JP6263883B2 - データ処理方法および構造体の設計方法 - Google Patents

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Description

本発明は、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち設計変数として定められた複数のパラメータと、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち特性値として定められた複数のパラメータとを用いたデータ処理方法および構造体の設計方法に関し、特に、複数の設計変数のうち、1つの設計変数について、その定義域内で離散値を少なくとも2つ設定し、その他の設計変数を定数として、最適化を行い、設計変数が特性値に与える影響を容易に判断できるデータ処理方法およびこのデータ処理方法を用いた構造体の設計方法に関する。
シミュレーションでは、所定の設計因子、すなわち、設計変数に対する応答、すなわち、特性値を算出することができる。また、最適化では所望の特性値を得るための設計変数の値を算出することができる。
ここで、設計変数の数が1で、特性値の数が1である場合、図9に示すように、設計変数と特性値との関係は明確であり、設計変数が、どの程度特性値に影響を及ぼしているか判別することができる。
一方、設計探査と呼ばれる手法は、最適化とデータマイニングを用いて設計変数と特性値との因果関係を見出そうとする手法である。設計探査では、複数の特性値、すなわち、目的関数を対象とし、それらにトレードオフ関係が存在することが少なくない。したがって、パレート解と呼ばれる最適解の集合を形成する。そのため、パレート解のデータを、特性値の側面と設計変数の側面の両面から分析するため、自己組織化マップと呼ばれる手法が用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
特許文献1には、タイヤ等の構造体の数値シミュレーションを用いて、目的関数に対するパレート解の情報を付与した自己組織化マップを生成するとともに、設計変数の情報を付与した自己組織化マップを生成していることが記載されている。このため、設計者は、これらのマップの面上のパレート解の全体像を見ながら、トレードオフの関係にある性能バランスを考慮しつつ、自己組織化マップ上の位置を定めることにより最適設計案を決定することができることが特許文献1に記載されている。
また、非特許文献1では、自己組織化マップを用い、この自己組織化マップ上に目的関数、設計変数を表示することができ、それらを並べて表示することで、視覚的に目的関数間の相関関係を把握できるだけでなく、目的関数と設計変数との因果関係も理解できることが記載されている。
特許第4339808号公報
小石正隆、日本ゴム協会誌、Vol.85、2012、289-295.
上述の自己組織化マップ以外であっても、図9では、入出力の関係が1対1であるため、設計変数が、どの程度特性値に影響を及ぼしているか判別することができる。また、図10に示すように、1つの設計変数に対して特性値が2つある場合、望ましい特性値がどのような設計変数の値をとるかを把握することができる。しかしながら、図10に示すように特性値が複数の場合、設計変数の値が、特性値に対してどの程度影響を及ぼしているかについて判別しにくいという問題点がある。
また、タイヤを含む構造体の最適化において、最適化計算結果から設定した設計パラメータと目的関数との関係を明確にし、寄与の大小を判定するには多数のデータを層別化しなければならない。しかも、その後、グラフ等に可視化するため、非常に手間がかかるという問題点もある。
さらには、特許文献1および非特許文献1に開示されている自己組織化マップは、目的関数間のパレートフロントに沿った分析、およびパレートフロント近傍に着目した分析に適していないという問題点がある。また、目的関数空間でのパレート解の散布図表示は、パレートフロント、およびその近傍に着目し易い反面、設計変数との因果関係を見出し難く、更にパレート解の重なりが多く視認性が悪いという問題点がある。
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、特性値が複数あっても、各設計変数が特性値に及ぼす影響の程度を容易に判別することができるデータ処理方法および、このデータ処理方法を用いた構造体の設計方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、特性値が複数あっても、各設計パラメータが特性値に及ぼす影響の程度を可視化することができるデータ処理方法および構造体の設計方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち設計変数として定められた複数のパラメータと、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち特性値として定められた複数のパラメータとの2種類のデータを対象としたデータの処理方法であって、複数の設計変数および各設計変数の定義域、ならび複数の特性値を設定する第1の工程と、設計変数と特性値との間の非線形応答関係を定める第2の工程と、設計変数の定義域を定め、第2の工程で定めた非線形応答関係を用いて、特性値を目的関数とする最適化を実施しパレート解を算出する第3の工程と、設計変数毎に、パレート解を特性値空間に表示する第4の工程を有し、第3の工程では、設計変数のうち、1つについて定義域を少なくとも2つの離散値で設定し、残りの設計変数は定義域を定数とし、特性値を目的関数とする最適化を実施しパレート解を算出することを、全ての設計変数について、定義域を少なくとも2つの離散値で設定し、残りの設計変数は定義域を定数として、パレート解を算出することを特徴とするデータの処理方法を提供するものである。
第3の工程と第4の工程の間に、パレート解に対して感度解析を行う工程を有し、第4の工程では、さらに感度解析の結果を出力することが好ましい。
また、感度解析の結果に基づいて、再度、複数の設計変数および各設計変数の定義域、ならび複数の特性値を設定し、第2の工程から第4の工程を繰り返し行うことが好ましい。
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のデータ処理方法で得られた結果を用いて構造体を設計することを特徴とする構造体の設計方法を提供するものである。
例えば、設計変数としてタイヤの固有振動モードを設定し、複数のタイヤの基底形状を重ね合わせてタイヤ形状を定義し、最適なタイヤ形状の探索を行い、データ処理方法で得られた結果を基にタイヤを設計することができる。
本発明によれば、特性値が複数あっても、最適化計算の前工程において設計変数の一つを離散的に設定し、その他の設計変数の定義域を定数とすることにより、設計変数が目的関数である特性値に及ぼす影響の程度を容易に判別することができ、かつ影響の程度を可視化することができる。このため、設計変数が多数ある場合でも、設計変数の影響の程度による設計変数の取捨選択、または目的特性に及ぼす効果の大きな設計変数の抽出が容易に可能となり、構造体のより高次元での性能バランスの両立が可能となる。特性改善に影響を及ぼす設計因子を明確にすることができる。
本発明の実施形態のデータ処理方法に利用されるデータ処理装置を示す模式図である。 (a)は、設計変数の定義域を説明する模式図であり、(b)は、設計変数の定義域の離散値の一例を説明する模式図である。 本発明の実施形態のデータ処理方法の第1の例を工程順に示すフローチャートである。 (a)は、設計変数X1以外の設計変数を定数として得られたタイヤの設計変数X1と燃費性能および操縦安定性能の特性値とについて得られたパレート解を示す散布図であり、(b)は、設計変数X2以外の設計変数を定数として得られたタイヤの設計変数X1と燃費性能および操縦安定性能の特性値とについて得られたパレート解を示す散布図である。 (a)は、設計変数X3以外の設計変数を定数として得られたタイヤの設計変数X1と燃費性能および操縦安定性能の特性値とについて得られたパレート解を示す散布図であり、(b)は、設計変数X4以外の設計変数を定数として得られたタイヤの設計変数X1と燃費性能および操縦安定性能の特性値とについて得られたパレート解を示す散布図である。 本発明の実施形態のデータ処理方法の第2の例を工程順に示すフローチャートである。 図6に示すデータ処理方法の最適化処理を示すフローチャートである。 (a)は、参照タイヤモデルにおける参照タイヤ断面形状の一例を示す模式図であり、(b)、(c)は、それぞれタイヤの基底形状のタイヤモデルの例を示す模式図である。 設計変数の数が1で、特性値の数が1である場合の設計変数と特性値との関係の一例を示すグラフである。 設計変数と、2つの特性値とについて得られたパレート解の一例を示す散布図である。
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のデータ処理方法および構造体の設計方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態のデータ処理方法に利用されるデータ処理装置を示す模式図である。
図1に示すデータ処理装置10は、本発明の実施形態のデータ処理方法の実施に用いられる装置の一例である。
本実施形態のデータ処理方法には、図1に示すデータ処理装置10が用いられるが、データ処理方法をコンピュータ等のハードウェアおよびソフトウェアを用いて実行することができればデータ処理装置10に限定されるものではない。
本実施形態では、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち設計変数を表わす第1のデータXi(i=1,l)と、構造体および構造体を構成する材料のうち少なくとも1つの特性値を表す第2のデータYj(j=1,m)の2種類のデータを組としたデータセットを対象としている。例えば、設計変数は、特性値空間(目的関数空間)で散布図として表示される。
データ処理装置10は、処理部12と、入力部14と、表示部16とを有する。処理部12は、条件設定部20、モデル生成部22、演算部24、パレート解探索部26、解析部28、表示制御部30、メモリ32および制御部34を有する。この他に図示はしないがROM等を有する。
処理部12は、制御部34により制御される。また、処理部12において条件設定部20、モデル生成部22、演算部24、パレート解探索部26および解析部28はメモリ32に接続されており、条件設定部20、モデル生成部22、演算部24、パレート解探索部26および解析部28のデータがメモリ32に記憶される。
入力部14は、マウスおよびキーボード等の各種情報をオペレータの指示により入力するための各種の入力デバイスである。表示部16は、例えば、本発明のデータ処理方法で得られた結果等を表示するものであり、公知の各種のディスプレイが用いられる。また、表示部16には各種情報を出力媒体に表示するためのプリンタ等のデバイスも含まれる。
データ処理装置10は、ROM等に記憶されたプログラム(コンピュータソフトウェア)を、制御部34で実行することにより、条件設定部20、モデル生成部22、演算部24、パレート解探索部26および解析部28の各部を機能的に形成する。データ処理装置10は、上述のように、プログラムが実行されることで各部位が機能するコンピュータによって構成されてもよいし、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよい。
条件設定部20は、本実施形態のデータ処理方法により、パレート解を目的関数空間で散布図として表示する際に必要な各種の条件、情報が入力され、設定する。各種の条件、情報は、入力部12を介して入力される。条件設定部20で設定する各種の条件、情報はメモリ32に記憶される。
条件設定部20には、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち設計変数として定めた複数のパラメータが設定される。なお、設計変数のパラメータには、荷重および境界条件等のばらつき因子、ならびに製品の場合には、大きさおよび質量等の制約条件を設定してもよい。
また、構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち特性値(目的関数)として定めた複数のパラメータが設定される。特性値には、コスト等の物理的および化学的な特性値以外の、構造体および構造体を構成する材料を評価する指標を用いてもよい。
構造体および構造体を構成する材料は、構造体単体ではなく、構造体を構成するパーツ、構造体のアッセンブリ形態等の構造体を含むシステム全体、またはその一部を対象としてもよい。
条件設定部20に設定される特性値は、評価しようとする物理量である。目的関数は、評価しようとする物理量を求めるための関数である。
構造体がタイヤである場合、特性値はタイヤの特性値である。この場合、特性値としては、タイヤ性能として評価しようとする物理量であり、例えば、操縦安定性の指標となるスリップ角ゼロ近傍における横力であるCP(コーナリングパワー)、乗心地性の指標となるタイヤの1次固有振動数、転動抵抗の指標となる転がり抵抗、操縦安定性の指標となる横ばね定数、耐摩耗性の指標となるタイヤトレッド部材の摩耗エネルギ、燃費性能等が挙げられる。目的関数は、それらを求めるための関数である。目的関数は、性能として好ましい方向があり、値が大きくなる、小さくなる、または所定の値に近づく等がある。
設計変数は、構造体の形状、構造体の内部構造および材料特性等を規定するものである。タイヤの場合、設計変数は、タイヤの材料挙動、タイヤの形状、タイヤの断面形状、タイヤの固有振動モードおよびタイヤの構造のうち、複数のパラメータである。設計変数としては、例えば、タイヤのトレッド部におけるクラウン形状を規定する曲率半径、タイヤ内部構造を規定するタイヤのベルト幅寸法等が挙げられる。これ以外にも、例えば、トレッド部における材料特性を規定するフィラー分散形状、およびフィラー体積率等が挙げられる。
制約条件は、目的関数の値を所定の範囲に制約したり、設計変数の値を所定の範囲に制約するための条件である。
また、構造体がタイヤである場合、タイヤの負荷荷重、タイヤの転動速度を初めとする走行条件、タイヤが走行する路面条件、例えば、凹凸形状、摩擦係数等、車両の走行シミュレーションに用いるための車両諸元の情報等が設定される。
また、条件設定部20に、設計変数のパラメータと特性値のパラメータとの間の非線形応答関係を定めるための情報が設定される。この非線形応答関係には、例えば、FEM等の数値シミュレーション、理論式および近似式等が含まれる。
条件設定部20では、非線形応答関係により生成するモデル、そのモデルの境界条件、FEM等の数値シミュレーションする場合には、そのシミュレーション条件、シミュレーションにおける制約条件を設定する。更には、パレート解を得るための最適化条件、例えば、パレート解探索のための条件等を設定する。
パレート解探索のための条件は、パレート解を探索するための手法、パレート解探索における各種条件である。本実施形態では、例えば、パレート解を探索するための手法として、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いることができる。一般に、特性値(目的関数)の増大と共に、遺伝的アルゴリズムの探索能力が低下することが知られている。それを解決する方法の一つが、個体数を増加させる方法である。一方、個体数を増加させ、パレート解を探索すると、多くのパレート解が算出される。したがって、多くの特性値と設計変数との因果関係を視認性良く表示する方法が設計探査の一つの課題となっているが、本発明ではこれを解決することができる。
これ以外に、条件設定部20に設計変数の定義域を設定する。設計変数の定義域は、複数ある設計変数のうち、1つについて後述のように、離散的な水準値を設定し、残りの設計変数については定義域を定数とする。
なお、複数の設計変数があるため、全ての設計変数に対して、それぞれに離散的な水準値を設定し、残りの設計変数について定義域を定数として、後述するパレート解の算出を行う。
以下、設計変数の定義域について説明する。
設計変数は、図2(a)に示す定義域xに対して下限値α〜上限値βが存在する。すなわち、設計変数の定義域は、α≦x≦βで連続である。
本発明では、図2(b)に示すように定義域(下限値α〜上限値β)に対して、例えば、下限値αと上限値βの間に基準値Mを1つ設定し、下限値α、上限値βと合わせて離散的な値を合計3つの水準値を設定する。設定する定義域xについては、基準値Mをゼロとして、下限値αおよび上限値βを設定するようにしてもよい。また、定義域については、下限値αおよび上限値βの少なくとも一方を含まないように設定してもよい。
パレート解のうち、3つの離散値に該当するものを演算部24にて抽出して、各々の条件下にてパレート解を算出し、算出されたパレート解はメモリ32に記憶される。
なお、定義域内では、離散的な水準値を少なくとも2つ設定すればよく、上述のように3つの水準値を設定する必要はない。設定する水準値が2つの場合、例えば、定義域xの上限値βと下限値αであってもよい。また、定義域を定数とする場合、定義域xの下限値αとしてもよい。
モデル生成部22は、設定された非線形応答関係に基づいて、各種の計算モデルを作成するものである。非線形応答関係は、上述のようにFEM等の数値シミュレーションが含まれており、この場合、モデル生成部22で、設計変数を表わす設計パラメータ、特性値を表わす特性値パラメータに応じたメッシュモデルが生成される。また、理論式および近似式等の場合にも、設計パラメータ、特性値パラメータに応じた理論式および近似式等が作成される。なお、構造体がタイヤの場合には、タイヤモデルが作成される。演算部24でタイヤモデルを用いてシミュレーション演算がなされる。
なお、モデル生成部22で作成されるタイヤモデルは、条件設定部20で設定された各種類の設計パラメータを用いて作成されるが、タイヤモデルの作成には公知の作成方法を用いることができる。なお、タイヤモデルは、少なくとも、このタイヤモデルを転動させる対象である路面モデルも併せて生成する。また、タイヤが装着されるリム、ホイール、およびタイヤ回転軸を再現するものをタイヤモデルとしてもよい。また、必要に応じて、タイヤが装着される車両を再現するモデルをタイヤモデルに組み込んでもよい。この際、タイヤモデル、リムモデル、ホイールモデル、およびタイヤ回転軸モデルを、予め設定された境界条件に基づいて一体化したモデルを作成することもできる。
これら各モデルは数値計算可能な離散化モデルであればよく、例えば、公知の有限要素法(FEM)に用いるための有限要素モデル等であればよい。なお、タイヤモデルを用いて、例えば、タイヤウエット性能を初めとするタイヤ性能を最適化するタイヤ設計案を求める場合等、路面モデルとタイヤモデルの他に、路面上に存在する介在物を再現するモデルを生成しておけばよい。例えば、介在物モデルとして、路面上の水、雪、泥、砂、砂利および氷等を再現する各種モデルを、数値計算可能な離散化モデルで生成しておけばよい。なお、路面モデルも、表面が平坦な路面を再現するモデルに限らず、必要に応じて、表面に凹凸を有する路面形状を再現するモデルであってもよい。
演算部24は、モデル生成部22で作成された各種のモデルを用いて特性値を算出するものである。これにより、設計変数に対する特性値が得られる。この特性値の中に、パレート解が存在する。得られた特性値は、メモリ32に記憶される。
演算部24では、例えば、路面上を転動するタイヤの転動を再現するシミュレーション条件を、モデル生成部22で生成したタイヤモデル、または路面モデル等に与えたときの、タイヤモデルの挙動、またはタイヤモデルに作用する力等の物理量を時系列に求める。演算部24は、例えば、公知の有限要素ソルバーによるサブルーチンを実行することで機能するものである。
また、演算部24では、モデル生成部22で理論式および近似式等を作成した場合には、理論式および近似式等を解き、特性値を算出する。
パレート解探索部26は、条件設定部20で設定されたパレート解探索の条件に応じて、演算部24で得られた特性値の中から、パレート解を探索し、パレート解を算出するものである。得られたパレート解は、メモリ32に記憶される。
本発明では、複数の設計変数のうち、1つの設計変数に対して定義域を離散値で設定し、他の設計変数を定数としている。このため、得られるパレート解は、定義域を設定した設計変数の各水準値でのパレートフロントになる。
ここで、パレート解は、トレードオフの関係にある複数の特性値(目的関数)において、他の任意の解よりも優位にあるとはいえないが、より優れた解が他に存在しない解をいう。一般にパレート解は集合として複数個存在する。
パレート解探索部26は、例えば、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いてパレート解を探索する。
遺伝的アルゴリズムとしては、例えば、解集合を目的関数に沿って複数の領域に分割し、この分割した解集合毎に多目的GAを行うDRMOGA(Divided Range Multi-Objective GA)、NCGA(Neighborhood Cultivation GA),DCMOGA(Distributed Cooperation model of MOGA and SOGA)、NSGA(Non-dominated Sorting GA)、NSGA2(Non-dominated Sorting GA-II)、SPEAII(Strength Pareto Evolutionary Algorithm-II)法等の公知の方法を用いることができる。その際、解集合が解空間に幅広く分布し、精度の高いパレート解の集合を求める必要がある。このため、パレート解探索部26では、例えば、ベクトル評価遺伝的アルゴリズム(Vector Evaluated Generic Algorithms:VEGA)、パレートランキング法、またはトーナメント法を用いた選択が行われる。遺伝的アルゴリズム(GA)以外に、例えば、焼きなまし法(SA)または粒子群最適化(PSO)を用いてもよい。
本発明では、設計変数と特性値との間で定める非線形応答関係、すなわち、設計変数を用いて特性値を求める場合に利用されるものは、FEM等のシミュレーションに限定されるものではなく、上述のように理論式および近似式等を用いることもできる。例えば、シミュレーションモデルを用いた演算ではなく、シミュレーション近似式を用いて目的関数の値を算出してもよい。この場合、実験計画法に基づいて得られる実験結果から設計変数と目的関数との間の近似式、例えば、シミュレーション近似式を用いてパレート解を得ることができる。このシミュレーション近似式としては、多項式またはニューラルネットワーク等により得られる公知の非線形関数を用いることができる。
解析部28は、得られたパレート解について感度解析を行うものである。この感度解析により、特性値が複数あっても各設計変数における特性改善への寄与、さらには設計変数の望ましい変化方向を明確に把握することが可能となる。なお、感度解析の具体例については後に詳細に説明する。
ここで、感度解析には、感度として、特性値の変化量を設計変数の変化量で除した値を用いることが望ましい。すなわち、感度としては、各設計変数に対して定義域の範囲を同じ範囲にしたときの特性値の変化量とすることが好ましい。解析部28では、後述するように感度解析の結果に基づいて、最適化条件を再設定するか否かを判定する機能も有する。
また、解析部28は、寄与度解析をすることもできる。この寄与度解析は、例えば、各設計変数において、設計変数の定義域を最大と最小にした時の特性値の変化量を求め、各変化量を比較し、最も変化量が大きい設計変数を寄与度が大きい設計変数とする。これにより、寄与度の大きい設計変数を特定することができる。
感度解析手法は、特に限定されるものではない。感度解析手法として、例えば、定義域の各水準値での特性値の平均値を求め、所定の閾値を定め有意差の有無を判定すること、パレート解集合における両端の解およびその中央値またはそのいずれかの解を用いて上記感度を利用して算出する手法、ならびに分散分析を用いて誤差分散を閾値として有意要因を抽出する手法等を用いることができる。これらの感度解析手法は、パレート解の変化が小さいときに有効である。
複数の設計変数において、各設計変数の定義域が異なる場合、各定義域の範囲を正規化して、各設計変数の影響を解析してもよい。
また、解析部28では、得られたパレート解について改善幅を評価することもできる。改善幅の評価方法としては、感度解析のように定義域の範囲を同じ範囲にしたときの特性値の変化量の比較であっても、寄与度解析のように、各設計変数において、設計変数の定義域を最大と最小にした時の特性値の変化量の比較であってもよい。
なお、解析部28で感度解析をすることなく、パレート解探索部26で得られたパレート解の情報をメモリ32に記憶させ、表示制御部30でメモリ32から読み出し、表示部16にパレート解を表示させるようにしてもよい。この場合、解析部28は必ずしも必要ない。
表示制御部30は、得られたパレート解を表示部16に表示させるものであり、例えば、パレート解をメモリ32から読み出し、表示部16に表示させる。この場合、例えば、特性値を軸にとって、パレート解を散布図の形態で表示する。すなわち、特性値空間に設計変数を表示する。散布図以外にも、レーダチャートの形態で表示することができる。
また、表示制御部30は、例えば、得られたパレート解について、設計変数の値に応じて、設計変数の値を表すシンボルの色、種類および大きさのうち、少なくとも1つを変える。表示形態を変更したパレート解の情報はメモリ32に記憶される。得られたパレート解は、表示制御部30で表示形態が変えられて表示部16で表示される。さらには、表示制御部30では、設計変数の値毎に、そのパレート解を結んだ線を表示させる機能も有する。
次に、本実施形態のデータ処理方法について説明する。
図3は、本発明の実施形態のデータ処理方法の第1の例を工程順に示すフローチャートである。
まず、図3に示すように、対象となる構造体について設計変数、特性値(目的関数)、制約条件等の最適化条件を設定する(ステップS10)。本実施形態では、構造体を、例えば、サイズが195/65R15のタイヤとした。
設計変数として、例えば、タイヤ形状を変化させる4つの設計変数X1〜X4を設定する。
特性値として、燃費性能および操縦安定性能の2つを設定する。燃費性能と操縦安定性能とはトレードオフの関係にある。
本実施形態では、入力がタイヤの形状パラメータであり、出力が燃費性能および操縦安定性能である。データ処理により、タイヤの形状パラメータの値による燃費性能および操縦安定性能の変化を求める。タイヤの形状パラメータ、燃費性能および操縦安定性能が条件設定部20に設定される。
次に、設計変数から特性値を求める際に用いる非線形応答を定める(ステップS12)。すなわち、設計変数と特性値との関係を定める。この非線形応答の種類は、例えば、メモリ32に記憶される。具体的には、タイヤの形状パラメータと、燃費性能と操縦安定性能との関係を設定する。タイヤの形状パラメータを入力とし、燃費性能または操縦安定性能を出力とした場合、設定する関係は、例えば、燃費性能がタイヤの形状パラメータを変数とする二次多項式等の非線形関数を用いて表わされるものである。また、操縦安定性能がタイヤの形状パラメータを変数とする二次多項式等の非線形関数を用いて表わされるものである。
また、ステップS12において、予め実験計画に基づいたサンプリング結果から設計変数と特性値との応答曲面を作成し、最適化計算を行うことが好ましい。
次に、設計変数の定義域を設定する(ステップS14)。この場合、複数の設計変数のうち、1つの設計変数について、上述のように、下限値αと上限値βの間に基準値Mを1つ設定し(図2(b)参照)、離散的な値を合計3つの水準値を設定する。残りの設計変数については、定数とする。
例えば、タイヤの形状パラメータであれば、サイズの下限値αと上限値βの間に基準値Mを1つ、離散的に設定し、設計変数の定義域として設定する。また、タイヤのゴム組成であれば、弾性率の下限値αと上限値βの間に基準値Mを1つ、離散的に設定する。この設計変数の定義域の設定は、条件設定部20でなされ、例えば、メモリ32に記憶される。
次に、非線形応答関係に基づいてモデル生成部22でモデル作成を実施し、演算部24にてステップS12で設定した非線形応答関係に基づいて特性値を算出する(ステップS16)。このとき、設定した設計変数の定義域がメモリ32から読み出されて特性値が算出される。特性値の算出結果は、例えば、メモリ32に記憶される。FEM等のシミュレーションであれば、メッシュモデルがモデル生成部22で作成され、演算部24にて、FEM等により入力に対する応答をシミュレーションが実施される。具体的には、タイヤの形状パラメータに対する燃費性能および操縦安定性能が算出される。
次に、パレート解探索部26にて特性値の演算結果に対して、特性値を目的関数とする最適化を実施し、パレート解を得る(ステップS18)。このパレート解の算出には、例えば、遺伝的アルゴリズム(GA)、焼きなまし法(SA)または粒子群最適化(PSO)等の進化的計算手法が用いられる。得られたパレート解はメモリ32に記憶される。
次に、複数ある設計変数において、全ての設計変数に対して、上述の離散的な定義域を設定し、他の設計変数を定数として、最適化計算したかを判定する(ステップS20)。
この場合、複数ある設計変数のうち、1つずつに対して上述の離散的な定義域を設定し、他の設計変数に対して定数を設定する。これを全ての設計変数に対して、順番に定義域を設定し、最適化計算を実施し、パレート解を得る。このとき、各設計変数において、それぞれの設計変数の各水準値でのパレートフロントが得られる。このため、後に説明する図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)は、いずれもパレートフロントが表示される。
ステップS20において、全ての設計変数に対して、上述の離散的な定義域を設定し、他の設計変数を定数として、最適化計算していない場合、残りの設計変数に対して、上述の離散的な定義域を設定し、他の設計変数を定数として設定し(ステップS14)、そして、最適化計算を実施する(ステップS16)。そして、パレート解を得る(ステップS18)。これらのステップS14〜ステップS18を繰り返し行う。
ステップS20において、複数ある設計変数について、全ての設計変数に対して、上述の離散的な定義域を設定し、他の設計変数を定数として、最適化計算したと判定された場合、設計変数毎に、パレート解を表示する(ステップS22)。
4つの設計変数X1〜X4とした場合、パレート解は、上限値を△とし、基準値を□とし、下限値を◇として、表示部16に、例えば、図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)に示すように表示される。図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)では、燃費性能および操縦安定性能の両方が最も悪いものを、基準形状特性値として示している。基準形状特性値は、図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)では○で表している。
図4(a)は設計変数X1に対して離散的な3つの水準値を設定し、残りの設計変数X2〜X4を定数とて設定して得られたパレート解を示す。図4(b)は設計変数X2に対して離散的な3つの水準値を設定し、残りの設計変数X1、X3およびX4を定数とて設定して得られたパレート解を示す。図5(a)は設計変数X3に対して離散的な3つの水準値を設定し、残りの設計変数X1、X2およびX4を定数とて設定して得られたパレート解を示す。図5(b)は設計変数X4に対して離散的な3つの水準値を設定し、残りの設計変数X1〜X3を定数とて設定して得られたパレート解を示す。
図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)のいずれにおいても燃費性能および操縦安定性能が共に良好な領域Dにあるパレート解の方が好ましい。
設計変数X1〜X4について、上述の寄与度(特性値の変化量δ〜δ)を求めた結果、図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)に示すように、設計変数X1は寄与度が大きい。このように、例えば、トレードオフの関係にある燃費性能および操縦安定性能の2つの特性値に対して、より高次元で両立するパレート解の探索が可能であり、しかも、設計変数の影響の程度を容易に把握することができる。
なお、ステップS22でパレート解を表示する際、特性値の変化量δ〜δを合わせて表示するようにしてもよい。
なお、本実施形態のデータ処理方法では、表示部16にパレート解を表示することに限定されるものではない。例えば、パレート解に対して、解析部28にて感度解析を行ってもよく、更には感度解析の結果に基づいて設計変数および特性値(目的変数)のうち、少なくとも一方の設定を変更し、パレート解を求めるようにしてもよい。以下、図6、図7に示すフローチャートを基に具体的に説明する。
図6は、本発明の実施形態のデータ処理方法の第2の例を工程順に示すフローチャートであり、図7は、図6に示すデータ処理方法の最適化処理を示すフローチャートである。
図6に示す第2の例のフローチャートは、図3に示す第1の例のフローチャートに比して、感度解析を行う点(ステップS42)、感度解析の結果を判定する点(ステップS44)、設計変数、目的関数および制約条件等の条件の再設定を行う点(ステップS46)、再設定された条件で最適化処理する点(ステップS48)、ならびに得られたパレート解の表示等を行う点(ステップS50)以外は、図3に示す第2の例のフローチャートと同様の工程であるため、その詳細な説明は省略する。
すなわち、図6に示す第2の例のフローチャートにおいて、ステップS30〜ステップS40は、図3に示す第2の例のフローチャートのステップS10〜ステップS20と同様の工程であるため、その詳細な説明は省略する。このため、ステップS42から説明する。
第2の例では、ステップS40で得られたパレート解について感度解析を行う(ステップS42)。
ステップS42においては、上述の感度解析方法を用いて、感度解析がなされる。例えば、上述のように、定義域の各水準値での特性値の平均値を求め、所定の閾値を定めておき有意差の有無を判定すること、パレート解集合における両端の解およびその中央値またはそのいずれかの解を用いて上記感度を利用して算出する手法、ならびに分散分析を用いて誤差分散を閾値として有意要因を抽出する手法等を用いて感度解析を行う。
この場合、図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)に示す例では、感度解析の結果、感度は、設計変数X1>設計変数X2>設計変数X3>設計変数X4である。設計変数X1が最も感度が高く、パレート解が大きく変化する。これにより、設計変数X1〜X4が特性値に与える影響の程度を把握することができる。
次に、ステップS42の感度解析の結果に基づいて、再度、最適化条件を設定するか判定する(ステップS44)。
ステップS44の判定は、特に限定されるものではない。判定基準としては、感度に対して下限値の閾値を設定しておき、下限値の閾値未満のものを寄与の小さな設計変数とし、例えば、該当する設計変数を削除するか、または定義域を定数とする。感度の小さい設計変数を定数とする場合、例えば、部材の板厚のように材料コストを考慮して定義域の下限値としてもよい。これ以外に、例えば、設計変数の定義域をパレート解として望ましい方向、すなわち、2つの特性値を満足するパレート解が得られるように設計変数の定義域を拡張することが挙げられる。例えば、図4(a)および(b)ならびに図5(a)および(b)に示す例では、設計変数X4の感度が低いため、設計変数X4の定義域を定数とする。
ステップS44において、再設定する必要があると判定された場合、上述の閾値の条件等に基づいて、最適化条件を再設定する(ステップS46)。再設定した最適化条件は、条件設定部20でなされ、メモリ32に記憶される。
再設定する場合、制約条件として、特性値(目的関数)が所望の値を満たすこと、製品の規格等の制約条件が加えてもよい。この制約条件を設計変数に加えて最適化計算を行う。また、新しい設計変数を設定し、さらに新たな設計変数に定義域を設定してもよい。
そして、最適化処理を行う(ステップS48)。ステップS48の最適化処理については、図7を参照して説明する。最適化処理では、ステップS46で再設定された最適化条件を用い、設計変数から特性値を求める際に用いる非線形応答を定める(ステップS60)。この非線形応答関係の設定は、ステップS12と同様であるため、その詳細な説明は省略する。この非線形応答の種類は、例えば、メモリ28に記憶される。
次に、設計変数について定義域を設定する(ステップS62)。定義域は、条件設定部20でなされ、例えば、メモリ28に記憶される。ステップS62では、定義域について、図2(a)に示すように連続的に設定してもよいし、図2(b)に示すように離散的に設定してもよい。設計変数の定義域の設定方法については、要求される精度および計算時間等を考慮して適宜選択される。
次に、非線形応答関係に基づいてモデル生成部22でモデル作成を実施し、演算部24にてステップS10で設定した非線形応答関係に基づいて特性値を算出する(ステップS64)。
次に、パレート解探索部26にて特性値の演算結果に対して、特性値を目的関数とする最適化を実施し、パレート解を得る(ステップS66)。このパレート解の算出は、上述のステップS18と同様の方法を用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
そして、表示制御部30にて、パレート解を、例えば、特性値空間に散布図として表示部16に表示する(ステップS50)。このパレート解の表示についても、上述のステップS22と同様の方法を用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
ステップS44において、再設定する必要がないと判定された場合、最初に設定された最適化条件にて、上述のステップS48の最適化処理を実施し、パレート解を得て、そのパレート解を、例えば、特性値空間に散布図として表示部16に表示する(ステップS50)。
なお、ステップS50において、パレート解を表示する場合、設計変数の値に応じて、設計変数の値を表すシンボルの色、種類および大きさのうち、少なくとも1つを変えてもよい。
このようにして、目的特性に寄与の大きな設計変数を調整して、最適なパレート解を効率的に探索することができ、トレードオフの関係にある燃費性能および操縦安定性能のような目的特性であっても、より高次元で両立するパレート解の探索が可能である。
なお、感度解析を行った後(ステップS42)、その感度解析の結果とともに、パレート解を表示してもよい(ステップS50)。この場合、特性値が複数あっても、各設計変数における特性改善への寄与、さらには設計変数の望ましい変化方向を明確に把握することができる。
また、本実施形態では、パレート解を設計変数毎に求め、各設計変数の特性値に対する寄与度を表示することができる。これにより、設計変数と特性値との関係を認識しやすくなる。これにより、設計変数毎に、例えば、タイヤの形状パラメータの値の違いによる特性値に与える影響の程度を容易に認識することができ、ひいては設計方針の指標を得ることができる。
本実施形態においては、上述のデータ処理方法を構造体の設計に用いることができる。これにより、形状または構造に関する設計変数を多数設定しても、構造体において複数ある特性値のバランスを同時にかつ高次元で満足する設計案を効率よく探索可能となる。
構造体の設計としては、例えば、タイヤの設計に利用することができる。以下、具体例として、最適なタイヤ断面形状の決定に利用することを説明する。
図8(a)は、参照タイヤモデルにおける参照タイヤ断面形状の一例を示す模式図であり、(b)、(c)は、それぞれタイヤの基底形状のタイヤモデルの例を示す模式図である。なお、図8(a)〜(c)では、タイヤは対称であるため、片側だけを図示する。
ここで、最適なタイヤ断面形状とは、設定されたタイヤ性能における評価値が、設計変数の設定された範囲において、最大値もしくは最小値となるか、または入力された値と一致もしくは許容範囲内で一致するタイヤ断面形状のことをいう。
本実施形態では、最適なタイヤ断面形状を探索するために、参照タイヤモデルにおける複数の固有振動モードのタイヤ断面内の変形形状を複数の基底形状として定め、この複数の基底形状の変形部分を、重み強度を用いて重み付け加算することにより、試行断面形状を作成する。試行断面形状は、重み強度を予め設定された範囲で変更することにより、複数作成される。なお、タイヤ基底形状を線型的に組み合わせることにより、タイヤ断面形状が決定される。すなわち、タイヤの基底形状は、タイヤ断面の固有モードの変形形状である。
本実施形態では、例えば、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する。タイヤがタイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、上記判定においてタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するように、基底形状の少なくとも1つについてその変形形状を調整する。これにより、変形形状が調整された基底形状を含む複数の基底形状を用いて調整済試行断面形状を作成する。
したがって、調整済試行断面形状に基いて決定される最適なタイヤ断面形状から作成されるタイヤは常にタイヤ寸法の規格を満足する。データ処理装置10において決定される最適なタイヤ断面形状から作製されるタイヤは、従来のように、タイヤ寸法の規格に適合するように最適なタイヤ断面形状を修正することはないので、本実施形態の方法で決定された最適なタイヤ断面形状を有するタイヤは、目標通りのタイヤ性能を発揮することができる。
モデル生成部22は、図8(a)に示すような基準とする参照タイヤ断面形状を有する参照タイヤモデル40を作成する。
具体的には、モデル生成部22は、入力部14を介して入力された参照タイヤ断面形状の情報を取得する。また、モデル生成部22は、メモリ32または図示しないROM等から基準とする参照タイヤ断面形状の情報を読み出して取得する。さらに、モデル生成部22は、FEMモデルである参照タイヤモデルの節点および要素に関する情報と、参照タイヤモデルの材料定数に関する情報を作成し統合する。これにより、参照タイヤモデルが作成される。ここで、参照タイヤ断面形状の情報は、タイヤのベルト部材、カーカス部材、トレッド部材、サイド部材、スティフナー部材およびビード部材等のタイヤ構成部材の配置位置を定める位置座標と、各タイヤ構成部材に対応した密度、ヤング率、せん断剛性およびポアソン比等の材料定数の値を含む。
モデル生成部22では、作成された参照タイヤモデルの複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状を基底形状として設定する。基底形状としては、例えば、図8(b)、(c)に示すようなタイヤモデル42、44が設定される。
具体的には、モデル生成部22は、固有値解析を行うための参照タイヤモデルの剛性マトリクスおよび質量マトリクスを作成する。モデル生成部22は、剛性マトリクスおよび質量マトリクスを用いて参照タイヤモデルの固有値解析を行って、タイヤ断面形状における1次、2次、および3次等の複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状を求める。モデル生成部22が固有値解析を行うとき、必ずしも剛性マトリクスの剛性を実際のタイヤの剛性に合わせる必要はなく、モデル生成部22は、ベルト部材等のゴム部材に比べて剛性が高い部分は、剛性を低下させて固有値解析を行ってもよい。
本実施形態におけるタイヤの基底形状としては、固有振動モードの変形形状であればいずれであってもよいが、好ましくは、1〜20次の固有振動モードで、タイヤのトレッドセンターラインを含み、タイヤ中心を通る中心面(タイヤ赤道面ともいう)を対称面としたとき対称(線対称)な固有振動モードの変形形状であり、より好ましくは1次以上5次以下の固有振動モードの変形形状が好適に用いられる。
本実施形態では、図8(b)に示されるタイヤモデル42の固有振動モード、図8(c)に示すタイヤモデル44の固有振動モードを設計変数とする。この場合、固有振動モードの次数の数が設計変数の数と同じである。
特性値としては、例えば、燃費性能および操縦安定性能を設定する。
そして、固有振動モードの変形形状と、燃費性能および操縦安定性能との間の非線形応答関係を条件設定部20に定める。
次に、設計変数とした1つの固有振動モードの変形形状に対して、定義域を離散的に少なくとも3水準設定し、残りの固有振動モードの変形形状に定義域として定数を設定する。以下、上述の第1の例と同様にして、最適化計算を行い、定義域を設定した固有振動モードの変形形状に対して、パレート解を得る。次に、別の固有振動モードの変形形状に対して、離散的な定義域を設定し、残りの固有振動モードの変形形状に定義域として定数を設定し、最適化計算を行い、定義域を設定した固有振動モードの変形形状に対して、パレート解を得る。これを、固有振動モードの変形形状の数だけ繰り返し、各固有振動モードについてパレート解を得る。これにより、影響の程度の大きい固有振動モードを認識することができる。
この場合においても、上述の第2の例と同様に感度解析を行ってもよい。さらには、感度解析に結果に基づいて、固有振動モードの変形形状および制約条件等を再設定し、その後、上述のように最適化計算を行い、パレート解を表示するようにしてもよい。
上述のようにして複数の固有振動モードの変形形状、すなわち、複数のタイヤの基底形状が設定される。このタイヤ基底形状を線型的に組み合わせることにより、タイヤ断面形状が決定されることは上述の通りである。
そして、例えば、特許4723057号公報に開示されている方法を用いて、タイヤの断面形状について最適値を得る。この場合、複数の基底形状を重み付け加算することにより、タイヤの断面形状を生成し、応答曲面法に従って処理を行い、最適なタイヤ断面形状が得られる。
ここで、応答曲面法とは、実験計画法に従って実験計画され、この実験計画された製品形状についてFEM等による構造解析が行なわれ、製品の設計空間を近似する解析手法である。すなわち、基底形状を実験計画法に従って線型的に組み合わせて複数のタイヤ形状が生成され、この生成されたタイヤ形状の製品性能の評価値がFEM等の構造解析を用いて求められ、この複数のタイヤ形状を構成する固有振動モードの水準値と、構造解析によって求められた評価値とから非線形関数によって表される複雑な製品の設計空間が、直交多項式等の曲面近似関数を用いて表される。
その後、製品性能を設計変数で表す上記曲面近似関数を用いて、設計変数を逐次変更しながら評価値を求め、最適評価値が得られたか判断する。最適評価値が得られたと判断された場合は、設計変数に基づいて最終の最適タイヤ断面形状が抽出され、最適評価値が得られないと判断された場合、設計変数が変更されて修正され、上記曲面近似関数の評価値が求められる。このようにして、最適値が得られるまで、繰り返し数値計算が行われる。あるいは上記曲面近似関数を用いて、例えば、多目的遺伝的アルゴリズムのような進化的計算手法を用いてパレート解を算出し、その中から最適解を抽出してもよい。
なお、曲面近似関数としては、チェビシェフの直交多項式、n次多項式、動径基底関数(RBF)およびクリギング法等の関数が用いられる。
データ処理方法を用いたタイヤの設計方法においては、設計変数として多数の固有振動モード(基底形状)を用いても、それらの特性値に与える影響の程度、すなわち、上述の寄与の大きさによって目的特性に効果的な設計変数を判断することができ、計算の効率化および設計知識の抽出が可能となる。また、トレードオフにある複数の性能であっても、効果的な設計変数の定義域を調整することにより、その知識を用いて特性バランスを高次元にて満足するタイヤ形状を容易に求めることができる。
なお、本発明のデータ処理方法は、構造体について設計変数を多数設定しても、構造体において複数ある特性バランスを同時にかつ高次元で満足するパレート解を得ることができ、各設計変数が特性値に及ぼす寄与度を容易に判別することができる。このため、本発明のデータ処理方法では、構造設計と材料設計の両面から特性値の高次バランスを目指し、数多くの設計変数を定めなければならないタイヤの設計問題に適している。得られた設計情報をタイヤ設計の初期段階で活用することにより、設計終盤の詳細設計においても大きく修正することのないタイヤの商品開発を進めることができる。これにより、タイヤの開発コストを削減できるとともに、商品のリードタイムを短縮することができる。
本発明のデータ処理方法は、タイヤに限定されるものではなく、例えば、ゴム製品、家電製品、自動車、および飛行機等の構造設計にも適用することができる。この場合でも、設計変数と特性値(目的関数)との因果関係を体系的に理解でき、得られる設計情報を設計へ生かすことができる。更には上述のように、商品開発を進めることができ、開発コストを削減できるとともに開発のリードタイムを短縮することができる。
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明のデータ処理方法および構造体の設計方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
10 データ処理装置
12 処理部
14 入力部
16 表示部
20 条件設定部
22 モデル生成部
24 演算部
26 パレート解探索部
28 解析部
30 表示制御部
32 メモリ
34 制御部
D 領域

Claims (5)

  1. 構造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち設計変数として定められた複数のパラメータと、構p造体および構造体を構成する材料を規定するパラメータのうち特性値として定められた複数のパラメータとの2種類のデータを対象とした、コンピュータを用いたデータの処理方法であって、
    前記複数の設計変数および前記各設計変数の定義域、ならび前記複数の特性値を設定する第1の工程と、
    前記コンピュータが前記設計変数と前記特性値との間の非線形応答関係を定める第2の工程と、
    前記コンピュータが前記設計変数の定義域を定め、前記第2の工程で定めた非線形応答関係を用いて、特性値を目的関数とする最適化を実施しパレート解を算出する第3の工程と、
    前記コンピュータが前記設計変数毎に、パレート解を特性値空間に表示する第4の工程を有し、
    前記第3の工程では、前記設計変数のうち、1つについて前記定義域を少なくとも2つの離散値で設定し、残りの設計変数は定義域を定数とし、前記特性値を目的関数とする最適化を実施しパレート解を算出することを、全ての設計変数について、前記定義域を少なくとも2つの離散値で設定し、残りの設計変数は定義域を定数として、前記コンピュータが前記パレート解を算出することを特徴とするデータの処理方法。
  2. 前記第3の工程と前記第4の工程の間に、前記コンピュータが前記パレート解に対して感度解析を行う工程を有し、
    前記第4の工程では、さらに前記感度解析の結果を出力する請求項1に記載のデータ処理方法。
  3. 前記コンピュータが前記感度解析の結果に基づいて、再度、前記複数の設計変数および前記各設計変数の定義域、ならび前記複数の特性値を設定し、前記第2の工程から前記第4の工程を繰り返し行う請求項に記載のデータ処理方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のデータ処理方法で得られた結果を用いてコンピュータが構造体を設計することを特徴とする構造体の設計方法。
  5. 設計変数として設定された複数のタイヤの基底形状を重ね合わせてタイヤ形状定義されており前記コンピュータが最適なタイヤ形状の探索を行い、前記データ処理方法で得られた結果を基にタイヤを設計する請求項4に記載の構造体の設計方法。
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