本発明の実施形態について図1を用いて説明する。図1は燃料電池システム100の概略構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、電力系5と、コントローラ6と、を備える。
燃料電池スタック1は、数百枚の燃料電池を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。燃料電池スタック1は、電力を取り出す端子として、アノード電極側出力端子11と、カソード電極側出力端子12と、を備える。
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する装置である。カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、フィルタ22と、カソードコンプレッサ23と、カソードガス排出通路24と、カソードガス圧力調整弁25とを備える。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21は、一端がフィルタ22に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
フィルタ22は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
カソードコンプレッサ23は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ23は、フィルタ22を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
カソードガス排出通路24は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路24は、一端が燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、カソードガス圧力調整弁25を通過して、他端が開口端となっている。
ここでは図示しないが、燃料電池スタック1の加湿をするために、カソードガス供給通路21に加湿装置を設けてもよい。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路24に排出する装置である。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、調圧弁33と、アノードガス排出通路34と、パージ弁35と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31からアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32は、一端が高圧タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御されて、高圧タンク31からアノードガス供給通路32に流れ出したアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノードガス排出通路34は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路34は、一端が燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガス排出通路24に接続される。
パージ弁35は、アノードガス排出通路34に設けられる。パージ弁35は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路34からカソードガス排出通路24に排出するアノードオフガスの流量を制御する。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1を冷却し、燃料電池スタック1を発電に適した温度に保つ装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、ラジエータ42と、バイパス通路43と、三方弁44と、循環ポンプ45と、PTCヒータ46と、第1水温センサ47と、第2水温センサ48とを備える。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水が循環する通路である。
ラジエータ42は、冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ42は、燃料電池スタック1から排出された冷却水を冷却する。
バイパス通路43は、ラジエータ42をバイパスさせて冷却水を循環させることができるように、一端が冷却水循環通路41に接続され、他端が三方弁44に接続される。
三方弁44は、ラジエータ42よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられる。三方弁44は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。具体的には、冷却水の温度が相対的に高いときは、燃料電池スタック1から排出された冷却水が、ラジエータ42を介して再び燃料電池スタック1に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。逆に、冷却水の温度が相対的に低いときは、燃料電池スタック1から排出された冷却水が、ラジエータ42を介さずにバイパス通路43を流れて再び燃料電池スタック1に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。
循環ポンプ45は、三方弁44よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられて、冷却水を循環させる。
PTCヒータ46は、バイパス通路43に設けられる。PTCヒータ46は、燃料電池スタック1の暖機時に通電されて、冷却水の温度を上昇させる。
第1水温センサ47は、ラジエータ42よりも上流側の冷却水循環通路41に設けられる。第1水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度(以下「スタック出口水温」という。)を検出する。
第2水温センサ48は、循環ポンプ45と燃料電池スタック1との間の冷却水循環通路41に設けられる。第2水温センサ48は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を検出する。
電力系5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、駆動モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、補機類57とを備える。
電流センサ51は、燃料電池スタック1から取り出される電流(以下「出力電流」という。)を検出する。
電圧センサ52は、アノード電極側出力端子11とカソード電極側出力端子12の間の端子間電圧(以下「出力電圧」という。)を検出する。
駆動モータ53は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた三相交流同期モータである。駆動モータ53は、燃料電池スタック1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、車両の減速時にロータが外力によって回転させられることでステータコイルの両端に起電力を発生させる発電機としての機能と、を有する。
インバータ54は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によって開閉制御され、これにより直流電力が交流電力に、または、交流電力が直流電力に変換される。インバータ54は、駆動モータ53を電動機として機能させるときは、燃料電池スタック1の発電電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換して駆動モータ53に供給する。一方で、駆動モータ53を発電機として機能させるときは、駆動モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換してバッテリ55に供給する。
バッテリ55は、駆動モータ53の回生電力又は燃料電池スタック1の発電電力を充電する。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じて補機類57及び駆動モータ53に供給される。
DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換器である。DC/DCコンバータ56は、一方の電圧端子が燃料電池スタック1に接続され、他方の電圧端子がバッテリ66に接続される。DC/DCコンバータ56は、バッテリ55の電力に基づいて燃料電池スタック1側の電圧端子に生じる電圧を昇圧又は降圧する。DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧を制御して、燃料電池スタック1の出力電流、ひいては発電電力(出力電流×出力電圧)が制御される。
補機類57は、バッテリ55と並列に接続されている。補機類57は、カソードコンプレッサ23、循環ポンプ45、PTCヒータ46などによって構成され、バッテリ55、または燃料電池スタック1から電力が供給されて駆動する。
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ6には、前述した第1水温センサ47、第2水温センサ48、電流センサ51及び電圧センサ52の他にも、燃料電池システム100を制御するために必要な各種センサからの信号が入力される。
他のセンサとしては、外気温を検出する外気温センサ61や、始動キーのオン・オフに基づいて燃料電池システム100の始動要求及び停止要求を検出するキーセンサ62、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ63がある。さらにバッテリ55の充電率(以下「バッテリ充電率」という。)を検出するSOC(State Of Charge)センサ64、バッテリ55の温度を検出するバッテリ温度センサ65などがある。
コントローラ6は、各種センサからの入力信号に基づいて、燃料電池システム100を制御する。
ここで、燃料電池スタック1の電流電圧(IV)特性を推定する制御(以下「IV推定」という。)について説明する。
燃料電池スタック1に関しては、発電特性を示すIV特性が燃料電池スタック1の温度に応じて変化することが知られている。燃料電池スタック1の温度が低くなると、図2に示すように基準IVに対してIV特性が低下し、燃料電池スタック1の発電電力が低くなる。そのため、燃料電池システム100では、燃料電池スタック1の温度が低い場合には、燃料電池スタック1の発電電力が、最小駆動電力以上となるまでは、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を禁止し、車両の走行を禁止している。最小駆動電力とは、車両を駆動させることが可能な電力の下限値である
図2において、燃料電池スタック1の発電電力が最小駆動電力となっているときの出力電流を電流Aとし、出力電流Aを取り出したときの出力電圧を電圧V1とする。
図2において破線で示すように燃料電池スタック1の温度が高い場合には、燃料電池スタック1から出力電流Aを取り出したときの燃料電池スタック1の出力電圧は、電圧V1となる。この場合には、燃料電池スタック1から最小駆動電力を駆動モータ53に供給することができるので、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を許可し、車両の走行を許可する。
一方、図2において一点鎖線で示すように燃料電池スタック1の温度が低い場合には、燃料電池スタック1から出力電流Aを取り出したときの出力電圧は、電圧V2となる。この状態で、駆動モータ53又はインバータ54が動作できる最低電圧以上の電圧を燃料電池スタック1から供給できるようにDC/DCコンバータ56を制御すると、燃料電池スタック1の発電電力は最小駆動電力よりも小さくなる。この場合には、燃料電池スタック1から最小駆動電力を駆動モータ53に供給することができないので、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を禁止し、車両の走行を禁止する。
車両の走行を素早く許可するには、駆動モータ53又はインバータ54が動作できる最低電圧以上の電圧を燃料電池スタック1から供給できるように制御したときの燃料電池スタック1の発電電力が最小駆動電力となったことを正確に判定する必要がある。例えば、燃料電池スタック1の温度を正確に検出することができれば、温度に基づくIV特性から燃料電池スタック1の発電電力を正確に検出することができる。
しかし、温度センサを燃料電池スタック1に取り付けるには、燃料電池スタック1と温度センサとを絶縁させる必要があるので、燃料電池スタック1に直接、温度センサを取り付けて燃料電池スタック1の温度を検出することは困難である。
そのため、本実施形態では、冷却水循環通路41に第1水温センサ47、第2水温センサ48を設け、これらの検出信号に基づいて燃料電池スタック1の温度を推定している。この手法では、実際の燃料電池スタック1の温度と、第1水温センサ47、及び第2水温センサ48によって推定した温度とが乖離することがある。そのため、第1水温センサ47、第2水温センサ48によって推定した温度から、燃料電池スタック1のIV特性を正確に特定することができない。
そこで、燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧を取得してIV特性を直接推定するIV推定処理を行う。
燃料電池スタック1では、出力電流Iと、基準IVに基づく基準電圧と実際の出力電圧との差ΔVとの関係は、濃度過電圧の影響が小さい条件において、式(1)に示すように一次関数で近似することができることが知られている。
ΔV=aI+b・・・(1)
燃料電池スタック1の温度が低く、駆動モータ53への電力供給を禁止されている場合には、燃料電池スタック1から、消費電力が駆動モータ53よりも低い補機類57に発電電力を供給する。そして、出力電流を所定幅で変化させて出力電圧(発電電圧)を複数計測して、出力電流と出力電圧とから式(1)のa、bを算出し、算出したa、bを用いて、燃料電池スタック1のIV特性を推定する。
a、bが算出されると、燃料電池スタック1から駆動モータ53に最小駆動電力を供給する場合の出力電流Aに対する出力電圧がわかるので、出力電圧が電圧V1以上となると、燃料電池スタック1が最小駆動電力を駆動モータ53に供給可能であることがわかる。なお、所定幅は、a、bを正確に算出するために広い範囲に設定することが望ましい。
このように、IV推定処理を開始してから、燃料電池スタック1が最小駆動電力を駆動モータ53に供給可能になるまで、繰り返しIV推定が実施される。
図3は、IV推定が繰り返し実施されているときの燃料電池システム100の状態を示す図である。
図3(a)は、燃料電池スタック1の発電電力を示す図である。図3(a)には、燃料電池スタック1の発電電力が実線で示され、補機類57で消費される電力(以下「補機消費電力」という。)が破線で示されている。図3(b)は、バッテリ55の充放電状態を示す図である。
図3(c)は、SOCセンサ64で検出されるバッテリ55のSOCを示す図である。図3(d)は、スタック出口水温を示す図である。図3(e)は、燃料電池スタック1から駆動モータ53への供給可能電力を示す観念図である。図3(f)は、走行許可フラグを示す図である。図3(a)乃至図3(f)の横軸は、互いに共通の時間軸で示されている。
図3(a)に示すように、燃料電池スタック1の出力電流を所定振幅で上昇させた後、上昇させる直前の電流値まで出力電流を低下させる。この出力電流の振幅期間Ta(例えば2秒)に電流センサ51及び電圧センサ52の両者から検出値を複数回取得し、その取得した電流値及ぶ電圧値を用いて式(1)の近似式を演算してIV特性を推定する。
そして、出力電流の上昇を開始してから所定の推定間隔Te(例えば5秒)経過後に、再び出力電流を所定振幅で上昇させた後に出力電流を元の値に戻す。このように、所定の推定間隔Teごとに、出力電流を繰り返し振幅させ、振幅させたときの電流値及び電圧値に基づいてIV特性を推定する。
また、振幅期間Ta以外の暖機期間Tw(例えば3秒)では、燃料電池スタック1が発電できるように、DC/DCコンバータ56を介して補機類57に発電電力が供給される。これにより、燃料電池スタック1の発電に伴う自己発熱によって燃料電池スタック1を暖機させることができる。さらに自己発熱によって冷却水が暖められ、暖まった冷却水を燃料電池スタック1に循環させることで燃料電池スタック1の暖機を更に促進させる。
このため、図3(d)に示すように、時間が経過するに連れて冷却水の温度すなわち燃料電池スタック1の温度が上昇する。これにより、燃料電池スタック1のIV特性が回復してくるので、図3(e)に示すように、発電可能電力が上昇し、発電可能電力が最小駆動電力に到達すると、図3(f)に示すように、走行許可フラグが、「0」から「1」に切り替えられる。
また、出力電流の振幅期間Taでは、燃料電池システム100で負荷消費電力よりも大きな電力を発電させるために、発電電力がバッテリ55にも供給される。このため、図3(b)に示すように、発電電力の振幅に合わせてバッテリ55への充電電力が増加する。これにより、図3(c)に示すように、推定間隔Teごとにバッテリ55のSOCが階段状に上昇する。
このように、燃料電池スタック1の温度が低く、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給が禁止されている場合であっても、IV推定を行うことで燃料電池スタック1から駆動モータ53へ電力を供給可能かどうかを正確に判定することができる。
しかしながら、IV推定を行うときに燃料電池スタック1から電力を受け入れるバッテリ55には、充電容量に限りがある。例えば、燃料電池スタック1のIV特性が回復する前にバッテリ55が満充電になると、燃料電池スタック1の余剰電力を受け入れるために一旦バッテリ55を放電するような制御が必要となる。その結果、走行許可を出すタイミングが遅くなってしまう。
そこで、本実施形態では、以下で説明するように燃料電池システム100の起動制御を行う。
本実施形態の起動制御について図4のフローチャートを用いて説明する。ここでは、燃料電池システム100が零下で起動されることを想定している。
まず、コントローラ6は、キーセンサ62から始動要求を受け、燃料電池システム100の起動処理を開始する。
そしてステップS101においてコントローラ6は、第1水温センサ47から冷却水温度を取得し、その取得した値を初期スタック出口水温としてメモリ69に保存する。なお、第1水温センサ47の検出値に代えて、第2水温センサ48や外気温センサ61の検出値を用いても良い。
ステップS102においてコントローラ6は、IV推定の推定間隔を段階的に切り替えるための推定間隔切替テーブルを参照し、初期スタック出口水温に対応する推定間隔ごとの水温閾値を取得する。これにより、コントローラ6は、冷却水温度が各水温閾値を超えるたびに、その水温閾値に対応付けられた時間に推定間隔を変更することができるようになる。
推定間隔切替テーブルは、メモリ69に記憶されており、このテーブルには、初期スタック出口水温ごとに各水温閾値に対応する推定間隔が示されている。水温閾値ごとの推定間隔は、燃料電池スタック1の冷却水温度が高くなるほど、推定間隔が短くなるように設定されている。これにより、燃料電池スタック1の温度上昇によってIV推定の精度が良くなるときに、IV推定の実施頻度を増やすことができる。なお、推定間隔切替テーブルの詳細については図5で後述する。
ステップS103においてコントローラ6は、例えば、冷却水温度が50℃よりも低い場合には、暖機運転を行う。具体的には、コントローラ6は、燃料電池スタック1の発電電力を、燃料電池システム100の最大効率の運転点よりも上げ、発電に伴う自己発熱量を増やす。なお、暖機運転は、冷却水温度が50℃に達すると終了する。
燃料電池スタック1で発電された電力は、補機類57で消費され、PTCヒータ46やカソードコンプレッサ23の消費電力及びバッテリ55への充電電力を調整することで、燃料電池システム100のエネルギーバランスを保つ。補機類57であるPTCヒータ46は燃料電池スタック1で発電した電力を消費するだけではなく、自己発熱によって冷却水を暖め、暖まった冷却水を燃料電池スタック1に循環させることで燃料電池スタック1の暖機を更に促進することができる。なお、燃料電池スタック1は、発電によって生じる熱によっても暖機される。
すなわち、ステップS103は、コントローラ6の構成のうち、燃料電池スタック1が低温時に、補機類57への電力供給によって燃料電池スタック1自身を暖機する暖機運転部に相当する。
ステップS104においてコントローラ6は、燃料電池スタック1のIV特性を推定するIV推定処理を実行する。
具体的には、コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電流を上昇させた後に出力電流を低下させると共に、出力電流を振幅させている間に電流センサ51及び電圧センサ52から電流値及び電圧値を複数回取得する。そしてコントローラ6は、これらの電流値及び電圧値に基づいてIV特性を推定する。
すなわち、ステップS104は、コントローラ6の構成のうち、バッテリ55との電力交換によって燃料電池スタック1の出力電流を変化させると共に、そのときに取得する電流・電圧値に基づいて燃料電池のIV特性を推定する推定部に相当する。
なお、IV推定処理の詳細については、図6で後述する。また、コントローラ6は、冷却水温度がIV推定禁止温度(例えば−35℃)よりも高い場合にのみIV推定処理を実行する。IV推定禁止温度は、IV推定による電流の変動によって燃料電池スタック1の電圧が最低保障電圧よりも低くなる可能性のある温度である。
ステップS105においてコントローラ6は、IV推定によって推定したIV特性から、最小駆動電力に対応する出力電流に基づいて出力電圧を特定し、これらの値から現在の発電可能電力を算出する。
ステップS106においてコントローラ6は、発電可能電力と最小駆動電力とを比較する。コントローラ6は、発電可能電力が最小駆動電力以上の場合には、ステップS107に進み、発電可能電力が最小駆動電力よりも低い場合にはステップS104に戻る。
ステップS107においてコントローラ6は、READYランプを点灯させて、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を許可し、起動制御方法の一連の処理を終了する。
次にメモリ69に記憶される推定間隔切替テーブルの詳細について説明する。
図5は、推定間隔切替テーブル69aの一例を示す図である。
推定間隔切替テーブル69aには、初期スタック出口水温ごとに、各水温閾値に対応するIV推定の実施頻度(推定間隔)が示されている。なお、燃料電池システム1の起動後の冷却水温度が初期スタック出口水温よりも低くなることは起こり得ないため、起こり得ない条件を「−」で示している。
水温閾値の各欄には、IV推定の実施頻度に関わる推定間隔の値が保持されている。例えば、−20℃の水温閾値には、IV推定を行わずに「暖機のみ」実施するように0秒の推定間隔が対応付けられ、−10℃の水温閾値には、IV推定を「低」頻度で実施するように10秒の推定間隔が対応付けられている。また、−5℃の水温閾値には、IV推定を「中」頻度で実施するように5秒の推定間隔が対応付けられ、0℃の水温閾値には、IV推定を「高」頻度で実施するように2秒の推定間隔が対応付けられている。
また、各水温閾値に対応するIV推定の実施頻度は、初期スタック出口水温の温度範囲ごとに定められている。
例えば、初期スタック出口水温が−30℃から−20℃までの温度範囲では、冷却水温度が−20℃の水温閾値を超えるとIV推定を行わずに「暖機運転のみ」実施し、冷却水温度が−10℃の水温閾値を超えると「低」頻度の推定間隔でIV推定を実施する。さらに冷却水温度が−5℃の水温閾値を超えると「中」頻度の推定間隔でIV推定を実施し、冷却水温度が0℃の水温閾値を超えると「高」頻度の推定間隔でIV推定を実施する。
なお、推定間隔切替テーブル69aでは、水温閾値に対応するIV推定の実施頻度は、初期スタック出口水温の各温度範囲で同一の頻度が設定されているが、実験データなどによって温度範囲ごと異なる値を設定しても良い。これにより、初期スタック出口水温に応じて推定間隔の切替を適切に行うことができる。
このように、推定間隔切替テーブル69aを用いることにより、燃料電池スタック1の冷却水温度が高くなるほど、推定間隔を短くしてIV推定の実施頻度を増やすことができる。このため、冷却水温度が−10℃の低温下でIV推定の精度が悪いときには、実施頻度を低くしてバッテリ55への充電量を抑え、氷点付近では、走行許可が出やすいため実施頻度を高くしてバッテリ55への充電量を低温時に抑えた分だけ増やすことができる。
これにより、IV推定によるバッテリ55への充電量の増加を抑制しつつ、燃料電池スタック1の暖機を促進することができる。
また、燃料電池スタック1の温度(冷却水温度)と外気温(初期スタック入口温度)との温度差が大きくなるほど、燃料電池スタック1から外気への単位時間あたりの放熱量が多くなる。そして、燃料電池スタック1と外気との温度差は、走行許可が出される直前、すなわち冷却水温度が0℃付近まで上昇したタイミングで、最も大きくなる。
このため、氷点付近でIV推定を頻繁に実施し発熱量を増加させることによって、燃料電池スタック1からの放熱量が最も大きくなるときに暖機が促進されて走行許可の時期が早まる。このため、放熱量が抑えられ、燃料電池スタック1のトータルの発電量を低減することができる。
図6は、ステップS105のIV推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
ステップS201においてコントローラ6は、第1水温センサ47から取得した冷却水温度を読み込む。
ステップS202においてコントローラ6は、読み込んだ冷却水温度と、図5のステップS102で取得した各推定間隔に対応する水温閾値とに基づいて、IV推定の推定間隔を設定する。
例えば、コントローラ6は、初期スタック出口水温が−20℃である場合に、読み込んだ冷却水温度が−5℃であるときは、推定間隔切替テーブル69aによって中頻度の推定間隔が設定される。その後、冷却水温度が0℃まで上昇すると、推定間隔切替テーブル69aによって高頻度の推定間隔が設定される。すなわち、燃料電池スタック1の温度が上昇するほど、推定間隔が短く設定される。
すなわち、ステップS202は、コントローラ6の構成のうち、燃料電池スタック1の暖機状態に応じてIV特性の推定間隔を短くする制御部に相当する。
また、コントローラ6は、IV推定時の出力電流の下限値(以下「下限電流」という。)を基準電流値に設定する。基準電流値とは、暖機運転時に燃料電池スタック1から補機類57へ出力する出力電流の電流値である。
そしてコントローラ6は、基準電流値に所定の振幅を加算し、その加算した値を、IV推定時の出力電流の上限値(以下「上限電流」という。)に設定する。コントローラ6は、下限電流及び上限電流の設定値を用いてDC/DCコンバータ56の燃料電池スタック1側の電圧端子に生じる電圧を振幅させる。
ステップS203においてコントローラ6は、バッテリ55のSOCが、切替閾値よりも大きいか否かを判断する。切替閾値は、バッテリ55が満充電に近い状態か否かを判定するための閾値であり、例えば70%のSOCに設定される。
なお、バッテリ55のSOCは、一般的な手法により算出される。例えば、バッテリ55の開放電圧を検出して開放電圧時のSOCを求め、バッテリ55に充電される電流と、バッテリ55から放電される電流とを検出する。そしてこれらの検出値を積算してSOCの変動量を演算し、その変動量を開放電圧時のSOCに加算してバッテリ55のSOCを算出する。開放電圧とは、バッテリ55に電流が流れていないときのバッテリ55の電圧値のことである。
そしてステップS300においてコントローラ6は、バッテリ55のSOCが、切替閾値よりも大きいと判断された場合には、IV推定によるSOC制御を実行する。具体的には、コントローラ6は、出力電流を振幅させるたびに下限電流を段階的に低下させてSOCの上昇を抑制する。IV推定によるSOC制御については、図7を参照して後述する。
一方、ステップS204においてコントローラ6は、バッテリ55のSOCが、切替閾値以下であると判断された場合には、IV推定による暖機充電制御を実行する。具体的には、コントローラ6は、出力電流の下限値を暖機運転時の出力電流に固定して出力電流を振幅させる。
このように、コントローラ6は、バッテリ55のSOCに応じて、出力電流を振幅させたときのバッテリ55のSOCの上昇率を制御する。
次にステップS200のIV推定によるSOC制御について説明する。
図7は、IV推定によるSOC制御の処理手順を示すフローチャートである。
図7では、IV推定時の下限電流を増加させるための電流増加フラグと、IV推定時の下限電流を低下させるための電流低下フラグとが、メモリ69に保持されている。
電流低下フラグ及び電流増加フラグは、バッテリ55が満充電に近い状態のときには、それぞれ「1」及び「0」に設定される。一方、バッテリ55に余裕があるときには、電流低下フラグに「0」が設定されると共に、電流増加フラグに「1」が設定される。また、IV推定によるSOC制御の開始時は、電流低下フラグは「1」に設定されている。
ステップS301においてコントローラ6は、IV推定によるSOC制御の処理を開始すると、電流低下フラグが「1」であるかを確認する。
電流低下フラグが「1」を示す場合には、ステップS302においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が最小値よりも大きいか否かを判断する。
下限電流の最小値は、例えば、燃料電池の高電位劣化を防止するための制限値や、暖機不足による燃料電池の再凍結を防止するための制限値などによって決められる。
燃料電池の高電位劣化とは、燃料電池のセル電圧が高くなり過ぎ、燃料電池自体が劣化してしまうことをいう。燃料電池は、図2に示したように、出力電流が小さくなるほどセル電圧が高くなるため、高電位劣化が起こらないように出力電流の下限を設定する必要がある。
また、燃料電池の再凍結とは、零下起動時では、発電に伴う発熱量が少なくなると、暖機によって解凍した燃料電池が再び凍結してしまうことをいう。燃料電池から取り出す出力電流が小さくなるほど、発電電力が小さくなるため、再凍結が起こらないように出力電流の下限を設定する必要がある。
このように、下限電流を最小値に制限することにより、電流低下に伴う高電位劣化を防止しつつ、再凍結を起こさないように発熱量を一定値以上に保つことができる。
ステップS303においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が最小値よりも大きい場合には、下限電流を所定のステップ幅だけ低下させる。これにより、燃料電池スタック1の発電電力が、補機類57で消費される電力(以下「補機消費電力」という。)よりも小さくなるので、不足した電力がバッテリ55から補機類57に供給され、バッテリ55のSOCを低下させることができる。
ステップS306においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が最小値以下である場合には、下限電流を最小値に設定する。これにより、IV推定時の下限電流が最小値に維持される。
また、ステップS301で電流低下フラグが「0」を示した場合には、ステップS312においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が、最大値よりも大きいか否かを判断する。下限電流の最大値は、例えば、バッテリ55に供給可能な電流の上限値から、IV推定時の出力電流の振幅を減算した値である。
ステップS313においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が最大値よりも小さい場合には、下限電流を所定のステップ幅だけ増加させる。これにより、燃料電池スタック1の発電電力が上昇するため、暖機が促進される。
なお、下限電流を増加させるステップ幅は、ステップS303で下限電流を低下させるステップ幅と異なる値でも、同じ値でも良い。例えば、下限電流を上昇させるステップ幅よりも、下限電流を低下させるステップ幅を大きくすることにより、バッテリ55のSOCを迅速に下げ、その後SOCの上昇率を低くすることができる。
ステップS316においてコントローラ6は、IV推定時の下限電流が最大値以上である場合には、下限電流を最大値に設定する。これにより、IV推定時の下限電流を最大値に制限することができる。
このように、電流低下フラグが「1」の場合には、IV推定時の下限電流を低下させことにより、バッテリ55から補機類57に電力が供給されるため、SOCの上昇を抑制することができる。一方、電流低下フラグ「0」の場合には、IV推定時の下限電流を上昇させることにより、燃料電池スタック1の発電電力が上昇するため、暖機を促進することができる。
ステップS303、S306、S313又はS316の処理が終了すると、ステップS304においてコントローラ6は、バッテリ55のSOCが、所定値よりも大きいか否かを判断する。所定値は、下限電流を増加させたときのバッテリ55の過充電を防止するための閾値である。
過充電防止のための所定値は、実験データなどを使用して定められる。例えば、あらかじめ実験で、下限電流をステップS313で最大値まで増加させてからS303で低下させるまでの間に補機消費電力を超える電力量を求めておき、その超過電力をバッテリ55に充電した際にバッテリ55が満充電となるように、所定値を定める。
バッテリ55のSOCが所定値よりも大きい場合には、バッテリ55の充電容量に余裕があるため、ステップS305においてコントローラ6は、電流増加フラグを「1」に設定すると共に電流低下フラグを「0」に設定する。
一方、バッテリ55のSOCが所定値以下である場合には、バッテリ55が満充電に近いため、ステップS307においてコントローラ6は、電流増加フラグを「0」に設定すると共に、電流低下フラグを「1」に設定する。
そしてステップS305又はS307の処理が終了すると、IV推定によるSOC制御が終了し、図4に示した起動制御方法に戻り、ステップS105に進む。
このように、ステップS304でSOCが所定値を超えるか否かを判断する処理を設けることにより、バッテリ55の過充電を回避しつつ、出力電流の下限値を増減させることができる。
次にIV推定処理による燃料電池システム100の状態について図面を参照して説明する。
図8は、IV推定による暖機充電制御に関するタイミングチャートである。
図8には、バッテリ55のSOCが切替閾値を超える前に走行許可が出された例が示されている。図8(a)から図8(f)までの各図面の縦軸及び横軸は、図3(a)から図3(f)までの各図面と同じものである。
まず、燃料電池スタック1の起動時に初期スタック出口水温がメモリ69に保持されると、推定間隔切替テーブルを参照し、初期スタック出口水温に対応付けられた各推定間隔の水温閾値が算出される。この例では、推定間隔5秒の水温閾値(−20℃)と、推定間隔3秒の水温閾値(−10℃)と、推定間隔2.5秒の水温閾値(−5℃)と、推定間隔2秒の水温閾値(0℃)とが設定されている。
時刻t0では、冷却水温度が−15℃前後であり、5秒の推定間隔TeでIV推定処理が開始される。このとき、バッテリ55のSOCは0(ゼロ)に近い状態である。そして時刻t0から3秒の暖機期間Twを経過した後にIV推定が1度実施される。その後、同じ推定間隔(5秒)で2度目のIV推定が実施される。
時刻t1では、冷却水温度が推定間隔3秒の水温閾値を超えるため、推定間隔が5秒から3秒に切り替えられ、1秒の暖機期間の経過後に3度目のIV推定が実施される。時刻t2では、冷却水温度が推定間隔2.5秒の水温閾値を超えため、推定間隔が3秒から2.5秒に切り替えられ、0.5秒の暖機期間後に4度目のIV推定が実施される。
時刻t3では、冷却水温度が2秒の水温閾値を超えるため、これ以降は、IV推定の合間に暖機期間Twを設けることなく2秒の推定間隔で連続して出力電流を振幅させる。
時刻t4では、出力電流を振幅させたときの電流値及び電圧値に基づいて推定したIV特性が供給可能電力に達したと判定され、図8(f)に示すように走行許可フラグが「1」に設定される。
このように、冷却水温度が高くなるほど、IV推定の推定間隔を短くしている。これにより、IV推定処理の前半は、出力電流の振幅回数を減らしてバッテリ55への充電量を抑え、その分を後半に配分して出力電流の振幅回数を増やしている。このため、バッテリ55の充電容量の増加を抑制しつつ、燃料電池スタック1の暖機を促進することができる。
次にコントローラ6によって行われるIV推定によるSOC制御について説明する。
図9は、IV推定によるSOC制御に関するタイミングチャートである。図9(a)から図9(f)までの各図面の縦軸及び横軸は、図3(a)から図3(f)までの各図面と同じものである。
時刻t10では、図9(c)に示すように、バッテリ55のSOCが切替閾値よりも低いため、図8で示したようなIV推定による暖機充電制御が実施される。
時刻t10から時刻t11までの期間は、2.5秒の推定間隔TeでIV推定が繰り返し実施される。このため、図9(c)に示すように、バッテリ55のSOCが切替閾値近くまで高くなる。
時刻11では、冷却水温度が、推定間隔2秒に対応する水温閾値を超えているため、推定間隔が2.5秒から2秒に切り替えられ、2秒の推定間隔TeでIV推定を実施する。
時刻t12の直前では、バッテリ55のSOCが切替閾値よりも高くなるため、IV推定処理の制御が暖機充電制御からSOC制御に切り替える。これにより、コントローラ6は、IV推定によるSOC制御を開始し、IV推定時の出力電流の下限値(下限電流)を、暖機運転時の基準電流値から所定のステップ幅だけ低く設定する。
これにより、時刻t12の直前においては、図9(a)に示すように、燃料電池スタック1の発電電力が補機消費電力よりも低下する。このため、図9(b)に示すように、バッテリ55から不足分の電力が補機類57へ放電されるので、図9(c)に示すように、バッテリ55のSOCが低下する。
そしてバッテリ55のSOCが、図7で述べた過充電防止のための所定値よりも小さくなり、電流増加フラグが「1」に、電流低下フラグが「0」に設定される。これにより、下限電流が所定のステップ幅だけ高く設定される。ここでは、増加時のステップ幅は、低下時のステップ幅よりも小さな値に設定されている。
このため、図9(a)に示すように、IV推定を実施するたびに下限電流が徐々に上がり、その後SOCが所定値を超えて電流増加フラグが「0」に、電流低下フラグが「1」に設定され、下限電流が暖機運転時の基準電流値から所定のステップ幅だけ低く設定される。このようにして、下限電流が基準電流値以下で均衡状態となる。
これにより、図9(c)に示すように、バッテリ55のSOCの上昇が切替閾値付近で抑えられる。そして時刻t13において走行許可フラグが「1」に設定される。
このように、バッテリ55が満充電に近いときにIV推定時に発電電力を補機消費電力よりも低下させることにより、バッテリ55のSOCの増加を抑制しつつ、IV推定を繰り返し実施することができる。このため、走行許可直前にバッテリ55が満充電となってIV推定の実施が直ぐにできなくなるという事態を回避できる。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、バッテリ55と、補機類57と、DC/DCコンバータ56と、を備える。DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の発電電力をバッテリ55及び補機類57に供給するように設けられる。
コントローラ6を構成する暖機運転部は、図4に示したステップS103で燃料電池スタック1の温度が氷点よりも低い低温時に、補機類57への電力供給によって燃料電池スタック1自身を暖機する。またステップS104において、コントローラ6を構成する推定部は、バッテリ55への電力供給又はバッテリ55から補機類57への電力補充によって燃料電池スタック1の出力電流を変化させる。これと共に推定部は、出力電流を変化させたときに取得する電流値及び電圧値に基づいて燃料電池スタック1のIV特性を推定する。
そしてコントローラ6を構成する制御部は、図6に示したステップS202において燃料電池スタック1の暖機状態に応じて、燃料電池スタック1のIV特性の推定間隔を短くする。具体的には、コントローラ6は、燃料電池スタック1の温度として、第1水温センサ47で検出されるスタック出口水温を取得し、そのスタック出口水温に基づいてIV推定処理の推定間隔を短くする。
これにより、燃料電池スタック1のIV特性が悪い前半は、推定間隔を長くして、バッテリへの充電量を抑えつつ、走行許可の判断を逐次行うことができる。
そして暖機が進みIV特性が回復してくる後半に推定間隔を短くすることにより、前半にバッテリ充電量を抑えた分、バッテリ55には余裕ができるため、バッテリ55の過充電を防ぎ、確実にIV特性を推定することができる。
また、IV特性が回復してきたときに短い間隔でIV推定を繰り返し実施するので、暖機が促進され早期に車両の走行を許可することができる。さらに燃料電池スタック1のIV特性が回復してくるほど、IV推定の推定精度は高くなるため、推定精度が高いときに頻度を増やしてIV推定を実施することができる。
このように、燃料電池スタック1のIV特性の回復度合いに合わせて推定間隔を短くすることにより、限られたバッテリ55の充電容量で早期に車両の走行を許可することができる。
また、本実施形態では、ステップS202においてコントローラ6は、燃料電池スタック1の冷却水温度が上昇するほど、IV推定処理の推定間隔を短くする。このように冷却水温度を検出することで、燃料電池スタック1の暖機の進み具合を精度よく把握することができるので、IV推定の推定間隔を暖機状態に応じて的確に切り替えることができる。
また、本実施形態の他にコントローラ6を構成する制御部は、零下起動時には、暖機状態として燃料電池スタック1の出力電流に出力電圧を積算して発電電力を算出し、燃料電池スタック1の発電電力が多くなるほど、IV特性の推定間隔を短くするようにしてもよい。あるいは、コントローラ6を構成する制御部は、発電電力に発電時間を積算して発電電力量を算出し、燃料電池スタック1の発電電力量が多くなるほど、IV特性の推定間隔を短くするようにしてもよい。
これにより、燃料電池スタック1の暖機が進むにつれて推定間隔を短くできるので、バッテリ55のSOCの増加を抑制しつつ、迅速に走行許可を出すことができる。
あるいは、コントローラ6を構成する制御部は、零下起動時には、燃料電池スタック1の暖機を開始してから所定時間を経過した後、IV特性の推定間隔を短くするようにしてもよい。
例えば、メモリ69に、推定間隔を切り替える切替時間を初期スタック出口水温ごとに記憶しておき、起動時に検出したスタック出口水温に対応する切替時間を取得し、その取得した切替時間を経過した後に、推定間隔を例えば10秒から4秒に切り替える。これにより、簡易な構成で推定間隔を切り替えることができる。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態におけるIV推定処理の振幅制御について説明する。なお、本実施形態の燃料電池システムは、図1に示した燃料電池システム100と同じ構成であるため、第1実施形態と同じ符号を付して説明する。
第2実施形態では、メモリ69には、IV推定のための電流制御テーブルが保持されている。そしてコントローラ6は、IV推定処理において、電流制御テーブルを参照し、冷却水温度が大きくなるほど、燃料電池スタック1から取り出される出力電流の振幅を大きくする。
図10は、メモリ69に記憶される電流制御テーブル69bの一例を示す図である。
電流制御テーブル69bには、冷却水温度ごとに、IV推定のための出力電流の振幅の大きさが示されている。
例えば、冷却水温度が−10℃まで上昇すると、IV推定の振幅が「小」から「中」に切り替えられ、冷却水温度が0℃まで上昇すると、IV推定の振幅が「中」から「大」に切り替えられる。例えば、振幅「中」には、振幅「小」の1.2倍の振幅値が対応付けられており、振幅「大」には、振幅「小」の1.5倍の振幅値が対応付けられている。
このように、電流制御テーブル69bによって、冷却水温度が高くなるほど、IV推定時の振幅を大きくする。このようにする理由は、低温時には燃料電池スタック1の発電特性が悪いため、燃料電池スタック1から大きな電流を取り出すことできない。仮に大きな電流を取り出そうとすると、燃料電池スタック1の出力電力が極端に低下して、カソードコンプレッサ23などの補機類57に電力を供給できなくなってしまう。
そのため、燃料電池スタック1の発電特性が良くなるにつれて出力電流の振幅を大きくして上限電流を大きくすることで、出力電圧の極端な低下を防止しつつ、燃料電池スタック1の発熱量を大きくすることができる。
これにより、暖機が促進され、燃料電池システム100が起動してから走行許可が出されるまでの起動時間を短縮することができる。また、上限電流を高くすることで、電流値及び電圧値の取得範囲が広がるため、IV推定の精度を向上させることができる。
図11は、本実施形態におけるIV推定処理の処理手順を示すフローチャートである。図11では、ステップS210の処理以外の処理は、図6で示した処理と同じであるため、同一符号を付してここでの詳細な説明を省略する。
ステップS201で冷却水温度が読み込まれると、ステップS210においてコントローラ6は、電流制御テーブル69bを参照し、読み込んだ冷却水温度に対応する出力電流の振幅を算出する。
そしてステップS202においてコントローラ6は、推定間隔テーブルによって冷却水温度に応じた推定間隔を設定する。これと共にコントローラ6は、ステップS210で算出した出力電流の振幅を、暖機運転時の出力電流値に加算し、その値を上限電流として設定する。
これにより、電流制御テーブル69bによって冷却水温度が大きくなるほど、IV推定時の振幅が大きくなるので、上限電流を大きくすることができる。
次にIV推定処理による燃料電池システム100の状態について図面を参照して説明する。
図12は、第2実施形態におけるIV推定によるSOC制御の制御手法を示すタイミングチャートである。
図12(a)から図12(f)までの各図面の縦軸及び横軸は、図3(a)から図3(f)までの各図面と同じものである。
時刻t20では、図12(c)に示すように、バッテリ55のSOCが切替閾値よりも低いため、IV推定による暖機充電制御が行われる。
時刻t20から時刻t21までの間は、冷却水温度が上昇するにつれて、図12(a)に示すように、IV推定の推定間隔が短くなると共に燃料電池スタック1から取り出される出力電流の上限値(上限電流)が大きくなる。これにより、低温時にIV推定の実施に伴い燃料電池スタック1の出力電圧が極端に低下することを防止しつつ、燃料電池スタック1が回復するにつれて燃料電池スタック1の発熱量を大きくして暖機を促進することができる。
時刻21では、図12(c)に示すように、バッテリ55のSOCが切替閾値を超えるため、コントローラ6によってIV推定処理の電流制御がIV推定による暖機充電制御からIV推定によるSOC制御に切り替えられる。
IV推定によるSOC制御において、IV推定が実施されるたびに、図7で示したステップS303の処理によって下限電流が所定のステップ幅で下げられる。これにより、図12(b)に示すように、バッテリ55への放電を大きくして、SOCの上昇率を抑制することができる。
このように、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、上限電流を大きくすると共に推定間隔を短くすることにより起動時間を短縮し、一方で、下限電流を低くすることにより、上限電流の上昇と推定間隔の短縮に伴うバッテリ55へ充電電力の増加を抑制する。これにより、低温起動時における起動時間の短縮と、バッテリ55の過充電の防止とを両立できる。
本発明の第2実施形態によれば、コントローラ6は、燃料電池スタック1の暖機が進むほど、電流制御テーブル69bによって燃料電池スタック1からバッテリ55へ放電される出力電流の上限値を大きくする。
これにより、低温時にIV推定によって燃料電池スタック1の出力電圧が極端に低下するのを防止しつつ、燃料電池スタック1のIV特性の回復に合わせて発電量を大きくして暖機を促進することができる。
また、コントローラ6は、IV推定の推定間隔を短くするほど、燃料電池スタック1の出力電流の下限値を、暖機運転時に燃料電池スタック1から補機類57に出力される電流値よりも小さくしてもよい。この場合、コントローラ6は、燃料電池スタック1の発電電力が補機類57の消費電力よりも少ないと判断したときには、DC/DCコンバータ56のバッテリ55側の電圧を、燃料電池スタック1側の電圧よりも高くする。これにより、バッテリ55から補機類57に不足分の電力が供給される。
このように、IV推定の推定間隔を短くすることで暖機が促進される共に、IV推定時の出力電流の下限値を下げることにより、推定期間の短縮に伴うバッテリ55への充電電力量の増加を抑制することができる。したがって、バッテリ55の過充電の発生を抑制しつつ、起動時間を短縮することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、燃料電池スタック1の温度が上昇するほど、IV推定時の出力電流を振幅させる振幅期間を短くするようにしてもよい。燃料電池スタック1のIV特性が回復してくるにつれて、出力電流の変動による燃料電池スタック1の電圧の極端な低下は起こりにくくなる。このため、冷却水温度が高くなるほど、IV推定時の出力電流の上昇率と低下率を大きくすることで、起動時間を短くすることができる。
本実施形態では、暖機運転時に燃料電池スタック1の発電電力を補機消費電力と同じ値に設定しているが、発電電力を補機消費電力よりも低く設定しても、本発明の効果が得られる。