以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、図1、図2の矢印Fで示す方向をクローラ車両であるコンバイン1の前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの前進方向を基準とするものであり、例えば、図中の矢印Lで示す方向は、この前進方向を基準としての左方向を示す。
まず、本発明に関わる車軸駆動装置2を搭載したコンバイン1の全体構成について、図1乃至図3により説明する。該コンバイン1においては、トラックフレーム3の左右にクローラ式走行装置4L・4Rが支持されると共に、トラックフレーム3には機台5が架設されている。
そして、機体前後には、刈取部6と脱穀部7が設けられ、このうちの前記刈取部6は、刈刃8及び穀稈搬送機構9等を備えると共に、刈取フレーム14を介して油圧シリンダ13により昇降できるようにしている。
前記脱穀部7には、フィードチェーン10が左側に張架され、該フィードチェーン10の右側方には、扱胴11と処理胴12が内蔵されると共に、脱穀部7の後方には、排藁チェーン15の終端を望ませる排藁処理部16が配置され、脱穀後の排藁を後方に排出するようにしている。
該排藁処理部16の側方には、前記脱穀部7からの穀粒を、揚穀筒17を介して搬入する穀物タンク18が設けられ、該穀物タンク18の上方には、左右上下に回動可能な排出オーガ19が配設されており、刈取部6から刈り取られて脱穀部7にて処理された穀粒が、穀物タンク18内に貯留された後、前記排出オーガ19を介して機外に搬出されるようにしている。
また、前記刈取部6と穀物タンク18との間には、運転部20が設けられ、該運転部20においては、運転席23の前方の操作コラム21上に、左右傾倒操作可能な1本の操向レバー22が上方に突出され、該操向レバー22の基部には、操向レバー22の左右傾倒位置を検知するための、左右の緩旋回スイッチ27L・27Rや、左右の急旋回スイッチ28L・28Rが配置されている。更に、該操向レバー22の側方には、本発明に係わる補助クラッチ機構30の伝達トルクの値を任意に設定可能な手動型の補助クラッチレバー24が配置されている。
そして、前記運転席23の側方には、主変速装置29の変速操作を行う主変速レバー25や、副変速装置31の変速操作を行う副変速レバー26が並設されている。
更に、前記運転部20の下方で、前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rの間には、エンジン32と、該エンジン32からの動力を変速して前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rを駆動する車軸駆動装置2とが配設されている。
次に、前記車軸駆動装置2内の各装置・機構及びその動力伝達構成について、図3により説明する。該車軸駆動装置2においては、前記副変速装置31、サイドクラッチ機構33、減速装置34、及び該減速装置34内の補助クラッチ機構30等が、ハウジング35内に収容され、該ハウジング35の外側面に、前記主変速装置29が装着されている。
該主変速装置29は、油圧式無段変速装置(ハイドロスタティックトランスミッション)であって、その装置ケース29aは前記ハウジング35の上部右側面に設けられ、該装置ケース29a内に、図示せぬ油圧回路によって互いに流体接続された可変容積型の油圧ポンプ36と固定容積型の油圧モータ37とが上下に並設されると共に、該油圧ポンプ36への入力軸であるポンプ軸38と、油圧モータ37からの出力軸であるモータ軸39とは、互いに平行に、機体左右方向に軸支されている。
これにより、前記油圧ポンプ36の可動斜板36aの傾角を変化させると、油圧ポンプ36から油圧モータ37への圧油の吐出量と吐出方向を変化させることができ、前記エンジン32から、ベルト式等の伝達装置41を介して前記ポンプ軸38に入力された動力を、主変速動力として前記モータ軸39より無段階に出力することができる。
なお、前記可動斜板36aは、リンク機構40を介して前記主変速レバー25と連動連結されており、該主変速レバー25を傾動操作することにより、前記可動斜板36aの傾角を変更できるようにしている。
また、前記ハウジング35内では、前記ポンプ軸38とモータ軸39と平行して、副変速軸42、中間軸43、サイドクラッチ軸44、左右の減速軸45L・45R、及び前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rをそれぞれ装備する左右の走行車軸46L・46Rが、いずれも左右延伸状に軸支されている。
このうちのモータ軸39は、その左端が前記ハウジング35内に貫入し、該貫入端には、出力ギア47が固設され、該出力ギア47は、前記副変速軸42の右端部に固設したギア48に常時噛合されている。
前記副変速装置31においては、前記副変速軸42上に、右から順にギア部49a、ギア部49b、歯部49cを備えた摺動ギア49が、軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合されると共に、該摺動ギア49より左方には、遊嵌ギア50が相対回転可能に環設されている。一方、前記中間軸43上には、右から順に低速ギア51、中速ギア52、高速ギア53が固設され、該高速ギア53には、前記遊嵌ギア50が常時噛合されている。
これにより、前記摺動ギア49を摺動させ、そのギア部49aを前記低速ギア51に噛合させた低速ギア列49a・51と、前記ギア部49bを中速ギア52に噛合させた中速ギア列49b・52と、前記歯部49cを遊嵌ギア50の歯部50aに係合させた高速ギア列50・53から、3段の副変速段が形成される。
そして、これら低速ギア列49a・51、中速ギア列49b・52、高速ギア列50・53のうちのいずれかを選択することにより、前記モータ軸39から出力ギア47・ギア48を介して副変速軸42に入力された主変速動力を、副変速動力として前記中間軸43に伝達することができる。
なお、前記摺動ギア49も、前記主変速装置29と同様に、リンク機構54を介して前記副変速レバー26と連動連結されており、該副変速レバー26を傾動操作することにより、前記摺動ギア49を摺動させ、前記低速ギア列49a・51、中速ギア列49b・52、高速ギア列50・53のうちのいずれかを選択できるようにしている。
前記サイドクラッチ機構33においては、前記サイドクラッチ軸44上の左右略中央部に、左右両外側部にドッグ爪部55La・55Raを有するセンターギア55が遊嵌され、該センターギア55は、前記中速ギア52に常時噛合されている。更に、該センターギア55の左右両外方には、内側部にドッグ爪部56La・56Raを有する左右のサイドギア56L・56Rが、前記サイドクラッチ軸44上を軸心方向摺動可能に遊嵌配置されている。
そして、該左右のサイドギア56L・56Rを摺動させ、そのドッグ爪部56La・56Raを、それぞれ、前記センターギア55のドッグ爪部55La・55Raに係合・離間させることにより、クラッチの入切が行えるようにして、左右のサイドクラッチ65L・65Rが形成される。
更に、前記左右のサイドギア56L・56Rの左右外端筒部と、前記ハウジング35の内壁から内方に突出する筒状のブレーキケース部35a・35bとの間には、その各々に、摩擦部材を軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能に係止して積層されて成る摩擦部材群64L・64Rが介設されている。加えて、前記サイドギア56L・56Rの左右外端筒部内には、該サイドギア56L・56Rと前記センターギア55との間において、ドッグ爪部56La・55La間またはドッグ爪部56Ra・55Ra間を係合させるための戻しバネ104が配置されている。
そして、前記サイドギア56L・56Rを摺動し、その押圧面にて前記摩擦部材群64L・64R内の摩擦部材同士を圧接・離間させることにより、ブレーキの入切が行えるようにしており、摩擦多板式の左右のサイドブレーキ59L・59Rが形成される。
なお、前記左右のサイドギア56L・56Rには、それぞれ、左右のシフター60L・60Rが嵌合され、該シフター60L・60Rのフォーク軸は、前記ハウジング35の外部に突出されており、その突出端は、左右の操向シリンダ61L・61Rのピストンロッドと接続されている。
該操向シリンダ61L・61Rは、操向電磁弁62の切換によって伸縮可能に構成されており、該操向電磁弁62はコントローラ63に接続されると共に、該コントローラ63には、前記旋回スイッチ27L・27R・28L・28Rが接続されている。
これにより、前記操向レバー22を左右に傾倒操作すると、その傾倒位置信号が、前記旋回スイッチ27L・27R・28L・28Rからコントローラ63に送信され、該コントローラ63からは、所望のモードに相当する開閉信号が操向電磁弁62に送信される。すると、該操向電磁弁62のソレノイドが作動して油路が切り換えられ、作動油が前記操向シリンダ61L・61Rに給排されて、該操向シリンダ61L・61Rのピストンロッドが伸長し、前記シフター60L・60Rを介して、サイドギア56L・56Rがサイドクラッチ軸44上を摺動する。この際の摺動ストロークは、前記操向レバー22の傾倒角度の大きさに応じて変化するものであり、前記サイドクラッチ65L・65Rの入切までに留めたり、あるいは、前記サイドブレーキ59L・59Rの入切まで行われるようにしている。
前記減速装置34においては、前記左右の減速軸45L・45R上の内端部に、それぞれ大径ギア57L・57Rが固設され、減速軸45L・45R上の外端部に、それぞれ小径ギア58L・58Rが固設されており、このうちの大径ギア57L・57Rは、前記サイドギア56L・56Rが前述したように摺動しても噛合が常時維持されるように、該サイドギア56L・56Rに噛合されている。一方、前記小径ギア58L・58Rには、前記走行車軸46L・46R上の内端部に固設した左右の車軸ギア66L・66Rが、それぞれ常時噛合されている。
これにより、サイドギア56Lと、該サイドギア56Lよりも大径の大径ギア57Lとから成る第一減速ギア列56L・57Lに、前記小径ギア58Lと、該小径ギア58Lよりも大径の車軸ギア66Lとから成る第二減速ギア列58L・66Lを連設し、前記サイドギア56Lからの駆動力を、2段階で減速してから左の走行車軸46Lに伝達することができる。右の走行車軸46Rについても同様に、第一減速ギア列56R・57Rに第二減速ギア列58R・66Rを連設し、前記サイドギア56Rからの駆動力を、2段階で減速してから右の走行車軸46Rに伝達することができる。
そして、このような減速装置34の上流側で、左右の走行車軸46L・46Rの間に位置する大径ギア57L・57R間に、後で詳述する前記補助クラッチ機構30が介設されている。
以上のような構成において、前記操向レバー22が左右中央にあると、前記操向電磁弁62には通電されずに操向シリンダ61L・61Rへの給油が行われないため、前記戻しバネ104によって両サイドギア56L・56Rとも内方に摺動され、そのドッグ爪部56La・56Raが、前記センターギア55のドッグ爪部55La・55Raに係合し、両サイドクラッチ65L・65Rが入状態となる。
すると、前記中間軸43からの副変速動力が、前記中速ギア52、センターギア55を介して、両サイドギア56L・56Rに伝達され、その後、前記減速装置34によって減速されてから、左右の走行車軸46L・46Rに伝達され、左右のクローラ式走行装置4L・4Rが等速駆動して、直進走行モードとなる。
前記操向レバー22を小さく左側に傾倒すると、前記操向シリンダ61Lに給油するべく操向電磁弁62に通電され、右のサイドクラッチ65Rは入状態のままで、左のサイドギア56Lのみが外方に摺動操作され、そのドッグ爪部56Laが、前記センターギア55のドッグ爪部55Laから離間し、左のサイドクラッチ65Lが切状態となる。この際、左のサイドギア56Lは、その摺動ストロークが左の摩擦部材群64L内の摩擦部材を押圧するには至らず、離間したままであり、左のサイドブレーキ59Lも切状態となっている。
すると、前記中速ギア52、センターギア55を介して伝達されてきた副変速動力は、右のサイドギア56Rに伝達されてから減速装置34で減速され、その後、右の走行車軸46Rに伝達されて、右のクローラ式走行装置4Rが駆動する一方、副変速動力は、左のサイドギア56Lには全く伝達されず、左のサイドブレーキ59Lも切状態にあることから、左の走行車軸46Lは自由回転し、左のクローラ式走行装置4Lは駆動されることがない。このため、コンバイン1は大きな旋回半径で緩やかに左旋回して、緩旋回モードとなる。
該緩旋回モードにおいて、更に前記操向レバー22を大きく左側に傾倒すると、前記操向シリンダ61Lが更に伸長し、右のサイドクラッチ65Rは入状態のままで、左のサイドギア56Lのみが更に外方に摺動操作され、左の摩擦部材群64L内の摩擦部材同士が圧接されるようになり、左のサイドブレーキ59Lが入状態となる。
すると、右のクローラ式走行装置4Rが駆動する一方、左のサイドブレーキ59Lによって左のサイドギア56Lは固定され、減速装置34を介して左のクローラ式走行装置4Lが制動される。このため、コンバイン1は、緩旋回モード時よりも小さな旋回半径で急速に左旋回して、急旋回モードとなる。そして、該急旋回モードでは、前記操向レバー22の傾倒角度に比例して操向シリンダ61Lの伸長量が増加し、サイドブレーキ59Lによる制動力が大きくなっていき、最大傾倒角度になるとクローラ式走行装置4Lが完全にロックされるように設定している。
次に、前記補助クラッチ機構30について、図2乃至図5により説明する。該補助クラッチ機構30は、前記サイドブレーキ59L・59Rと同様な摩擦多板式であって、前記左右の大径ギア57L・57R間に設けた摩擦部材群67と、該摩擦部材群67を押圧するフォーク部75bとを有し、該フォーク部75bは、押圧操作装置68内に設けられている。
このうちの摩擦部材群67においては、図5に示すように、前記左の大径ギア57Lの半径方向途中部から右方に突出する筒状のクラッチケース部57Laの内周には、ドーナツ板状の複数の摩擦部材77が、軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能に係止される一方、前記右の大径ギア57Rの基部近傍から左方に突出し前記クラッチケース部57La内に内挿された筒状のクラッチケース部57Raの外周にも、ドーナツ板状の複数の摩擦部材78が軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能に係止されている。そして、これらの両摩擦部材77・78が相互に積層されて前記摩擦部材群67が形成されると共に、該摩擦部材群67は、前記左右のクラッチケース部57La・57Ra間に介設されている。なお、該クラッチケース部57Laの基部内側には、前記摩擦部材群67の受圧面が形成されている。
前記押圧操作装置68においては、図4に示すように、前記ハウジング35内に、前記左右の減速軸45L・45Rと平行して、フォーク軸76が横架固定され、該フォーク軸76の外周に、クラッチフォーク75のパイプ状の基部75aが、左右摺動可能に外嵌されている。そして、図5に示すように、該クラッチフォーク75からは、前記フォーク部75bが、前記クラッチケース部57Raに向かって延出されると共に、該フォーク部75bのU字状開口が、前記クラッチケース部57Raに対し、その外周面を跨るように構成されている。
更に、前記フォーク部75bの左側面と、前記摩擦部材群67の右側面との間のクラッチケース部57Ra上には、右から順に、スラスト軸受71とリング状のカラー70とが外嵌されており、該スラスト軸受71・カラー70を介することで、摩擦を抑制しつつ、回転中の摩擦部材群67をフォーク部75bによって右から押圧できるようにしている。
加えて、前記クラッチフォーク75の基部75aには、その略左半部から上方にボス部75a1が膨出し、該ボス部75a1内に、ローラ軸69が前後方向に軸支され、該ローラ軸69の後端部に、カムローラ74が回動可能に遊嵌されている。一方、前記ハウジング35の後部には、カム軸73が、前記フォーク軸76に垂直に前後方向に軸支されており、該カム軸73の半割状前端73aが、その平面部73a1にて、前記カムローラ74の外周面に当接されている。
該カム軸73の後端は、前記ハウジング35の外に突出され、該突出部分に、クラッチコントロールレバー72の基部が固設され、該クラッチコントロールレバー72の先端は、リンク機構115を介して前記補助クラッチレバー24に連動連結されている。
なお、前記左の大径ギア57Lは、前記減速軸45Lの内端部にスプライン嵌合された上で、組み付け用の止め輪91と、減速軸45L支持用の円錐ころ軸受86とによって、内外から挟持固定されると共に、前記右の大径ギア57Rも、前記減速軸45Rの内端部にスプライン嵌合された上で、組み付け用の止め輪87と、減速軸45R支持用の円錐ころ軸受88とによって、内外から挟持固定されている。
これにより、前述の如く摩擦部材群67がフォーク部75bによって右から押圧されても、左右の大径ギア57L・57Rの位置が変更されることがなく、該大径ギア57L・57Rと前記サイドギア56L・56Rとの噛合を安定なものにすることができる。
以上のような構成において、前記補助クラッチレバー24を傾倒操作すると、前記リンク機構115を介し、前記クラッチコントロールレバー72が押し引きされてカム軸73が回動し、該カム軸73の半割状前端73aの外周曲面部73a2により、前記カムローラ74が左方に押動される。すると、該カムローラ74を取り付けたクラッチフォーク75が、矢印79に示すように左方に移動し、前記摩擦部材群67が、前記クラッチフォーク75のフォーク部75bと左の大径ギア57Lとの間に挟まれるようにして押圧され、補助クラッチ機構30が、大径ギア57L・57R間で伝達トルクを出力可能な状態に設定される。
この際のフォーク部75bによる摩擦部材群67の押圧量は、前記半割状前端73aの外周曲面部73a2によるカムローラ74の押動量に対応しており、前述したようにして、カムローラ74の外周面が半割状前端73aの平面部73a1に当接される場合を最小とし、カム軸73の回動によって無段階に増加させることができる。
従って、補助クラッチレバー24が、図4に示す位置80の切状態では、フォーク部75bは、図5に示す位置90にあって、摩擦部材群67が全く押圧されず、左右の大径ギア57L・57R間では、補助クラッチ機構30を介したトルクの伝達が全く行われない。
そこで、前記補助クラッチレバー24を、図4に示す位置81まで傾倒すると、前記フォーク部75bは、図5に示す位置90Aまで移動し、摩擦部材群67の押圧量が、図5に示すストローク83まで増加して、摩擦部材77・78間が圧接される。すると、左右の大径ギア57L・57R間が、低い伝達トルクをもって連結されるようになる。
更に、前記補助クラッチレバー24を、図4に示す位置82まで傾倒すると、前記フォーク部75bが、図5に示す位置90Bまで移動し、摩擦部材群67の押圧量が、図5に示すストローク84まで増加して、摩擦部材77・78間が更に強く圧接される。
前記補助クラッチレバー24の位置80・81・82については、図4に示すレバーガイド92のガイド溝92aによって規定されており、該ガイド溝92aを介して、伝達トルクの設定動作を案内して保持可能とし、これら補助クラッチレバー24とレバーガイド92とにより、伝達トルクの設定操作具119が構成されている。
そして、本実施例では、前記ガイド溝92aは、前後に延びる主溝部92a3と、該主溝部92a3の側縁から側方に延びる保持部92a0・92a1・92a2とから成り、前記主溝部92a3内にある補助クラッチレバー24を、側方に傾倒し、前記位置80・81・82のそれぞれに対応する保持部92a0・92a1・92a2内に挿入して保持できるようにしている。更に、該保持部92a0・92a1・92a2近傍のレバーガイド92の表面92bには、それぞれ、走行路の路面状況に対応した標識「乾田」「湿田」「超湿田」が、路面状況の段階順に表示されている。
なお、本実施例の補助クラッチ機構30では、前述の如く、右の走行車軸46Rと左の走行車軸46Lとを、2段の異なる伝達トルクで連結可能としているが、更に段数を増やしたり、あるいは、前記補助クラッチレバー24の傾倒位置を無段階に設定可能として、摩擦部材群67の押圧量の変化を無段階とし、該摩擦部材群67を介して伝達される伝達トルクを、有段ではなく、無段階でより細かく変更できるようにしてもよい。
加えて、図2、図4に示すように、前記補助クラッチ機構30の伝達トルクの設定操作具119には、手動の前記補助クラッチレバー24の他に、前記補助クラッチ機構に連係する足踏み式のペダル16も備えており、該ペダル116の踏み込み操作時にのみ、前記補助クラッチレバー24によって設定された伝達トルク以上の高伝達トルクに変更可能に構成している。
つまり、該ペダル16は、前記リンク機構115から分岐した、ロストモーション装置を備えるリンク115aを介して、前記フォーク部75bに接続されており、ペダル116を踏み込み操作すると、前記フォーク部75bは、図5に示す位置90Cまで移動し、摩擦部材群67の押圧量を、図5に示すストローク85まで増加させるのである。
続いて、このような補助クラッチ機構30を使った操向動作について説明する。乾田走行時には、事前に前記補助クラッチレバー24を位置80に保持し、補助クラッチ機構30の伝達トルクを略ゼロに設定する。これにより前記補助クラッチ機構30の影響なしに、直進や緩旋回、急旋回を行うことができる。
湿田走行時には、事前に前記補助クラッチレバー24を位置81に保持し、補助クラッチ機構30を低伝達トルクの伝達状態に設定する。これにより、前記直進走行モードでは、両サイドクラッチ65L・65Rが入状態のため、補助クラッチ機構30を通じての動力伝達は起きない。前記緩旋回モードでは、例えば、左のサイドクラッチ65Lを切ると、旋回内側の左の走行車軸46Lには、摩擦部材群67を介して低伝達トルクの駆動力が付与されるため、該走行車軸46Lの走行抵抗が大きくても、該走行車軸46Lは停止することなく僅かに回転駆動され、オペレータが意図したとおりの旋回半径で緩旋回することができる。
走行抵抗が一層大きな超湿田を走行する時には、事前に前記補助クラッチレバー24を位置82に保持し、補助クラッチ機構30を高伝達トルクの伝達状態に設定する。これにより、前記緩旋回モードでは、例えば、左のサイドクラッチを切ると、旋回内側の左の走行車軸46Lには、更に大きな駆動力が付与されるため、該走行車軸46Lが走行抵抗で制動されそうになっても、該走行車軸46Lは停止することなく強く回転駆動され、緩旋回状態を維持することができる。
そして、このような緩旋回中に、前記補助クラッチレバー24で設定した伝達トルクよりも走行抵抗の方が上回るとオペレータが判断した場合には、ペダル116を踏み込み操作し、補助クラッチ機構30の伝達トルクを一時的に更に増加させる。すると、走行車軸46Lは停止することなく更に強く回転駆動され、緩旋回状態を維持することができる。
なお、補助クラッチレバー24で設定する補助クラッチ機構30の伝達トルクは、サイドブレーキ59L・59Rを効かせて行う前記急旋回モードにおいては、摩擦部材群67がスリップし得る範囲内に設定されており、このため、補助クラッチ機構30が急旋回動作の妨げになることはない。
すなわち、左右の走行車軸46L・46Rに対して動力の断接を行う左右のサイドクラッチ65L・65Rと、該左右のサイドクラッチ65L・65Rからの各出力部材である左右のサイドギア56L・56Rをサイドクラッチ切状態で制動可能な左右のサイドブレーキ59L・59Rとを設けた作業車両であるコンバイン1の車軸駆動装置2において、前記左右の走行車軸46L・46Rの間に、該走行車軸46L・46Rの一方の駆動力を任意の伝達トルクに減少させて他方の走行車軸に伝達可能な、可変容量型の補助クラッチ機構30を介設したので、たとえ、湿田走行時のように走行抵抗が大きくても、旋回内側の走行車軸、本実施例では左の走行車軸46Lを、補助クラッチ機構30で設定した伝達トルクによって回転駆動させることができ、旋回半径が小さくなるのを防いで、所望の緩旋回を確実に得ることができる。更に、超湿田のように走行抵抗が一層大きな路面を緩旋回する場合には、可変容量型の補助クラッチ機構30によって、該走行抵抗に適した大きさの伝達トルクに変更することができ、旋回内側の走行車軸、本実施例では左の走行車軸46Lが制動されるのを防いで緩旋回を得て、操縦安定性が向上する。加えて、このような乾田・湿田の違いや湿田の深さだけでなく、圃場表面の傾斜や凹凸等のような圃場内条件により、作業中の走行抵抗が刻々変化する場合であっても、可変容量型の補助クラッチ機構30によって、随時、該走行抵抗に適した大きさの伝達トルクに変更することができ、走行中の旋回操作量と旋回半径の関係を一定に保つようにして、前記操縦安定性はもとより旋回操作のフィーリングや旋回精度を著しく高めることができる。
更に、前記補助クラッチ機構30は、前記伝達トルクを略ゼロの状態に設定可能に構成するので、走行路が乾田やアスファルトの時には、オペレータの判断により、前記補助クラッチ機構30から伝達トルクを出力させないようにすることができ、操縦安定性ならびに前記補助クラッチ機構30の耐久性を向上させることができる。
加えて、前記伝達トルクを所望の値に設定可能な設定操作具119を備え、該設定操作具119は、前記作業車両であるコンバイン1の運転席23近傍に配置するので、前記設定操作具119により、オペレータは、走行路の路面状況に応じて前記伝達トルクを所望の値に瞬時に設定することができる。
更に、前記補助クラッチ機構30は、前記各出力部材である左右のサイドギア56L・56Rからの動力を左右の走行車軸46L・46Rに伝達する左右の中間部材である大径ギア57L・57Rのそれぞれに複数の摩擦部材77・78を接続し、該摩擦部材77・78を互いに積層して形成した摩擦部材群67と、該摩擦部材群67を押圧して前記伝達トルクを大径ギア57L・57R間で伝達可能とする押圧メンバであるフォーク部75bとを有し、該フォーク部75bを前記設定操作具119に連係させて、前記摩擦部材群67に対する押圧力を変更自在に構成するので、前記フォーク部75bにより、左右の大径ギア57L・57Rの位置は変わることなく、摩擦部材77・78同士を圧接することができ、該大径ギア57L・57Rと前記出力部材であるサイドギア56L・56R間の噛合等の係合を安定化させて、部品寿命を向上させると共に騒音を抑制することができる。
加えて、前記設定操作具119は、前記伝達トルクを設定する手動レバーである補助クラッチレバー24と、該補助クラッチレバー24による伝達トルクの設定動作を案内するガイド溝92aを形成したレバーガイド92とにより構成すると共に、該レバーガイド92の表面92bには、走行路の路面状況に対応した標識、本実施例では「乾田」「湿田」「超湿田」を、該路面状況の段階順に表示するので、オペレータが操作先位置の把握と視認をしやすくなり、補助クラッチレバー24による伝達トルクの設定操作を迅速かつ確実に行うことができる。
更に、前記設定操作具119は、前記補助クラッチ機構30と連係するペダル116を備え、該ペダル116の操作時にのみ、前記手動レバーである補助クラッチレバー24によって設定された伝達トルク以上の高伝達トルクに変更可能に構成するので、たとえ、緩旋回中に、補助クラッチレバー24で設定した伝達トルクが走行抵抗を下回りそうになっても、オペレータが判断してペダル116を操作することにより、伝達トルクを一時的に増加させることができ、旋回操作を止めることなく緩旋回を続けることができる。
次に、前記補助クラッチ機構30の別形態について、図6乃至図9により説明する。なお、以下では、各要素に用いた符号と同じ符号は、補助クラッチ機構30と同一または同等の機能を有する要素を指すものであり、同じ符号を付した要素については、特に必要としない限り、その説明は省略する。
図6に示す補助クラッチ機構30Aは、前記右の大径ギア57Rからクラッチケース部57Raを分離して別体とし、該クラッチケース部57Raを、前記減速軸45R上に軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合した上で、該クラッチケース部57Raと、前記左の大径ギア57Lのクラッチケース部57La、補助クラッチ機構30Aでは93aとの間に摩擦部材群67を介設することにより、前記大径ギア57Rの構造を簡素化して部品コストの低減を図ったものである。
該補助クラッチ機構30Aにおいては、前記右の減速軸45Rの内端部に、外から順に、大径ギア94とクラッチケース101が配置され、このうちの大径ギア94は、前記大径ギア57Rと同様、前記減速軸45Rの内端部にスプライン嵌合された上で、組み付け用の止め輪87と、減速軸45R支持用の円錐ころ軸受88とによって、軸心方向摺動不能に挟持固定される。これに対し、前記クラッチケース101は、その基部101aが、前記止め輪87と、前記減速軸45Rの最内端に外嵌固定した止め輪102との間の減速軸45R上に、軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合されている。
一方、前記左の減速軸45Lの内端部には、左の大径ギア93が、スプライン嵌合されると共に、その外端のみが、前記減速軸45R支持用の円錐ころ軸受88に当接されており、前記大径ギア93は、減速軸45L上に、内方向摺動可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合されている。そして、該大径ギア93のクラッチケース部93aの内周と、前記クラッチケース101の外周との間に、前記摩擦部材群67が介設されている。なお、該クラッチケース部93aの基部内側には、前記摩擦部材群67の受止面が形成されている。
該摩擦部材群67の右側面にも、右から順に、スラスト軸受71と、クラッチケース101の外周に固定した止め輪108によって右方への移動が規制されたカラー103とが外嵌されており、前記押圧操作装置68のフォーク部75bに隣接したスラスト軸受71・カラー103を介することで、回転中の摩擦部材群67をフォーク部75bによって右から押圧できるようにしている。
ここで、該クラッチケース101において、その左端内周に固定したリング105に円板状のバネ蓋106が係止され、該バネ蓋106と前記減速軸45Rの左端面との間に、調整バネ107が介装されており、該調整バネ107の弾性力によって、前記摩擦部材群67が軽く接合されている。
このような構成において、前記補助クラッチレバー24を傾倒操作してカム軸73を回動し、クラッチフォーク75を、矢印79に示すように左方に移動すると、その移動量に応じて、前記クラッチケース101外周の摩擦部材群67が、前記クラッチフォーク75のフォーク部75bと左の大径ギア93との間に挟まれるようにして押圧され、補助クラッチ機構30Aに所定の伝達トルクが設定される。
該伝達トルクは、前記カム軸73の回動角度に応じてその値を変化させることができる。そして、補助クラッチ機構30Aにおいて、伝達トルクが略ゼロの状態を設定することが必要な場合には、前記調整バネ67を取り除けばよい。
また、図7に示す補助クラッチ機構30Bは、前記右の減速軸45Rの内端部に固定された右の大径ギア57Rを貫通する押圧バー89を押圧メンバとして設け、該押圧バー89を、前記大径ギア57Rの外側から操作して摩擦部材群67を直接的に押圧可能とすることにより、前記ローラ軸69・カムローラ74・クラッチフォーク75・フォーク軸76を省略したものである。
該補助クラッチ機構30Bにおいては、右の大径ギア96は、ギア本体96bと、該ギア本体96bの基部近傍から左方に突出する筒状のクラッチケース部96aとから構成される。そして、前記ギア本体96b内には、前記減速軸45Rと平行して貫通孔96b1が穿孔され、該貫通孔96b1内に、前記押圧バー89が摺動可能に挿通されている。
ここで、前記大径ギア96のギア本体96bの基部の右側面には、前記減速軸45Rに外嵌した取付リング109が固設され、該取付リング109と前記ギア本体96bとは、組み付け用の止め輪117・118によって、内外から挟持固定される。そして、前記取付リング109には、スラスト軸受110が軸心方向摺動可能に外嵌されており、該スラスト軸受110の右側面に、押圧操作装置68Aにおけるカム軸73の半割状前端73aが当接されている。
一方、前記押圧バー89の左端は、前記減速軸45Lの内端部の左の大径ギア95のクラッチケース部95aの内周と、前記右の大径ギア96のクラッチケース部96aの外周との間に介設した摩擦部材群67の右側面に、リング状のカラー112を介して当接されている。
更に、該摩擦部材群67において、その左側面に設けたリング状のカラー113と、左の大径ギア95のギア本体95bの基部の右側面との間には、付勢バネ111が介装されており、該付勢バネ111の弾性力によって、前記摩擦部材群67が押圧バー89側に常時付勢されるようにしている。
このような構成において、前記補助クラッチレバー24を傾倒操作してカム軸73を回動すると、該カム軸73の半割状前端73aが回動し、該半割状前端73aの平面部73a1・外周曲面部73a2により、前記スラスト軸受110を介して押圧バー89が左方に押動される。すると、前記摩擦部材群67が、前記カラー112と、前記付勢バネ111によって付勢されるカラー113との間に挟まれるようにして押圧され、補助クラッチ機構30Bに所定の伝達トルクが設定される。
該伝達トルクは、前記カム軸73の回動角度に応じてその値を変化させることができる。そして、補助クラッチ機構30Bにおいて、伝達トルクが略ゼロの状態を設定することが必要な場合には、前記付勢バネ111を取り除けばよい。
また、図8に示す補助クラッチ機構30Cは、前記補助クラッチ機構30Bにおける右の大径ギア96を軸心方向摺動可能な大径ギア98とし、該大径ギア98を外側から操作して左の大径ギア97に向かって押動し、大径ギア96を介して摩擦部材群67を間接的に押圧可能とすることにより、前記ローラ軸69・カムローラ74・クラッチフォーク75・フォーク軸76を省略したものである。
該補助クラッチ機構30Cにおいては、右の大径ギア98は、前記減速軸45Rの内端部上に、軸心方向摺動可能で且つ相対回転不能にスプライン嵌合されると共に、ギア本体98bと、該ギア本体98bの基部近傍から左方に突出する筒状のクラッチケース部98aと、同じくギア本体98bの基部から右方に突出する筒状の摺動部98cとから構成される。そして、該摺動部98cの右端には、スラスト軸受110が外嵌固定されており、該スラスト軸受110の右側面に、前記補助クラッチ機構30Bと同様に、押圧操作装置68Aにおけるカム軸73の半割状前端73aが当接されている。
更に、左の大径ギア97のクラッチケース部97aの内周と、前記クラッチケース部98aの外周との間に、前記摩擦部材群67が介設され、該摩擦部材群67の右側面と、右の大径ギア98のギア本体98bの左側面との間には、付勢バネ114が介装されており、該付勢バネ114の弾性力によって、前記摩擦部材群67が軽く接合されている。
このような構成において、前記補助クラッチレバー24を傾倒操作してカム軸73を回動すると、該カム軸73の半割状前端73aが回動し、該半割状前端73aの平面部73a1・外周曲面部73a2により、前記スラスト軸受110を介して大径ギア98全体が左方に押動される。すると、押圧メンバであるギア本体98bによって、前記摩擦部材群67が、前記付勢バネ114と、左の大径ギア97との間に挟まれるようにして押圧され、補助クラッチ機構30Cに所定の伝達トルクが設定される。そして、該伝達トルクは、前記カム軸73の回動角度に応じてその値を変化させることができる。
なお、図9に示す補助クラッチ機構30Dは、前記補助クラッチ機構30Cにおける左の大径ギア97と摩擦部材群67との間に、受止面としてスラスト軸受100を介設したものである。