JP6183832B2 - 酸化ストレス抑制型透析用剤およびその調製方法 - Google Patents
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また、腹膜透析では、カリウムイオンは含まれず、pH調節剤及びアルカリ化剤として乳酸、乳酸ナトリウム等が使用されている。
例えば、特許文献4には、透析液調製用水として、溶存水素濃度が50〜600 ppb、pHが7〜10の水が使用されることが開示され、また、これは原水の電気分解によって得られる陰極水を逆浸透膜処理することにより得られることが示されている。
さらに、特許文献4には、溶存水素濃度が特に好ましくは100〜150 ppbの範囲内であること、好ましいpHは8.5〜9.5であること、溶存水素濃度が600 ppbを超えて含有しても且つpHが10を超えても、ブドウ糖分解産物による生体への悪影響を防止するという効果は増加しないこと、また、pHが7以下及び溶存水素濃度が50 ppb未満ではその効果は発揮できないことが開示されている。
また、透析液の製造(希釈操作)においては、一般にA剤を溶解したA濃厚液(或いは市販の液体A剤)とB剤を溶解して得たB濃厚液(或いは市販の液体B剤)を、希釈水(通常RO水)で希釈し透析液とすることになる。例えば、A剤及びB剤としてキンダリー液AF-3号(扶桑薬品工業社製)のA液及びB液を使用する場合、A液:B液:透析液用精製水=1:1.26:32.74の比率で希釈し透析液とする。上記特許文献4では希釈水に上記水素水を用いることになり、その後、透析装置において、透析液は概ね33℃以上に加熱され、さらに血液側への気泡トラブルを防止するために、装置内で通常脱気処理がなされる。これら一連のA剤及びB剤との混合、加温、脱気処理にともない、水素濃度は著しく低下せざるを得ず、通常3分の1以下にまで低下してしまう。好ましい水素濃度が150 ppbという上記先行技術においては、本来の酸化ストレスの低減効果は期待できない。
また、高濃度の水素濃度を得ようとすると、必然的にpHはアルカリ側にならざるを得ない。透析液には重炭酸や酢酸緩衝作用でこれを是正する緩衝力はあるが、pHが8.0以上の水を透析液に使用することは、透析患者の酸塩基平衡の是正を目的とする上で、透析患者にとって好ましいことではない。
さらに、直接電極に触れる水を使用するので、コンタミネーションを防止するため、その後に限外ろ過などの厳密なろ過処理が必要になる。さらに、生成した水素水は陰極室以後、細菌が繁殖しやすく、煮沸などの操作が必要となることが開示されている。
そして、生体内がさらに酸化状態にいたると、不可逆的に酸化された形態となる。成人健常人では70〜80%が還元型アルブミンであるのに対し、80歳前後の高齢者では40〜50%に低下し、逆に酸化型アルブミンが増加する。老化とともに還元型が減少し、酸化型が増加することを示すものであるが、このようなことが慢性腎不全患者においても報告されており、維持透析患者については、さらに顕著に酸化型の増加がみられている。
さらに、アスコルビン酸はpH調節剤などとして透析剤に使用できることが開示されているが、単にアスコルビン酸を透析剤に添加しただけでは、アスコルビン酸は溶存酸素の影響を容易に受け酸化型になりやすいため、生体を還元方向に是正するという意図からすると、むしろ逆効果にもなり得る。
即ち、循環血液が受ける酸化因子を抑制し、レドックスバランスを司るアルブミン、グルタチオン、ビタミンC、E、リポ酸、尿酸を適正比率或いは還元方向に是正することを目的とし、ひいては波及的に血球、血管、細胞間質液、間質細胞、細胞内小器官、臓器等におけるレドックスバランスの適正化を図ることを目的とする。
還元方向への是正は、透析という操作が血液側と透析液側の濃度勾配、即ち拡散によるものであるように、直接的には水素ガス(pH2)、酸素ガス(pO2)及び炭酸ガス(pCO2)の拡散によるガス交換によってなしえるものである。よって、最も重要なのは血液側にない水素を透析液側から供給することと、空気分圧に起因する透析液のpO2の上昇を元々酸素分圧の低い血液側付近まで是正しバランスを図ることにある。血液透析では、橈骨動静脈をシャントさせ、動脈血を透析回路に導入し、透析後、静脈側に返血する方法が最も多く用いられている。よって、透析された血液は直ぐに心臓、肺循環へ至る。一般に肺循環の肺動脈血のpO2は通常40 mmHg程度であるため、pO2をその程度までにコントロールすれば生体への負担は少ないと考えられる。また、生体の肺循環によって、過剰な水素は呼気として排出されるため生体への蓄積はない。さらに、腹膜透析においても、透析器の膜のかわりに腹膜を介するだけであり、基本的には同様な作用が期待される。
以上の知見から、本発明者は、透析液の調製に低濃度の溶存酸素及び/又は高濃度の溶存水素を含む水を使用すれば上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
[1] 生理的に使用可能な透析液組成物及び重炭酸ナトリウムを含み、溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲である透析液。
[2] 生理的に使用可能な透析液組成物及び重炭酸ナトリウムを含み、溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である透析液。
[3] 生理的に使用可能な透析液組成物及び重炭酸ナトリウムを含み、溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である透析液。
[4] 溶存酸素が2ppm未満である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の透析液。
[5] 0.01 mmol/L〜60 mmol/Lの還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の透析液。
[6] 0.1 mg/L〜2.0 mg/Lの還元型グルタチオンをさらに含む、上記[1]〜[5]のいずれかにに記載の透析液。
[7] 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の透析液。
[8] 重炭酸ナトリウムと組み合わせて透析液を調製するための透析剤であって、生理的に使用可能な透析液組成物を含み、溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上である濃厚液の状態である透析A剤。
[9] 溶存酸素が2ppm未満である、上記[8]に記載の透析A剤。
[10] 透析液中の濃度が0.01 mmol/L〜60 mmol/Lになる量の還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、上記[8]又は[9]に記載の透析A剤。
[11] 透析液中の濃度が0.1mg/L〜2.0mg/Lになる量の還元型グルタチオンをさらに含む、上記[8]〜[10]のいずれかに記載の透析A剤。
[12] 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[8]〜[11]のいずれかに記載の透析A剤。
[13] 溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲である水と、重炭酸ナトリウムとを組み合わせて透析液を調製するための、上記[8]〜[12]のいずれかに記載の透析A剤。
[14] 組み合わされる水中の溶存酸素が2ppm未満である、上記[13]に記載の透析A剤。
[15] 溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲である水と組み合わせて透析液を調製するための透析剤であって、
(a)生理的に使用可能な透析液組成物を含むA剤と、
(b)重炭酸ナトリウムを含むB剤と
を含む、透析剤。
[16] 組み合わされる水中の溶存酸素が2ppm未満である、上記[15]に記載の透析剤。
[17] A剤が、透析液中の濃度が0.01 mmol/L〜60 mmol/Lになる量の還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、上記[15]又は[16]に記載の透析剤。
[18] A剤が、透析液中の濃度が0.1mg/L〜2.0mg/Lになる量の還元型グルタチオンをさらに含む、上記[15]〜[17]のいずれかに記載の透析剤。
[19] 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[15]〜[19]のいずれかに記載の透析剤。
[20] 上記[8]〜[19]のいずれかに記載の透析剤を、溶存酸素が4 ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲である水で溶解又は希釈することにより得られる、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の透析液。
[21] 溶解又は希釈するための水の溶存酸素が2ppm未満である、上記[20]に記載の透析液。
[22] 溶解又は希釈するための水が、(i)水温が1℃以上、40℃以下であり、(ii)溶存酸素濃度が2ppm未満であり、(iii)溶存水素濃度が0.1 ppm以上、2.5ppm以下であり、(iv)酸化還元電位が−50 mV以下であり、且つ(v)pHが4以上、8以下である、上記[21]に記載の透析液。
本発明の透析液及び透析剤における水素濃度及び酸素濃度は、簡易な操作により任意にコントロールすることができ、患者の治療目的に応じて設定が可能となる。
また、本発明の透析液により、酸化還元電位の低い、抗酸化を目的とした最適な血液透析及び腹膜透析が可能となり、透析操作による血液の体外循環(ダイアライザーや血液回路系)で発生する酸化ストレスの抑制に止まらず、より積極的に循環血液を還元方向に是正することができる。
さらに、本発明の透析液中にアスコルビン酸及び/又はグルタチオンを処方することにより、これら生体内に必要な低分子物質の損失を防ぐことができるとともに、還元水素水の安定性を向上させる、すなわち還元水素水を低酸素濃度及び高水素濃度で維持することもできる。また、処方された透析液中のアスコルビン酸及び/又はグルタチオンは、通常の透析液中より還元水素処理した透析液中の方が還元型としての安定性が向上する。
アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムは癌治療にも臨床応用されているが、血中アスコルビン酸濃度管理の複雑さから、これまで透析患者には施行されてこなかった。しかし透析液にアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを処方することで、逆に血中アスコルビン酸濃度を管理しやすくなり、透析患者へのアスコルビン酸による癌治療法に道を開くものと期待できる。
また、本発明の透析液は、血液透析ばかりでなく、腹膜透析にも使用できる。
上記低酸素濃度及び/又は高水素濃度の水は、上記透析A液の調製に使用する低酸素濃度及び/又は高水素濃度の水と同様のものが挙げられる。
(a) 溶存酸素濃度を4 ppm以下(好ましくは3ppm以下、特に好ましくは2 ppm以下)に調整する工程、
(b) 水素ガスを溶解させて溶存水素濃度を0.1 ppm以上(好ましくは0.1 ppm以上、2.5 ppm以下、より好ましくは0.15 ppm以上、2.5 ppm以下、特に好ましくは0.60 ppm以上、2.5 ppm以下)にする工程により製造することができる。
また、上記工程(a)及び(b)に続いて、
(c) 酸化還元電位を−50 mV以下(好ましくは−150 mV以下)に調整する工程
を追加することもできる。
供給水の製造方法は特に限定するものではない。即ち、供給水としては、原水としての水道水、地下水、工業用水を適宜処理して、さらに活性炭、軟水化処理などの前処理を行い、逆浸透膜ろ過、蒸留操作、超ろ過操作などにより、品質的には日本薬局方の精製水に合致するものを供給水とする。
溶存水素濃度の保存安定性からみると、溶存水素濃度を1.6 ppm以上とする場合は、25℃以下、1.2 ppm以上とする場合は30℃以下、0.6 ppm以上とする場合は、40℃以下に水温を調節することが望ましい。
水の溶存酸素濃度は、空気分圧の影響を受けるので、1℃低くしても容易に高くなる。これを4 ppm以下、さらには3ppm以下、好ましくは2 ppm未満とするための手段は、特に限定するものでもないが、物理的手段である減圧、脱気による方法が望ましい。
相当なる能力を有する脱気装置(真空ポンプ等)を用いて−90 kPa以下にすれば、溶存酸素濃度を0.1 ppm程度までコントロールすることは可能である。さらに−80kpa以下で2ppm以下、−60 kPa以下で3 ppm以下、−40 kPa以下で4 ppm以下にコントロールすることが可能である。
また、固体形態であるA剤(固体A剤)は、例えば、所定量の生理的に使用可能な透析液組成物を混合、造粒及び乾燥といった一般的な製剤方法によって製造することができるが、酸素バリア製のある気密容器に、望ましくは脱気処理等し、密封することが望ましい。
液状形態のA剤は、例えば、上記のようにして得られた固体形態であるA剤を精製水等の溶媒中に溶解させることで製造することができる。また、液の安定性を考慮し、ガラス製あるいはポリエチレン製の特にガス透過性の低い容器に空隙無く満たし、密閉し、保管することで、少なくともその日の透析に使用する程度の安定性は保持することができる。
溶存酸素が4ppm以下及び/又は溶存水素が0.1 ppm以上であり、且つ、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲である水と組み合わせて透析液を調製するための透析剤であって、
(a)生理的に使用可能な透析液組成物を含むA剤と、
(b)重炭酸ナトリウムを含むB剤と
を含む、透析剤を含む。
当該透析剤におけるA剤は、上記A剤とすることができる。また、B剤は、粉末等の固体形態の重炭酸ナトリウムそのもの、或いは、これを所定の濃度になるように水に溶解させたものなどが挙げられる。
上記組み合わされる水としては、上述した低酸素濃度及び/又は高水素濃度の水が挙げられる。
水素ガス発生器(HORIBA, OPGU-2200)、ガス溶解モジュール及び水素濃度計からなる水素水発生ユニットと真空ポンプ(MD-4、VACUUBRAND)を使用してRO水から、透析剤を溶解及び希釈して高水素濃度および低酸素濃度の透析液を調製するためのRO水(以下、「還元水素水」と称する)を調製した。
透析剤は下記表3で示される組成を有する市販のキンダリー2E号を使用し、このA剤を通常のRO水に溶解し、濃厚液である透析A液とした。B剤(重炭酸ナトリウム)は通常のRO水に溶解し濃厚液(重炭酸ナトリウム濃度7%)である透析B液とした。
透析液調製時に個人透析装置に供給される還元水素水を、真空ポンプを調節することによって真空度を-99kPaから-20kPaへ段階的に変更させ、さらに0 kPa(真空ポンプoff)とさらに水素発生ユニットも停止させた場合の、水素濃度、酸素濃度、酸化還元電位等を測定した。なお、pH、pCO2、pO2及びHCO3はi-STAT(扶桑薬品工業製)で測定した。
その結果を表4および図2に示す。
上記実施例1と同様の操作により、キンダリー2E号の還元水素処理透析液を調製した。
疑似血液は、ナトリウム118 mEq/L、カリウム5.0 mEq/L、カルシウム2.5 mEq/L、マグネシウム3.0 mEq/L、重炭酸20 mEq/L、ブドウ糖200 mg/dLとなるように、塩化ナトリウム、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、ブドウ糖等をRO水で溶解することによって得た。
なお、透析液調製時に個人透析装置に供給される還元水素水は、真空ポンプを調節し真空度が-99 kPaと0 kPaの2条件とした。
透析条件は、ダイアライザー(フレゼニウス製FX140)を用い、透析液流量(Qd) 500 mL/min、血液流量(Qb) 200 mL/minとし、水素濃度、酸素濃度、酸化還元電位等を測定した。なお、pH、pCO2、pO2、HCO3はi-STAT(扶桑薬品工業製)で測定した。
その結果を表5および表6に示す。
1.試験方法
(1) 腎不全モデルの作製
麻酔下のビーグル犬の腹部を切開し、両側腎臓を摘出した。
(2) 透析(HD)の準備
モデル作製の約44時間後にHDを実施した。ビーグル犬が吸入麻酔によって十分な麻酔状態が得られた後、背位に固定した。HD用のブラッドアクセスは右大腿動脈及び左大腿静脈に挿入したカテーテルを血液回路及びダイアライザーに接続した。血液凝固阻害のためヘパリンナトリウム100 U/kgを動静脈シャントの採血用ポートより投与し、その後血液回路内に30〜50 U/kg/hrの用量で持続注入した。
(3) 透析(HD)の実施(各3例)
HDは、透析液流量(Qd) 100 mL/min、血液流量(Qb) 40 mL/min、除水量ゼロの条件で実施した。
(被験物質)
名称 :還元水素透析液
透析液 :キンダリーAF-2号(成分、濃度共に実施例1記載のキンダリー2Eと同様の液体製剤(表3))
還元水素水:実施例3と同様に調製し、その際の真空度は-99 kPaとした。
調製方法:市販透析A液を用いた以外はA液およびB液の各成分濃度が実施例1と同様の濃度となるように調製し、次いでA液:B液:希釈液(還元水素水)=1:1.26:32.74となるように希釈装置を用いて調製した。
当該透析液のpO2は56.1 mmHg、溶存酸素濃度は1.17 ppm、溶存水素濃度は1.28 ppmであった。
(対照物質)
名称 :キンダリー液 AF-2号(K-AF2)
透析液 :キンダリーAF-2号
調製方法:A液およびB液を各成分濃度が実施例1と同様の濃度となるように調製し、次いでA液:B液:希釈液(精製水)=1:1.26:32.74となるように希釈装置を用いて調製した。
当該透析液のpO2は183.1 mmHg、溶存酸素濃度は7.37 ppm、溶存水素濃度は0 ppmであった。
(4) 主な使用機器
・ダイアライザー(APS-08MD(膜面積0.8m2)、旭メディカル)
・持続ろ過用血液回路(JCH-26SX、ウベ循研)
・血液浄化装置(JUN-505、ウベ循研)
・水素水発生ユニット(オルガノ)
(水素ガス発生器:HORIBA、OPGU-2200、ガス溶解モジュール、水素濃度計)
・真空ポンプ(MD-4、VACUUBRAND)
・水素濃度計(DH-35A、TOADKK)
・酸素濃度計(DO-32A、TOADKK)
・ORP計(PST-2729C、TOADKK)
(5) 分析項目
(5)-1. 血液ORP
HD開始時、終了時(透析開始4時間後)及び透析終了2時間後の血液のORPを測定した。その際、動脈側の採血ポートと静脈側の採血ポートから、血液をシリンジに抜き取り1分後の値をデータとした。その結果を表7に示す。
(5)-2. PO2
Pre(腎臓摘出前)、HD開始時(0分)、開始60、120、240分後、HD終了60及び120分後の動脈(脱血)側と、HD開始60、120及び240分後の静脈(返血)側のPO2を測定した。その結果を表8に示す。
(5)-3. 血中8-OHdG
DNA中のグアニン塩基は活性酸素の作用により酸化損傷を受け、8位の炭素が酸化されることにより、8-OHdGが生成されるため、活性酸素による生体損傷を鋭敏に反映する優れたバイオマーカーとされている。8-OHdG定量キット(コスモバイオ、STA-320)を用いて、Pre(腎臓摘出前)、HD開始時(0分)、開始120、240分後及びHD終了120分後の動脈(脱血)側と、HD開始120及び240分後の静脈(返血)側の8-OHdGを測定した。その結果を表9に示す。
(5)-4. 血中脂肪酸(オレイン酸)
飽和脂肪酸であるステアリン酸の酸化体であるオレイン酸を定量することにより生体内での酸化還元状態がわかるマーカーである。採取した血漿を一度-80℃に凍結し、後日ラベル化の後、HPLCにて分析を行った。ラベル化は長鎖・短鎖脂肪酸ラベル化試薬キット(YMC co. Ltd)を使用し、Pre(腎臓摘出前)、HD開始時(0分)、開始120、240分後及びHD終了120分後の動脈(脱血)側と、HD開始120及び240分後の静脈(返血)側の血中脂肪酸(オレイン酸)を測定した。その結果を表10に示す。
(5)-5. 血中マロンジアルデヒド
マロンジアルデヒドは脂質過酸化分解生成物の一つであり、脂質過酸化の主要なマーカーとして使われている。マロンジアルデヒドアッセイキット(フナコシ、21044)を用いて、Pre(腎臓摘出前)、HD開始時(0分)、開始120、240分後及びHD終了120分後の動脈(脱血)側と、HD開始120及び240分後の静脈(返血)側の血中マロンジアルデヒドを測定した。その結果を表11に示す。
(1) 血液ORPの測定
1.実験手順
(1)20L容量の容器にヘパリン加牛血(5U/mL)15Lを準備し、以下の装置を用いて本容器を生体と見立て、本容器とダイアライザーを循環する形態にて、表12に示す条件で血液透析実験を行った。なお、A液およびB液は各成分濃度が実施例1と同様の濃度となるように作製し、透析液はA液:B液:希釈液(精製水又は還元水素水)=1:1.26:32.74となるように調製した。
透析剤:キンダリー2E号
ダイアライザー:旭化成メディカル 旭ホローファイバー人工腎臓APS #APS-15MD
血液回路:日機装 NK-Y/Zシリーズ #3499102
水素水発生ユニット:水素水透析時に接続した。なお、還元水素水は実施例1と同様に 調製し、その際の真空度は-99 kPaとした。
(2)血液透析開始後、0、60、90、120分後に返血部より採血を行った。
(3)上記血液についてノボ・硫酸プロタミン(濃度10mg/mL ;持田製薬)で処理した後、APTTを測定キット(コアグピア APTT-N;積水メディカル)を用いて測定した。
・透析液:Na, K, HCO3, pH → 透析装置
dH, dO, ORP → 透析液廃液
・血液:APTT, ORP → 返血側出口
上記の実験結果を図3に示す。図3から還元水素透析液及び通常透析液においてAPTTの推移に差が無かったことから、安全な透析ができると考えられた。
1.実験手順
(1) 通常透析液の作製:
キンダリー2E A剤285.6 gを精製水で溶解し、1Lとした(A液)。キンダリー2E B剤も同様に精製水で70 gを溶解し、1Lとした(B液)。これらから通常透析液を、A液:B液:精製水=1:1.26:32.74の割合で調製した。
精製水を真空ポンプで脱気処理を行い、続けて水素水発生ユニットを用いて水素ガスを溶存させた水(還元水素水)を用いて、キンダリー2E号 A剤285.6 gを溶解し、1 Lとした(水素含有A液)。B液は、B剤70 gを還元水素水で溶解し、1 Lとした(水素含有B液)。これらを用いて、水素含有A液:水素含有B液:還元水素水=1:1.26:32.74の割合で混合し、還元水素透析液を調製した。
上記実験の結果を表13および図4に示す。
1.実験手順
(1)市販のキンダリー2E号 A剤を精製水で溶解し、透析液としたときに下表14で示される濃度を有する透析A液を作製した。
<サンプル群 (各n=2)>
透析A液
透析A液+脱気
透析A液+水素ガス
透析A液+脱気+水素ガス
各サンプル群を作製し、500 mlのガラス瓶に空隙なく満たし、密封した。
(3)0日目と25℃、60%RH保管後28日目に、溶存酸素濃度は溶存酸素計(DO-32A、TOADKK)、溶存水素濃度は溶存水素計(DH-35A、TOADKK)、酸化還元電位はORP計(PST-2729C、TOADKK)をそれぞれ用いて測定した。
その結果を表15〜表17に示す。
1.実験手順
(1) 下表18で示される組成を有するA剤を精製水で溶解し、透析液としたときに下表19で示される濃度を有する透析A液を作製した。なお、還元型アスコルビン酸は脱気処理や水素ガス添加の操作後、溶存酸素や溶存水素が安定濃度になった後、最後に加えた。
<サンプル群 (各n=2)>
アスコルビン酸入り透析A液
アスコルビン酸入り透析A液+脱気
アスコルビン酸入り透析A液+水素ガス
アスコルビン酸入り透析A液+脱気+水素ガス 各サンプル群を作製し、500 mlのガラス瓶に空隙なく満たし、密封した。
(3)0日目と25℃、60%RH保管後28日目に溶存酸素濃度、溶存水素濃度、酸化還元電位を上述の装置で、還元型アスコルビン酸濃度をHLPCで測定した。
1.実験手順
(1) 下表24で示される組成を有するA剤を精製水で溶解し、透析液としたときに下表25で示される濃度を有する透析A液を作製した。本透析A液及び本透析A液を脱気、水素ガスを添加処理した還元水素処理A液を以下の[1]〜[4]群、計8種を作製した。
なお、還元型アスコルビン酸(AA)及び還元型グルタチオン(GSH)は脱気処理や水素ガス添加の操作後、溶存酸素や溶存水素が安定濃度になった後に、最後に加えた。
[1]還元型アスコルビン酸(AA)及び還元型グルタチオン(GSH)を共に含まないもの
[2]還元型アスコルビン酸(AA)のみ含むもの
[3]還元型グルタチオン(GSH)のみ含むもの
[4]還元型アスコルビン酸(AA)及び還元型グルタチオン(GSH)を共に含むもの
Claims (15)
- 生理的に使用可能な透析液組成物及び重炭酸ナトリウムを含み、陰極水を含まず、溶存酸素が2 ppm未満であり、溶存水素が0.60 ppm以上であり、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である透析液。
- 0.01 mmol/L〜60 mmol/Lの還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、請求項1に記載の透析液。
- 0.1 mg/L〜2.0 mg/Lの還元型グルタチオンをさらに含む、請求項1または2に記載の透析液。
- 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の透析液。
- 重炭酸ナトリウムと組み合わせて透析液を調製するための透析剤であって、生理的に使用可能な透析液組成物を含み、陰極水を含まず、溶存酸素が2 ppm未満及び溶存水素が0.60 ppm以上である濃厚液の状態である透析A剤。
- 透析液中の濃度が0.01 mmol/L〜60 mmol/Lになる量の還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、請求項5に記載の透析A剤。
- 透析液中の濃度が0.1mg/L〜2.0mg/Lになる量の還元型グルタチオンをさらに含む、請求項5または6に記載の透析A剤。
- 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5〜7のいずれかに記載の透析A剤。
- 陰極水を含まず、溶存酸素が2 ppm未満であり、溶存水素が0.60 ppm以上であり、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である水と、重炭酸ナトリウムとを組み合わせて透析液を調製するための、請求項5〜8のいずれかに記載の透析A剤。
- 陰極水を含まず、溶存酸素が2 ppm未満であり、溶存水素が0.60 ppm以上であり、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である水と組み合わせて透析液を調製するための透析剤であって、
(a)生理的に使用可能な透析液組成物を含むA剤と、
(b)重炭酸ナトリウムを含むB剤と
を含む、透析剤。 - A剤が、透析液中の濃度が0.01 mmol/L〜60 mmol/Lになる量の還元型アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムをさらに含む、請求項10に記載の透析剤。
- A剤が、透析液中の濃度が0.1mg/L〜2.0mg/Lになる量の還元型グルタチオンをさらに含む、請求項10または11に記載の透析剤。
- 生理的に使用可能な透析液組成物が、pH調節剤として、塩酸、酢酸、クエン酸、りんご酸、乳酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10〜12のいずれかに記載の透析剤。
- 請求項10〜13のいずれかに記載の透析剤を、陰極水を含まず、溶存酸素が2 ppm未満であり、溶存水素が0.60 ppm以上であり、酸素ガス分圧が40 mmHg〜110 mmHgの範囲であり、且つ、酸化還元電位(ORP)が+100 mV以下である水で溶解又は希釈することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の透析液の製造方法。
- 溶解又は希釈するための水が、(i)水温が1℃以上、40℃以下であり、(ii)溶存水素濃度が0.60 ppm以上、2.5ppm以下であり、(iii)酸化還元電位が−50 mV以下であり、且つ(iv)pHが4以上、8以下である、請求項14に記載の製造方法。
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