以下においては、説明の便宜上、横型電極構成を有する半導体発光素子の半導体構造層におけるp電極及びn電極が形成された主面を電極形成面、その反対側の主面を対向面と称する。また、電極形成面におけるp電極とn電極との間の領域を電極間領域、電極間領域に対向する対向面上の領域を対向領域と称する。
以下の実施例においては、半導体発光素子が上面視において正方形の半導体構造層を有する場合、すなわち半導体構造層の電極形成面及び対向面が正方形の形状を有する場合について説明する。また、発光素子は電極形成面を実装基板等への設置面とする、いわゆるフリップチップ型の実装形態を適用した場合について説明する。しかし、半導体構造層の形状及び電極の位置関係及び発光素子の実装形態は上記に限定されるものではない。
本発明は、n電極とp電極との間の半導体構造層内の電流路に対し、半導体構造層の面内方向(半導体構造層に平行な平面内の方向)において相対的に高い電気抵抗を有する高抵抗方向と低い電気抵抗を有する低抵抗方向とが存在することに着目してなされたものである。本発明による種々の実施例及びその変形例に係る半導体発光素子は、半導体構造層内に、当該高抵抗方向及び低抵抗方向に沿った電流路の合計の長さ、すなわち各方向の電気抵抗に応じた異なる電流路の開口(aperture又はopening)を形成するトレンチを有している。当該電流路の開口は、トレンチによって電流路が狭窄されて形成される電流路狭窄部である。当該トレンチは、電流路の開口を小さくすることで特定の電流拡散方向に沿った電流路に対して任意の電気抵抗を付加し、各電流路に分配する電流の量を制御する。
以下、図10(a)を用いて、高抵抗方向、低抵抗方向、高抵抗方向領域及び低抵抗方向領域について簡単に説明する。なお、図10(a)は、後述する実施例1に係る半導体発光素子10の上面視における半導体構造層11、p電極14及びn電極15を模式的に示している。
まず、半導体構造層11の上面視において、n電極15とp電極14上のn電極15からの最遠点との間の異なる2方向の直線を決定する。そして、当該2つの直線のうち、その直線距離が大きい方の方向を高抵抗方向HD、小さい方の方向を低抵抗方向LDと区別する。
具体的には、半導体構造層11が上面視において正方形の形状を有し、図10(a)に示すような電極構成の場合、電極間における半導体構造層11の面内方向における直線距離は、辺方向が最も短く、対角方向が最も長い。すなわち、対角方向におけるp電極14の最遠点とn電極との間の直線距離は、辺方向におけるp電極14の最遠点とn電極との間の直線距離よりも長い。従って、辺方向よりも対角方向の方が、より広範囲にわたって電流を分配しなければならず、総電気抵抗値は高くなる。従って、電極間の電流の方向は、半導体構造層11の面内方向において、辺方向が低抵抗方向LD、対角方向が高抵抗方向HDと区別することができる。
また、図10(b)に示すように、半導体構造層11は、低抵抗方向LDに沿った相対的に低い電気抵抗を有する電流路の領域である低抵抗方向領域11L、高抵抗方向HDに沿った相対的に低い電気抵抗を有する電流路の領域である高抵抗方向領域11Hに区画することができる。
以下において、図を参照しつつ本発明の実施例に係る半導体発光素子におけるトレンチについて具体的に説明する。
図1(a)は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子10の斜視図である。半導体発光素子10は、半導体構造層11の同一主面側にp電極(第1の電極)14及びn電極(第2の電極)15の両方が形成された横型電極構成を有している。以下においては、説明の便宜上、p電極14及びn電極15が形成されている側の半導体構造層11の主面を電極形成面(第1の主面)12、電極形成面12の反対側の半導体構造層11の主面を対向面(第2の主面)13と称する。電極形成面12及び対向面13は、例えば一辺が350μm又は1mmの長さを有する正方形の形状を有する。
図1(a)を参照すると、半導体発光素子10は、電極形成面12のp電極14とn電極15との間の領域(電極間領域)12Aとその対向する対向面13の領域(対向領域)13Aとの間に設けられた半導体構造層11の電極間内部領域(以下、単に内部領域と称する)11Aに、第1トレンチ16及び第2トレンチ17を有している。
第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、半導体構造層11内におけるp電極14とn電極15との間の電流に対し、半導体構造層11の面内方向において異なる電気抵抗を有する2方向のうち、相対的に高い電気抵抗を有する高抵抗方向HDと低い電気抵抗を有する低抵抗方向LDとの間で電流路の開口の大きさが異なるように構成されている。
第1トレンチ16は、低抵抗方向LDにおいて、電極形成面12の電極間領域12Aから対向面13の対向領域13Aに向かって形成されている。第2トレンチ17は、高抵抗方向HDにおいて、電極間領域12Aから対向領域13Aに向かって形成されている。第2トレンチ17は、第1トレンチ16よりも浅く形成されている。
第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、それぞれ半導体構造層11における電極形成面12の電極間領域12Aに形成された凹部からなる。第1トレンチ16及び第2トレンチ17、例えば、フォトリソグラフィによって電極形成面12上にパターニングが施されたマスクを成膜し、反応性イオンエッチングなどの既知の加工方法によって凹部を形成した後、マスクを除去することによって形成される。
具体的には、まず第2トレンチ17の深さに対応するトレンチを上記手法によって電極形成面12の電極間領域12Aに形成する。この際、第1トレンチ16を形成する位置にも第2トレンチ17と同じ深さを有するトレンチが形成される。その後、フォトリソグラフィによって第1トレンチ16を形成する位置に対応するマスクを形成し、エッチングによって第1トレンチ16の深さに至るまで半導体構造層11を加工し、マスクを除去する。第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、例えばこのように2つのプロセスによって形成することができる。
なお、第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、マスクの開口部の幅を変えることによって、1つのプロセスによって形成することができる。具体的には、半導体構造層11の電極形成面12に、第1トレンチ16に対応する開口部の幅が第2トレンチ17に対応する開口部の幅よりも小さくなるように構成されたマスクを成膜する。当該マスクの開口部の幅が小さい部分(第1トレンチ16を形成する部分)は、開口部の幅が大きい部分(第2トレンチ17を形成する部分)よりもエッチングが速く進む。従って、上記したようなマスクを用いてエッチングを行うと、第1トレンチ16及び第2トレンチ17(深さの異なるトレンチ)が1つのプロセスによって形成される。
なお、上記した開口部の幅が異なるマスクを使用して第1トレンチ16及び第2トレンチ17を形成する場合、形成される第1トレンチ16と第2トレンチ17との幅が異なる場合がある。しかし、半導体構造層11の電流路を当該トレンチによって部分的に遮断する機能を果たすことができれば、トレンチの幅は異なっていても良い。従って、上記した1つのプロセスに限らず、2つのプロセスによってトレンチを形成する場合においても、トレンチの幅は異なっていても良い。
図1(a)に示すように、第1トレンチ16は、その側面において第2トレンチ17の側面に接続されている。すなわち、第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、電極間領域12Aに形成され、かつ低抵抗方向LDと高抵抗方向HDとで深さが異なる一連の電極側トレンチを形成している。
図1(b)は、図1(a)において、半導体発光素子10を面OPQRに沿って切断したときの断面図を示している。なお、面OPQRは、半導体構造層11の辺方向に沿った平面である。なお、後述する面STUVは、半導体構造層11の対角方向に沿った平面である。面OPQR及び面STUVは、図1(a)の一点鎖線によって囲まれた平面である。
まず、図1(b)を参照して、半導体構造層11、p電極14及びn電極15について説明する。半導体構造層11は、図1(b)の断面図に示されているように、発光層19がn型半導体層(第2の半導体層)18とp型半導体層(第1の半導体層)20との間に形成された構造を有している。半導体構造層11は、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)の組成を有している。例えば、n型半導体層18はn−GaN層、p型半導体層20はp−GaN層からなり、n型半導体層18及びp型半導体層20は、それぞれ5μm及び150nmの層厚を有している。以下においては、半導体構造層11の電極形成面12がp型半導体層20の表面からなり、対向面13がn型半導体層18の表面からなる場合について説明する。
p電極14は、半導体構造層11の電極形成面12上に形成されている。p電極14は、例えば、p型半導体層20上にフォトリソグラフィを用いてマスク材料のパターニングを行い、スパッタ法などにより電極材料を形成した後、マスクを除去することによって形成される。p電極15は、既知の電極材料、例えば、Al、Pt、Ag、Rh、Auなどを用いて形成される。
n電極15は、半導体構造層11の電極形成面12側に形成されており、電極形成面12からp型半導体層20及び発光層19を貫通し、n型半導体層18に接続されている。n電極15は、例えば、半導体構造層11のp型半導体層20上にp電極14が形成されない領域を設け、当該領域において、p型半導体層20の表面からp型半導体層20及び発光層19を貫通してn型半導体層18に至る開口部を形成した後、当該開口部に電極材料を形成することによって形成される。n電極15は、p電極14と同様の材料を用いて形成される。
図1(b)は、半導体発光素子10の低抵抗方向LDにおける断面図を示している。低抵抗方向LDにおいては、半導体構造層11における電極形成面12の電極間領域12Aから対向面13の対向領域13Aに向かって第1トレンチ16が形成されている。第1トレンチ16は、電極形成面12の電極間領域12Aからp型半導体層20及び発光層19を貫通してn型半導体層18の一部に至る深さで形成されている。低抵抗方向LDにおける電流路の開口AP1は、第1トレンチ16及び対向面13によって形成される。
図1(c)は、図1(a)において、半導体発光素子10を面STUVに沿って切断したときの断面図を示している。図1(c)は、半導体発光素子10の高抵抗方向HDにおける断面図を示している。高抵抗方向HDにおいては、電極間領域12Aから対向領域13Aに向かって第2トレンチ17が形成されている。第2トレンチ17は、第1トレンチ16よりも浅く形成されている。第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、その底部が半導体構造層11とn電極15との接触面15Bよりも対向面13側に形成されるように構成されている。高抵抗方向HDにおける電流路の開口AP2は、第2トレンチ17及び対向面13によって形成される。
なお、上記した開口AP1及びAP2については、その開口部、すなわち、トレンチによって電流路が狭窄されて形成される電流路狭窄部の大きさによって電流路の電気抵抗値が変化する。例えば、開口が大きい(開口が広い)ほど開口の電気抵抗は低い。
図2は、半導体発光素子10の電極形成面12を電極形成面12に垂直な方向から見たとき、すなわち電極形成面12の上面視における平面図を示している。図2に示すように、半導体構造層11の電極間内部領域11Aは、低抵抗方向LDに沿った相対的に低い電気抵抗を有する領域である低抵抗方向領域11ALと、高抵抗方向HDに沿った相対的に高い電気抵抗を有する領域である高抵抗方向領域11AHと、に区画される。第1トレンチ16は、この低抵抗方向領域11ALに亘って形成され、第2トレンチ17は高抵抗方向領域11AHに亘って形成されている。また、第2トレンチ17は、第1トレンチ17及び第2トレンチ18によって形成される電流路の開口部における電気抵抗値が低抵抗方向領域11ALにおいて大となるような位置及び深さで形成されている。また、第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、全体として電極形成面12におけるn電極15の形成領域15Aを囲むように形成されている。
図3(a)は、低抵抗方向LDにおける半導体構造層11内の電流路を説明する図である。図3(a)及び後述する図3(b)は、図1(b)及び図1(c)と同様の断面図であるが、電流路の説明のためにハッチングを省略してある。また、電流路の一例を破線で示している。実際の発光素子では電流路の始点はp電極14上に無数に、また連続して存在するが、説明の容易さのため、p電極14上に任意の間隔で存在する複数の電流路を取り上げて説明する。
図3(a)に図示した電流路C1及び図3(b)に図示した電流路C3は、それぞれ低抵抗方向LD及び高抵抗方向HDにおけるn電極15に最も近いp電極14上の点からn電極15に向かう電流路を模式的に示している。同様に、図3(a)に図示した電流路C2及び図3(b)に図示した電流路C4は、それぞれ低抵抗方向LD及び高抵抗方向HDにおけるn電極15から最も遠いp電極14上の点からn電極15に向かう電流路を模式的に示している。
低抵抗方向LDにおいては、相対的に深い第1トレンチ16が成されている。このため、半導体構造層11内の電流路の開口が小さくなり、開口AP1を通過する電流路C1及びC2の電気抵抗は大きくなる。
図3(b)は、高抵抗方向HDにおける半導体構造層11内の電流路を説明する図である。高抵抗方向HDには、相対的に浅い第2トレンチ17が形成されている。従って、高抵抗方向HDにおける電流路の開口AP2は、低抵抗方向LDにおける開口AP1よりも大きい。このため、高抵抗方向HDには低抵抗方向LDに比べて電流路の開口部における電気抵抗値が低く、大きな電流が流れやすい。
換言すれば、電流路C1から電流路C2の狭い範囲で電流が分配される低抵抗方向LDには流れる電流量が少なく、電流路C3から電流路C5までの広い範囲で電流が分配される高抵抗方向HDには流れる電流量が大きい。従って、低抵抗方向LDと高抵抗方向HDの各電流路における電流量をほぼ同等となるように開口AP1と開口AP2の大きさを調整することが可能となる。
上記したように、半導体発光素子10の第1トレンチ16及び第2トレンチ17は、発光層19を含む半導体構造層11内におけるp電極14からn電極15に向かう電流路の面内方向における方向のうち、相対的に高い電気抵抗を有する高抵抗方向HDと低い電気抵抗を有する低抵抗方向LDとの間で電流路の開口の大きさが異なるように形成されている。従って、発光層19の全体に均一に電流を分配することができ、面内方向において均一な発光強度を有する光を発光層19から放出させることができる。
また、第1トレンチ及び第2トレンチの各々の深さを、例えば素子の形状や使用する電流量に応じて制御することができる。従って、高出力の使用用途だけでなく、比較的低パワーの発光素子(例えば一辺が350μmの正方形の形状を有する発光素子を20mAの定格電流にて使用する場合)においても高い電流の面内均一性を実現することができる。
また、トレンチの深さを制御することによって、低抵抗方向LD上の電流路と高抵抗方向HD上の電流路との間の電気抵抗の差を低減することができる。従って、発光素子の発光効率が上昇し、駆動電圧を低下させる又は駆動電圧の上昇を最小限に抑えることができる。
なお、本実施例においては、第1トレンチ16及び第2トレンチ17が凹部からなる場合について説明したが、第1トレンチ16又は第2トレンチ17の凹部には、絶縁材料、例えばSiO2及びSiNが充填されていてもよい。
本実施例の変形例として、半導体発光素子10Aの低抵抗方向LD及び高抵抗方向HDにおける断面図をそれぞれ図4(a)及び(b)に示す。半導体発光素子10Aは、それぞれ第1トレンチ及び第2トレンチの凹部に絶縁材料が充填された第1絶縁部22及び第2絶縁部23を有することを除いては実施例1の半導体発光素子10と同様の構成を有している。
本変形例においては、第1トレンチ16及び第2トレンチ17を構成する凹部に絶縁材料が充填(埋設)されている。従って、例えば、素子製造中の埃、水分、金属粉などが第1トレンチ及び第2トレンチに侵入することがない。従って、品質の高い半導体発光素子を提供することができる。なお、本変形例は、本実施例(実施例1)のみならず、後述する他の実施例及び変形例におけるトレンチにも適用することができる。
図5(a)は、本発明の実施例2に係る半導体発光素子30の斜視図である。半導体発光素子30は、トレンチの構成を除いては実施例1の半導体発光素子10と同様の構成を有している。半導体構造層31、p電極34及びn電極35は、半導体発光素子10における半導体構造層11、p電極14及びn電極15とそれぞれ同様の構成を有している。
半導体発光素子30は、実施例1の第1トレンチ16及び第2トレンチ17と同様の第1トレンチ36及び第2のトレンチ37に加え、対向面33の対向領域33Aから電極形勢面32の電極間領域32Aに向かって形成された第3トレンチ38及び第4トレンチ39を有している。第3トレンチ38は低抵抗方向LD(低抵抗方向領域)において電極形成面32におけるn電極35の形成領域35Aを囲むように形成されており、第4トレンチ39は高抵抗方向HD(高抵抗方向領域)において電極形成面32におけるn電極35の形成領域35Aを囲むように形成されている。第3トレンチ38は、低抵抗方向LDにおける電流路の一部を貫通するように形成されており、第4トレンチ39は高抵抗方向HDにおける電流路の一部を貫通するように形成されている。第3トレンチ38及び第4トレンチ39は、第1トレンチ36及び第2トレンチ37と同様の手法を用いて対向領域33Aに形成された凹部からなる。
図5(a)に示すように、第3トレンチ38は、その側面において第4トレンチ39の側面に接続されている。すなわち、第3トレンチ38及び第4トレンチ39は、対向領域33Aに形成され、かつ低抵抗方向LDと高抵抗方向HDとで一連のトレンチを形成している。従って、本実施例の半導体発光素子30は、電極間領域32Aから対向領域33Aに向かって異なる深さで形成された一連の電極側トレンチ(第1トレンチ36及び第2トレンチ37)と、対向領域33Aから電極間領域32Aに向かって形成された一連の対向面側トレンチ(第3トレンチ38及び第4トレンチ39)と、を有している。
図5(b)は、半導体発光素子30の低抵抗方向LDにおける断面図である。半導体発光素子30は、低抵抗方向LDにおいては、第1トレンチ36及び第3トレンチ38を有している。第3トレンチ38は、半導体構造層31の面内方向において第1トレンチ36に重なるように形成されている。半導体構造層31の電極間内部領域31Aは、低抵抗方向LDにおいては、第1トレンチ36及び第3トレンチ38によって形成された相対的に小さな開口AP1を有している。
図5(c)は、半導体発光素子30の高抵抗方向HDにおける断面図である。半導体発光素子30は、高抵抗方向HDにおいては、第2トレンチ37及び第4トレンチ39を有している。第2トレンチ37は第1トレンチ36よりも浅く形成され、第4トレンチ39は第3トレンチ38と同一の深さで形成されている。第4トレンチ39は、半導体構造層31の面内方向において第2トレンチ37に重なるように形成されている。半導体構造層31の電極間内部領域31Aは、高抵抗方向HDにおいては、第2トレンチ37及び第4トレンチ39によって形成された相対的に大きな開口AP2を有している。すなわち、高抵抗方向HDにおける電流路の開口AP2は、低抵抗方向LDにおける電流路の開口AP1よりも大きい。換言すれば、高抵抗方向領域における第2トレンチ37及び第4トレンチ39によって電流路が狭窄されて形成される電流路狭窄部は、低抵抗方向領域における第1トレンチ36及び第3トレンチ38によって形成される電流路狭窄部よりも大きい。
半導体発光素子30は、電極間領域32Aに形成された第1トレンチ36及び第2トレンチ37と、対向領域33Aに形成された第3トレンチ38及び第4トレンチ39を有している。従って、トレンチによって形成された電流路の開口の大きさ、特に低抵抗方向(低抵抗方向領域)と高抵抗方向(高抵抗方向領域)との間の電流路の開口(電流路狭窄部)の大きさの差を容易に制御することができる。
本実施例においては、第3トレンチ38及び第4トレンチ39が電極間内部領域31Aに形成される場合について説明したが、第3トレンチ及び第4トレンチは、電極間内部領域31Aに形成されていなくてもよい。第3トレンチ及び第4トレンチは、対向面33の半導体構造層31の面内方向においてp電極34に重ならないような位置に形成されていることが好ましい。例えば、第3トレンチ又は第4トレンチは、半導体構造層31の面内方向においてn電極35に重なるように対向面33から電極形成面32に向かって形成されていてもよい。また、第3トレンチ又は第4トレンチは、第1トレンチ及び第2トレンチよりも面内方向においてp電極34側に形成されていてもよい。
また、本実施例においては、第3トレンチ及び第4トレンチが同じ形成深さを有する場合について説明したが、第3トレンチと第4トレンチとで形成深さが異なっていても、開口AP2が開口AP1よりも大きければよい。例えば、第3トレンチは第4トレンチよりも深く又は浅く形成されていてもよい。これにより高抵抗領域により多くの電流を分配でき、高抵抗領域と低抵抗領域との電気抵抗の差が大きい(例えば上面視で長方形の)発光素子に対して有効である。
また、本実施例においては、第3トレンチ及び第4トレンチが半導体構造層の面内方向においてそれぞれ第1トレンチ及び第2トレンチに重なるように形成される場合について説明したため、第3トレンチ及び第4トレンチはいずれも第1トレンチの底部を越えない形成深さを有している。しかし、第3トレンチ及び第4トレンチがそれぞれ第1トレンチ及び第2トレンチの直上以外の領域に形成される場合、第3トレンチ及び第4トレンチは、第1トレンチ又は第2トレンチの底部を越えて形成されていてもよい。例えば、第3トレンチ及び第4トレンチは、第1トレンチの底部を越えて形成されていてもよい。すなわち、第3トレンチ及び第4トレンチの底部が第1トレンチの底部よりも電極形成面側に形成されていてもよい。
また、本実施例においては、第3トレンチ及び第4トレンチの両方が形成される場合について説明したが、第3トレンチ及び第4トレンチの両方が形成される必要はない。例えば、低抵抗方向LDと高抵抗方向HDとの間で所望の大きさ及びその差を有する開口を構成することができる場合、第3トレンチ又は第4トレンチが形成されなくてもよい。すなわち、第3トレンチ又は第4トレンチの深さはゼロであってもよい。
上記した第3トレンチ及び第4トレンチの変形例の一例(変形例1)として、半導体構造層31の上面視においてn電極に重なるように対向面33に形成され、かつ第1トレンチ16及び第2トレンチ17の底部を越えて形成された第3トレンチ38A及び第4トレンチ39Aを有する半導体発光素子30Aの斜視図を図6(a)に示す。半導体発光素子30Aは、第3トレンチ及び第4トレンチの位置及び深さを除いては半導体発光素子30と同様の構成を有している。第3トレンチ38Aは低抵抗方向LDにおける電流路の一部を貫通するように、第4トレンチ39Aは高抵抗方向HDにおける電流路の一部を貫通するように形成されている。
半導体発光素子30Aの面内方向における第1トレンチ36、第2トレンチ37、第3トレンチ38A及び第4トレンチ39Aの位置関係を図6(b)に示す。図6(b)は、半導体発光素子30Aの上面視における半導体構造層31及び各トレンチを示した図である。理解の容易さのため、n電極34及びp電極35を破線で示し、各トレンチにはハッチングを施してある。図6(b)に示すように、第3トレンチ38A及び第4トレンチ39Aは、半導体構造層31の上面視においてn電極35に重なるような対向面33上の位置に形成されている。また、第1トレンチ36と第3トレンチ38Aとの間の面内方向における距離D1は、第2トレンチ37と第4トレンチ39Aとの間の上面視における距離D2よりも小さい。
また、第3トレンチ及び第4トレンチの他の変形例(変形例2)による半導体発光素子30Bの斜視図を図7(a)に示す。半導体発光素子30Bは、第3トレンチ及び第4トレンチの構成を除いては半導体発光素子30と同様の構成を有している。半導体発光素子30Bは、半導体構造層31の面内方向においてそれぞれ第1トレンチ36及び第2トレンチ37よりもp電極34に近い側に形成され、互いに異なる深さを有する第3トレンチ38B及び第4トレンチ39Bを有している。
図7(a)に示すように、第3トレンチ38Bは、半導体構造層31の面内方向において第1トレンチ36よりもp電極34に近い側の対向面33に、第1トレンチ36の底部を越えて形成されている。第4トレンチ39Bは、半導体構造層31の面内方向において第2トレンチ37よりもp電極34に近い側の対向面33に、第2トレンチ37の底部を越えて形成されている。第4トレンチ39Bは第3トレンチ38Bよりも深く形成されている。
半導体発光素子30Bの面内方向における第1トレンチ36、第2トレンチ37、第3トレンチ38B及び第4トレンチ39Bの位置関係を図7(b)に示す。図7(b)は、半導体発光素子30Bにおける図6(b)と同様の図である。各トレンチの領域にはハッチングが施してある。図7(b)に示すように、第3トレンチ38B及び第4トレンチ39Bは、それぞれ第1トレンチ36及び第2トレンチ37よりも上面視においてp電極34に近い側に、かつ上面視においてp電極34に重ならないように形成されている。また、第4トレンチ39Bの第2トレンチ37からの面内方向における距離D1は、第3トレンチ38Bの第1トレンチ36からの面内方向における距離D2よりも小さい。
本実施例及び変形例においては、高抵抗方向HDにおける第2トレンチ及び第4トレンチによって形成される電流路の開口AP2は、低抵抗方向LDにおける第1トレンチ及び第3トレンチによって形成される電流路の開口AP1よりも大きく形成されている。換言すれば、第3トレンチ及び第4トレンチは、第1トレンチ及び第3トレンチによって形成される低抵抗方向領域の電流路の開口における電気抵抗値が、第2トレンチ及び第4トレンチによって形成される高抵抗方向領域の電流路の開口における電気抵抗値よりも大きくなるような位置及び深さで形成されている。従って、高抵抗方向HDに低抵抗方向LDよりも大きな電流を供給することができ、発光層の全体に均一に電流を分配することができる。
また、本変形例においては、第1トレンチ及び第3トレンチ、並びに第2トレンチ及び第4トレンチの形成位置を正確に合わせる必要がない。従って、設計自由度が増すとともに、製造の容易性が向上し、歩留りの低下を図ることができる。
なお、図示及び説明した第3トレンチ及び第4トレンチの形成位置及び形成深さは例示に過ぎず、他の構成及びその組合せも適用することが可能である。
図8(a)は、本発明の実施例3に係る半導体発光素子50の斜視図である。半導体発光素子50は、トレンチの構成を除いては実施例1の半導体発光素子10と同様の構成を有している。半導体構造層51、p電極54及びn電極55は、半導体発光素子10における半導体構造層11、p電極14及びn電極15とそれぞれ同様の構成を有している。
半導体発光素子50は、実施例1の第1トレンチ17及び第2トレンチ18と同様の第1トレンチ57及び第2トレンチ58と、実施例2の第3トレンチ38及び第4トレンチ39と同様の第3トレンチ58及び第4トレンチ59と、を有している。さらに、半導体発光素子50は、電極間領域52Aの面内方向においてそれぞれ第3トレンチ58とp電極54との間及び第4トレンチ59とp電極54との間の領域(それぞれ領域52B及び52C)から、対向面53(対向領域53A)に向かって形成された第5トレンチ60及び第6トレンチ61を有している。第5トレンチ60は低抵抗方向LD(低抵抗方向領域)において電極形成面52におけるn電極55の形成領域55Aを囲むように形成されており、第6トレンチ61は高抵抗方向HD(高抵抗方向領域)において電極形成面52におけるn電極55の形成領域55Aを囲むように形成されている。第5トレンチ60及び第6トレンチ61は、発光層19を貫通する深さを有している。
第5トレンチ60は、その側面において第6トレンチ61の側面に接続されている。すなわち、第5トレンチ60及び第6トレンチ61は、電極間領域52Aに形成され、かつ低抵抗方向LDと高抵抗方向HDとで一連のトレンチを形成している。従って、本実施例の半導体発光素子50は、電極間領域52Aから対向領域53Aに向かって異なる深さで形成された一連の第1の電極側トレンチ(第1トレンチ56及び第2トレンチ57)と、対向領域53Aから電極間領域52Aに向かって形成された一連の対向面側トレンチ(第3トレンチ58及び第4トレンチ59)と、電極間領域52Aにおける対向面側トレンチ(第3トレンチ58及び第4トレンチ59)とp電極54との間の領域から対向領域53Aに向かって形成された第2の電極側トレンチと、を有している。
なお、本実施例においては、第3トレンチ58が、半導体構造層51の面内方向において第1トレンチ56とp電極54との間に形成され、かつ第1トレンチ56の底部を越えて形成されている場合について説明する。また、第4トレンチ59が、半導体構造層51の面内方向において第2トレンチ57とp電極54との間に形成され、かつ第2トレンチ57の底部を越えて形成されている場合について説明する。
図8(b)及び図8(c)に示されているように、第5トレンチ60及び第6トレンチ61は、それぞれ第3トレンチ58及び第4トレンチ59の底部を越えて形成されている。すなわち、第5トレンチ60及び第6トレンチ61の底部は、それぞれ第3トレンチ58及び第4トレンチ59の底部よりも対向面53側に形成されている。半導体構造層51を側部から見たとき、第5トレンチ60及び第6トレンチ61は、それぞれ第3トレンチ58及び第4トレンチ59に交差する。本実施例においては、第5トレンチ60及び第6トレンチ61が同一の深さを有する場合について説明する。
第5トレンチ60及び第6トレンチ61は、同一方向内におけるp電極54からn電極55に向かう電流路の電流量を均一化する機能を有している。低抵抗方向LDおよび高抵抗方向HD内であってもn電極55に近い部分とn電極55から遠い部分とでは、電流路の長さの差に起因する抵抗差から発光にも差が生じてしまう。第5トレンチ60及び第6トレンチ61は電流路を長くすることで電流路の長さの差に起因する抵抗の差の影響を相対的に小さくさせ、同一方向内における電流路のうち、n電極55に比較的近いものと遠いものの電流を均一化させている。これにより同一方向内における発光も均一化させている。
図9(a)は、半導体発光素子50の面内方向における各トレンチの位置関係を模式的に示す図である。図9(a)においては、理解の容易さのため、p電極54及びn電極55を破線で示し、各トレンチにハッチングを施してある。図9(a)に示すように、第5トレンチ60は、半導体構造層51の面内方向において第3トレンチ58とp電極54との間に形成されている。第6トレンチ61は、面内方向において第4トレンチ59とp電極54との間に形成されている。
図9(b)は、半導体発光素子50の半導体構造層51内における低抵抗方向LDの電流路を説明する図である。図9(b)及び後述する図9(c)は、それぞれ図8(b)及び図8(c)と同様の断面図であるが、理解の容易さのため、ハッチングを省略してある。また、電流路の一例を破線で示している。低抵抗方向LDにおいては、第5トレンチ60が低抵抗方向LDにおける電流路の長さの差による影響を小さくしている。従って、低抵抗方向LD内における電流供給を均一化することができる。電流(電子)は、p電極54から第5トレンチ60、第3トレンチ58及び第1トレンチ56を迂回して(各トレンチが形成されていない領域を通って)n電極55に向かって進む。
図9(c)は、半導体発光素子50の半導体構造層51内における高抵抗方向HDの電流路を説明する図である。高抵抗方向HDにおいては、第6トレンチ61が高抵抗方向HDにおける電流路の長さの差による影響を小さくしている。従って、高抵抗方向HD内における電流供給を均一化することができる。電流は、p電極54から第6トレンチ61、第4トレンチ59及び第2トレンチ57を迂回して(各トレンチが形成されていない領域を通って)n電極55に向かって進む。高抵抗方向HDにおいては、第1トレンチ56よりも浅い第2トレンチ57が形成されているため、より大きな電流が流れやすい。
上記したように、本実施例においては、低抵抗方向LDと高抵抗方向HDとの間の均一な電流供給を図るのみならず、同一方向内での均一な電流供給を図ることができる。特に長い電流路を多く有する高抵抗方向HDにおいて、第6トレンチ61が第2トレンチ57よりも深く形成でき、高抵抗方向HD内の電気抵抗差を小さくできる。従って、発光素子の発光層の全体に均一に電流を分配及び供給する高性能の発光素子を提供することができる。
なお、本実施例においては、第5トレンチ60及び第6トレンチ61が同一の深さを有する場合について説明及び図示したが、第5トレンチ60及び第6トレンチ61は互いに異なる深さを有していても良い。例えば、第6トレンチ61を第5トレンチ60より深く形成して高抵抗方向HD内の短い電流路と長い電流路の電気抵抗の差を更に小さくしてもよい。
また、本実施例においては、第3トレンチ及び第4トレンチが半導体構造層の面内方向においてそれぞれ第1トレンチ及び第2トレンチよりもp電極に近い側に形成される場合について説明したが、第3トレンチ及び第4トレンチは、面内方向においてそれぞれ第1トレンチ及び第2トレンチに重なるように形成されていてもよい。この場合、第3トレンチ及び第4トレンチは、それぞれ第1トレンチ及び第2トレンチの底部を越えない深さで(第1トレンチ及び第2トレンチに接続しないように)形成される。
上記の実施例においては、正方形の形状の主面を有する半導体構造層を有する場合について説明したが、半導体構造層の主面の形状は正方形に限定されるものではない。例えば、半導体構造層の主面は、長方形、多角形状及び円形状を有していてもよい。いずれの形状の半導体構造層を有する場合であっても、高抵抗方向と低抵抗方向との間で電流路の開口が異なるトレンチを形成することによって、発光層に均一に電流を分配することができる。従って、輝度ムラのない高発光効率の発光素子を提供することができる。
また、上記の実施例においては、半導体構造層を高抵抗方向及び低抵抗方向の2つの方向の領域に区別し、それぞれの方向領域における電流路の開口の大きさが異なるようにトレンチを形成する場合について説明したが、半導体構造層は高抵抗方向及び低抵抗方向の2つの方向に区別することに限定されない。例えば、半導体構造層を高抵抗方向、中抵抗方向及び低抵抗方向の3つの方向の領域に区画し、それぞれの方向領域において電流路の開口の大きさが異なるトレンチを形成してもよい。さらに、半導体構造層を4つ以上の方向の領域に区画した上で、より詳細に電流路の開口を制御するトレンチを形成することも可能である。方向領域の区別及び電流路の開口の大きさの制御をより厳密に行うことにより、発光層へ分配する電流の大きさをより均一化することが可能となる。
上記したように、発光層を含む半導体構造層と、半導体構造層の第1の主面側に第1の電極及び第2の電極の両方が形成されている構成を有し、半導体構造層内に第1トレンチ及び第2トレンチを有し、第1トレンチ及び第2トレンチは、第1の電極から第1の電極に向かう面内方向の電流路の方向のうち、相対的に高い電気抵抗を有する高抵抗方向と低い電気抵抗を有する低抵抗方向との間で電流路の開口の大きさが異なるように形成されている。従って、半導体構造層内の電流密度の分布を均一化することができ、発光層から均一な発光強度を有する光を放出させることができる。