JP6226857B2 - 劣化度推定システム、劣化度推定方法、及び、プログラム - Google Patents

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Description

本発明は、複数の電線が絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの劣化度を推定する劣化度推定システム、劣化度推定方法、及び、プログラムに関する。
現在、複数の電線が絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルが、電力の供給や電気信号の伝送に用いられている。このようなケーブルは、使用期間が長くなると、劣化が進行する。劣化が進行したケーブルは、交換することが望まれる。従って、ケーブルを交換すべきか否かを決定したり、ケーブルの交換時期を推定したりするために、ケーブルの劣化度を推定することが重要である。ケーブルの劣化の主な原因は、絶縁部材の経年劣化である。現在、ケーブルの劣化度を推定するために絶縁部材の劣化度を推定する種々の技術が知られている。
特許文献1には、有機高分子材料からなる被覆層を有する鉄道設備用低圧電線ケーブルを診断対象とする超音波劣化診断装置が開示されている。特許文献1に開示された超音波劣化診断装置は、超音波送信手段と超音波受信手段と伝搬時間測定手段と温度測定手段とを備え、測定された超音波伝搬特性を測定された温度により補正して被覆層の劣化を診断する装置である。
特許第3725747号公報
しかしながら、特許文献1に開示された超音波劣化診断装置は、ケーブルの一部の劣化度を診断する装置である。このため、特許文献1に開示された超音波劣化診断装置を用いてケーブル全体の劣化度を推定することは容易ではなかった。このため、ケーブル全体の劣化度を簡単に推定する技術が望まれている。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ケーブル全体の劣化度を簡単に推定する劣化度推定システム、劣化度推定方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る劣化度推定システムは、
第1電線と第2電線とが絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの一端において、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスを印加するパルス印加部と、
前記電圧パルスの立ち上がり時刻と前記立ち上がり時刻から予め定められた時間が経過した時刻とを含む期間における前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形を測定する波形測定部と、
前記波形測定部により測定された電圧波形に基づいて、前記ケーブルの電気長を推定する電気長推定部と、
前記電気長推定部により推定された電気長と前記ケーブルの物理長とに基づいて、前記ケーブルの実効比誘電率を算出する比誘電率算出部と、
前記比誘電率算出部により算出された実効比誘電率と前記ケーブルの定格実効比誘電率とに基づいて、前記ケーブルの劣化度を推定する劣化度推定部と、
前記ケーブルの他端において、短絡期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを短絡させ、前記短絡期間と重複しない開放期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを開放させる開閉部と、を備え、
前記パルス印加部は、前記短絡期間と前記開放期間とのそれぞれにおいて、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスを印加し、
前記電気長推定部は、前記短絡期間において前記波形測定部により測定された電圧波形である短絡時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第1閾値以上の電圧低下が発生した時刻までの短絡時パルス往復期間の長さと、前記開放期間において前記波形測定部により測定された電圧波形である開放時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第2閾値以上の電圧上昇が発生した時刻までの開放時パルス往復期間の長さとが一致する場合、前記短絡時パルス往復期間及び前記開放時パルス往復期間の長さをパルス往復時間として特定し、前記パルス往復時間に基づいて前記電気長を推定する
本発明では、第1電線の一端と第2電線の一端との間に電圧パルスが印加され、第1電線の一端と第2電線の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形に基づいてケーブルの電気長が推定され、推定されたケーブルの電気長とケーブルの物理長とに基づいてケーブルの実効比誘電率が算出され、算出されたケーブルの実効比誘電率とケーブルの定格実効比誘電率とに基づいてケーブルの劣化度が推定される。従って、本発明によれば、ケーブル全体の劣化度を簡単に推定することができる。
本発明の実施形態に係る劣化度推定システムの構成図である。 本発明の実施形態に係る処理装置の構成図である。 比誘電率と使用期間との関係を示す図である。 パルス発生装置が発生する電圧パルスを示す図である。 波形測定装置により測定される電圧波形を示す図である。(A)は、短絡時波形を示す図である。(B)は、開放時波形を示す図である。 本発明の実施形態に係る劣化度推定システムの機能を説明するための図である。 本発明の実施形態に係る劣化度推定システムが実行する劣化度推定処理を示すフローチャートである。 本発明の実施形態に係る劣化度推定システムを3芯ケーブルの劣化度の推定に適用する例を示す図である。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る劣化度推定システム1000について説明する。劣化度推定システム1000は、ケーブル500の劣化度を推定するシステムである。より詳細には、劣化度推定システム1000は、ケーブル500の実効比誘電率の変化率を目安にして、ケーブル500の劣化度を推定するシステムである。なお、ケーブル500の実効比誘電率は、ケーブル500を構成する絶縁部材550の比誘電率、断面形状、断面積などにより定められる。この絶縁部材550は、経年劣化により、変質し(例えば、硬化し)、比誘電率が変化する。経年劣化により絶縁部材550の比誘電率が変化すると、ケーブル500の実効比誘電率も変化することになる。図1に示すように、劣化度推定システム1000は、処理装置100と、パルス発生装置200と、波形測定装置300と、開閉切替装置400と、を備える。
処理装置100は、波形測定装置300から取得された情報などを処理して、ケーブル500の劣化度を推定する装置である。処理装置100は、パルス発生装置200や波形測定装置300と通信する機能を有する。具体的には、処理装置100は、パルス発生装置200に電圧パルスを発生させる。また、処理装置100は、波形測定装置300に電圧波形を取得させ、波形測定装置300から電圧波形を示す情報(以下「波形情報」という)を取得する。処理装置100は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンなどである。以下、図2を参照して、処理装置100の構成について説明する。
図2に示すように、処理装置100は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、フラッシュメモリ14、RTC(Real Time Clock)15、タッチスクリーン16、計測器インターフェース17、電気通信網インターフェース18を備える。処理装置100が備える各構成要素は、バスを介して相互に接続される。
CPU11は、処理装置100の全体の動作を制御する。なお、CPU11は、ROM12に格納されているプログラムに従って動作し、RAM13をワークエリアとして使用する。ROM12には、処理装置100の全体の動作を制御するためのプログラムやデータが記憶される。RAM13は、CPU11のワークエリアとして機能する。つまり、CPU11は、RAM13にプログラムやデータを一時的に書き込み、これらのプログラムやデータを適宜参照する。
フラッシュメモリ14は、各種の情報を記憶する不揮発性メモリである。例えば、フラッシュメモリ14には、タッチスクリーン16に対する操作により取得された情報、計測器インターフェース17により取得された情報、電気通信網インターフェース18により取得された情報などが記憶される。RTC15は、計時用のデバイスである。RTC15は、例えば、電池を内蔵し、処理装置100の電源がオフの間も計時を継続する。RTC15は、例えば、水晶発振子を備える発振回路を備える。
タッチスクリーン16は、ユーザによりなされたタッチ操作を検知し、検知の結果を示す信号をCPU11に供給する。また、タッチスクリーン16は、CPU11などから供給された画像信号に基づく画像を表示する。このように、タッチスクリーン16は、処理装置100のユーザインターフェースとして機能する。なお、処理装置100は、タッチスクリーン16に代えて、液晶ディスプレイ、マウス、キーボードなどを備えていてもよい。
計測器インターフェース17は、処理装置100を、パルス発生装置200、波形測定装置300などと接続するためのインターフェースである。計測器インターフェース17は、CPU11による指示に従って、パルス発生装置200を制御する。また、計測器インターフェース17は、波形測定装置300から取得した波形情報を、CPU11、RAM13、フラッシュメモリ14などに供給する。計測器インターフェース17は、例えば、LAN(Local Area Network)、USB(Universal Serial Bus)、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394などのインターフェースを備える。
電気通信網インターフェース18は、処理装置100を、図示しない電気通信網に接続するためのインターフェースである。この電気通信網は、LANであってもよいし、インターネットなどのWAN(Wide Area Network)であってもよい。電気通信網インターフェース18は、例えば、NIC(Network Interface Card)などのLANインターフェースを備える。なお、CPU11は、電気通信網インターフェース18を介して、電気通信網に接続されたサーバが記憶する情報をダウンロードしたり、各種の情報をサーバにアップロードしたりする。
パルス発生装置200は、処理装置100による指示に従って、TDR(Time Domain Reflectometry)のための電圧パルスを発生する。TDRは、立ち上がりの速い電圧パルスを2端子試料に印加して、試料に加わる電圧の時間的変化から、試料の内部構造を把握する手法である。本実施形態では、試料は、ケーブル500である。パルス発生装置200は、電線510の一端に接続された出力端子と電線520の一端に接続された出力端子とを備える。つまり、パルス発生装置200は、電線510の一端と電線520の一端との間に電圧パルスを印加する。パルス発生装置200は、処理装置100と通信する機能を有する。
波形測定装置300は、電線510の一端と電線520の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形を測定する。具体的には、波形測定装置300は、電線510の一端と電線520の一端との間の電圧を、電気信号がケーブル500を往復するのに要する時間に対して十分に短いサンプリング周期(例えば、数nsec程度)でサンプリングする。波形測定装置300は、測定した電圧波形を示す波形情報を処理装置100に送信する。
また、波形測定装置300は、電線510の他端と電線520の他端とが短絡されている状態において、電線510の一端と電線520の一端との間の抵抗値を測定する。つまり、波形測定装置300は、電線510と電線520とを含む経路のループ抵抗値を測定する。波形測定装置300は、測定した抵抗値を示す抵抗値情報を処理装置100に送信する。波形測定装置300は、処理装置100と通信する機能を有する。波形測定装置300は、例えば、オシロスコープやデジタルマルチメータである。
開閉切替装置400は、2つの出力端子間を、予め定められた周期(例えば、数sec程度)で、短絡状態と開放状態との間で切り替える。開閉切替装置400は、制御回路410と、リレー420と、を備える。制御回路410は、予め定められた周期が経過する毎に、リレー420の状態を切り替える。制御回路410は、例えば、RTCを備える。リレー420は、制御回路410の指示に従って、短絡・開放状態が切り替わる。リレー420の一端は、開閉切替装置400が備える一方の出力端子に接続され、リレー420の他端は、開閉切替装置400が備える他方の出力端子に接続される。そして、開閉切替装置400が備える一方の出力端子は電線510の他端に接続され、開閉切替装置400が備える他方の出力端子は電線520の他端に接続される。
ケーブル500は、劣化度を推定する対象となるケーブルである。ケーブル500は、例えば、ビル等の設備に敷設され、電力の供給や電気信号の送信に用いられるケーブルである。ケーブル500は、設備に敷設された状態で、劣化度が推定される。ケーブル500は、2芯ケーブルである。具体的には、ケーブル500は、電線510と電線520と絶縁部材550とを備え、電線510と電線520とが絶縁部材550により被覆されて構成される。本実施形態では、電線510の長さと、電線520の長さと、絶縁部材550の長さと、ケーブル500の長さとは、全て同一であるものと見なす。
電線510と電線520とのそれぞれは、電力や電気信号を送信するための芯線である。本実施形態では、電線510には電圧パルスが印加され、電線520には基準電位が印加されるものとする。電線510と電線520とのそれぞれは、例えば、銅により構成される。電線510は、絶縁部材550により被覆され、電線520と外部空間とから絶縁される。また、電線520は、絶縁部材550により被覆され、電線510と外部空間とから絶縁される。
絶縁部材550は、電線510と電線520とを被覆する絶縁体である。絶縁部材550は、例えば、塩化ビニール樹脂などにより構成される。絶縁部材550は、周囲温度などにもよるが、使用期間が長くなると、化学反応により硬化・変質が進行し、比誘電率が低下する。以下、図3を参照して、比誘電率と使用期間との関係について説明する。
図3は、絶縁部材550の新品時における比誘電率、つまり、絶縁部材550の定格比誘電率が3.0であることを示している。また、図3は、絶縁部材550の使用期間が長くなると、絶縁部材550の比誘電率が低下する様子を示している。さらに、図3は、絶縁部材550の使用環境(例えば、周囲温度)により、絶縁部材550の比誘電率の低下速度が異なることを示している。
曲線51は、周囲温度がs1(度)であるときの比誘電率の低下速度を示している。曲線52は、周囲温度がs1(度)よりも低いs2(度)であるときの比誘電率の低下速度を示している。曲線53は、周囲温度がs2(度)よりも低いs3(度)であるときの比誘電率の低下速度を示している。曲線54は、周囲温度がs3(度)よりも低いs4(度)であるときの比誘電率の低下速度を示している。曲線51、曲線52、曲線53、曲線54により示されているように、周囲温度が高い程、比誘電率の低下速度が速い。例えば、比誘電率は、周囲温度が最も高いs1(度)である場合、5年で1.5程度まで低下するが、周囲温度が最も低いs4(度)である場合、15年を経過しても2.0程度を維持する。
ケーブル500の実効比誘電率は、絶縁部材550の比誘電率やケーブル500の断面の形状に依存する。ここで、ケーブル500の断面の形状が不変であるものとすると、ケーブル500の実効比誘電率から絶縁部材550の比誘電率を算出することが可能である。なお、絶縁部材550は、電線510や電線520に流れる電流に起因する電界が発生している全ての空間を満たさない。このため、ケーブル500の実効比誘電率は、絶縁部材550の比誘電率よりも小さくなる。例えば、絶縁部材550の比誘電率が3.0であるとすると、ケーブル500の実効比誘電率は1.5〜1.7程度である。そして、例えば、絶縁部材550の比誘電率が1.5に低下すると、ケーブル500の実効比誘電率も1.15程度に低下する。
本実施形態では、TDR波形の測定によりケーブル500の実効比誘電率が算出される。ここで、比誘電率変換情報に基づいて、ケーブル500の実効比誘電率から絶縁部材550の比誘電率が算出可能である。なお、比誘電率変換情報は、ケーブル500の実効比誘電率と絶縁部材550の比誘電率との関係を示す情報である。また、比誘電率低下速度情報に基づいて、絶縁部材550の比誘電率と絶縁部材550の使用期間とから、絶縁部材550の使用環境(周囲温度)が推定可能である。この推定により、曲線51、曲線52、曲線53、曲線54のうち、絶縁部材550の余命を推定するときに参照すべき曲線が求められる。なお、比誘電率低下速度情報は、絶縁部材550の比誘電率と絶縁部材550の使用期間とを絶縁部材550の使用環境毎に示す情報である。
ここで、ケーブル500の実効比誘電率とケーブル500の使用期間とをケーブル500の使用環境毎に示す実効比誘電率低下速度情報が存在する場合、実効比誘電率低下速度情報に基づいて、ケーブル500の実効比誘電率とケーブル500の使用期間とから、ケーブル500の使用環境(周囲温度)が推定可能である。この推定により、ケーブル500の余命を推定するときに参照すべき曲線が求められる。比誘電率変換情報、比誘電率低下速度情報、実効比誘電率低下速度情報などは、例えば、フラッシュメモリ14に記憶されているものとする。
次に、図4を参照して、パルス発生装置200が発生する電圧パルスについて説明する。図4に示すように、パルス発生装置200が発生する電圧パルスは、電圧がV1であり、幅がT1のパルスである。V1は、例えば、5Vである。また、T1は、電気信号がケーブル500を往復するのに要する時間よりも十分に長い時間である。T1は、例えば、数msec程度の時間である。
次に、図5を参照して、波形測定装置300が測定する電圧波形について説明する。パルス発生装置200が電圧パルスを印加する端子と、波形測定装置300が電圧波形を測定する端子とは、同じ端子(電線510の一端)である。しかしながら、この端子で測定される電圧は、この端子に印加された電圧に、電線510の他端や電線510の中間部分において反射された電圧が重畳された電圧となる。このため、波形測定装置300が測定する電圧波形は、パルス発生装置200が発生した電圧パルスの波形とは、完全には一致しない。
ここで、図1を参照して、ケーブル500の部分毎に劣化度が異なることについて説明する。図1に示すように、ケーブル500の波形測定装置300寄りの部分(以下「部分A」という。)の環境が環境Aであり、ケーブル500の中間部分(以下「部分B」という。)の環境が環境Bであり、ケーブル500の開閉切替装置400寄りの部分(以下「部分C」という。)の環境が環境Cであるものとする。環境Aは、ケーブル500の周囲温度が低く、ケーブル500の劣化が進行しにくい環境である。環境Bは、環境Aよりも、ケーブル500の周囲温度が高く、ケーブル500の劣化が進行しやすい環境である。環境Cは、環境Bよりも、ケーブル500の周囲温度が高く、ケーブル500の劣化が進行しやすい環境である。
この場合、実効比誘電率は、高い順に、部分A→部分B→部分Cとなる。従って、特性インピーダンスは、高い順に、部分A→部分B→部分Cとなる。なお、特性インピーダンスに差がある箇所では、電気信号の反射が生じる。より詳細には、特性インピーダンスが低下する箇所で負の反射が生じ、特性インピーダンスが上昇する箇所で正の反射が生じる。また、ケーブル500の他端が短絡状態である場合、ケーブル500の他端で負の反射が生じる。一方、ケーブル500の他端が開放状態である場合、ケーブル500の他端で正の反射が生じる。
図5(A)は、開閉切替装置400が短絡状態であるときに測定される電圧波形(以下「短絡時波形」という。)を示す図である。短絡時波形は、基本的には、電圧パルスの先頭部分を示す波形である。領域Aは、t11からt12までの時間領域であり、部分Aにおける反射の影響を受ける時間領域である。領域Bは、t12からt13までの時間領域であり、部分Bにおける反射の影響を受ける時間領域である。領域Cは、t13からt14までの時間領域であり、部分Cにおける反射の影響を受ける時間領域である。t11からt14までの時間であるT14が、電気信号がケーブル500を往復するのに要した時間(以下「パルス往復時間」という。)である。
図5(A)に示すように、短絡時波形は、t11まで電圧が0Vであり、t11において電圧がV11上昇する波形である。t12では、部分Aと部分Bとの境界で発生した負の反射の影響により電圧がV12低下している。t13では、部分Bと部分Cとの境界で発生した負の反射の影響により電圧がV13低下している。t14では、ケーブル500の他端で発生した負の反射の影響により電圧がV14低下している。
V11は、基本的に、電圧パルスの電圧であるV1とほぼ等しく、5V程度の電圧である。V12は、部分Aの特性インピーダンスと部分Bの特性インピーダンスとの差に応じた電圧であり、V11よりも小さい電圧である。V13は、部分Bの特性インピーダンスと部分Cの特性インピーダンスとの差に応じた電圧であり、V11よりも小さい電圧である。V14は、部分Cの特性インピーダンスに応じた電圧であり、V12やV13よりも大きい電圧である。
従って、電圧パルスの電圧とほぼ等しい電圧の上昇があった時刻(t11)を電圧パルスの立ち上がり時刻として特定し、比較的大きく電圧が低下した時刻(t14)をケーブル500の他端で反射した電気信号が入力端に戻った時刻(以下「反射波帰着時刻」という。)として特定することができる。そして、t11からt14までの時間であるT14をパルス往復時間として特定することができる。
図5(B)は、開閉切替装置400が開放状態であるときに測定される電圧波形(以下「開放時波形」という。)を示す図である。開放時波形は、基本的には、電圧パルスの先頭部分を示す波形である。領域Aは、t21からt22までの時間領域であり、部分Aにおける反射の影響を受ける時間領域である。領域Bは、t22からt23までの時間領域であり、部分Bにおける反射の影響を受ける時間領域である。領域Cは、t23からt24までの時間領域であり、部分Cにおける反射の影響を受ける時間領域である。t21からt24までの時間であるT24が、パルス往復時間である。
図5(B)に示すように、開放時波形は、t21まで電圧が0Vであり、t21において電圧がV21上昇する波形である。t22では、部分Aと部分Bとの境界で発生した負の反射の影響により電圧がV22低下している。t23では、部分Bと部分Cとの境界で発生した負の反射の影響により電圧がV23低下している。t24では、ケーブル500の他端で発生した正の反射の影響により電圧がV24上昇している。
V21は、基本的に、電圧パルスの電圧であるV1とほぼ等しく、5V程度の電圧である。V22は、部分Aの特性インピーダンスと部分Bの特性インピーダンスとの差に応じた電圧であり、V21よりも小さい電圧である。V23は、部分Bの特性インピーダンスと部分Cの特性インピーダンスとの差に応じた電圧であり、V21よりも小さい電圧である。V24は、部分Cの特性インピーダンスに応じた電圧であり、V22やV23よりも大きい電圧である。
従って、電圧パルスの電圧とほぼ等しい電圧の上昇があった時刻(t21)を電圧パルスの立ち上がり時刻として特定し、比較的大きく電圧が上昇した時刻(t24)を反射波帰着時刻として特定することができる。そして、t21からt24までの時間であるT24をパルス往復時間として特定することができる。
以上説明したように、短絡時波形と開放時波形とのいずれからも、パルス往復時間を特定することができる。しかしながら、短絡時波形と開放時波形との双方から、パルス往復時間を特定することで、誤りなくパルス往復時間を特定することが期待できる。具体的には、反射波帰着時刻における電圧の変化の極性が、短絡時波形と開放時波形とで異なる点に注目する。つまり、t11とt21とでは同様に電圧が上昇し、t12とt22とでは同様に電圧が減少し、t13とt23とでは同様に電圧が減少するが、t14では電圧が減少しt24では電圧が上昇する点に着目する。
まず、短絡時波形と開放時波形とのそれぞれにおいて、電圧パルスの立ち上がり時刻を特定し、この立ち上がり時刻を基準として、短絡時波形の時間軸と開放時波形の時間軸とを合わせる。そして、短絡時波形と開放時波形とで電圧の変化が逆である時刻を反射波帰着時刻として特定する。そして、電圧パルスの立ち上がり時刻から反射波帰着時刻までの時間をパルス往復時間として特定する。
次に、図6を参照して、劣化度推定システム1000の機能について説明する。劣化度推定システム1000は、機能的には、パルス印加部101、波形測定部102、電気長推定部103、比誘電率算出部104、劣化度推定部105、開閉部106、期間分割部107、抵抗値測定部108、電線情報取得部109、物理長推定部110、余命推定部111、ケーブル情報取得部112、比誘電率特定部113、を備える。
パルス印加部101は、電線510と電線520とが絶縁部材550により被覆されて構成されるケーブル500の一端において、電線510の一端と電線520の一端との間に電圧パルスを印加する。パルス印加部101は、例えば、パルス発生装置200を備える。
波形測定部102は、電圧測定期間における電線510の一端と電線520の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形を測定する。電圧測定期間は、電圧パルスの立ち上がり時刻と立ち上がり時刻から予め定められた時間が経過した時刻とを含む期間である。この予め定められた時間は、予測されるパルス往復時間である。波形測定部102は、例えば、波形測定装置300を備える。
電気長推定部103は、波形測定部102により測定された電圧波形に基づいて、ケーブル500の電気長を推定する。具体的には、電気長推定部103は、短絡時波形と開放時波形とのうちの少なくとも一方に基づいて、パルス往復時間を特定し、このパルス往復時間に基づいて、ケーブル500の電気長を求める。電気長をLe(m)、パルス往復時間をTe(sec)とすると、Le=3×10×Te÷2である(以下「式(1)」という。)。なお、電気長は、電気的な長さであり、電気信号の進みにくさを考慮した長さである。また、3×10は、真空中における光の速さである。電気長推定部103は、例えば、CPU11を備える。
比誘電率算出部104は、電気長推定部103により推定された電気長とケーブル500の物理長とに基づいて、ケーブル500の実効比誘電率を算出する。実効比誘電率をεes、物理長をLp(m)とすると、εes=(Le÷Lp)である(以下「式(2)」という。)。比誘電率算出部104は、例えば、CPU11を備える。
劣化度推定部105は、比誘電率算出部104により算出された実効比誘電率とケーブル500の定格実効比誘電率とに基づいて、ケーブル500の劣化度を推定する。劣化度推定部105は、例えば、定格実効比誘電率に対する実効比誘電率の割合が小さいほど高く劣化度を推定する。劣化度推定部105は、例えば、CPU11を備える。
開閉部106は、ケーブル500の他端において、短絡期間において電線510の他端と電線520の他端とを短絡させ、短絡期間と重複しない開放期間において電線510の他端と電線520の他端とを開放させる。短絡期間や開放期間の長さは、電圧パルスの幅に対して十分に長いことが望ましい。開閉部106は、例えば、開閉切替装置400を備える。
パルス印加部101は、短絡期間と開放期間とのそれぞれにおいて、電線510の一端と電線520の一端との間に電圧パルスを印加することが好適である。この場合、電気長推定部103は、短絡期間において波形測定部102により測定された電圧波形である短絡時波形と、開放期間において波形測定部102により測定された電圧波形である開放時波形と、に基づいて、電気長を推定する。
具体的には、電気長推定部103は、短絡時パルス往復期間の長さであるとともに開放時パルス往復期間の長さであるパルス往復時間に基づいて、電気長を推定する。短絡時パルス往復期間は、短絡時波形において、電圧パルスが立ち上がった時刻から第1閾値以上の電圧低下が発生した時刻までの期間である。開放時パルス往復期間は、開放時波形において、電圧パルスが立ち上がった時刻から第2閾値以上の電圧上昇が発生した時刻までの期間である。第1閾値は、例えば、ケーブル500の他端が短絡状態であるときにケーブル500の他端で発生することが予測される負の反射波の振幅の半分程度の値であることが好適である。第2閾値は、例えば、ケーブル500の他端が開放状態であるときにケーブル500の他端で発生することが予測される正の反射波の振幅の半分程度の値であることが好適である。
期間分割部107は、短絡時波形又は開放時波形において第3閾値以上の電圧変化が発生した時刻を区切りとして短絡時パルス往復期間又は開放時パルス往復期間を複数の期間に分割する。第3閾値は、例えば、第1閾値や第2閾値よりも小さい値である。期間分割部107は、例えば、CPU11を備える。
劣化度推定部105は、さらに、短絡時波形又は開放時波形における複数の期間のそれぞれの長さ又は電圧に基づいて、劣化度を推定することができる。つまり、劣化度推定部105は、ケーブル500の実効比誘電率やケーブル500の定格実効比誘電率のみならず、部分的に劣化が激しいケーブル500部分の長さや劣化度を考慮して、ケーブル500全体の劣化度を推定することができる。典型的には、劣化度推定部105は、劣化部分の長さと、劣化部分における劣化度(以下「部分劣化度」という。)と、の積が大きいほど、ケーブル500全体の劣化度を高く推定する。なお、部分劣化度は、劣化部分に対応する期間における電圧、もしくは、その期間における電圧と隣の期間における電圧との電圧差から算出可能である。
抵抗値測定部108は、ケーブル500の一端において、短絡期間に、電線510の一端と電線520の一端との間の抵抗値を測定する。なお、抵抗値測定部108は、測定時刻が、短絡期間と開放期間とのいずれであるのかを特定せずに、短絡期間と開放期間との両方の期間において抵抗値を測定すればよい。この場合、相対的に高い抵抗値と相対的に低い抵抗値との両方の抵抗値が測定され、相対的に低い抵抗値が短絡期間における抵抗値として特定される。抵抗値測定部108は、例えば、波形測定装置300を備える。
電線情報取得部109は、電線510及び電線520の材質及び断面積を示す電線情報を取得する。電線情報取得部109は、例えば、タッチスクリーン16を備える。
物理長推定部110は、抵抗値測定部108により測定された抵抗値と電線情報取得部109により取得された電線情報とに基づいて、物理長を推定する。物理長推定部110は、まず、フラッシュメモリ14に記憶された電気抵抗率情報を参照して、電線510及び電線520の電気抵抗率を特定することができる。なお、電気抵抗率情報は、材質と電気抵抗率とを対応づける情報である。電気抵抗率情報は、例えば、フラッシュメモリ14に記憶される。ここで、測定された抵抗値(ループ抵抗値)をRloop、断面積をA、電気抵抗率をρとすると、Lp=(Rloop×A)÷(2×ρ)である(以下「式(3)」という。)。物理長推定部110は、例えば、CPU11を備える。
余命推定部111は、実効比誘電率低下速度情報と、ケーブル500の使用期間と、比誘電率算出部104により算出された実効比誘電率と、に基づいて、ケーブル500の使用環境が変化しない場合におけるケーブル500の余命を推定する。実効比誘電率低下速度情報は、ケーブル500の使用期間とケーブル500の比誘電率との関係をケーブル500の使用環境毎に示す情報である。余命推定部111は、例えば、CPU11を備える。
余命推定部111は、比誘電率低下速度情報と、比誘電率変換情報と、に基づいて、実効比誘電率低下速度情報を生成してもよい。比誘電率低下速度情報は、絶縁部材550の使用期間と絶縁部材550の比誘電率との関係を絶縁部材550の使用環境毎に示す情報である。比誘電率変換情報は、絶縁部材550の比誘電率とケーブル500の実効比誘電率との関係を示す情報である。比誘電率変換情報は、例えば、ケーブル500の断面の形状に基づく計算式を示す情報である。なお、余命推定部111が、ケーブル500の余命を推定する手法は、この例に限定されない。
例えば、余命推定部111は、比誘電率変換情報と、算出された実効比誘電率と、に基づいて、現時点における絶縁部材550の比誘電率を求める。そして、余命推定部111は、比誘電率低下速度情報と、絶縁部材550の使用期間と、現時点における絶縁部材550の比誘電率と、に基づいて、使用環境を特定する。余命推定部111は、特定した使用環境における比誘電率の低下速度を参照して、絶縁部材550の余命を推定する。なお、絶縁部材550の余命は、基本的に、ケーブル500の余命である。ここで、絶縁部材550の余命は、絶縁部材550の比誘電率が絶縁部材550の比誘電率の閾値(使用限度の閾値)まで低下する時間である。そして、ケーブル500の余命は、ケーブル500の実効比誘電率がケーブル500の実効比誘電率の閾値(使用限度の閾値)まで低下する時間である。使用限度の閾値は、例えば、定格比誘電率又は定格実効比誘電率の7〜8割程度である。
ケーブル情報取得部112は、ケーブル500の型番を示すケーブル情報を取得する。ケーブル情報取得部112は、例えば、タッチスクリーン16を備える。
比誘電率特定部113は、ケーブル情報取得部112により取得されたケーブル情報と、定格算出用情報と、に基づいて、ケーブル500の定格実効比誘電率を特定する。定格算出用情報は、例えば、ケーブルの型番と定格実効比誘電率との対応関係を示す情報である。定格算出用情報は、例えば、フラッシュメモリ14に記憶される。比誘電率特定部113は、例えば、CPU11を備える。
次に、図7に示すフローチャートを参照して、劣化度推定システム1000が実行する劣化度推定処理について説明する。なお、CPU11は、ユーザから劣化度推定処理の開始指示を受け付けた後に、劣化度推定処理を開始する。ユーザは、図1に示すように、パルス発生装置200と波形測定装置300と開閉切替装置400とをケーブル500に接続し、処理装置100とパルス発生装置200と波形測定装置300と開閉切替装置400との電源を投入した後に、劣化度推定処理の開始を指示する。なお、開閉切替装置400は、電源が投入されると、自動的に、短絡・開放状態を切り替えるものとする。
まず、CPU11は、ケーブル情報を取得する(ステップS101)。例えば、CPU11は、タッチスクリーン16を制御して、ケーブル情報の入力を促す画面をユーザに提示する。そして、CPU11は、タッチスクリーン16を介して入力されたケーブル情報を取得する。
一方、CPU11は、ステップS101の処理を完了すると、定格実効比誘電率を算出する(ステップS102)。例えば、CPU11は、定格実効比誘電率データベースを参照して、ケーブル情報により示されるケーブル500の型番に対応づけられた定格実効比誘電率を取得する。
CPU11は、ステップS102の処理を完了すると、電線情報を取得する(ステップS103)。例えば、CPU11は、タッチスクリーン16を制御して、電線情報の入力を促す画面をユーザに提示する。そして、CPU11は、タッチスクリーン16を介して入力された電線情報を取得する。なお、CPU11は、ケーブル情報に基づいて、電線情報を取得してもよい。
CPU11は、ステップS103の処理を完了すると、抵抗値を測定する(ステップS104)。例えば、CPU11は、波形測定装置300を制御して、波形測定装置300に抵抗値を測定させる。そして、CPU11は、波形測定装置300は、波形測定装置300から抵抗値情報を取得する。ここで、CPU11は、抵抗値情報により示される抵抗値のうち、短絡期間に測定された抵抗値を特定する。
CPU11は、ステップS104の処理を完了すると、物理長を推定する(ステップS105)。例えば、CPU11は、電線情報により示される電気抵抗率と、電線情報により示される断面積と、特定した抵抗値と、を上述した式(3)に当てはめて、物理長を算出する。
CPU11は、ステップS105の処理を完了すると、電圧波形の測定を開始する(ステップS106)。具体的には、CPU11は、波形測定装置300を制御して、電圧波形の測定を開始させる。一方、波形測定装置300は、処理装置100による制御に従って、電圧波形の測定を開始する。
CPU11は、ステップS106の処理を完了すると、電圧パルスの出力を開始する(ステップS107)。例えば、CPU11は、パルス発生装置200を制御して、電圧パルスの出力を開始させる。一方、パルス発生装置200は、処理装置100による制御に従って、電圧パルスの出力を開始する。なお、パルス発生装置200は、定期的に、電圧パルスを出力する。
CPU11は、ステップS107の処理を完了すると、短絡時波形と開放時波形とを取得済であるか否かを判別する(ステップS108)。例えば、CPU11は、波形測定装置300から取得した波形情報により、短絡時波形と開放時波形との両方の電圧波形が示されているか否かを判別する。
CPU11は、短絡時波形と開放時波形とを取得済でないと判別すると(ステップS108:NO)、ステップS108に処理を戻す。一方、CPU11は、短絡時波形と開放時波形とを取得済であると判別すると(ステップS108:YES)、電気長を推定する(ステップS109)。例えば、CPU11は、短絡時波形と開放時波形との双方に基づいて、パルス往復時間を求める。そして、CPU11は、求めたパルス往復時間を上述した式(1)に当てはめることにより、電気長を算出する。
CPU11は、ステップS109の処理を完了すると、実効比誘電率を算出する(ステップS110)。例えば、CPU11は、推定した物理長と推定した電気長とを上述した式(2)に当てはめることにより、実効比誘電率を算出する。
CPU11は、ステップS110の処理を完了すると、劣化度を推定する(ステップS111)。例えば、CPU11は、算出した定格実効比誘電率に対する算出した実効比誘電率の割合が小さい程、劣化度が高くなるように、劣化度を推定する。
CPU11は、ステップS111の処理を完了すると、余命を推定する(ステップS112)。例えば、CPU11は、上述したように、ケーブル500の使用環境を特定し、特定した使用環境におけるケーブル500の実効比誘電率の低下速度と、現在のケーブル500の実効比誘電率と、に基づいて、余命を推定する。なお、CPU11は、推定した劣化度から余命を推定してもよい。
CPU11は、ステップS112の処理を完了すると、推定結果を提示する(ステップS113)。例えば、CPU11は、タッチスクリーン16を制御して、推定した劣化度と推定した余命とをタッチスクリーン16に表示させる。CPU11は、ステップS113の処理を完了すると、劣化度推定処理を完了する。
以上説明したように、本実施形態では、電線510の一端と電線520の一端との間に電圧パルスが印加され、電線510の一端と電線520の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形に基づいてケーブル500の電気長が推定され、推定されたケーブル500の電気長とケーブル500の物理長とに基づいてケーブル500の実効比誘電率が算出され、算出されたケーブル500の実効比誘電率とケーブル500の定格実効比誘電率とに基づいてケーブル500の劣化度が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500全体の劣化度を簡単に推定することができる。具体的には、本実施形態によれば、ケーブル500の一端において測定された電圧波形を解析するだけで、ケーブル500全体の劣化度を推定することができる。この場合において、処理装置100は、パルス発生装置200、波形測定装置300、開閉切替装置400などと同期していなくてもよい。
また、本実施形態では、短絡期間において測定された短絡時波形と開放期間において測定された開放時波形とに基づいて、電気長が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500の劣化度の推定精度の向上が期待できる。
また、本実施形態では、短絡時波形から求められる短絡時パルス往復時間の長さであるとともに、開放時波形から求められる開放時パルス往復時間の長さであるパルス往復時間に基づいて、電気長が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500の劣化度の推定精度の向上がさらに期待できる。
また、本実施形態では、短絡時パルス往復期間や開放時パルス往復期間が複数の期間に分割され、この複数の期間のそれぞれの長さや電圧に基づいて、劣化度が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500の劣化度の推定精度の向上がさらに期待できる。
また、本実施形態では、短絡期間において測定された電線510の一端と電線520の一端との間の抵抗値と、電線情報と、に基づいて、ケーブル500の物理長が推定される。従って、本実施形態によれば、メジャーなどを用いてケーブル500の物理長を測定することなく、簡単にケーブル500の物理長を推定することができる。
また、本実施形態では、実効比誘電率低下速度情報と、ケーブル500の使用期間と、実効比誘電率と、に基づいて、ケーブル500の余命が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500の余命を正確に推定することができる。
また、本実施形態では、比誘電率低下速度情報と、比誘電率変換情報と、に基づいて、実効比誘電率低下速度情報が生成される。従って、本実施形態によれば、実効比誘電率低下速度情報がなくても比誘電率低下速度情報と比誘電率変換情報とにより、ケーブル500の余命を正確に推定することができる。
また、本実施形態では、ケーブル情報と、定格算出用情報と、に基づいて、定格実効比誘電率が推定される。従って、本実施形態によれば、ケーブル500の定格実効比誘電率がわからない場合でも、ケーブル情報と定格算出用情報とに基づいて、ケーブル500の定格実効比誘電率を推定することができる。
(変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明を実施するにあたっては、種々の形態による変形及び応用が可能である。
本発明において、上記実施形態において説明した構成、機能、動作のどの部分を採用するのかは任意である。また、本発明において、上述した構成、機能、動作のほか、更なる構成、機能、動作が採用されてもよい。
上記実施形態では、本発明を、2芯ケーブルであるケーブル500の劣化度の推定に適用する例について説明した。本発明を、種々の多芯ケーブルの劣化度の推定に適用してもよい。例えば、図8に示すように、劣化度推定システム1000を、3芯ケーブルであるケーブル501の劣化度の推定に適用してもよい。この場合、電線510と電線520と電線530とが絶縁部材550により絶縁されて構成されるケーブル501が備える3本の電線のうち、任意の2本を選択する。図8は、電線510と電線520とが選択されている例を示している。
そして、電線510と電線520とのそれぞれの一端に、パルス発生装置200と波形測定装置300とのそれぞれを接続し、電線510と電線520とのそれぞれの他端に、開閉切替装置400を接続する。そして、この状態において、図7に示す劣化度推定処理を実行する。その後、他の組み合わせ(例えば、電線510と電線530、又は、電線520と電線530との組み合わせ)についても同様に、接続処理と劣化度推定処理とを実行する。4芯以上のケーブルにおいても、同様に、2本の電線を選択して、接続処理と劣化度推定処理とを実行することができる。
上記実施形態では、劣化度推定部105が、ケーブル500の一部の部分劣化度が高い場合、ケーブル500全体の劣化度を高く推定する例について説明した。本発明において、ケーブル500の一部の部分劣化度を、ケーブル500全体の劣化度と切り離して、ケーブル500の使用可否や余命を推定してもよい。例えば、余命推定部111は、部分劣化度と劣化部分の長さとの積が大きいほど、ケーブル500を使用可能とする実効比誘電率の閾値を高くすることができる。なお、余命推定部111は、ケーブル500の現在の実効比誘電率がこの閾値よりも低い場合、ケーブル500が使用可能でないと推定することができる。
また、本発明において、CPU11は、ケーブル500の一端から劣化箇所までの距離を算出し、この距離をユーザに提示してもよい。例えば、ケーブル500の一端から劣化箇所までの距離をLpx(m)、電圧波形において電圧パルスの立ち上がり時刻から閾値以上の電圧変化が生じた変極点が示す時刻までの時間をTx(sec)、ケーブル500の一端から劣化箇所までの実効比誘電率をεとすると、Lpx=Tx×3×10×(ε1/2÷2である(以下「式(4)」とする。)。
上記実施形態では、本発明を、劣化により実効比誘電率が低下するケーブル500に適用する例について説明した。本発明において、劣化により実効比誘電率が上昇するケーブルに適用することもできる。この場合、例えば、実効比誘電率の上昇率が、予め定められた閾値以上である場合、ケーブルが使用可能でないと判別される。
上記実施形態では、パルス発生装置200による電圧パルスの発生タイミングと、波形測定装置300による電圧波形の測定タイミングと、開閉切替装置400による開閉状態の切替タイミングとが、同期していない例について説明した。本発明において、これらのタイミングを同期させてもよい。この場合、例えば、処理装置100は、まず、リレー420が短絡状態になるように開閉切替装置400を制御し、次に、短絡波形を測定するように波形測定装置300を制御し、その後、電圧パルスを発生するようにパルス発生装置200を制御する。そして、処理装置100は、リレー420が開放状態になるように開閉切替装置400を制御し、次に、開放波形を測定するように波形測定装置300を制御し、その後、電圧パルスを発生するようにパルス発生装置200を制御する。
上記実施形態では、実効比誘電率低下速度情報、比誘電率低下速度情報、比誘電率変換情報、定格算出用情報などが、フラッシュメモリ14に記憶されている例について説明した。本発明において、これらの情報は、図示しない電気通信網に接続された図示しないサーバなどに記憶されていてもよい。
上記実施形態では、電線情報、ケーブル情報などが、タッチスクリーン16を介して取得される例について説明した。本発明において、これらの情報は、図示しない電気通信網に接続された図示しない端末装置などから取得されてもよい。
本発明に係る処理装置100の動作を規定する動作プログラムを既存のパーソナルコンピュータや情報端末装置に適用することで、当該パーソナルコンピュータ等を本発明に係る処理装置100として機能させることも可能である。
また、このようなプログラムの配布方法は任意であり、例えば、CD−ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、メモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよいし、インターネットなどの通信ネットワークを介して配布してもよい。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、複数の電線が絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの劣化度の推定に適用可能である。
11 CPU、12 ROM、13 RAM、14 フラッシュメモリ、15 RTC、16 タッチスクリーン、17 計測器インターフェース、18 電気通信網インターフェース、100 処理装置、101 パルス印加部、102 波形測定部、103 電気長推定部、104 比誘電率算出部、105 劣化度推定部、106 開閉部、107 期間分割部、108 抵抗値測定部、109 電線情報取得部、110 物理長推定部、111 余命推定部、112 ケーブル情報取得部、113 比誘電率特定部、200 パルス発生装置、300 波形測定装置、400 開閉切替装置、410 制御回路、420 リレー、500,501 ケーブル、510,520,530 電線、550 絶縁部材、1000 劣化度推定システム

Claims (8)

  1. 第1電線と第2電線とが絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの一端において、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスを印加するパルス印加部と、
    前記電圧パルスの立ち上がり時刻と前記立ち上がり時刻から予め定められた時間が経過した時刻とを含む期間における前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形を測定する波形測定部と、
    前記波形測定部により測定された電圧波形に基づいて、前記ケーブルの電気長を推定する電気長推定部と、
    前記電気長推定部により推定された電気長と前記ケーブルの物理長とに基づいて、前記ケーブルの実効比誘電率を算出する比誘電率算出部と、
    前記比誘電率算出部により算出された実効比誘電率と前記ケーブルの定格実効比誘電率とに基づいて、前記ケーブルの劣化度を推定する劣化度推定部と、
    前記ケーブルの他端において、短絡期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを短絡させ、前記短絡期間と重複しない開放期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを開放させる開閉部と、を備え、
    前記パルス印加部は、前記短絡期間と前記開放期間とのそれぞれにおいて、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスを印加し、
    前記電気長推定部は、前記短絡期間において前記波形測定部により測定された電圧波形である短絡時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第1閾値以上の電圧低下が発生した時刻までの短絡時パルス往復期間の長さと、前記開放期間において前記波形測定部により測定された電圧波形である開放時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第2閾値以上の電圧上昇が発生した時刻までの開放時パルス往復期間の長さとが一致する場合、前記短絡時パルス往復期間及び前記開放時パルス往復期間の長さをパルス往復時間として特定し、前記パルス往復時間に基づいて前記電気長を推定する、
    劣化度推定システム。
  2. 前記短絡時波形又は前記開放時波形において第3閾値以上の電圧変化が発生した時刻を区切時刻として前記短絡時パルス往復期間又は前記開放時パルス往復期間を複数の期間に分割する期間分割部を更に備え、
    前記劣化度推定部は、さらに、前記短絡時波形又は前記開放時波形における前記複数の期間のそれぞれの長さ又は電圧に基づいて、前記劣化度を推定する、
    請求項に記載の劣化度推定システム。
  3. 前記ケーブルの一端において、前記短絡期間に、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間の抵抗値を測定する抵抗値測定部と、
    前記第1電線及び前記第2電線の材質及び断面積を示す電線情報を取得する電線情報取得部と、
    前記抵抗値測定部により測定された抵抗値と前記電線情報取得部により取得された電線情報とに基づいて、前記物理長を推定する物理長推定部と、を更に備える、
    請求項1又は2に記載の劣化度推定システム。
  4. 前記ケーブルの使用期間と前記ケーブルの実効比誘電率との関係を前記ケーブルの使用環境毎に示す実効比誘電率低下速度情報と、前記ケーブルの使用期間と、前記比誘電率算出部により算出された実効比誘電率と、に基づいて、前記ケーブルの使用環境が変化しない場合における前記ケーブルの余命を推定する余命推定部を更に備える、
    請求項1からのいずれか1項に記載の劣化度推定システム。
  5. 前記余命推定部は、前記絶縁部材の使用期間と前記絶縁部材の比誘電率との関係を前記絶縁部材の使用環境毎に示す比誘電率低下速度情報と、前記絶縁部材の比誘電率と前記ケーブルの実効比誘電率との関係を示す比誘電率変換情報と、に基づいて、前記実効比誘電率低下速度情報を生成する、
    請求項に記載の劣化度推定システム。
  6. 前記ケーブルの型番を示すケーブル情報を取得するケーブル情報取得部と、
    前記ケーブル情報取得部により取得されたケーブル情報と、ケーブルの型番と定格実効比誘電率との対応関係を示す定格算出用情報と、に基づいて、前記定格実効比誘電率を特定する比誘電率特定部と、を更に備える、
    請求項1からのいずれか1項に記載の劣化度推定システム。
  7. 第1電線と第2電線とが絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの一端において、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に印加された電圧パルスの立ち上がり時刻と前記立ち上がり時刻から予め定められた時間が経過した時刻とを含む期間における前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形を測定する波形測定ステップと、
    前記波形測定ステップで測定された電圧波形に基づいて、前記ケーブルの電気長を推定する電気長推定ステップと、
    前記電気長推定ステップで推定された電気長と前記ケーブルの物理長とに基づいて、前記ケーブルの実効比誘電率を算出する比誘電率算出ステップと、
    前記比誘電率算出ステップで算出された実効比誘電率と前記ケーブルの定格実効比誘電率とに基づいて、前記ケーブルの劣化度を推定する劣化度推定ステップと、
    前記ケーブルの他端において、短絡期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを短絡させ、前記短絡期間と重複しない開放期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とを開放させる開閉ステップと、
    前記短絡期間と前記開放期間とのそれぞれにおいて、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスを印加するパルス印加ステップと、を備え、
    前記電気長推定ステップでは、前記短絡期間において前記波形測定ステップで測定された電圧波形である短絡時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第1閾値以上の電圧低下が発生した時刻までの短絡時パルス往復期間の長さと、前記開放期間において前記波形測定ステップで測定された電圧波形である開放時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第2閾値以上の電圧上昇が発生した時刻までの開放時パルス往復期間の長さとが一致する場合、前記短絡時パルス往復期間及び前記開放時パルス往復期間の長さをパルス往復時間として特定し、前記パルス往復時間に基づいて前記電気長を推定する、
    劣化度推定方法。
  8. コンピュータを、
    第1電線と第2電線とが絶縁部材により被覆されて構成されるケーブルの一端において、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に印加された電圧パルスの立ち上がり時刻と前記立ち上がり時刻から予め定められた時間が経過した時刻とを含む期間における前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間の電圧の時間的な変化を示す電圧波形に基づいて、前記ケーブルの電気長を推定する電気長推定部、
    前記電気長推定部により推定された電気長と前記ケーブルの物理長とに基づいて、前記ケーブルの実効比誘電率を算出する比誘電率算出部、
    前記比誘電率算出部により算出された実効比誘電率と前記ケーブルの定格実効比誘電率とに基づいて、前記ケーブルの劣化度を推定する劣化度推定部、として機能させるプログラムであって、
    前記ケーブルの他端において、短絡期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とが短絡され、前記短絡期間と重複しない開放期間において前記第1電線の他端と前記第2電線の他端とが開放され、
    前記短絡期間と前記開放期間とのそれぞれにおいて、前記第1電線の一端と前記第2電線の一端との間に電圧パルスが印加され、
    前記電気長推定部は、前記短絡期間における電圧波形である短絡時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第1閾値以上の電圧低下が発生した時刻までの短絡時パルス往復期間の長さと、前記開放期間における電圧波形である開放時波形において、前記電圧パルスが立ち上がった時刻から第2閾値以上の電圧上昇が発生した時刻までの開放時パルス往復期間の長さとが一致する場合、前記短絡時パルス往復期間及び前記開放時パルス往復期間の長さをパルス往復時間として特定し、前記パルス往復時間に基づいて前記電気長を推定する、
    プログラム。
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