しかしながら、特許文献2の発明は、矩形枠とその内周側の矩形面材を有する壁構造を前提としたものであり、ダンパとして種々の構造に適用できるものではなかった。また、矩形枠と一体化したものであるから、建て方時において、最初に柱や梁を組み上げる時点(柱の傾きなどを修正して仮筋交を入れる前の時点)で設置する必要があった。
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、木材を用いるものであって、種々の構造に適用可能で建築物に後付けも可能な摩擦ダンパおよびこの摩擦ダンパを設けた壁面体を提供することを目的とする。
本発明のうち請求項1の発明は、所定方向に延びて対向し、振動により所定方向に相対移動する、一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであって、摩擦材と、板材と、締付具を備え、摩擦材が、木製で、一方部材と一体に、他方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる溝部を形成してあって、溝部の両側が挟持部になっており、板材が、金属製で、他方部材と一体に、一方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる長孔を形成してあって、摩擦材の溝部に挿入されて両挟持部に挟まれており、締付具が、一方部材と他方部材の対向部に沿って設けてあって、摩擦材の両挟持部と板材の長孔を貫通していて、両挟持部を互いに近づく方向に締め付けており、両挟持部が板材を両側から押圧していることを特徴とする。
本発明のうち請求項2の発明は、所定方向に延びて対向し、振動により所定方向に相対移動する、木製の一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであって、二つの摩擦材と、締付具と、一方部材に形成した長手方向に延びる長孔を備え、両摩擦材が、木製で、他方部材と一体に、一方部材に対する対向部に沿って設けてあって、一方部材を挟んでおり、締付具が、一方部材と他方部材の対向部に沿って設けてあって、両摩擦材と一方部材の長孔を貫通していて、両摩擦材を互いに近づく方向に締め付けており、両摩擦材が一方部材を両側から押圧していることを特徴とする。
本発明のうち請求項3の発明は、締付具が、ボルトからなり、ボルトを、ボルト頭部またはボルトに通した基準めり込み板が摩擦材に対して、摩擦材が降伏変位を越えて変形するまでめり込むように締め付けてあることを特徴とする。
本発明のうち請求項4の発明は、締付具が、ボルトからなり、ボルトは、頭部側より先端側の方が、ネジピッチが大きくかつ有効直径が小さい二段形状であって、頭部側と先端側のそれぞれにおいて、螺合する摩擦材の厚さと略同じ長さ分ネジ加工されていることを特徴とする。
本発明のうち請求項5の発明は、摩擦材に圧密処理を施してあることを特徴とする。ここで、圧密処理には、摩擦材の全体を処理する場合と、表層のみを処理する場合の両方を含む。
本発明のうち請求項6の発明は、面材からなる一方部材と、矩形の軸組からなる他方部材と、請求項1、2、3、4または5記載の摩擦ダンパを備え、他方部材の内周側の略全体を覆うように一方部材を設けてあって、一方部材と他方部材の間に、周方向に間隔をおいて摩擦ダンパを設けてあることを特徴とする。
本発明のうち請求項1の発明によれば、振動により一方部材と他方部材が相対移動した際に、木製の摩擦材と金属製の板材の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、締付具が板材の長孔内を移動できるので、大きな変形にも対応可能であり、その際には締付具が金属製の板材に形成した長孔にガイドされることになるので、一方部材と他方部材が所定方向以外の方向に相対移動することが防がれる。さらに、板材を摩擦材の両挟持部により挟み込んで締め付ける構成なので、締付具による圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、一方部材と他方部材に、それぞれ摩擦材と板材を取り付けるだけでよく、一方部材と他方部材の形状、構造、素材および表面状態によらず、適用することができ、建築物に後付けすることも可能である。なお、ここでいう後付けとは、建て方時において仮筋交を入れた後に取り付ける場合と、既存の建築物に補強として取り付ける場合の両方の場合を含むものであり、以下においても同様である。
本発明のうち請求項2の発明によれば、振動により一方部材と他方部材が相対移動した際に、木製の摩擦材と木製の一方部材の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、締付具が一方部材の長孔内を移動できるので、大きな変形にも対応可能である。さらに、一方部材を両摩擦材により挟み込んで締め付ける構成なので、締付具による圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、他方部材に、一方部材を挟むようにして摩擦材を取り付けるだけでよく、一方部材と他方部材の形状および構造ならびに他方部材の素材および表面状態によらず、適用することができ、建築物に後付けすることも可能である。
本発明のうち請求項3の発明によれば、木材のめり込み変位とめり込み応力の関係は、塑性域において剛性が低下し、変形に対する応力の変化が鈍感になるので、降伏変位を超える所定のめり込み変位を与えることで、高い精度で圧締力を管理できる。圧締力は、すなわち摩擦材と板材または一方部材の当接面に生じる垂直力であり、摩擦力は垂直力に比例するので、これにより、摩擦力の大きさを管理することができる。
本発明のうち請求項4の発明によれば、摩擦材に対してボルトをねじ込むだけで、先端側と頭部側のネジピッチの差により、先端側と頭部側の両摩擦材(両挟持部)が互いに近づく方向に力が働くので、作業性が良好である。また、先端側の直径が小さいので、頭部側の摩擦材(挟持部)が損傷することがなく、ボルトを確実に締め付けることができる。さらに、頭部側と先端側のそれぞれにおいて、螺合する摩擦材の厚さと略同じ長さ分ネジ加工されているので、安定して大きな摩擦力が得られる。
本発明のうち請求項5の発明によれば、圧密処理により木製の摩擦材の見かけの比重が高くなることで耐摩耗性が高くなるので、摩擦ダンパの耐久性能が向上する。
本発明のうち請求項6の発明によれば、高剛性で、変形初期から大変形に至るまで高い減衰性能を備える壁面体とすることができる。また、請求項1の摩擦ダンパを適用した場合、軸組と一体に設けた板材が面材と一体に設けた摩擦材に挟まれる構成となり、請求項2の摩擦ダンパを適用した場合、面材が軸組と一体に設けた摩擦材に挟まれる構成となるので、何れにおいても、振動により締付具が緩んでも面材が面外方向に外れない。そして特に、面材と軸組の両方が木造である木造建築物において、請求項1の摩擦ダンパと請求項2の摩擦ダンパを適宜選択することで、真壁と大壁の何れにも適用することができる。また、工場において、面材と摩擦材をセットにして制振面材として製造し、これを現場において軸組に挿入施工することもでき、建築物に後付けすることも可能である。
本発明の摩擦ダンパおよび壁面体の具体的な構成について、各図面に基づいて説明する。摩擦ダンパは、振動により所定方向に相対移動する、一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであるが、ここでは、一方部材が木製の面材4、他方部材が木製の軸組5(軸組5を構成する柱材51)であって、面材4が柱材51の長手方向に平行で、面材4の端面が柱材51の側面に対向しており、面材4と柱材51が、柱材51の長手方向に相対移動する場合を例に挙げる。
まず、摩擦ダンパの第一実施形態について説明する。図1に示すように、摩擦ダンパの第一実施形態は、摩擦材1と、板材2と、締付具3を備える。摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材51の長手方向に延びるものであり、矩形の鋼板からなる受板6を挟んで面材4の一方の面に固定してある(以下、摩擦材1を固定した側を表側とし、その反対側を裏側とする)。より詳しくは、受板6の表側の柱材51寄りの位置に、摩擦材1を裏側からビス打ちして固定してあり、面材4の裏側に受材7を当てて、受板6を面材4に表側からビス打ちして固定してある。そして、摩擦材1の柱材51側の面には、柱材51の長手方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側(表側と裏側)が、挟持部12となっている。また、鋼製で柱材51の長手方向に延びるL字形材22の一辺を柱材51の面材4側の面にビス打ちして固定してあり、柱材51から面材4と平行に延びる他辺が板材2となっている。板材2は、摩擦材1の溝部11に挿入されており、両挟持部12に挟まれている。さらに、図2に示すように、板材2には、柱材51の長手方向に延びる長孔21を形成してあるが、長孔21の長さは、摩擦材1の長さよりも短く、長孔21は、摩擦材1に隠れた状態となる。そして、摩擦材1の両挟持部12および受板6には、板材2の長孔21の位置に合わせて、等間隔に五つのボルト孔を形成してあり、五本のボルト3からなる締付具が、両挟持部12と受板6のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して、裏側から挿入されており、ボルト3の先端に、めり込み板33を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。めり込み板33は、一枚の矩形鋼板に五つのボルト孔を形成したものである。そして、ナット34は、その表側の面が、ボルト3の先端と面一になるまでねじ込んであり、めり込み板33はその一部が摩擦材1にめり込んでいる。このボルト3の締め付けにより、両挟持部12が互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2を両側から押圧する。なお、実際の組立手順としては、まず受板6に摩擦材1を取り付け、次に板材2を摩擦材1の溝部11に挿入し、ボルト3を貫通させて締め付け、最後にこれを面材4と柱材51にそれぞれ取り付ける。
このように構成した摩擦ダンパの第一実施形態においては、振動により、面材4と柱材51が相対移動した際に、木製の摩擦材1と鋼製の板材2の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、ボルト3が板材2の長孔21内を移動できるので、大きな変形にも対応可能であり、その際にはボルト3が長孔21にガイドされることになるので、面材4と柱材51が所定方向以外の方向に相対移動することが防がれる。さらに、板材2を摩擦材1の両挟持部12により挟み込んで締め付ける構成なので、ボルト3による圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、面材4と柱材51に、それぞれ摩擦材1と板材2(L字形材22)を取り付けるだけでよく、作業が容易である。また、ここでは一方部材が面材4、他方部材が軸組5(柱材51)の場合を例に挙げたが、一方部材と他方部材の形状、構造はどのようなものであってもよい。さらに、摩擦材1と板材2の間に生じる摩擦力を利用するものであるから、一方部材と他方部材の素材や表面状態によらず、適用することができる。そして、この摩擦ダンパの第一実施形態は、建築物に後付けすることも可能である。
また、ナット34がボルト3の先端と面一になるまで締め付けて、めり込み板33を摩擦材1にめり込ませてあるが、これにより、圧締力を管理している。この点について、以下により詳細に説明する。木材に対して金属部材などをめり込ませた場合のめり込み変位とめり込み応力の関係は、図14のグラフに示すように、塑性域において剛性が低下し、変形に対する応力の変化が鈍感になる。このような性質によれば、ボルト3の締め付けによって鋼製のめり込み板33を木製の摩擦材1にめり込ませ、降伏変位を超える所定のめり込み変位を与えることで、高い精度で圧締力を管理できるものである。ここでは、めり込み変位の管理の利便性を考慮して、所定のめり込み変位を、ナット34がボルト3の先端と面一になるまでの変位としてある。よって、摩擦材1の素材、ボルト3の長さおよびナット34の高さが同じであれば、ボルト3の締め付けによる圧締力を一定の値にすることができる。圧締力は、すなわち摩擦材1と板材2の当接面に生じる垂直力であり、摩擦力は垂直力に比例するので、これにより、摩擦力の大きさを管理することができる。
次に、摩擦ダンパの第二実施形態について説明する。図3に示すように、摩擦ダンパの第二実施形態は、摩擦材1と、板材2と、締付具3を備える。摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材51の長手方向に延びるものであり、面材4の表側の面に裏側からビス打ちして固定してある。そして、摩擦材1の柱材51側の面には、柱材51の長手方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側(表側と裏側)が、挟持部12となっている。また、鋼製で柱材51の長手方向に延びるL字形材22の一辺を柱材51の面材4側の面にビス打ちして固定してあり、柱材51から面材4と平行に延びる他辺が板材2となっている。板材2は、摩擦材1の溝部11に挿入されており、両挟持部12に挟まれている。さらに、板材2には、第一実施形態と同様に、柱材51の長手方向に延びる長孔21を形成してある。そして、摩擦材1の両挟持部12には、板材2の長孔21の位置に合わせて、等間隔に五つのボルト孔を形成してあり、五本のボルト3からなる締付具が、両挟持部12のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して、裏側から挿入されており、ボルト3の先端に、座金8を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。ボルト頭部31は皿形であって、ボルト3の締め付けにより摩擦材1の裏側の面と面一になるまでめり込ませてある。このボルト3の締め付けにより、両挟持部12が互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2を両側から押圧する。なお、実際の組立手順としては、まず板材2を摩擦材1の溝部11に挿入し、ボルト3を貫通させて締め付け、最後にこれを面材4と柱材51にそれぞれ取り付ける。
このように構成した摩擦ダンパの第二実施形態においては、振動により、面材4と柱材51が相対移動した際に、木製の摩擦材1と鋼製の板材2の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、ボルト3が板材2の長孔21内を移動できるので、大きな変形にも対応可能であり、その際にはボルト3が長孔21にガイドされることになるので、面材4と柱材51が所定方向以外の方向に相対移動することが防がれる。さらに、板材2を摩擦材1の両挟持部12により挟み込んで締め付ける構成なので、ボルト3による圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、面材4と柱材51に、それぞれ摩擦材1と板材2(L字形材22)を取り付けるだけでよく、作業が容易である。また、ここでは一方部材が面材4、他方部材が軸組5(柱材51)の場合を例に挙げたが、一方部材と他方部材の形状、構造はどのようなものであってもよい。さらに、摩擦材1と板材2の間に生じる摩擦力を利用するものであるから、一方部材と他方部材の素材や表面状態によらず、適用することができる。そして、この摩擦ダンパの第二実施形態は、建築物に後付けすることも可能である。また、第一実施形態においては、ナット34がボルト3の先端と面一になるまで締め付けることで、ボルト3の締め付けによる圧締力を管理したが、第二実施形態においては、ボルト頭部31を摩擦材1の裏側の面と面一になるまでめり込ませることで、同様にボルト3の締め付けによる圧締力を管理している。
次に、摩擦ダンパの第三実施形態について説明する。図4に示すように、摩擦ダンパの第三実施形態は、二つの摩擦材1a,1bと、締付具3aを備える。摩擦材1a,1bは、木製であって、断面矩形で柱材51の長手方向に延びるものであり、面材4を両側から挟むようにして、柱材51の面材4側の面にビス打ちして固定してある。また、図5に示すように、面材4には、柱材51の長手方向に延びる長孔41を形成してあるが、長孔41は、両摩擦材1a,1bに隠れた状態となる。そして、三本のボルト3aからなる締付具に、座金8および基準めり込み板32を挿入した上で、両摩擦材1a,1bおよび面材4の長孔41を貫通して、表側からねじ込んである。なお、このボルト3aは、尖った先端とナット状の頭部を有する、いわゆるラグスクリューボルトである。基準めり込み板32は、矩形鋼板にボルト孔を形成したものであり、座金8よりも小さい。そして、基準めり込み板32は、ボルト3aの締め付けにより摩擦材1aの表側の面と面一になるまでめり込ませてあり、座金8に覆い隠されて外部からは見えない状態となっている。このボルト3aの締め付けにより、両摩擦材1a,1bが互いに近づく方向に付勢され、両摩擦材1a,1bが面材4を両側から押圧する。
このように構成した摩擦ダンパの第三実施形態においては、振動により、面材4と柱材51が相対移動した際に、木製の摩擦材1a,1bと木製の面材4の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、ボルト3aが面材4の長孔41内を移動できるので、大きな変形にも対応可能である。さらに、面材4を両摩擦材1a,1bにより挟み込んで締め付ける構成なので、ボルト3aによる圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、柱材51に、面材4を挟むようにして摩擦材1a,1bを取り付けるだけでよく、作業が容易である。また、ここでは一方部材が面材4、他方部材が軸組5(柱材51)の場合を例に挙げたが、一方部材と他方部材の形状、構造はどのようなものであってもよい。さらに、摩擦材1a,1bと面材4の間に生じる摩擦力を利用するものであるから、他方部材の素材や表面状態によらず、適用することができる。そして、この摩擦ダンパの第三実施形態は、建築物に後付けすることも可能である。また、第三実施形態においては、基準めり込み板32を摩擦材1aの表側の面と面一になるまでめり込ませることで、ボルト3aの締め付けによる圧締力を管理している。
次に、摩擦ダンパの第四実施形態について説明する。図6に示すように、摩擦ダンパの第四実施形態は、二つの摩擦材1a,1bと、締付具3bを備える。摩擦材1a,1bは、木製であって、断面矩形で柱材51の長手方向に延びるものであり、面材4を両側から挟むようにして、柱材51の面材4側の面にビス打ちして固定してある。また、面材4には、第三実施形態と同様に、柱材51の長手方向に延びる長孔41を形成してある。そして、三本のボルト3bからなる締付具を、両摩擦材1a,1bおよび面材4の長孔41を貫通して、表側からねじ込んである。なお、このボルト3bは、尖った先端とナット状の頭部を有する、いわゆるラグスクリューボルトであって、頭部側のネジピッチに対して先端側のネジピッチが大きく、かつ頭部側の直径に対して先端側の直径が小さい二段形状のものであり、頭部側と先端側のそれぞれにおいて、螺合する摩擦材1a,1bの厚さと略同じ長さ分ネジ加工されている。このボルト3bを締め付けると、先端側と頭部側のネジピッチの差により、両摩擦材1a,1bが互いに近づく方向に付勢され、両摩擦材1a,1bが面材4を両側から押圧する。
このように構成した摩擦ダンパの第四実施形態においては、振動により、面材4と柱材51が相対移動した際に、木製の摩擦材1a,1bと木製の面材4の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、ボルト3bが面材4の長孔41内を移動できるので、大きな変形にも対応可能である。さらに、面材4を両摩擦材1a,1bにより挟み込んで締め付ける構成なので、ボルト3bによる圧締力を調整しやすい。また、施工に際しては、柱材51に、面材4を挟むようにして摩擦材1a,1bを取り付け、摩擦材1a,1bおよび面材4の長孔41にボルト3bをねじ込むだけでよく、作業が容易である。また、ここでは一方部材が面材4、他方部材が軸組5(柱材51)の場合を例に挙げたが、一方部材と他方部材の形状、構造はどのようなものであってもよい。さらに、摩擦材1a,1bと面材4の間に生じる摩擦力を利用するものであるから、他方部材の素材や表面状態によらず、適用することができる。そして、この摩擦ダンパの第四実施形態は、建築物に後付けすることも可能である。また、ボルト3bの先端側と頭部側のそれぞれのネジピッチを適宜設定することで、ボルト3bの締め付けによる圧締力を管理している。さらに、ボルト3bは、先端側の直径が小さいので、頭部側の摩擦材1aが損傷することがない。すなわち、先端側と頭部側で直径が同じ場合、ボルト3bを一方の摩擦材1aからねじ込んだ際に、この摩擦材1aには先端側の大きなネジピッチでネジ溝が形成され、ネジピッチの小さい頭部側がしっかりと螺合しなくなってしまうが、直径が異なることにより、先端側が一方の摩擦材1aを通過した後、頭部側が改めて小さなネジピッチでネジ溝を形成するので、ボルト3bを確実に締め付けることができる。また、ボルト3bは、頭部側と先端側のそれぞれにおいて、螺合する摩擦材1a,1bの厚さと略同じ長さ分ネジ加工されているので、安定して大きな摩擦力が得られる。
続いて、このように構成した摩擦ダンパについて、繰り返し加振によりせん断試験を行った結果を示す。ここでは、第一実施形態と、第三実施形態について試験を行い、それぞれの変位−荷重関係を図7および図8のグラフに示した。これによれば、何れの実施形態においても、摩擦ダンパ特有の高い剛性と、二次剛性がほとんどない、長方形の安定したループが得られた。
次に、この摩擦ダンパを設けた壁面体について説明する。図9(a)に示すのは、摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体であり、面材4と、軸組5と、摩擦ダンパ100を備える。面材4は、木製で矩形の板材であり、軸組5は、左右の柱材51と、上下の梁材52を四周枠組みして形成したものあって、軸組5の内周側に面材4を取り付けたものである。なお、面材4と左右の柱材51の間の隙間は狭くしてあり(たとえば0.5mm程度)、面材と上下の梁材52との間の隙間は広くしてある(たとえば。25mm程度)。そして、振動としては地震動を想定するものであり、この壁面体が水平方向に加振されると、軸組5が平行四辺形になるように変形して、面材4と軸組5の各辺(柱材51および梁材52)は、各辺に沿った方向(柱材51および梁材52の長手方向)に相対的に移動する。この際、面材4と左右の柱材51の間の隙間は狭いので、面材4が回転しようとすると柱材51に接触して筋交効果が発揮され、左右方向(摩擦ダンパ100の長孔21に直交する方向)への変形は規制される。一方、面材4と上下の梁材52の間の隙間は広いので、上下方向(摩擦ダンパ100の長孔21が延びる方向)への変形は許容される。この振動を減衰させるため、面材4の左辺と左側の柱材51の間および面材4の右辺と右側の柱材51の間に、摩擦ダンパ100をそれぞれ三つずつ、等間隔に取り付けてある。図9(b)に示すように、摩擦ダンパ100の取り付け方は、図1に示した場合と同じであり、面材4が一方部材に相当し、軸組5(柱材51)が他方部材に相当する。ただし、受材7は、上下に延びる一本(左右二本)の部材となっている。また、軸組5の四周にわたって、面材4の裏側面の端部と柱材51または梁材52に当接するように、木製角材からなる連結材9を設けてあって、連結材9を柱材51または梁材52に釘打ちして固定してあり、面材4を連結材9に表側から釘打ちして固定してある。そして、面材4の左右方向中央位置において、上下の連結材9の間に、間柱10を設けてある。この壁面体においては、耐力は摩擦ダンパ100と連結材9の両方が負担し、減衰効果は主に摩擦ダンパ100が負担することになるが、図9(a)に示すように、面材4を連結材9に固定するための釘本数を最小限にすることで、摩擦ダンパ100の減衰効果を高めている。そして、この連結材9は、面材4が面外に座屈することを防ぐものであり、また、面材4と軸組5の間の隙間を塞いで気密性を維持するものである。なお、摩擦ダンパ100の第二実施形態を設けた壁面体においても、同様に連結材9を取り付けることが望ましい。
また、図10に示すのは、摩擦ダンパの第三実施形態を設けた壁面体である。図9に示した摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体と同様の構成であり、面材4と、軸組5(柱材51および梁材52)と、摩擦ダンパ100を備えていて、面材4の左辺と左側の柱材51の間および面材4の右辺と右側の柱材51の間に、摩擦ダンパ100をそれぞれ三つずつ、等間隔に取り付けてある。摩擦ダンパ100の取り付け方は、図3に示した場合と同じであり、面材4が一方部材に相当し、軸組5(柱材51)が他方部材に相当する。ただし、摩擦材1a,1bは、面材4の上端から下端まで延びる部材となっており、さらに、面材4の上辺および下辺にも、同様に摩擦材1a,1bを設けてある。また、面材4の左右方向中央位置において、上下の摩擦材1a,1bの間に、間柱10を設けてある。
このように摩擦ダンパ100を取り付けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。また、摩擦ダンパの第一実施形態を適用した場合、柱材51と一体に設けた板材2が、面材4と一体に設けた摩擦材1の両挟持部12に挟まれる構成となり、摩擦ダンパの第三実施形態を適用した場合、面材4が柱材51と一体に設けた両摩擦材1a,1bに挟まれる構成となるので、何れにおいても、振動によりボルト3,3aが緩んでも面材4が面外方向に外れない。さらに、工場において、面材4と摩擦材1,1a,1bをセットにして制振面材として製造し、これを現場において軸組5に挿入施工することもできる。
続いて、このように構成した壁面体について、壁せん断試験を行った結果を示す。ここでは、図9に示した摩擦ダンパ100の第一実施形態を設けた壁面体と、図10に示した摩擦ダンパ100の第三実施形態を設けた壁面体について試験を行った。試験方法は、柱脚固定式で、1/30rad.まで繰り返し加力を行ったあと、1/15rad.まで単調加力を行うものであり、それぞれの見かけのせん断変形角−荷重関係を図11および図12のグラフに示した。これによれば、摩擦ダンパ100の性質を反映して高い剛性を示した。また、図13に示すように、等価粘性減衰定数は、変形初期から高い値を示し、最大で0.3を超える非常に大きな値が得られた。以上から、本発明の壁面体は、高い剛性を有し、変形初期から大変形に至るまで高い減衰性能を備え、また、1/30rad.を超える大変形においても、ハードニングや耐力の低下がないなど、非常に優れた性能を発揮するものである。
本発明の摩擦ダンパは、さらに異なる構成もとり得るものである。図15および図16に示すのは、摩擦ダンパの第五実施形態およびこの摩擦ダンパを設けた壁面体である。第一実施形態〜第四実施形態は、何れも柱が露出する真壁形式のものであったが、第五実施形態は、柱が壁に隠される大壁形式のものである。この第五実施形態は、摩擦材1と、板材2と、締付具3を備える。摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材51の長手方向に延びるものであり、面材4の表側の面に裏側からビス打ちして固定してある。そして、摩擦材1の柱材51側の面には、柱材51の長手方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側(表側と裏側)が、挟持部12となっている。また、鋼製で柱材51の長手方向に延びるL字形材22の一辺を柱材51にビス打ちして固定してあり、柱材51から面材4と平行に延びる他辺が板材2となっている。板材2は、摩擦材1の溝部11に挿入されており、両挟持部12に挟まれている。さらに、板材2には、第一実施形態と同様に、柱材51の長手方向に延びる長孔21を形成してある。そして、摩擦材1の両挟持部12には、板材2の長孔21の位置に合わせて、等間隔に五つのボルト孔を形成してあり、五本のボルト3からなる締付具が、両挟持部12のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して、裏側から挿入されており、ボルト3の先端に、座金8を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。ボルト頭部31は皿形であって、ボルト3の締め付けにより摩擦材1の裏側の面と面一になるまでめり込ませてある。このボルト3の締め付けにより、両挟持部12が互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2を両側から押圧する。そして、面材4は、表側の面を柱材51の裏側の面に当接させ、裏側から釘打ちして固定してある。このように構成した摩擦ダンパの第五実施形態も、高い剛性を有し、この摩擦ダンパ100を設けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。そしてこのように、この摩擦ダンパは、真壁形式の壁面体と大壁形式の壁面体の何れにも適用することができる。
また、図17および図18に示すのは、摩擦ダンパの第六実施形態およびこの摩擦ダンパを設けた壁面体である。第一実施形態〜第五実施形態は、何れも摩擦材と他方部材(柱材)が別部材のものであったが、第六実施形態は、摩擦材と他方部材が一体となったものである。この第六実施形態が適用される壁面体も、矩形の軸組5の内周側に面材4を取り付けたものであるが、この軸組5は、各辺が、面材4を両側(表側と裏側)から挟む二本の木製の枠材53からなる。そして、両枠材53および面材4を貫通するようにして、裏側から釘打ちして固定してあり、さらに、面材4には、左右辺に沿って長孔41を形成してあり、三本のボルト3cからなる締付具を、両枠材53および面材4の長孔41を貫通して、表側からねじ込んである。なお、このボルト3cは、先端側が小径でネジピッチが大きく、頭部側が大径でネジピッチが小さい二段形状であり、頭部側と先端側のそれぞれにおいて、螺合する枠材53の厚さと略同じ長さ分ネジ加工されている。また、頭部のナット状部分がない形状のもので、六角ビットなどによりねじ込むものであり、ボルト3cが枠材53に完全に埋め込まれるので、石膏ボードなどの内壁材や、外壁材を施工する際に障害とならない(なお、第一実施形態〜第五実施形態では、ボルトの頭部やナットが突出していても、柱材の内側に納まるので問題ない)。このボルト3cの締め付けにより、両枠材53が互いに近づく方向に付勢され、両枠材53が面材4を両側から押圧する。よって、枠材53が摩擦材1としても機能するものであり、摩擦材1が枠材53と一体に設けてあるとも言い換えられる。このように構成した摩擦ダンパの第六五実施形態も、高い剛性を有し、この摩擦ダンパ100を設けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。
なお、本発明の摩擦ダンパの耐久性能を向上させるために、木製の摩擦材1の耐摩耗性を高めることが有効である。そのためには、摩擦材1に圧密処理を施すことにより、見かけの比重を高くすればよい。具体的には、摩擦材1を加熱圧縮処理して圧縮木とすることで、耐摩耗性を大きく向上させられる。また、加熱圧縮処理によってめり込み耐力が大きく向上し、ボルト頭部31程度のめり込み面積でも、十分な圧締力が得られる。さらに別の方法として、摩擦材1の表層を加熱ロールプレスすることで、表層を高比重化し、耐摩耗性を向上させることもできる。図19は、これらの圧密処理を行った木材と無処理材について、繰り返し加力試験を行い、その際の耐力低下率を比較したグラフである。なお、加熱圧縮処理は、木材の放射方向(年輪の半径方向)に対して行った。これによれば、無処理剤は50回の繰り返しまでに耐力が急激に低下した。それに対し、加熱ロールプレスを行った木材は、50回の繰り返し付近まで耐力を維持し、その後徐々に低下した。また、加熱圧縮を行った木材は、100回以上の繰り返しを経ても耐力が低下しなかった。
本発明は、上記の実施形態に限定されない。たとえば、板材または面材を摩擦材によって締め付けるためのボルトの本数は、必要性能に応じて適宜増減できる。また、基準めり込み板やめり込み板は、必要性能に応じて、めり込み面積とめり込み変位が適宜設定されるものであり、各ボルトに一枚ずつ設けるものであってもよいし、一枚の板にボルト孔を複数形成したものであってもよく、何れにおいても、形状は矩形や円形など、どのようなものであってもよい。さらに、第一実施形態、第二実施形態および第五実施形態において、L字形材の替わりにT字形材を用いて板材を構成してもよい。そして、その他各部材の形状は、上記の要件を満たすものである限り、どのようなものであってもよいし、各部材同士の接合には、ビスや釘のほか、接着剤などを用いてもよい。また、この摩擦ダンパが適用される壁面体は、木造のものに限られない。