以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の非水二次電池は、複数の一次粒子が結合した二次粒子からなり表層部が密であり内部が疎である中空状の正極活物質(以下、「本発明の正極活物質」ということがある。)、並びに、アルカリ金属、アルカリ土類金属若しくはアルミニウムをカチオンとする塩及びヘテロ元素を有する有機溶媒を含み前記塩の濃度が1.8mol/L以上の電解液(以下、「本発明の電解液」ということがある。)を具備することを特徴とする。
まず、本発明の正極活物質を材料の観点から説明する。
本発明の正極活物質の材料としては、層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物、LiMn2O4、Li2Mn2O4等のスピネル構造化合物、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物、Li2MnO3を挙げることができる。
層状岩塩構造のリチウム金属複合酸化物としては、一般式Lia(NixCoyMz)Ob(1.05≦a≦1.20、0.3≦x≦0.6、0.1≦y≦0.4、0.01≦z≦0.4、x+y+z=1、1.7≦b≦2.3、MはMn、Zr、Mg、Ti、Al、W、Si、Mo、Fe、B、Znのうち少なくとも1つ)で表されるものが好ましい。
次に、本発明の正極活物質を構造の観点から説明する。
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が結合した二次粒子からなり、表層部が密であり内部が疎である中空状のものである。
一次粒子とは、特定の結晶方位を示す粒子を意味する。一次粒子は単結晶であると推定される。本発明の正極活物質の外観を顕微鏡で観察すると、一次粒子が多数結合して、二次粒子を構成していることがわかる。
一次粒子の形状には特段の限定がない。本発明者は、一次粒子の長径長さと、粒界のせん断応力との関係をフェーズフィールド法により解析した。その結果、一次粒子の長径長さが小さいほど、粒界のせん断応力が小さくなることが判明した。しかし、著しく長径長さの小さい一次粒子のみで構成される二次粒子は、再現性良く製造するのが困難な場合がある。また、著しく長径長さの小さい一次粒子のみで構成される二次粒子の密度が材料の真密度から大きく乖離する場合があるため、活物質の容量の観点から不利になる場合がある。他方、著しく長径長さの大きい一次粒子で構成される二次粒子は、粒界のせん断応力が大きくなるため割れが生じ易くなるといえる。さらに、著しく長径長さの大きい一次粒子で構成される二次粒子からなる正極活物質を具備する二次電池は、充放電速度の変化に因って電池特性が著しく低下する傾向がある。これらの知見を総合すると、一次粒子の形状は、長径長さの平均値が0.1〜2μmの範囲内のものが好ましく、0.2〜1μmの範囲内のものがより好ましい。なお、「長径長さ」とは、一次粒子観察時における、一次粒子の最も長い箇所の長さを意味する。そして、「長径長さの平均値」とは、10個以上の一次粒子から得られた「長径長さ」の算術平均値を意味する。
また、上記フェーズフィールド法の解析結果から、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)が1.1〜5.0、好ましくは1.7〜4.0、より好ましくは2.0〜4.0の範囲内であれば、粒界のせん断応力が極小になることが判明した。この知見から、一次粒子は、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の平均値が1.1〜5.0の範囲内のものがよく、1.7〜4.0の範囲内が好ましく、2.0〜4.0の範囲内がより好ましい。なお、「一次粒子の長径長さ」とは、一次粒子観察時における、一次粒子の最も長い箇所の長さを意味する。「一次粒子の短径長さ」とは、一次粒子観察時における一次粒子において、長径の直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。そして、「(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の平均値」とは、10個以上の一次粒子から得られた「(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)」の算術平均値を意味する。
一次粒子観察は、本発明の正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、電子線後方散乱回折(EBSD)などで測定して得られる画像に基づき、行えばよい。上記画像に対し、画像解析ソフトを用いて解析してもよい。
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が結合した二次粒子からなる。二次粒子の形状には特に限定は無いが、二次電池に優れた特性を付与する観点から、二次粒子は均一であって適度な大きさの粒子径のものが好ましい。粒子径が著しく大きな正極活物質を具備する二次電池では、正極活物質と電解液との反応面積を十分に確保することが困難となり、容量低下や抵抗上昇などの不具合が生じる可能性がある。他方、粒子径が著しく小さな正極活物質は取り扱いが困難であるし、所望の中空状の構造を形成させることが困難となる。また、大きさの均一性に乏しい、すなわち二次粒子の粒度分布が広範囲である正極活物質を具備する二次電池では、粒子径の著しい相違に起因して各二次粒子に印加される電圧が著しく不均一となり、二次粒子の選択的な劣化が進行し、容量低下や抵抗上昇などの不具合が生じる可能性がある。
以上の知見を総合すると、大きさの観点からは、二次粒子の平均粒子径は3〜7μmの範囲内が好ましく、4〜6μmの範囲内がより好ましい。均一性の観点からは、100×(前記二次粒子の粒子径の標準偏差)/(前記二次粒子の平均粒子径)の値が24未満の二次粒子が好ましい。なお、本明細書にて平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。また、「二次粒子の粒子径」及び「二次粒子の粒子径の標準偏差」は、本発明の正極活物質を一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定して算出された値である。
本発明の正極活物質は、表層部が密であり内部が疎である中空状の構造である。
本発明の正極活物質の表層を占める表層部には、一次粒子が密に存在する。他方、本発明の正極活物質の内部には空間が存在するため、一次粒子が疎に存在する。本発明の正極活物質の内部空間は一つであってもよいが、複数に区分されていてもよい。
本発明の正極活物質の内部空間の大きさには特に限定が無い。本発明者は、フェーズフィールド法による解析により、内部空間の径が大きいほど、粒界のせん断応力が小さくなることを見出した。かかる事項と二次粒子の平均粒子径の関係から、内部空間の径は、0.5〜5μmの範囲内が好ましく、1〜5μmの範囲内がより好ましく、2〜4μmの範囲内が特に好ましい。ここで述べた内部空間の径とは、本発明の正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合の各内部空間の最も長い箇所の長さを意味する。
本発明の正極活物質の内部空間の程度を示す空孔率は、4〜64%の範囲内が好ましく、10〜50%の範囲内がより好ましく、11〜17%の範囲内がさらに好ましい。ここで、空孔率とは、以下の方法で算出される値である。本発明の正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。SEM画像において、断面の径が二次粒子の平均粒子径の値の±1μmの範囲内の粒子につき、粒子の見かけの断面積(Atotal)と粒子内部の空間の断面積(Aspace)とを算出し、個別空孔率(%):100×(Aspace)/(Atotal)を算出する。個別空孔率を10個の粒子で算出し、その算術平均値を「空孔率」とする。
本発明の正極活物質の内部空間の程度を示す別の指標として、100×(本発明の正極活物質のタップ密度)/(本発明の正極活物質の材料の真密度)で表される密度率を挙げることもできる。本明細書のタップ密度とは、JIS R 1628 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法で定義される「タップかさ密度」を意味し、その測定方法は、定質量測定法とする。真密度の実例を挙げると、LiNi5/10Co2/10Mn3/10O2の真密度は4.8g/cm3であり、LiFePO4の真密度は3.6g/cm3である。密度率は、10〜60%の範囲内が好ましく、20〜50%の範囲内がより好ましい。
本発明の正極活物質の製造方法について説明する。本発明の正極活物質は種々の組成又は構造のリチウム金属複合酸化物を材料とし、以下のa)工程〜d)工程を含む製造方法で製造される。
a)遷移金属塩を水に溶解し、遷移金属イオン水溶液を調製する工程
b)塩基性水溶液を調製する工程
c)塩基性水溶液に前記遷移金属イオン水溶液を供給し、遷移金属水酸化物粒子を形成させる工程
d)遷移金属水酸化物粒子を成長させる工程
e)遷移金属水酸化物粒子及びリチウム塩を混合し、焼成する工程
a)工程について説明する。a)工程の遷移金属イオン水溶液の組成が、本発明の正極活物質における遷移金属組成の基礎となる。よって、本発明の正極活物質における遷移金属が複数の場合は、a)工程の遷移金属イオン水溶液における複数の遷移金属のモル比を、所望の比となるように設定する。
a)工程で用いる金属塩としては、正極活物質の製造に用いられる公知のものを採用すれば良い。正極活物質がニッケル、コバルト、マンガンを含む場合の塩を例示する。ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケルを挙げることができる。用いるコバルト塩としては、例えば、硫酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルトを挙げることができる。マンガン塩としては、例えば、硫酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガンを挙げることができる。
遷移金属イオン水溶液の好ましい遷移金属イオン濃度範囲は0.01〜4mol/Lであり、より好ましくは0.05〜3mol/Lであり、さらに好ましくは0.1〜2mol/Lであり、特に好ましくは0.5〜1.5mol/Lである。
b)工程は塩基性化合物を水に溶解し、塩基性水溶液を調製する工程である。b)工程の塩基性水溶液のpHは9〜14の範囲が好ましく、10〜13.5の範囲がより好ましく、11〜13の範囲がさらに好ましい。なお、本明細書で規定するpHは25℃で測定した場合の値をいう。使用し得る塩基性化合物としては水に溶解して塩基性を示すものであれば良く、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三リチウムなどのアルカリ金属リン酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウムなどのアルカリ金属シュウ酸塩を挙げることができる。塩基性化合物は単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。b)工程に続くc)工程の水溶液のpHは好適な範囲に保たれることが好ましいため、b)工程の塩基性水溶液には、緩衝能を有する塩基性化合物が含まれるのが好ましい。緩衝能を有する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属シュウ酸塩を挙げることができる。
b)工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガス及び酸素や乾燥空気などの酸化性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。b)工程に続くc)工程は0.5〜5%酸素雰囲気下で行われるため、b)工程も当該雰囲気下で行われることが好ましい。b)工程の具体例を以下に挙げる。撹拌装置、窒素ガス導入装置及び加熱装置を備えた反応槽に、水を投入し、40℃に加熱する。反応槽に不活性ガスを導入して不活性ガス雰囲気下とし、その後、不活性ガスと酸化性ガスの両者を導入する。水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水を反応槽に投入し、塩基性水溶液を調製する。
c)工程は、前記塩基性水溶液に遷移金属イオン水溶液を供給し、遷移金属水酸化物粒子を形成させる工程である。c)工程は0.5〜5%酸素雰囲気下で行われ、さらに、b)工程で述べたのと同様の条件下の反応槽で行われるのが好ましい。撹拌速度や温度条件は、遷移金属水酸化物粒子の核発生及び粒子形成に好適な範囲に適宜設定すればよい。遷移金属イオン水溶液の供給に伴い塩基性水溶液のpHが変動する場合や気化によりアンモニアなどの塩基性化合物が反応槽から失われる場合には、b)工程で採用した塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給して、上記核発生及び上記粒子形成に好適なpHやアンモニア濃度を維持すればよい。工程の安定性の観点から、遷移金属イオン水溶液の供給速度は一定であることが好ましい。好ましい供給速度として1〜30mL/min.を挙げることができ、より好ましくは1.5〜15mL/min.、さらに好ましくは2〜8mL/min.を挙げることができる。
d)工程は前記遷移金属水酸化物粒子を成長させる工程である。d)工程を現象で説明すると、c)工程で得られた前記遷移金属水酸化物の一次粒子同士をランダムに結合し、遷移金属水酸化物の二次粒子を形成する工程である。c)工程で得られる前記遷移金属水酸化物の一次粒子は純粋な球状ではなく、特定の軸方向に成長が偏る晶癖を示す形状である。晶癖を示す形状の一次粒子が互いにランダムに結合することにより、内部に疎な部分を含む遷移金属水酸化物の二次粒子が形成される。d)工程を具体的な作業で述べると、d)工程は、必要によりc)工程の液を減じつつ、c)工程の液を継続して保持及び/又は撹拌する工程である。d)工程はc)工程と連続して行われるのが好ましい。さらには、d)工程において、c)工程と同様に、遷移金属イオン水溶液、塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給してもよい。d)工程とc)工程とを厳密に区別するのは困難な場合もある。また、d)工程においては所望の粒子の大きさになるまで液を保持及び/又は撹拌するのが好ましい。得られた粒子は濾過で分離できる。分離後の粒子は必要に応じて再度d)工程に供してもよい。分離後の粒子は加熱条件下にて脱水されるのが良い。加熱条件としては100〜600℃、1〜30時間を挙げることができる。
e)工程は、d)工程で得られた遷移金属水酸化物粒子及びリチウム塩を混合し、焼成して、本発明の正極活物質を得る工程である。リチウム塩としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウムを例示することができる。リチウム塩の配合量は、所望のリチウム組成の活物質となるように適宜決定すればよい。一例を挙げると、e)工程で用いられる原料全体において、リチウムとニッケル、コバルト及びマンガンの合計とのモル比が1.05:1〜1.2:1の範囲内になるように、リチウム塩の配合量を決定すればよい。
混合装置としては、乳鉢及び乳棒、攪拌混合機、V型混合機、W型混合機、リボン型混合機、ドラムミキサー、ボールミルを例示できる。
焼成条件は、例えば、500〜1000℃、1〜30時間の範囲内で適宜設定すればよい。焼成途中に温度を変化させ、複数の温度下で焼成しても良い。好適な焼成条件として、500〜800℃、3〜20時間の条件下で第1次焼成を行い、次いで、800〜1000℃、3〜20時間の条件下で第2次焼成を行うことを例示できる。焼成後に得られた正極活物質は、必要ならば水洗工程、粉砕工程、篩過等の分級工程を経て、一定の粒度分布のものとするのが好ましい。
本発明の電解液について説明する。本発明の電解液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属若しくはアルミニウムをカチオンとする塩(以下、「金属塩」又は単に「塩」ということがある。)及びヘテロ元素を有する有機溶媒(以下、単に「有機溶媒」ということがある。)を含み前記塩の濃度が1.8mol/L以上の電解液であり、通常の電解液よりも高濃度で塩を含むものである。
金属塩は、通常の電池の電解液に含まれるLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiAlCl4などの電解質として用いられる化合物であれば良い。金属塩のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、及びアルミニウムを挙げることができる。金属塩のカチオンは、電解液を使用する電池の電荷担体と同一の金属イオンであるのが好ましい。例えば、本発明の電解液をリチウムイオン二次電池用の電解液として使用するのであれば、金属塩のカチオンはリチウムが好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、ハロゲン、ホウ素、窒素、酸素、硫黄又は炭素から選択される少なくとも1つの元素を含むと良い。ハロゲン又はホウ素を含むアニオンの化学構造を具体的に例示すると、ClO4、PF6、AsF6、SbF6、TaF6、BF4、SiF6、B(C6H5)4、B(oxalate)2、Cl、Br、Iを挙げることができる。
窒素、酸素、硫黄又は炭素を含むアニオンの化学構造について、以下、具体的に説明する。上記アニオンの化学構造は、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表される化学構造が好ましい。
(R
1は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R
2は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
1とR
2は、互いに結合して環を形成しても良い。
X
1は、SO
2、C=O、C=S、R
aP=O、R
bP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
2は、SO
2、C=O、C=S、R
cP=O、R
dP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
a、R
b、R
c、R
dは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
a、R
b、R
c、R
dは、R
1又はR
2と結合して環を形成しても良い。)
(R
3は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
X
3は、SO
2、C=O、C=S、R
eP=O、R
fP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
e、R
fは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
e、R
fは、R
3と結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R
4は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R
5は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R
6は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
4、R
5、R
6のうち、いずれか2つ又は3つが結合して環を形成しても良い。
X
4は、SO
2、C=O、C=S、R
gP=O、R
hP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
5は、SO
2、C=O、C=S、R
iP=O、R
jP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
6は、SO
2、C=O、C=S、R
kP=O、R
lP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
g、R
h、R
i、R
j、R
k、R
lは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
g、R
h、R
i、R
j、R
k、R
lは、R
4、R
5又はR
6と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1)〜(3)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(4)、一般式(5)又は一般式(6)で表される化学構造がより好ましい。
(R
7、R
8は、それぞれ独立に、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
e(CN)
f(SCN)
g(OCN)
hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R
7とR
8は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X
7は、SO
2、C=O、C=S、R
mP=O、R
nP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
8は、SO
2、C=O、C=S、R
oP=O、R
pP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
m、R
n、R
o、R
pは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
m、R
n、R
o、R
pは、R
7又はR
8と結合して環を形成しても良い。)
(R
9は、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
e(CN)
f(SCN)
g(OCN)
hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X
9は、SO
2、C=O、C=S、R
qP=O、R
rP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
q、R
rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
q、R
rは、R
9と結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R
10、R
11、R
12は、それぞれ独立に、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
e(CN)
f(SCN)
g(OCN)
hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
R
10、R
11、R
12のうちいずれか2つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。また、R
10、R
11、R
12の3つが結合して環を形成しても良く、その場合、3つのうち2つの基が2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たし、1つの基が2n−1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X
10は、SO
2、C=O、C=S、R
sP=O、R
tP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
11は、SO
2、C=O、C=S、R
uP=O、R
vP=S、S=O、Si=Oから選択される。
X
12は、SO
2、C=O、C=S、R
wP=O、R
xP=S、S=O、Si=Oから選択される。
R
s、R
t、R
u、R
v、R
w、R
xは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R
s、R
t、R
u、R
v、R
w、R
xは、R
10、R
11又はR
12と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)〜(3)で説明したのと同義である。
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造の、R7とR8が結合、又は、R10、R11、R12が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(7)、一般式(8)又は一般式(9)で表されるものがさらに好ましい。
(R
13、R
14は、それぞれ独立に、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
eである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R
13とR
14は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
(R
15は、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
eである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。)
(R
16、R
17、R
18は、それぞれ独立に、C
nH
aF
bCl
cBr
dI
eである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
R
16、R
17、R
18のうちいずれか2つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+eを満たす。また、R
16、R
17、R
18の3つが結合して環を形成しても良く、その場合、3つのうち2つの基が2n=a+b+c+d+eを満たし、1つの基が2n−1=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造の、R13とR14が結合、又は、R16、R17、R18が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
金属塩は、(CF3SO2)2NLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSO2)2NLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(C2F5SO2)2NLi、FSO2(CF3SO2)NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、又は(SO2CF2CF2CF2SO2)NLiが特に好ましい。
本発明の金属塩は、以上で説明したカチオンとアニオンをそれぞれ適切な数で組み合わせたものを採用すれば良い。本発明の電解液における金属塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、ヘテロ元素が窒素、酸素、硫黄、ハロゲンから選択される少なくとも1つである有機溶媒が好ましく、ヘテロ元素が窒素又は酸素から選択される少なくとも1つである有機溶媒がより好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、NH基、NH2基、OH基、SH基などのプロトン供与基を有さない、非プロトン性溶媒が好ましい。
ヘテロ元素を有する有機溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
ヘテロ元素を有する有機溶媒として、下記一般式(10)で示される鎖状カーボネートを挙げることができる。
(R
19、R
20は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC
nH
aF
b、又は、環状アルキルを化学構造に含むC
mH
cF
dのいずれかから選択される。
n、a、b、m、c、dはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m=c+dを満たす。)
上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。また、上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)が特に好ましい。
ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、比誘電率が20以上又はドナー性のエーテル酸素を有する溶媒が好ましく、そのような有機溶媒として、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、スルホランを挙げることができ、特に、アセトニトリル(以下、「AN」ということがある。)、1,2−ジメトキシエタン(以下、「DME」ということがある。)が好ましい。
これらの有機溶媒は単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
以下、本発明の電解液の特徴的な態様を説明する。
本発明の電解液の一態様は、その振動分光スペクトルにおいて、電解液に含まれる有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、有機溶媒本来のピークがシフトしたピーク(以下、「シフトピーク」ということがある。)の強度をIsとした場合、Is>Ioであることを特徴とする。すなわち、本発明の電解液を振動分光測定に供し得られる振動分光スペクトルチャートにおいて、上記2つのピーク強度の関係はIs>Ioとなる。なお、従来の電解液は、IsとIoとの関係がIs<Ioである。
ここで、「有機溶媒本来のピーク」とは、有機溶媒のみを振動分光測定した場合のピーク位置(波数)に、観察されるピークを意味する。有機溶媒本来のピークの強度Ioの値と、シフトピークの強度Isの値は、振動分光スペクトルにおける各ピークのベースラインからの高さ又は面積である。
本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークがシフトしたピークが複数存在する場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすいピークに基づいて当該関係を判断すればよい。また、本発明の電解液にヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすい(最もIsとIoの差が顕著な)有機溶媒を選択し、そのピーク強度に基づいてIsとIoの関係を判断すればよい。また、ピークのシフト量が小さく、シフト前後のピークが重なってなだらかな山のように見える場合は、既知の手段を用いてピーク分離を行い、IsとIoの関係を判断してもよい。
なお、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液の振動分光スペクトルにおいては、カチオンと最も配位し易い有機溶媒(以下、「優先配位溶媒」ということがある。)のピークが他に優先してシフトする。ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の質量%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の体積%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
本発明の電解液の振動分光スペクトルにおける上記2つのピーク強度の関係は、Is>2×Ioの条件を満たすことが好ましく、Is>3×Ioの条件を満たすことがより好ましく、Is>5×Ioの条件を満たすことがさらに好ましく、Is>7×Ioの条件を満たすことが特に好ましい。最も好ましいのは、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークの強度Ioが観察されず、シフトピークの強度Isが観察される電解液である。当該電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和していることを意味する。本発明の電解液は、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和している状態(Io=0の状態)が最も好ましい。
本発明の電解液においては、金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)が、相互作用を及ぼしていると推定される。具体的には、金属塩のカチオンと、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のヘテロ元素とが、配位結合を形成し、金属塩とヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)からなる安定なクラスターを形成していると推定される。このクラスターは、後述する評価例の結果からみて、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することにより形成されていると推定される。この点を考慮すると、本発明の電解液における、金属塩1モルに対するヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のモル範囲は、1.4モル以上3.5モル未満が好ましく、1.5モル以上3.1モル以下がより好ましく、1.6モル以上3モル以下がさらに好ましい。
本発明の電解液においては、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することによりクラスター形成されていると推定されるため、本発明の電解液の濃度(mol/L)は、金属塩及び有機溶媒それぞれの分子量と、溶液にした場合の密度に依存する。そのため、本発明の電解液の濃度を一概に規定することは適当でない。
本発明の電解液の濃度(mol/L)を表1に個別に例示する。
クラスターを形成している有機溶媒と、クラスターの形成に関与していない有機溶媒とは、それぞれの存在環境が異なる。そのため、振動分光測定において、クラスターを形成している有機溶媒由来のピークは、クラスターの形成に関与していない有機溶媒由来のピーク(有機溶媒本来のピーク)の観察される波数から、高波数側又は低波数側にシフトして観察される。すなわち、シフトピークは、クラスターを形成している有機溶媒のピークに相当する。
振動分光スペクトルとしては、IRスペクトル又はラマンスペクトルを挙げることができる。IR測定の測定方法としては、ヌジョール法、液膜法などの透過測定方法、ATR法などの反射測定方法を挙げることができる。IRスペクトル又はラマンスペクトルのいずれを選択するかについては、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、IsとIoの関係を判断しやすいスペクトルの方を選択すれば良い。なお、振動分光測定は、大気中の水分の影響を軽減又は無視できる条件で行うのがよい。例えば、ドライルーム、グローブボックスなどの低湿度又は無湿度条件下でIR測定を行うこと、又は、電解液を密閉容器に入れたままの状態でラマン測定を行うのがよい。
ここで、金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてアセトニトリルを含む本発明の電解液におけるピークにつき、具体的に説明する。
アセトニトリルのみをIR測定した場合、C及びN間の三重結合の伸縮振動に由来するピークが通常2100〜2400cm−1付近に観察される。
ここで、従来の技術常識に従い、アセトニトリル溶媒に対しLiTFSAを1mol/Lの濃度で溶解して電解液とした場合を想定する。アセトニトリル1Lは約19molに該当するので、従来の電解液1Lには、1molのLiTFSAと19molのアセトニトリルが存在する。そうすると、従来の電解液においては、LiTFSAと溶媒和している(Liに配位している)アセトニトリルと同時に、LiTFSAと溶媒和していない(Liに配位していない)アセトニトリルが多数存在する。さて、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリル分子と、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子とは、アセトニトリル分子の置かれている環境が異なるので、IRスペクトルにおいては、両者のアセトニトリルピークが区別して観察される。より具体的には、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルのピークは、アセトニトリルのみをIR測定した場合と同様の位置(波数)に観察されるが、他方、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリルのピークは、ピーク位置(波数)が高波数側にシフトして観察される。
そして、従来の電解液の濃度においては、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルが多数存在するのであるから、従来の電解液の振動分光スペクトルにおいて、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is<Ioとなる。
他方、本発明の電解液は従来の電解液と比較してLiTFSAの濃度が高く、かつ、電解液においてLiTFSAと溶媒和している(クラスターを形成している)アセトニトリル分子の数が、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子の数よりも多い。そうすると、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおける、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is>Ioとなる。
表2に、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、その帰属を例示する。なお、振動分光スペクトルの測定装置、測定環境、測定条件に因って、観察されるピークの波数が以下の波数と異なる場合があることを付け加えておく。
有機溶媒の波数とその帰属につき、公知のデータを参考としてもよい。参考文献として、日本分光学会測定法シリーズ17 ラマン分光法、濱口宏夫、平川暁子、学会出版センター、231〜249頁を挙げる。また、コンピュータを用いた計算でも、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、有機溶媒と金属塩が配位した場合の波数シフトを予測することができる。例えば、Gaussian09(登録商標、ガウシアン社)を用い、密度汎関数をB3LYP、基底関数を6−311G++(d,p)として計算すればよい。当業者は、表2の記載、公知のデータ、コンピュータでの計算結果を参考にして、有機溶媒のピークを選定し、Io及びIsを算出することができる。
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、10<η<500の範囲が好ましく、12<η<400の範囲がより好ましく、15<η<300の範囲がさらに好ましく、18<η<150の範囲が特に好ましく、20<η<140の範囲が最も好ましい。
一般に、電解液のイオン伝導度は高ければ高いほど、好適にイオンを移動することができ、優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2<σ<200の範囲が好ましく、3<σ<100の範囲がより好ましく、4<σ<50の範囲がさらに好ましく、5<σ<35の範囲が特に好ましい。
本発明の電解液における密度d(g/cm3)は、好ましくはd≧1.2又はd≦2.2であり、1.2≦d≦2.2の範囲内がより好ましく、1.24≦d≦2.0の範囲内がより好ましく、1.26≦d≦1.8の範囲内がさらに好ましく、1.27≦d≦1.6の範囲内が特に好ましい。なお、本発明の電解液における密度d(g/cm3)は、20℃での密度を意味する。
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なり、かつ、金属塩濃度が高いため、電解液中の金属イオン輸送速度の向上(特に、金属がリチウムの場合、リチウム輸率の向上)、電極と電解液界面の反応速度の向上、電池のハイレート充放電時に起こる電解液の塩濃度の偏在の緩和、電気二重層容量の増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、ヘテロ元素を有する有機溶媒の大半が金属塩とクラスターを形成していることから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
本発明の電解液は、従来の電池の電解液と比較して、粘度が高い。そのため、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。また、従来の電解液を用いた二次電池は、高速充放電サイクル時に容量減少が顕著であった。その理由としては、急速に充放電を繰り返した際の電解液中に生じたLi濃度ムラに因り、電極との反応界面に十分な量のLiを電解液が供給できなくなったこと、つまり、電解液のLi濃度の偏在が考えられる。しかしながら、本発明の電解液を用いた二次電池は、高速充放電時に容量が好適に維持されることが明らかになった。本発明の電解液の高粘度との物性により、電解液のLi濃度の偏在を抑制できたことが理由と考えられる。また、本発明の電解液の高粘度との物性により、電極界面における電解液の保液性が向上し、電極界面で電解液が不足する状態(いわゆる液枯れ状態)を抑制することができたことが理由と考えられる。
本発明の電解液の製造方法を説明する。本発明の電解液は従来の電解液と比較して金属塩の含有量が多いため、固体(粉体)の金属塩に有機溶媒を加える製造方法では凝集体が得られてしまい、溶液状態の電解液を製造するのが困難である。よって、本発明の電解液の製造方法においては、有機溶媒に対し金属塩を徐々に加え、かつ、電解液の溶液状態を維持しながら製造することが好ましい。
金属塩と有機溶媒の種類に因り、本発明の電解液は、従来考えられてきた飽和溶解度を超えて金属塩が有機溶媒に溶解している液体を包含する。そのような本発明の電解液の製造方法は、ヘテロ元素を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する第1溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する第2溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する第3溶解工程を含む。
ここで、上記「過飽和状態」とは、撹拌及び/又は加温条件を解除した場合、又は、振動等の結晶核生成エネルギーを与えた場合に、電解液から金属塩結晶が析出する状態のことを意味する。第2電解液は「過飽和状態」であり、第1電解液及び第3電解液は「過飽和状態」でない。
換言すると、本発明の電解液の上記製造方法は、熱力学的に安定な液体状態であり従来の金属塩濃度を包含する第1電解液を経て、熱力学的に不安定な液体状態の第2電解液を経由し、そして、熱力学的に安定な新たな液体状態の第3電解液、すなわち本発明の電解液となる。
安定な液体状態の第3電解液は通常の条件で液体状態を保つことから、第3電解液においては、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子で構成されこれらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターがリチウム塩の結晶化を阻害していると推定される。
第1溶解工程は、ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する工程である。
ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合するためには、ヘテロ原子を有する有機溶媒に対し金属塩を加えても良いし、金属塩に対しヘテロ原子を有する有機溶媒を加えても良い。
第1溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下で行われるのが好ましい。撹拌速度については適宜設定すればよい。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。金属塩の溶解時には溶解熱が発生するので、熱に不安定な金属塩を用いる場合には、温度条件を厳密に制御することが好ましい。また、あらかじめ、有機溶媒を冷却しておいても良いし、第1溶解工程を冷却条件下で行ってもよい。
第1溶解工程と第2溶解工程は連続して実施しても良いし、第1溶解工程で得た第1電解液を一旦保管(静置)しておき、一定時間経過した後に、第2溶解工程を実施しても良い。
第2溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する工程である。
第2溶解工程は、熱力学的に不安定な過飽和状態の第2電解液を調製するため、撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。ミキサー等の撹拌器を伴った撹拌装置で第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良いし、撹拌子と撹拌子を動作させる装置(スターラー)を用いて第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良い。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。もちろん、撹拌機能と加温機能を併せ持つ装置又はシステムを用いて第2溶解工程を行うことが特に好ましい。
第2溶解工程において、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、撹拌速度の増加及び/又はさらなる加温を実施する。この場合には、第2溶解工程の電解液にヘテロ原子を有する有機溶媒を少量加えてもよい。
第2溶解工程で得た第2電解液を一旦静置すると金属塩の結晶が析出してしまうので、第2溶解工程と第3溶解工程は連続して実施するのが好ましい。
第3溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する工程である。第3溶解工程では、過飽和状態の第2電解液に金属塩を加え、溶解する必要があるので、第2溶解工程と同様に撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。具体的な撹拌及び/又は加温条件は、第2溶解工程の条件と同様である。
第1溶解工程、第2溶解工程及び第3溶解工程を通じて加えた有機溶媒と金属塩とのモル比が概ね2:1程度となれば、第3電解液(本発明の電解液)の製造が終了する。撹拌及び/又は加温条件を解除しても、本発明の電解液から金属塩結晶は析出しない。これらの事情からみて、本発明の電解液は、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子からなり、これらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターを形成していると推定される。
なお、本発明の電解液を製造するにあたり、金属塩と有機溶媒の種類に因り、各溶解工程での処理温度において、上記過飽和状態を経由しない場合であっても、上記第1〜3溶解工程で述べた具体的な溶解手段を用いて本発明の電解液を適宜製造することができる。
また、本発明の電解液の製造方法においては、製造途中の電解液を振動分光測定する振動分光測定工程を有するのが好ましい。具体的な振動分光測定工程としては、例えば、製造途中の各電解液を一部サンプリングして振動分光測定に供する方法でも良いし、各電解液をin situ(その場)で振動分光測定する方法でも良い。電解液をin situで振動分光測定する方法としては、透明なフローセルに製造途中の電解液を導入して振動分光測定する方法、又は、透明な製造容器を用いて該容器外からラマン測定する方法を挙げることができる。本発明の電解液の製造方法に振動分光測定工程を含めることにより、電解液におけるIsとIoとの関係を製造途中で確認できるため、製造途中の電解液が本発明の電解液に達したのか否かを判断することができるし、また、製造途中の電解液が本発明の電解液に達していない場合にどの程度の量の金属塩を追加すれば本発明の電解液に達するのかを把握することができる。
本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、低極性(低誘電率)または低ドナー数であって、金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒、すなわち、本発明の電解液における上記クラスターの形成および維持に影響を与えない溶媒を加えることができる。このような溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の上記クラスターの形成を保持したままで、電解液の粘度を低くする効果が期待できる。
金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
また、本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
さらに、本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に導電性通路が形成され得る。さらに、電解液で分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、Li3N、LiI、LiI−Li3N−LiOH、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li2S−P2S5、LiI−Li2S−B2S3、Li2O−B2S3、Li2O−V2O3−SiO2、Li2O−B2O3−P2O5、Li2O−B2O3−ZnO、Li2O−Al2O3−TiO2−SiO2−P2O5、LiTi2(PO4)3、Li−βAl2O3、LiTaO3を例示することができる。
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLi2S−(1−x)P2S5で表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
本発明の非水二次電池は、上記本発明の正極活物質と、上記本発明の電解液とを必須の構成要件とする。非水二次電池としてはリチウムイオン二次電池が一般的である。そして、リチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極及びセパレータを具備する。以下、本発明の非水二次電池の一態様である、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極及びセパレータを具備する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、正極集電体としてアルミニウム製のものを採用するのが好ましい。
アルミニウム製の正極集電体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称す。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称す。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系を例示できる。また、具体的なアルミニウム又はアルミニウム合金として、JIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)を例示できる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層は本発明の正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。なお、正極活物質層には、本発明の正極活物質に加え、「複数の一次粒子が結合した二次粒子からなり、表層部が密であり内部が疎である中空状」でない従来の正極活物質を添加してもよい。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸など、分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。したがって親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する、あるいはポリマーにカルボキシル基を付与する、などの方法で製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。これらから選ばれる二種以上のモノマーを重合してなる共重合ポリマーを用いてもよい。
結着剤として、例えば特開2013-065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体からなり、カルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどをトラップし易くなると考えられている。さらに、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてカルボキシル基が多く酸性度が高まると共に、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。
本発明の電解液は極性が高いため、セパレータを構成する材料としては、親水性の高いものが好ましい。具体的にはガラス、アルミナ、シリカなどの親水性無機材料、セルロース、セルロース変性体(たとえば、カルボキシメチルセルロース)、ポリアミド、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸(たとえば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸)などの親水性有機材料、また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアクリロニトリルなどの疎水性有機材料の表面を既知の方法で親水化処理し、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基などの親水性基を有するものなどを例示することができる。またこれらの材料を複数組み合わせて使用してもよい。
セパレータは多層構造としてもよい。本発明の電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。特に、セパレータとして不織布を採用するのが好ましい。
不織布とは、繊維状物を熱的、機械的又は化学的に接合する又は絡み合わせることによって形成されたシートを指す。紙類も不織布の一種である。不織布を構成する繊維状物の直径は太いほど不織布の強度が高く、細いほど不織布は緻密な構造となる。繊維状物の直径が太い物と細い物とを適宜組み合わせた不織布でもよい。
セパレータの厚みは、5μm以上450μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がさらに好ましい。厚みが5μm未満だとセパレータの強度が弱くなるため、外力やリチウムデンドライトの析出などによって容易に電極間が短絡し、自己放電や発熱などに繋がる可能性がある。厚みが450μmより大きいと二次電池のエネルギー密度が低下するとともに、内部抵抗が上昇して二次電池の出力性能が低下する。
セパレータは、正極と負極とが短絡しないように隔離する機能を有する。そのためセパレータの表面に形成される空隙の直径は、正極活物質の粒径及び負極活物質の粒径よりも小さいことが好ましい。リチウムイオン二次電池においては、正極活物質及び負極活物質の粒径はおおむね1μm〜30μmであるので、セパレータの表面に形成される空隙の直径は1μm未満であることが好ましい。
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風量発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例及び比較例等を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
<正極活物質>
(製造例1)
製造例1の正極活物質を以下のように製造した。
a)工程
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解させて、Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1であり、かつNi、Co及びMnの合計濃度が0.9mol/Lである遷移金属イオン水溶液を調製した。
b)工程
攪拌装置および窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、攪拌しながら40℃に加熱した。該反応槽を窒素置換した後、窒素気流下、反応槽内の空間を酸素濃度1.0%に維持しつつ、16質量%水酸化ナトリウム水溶液と28質量%アンモニア水とをそれぞれ適量加えて、液温25℃でのpHが12.0であり、液相のアンモニア濃度が9g/Lである塩基性水溶液を調製した。
c)工程
b)工程と同じ酸素雰囲気下であって撹拌条件下の上記反応槽中の塩基性水溶液に、遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水を一定速度でそれぞれ別の流入ルートから供給することにより、反応液をpH12.0かつアンモニア濃度を9g/Lに維持しつつ、遷移金属水酸化物粒子を形成させ、反応液から該粒子を晶析させた。
d)工程
上記反応槽の反応液を濃縮し、上記の遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水の供給速度を調節して、反応液をpH11.8かつアンモニア濃度を9g/Lに制御しつつ、撹拌条件下で上記遷移金属水酸化物粒子を成長させた。
ここまでのd)工程を2回行った後、濾過、水洗し、遷移金属水酸化物粒子を単離した。該遷移金属水酸化物粒子に対し、大気雰囲気下、300℃、20時間加熱処理した。
e)工程
加熱処理後の遷移金属水酸化物粒子とLi2CO3を、(Ni+Co+Mn):Liのモル比が1:1.10となるように混合し、混合物とした。この混合物に対し、600℃で16時間保持する第一焼成を行い、次いで、875℃で5時間保持する第二焼成を行って焼成物を得た。焼成物を冷却後に解砕し、篩分けにて分級して、中空状であってLi1.10Ni0.34Co0.33Mn0.33O2で表される平均粒子径6μmの正極活物質を得た。
(製造例2)
製造例2の正極活物質を以下のように製造した。
a)工程
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解させて、Ni:Co:Mnのモル比が5:2:3であり、かつNi、Co及びMnの合計濃度が0.9mol/Lである遷移金属イオン水溶液を調製した。
b)工程
攪拌装置および窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、攪拌しながら50℃に加熱した。該反応槽を窒素置換した後、窒素気流下、反応槽内の空間を酸素濃度1.0%に維持しつつ、16質量%水酸化ナトリウム水溶液と28質量%アンモニア水とをそれぞれ適量加えて、液温25℃でのpHが11.6であり、液相のアンモニア濃度が9g/Lである塩基性水溶液を調製した。
c)工程
b)工程と同じ酸素雰囲気下であって撹拌条件下の上記反応槽中の塩基性水溶液に、遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水を一定速度でそれぞれ別の流入ルートから供給することにより、反応液をpH11.6かつアンモニア濃度を9g/Lに維持しつつ、遷移金属水酸化物粒子を形成させ、反応液から該粒子を晶析させた。
d)工程
上記反応槽の反応液を濃縮し、上記の遷移金属イオン水溶液、16質量%水酸化ナトリウム水溶液及び3質量%アンモニア水の供給速度を調節して、反応液をpH11.4かつアンモニア濃度を9g/Lに制御しつつ、撹拌条件下で上記遷移金属水酸化物粒子を成長させた。
ここまでのd)工程を2回行った後、濾過、水洗し、遷移金属水酸化物粒子を単離した。該遷移金属水酸化物粒子に対し、大気雰囲気下、300℃、20時間加熱処理した。
e)工程
加熱処理後の遷移金属水酸化物粒子とLi2CO3を、(Ni+Co+Mn):Liのモル比が1:1.10となるように混合し、混合物とした。この混合物に対し、600℃で16時間保持する第一焼成を行い、次いで、850℃で5時間保持する第二焼成を行って焼成物を得た。焼成物を冷却後に解砕し、篩分けにて分級して、中空状であってLi1.10Ni0.5Co0.2Mn0.3O2で表される平均粒子径6μmの正極活物質を得た。
(比較製造例1)
b)工程及びc)工程の反応槽内の空間を酸素濃度0.1%に維持した以外は、製造例1と同様の方法で、中空状でないLi1.10Ni0.34Co0.33Mn0.33O2で表される平均粒子径6μmの正極活物質を得た。これを比較製造例1の正極活物質とした。
(比較製造例2)
b)工程及びc)工程の反応槽内の空間を酸素濃度0.1%に維持した以外は、製造例2と同様の方法で、中空状でないLi1.10Ni0.5Co0.2Mn0.3O2で表される平均粒子径6μmの正極活物質を得た。これを比較製造例2の正極活物質とした。
(参考評価例1)
製造例1、2、比較製造例1、2の正極活物質につき、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装株式会社)を用い、循環溶剤としてN−メチルピロリドンを用いて、平均粒子径(D50)、100×(粒子径の標準偏差)/(平均粒子径)の値(以下、「粒子径のCV%」ということがある。)を算出した。結果を表3に示す。
(参考評価例2)
製造例1、2、比較製造例1、2の正極活物質につき、イオンスライサー(EM−09100IS、日本電子株式会社製)を用いたArイオンミリング法にて断面を形成させ、該断面をSEMとEBSDで観察した。得られた各SEM画像から、いずれの正極活物質も複数の一次粒子が結合した二次粒子からなることが確認できた。また、製造例1、2の正極活物質は表層部が密であり内部が疎である中空状であることが確認できた。他方、比較製造例1、2の正極活物質は表層部及び内部がともに密であり、中空状とはいえないものであった。
得られた各SEM画像から空孔率を算出し、各EBSD画像から一次粒子の長径長さの平均値、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)の値(なお、以下の表では「アスペクト比」と称した。)を算出した。結果を表4に示す。
<電解液>
(電解液E1)
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CF3SO2)2NLiを溶解させた。約15gの(CF3SO2)2NLiを加えた時点で(CF3SO2)2NLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CF3SO2)2NLiは溶解した。さらに(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、所定の(CF3SO2)2NLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。これを電解液E1とした。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CF3SO2)2NLiは18.38gであった。電解液E1における(CF3SO2)2NLiの濃度は3.2mol/Lであった。電解液E1においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.6分子が含まれている。
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
(電解液E2)
16.08gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E1と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が2.8mol/Lである電解液E2を製造した。電解液E2においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン2.1分子が含まれている。
(電解液E3)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CF3SO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(CF3SO2)2NLiを全量で19.52g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液E3とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E3における(CF3SO2)2NLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E3においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E4)
24.11gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E4を製造した。電解液E4においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル1.9分子が含まれている。
(電解液E5)
リチウム塩として13.47gの(FSO2)2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が3.6mol/Lである電解液E5を製造した。電解液E5においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.9分子が含まれている。
(電解液E6)
14.97gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.0mol/Lである電解液E6を製造した。電解液E6においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.5分子が含まれている。
(電解液E7)
リチウム塩として15.72gの(FSO2)2NLiを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E7を製造した。電解液E7においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E8)
16.83gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が4.5mol/Lである電解液E8を製造した。電解液E8においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
(電解液E9)
20.21gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が5.4mol/Lである電解液E9を製造した。電解液E9においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル2分子が含まれている。
(電解液E10)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液E10とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E10における(FSO2)2NLiの濃度は3.9mol/Lであった。電解液E10においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E11)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が3.4mol/Lの電解液E11とした。電解液E11においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E12)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E12とした。電解液E12においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3分子が含まれている。
(電解液E13)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E13とした。電解液E13においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E14)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E14とした。電解液E14においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート5分子が含まれている。
(電解液E15)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液E15とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E15における(FSO2)2NLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E15においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E16)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E16とした。電解液E16においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E17)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.2mol/Lの電解液E17とした。電解液E17においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E18)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO2)2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO2)2NLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液E18とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E18における(FSO2)2NLiの濃度は3.0mol/Lであった。電解液E18においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E19)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E19とした。電解液E19においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E20)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E20とした。電解液E20においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E21)
電解液E3の方法に準じて、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.0mol/Lである電解液E21を製造した。
(電解液E22)
有機溶媒としてスルホランを用いた以外は、電解液E3の方法に準じて、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.0mol/Lである電解液E22を製造した。
(電解液E23)
有機溶媒としてジメチルスルホキシドを用いた以外は、電解液E3の方法に準じて、(CF3SO2)2NLiの濃度が3.2mol/Lである電解液E23を製造した。
(電解液E24)
電解液E5方法に準じて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lである電解液E24を製造した。
(電解液C1)
5.74gの(CF3SO2)2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C1を製造した。電解液C1においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.3分子が含まれている。
(電解液C2)
5.74gの(CF3SO2)2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF3SO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C2を製造した。電解液C2においては、(CF3SO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル16分子が含まれている。
(電解液C3)
3.74gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C3を製造した。電解液C3においては、(FSO2)2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.8分子が含まれている。
(電解液C4)
3.74gの(FSO2)2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C4を製造した。電解液C4においては、(FSO2)2NLi1分子に対しアセトニトリル17分子が含まれている。
(電解液C5)
有機溶媒としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、以下、「EC/DEC」ということがある。)を用い、リチウム塩として3.04gのLiPF6を用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、LiPF6の濃度が1.0mol/Lである電解液C5を製造した。
(電解液C6)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C6とした。電解液C6においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジメチルカーボネート10分子が含まれている。
(電解液C7)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C7とした。電解液C7においては、(FSO2)2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート8分子が含まれている。
(電解液C8)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO2)2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C8とした。電解液C8においては、(FSO2)2NLi1分子に対しジエチルカーボネート7分子が含まれている。
表5に電解液E1〜E24及び電解液C1〜C8の一覧を示す。
LiTFSA:(CF
3SO
2)
2NLi、LiFSA:(FSO
2)
2NLi
AN:アセトニトリル、DME:1,2−ジメトキシエタン
DMC:ジメチルカーボネート、EMC:エチルメチルカーボネート、
DEC:ジエチルカーボネート
DMSO:ジメチルスルホキシド、SL:スルホラン
EC/DEC:エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7)
(参考評価例3:IR測定)
電解液E3、電解液E4、電解液E7、電解液E8、電解液E9、電解液C2、電解液C4、並びに、アセトニトリル、(CF3SO2)2NLi、(FSO2)2NLiにつき、以下の条件でIR測定を行った。2100cm−1〜2400cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図1〜図10に示す。さらに、電解液E10〜E20、電解液C6〜C8、並びに、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートにつき、以下の条件でIR測定を行った。1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図11〜図27に示す。また、(FSO2)2NLiにつき、1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルを図28に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は吸光度(反射吸光度)である。
IR測定条件
装置:FT−IR(ブルカーオプティクス社製)
測定条件:ATR法(ダイヤモンド使用)
測定雰囲気:不活性ガス雰囲気下
図8で示されるアセトニトリルのIRスペクトルの2250cm−1付近には、アセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図9で示される(CF3SO2)2NLiのIRスペクトル及び図10で示される(FSO2)2NLiのIRスペクトルの2250cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図1で示される電解液E3のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00699)観察された。さらに図1のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05828で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。
図2で示される電解液E4のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05234で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図3で示される電解液E7のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00997)観察された。さらに図3のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.08288で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。図4で示される電解液E8のIRスペクトルについても、図3のIRチャートと同様の強度のピークが同様の波数に観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=11×Ioであった。
図5で示される電解液E9のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.07350で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図6で示される電解液C2のIRスペクトルには、図8と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04441で観察された。さらに図6のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03018で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図7で示される電解液C4のIRスペクトルには、図8と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04975で観察された。さらに図7のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03804で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図17で示されるジメチルカーボネートのIRスペクトルの1750cm−1付近には、ジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図28で示される(FSO2)2NLiのIRスペクトルの1750cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図11で示される電解液E10のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.16628)観察された。さらに図11のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48032で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.89×Ioであった。
図12で示される電解液E11のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.18129)観察された。さらに図12のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.52005で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.87×Ioであった。
図13で示される電解液E12のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20293)観察された。さらに図13のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53091で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.62×Ioであった。
図14で示される電解液E13のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.23891)観察された。さらに図14のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53098で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.22×Ioであった。
図15で示される電解液E14のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.30514)観察された。さらに図15のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.50223で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=1.65×Ioであった。
図16で示される電解液C6のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.48204)観察された。さらに図16のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.39244で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図22で示されるエチルメチルカーボネートのIRスペクトルの1745cm−1付近には、エチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図18で示される電解液E15のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.13582)観察された。さらに図18のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45888で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.38×Ioであった。
図19で示される電解液E16のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15151)観察された。さらに図19のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48779で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.22×Ioであった。
図20で示される電解液E17のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20191)観察された。さらに図20のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48407で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.40×Ioであった。
図21で示される電解液C7のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.41907)観察された。さらに図21のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.33929で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図27で示されるジエチルカーボネートのIRスペクトルの1742cm−1付近には、ジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図23で示される電解液E18のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.11202)観察された。さらに図23のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.42925で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.83×Ioであった。
図24で示される電解液E19のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15231)観察された。さらに図24のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45679で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.00×Ioであった。
図25で示される電解液E20のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20337)観察された。さらに図25のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.43841で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.16×Ioであった。
図26で示される電解液C8のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.39636)観察された。さらに図26のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1709cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.31129で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
(参考評価例4:イオン伝導度)
電解液E1、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E15のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表6に示す。
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
電解液E1、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E15は、いずれもイオン伝導性を示した。よって、本発明の電解液は、いずれも各種の電池の電解液として機能し得ると理解できる。
(参考評価例5:粘度)
電解液E1、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E15、電解液E18並びに電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度を以下の条件で測定した。結果を表7に示す。
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
電解液E1、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E15、電解液E18の粘度は、電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度と比較して、著しく高かった。よって、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。
(参考評価例6:揮発性)
電解液E2、E4、E8、電解液C1、C2、C4の揮発性を以下の方法で測定した。
約10mgの電解液をアルミニウム製のパンに入れ、熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、SDT600)に配置し、室温での電解液の重量変化を測定した。重量変化(質量%)を時間で微分することで揮発速度を算出した。揮発速度のうち最大のものを選択し、表8に示した。
電解液E2、E4、E8の最大揮発速度は、電解液C1、C2、C4の最大揮発速度と比較して、著しく小さかった。よって、本発明の電解液を用いた電池は、仮に損傷したとしても、電解液の揮発速度が小さいため、電池外への有機溶媒の急速な揮発が抑制される。
(参考評価例7:燃焼性)
電解液E4、電解液C2の燃焼性を以下の方法で試験した。
電解液をガラスフィルターにピペットで3滴滴下し、電解液をガラスフィルターに保持させた。当該ガラスフィルターをピンセットで把持し、そして、当該ガラスフィルターに接炎させた。
電解液E4は15秒間接炎させても引火しなかった。他方、電解液C2は5秒余りで燃え尽きた。
本発明の電解液は燃焼しにくいことが裏付けられた。
(参考評価例8:Li輸率)
電解液E8及び電解液C4のLi輸率を以下の条件で測定した。結果を表9に示す。
<Li輸率測定条件>
電解液E8又は電解液C4を入れたNMR管をPFG−NMR装置(ECA−500、日本電子)に供し、7Li、19Fを対象として、スピンエコー法を用い、磁場パルス幅を変化させながら、各電解液中のLiイオン及びアニオンの拡散係数を測定した。Li輸率は以下の式で算出した。
Li輸率=(Liイオン拡散係数)/(Liイオン拡散係数+アニオン拡散係数)
電解液E8のLi輸率は、電解液C4のLi輸率と比較して、著しく高かった。ここで、電解液のLiイオン伝導度は、電解液に含まれるイオン伝導度(全イオン電導度)にLi輸率を乗じて算出することができる。そうすると、本発明の電解液は、同程度のイオン伝導度を示す従来の電解液と比較して、リチウムイオン(カチオン)の輸送速度が高いといえる。
(参考評価例9:低温試験)
電解液E10、電解液E15、電解液E18をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−30℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。いずれの電解液も固化せず液体状態を維持しており、塩の析出も観察されなかった。
(参考評価例10:密度)
電解液E1、電解液E2、電解液E4、電解液E5、電解液E6、電解液E8、電解液E10、電解液E15、電解液E18、電解液E21、電解液E22、電解液E23、電解液E24につき、20℃で密度を測定した。リチウム塩ごとにまとめた結果を表10に示す。
(実施例1)
製造例1の正極活物質及び電解液E8を具備する実施例1のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
製造例1の正極活物質94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極用集電体として厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。なお、正極活物質層は正極集電体上に塗工面単位面積あたり5.5mg/cm2で形成されており、また、正極活物質層の密度は2.1g/cm3であった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極用集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。なお、負極活物質層は負極集電体上に塗工面単位面積あたり3.8mg/cm2で形成されており、また、負極活物質層の密度は1.1g/cm3であった。
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液E8を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
(実施例2)
正極活物質として製造例2の正極活物質を採用した以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作成した。
(実施例3)
電解液として電解液E10を採用した以外は、実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作成した。
(比較例1)
正極活物質として比較製造例1の正極活物質を採用した以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作成した。
(比較例2)
正極活物質として比較製造例2の正極活物質を採用した以外は、実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作成した。
(比較例3)
正極活物質として比較製造例2の正極活物質を採用した以外は、実施例3のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作成した。
(評価例1)
実施例1〜3、比較例1〜3のリチウムイオン二次電池に対し、25℃にて、電圧4.1VまでCC充電(定電流充電)し、電圧3.0VまでCC放電(定電流放電)を行う4.1V−3.0Vの充放電サイクルを、充放電レート1Cで200サイクル行った。200サイクル後の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を以下の式で求めた。結果を表11に示す。
容量維持率(%)=(B/A)×100
A:最初の充放電サイクルにおける放電容量
B:200サイクル目の放電容量
実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池と比較して優れた容量維持率を示した。同様に、実施例2のリチウムイオン二次電池は比較例2のリチウムイオン二次電池と比較して優れた容量維持率を示し、実施例3のリチウムイオン二次電池は比較例3のリチウムイオン二次電池と比較して優れた容量維持率を示した。
本発明の正極活物質と本発明の電解液を併用したリチウムイオン二次電池が、顕著な容量維持率の改善効果を奏することが裏付けられた。
なお、電解液として低濃度の電解液C4を採用したリチウムイオン二次電池では、充放電反応が観察されず、二次電池として機能しない。
(評価例2)
評価例1の200サイクル後の実施例1〜2及び比較例1〜2のリチウムイオン二次電池を分解して、上記参考評価例2と同様の方法で、各正極活物質の断面をSEMにて観察した。実施例1〜2のリチウムイオン二次電池の正極活物質には、割れがほとんど観察されなかった。他方、比較例1〜2のリチウムイオン二次電池の正極活物質には、多数の割れが観察された。
本発明の正極活物質の構造に因り、充放電サイクル後の正極活物質の割れを抑制できることが裏付けられた。
(評価例3)
本発明の正極活物質の断面を電子線後方散乱回折(EBSD)で測定して得られた画像をモデルとし、フェーズフィールド法により、以下の関係を解析した。
1:一次粒子の長径長さと、粒界のせん断応力
2:(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)と、粒界のせん断応力
3:内部空間の径と、粒界のせん断応力
なお、3の関係は、一次粒子の長辺長さの平均を0.6μmとして解析した。
結果を、図29〜31に示す。
図29から、一次粒子の長径長さが小さいほど、粒界のせん断応力が小さくなることがわかる。図30から、(一次粒子の長径長さ)/(一次粒子の短径長さ)が2.5付近で、粒界のせん断応力が極小となることがわかる。図31から、内部空間の径の存在により、粒界のせん断応力が小さくなること、及び、内部空間の径が大きいほど、粒界のせん断応力が小さくなることがわかる。