以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を省略する。
<第一実施形態>
第一実施形態は、障害物検知結果を基に衝突可能性を判定し、通常ブレーキ又は緊急ブレーキを操作することを報知する実施形態である。まず、図1〜図3に基づいて、第一実施形態に係る電気駆動鉱山ダンプトラックの構成について説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係る電気駆動鉱山ダンプトラックの側面図である。図2は、図1に示す電気駆動鉱山ダンプトラックのキャブ内を示す説明図である。図3は、図1に示す電気駆動鉱山ダンプトラックの全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電気駆動鉱山ダンプトラック(以下「ダンプトラック」と略記する)100は、車体フレーム101、一対の前輪102、一対の後輪103、及び荷台104を備えている。一対の前輪103は、車体フレーム101の前部の左右両端に回転可能に取り付けられている。一対の後輪103は、車体フレーム101の後部の左右両端に回転可能に取り付けられている。さらに、荷台104は、土砂や砕石等の運搬対象物を積載する部分であって、車体フレーム101に起伏可能に取り付けられている。
また、車体フレーム101の左側の前輪102の上方には、オペレータが乗車する運転室であるキャブ105が設けられる。更に車体フレーム101の前部には、図示を省略するものの、エンジンや油圧機器等が収容されたパワーユニットが設けられている。
図2に示すように、キャブ105内には、オペレータが着座する座席110が備えられ、これに着座したオペレータの前方にステアリングハンドル111が備えられる。ステアリングハンドル111の根元の右側には、通常ブレーキペダル112、及びアクセルペダル113が配置される。また、ステアリングハンドル111の根元の左側には、緊急ブレーキペダル114が備えられる。
通常ブレーキペダル112は、通常制動時に使用するものであり、主に電気ブレーキにより減速させ、停止直前に機械ブレーキを併用して車両を停止させる動作を行うためのペダルである。オペレータが、通常ブレーキペダル112を踏むと、後述する電動機1、4(図3参照)を発電機として機能させ、回生した電気を電力消費装置(リターダ)56(図3参照)で消費してブレーキ動作を行い、減速する。そして、停止直前の速度、例えば、0.5km/h以下で機械ブレーキも作動してダンプトラック100が停止する。
緊急ブレーキペダル114は、緊急制動時に使用するものであり、ブレーキディスクを含む機械ブレーキと、電気ブレーキとを同時に作動させて車両を減速・停止させる動作を行うためのペダルである。オペレータが、緊急ブレーキペダル114を踏むと、電気ブレーキ及び機械ブレーキが同時にフル作動する。これにより、通常ブレーキよりもより大きな制動力により車速を減速し、より短時間で車体を停止させることができる。通常ブレーキペダル112を踏んで作動させる通常ブレーキ装置の制動力と、緊急ブレーキペダル114を踏んで作動させる緊急ブレーキ装置の制動力とは、同一環境下で作動させた場合に、緊急ブレーキ装置の制動力の方が、通常ブレーキ装置の制動力よりも大きい。
本実施形態では、通常ブレーキペダル112と緊急ブレーキペダル114とを別体に構成したが、これらを一つのブレーキペダルにより構成し、踏み込み量が閾値未満であれば通常ブレーキを、閾値以上であれば緊急ブレーキを作動させるように構成してもよい。
ステアリングハンドル111の前方には、計器類や、ダンプトラックの周囲を撮影した画像を表示するカメラモニタなどを含むフロントパネル115が備えられる。フロントパネル115における上部右側には、通常ブレーキペダル112の操作を報知するためのスピーカ116(第1の報知部に相当する)が備えられる。フロントパネル115における上部左側には、緊急ブレーキペダル114の操作を報知するための警告灯117(第2の報知部に相当する)を備える。
本実施形態では、通常ブレーキペダル112の操作は音声情報を用いて報知し、緊急ブレーキペダル114の操作は、視覚情報を用いて報知するが、第1の報知部及び第2の報知部の報知態様はこれに限定されない。第2の報知部が緊急ブレーキペダルの操作を促す状況では、衝突回避までの時間が短い(緊急度が高い)ので、第1の報知部の報知態様よりも緊急性が高い報知態様を用いることが好ましい。例えば、第1の報知部及び第2の報知部を共に音声情報を用いて報知する場合には、第1の報知部の音量よりも及び第2の報知部の音量を大きくする。また、第2の報知部は、警告灯による視覚情報と音声情報とを併用して報知してもよい。さらに、第1の報知部及び第2の報知部のそれぞれから出力される音声情報の周波数を変えてもよい。さらに、第2の報知部は、座席110に備えた振動装置として構成し、オペレータに振動を用いて緊急ブレーキの操作を促してもよい。
図3に示すように、ダンプトラック100は、電動機1がギア2を介して左後輪103Lを駆動し、電動機4がギア5を介して右後輪103Rを駆動することで車両が前進または後進する。左前輪102L及び右前輪102Rは、ダンプトラック100の移動に従動して回転する。
ダンプトラック100は、図示を省略するものの、動力源としてのエンジンと、エンジンの動力を電気エネルギーに変換する発電機とを搭載する。そして、発電された電力が電力変換器13に供給される。電力変換器13は、電動機1及び電動機4に電力を供給し、電動機1及び電動機4が駆動する。電流検出器14は電力変換器13と電動機1の間に接続されており,それらの間に流れる電流を検出する。電流検出器15は電力変換器13と電動機4の間に接続されており、それらの間に流れる電流を検出し、これらの電流を基にトルクが算出する。算出されたトルクは、後述する報知閾値の算出に用いられる。速度検出器9は電動機1に接続されており、電動機1の回転速度を検出する。速度検出器10は電動機4に接続されており、電動機4の回転速度を検出する。
速度検出器11は左前輪102Lの軸に接続されており、左前輪102Lの回転速度を検出する。速度検出器12は右前輪102Rの軸に接続されており、右前輪102Rの回転速度を検出する。速度検出器9、10、11、12の速度検出値は、衝突可能性判定器30に入力される。
アクセル開度検出器19は、オペレータのアクセル操作に応じたアクセルペダル113の開度を検出してアクセル開度検出値を算出し、トルク指令演算器17に出力する。
通常ブレーキ開度検出器20は、オペレータのブレーキ操作に応じた通常ブレーキペダル112の開度を検出して通常ブレーキ開度検出値を算出し、トルク指令演算器17に出力する。
ステアリング角度検出器21は、オペレータのステアリングハンドル111の操作に応じたステアリングの角度を検出してステアリング角度検出値を算出し、トルク指令演算器17に出力する。
緊急ブレーキ開度検出器22は、オペレータの緊急ブレーキペダル114の操作を検出して緊急ブレーキ開度検出値を出力する。緊急ブレーキ制御器23は緊急ブレーキ開度検出器22が出力する緊急ブレーキ開度検出値の入力をトリガとして、機械ブレーキ24、25、26、27への動作指令を出力する。さらに、緊急ブレーキ開度検出器22は、緊急ブレーキ開度検出値をトルク指令演算器17に出力する。
トルク指令演算器17は、アクセル開度検出器19が出力するアクセル開度検出値、通常ブレーキ開度検出器20が出力する通常ブレーキ開度検出値、及びステアリング角度検出器21が出力するステアリング角度検出値を入力として、電動機1及び電動機4に対してトルク低減指令を出力する。このトルク低減指令の出力に応じて行う電動ブレーキが、通常ブレーキの主動作に相当する。
緊急ブレーキ開度検出器22が、緊急ブレーキ開度検出値を出力した場合は、アクセル開度検出器19が出力するアクセル開度検出値及び通常ブレーキ開度検出器20が出力する通常ブレーキ開度検出値に関係なく、通常ブレーキペダル112をフルに踏み込んだ場合と同じトルク低減指令をトルク指令演算器17が出力する。
トルク制御器16は、トルク指令演算器17が出力する電動機1へのトルク指令、電流検出器14の出力する電流検出値、及び速度検出器9の出力する回転速度検出値から電動機1の出力するトルクが電動機1へのトルク指令に従うよう、PWM制御(Pulse Width Modulation)により電力変換器13へのゲートパルス信号を出力する。また,トルク制御器16はトルク指令演算器20の出力する電動機4へのトルク指令および電流検出器15の出力する電流検出値及び速度検出器10の出力する回転速度検出値から電動機4の出力するトルクが電動機4へのトルク指令に従うように、PWM制御により電力変換器13へのゲートパルス信号を出力する。電力変換器13はこれらのゲートパルス信号を受け、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子が高速にスイッチングを行うことで,高応答なトルク制御を実現する。
電力消費装置56は、車両が減速する時に電動機1及び電動機4が回生する電力を消費する機能を有する。
衝突可能性判定器30は、ミリ波センサやイメージングセンサ等の障害物センサ28と、通常ブレーキペダル112を踏むように促す報知情報を出力する第1の報知器31と、緊急ブレーキペダル114を踏むように促す報知情報を出力する第2の報知器32と、に接続される。そして、障害物センサ28が出力する障害物情報に基づいて、オペレータに通常ブレーキペダル112を踏むように促す報知情報を出力するか、緊急ブレーキペダル114を踏むように促す報知情報を出力するかを決定する。
上記衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23は、特定の用途向け集積回路(ASIC:Aapplication Specific Integrated Circuit)の他、MPU(Micro−Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアに衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23のそれぞれの機能を実現するためのソフトウェアを実行させて形成してもよい。また、図3では、衝突可能性判定器30、トルク指令演算器17、及び緊急ブレーキ制御器23を別部材として図示しているが、MPUやCPU、記憶装置、及び出入力装置を含む一つの制御装置に、各機能を実現するためのソフトウェアを実行させて構成してもよい。
次に、図4に基づいて、衝突可能性判定器の詳細について説明する。図4は、図3に示す衝突可能性判定器の内部構成を示すブロック図である。
図4に示すように、衝突可能性判定器30は、障害物情報認識部301、衝突予測時間演算部302、危険度判定部303、及び閾値データ記憶部304を含む。上記「衝突予測時間」は「Time To Collision」とも呼ばれることから、以後「衝突予測時間」を「TTC」と略記する。
障害物情報認識部301は、ミリ波センサやイメージングセンサなどの障害物センサ28から出力される障害物の情報を入力として、障害物の位置及び障害物と自車両との相対速度を演算して出力する。障害物センサ28及び障害物情報認識部301を総称して障害物検知部35という。
TTC演算部302は、障害物の位置及び障害物と自車両との相対速度を入力として、TTC(衝突予測時間)を演算する。TTCは、自車両と障害物との間の二点間距離Xr、相対速度Vrを用いて次式(1)で表わされる。
TTC演算部302は、演算したTTCを危険度判定部303に出力する。
危険度判定部303は、TTC演算部302から出力されたTTC、速度検出器9、10、11、12が出力する速度検出値(車輪の回転速度)、及び閾値データ記憶部304に記憶された報知閾値を基に、自車両と障害物との衝突危険度を判定する。
図5に沿って、危険度判定部303における危険度判定処理について説明する。図5は、図4に示す危険度判定部における危険度判定処理の流れを示すフローチャートである。
障害物情報認識部301は、ダンプトラック1のエンジン起動後、継続して障害物センサ28から出力される障害物の情報を入力として、障害物の位置及び障害物と自車両との相対速度を演算して(障害物認識処理)、TTC演算部302に出力する(S101)。
TTC演算部302は、障害物の位置及び障害物と自車両との相対速度を基にTTCを演算し、危険度判定部303に出力する(S102)。
危険度判定部303は、TTC演算部302が出力するTTCと、通常ブレーキの操作を促すための報知を実行するか否かを判断するための第1の報知閾値t1と、の比較を行う(S103)。ここで、第1の報知閾値t1は自車両の速度が大きければ、ブレーキを踏んでから停止するまでの制動距離が長くなるため大きくなる。
危険度判定部303は、比較に先立ち、ステップS101で演算された自車両の相対速度を基に、閾値データ記憶部304に記憶された閾値データを参照し、相対速度に応じた第1の報知閾値t1を決定する。そして、この第1の報知閾値t1と、TTCとを比較する。TTC演算部302が出力するTTCが、第1の報知閾値t1よりも大きい場合(S103/Yes)、通常ブレーキを踏まなくても衝突の危険が無いため、第1の報知器31による報知、及び第2の報知器32による報知を行わない(S104)。その後、ステップS101へ戻り、障害物認識処理を繰り返す。
TTC演算部302が出力するTTCが、第1の報知閾値t1以下である場合(S103/No)、危険度判定部303は、TTC演算部302が出力するTTCと、緊急ブレーキの操作を促すための報知を実行するか否かを判断するための第2の報知閾値t2と、の比較を行う(S105)。ここで、第2の報知閾値t2も、第1の報知閾値t1と同様、自車両の速度が大きければ、ブレーキを踏んでから停止するまでの制動距離が長くなるため大きくなる。
危険度判定部303は、ステップS103と同様、自車両の相対速度を基に、閾値データ記憶部304に記憶された閾値データを参照し、相対速度に応じた第2の報知閾値t2を決定し、これとTTCとを比較する。TTC演算部302が出力するTTCが、第2の報知閾値t2よりも大きい場合(S105/Yes)、
緊急ブレーキは不要だが、通常ブレーキを作動させないと衝突する危険があるので、第1の報知器31による報知を行う(S106)。第1の報知器31は、例えば、警戒音が鳴るようなものや音声案内で危険を報知するようなものを用いてもよい。
TTCが、第2の報知閾値t2以下の場合(S105/No)、緊急ブレーキを作動させないと衝突する危険があると判定し、第2の報知器32による報知を行う(S107)。このとき、第1の報知器31をOFFにし、第1の報知を終了させて、二つの報知器が同時に作動しないように構成してもよい。
第2の報知器32は、第1の報知器31の動作時と比べて早急にオペレータによる回避動作が要求されるため、第1の報知器31による報知よりも音が大きいものを用いることが好ましい。また、第1の報知器31が鳴った場合に、第2の報知器32と勘違いして緊急ブレーキを踏んでしまうと、過剰なブレーキがかかるだけでなく、機械ブレーキのディスクの磨耗を早める。また、第2の報知器32が作動したときに、第1の報知器31と勘違いして通常ブレーキペダルを踏んでしまうと、障害物に衝突してしまう。このようなブレーキペダルの踏み間違いを確実に防止するために、第1の報知器31及び第2の報知器32の各報知態様を変え、音の大きさだけでなく種類を異なるものにして違いを明示的にしておくことが好ましい。
第1の報知器31の作動後(S106)、ステップS101へ戻り、障害物認識処理以下の処理を繰り返す。オペレータが通常ブレーキを作動させ、衝突危険性がなくなった場合(TTCが第1の報知閾値t1より大きくなった場合)、ステップS104で第1の報知器31をOFFにする。
第2の報知器32の作動後(S107)、危険度判定部303は、緊急ブレーキ開度検出器22からの緊急ブレーキ開度検出値を基に、オペレータの回避動作の有無を判定する(S108)。第2の報知器32の報知を受けて、オペレータが緊急ブレーキの操作を行った場合、即ち、緊急ブレーキ開度検出値が危険度判定部303に入力されると回避動作があったと判定し(S108/Yes)、ステップS101へ戻る。そして障害物認識処理以下の処理を繰り返し、衝突が回避されていれば(S103/Yes)、第2の報知器32の作動をOFFにする(S104)。
一方、危険度判定部303は、緊急ブレーキ開度検出値の入力がない場合、回避動作がないと判定し(S108/No)、ステップS107へ戻り、第2の報知器32を継続して作動する。図5の危険度判定処理は、エンジンの始動と共に開始され、エンジンの停止操作、例えばエンジンキーのOFF操作がされたときに、その操作をトリガとして、危険度判定処理を終了させるコマンドが衝突可能性判定器30に送信され、処理の終了動作が行われるように構成してもよい。処理の終了動作は、ステップS101〜ステップS108のどのステップであるかを問わず、衝突可能性判定器30がコマンドを取得したときに実行されるように構成されてもよい。
次に、図6に基づいて、第1の報知閾値t1及び第2の報知閾値t2の決め方について説明する。図6は、第1の報知閾値t1及び第2の報知閾値t2と相対速度との関係を示す説明図である。
閾値データ記憶部304には、例えば図6に示すような、相対速度と第1の報知閾値t1及び第2の報知閾値t2とを対応付けた関数(S1、S2)、テーブルなどの閾値情報が記録されており、危険度判定部303がこの閾値情報を参照して第1の報知閾値t1及び第2の報知閾値t2を決定する。
相対速度を簡略化するために前方の障害物が静止物である場合を考える。障害物との間の二点間距離をX1、自車両の速度をV1とすると、TTCは既述の式(1)より、(X1/V1)で表せる。
ここで、自車両がV1で走行している際に通常ブレーキを作動させたときの制動距離X1’は、通常ブレーキを用いたテスト結果等から算出可能である。通常ブレーキ時の制動距離X1’を自車両の速度V1で除した値を、通常ブレーキ時の衝突回避限界値t1’とする。衝突回避限界値t1’は、次式(2)で表せる。
t1’がTTC以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’が、自車両と障害物間との二点間距離Xr以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物との衝突を避けられないことを意味する。このため、第1の報知閾値t1は、通常ブレーキ操作時の衝突回避限界値t1’にマージンm1(例えば1〜3s程度の)を加えて算出する。よって、第1の報知閾値t1は次式(3)で表せる。
ここで、マージンm1とは、障害物情報認識部301が障害物の位置及び速度を検知するためのフィルタリング処理にかかる時間や、オペレータが第1の報知を受けてから回避動作をするまでにかかる空走時間、また第1の報知にすぐには気付かない場合を想定した空走時間を考慮して設定される時間である。
図6において、L1は、相対速度と通常ブレーキ操作時の衝突回避限界値t1’との関係を示す衝突回避限界ラインであり、S1は、相対速度と第1の報知閾値との関係を示す第1の報知閾値ラインである。衝突回避限界ラインL1と第1の報知閾値ラインS1と差分が、マージンm1に相当する。
次に第2の報知閾値t2の決め方について説明する。第1の報知閾値t1と同様に、自車両がV1で走行している際に緊急ブレーキを作動させたときの制動距離X2’は、緊急ブレーキを用いたテスト結果等から算出可能である。緊急ブレーキ作動時には、電気ブレーキ及び機械ブレーキが同時に作動するので、通常ブレーキ時、即ち電気ブレーキだけを作動させたときよりも制動力が大きくなる。よって、X2’<X1’となる。
緊急ブレーキ時の制動距離X2’を自車両の速度V1で除した値を、緊急ブレーキ時の衝突回避限界値t2’とすると、衝突回避限界値t2’は、次式(4)で表せる。
t2’がTTC以上の場合、即ち、緊急ブレーキによる制動距離X2’が、自車両と障害物間との二点間距離Xr以上である場合、緊急ブレーキのみでは障害物との衝突を避けられないことを意味する。このため、第2の報知閾値t2は、緊急ブレーキ操作時の衝突回避限界値t2’にマージンm2(例えば1〜3s程度の)を加えて算出する。よって、第2の報知閾値t2は次式(5)で表せる。
マージンm2は、マージンm1と同じ値でもよいし、異なってもよい。図6において、L2は、相対速度と緊急ブレーキ操作時の衝突回避限界値t2’との関係を示す衝突回避限界ラインであり、S2は、相対速度と第2の報知閾値との関係を示す第2の報知閾値ラインである。衝突回避限界ラインL2と第2の報知閾値ラインS2と差分が、マージンm2に相当する。
また、上述の通り、緊急ブレーキの制動力は通常ブレーキよりも制動力が大きいので、各制動距離はX2’<X1’となる。従って、図6に示すように、緊急ブレーキ時の衝突回避限界ラインL2は、通常ブレーキ時の衝突回避限界ラインL1よりも下方に図示される。さらにマージンm2がマージンm1と同じかそれよりも小さい値である場合、同一の相対速度であれば第2の報知閾値ラインS2は、第1の報知閾値ラインS1よりも時間量が少なくなる。
第一実施形態によると、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有するダンプトラックにおいて、オペレータに対し、適切なタイミングで衝突を回避するために各ブレーキを操作することを促すことができる。このように運転支援を行うことで衝突事故の発生を防止することができる。また、不要なブレーキ操作をなくすことで、タイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第二実施形態>
次に、第二実施形態について、図面を参照して説明する。第二実施形態は、衝突を防止するための通常ブレーキ操作及び緊急ブレーキ操作の報知タイミングを、荷重や路面傾斜、路面状態に応じて変化させてオペレータに報知する実施形態である。以下、図7〜図12を参照して第二実施形態について説明する。
まず、図7及び図8に基づいて、第二実施形態に係るダンプトラックの構成について説明する。図7は、本発明の第二実施形態に係る電気駆動鉱山ダンプトラックの全体構成図である。図8は、図7に示す衝突可能性判定器の内部構成を示すブロック図である。
図7に示すように、第二実施形態に係るダンプトラック100aは、車両の荷重を測る荷重センサ50及び車体の傾斜角度を測る傾斜センサ52を更に備える。本実施形態では、車体の傾斜角度を測り、これを路面勾配とみなして処理を行う。図8に示すように、第二実施形態の衝突可能性判定器30aは、路面状態(路面の摩擦係数)を推定する路面状態推定演算部305を更に備える。その他の構成は、第一実施形態に係るダンプトラックと同じであるので、説明を省略する。なお、荷重センサ50は、必須ではなく、例えば、電気駆動ダンプトラックに積込作業を行う積込機から、積込量を示す情報を得て、これに自重を加算して衝突可能性判定器30に入力してもよい。また、路面の勾配は地形を基に予め測定できるので、位置情報と勾配とを地図情報に書き込み、電気駆動ダンプトラックが走行中に、現在位置と地図情報とを参照することで路面勾配を算出するように構成してもよい。
衝突可能性判定器30aに含まれる危険度判定部303には、荷重センサ50が検出した荷重、及び傾斜センサ51が検出した傾斜角度が入力される。
路面状態推定演算部305は、例えばトルク指令演算器17が出力するトルク指令、及び速度検出器9、10、11、12が出力する車輪の速度検出値から車両の駆動力を演算し、演算した駆動力の傾きから現在走行している路面の摩擦係数(以下「μ」と記載する)を演算する。演算した路面μは、危険度判定部303に入力される。μが大きい路面を高μ路、μが小さい路面を低μ路という。
次に、図9〜図11を参照して、荷重、傾斜角度、及び路面状態に応じた第1の報知閾値(通常ブレーキ操作のための報知閾値)及び第2の報知閾値(緊急ブレーキ操作のための報知閾値)の決め方について説明する。
まず、図9を参照して、荷重の違いによる第1及び第2の報知閾値の変化について説明する。図9は、荷重に応じたブレーキ操作のタイミングを示す説明図であって、(a)は、通常ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第1の報知閾値ラインを示し、(b)は、緊急ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第2の報知閾値ラインを示す。
第一実施形態と同様に、相対速度を簡略化するために前方の障害物が静止物である場合を考える。車両が積荷を積んでない空荷状態の場合の障害物及び車両の間の距離をX1_emp、自車両の速度をV1とすると、既述の式(1)より、空荷時の衝突予測時間TTC_empは、(X1_emp/V1)で表せる。
自車両がV1で走行している際に通常ブレーキを用いた場合の制動距離X1’_empは、通常ブレーキ操作のブレーキテスト結果などを用いて算出可能である。
この制動距離X1’_empを自車両の速度V1で除した値(「空荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値」という)をt1’_empとすると、t1’_empがTTC_emp以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_empが、自車両と障害物間との距離X1_emp以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物との衝突を避けられないことを意味する。したがって、空荷の場合は、空荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_empにマージンを持たせた値を第1の報知閾値とすることで、通常ブレーキのみで障害物との衝突を回避できる。
次に車両が積荷を積んでいる状態の時の障害物との二点間距離をX1_full、自車両の速度をV1とすると、既述の式(1)より、積荷時の衝突予測時間TTC_fullは、(X1_full/V1)で表せる。
ここで、自車両がV1で走行している時に、通常ブレーキを行った時の制動距離X1’_fullは算出可能である。この制動距離X1’_fullを自車両の速度V1で除した値(「積荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値」という)をt1’_fullとすると、t1’_fullがTTC_full以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_fullが、自車両と障害物間との二点間距離X1_full以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物との衝突を避けられないことを意味する。「空荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値」及び「積荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値」のように荷重に応じて変動する衝突回避限界値を荷重衝突回避限界値という。
ここで、運動方程式から車両の加減速度は質量に反比例するため、同じ速度V1で走行した場合、X1’_full>X1’_emp、t1’_full>t1’_empが成立する。これは積荷を積んでいる時には空荷のときよりも制動距離が長くなり、空荷の時よりも早いタイミングで通常ブレーキ操作を開始しなければ障害物との衝突を回避できないことを示している。従って、図9の(a)において、積荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界ラインL1_fullが、空荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界ラインL1_empよりも時間量が多く図示される。
また、第一実施形態と同様、空荷時の走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_empにマージンを加えた値を、空荷時の第1の報知閾値t1_empとし、積荷走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_fullに、マージンを加えた値を積荷時の第1の報知閾値t1_fullとする。図9の(a)では、相対速度と空荷時の第1の報知閾値t1_empとの関係を空荷時の第1の報知閾値ラインS1_emp、相対速度と積荷時の第1の報知閾値t1_fullとの関係を積荷時の第1の報知閾値ラインS1_fullで示す。荷重が大きくなるにつれて、制動距離が長くなることから、積荷走行時の第1の報知閾値ラインS1_fullは、空荷走行時の第1の報知閾値ラインS1_empより時間量が大きく規定される。
第2の報知閾値も、第1の報知閾値同様、荷重に応じて決定することができる。すなわち、積荷走行時の緊急ブレーキの衝突回避限界ラインL2_full、空荷走行時の緊急ブレーキの衝突回避限界ラインL2_empのそれぞれにマージンを加えて、空荷走行時の第2の報知閾値ラインS2_emp、及び積荷走行時の第2の報知閾値ラインS2_fullを決定することができる。
次に、路面勾配の違いによる第1及び第2の報知閾値の変化について説明する。
まず、平坦路を走行する場合と傾斜角度θ[deg]の下り坂を走行する場合を比較する。ダンプトラック100が、平坦路を走行する時の障害物との二点間距離をX1_flat、自車両の速度をV1とすると、TTC_flatは(X1_flat/V1)となる。
一方、自車両がV1で走行している際に通常ブレーキを作動させた場合の制動距離X1’_flatは、通常ブレーキのテスト結果などを基に算出可能である。この制動距離X1’_flatを自車両の速度V1で除した値を平坦路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_flatとすると、t1’_flatがTTC_flat以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_flatが、自車両と障害物ととの二点間距離X1_flat以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物と衝突を避けられないことを意味する。したがって、平坦路走行時には、平坦路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_flatにマージンを持たせた値を、平坦路走行時の第1の報知閾値t1_flatとすることで、通常ブレーキのみで障害物との衝突を回避できる。
次に、ダンプトラック100が下り坂を走行する場合の障害物との間の二点間距離をX1_down、自車両の速度をV1とすると、TTC_downは、(X1_down/V1)となる。
自車両がV1で走行している際に通常ブレーキを行った時の制動距離X1’_downは算出可能である。この制動距離X1’_downを自車両の速度V1で除した値を下り坂走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_downとすると、t1’_downがTTC_down以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_downが、自車両と障害物間との間の二点間距離X1_down以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物との衝突を避けられないことを意味する。
ダンプトラック100が下り坂を走行する場合、ダンプトラック100にかかる重力のうち、路面に対して水平な方向の重力の成分、Mgsinθ(但しMはダンプトラック100の質量)の力が車両に働く。運動方程式より、質量Mを除した値、gsinθ分が、ダンプトラック100に加速度として加わることとなるので、gsinθ分だけ車両が停止し難くなる。したがって、平坦路と傾斜角度θの下り坂とを同じ速度V1で走行した場合の制動距離、及び衝突回避限界値を比較すると、X1’_down>X1’_flat、t1’_down>t1’_flatが成立する。これは、下り坂走行時は、平坦路走行時の制動距離よりも長いX1’_down以上離れていないと、通常ブレーキだけでは障害物との衝突を回避できないことを示している。
したがって、下り坂走行時は、平坦路走行時の衝突回避限界値t1’_flatよりも大きな値からなる下り坂走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_downにマージンを持たせた値を、下り坂走行時の第1の報知閾値t1_downとすることで、通常ブレーキのみで障害物との衝突を回避できる。
一方、登り坂を走行する際には、下り坂と逆でgsinθの加速度分だけ車両が停止しやすくなる。よって、平坦路及び登り坂を同じ速度V1で走行した場合のそれぞれの制動距離を比較すると、登り坂の制動距離X1’_upは、平坦路の制動距離X1’_flatよりも短くなる。よって、X1’_up<X1’_flatが成立する。衝突回避限界値は制動距離に比例するので、登り坂走行時の衝突回避限界値t1’_upは、平坦路の衝突回避限界値t1’_flatよりも小さく、t1’_up<t1’_flatが成立する。
そこで、登り坂走行時は、平坦路走行時の衝突回避限界値t1’_flatよりも小さい値からなる登り坂走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_upにマージンを持たせた値を、登り坂走行時の第1の報知閾値t1_upとすることで、通常ブレーキのみで障害物との衝突を回避できる。「登り坂走行時の衝突回避限界値」、「平坦路走行時の衝突回避限界値」、「下り坂走行時の衝突回避限界値」のように、勾配に応じて変動する衝突回避限界値を勾配衝突回避限界値という。
第2の報知閾値の変化についても、第1の報知閾値同様に、下り坂走行時には第2の報知閾値t2_downを平坦路走行時の第2の報知閾値t2_flatに比べて大きくし、登り坂走行時には第2の報知閾値t2_upを平坦路走行時の第2の報知閾値t2_flatに比べて小さくすることで、傾斜角度に合わせて緊急ブレーキ操作の報知タイミングを調整し、障害物との衝突を回避できる。
図10を参照して、路面勾配と報知閾値との関係について説明する。図10は、路面勾配に応じたブレーキ操作のタイミングを示す説明図であって、(a)は、通常ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第1の報知閾値ラインを示し、(b)は、緊急ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第2の報知閾値ラインを示す。
図10の(a)に示すように、衝突回避限界ラインは、登り坂走行時の衝突回避限界ラインL1_upが最も時間量が少なく、平坦路走行時の衝突回避限界ラインL1_flat、下り坂走行時の衝突回避限界ラインL1_downの順に時間量が多くなる。そして、報知閾値は、衝突回避限界値にマージンを持たせた値なので、第1の報知閾値ラインは、登り坂走行時の第1の報知閾値ラインS1_up、平坦路走行時の第1の報知閾値ラインS1_flat、下り坂走行時の第1の報知閾値ラインS1_downの順に時間量が多くなる。
また、図10の(b)に示すように、緊急ブレーキ作動時も、登り坂走行時の衝突回避限界ラインL2_up、平坦路走行時の衝突回避限界ラインL2_flat、下り坂走行時の衝突回避限界ラインL2_downの順に時間量が多くなり、これに応じて登り坂走行時の第2の報知閾値ラインS2_up、平坦路走行時の第2の報知閾値ラインS2_flat、下り坂走行時の第2の報知閾値ラインS2_downの順に時間量が多くなる。但し、緊急ブレーキの制動力は、通常ブレーキの制動力よりも大きいので、図10の(a)の各ラインに対し、図10の(b)の各ラインは時間量が少ない方向にシフトする。
次に、路面状態(摩擦係数及び摩擦力)の違いによる第1及び第2の報知閾値の変化について説明する。
摩擦力の大きい高μ路を走行する場合と摩擦力の小さい低μ路を走行する場合を比較する。ダンプトラック100が、高μ路を走行する時の障害物との二点間距離をX1_high、自車両の速度をV1とすると、TTC_highは、(X1_high/V1)と表せる。
自車両がV1で走行している時に通常ブレーキのテスト結果などを基に算出可能である。この制動距離X1’_highを自車両の速度V1で除した値を高μ路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値をt1’_highとすると、t1’_highがTTC_high以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_highが、自車両と障害物間との二点間距離X1_high以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物と衝突を避けられないことを意味する。したがって、高μ路走行時は、高μ路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_highにマージンを持たせた値を第1の報知閾値t1_highとすることで、通常ブレーキのみで障害物との衝突を回避できる。
同様に、ダンプトラック100が低μ路を走行する時の障害物との距離をX1_low、自車両の速度をV1とすると、TTC_lowは、(X1_low/V1)となる。ここで、自車両がV1で走行している場合の制動距離X1’_lowを自車両の速度V1で除した値を低μ路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_lowとすると、t1’_lowがTTC_low以上の場合、即ち、通常ブレーキによる制動距離X1’_lowが自車両と障害物間との二点間距離X1_low以上である場合、通常ブレーキのみでは障害物と衝突を避けられないことを意味する。
ここで、タイヤが地面から受ける摩擦力は、各輪が地面から受ける垂直抗力Nと摩擦係数μの掛け算で表わされるため、摩擦係数μの大きさは制動力に比例する。したがって同じ速度V1で走行した場合、X1’_low>X1’_high、t1’_low>t1’_highが成立する。これは、低μ路走行時はX1’_low以上離れていないと、通常ブレーキだけでは障害物との衝突を回避できないことを示している。したがって、低μ路走行時は、低μ路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_lowにマージンを持たせた値を第1の報知閾値t1_lowとし、高μ路走行時は、高μ路走行時の通常ブレーキの衝突回避限界値t1’_highにマージンを持たせた値を第1の報知閾値t1_highとすることで、路面状態に合わせて通常ブレーキ操作の報知タイミングを調整し、障害物との衝突を回避できる。
第2の報知閾値の変化についても、第1の報知閾値同様に、低μ路走行時には第2の報知閾値t2_lowを、高μ路走行時の第2の報知閾値t2_highに比べて大きくすることで、路面状態に合わせて緊急ブレーキ操作の報知タイミングを調整し、障害物との衝突を回避できる。「高μ路走行時の衝突回避限界値」、「低μ路走行時の衝突回避限界値」のように、路面の摩擦力に応じて変動する衝突回避限界値を摩擦力衝突回避限界値という。
図11を参照して、摩擦力と報知閾値との関係を説明する。図11は、路面状態(低μ路、高μ路)に応じたブレーキ操作のタイミングを示す説明図であって、(a)は、通常ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第1の報知閾値ラインを示し、(b)は、緊急ブレーキを用いたときの衝突回避限界ライン及び第2の報知閾値ラインを示す。
図11の(a)に示すように、低μ路走行時の衝突回避限界ラインL1_lowは、高μ路走行時の衝突回避限界ラインL1_highよりも時間量が多い。よって、これに対応して、低μ路走行時の第1の報知閾値ラインS1_lowは、高μ路走行時の第1の報知閾値ラインS1_highよりも時間量が多く設定される。
また図11の(b)に示すように、緊急ブレーキ操作時も、通常ブレーキ操作時と同様、低μ路走行時の衝突回避限界ラインL2_lowは、高μ路走行時の衝突回避限界ラインL2_highよりも時間量が多く、低μ路走行時の第2の報知閾値ラインS2_lowは、高μ路走行時の第2の報知閾値ラインS2_highよりも時間量が多く設定される。但し、緊急ブレーキの制動力は、通常ブレーキの制動力よりも大きいので、図11の(a)の各ラインに比べて図11の(b)の各ラインは、時間量が少なくなる方向にシフトする。
以上述べた、荷重、路面勾配、路面状態(摩擦力の高低)のうち少なくとも一つを用いて第1の報知閾値及び第2の報知閾値を決める。荷重、路面勾配、又は路面状態のいずれか一つのみを用いて第1の報知閾値及び第2の報知閾値を決定する場合には、図9〜図11に示す第1の報知閾値ライン及び第2の報知閾値ライン上において、相対速度に対応する時間量を第1の報知閾値及び第2の報知閾値として決定する。
また、荷重、路面勾配、路面状態のうち、任意の組み合わせを用いて第1の報知閾値及び第2の報知閾値を決める場合は、荷重、路面勾配、及び路面状態に応じた衝突回避限界値に、荷重、傾斜角度、及び路面状態に応じた重み係数を加重し、これにマージンm1、m2を加算して報知閾値を決定してもよい。この場合、第1の報知閾値と第2の報知閾値とは、荷重、路面勾配、路面状態のうち、同じ組み合わせを用いる。
図12を参照して上記の重み係数について説明する。図12は、荷重、路面勾配、及び路面状態に応じた重み係数を示す説明図であって、(a)は荷重に応じた荷重重み係数w1、(b)は路面勾配に応じた勾配重み係数w2、(c)は摩擦係数に応じた摩擦力重み係数w3を示す。
荷重が重いほど、制動距離は長くなる。よって、図12の(a)に示すように、荷重重み係数w1は、空荷時w1_empよりも積荷時w1_fullの方が大きくなるように定める。
また、路面の下り勾配が大きいほど、制動距離は長くなる。よって、図12の(b)に示すように、勾配重み係数w2は、登り坂w2_up、平坦路w2_flat、下り坂w2_downの順に大きくなるように定める。
また、摩擦係数が小さいほど、制動距離は長くなる。よって、図12の(c)に示すように、摩擦力重み係数w3は、高μ路走行時w3_highより低μ路走行時w3_lowの方が大きくなるように定める。高μ路は例えば晴天時の路面状態、低μ路は、例えば同じ路面の雨天時の状態に想到する。
第1の報知閾値を、荷重、路面勾配、及び路面状態の3つの要素を基に算出する場合、荷重が大きいほど大きな値を示す第1の荷重衝突回避限界値t1’_wの基準値に、荷重重み係数w1を加重(乗算)した値を算出する。
同様に、下り勾配が大きいほど大きな値を示す第1の勾配衝突回避限界値t1’_θの基準値に、勾配重み係数w2を加重(乗算)した値を算出する。
更に、路面の摩擦力が大きいほど大きな値を示す第1の摩擦力衝突回避限界値t1’_μの基準値に、摩擦力重み係数w3を加重(乗算)した値を算出する。
そして、これら3つの値に所定のマージンm1を加算して、第1の報知閾値を算出することができる。よって、第1の報知閾値は、下式(6)により求めることができる。
または、図9〜図11の(a)に示すように、荷重、路面勾配、及び摩擦力に応じて複数の衝突回避限界ラインが設定されている場合には、各衝突回避限界ラインは、基準となる衝突回避限界ラインに対して荷重重み係数、勾配重み係数、摩擦力重み係数を加重されていることと同義である。この場合には、下式(7)により、第1の報知閾値を算出することができる。
第1の報知閾値が最大値となる場合は、積荷を搭載し、低μ路(例えば路面が濡れている)な路面の下り坂を下っている状態が考えられる。この場合の第1の報知閾値t1は、下式(8)により算出できる。
また、第1の報知閾値が最も小さくなる場合は、空荷で、高μ路な路面の登り坂を走行している状態が考えられる。この場合の第1の報知閾値t1は、下式(9)により算出できる。
第2の報知閾値も第1の報知閾値と同様に、例えば下式(10)により算出できる。
または、次式(11)により第2の報知閾値を求めることができる。
第2の報知閾値の最大値、最小値の算出方法は、第1の報知閾値と同様であるので、説明を省略する。
第二実施形態によれば、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両の走行中に、障害物との衝突を回避するために各ブレーキペダルを踏むことを、荷重、路面勾配、路面状態の少なくとも一つを考慮したタイミングでオペレータに報知することができる。これにより、運転支援を行うことで衝突事故の発生を防止するとともに、不要なブレーキをなくすことでタイヤや機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
<第三実施形態>
第三実施形態は、第二実施形態の変形例である。第二実施形態では傾斜センサを用いて路面勾配を計測したが、これに代えて、路面勾配を推定する路面勾配推定演算部を備える点に特徴がある。以下、図13及び図14を参照して、第三実施形態について説明する。図13は、本発明の第三施形態に係る電気駆動鉱山ダンプトラックの全体構成図である。図14は、図13に示す衝突可能性判定器の内部構成を示すブロック図である。
図13に示すように、第三実施形態に係るダンプトラック100bは、傾斜センサに代えて車両の加速度を測る加速度センサ54を備える。また、ダンプトラック100bが備える衝突可能性判定器30bは、路面勾配を推定する路面勾配推定演算部306を更に備える。衝突可能性判定器30bは、車両の加速度を測る加速度センサ54の値と、速度検出器11,12が出力する速度検出値の微分値から求めた進行方向加速度と、を比較して路面勾配を算出する。
本実施形態によれば、加速度センサ54の出力値が示す加速度と速度検出値(車輪の回転速度)から算出した値から路面勾配(傾斜角度)を推定するので車両の走行状態から路面勾配を推定することができる。
また、本実施形態によれば、第一、第二実施形態と同様、通常ブレーキと緊急ブレーキの2種類の異なるブレーキを有する車両に対して、衝突を回避するために各ブレーキを踏むことを、適切なタイミングでオペレータに報知することができる。これにより、衝突事故の発生を防止することができる。また、不要なブレーキ操作をなくすことで、機械ブレーキのディスクの磨耗を抑制し、部品の交換頻度を下げることができる。
なお、上記した実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の範囲を上記実施形態に限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、他の様々な態様で本発明を実施することできる。
例えば、本発明を鉱山で作業を行うショベル,ホイールローダ,散水車,路面整備車等に対して,本発明の技術を適用することが可能である。即ち、本発明は、制動力が異なる複数のブレーキ装置を搭載した車両全般に広く利用することができる。