組成物中の有機過酸化物の濃度を前記の範囲内とすることにより、(A)重合体粒子として重合体粒子(A2)を用いた場合に活物質層中で適度の架橋密度が得られることとなり、バインダーとしての良好な密着性を実現できるとともに、組成物の長期貯蔵安定性に不利な影響を及ぼさない点で好ましい。
上記有機過酸化物としては、例えばジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシカーボネート、アルキルペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ペルオキシケタールなどを挙げることができる。上記アルキルペルオキシエステルおよびジアルキルペルオキシドにおける「アルキル」とは、アラルキルを包含する概念である。またこの「アルキル」は、途中が酸素原子、カルボニル基、エステル結合およびアミド結合よりなる群から選択される1個以上の結合基によって中断されていてもよい。
上記のような有機過酸化物の具体例としては、上記ジアシルペルオキシドとして、例えばジベンゾイルペルオキシド、ジ−2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ−p−クロロベンゾイルペルオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、ジ−n−オクタノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジステアロイルペルオキシド、ジサクシン酸ペルオキシドなどを;
ペルオキシジカーボネートとして、例えばジ−n−プロピルペルオキシ−ジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシルペルオキシ)ジカーボネート、ジ(2−エトキシエチルペルオキシ)ジカーボネート、ジ(2−エトキシヘキシルペルオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルペルオキシジカーボネートなどを;
上記ペルオキシカーボネートとして、例えばt−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートなどを;
上記アルキルペルオキシエステルとしては、例えばt−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、クミルペルオキシネオデカネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシネオデカネート、t−ヘキシルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシネオデカネート、t−ヘキシルペルオキシビバレート、t−ブチルペルオキシビバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソブチレート、t−ブチルペルオキシマレイン酸などを;
上記ジアルキルペルオキシドとして、例えばジクミルペルオキシド、ジ(t−ブチルクミル)ペルオキシド、ジイソブチルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシドなどを;
上記ケトンペルオキシドとして、例えばメチルエチルケトンペルオキシドなどを;
上記ヒドロペルオキシドとして、例えばt−ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシドなどを;
上記ペルオキシケタールとして、例えば2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルペルオキシ)バレレート、エチル−3,3−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−アミルペルオキシ)シクロヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3などを、それぞれ挙げることができる。
上記のような有機過酸化物の市販品としては、ジアシルペルオキシドとして、例えばパーカドックス20−50S、パーカドックスPM−50S(以上、化薬アクゾ(株)製)などを;
ペルオキシジカーボネートとして、例えばルペロックス223、ルペロックス 225(以上、アルケマ吉富(株)製)などを;
ペルオキシカーボネートとして、例えばルベロックスTBIC、ルベロックスTBEC、ルベロックスJW、ルベロックスTAIC、ルベロックスTAEC(以上、アルケマ吉富(株)製)などを;
アルキルペルオキシエステルとして、例えばパーヘキシルPV、パーブチルPV、パーヘキシルO、パーブチルO、パーブチルI、パーブチルE、パーヘキサ25Z、パーヘキルZ、パーブチルZT、パーブチルZ(以上、日油(株)製)などを;
ジアルキルペルオキシドとして、例えばカヤタミルD−40C、カヤタミルD−40MB−S、カヤタミルD−40MB、カヤヘキサAD、カヤヘキサAD−40C、トリゴノックス101−40MB、パーカドックス14、パーカドックス14/40、パーカドックス14−40C、カヤブチルC、カヤブチルD、カヤヘキサYD−E85、カヤヘキサYD−50C(以上、化薬アクゾ(株)製)などを;
ケトンペルオキシドとして、例えばパーメックN、パーメックG、ハーヘキサH(以上、日油(株)製)などを;
ヒドロペルオキシドとして、例えばパークミルD、パーブチルP、パーブチルC、パーヘキサ25B、パーヘキシン25B、パークミルH、パーブチルH、パークタミルP(以上、日油(株)製)などを;
ペルオキシケタールとして、例えばパーヘキサHC、パーヘキサC、パーヘキサV(以上、日油(株)製):トリゴノックス17/40、トリゴノックス22−40D(以上、化薬アクゾ(株)製)などを、それぞれ挙げることができる。
本発明の電極用バインダー組成物の保存安定性を高くする観点から、有機過酸化物としては、上記のうちの加水分解性のあるジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネートおよびケトンペルオキシドの使用を避けて、アルキルペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ヒドロペルオキシドおよびペルオキシケタールよりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
電極用バインダー組成物を長期間安定に保存し、且つ使用時に重合体粒子(A2)を効果的に架橋させる観点から、本発明の電極用バインダー組成物に含有される有機過酸化物は、10時間半減期温度が50℃以上であり、1分間半減期温度が100〜250℃であるものの中から選択して使用することが好ましい。10時間半減期温度は、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上であり;
1分間半減期温度は、より好ましくは120〜200℃であり、さらに好ましくは130〜180℃である。
後述のとおり、本発明の電極用バインダー組成物に含有される(C)液状媒体としては、水を含有する水系媒体であることが好ましい。有機過酸化物の中には、水に対して、不溶性または難溶性であるものが多く存在する。しかしながら本発明者らの検討により、本発明の電極用バインダー組成物においては、有機過酸化物が水に対する溶解度を超えた濃度で組成物中に存在しても、該組成物の安定性を損なわないことが明らかとなった。溶解度を超えて組成物に存在する有機過酸化物は、(A)重合体粒子に吸着されるか、あるいは細かい液滴状の分散状態で、組成物中に含有されるものと推定される。有機過酸化物同士が凝集し、あるいは(A)重合体粒子が凝集してて組成物から分離するようなことはない。溶解度を超えて有機過酸化物を含有する場合でも安定な組成物が得られることは、業界の常識に反する驚くべき現象である。
(B)過酸化物は、一般的には時間の経過とともに徐々に分解する性質を有するから、本発明の電極用バインダー組成物中の(B)過酸化物の濃度は、仕込量基準ではなく、実測値基準によって評価されるべきである。(B)過酸化物の濃度の測定方法としては、過酸化物の種類ごとに公知の適宜の方法によることができる。(B)過酸化物が過酸化水素である場合には、電極用バインダー組成物から(A)重合体粒子を除いた後の溶液に、過剰量の呈色試薬オキソ[5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリナト]チタン(IV)を含む溶液を加え、該呈色試薬と過酸化水素との錯体形成による432nmにおける吸光度の変化率を測定し、予め作成した検量線を用いて濃度を知ることができる。一方、(B)過酸化物が有機過酸化物である場合には、ヨウ素滴定法によってその濃度を知ることができる。
1.3 (C)液状媒体
本発明の電極用バインダー組成物は、(C)液状媒体を含有する。
本発明の電極用バインダー組成物における(C)液状媒体の使用割合は、電極用バインダー組成物の固形分濃度(電極用バインダー組成物中の(C)液状媒体以外の成分の合計質量が電極用バインダー組成物の全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、5〜80質量%となる割合とすることが好ましく、10〜60質量%となる割合とすることがより好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物に含有される(C)液状媒体は、水を含有する水系媒体であることが好ましい。この水系媒体は、水以外の非水媒体を含有していてもよい。(C)液状媒体が、水と、水以外の非水媒体を含有する水系媒体である場合、(C)液状媒体の全量100質量%中に占める水の割合としては、90質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。本発明の電極用バインダー組成物は、(C)液状媒体として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。ここで使用される非水媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
1.5 電極用バインダー組成物
本発明の電極用バインダー組成物はラテックス状であることが好ましい。電極用バインダー組成物がラテックス状であることにより、これを電極活物質などと混合して調製される電極用スラリーの安定性が良好となり、そのうえ、電極用スラリーの集電体への塗布性が良好となるため好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイスの正極を製造するために用いる場合、これに含有される(A)重合体粒子は、重合体粒子(A1)であることが好ましい。一方、本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイスの負極を製造するために用いる場合、これに含有される(A)重合体粒子は、重合体粒子(A2)であることが好ましい。
(A)重合体粒子の製造を乳化重合によった場合、得られたラテックスはそのままラテックス状の電極用バインダー組成物の調製に供することができる。従って、本発明の電極用バインダー組成物は、(A)重合体粒子、(B)過酸化物および(C)液状媒体のほかに、(A)重合体粒子の合成に使用される重合触媒またはその残滓、残存モノマー、乳化剤、界面活性剤、中和剤などを含有していてもよい。これらの成分の存在によっても本発明の効果が減殺されるものではない。しかしながら、得られる蓄電デバイスの電池特性を十分に高いレベルに維持する観点からは、これら(A)重合体粒子の製造に由来する成分の含有割合は可及的に少ないことが好ましい。これらの成分の含有割合は、電極用バインダー組成物の固形分に対して、5質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましく、特に好ましくはこれらを全く含有しないことである。
上述のとおり、(A)重合体粒子が重量体粒子(A1)または(A2)である場合、該(A)重合体粒子は、好ましくは乳化重合によって製造される。一方、(A)重合体粒子が重量体粒子(A3)である場合、該(A)重合体粒子は、好ましくは溶液重合によって製造される。
(A)重合体粒子の製造を乳化重合によった場合、乳化重合によって得られたラテックスに、所定量の(B)過酸化物を混合することにより、本発明の電極用バインダー組成物を調製することができる。
(A)重合体粒子の製造を溶液重合によった場合、得られた重合体溶液をラテックス化した後に、所定量の(B)過酸化物を添加して混合することにより、本発明の電極用バインダー組成物を調製することができる。重合体溶液をラテックス化する方法としては、例えば特開2011−144374号公報に記載の方法などによることができる。
本発明の電極用バインダー組成物は、そのpHが中性付近であることが好ましく、pH6.0〜8.5であることがより好ましく、特にpH7.0〜8.0であることが好ましい。組成物のpHの調整には、公知の酸または塩基を用いることができる。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを;
塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などを、それぞれ挙げることができる。
従って本発明の電極用バインダー組成物は、上記の酸または塩基を、pHの調整に必要な範囲で含有していてもよい。
1.6 電極用バインダー組成物の貯蔵方法
上記したとおり、(A)重合体粒子および(C)液状媒体とともに(B)過酸化物を含有する本発明の電極用バインダー組成物は、貯蔵時間の経過に伴う細菌、黴などの微生物の増殖による異物の発生を抑制することができるから、長期保存安定性に優れる。しかし、(B)過酸化物は経時的に少しずつ分解する性質を有するから、貯蔵期間が極めて長期になると、電極用バインダー組成物中の(B)過酸化物の濃度が上記の好ましい範囲の下限を下回る事態が発生し得る。この場合、微生物の増殖抑制効果は損なわれることとなる。
このような場合には、長期保存後の電極用バインダー組成物に(B)過酸化物を追加添加して、その濃度を上記の好ましい範囲内に調整することにより、(B)過酸化物の微生物の増殖抑制効果を復活させることができる。この(B)過酸化物の追加添加を適時に行うことにより、本発明の電極用バインダー組成物は、半永久的に安定に貯蔵することができることとなる。
従って本発明によると、少なくとも
(A)重合体粒子、および
(C)液状媒体
を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物を貯蔵する方法であって、
前記組成物を、(B)過酸化物を含有するものとすることを特徴とする、前記方法も提供される。この場合、(B)過酸化物の濃度は、バインダー組成物の全体に対して、20ppmw〜50質量%とすることが好ましく、25ppmw〜20質量%とすることがより好ましく、30〜3,000ppmwとすることが好ましく、40〜1,500ppmwとすることが特に好ましい。
2. 電極用スラリー
上記のような本発明の電極用バインダー組成物を用いて、電極用スラリーを製造することができる。電極用スラリーとは、集電体の表面上に電極活物質層を形成するために用いられる分散液のことをいう。本発明における電極用スラリーは、少なくとも本発明の電極用バインダー組成物および電極活物質を含有する。
2.1 電極活物質
電極用スラリーに含有される活物質の使用割合は、電極用バインダー組成物中の(A)重合体粒子の量が活物質100質量に対して、0.1〜25質量部となる割合とすることが好ましく、0.5〜15質量部となる割合とすることがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を作成することができる。
活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。粒子の粒径(平均メジアン粒径)としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造される電極用スラリーに使用される電極活物質としては、例えば炭素材料、リチウム原子を含む酸化物、ケイ素原子を含む化合物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニム化合物、ポリアセン系有機半導体(PAS)などを挙げることができる。
本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイスの正極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、リチウム原子を含む酸化物であることが好ましい。
上記リチウム原子を含む酸化物としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどを挙げることができる。
本発明の電極用バインダー組成物を蓄電デバイスの負極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、ケイ素原子を含む化合物を含有するものであることが好ましい。ケイ素原子はリチウムの吸蔵力が大きいから、活物質がケイ素原子を含む化合物を含有することにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができる。その結果、蓄電デバイスの出力およびエネルギー密度を高くすることができる。負極用の活物質としては、ケイ素原子を含む化合物と炭素材料との混合物からなることが好ましい。炭素材料は、充放電に伴う体積変化が小さいから、負極用活物質としてケイ素原子を含む化合物と炭素材料との混合物を使用することにより、ケイ素原子を含む化合物の体積変化の影響を緩和することができ、活物質層と集電体の密着性をより向上することができる。ケイ素原子を含む化合物と炭素材料との混合物からなる活物質中に占めるケイ素原子を含む化合物の割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることがさらに好ましく、特に10〜40質量%とすることが好ましい。
上記ケイ素原子を含む化合物としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、特開2004−185810号公報に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄およびモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ化物は、高い電子伝導度を有し、且つ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。ケイ素原子を含む化合物は、単結晶、多結晶および非晶質のいずれであってもよい。
負極活物質の一成分としてケイ素炭素材料と原子を含む化合物とともに用いられる上記の炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることができる。
負極用活物質としては、ケイ素原子を含む化合物とグラファイトとの混合物からなることが特に好ましい。
本発明の電極用バインダー組成物を電気二重層キャパシタ用の電極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、例えば炭素材料、アルミニウム化合物、ケイ素酸化物などを用いることが好ましい。このケイ素酸化物については、負極の製造に用いられるケイ素酸化物として上記したところと同じである。電気二重層キャパシタ用電極の製造に用いられる炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることができる。
さらに、本発明の電極用バインダー組成物をリチウムイオンキャパシタ用の電極を製造するために使用する場合、電極用スラリーが含有する活物質としては、例えば炭素材料、ポリアセン系有機半導体(PAS)などを用いることが好ましい。リチウムイオンキャパシタ用の電極の製造に用いられる炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることができる。
上記における「酸化物」とは、酸素と、酸素よりも電気陰性度の小さい元素と、からなる化合物または塩を意味する概念であり、金属酸化物の他、金属のリン酸塩、硝酸塩、ハロゲンオキソ酸塩、スルホン酸塩などをも包含する概念である。
2.3 任意的添加成分
本発明における電極用スラリーは、前述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば導電付与剤、増粘剤、液状媒体(ただし、電極用バインダー組成物からの持ち込み分を除く。)などを挙げることができる。
2.3.1 導電付与剤
本発明における電極用スラリーは、導電付与剤を含有することができる。
本発明における電極用スラリー中の導電付与剤の割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に2〜10質量部であることが好ましい。
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどを挙げることができる。カーボンとしては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。
2.3.2 増粘剤
電極用スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有することができる。
増粘剤の使用割合としては、電極用スラリー中の増粘剤の重量(Wv)と活物質の重量(Wa)との比(Wv/Wa)が0.001〜0.1となる割合である。この比(Wv/Wa)は、0.005〜0.05であることが好ましい。
増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;
上記セルロース誘導体のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;
ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;
上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;
ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸などの不飽和カルボン酸と、ビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。
2.3.3 液状媒体
電極用スラリーは、電極用バインダー組成物を含有するから、電極用バインダー組成物が含有していた(C)液状媒体を含有することとなる。しかしながら電極用スラリーは、電極用バインダー組成物から持ち込まれた液状媒体に加えて、さらなる液状媒体を追加で含有してもよい。
電極用スラリーにおける液状媒体(電極用バインダー組成物からの持ち込み分を含む。)の使用割合は、電極用スラリーの固形分濃度(電極用スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量が電極用スラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30〜70質量%となる割合とすることが好ましく、40〜60質量%となる割合とすることがより好ましい。
電極用スラリーに追加含有される液状媒体は、電極用バインダー組成物に含有されていた(C)液状媒体と同種であってもよく、異なっていてもよいが、電極用バインダー組成物における(C)液状媒体について上述した液状媒体から選択して使用されることが好ましい。
2.4 電極用スラリーの製造方法
電極用スラリーは、上記の各成分を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
しかしながら、より良好な分散性および安定性を有する電極用スラリーを、より効率的且つ安価に製造するとの観点から、電極用バインダー組成物に、活物質および必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することができる。
電極用バインダー組成物とその他の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
電極用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10〜5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
電極用スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
2.5 電極用スラリーの曳糸性
本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製された電極用スラリーは、その曳糸性が30〜80%であることが好ましく、33〜79%であることがより好ましく、35〜78%であることが特に好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、電極用スラリーを集電体上へ塗布する際、レベリング性が不足するため、電極厚みの均一性を得難くなる場合がある。このような厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、電極用スラリーを集電体上に塗布する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られ難い。そこで、曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた電極を製造することが容易となるのである。
本明細書における「曳糸性」は、以下のようにして測定される。
まず、底部に直径5.2mmの開口部を有するザーンカップ(太佑機材(株)製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。この開口部を閉じた状態で、ザーンカップに電極用スラリー40gを流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部から電極用スラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT、電極用スラリーの曳糸が終了した時をT、電極用スラリーの流出が終了した時をTとした場合に、本明細書における「曳糸性」は下記数式(1)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 (1)
3. 蓄電デバイス用電極の製造方法
蓄電デバイス用電極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、本発明の電極用バインダー組成物を用いて製造された電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜から液状媒体を除去することにより、製造することができる。この様にして製造された電極は、集電体上に、前述の重合体および活物質、さらに必要に応じて使用される任意添加成分を含有する活物質層が結着されてなるものである。本発明の電極用バインダー組成物に含有される(B)過酸化物が過酸化水素である場合、該過酸化水素は、活物質層形成の行程中に散逸し、得られる活物質層中には残存しないものと考えられる。集電体の表面に前述した電極用スラリーから形成された層を有する電極は、集電体と活物質層間と間の結着性に優れるとともに、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好である。
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、一般に、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用される。正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、本発明の電極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。
集電体の形状および厚さは特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものとすることが好ましい。
電極用スラリーの集電体への塗布方法については、特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。電極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体を除去した後に形成される活物質層の厚さが、0.005〜5mmとなる量とすることが好ましく、0.01〜2mmとなる量とすることがより好ましい。
塗布後の塗膜からの液状媒体の除去方法についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
さらに、液状媒体除去後の集電体をプレスすることにより、活物質層の密度を高めることが好ましい。プレス方法としては、金型プレス、ロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類および活物質層の密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができる。例えばロールプレスの場合、ロールプレス機の線圧力を好ましくは0.1〜10t/cm、より好ましくは0.5〜5t/cmに設定し、ロール温度を好ましくは20〜100℃として、分散媒除去後の塗膜の送り速度(ロールの回転速度)を好ましくは1〜80m/分、より好ましくは5〜50m/分として、行うことができる。
プレス後の活物質層の密度は、電極を正極として使用する場合には、1.5〜2.4g/cmとすることが好ましく、1.7〜2.2g/cmとすることがより好ましく;
電極を負極として使用する場合には、1.2〜1.9g/cmとすることが好ましく、1.3〜1.8g/cmとすることがより好ましい。
プレス後の塗膜は、さらに、減圧下で加熱して液状媒体を完全に除去することが好ましい。この場合の減圧の程度としては、絶対圧として50〜200Paとすることが好ましく、75〜150Paとすることがより好ましい。加熱温度としては、100〜200℃とすることが好ましく、120〜180℃とすることがより好ましい。加熱時間は、2〜12時間とすることが好ましく、4〜8時間とすることがより好ましい。
このようにして製造された蓄電デバイス用電極は、集電体と活物質層との間の密着性に優れるとともに、電気的特性の一つであるサイクル特性が良好である。
4. 蓄電デバイス
上記のような本発明の蓄電デバイス用電極を用いて、蓄電デバイスを製造することができる。
蓄電デバイスは、前述した電極を備えるものであり、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法は、例えば以下のとおりである。適当なセパレータを介して負極と電極とを重ね合わせ、次いでこれを電池形状に応じて変形(例えば巻く、折るなど)したうえで電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法が例示できる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型などの適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、電極活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。
電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
上記電解質としては、例えばリチウムイオン二次電池においては、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;
γ−ブチルラクトンなどのラクトン化合物;
トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、重合体粒子の合成は、必要に応じて下記のスケールで繰り返し行い、以降の実験における必要量を確保した。
<リチウムイオン二次電池の正極への適用:活物質=LiFePO
実施例1
1.重合体粒子(A1)の合成
(1)重合体(A1a)の重合
電磁式撹拌機を備えた内容積約6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5Lおよび乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VF)70質量%および六フッ化プロピレン(HFP)30質量%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmに達するまで仕込んだ。さらに、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20質量%含有するフロン113(CClF−CClF)溶液25gを、窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始した。重合中は内圧が20kg/cmに維持されるように、VF60.2質量%およびHFP39.8質量%からなる混合ガスを逐次圧入した。重合が進行するに従って重合速度が低下するため、重合開始から3時間経過後に、先と同じ重合開始剤溶液の同量を窒素ガスを使用して圧入し、さらに3時間反応を継続した。その後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出して反応を停止することにより、重合体(A1a)の微粒子を40質量%含有する水分散体を得た。得られた重合体(A1a)について19F−NMRにより分析した結果、各単量体の質量組成比はVF/HFP=21/4であることが分かった。
(2)重合体粒子(A1)の合成(重合体(A1b)の重合)
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、上記の工程で得られた重合体(A1a)の微粒子を含有する水分散体1,600g(重合体(A1a)換算で25質量部に相当)、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、(株)ADEKA製)0.5質量部、メタクリル酸メチル(MMA)30質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40質量部およびメタクリル酸(MAA)5質量部ならびに水130質量部を順次仕込み、70℃で3時間攪拌し、重合体(A1a)に単量体を吸収させた。次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体粒子(A1)を40質量%含有する水分散体を得た。
(3)THF不溶分の測定
上記で得られた水分散体の約10gを直径8cmのテフロン(登録商標)シャーレへ秤り取り、120℃で1時間加熱して溶媒を除去し、成膜した。得られた膜(重合体)のうちの1gをテトラヒドロフラン(THF)400mL中に浸積して50℃で3時間振とうした。次いで、THF相を300メッシュの金網でろ過して不溶分を分離した後、溶解分のTHFを蒸発除去して得た残存物の重量(Y(g))を測定した値から、下記数式(2)によってTHF不溶分を求めたところ、上記重合体粒子のTHF不溶分は85質量%であった。
THF不溶分(質量%)=((1−Y)/1)×100 (2)
(4)DSC分析
さらに、得られた重合体粒子(A1)を示差走査熱量計(DSC)によって測定したところ、単一のガラス転移温度Tgが−5℃に1つだけ観測された。この重合体粒子(A1)は、2種類の重合体から構成されているにもかかわらず1つのTgしか示さないため、ポリマーアロイ粒子であると推測された。
2.電極用バインダー組成物の調製および評価
(1)電極用バインダー組成物の調製
上記で得られた重合体粒子(A1)を含有する水分散体1,000gに、(B)過酸化物としての過酸化水素を2質量%含有する水溶液を31g加え、300rpmで撹拌することにより、電極用バインダー組成物を調製した。この電極用バインダー組成物の全量に対する過酸化水素の配合量(仕込量)は、約600ppmwである。
(2)重合体粒子の最頻粒径の測定
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、形式「FPAR−1000」)を用いて、得られた電極用バインダー組成物に含有される重合体粒子(A1)の粒度分布を測定し、その粒度分布から求めた最頻粒径は330nmであった。
(3)過酸化水素濃度の測定
容量50mLのスクリューキャップバイアルに攪拌子を入れ、凝固剤として濃度5質量%の硫酸アルミニウム水溶液を約15mL仕込み、該水溶液の重量を正確に秤量した。ここに、上記(1)で得られた電極用バインダー組成物約2.0gをピペットで徐々に滴下し、滴下した重量を正確に秤量した。このスクリューキャップバイアルをマグネチックスターラーで1分間撹拌し、重合体粒子(A1)を凝集させた。この凝集させた重合体粒子(A1)を定性ろ紙(No.5B)でろ別により除去した後、ろ過分をさらに孔径0.45μmフィルター付き20mL用シリンジでろ過して、ろ液を得た。このろ液のうちの200μLを、呈色試薬溶液(3.2mol/L過塩素酸水溶液50mLに6.0×10−5mol/Lのオキソ[5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリナト]チタン(IV)水溶液50mLを加えたもの)100mL中に加え、25℃で15分撹拌を行った。
上記呈色試薬溶液にろ液を加えた試料の432nmにおける吸光度(A)を、蒸留水を対照液として測定した。同様に、ろ液の代わりに蒸留水を用いた空試験を行って、432nmにおける吸光度(A’)を測定し、吸光度(A)および(A’)の差(△A)を求めた。この△Aの値を用いて、検量線およびろ液の希釈倍率から過酸化水素の濃度を定量したところ、この電極用バインダー組成物における過酸化水素の含有量は597ppmwであった。
上記の吸光度の変化は、オキソ[5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリナト]チタン(IV)と過酸化水素との錯体形成反応によってペルオキソ[5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリナト]チタン(IV)が生成したことによる。
(4)電極用バインダー組成物の耐腐敗性試験
一般的に電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスを製造する工場において、使用に備えて大量に貯蔵され、順次消費される。この電極用バインダー組成物の貯蔵中に細菌などが繁殖すると、この電極用バインダー組成物を用いて製造された電極用スラリーは凝集が発生し易く、得られる電極のクラック耐性や蓄電デバイスの充放電特性を悪化させることがあるため、好ましくない。
そこで、電極用バインダー組成物の耐腐敗性を、以下のように評価した。
上記で調製した電極用バインダー組成物100gに、菌液5gを加え、35℃において2週間保存した後、上記と同じ菌液5gを追加して、35℃においてさらに2ヶ月間保存した。この菌液を加えて保存した後の電極用バインダー組成物の菌数を、市販の簡易培地「イージーカルト(EASICULT)TTC」(フィンランド国、Orion Diagnostica Oy.社製)を用いて28℃において48時間恒温器内で培養した後に発生した菌のコロニーの密度を対照表と比較して求めた。
なお上記の菌液としては、上記「1.(2)重合体粒子(A1)の合成」の項で調製した、重合体粒子(A1)を40質量%含有する水分散体へ、指標菌として非発酵陰性桿菌comamonas acidovoransを添加して腐敗させ、菌数が10個/mLとなったものを使用した。
ここで、長期貯蔵安定性に優れる電極用バインダー組成物は菌数が少ない。菌数は0個/mLであることが望ましいが、電極を製造する場合には、菌数が10個/mLに達しなければ許容することができ、菌数が10個/mL未満であればさらに安定して良好な電極を製造することができる。しかしながら、菌数が10個/mLより多くなると、菌によって発生する異物が多くなるため、均質な電極の製造が困難となり、電極の生産性が低下する。これらのことから、菌数の閾値としては、10個/mLまでが良好な範囲であると考えられる。以下のとおりの基準によって評価した結果を、第2表に示した。
○:菌数が10個/mL未満
△:菌数が10個/mL以上10個/mL未満
×:菌数が10個/mL以上
(5)電極用バインダー組成物の凍結温度の評価
電極用バインダー組成物の貯蔵は、コストの観点から環境管理を厳密に行わないことが通常である。このため、冬季には0℃近い低温環境に晒される場合がある。従って、電極用バインダー組成物が0℃で凍結することは許容できず、凍結温度が−0.5℃以下であることが要求される。従って、凍結温度が−0.5℃以下である電極用バインダー組成物は、貯蔵安定性が良好であると判断することができる。
上記で調製した電極用バインダー組成物をポリビンに1,000g充填して−10℃の冷凍庫に保管し、凍結が開始する温度(凍結温度)を測定した。評価結果は第2表に示した。
3.電極用スラリーの調製および評価
(1)電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC1120」、(株)ダイセル製)1質量部(固形分換算値)、電極活物質(市販のリン酸鉄リチウム(LiFePO)をめのう乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて分級することにより得られた粒子径(D50値)が0.5μmのもの)100質量部、アセチレンブラック5質量部および水68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。次いで、上記「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」で得られた電極用バインダー組成物を、該組成物中に含有される重合体粒子の量が1質量部となるように加え、さらに1時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を50質量%に調整した後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリー(正極用スラリー)を調製した。
(2)電極用スラリーの曳糸性の測定
得られた電極用スラリーの曳糸性を、以下のようにして測定した。
先ず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材(株)製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備した。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、上記で調製した電極用スラリーを40g流し込んだ。開口部を開放するとスラリーが流れ出した。このとき、開口部を開放した瞬間の時間をTとし、スラリーが流れ出る際に糸を曳くようにして流出し続けた時間を目視で測定し、この時間をTとした。さらに、糸を曳かなくなってからも測定を継続し、電極用スラリーが流れ出なくなるまでの時間Tを測定した。測定した各値T、TおよびTを上記数式(1)に代入して曳糸性を求めた。この電極用スラリーの曳糸性は30〜80%である場合に、該電極用スラリーは集電体上への塗布性が良好であると判断することができる。曳糸性の測定結果は第2表に示した。
4.電極の製造および評価
(1)電極の製造
厚み30μmのアルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記で調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分乾燥し、次いで120℃において10分間乾燥した。その後、膜(電極活物質層)の密度が第2表に記載の値になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極(正極)を得た。
(2)ピール強度の測定
得られた電極から幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片の電極活物質層側の表面を、幅25mmの両面テープ(ニチバン(株)製、商品名「ナイスタック(登録商標)」)を用いてアルミニウム板に貼り付けた。一方、試験片の集電体の表面に、幅18mmテープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ(登録商標)」、JIS Z1522に規定)を貼り付けた。この幅18mmテープを90°方向に50mm/minの速度で2cm剥離したときの力(N/m)を6回測定し、その平均値を密着強度(ピール強度、N/m)として算出した。
このピール強度の値が大きいほど、集電体と電極活物質層との密着強度が高く、集電体から電極活物質層が剥離し難いと評価することができる。定量的には、ピール強度の値が7N/m以上である場合、密着強度が良好であると判断することができる。ピール強度の測定結果は第2表に示した。
(3)クラック率の測定
得られた電極から幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、該試験片について直径2mmの丸棒に沿って幅方向に折り曲げ回数100回にて繰り返し折り曲げ試験を行った。丸棒に沿った部分のクラックの大きさを目視により観察し計測し、クラック率を測定した。クラック率は、下記数式(3)によって定義した。
クラック率(%)=(クラックの入った長さ[mm]÷極板全体の長さ[100mm])×100 (3)
ここで、柔軟性や密着性に優れる電極はクラック率が低い。クラック率は0%であることが望ましいが、セパレータを介して渦巻き状に捲回して極板群を製造する場合には、クラック率が20%以下であれば許容される。しかしながら、クラック率が20%より大きくなると、電極が切れ易くなり極板群の製造が不可能となり、極板群の生産性が低下する。このことから、クラック率として20%以下が良好な範囲であると考えられる。クラック率の測定結果は第2表に示した。
5.蓄電デバイスの製造および評価
(1)対極(負極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、ポリフッ化ビニリデン4質量部(固形分換算値、濃度5質量%のN−メチルピロリドン(NMP)溶液として添加)、負極活物質としてグラファイト100質量部およびNMP80質量部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、さらにNMP20質量部を追加した後、撹拌脱泡機((株)シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、対極(負極)用スラリーを調製した。
銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製した対極(負極)用スラリーを、溶媒除去後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間加熱して溶媒を除去した。その後、膜の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、対極(負極)を得た。
(2)リチウムイオン二次電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようにAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した電極(負極)を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード(株)製、商品名「セルガード#2400」)を載置した。さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置した。最後に、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン二次電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液である。
(3)充放電レート特性の評価
上記で製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として、0.2Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cでの放電容量を測定した。
次に、同じセルにつき、定電流(3C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として3Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(3C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、3Cでの放電容量を測定した。
上記の測定値を用いて、0.2Cでの充電容量に対する3Cでの充電容量の割合(百分率%)を計算することにより充電レート(%)を、0.2Cでの放電容量に対する3Cでの放電容量の割合(百分率%)を計算することにより放電レート(%)を、それぞれ算出した。充電レートおよび放電レートの双方がいずれもが80%以上のとき、充放電レート特性は良好であると評価することができる。測定された充電レートおよび放電レートの値を、第2表にそれぞれ示した。
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、10Cとは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
(4)長期貯蔵後の充放電レート特性の評価
電極用バインダー組成物の貯蔵は数ヶ月〜数年程度の長期にわたる場合があり、長期間貯蔵した後の電極用バインダー組成物を使用した場合であっても、得られる蓄電デバイスの性能が一定となる必要がある。従って、下記「5.1.6.蓄電デバイスの製造および評価」において長期間貯蔵後のバインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイスが、調製直後のバインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイスと遜色ない充放電特性を示す場合には、該電極バインダー組成物の長期貯蔵安定性が良好であると判断することができる。
上記「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」で得られた電極用バインダー組成物をポリビンに1,000g充填し、2℃に設定した冷蔵庫で5ヶ月間貯蔵した。この貯蔵後の電極用バインダー組成物を使用して蓄電デバイスを製造し、上記の「(3)充放電レート特性の評価」と同様にして長期貯蔵後の充放電レート特性の評価を行った。測定された充電レートおよび放電レートの値を、第2表にそれぞれ示した。貯蔵後の電極用バインダー組成物について上記「2.(3)過酸化水素濃度の測定」と同様にして測定した過酸化水素濃度も第2表に合わせて示した。
実施例2〜7および比較例1
上記実施例1の「1.重合体粒子(A1)の合成」において、重合体(A1a)を合成するための単量体および重合体(A1b)を合成するための単量体の種類および量を、それぞれ第1表に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にして固形分濃度40質量%の重合体粒子(A1)を含有する水分散体を調製した。これらの水系分散体に含有される重合体粒子(A1)は、DSC測定の結果から、いずれもポリマーアロイ粒子であると推定された。
次いで、上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第2表のとおりとしたほかは、実施例1の「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第2表に示した。
実施例8
1.重合体粒子(A1)の合成
容量7リットルのセパラブルフラスコに、水150質量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部を仕込み、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した。一方、別の容器に、水60質量部、乳化剤としてエーテルサルフェート型乳化剤(商品名「アデカリアソープSR1025」、(株)ADEKA製)を固形分換算で0.8質量部ならびに単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)20質量部、アクリロニトリル(AN)10質量部、メチルメタクリレート(MMA)25質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)40質量部およびアクリル酸(AA)5質量部を加え、十分に攪拌して上記単量体の混合物を含有する単量体乳化液を調製した。その後、上記セパラブルフラスコ内部の昇温を開始し、内部の温度が60℃に到達した時点で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5質量部を加えた。そして、セパラブルフラスコの内部の温度が70℃に到達した時点で、上記で調製した単量体乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内部の温度を70℃に維持したまま単量体乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、セパラブルフラスコの内部の温度を85℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を行った。3時間後、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止した後、アンモニウム水を加えてpHを7.6に調整することにより、重合体粒子(A2)を30質量%含有する水分散体を得た。
この水分散体について、実施例1におけるのと同様にしてTHF不溶分の測定およびDSC分析を行った。結果は第2表に示した。
2.評価
上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第2表のとおりとしたほかは、実施例1の「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第2表に示した。
実施例9および10
上記実施例8の「1.重合体粒子(A1)の合成」において、各単量体の種類および量を、それぞれ第1表に記載のとおりとしたほかは、実施例8と同様にして固形分濃度40質量%の重合体粒子(A1)を含有する水分散体を調製した。
この水分散体について、実施例1におけるのと同様にしてTHF不溶分の測定およびDSC分析を行った。結果は第2表に示した。
上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第2表のとおりとしたほかは、実施例1の「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第2表に示した。
<リチウムイオン二次電池の負極への適用:活物質=グラファイト>
実施例11
1.重合体粒子(A2)の合成
攪拌機を備えた温度調節可能なオートクレーブ中に、水200質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、過硫酸カリウム1.0質量部、重亜硫酸ナトリウム0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.2質量部、ドデシルメルカプタン0.2質量部および第3表に示した一段目重合成分を一括して仕込み、70℃に昇温して2時間重合反応を行った。重合転化率が80%以上であることを確認した後、反応温度を70℃に維持したまま、第3表に示す二段目重合成分の混合物を6時間かけて添加した。二段目重合成分の添加開始から3時間経過した時点で、α−メチルスチレンダイマー1.0質量部およびドデシルメルカプタン0.3質量部を添加した。二段目重合成分の添加終了後、オートクレーブ内の温度を80℃に昇温し、さらに2時間反応を行ってラテックスを得た。
その後、ラテックスのpHを7.5に調節し、トリポリリン酸ナトリウム5質量部(固形分換算値、濃度10質量%の水溶液として添加)を加えた。次いで、残留単量体を水蒸気蒸留によって除去し、減圧下で濃縮することにより、重合体粒子(A2)を50質量%含有する水分散体を得た。
この水分散体について、実施例1におけるのと同様にしてTHF不溶分の測定およびDSC分析を行った。結果は第3表に示した。
2.電極用バインダー組成物の調製および評価
上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を第4表のとおりとしたほかは、実施例1の「2.(1)電極用バインダー組成物の調製」と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第4表に示した。
3.電極用スラリーの調製および評価
(1)電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、(株)ダイセル製)を1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、負極活物質としてグラファイト100質量部および水68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、上記「2.電極用バインダー組成物の調製および評価」で得られた電極用バインダー組成物を、これに含有される重合体粒子の2質量部に相当する量だけ加え、さらに1時間攪拌しペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分濃度を50質量%に調整した後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリー(負極用スラリー)を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第4表に示した。
4.電極の製造および評価
厚み20μmの銅箔よりなる集電体の表面に、上記「2.電極用バインダー組成物の調製および評価」で調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分乾燥し、次いで120℃で10分間乾燥処理した。その後、電極活物質層の密度が第4表に記載の値になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極(負極)を得た。
この電極について、実施例1と同様にして、ピール強度およびクラック率を測定した。評価結果は第4表に示した。
5.蓄電デバイスの製造および評価
(1)対極(正極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、電気化学デバイス電極用バインダー((株)クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0質量部(固形分換算値)、導電助剤(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0質量部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO(ハヤシ化成(株)製)100質量部(固形分換算値)およびN−メチルピロリドン(NMP)36質量部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを追加し、固形分濃度を65質量%に調製した後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。アルミニウム箔よりなる集電体の表面に、この電極用スラリーを、溶媒除去後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間加熱して溶媒を除去した。その後、電極活物質層の密度が3.0g/cmとなるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、対極(正極)を得た。
(2)リチウムイオン二次電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した電極(負極)を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード(株)製、商品名「セルガード#2400」)を載置した。さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記「(1)対極(正極)の製造」の項で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置した。最後に、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン二次電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
(3)蓄電デバイスの評価
上記で製造したリチウムイオン二次電池セルについて、実施例1と同様にして充放電レート特性を評価した。評価結果は第4表に示した。
(4)長期貯蔵後の充放電レート特性の評価
上記「2.電極用バインダー組成物の調製および評価」で得られた電極用バインダー組成物をポリビンに1,000g充填し、2℃に設定した冷蔵庫で5ヶ月間貯蔵した。この貯蔵後の電極用バインダー組成物を使用して蓄電デバイスを製造し、上記の「(3)蓄電デバイスの評価」と同様にして長期貯蔵後の充放電レート特性の評価を行った。測定された充電レートおよび放電レートの値を、第4表にそれぞれ示した。貯蔵後の電極用バインダー組成物について実施例1の「2.(3)過酸化水素濃度の測定」と同様にして測定した過酸化水素濃度も第4表に合わせて示した。
実施例12〜14、16〜19、21および22ならびに比較例2
上記実施例11の「1.重合体粒子(A2)の合成」において、一段目重合成分および二段目重合成分の種類および量を、それぞれ第3表に記載のとおりとしたほかは、実施例11と同様にして固形分濃度50質量%の重合体粒子(A2)を含有する水分散体を調製した。
次いで、上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第4表のとおりとしたほかは、実施例11と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第4表に示した。
実施例15
攪拌機を備えた温度調節可能なオートクレーブ中に、水200質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、過硫酸カリウム1.0質量部、重亜硫酸ナトリウム0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.5質量部、ドデシルメルカプタン0.3質量部および第3表に示した単量体を一括して仕込み、70℃に昇温し8時間重合反応を行った。その後、温度を80℃に昇温し、さらに3時間反応を行なってラテックスを得た。このラテックスのpHを7.5に調節し、トリポリリン酸ナトリウム5質量部(固形分換算値、濃度10質量%の水溶液として添加)を加えた。その後、残留モノマーを水蒸気蒸留によって除去し、減圧下で濃縮することにより、重合体粒子(A2)を50質量%含有する水分散体を得た。
次いで、上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第4表のとおりとしたほかは、実施例11と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第4表に示した。
実施例20
上記実施例15において、単量体の種類および量を、それぞれ第3表に記載のとおりとしたほかは、実施例15と同様にして固形分濃度50質量%の重合体粒子(A2)を含有する水分散体を調製した。
次いで、上記で調製した重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の配合量を、それぞれ第1表のとおりとしたほかは、実施例11と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第4表に示した。
実施例21〜23
これらの実施例においては、第5表に示した番号の実施例における「1.重合体粒子(A2)の合成」で得られた重合体粒子(A2)を50質量%含有する水分散体をそれぞれ使用した。
上記の各実施例で得られた重合体粒子を含有する水分散体を用い、過酸化水素の代わりに第5表に示した種類および仕込量の有機過酸化物を使用したほかは、実施例11と同様にして電極用バインダー組成物を調製し、各種の評価を行った。評価結果は第5表に示した。各電極用バインダー組成物中の有機過酸化物濃度について、ヨウ素滴定法によって測定した実測値も第5表に合わせて示した。
<リチウムイオン二次電池の負極への適用:活物質=黒鉛被覆酸化ケイ素+グラファイト>
調製例1(ケイ素原子を含む化合物を含有する活物質の調製)
炭素粉末(平均粒子径35μm(D50値))と粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒子径10μm(D50値))との混合物について、温度を1,100〜1,600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5〜1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒子径8μm(D50値))を得た。
得られた酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1,100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2,000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら1,100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被覆処理)を行った。黒鉛被覆処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被覆酸化ケイ素の粉末約330gを得た。この黒鉛被覆酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末であり、その平均粒子径は10.5μm(D50値)であり、黒鉛被覆酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被覆の割合は2質量%であった。
上記で得られた黒鉛被覆酸化ケイ素を活物質の一成分として用いた。
実施例24〜28
1.電極用バインダー組成物の調製
これらの実施例においては、第6表に示した番号の実施例における「1.重合体粒子(A2)の合成」で得られた重合体粒子(A2)を50質量%含有する水分散体をそれぞれ使用した。
上記の各実施例で得られた重合体粒子を含有する水分散体を用い、第6表に示した種類および仕込量の(B)過酸化物を使用したほかは、実施例11と同様にして電極用バインダー組成物を調製して、各種の評価を行った。評価結果は第6表に示した。(B)過酸化物の濃度(実測値)の測定は、過酸化水素については実施例1と同様にして行い、有機過酸化物については実施例21と同様にして行った。
2.電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)中に、増粘剤((株)ダイセル製、商品名「CMC2200」)1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、ならびに負極活物質として、上記調製例1で得られた黒鉛被覆膜酸化ケイ素の粉末(第6表において「C/SiO」と表記)および人造黒鉛(日立化成工業(株)製、商品名「SMG−HE1」、結晶性の高いグラファイトである。第6表において「グラファイト」と表記)を、それぞれ、第6表に記載の量(質量部)だけ仕込み、さらに水68質量部を投入して60rpmで1時間攪拌を行った。その後、上記で得られた各電極用バインダー組成物を、これに含有される重合体粒子が1.5質量部に相当する量となるように加え、さらに1時間攪拌してペーストを得た。
得られたペーストに水を加えて固形分濃度を50質量%に調整した後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリー(負極用スラリー)をそれぞれ調製した。
3.評価
上記で得られた各電極用スラリーを用いたほかは、上記実施例11と同様にして、電極用スラリーの曳糸性を調べ、電極および蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)を製造して評価した。
評価結果は、第6表にそれぞれ示した。
Figure 0006052520
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第1表および第3表における単量体の略称は、それぞれ以下の意味である。
・VF:フッ化ビニリデン
・HFP:六フッ化プロピレン
・TFEMA:メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル
・TFEA:アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル
・HFIPA:アクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル
・MMA:メタクリル酸メチル
・EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
・HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
・MAA:メタクリル酸
・AA:アクリル酸
・TA:イタコン酸
・DVB:ジビニルベンゼン
・TMPTMA:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン
・AN:アクリロニトリル
・BD:1,3−ブタジエン
・ST:スチレン
第5表および第6表における有機過酸化物の略称は、それぞれ以下の意味である。
・パーヘキサ25B:日油(株)製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン
・パーブチルO:日油(株)製、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート
・パーブチルI:日油(株)製、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート
上記の表から明らかなように、実施例1〜28に示した本発明の電極用バインダー組成物を用いて調製された電極用スラリーは、クラック率が低く、密着性に優れる電極を与えた。また、これらの電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)は、充放電レート特性が良好であった。さらに、本発明の電極用バインダー組成物を2℃の冷蔵庫で5ヶ月間貯蔵した後に使用して製造された電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)は、調製直後の電極用バインダー組成物を使用した場合と比較して遜色のない充放電レート特性を示すことが確認され、本発明の電極用バインダー組成物が極めて高度の長期貯蔵安定性を示すことが分かった。
一方、比較例1および2に示した電極用バインダー組成物は、電極のクラック耐性に劣る。これは、これらの組成物が貯蔵安定性に優れないため、電極用スラリーにおいて凝集が発生したことによるものと考えられる。さらに、比較例1に示したバインダー組成物を長期間貯蔵した後に使用して製造された電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)は、調製直後の電極用バインダー組成物を使用した場合と比較して充放電レート特性が劣ることが分かった。
上述のとおり、実施例1〜7および比較例1で使用した重合体粒子(A1)がポリマーアロイ粒子であることは、DSCチャートから推定した。
図1に、実施例3で得られた重合体粒子(A1)のDSCチャートを示した。実施例3では、重合体(A1a)からなる微粒子へさらに単量体を添加し、多段重合を行ったため、少なくとも二種類の重合体を含有する重合体粒子であると考えられる。しかしながら、図1から明らかなように、それら二種類の重合体に由来する二種類のTgは確認できず、一つのTgのみが観察された。これは実施例3の重合体粒子がポリマーアロイの状態にあることを示唆している。

Claims (10)

  1. 少なくとも
    (A)重合体粒子、および
    (C)液状媒体
    を含有する蓄電デバイスの電極用バインダー組成物を貯蔵する方法であって、
    前記組成物を、(B)過酸化物を含有するものとすることを特徴とする、前記方法。
  2. 前記(B)過酸化物が有機過酸化物である、請求項1に記載の方法
  3. 前記有機過酸化物である(B)過酸化物の濃度が、前記バインダー組成物の全体に対して0.1〜50質量%である、請求項2に記載の方法
  4. 前記重合体粒子が、
    (A2)共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子である、請求項2または3に記載の方法
  5. 前記(A2)重合体粒子が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位および(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位をさらに有するものである、請求項4に記載の方法
  6. 前記(B)過酸化物が過酸化水素である、請求項1に記載の方法
  7. 前記過酸化水素である(B)過酸化物の濃度が、前記バインダー組成物の全体に対して20〜3,000ppmwである、請求項6に記載の方法
  8. 前記(A)重合体粒子が、
    (A1)フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子、または
    (A2)共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する重合体粒子
    である、請求項6または7記載の方法
  9. 前記(A1)重合体粒子が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位をさらに有するものである、請求項8に記載の方法
  10. 前記(A2)重合体粒子が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位および(メタ)アクリレート化合物に由来する繰り返し単位よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位をさらに有するものである、請求項8に記載の方法

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