JP6531317B2 - 非水系二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池は、小型でエネルギー密度が高く、ポータブル電子機器の電源として広く用いられている。リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、主としてLiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)O(x+y+z=1)などの層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物が用いられている(特許文献1)。電解液は、エチレンカーボネートを含む有機溶媒にリチウム塩を溶解させることで作製される。
一般的には、充電状態では、上記のリチウム金属複合酸化物は、放電状態に比べ構造が不安定になる。熱などのエネルギーを加えると結晶構造の崩壊と共に、酸素(O)を放出し、放出した酸素が電解液と反応して燃焼発熱すると考えられている。
層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物の中でも特にLiNiOやNi比率の高いLi(NiCoMn)Oは、LiCoOなどに比べて材料コストが低く、また取り出せる電流容量が大きいという利点がある。その反面、Ni量の増大に伴い、充電状態での電解液との反応性が高まり、過熱した際の電解液と正極の反応による発熱開始温度が低下することが報告されている(非特許文献1)。これらのリチウム金属複合酸化物を揮発性の電解液とともに用いると、電池に損傷が発生した場合に、過熱された電解液が瞬時に系外に放出されるおそれがある。
例えば、電解液に広く用いられるエチレンカーボネートを含む混合有機溶媒は、電解液の粘度および融点が低く、高いイオン伝導度を有する電解液となる一方、揮発しやすい。万が一、電池に隙間があった場合や損傷などが発生した場合には、電池系外に瞬時に気体として放出されるおそれがある。
電解液としてイオン液体のような低揮発性液体を用いることで、電池に損傷が発生した場合に電解液の揮発を抑えることが考えられる。しかし、イオン液体は、粘度が高くイオン伝導度が通常の電解液と比べて低い。このため、電池の入出力特性を悪くする。
本願発明者は、電解液について鋭意探求し、新たな低揮発性の電解液を開発した。そして、本願発明者は、この新たな電解液を、リチウム金属複合酸化物を活物質とする正極とを組み合わせると、入出力特性の優れた非水系二次電池が得られることを見いだした。
国際公開2011/111364
Netsu Sokutei 30(1)3-8
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、優れた入出力特性をもつ非水系二次電池を提供することを課題とする。
本発明の非水系二次電池は、正極と負極と電解液とを有する非水系二次電池であって、
前記正極は、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物を有する正極活物質をもち、
前記電解液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとする金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含み、
前記電解液の振動分光スペクトルにおける前記有機溶媒由来のピーク強度につき、前記有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、前記ピークがシフトしたピークの強度をIsとした場合、Is>Ioであることを特徴とする。
本発明によれば、上記の電解液を用いているため、優れた入出力特性をもつ非水系二次電池を提供することができる。
電解液E3のIRスペクトルである。 電解液E4のIRスペクトルである。 電解液E7のIRスペクトルである。 電解液E8のIRスペクトルである。 電解液E10のIRスペクトルである。 電解液C2のIRスペクトルである。 電解液C4のIRスペクトルである。 アセトニトリルのIRスペクトルである。 (CFSONLiのIRスペクトルである。 (FSONLiのIRスペクトルである(2100〜2400cm−1)。 電解液E11の電解液のIRスペクトルである。 電解液E12の電解液のIRスペクトルである。 電解液E13の電解液のIRスペクトルである。 電解液E14の電解液のIRスペクトルである。 電解液E15の電解液のIRスペクトルである。 電解液C6の電解液のIRスペクトルである。 ジメチルカーボネートのIRスペクトルである。 電解液E16の電解液のIRスペクトルである。 電解液E17の電解液のIRスペクトルである。 電解液E18の電解液のIRスペクトルである。 電解液C7の電解液のIRスペクトルである。 エチルメチルカーボネートのIRスペクトルである。 電解液E19の電解液のIRスペクトルである。 電解液E20の電解液のIRスペクトルである。 電解液E21の電解液のIRスペクトルである。 電解液C8の電解液のIRスペクトルである。 ジエチルカーボネートのIRスペクトルである。 (FSONLiのIRスペクトルである(1900〜1600cm−1)。 実施例1と比較例1のDSC曲線を示す。 実施例2と比較例1のDSC曲線を示す。 実施例5、比較例3のリチウムイオン二次電池について、サイクル試験時におけるサイクル数の平方根と放電容量維持率との関係を示すグラフである。 電解液E8のラマンスペクトルである。 電解液E9のラマンスペクトルである。 電解液C4のラマンスペクトルである。 電解液E11のラマンスペクトルである。 電解液E13のラマンスペクトルである。 電解液E15のラマンスペクトルである。 電解液C6のラマンスペクトルである。 評価例15における、電池の複素インピーダンス平面プロットである。 評価例16における、電池8、電池9および電池C3の負極S,O含有皮膜の炭素元素についてのXPS分析結果である。 評価例16における、電池8、電池9および電池C3の負極S,O含有皮膜のフッ素元素についてのXPS分析結果である。 評価例16における、電池8、電池9および電池C3の負極S,O含有皮膜の窒素元素についてのXPS分析結果である。 評価例16における、電池8、電池9および電池C3の負極S,O含有皮膜の酸素元素についてのXPS分析結果である。 評価例16における、電池8、電池9および電池C3の負極S,O含有皮膜の硫黄元素についてのXPS分析結果である。 評価例16における電池8の負極S,O含有皮膜のXPS分析結果である。 評価例19における電池9の負極S,O含有皮膜のXPS分析結果である。 評価例19における電池8の負極S,O含有皮膜のBF−STEM像である。 評価例19における、電池8の負極S,O含有皮膜のCについてのSTEM分析結果である。 評価例19における、電池8の負極S,O含有皮膜のOについてのSTEM分析結果である。 評価例19における、電池8の負極S,O含有皮膜のSについてのSTEM分析結果である。 評価例19における、電池8の正極S,O含有皮膜のOについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池8の正極S,O含有皮膜のSについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池11の正極S,O含有皮膜のSについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池11の正極S,O含有皮膜のOについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池11、電池12および電池C4の正極S,O含有皮膜のSについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池13、電池14および電池C5の正極S,O含有皮膜のSについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池11、電池12および電池C4の正極S,O含有皮膜のOについてのXPS分析結果である。 評価例19における、電池13、電池14および電池C5の正極S,O含有皮膜のOについての分析結果である。 評価例19における、電池11、電池12および電池C4の負極S,O含有皮膜のSについての分析結果である。 評価例19における、電池13、電池14および電池C5の負極S,O含有皮膜のSについての分析結果である。 評価例19における、電池11、電池12および電池C4の負極S,O含有皮膜のOについての分析結果である。 評価例19における、電池13、電池14および電池C5の負極S,O含有皮膜のOについての分析結果である。 評価例21における、電池8のリチウムイオン二次電池の充放電後のアルミニウム箔の表面分析結果である。 評価例21における、電池9のリチウムイオン二次電池の充放電後のアルミニウム箔の表面分析結果である。 電池A1のハーフセルに対する電位(3.1〜4.6V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A1のハーフセルに対する電位(3.1〜5.1V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A2のハーフセルに対する電位(3.1〜4.6V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A2のハーフセルに対する電位(3.1〜5.1V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A3のハーフセルに対する電位(3.1〜4.6V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A3のハーフセルに対する電位(3.1〜5.1V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A4のハーフセルに対する電位(3.1〜4.6V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A4のハーフセルに対する電位(3.1〜5.1V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池AC1のハーフセルに対する電位(3.1〜4.6V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A2のハーフセルに対する電位(3.0〜4.5V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A2のハーフセルに対する電位(3.0〜5.0V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A5のハーフセルに対する電位(3.0〜4.5V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池A5のハーフセルに対する電位(3.0〜5.0V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池AC2のハーフセルに対する電位(3.0〜4.5V)と応答電流との関係を示すグラフである。 電池AC2のハーフセルに対する電位(3.0〜5.0V)と応答電流との関係を示すグラフである。
本発明の実施形態に係る非水系二次電池について詳細に説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
(電解液)
電解液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとする塩(以下、「金属塩」又は単に「塩」ということがある。)と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含む電解液であって、電解液の振動分光スペクトルにおける有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピーク波数におけるピークの強度をIoとし、有機溶媒本来のピークが波数シフトしたピークの強度をIsとした場合、Is>Ioであることを特徴とする。
なお、従来の電解液は、IsとIoとの関係がIs<Ioである。
以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとする塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含む電解液であって、電解液の振動分光スペクトルにおける有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、ピークがシフトしたピークの強度をIsとした場合、Is>Ioである電解液のことを、「本発明の電解液」ということがある。
金属塩は、通常、電池の電解液に含まれるLiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiAlCl、などの電解質として用いられる化合物であれば良い。金属塩のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、及びアルミニウムを挙げることができる。金属塩のカチオンは、電解液を使用する電池の電荷担体と同一の金属イオンであるのが好ましい。例えば、本発明の電解液をリチウムイオン二次電池用の電解液として使用するのであれば、金属塩のカチオンはリチウムが好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、ハロゲン、ホウ素、窒素、酸素、硫黄又は炭素から選択される少なくとも1つの元素を含むと良い。ハロゲン又はホウ素を含むアニオンの化学構造を具体的に例示すると、ClO、PF、AsF、SbF、TaF、BF、SiF、B(C、B(oxalate)、Cl、Br、Iを挙げることができる。
窒素、酸素、硫黄又は炭素を含むアニオンの化学構造について、以下、具体的に説明する。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表される化学構造が好ましい。
(R)(R)N 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、R、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
Y 一般式(2)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、Rと結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R)(R)(R)C 一般式(3)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、R、Rのうち、いずれか2つ又は3つが結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、R、R、R、R、Rは、R、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1)〜(3)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(4)、一般式(5)又は一般式(6)で表される化学構造がより好ましい。
(R)(R)N 一般式(4)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、R、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
Y 一般式(5)
(Rは、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、Rと結合して環を形成しても良い。
Yは、O、Sから選択される。)
(R1010)(R1111)(R1212)C 一般式(6)
(R10、R11、R12は、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
10、R11、R12のうちいずれか2つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。また、R10、R11、R12の3つが結合して環を形成しても良く、その場合、3つのうち2つの基が2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たし、1つの基が2n−1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
10は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
11は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
12は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、R、R、R、R、Rは、R10、R11又はR12と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)〜(3)で説明したのと同義である。
上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(4)〜(6)で表される化学構造の、RとRが結合、又は、R10、R11、R12が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(7)、一般式(8)又は一般式(9)で表されるものがさらに好ましい。
(R13SO)(R14SO)N 一般式(7)
(R13、R14は、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R13とR14は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
15SO 一般式(8)
(R15は、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。)
(R16SO)(R17SO)(R18SO)C 一般式(9)
(R16、R17、R18は、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
16、R17、R18のうちいずれか2つが結合して環を形成しても良く、その場合、環を形成する基は2n=a+b+c+d+eを満たす。また、R16、R17、R18の3つが結合して環を形成しても良く、その場合、3つのうち2つの基が2n=a+b+c+d+eを満たし、1つの基が2n−1=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造の、R13とR14が結合、又は、R16、R17、R18が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(7)〜(9)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
金属塩は、(CFSONLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSONLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、又はFSO(CSO)NLiが特に好ましい。
本発明の金属塩は、以上で説明したカチオンとアニオンをそれぞれ適切な数で組み合わせたものを採用すれば良い。本発明の電解液における金属塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、ヘテロ元素が窒素、酸素、硫黄、ハロゲンから選択される少なくとも1つである有機溶媒が好ましく、ヘテロ元素が窒素又は酸素から選択される少なくとも1つである有機溶媒がより好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒としては、NH基、NH基、OH基、SH基などのプロトン供与基を有さない、非プロトン性溶媒が好ましい。
ヘテロ元素を有する有機溶媒(以下、単に「有機溶媒」ということがある。)を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
有機溶媒として、下記一般式(10)で示される鎖状カーボネートを挙げることができる。
19OCOOR20 一般式(10)
(R19、R20は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。n、a、b、c、d、e、m、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。また、上記一般式(10)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)が特に好ましい。
有機溶媒としては、比誘電率が20以上又はドナー性のエーテル酸素を有する溶媒が好ましく、そのような有機溶媒として、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、スルホランを挙げることができ、特に、アセトニトリル(以下、「AN」ということがある。)、1,2−ジメトキシエタン(以下、「DME」ということがある。)が好ましい。
これらの有機溶媒は単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
本発明の電解液は、その振動分光スペクトルにおいて、電解液に含まれる有機溶媒由来のピーク強度につき、有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、有機溶媒本来のピークがシフトしたピーク(以下、「シフトピーク」ということがある。)の強度をIsとした場合、Is>Ioであることを特徴とする。すなわち、本発明の電解液を振動分光測定に供し得られる振動分光スペクトルチャートにおいて、上記2つのピーク強度の関係はIs>Ioとなる。
ここで、「有機溶媒本来のピーク」とは、有機溶媒のみを振動分光測定した場合のピーク位置(波数)に、観察されるピークを意味する。有機溶媒本来のピークの強度Ioの値と、シフトピークの強度Isの値は、振動分光スペクトルにおける各ピークのベースラインからの高さ又は面積である。
本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークがシフトしたピークが複数存在する場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすいピークに基づいて当該関係を判断すればよい。また、本発明の電解液にヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた場合には、最もIsとIoの関係を判断しやすい(最もIsとIoの差が顕著な)有機溶媒を選択し、そのピーク強度に基づいてIsとIoの関係を判断すればよい。また、ピークのシフト量が小さく、シフト前後のピークが重なってなだらかな山のように見える場合は、既知の手段を用いてピーク分離を行い、IsとIoの関係を判断してもよい。
なお、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液の振動分光スペクトルにおいては、カチオンと最も配位し易い有機溶媒(以下、「優先配位溶媒」ということがある。)のピークが他に優先してシフトする。ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の質量%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。また、ヘテロ元素を有する有機溶媒を複数種用いた電解液において、ヘテロ元素を有する有機溶媒全体に対する優先配位溶媒の体積%は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
本発明の電解液の振動分光スペクトルにおける上記2つのピーク強度の関係は、Is>2×Ioの条件を満たすことが好ましく、Is>3×Ioの条件を満たすことがより好ましく、Is>5×Ioの条件を満たすことがさらに好ましく、Is>7×Ioの条件を満たすことが特に好ましい。最も好ましいのは、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、有機溶媒本来のピークの強度Ioが観察されず、シフトピークの強度Isが観察される電解液である。当該電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和していることを意味する。本発明の電解液は、電解液に含まれる有機溶媒の分子すべてが金属塩と完全に溶媒和している状態(Io=0の状態)が最も好ましい。
本発明の電解液においては、金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)が、相互作用を及ぼしていると推定される。具体的には、金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のヘテロ元素とが、配位結合を形成し、金属塩とヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)からなる安定なクラスターを形成していると推定される。このクラスターは、後述する評価例の結果からみて、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することにより形成されていると推定される。この点を考慮すると、本発明の電解液における、金属塩1モルに対するヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)のモル範囲は、1.4モル以上3.5モル未満が好ましく、1.5モル以上3.1モル以下がより好ましく、1.6モル以上3モル以下がさらに好ましい。
本発明の電解液においては、概ね、金属塩1分子に対し、ヘテロ元素を有する有機溶媒(又は優先配位溶媒)2分子が配位することによりクラスター形成されていると推定されるため、本発明の電解液の濃度(mol/L)は、金属塩及び有機溶媒それぞれの分子量と、溶液にした場合の密度に依存する。そのため、本発明の電解液の濃度を一概に規定することは適当でない。
本発明の電解液の濃度c(mol/L)を表1に個別に例示する。
クラスターを形成している有機溶媒と、クラスターの形成に関与していない有機溶媒とは、それぞれの存在環境が異なる。そのため、振動分光測定において、クラスターを形成している有機溶媒由来のピークは、クラスターの形成に関与していない有機溶媒由来のピーク(有機溶媒本来のピーク)の観察される波数から、高波数側又は低波数側にシフトして観察される。すなわち、シフトピークは、クラスターを形成している有機溶媒のピークに相当する。
振動分光スペクトルとしては、IRスペクトル又はラマンスペクトルを挙げることができる。IR測定の測定方法としては、ヌジョール法、液膜法などの透過測定方法、ATR法などの反射測定方法を挙げることができる。IRスペクトル又はラマンスペクトルのいずれを選択するかについては、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、IsとIoの関係を判断しやすいスペクトルの方を選択すれば良い。なお、振動分光測定は、大気中の水分の影響を軽減又は無視できる条件で行うのがよい。例えば、ドライルーム、グローブボックスなどの低湿度又は無湿度条件下でIR測定を行うこと、又は、電解液を密閉容器に入れたままの状態でラマン測定を行うのがよい。
ここで、金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてアセトニトリルを含む本発明の電解液におけるピークにつき、具体的に説明する。
アセトニトリルのみをIR測定した場合、C及びN間の三重結合の伸縮振動に由来するピークが通常2100〜2400cm−1付近に観察される。
ここで、従来の技術常識に従い、アセトニトリル溶媒に対しLiTFSAを1mol/Lの濃度で溶解して電解液とした場合を想定する。アセトニトリル1Lは約19molに該当するので、従来の電解液1Lには、1molのLiTFSAと19molのアセトニトリルが存在する。そうすると、従来の電解液においては、LiTFSAと溶媒和している(Liに配位している)アセトニトリルと同時に、LiTFSAと溶媒和していない(Liに配位していない)アセトニトリルが多数存在する。さて、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリル分子と、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子とは、アセトニトリル分子の置かれている環境が異なるので、IRスペクトルにおいては、両者のアセトニトリルピークが区別して観察される。より具体的には、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルのピークは、アセトニトリルのみをIR測定した場合と同様の位置(波数)に観察されるが、他方、LiTFSAと溶媒和しているアセトニトリルのピークは、ピーク位置(波数)が高波数側にシフトして観察される。
そして、従来の電解液の濃度においては、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリルが多数存在するのであるから、従来の電解液の振動分光スペクトルにおいて、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is<Ioとなる。
他方、本発明の電解液は従来の電解液と比較してLiTFSAの濃度が高く、かつ、電解液においてLiTFSAと溶媒和している(クラスターを形成している)アセトニトリル分子の数が、LiTFSAと溶媒和していないアセトニトリル分子の数よりも多い。そうすると、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおける、アセトニトリル本来のピークの強度Ioと、アセトニトリル本来のピークがシフトしたピークの強度Isとの関係は、Is>Ioとなる。
表2に、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、その帰属を例示する。なお、振動分光スペクトルの測定装置、測定環境、測定条件に因って、観察されるピークの波数が以下の波数と異なる場合があることを付け加えておく。
有機溶媒の波数とその帰属につき、公知のデータを参考としてもよい。参考文献として、日本分光学会測定法シリーズ17 ラマン分光法、濱口宏夫、平川暁子、学会出版センター、231〜249頁を挙げる。また、コンピュータを用いた計算でも、Io及びIsの算出に有用と考えられる有機溶媒の波数と、有機溶媒と金属塩が配位した場合の波数シフトを予測することができる。例えば、Gaussian09(登録商標、ガウシアン社)を用い、密度汎関数をB3LYP、基底関数を6−311G++(d,p)として計算すればよい。当業者は、表2の記載、公知のデータ、コンピュータでの計算結果を参考にして、有機溶媒のピークを選定し、Io及びIsを算出することができる。
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なり、かつ、金属塩濃度が高いため、電解液中の金属イオン輸送速度の向上(特に、金属がリチウムの場合、リチウム輸率の向上)、電極と電解液界面の反応速度の向上、電池のハイレート充放電時に起こる電解液の塩濃度の偏在の緩和、電気二重層容量の増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、ヘテロ元素を有する有機溶媒の大半が金属塩とクラスターを形成していることから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
本発明の電解液は、従来の電池の電解液と比較して、粘度が高い。そのため、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。また、従来の電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電サイクル時に容量減少が顕著であった。その理由の一つとして、急速に充放電を繰り返した際の電解液中に生じたLi濃度ムラに因り、電極との反応界面に十分な量のLiを電解液が供給できなくなったこと、つまり、電解液のLi濃度の偏在が考えられる。しかしながら、本発明の電解液を用いた二次電池は、高速充放電時に容量が好適に維持されることが明らかになった。本発明の電解液の高粘度との物性により、電解液のLi濃度の偏在を抑制できたことが理由と考えられる。また、本発明の電解液の高粘度との物性により、電極界面における電解液の保液性が向上し、電極界面で電解液が不足する状態(いわゆる液枯れ状態)を抑制することも、高速充放電サイクル時の容量低下が抑制された一因と考えられる。
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、10<η<500の範囲が好ましく、12<η<400の範囲がより好ましく、15<η<300の範囲がさらに好ましく、18<η<150の範囲が特に好ましく、20<η<140の範囲が最も好ましい。
電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、電解液中でイオンが移動し易い。このため、このような電解液は優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2<σ<200の範囲が好ましく、3<σ<100の範囲がより好ましく、4<σ<50の範囲がさらに好ましく、5<σ<35の範囲が特に好ましい。
ところで、本発明の電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、本発明の電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、二次電池の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のカチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、本発明の電解液を有する二次電池の反応速度は高いと考えられる。
本発明の電解液における密度d(g/cm)は、好ましくはd≧1.2又はd≦2.2であり、1.2≦d≦2.2の範囲内がより好ましく、1.24≦d≦2.0の範囲内がより好ましく、1.26≦d≦1.8の範囲内がさらに好ましく、1.27≦d≦1.6の範囲内が特に好ましい。なお、本発明の電解液における密度d(g/cm)は、20℃での密度を意味する。
本発明の電解液における電解液の密度d(g/cm)を電解液の濃度c(mol/L)で除したd/cは、0.15≦d/c≦0.71の範囲内が好ましく、0.15≦d/c≦0.56の範囲内が好ましく、0.25≦d/c≦0.56の範囲内がより好ましく、0.26≦d/c≦0.50の範囲内がさらに好ましく、0.27≦d/c≦0.47の範囲内が特に好ましい。
本発明の電解液におけるd/cは、金属塩と有機溶媒を特定した場合でも規定することができる。例えば、金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてDMEを選択した場合には、d/cは0.42≦d/c≦0.56の範囲内が好ましく、0.44≦d/c≦0.52の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiTFSA、有機溶媒としてANを選択した場合には、d/cは0.35≦d/c≦0.41の範囲内が好ましく、0.36≦d/c≦0.39の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDMEを選択した場合には、d/cは0.32≦d/c≦0.46の範囲内が好ましく、0.34≦d/c≦0.42の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてANを選択した場合には、d/cは0.25≦d/c≦0.31の範囲内が好ましく、0.26≦d/c≦0.29の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDMCを選択した場合には、d/cは0.32≦d/c≦0.48の範囲内が好ましく、0.32≦d/c≦0.46の範囲内が好ましく、0.34≦d/c≦0.42の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてEMCを選択した場合には、d/cは0.34≦d/c≦0.50の範囲内が好ましく、0.37≦d/c≦0.45の範囲内がより好ましい。金属塩としてLiFSA、有機溶媒としてDECを選択した場合には、d/cは0.36≦d/c≦0.54の範囲内が好ましく、0.39≦d/c≦0.48の範囲内がより好ましい。
本発明の電解液の製造方法を説明する。本発明の電解液は従来の電解液と比較して金属塩の含有量が多いため、固体(粉体)の金属塩に有機溶媒を加える製造方法では凝集体が得られてしまい、溶液状態の電解液を製造するのが困難である。よって、本発明の電解液の製造方法においては、有機溶媒に対し金属塩を徐々に加え、かつ、電解液の溶液状態を維持しながら製造することが好ましい。
金属塩と有機溶媒の種類に因り、本発明の電解液は、従来考えられてきた飽和溶解度を超えて金属塩が有機溶媒に溶解している液体を包含する。そのような本発明の電解液の製造方法は、ヘテロ元素を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する第1溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する第2溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する第3溶解工程を含む。
ここで、上記「過飽和状態」とは、撹拌及び/又は加温条件を解除した場合、又は、振動等の結晶核生成エネルギーを与えた場合に、電解液から金属塩結晶が析出する状態のことを意味する。第2電解液は「過飽和状態」であり、第1電解液及び第3電解液は「過飽和状態」でない。
換言すると、本発明の電解液の上記製造方法は、熱力学的に安定な液体状態であり従来の金属塩濃度を包含する第1電解液を経て、熱力学的に不安定な液体状態の第2電解液を経由し、そして、熱力学的に安定な新たな液体状態の第3電解液、すなわち本発明の電解液となる。
安定な液体状態の第3電解液は通常の条件で液体状態を保つことから、第3電解液においては、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子で構成されこれらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターがリチウム塩の結晶化を阻害していると推定される。
第1溶解工程は、ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する工程である。
ヘテロ原子を有する有機溶媒と金属塩とを混合するためには、ヘテロ原子を有する有機溶媒に対し金属塩を加えても良いし、金属塩に対しヘテロ原子を有する有機溶媒を加えても良い。
第1溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下で行われるのが好ましい。撹拌速度については適宜設定すればよい。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。金属塩の溶解時には溶解熱が発生するので、熱に不安定な金属塩を用いる場合には、温度条件を厳密に制御することが好ましい。また、あらかじめ、有機溶媒を冷却しておいても良いし、第1溶解工程を冷却条件下で行ってもよい。
第1溶解工程と第2溶解工程は連続して実施しても良いし、第1溶解工程で得た第1電解液を一旦保管(静置)しておき、一定時間経過した後に、第2溶解工程を実施しても良い。
第2溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する工程である。
第2溶解工程は、熱力学的に不安定な過飽和状態の第2電解液を調製するため、撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。ミキサー等の撹拌器を伴った撹拌装置で第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良いし、撹拌子と撹拌子を動作させる装置(スターラー)を用いて第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良い。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。もちろん、撹拌機能と加温機能を併せ持つ装置又はシステムを用いて第2溶解工程を行うことが特に好ましい。なお、電解液の製造方法でいう加温とは、対象物を常温(25℃)以上の温度に温めることを指す。加温温度は30℃以上であるのがより好ましく、35℃以上であるのがさらに好ましい。また、加温温度は、有機溶媒の沸点よりも低い温度であるのが良い。
第2溶解工程において、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、撹拌速度の増加及び/又はさらなる加温を実施する。この場合には、第2溶解工程の電解液にヘテロ原子を有する有機溶媒を少量加えてもよい。
第2溶解工程で得た第2電解液を一旦静置すると金属塩の結晶が析出してしまうので、第2溶解工程と第3溶解工程は連続して実施するのが好ましい。
第3溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する工程である。第3溶解工程では、過飽和状態の第2電解液に金属塩を加え、溶解する必要があるので、第2溶解工程と同様に撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。具体的な撹拌及び/又は加温条件は、第2溶解工程の条件と同様である。
第1溶解工程、第2溶解工程及び第3溶解工程を通じて加えた有機溶媒と金属塩とのモル比が概ね2:1程度となれば、第3電解液(本発明の電解液)の製造が終了する。撹拌及び/又は加温条件を解除しても、本発明の電解液から金属塩結晶は析出しない。これらの事情からみて、本発明の電解液は、例えば、リチウム塩1分子に対し有機溶媒2分子からなり、これらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターを形成していると推定される。
なお、本発明の電解液を製造するにあたり、金属塩と有機溶媒の種類に因り、各溶解工程での処理温度において、上記過飽和状態を経由しない場合であっても、上記第1〜3溶解工程で述べた具体的な溶解手段を用いて本発明の電解液を適宜製造することができる。
また、本発明の電解液の製造方法においては、製造途中の電解液を振動分光測定する振動分光測定工程を有するのが好ましい。具体的な振動分光測定工程としては、例えば、製造途中の各電解液を一部サンプリングして振動分光測定に供する方法でも良いし、各電解液をin situ(その場)で振動分光測定する方法でも良い。電解液をin situで振動分光測定する方法としては、透明なフローセルに製造途中の電解液を導入して振動分光測定する方法、又は、透明な製造容器を用いて該容器外からラマン測定する方法を挙げることができる。本発明の電解液の製造方法に振動分光測定工程を含めることにより、電解液におけるIsとIoとの関係を製造途中で確認できるため、製造途中の電解液が本発明の電解液に達したのか否かを判断することができるし、また、製造途中の電解液が本発明の電解液に達していない場合にどの程度の量の金属塩を追加すれば本発明の電解液に達するのかを把握することができる。
本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、低極性(低誘電率)又は低ドナー数であって、金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒、すなわち、本発明の電解液における上記クラスターの形成及び維持に影響を与えない溶媒を加えることができる。このような溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の上記クラスターの形成を保持したままで、電解液の粘度を低くする効果が期待できる。
金属塩と特段の相互作用を示さない溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
また、本発明の電解液には、上記ヘテロ元素を有する有機溶媒以外に、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
さらに、本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に導電性通路が形成され得る。さらに、電解液で分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、LiN、LiI、LiI−LiN−LiOH、LiI−LiS−P、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiO−B、LiO−V−SiO、LiO−B−P、LiO−B−ZnO、LiO−Al−TiO−SiO−P、LiTi(PO、Li−βAl、LiTaOを例示することができる。
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLiS−(1−x)Pで表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
以上説明した本発明の電解液は、優れたイオン伝導度を示すので、電池など蓄電装置の電解液として好適に使用される。特に、二次電池の電解液として使用されるのが好ましく、中でもリチウムイオン二次電池の電解液として使用されるのが好ましい。
ところで、本発明の非水電解質二次電池における負極及び/又は正極の表面にはS,O含有皮膜が形成されている。後述するように、この皮膜はSおよびOを含み、少なくともS=O構造を有する。そして、このS,O含有皮膜は、S=O構造を有するため、電解液に由来するものであると考えられる。本発明の電解液の中では、通常の電解液に比べて、Liカチオンとアニオンとが近くに存在すると考えられる。このためアニオンはLiカチオンからの静電的な影響を強く受けることで優先的に還元分解される。一般的な電解液を用いた一般的な非水電解質二次電池においては、電解液に含まれる有機溶媒(例えばEC:エチレンカーボネート等)が還元分解され、当該有機溶媒の分解生成物によってSEI皮膜が構成される。しかし、上述したように本発明の非水電解質二次電池に含まれる本発明の電解液においてはアニオンが優先的に還元分解される。このため、本発明の非水電解質二次電池におけるSEI皮膜、つまりS,O含有皮膜には、アニオンに由来するS=O構造が多く含まれると考えられる。つまり、通常の電解液を用いた通常の非水電解質二次電池においては、EC等の有機溶媒の分解物に由来するSEI皮膜が電極表面に定着する。一方、本発明の電解液を用いた本発明の非水電解質二次電池においては、主として金属塩のアニオンに由来するSEI皮膜が電極表面に定着する。
また、理由は定かではないが、本発明の非水電解質二次電池におけるS,O含有皮膜は充放電に伴って状態変化する。例えば、後述するように、充放電の状態によってはS,O含有皮膜の厚さやS、O等の元素の割合が変化する場合がある。このため、本発明の非水電解質二次電池におけるS,O含有皮膜には、上述したアニオンの分解物に由来し皮膜中に定着する部分(以下、必要に応じて定着部と呼ぶ)と、充放電に伴って可逆的に増減する部分(以下、必要に応じて吸着部と呼ぶ)とが存在すると考えられる。そして吸着部は、定着部と同様に金属塩のアニオンに由来するS=O等の構造を有すると推測される。
なお、S,O含有皮膜は電解液の分解物で構成され、その他吸着物を含むと考えられるため、S,O含有皮膜の大部分(または全て)は非水電解質二次電池の初回充放電時以降に生成すると考えられる。つまり、本発明の非水電解質二次電池は、使用時において、負極の表面及び/又は正極の表面にS,O含有皮膜を有する。S,O含有皮膜のその他の構成成分は、電解液に含まれる硫黄および酸素以外の成分や、負極の組成等に応じて種々に異なる。また、当該S,O含有皮膜はS=O構造を含みさえすれば良く、その含有割合は特に限定されない。さらに、S,O含有皮膜に含まれるS=O構造以外の成分および量は特に限定されない。そして、S,O含有皮膜は負極表面にのみ形成されても良いし、正極表面にのみ形成されても良い。しかしながら、上述したようにS,O含有皮膜は本発明の電解液に含まれる金属塩のアニオンに由来すると考えられるため、当該金属塩のアニオンに由来する成分をその他の成分よりも多く含むのが好ましい。また、S,O含有皮膜は負極表面および正極表面の両方に形成されるのが好ましい。以下、必要に応じて、負極の表面に形成されたS,O含有皮膜を負極S,O含有皮膜と呼び、正極の表面に形成されたS,O含有皮膜を正極S,O含有皮膜と呼ぶ。
上述したように、本発明の電解液における金属塩としてイミド塩を好ましく用いることができる。従来から、電解液にイミド塩を添加する技術は知られており、この種の電解液を用いた非水電解質二次電池においては、正極及び/又は負極上の皮膜は、電解液の有機溶媒分解物に由来する化合物に加え、イミド塩由来の化合物、つまりSを含む化合物を含むことが知られている。例えば特開2013−145732には、この皮膜に一部含まれるイミド塩由来の成分によって、非水電解質二次電池の内部抵抗の増大を抑制しつつ非水電解質二次電池の耐久性を向上させ得ることが紹介されている。
しかしながら、上記した従来技術では、以下の理由から皮膜中のイミド塩由来成分を濃化することはできなかった。先ず、負極活物質として黒鉛を用いる場合、黒鉛を電荷担体に対して可逆的に反応させ、非水電解質二次電池を可逆的に充放電させるためには、負極の表面にSEI皮膜が形成されている必要があると考えられている。従来は、このSEI皮膜を形成するために、ECを代表とする環状カーボネート化合物を電解液用の有機溶媒として用いていた。そして、当該環状カーボネート化合物の分解物によりSEI皮膜を形成していた。つまり、イミド塩を含む従来の電解液は、有機溶媒としてEC等の環状カーボネートを多く含有するとともに、添加剤としてイミド塩を含んでいた。しかしこの場合、SEI皮膜の主成分は有機溶媒に由来する成分となり、SEI皮膜のイミド塩の含有量を増大させるのは困難であった。また、イミド塩を添加剤としてではなく金属塩(つまり電解質塩、支持塩)として用いようとする場合、正極用の集電体との組み合わせを考慮する必要があった。つまり、イミド塩は、正極用の集電体として一般に用いられているアルミニウム集電体を腐食することが知られている。このため、特に4V程度の電位で作動する正極を用いる場合は、アルミニウムと不動体を形成するLiPF等を電解質塩とした電解液をアルミニウム集電体と共存させる必要がある。また従来の電解液ではLiPFやイミド塩等からなる電解質塩の合計濃度は、イオン伝導度や粘度の観点から、1mol/L〜2mol/L程度が最適とされている(特開2013−145732)。したがってLiPFを充分な量添加すると、必然的にイミド塩の添加量は低減するため、イミド塩を電解液用の金属塩として多量に使用し難い問題があった。以下、必要に応じて、イミド塩を単に金属塩と略する場合がある。
これに対して、本発明の電解液は金属塩を高濃度で含む。そして後述するように、本発明の電解液中において、金属塩は従来とは全く異なる状態で存在していると考えられる。このため、本発明の電解液では、従来の電解液とは異なり、金属塩が高濃度であることに由来する問題は生じ難い。例えば、本発明の電解液によると、電解液の粘度上昇による非水電解質二次電池の入出力性能の低下を抑制できるし、アルミニウム集電体の腐食を抑制することも可能である。また、電解液に高濃度で含まれる金属塩は、負極上で優先的に還元分解される。その結果、有機溶媒としてEC等の環状カーボネート化合物を用いなくても、金属塩に由来する特殊構造のSEI皮膜、つまりS,O含有皮膜が負極上に形成される。このため本発明の非水電解質二次電池は、負極活物質として黒鉛を用いる場合にも、有機溶媒に環状カーボネート化合物を用いることなく可逆的に充放電可能である。
このため本発明の非水電解質二次電池は、負極活物質として黒鉛を用いかつ正極用集電体としてアルミニウム集電体を用いる場合においても、有機溶媒として環状カーボネート化合物を用いたり金属塩としてLiPFを用いたりすることなく、可逆的に充放電可能である。さらに、負極及び/又は正極表面のSEI皮膜の大部分をアニオン由来成分で構成することが可能となる。後述するように、アニオン由来成分を含むS,O含有皮膜によると非水電解質二次電池の電池特性を向上させ得る。
なお、EC溶媒を含む一般的な電解液を用いた非水電解質二次電池において負極の皮膜には、EC溶媒に由来する炭素が重合したポリマー構造が多く含まれる。これに対して、本発明の非水電解質二次電池における負極S,O含有皮膜には、このような炭素が重合したポリマー構造は殆ど(または全く)含まれず、金属塩のアニオンに由来する構造を多く含む。正極皮膜に関しても同様である。
ところで、本発明の電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、本発明の電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、非水電解質二次電池の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のカチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、本発明の電解液を有する本発明の非水電解質二次電池の反応速度は高いと考えられる。また、本発明の非水電解質二次電池は電極(つまり負極及び/又は正極)にS,O含有皮膜を有し、当該S,O含有皮膜はS=O構造を有するとともに多くのカチオンを含むと考えられる。このS,O含有皮膜に含まれるカチオンは電極に優先的に供給されると考えられる。よって、本発明の非水電解質二次電池においては、電極近傍に豊富なカチオン源(つまりS,O含有皮膜)を有することによってもカチオンの輸送速度がさらに向上すると考えられる。したがって、本発明の非水電解質二次電池においては、本発明の電解液とS,O含有皮膜との協働によって、優れた電池特性が発揮されると考えられる。
参考までに、負極のSEI皮膜は、所定以下の電圧で電解液が還元分解し、その際に生成した電解液の堆積物によって構成されると考えられている。つまり、負極の表面に上述したS,O含有皮膜を効率良く生成させるためには、本発明の非水電解質二次電池は、負極の電位の最小値が所定以下になるようにするのが良い。具体的には、本発明の非水電解質二次電池は、対極をリチウムにした場合に負極の電位の最小値が1.3V以下となる条件で使用する電池として好適である。
以下に、上記本発明の電解液を用いた非水系二次電池を説明する。
本発明の非水系二次電池は、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する正極と、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質を有する負極と、金属塩を有する電解液とを備える。
非水系二次電池に用いられる正極は、金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する。正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
正極活物質は、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物を有する。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、層状化合物ともいわれる。層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物は、一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Ni、Coから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、LiMnOを挙げることができる。
前記一般式の中のb:c:dの比率は、0.5:0.2:0.3、1/3:1/3:1/3、0.75:0.10:0.15、0:0:1、1:0:0、及び0:1:0から選ばれる少なくとも1種類であることが良い。
即ち、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiMnO、LiNiO、及びLiCoOから選ばれる少なくとも一種であることがよい。
また、正極活物質は、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物と、LiMn、LiMn等のスピネルとの混合物で構成される固溶体を含んでいてもよく、例えば、LiMnO−LiCoOがある。
正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能であるし、Mgなどの他の金属元素を基本組成のものに加えて金属酸化物としてもよい。
正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体は、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸など、分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。したがって親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する、あるいはポリマーにカルボキシル基を付与する、などの方法で製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。これらから選ばれる二種以上のモノマーを重合してなる共重合ポリマーを用いてもよい。
例えば特開2013−065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体からなり、カルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどの金属イオンをトラップし易くなると考えられている。さらに、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてカルボキシル基が多く酸性度が高まると共に、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、この結着剤を用いて形成された負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
正極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
正極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
本発明の非水系二次電池に用いられる負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。負極活物質層に含まれることがある結着剤及び導電助剤は、正極活物質層に含まれることがある結着剤及び導電助剤と同様の成分及び組成比とすることができる。
負極活物質としては、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。なお、本明細書において、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料を負極活物質および正極活物質として使用している非水系二次電池を、リチウムイオン二次電池という。
負極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。負極の結着剤および導電助剤は正極で説明したものを採用できる。
集電体の表面に活物質層を形成させる方法には、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
非水系二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンなどの金属イオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて非水系二次電池とするとよい。また、本発明の非水系二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明の非水系二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明の非水系二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水系二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に非水系二次電池を搭載する場合には、非水系二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。非水系二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の非水系二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、電解液の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(電解液E1)
本発明で用いる電解液を以下のとおり製造した。
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CFSONLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CFSONLiを加えた時点で(CFSONLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CFSONLiを溶解させた。約15gの(CFSONLiを加えた時点で(CFSONLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CFSONLiは溶解した。さらに(CFSONLiを徐々に加え、所定の(CFSONLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。これを電解液E1とした。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CFSONLiは18.38gであった。電解液E1における(CFSONLiの濃度は3.2mol/Lであった。電解液E1においては、(CFSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.6分子が含まれている。
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
(電解液E2)
16.08gの(CFSONLiを用い、電解液E1と同様の方法で、(CFSONLiの濃度が2.8mol/Lである電解液E2を製造した。電解液E2においては、(CFSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン2.1分子が含まれている。
(電解液E3)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CFSONLiを徐々に加え、溶解させた。(CFSONLiを全量で19.52g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液E3とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E3における(CFSONLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E3においては、(CFSONLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E4)
24.11gの(CFSONLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CFSONLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E4を製造した。電解液E4においては、(CFSONLi1分子に対しアセトニトリル1.9分子が含まれている。
(電解液E5)
リチウム塩として13.47gの(FSONLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSONLiの濃度が3.6mol/Lである電解液E5を製造した。電解液E5においては、(FSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.9分子が含まれている。
(電解液E6)
14.97gの(FSONLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lである電解液E6を製造した。電解液E6においては、(FSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.5分子が含まれている。
(電解液E7)
リチウム塩として15.72gの(FSONLiを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSONLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E7を製造した。電解液E7においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
(電解液E8)
16.83gの(FSONLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSONLiの濃度が4.5mol/Lである電解液E8を製造した。電解液E8においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
(電解液E9)
18.71gの(FSONLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSONLiの濃度が5.0mol/Lである電解液E9を製造した。電解液E9においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル2.1分子が含まれている。
(電解液E10)
20.21gの(FSONLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSONLiの濃度が5.4mol/Lである電解液E10を製造した。電解液E10においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル2分子が含まれている。
(電解液E11)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液E11とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E11における(FSONLiの濃度は3.9mol/Lであった。電解液E11においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E12)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が3.4mol/Lの電解液E12とした。電解液E12においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E13)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E13とした。電解液E13においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート3分子が含まれている。
(電解液E14)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E14とした。電解液E14においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E15)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E15とした。電解液E15においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート5分子が含まれている。
(電解液E16)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液E16とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E16における(FSONLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E16においては、(FSONLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E17)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E17とした。電解液E17においては、(FSONLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E18)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.2mol/Lの電解液E18とした。電解液E18においては、(FSONLi1分子に対しエチルメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液E19)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液E19とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液E19における(FSONLiの濃度は3.0mol/Lであった。電解液E19においては、(FSONLi1分子に対しジエチルカーボネート2分子が含まれている。
(電解液E20)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E20とした。電解液E20においては、(FSONLi1分子に対しジエチルカーボネート2.5分子が含まれている。
(電解液E21)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E21とした。電解液E21においては、(FSONLi1分子に対しジエチルカーボネート3.5分子が含まれている。
(電解液C1)
5.74gの(CFSONLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(CFSONLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C1を製造した。電解液C1においては、(CFSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.3分子が含まれている。
(電解液C2)
5.74gの(CFSONLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CFSONLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C2を製造した。電解液C2においては、(CFSONLi1分子に対しアセトニトリル16分子が含まれている。
(電解液C3)
3.74gの(FSONLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSONLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C3を製造した。電解液C3においては、(FSONLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.8分子が含まれている。
(電解液C4)
3.74gの(FSONLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSONLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C4を製造した。電解液C4においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル17分子が含まれている。
(電解液C5)
有機溶媒としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、以下、「EC/DEC」ということがある。)を用い、リチウム塩として3.04gのLiPFを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、LiPFの濃度が1.0mol/Lである電解液C5を製造した。
(電解液C6)
電解液E11にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C6とした。電解液C6においては、(FSONLi1分子に対しジメチルカーボネート10分子が含まれている。
(電解液C7)
電解液E16にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C7とした。電解液C7においては、(FSONLi1分子に対しエチルメチルカーボネート8分子が含まれている。
(電解液C8)
電解液E19にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSONLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C8とした。電解液C8においては、(FSONLi1分子に対しジエチルカーボネート7分子が含まれている。
表3に電解液E1〜E21及び電解液C1〜C8の一覧を示す。
(評価例1:IR測定)
電解液E3、電解液E4、電解液E7、電解液E8、電解液E10、電解液C2、電解液C4、並びに、アセトニトリル、(CFSONLi、(FSONLiにつき、以下の条件でIR測定を行った。2100cm−1〜2400cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図1〜図10に示す。さらに、電解液E11〜E15、C6、ジメチルカーボネート、E16−E18、C7、エチルメチルカーボネート、E19−E21、C8、ジエチルカーボネートにつき、以下の条件でIR測定を行った。1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ図11〜図27に示す。また、(FSONLiにつき、1900〜1600cm−1の範囲のIRスペクトルを図28に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は吸光度(反射吸光度)である。
IR測定条件
装置:FT−IR(ブルカーオプティクス社製)
測定条件:ATR法(ダイヤモンド使用)
測定雰囲気:不活性ガス雰囲気下
図8で示されるアセトニトリルのIRスペクトルの2250cm−1付近には、アセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図9で示される(CFSONLiのIRスペクトル及び図10で示される(FSONLiのIRスペクトルの2250cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図1で示される電解液E3のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00699)観察された。さらに図1のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05828で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。
図2で示される電解液E4のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05234で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図3で示される電解液E7のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00997)観察された。さらに図3のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.08288で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。図4で示される電解液E8のIRスペクトルについても、図3のIRチャートと同様の強度のピークが同様の波数に観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=11×Ioであった。
図5で示される電解液E10のIRスペクトルには、2250cm−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.07350で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
図6で示される電解液C2のIRスペクトルには、図8と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04441で観察された。さらに図6のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03018で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図7で示される電解液C4のIRスペクトルには、図8と同じく、2250cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04975で観察された。さらに図7のIRスペクトルには、2250cm−1付近から高波数側にシフトした2280cm−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03804で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図17で示されるジメチルカーボネートのIRスペクトルの1750cm−1付近には、ジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、図28で示される(FSONLiのIRスペクトルの1750cm−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
図11で示される電解液E11のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.16628)観察された。さらに図11のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48032で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.89×Ioであった。
図12で示される電解液E12のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.18129)観察された。さらに図12のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.52005で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.87×Ioであった。
図13で示される電解液E13のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20293)観察された。さらに図13のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53091で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.62×Ioであった。
図14で示される電解液E14のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.23891)観察された。さらに図14のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53098で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.22×Ioであった。
図15で示される電解液E15のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.30514)観察された。さらに図13のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.50223で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=1.65×Ioであった。
図16で示される電解液C6のIRスペクトルには、1750cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.48204)観察された。さらに図16のIRスペクトルには、1750cm−1付近から低波数側にシフトした1717cm−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.39244で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図22で示されるエチルメチルカーボネートのIRスペクトルの1745cm−1付近には、エチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図18で示される電解液E16のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.13582)観察された。さらに図18のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45888で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.38×Ioであった。
図19で示される電解液E17のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15151)観察された。さらに図19のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48779で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.22×Ioであった。
図20で示される電解液E18のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20191)観察された。さらに図20のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48407で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.40×Ioであった。
図21で示される電解液C7のIRスペクトルには、1745cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.41907)観察された。さらに図21のIRスペクトルには、1745cm−1付近から低波数側にシフトした1711cm−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.33929で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
図27で示されるジエチルカーボネートのIRスペクトルの1742cm−1付近には、ジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
図23で示される電解液E19のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.11202)観察された。さらに図23のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.42925で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.83×Ioであった。
図24で示される電解液E20のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15231)観察された。さらに図24のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45679で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.00×Ioであった。
図25で示される電解液E21のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20337)観察された。さらに図25のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1706cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.43841で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.16×Ioであった。
図26で示される電解液C8のIRスペクトルには、1742cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.39636)観察された。さらに図26のIRスペクトルには、1742cm−1付近から低波数側にシフトした1709cm−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.31129で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
(評価例2:イオン伝導度)
電解液E1、E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E9、電解液E11、電解液E13、電解液E16、電解液E19のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表4に示す。
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E9、電解液E11、電解液E13、電解液E16、電解液E19は、いずれもイオン伝導性を示した。よって、本発明の電解液は、いずれも各種の電池の電解液として機能し得ると理解できる。
(評価例3:粘度)
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E9、電解液E11、電解液E13、電解液E16、電解液E19並びに電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度を以下の条件で測定した。結果を表5に示す。
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E9、電解液E11、電解液E13、電解液E16、電解液E19の粘度は、電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度と比較して、著しく高かった。よって、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。
(評価例4:揮発性)
電解液E2、E4、E8、E11、E13、電解液C1、C2、C4、C6の揮発性を以下の方法で測定した。
約10mgの電解液をアルミニウム製のパンに入れ、熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、SDT600)に配置し、室温での電解液の重量変化を測定した。重量変化(質量%)を時間で微分することで揮発速度を算出した。揮発速度のうち最大のものを選択し、表6に示した。
電解液E2、E4、E8、E11、E13の最大揮発速度は、電解液C1、C2、C4、C6の最大揮発速度と比較して、著しく小さかった。よって、本発明の電解液を用いた電池は、仮に損傷したとしても、電解液の揮発速度が小さいため、電池外への有機溶媒の急速な揮発が抑制される。
(評価例5:燃焼性)
電解液E4、電解液C2の燃焼性を以下の方法で試験した。
電解液をガラスフィルターにピペットで3滴滴下し、電解液をガラスフィルターに保持させた。当該ガラスフィルターをピンセットで把持し、そして、当該ガラスフィルターに接炎させた。
電解液E4は15秒間接炎させても引火しなかった。他方、電解液C2は5秒余りで燃え尽きた。
本発明の電解液は燃焼しにくいことが裏付けられた。
(評価例6:Li輸率)
電解液E2、E8及び電解液C4、C5のLi輸率を以下の条件で測定した。結果を表7に示す。
<Li輸率測定条件>
電解液E2、E8又は電解液C4、C5を入れたNMR管をPFG−NMR装置(ECA−500、日本電子)に供し、Li、19Fを対象として、スピンエコー法を用い、磁場パルス幅を変化させながら、各電解液中のLiイオン及びアニオンの拡散係数を測定した。Li輸率は以下の式で算出した。
Li輸率=(Liイオン拡散係数)/(Liイオン拡散係数+アニオン拡散係数)
電解液E2、E8のLi輸率は、電解液C4、C5のLi輸率と比較して、著しく高かった。ここで、電解液のLiイオン伝導度は、電解液に含まれるイオン伝導度(全イオン電導度)にLi輸率を乗じて算出することができる。そうすると、本発明の電解液は、同程度のイオン伝導度を示す従来の電解液と比較して、リチウムイオン(カチオン)の輸送速度が高いといえる。
また、電解液E8の電解液につき、温度を変化させた場合のLi輸率を、上記Li輸率測定条件に準じて測定した。結果を表8に示す。
表8の結果から、本発明の電解液は、温度に因らず、好適なLi輸率を保つことがわかる。本発明の電解液は、低温でも液体状態を保っているといえる。
(評価例7:低温試験)
電解液E11、電解液E13、電解液E16、電解液E19をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−30℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。いずれの電解液も固化せず液体状態を維持しており、塩の析出も観察されなかった。
(実施例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池は、正極と負極と電解液とセパレータとを有する。
正極は、正極活物質層と、正極活物質層で被覆された集電体とからなる。正極活物質層は、正極活物質と、結着剤と、導電助剤とを有する。正極活物質は、LiNi0.5Co0.2Mn0.3で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物からなる。結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる。導電助剤は、アセチレンブラック(AB)からなる。集電体は、厚み20μmのアルミニウム箔からなる。正極活物質層を100質量部としたときの、正極活物質と結着剤と導電助剤との含有質量比は、94:3:3である。
正極を作製するために、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、PVDF及びABを上記の質量比となるように混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加してペースト状の正極材とする。ペースト状の正極材を、集電体の表面にドクターブレードを用いて塗布して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を、80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去した。表面に正極活物質層を形成したアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、正極を得た。以下、必要に応じて、LiNi5/10Co2/10Mn3/10で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物をNCM523と略し、アセチレンブラックをABと略し、ポリフッ化ビニリデンをPVdFと略する。
負極は、負極活物質層と、負極活物質層で被覆された集電体とからなる。負極活物質層は、負極活物質と、結着剤とを有する。負極を作製するために、負極活物質としての黒鉛98質量部と、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)1質量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させてスラリー状の負極材を作製した。このスラリー状の負極材を負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布して負極活物質層を形成した。負極活物質層を形成した集電体を乾燥後プレスし、接合物を100℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、負極とした。
実施例1の電解液として、上記の電解液E8を用いた。
上記の正極、負極及び電解液を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてセルロース不織布(東洋濾紙株式会社製ろ紙(セルロース、厚み260μm))を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
(実施例2)
実施例2のリチウムイオン二次電池は、電解液として上記の電解液E4を用いた点を除いて、実施例1と同様である。
(実施例3)
実施例3のリチウムイオン二次電池は、電解液として電解液E1を用いた点を除いて、実施例1と同様である。
(実施例4)
実施例4のリチウムイオン二次電池は、以下のとおり製造した。
正極は、実施例1のリチウムイオン二次電池の正極と同様に製造した。
負極活物質である天然黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに実施例1で用いた電解液E8を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例4のリチウムイオン二次電池とした。
(比較例1)
比較例1のリチウムイオン二次電池は、電解液として上記の電解液C5を用いた点を除いて、実施例1と同様である。
(比較例2)
比較例2のリチウムイオン二次電池は、比較例1で用いた電解液C5を用いた以外は、実施例4と同様である。
表9に実施例及び比較例の電解液の一覧を示す。
(評価例8:入出力特性)
(1)0℃、SOC20%での出力特性評価
上記の実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の出力特性を評価した。評価に供した実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の正極の目付は11mg/cmであり、負極の目付は8mg/cmである。評価条件は、充電状態(SOC)20%、0℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhである。SOC20%、0℃は、例えば、冷蔵室などで使用する場合のように出力特性が出にくい領域である。実施例1及び比較例1の出力特性の評価は、それぞれ2秒出力と5秒出力についてそれぞれ3回行った。出力特性の評価結果を表10に示した。表10の中の「2秒出力」は、放電開始から2秒後での出力を意味し、「5秒出力」は放電開始から5秒後での出力を意味している。
表10に示すように、実施例1の電池の0℃、SOC20%の出力は、比較例1の電池の出力に比べて、1.2〜1.3倍高かった。
(2)25℃、SOC20%での出力特性評価
上記の実施例1及び比較例1の電池の出力特性を、充電状態(SOC)20%、25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhの条件で評価した。実施例1及び比較例1の出力特性の評価は、それぞれ2秒出力と5秒出力についてそれぞれ3回行った。評価結果を表10に示した。
表10に示すように、実施例1の電池の25℃、SOC20%の出力は、比較例1の電池の出力に比べて、1.2〜1.3倍高かった。
(3)出力特性に対する温度の影響
上記の実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の出力特性に対する、測定時の温度の影響を調べた。0℃と25℃で測定し、いずれの温度下での測定においても、評価条件は、充電状態(SOC)20%、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。25℃での出力に対する0℃での出力の比率(0℃出力/25℃出力)をもとめた。その結果を表10に示した。
表10に示すように、実施例1の電解液は、比較例1の電解液と同程度に低温での出力低下を抑制できることがわかった。
また、実施例1の電解液では、ヘテロ元素を有する有機溶媒アセトニトリルの大半がリチウム塩LIFSAとクラスターを形成していることから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
これに対して、比較例1では、EC系溶媒を用いている。ECは、電解液の粘度及び融点を下げるために混合される。比較例1の溶媒には、鎖状カーボネートであるDECも含まれている。鎖状カーボネートは、揮発し易く、万が一、電池に隙間が有った場合や損傷などが発生した場合には、系外に瞬時に大量の有機溶媒が気体として放出されるおそれがある。
電解液の溶媒として、イオン液体のような低揮発性液体を用いることにより、比較例1の電解液の課題を解決することはできる。しかし、イオン液体は、粘度が高く、イオン伝導度が通常の電解液と比較して低いため、入出力特性が悪くなると予想される。この傾向は、0℃などの低温で顕著であり、0℃出力/25℃出力が0.2以下になると予想される。
(4)0℃又は25℃、SOC80%での入力特性評価
リチウムイオン二次電池の入力特性を評価した。本評価で用いた電池は、セパレータとして厚み20μmのセルロース不織布を用いた点を除いて、実施例1、4、比較例1,2のリチウムイオン二次電池と同様である。実施例1,4、比較例1,2に対応する電池を、順に実施電池1、4、比較電池1,2とした。評価条件は、充電状態(SOC)80%、0℃又は25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。入力特性の評価は、2秒入力と5秒入力について電池毎にそれぞれ3回行った。
また、各電池の体積に基づき、25℃、2秒入力における電池出力密度(W/L)を算出した。入力特性の評価結果を表11に示す。
表11に示すように、温度の違いに関わらず、実施電池1の電池の入力は、比較電池1の電池の入力に比べて、著しく高かった。同様に、実施電池4の電池の入力は、比較電池2の電池の入力に比べて、著しく高かった。
また、実施電池1の電池入力密度は、比較電池1の電池入力密度に比べて、著しく高かった。同様に、実施電池4の電池入力密度は、比較電池2の電池入力密度に比べて、著しく高かった。
(5)0℃又は25℃、SOC20%での出力特性評価
実施電池1、4、比較電池1、2の出力特性を以下の条件で評価した。評価条件は、充電状態(SOC)20%、0℃又は25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。SOC20%、0℃は、例えば、冷蔵室などで使用する場合のように出力特性が出にくい領域である。出力特性の評価は、2秒出力と5秒出力について電池毎にそれぞれ3回行った。
また、各電池の体積に基づき、25℃、2秒出力における電池出力密度(W/L)を算出した。出力特性の評価結果を表11に示す。
表11に示すように、温度の違いに関わらず、実施電池1の出力は、比較電池1の出力に比べて、著しく高かった。同様に、実施電池4の出力は、比較電池2の出力に比べて、著しく高かった。
また、実施電池1の電池出力密度は、比較電池1の電池出力密度に比べて、著しく高かった。同様に、実施電池4の電池出力密度は、比較電池2の電池出力密度に比べて、著しく高かった。
(評価例9:DSC試験)
実施例1、2及び比較例1の電池の中の正極と電解液の熱物性試験を行った。
各電池に対し、充電終始電圧4.2V、定電流定電圧条件で満充電した。満充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、正極を取り出した。当該正極3mg及び電解液1.8μLをステンレス製のパンに入れ、該パンを密閉した。密閉パンを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/min.の条件で示差走査熱量分析を行い、DSC曲線を観察した。示差走査熱量測定装置としてRigaku DSC8230を使用した。実施例1と比較例1の測定結果を図29に示し、実施例2と比較例1の測定結果を図30に示した。
図29、図30に示すように、実施例1では300℃付近での発熱が生じなかったが、比較例1では、300℃付近で発熱が生じた。実施例1の電池では、充電中での電解液と正極活物質との反応性が低く、熱物性に優れていることがわかった。
実施例1の電解液では、ヘテロ元素を有する有機溶媒アセトニトリルの大半がリチウム塩LIFSAとクラスターを形成していることから、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。また、溶媒量が通常に比べて少ないため、燃焼した場合の潜在的な熱量が少ない。更に、電解液自身が正極から放出される酸素との反応性が乏しいため、熱物性に優れていると考えられる。
比較例1の300℃付近での発熱は、電解液と正極との反応であり、特に正極から発生した酸素と電解液との反応であると考えられる。
図30に示すように、実施例2の電解液は、比較例1の電解液に比べて、発熱量が極めて少なかった。実施例2の電解液も、LiTFSAのLiイオンと溶媒分子とが相互的な静電引力で引き合っているため、フリーの溶媒分子が存在せず、揮発しにくくなっている。また、充電時に正極活物質と反応しにくい。このため、実施例2の電池は熱物性に優れていると考えられる。
(評価例10:レート容量特性の評価)
実施例1及び比較例1のレート容量特性を評価した。各電池の容量は、160mAh/gとなるように調整した。評価条件は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cの速度で充電を行った後に放電を行い、それぞれの速度における正極の容量(放電容量)を測定した。1Cは、一定電流において1時間で電池を完全充電、又は放電させるために要する電流値を示す。0.1C放電後及び1C放電後の放電容量を表12に示した。表12に示した放電容量は、正極重量当たりの容量の算出値である。
表12に示すように、0.1C放電容量は実施例1と比較例1とで大差がなかったが、1C放電容量は実施例1の方が比較例1よりも大きかった。
(実施例5)
実施例5のリチウムイオン二次電池の電解液は、電解液E11を用いた。実施例5のリチウムイオン二次電池の正極、負極、及びセパレータは、実施電池1(セパレータ厚み20μm)と同様のものを用いた。
(比較例3)
比較例3のリチウムイオン二次電池の正極、負極、セパレータ及び電解液は、比較電池1のそれらと同様である。
(評価例11:容量維持率)
実施例5、比較例3のリチウム二次電池を用い、それぞれ温度25℃、1CのCC充電の条件下において4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1CのCC放電で3.0Vまで放電し、1分間休止するサイクルを500サイクル繰り返すサイクル試験を行った。各サイクルにおける放電容量維持率を測定し、結果を図31に示した。500サイクル目における放電容量維持率を表13に示した。放電容量維持率は、各サイクルの放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((各サイクルの放電容量)/(初回の放電容量)×100)で求められる値である。
表13及び図31に示すように、実施例5のように電解液の溶媒としてDMCを用いると、サイクル寿命が向上した。
また初期及び200サイクル目において、温度25℃、0.5CのCCCVで電圧3.5Vに調整した後、3Cで10秒のCC放電をした際の電圧変化量(放電前電圧と放電10秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により直流抵抗(放電)を測定した。
さらに初期及び200サイクル目において、温度25℃、0.5CのCCCVで電圧3.5Vに調整した後、3Cで10秒のCC充電をした際の電圧変化量(充電前電圧と充電10秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により直流抵抗(充電)を測定した。それぞれの結果を表14に示す。
実施例5のリチウム二次電池は、サイクル後においても抵抗が小さいことがわかる。また実施例5のリチウム二次電池は、容量維持率が高く、劣化しにくいといえる。
(評価例12:Ni、Mn、Coの溶出確認)
実施例5及び比較例3のリチウムイオン二次電池を、使用電圧範囲3V〜4.1Vとし、レート1Cで充放電を500回繰り返した。充放電500回後に各電池を解体し、負極を取り出した。正極から電解液に溶出し、負極の表面へ沈着したNi、Mn、Coの量をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で測定した。測定結果を表15に示す。表15のNi、Mn、Co量(質量%)は負極活物質層1gあたりのNi、Mn、Coの質量を%で示したものであり、Ni、Mn、Co量(μg/枚)は、負極活物質層1枚当たりのNi、Mn、Coの質量(μg)を表し、Ni、Mn、Co量(質量%)÷100×各負極活物質層1枚の質量=Ni、Mn、Co量(μg/枚)の計算式により表出した。
表15に示すように、実施例5の負極は、比較例3の負極に比べて、Ni、Mn、Co量(質量%)及びNi、Mn、Co量(μg/枚)とも低かった。表15に示す結果を表14に示す結果と合わせると、実施例5は、比較例3に比べて、正極からの金属溶出が少なく、正極から溶出した金属の負極への析出が少なく、また、容量維持率も高いことがわかった。
(評価例13:電極の目付と出力特性)
この評価例の評価対象である実施例6,比較例4は、それぞれ実施例1及び比較例1の電池と正極の目付が相違する。実施例6、比較例4については、いずれも正極の目付を5.5mg/cmとし、負極の目付を4mg/cmとした。この電極の目付は、評価例18の(1)〜(5)の入力特性及び出力特性の評価で用いた電池の電極の目付の半分、即ち電池容量の半分である。この各電池について以下の3条件で入出力特性を測定した。測定結果を表16に示す。
<測定条件>
・充電状態(SOC)30%、−30℃、使用電圧範囲3V―4.2V、2秒出力
・充電状態(SOC)30%、−10℃、使用電圧範囲3V―4.2V、2秒出力
・充電状態(SOC)80%、25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、5秒入力
表16に示すように、電極の目付を(1)〜(5)の評価に供した電池の半分にしたときにも、実施例6の電解液を用いた場合には、比較例4の電解液と比べて入出力特性が向上した。
(評価例14:ラマンスペクトル測定)
電解液E8、E9、C4、E11、E13,E15、C6につき、以下の条件でラマンスペクトル測定を行った。各電解液の金属塩のアニオン部分に由来するピークが観察されたラマンスペクトルをそれぞれ図32〜図38に示す。図の横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は散乱強度である。
ラマンスペクトル測定条件
装置:レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社NRSシリーズ)
レーザー波長:532nm
不活性ガス雰囲気下で電解液を石英セルに密閉し、測定に供した。
図32〜図34で示される電解液E8、電解液E9、電解液C4のラマンスペクトルの700〜800cm−1には、アセトニトリルに溶解したLiFSAの(FSONに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、図32〜図38から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。電解液が高濃度化するに従い、塩のアニオンに該当する(FSONが、より多くのLiと相互作用する状態になると推察される。そして、かかる状態がラマンスペクトルのピークシフトとして観察されたと考察できる。
図35〜図38で示される電解液E11,E13、E15、C6のラマンスペクトルの700〜800cm−1には、ジメチルカーボネートに溶解したLiFSAの(FSONに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、図35〜図38から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。この現象は、前段落で考察したのと同様に、電解液が高濃度化することで、塩のアニオンに該当する(FSONが複数のLiと相互作用している状態がスペクトルに反映された結果である、言い換えると濃度が低い場合はLiとアニオンはSSIP(Solvent-separeted ion pairs)状態を主に形成しており、高濃度化に伴いCIP(contact ion pairs)状態やAGG(aggregate)状態を主に形成していると推察される。そして、かかる状態の変化がラマンスペクトルのピークシフトとして観察されたと考察できる。
(電池1)
電池1のリチウムイオン二次電池は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様の構成である。
即ち、電池1で用いられる電解液は電解液E8である。正極の構成は、正極活物質であるLiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM253)90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック(AB)8質量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)2質量部からなる正極活物質層と、正極集電体からなる厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)とからなる。
電池1で用いられる負極は、負極活物質である天然黒鉛98質量部、ならびに結着剤であるSBR1質量部およびCMC1質量部からなる負極活物質層と、負極集電体として厚み20μmの銅箔とからなる。
電池1で用いられるセパレータは、厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池2)
電池2のリチウムイオン二次電池は電解液E11を用いたものである。
電池2のリチウムイオン二次電池は、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池3)
電池3のリチウムイオン二次電池は電解液E13を用いたものである。電池3のリチウムイオン二次電池は、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池C1)
電池C1のリチウムイオン二次電池は、電解液C5を用いたものである。電池C1のリチウムイオン二次電池は、電解液の種類、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(評価例15:電池の内部抵抗)
電池1〜電池3および電池C1のリチウムイオン二次電池を準備し、電池の内部抵抗を評価した。
電池1〜電池3および電池C1の各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電(つまり定電流充放電)を繰り返した。そして、初回充放電後の交流インピーダンス、および、100サイクル経過後の交流インピーダンスを測定した。得られた複素インピーダンス平面プロットを基に、電解液、負極および正極の反応抵抗を各々解析した。図39に示すように、複素インピーダンス平面プロットには、二つの円弧がみられた。図中左側(つまり複素インピーダンスの実部が小さい側)の円弧を第1円弧と呼ぶ。図中右側の円弧を第2円弧と呼ぶ。第1円弧の大きさを基に負極の反応抵抗を解析し、第2円弧の大きさを基に正極の反応抵抗を解析した。第1円弧に連続する図39中最左側のプロットを基に電解液の抵抗を解析した。解析結果を表17および表18に示す。なお、表17は、初回充放電後の電解液の抵抗(所謂溶液抵抗)、負極の反応抵抗、正極の反応抵抗、及び拡散抵抗を示し、表18は100サイクル経過後の各抵抗を示す。
表17および表18に示すように、各リチウムイオン二次電池において、100サイクル経過後の負極反応抵抗および正極反応抵抗は、初回充放電後の各抵抗に比べて低下する傾向にある。そして、表18に示す100サイクル経過後では、電池1〜電池3のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗および正極反応抵抗は、電池C1のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗および正極反応抵抗に比べて低い。
上述したように、電池1,電池2のリチウムイオン二次電池は本発明の電解液を用いたものであり、負極および正極の表面には本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜が形成されている。これに対して、本発明の電解液を用いていない電池C1のリチウムイオン二次電池においては、負極および正極の表面には当該S,O含有皮膜は形成されていない。そして、電池1、電池2の負極反応抵抗および正極反応抵抗は電池C1のリチウムイオン二次電池よりも低い。このことから、電池1〜電池3においては、本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜の存在により負極反応抵抗および正極反応抵抗が低減したと推察される。
なお、電池2および電池C1のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗はほぼ同じであり、電池1のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗は、電池2および電池C1に比べて高い。また、各リチウムイオン二次電池における各電解液の溶液抵抗は初回充放電後も100サイクル経過後も同じである。このため、各電解液の耐久劣化は生じていないと考えられ、上記した電池C1および電池1〜電池3において生じた負極反応抵抗および正極反応抵抗の差は、電解液の耐久劣化に関係するものでなく電極自体に生じているものであると考えられる。
リチウムイオン二次電池の内部抵抗は、電解液の溶液抵抗、負極の反応抵抗および正極の反応抵抗から総合的に判断できる。表17および表18の結果を基にすると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗増大を抑制する観点からは、電池1のリチウムイオン二次電池が最も耐久性に優れ、次いで電池2のリチウムイオン二次電池が耐久性に優れていると言える。
(評価例16:電池のサイクル耐久性)
電池1〜電池3、電池C1の各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返し、初回充放電時の放電容量、100サイクル時の放電容量、および500サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%とし、100サイクル時および500サイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表19に示す。
表19に示すように、電池1,電池2のリチウムイオン二次電池は、SEIの材料となるECを含まないにも拘わらず、ECを含む電池C1のリチウムイオン二次電池と同等の容量維持率を示した。これは、電池1,電池2のリチウムイオン二次電池における正極および負極には、本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜が存在するためだと考えられる。そして、電池2のリチウムイオン二次電池については、特に500サイクル経過時にも極めて高い容量維持率を示し、特に耐久性に優れていた。この結果から、有機溶媒としてDMCを選択する場合には、ANを選択する場合に比べて、より耐久性が向上するといえる。
(電池4)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
活物質である平均粒径10μmの黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、活物質層が形成された銅箔を得た。これを作用極とした。なお、銅箔1cmあたりの活物質の質量は1.48mgであった。また、プレス前の黒鉛及びポリフッ化ビニリデンの密度は0.68g/cmであり、プレス後の活物質層の密度は1.025g/cmであった。
対極は金属Liとした。
作用極、対極、及び電解液E8を、径13.82mmの電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これを電池4のハーフセルとした。
(電池5)
電解液E11を用いた以外は、電池4と同様の方法で、電池5のハーフセルを製造した。
(電池6)
電解液E16を用いた以外は、電池4と同様の方法で、電池6のハーフセルを製造した。
(電池7)
電解液E19の電解液を用いた以外は、電池4と同様の方法で、電池7のハーフセルを製造した。
(電池C2)
電解液C5を用いた以外は、電池4と同様の方法で、電池C2のハーフセルを製造した。
(評価例17:レート特性)
電池4〜電池7、電池C2のハーフセルのレート特性を以下の方法で試験した。
ハーフセルに対し、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cレート(1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電または放電させるために要する電流値を意味する。)で充電を行った後に放電を行い、それぞれの速度における作用極の容量(放電容量)を測定した。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。0.1Cレートでの作用極の容量に対する他のレートにおける容量の割合(レート特性)を算出した。結果を表20に示す。
電池4〜電池7のハーフセルは0.2C、0.5C、1Cのレートにおいて、さらに、電池4、電池5は2Cのレートにおいても電池C1のハーフセルと比較して、容量低下が抑制されており、優れたレート特性を示すことが裏付けられた。
(評価例18:容量維持率)
電池4〜電池7、電池C2のハーフセルの容量維持率を以下の方法で試験した。
各ハーフセルに対し、25℃、電圧2.0VまでCC充電(定電流充電)し、電圧0.01VまでCC放電(定電流放電)を行う2.0V−0.01Vの充放電サイクルを、充放電レート0.1Cで3サイクル行い、その後、0.2C、0.5C、1C、2C、5C、10Cの順で各充放電レートにつき3サイクルずつ充放電を行い、最後に0.1Cで3サイクル充放電を行った。各ハーフセルの容量維持率(%)は以下の式で求めた。
容量維持率(%)=B/A×100
A:最初の0.1C充放電サイクルにおける2回目の作用極の放電容量
B:最後の0.1Cの充放電サイクルにおける2回目の作用極の放電容量
結果を表21に示す。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。
いずれのハーフセルも、良好に充放電反応を行い、好適な容量維持率を示した。特に、電池5,電池6、電池7のハーフセルの容量維持率は著しく優れていた。
(電池8)
電解液E8を用いた電池8のリチウムイオン二次電池は、上記の実施例1のリチウムイオン二次電池と同様である。正極活物質層中の成分配合比については、NCM523:AB:PVDF=94:3:3であり、セパレータとしては実験用濾紙(東洋濾紙株式会社、セルロース製、厚み260μm)を用いた。電池8のリチウムイオン二次電池における電解液E8は、(FSONLiの濃度が4.5mol/Lである。電解液E8においては、(FSONLi1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
(電池9)
電池9のリチウムイオン二次電池は、電解液として電解液E4を用いたこと以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。電池9のリチウムイオン二次電池における電解液は、溶媒としてのアセトニトリルに、支持塩としての(SOCFNLi(LiTFSA)を溶解してなる。電解液1リットルに含まれるリチウム塩の濃度は、4.2mol/Lである。電解液は、リチウム塩1分子に対して、2分子のアセトニトリルを含む。
(電池10)
電池10のリチウムイオン二次電池は、電解液として電解液E11を用いたこと以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。電池10のリチウムイオン二次電池における電解液は、溶媒としてのDMCに、支持塩としてのLiFSAを溶解してなる。電解液1リットルに含まれるリチウム塩の濃度は、3.9mol/Lである。電解液は、リチウム塩1分子に対して、2分子のDMCを含む。
(電池11)
電池11のリチウムイオン二次電池は電解液E11を用いたものである。電池11のリチウムイオン二次電池は、電解液の種類、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、正極活物質としてNCM523を用い、正極用の導電助剤としてABを用い、結着剤としてはPVdFを用いた。これは電池8と同様である。これらの配合比は、NCM523:AB:PVdF=90:8:2であった。正極における活物質層の目付量は5.5mg/cmであり、密度は2.5g/cmであった。これは以下の電池12〜電池15および電池C3〜電池C5についても同様である。
負極については、負極活物質として天然黒鉛を用い、負極用の結着材としてSBRおよびCMCを用いた。これもまた電池8と同様である。これらの配合比は、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1であった。負極における活物質層の目付量は3.8mg/cmであり、密度は1.1g/cmであった。これは以下の電池12〜電池15および電池C3〜電池C5についても同様である。
セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
電池11のリチウムイオン二次電池における電解液は、溶媒としてのDMCに、支持塩としてのLiFSAを溶解してなる。電解液1リットルに含まれるリチウム塩の濃度は、3.9mol/Lである。電解液は、リチウム塩1分子に対して、2分子のDMCを含む。
(電池12)
電池12のリチウムイオン二次電池は電解液E8を用いたものである。電池12のリチウムイオン二次電池は、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池13)
電池13のリチウムイオン二次電池は電解液E11を用いたものである。電池13のリチウムイオン二次電池は、電解液の種類、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極用の結着材の種類、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、負極活物質として天然黒鉛を用い、負極用の結着材としてポリアクリル酸(PAA)を用いた。これらの配合比は、天然黒鉛:PAA=90:10であった。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池14)
電池14のリチウムイオン二次電池は電解液E8を用いたものである。電池14のリチウムイオン二次電池は、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極用の結着材の種類、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は電池8のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:PAA=90:10とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池15)
電池15のリチウムイオン二次電池は電解液E13を用いたものである。電池15のリチウムイオン二次電池は、正極活物質と導電助剤との混合比、負極用の結着材の種類、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池C3)
電池C3のリチウムイオン二次電池は、電解液C5を用いた以外は、実施例1と同様である。
(電池C4)
電池C4のリチウムイオン二次電池は、電解液C5を用いたものである。電池C4のリチウムイオン二次電池は、電解液の種類、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
(電池C5)
電池C5のリチウムイオン二次電池は電解液C5を用いたものである。電池C5のリチウムイオン二次電池は、電解液の種類、正極活物質と導電助剤と結着剤との混合比、負極用の結着材の種類、負極活物質と結着剤との混合比、およびセパレータ以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同じものである。正極については、NCM523:AB:PVdF=90:8:2とした。負極については、天然黒鉛:PAA=90:10とした。セパレータとしては厚さ20μmのセルロース製不織布を用いた。
実施例および比較例の電池構成を表22に示す。
(評価例19:S,O含有皮膜の分析)
以下、必要に応じて、各実施例のリチウムイオン二次電池における負極の表面に形成されているS,O含有皮膜を各実施例の負極S,O含有皮膜と略し、各比較例のリチウムイオン二次電池における負極の表面に形成されている皮膜を各比較例の負極皮膜と略する。
また、必要に応じて、各実施例のリチウムイオン二次電池における正極の表面に形成されている皮膜を各実施例の正極S,O含有皮膜と略し、各比較例のリチウムイオン二次電池における正極の表面に形成されている皮膜を各比較例の正極皮膜と略する。
(負極S,O含有皮膜および負極皮膜の分析)
電池8、電池9および電池C3のリチウムイオン二次電池について、100サイクル充放電を繰り返した後に、電圧3.0Vの放電状態でX線光電子分光分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)によりS,O含有皮膜または皮膜表面の分析を行った。前処理としては以下の処理を行った。先ず、リチウムイオン二次電池を解体して負極を取出し、この負極を洗浄および乾燥して、分析対象となる負極を得た。洗浄は、DMC(ジメチルカーボネート)を用いて3回行った。また、セルの解体から分析対象としての負極を分析装置に搬送するまでの全ての工程を、Arガス雰囲気下で、負極を大気に触れさせることなく行った。以下の前処理を電池8、電池9および電池C3の各リチウムイオン二次電池ついて行い、得られた負極検体をXPS分析した。装置としては、アルバックファイ社 PHI5000 VersaProbeIIを用いた。X線源は単色AlKα線(15kV、10mA)であった。XPSにより測定された電池8、電池9の負極S,O含有皮膜および電池C3の負極皮膜の分析結果を図40〜図44に示す。具体的には、図40は炭素元素についての分析結果であり、図41はフッ素元素についての分析結果であり、図42は窒素元素についての分析結果であり、図43は酸素元素についての分析結果であり、図44は硫黄元素についての分析結果である。
電池8のリチウムイオン二次電池における電解液、および電池9のリチウムイオン二次電池における電解液は、塩に硫黄元素(S)、酸素元素および窒素元素(N)を含む。これに対して電池C3のリチウムイオン二次電池における電解液は、塩にこれらを含まない。さらに、電池8、電池9および電池C3のリチウムイオン二次電池における電解液は、いずれも、塩にフッ素元素(F)炭素元素(C)および酸素元素(O)を含む。
図40〜図44に示すように、電池8の負極S,O含有皮膜および電池9の負極S,O含有皮膜を分析した結果、Sの存在を示すピーク(図44)およびNの存在を示すピーク(図42)が観察された。つまり、電池8の負極S,O含有皮膜および電池9の負極S,O含有皮膜はSおよびNを含んでいた。しかし、電池C3の負極皮膜の分析結果においてはこれらのピークは確認されなかった。つまり、電池C3の負極皮膜はSおよびNの何れについても、検出限界以上の量を含んでいなかった。なお、F、C、およびOの存在を示すピークは、電池8、電池9の負極S,O含有皮膜および電池C3の負極皮膜の分析結果全てにおいて観察された。つまり、電池8、電池9の負極S,O含有皮膜および電池C3の負極皮膜は何れもF、C、およびOを含んでいた。
これらの元素は何れも電解液に由来する成分である。特にS、OおよびFは電解液の金属塩に含まれる成分であり、具体的には金属塩のアニオンの化学構造に含まれる成分である。したがって、これらの結果から、各負極S,O含有皮膜および負極皮膜には金属塩(つまり支持塩)のアニオンの化学構造に由来する成分が含まれることがわかる。
図44に示した硫黄元素(S)の分析結果について、更に詳細に解析した。電池8および電池9の分析結果について、ガウス/ローレンツ混合関数を用いてピーク分離を行った。電池8の解析結果を図45に示し、電池9の解析結果を図46に示す。
図45および図46に示すように、電池8および電池9の負極S,O含有皮膜を分析した結果、165〜175eV付近に比較的大きなピーク(波形)が観察された。そして、図45および図46に示すように、この170eV付近のピーク(波形)は、4つのピークに分離された。そのうちの一つはSO(S=O構造)の存在を示す170eV付近のピークである。この結果から、本発明のリチウムイオン二次電池において負極表面に形成されているS,O含有皮膜はS=O構造を有するといえる。そして、この結果と上記のXPS分析結果とを考慮すると、S,O含有皮膜のS=O構造に含まれるSは金属塩すなわち支持塩のアニオンの化学構造に含まれるSだと推測される。
(負極S,O含有皮膜のS元素比率)
上記した負極S,O含有皮膜のXPS分析結果を基に、電池8および電池9の負極S,O含有皮膜および電池C3の負極皮膜における放電時のS元素の比率を算出した。具体的には、各々の負極S,O含有皮膜および負極皮膜につき、S、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSの元素比を算出した。結果を表23に示す。
上記したように電池C3の負極皮膜は検出限界以上のSを含んでいなかったが、電池8の負極S,O含有皮膜および電池9の負極S,O含有皮膜からはSが検出された。また、電池8の負極S,O含有皮膜は電池9の負極S,O含有皮膜に比べて多くのSを含んでいた。なお、電池C3の負極S,O含有皮膜からSが検出されなかったことから、各実施例の負極S,O含有皮膜に含まれるSは正極活物質に含まれる不可避不純物やその他の添加物に由来するものではなく、電解液中の金属塩に由来するものであるといえる。
また、電池8の負極S,O含有皮膜におけるS元素比率が10.4原子%であり、電池9の負極S,O含有皮膜におけるS元素比率が3.7原子%であることから、本発明の非水電解質二次電池において、負極S,O含有皮膜におけるS元素比率は2.0原子%以上であり、好ましくは2.5原子%以上であり、より好ましくは3.0原子%以上であり、さらに好ましくは3.5原子%以上である。なお、Sの元素比率(原子%)とは、上述したようにS、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSのピーク強度比を指す。Sの元素比率の上限値は特に定めないが、強いて言うとすれば、25原子%以下であるのが良い。
(負極S,O含有皮膜の厚さ)
電池8のリチウムイオン二次電池について、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、および、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたものを準備し、上記のXPS分析の前処理と同様の方法で分析対象となる負極検体を得た。得られた負極検体をFIB(集束イオンビーム:Focused Ion Beam)加工することにより、厚み100nm程度のSTEM分析用検体を得た。なお、FIB加工の前処理として、負極にはPtを蒸着した。以上の工程は負極を大気に触れさせることなくおこなった。
各STEM分析用検体をEDX(エネルギ分散型X線分析:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)装置が付属したSTEM(走査透過電子顕微鏡:Scanning Transmission Electron Microscope)により分析した。結果を図47〜図50に示す。このうち図47はBF(明視野:Bright−field)−STEM像であり、図48〜図50は、図47と同じ観察領域のSETM−EDXによる元素分布像である。さらに、図48はCについての分析結果であり、図49はOについての分析結果であり、図50はSについての分析結果である。なお、図48〜図50は、放電状態のリチウムイオン二次電池における負極の分析結果である。
図47に示すように、STEM像の左上部には黒色の部分が存在する。この黒色の部分は、FIB加工の前処理で蒸着されたPtに由来する。各STEM像において、このPt由来の部分(Pt部と呼ぶ)よりも上側にある部分は、Pt蒸着後に汚染された部分とみなし得る。したがって、図48〜図50においては、Pt部よりも下側にある部分についてのみ検討した。
図48に示すように、Pt部よりも下側において、Cは層状をなしていた。これは、負極活物質たる黒鉛の層状構造だと考えられる。図49において、Oは黒鉛の外周および層間に相当する部分にある。図50においてもまた、Sは黒鉛の外周および層間に相当する部分にある。これらの結果から、S=O構造等のSおよびOを含有する負極S,O含有皮膜は、黒鉛の表面および層間に形成されていると推測される。
黒鉛の表面に形成されている負極S,O含有皮膜を無作為に10箇所選び、負極S,O含有皮膜の厚さを測定し、測定値の平均値を算出した。充電状態のリチウムイオン二次電池における負極についても同様に分析し、各分析結果を基に、黒鉛の表面に形成されている負極S,O含有皮膜の厚さの平均値を算出した。結果を表24に示す。
表24に示すように、負極S,O含有皮膜の厚みは充電後に増加している。この結果から、負極S,O含有皮膜には充放電に対して安定して存在する定着部と、充放電に伴って増減する吸着部が存在すると推測される。そして、吸着部が存在することで、負極S,O含有皮膜は充放電に際して厚さが増減したと推測される。
(正極皮膜の分析)
電池8のリチウムイオン二次電池について、3サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、3サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたもの、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧3.0Vの放電状態にしたもの、100サイクル充放電を繰り返した後に電圧4.1Vの充電状態にしたもの、の4つを準備した。4つの電池8のリチウムイオン二次電池について、それぞれ上述したのと同様の方法を用いて、分析対象となる正極を得た。そして得られた各正極をXPS分析した。結果を図51および図52に示す。なお、図51は酸素元素についての分析結果であり、図52は硫黄元素についての分析結果である。
図51および図52に示すように、電池8の正極S,O含有皮膜もまた、SおよびOを含むことがわかる。また、図52には170eV付近のピークが認められるため、電池8の正極S,O含有皮膜もまた電池8の負極S,O含有皮膜と同様に本発明の電解液に由来するS=O構造を有することがわかる。
ところで、図51に示すように、529eV付近に存在するピークの高さはサイクル経過後に減少している。このピークは正極活物質に由来するOの存在を示すものと考えられ、具体的には、XPS分析において正極活物質中のO原子で励起された光電子がS,O含有皮膜を通過して検出されたものと考えられる。このピークがサイクル経過後に減少したことから、正極表面に形成されたS,O含有皮膜の厚さはサイクル経過に伴って増大したと考えられる。
また、図51および図52に示すように、正極S,O含有皮膜中のOおよびSは放電時に増加し充電時に減少した。この結果から、OおよびSは充放電に伴って正極S,O含有皮膜を出入りすると考えられる。そしてこのことから、充放電に際して正極S,O含有皮膜中のSやOの濃度が増減しているか、または、負極S,O含有皮膜と同様に正極S,O含有皮膜においても吸着部の存在により厚さが増減すると推測される。
さらに、電池11のリチウムイオン二次電池についても正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜をXPS分析した。
電池11のリチウムイオン二次電池を、25℃、使用電圧範囲3.0V〜4.1Vとし、レート1CでCC充放電を500サイクル繰り返した。500サイクル後、3.0Vの放電状態、および、4.0Vの充電状態で正極S,O含有皮膜のXPSスペクトルを測定した。また、サイクル試験前(つまり初回充放電後)における3.0Vの放電状態の負極S,O含有皮膜、および、500サイクル後における3.0Vの放電状態の負極S,O含有皮膜について、XPSによる元素分析をおこない、当該負極S,O含有皮膜に含まれるS元素比率を算出した。XPSにより測定された電池11の正極S,O含有皮膜の分析結果を図53および図54に示す。具体的には、図53は硫黄元素についての分析結果であり、図54は酸素元素についての分析結果である。また、XPSにより測定された負極皮膜のS元素比率(原子%)を表25に示す。なお、S元素比率は、上記の「負極S,O含有皮膜のS元素比率」の項と同様に算出した。
図53および図54に示すように、電池11のリチウムイオン二次電池における正極S,O含有皮膜からもまた、Sの存在を示すピークおよびOの存在を示すピークが検出された。また、SのピークおよびOのピークが何れも放電時に増大し充電時に減少していた。この結果からも、正極S,O含有皮膜がS=O構造を有し、正極S,O含有皮膜中のOおよびSは充放電に伴って正極S,O含有皮膜を出入りすることが裏付けられる。
また、表25に示すように、電池11の負極S,O含有皮膜は、初回充放電後にも、500サイクル経過後にも、2.0原子%以上のSを含んでいた。この結果から、本発明の非水電解質二次電池における負極S,O含有皮膜は、サイクル経過前であってもサイクル経過後であっても2.0原子%以上のSを含むことがわかる。
電池11〜電池14および電池C4、電池C5のリチウムイオン二次電池について、60℃で1週間貯蔵する高温貯蔵試験を行い、当該高温貯蔵試験後の各実施例の正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜、ならびに、各比較例の正極皮膜および負極皮膜を分析した。高温貯蔵試験開始前に、3.0Vから4.1Vにまでレート0.33CでCC−CV充電した。このときの充電容量を基準(SOC100)とし、当該基準に対して20%分をCC放電してSOC80に調整した後、高温貯蔵試験を開始した。高温貯蔵試験後に1Cで3.0VまでCC−CV放電した。そして、放電後の正極S,O含有皮膜および負極S,O含有皮膜ならびに正極皮膜および負極皮膜のXPSスペクトルを測定した。XPSにより測定された電池11〜電池14の正極S,O含有皮膜、ならびに、電池C4および電池C5の正極皮膜の分析結果を図55〜図58に示す。また、XPSにより測定された電池11〜電池14の負極S,O含有皮膜、ならびに、電池C4および電池C5の負極皮膜の分析結果を図59〜図62に示す。
具体的には、図55は電池11、電池12の正極S,O含有皮膜および電池C4の正極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図56は電池13、電池14の正極S,O含有皮膜および電池C5の正極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図57は電池11、電池12の正極S,O含有皮膜および電池C4の正極皮膜の酸素元素についての分析結果である。図58は電池13、電池14の正極S,O含有皮膜および電池C5の正極皮膜の酸素元素についての分析結果である。また、図59は電池11、電池12の負極S,O含有皮膜および電池C4の負極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図60は電池13、電池14の負極S,O含有皮膜および電池C5の負極皮膜の硫黄元素についての分析結果である。図61は電池11、電池12の負極S,O含有皮膜および電池C4の負極皮膜の酸素元素についての分析結果である。図62は電池13、電池14の負極S,O含有皮膜および電池C5の負極皮膜の酸素元素についての分析結果である。
図55および図56に示すように、従来の電解液を用いた電池C4および電池C5のリチウムイオン二次電池は正極皮膜にSを含まないのに対して、本発明の電解液を用いた電池11〜電池14のリチウムイオン二次電池は正極S,O含有皮膜にSを含んでいた。また、図57および図58に示すように、電池11〜電池14のリチウムイオン二次電池は何れも正極S,O含有皮膜にOを含んでいた。さらに、図55および図56に示すように、電池11〜電池14のリチウムイオン二次電池における正極S,O含有皮膜からは、何れも、SO(S=O構造)の存在を示す170eV付近のピークが検出された。これらの結果から、本発明のリチウムイオン二次電池においては、電解液用の有機溶媒としてANを用いた場合にも、DMCを用いた場合にも、SとOとを含む安定した正極S,O含有皮膜が形成されることがわかる。また、この正極S,O含有皮膜は負極バインダの種類に影響されないことから、正極S,O含有皮膜中のOはCMCに由来するものではないと考えられる。さらに、図57および図58に示すように、電解液用の有機溶媒としてDMCを用いる場合には、530eV付近に、正極活物質由来のOピークが検出された。このため、電解液用の有機溶媒としてDMCを用いる場合には、ANを用いる場合に比べて正極S,O含有皮膜の厚さが薄くなると考えられる。
同様に、図59〜図62から、電池11〜電池14のリチウムイオン二次電池は負極S,O含有皮膜にもSおよびOを含み、これらはS=O構造をなしかつ電解液に由来することがわかる。そしてこの負極S,O含有皮膜は、電解液用の有機溶媒としてANを用いた場合にもDMCを用いた場合にも形成されることがわかる。
電池11、電池12および電池C4のリチウムイオン二次電池について、上記の高温貯蔵試験および放電後の各負極S,O含有皮膜ならびに負極皮膜のXPSスペクトルを測定し、電池11、電池12の負極S,O含有皮膜および電池C4の負極皮膜における放電時のS元素の比率を算出した。具体的には、各々の負極S,O含有皮膜または負極皮膜につき、S、N、F、C、Oのピーク強度の総和を100%としたときのSの元素比を算出した。結果を表26に示す。
表26に示すように、電池C4の負極皮膜は検出限界以上のSを含んでいなかったが、電池11および電池12の負極S,O含有皮膜からはSが検出された。また、電池12の負極S,O含有皮膜は電池11の負極S,O含有皮膜に比べて多くのSを含んでいた。また、この結果から、高温貯蔵後においても負極S,O含有皮膜におけるS元素比率は2.0原子%以上であることがわかる。
(評価例20:電池のサイクル耐久性)
電池11、電池12、電池15および電池C4の各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返し、初回充放電時の放電容量、100サイクル時の放電容量、および500サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%とし、100サイクル時および500サイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表27に示す。
表27に示すように、電池11、電池12および電池15のリチウムイオン二次電池は、SEIの材料となるECを含まないにも拘わらず、ECを含む電池C4のリチウムイオン二次電池と同等の容量維持率を示した。これは、各電池のリチウムイオン二次電池における正極および負極には、本発明の電解液に由来するS,O含有皮膜が存在するためだと考えられる。そして、電池11のリチウムイオン二次電池については、特に500サイクル経過時にも極めて高い容量維持率を示し、特に耐久性に優れていた。この結果から、有機溶媒としてDMCを選択する場合には、ANを選択する場合に比べて、より耐久性が向上するといえる。
電池11、電池12および電池C4のリチウムイオン二次電池について、60℃で1週間貯蔵する高温貯蔵試験を行った。高温貯蔵試験開始前に、3.0Vから4.1VにまでCC−CV(定電流定電圧)充電した。このときの充電容量を基準(SOC100)とし、当該基準に対して20%分をCC放電してSOC80に調整した後、高温貯蔵試験を開始した。高温貯蔵試験後に1Cで3.0VまでCC−CV放電した。このときの放電容量と貯蔵前のSOC80容量との比から、次式のように残存容量を算出した。結果を表28に示す。
残存容量=100×(貯蔵後のCC−CV放電容量)/(貯蔵前のSOC80容量)
電池11および電池12の非水電解質二次電池の残存容量は、電池C4の非水電解質二次電池の残存容量に比べて大きい。この結果から、本発明の電解液に由来し正極および負極に形成されたS,O含有皮膜が、残存容量増大にも寄与するといえる。
(評価例21:Al集電体の表面分析)
電池8および電池9のリチウムイオン二次電池を、使用電圧範囲3V〜4.2Vとし、レート1Cで充放電を100回繰り返し、充放電100回後に解体し、正極用集電体であるアルミニウム箔を各々取り出し、アルミニウム箔の表面をジメチルカーボネートで洗浄した。
洗浄後の電池8および電池9のリチウムイオン二次電池のアルミニウム箔の表面を、ArスパッタでエッチングしながらX線光電子分光法(XPS)にて表面分析を行った。電池8および電池9のリチウムイオン二次電池の充放電後のアルミニウム箔の表面分析結果を図63および図64に示す。
図63および図64を比べると、電池8および電池9のリチウムイオン二次電池の充放電後の正極用集電体であるアルミニウム箔の表面分析結果は両者ともほぼ同じであり、以下のことがいえる。アルミニウム箔の表面において、最表面のAlの化学状態はAlFであった。アルミニウム箔を深さ方向にエッチングしていくと、Al、O、Fのピークが検出された。アルミニウム箔を表面から1回〜3回エッチングしていった箇所では、Alの化学状態はAl−F結合およびAl−O結合の複合状態であることがわかった。さらにエッチングしていくと4回エッチング(SiO換算で深さ約25nm)したところからO、Fのピークが消失し、Alのみのピークが観察された。なお、XPS測定データにおいて、AlFは、Alピーク位置76.3eVに観察され、純Alは、Alピーク位置73eVに観察され、Al−F結合およびAl−O結合の複合状態では、Alピーク位置74eV〜76.3eVに観察される。図63および図64に示す破線は、AlF、Al、Alそれぞれの代表的なピーク位置を示す。
以上の結果から、本発明の充放電後のリチウムイオン二次電池のアルミニウム箔の表面には、深さ方向に約25nmの厚みで、Al−F結合(AlFと推測される)の層と、Al−F結合(AlFと推測される)およびAl−O結合(Alと推測される)の混在する層とが形成されていることが確認できた。
つまり、正極集電体にアルミニウム箔を用いた本発明のリチウムイオン二次電池において、本発明の電解液を用いても充放電後にはアルミニウム箔の最表面にはAl−F結合(AlFと推測される)からなる不動態膜が形成されることがわかった。
評価例21の結果から、本発明の電解液と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる正極用集電体とを組み合わせるリチウムイオン二次電池では、充放電により正極用集電体の表面には不動態膜が形成され、なおかつ、高電位状態においても正極用集電体からのAlの溶出が抑制されることがわかった。
(評価例22:正極S,O含有皮膜分析)
TOF−SIMS(Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)を用いて、電池11の正極S,O含有皮膜に含まれる各分子の構造情報を分析した。
電池11の非水電解質二次電池を25℃で3サイクル充放電した後、3V放電状態で解体し正極を取り出した。これとは別に、電池11の非水電解質二次電池を25℃で500サイクル充放電した後、3V放電状態で解体し正極を取り出した。さらにこれとは別に、電池11の非水電解質二次電池を25℃で3サイクル充放電した後、60℃で一か月間放置し、3V放電状態で解体し正極を取り出した。各正極をDMCで3回洗浄し、分析用の正極を得た。なお、当該正極には正極S,O含有皮膜が形成され、以下の分析では正極S,O含有皮膜に含まれる分子の構造情報が分析された。
分析用の各正極を、TOF−SIMSにより分析した。質量分析計としては飛行時間型二次イオン質量分析計を用い、正二次イオンおよび負二次イオンを測定した。一次イオン源としてはBiを用い、一次加速電圧は25kVであった。スパッタイオン源としてはAr−GCIB(Ar1500)を用いた。測定結果を表29〜表31に示す。なお、表30における各フラグメントの正イオン強度(相対値)とは、検出された全てのフラグメントの正イオン強度の総和を100%とした相対値である。同様に、表31に記載した各フラグメントの負イオン強度(相対値)とは、検出された全てのフラグメントの負イオン強度の総和を100%とした相対値である。
表29に示すように電解液の溶媒由来と推定されるフラグメントは、正二次イオンとして検出されたCおよびCのみであった。また、電解液の塩由来と推定されるフラグメントは、主に負二次イオンとして検出され、上記した溶媒由来のフラグメントに比べてイオン強度が大きい。さらに、Liを含むフラグメントは主に正二次イオンとして検出され、Liを含むフラグメントのイオン強度は、正二次イオンおよび負二次イオンのなかでも大きな割合を占める。
以上のことから、本発明のS,O含有皮膜の主成分は電解液に含まれる金属塩由来の成分であり、かつ、本発明のS,O含有皮膜には多くのLiが含まれると推測される。
さらに、表29に示すように、塩由来と推定されるフラグメントとしてはSNO,SFO,SNO等も検出されている。これらは何れもS=O構造を有し、かつSに対してNやFが結合した構造である。つまり、本発明のS,O含有皮膜において、SはOと二重結合しているだけでなく、SNO,SFO,SNO等のように、他の元素と結合した構造をもとり得る。したがって、本発明のS,O含有皮膜は少なくともS=O構造を有していれば良く、S=O構造に含まれるSが他の元素と結合していても良いといえる。なお、当然乍ら、本発明のS,O含有皮膜はS=O構造をとらないSおよびOを含んでいても良い。
ところで、例えば上述した特開2013−145732に紹介されている従来型の電解液、つまり、有機溶媒としてのECと金属塩としてのLiPFと添加剤としてLiFSAとを含有する従来の電解液では、Sは有機溶媒の分解物に取り込まれる。このためSは、負極皮膜及び/又は正極皮膜中においてCS(p、qはそれぞれ独立した整数)等のイオンとして存在すると考えられる。これに対して、表29〜表31に示すように、本発明のS,O含有皮膜から検出されたSを含有するフラグメントは、CSフラグメントではなくアニオン構造を反映したフラグメントが主体である。このことからも、本発明のS,O含有皮膜が従来の非水電解質二次電池に形成される皮膜とは根本的に異なることが明らかになる。
(電池A1)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
径13.82mm、面積1.5cm、厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を作用極とし、対極は金属Liとした。セパレータは、厚み400μmのWhatmanガラスフィルター不織布:品番1825−055を用いた。
作用極、対極、セパレータおよび実施例6の電解液を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これを電池A1のハーフセルとした。
(電池A2)
電解液E11を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池A2のハーフセルを作製した。
(電池A3)
電解液E16を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池A3のハーフセルを作製した。
(電池A4)
電解液E19を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池A4のハーフセルを作製した。
(電池A5)
電解液E13を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池A5のハーフセルを作製した。
(電池AC1)
電解液C5を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池AC1のハーフセルを作製した。
(電池AC2)
電池C6を用いた以外は、電池A1のハーフセルと同様にして、電池AC2のハーフセルを作製した。
(評価例23:作用極Alでのサイクリックボルタンメトリー評価)
電池A1〜電池A4及び電池AC1のハーフセルに対して、3.1V〜4.6V、1mV/sの条件で5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.1V〜5.1V、1mV/sの条件で5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。電池A1〜電池A4及び電池AC1のハーフセルに対する電位と応答電流との関係を示すグラフを図65〜図73に示す。
また、電池A2、電池A5及び電池AC2のハーフセルに対して、3.0V〜4.5V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.0V〜5.0V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。電池A2、電池A5及び電池AC2のハーフセルに対する電位と応答電流との関係を示すグラフを図74〜図79に示す。
図73から、電池AC1のハーフセルでは、2サイクル以降も3.1Vから4.6Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大しているのがわかる。また、図78及び図79から、電池AC2のハーフセルにおいても同様に、2サイクル以降も3.0Vから4.5Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大している。この電流は、作用極のアルミニウムが腐食したことによるAlの酸化電流と推定される。
他方、図65〜図72から、電池A1〜電池A4のハーフセルでは2サイクル以降は3.1Vから4.6Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。4.3V以上では電位上昇に伴いわずかに電流の増大が観察されるものの、サイクルを繰り返すに従い、電流の量は減少し、定常状態に向かった。特に、電池A1〜電池A4のハーフセルは、高電位である5.1Vまで電流の顕著な増大が観察されず、しかも、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
また、図74〜図77から、電池A2及び電池A5のハーフセルにおいても同様に、2サイクル以降は3.0Vから4.5Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。特に3サイクル目以降では4.5Vに至るまで電流の増大はほぼない。そして、電池A5のハーフセルでは高電位となる4.5V以降に電流の増大がみられるが、これは電池AC2のハーフセルにおける4.5V以降の電流値に比べると遙かに小さい値である。電池A2のハーフセルについては、4.5V以降も5.0Vに至るまで電流の増大はほぼなく、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
サイクリックボルタンメトリー評価の結果から、5Vを超える高電位条件でも、電解液E8、電解液E11、電解液E16及び電解液E19の各電解液のアルミニウムに対する腐食性は低いといえる。すなわち、電解液E8、電解液E11、電解液E16及び電解液E19の各電解液は、集電体などにアルミニウムを用いた電池に対し、好適な電解液といえる。
本発明の電解液として、以下の電解液を具体的に挙げる。なお、以下の電解液には、既述のものも含まれている。
(電解液A)
本発明の電解液を以下のとおり製造した。
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CFSONLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CFSONLiを加えた時点で(CFSONLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CFSONLiを溶解させた。約15gの(CFSONLiを加えた時点で(CFSONLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CFSONLiは溶解した。さらに(CFSONLiを徐々に加え、所定の(CFSONLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CFSONLiは18.38gであった。これを電解液Aとした。電解液Aにおける(CFSONLiの濃度は3.2mol/Lであり、密度は1.39g/cmであった。密度は20℃で測定した。
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
(電解液B)
電解液Aと同様の方法で、(CFSONLiの濃度が2.8mol/Lであり、密度が1.36g/cmである、電解液Bを製造した。
(電解液C)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CFSONLiを徐々に加え、溶解させた。所定の(CFSONLiを加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液Cとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Cは、(CFSONLiの濃度が4.2mol/Lであり、密度が1.52g/cmであった。
(電解液D)
電解液Cと同様の方法で、(CFSONLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.31g/cmである、電解液Dを製造した。
(電解液E)
有機溶媒としてスルホランを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CFSONLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.57g/cmである、電解液Eを製造した。
(電解液F)
有機溶媒としてジメチルスルホキシドを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CFSONLiの濃度が3.2mol/Lであり、密度が1.49g/cmである、電解液Fを製造した。
(電解液G)
リチウム塩として(FSONLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(FSONLiの濃度が4.0mol/Lであり、密度が1.33g/cmである、電解液Gを製造した。
(電解液H)
電解液Gと同様の方法で、(FSONLiの濃度が3.6mol/Lであり、密度が1.29g/cmである、電解液Hを製造した。
(電解液I)
電解液Gと同様の方法で、(FSONLiの濃度が2.4mol/Lであり、密度が1.18g/cmである、電解液Iを製造した。
(電解液J)
有機溶媒としてアセトニトリルを用いた以外は、電解液Gと同様の方法で、(FSONLiの濃度が5.0mol/Lであり、密度が1.40g/cmである、電解液Jを製造した。
(電解液K)
電解液Jと同様の方法で、(FSONLiの濃度が4.5mol/Lであり、密度が1.34g/cmである、電解液Kを製造した。
(電解液L)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液Lとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Lにおける(FSONLiの濃度は3.9mol/Lであり、電解液Lの密度は1.44g/cmであった。
(電解液M)
電解液Lと同様の方法で、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lであり、密度が1.36g/cmである、電解液Mを製造した。
(電解液N)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液Nとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Nにおける(FSONLiの濃度は3.4mol/Lであり、電解液Nの密度は1.35g/cmであった。
(電解液O)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSONLiを徐々に加え、溶解させた。(FSONLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液Oとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
電解液Oにおける(FSONLiの濃度は3.0mol/Lであり、電解液Oの密度は1.29g/cmであった。
表32に上記電解液の一覧を示す。

Claims (4)

  1. 正極と負極と電解液とを有する非水系二次電池であって、
    前記正極は、アルミニウム製の正極集電体と、リチウム基準4V以上の電位で充放電を行う層状岩塩構造をもつNi含有リチウム金属複合酸化物を有する正極活物質をもち、
    前記電解液は、リチウムをカチオンとする金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含み、
    前記有機溶媒が、ニトリル類、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテルから選択されるエーテル類、プロピレンカーボネート、アミド類、イソシアネート類、エステル類、エポキシ類、オキサゾール類、ケトン類、酸無水物、スルホン類、スルホキシド類、ニトロ類、フラン類、環状エステル類、芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン、リン酸エステル類、又は、下記一般式(10)で示される鎖状カーボネートであり、
    19OCOOR20 一般式(10)
    (R19、R20は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nはそれぞれ独立に1以上の整数であり、mはそれぞれ独立に3以上の整数であり、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
    前記金属塩のアニオンの化学構造が下記一般式(7)で表され、
    (R13SO)(R14SO)N 一般式(7)
    (R13、R14は、それぞれ独立に、CClBrである。
    n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
    また、R13とR14は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。
    nは0〜6の整数。上記R13とR14が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数。)
    前記電解液において、前記金属塩1モルに対する前記有機溶媒のモル範囲が、1.4モル以上3.5モル未満であることを特徴とする非水系二次電池(ただし、前記金属塩としてLiN(SOCF及び前記有機溶媒として1,2−ジアルコキシエタンを含む電解液を有するものを除く。)。
  2. 正極と負極と電解液とを有する非水系二次電池であって、
    前記正極は、アルミニウム製の正極集電体と、リチウム基準4V以上の電位で充放電を行う層状岩塩構造をもつNi含有リチウム金属複合酸化物を有する正極活物質をもち、
    前記電解液は、リチウムをカチオンとする金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含み、
    前記有機溶媒が、ニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテルから選択されるエーテル類、カーボネート類、アミド類、イソシアネート類、エステル類、エポキシ類、オキサゾール類、ケトン類、酸無水物、スルホン類、スルホキシド類、ニトロ類、フラン類、環状エステル類、芳香族複素環類、複素環類、又は、リン酸エステル類であり、
    前記金属塩のアニオンの化学構造が下記一般式(7)で表され、
    (R13SO)(R14SO)N 一般式(7)
    (R13、R14は、それぞれ独立に、CClBrである。
    n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
    また、R13とR14は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。
    nは0〜6の整数。上記R13とR14が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数。)
    前記電解液の粘度η(mPa・s)が10<η<500の範囲内であることを特徴とする非水系二次電池(ただし、前記有機溶媒として含フッ素ラクトンを含む電解液を有するもの、又は、前記金属塩としてLiN(SOCF及び前記有機溶媒として1,2−ジアルコキシエタンを含む電解液を有するものを除く。)。
  3. 正極と負極と電解液とを有する非水系二次電池であって、
    前記正極は、アルミニウム製の正極集電体と、リチウム基準4V以上の電位で充放電を行う層状岩塩構造をもつNi含有リチウム金属複合酸化物を有する正極活物質をもち、
    前記電解液は、リチウムをカチオンとする金属塩と、ヘテロ元素を有する有機溶媒とを含み、
    前記電解液が、
    前記金属塩として(CFSONLi及び前記有機溶媒としてアセトニトリルを含み、(CFSONLiの濃度が3.2〜4.9mol/Lである
    記金属塩として(FSONLi及び前記有機溶媒としてアセトニトリルを含み、(FSONLiの濃度が3.9〜6.0mol/Lである、
    前記金属塩として(FSONLi及び前記有機溶媒としてジメチルカーボネートを含み、(FSONLiの濃度が2.3〜4.5mol/Lである(ただし、(FSONLiの濃度が2.5mol/L以下のものを除く。)、
    前記金属塩として(FSONLi及び前記有機溶媒としてエチルメチルカーボネートを含み、(FSONLiの濃度が2.0〜3.8mol/Lである(ただし、(FSONLiの濃度が2.5mol/L以下のものを除く。)、
    又は、
    前記金属塩として(FSONLi及び前記有機溶媒としてジエチルカーボネートを含み、(FSONLiの濃度が1.8〜3.6mol/Lである(ただし、(FSONLiの濃度が2.5mol/L以下のものを除く。)、
    ことを特徴とする非水系二次電池。
  4. 正極と負極と電解液とを有する非水系二次電池であって、
    前記正極は、層状岩塩構造をもつリチウム金属複合酸化物を有する正極活物質をもち、
    前記電解液は(FSO NLi及び1,2−ジメトキシエタンを含み、(FSO NLiの濃度が2.6〜4.1mol/Lである、ことを特徴とする非水系二次電池。
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