以下、本発明の実施形態による車両用制動装置について、ダンプトラックに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図5は、第1の実施形態を示している。図1において、大型の車両(運搬車両)であるダンプトラック1は、露天の採掘場、鉱山等で採掘した砕石物または土砂等の運搬物を運搬するものである。ダンプトラック1は、それぞれが車輪である前輪2および後輪3と、頑丈なフレーム構造をなし前輪2および後輪3によって走行が可能な車体4と、該車体4上に後端側を支点として傾転(起伏)可能に設けられた荷台としてのベッセル5とを含んで構成されている。
左右の前輪2は車体4の前部側に回転可能に設けられている。前輪2は、ダンプトラック1のオペレータによって操舵(ステアリング操作)される操舵輪を構成している。前輪2は、後輪3と同様に、例えば2〜4メートルに及ぶタイヤ径(外径寸法)をもって形成されている。車体4の前部と前輪2との間には、例えば油圧緩衝器等からなるフロントサスペンション6が設けられている。フロントサスペンション6は、車体4の前部側を前輪2との間で懸架する。
左右の後輪3は、車体4の後部側に回転可能に設けられている。後輪3は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、後述する走行用の電動モータ14により回転駆動される。後輪3と車体4の後部との間には、例えば油圧緩衝器等からなるリヤサスペンション7が設けられている。リヤサスペンション7は、車体4の後部側を後輪3との間で懸架する。
ベッセル5は、例えば砕石物または土砂のような荷物(以下、土砂8という)を多量に積載するため全長が10〜13m(メートル)にも及ぶ大型の容器として形成されている。ベッセル5の後側底部は、車体4の後端側に連結ピン9を介して傾転可能(回動可能)に連結(支持)されている。一方、ベッセル5の前側上部には、後述のキャブ11を上側から覆う庇部5Aが一体に設けられている。庇部5Aは、例えば、飛び石からキャブ11を保護する機能、および、車両(ダンプトラック1)の転倒時にキャブ11を保護する機能を有している。
ベッセル5の前部側(庇部5A側)は、ベッセル5と車体4との間に伸縮可能に設けられた左右一対のホイストシリンダ10(一方のみ図示)を伸長または縮小させることにより、連結ピン9の位置を支点として上下方向に昇降される。これにより、ベッセル5は、図1に示すベッセル5の前部側を下げた運搬位置(走行位置)とベッセル5の前部側を上げた排出位置(図示せず)との間で回動される。例えば、排出位置において、ベッセル5に積載された多量の土砂8は、後方へと傾いたベッセル5から滑り落ちるように所定の荷降し場に排出される。
キャブ11は、ベッセル5の庇部5Aの下側に位置して車体4の前部に設けられている。即ち、キャブ11は、車体4の前側に位置して平板状の床板となるデッキ部4A上に配設されている。キャブ11は、ダンプトラック1のオペレータ(運転者)が乗降する運転室を形成し、その内部には運転席、起動スイッチ(始動スイッチ)、アクセルペダル、第1のブレーキペダルとしての電気ブレーキ用ブレーキペダル、第2のブレーキペダルとしての協調ブレーキ用ブレーキペダル、パーキングブレーキスイッチ、操舵用のステアリングホイール、および、複数の操作レバー(いずれも図示せず)が設けられている。
ここで、電気ブレーキ用ブレーキペダルは、例えば、運転席の前方でステアリングホイールの回転軸線よりも右側(より具体的には、回転軸線とアクセルペダルとの間)に配置されている。電気ブレーキ用ブレーキペダルは、電気ブレーキによる制動力を付与するときに、オペレータによって踏込み操作される。電気ブレーキは、走行用の電動モータ14の発電による回生トルクを制動力とするブレーキであり、例えば、通常時の車両停止に用いられる。
一方、協調ブレーキ用ブレーキペダルは、例えば、運転席の前方でステアリングホイールの回転軸線よりも左側に配置されている。協調ブレーキ用ブレーキペダルは、電気ブレーキと機械ブレーキとを協調させた協調ブレーキによる制動力を付与するときに、オペレータによって踏込み操作される。機械ブレーキは、電気ブレーキよりも大きな制動力を付与できる摩擦式のブレーキであり、例えば、乾式のディスクブレーキおよび/または湿式多板ディスクブレーキにより構成することができる。実施形態では、機械ブレーキを、後述のディスクブレーキ24により構成している。
協調ブレーキは、電気ブレーキ(電動モータ14による制動力)と機械ブレーキ(ディスクブレーキ24による制動力)との両方の制動力を付与するブレーキであり、例えば、緊急時の車両停止(緊急停止)に用いられる。なお、機械ブレーキであるディスクブレーキ24は、協調ブレーキとして電気ブレーキと共に用いられる他、例えば、パーキングブレーキの付与に単独で用いられる。即ち、パーキングブレーキスイッチを制動付与側(ON側)に操作すると、機械ブレーキ(ディスクブレーキ24)による制動力が付与される。
エンジン12は、はキャブ11の下側に位置して車体4に設けられている。エンジン12は、例えば大型のディーゼルエンジン等により構成されている。エンジン12は、図2に示すように、発電機(オルタネータ)13を駆動して、3相交流電力(例えば、1500kW程度)を発生させる。また、エンジン12は、油圧源となる油圧ポンプ(図示せず)を回転駆動する。油圧ポンプは、ホイストシリンダ10、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に圧油を供給する。
左右の電動モータ14は、走行用の電動モータであり、車体4の後部下側に設けられている。電動モータ14は、例えば3相誘導電動機、3相ブラシレス直流電動機等からなる大型の電動モータによって構成されている。電動モータ14は、発電機13からモータ制御装置15を介して供給される電力によって回転駆動される。電動モータ14は、図2に示すように、左右の後輪3を互いに独立して回転駆動するため、車体4の左,右両側にそれぞれ設けられている。
電動モータ14は、それぞれ遊星歯車減速機構等の減速機構(図示せず)を介して後輪3と接続(連結)されている。電動モータ14は、モータ制御装置15によってそれぞれ独立して回転駆動される。モータ制御装置15は、キャブ11の側方に位置して車体4のデッキ部4A上に立設された配電制御盤等により構成されている。モータ制御装置15には、車体コントローラ16からの制御信号が入力される。
モータ制御装置15は、車体コントローラ16からの制御信号に基づいて、例えば車両の直進時に左右の後輪3の回転速度を同じにしたり、旋回時に旋回方向に応じて左,右の後輪3の回転速度を異ならせる等の制御を行う。さらに、モータ制御装置15は、電気ブレーキ用ブレーキペダルまたは協調ブレーキ用ブレーキペダルが踏込み操作されると、車体コントローラ16からの制御信号に基づいて、電動モータ14の発電による回生トルクを制動力として付与する。このとき、発電電力(回生電力)は、例えば、図示しない抵抗器(抵抗体)で熱となって消費される。
車体コントローラ16は、マイクロコンピュータ等からなり、車両(ダンプトラック1)の動作を制御する。例えば、車体コントローラ16は、アクセルペダル、電気ブレーキ用ブレーキペダル、協調ブレーキ用ブレーキペダルの操作に応じて、モータ制御装置15を制御することにより、左右の電動モータ14の駆動制御を行う。図2に示すように、車体コントローラ16は、その入力側が、アクセル操作センサ17、電気ブレーキ操作量センサ18、協調ブレーキ操作スイッチ19、車輪速センサ20、操舵センサ21、積荷センサ22、勾配センサ23等に接続され、その出力側はモータ制御装置15、後述の障害物検知装置33等に接続されている。
アクセル操作センサ17は、アクセルペダルに設けられている。アクセル操作センサ17は、オペレータのアクセル操作量(ペダル操作量)を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。電気ブレーキ操作量センサ18は、電気ブレーキ用ブレーキペダルに設けられている。電気ブレーキ操作量センサ18は、オペレータの電気ブレーキ操作量(ペダル操作量)を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。協調ブレーキ操作スイッチ19は、協調ブレーキ用ブレーキペダルに設けられている。協調ブレーキ操作スイッチ19は、オペレータの協調ブレーキ操作の有無(ペダルのON・OFF)を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。
車輪速センサ20は、前輪2および/または後輪3の近傍に位置して車体4に設けられている。車輪速センサ20は、前輪2および/または後輪3の回転速度(車輪速度)を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。操舵センサ21は、ステアリングホイールまたは操舵輪となる前輪2の近傍に設けられている。操舵センサ21は、ステアリングホイールの回転角度または前輪2の操舵角を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。車体コントローラ16は、回転角度または操舵角からダンプトラックの操舵方向を推定(算出)する。
積荷センサ22は、例えばリヤサスペンション7に設けられている。積荷センサ22は、リヤサスペンション7のシリンダ圧を検出し、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。車体コントローラ16は、シリンダ圧から積荷の重量(積載量、積載荷重)を推定する。勾配センサ23は、例えば車体4に設けられている。勾配センサ23は、重力センサ(加速度センサ)により構成され、その検出信号を車体コントローラ16に出力する。車体コントローラ16は、重力センサの検出値からダンプトラック1が停止ないし走行している路面の勾配(車体4の傾斜)を推定する。
車体コントローラ16は、車輪速センサ20等と共に、車両(ダンプトラック1)の走行速度(に対応する車輪速度)の情報を含む車両情報(車体情報)を検出する車両情報検出装置を構成している。より具体的には、車体コントローラ16は、電気ブレーキ操作量センサ18、協調ブレーキ操作スイッチ19、車輪速センサ20、操舵センサ21、積荷センサ22、勾配センサ23と共に、車両の制動の情報(電気ブレーキの操作の情報、協調ブレーキの操作の情報)、車輪速度の情報、車両の操舵方向の情報、車両の積荷(積載量)の情報、車両が位置する勾配の情報を検出する車両情報検出装置を構成している。
次に、機械ブレーキであるディスクブレーキ24について、図1,2に加え図3も参照しつつ説明する。
図2に示すように、ディスクブレーキ24は、左右の前輪2と左右の後輪3にそれぞれ設けられている。ディスクブレーキ24は、車輪である前輪2または後輪3と共に回転するディスクロータ24Aと、該ディスクロータ24Aの外周側を跨いで配置されディスクロータ24Aと対向する面にシリンダ(図示せず)が形成されたキャリパ24Bと、該キャリパ24Bのシリンダに摺動可能に挿嵌されたピストン(図示せず)と、該各ピストンによってディスクロータ24Aに押圧される一対の摩擦パッド24C(図3参照)とを含んで構成されている。
ここで、後輪3側のディスクブレーキ24について、図3を用いて説明する。図3に示すように、後輪3は、ハブ3Aと、リム3Bと、タイヤ3Cとを含んで構成されている。ハブ3Aは、車体4に設けられたシャフト4Bに軸受25を介して回転可能に支持されている。ハブ3Aの外周側には、円筒状のリム3Bが設けられ、該リム3Bの外周側にタイヤ3Cが取付けられている。
走行用の電動モータ14は、図示しない減速機構を介してハブ3Aと接続され、電動モータ14によってハブ3Aが回転駆動される。ハブ3Aには、ディスクロータ24Aが固定されている。一方、車体4側となるシャフト4Bには、ブレーキ支持部材4Cを介してキャリパ24Bが固定されている。キャリパ24Bのシリンダに、ブレーキ液圧が供給されると、ピストンがシリンダ内をディスクロータ24Aに向けて摺動的に変位する。これにより、摩擦パッド24Cが、ディスクロータ24Aの両面に押付けられ、ディスクロータ24Aと一体に回転する車輪(前輪2、後輪3)に制動力が付与される。
次に、ダンプトラック1に搭載された車両用制動装置31について、図1,2,3に加え図4も参照しつつ説明する。
車両用制動装置31は、車両(ダンプトラック1)に制動力を付与する電動モータ14およびディスクブレーキ24と、車両情報を検出する車両情報検出装置とに加え、ミリ波レーダ32と、障害物検知装置33とを含んで構成されている。
電動モータ14は、車両に第1の制動力を付与する第1のブレーキに対応する。また、協調ブレーキを構成する電動モータ14およびディスクブレーキ24は、車両に第2の制動力を付与する第2のブレーキに対応する。第2のブレーキは、第1のブレーキよりも高い制動特性を有している。具体的には、第2のブレーキによる制動力(第2の制動力)は、第1のブレーキによる制動力(第1の制動力)よりも大きい(第2の制動力>第1の制動力)。換言すれば、第2のブレーキによる制動距離(第2の制動距離)は、第1のブレーキによる制動距離(第1の制動距離)よりも短くなる(第2の制動距離<第1の制動距離)。
車両情報検出装置は、車両の走行速度(に対応する車輪速度)の情報を含む車両情報を検出するもので、例えば、車体コントローラ16および該車体コントローラ16に接続された各種センサにより構成することができる。各種センサとしては、車輪速センサ20の他、例えば、電気ブレーキ操作量センサ18、協調ブレーキ操作スイッチ19、操舵センサ21、積荷センサ22、勾配センサ23等、車両の各種状態量(車両情報)を検出するセンサ(検出器)が挙げられる。車体コントローラ16は、障害物検知装置33の接触可能性判定コントローラ34に接続されている。車体コントローラ16は、電気ブレーキの操作の情報、協調ブレーキの操作の有無の情報、車両の走行速度に対応する車輪速度の情報、車両の操舵方向の情報、車両の積荷の情報、車両が位置する勾配の情報を、接触可能性判定コントローラ34の車体判定部35に車両情報(車体情報)として出力する。
障害物情報検出装置としてのミリ波レーダ32は、車両の周囲に存在する障害物と車両との間の距離の情報を含む障害物情報を検出するものである。ミリ波レーダ32は、外界認識センサとなるもので、車両周囲の物体の位置、即ち、他の車両、建物、岩石、人等、車両と接触してはならない障害物の位置を計測するものである。なお、外界認識センサは、ミリ波レーダ32の他、例えば、レーザレーダ、赤外線レーダ等のレーダ(例えば、半導体レーザ等の発光素子およびそれを受光する受光素子)、および/または、ステレオカメラ、シングルカメラ等のカメラ(例えば、デジタルカメラ)を用いることができる。
ミリ波レーダ32は、車両の周囲(例えば、車両の進行方向、車両の前方)に電波を発射し、車両の周囲に存在する障害物から反射されて帰ってくる電波を検出する。ミリ波レーダは、反射された電波に基づいて車両の周囲の障害物を検出すると共に、その障害物にID(識別番号)を付し、かつ、その障害物と車両との間の距離、その障害物と車両との相対速度を測定(算出)する。ミリ波レーダ32は、検出された複数の障害物にそれぞれ異なるIDを付すことにより、複数の障害物の情報を取り扱うことができる。
ミリ波レーダ32は、障害物検知装置33の接触可能性判定コントローラ34に接続されている。ミリ波レーダ32は、例えば、検出した障害物のIDと共に、その障害物と車両との間の距離の情報、および、障害物と車両との相対速度の情報を、接触可能性判定コントローラ34の障害物判定部36に障害物情報として出力する。
障害物検知装置33は、図4に示すように、マイクロコンピュータ等からなる接触可能性判定コントローラ34と、報知装置としてのモニタ装置38とを含んで構成されている。障害物検知装置33は、接触可能性判定コントローラ34で車両と障害物との接触の可能性を判定すると共に、接触の可能性が高いと判定されたときに、モニタ装置38から電気ブレーキによる制動を喚起する警報(電気ブレーキ警報)、および/または、協調ブレーキによる制動を喚起する警報(協調ブレーキ警報)を発する。
接触可能性判定コントローラ34は、車両と障害物との接触の可能性を判定するものである。接触可能性判定コントローラ34は、その入力側がミリ波レーダ32、車体コントローラ16に接続され、その出力側がモニタ装置38に接続されている。接触可能性判定コントローラ34は、車両が走行しているときに、電気ブレーキ(第1のブレーキ)の制動特性(制動性能)と障害物情報と車両情報とに基づいて、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かを判定し、かつ、電気ブレーキによる制動を開始すべきと判定したときに第1の制動開始信号をモニタ装置38に出力する第1の制動指令出力部となるものである。また、接触可能性判定コントローラ34は、車両が走行しているときに、協調ブレーキ(第2のブレーキ)の制動特性(制動性能)と障害物情報と車両情報とに基づいて、協調ブレーキによる制動を開始すべきか否かを判定し、かつ、協調ブレーキによる制動を開始すべきと判定したときに第2の制動開始信号をモニタ装置38に出力する第2の制動指令出力部となるものである。
このために、接触可能性判定コントローラ34は、車体判定部35と、障害物判定部36と、接触可能性判定部37とを含んで構成されている。車体判定部35は、車体コントローラ16と接続されている。車体判定部35には、車体コントローラ16から車両情報(車体情報)が入力される。即ち、車体判定部35には、車体コントローラ16から、例えば、電気ブレーキの操作の情報(操作量)、協調ブレーキの操作の有無の情報(ON・OFF)、車輪速度の情報(回転速度)、車両の操舵方向の情報(操舵角)、車両の積荷の情報(重量)、車両が位置する勾配の情報(角度)が入力される。電気ブレーキの操作の情報は、電気ブレーキ用ブレーキペダルの操作量に対応する。協調ブレーキの操作の有無の情報は、電気ブレーキ用ブレーキペダルの操作の有無(ON・OFF)に対応する。
車体判定部35では、障害物との接触の可能性の判定に必要なパラメータを車両情報から計算(演算)する。例えば、車体判定部35は、車輪速度から車両の走行速度(車速)となる車両速度(車体速度)を算出し、車輪速度と操舵方向とから車両の進路を算出する。また、車体判定部35は、車輪速度と積荷(積載量、積載荷重)と勾配とから、電気ブレーキの制動性能(制動距離)および協調ブレーキの制動性能(制動距離)を算出する。具体的には、予め設定された基準となる制動性能(制動特性)、例えば、平坦な乾燥路面(勾配0)で最大積載量のときの電気ブレーキの制動性能(制動特性)および協調ブレーキの制動性能(制動特性)を、そのときの積載量と勾配とに応じで調整(補正)し、その補正した制動性能(制動特性)からそのときの車輪速度(車速)に対応した制動性能(制動距離)を算出する。
障害物判定部36は、ミリ波レーダ32と接続されている。さらに、障害物判定部36は、車体判定部35と接続されている。障害物判定部36には、ミリ波レーダ32から障害物情報が入力される。即ち、障害物判定部36には、ミリ波レーダ32から、例えば、検出された(1ないし複数の)障害物のIDと、そのIDに対応する障害物と車両との間の距離および障害物と車両との相対速度が入力される。また、障害物判定部36には、車体判定部35から車両の走行速度となる車両速度(車速)が入力される。
障害物判定部36では、障害物の相対速度を速度に変換する。また、障害物判定部36では、ミリ波レーダ32の計測データ(障害物情報)のうち、ノイズと判別された障害物データ、および、接触の可能性の低い障害物データ等の接触可能性の判定に不要なデータを除去(消去)する。
接触可能性判定部37は、車体判定部35および障害物判定部36と接続されている。接触可能性判定部37には、車体判定部35から、例えば、車両速度(車速)、車両の進路、電気ブレーキの制動性能、協調ブレーキの制動性能が入力される。また、接触可能性判定部37には、障害物判定部36から、例えば、障害物のIDと共にその障害物の速度が入力される。
接触可能性判定部37は、車両の進路から障害物に接触するか否かを判定すると共に、電気ブレーキによる制動を開始したときの障害物との接触の可能性、および、協調ブレーキによる制動を開始したときの障害物との接触の可能性を判定する。障害物との接触の可能性(接触可能性)は、例えば、ブレーキ制動性能からの接触回避の可否の限界時間に、システムの遅延時間、操作に係る時間遅延を加味して判定する。
接触可能性の判定により、電気ブレーキによる制動を開始すべきと判定されると、接触可能性判定部37からモニタ装置38に対して第1の制動開始信号が出力される(第1の制動開始指令のフラグが立ち上がる)。また、接触可能性の判定により、協調ブレーキによる制動を開始すべきと判定されると、接触可能性判定部37からモニタ装置38に対して第2の制動開始信号が出力される(第2の制動開始指令のフラグが立ち上がる)。第1の制動開始信号は、モニタ装置38から電気ブレーキによる制動を喚起する警報(電気ブレーキ警報)を発する旨の指令、即ち、オペレータに対して電気ブレーキ用ブレーキペダルの踏込み操作を開始すべき旨を報知するための指令となるものである。第2の制動開始信号は、モニタ装置38から協調ブレーキによる制動を喚起する警報(電気ブレーキ警報)を発する旨の指令、即ち、オペレータに対して協調ブレーキ用ブレーキペダルの踏込み操作を開始すべき旨を報知するための指令となるものである。
モニタ装置38は、キャブ11内の運転席近傍に設けられている。モニタ装置38は、電気ブレーキによる制動を喚起する警報(電気ブレーキ警報)、および、協調ブレーキによる制動を喚起する警報(協調ブレーキ警報)を発するものである。モニタ装置38は、例えば、表示装置となるモニタ(表示画面)と、音を出力する音響装置とにより構成されている。モニタ装置38は、接触可能性判定部37と接続されている。
モニタ装置38は、接触可能性判定部37から第1の制動開始信号が入力されると電気ブレーキ警報を発する。例えば、モニタ装置38は、オペレータに対して電気ブレーキ用ブレーキペダルの踏込み操作の開始を促すために、音響装置からその旨のブザー、音声等を出力する、および/または、表示装置にその旨を表示する。また、モニタ装置38は、接触可能性判定部37から第2の制動開始信号が入力されると協調ブレーキ警報を発する。例えば、モニタ装置38は、オペレータに対して協調ブレーキ用ブレーキペダルの踏込み操作の開始を促すために、音響装置からその旨のブザー、音声等を出力する、および/または、表示装置にその旨を表示する。
オペレータは、モニタ装置38からの電気ブレーキ警報が発せられると、電気ブレーキ用ブレーキペダルを踏込み、ダンプトラック1と障害物とが接触することを回避することができる。また、オペレータは、モニタ装置38からの協調ブレーキ警報が発せられると、協調ブレーキ用ブレーキペダルを踏込み、ダンプトラック1と障害物とが接触することを回避することができる。
ところで、図6は、比較例による電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性(速度と制動距離との関係)の一例を示している。この図6に示す電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性は、基準(標準)となる制動特性、即ち、実際(本来)の制動特性に対応するものである。例えば、図6の制動特性は、予め設定した所定の環境(標準環境、基準環境)での実際の電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性に対応する。所定の環境は、例えば、基準となる環境、即ち、所定の温度(例えば、標準温度)、所定の路面(例えば、乾燥路面、未舗装路面、平坦路面)、所定の積載(例えば、最大積載)とすることができる。そして、所定の環境での実際の電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性は、例えば、ダンプトラック1の種類、仕様、型式に応じて異なるが、同じ種類、仕様、型式のダンプトラック1であれば一定(所定)の特性として定まるものである。
ここで、図6に示す実際の制動特性に基づいて、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)を行う場合を考える。この場合、図6に示すように、協調ブレーキの方が、電気ブレーキよりも制動特性が高い(制動距離が短い)。このため、ダンプトラック1が一定の速度で走行しているときに、ミリ波レーダ32により前方に障害物が検出されると、協調ブレーキ警報よりも先に、電気ブレーキ警報がモニタ装置38から発せられる。そして、電気ブレーキ警報が発せられた後、ダンプトラック1がさらに障害物に近付くと、協調ブレーキ警報がモニタ装置38から発せられる。
ただし、図6では、電気ブレーキの制動特性(制動距離)と協調ブレーキの制動特性(制動距離)との差(制動距離差)が、高速域で大きく、低速域で小さい。このため、低速域では、電気ブレーキ警報が発せられてから協調ブレーキ警報が発せられるまでの時間が短くなる可能性がある。即ち、モニタ装置38から電気ブレーキ警報が発せられるタイミング(即ち、接触可能性判定部37から第1の制動開始信号が出力されるタイミング)を第1のタイミングとし、モニタ装置38から協調ブレーキ警報が発せられるタイミング(即ち、接触可能性判定部37から第2の制動開始信号が出力されるタイミング)を第2のタイミングとした場合に、第1のタイミングと第2のタイミングとが近くなる可能性がある。
これにより、低速域では、例えば、電気ブレーキ警報が発せられ、その警報に基づいてオペレータが電気ブレーキのブレーキペダルを踏み込もうとした直後に、協調ブレーキ警報が発せられる可能性がある。このとき、例えば、電気ブレーキ警報(第1のタイミング)と協調ブレーキ警報(第2のタイミング)との間隔が1秒程度(例えば、3秒以下)であると、オペレータのブレーキペダルの操作が、その警報に追い付かず、ブレーキペダルの踏込み操作が遅れる可能性がある。
そこで、第1の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミング(第1のタイミング)を早くする構成としている。即ち、接触可能性判定コントローラ34は、低速域のときは、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを、本来の信号出力タイミング(図6に示した実際の制動特性に基づく判定による信号出力タイミング)よりも早くする構成としている。
そして、接触可能性判定コントローラ34は、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くするため、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かの判定に用いる電気ブレーキの制動特性に余裕をもたせる構成としている。即ち、第1の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、図5に示す制動特性に基づいて信号出力タイミングを出力する構成としている。
図5では、電気ブレーキの制動特性に余裕をもたせるために、低速域では、電気ブレーキの制動距離を、実際(本来)の制動距離(図6の電気ブレーキの制動特性、即ち、図5に比較のために破線で表した特性)よりも長くしている。換言すれば、第1の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34で用いる電気ブレーキの制動特性を、実際の制動特性(図6に示す所定の環境での実際の制動特性)に対してオフセットを加えたものとしている。即ち、電気ブレーキの制動特性を、実際の制動特性よりも性能が低くなるように補正している。
ここで、低速域は、例えば、第1のタイミングと第2のタイミングとの差(制動距離差)が予め設定した閾値以下、即ち、電気ブレーキの制動特性(制動性能)と協調ブレーキの制動特性(制動性能)との差(特性差、性能差)が予め設定した閾値以下となる速度域として設定することができる。例えば、低速域は、電気ブレーキ警報(第1のタイミング)と協調ブレーキ警報(第2のタイミング)との間隔が3秒以下(より好ましくは2秒以下、さらに好ましくは1秒以下)となる速度域を低速域として設定することができる。
そして、第1のタイミングを早くする程度、即ち、実際の制動特性(制動性能)に対してオフセット(補正)を加える程度(図6の実際の制動距離よりも長くする程度)は、オペレータのブレーキペダルの操作が遅れることを抑制することができるように、実験、シミュレーション、計算等により予め求めておく(予め設定しておく)。これにより、第1の実施形態では、低速域で、第1のタイミングと第2のタイミングとの間隔が短くなることを回避することができる。さらに、第1のタイミングが早くなる分、オペレータは電気ブレーキ用ブレーキペダルの踏込み操作を、余裕をもって行うことができ、オペレータに加わる減速による慣性力(減速度)を小さくすることもできる。
第1の実施形態による車両用制動装置31は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
ダンプトラック1のキャブ11に乗り込んだオペレータが、エンジン12を起動すると、発電機13により発電が行われると共に、油圧源となる油圧ポンプが回転駆動される。ダンプトラック1の走行時は、オペレータのアクセルペダルの操作に応じて、発電機13からモータ制御装置15を介して電動モータ14に電力が供給されることにより、電動モータ14が回転し、後輪3が回転駆動される。
オペレータが電気ブレーキ用ブレーキペダルを操作する(踏込む)と、第1のブレーキである電気ブレーキ、即ち、電動モータ14の発電(回生トルク)による制動力が付与される。オペレータが協調ブレーキ用ブレーキペダルを操作する(踏込む)と、第2のブレーキである協調ブレーキ、即ち、電動モータ14による制動力およびディスクブレーキ24による制動力が付与される。
ダンプトラック1が走行しているときに、ミリ波レーダ32は、ダンプトラック1の周囲に存在する障害物とダンプトラック1との間の距離の情報を含む障害物情報を、常に(所定の制御周期で)検出する。ミリ波レーダ32は、検出した障害物情報を、障害物検知装置33の接触可能性判定コントローラ34に常に(所定の制御周期で)出力する。また、ダンプトラック1が走行しているときに、車体コントローラ16は、ダンプトラック1の走行速度(に対応する車輪速度)の情報を含む車両情報を、障害物検知装置33の接触可能性判定コントローラ34に常に(所定の制御周期で)出力する。
接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行中に、電気ブレーキの制動特性(図5の電気ブレーキの制動特性)と障害物情報と車両情報とから、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かを常に(所定の制御周期で)判定する。また、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行中に、協調ブレーキの制動特性(図5の協調ブレーキの制動特性)と障害物情報と車両情報とから、協調ブレーキによる制動を開始すべきか否かを常に(所定の制御周期で)判定する。この場合に、電気ブレーキの制動特性(図5の電気ブレーキの制動特性)および協調ブレーキの制動特性(図5の協調ブレーキの制動特性)は、必要に応じて、そのときの積載(積載量、積載荷重)と勾配に応じで調整(補正)する。
接触可能性判定コントローラ34は、電気ブレーキによる制動を開始すべきと判定すると、第1の制動開始信号をモニタ装置38に出力する。また、接触可能性判定コントローラ34は、協調ブレーキによる制動を開始すべきと判定すると、第2の制動開始信号をモニタ装置38に出力する。モニタ装置38は、第1の制動開始信号に基づいて電気ブレーキ警報を発し、第2の制動開始信号に基づいて協調ブレーキ警報を発する。オペレータは、電気ブレーキ警報により電気ブレーキ用ブレーキペダルを操作する(踏込む)ことで、および/または、協調ブレーキ警報により電気ブレーキ用ブレーキペダルを操作する(踏込む)ことで、障害物との接触を回避することができる。
この場合に、第1の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力するタイミングを早くする。このため、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときに、第1の制動開始信号が出力されてから第2の制動開始信号が出力されるまでの時間を確保することができる。これにより、電気ブレーキ警報と協調ブレーキ警報とが短時間で出力されることを抑制できる。この結果、電気ブレーキ警報と協調ブレーキ警報とが短時間で出力される構成と比較して、オペレータのブレーキ操作が遅れることを抑制できる。しかも、電気ブレーキ警報を出力するタイミングが早くなることにより、電気ブレーキによる減速度を小さくすることができる。
また、第1の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くするため、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かの判定に用いる電気ブレーキの制動特性に余裕をもたせている。即ち、図5に示すように、電気ブレーキの制動距離を、低速域では、図6に示す実際(本来)の制動距離よりも長くすることにより、電気ブレーキの制動特性に余裕をもたせている(安全率を高くしている)。これにより、複雑な演算等を必要とすることなく簡素な構成で、第1の制動開始信号を出力するタイミングを早くすることができる。
次に、図7は、第2の実施形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、車両の走行速度が低速域にあるときに第2の制動開始信号を出力しない構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図7は、第2の実施形態で用いる電動ブレーキ(第1のブレーキ)の制動特性と協調ブレーキ(第2のブレーキ)の制動特性を示している。図7に実線で示すように、協調ブレーキの制動特性は、ダンプトラック1の走行速度が低速域よりも高い走行速度(高速域)で設定されているが、低速域で設定されていない(例えば、低速域では制動距離を0mとしている)。なお、図7の破線は、実際(図6)の電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性との比較のために示しているもので、第2の実施形態では設定されていない。
第2の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、協調ブレーキによる制動を開始すべきか否かを、図7に示す協調ブレーキの制動特性(低速域よりも高い高速域でのみ設定された制動特性)を用いて判定する。これにより、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行速度が高速域にあるときは、第2の制動開始信号を出力し(協調ブレーキ警報を発し)、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、第2の制動開始信号を出力しない(協調ブレーキ警報を発しない)構成となっている。換言すれば、接触可能性判定コントローラ34は、低速域のときは、第1の制動開始信号を出力する(電気ブレーキ警報を発する)が、第2の制動開始信号は出力しない(協調ブレーキ警報を発しない)構成となっている。
第2の実施形態は、上述のようにダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときに第2の制動開始信号を出力しないもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
特に、第2の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34が低速域で第2の制動開始信号を出力しない(協調ブレーキ警報を出力しない)ことで、低速域で電気ブレーキ警報が出力されるタイミングと協調ブレーキ警報が出力されるタイミングとが近くなることを確実に回避できる。しかも、電気ブレーキ警報が出力されるタイミングが早いため、協調ブレーキ警報が出力されなくても、ダンプトラック1を電気ブレーキの制動で余裕をもって停止させることができる。
次に、図8は、第3の実施形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、車両の走行速度が低速域にあるときに第1の制動開始信号を出力しない構成としたことにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図8は、第3の実施形態で用いる電動ブレーキ(第1のブレーキ)の制動特性と協調ブレーキ(第2のブレーキ)の制動特性を示している。図8に実線で示すように、電気ブレーキの制動特性は、ダンプトラック1の走行速度が低速域よりも高い走行速度(高速域)で設定されているが、低速域で設定されていない(例えば、低速域では制動距離を0mとしている)。なお、図8の破線は、実際(図6)の電気ブレーキの制動特性との比較のために表しているもので、第3の実施形態では設定されていない。
第3の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かを、図8に示す電気ブレーキの制動特性(低速域よりも高い高速域でのみ設定された制動特性)を用いて判定する。これにより、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行速度が高速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力し(電気ブレーキ警報を発し)、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力しない(電気ブレーキ警報を発しない)構成となっている。
一方、接触可能性判定コントローラ34は、ダンプトラック1の走行速度の全走行域において、第2の制動開始信号を出力する構成となっている。まとめると、接触可能性判定コントローラ34は、低速域にあるときは、第2の制動開始信号を出力する(協調ブレーキ警報を発する)が、第1の制動開始信号を出力しない(電気ブレーキ警報を発しない)構成となっている。
第3の実施形態は、上述のようにダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときに第1の制動開始信号を出力しないもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
即ち、第3の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34が低速域で第2の制動開始信号を出力しない(協調ブレーキ警報を出力しない)ことで、低速域で電気ブレーキ警報が出力されるタイミングと協調ブレーキ警報が出力されるタイミングとが近くなることを確実に回避できる。即ち、電気ブレーキ警報がないため、協調ブレーキ警報に基づくオペレータのペダル操作が遅れることを抑制できる。
次に、図9は、第4の実施形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、車両の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力しない構成とし、かつ、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くする構成としたことにある。なお、第4の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図9は、第4の実施形態で用いる電動ブレーキ(第1のブレーキ)の制動特性と協調ブレーキ(第2のブレーキ)の制動特性を示している。図9に示すように、電気ブレーキの制動特性は、第3の実施形態と同様に、ダンプトラック1の走行速度が低速域よりも高い走行速度(高速域)で設定されている(実線で表されている)が、低速域で設定されていない(例えば、低速域では制動距離を0mとしている)。なお、図9の破線は、実際(図6)の電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性との比較のために示しているもので、第4の実施形態では設定されていない。
さらに、第4の実施形態では、低速域で、協調ブレーキの制動特性に余裕をもたせている。即ち、第4に実施形態では、電気ブレーキの制動距離を、低速域では、実際(本来)の制動距離(図6の協調ブレーキの制動特性、即ち、図9に比較のために破線で表した特性)よりも長くしている。換言すれば、協調ブレーキの制動特性を、実際の制動特性に対してオフセットを加えたものとしている(実際の制動特性よりも性能が低くなるように補正している)。
第4の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、電気ブレーキによる制動を開始すべきか否かを、図9に示す電気ブレーキの制動特性(低速域よりも高い高速域でのみ設定された制動特性)を用いて判定し、協調ブレーキによる制動を開始すべきか否かを、図9に示す協調ブレーキの制動特性(低速域でオフセットされた制動特性)を用いて判定する。これにより、接触可能性判定コントローラ34は、第3の実施形態と同様に、ダンプトラック1の走行速度が高速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力する(電気ブレーキ警報を発する)が、ダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力しない(電気ブレーキ警報を発しない)構成となっている。
さらに、第4の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34は、図9に示す協調ブレーキの制動特性を用いることで、低速域にあるときは、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くする構成となっている。即ち、接触可能性判定コントローラ34は、低速域のときは、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを、本来の信号出力タイミング(図6に示した実際の制動特性に基づく判定による信号出力タイミング)よりも早くする構成となっている。
第4の実施形態は、上述のようにダンプトラック1の走行速度が低速域にあるときに第1の制動開始信号を出力せず、かつ、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くするもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態および第3の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第4の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34が低速域で第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くすることで、ダンプトラック1を協調ブレーキの制動で余裕をもって停止させることができる。
次に、図10は、第5の実施形態を示している。第5の実施の形態の特徴は、第1の制動開始信号の出力により電気ブレーキを自動的に付与し、第2の制動開始信号の出力により協調ブレーキを自動的に付与する構成としたことにある。なお、第5の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第5の実施形態では、障害物検知装置41を、接触可能性判定コントローラ34のみで構成している(モニタ装置38は省略している)。そして、第5の実施形態では、接触可能性判定コントローラ34の接触可能性判定部37は、車体コントローラ16と接続されている。より具体的には、接触可能性判定部37は、車体コントローラ16の車体制御部42に接続されている。車体制御部42には、接触可能性判定部37から第1の制動開始信号と第2の制動開始信号が入力される。
車体制御部42は、第1の制動開始信号が入力されると、電動ブレーキを自動的に付与する制御を行う。即ち、車体制御部42は、第1の制動開始信号が入力されると、電動モータ14で付与すべき制動力に対応するトルク信号を電動モータ14に出力する。これにより、電動モータ14による電動ブレーキを自動的に付与することができる。
また、車体制御部42は、第2の制動開始信号が入力されると、協調ブレーキを自動的に付与する制御を行う。即ち、車体制御部42は、第2の制動開始信号が入力されると、電動モータ14にトルク信号を出力すると共に、ディスクブレーキ24にブレーキ液圧を供給する指令となるブレーキ操作信号を出力する。ブレーキ操作信号は、例えば、ディスクブレーキ24のキャリパ24Bのシリンダに油圧管路を介して接続されたブレーキ液圧供給装置(図示せず)に出力される。これにより、電動モータ14とディスクブレーキ24による協調ブレーキを自動的に付与することができる。
なお、接触可能性判定コントローラ34で用いる電気ブレーキおよび協調ブレーキの制動特性は、例えば、図5の制動特性を用いることができる。しかし、これに限らず、例えば、図7の制動特性、図8の制動特性、または、図9の制動特性を用いてもよい。
第5の実施形態は、上述のように第1の制動開始信号の出力により電気ブレーキを自動的に付与し、第2の制動開始信号の出力により協調ブレーキを自動的に付与するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
特に、第5の実施形態では、第1の実施形態と同様に、第1の制動開始信号が出力されてから第2の制動開始信号が出力されるまでの時間を確保することができる。これにより、協調ブレーキの制動が多用されることを抑制できる。即ち、ディスクブレーキ24のディスクロータ24Aおよび/または摩擦パッド24Cの交換を抑制できる。この結果、交換による費用を低減できると共に、交換時間の低減により搬送効率(稼働効率)を向上できる。
なお、第5の実施形態では、第1の制動開始信号と第2の制動開始信号を、車体コントローラ16(車体制御部42)にのみ出力する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、第1の制動開始信号と第2の制動開始信号を、モニタ装置および車体コントローラ(車体制御部)の両方に出力する構成としてもよい。この場合に、第1の制動開始信号をモニタ装置に出力するタイミングと車体コントローラ(車体制御部)に出力するタイミングとを異ならせる(例えば、モニタ装置に出力するタイミングを早くする)ことができる。また、第2の制動開始信号をモニタ装置に出力するタイミングと車体コントローラ(車体制御部)に出力するタイミングとを異ならせる(例えば、モニタ装置に出力するタイミングを早くする)ことができる。
各実施形態では、第1の制動開始信号の出力と第2の制動開始信号の出力をそれぞれ1回行う構成とした場合を例に挙げて説明した。即ち、電気ブレーキ警報と協調ブレーキ警報とがそれぞれ1回ずつ出力される構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、第1の制動開始信号の出力および/または第2の制動開始信号の出力を複数回行う構成としてもよい。例えば、第1の制動開始信号の出力のタイミング(電気ブレーキ警報)を2回行う(接触の可能性の程度を2段階に分け、それぞれの段階で出力する)構成としてもよい。
各実施形態では、摩擦式の機械ブレーキとして、乾式のディスクブレーキ24を用いる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、機械式ブレーキを、ドラム式ブレーキ、湿式多板ディスクブレーキ等の他の型式(種類)のブレーキにより構成してもよいし、機械ブレーキを、例えば、乾式のディスクブレーキと湿式多板ディスクブレーキとの両方により構成してもよい。即ち、機械ブレーキは、車両(車輪)に制動力を付与することのできる各種のブレーキを用いることができる。
各実施形態では、第1のブレーキを、電動モータ14による制動力を付与する電気ブレーキとし、第2のブレーキを、電動モータ14による制動力とディスクブレーキ24による制動力との両方を付与する協調ブレーキ(電気ブレーキ+機械ブレーキ)とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、第1のブレーキを電気ブレーキとし、第2のブレーキを機械ブレーキとしてもよい。また、第1のブレーキを第1の機械ブレーキとし、第2のブレーキを第1の機械ブレーキよりも高い制動特性を有する第2の機械ブレーキとしてもよい。さらに、第1のブレーキを第1の電気ブレーキとし、第2のブレーキを第1の電気ブレーキよりも高い制動特性を有する第2の電気ブレーキとしてもよい。即ち、第1のブレーキは、車両(車輪)に制動力を付与することのできる各種のブレーキから1ないし複数選択することができ、第2のブレーキは、第1のブレーキよりも高い制動特性(短い制動距離)となるように、車両(車輪)に制動力を付与することのできる各種のブレーキから1ないし複数選択することができる。
各実施形態では、アクセル操作センサ17、電気ブレーキ操作量センサ18、協調ブレーキ操作スイッチ19、車輪速センサ20、操舵センサ21、積荷センサ22、および、勾配センサ23の検出信号を、車体コントローラ16を介して障害物検知装置33(の接触可能性判定コントローラ34)に入力する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)に必要な車両情報に関する検出信号を、例えば、車体コントローラを介することなく各センサ、スイッチ等から直接接触可能性判定コントローラ(第1の制動指令出力部および第2の制動指令出力部)に入力する構成としてもよい。
第1の実施形態および第2の実施形態では、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを低速域で早くするため、電気ブレーキ(第1のブレーキ)の制動特性を、低速域では、実際(本来)の制動特性に対して余裕をもたせる構成とした場合を例に挙げて説明した。より具体的には、低速域での電気ブレーキの制動距離を、実際の制動距離に対して長くなる補正をする構成とした場合を例に挙げて説明した。
しかし、これに限らず、例えば、第1のブレーキの制動特性に余裕をもたせるため、例えば、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)に用いる第1のブレーキの制動力を、低速域では、実際に付与される制動力に対して小さくなる補正をする構成としてもよい。また、障害物との接触の可能性の判定に用いる車速を、実際の車度に対して速度が大きくなる補正をする構成としてもよい。さらには、障害物との接触の可能性の判定に用いる障害物と車両との間の距離を、実際の距離に対して短くなる補正をする構成としてもよい。即ち、低速域では、障害物との接触の可能性の判定に用いる各種の値(状態量、特性値、性能値)を、実際の値に対して余裕をもたせる補正(第1のブレーキの性能が低下する補正)をすることにより、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを低速域で早くすることができる。
第4の実施形態では、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを低速域で早くするため、協調ブレーキ(第2のブレーキ)の制動特性を、低速域では、実際(本来)の制動特性に対して余裕をもたせる構成とした場合を例に挙げて説明した。より具体的には、低速域での協調ブレーキの制動距離を、実際の制動距離に対して長くなる補正をする構成とした場合を例に挙げて説明した。
しかし、これに限らず、例えば、第2のブレーキの制動特性に余裕をもたせるため、例えば、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)に用いる第2のブレーキの制動力を、低速域では、実際に付与される制動力に対して小さくなる補正をする構成としてもよい。また、障害物との接触の可能性の判定に用いる車速を、実際の車度に対して速度が大きくなる補正をする構成としてもよい。さらには、障害物との接触の可能性の判定に用いる障害物と車両との間の距離を、実際の距離に対して短くなる補正をする構成としてもよい。即ち、低速域では、障害物との接触の可能性の判定に用いる各種の値(状態量、特性値、性能値)を、実際の値に対して余裕をもたせる補正(第2のブレーキの性能が低下する補正)をすることにより、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを低速域で早くすることができる。
第2の実施形態、第3の実施形態、および、第4の実施形態では、電気ブレーキまたは協調ブレーキの制動開始信号を低速域で出力しないようにするために、電気ブレーキまたは協調ブレーキの制動特性を低速域で設定しない(低速域では制動距離を0mにする)場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電気ブレーキまたは協調ブレーキの制動特性を全速度域で設定し、かつ、車両の速度が低速域であるか否かを判定することにより、低速域で制動開始信号を出力しないように構成してもよい。
各実施形態では、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)に用いる車両情報として、電気ブレーキの操作の情報、協調ブレーキの操作の有無の情報、車両の走行速度に対応する車輪速度の情報、車両の操舵方向の情報、車両の積荷の情報、車両が位置する勾配の情報を用いる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、車両情報は、例えば、車両の走行速度の情報のみとしてもよい。または、車両情報は、上記の情報の他、例えば、車両が走行する路面の情報等、車両状態および車両環境に関する各種の情報を用いることもできる。即ち、車両情報は、車両の走行速度の情報を含む、車両状態および走行環境に関する各種の情報を用いることができる。
各実施形態では、障害物との接触の可能性の判定(制動を開始すべきか否かの判定)に用いる障害物情報として、障害物と車両との間の距離の情報、障害物と車両との相対速度の情報を用いる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、障害物情報は、例えば、障害物と車両との間の距離のみとしてもよい。または、障害物情報は、上記の情報の他、例えば、障害物の種類の情報、障害物の温度の情報等、障害物に関する各種の情報を用いることもできる。即ち、障害物情報は、障害物と車両との間の距離の情報を含む、障害物に関する各種の情報を用いることができる。
各実施形態では、障害物を検出するセンサ(外界認識センサ)として、ミリ波レーダ32を用いる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ミリ波レーダの他、例えば、レーザレーダ、赤外線レーダ等のレーダ(例えば、半導体レーザ等の発光素子およびそれを受光する受光素子)、および/または、ステレオカメラ、シングルカメラ等のカメラ(例えば、デジタルカメラ)を用いることができる。
各実施の形態では、車両用制動装置31をダンプトラックに搭載した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限るものではなく、例えば、トラック、バス等、制動性能が異なる第1のブレーキ(例えば、補助ブレーキ)と第2のブレーキ(例えば、メインブレーキ)とを備えた車両に広く適用できるものである。
以上の実施形態によれば、制動開始指令(制動開始信号)の出力を適正に行うことができる。
即ち、実施形態によれば、第1の制動指令出力部は、車両の走行速度が低速域にあるときは、第1の制動開始信号を出力するタイミングを早くする。このため、第1の制動開始信号が出力されてから第2の制動開始信号が出力されるまでの時間を確保することができる。これにより、例えば、制動開始信号の出力によりオペレータに対して警報を発する(注意喚起を行う)構成の場合は、第1の制動開始信号による警報と第2の制動開始信号による警報とが短時間で出力される構成と比較して、オペレータのブレーキ操作が遅れることを抑制できる。一方、制動開始信号の出力により自動ブレーキの制御を行う構成の場合は、第1の制動開始信号と第2の制動開始信号とが短時間で出力される構成と比較して、第2のブレーキの制動が多用されることを抑制できる。さらに、第1の制動開始信号を出力するタイミングが早くなることにより、第1のブレーキの制動による減速度を小さくすることができる。
実施形態によれば、第1の制動指令出力部は、第1の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くするため、車両の走行速度が低速域にあるときは、第1のブレーキによる制動を開始すべきか否かの判定に用いる第1のブレーキの制動特性に余裕をもたせる構成としている。この場合、第1のブレーキの制動特性を実際の制動特性よりも低くする(例えば、制動距離を実際の制動距離よりも長くする、制動力を実際の制動力よりも小さくする)ことにより、第1のブレーキの制動特性に余裕をもたせる(安全率を高くする)ことができる。これにより、複雑な演算等を必要とすることなく簡素な構成で、第1の制動開始信号を出力するタイミングを早くすることができる。
実施形態によれば、第2の制動指令出力部は、車両の走行速度が低速域にあるとき第2の制動開始信号を出力しない。これにより、第1の制動開始信号の出力のタイミングと第2の制動開始信号の出力のタイミングとが近くなることを確実に回避できる。しかも、第1の制動開始信号を出力するタイミングが早くすることで、第2の制動開始信号を出力しなくても、車両を第1のブレーキの制動で余裕をもって停止させることができる。
実施形態によれば、第1の制動指令出力部は、車両の走行速度が低速域にあるとき第1の制動開始信号を出力しない。このため、第1の制動開始信号の出力のタイミングと第2の制動開始信号の出力のタイミングとが近くなることを確実に回避できる。これにより、例えば、制動開始信号の出力によりオペレータに対して警報を発する(注意喚起を行う)構成の場合は、第1の制動開始信号による警報がないため、第2の制動開始信号による警報に基づくオペレータのブレーキ操作が遅れることを抑制できる。
実施形態によれば、第2の制動指令出力部は、車両の走行速度が低速域にあるときは、第2の制動開始信号を出力する信号出力タイミングを早くする。これにより、低速域にあるとき第1の制動開始信号を出力しなくても、車両を第2のブレーキの制動で余裕をもって停止させることができる。