図1は、本発明の実施形態における燃料電池システム100の構成を示す図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1に対して外部から発電に必要な燃料ガスを供給し、負荷に応じて発電する電源システムである。本実施形態では、車両を駆動する駆動モータなどに電力を供給する。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、電力系5と、コントローラ6と、を備える。
燃料電池スタック1は、数百枚の燃料電池、いわゆる電池セルを積層した積層電池である。燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1には、電力を取り出すための端子として、アノード電極側出力端子11と、カソード電極側出力端子12とが、設けられている。
燃料電池は、アノード電極(燃料極)と、カソード電極(酸化剤極)と、アノード電極及びカソード電力で挟まれる電解質膜と、により構成される。燃料電池は、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)と、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)とを用いて電解質膜で電気化学反応を起こす。アノード電極及びカソード電極の両電極では、以下の電気化学反応が進行する。
アノード電極 : 2H2 → 4H+ + 4e- ・・・(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- + O2 → 2H2O ・・・(2)
燃料電池では、上記(1)及び(2)の電気化学反応によって起電力が生じると共に水が生成される。燃料電池は互いに直列に接続されているため、燃料電池スタック1では、各燃料電池に生じるセル電圧の総和が出力電圧(例えば数百ボルト)となる。
燃料電池スタック1には、カソードガス給排装置2からカソードガスが供給され、またアノードガス給排装置3からアノードガスが供給される。
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する装置である。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、フィルタ22と、カソード流量センサ23と、カソードコンプレッサ24と、温度センサ25と、カソード圧力センサ26と、を備える。さらにカソードガス給排装置2は、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)27と、カソードガス排出通路28と、カソードガス圧力調整弁29と、を備える。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21は、一端がフィルタ22に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
フィルタ22は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
カソード流量センサ23は、カソードコンプレッサ24よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード流量センサ23は、カソードコンプレッサ24に供給されて、最終的に燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量(以下「カソード供給流量」という。)を検出する。
カソードコンプレッサ24は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ24は、フィルタ22を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
温度センサ25は、カソードコンプレッサ24とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。温度センサ25は、WRD27のカソードガス入口側の温度(以下「WRD入口温度」という。)を検出する。
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ24とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、WRD27のカソードガス入口側の圧力(以下「WRD入口圧力」という。)を検出する。
WRD27は、カソードガス供給通路21及びカソードガス排出通路28のそれぞれに接続されて、カソードガス排出通路28を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソードガス排出通路28は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路28は、一端が燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、カソードガス圧力調整弁29を通過して、他端が開口端となっている。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路28に排出する装置である。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノードガス排出通路34と、パージ弁35と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31からアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32は、一端が高圧タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御されて、高圧タンク31からアノードガス供給通路32に流れ出したアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス排出通路34は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路34の一端は、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端は、カソードガス排出通路28に接続される。
パージ弁35は、アノードガス排出通路34に設けられる。パージ弁35は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路34から、カソードガス排出通路28に排出するアノードオフガスの流量を制御する。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1を冷却し、燃料電池スタック1を発電に適した温度に保つ装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、ラジエータ42と、バイパス通路43と、三方弁44と、循環ポンプ45と、PTCヒータ46と、第1水温センサ47と、第2水温センサ48とを備える。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水が循環する通路である。
ラジエータ42は、冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ42は、燃料電池スタック1から排出された冷却水を冷却する。
バイパス通路43は、ラジエータ42をバイパスさせて冷却水を循環させることができるように、一端が冷却水循環通路41に接続され、他端が三方弁44に接続される。
三方弁44は、ラジエータ42よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられる。三方弁44は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。具体的には、冷却水の温度が相対的に高いときは、燃料電池スタック1から排出された冷却水が、ラジエータ42を介して再び燃料電池スタック1に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。逆に、冷却水の温度が相対的に低いときは、燃料電池スタック1から排出された冷却水が、ラジエータ42を介さずにバイパス通路43を流れて再び燃料電池スタック1に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。
循環ポンプ45は、三方弁44よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられて、冷却水を循環させる。
PTCヒータ46は、バイパス通路43に設けられる。PTCヒータ46は、燃料電池スタック1の暖機時に通電されて、冷却水の温度を上昇させる。
第1水温センサ47は、ラジエータ42よりも上流側の冷却水循環通路41に設けられる。第1水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度(以下「スタック出口水温」という。)を検出する。
第2水温センサ48は、循環ポンプ45と燃料電池スタック1との間の冷却水循環通路41に設けられる。第2水温センサ48は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を検出する。
電力系5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、駆動モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、補機類57とを備える。
電流センサ51は、燃料電池スタック1から取り出される電流(以下「出力電流」という。)を検出する。
電圧センサ52は、アノード電極側出力端子11とカソード電極側出力端子12の間の端子間電圧(以下「出力電圧」という。)を検出する。
駆動モータ53は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた三相交流同期モータである。駆動モータ53は、燃料電池スタック1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、車両の減速時にロータが外力によって回転させられることでステータコイルの両端に起電力を発生させる発電機としての機能と、を有する。
インバータ54は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によって開閉制御され、これにより直流電力が交流電力に、または、交流電力が直流電力に変換される。インバータ54は、駆動モータ53を電動機として機能させるときは、燃料電池スタック1の発電電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換して駆動モータ53に供給する。一方で、駆動モータ53を発電機として機能させるときは、駆動モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換してバッテリ55に供給する。
バッテリ55は、駆動モータ53の回生電力又は燃料電池スタック1の発電電力を充電する。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じて補機類57及び駆動モータ53に供給される。
DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換器である。DC/DCコンバータ56は、一方の電圧端子が燃料電池スタック1に接続され、他方の電圧端子がバッテリ55に接続される。DC/DCコンバータ56は、バッテリ55の電力に基づいて燃料電池スタック1側の電圧端子に生じる電圧を昇圧又は降圧する。DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御して、燃料電池スタック1の出力電流、ひいては発電電力(出力電流×出力電圧)が制御される。
補機類57は、燃料電池スタック1を運転するために設けられた制御部品の集合である。補機類57は、カソードコンプレッサ24、カソードガス圧力調整弁29、アノード調圧弁33、パージ弁35、循環ポンプ45、PTCヒータ46などによって構成される。補機類57は、バッテリ55と並列に接続され、バッテリ55、または燃料電池スタック1から電力が供給されて駆動する。
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ6には、前述した第1水温センサ47、第2水温センサ48、電流センサ51及び電圧センサ52の他にも、燃料電池システム100を制御するために必要な各種センサからの検出信号が入力される。
他のセンサとしては、外気温を検出する外気温センサ61や、始動キーのオン・オフに基づいて燃料電池システム100の始動要求及び停止要求を検出するキーセンサ62、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ63がある。
コントローラ6は、各種センサからの検出信号と、燃料電池システム100に設けられた各制御部品等に対する指令値とに基づいて、燃料電池スタック1を効率良く発電させる。
次にコントローラ6の機能構成の一部について説明する。
図2は、本実施形態における制御部200を示すブロック図である。
制御部200は、各種センサからの検出信号と、燃料電池システム100に設けられた各制御部品等に対する指令値とに基づいて、燃料電池システム100を制御する。
例えば、制御部200は、アクセルストロークセンサ63で検出される踏み込み量に基づいて駆動モータ53に対する供給電力を演算し、駆動モータ53に対する供給電力と補機類57に対する供給電力とを加算して所要供給電力を算出する。制御部200は、所要供給電力からバッテリ55で賄われる電力を減算した値を、システム要求電力として算出し、システム要求電力に基づいて燃料電池スタック1を発電させる。
制御部200は、電流制御部201と、システム指令部202と、IS制御部300と、劣化抑制電圧保持部301と、切替部 302と、を備える。
電流制御部201は、燃料電池スタック1の電流値を用いて発電電力を管理する。電流制御部201は、システム要求電力に基づいて燃料電池スタック1から取り出す出力電流の目標値(以下「目標電流」という)を演算し、その目標電流を、切替部 302を介してシステム指令部202に出力する。
また、電流制御部201は、燃料電池システム100の異常(システム異常)を回避するための電流制限を実施する場合を除き、燃料電池の高電位劣化を抑制するために定められた電流値(劣化抑制のための下限電流値)よりも目標電流を低くすることを禁止する。
ここで高電位劣化について説明する。燃料電池は、燃料電池から取り出される電流が大きくなるほど、燃料電池で生じる電圧が低くなる特性を有している。このため、車両の制動時などにおいて駆動モータ53への電力供給が停止されるような状況では、出力電流が走行時の電流値よりも小さくなり、燃料電池で生じる電圧が最大値(例えば1.0V)近くまで上昇する。燃料電池の電圧が最大値付近まで高くなると、燃料電池の電解質膜に埋め込まれた白金が溶解するため、燃料電池の発電性能が劣化してしまう。ここでは、燃料電池で生じた高い電圧によって燃料電池が劣化することを「高電位劣化」という。
システム指令部202は、目標電流に基づいて補機類57などに指令値を出力する。
例えば、システム指令部202は、目標電流に基づいてカソードコンプレッサ24及びカソードガス圧力調整弁29を制御して、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量及び圧力を調節する。これと共にシステム指令部202は、目標電流に基づいてアノード調圧弁33を制御して、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量及び圧力を調節する。そしてシステム指令部202は、目標電流に基づいてDC/DCコンバータ56を制御して、燃料電池スタック1からインバータ54を介して駆動モータ53に電力を供給する。
劣化抑制電圧保持部301には、劣化抑制のための上限電圧値が保持されている。劣化抑制のための上限電圧値は、燃料電池の高電位劣化を抑制するために実験データ等によって予め定められた電圧値の上限値である。上限電圧値は、例えば0.8V(ボルト)に設定される。
IS制御部300は、車両がアイドルストップ(IS)運転に移行すると判断した場合には、燃料電池システム100の燃費を良くするために、燃料電池スタック1の運転を制限するアイドルストップ制御(以下「IS制御」という。)を実行する。また、IS制御部300は、IS制御に移行するときに、燃料電池スタック1の電力管理を、電流値ではなく電圧値を用いて行う。すなわち、車両がIS運転に移行するときは、燃料電池スタック1の電力管理手法が電流制御から電圧制御に切り替えられる。
IS制御部300は、システム要求電力が、所定の電力閾値よりも小さい場合には、車両がIS運転に移行すると判断し、システム指令部202に対してアイドルストップ制御(以下「IS制御」という。)の実施を許可する。なお、電力閾値は、走行時のシステム要求電力よりも小さな値であり、IS運転時のシステム要求電力に基づいて設定される。IS運転時は、駆動モータ53に対する供給電力がゼロになるので、IS運転時のシステム要求電力は、補機類57に対する供給電力のみに基づいて算出される。
IS制御部300は、IS制御に移行するときには、劣化抑制のための上限電圧値に基づいて燃料電池スタック1の電圧の目標値(以下「目標電圧」という。)を演算し、その目標電圧を切替部302に出力する。
切替部302は、電力管理切替フラグの設定値に基づいて、システム指令部202に対する指令値を、目標電流から目標電圧に切り替える。電力管理切替フラグは、IS制御の実施が許可されると、「0」から「1」に切り替えられる。切替部302は、電力管理切替フラグが「1」を示す場合には、電圧制御の指令値として目標電圧をシステム指令部202に出力し、電力管理切替フラグが「0」を示す場合には、電流制御の指令値として目標電流をシステム指令部202に出力する。
システム指令部202は、IS制御部300によってIS制御の実施が許可されると、燃料電池システム100の補機類57に指令を出してIS制御を実施する。
ここで、燃料電池スタック1に対して電流制御を用いない理由について図3を参照して間単に説明する。車両がIS運転に移行するときには、燃料電池システム100では、駆動モータ53に対する電力供給が停止されるため、燃料電池スタック1へのアノードガスの供給が一定流量に制限される。燃料電池スタック1内に閉じ込められたアノードガスは、電解質膜でのカソードガスとの発電反応によって徐々に消費されるため、発電領域でのアノードガスの水素濃度が下がり、その結果、燃料電池スタック1のIV特性が低下する。IV特性が低下すると、以下のような問題が生じる。
図3に示すように、高電位劣化を抑制するために予め定められた電圧値Vthが0.8V(ボルト)とすると、燃料電池スタック1の通常運転時の基準特性によって、電圧値0.8Vのときの電流値Aが、高電位劣化防止のための下限電流値として設定される。
一方、実際の燃料電池のIV特性が基準特性よりも低くなると、電圧値0.8Vのときの電流値Bは、上述の下限電流値Aよりも小さくなる。このため、IS運転中に電流値を用いて高電位劣化対策を実施しようとすると、IV特性の低下に伴い電圧値0.8Vのときの電流値Aは電流値Bまで引き下げられるにも関わらず、基準特性で設定された下限電流値Aのままで電流制御が実行される。
IS運転時はアノードガスの供給量は一定量に制限されているため、燃料電池スタック1から過剰に電流が取り出され続けることで、燃料電池の水素濃度が低下し、IV特性がさらに低下してしまう。このように、IV特性が低下するほど、必要以上に大きな電流が燃料電池スタック1から取り出されることになり、さらなるIV特性の低下を招く。
IV特性の低下に伴って燃料電池の電圧が低下すると、次回の再起動時(復帰時)には、燃料電池スタック1から駆動モータ53に十分な電力を素早く供給できなくなってしまう。この対策として、IS制御部300は、IS運転に移行するときに、燃料電池スタック1の電力管理手法を電流制御から電圧制御に切り替える。
図4は、IS制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、IS制御部300は、システム要求電力が電力閾値よりも小さい場合には、車両がIS運転に移行すると判定し、燃料電池スタック1に対してIS制御を開始する。
ステップS101においてIS制御部300は、IS制御の実施を許可するためのIS許可条件が成立しているか否かを判断する。IS許可条件は、燃料電池スタック1の状態が正常か、またはフラッディングや過温度になり易い異常状態か、を判定するための条件である。IS許可条件の一例については、図7を参照して後述する。
ステップS101でIS許可条件が成立していないと判定された場合には、ステップS109においてIS制御部300は、IS制御を停止して通常制御に復帰させる。
一方、IS許可条件が成立していると判定された場合には、ステップS102においてIS制御部300は、システム指令部202に対してIS制御の実施を許可する。
IS制御の実施が許可されると、システム指令部202は、目標電流に基づいてアノード調圧弁33の開度を制御して、アノードガスの圧力を所定値に制限し、制限した状態を所定時間継続させる。そしてシステム指令部202は、補機類57で消費される電力を所定値以下にするために、目標電流に基づいてカソードコンプレッサ24の操作量を下げ、この状態を所定時間継続させる。
このように、アノードガスの圧力を減圧することにより、ステップS105でカソードコンプレッサ24を停止するときに、燃料電池スタック1内のアノードガス圧力とカソードガス圧力との極間差圧が許容差圧を超えないようにする。このとき、燃料電池スタック1から取り出される出力電流が低下し、燃料電池スタック1で生じる出力電圧が徐々に上昇する。
ステップS103においてIS制御部300は、システム指令部202によってパージ弁35を閉じる。これにより、IS運転中はアノードガスが外気に排出されなくなるため、カソードコンプレッサ24を停止することが可能になる。パージ弁35が閉じられると、電力管理切替フラグは「1」に設定される。
ステップS104においてIS制御部300は、燃料電池スタック1の電力制御モードを電流制御から電圧制御に切り替える。具体的には、IS制御部300は、電圧センサ52の検出値を取得し、その検出値が、高電位劣化を抑制するための電圧値になるように、DC/DCコンバータ56の燃料電池スタック1側の電圧を制限する。
これにより、燃料電池スタック1から過剰に電流を取り出し続けることを回避できるので、燃料電池スタック1のIV特性の低下を抑えることができ、これに伴う燃料電池スタック1の電圧低下を抑制することができる。なお、IS制御中は、燃料電池スタック1から駆動モータ53への出力電流が極端に低下して燃料電池システム100の回路定数が通常運転時の値から大きく変わる。このため、電流制御では燃料電池スタック1の電圧を精度よく調整できなくなるので、電圧制御に切り替えることにより、適切な電圧調整が可能となる。
ステップS105においてIS制御部300は、システム指令部202によってカソードコンプレッサ24を停止する。
ステップS106においてIS制御部300は、車両がIS運転に移行した後も電圧制御によって、電圧センサ52の検出値が高電位劣化抑制のための電圧値を超えないようにDC/DCコンバータ56を制御する。これにより、燃料電池の高電位劣化を防止する。
ステップS107においてIS制御部300は、IS復帰条件が成立したか否かを判断する。IS復帰条件の一例としては、図7の(1)〜(7)に示したIS許可条件と反対の条件であり、例えば、スタック出口水温が所定温度よりも高い場合には、IS復帰条件が成立したと判断される。
ステップS108においてIS制御部300は、IS復帰条件が成立したと判断した場合には、IS制御から通常制御に復帰する復帰処理(再起動処理)の実施をシステム指令部202に指示する。復帰処理では、IS制御に移行するときに行われるステップS102からステップS105までの処理が順番を反対にして行われる。そしてIS制御の一連の処理が終了し、これに伴い電力管理切替フラグが「1」から「0」に切り替えられる。
このような燃料電池システムでは、車両がIS運転に移行することに伴い燃料電池スタック1の電力管理手法が電流制御から電圧制御に切り替えられる。その結果、IS運転中は電流制御部201でシステム異常を回避するための電流制限ロジックが実施されないので、IS制御から復帰してもシステム異常を回避できないことが懸念される。
そこで、本発明では、IS運転への移行に伴い燃料電池スタック1に対して電圧制御を実施しつつ、電流制御部201の制御ロジックを利用してシステム異常を回避する。
図5は、本実施形態における電流制御部201の詳細を示すブロック図である。
電流制御部201は、スタック性能維持部210と、異常回避電流制限部220と、目標電流設定部230と、を備える。
スタック性能維持部210は、燃料電池スタック1自体の発電性能を維持するように目標電流を演算する。スタック性能維持部210は、高電位劣化抑制部211と、要求電流制御部215と、を備える。
高電位劣化抑制部211は、劣化抑制のための下限電流値を、性能ガード部214に出力する。本実施形態では、高電位劣化抑制部211に劣化抑制のための下限電流値が予め記憶されている。劣化抑制のための下限電流値は、基準となるIV特性によって定められる。なお、燃料電池スタック1のIV特性を推定し、推定したIV特性から、高電位劣化を抑制するための電圧値に対応する電流値を、劣化抑制のための下限電流値として用いてもよい。
要求電流制御部215は、燃料電池スタック1に対するシステム要求に基づいて、燃料電池スタック1の出力電流を制御する。要求電流制御部215は、IS移行電流演算部212と、要求電流演算部213と、を備える。
IS移行電流演算部212は、IS許可フラグの設定値に基づいてIS移行時に燃料電池スタック1から取り出す電流の要求値(以下「要求電流」という。)を性能ガード部214に出力する。IS移行時の要求電流は、IS移行電流演算部212に予め記憶されている。IS移行時の要求電流は、IS制御に移行するときにアノードガスの圧力を所定値に減圧するために定められた値である。
IS許可フラグは、ステップS101でIS許可条件が成立していると判断された場合には「1」に設定され、IS許可条件が成立していないと判断された場合には「0」に設定される。
IS移行電流演算部212は、IS許可フラグが「1」を示す場合には、IS移行時の要求電流を出力し、IS許可フラグが「0」を示す場合には、例えばゼロを出力する。
要求電流演算部213は、システム要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の要求電流を演算する。なお、IS運転に移行するときには、要求電流演算部213から出力される要求電流は、IS移行時の要求電流よりも小さな値を採る。ここでは、要求電流演算部213で演算される要求電流を通常時の要求電流という。
要求電流演算部213は、システム要求電力が大きくなるほど、大きな要求電流を性能ガード部214に出力する。例えば、車両を加速するときに、システム要求電力が大きくなるので、要求電流が大きくなる。
本実施形態では、要求電流演算部213には、燃料電池スタック1のIV特性を示す基準情報が保持されている。要求電流演算部213は、システム要求電力の算出値を受け付けると、基準情報に示された複数の電流値のそれぞれについて、電流値と、その電流値に対応付けられた電圧値とを乗算して発電電力を算出する。そして要求電流演算部213は、システム要求電力を超える発電電力となる電流値のうち最も小さい電流値を要求電流として性能ガード部214に出力する。
性能ガード部214は、劣化抑制のための下限電流値によって、燃料電池の電圧が高電位劣化領域に飛び込まないように要求電流をガード(制限)する。性能ガード部214は、通常時の要求電流と、IS移行時の要求電流と、劣化抑制のための下限電流値とのうち大きい方の値を選択し、その選択した値を要求電流として目標電流設定部230に出力する。
例えば、性能ガード部214は、通常時又はIS移行時の要求電流が、劣化抑制のための下限電流値よりも小さくなる場合には、目標電流が劣化抑制のための下限電流値よりも低くならないように要求電流を劣化抑制下限電流値に設定する。これにより、燃料電池スタック1から取り出される電流の低下に伴う燃料電池の高電位劣化を抑制することができる。
異常回避電流制限部220は、目標電流設定部230によって燃料電池システム100がシステム異常を起こしやすい異常状態であると判定された場合には、燃料電池スタック1の要求電流を、劣化抑制のための下限電流値以下に制限する。具体的には、異常回避電流制限部220は、燃料電池システム100に状態がシステム異常を起こしやすい状態に近づくほど、システム異常を回避するための制限値を低くする。
異常回避電流制限部220は、過温度防止制限部221と、所要酸素分圧維持部222と、過乾燥防止制限部223と、目詰まり防止制限部224と、を備える。
過温度防止制限部221は、燃料電池スタック1の温度に基づいて、過温度防止のための目標電流の上限値(以下「上限電流値」という。)を演算し、演算結果を目標電流設定部230に出力する。本実施形態では、燃料電池スタック1の温度として第1水温センサ47で検出されるスタック出口水温が用いられる。
過温度防止制限部221には、例えば、スタック出口水温と上限電流値とが互いに対応付けられた過温度防止マップが記憶されている。そして過温度防止制限部221は、スタック出口水温の検出値を受け付けると、過温度防止マップを参照し、検出値に対応付けられた上限電流値を算出する。
過温度防止マップは、実験データ等に基づいて定められる。具体的には、過温度マップの上限電流値は、燃料電池スタック1の温度が発電に適した温度域よりも高くなり過ぎないように設定される。過温度防止制限部221は、スタック出口水温が高くなるほど、上限電流値を低くする。
所要酸素分圧維持部222は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの状態に基づいて、酸素分圧低下を防止するための上限電流値を演算し、その演算結果を目標電流設定部230に出力する。
燃料電池スタック1内のカソードガスには、水蒸気などの不純物ガスが含まれている。この不純物ガスの分圧は、カソードガスの供給圧力、供給流量やガス温度などで変動する。不純物ガスの分圧が上昇するほど、燃料電池スタック1の発電領域の酸素分圧が相対的に低下するため、燃料電池スタック1の電圧が著しく低下する恐れがある。
この対策として、所要酸素分圧維持部222は、カソード圧力センサ26からのWRD入口圧力と、温度センサ25からのWRD入口温度と、カソード流量センサ23からのカソード供給流量とを用いて、酸素分圧低下防止のための上限電流値を演算する。
所要酸素分圧維持部222には、例えば、WRD入口圧力とWRD入口温度とカソード供給流量と上限電流値とが互いに対応付けられた分圧維持マップが記憶されている。そして所要酸素分圧維持部222は、WRD入口圧力、WRD入口温度及びカソード供給流量の各検出値を取得すると、分圧維持マップを参照し、検出値に対応付けられた上限電流値を算出する。
例えば、所要酸素分圧維持部222は、WRD入口温度が低くなるほど、不純物ガスの分圧も低くなるので、カソードガスの圧力を低くするために上限電流値を小さくする。同様に、WRD入口圧力が低くなるほど上限電流値を小さくし、カソードガス供給流量が少なくなるほど上限電流値を小さくする。
過乾燥防止制限部223は、燃料電池スタック1の内部抵抗値(HFR:High Frequency Resistance)に基づいて、過乾燥防止のための上限電流値を演算し、その演算結果を目標電流設定部230に出力する。
燃料電池スタック1のHFRは、電解質膜の湿潤状態と相関関係があり、電解質膜が乾燥するほど、HFRが小さくなり、電解質膜が湿った状態になるほど、HFRが大きくなる。HFRが大きく電解質膜が乾燥した状態では、燃料電池スタック1の発電量を増やしてカソードガスの供給流量を増加させると、カソードガスによって燃料電池スタック1内の水蒸気が外に持ち出されるため、電解質膜が過乾燥になってしまう。
この対策として、過乾燥防止制限部223は、HFRが大きくなるほど、上限電流値を小さくする。これにより、電解質膜が乾燥しているときに、カソードガスの供給流量が小さくなるので、電解質膜の過乾燥を回避することができる。
例えば、過乾燥防止制限部223には、HFRと上限電流値とが互いに対応付けられた過乾燥防止マップが記憶されている。そして過乾燥防止制限部223は、HFRの測定値を受け付けると、過乾燥防止マップを参照し、測定値に対応付けられた上限電流値を算出する。
なお、燃料電池スタック1のHFRは、DC/DCコンバータ56を制御して測定される。例えば、DC/DCコンバータ56から燃料電池スタック1のアノード電極側出力端子11に交流電流が供給され、交流電流によってアノード電極側出力端子11とカソード電極側出力端子12との端子間電圧の振幅が検出される。電流制御部201は、検出した端子間電圧の振幅を交流電流の振幅で除算して内部抵抗値を算出する。あるいは、燃料電池スタック1の内部抵抗値を測定する内部抵抗測定装置を、燃料電池システム100に設けてもよい。
目詰まり防止制限部224は、カソードガスの流量に基づいてフラッディング防止のための上限電流値を演算し、その演算結果を目標電流設定部230に出力する。
本実施形態では目詰まり防止制限部224は、カソード要求流量に対する目標カソード流量の割合(ストイキ値)を算出し、そのストイキ値に応じて上限電流値を算出する。カソード要求流量は、電解質膜が形成された発電領域において発電に必要な理論空気流量である。また、目標カソード流量は、燃料電池スタック1に供給するカソードガス流量の目標値である。例えば、目標カソード流量は、前回の目標電流に基づいて設定される。
カソードガスのストイキ値が低くなるほど、燃料電池スタック1内の電解質膜で消費されなかった余剰のカソードガスの流量が少なくなり、カソードガスによって外に持ち出される水蒸気の量が少なくなる。このため、電解質膜が湿った状態で、燃料電池スタック1の発電量(電流値)を増やして発電に伴う生成水の量を増加させると、電解質膜に凝縮水が多量に付着してフラッディングを起こしてしまう。
この対策として、目詰まり防止制限部224は、HFRが小さく電解質膜が湿った状態では、カソードガスのストイキ値が低くなるほど、カソードガスによる水蒸気の持ち出し量が少なくなるため、上限電流値を小さくする。これにより、生成水量が抑えられるのでフラッディングを防止することができる。
また、目詰まり防止制限部224は、電解質膜が湿った状態では、カソードガスのストイキ値が大きくてなっても、上限電流値を小さくする。これにより、カソードガスによる水蒸気の持ち出し量が増加すると共に生成水量が減少するので、フラッディングを防止することができる。
例えば、目詰まり防止制限部224には、カソードガスのストイキ値と上限電流値が互いに対応付けられた目詰まり防止マップが記憶されている。そして目詰まり防止制限部224は、カソードガスのストイキ値を算出すると、目詰まり防止マップを参照し、算出値に対応付けられた上限電流値を目標電流設定部230に出力する。
目標電流設定部230は、性能ガード部214でガードされた要求電流の設定値と、異常回避電流制限部220の各上限電流値とのうち、最も小さい値の電流値を選択し、その選択した値を目標電流としてシステム指令部202に出力する。
このように、スタック性能維持部210では、車両の制動時やIS移行時などにシステム要求電力が極端に下がり、要求電流が高電位劣化を招く値まで小さくなるような場合には、性能ガード部214によって要求電流を劣化抑制のための下限電流値に制限する。
また、異常回避電流制限部220では、燃料電池システム100が、過温度、過乾燥やフラッディングなどの何らかのシステム異常が起こり得る状態に近づくほど、異常回避電流制限部220の各上限電流値のうち少なくともひとつの制限値が下がってくる。その制限値が、性能ガード部214から出力される要求電流よりも小さくなると、目標電流設定部230で設定される目標電流は、要求電流以下に制限される。
本実施形態では、異常回避電流制限部220で算出された各上限電流値と、高電位劣化抑制部211で設定された劣化抑制のための下限電流値とが、システム異常に関する情報として、IS制御部300に出力される。
図6は、IS制御部300の構成を示すブロック図である。
IS制御部300は、システム異常判断部310と、IS制御許可部320と、許可復帰条件保持部321と、電圧制御部330と、を備える。
電圧制御部330は、劣化抑制電圧保持部301の上限電圧値と、電圧センサ52の検出値とを取得し、上限電圧値と検出値とに基づいて、燃料電池のセル電圧が上限電圧値になるように目標電圧を演算する。例えば、電圧制御部330は、上限電圧値と検出値との差分に所定の電圧上昇率を乗算して目標電圧を算出し、その算出結果を切替部302に出力する。
システム異常判断部310は、IS制御の許可条件又は復帰条件のひとつとして、電流制御部201のシステム異常に関する情報を利用して、システム指令部202によるIS制御の実施が可能か否かを判断する。
本実施形態では、システム異常判断部310は、異常回避電流制限部220から各上限電流値を取得すると共に、高電位劣化抑制部211から劣化抑制のための下限電流値を取得する。そしてシステム異常判断部310は、各上限電流値と劣化抑制のための下限電流値とに基づいて、システム指令部202によるIS制御の実施を許可するか否かを判断する。
例えば、システム異常判断部310は、各上限電流値のうち全ての制限値が、劣化抑制のための下限電流値よりも高い場合には、燃料電池システム100の状態が正常であると判断し、IS制御の実施を許可するための許可信号をIS制御許可部320に出力する。
一方、システム異常判断部310は、各上限電流値の少なくとも1つの制限値が、劣化抑のための下限電流値よりも低い場合には、燃料電池システム100の状態が異常であると判断し、IS制御の実施を禁止するための禁止信号をIS制御許可部320に出力する。例えば、システム異常判断部310は、過温度防止のための上限電流値が劣化抑制のための下限電流値よりも低いと判断した場合には、IS制御を停止する。
また、IS制御を実施している間においても、システム異常判断部310は、上限電流値が劣化抑制のための下限電流値よりも低いか否かを判断する。システム異常判断部310は、上限電流値の少なくとも1つの制限値が劣化抑制のための下限電流値よりも低いと判断した場合には、禁止信号を出力してIS制御を中止する。システム異常判断部310は、上限電流値の全てが劣化抑制のための下限電流値よりも高い場合には、許可信号をIS制御許可部320に出力する。
許可復帰条件保持部321には、IS制御の実施を許可するためのIS許可条件と、IS制御を停止して通常制御に復帰させるIS復帰条件と、を示す条件情報がそれぞれ保持されている。条件情報については、図7を参照して後述する。
IS制御許可部320は、システム異常判断部310から許可信号又は禁止信号を受けると共に、条件情報に示されたIS許可条件が成立しているか否かを判定する。
IS制御許可部320は、システム異常判断部310から許可信号を受けると共にIS許可条件が成立していると判定した場合には、システム指令部202に対してIS制御の実施を指示する。
一方、IS制御許可部320は、システム異常判断部310から禁止信号を受けると、条件情報に示されたIS許可条件が成立している場合であっても、システム指令部202に対してIS制御の実施を禁止する。また、IS制御許可部320は、IS許可条件が成立していない場合には、システム異常判断部310から許可信号を受け付けても、IS制御の実施を禁止する。
また、IS制御許可部320は、IS制御が実施されている期間に復帰条件が成立しているか否かを判断する。
そしてIS制御許可部320は、システム異常判断部310から禁止信号を受けると、IS復帰条件が成立している場合であっても、システム指令部202に対してIS制御からの復帰を指示する。またIS制御許可部320は、IS復帰条件が成立していないと判定した場合には、システム異常判断部310から許可信号を受け付けても、IS制御からの復帰を指示する。
一方、IS制御許可部320は、システム異常判断部310から許可信号を受け付けると共に、IS復帰条件が成立していると判定した場合に限り、システム指令部202によるIS制御を継続させる。
このように、IS制御部300は、IS制御を開始してから終了するまでの間、異常回避電流制限部220の各上限電流値と、高電位劣化抑制部211の劣化抑制のための下限電流値とを利用する。これにより、電圧制御の実施と、システムの安全性確保とを両立することができる。
また、本実施形態では、異常回避電流制限部220の各上限電流値を利用する例について説明したが、これらの上限電流値に代えて、目標電流設定部230から出力される目標電流を利用するようにしてもよい。
この場合にIS制御部300は、目標電流設定部230の目標電流が劣化抑制のための下限電流値よりも低い場合には、システム異常ありと判定してIS制御を停止し、目標電流が下限電流値よりも高い場合には、システム異常なしと判定してIS制御を許可する。これにより、本実施形態と同様の効果が得られると共に、少ないパラメータでシステム異常を判定できるので、処理負荷を軽減することができる。
また、本実施形態では、異常回避電流制限部220で算出される各上限電流値の全ての制限値を、劣化抑制のための下限電流値と比較する例について説明したが、各上限電流値のうち少なくとも1つの制限値のみを用いるようにしてもよい。例えば、最も緊急性の高いシステム異常に関する上限電流値のみを利用することが考えられる。
図7は、IS制御部300で判断されるIS許可条件の一例を示す図である。図7に示したIS許可条件の大小関係を反対にした条件が、IS復帰条件として用いられる。
1番目のIS許可条件としては、スタック出口水温が、フラッディング防止のための所定温度以下であることが確認される。
2番目のIS許可条件としては、スタック入口水温とスタック出口水温とのうち小さい方の値が所定温度以上であることが確認される。
3番目のIS許可条件としては、実施中の制御シーケンスが、暖機運転時のシーケンスでないことが確認される。
4番目のIS許可条件として、HFRの測定値が、目標HFRに所定の加湿許容値を減算したHFR下限値よりも大きいことが確認される。5番目のIS許可条件として、HFRの測定値が、目標HFRに所定の乾燥許容値を加算したHFR上限値よりも小さいことが確認される。すなわち、燃料電池スタック1の内部抵抗値が、IS制御の復帰時に燃料電池スタック1から駆動モータ53へ早期に電力供給できる範囲内の値であることが確認される。
6番目のIS許可条件として、HFR測定不能フラグが、HFRを測定できることを意味する「0」であることが確認される。
7番目のIS許可条件として、各セル電圧の平均値から最低セル電圧を減算した減算値がセル電圧のばらつき度合いを示すパラメータとして用いられ、そのばらつき度合いが、フラッディング状態を判定するための所定の閾値以下であることが確認される。
1番目から7番目までのIS許可条件が、IS制御許可部320で確認される条件である。また、IS許可条件が成立しない場合には、燃料電池システム100をIS制御から通常制御に復帰させる。
8番目のIS許可条件は、システム異常判断部310で確認される条件である。システム異常判断部310では、IS許可条件として、異常回避電流制限部220の上限電流値が、劣化抑制のための下限電流値に所定値αを加算した値(異常閾値)よりも高いことが確認される。
所定値αは、燃料電池システム100の仕様に合わせて適宜設定される。所定値αを大きくするほど、システム異常の検出感度が鈍くなり、所定値αを小さくするほど、システム異常の検出感度が敏感になる。なお、例えば、所定値αを下限電流値に加算してIS復帰条件を判定する場合には、IS復帰条件が成立すると、IS制御での電圧制御から異常回避電流制限部220による電流制限に切り替えられる際に、燃料電池の電流が急激に下げられる可能性がある。この場合には、燃料電池スタック1が不安定になるため、目標電流設定部230から出力される目標電流を、段階的に低下させる電流変化率制限部を設けるようにしてもよい。
本実施形態によれば、制御部200を構成する電流制御部201は、システム要求電力に基づいて燃料電池スタック1に対する要求電流を演算する要求電流制御部215と、要求電流を劣化抑制のための下限電流値でガードする性能ガード部214と、を備える。
さらに電流制御部201は、燃料電池システム100が異常状態であると判定された場合には要求電流を劣化抑制のための下限電流値以下に制限する異常回避電流制限部220と、システム要求電力が電力閾値よりも小さいときにはIS制御を実施するシステム指令部202とを備える。
また、制御部200は、IS制御に移行するときに、燃料電池スタック1の電圧を高電位劣化抑制のための所定の電圧値に制限するIS制御部300を含む。そしてIS制御部300は、IS制御の許可条件又は復帰条件として、異常回避電流制限部220で算出された制限値と、高電位劣化抑制部211によって設定された下限電流値とに基づいて、システム指令部202によるIS制御の実施が可能か否かを判断する。
このように、IS制御部300は、ISへの移行時に、燃料電池スタック1の電力管理手法を電流制御から電圧制御に切り替える。これにより、燃料電池スタック1へのアノードガスの供給制限に伴いIV特性が低下する場合に、IV特性の低下に応じて、燃料電池スタック1から取り出す電流量を小さくすることができる。このため、IS制御中に燃料電池スタック1でのアノードガスの消費が抑えられ、IV特性の低下を抑制することができる。
また、異常回避電流制限部220は、システム異常が起こりやすい状態になると、燃料電池スタック1の劣化抑制のための下限電流値よりも制限値を低下させることで、システム異常を回避する。
そのため、IS制御部300は、異常回避電流制限部220で算出される制限値と、劣化抑制のための下限電流値とを利用し、例えば、制限値が劣化抑制のための下限電流値よりも小さいときには電圧制御から電流制御に切り戻す。これにより、IS制御中にシステム異常が懸念されるタイミングでIS制御から電流制御に復帰させるので、電流制御によってシステム異常を回避することが可能となる。
したがって、制御部200は、IS運転への移行に伴い、電圧制御によってIV特性の低下を抑制しつつ、電流制御と連動してシステム異常を回避することができる。
例えば、IS制御部300は、異常回避電流制限部220の制限値が、高電位劣化抑制部211の下限電流値よりも低い場合には、IS制御の実施を停止する。これにより、IS制御の実施に伴いシステム異常が発生し、燃料電池システム100が強制停止されることを防止できる。
また、本実施形態では、高電位劣化抑制部211から固定値である下限電流値が出力される例について説明したが、IS制御部300は、劣化抑制のための下限電流値を、異常回避電流制限部220による制限値の低下に応じて変更してもよい。
例えば、高電位劣化抑制部211の下限電流値は、IS制御の可否を判定するための閾値として用いられるため、高電位劣化抑制部211は、異常回避電流制限部220による制限値が低くなるほど、高電位劣化の許容範囲内で下限電流値を低く設定する。これにより、IS許可条件を確認するときには、劣化抑制のための下限電流値が小さくなるので、IS制御の実施が許可されやすくなる。したがって、IS制御の実施回数が増えるのでアノードガスの供給量を低減することができる。
具体的には、IS制御部300は、異常回避電流制限部220で算出される制限値が所定の変更閾値よりも小さくなるほど、劣化抑制のための上限電圧値を、例えば0.8Vから0.9Vまでの許容範囲内で上昇させる。そしてIS制御部300は、変更後の電圧値を高電位劣化抑制部211に供給し、高電位劣化抑制部211は、燃料電池スタック1の基準特性を参照し、変更後の電圧値に対応する電流値を劣化抑制のための下限電流値として性能ガード部214に出力する。なお、変更閾値は、変更前の上限電圧値に基づいて設定される。
このように、制限値の低下に応じて、燃料電池の電圧値を高電位劣化を許容できる範囲の上限値0.9Vまで高くすることにより、燃料電池スタック1から取り出される出力電流が少なくなるので、IS制御中におけるIV特性の低下を抑制することができる。
また、電圧値の上昇に応じて劣化抑制のための下限電流値が小さくなるため、IS制御に入り易くなり、IS制御の実施回数が増加し、燃料電池システム100の燃費が向上する。
したがって、異常回避電流制限部220の制限値を、高電位劣化を許容できる範囲内で電圧値を上昇させることにより、IS制御中の出力電流の低減によってIV特性の低下を抑制できると共に、燃料電池システム100の燃費を良くすることができる。
また、過温度防止制限部221は、燃料電池スタック1の温度として用いられるスタック出口水温に基づいて、燃料電池スタック1の過温度防止のための上限電流値を演算する。IS制御部300は、過温度防止のための上限電流値が、劣化抑制のための下限電流値よりも低い場合には、IS制御の実施を停止する。
これにより、IS制御中に、燃料電池スタック1の温度がフェール閾値よりも高くなり過ぎて、燃料電池システム100が強制停止されることを防止できる。
また、所要酸素分圧維持部222は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの供給流量及びガス温度のうち少なくとも1つの検出値に基づいて、燃料電池スタック1内の酸素分圧低下を防止するための上限電流値を演算する。そしてIS制御部300は、酸素分圧低下防止のための上限電流値が、劣化抑制のための下限電流値よりも低い場合には、IS制御の実施を停止する。
これにより、IS制御中に燃料電池スタック1の発電領域内の酸素分圧が下がり、燃料電池システム100の発電性能が低下してシステム異常を起こしてしまうことを防止できる。
また、過乾燥防止制限部223は、燃料電池スタック1の内部抵抗値(HFR)に基づいて、燃料電池スタック1の過乾燥を防止するための上限電流値を演算する。そしてIS制御部300は、過乾燥防止のための上限電流値が、劣化抑制のための下限電流値よりも低い場合には、IS制御の実施を停止する。
これにより、燃料電池スタック1内の電解質膜が過乾燥状態になり、燃料電池スタック1の発電効率が著しく低下してシステム異常を起こすことを防止できる。
また、目詰まり防止制限部224は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量に基づいて、フラッディングを防止するための上限電流値を演算する。IS制御部300は、フラッディング防止のための上限電流値が、劣化抑制のための下限電流値よりも低い場合には、IS制御の実施を停止する。
これにより、電解質膜に凝縮水が付着して目詰まりを起こして、燃料電池システム100が緊急停止されることを防止できる。
IS制御部300は、上述の上限電流値の全てが劣化抑制のための下限電流値よりも高い場合には、IS制御が可能であると判断する。これにより、システム異常を回避しつつ、IS制御を実施することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。