JP6906807B2 - 透析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、透析装置、アクセプター薬剤、ドナー薬剤、リンス液およびリンス液としての使用方法に関する。
慢性透析患者の腎代替治療として実施される血液透析およびこの類法(以下、血液浄化治療あるいは血液浄化法と総称する)では、体外循環を行いながら、血液中に蓄積した各種の物質を血液浄化器の半透膜を透過させて除去している。主たる除去の原理としては、3つある。第1に、半透膜の両側に血液と透析液を還流させて両者の間で物質の濃度勾配による膜貫通性の物質移動を生じさせる血液透析が挙げられる。第2に、血液に圧力を付与して膜貫通性の濾過を生じさせ、この濾液を全廃棄するとともに等量の補液を供給する血液濾過が挙げられる。第3に、前2者を併用する血液透析濾過が挙げられる。このような血液浄化法が、慢性維持血液透析の治療として実用化されている。また、従たる除去の原理として、血液浄化器の半透膜への血液溶存分子の吸着が挙げられる。一部の血液浄化治療では、従たる除去の原理も活用されている。血液浄化治療を1回あたり4〜6時間、週3回継続することにより、最低必要限度の尿毒素の除去、電解質および酸塩基平衡の是正が達成され、慢性透析患者は40年を超える生存も可能となっている。
慢性腎不全の治療として、血液浄化法は糸球体濾過による排泄機能の補完を担うが、尿細管再吸収排泄、および腎間質における内分泌機能を補完できない。このため、骨髄赤芽球系刺激ホルモン(エリスロポエチンおよびその誘導体)、降圧剤、電解質のリンの腸管からの吸収を抑制する吸着剤、および副甲状腺機能抑制を目的としたカルシウム受容体作動薬などの薬剤投与を、血液浄化法に併用するのが通例である。
さらに血液浄化法は、生命活動の代謝で発生する活性酸素種やフリーラジカルの消去機能を十分に補完できていない。呼吸の過程で酸素分子の1%程度が水分子に還元されず活性酸素に変化するとされる。このため、化学反応性の高い有害なフリーラジカルが、常に代謝過程で発生し続ける。その結果、慢性透析患者の体内ではフリーラジカルの連鎖反応により、種々の生体高分子の劣化が加速している(酸化ストレス亢進状態)。血液浄化治療によっても一部の還元反応、例えばジスルフィド結合-S-S-のような分子内酸化構造は-SHに還元されうることが示されている。しかし、その還元作用は限定的で、フリーラジカルの消去や、酸化分子(体内で進行する酸化反応に供される酸化型の生体分子)の還元などの補完能力は乏しい。さらに、慢性透析患者に施される血液浄化治療は、1回あたり4〜6時間、週3回のスケジュールを繰り返す。このため、週168時間のうち、156〜150時間もの治療を行わない時間が存在する。また、週末の治療セッションと翌週初めの治療セッションの間隔は66〜68時間に、それ以外のセッション間隔は42〜44時間程度となる。こうした治療を行わない時間、フリーラジカルの分子攻撃によるラジカル連鎖反応が進行する。これにより、細胞障害を起こし、生体の機能や構築を担う高分子を劣化させ、最終的に動脈硬化や筋萎縮などの病態が増悪する。
わが国の慢性透析患者は増加の一途をたどり、2018年時点で33万人を超え、40年を超える長期生存者もまれではない(非特許文献1参照)。慢性透析患者の長期生存にともない、慢性腎不全状態における活性酸素種やフリーラジカルの消去能低下に起因する生体高分子の劣化、遺伝子の劣化、細胞機能の劣化が進展する。その結果、可視的な病態として筋萎縮および運動機能障害、動脈硬化、癌化、老化促進などの合併症を発生させている。慢性透析患者数の増加と高齢化により、これらの問題は今後いっそう数、質ともに深刻化することが懸念される。従来の血液浄化治療では、性能上および時間不足という欠陥から、代謝過程で発生する活性酸素種やフリーラジカルの消去能低下という腎不全病態の改善が不十分で、動脈硬化や筋萎縮などの長期合併症を予防できていない。
(社)日本透析医学会、「図説わが国の慢性腎不全の現況」(http://www.jsdt.or.jp/overview_confirm.html)
従来の血液浄化治療を改善するために、活性酸素種(特にフリーラジカル)の消去能や、酸化反応に供される酸化型の生体分子に対する還元能を補完することができる透析装置を提供することを目的とする。すなわち、化学反応性の高い有害なフリーラジカルの連鎖反応の進展を阻止する機能を従来の血液浄化治療に付加することが可能な透析装置を提供することを目的とする。
また、このような補完のために用いられる薬剤(アクセプター薬剤やドナー薬剤)を提供することを目的とする。
さらに、前記薬剤を含むリンス液、および、前記薬剤をリンス液として使用する方法を提供することを目的とする。
このような目的は、下記(1)〜(19)の本発明により達成される。
(1) 血液浄化器と、前記血液浄化器に連結され、血液を循環させるための体外循環血液回路と、前記体外循環血液回路へ連結された補液供給回路と、前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路と、を少なくとも備える透析装置であって、
前記補液供給回路は、体内で発生するフリーラジカルを捕捉しうるアクセプター薬剤、および、前記体内で進行する酸化反応を阻止しうるドナー薬剤の少なくとも1つを前記体外循環血液回路へ供給することを特徴とする透析装置。
(2) 前記アクセプター薬剤は、前記フリーラジカルを捕捉した後に、前記フリーラジカルを再放出することなく前記体内で安定に存在するように構成されている上記(1)に記載の透析装置。
(3) 前記フリーラジカルを捕捉した前記アクセプター薬剤は、前記血液浄化器により、体外へ除去されるように構成されている上記(2)に記載の透析装置。
(4) 前記ドナー薬剤は、前記酸化反応に供される酸化型の生体分子に、水素原子および/または電子単体として電子を供与するとともに、酸化型分子となって再還元されず、前記体内で安定に存在するように構成されている上記(1)に記載の透析装置。
(5) 前記酸化型分子となったドナー薬剤は、前記血液浄化器により、体外へ除去されるように構成されている上記(4)に記載の透析装置。
(6) 前記アクセプター薬剤および/または前記ドナー薬剤は、慢性血液浄化治療後毎に供給される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の透析装置。
(7) 前記アクセプター薬剤は、前記慢性血液浄化治療における治療間欠期に前記体内で発生する前記フリーラジカルを捕捉しうる化学当量で供給され、
前記ドナー薬剤は、前記慢性血液浄化治療における前記治療間欠期に前記体内で進行する前記酸化反応を阻止しうる化学当量で供給され、
前記化学当量の総量は、前記治療間欠期の長さ(hr)および前記慢性血液浄化治療が施される患者の体重(kg)を用いて、0.001〜0.05 mEq/(hr・kg)である上記(6)に記載の透析装置。
(8) 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤は、急性血液浄化治療が施される患者に対して有効な化学当量で供給される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の透析装置。
(9) 前記化学当量の総量は、前記患者の体重(kg)を用いて、0.1〜20 mEq/kgである上記(8)に記載の透析装置。
(10) 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤のそれぞれの分子量は、1000D以下である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の透析装置。
(11) 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤は、それぞれ、
前記体内に存在する分子量10kD以上の高分子に結合せず、
前記体内の細胞膜および細胞内小器官の膜に溶存しないように構成されている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の透析装置。
(12) 前記アクセプター薬剤および/または前記ドナー薬剤は、前記体外循環血液回路の血液回収用のリンス液として供給される上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の透析装置。
(13) 前記リンス液の容量は、200mL〜1000mLであり、
生理食塩水に対する前記リンス液の浸透圧比は、0.5〜5である上記(12)に記載の透析装置。
(14) 前記リンス液は、L型アミノ酸を総量で3g〜15gさらに含み、
前記リンス液の容量は、200mL〜1000mLであり、
生理食塩水に対する前記リンス液の浸透圧比は、2〜8である上記(12)に記載の透析装置。
(15) 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤の少なくとも一方は、D型アミノ酸2または3残基からなるペプチドである上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の透析装置。
(16) 血液浄化器による血液浄化治療が施される患者の体内で発生するフリーラジカルを捕捉し、
前記フリーラジカルを捕捉した後に、前記フリーラジカルを再放出することなく前記体内で安定に存在し、
前記フリーラジカルを捕捉した状態で、前記血液浄化器により前記患者の体外へ除去されるように構成されていることを特徴とするアクセプター薬剤。
(17) 血液浄化器による血液浄化治療が施される患者の体内での酸化反応に供される酸化型の生体分子に、水素原子および/または電子単体として電子を供与することにより、前記酸化反応を阻止し、
前記電子を供与した後に、酸化型分子となって再還元されず、前記体内で安定に存在し、
前記酸化型分子となった状態で、前記血液浄化器により前記患者の体外へ除去されるように構成されていることを特徴とするドナー薬剤。
(18) 透析装置における体外循環血液回路の血液回収用のリンス液であって、
上記(16)に記載のアクセプター薬剤および上記(17)に記載のドナー薬剤の少なくとも一方を含むことを特徴とするリンス液。
(19) 上記(16)に記載のアクセプター薬剤および上記(17)に記載のドナー薬剤の少なくとも一方を含む溶液を、透析装置における体外循環血液回路の血液回収用のリンス液として使用する方法。
本発明によれば、従来の血液浄化治療に対して、活性酸素種(特にフリーラジカル)の消去能や、酸化反応に供される酸化型の生体分子に対する還元能を補完することができる透析装置を提供することができる。また、このような補完のために用いられる薬剤(アクセプター薬剤やドナー薬剤)を提供することができる。さらに、前記薬剤を含むリンス液、および、前記薬剤をリンス液として使用する方法を提供することができる。
慢性腎不全治療における化学プール透析の説明図である。 化学プール透析における化学プール薬剤の分子の化学反応進行状態を模式的に示した説明図である。 化学プール透析が施される体内の3つの分画(細胞外液、細胞質、およびミトコンドリア)の間における化学プール薬剤の移動収支を規定するコンパートメントモデルを示す説明図である。 化学プール透析における化学プール薬剤の濃度推移を細胞外液、細胞質、およびミトコンドリアの分画別に示した説明図である。 化学プール薬剤投与後の無効代謝の指標として内因性クリアランス値が異なる場合の化学プールサイズの推移を示した説明図である。 急性血液浄化治療における化学プール透析の実施方法を示した説明図である。 血液浄化のクリアランス値と化学プール薬剤の除去の関係を示した説明図である。 慢性血液浄化治療において化学プール薬剤を間欠期に分割投与する化学プール透析の実施方法を示した説明図である。 化学プール薬剤の分子の一例を示す説明図である。 化学プール薬剤の分子の一例を示す説明図である。 化学プール薬剤を含むリンス液を備える透析装置の構成例を示す概略図である。
以下、本発明の透析装置、アクセプター薬剤、ドナー薬剤、リンス液、およびリンス液としての使用方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。これらの説明に先立って、本発明に至った経緯を簡単に説明する。
(発明の経緯)
前述したように、慢性透析患者(慢性腎不全患者等)は、酸化ストレス亢進状態となっている。慢性腎不全患者の酸化ストレスへの防御能の低下にはミトコンドリア機能の障害が関与していると推察される。ミトコンドリアは生命の代謝活動に必須の細胞内小器官である。ミトコンドリアは、クエン酸回路や電子伝達系などの代謝回路により、電子伝達体であるNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)や高エネルギー結合保有化合物であるATP(アデノシン三リン酸)の産生を担っている。NADHは、ミトコンドリアにおけるATPの産生に利用されるが、さらにNADHやNADPHはミトコンドリアを含む生体内全般における活性酸素種の消去にも必須である。しかし、慢性腎不全状態でミトコンドリアの機能が低下すると、還元反応に関与するNADHやNADPHの産生絶対量が不足することにより、活性酸素種の消去が不十分となり、フリーラジカルの有害な連鎖反応が作動してしまう。また、酸化物質を還元する作用が減弱し、酸化物や過酸化物が蓄積する。
フリーラジカルの連鎖反応は、ラジカル電子が次々に分子間を移動する特殊な酸化還元反応である。この連鎖反応は、攻撃のターゲットとなる分子の特性によって、環状構造の開裂、切断、分子内転位反応、糖化、カルボニル化、カルバミル化、ニトロ化、メチル化、酸化、過酸化、架橋、その他の化学修飾などを惹起する。また、この連鎖反応では、一連の反応速度が速く、また反応の場の多くが細胞内である。このため、血液浄化治療によって除去できる連鎖反応の中間代謝物質は少ない。したがって、血液浄化治療の時間や回数の増加、血液中の活性酸素種の除去を目的とした薬剤(脂溶性の各種ビタミン)の投与や、持続的な治療であっても、刻一刻発生する活性酸素種を正常に処理できるほどの補完能力はない。
このように、慢性透析患者を治療する血液浄化法において、単に延命だけでなく、長期合併症を予防する観点から、現状の血液浄化法では改善が不十分な活性酸素種の消去機能や、酸化反応に供される酸化型の生体分子に還元能を補完することが求められている。このような補完を主な目的とした発明の1つが、通常の薬剤投与とは異なる化学プール薬剤投与を、現状の血液浄化法に併用することが可能な透析装置である。以下では、本発明の透析装置の説明に先立って、本発明のアクセプター薬剤およびドナー薬剤(以下、「化学プール薬剤」ということもある)について説明する。なお、化学プール薬剤とは、化学プールとして用いられる薬剤を意味するが、化学プールの定義などの詳細な説明は後述する。また、本発明の化学プール薬剤の投与を併用する血液浄化法(以下の説明および図中では、「化学プール透析」という)とは、酸化ストレスに防御的に作用し、かつ所定の要件を満たす薬剤の投与を、現存する血液浄化法に組み合わせたものである。
(化学プール薬剤)
プールとは医工学的な用語で、物質が体内において分布しうるスペースを意味する概念である。通常、プールのサイズは容積で表記され、この容積とプールに溶存する物質の濃度を乗じたものが物質量になる。
化学プールとは、薬剤が体内に溶存して分布することにより、体内に構築されるスペースのことである。実際の化学プールは、主に血漿と間質液からなる細胞外液、細胞質、そしてミトコンドリアという3つの分画にまたがっているが、それぞれの分画の容積が異なる。例えば、60kgのヒトでは、細胞外液の容積が12L、細胞質の容積が18L、ミトコンドリアの容積が6L程度となる。また、投与された薬剤は、各分画へ偏って分布する。このため、各分画の薬剤の濃度も異なる。そこで統一的に理解するため、体内に存在する化学プールのサイズを容積ではなく、化学当量で表記することにする。すなわち、本発明において化学プールとは、投与された薬剤が溶存して分布する体内の複数の区画(すなわち12L程度の細胞外液、18L程度の細胞質、6L程度のミトコンドリア)を一括して、その全体量を化学当量(単位mEq)で表したものである。化学プールとして用いられる薬剤を化学プール薬剤という。
したがって、構築される化学プールのサイズは、投与される化学プール薬剤の化学当量である。例えば、50 mEqの化学プール薬剤を体内に投与し、これが生体内で分解されなければ50 mEqのサイズの化学プールが体内に構築されていると考える。血液浄化治療により化学プール薬剤は除去され、化学プールのサイズは小さくなる。
化学プール薬剤の投与の例を簡単に説明する。「図1」のごとく、血液浄化治療終了後ごとに、化学プール薬剤を投与することを繰り返す。投与された化学プール薬剤は体内で化学プールを構成する。この例では、化学プールのサイズ、すなわち投与する化学プール薬剤の化学当量は、血液浄化治療の間欠期に発生し、生体のもつ防御作用では処理しきれない活性酸素種の化学当量を想定する。なお、「図1」の模式図では治療間欠期の長さを血液浄化治療時間の長さに対して実際よりも短く示している。
本発明の化学プール薬剤は、「表1」に示すような化学反応性を有するフリーラジカルの補足物質、もしくは還元物質である。すなわち、化学プール薬剤は、ラジカル分子からフリーラジカル(不対電子)を捕捉することができるアクセプター分子(アクセプター薬剤)か、体内で進行する酸化反応に供される酸化型の生体分子(表1のYで示されるラジカルではない還元作用の本体)に、電子を供与することができるドナー分子(ドナー薬剤)である。ドナー分子の場合、電子を供与する様式として、水素原子として1電子を供与する反応、2分子で2つの水素原子として2電子を供与する反応、1分子で電子単体として1電子を供与する反応、1分子で水素原子として1電子と電子単体としてもう1電子を供与する反応がある。それぞれの化学反応の前の状態のアクセプター分子ないしドナー分子を活性型分子(未変化体)、化学反応後のアクセプター分子ないしドナー分子を不活型分子(変化体)として、反応前後の化学プール薬剤を区別する。化学プールでは、様々な割合の活性型分子と不活型分子が存在し、経時的に不活型分子の割合が増大する(「図2」)。なお、血液浄化治療において、化学プール薬剤は、活性型分子と不活型分子とに選別されるわけではなく、同等に除去される。
Figure 0006906807
化学プール薬剤の分子は、投与後、生体内での化学反応により作用発揮後はラジカル分子、もしくは酸化型分子となる。これらのラジカル分子や酸化型分子は、確実に次回の血液浄化で除去しなければ治療の収支として、フリーラジカルの除去、もしくは還元作用を発揮したことにならない。したがって、化学プール薬剤は、以下の3要件を満たしていることが必要となる。第1に、「表1」の化学平衡定数が1より大きいこと(化学反応性)が要件となる。第2に、化学プール薬剤が、一定の時間(好ましくは72時間以上)体内で分解されず、安定に存在すること(安定性)が要件となる。化学プール薬剤が、体内で分解されると、ラジカル連鎖反応の再開や、他の分子の酸化反応の進行により、化学プール薬剤の投与が無意味となるからである。第3に、化学プール薬剤の反応産物であるラジカル分子、もしくは酸化型分子が、血液浄化で除去されること(除去性)が要件となる。
このように、本発明の化学プール薬剤投与が通常の薬剤投与と異なるのは、本発明のアクセプター薬剤ないしドナー薬剤が、投与後に、活性型分子および不活型分子として存在する点である。すなわち、次回透析にて有害性を内在していると考えられる不活型分子を除去することにより初めて、目的である酸化ストレスを是正するとともに体内のホメオスタシスを好ましい還元性に誘導する作用が発揮される点である。透析による除去がなければ本発明のアクセプター薬剤ないしドナー薬剤は還元作用を発揮することができない。反応後のアクセプター薬剤の分子やドナー薬剤の分子を血液浄化で除去することにより初めて、フリーラジカルが体外に排泄され、還元状態が体内に残ることになるからである。したがって、本発明の化学プール薬剤は、化学反応性、反応後の安定性、および除去性が必須要件(必須3要件)である。以下、これら3要件の詳細な説明に加え、さらに好ましい要件(非結合性、液相性、到達性および非代謝性)について説明する。
(化学反応性)
本発明の化学プール薬剤として、好適なアクセプター薬剤ないしドナー薬剤となるためには、「表1」に示す化学反応が右側に偏っている、すなわち反応の平衡定数が1より大きいことが必須である。好ましくは、平衡定数が1000以上であればフリーラジカルの連鎖反応を阻止する競合作用が強く理想的である。
(安定性)
さらに、本発明の化学プール薬剤は、反応後のフリーラジカルを捕捉したアクセプター薬剤の分子(ラジカル型分子)や酸化型に変化したドナー薬剤の分子(酸化型分子)が、体内で安定に存在することが必要となる。反応後のアクセプター薬剤の分子やドナー薬剤の分子が安定に存在する安定期間は、少なくとも3時間から9時間(例えば、急性血液浄化治療の場合における無毒化反応が平衡状態に達するまでの期間)であり、好ましくは48から72時間(例えば、慢性血液浄化治療の場合における次回の血液浄化までの治療間欠期)である。なお、「表1」に示す化学反応の平衡定数が1000以上である場合、反応後のフリーラジカルを捕捉したアクセプター薬剤の分子や酸化型に変化したドナー薬剤の分子が安定に存在し続けることに寄与する。
(除去性)
化学プール薬剤は、血液浄化治療により除去できることが前提となるので、血液浄化器による透析性あるいは濾過性が保証されている必要がある。化学プール透析を構成する血液浄化法として、血液透析法を選択する場合、かかる化学プール薬剤の分子量は、1000D以下であることが好ましく、さらに500D以下であることがより好ましい。反応後に2量体となるもの(例えば、反応後に2量体を形成するドナー薬剤「表1」)の単量体の分子量は500D以下であることが好ましい。血液浄化による除去効率が分子量の増大とともに低下するからである。なお、化学プール透析を構成する血液浄化法として、血液透析法の代わりに、大分子の除去に優れる血液透析濾過法、血液濾過法または血漿交換法を選択する場合、分子量20〜40kD領域の大分子の除去も可能であるため、上記除去性の要件は、緩和される。
また、反応後の化学プール薬剤を効率的に除去し、新たな化学プール薬剤の投与により、新たな化学プールを構築するためには、後述するように、化学プール薬剤が透析膜を容易に透過するように、血液浄化器の除去性能(人工腎臓の除去性能)を示すクリアランス値が、200 mL/min以上に設定されることが好ましい。
(非結合性)
また、本発明の化学プール薬剤は、分子量が大きなタンパク質分子や細胞膜や細胞外マトリクスに結合しないことが好ましい。これらに結合した化学プール薬剤の分子を、血液浄化にて除去することが困難になるからである。
具体的には、化学プール薬剤の分子は、生体内に存在する分子量10kD以上の循環型の中分子や組織構築性の高分子に結合しないことが好ましい。前者では血液浄化による除去効率が分子量の増大とともに低下し、後者では事実上除去は不可能となる。
(液相性)
前述したように、本発明の化学プール薬剤は血液浄化で高効率に除去されなければならない。したがって、化学プール薬剤の分子としては、その性質上、細胞膜や細胞内小器官の膜に溶存して、それらの膜に組み込まれてしまうような脂溶性(疎水性)もしくは両親媒性を示す分子ではない分子が好ましい。細胞膜等に組み込まれて固相化した化学プール薬剤の分子は、血液浄化によって除去されなくなるからである。例えば、ビタミンEは強力なラジカルスカベンジャーであることが知られているが、脂溶性である。このため、ビタミンEは、主に細胞膜に組み込まれてしまい、血液浄化では除去され難くなる。このような脂溶性の分子からなる薬剤は、本発明の化学プール薬剤としては使用できない。
(到達性)
生体内で活性酸素種は細胞質、血漿も含めすべての分画で発生しうるが、大半はミトコンドリアで発生する。このため、ミトコンドリアは、最もフリーラジカルによる傷害を受けやすい。また、ミトコンドリアは、最も重要な還元物質であるNADHを産生する。ミトコンドリアで処理されなかったフリーラジカルの連鎖反応の産物は細胞質に漏出し、さらに細胞質でも処理されなかった連鎖反応の産物は細胞外に遊出する。このため、本発明の化学プール薬剤の最も重要なターゲットはミトコンドリアである。したがって、本発明の化学プール薬剤は、ミトコンドリア外膜を透過してミトコンドリアの内部(内膜を透過したマトリックスを含む)に到達することが好ましい。なお、各化学プール薬剤について、投与される含有量(化学当量)のうちの10%以上がミトコンドリアの内部に到達する薬剤が、到達性の要件を満たすものとする。
すなわち、本発明の化学プール薬剤は、活性酸素種の発生部位であるミトコンドリアへの到達度あるいは分配が高い特性を有することが望ましい。この到達度は、医学的にはミトコンドリア外膜および内膜の透過係数が関与する。この透過係数が高い化学プール薬剤ほど、投与する化学当量を少量として効果を発現させることができる。なお、必須3要件を少なくとも満たすことに加え、ミトコンドリア到達性の要件を満たすアクセプターないしドナー薬剤を、「ミトコンドリア到達系化学プール薬剤」という。また、必須3要件を少なくとも満たすが、ミトコンドリア到達性の要件を満たさないアクセプターないしドナー薬剤を、「ミトコンドリア非到達系化学プール薬剤」という。なお、ミトコンドリア非到達系化学プール薬剤は、細胞質までは到達するもの(第一のミトコンドリア非到達系化学プール薬剤)と、細胞質までは到達しないもの(第二のミトコンドリア非到達系化学プール薬剤)とを含むが、両者とも、本発明の化学プール薬剤として、使用可能である。
(非代謝性)
本発明の化学プール薬剤を慢性透析患者へ投与する場合、化学プールを構築する化学プール薬剤は、48〜72時間の治療間欠期の間効力を発揮することが求められる。このため、化学プール薬剤は、目的とする化学反応に無関係な分解を受けずに存在できることが好ましい。目的とする化学反応と無関係な分解を無効代謝と呼び、無効代謝が存在すると化学プール薬剤の投与量を増量する必要がある。例えば、ある患者にある薬剤50 mEqの化学プール薬剤を投与したい場合、もしこの化学プール薬剤の無効代謝率が72時間で60%である場合、当初の50 mEqが20 mEqに減じている。このような化学プール薬剤を投与する場合、期待する作用強度を確保するには当初の投与量を50/(1ー0.6)=125 mEqにまで増量しておかなければならない。本発明の化学プール薬剤の無効代謝率は低いほど投与量が少なくてよいことになる。「図5」は無効代謝率の大きさを内因性クリアランスを指標として表現し、化学プールのサイズへの影響を比較した説明図である。具体的に説明すると、図5中の符号6は、内因性クリアランス値1mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化を示し、符号7は、内因性クリアランス値2mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化を示し、符号10は内因性クリアランス値12mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化を示している。一方、図5中の符号11は、内因性クリアランス値1mL/minの場合のミトコンドリアに存在する化学プール薬剤の量(mEq)の変化を示し、符号12は、内因性クリアランス値2mL/minの場合のミトコンドリアに存在する化学プール薬剤の量(mEq)の変化を示し、符号15は、内因性クリアランス値12mL/minの場合のミトコンドリアに存在する化学プール薬剤の量(mEq)の変化を示している。図5から明らかなように、化学プール薬剤に対する生体の内因性クリアランスが小さいほど、より多くの化学プール薬剤が体内(ミトコンドリア)に存在し続けるため、化学プール薬剤に対する生体の内因性クリアランスは小さいことが好ましい。
本発明の化学プール薬剤としては、アクセプター薬剤およびドナー薬剤の候補として、D型アミノ酸2〜3残基からなるペプチドが挙げられる。より具体的には、D型アミノ酸2残基からなるジペプチド(例、D-リジル・チロシン、D-チロシル・リジン、D-チロシル・システイン、D-トリプトファニル・チロシン、D-グリシル・チロシンなど)、ないしD型アミノ酸3残基からなるトリペプチド(例、D-リジル・チロシル・システイン、D-チロシル・トリプトファニル・リジンなど)がアクセプター薬剤およびドナー薬剤の候補として挙げられる。これらの中でも、化学プール薬剤としては、以下の表2に示すD型アミノ酸2〜3残基からなるジペプチドないしトリペプチドが好ましい。
Figure 0006906807
また、本発明のアクセプター薬剤の一例として、図9に示す2-(α-D-glucopyranosyl) (methyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-olが挙げられる。図9に示されるこのmethyl TMGは、化学プール薬剤として投与後、体内で、αグリコシダーゼの加水分解を受けないよう、ブドウ糖とクロマン環のエーテル結合の隣のメチル基に、メチル基を修飾して、立体障害により酵素の活性中心が近づけないようにデザインされている。この修飾されたメチル基がないTMGは、簡単に加水分解されてしまい、体内で安定に存続できない。さらに、図10に示す2-(α-D-glucopyranosyl) (isopropyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-olも、本発明のアクセプター薬剤の一例として挙げられる。図9のmethyl TMGおよび図10のisopropyl TMGのようなアルキル基修飾TMG(中心部をアルキル基で修飾したTMG)は、本発明のアクセプター薬剤として好適である。
ただし、本発明の化学プール薬剤は、上記記載に限られず、例えば、水溶性ビタミンE改変分子(アクセプター薬剤)や、グルタチオン(ドナー薬剤)も使用可能である。なお、還元型アスコルビン酸は、化学反応性の観点から、本発明の化学プール薬剤の候補となり得るが、無効代謝が少なくなく、そのラジカル型はラジカルを次に放出する点を考慮する必要がある。すなわち、還元型アスコルビン酸単独では、化学プール薬剤の安定性の要件を満たさない。そこで、還元型アスコルビン酸の安定性における欠点を補うように、ドナー薬剤(例えばグルタチオン)を併用することが考えられる。これにより、還元型アスコルビン酸は、本発明の化学プールとなる薬剤として、使用可能となりうる。すなわち、必須3要件を満たさない化学薬剤種を含む複数の化学薬剤種が、全体として必須3要件を満たす場合、そのような複数の化学薬剤種全体を、本発明の化学プール薬剤とみなすことができる。また、還元型アスコルビン酸は、ミトコンドリアに到達しない点にも考慮する必要がある。また、グルタチオンは、無効代謝が少なくない点を考慮する必要があるが、ミトコンドリアへ到達する。したがって、ミトコンドリア到達性を補う観点からも、還元型アスコルビン酸とグルタチオンの併用は好ましい。このように、還元型アスコルビン酸は、ミトコンドリアに到達しないこと、および安定性が十分でないため単独では化学プール薬剤として好適ではないが、一方でラジカル奪取能力が極めて高いため、化学プール薬剤の補助剤として有用であるということができる。例えば、還元型アスコルビン酸は固相である膜脂質に潜り込んだラジカルを奪取し、これを化学プール薬剤(例えばグルタチオン)に受け渡すことができる。なお、一般的には電子を受け取ることは分子が還元されることを意味するが、還元型アスコルビン酸はラジカルを1つ受け取るに際し、陽子1個と電子1個から構成される水素原子(H)を2個失うため、差し引き酸化型となる。
ここで、細胞外液、細胞質、そしてミトコンドリアという3つの分画ごとの化学プールの存在量(mEq)について説明した後、本発明の化学プール薬剤の適用別の具体的な化学当量について述べる。「図3」は、化学プールの3つの分画である細胞外液、細胞質、ミトコンドリア内外の化学プール薬剤の移動の収支を示すコンパートメントモデルの図である。化学プール薬剤は化学反応により活性型分子が変化し不活型分子となる。体内に投与された化学プール薬剤について、活性型分子から不活型分子への変化速度を細胞外液ではQe mEq/min、細胞質ではQc mEq/min、ミトコンドリアではQm mEq/minとおく。各分画において、活性型分子はこれら変化速度で減少し、不活型分子はこれらの変化速度で増加する。血液浄化治療の間欠期は中2日(43時間程度)と中3日(67時間程度)の場合があるので、それぞれの期初めの化学プール薬剤の投与量はA1, A2(A1<A2)mEqとする。細胞外液と細胞質を隔てる細胞膜の両端の濃度差で規定される透過速度はKc mL/minとおく。細胞質とミトコンドリアを隔てるミトコンドリア外膜の両端の濃度差で規定される透過速度はKm mL/minとおく。人工腎臓の除去性能を表すクリアランスをKd mL/minとおく。化学プール薬剤が活性型分子から不活型分子へ変化して血液浄化により除去されることとは無関係な、化学プール薬剤の分子の生体での代謝を無効代謝と呼ぶ。この無効代謝を表す指標を内因性クリアランスKi mL/minとおき、細胞質から無効代謝されるとする。化学プール透析が施される患者(慢性透析患者)の体重の40%を細胞内液とみなし、このうち75%を細胞質容積Vc、25%をミトコンドリア容積Vmとみなす。慢性透析患者の細胞外液は、基準状態では体重の20%とするが、乏尿あるいは無尿のため、間欠期には増加し、増加分は血液浄化治療の除水にて是正される。間欠期に一定の速度で体液が増加するとみなすと細胞外液量は時間の関数v(t)とおける。活性型分子と不活型分子について3つの区画の濃度を時間の関数とおく。細胞外液、細胞質、ミトコンドリアの時間に対する濃度推移は、血液浄化治療間欠期においては、例えば週初め血液浄化治療後から始まる間欠期では、「数1」の連立微分方程式の数値解で計算される。また、血液浄化治療中については、例えば、週半ば血液浄化治療中では、細胞外液、細胞質、ミトコンドリアの時間に対する濃度推移は、「数2」の連立微分方程式の数値解で計算される。前の区間の最終値を次期区間の初期値に代入して得られた2週間の濃度プロフィールが得られる。
こうして得られた濃度プロフィールにそれぞれの分画の容量を乗した結果が「図4」で示されている。図4では、化学プールの分画ごとに、化学プール薬剤の存在量(mEq)の推移が示されている。ここでは、化学プール薬剤の活性型分子と反応後の不活型分子を合わせた存在量が示されている。深部プールであるミトコンドリアへの化学プール薬剤の到達、および逆方向の物質移動であるミトコンドリアの浄化が最も遅い。化学プール薬剤の除去効率が低いと濃度推移曲線が上方にシフトする。
Figure 0006906807
数式において、α[t]はαが変数tの関数であることを示す表記である。D[β[t] v[t], t] は、β[t] v[t]をtで微分する意である。他も同様。なお、α[t]は、活性型分子の細胞外液における濃度(mEq/mL)を表す。γ[t]は、活性型分子の細胞質における濃度(mEq/mL)を表す。ε[t]は、活性型分子のミトコンドリアにおける濃度(mEq/mL)を表す。e[t]は、活性型分子の細胞外液における存在量(mEq)を表す。β[t]は、不活型分子の細胞外液における濃度(mEq/mL)を表す。δ[t]は、不活型分子の細胞質における濃度(mEq/mL)を表す。ζ[t]は、不活型分子のミトコンドリアにおける濃度(mEq/mL)を表す。f[t]は、不活型分子の細胞外液における存在量(mEq/mL)を表す。
計算結果の値をそれぞれ、α[2580]=α2580, γ[2580]=γ2580, ε[2580]=ε2580, e[2580]=e 2580, β[2580]=β2580, δ[2580]=δ2580, ζ[2580]=ζ2580, f[2580]=f 2580とすると、これらの値(実際は数値)を次の時間区間の初期値に代入する(「数2」)。
Figure 0006906807
本発明の化学プール薬剤は、慢性透析患者への投与(慢性血液浄化治療への併用)が主に想定されるが、急性腎不全患者、薬物や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者などへの投与(急性血液浄化治療への併用)も想定されている。化学プール薬剤を慢性透析患者に投与する場合について説明する。まず、週3回のスケジュールで実施される通常の血液浄化法の治療セッション終了期に、化学プール薬剤の所要量を慢性透析患者に投与する。そして、次回血液浄化治療までの治療間欠期に化学プールを構築している化学プール薬剤の分子が、化学反応によりフリーラジカルを捕捉するか、還元性を発揮する。次に、反応後の化学プール薬剤のラジカル型分子や酸化型分子が次の化学反応を起こすことなく安定に存在する。最後に、ラジカル型や酸化型となって安定に存在する化学プール薬剤の分子を次回の血液浄化治療によって除去する。これにより、体内から有害なフリーラジカルや酸化体(酸化型分子)を体外に排泄することができる。そして血液浄化治療後に再度化学プール薬剤を投与するというサイクルを繰り返すことになる。
本発明により、慢性腎不全患者を治療する場合、投与する化学プールのサイズ、すなわち化学プール薬剤の化学当量の総量は、慢性腎不全患者の体重(kg)および治療間欠期の長さ(hr)を用いて、0.001〜0.05 mEq/(hr・kg)であることが好ましく、0.01〜0.05 mEq/(hr・kg)であることがより好ましい。これは、前述の数式による結果を考慮して、体内で産生される活性酸素種の化学当量のうち、内因性の消去作用を免れて有害な連鎖反応の起点となり得る活性酸素種の化学当量を中和することを想定した値である。このように、化学プール薬剤は大量に投与することになる。このため、化学プール薬剤が体内に大量に投与された場合でも、人体に対する毒性がないことが、化学プール薬剤として用いるための当然の要件である。血中濃度の推移からみるとほぼ化学プール薬剤の除去が完遂されているように誤解する。しかし、「図4」からわかるように、実際には血液浄化終盤でも細胞質およびミトコンドリアにはある程度の量の化学プール薬剤が残存して定常状態に達すると考えられる。このため、化学プール薬剤は、慢性の曝露による細胞毒性がないことが好ましい。
化学プール薬剤の別の適用として、急性腎不全患者、薬物や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者に対する化学プール薬剤の投与を説明する。まず化学プール薬剤を患者に投与し、数時間から数日の均衡化時間を置く。その後に捕捉したフリーラジカルや酸化型分子を体外に除去する血液浄化治療を単回、ないし数回実施する。本発明の化学プール薬剤は、このような治療法に用いることもできる。「図6」にこの治療法の1クールを示す。化学プールのサイズを、白抜きで描画した領域(化学プール薬剤の残存する活性型分子の化学当量)と、塗りつぶしで描画した領域(化学反応後の不活型分子の化学当量)とに分けて示している。ここでの治療目的は、慢性腎不全の場合の合併症予防とは異なり、救命であるため、化学プール薬剤の投与量は慢性腎不全の場合よりも大量となる。必要に応じ上記クールを数回繰り返す。
本発明の化学プール薬剤を、急性腎不全患者、薬物や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者に投与する場合、投与する化学プールのサイズ、すなわち化学プール薬剤の化学当量の総量は、患者の体重(kg)および治療間欠期の長さ(hr)を用いて、0.1〜20 mEq/(hr・kg)であることが好ましい。これは慢性腎不全患者の治療の場合の投与量よりも多い。この理由は、疾病や有害事象の生体への侵襲が活性酸素種の産生量を増大させていることを考慮したからである。
本発明の化学プール薬剤としては、化学プール薬剤として投与する薬剤化学種を複数併用することが好ましい。例えば、化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤とH供与体であるドナー薬剤を併用することが好ましい。また、化学プール薬剤として投与する薬剤化学種は、グルタチオンのようなミトコンドリア到達系化学プール薬剤を少なくとも1種含むことがより好ましい。これにより、フリーラジカルの連鎖反応を多段階の部位で阻止することができる。すなわち、細胞外液、細胞質およびミトコンドリアにおける酸化ストレスを効果的に低減することができる。その結果、生体内の有害な連鎖反応の遮断率を向上させることができる。なお、化学プール薬剤が、ミトコンドリア到達系化学プール薬剤を少なくとも含む複数の薬剤化学種で構成されている場合、ミトコンドリア到達系化学プール薬剤の含有量(化学当量)が、その他の薬剤化学種の合計の含有量に対して多いことが好ましい。換言すれば、化学プール薬剤は、主として、ミトコンドリア到達系化学プール薬剤を含むことが好ましい。
(化学プール薬剤の投与方法)
化学プール薬剤の投与方法としては、通常、投与量が数十〜数百mEqにもなることから、投与を確実にするために経静脈投与するのが通例である。例えば、100 mEqの化学プール薬剤を200 mLの水に溶解した輸液製剤では、生理食塩水に対する輸液製剤の浸透圧比は、100x(1000/200)/308=1.6となる。このような輸液製剤の経静脈投与は容易である。もし、10 mLの水に溶解した注射製剤を作ると、生理食塩水に対するこの注射製剤の浸透圧比は16となり、かなり高い。慢性透析患者は、体外循環の血流を維持するための内シャントや留置カテーテルを有している。このため、慢性透析患者は、通常の末梢の皮静脈の場合(浸透圧比は3が限界)よりも高い浸透圧の輸液製剤の注入に耐えるといえる。しかし、一般的に、one shot静注よりも容量の大きい輸液製剤として薬剤を緩徐に投与した方が副作用の発生は少ないといえる。
本発明の化学プール薬剤の投与方法として、内服製剤による投与も考えられる。この場合、患者への内服の負担を考慮して、血液浄化治療間欠期に1日1ないし数回の分割投与を行う(「図8」)。内服においては、実際に体内に入って化学プールを構築する化学プール薬剤の化学当量は、腸管での分解、腸管での吸収率などの影響を受けて目減りする。この点を考慮して、内服用の化学プール薬剤の化学当量を調整する必要がある。
本発明の化学プール薬剤の投与方法としては、前述した、血液浄化終了時の経静脈投与が適している。一気に投与することにより、表層の細胞外液と深層の細胞質、さらに深層のミトコンドリアとの間で濃度勾配が大きくなる。その結果、拡散により、化学プール薬剤が深層に到達する駆動力も大きくなる。また、化学プール薬剤が深層に到達するには時間がかかる。このため、治療間欠期の最初に化学プール薬剤を投与して、間欠期全体を反応時間として利用することも治療効果の発現に有利となる。
特に、本発明の化学プール薬剤を慢性透析患者への投与する場合、間欠期に発生する活性酸素種の中和に必要な化学当量の化学プール薬剤を血液浄化終了時に一括して静脈内投与するのが第一選択となる。化学プール薬剤を分配したい深部のミトコンドリアへの到達量は濃度勾配が大きいほど、また移行に使える時間が長いほど大きくなるからである。
(リンス液)
リンス液は、血液浄化終了時に体外循環血液回路に残された血液を体内循環(血管内)に押し戻して返血するために用いられる。本発明のリンス液は、前述した化学プール薬剤と、水や生理食塩水などの溶媒とを含むように構成されている。前述のように化学プール薬剤の剤型として、輸液製剤を選択する場合、この輸液製剤をリンス液として兼用することができる。これにより、患者への化学プール薬剤の容量負荷を減らすことができる。化学プール薬剤をリンス液として兼用する場合は、リンス液(化学プール薬剤の輸液製剤)の容量は、200mL〜1000mLであることが好ましく、200〜400mLであることがより好ましい。リンス液は、数分以上かけて全量投与されることが好ましい。また、生理食塩水に対するリンス液の浸透圧比は、0.5〜8であることが好ましく、0.5〜5であることがより好ましい。
さらに、リンス液は、L型アミノ酸などの補助剤を含んでいてもよい。補助剤としてL型アミノ酸を用いる場合、L型アミノ酸の含有量は、総量で1g〜20gであることが好ましく、総量で3g〜15gであることがより好ましい。血液浄化治療中は筋肉からのアミノ酸の遊出が必発である。このため、血液浄化治療直後に投与された生理型のアミノ酸は再度筋肉に取り込まれて、筋萎縮の進行を抑制する効果を発揮する。したがって、リンス液がL型アミノ酸を含む場合、本発明の化学プール薬剤によるミトコンドリア保護機能を介する筋萎縮予防との相乗効果が期待できる。本発明では、化学プール薬剤の分子(小分子)の高効率な除去を求める結果、体液のアミノ酸損失も応分に増大し、筋肉からのアミノ酸の遊出量の増大が不可避である。この弊害を緩和するためにも、L型アミノ酸の併用投与は有効である。
また、リンス液が、補助剤としてL型アミノ酸を含む場合、生理食塩水に対するリンス液の浸透圧比は、2〜8であることが好ましい。なお、かかる浸透圧比の範囲においては、特に、数分以上かけた緩徐な投与(回収操作)が必要となる。以下、化学プール薬剤をリンス液として体内に供給可能な本発明の透析装置について、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
(透析装置)
図11は、化学プール薬剤を含むリンス液を備える透析装置の構成例を示す概略図である。本発明の透析装置100は、すでに臨床現場で使用されている血液透析、血液濾過、血液透析濾過および血漿交換を可能とするが、以下の説明では、血液透析を例に説明する。すなわち、透析装置100は、基本的な構成は全自動透析装置と同じであり、一般的な自動透析装置を用いた血液浄化治療を行うことができる。
本発明の透析装置100は、基本的構成として、血液浄化器(ダイアライザー)Dと、血液浄化器Dへ連結された透析液回路200および体外循環血液回路(血液回路)300と、患者血管の動脈側で分岐するように、血液回路300と接続された補液供給回路400とを備えている。
血液浄化器Dは、ストロー状の複数の細管D1を備える。各細管D1は、半透膜(透析膜)で形成され、半透膜は、複数の孔を有している。各細管D1内に血液が流れる一方、各細管D1の外側を透析液が流れるように、血液浄化器Dは構成されている。これにより、半透膜を介して血液と透析液とが接触する。このような接触により、血液中の有害な物質などが、透析液へ移行する。
血液浄化器Dでは、化学プール薬剤の反応産物であるラジカル型分子や酸化型分子を高効率で体外に除去する必要がある。このため、血液浄化器Dは、分子量1000D以下の小分子に対する除去性能として、150mL/min以上、好ましくは200mL/minのクリアランス値を具備することが好ましい(「図7」参照)。図7の符号16は、血液浄化器Dの除去性能であるクリアランス値100mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化を示し、符号17は、血液浄化器Dのクリアランス値150mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化を示し、符号20は、血液浄化器Dのクリアランス値300mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化を示している。図7から明らかなように、血液浄化器Dのクリアランス値が100mL/min〜300mL/minの範囲において、血液浄化器Dのクリアランス値が高いほど、より多くの化学プール薬剤が除去されている。このため、血液浄化器Dは、分子量1000D以下の小分子に対する除去性能であるクリアランス値が、100mL/min以上300mL/min以下であることが好ましく、150mL/min以上300mL/min以下であることがより好ましく、200mL/min以上300mL/min以下であることがより好ましい。なお、化学プールでは、表層の細胞外液の浄化が先行し、遅れて深部の細胞質、さらに深部のミトコンドリアが浄化される。深部プールの浄化は時間律速である。臨床現場で一般的な血液浄化治療時間は4〜5時間であるが、治療時間が長いほど化学プールの浄化度は高まる。
透析液回路200は、複数のポンプを備え、透析液を循環させ、血液浄化器Dへ供給する。複数のポンプは、透析液送液ポンプP1と、透析液排液ポンプP2と、第3の透析液ポンプP3とで構成されている。透析液送液ポンプP1および透析液排液ポンプP2は、透析液を常に等しい送液速度で循環させる機能を有する。すなわち、透析液送液ポンプP1および透析液排液ポンプP2は、等流量系を形成する機能を有する。一方、第3の透析液ポンプP3は、等流量系の内部と交絡するように構成されている。具体的には、第3の透析液ポンプP3は、順逆両回転するように構成され、順方向の排液ないし逆方向の注液を行うことができる。
血液回路300は、血液浄化器Dを介して、動脈側血液回路310と、静脈側血液回路320とで構成されている。動脈側血液回路310には、電磁開閉クランプC2および順逆両回転する血液ポンプP4が設けられている。血液ポンプP4を順回転させることにより、動脈から取り出された血液が、血液浄化器Dへ供給され、透析液と接触した後、静脈側血液回路320を通って静脈へ戻される。このように血液が流れている際、電磁開閉クランプC2は、開状態となっている。一方、このような血液の流れを止める際は、電磁開閉クランプC2は閉状態となっている。後述する補液を供給する際には、電磁開閉クランプC2は閉状態となっている。動脈側血液回路310において、電磁開閉クランプC2と血液ポンプP4との間に、補液供給回路400が接続されている。
補液供給回路400は、補液を備える。補液は、純水または生理食塩水などの電解質液を含み、本実施形態では、化学プール薬剤をさらに含む。また、補液供給回路400には、補液の供給を停止することができる電磁開閉クランプC1が設けられている。電磁開閉クランプC1を開状態とするとともに、電磁開閉クランプC2を閉状態として、血液ポンプP4を順回転させることにより、補液が血液回路300へ供給される。
本発明の透析装置100は、電磁開閉制御できる電磁開閉クランプC1と電磁開閉クランプC2、順逆両回転できる血液ポンプP4、順逆両回転できる第3の透析液ポンプP3を有する。これにより、血液浄化器Dの半透膜を介して血液回路300から同量の除水ないし血液回路300への同量の補液が達成される。本発明の透析装置100は、透析液回路200および血液回路300のそれぞれに、少なくとも1つの順逆両回転できるポンプを備えていることが特徴的と言える。また、透析装置100は、上述した基本的構成以外にも、種々の要素(例えば、制御部やセンサー)を備えることができる。制御部は、電磁開閉クランプC1および電磁開閉クランプC2の開閉、第3の透析液ポンプP3および血液ポンプP4の回転方向と速度を随時、任意の値にプログラム制御できる。
(化学プール薬剤を含む溶液をリンス液として使用する方法)
以下では、図11を参照して、本発明の化学プール薬剤を含む補液を、透析装置100における体外循環血液回路300の血液回収用のリンス液Rとして使用する方法を説明する。2つの具体例を以下に示す。
(具体例1)
予め補液として、本発明の化学プール薬剤を含む水溶液からなるリンス液R200〜300mLを血液回路300の分岐である補液供給回路400に接続しておく。血液透析中、電磁開閉クランプC1は閉状態、電磁開閉クランプC2は開状態、血液ポンプP4は順回転(sからvに向かう方向)、第3の透析液ポンプP3は順方向(除水)で動作している。以上を回収前工程とする。血液浄化治療の終了(通常、指定した治療時間の満了と指定した除水量の満了の達成時点)をもって以下の一連の工程を動作させる。1)透析液送液ポンプP1、透析液排液ポンプP2を停止させる。2)電磁開閉クランプC1を開状態とし、電磁開閉クランプC2を閉状態とし、血液ポンプP4を10〜100mL/分の速度で順回転させ、リンス液R全量をtから血液回路300に注入する。この注入量は、血液ポンプP4の流速に作動時間を乗した値である。その後、血液ポンプP4の順方向回転は停止させる。この時点でtからvの血液は体内に返血され、リンス液R(すなわち化学プール薬剤を含む水溶液)で同部が置換されている。3)電磁開閉クランプC1を閉状態とし、電磁開閉クランプC2を開状態とし、第3の透析液ポンプP3を10〜100mL/分の速度で逆方向(補液方向)、血液ポンプP4を第3の透析液ポンプP3より小さい任意の速度で逆方向に作動させる。これにより、透析液が半透膜を逆濾過して血液回路300に注入される。さらに透析液がsとvの2つの方向に任意の割合で分配される。その結果、血液回路300のsからtの部分に残っていた血液が、sから返血されるとともに、tからvに残っていたリンス液R(化学プール薬剤を含む水溶液)が透析液に置換されて体内に注入される。以上より、化学プール薬剤の投与と返血工程が同時に完了する。
(具体例2)
別のプログラム制御による化学プール薬剤を含む水溶液を用いた返血工程を示す。回収前工程は具体例1と同じである。1)透析液送液ポンプP1、透析液排液ポンプP2は停止させる。2)電磁開閉クランプC1を閉状態とし、電磁開閉クランプC2を開状態としたまま、第3の透析液ポンプP3を10〜100mL/分の速度で逆方向(補液方向)、血液ポンプP4も同じ速度で逆方向に作動させる。これにより、sからuまでの血液回路300の容量と同等の透析液が、半透膜を逆濾過して血液回路300側に注入される。その結果、血液回路300のsからuまで部分の血液が先にsから返血される。3)第3の透析液ポンプP3を停止し、電磁開閉クランプC1を開状態とし、電磁開閉クランプC2を閉状態とし、血液ポンプP4を10〜100mL/分の速度で順方向に作動させる。これにより、リンス液R(化学プール薬剤を含む水溶液)が全量注入される。その結果、uからvまでの血液回路300に残存する血液がvから返血される。この注入量は、血液ポンプP4の流速に作動時間を乗した値である。4)電磁開閉クランプC1を閉状態とし、血液ポンプP4を停止し、第3の透析液ポンプP3を10〜100mL/分の速度で逆方向(補液方向)作動させる。これにより、血液回路300のuからvの部分に残る化学プール薬剤を含む水溶液が、同部の血液回路300の容量と同等(もしくは0.5〜1.5倍の容量)の透析液で置換されて体内に注入される。逆濾過による置換量は、P3の流速に作動時間を乗した値である。
具体例2は、具体例1の場合に比し、血液回路300のsからtの部分の血液が早期に返血されるので、回収工程中の同部の血液凝固の危険性が少ない。ただし、血液回路300のtからuの部分の回路に化学プール薬剤水溶液が少量だが残存してしまうおそれがある。
これまでに説明したように、本発明の透析装置は、化学プール透析(本発明の化学プール薬剤の投与を併用する血液浄化法)を可能とする。化学プール透析により投与される化学プール薬剤は、浅層の細胞外液から細胞膜を透過して深層の細胞質へ、さらに最深層のミトコンドリアに到達することが好ましい。本発明の透析装置を用いて、化学プール透析を行うことにより、これら3つの区画に化学プールを構成することができる。この化学プールに溶存する化学プール薬剤の分子が、活性酸素種の発生源であるミトコンドリアにおいてフリーラジカルを捕捉し、また活性酸素種に対して還元性を発揮することにより、酸素傷害を低減する。このため、本発明は、慢性腎不全患者で障害されているミトコンドリアの機能回復に寄与する。ミトコンドリアの機能回復は、電子伝達体であるNADHおよび高エネルギー結合保有化合物であるATPの産生量を回復させる。このため、ミトコンドリアの機能回復は、活性酸素種に対する内在性の防御作用を改善するとともに、細胞へのエネルギー供給も改善する。こうして慢性透析患者で低下している骨格筋の運動能力や筋萎縮が予防でき、慢性腎不全病態と老化プロセスが一体となって進行するサルコペニア、ロコモティブシンドロームあるいはフレイルと呼称される筋肉の萎縮、筋力低下、運動機能障害からなる症状を予防することができる。慢性腎不全患者の死亡原因として重要な心不全も虚血以上に心筋の障害が関与しており、本発明により心不全の改善が期待できる。また、最上流のミトコンドリアにおけるフリーラジカルの連鎖反応の進展阻止は、下流である細胞質における酸化ストレスを低減する。
細胞質に分布する化学プール薬剤の分子は、ミトコンドリアから細胞質に漏出したフリーラジカルの連鎖反応産物のフリーラジカルを捕捉、またその分子を還元する。その結果、細胞内小器官、細胞骨格、細胞膜の劣化を予防することができる。
細胞質は、初期のフリーラジカルの連鎖反応のラジカル連鎖、ラジカル増幅、過酸化物生成に加えて、多彩な反応産物が生成される場である。例えば、活性酸素種は、タンパク質分子を攻撃し、最終的にAOPP(advanced oxidation protein products)と呼ばれる過酸化型の分子劣化やカルボニル化型の分子劣化を起こす。また、連鎖反応初期のヒドロキシラジカル(・OH)やその後に発生するパーオキシナイトライト(ONOO・)は、糖化反応の後期産物AGE(advanced glycation end products)であるカルボキシメチルリジン(CML)の生成を促進する。CMLは生体高分子を架橋により劣化させる。また、脂質がフリーラジカルの攻撃を受けて産生されたアルコキシルラジカル(LO・)やアルキルペルオキシラジカル(LOO・)からは反応性の高い活性化カルボニル化合物として、ハイドロキシノネナール(4-HNE)が産生される。4-HNEは、多彩な細胞への活性を示し、DNAやミトコンドリアに作用すると細胞死を招きうる。さらに、還元糖などへの活性酸素攻撃で生成される3-デオキシグルコソン(3DG)も高反応性の中間体で、細胞への作用のほか、タンパク分子どうしを架橋して劣化させる。また、活性酸素種は、DNAのメチル化を復帰させる脱メチル化反応を減弱する作用があり、遺伝子の後世的修飾機構に干渉して癌化や老化プロセスに関与している。以上から、本発明によれば、生体高分子の架橋を予防して構築分子の劣化を予防し、細胞環境を生理的に復帰させる効果がある。この結果、長期予後としては、癌発生率の低下や慢性腎不全患者で促進している老化速度の低下が期待される。
また、急性腎不全患者、薬物や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者における緊急治療として、本発明の化学プール薬剤の投与を併用する血液浄化法を単回ないし数回実施することにより、致死率を上昇させるフリーラジカルの連鎖反応や酸化反応を停止させ救命率の改善に寄与すると期待される。
以上、本発明の透析装置、化学プール薬剤(アクセプター薬剤およびドナー薬剤)、化学プール薬剤を含むリンス液、および化学プール薬剤を含む溶液をリンス液として使用する方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、透析装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、本発明は、任意の2以上の特徴を組み合わせたものであってもよい。
例えば、本発明の透析装置が備える血液浄化器は、血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、および血漿分離器を含む概念である。具体的に、透析装置が、血液透析に供される場合、血液浄化器は、前述した実施形態に基づいて説明したように、血液透析器、またはダイアライザーとして構成される。また、透析装置が、血液透析濾過に供される場合、血液浄化器は、血液透析濾過器、またはヘモダイアフィルター(濾過型血液浄化器)として構成される。また、透析装置が、血液濾過に供される場合、血液浄化器は、血液濾過器、またはヘモフィルター(濾過型血液浄化器)として構成される。また、透析装置が、血漿交換に供される場合、血液浄化器は、血漿分離器、またはプラズマセパレーターとして構成される。
したがって、本発明の化学プール薬剤の投与を併用する「血液浄化法」は、血液透析法、血液透析濾過法、血液濾過法および血漿交換法を含む概念である。また、本発明の透析装置は、これらの血液浄化法を実施することができるものである。また、便宜上、本発明に係る「化学プール透析」という用語を、化学プール血液透析濾過、化学プール血液濾過および化学プール血漿交換を含む広義の総称として用いる。
血液透析濾過法ないし血液濾過法は、分画分子サイズが大きい大孔径膜を用いているので、大分子化合物の除去に優れる。具体的には、血液透析濾過法ないし血液濾過法を用いることにより、血中の大分子化合物(例えばα1-ミクログロブリン(α1-m))の治療前後の濃度低減率を40〜60%程度にまで高めることができる。
さらに、血液浄化法として血漿交換法を用いると格段に大分子化合物(例えばα1-m分子)の除去効率を高めることができる。例えば、血中においてα1-m分子はその約半数が免疫グロブリンA二量体と1:1結合して分子量350kDにもなる巨大分子を形成している。このため、血液透析濾過法ないし血液濾過法では、α1-m分子の治療前後の血中濃度の低減率は40〜60%程度を達成するのが限界であるが、血漿交換法によれば、80%程度の低減率を達成することも可能である。ただし、血漿交換法は、格段に治療コストが高い。
慢性腎不全患者の血液浄化治療のうち最も広く普及している方法は血液透析法であるが、近年血液透析濾過法の割合が増えてきている。後者は前者よりも、分子量20〜40kD領域の大分子化合物の除去に優れる。
したがって、化学プール透析を構成する血液浄化法として、血液透析法の代わりに、大分子化合物の除去に優れる血液透析濾過法、血液濾過法または血漿交換法を選択することにより、本発明の化学プール薬剤としては、前述の実施形態に記載した小分子化合物以外に、大分子化合物(例えばα1-m分子)を使用することができる。以下、α1-m分子(単にα1-mともいう)について詳細に説明する。
(α1-mの化学反応性)
α1-mは、活性酸素種やフリーラジカルの強力な消去能をもつタンパク質である。具体的には、α1-mは、分子量33kDの糖蛋白であるが、生理的な機能として、遊離ヘム結合能、ラジカルとの化学反応による捕捉能、還元作用を有する。
このようなα1-mの化学反応性を、α1-mのアミノ酸配列に基づいて詳述する。α1-mのアミノ酸配列において、ラジカル消去や還元作用の発揮に重要なアミノ酸残基は、C34、Y22、K92、K118、H123、K130、Y132である。ここで、Cはシステイン、Yはチロシン、Kはリジン、Hはヒスチジンのアミノ酸残基の1文字略号である。1文字略号の隣の数字は、残基番号である。
本発明の化学プール薬剤として使用可能なα1-mの製剤(後述するレコンビナントα1-m製剤)のアミノ酸配列の要件は、本来型のアミノ酸配列を基本構造(主鎖)として、少なくともC34、Y22、K92、K118、H123、K130、Y132うち少なくとも3残基を保存していることである。この要件を満たすα1-mの全てが化学プール薬剤の化学反応性の要件を満たす。
なお、α1-mは、遊離ヘム結合能も有するが、遊離ヘムは、フリーラジカルを発生させ酸化傷害機転を駆動する有害物質である。1分子のα1-mは2分子のヘムを捕捉し、最大9個のラジカル分子を捕捉する。
(α1-mの安定性)
α1-mは、遊離ヘムのような有害物質を、化学結合で捕捉する。このため、α1-mは、遊離ヘムをいったん捕捉すると、安定した捕捉体として存在する。安定した捕捉体とは、フリーラジカルや酸化分子の再遊離の可能性がないことを意味する。すなわち、α1-mは、フリーラジカル捕捉体として安定に体内に存在できるため、化学プール薬剤の安定性の要件を満たす。
(α1-mの除去性)
さらに、血液浄化法として、血液透析濾過法、血液濾過法または血漿交換法を選択することにより、大分子化合物の除去も可能となるため、α1-mは、本発明の化学プール薬剤の除去性の要件も満たすことができる。
(α1-mの他の要件)
大分子のα1-mは、非結合性、液相性および非代謝性の要件を満たすが、体内において主に細胞外液に分布し、10%未満のみが細胞内に分布している。α1-mを、試験管内でミトコンドリアに振りかければ作用するが、体内に投与(例えば注射)しても大半の分子はミトコンドリアには到達しない。すなわち、α1-mは、到達性の要件を満たさない。
以上より、α1-mは、化学プール薬剤の必須3要件を完全に満足する強力な薬理作用を有する物質である。ただし、ミトコンドリアから発生するラジカルの補足(あるいは還元)と除去については、やはり化学当量の大きさ、深部(深層および最深層)への到達能力(ドラッグデリバリー)の観点から、小分子化合物が圧倒的に優れている。
ラジカルの捕捉に関し、分子量330の小分子および分子量33000のα1-mの化学当量を1gあたりで比較してみる。分子量330の小分子が1gあるとして1個のラジカルを補足すると、当量は3 mEqになる。一方、分子量33000のα1-mが1gあるとして、これは9個のラジカルを捕捉できるので、当量は0.27 mEqになる。両者には、ほぼ10倍の開きがあるので同じ投与量なら圧倒的に小分子化合物のキャパシティが大きいので有利である。なお、α1-mでは体内での安定性がほぼ100%なのに対し、小分子化合物では代謝を0にすることはできないと考えられ、真の作用の差は10倍よりは小さくなる。
(α1-mの精製)
ヒト健常人の尿から精製したα1-m製剤はすでにラジカル捕捉体となって劣化している分子が多く含まれているため、ラジカル捕捉能や還元能に乏しく、化学プール薬剤の作用を有さないので不適である。
そのため、本発明の化学プール薬剤としては、ヒトα1-ミクログロブリン遺伝子を他の生物種のDNAに導入して発現させた遺伝子組み換えタンパク質の精製品(以下、「レコンビナントα1-m製剤」という)を用いることが好ましい。レコンビナントα1-m製剤は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞などにおいて、ヒトα1-m遺伝子を組み換えて製造することができる。なお、遺伝子組み換え、および製造に使用する細胞の種類および動物種はこれらに限定されない。
(本来型および変異型のレコンビナントα1-m製剤)
本発明の化学プール薬剤としては、本来型の配列のレコンビナントα1-m製剤に加え、重要残基に関する要件を満たす範囲でアミノ酸置換をともなう塩基置換を行った変異型の配列のレコンビナントα1-m製剤が好適である。特に、水溶性を高めるために遺伝子変異操作を行ったレコンビナントα1-m製剤、糖鎖を結合させたレコンビナントα1-m製剤、および、末端の3・4残基を有さないレコンビナントα1-m製剤が、好ましい。
具体的に、α1-mの分子表面に存在する疎水性残基を親水性に置換することにより、水溶性を高めることができ、製剤の調整が容易になるので有用である。さらに、アミノ酸側鎖に糖鎖を結合させることも同様に水溶性を高めることに寄与する。これらの理由から、水溶性を高めるために遺伝子変異操作を行ったレコンビナントα1-m製剤、および糖鎖を結合させたレコンビナントα1-m製剤は、本発明の化学プール薬剤として好ましい。
また、α1-mのアミノ酸配列におけるC末端の3残基IPRあるいは4残基LIPRを有さないレコンビナントα1-m製剤は、免疫グロブリンAとの結合性が低下するので除去性が高められる。このため、末端の3ないし4残基を有さないレコンビナントα1-m製剤は、本発明の化学プール薬剤として好ましい。
なお、レコンビナントα1-m製剤は、生物製剤の特性上、製造コストが非常に高い。そのため、医療財政上の観点から、慢性透析患者における化学プール透析においてレコンビナントα1-m製剤を投与することが妥当と考えられる適用例としては、著しく生活の質を低下させる病態を合併し、これが前述した実施形態で説明した化学プール透析の治療法では改善し得ない難治性のもの、すなわちrestless leg症候群、炎症性関節痛、関節炎による可動域制限などが挙げられる。
(レコンビナントα1-m製剤の投与例)
慢性透析患者の化学プール透析においてレコンビナントα1-m製剤を使用する場合、前述の透析装置100における補液供給回路400を介してレコンビナントα1-m製剤を含む補液を供給することもできるが、好ましくは、血液浄化治療後に、レコンビナントα1-m製剤を、単回、ないし数回投与する。例えば、透析装置100において、補液供給回路400を介さず、注射製剤としてのレコンビナントα1-m製剤を、経静脈的に、1回あたり0.1g〜2gを血液浄化治療後に投与する。この場合、透析装置100は、レコンビナントα1-m製剤を投与可能な薬剤投与手段を備えていてもよい。また、透析装置100は、第1の化学プール薬剤供給手段(補液供給回路を介して化学プール薬剤を供給する手段)と、第2の化学プール薬剤供給手段(補液供給回路を介さず化学プール薬剤を供給する手段)とを備えていてもよい。さらに、透析装置100は、第1および第2の化学プール薬剤供給手段を独立して制御可能な制御部を備えることが好ましい。投与による改善効果は、数週間から数ヶ月持続する。炎症性の症状が再発すれば再度レコンビナントα1-m製剤を用いた化学プール透析を繰り返す。ただし、投与量はこれに限定されない。
急性血液浄化治療の対象となる急性腎不全患者、薬物や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者においては、ラジカル消去能力や還元能力が、生体内のα1-m分子の消費(劣化)により低下ないし枯渇している。このため、レコンビナントα1-m製剤を投与することにより、活性酸素傷害が関与しているこれらの病態の重症度を低減することができる。これらの患者では、腎機能も低下しているため、フリーラジカルを捕捉して捕捉体(劣化体)と変化したα1-m分子(無機能劣化タンパク分子)は尿中に排泄されにくいため血液浄化法により除去する必要がある。
これらの病態発生後、可及的速やかに0.1g〜5gのレコンビナントα1-m製剤を経静脈的に大量投与する。投与から数時間ないし数日後、血液透析濾過、血液濾過または血漿交換などの血液浄化治療を行って、無機能劣化タンパク分子と変化したα1-m分子を除去する。これを1クールとし、単回、ないし数回実施する。1回あたりの投与量は好ましくは0.1g〜5gであるが、これに限定されない。
(応用例1)
ここから、本発明の化学プール薬剤を用いた応用例(例えば、血管内溶血に起因する問題の解決)について、説明する。慢性透析治療では毎回の対外循環治療で回路内(すなわち血管内)溶血が微量ながら発生し、フリーラジカルを産生している。化学プール透析では、毎回の対外循環治療終了後ごとに所定の総量の化学プール薬剤が投与されるが、前回の対外循環治療終了後に投与された化学プール薬剤の未反応型が、今回の対外循環治療開始時に残っていれば、対外循環治療に起因する血管内溶血が発生したとしても、残っている未反応型の化学プール薬剤(残存化学プール薬剤)が、血管内溶血に起因するフリーラジカルの有害作用を抑制し得る。
このような作用を発揮できるように、化学プール薬剤の毎回の投与量を、所定の総量(例えば、慢性腎不全患者を治療する場合、0.001〜0.05 mEq/(hr・kg))よりも多くすることが好ましい。これにより、化学プールの浅層(細胞外液)、深層(細胞質)および最深層(ミトコンドリア)における有害なフリーラジカルの連鎖反応の進展をより確実に阻止することができると考えられる。このような観点から、化学プール薬剤の毎回の投与量を、所定の総量に対して、1.1倍〜2倍程度増量することがより好ましい。
なお、レコンビナントα1-m製剤は、化学プールの浅層(細胞外液)あるいは末端(ラジカル反応カスケードからみて)のラジカルやヘムの中和を目的としたものとして有用である。このため、治療コストを考慮しなければ、上記血管内溶血に起因する問題を解決する観点から、慢性透析患者において、小分子化合物の化学プール薬剤とレコンビナントα1-m製剤の併用は有効であると考えられる。
(応用例2)
小分子化合物の化学プール薬剤とレコンビナントα1-m製剤との併用投与が特に効果的と考えられる病態として、血管内溶血性が起こっている病態(溶血性尿毒症症候群など)や、外因性(外来性)の原因によってラジカル産生が有害事象を引き起こしている病態(毒物中毒など)が挙げられる。いずれも急性血液浄化治療がカバーする病態である。このような病態では、炎症、微小循環障害、組織破壊が共通して存在する。
前述の通り、α1-mの優れた点はラジカル捕捉後の安定性に加え、ヘムを2分子捕捉する能力である。ヘムは、溶血で赤血球から漏れたヘモグロビンが分解してグロビンから離れたものである。ヘムそれ自体は、ラジカルではないが、ラジカル産生を促進する作用があり大変有害な分子である。胎児由来のヘモグロビンF及び遊離したヘムが母体の全身の血管内皮細胞を障害するのが、重症妊娠中毒症の子癇と呼ばれる疾患である。したがって、α1-mは、血液や間質液のラジカルやラジカルを産生させるヘムの中和に有効である。
一方、小分子化合物の化学プール薬剤は、それ自身と同程度かより大きいヘムの捕捉能を具備し得ないが、ヘムにより発生してしまったラジカルの中和に対して、作用することができる。これらの理由から、上記急性血液浄化治療がカバーする病態に対して、小分子化合物の化学プール薬剤とレコンビナントα1-m製剤との併用投与が特に効果的と考えられる。
(応用例3)
急性血液浄化は、通常数回しか行われないので高価な治療が認められるが、慢性透析患者におけるレコンビナントα1-m製剤の投与による化学プール透析は、医療費高騰の観点から、一部の難治性病態を合併する患者に限定され得る。そこで、その他の患者においては、内因性のα1-m産生に起因する自然発生的な擬似化学プール透析を実践することが望まれる。すなわち、生体内のα1-mを除去して肝臓での新規産生を促す擬似化学プール透析に委ねることが考えられる。以下、生理的なα1-mの産生および代謝について説明した後、擬似化学プール透析について説明する。
生体内のα1-mは肝臓で産生される。腎代謝排泄速度が大きいため、血中半減期はわずか数時間であるが、肝臓での産生速度も大きく、常に血中濃度10〜20mg/Lでバランスが保たれている。腎機能が正常の場合、フリーラジカルなどを捕捉したα1-mの捕捉体は速やかに腎臓の糸球体で濾過され、そのままの形かあるいは腎臓の尿細管で再吸収された後に分解された断片の形で尿中に排泄される。こうして体内で産生されたフリーラジカルの一部は体外に排泄されている。
一方、腎不全患者ではかかる代謝排泄機能が欠損しているため、フリーラジカル捕捉体となったα1-mは体内にとどまっている。具体的に、慢性透析患者においては、腎代謝排泄が欠落するため、血中濃度は上昇する。血中濃度が上昇すると肝臓での産生がフィードバック制御で抑制されて低下する。このため、血中濃度は無制限に上昇することはなく、最終的に120〜150mg/Lの濃度でバランスが保たれる。慢性透析患者においてはα1-m分子のturnover(新規入れ替え)がほとんどない。このため、120〜150mg/Lの高濃度であってもα1-mのラジカル捕捉能や還元能はすでに枯渇している。すなわち、慢性透析患者の体内のα1-mは、無機能劣化タンパク分子となっている。通常の血液透析では分子量33kDのα1-mはほとんど除去されないのでこのレベルは維持され、大きな変動は生じない。
このような慢性透析患者において、血液透析の代わりに、より大分子の除去に優れる血液透析濾過法ないし血液濾過法を実践すると1回4〜5時間の治療で200〜300mg程度のα1-mを除去することができる。血中濃度も40〜60%程度低下させることができる。しかし、次回治療までの2、3日の間に血中濃度は上昇を続け、結局もとの血中濃度120〜150mg/Lに復帰する。これは、同期間において、先の血液浄化法で除去した200mgのα1-m分子が新規に肝臓で合成されて減少を相殺したことを意味する。新規のα1-mはラジカル捕捉能や還元能を具備しているため、その化学当量だけ、作用を発揮するものと考えられる。肝臓により産生された内因性のα1-mも外部から投与したレコンビナントα1-m製剤も化学当量が同じであれば作用も同程度である。血液浄化治療において、無機能劣化タンパク分子となっているα1-mを積極的に除去することにより、肝臓からの内因性のα1-m産生が誘発され、実質的に自然発生的な擬似化学プール透析となっている。
このように、血液透析濾過法ないし血液濾過法を実践することで、活性酸素種やフリーラジカルの強力な消去能をもつタンパク質であるα1-mを分子回転させることができる。これにより、酸化ストレス防御作用の改善、および腎不全における細胞増殖抑制状態の改善に効果がある。
(応用例4)
急性血液浄化領域におけるパラコート中毒の治療に化学プール透析を応用することができる。まず、パラコート中毒について説明する。パラコートの化学名は1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドである。パラコートは、農薬として今日もなお使用されており、誤って飲用すると腸管から体内に吸収され細胞内に入り、ミトコンドリア外膜に到達する。ミトコンドリア外膜に到達したパラコートは、1電子還元を受けてパラコートラジカルとなり、強烈な全身性のラジカル連鎖反応を誘発する。その結果、大量の活性酸素傷害に加え、NADPHの枯渇により細胞は死に至る。臨床症状としては、摂取直後の嘔吐から始まり、時間経過とともに下痢や腹痛、口の中のただれや潰瘍形成などが生じる。重症例では腎機能障害や肝機能障害、ショックが進行し、間質性肺炎や肺線維症も併発し死に至る。パラコートの致死量は数十mmolである。
このようなパラコート中毒に対して、活性酸素発生による組織障害が病態の中核であるため、抗酸化剤であるα-トコフェロール(ビタミンE)の大量投与が従来から試みられているが、臓器障害を発症する重症例の救命はほぼ不可能である。これは、ビタミンEではラジカル連鎖反応の遮断が不十分であること、ビタミンEは脂溶性で膜に溶け込んで膜脂質を劣化させること、そして化学反応後のビタミンEラジカルが体外に排泄されないことが関係していると考えられる。
上記関係の考察から、パラコート中毒の治療に対して、化学プール透析が応用され得る。具体的に、パラコート中毒に対する化学プール透析のプロトコールの実際としては、曝露後可及的速やかに化学プール薬剤として、還元型アスコルビン酸(ビタミンC)と還元型グルタチオンの両者をそれぞれ10〜100 mmol静脈投与する。ただし、化学プール薬剤はこれら2剤に限られるものではない。胃腸管洗浄に先行し、あるいは並行して化学プール薬剤の静脈投与を急ぐ。その後1日以内(好ましくは4時間以内)に血液浄化治療を4〜6時間行って化学プール薬剤を除去する。血液浄化終了時に2回目の化学プール薬剤の投与を行う。そして1日以内に2回目の血液浄化療法を行う。以後、化学プール薬剤の投与と血液浄化を数クール繰り返す。血液浄化治療として間欠型治療の代わりに持続血液浄化治療を行う場合は、残存化学プール薬剤の濃度低下を補充するため、持続血液浄化治療継続中は4〜24時間おきに化学プール薬剤の追加投与を行う。
パラコート中毒に対する化学プール透析において、化学プール薬剤として、0.5〜10gの量のレコンビナントα1-m製剤を単独投与してもラジカル連鎖反応の遮断効果が発揮できる。ただし、化学プール薬剤を除去する血液浄化法としては、相対的に大分子の除去効率が血液透析よりも血液透析濾過法ないし血液濾過法を採用し、血液浄化器としては大孔膜を選定する。さらに、血漿製剤を補充しながら血漿交換を追加するとα1-m分子をより効率的に除去することができる。化学プール薬剤として、レコンビナントα1-m製剤の単独使用でもある程度の効果は期待できるが、好ましくは小分子化合物の化学プール薬剤を併用する。併用する小分子化合物の化学プール薬剤としては、還元型アスコルビン酸(ビタミンC)と還元型グルタチオンが挙げられるが、これら2剤に限られるものではない。化学プール薬剤の投与と血液浄化を数クール繰り返す治療スケジュールは上記プロトコールと同様である。
(応用例5:抗癌剤の副作用の治療)
急性血液浄化領域における化学プール透析の別の応用例として、抗癌剤投与後の重篤な細胞傷害性の副作用の治療が挙げられる。アドリアマイシンに代表されるアントラキノン(アントラサイクリン)系の抗癌性抗生物質は、分子内にキノン構造を有するため、細胞内に取り込まれた後、ミクロソームにおいて1電子還元されてセミキノンラジカルを生じ、ラジカル連鎖反応を誘発する。重篤な顕在性の副作用としては心毒性が有名である。心不全を発症すると病態は不可逆性に悪化して致命的となることが多い。心毒性の徴候が出現したら可及的速やかに化学プール薬剤の投与を開始する。当該治療のプロトコールは、パラコート中毒の治療のプロトコールと同様である。
以下、実施例を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されない。
(実施例1)
週3回のスケジュールで実施される通常の血液浄化治療(血流は200〜300mL/minで4〜5時間の血液透析)が施される体重60kgの慢性透析患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤である2-(α-D-glucopyranosyl) (methyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-ol(図9)を10mEqの化学当量で含む200mLの水溶液(リンス液)を用意した。このリンス液を高機能膜(150mL/minのクリアランス値を具備する透析膜)を備える透析装置に設置した。血液浄化治療終了時にこのリンス液を、透析装置の体外循環血液回路の血液回収用に使用するとともに、その全量を上記患者に投与した。投与された化学プール薬剤は、治療間欠期(43〜44時間)を経て、次回の血液浄化治療によって体外へ除去された。このサイクルを、血液浄化治療終了ごとに繰り返した。
(実施例2)
実施例1と同様の通常の血液浄化治療が施される体重60kgの慢性透析患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤である2-(α-D-glucopyranosyl) (isopropyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-ol(図10)を200mEqの化学当量で含む300mLの水溶液(リンス液)を用意した。このリンス液を高機能膜(200mL/minのクリアランス値を具備する透析膜)を備える透析装置に設置した。血液浄化治療終了時にこのリンス液を、透析装置の体外循環血液回路の血液回収用に使用するとともに、全量を上記患者に投与した。投与された化学プール薬剤は、治療間欠期(43〜44時間)を経て、次回の血液浄化治療によって体外へ除去された。このサイクルを、血液浄化治療終了ごとに繰り返した。
(実施例3)
実施例1と同様の通常の血液浄化治療が施される体重60kgの慢性透析患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤である、非生理的な光学異性体構造をもつD-リジル・チロシン(D型アミノ酸2残基からなるジペプチド)を100mEqの化学当量で含む500mLの水溶液(リンス液)を用意した。このリンス液を高機能膜(150mL/minのクリアランス値を具備する透析膜)を備える透析装置に設置した。血液浄化治療終了時にこのリンス液を、透析装置の体外循環血液回路の血液回収用に使用するとともに、全量を上記患者に投与した。投与された化学プール薬剤は、治療間欠期(43〜44時間)を経て、次回の血液浄化治療によって体外へ除去された。このサイクルを、血液浄化治療終了ごとに繰り返した。なお、ラジカルを捕捉したD型ペプチドラジカルや酸化修飾を受けたD型ペプチドは体内で分解されにくく治療間欠期間に安定に存在するため、次の透析治療で除去することができる。
(実施例4)
実施例1と同様の通常の血液浄化治療が施される体重60kgの慢性透析患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤である、非生理的な光学異性体構造をもつD-リジル・チロシル・システイン(D型アミノ酸3残基からなるトリペプチド)を100mEqの化学当量で含む500mLの水溶液を用意した。この水溶液に、タンパク質構成性のL-アミノ酸を合計15g添加して、L-アミノ酸と、D-リジル・チロシル・システインとを含むリンス液を用意した。このリンス液を高機能膜(150mL/minのクリアランス値を具備する透析膜)を備える透析装置に設置した。血液浄化治療終了時にこのリンス液を、透析装置の体外循環血液回路の血液回収用に使用するとともに、全量を上記患者に投与した。なお、生理食塩水に対するリンス液の浸透圧比が3〜4になるため、数分以上かけた緩徐な投与(回収操作)を行った。投与された化学プール薬剤は、治療間欠期(43〜44時間)を経て、次回の血液浄化治療によって体外へ除去された。このサイクルを、血液浄化治療終了ごとに繰り返した。
(実施例5)
実施例1と同様の通常の血液浄化治療が施される体重60kgの慢性透析患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、還元型アスコルビン酸と、グルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステル(H供与体であるドナー薬剤)とを合計80mEqの化学当量で含む300mLの水溶液(リンス液)を用意した。還元型アスコルビン酸とグルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステルの含有比率は、化学当量比で1:3とした。このリンス液を高機能膜(150mL/minのクリアランス値を具備する透析膜)を備える透析装置に設置した。血液浄化治療終了時にこのリンス液を、透析装置の体外循環血液回路の血液回収用に使用するとともに、全量を上記患者に投与した。投与された化学プール薬剤は、治療間欠期(43〜44時間)を経て、次回の血液浄化治療によって体外へ除去された。このサイクルを、血液浄化治療終了ごとに繰り返した。
なお、グルタチオンアルキルエステルの作用はグルタチオンと同様にグルタチオンペルオキシダーゼの基質となって還元性を発揮することであるが、移動に関しては膜透過性がグルタチオンよりも優れており、ミトコンドリアにより到達しやすいことが利点である。
(実施例6)
急性血液浄化治療が必要となる体重60kgの熱傷患者に対して、化学プール透析を行った。具体的に、本発明の化学プール薬剤として、フリーラジカルを捕捉するアクセプター薬剤である、2-(α-D-glucopyranosyl) (methyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-olおよびグルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステル(H供与体)を合計120mEqの化学当量で含む500mLの水溶液を用意した。2-(α-D-glucopyranosyl) (methyl)methyl-2,5,7,8-tetramethylchroman-6-olとグルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステルの含有比率は、化学当量比で2:1とした。かかる水溶液を透析装置によって、経静脈的に上記患者に有害事象発生後に可及的速やかに投与した。そして、ラジカル補足や還元反応などの無毒化反応が平衡状態に達した後に(通常数時間から数日程度経過時点)、高効率の血液浄化治療を実施して反応産物を除去した。なお、かかる除去のために、急性血液浄化治療は通常の持続緩徐型の慢性血液浄化治療よりも小分子物質の除去効率が優れている必要がある。このため、上記透析装置の血液浄化器は、クリアランス値が200 ml/minの透析膜を用いて、4時間以上の血液浄化治療を行った。なお、クリアランス値が100 ml/minの場合6時間以上、クリアランス値が150 ml/minの場合5時間以上の血液浄化治療を行うことが好ましい。化学プール薬剤の投与とその後の血液浄化治療を1クールとして、3日に1回、3クールを繰り返した。なお、持続治療を行う場合は、体内に投与された化学プール薬剤が、その投与直後の化学当量に対して10〜50%程度除去された時点で、追加の化学プール薬剤の投与を血液浄化治療の最中に行う。
実施例1ないし実施例5で行った化学プール透析により、常に代謝過程で発生し続ける化学反応性の高い有害なフリーラジカルの連鎖反応の進展を効率的に阻止できた。このような化学プール透析によれば、慢性腎不全状態における活性酸素種の消去能低下とミトコンドリア障害の悪循環に起因する生体高分子の劣化、遺伝子の劣化、細胞機能の劣化が進展し、可視的な病態として筋萎縮および運動機能障害、動脈硬化、癌化、老化促進などの合併症病態の進展の速度が低減されることが期待され、患者の生存や生活の質の向上に寄与するとともに、国家的には合併症対処に費やされる医療費を節減するという予防医学的なメリットが期待される。なお、実施例5で用いた化学プール薬剤を構成する還元型アスコルビン酸は、ミトコンドリアには到達しないが、ミトコンドリア外に漏出したフリーラジカルを捕捉した後にグルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステルにより還元される。さらにグルタチオンまたはグルタチオンアルキルエステルは、ミトコンドリアへ到達する。このため、フリーラジカルの連鎖反応を多段階の部位で阻止することができたと推察される。
また、実施例6のような化学プール透析を、急性血液浄化治療や救急治療の分野に応用することにより、急性腎不全患者、薬物過剰摂取や毒物中毒患者、重症感染症患者、熱傷患者、虚血後再灌流障害患者、重症妊娠中毒症、慢性皮膚潰瘍患者、脳出血脳室穿破患者、重症溶血性疾患患者の救命率を向上させることができると期待される。
1 血液浄化治療
2 化学プール薬剤の投与
3 化学プールのうち細胞外液に分布する薬剤の存在量(mEq)のプロフィール
4 化学プールのうち細胞質に分布する薬剤の存在量(mEq)のプロフィール
5 化学プールのうちミトコンドリアに分布する薬剤の存在量(mEq)のプロフィール
6 内因性クリアランス値1mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化
7 内因性クリアランス値2mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化
8 内因性クリアランス値4mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化
9 内因性クリアランス値8mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化
10 内因性クリアランス値12mL/minの場合の化学プールのサイズ(mEq)の変化
11 内因性クリアランス値1mL/minの場合のミトコンドリアに存在する薬剤の量(mEq)の変化
12 内因性クリアランス値2mL/minの場合のミトコンドリアに存在する薬剤の量(mEq)の変化
13 内因性クリアランス値4mL/minの場合のミトコンドリアに存在する薬剤の量(mEq)の変化
14 内因性クリアランス値8mL/minの場合のミトコンドリアに存在する薬剤の量(mEq)の変化
15 内因性クリアランス値12mL/minの場合のミトコンドリアに存在する薬剤の量(mEq)の変化
16 血液浄化のクリアランス値100mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化
17 血液浄化のクリアランス値150mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化
18 血液浄化のクリアランス値200mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化
19 血液浄化のクリアランス値250mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化
20 血液浄化のクリアランス値300mL/minの場合の化学プールサイズ(mEq)の変化
C1:電磁開閉クランプ
C2:電磁開閉クランプ
D:血液浄化器
D1:細管
P1:透析液送液ポンプ(等流量系)
P2:透析液排液ポンプ(等流量系)
P3:順逆両回転する第3の透析液ポンプ
P4:順逆両回転する血液ポンプ
R:化学プール薬剤を含むリンス液
s:脱血側の患者血管と血液回路の接続点
t:補液供給回路と血液回路の合流点
u:血液回路動脈側と血液浄化器Dの接続点
v:返血側の患者血管と血液回路の接続点
100:透析装置
200:透析液回路
300:体外循環血液回路(血液回路)
310:動脈側血液回路
320:静脈側血液回路
400:補液供給回路

Claims (11)

  1. 血液浄化器と、前記血液浄化器に連結され、血液を循環させるための体外循環血液回路と、前記体外循環血液回路へ連結された補液供給回路と、前記血液浄化器に透析液を供給する透析液回路と、を少なくとも備える透析装置であって、
    前記補液供給回路は、体内で発生するフリーラジカルを捕捉しうるアクセプター薬剤、および、前記体内で進行する酸化反応を阻止しうるドナー薬剤の少なくとも1つを前記体外循環血液回路へ供給するように構成されており、
    前記アクセプター薬剤は、前記フリーラジカルを捕捉した後に、前記フリーラジカルを再放出することなく前記体内で安定に存在するように構成され、かつ、前記フリーラジカルを捕捉した前記アクセプター薬剤は、前記血液浄化器により、前記体内の細胞膜に組み込まれることなく体外へ除去されるように構成されており、
    前記ドナー薬剤は、前記酸化反応に供される酸化型の生体分子に、水素原子および/または電子単体として電子を供与するとともに、酸化型分子となって再還元されず、前記体内で安定に存在するように構成され、かつ、前記酸化型分子となったドナー薬剤は、前記血液浄化器により、前記体内の細胞膜に組み込まれることなく体外へ除去されるように構成されていることを特徴とする透析装置。
  2. 前記アクセプター薬剤および/または前記ドナー薬剤は、慢性血液浄化治療後毎に供給される請求項1に記載の透析装置。
  3. 前記アクセプター薬剤は、前記慢性血液浄化治療における治療間欠期に前記体内で発生する前記フリーラジカルを捕捉しうる化学当量で供給され、
    前記ドナー薬剤は、前記慢性血液浄化治療における前記治療間欠期に前記体内で進行する前記酸化反応を阻止しうる化学当量で供給され、
    前記化学当量の総量は、前記治療間欠期の長さ(hr)および前記慢性血液浄化治療が施される患者の体重(kg)を用いて、0.001〜0.05 mEq/(hr・kg)である請求項2に記載の透析装置。
  4. 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤は、急性血液浄化治療が施される患者に対して有効な化学当量で供給される請求項1に記載の透析装置。
  5. 前記化学当量の総量は、前記患者の体重(kg)を用いて、0.1〜20 mEq/kgである請求項4に記載の透析装置。
  6. 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤のそれぞれの分子量は、1000D以下である請求項1ないしのいずれかに記載の透析装置。
  7. 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤は、それぞれ、
    前記体内に存在する分子量10kD以上の高分子に結合せず、
    前記体内の前記細胞膜および細胞内小器官の膜に溶存しないように構成されている請求項1ないしのいずれかに記載の透析装置。
  8. 前記アクセプター薬剤および/または前記ドナー薬剤は、前記体外循環血液回路の血液回収用のリンス液として供給される請求項1ないしのいずれかに記載の透析装置。
  9. 前記リンス液の容量は、200mL〜1000mLであり、
    生理食塩水に対する前記リンス液の浸透圧比は、0.5〜5である請求項8に記載の透析装置。
  10. 前記リンス液は、L型アミノ酸を総量で3g〜15gさらに含み、
    前記リンス液の容量は、200mL〜1000mLであり、
    生理食塩水に対する前記リンス液の浸透圧比は、2〜8である請求項8に記載の透析装置。
  11. 前記アクセプター薬剤および前記ドナー薬剤の少なくとも一方は、D型アミノ酸2または3残基からなるペプチドである請求項1ないし10のいずれかに記載の透析装置。
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