以下に、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成を示す図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1に対して外部からカソードガス及びアノードガスを供給すると共に駆動モータ53及び補機類57などの負荷に応じて燃料電池スタック1を発電させる電源システムである。
燃料電池システム100は、アノードデッドエンド型の燃料電池システムであり、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、電力系5と、コントローラ6と、を備える。
燃料電池スタック1は、数百枚の燃料電池(いわゆる電池セル)を積層した積層電池である。燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて発電する。燃料電池スタック1には、電力を取り出すための端子として、アノード電極側出力端子11と、カソード電極側出力端子12とが設けられている。
燃料電池は、アノード電極(燃料極)と、カソード電極(酸化剤極)と、アノード電極及びカソード電力で挟まれる電解質膜と、により構成される。燃料電池は、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)と、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)とを用いて電解質膜で電気化学反応を起こす。アノード電極及びカソード電極の両電極では、以下の電気化学反応が進行する。
アノード電極 : 2H2 → 4H+ + 4e- ・・・(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- + O2 → 2H2O ・・・(2)
燃料電池では、上記(1)及び(2)の電気化学反応によって起電力が生じるとともに水が生成される。燃料電池スタック1に積層された燃料電池のそれぞれは互いに直列に接続されているため、各燃料電池に生じるセル電圧の総和が燃料電池スタック1の出力電圧(例えば数百ボルト)となる。
燃料電池スタック1には、カソードガス給排装置2によってカソードガスが供給され、アノードガス給排装置3によってアノードガスが供給される。
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する装置である。カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、フィルタ22と、カソードコンプレッサ23と、カソード圧力センサ24と、カソードガス排出通路25と、カソード調圧弁26とを備える。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端がフィルタ22に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
フィルタ22は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
カソードコンプレッサ23は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ23は、フィルタ22を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、その空気を燃料電池スタック1に供給する。
カソード圧力センサ24は、カソードコンプレッサ23よりも下流のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。カソード圧力センサ24で検出された検出圧力は、コントローラ6に出力される。
カソードガス排出通路25は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路25の一端が、燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端が開口端となっている。
カソード調圧弁26は、カソードガス排出通路25に設けられる。カソード調圧弁26は、コントローラ6によって開閉制御されて、カソードコンプレッサ23から燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
なお、図1では図示しないが、燃料電池スタック1の加湿のためにカソードガス供給通路21に加湿装置を設けてもよい。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路25に排出する装置である。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノード圧力センサ34と、アノードガス排出通路35と、バッファタンク36と、パージ弁37と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31からアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端が、高圧タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御されて、高圧タンク31からアノードガス供給通路32に流れ出したアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノード圧力センサ34は、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ34は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。アノード圧力センサ34で検出された検出圧力は、コントローラ6に出力される。
アノードガス排出通路35は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路35の一端が、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガス排出通路25に接続される。
バッファタンク36は、アノードガス排出通路35に設けられる。バッファタンク36は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを溜める容積部である。バッファタンク36によって、燃料電池スタック1の発電領域よりも下流に不純物ガスを排出することができる。そのため、燃料電池スタック1の発電領域における不純物ガスの濃度上昇を抑制することができる。
なお、燃料電池スタック1の発電領域とは、電池セルを構成する電解質膜が、アノードガス流路とカソードガス流路とで挟まれた領域のことである。またバッファタンク36を設ける代わりに、燃料電池スタック1に積層された各電池セルのアノードガス流路が合流する部分に容積部を設けてアノードオフガスを蓄積するようにしてもよい。
パージ弁37は、アノードガス排出通路35に設けられる。パージ弁37は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路35からカソードガス排出通路25に排出させるアノードオフガスの流量を制御する。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1を冷却し、燃料電池スタック1を発電に適した温度に保つ装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、ラジエータ42と、バイパス通路43と、三方弁44と、循環ポンプ45と、PTCヒータ46と、第1水温センサ47と、第2水温センサ48とを備える。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水が循環する通路である。
ラジエータ42は、冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ42は、燃料電池スタック1から排出された冷却水を冷却する。
バイパス通路43は、ラジエータ42をバイパスさせて、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる。バイパス通路43の一端は、冷却水循環通路41に接続され、他端が三方弁44に接続される。
三方弁44は、ラジエータ42よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられる。三方弁44は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。
循環ポンプ45は、三方弁44よりも下流側の冷却水循環通路41に設けられて、冷却水を循環させる。
PTCヒータ46は、バイパス通路43に設けられる。PTCヒータ46は、燃料電池スタック1の暖機時に通電されて、冷却水の温度を上昇させる。
第1水温センサ47は、ラジエータ42よりも上流側の冷却水循環通路41に設けられる。第1水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度(以下「スタック出口水温」という。)を検出する。
第2水温センサ48は、循環ポンプ45と燃料電池スタック1との間の冷却水循環通路41に設けられる。第2水温センサ48は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度(以下「スタック入口水温」という。)を検出する。
電力系5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、駆動モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、補機類57とを備える。
電流センサ51は、燃料電池スタック1から取り出される電流(以下「出力電流」という。)を検出する。電流センサ51で検出された出力電流は、コントローラ6に供給される。
電圧センサ52は、アノード電極側出力端子11の電位とカソード電極側出力端子12の電位との電位差(以下「出力電圧」という。)を検出する。電圧センサ52で検出された出力電圧は、コントローラ6に出力される。
駆動モータ53は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた三相交流同期モータである。駆動モータ53は、燃料電池スタック1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、車両の減速時にロータが外力によって回転させられることでステータコイルの両端に起電力を発生させる発電機としての機能と、を有する。
インバータ54は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によって開閉制御され、これにより直流電力が交流電力に、または、交流電力が直流電力に変換される。
インバータ54は、駆動モータ53を電動機として機能させるときは、燃料電池スタック1の発電電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換して駆動モータ53に供給する。一方で、駆動モータ53を発電機として機能させるときは、駆動モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換してバッテリ55へ供給する。
バッテリ55は、駆動モータ53の回生電力又は燃料電池スタック1の発電電力を充電する。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じて補機類57及び駆動モータ53に供給される。
DC/DCコンバータ56は、燃料電池スタック1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換器である。DC/DCコンバータ56の一方の電圧端子が、燃料電池スタック1に接続され、他方の電圧端子がバッテリ55に接続される。
DC/DCコンバータ56は、バッテリ55の電力によって燃料電池スタック1側の電圧端子に生じる電圧を昇圧又は降圧する。DC/DCコンバータ56によって燃料電池スタック1の出力電圧が調整され、燃料電池スタック1の出力電流、ひいては発電電力(出力電流×出力電圧)が制御される。
補機類57は、DC/DCコンバータ56とバッテリ55との間に並列に接続される。補機類57は、カソードコンプレッサ23、循環ポンプ45、PTCヒータ46などによって構成され、バッテリ55又は燃料電池スタック1から電力が供給されて駆動する。
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ6には、前述した第1水温センサ47、第2水温センサ48、電流センサ51及び電圧センサ52からの信号が入力される。その他にも、燃料電池システム100を制御するために必要な各種センサからの信号がコントローラ6には入力される。
他のセンサとしては、始動キーのオン・オフに基づいて燃料電池システム100の始動要求及び停止要求を検出するキーセンサ61、やアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ62などがある。
コントローラ6は、キーセンサ61から始動要求を受けると、燃料電池システム100が起動されたと判断し、燃料電池スタック1を発電に適した発電温度まで暖機する暖機制御(以下「暖機促進運転」という)を実行する。
暖機促進運転では、コントローラ6は、DC/DCコンバータ56を制御して燃料電池スタック1から補機類57へ電力を供給させることで、補機類57の駆動に必要な電力を燃料電池スタック1で発電させる。これにより、燃料電池スタック1の発電に伴う自己発熱によって燃料電池スタック1自体が暖機される。
さらに暖機促進運転中は、コントローラ6は、循環ポンプ45の回転速度を可変範囲の上限値に設定すると共に、PTCヒータ46の出力、すなわち発熱量を可変範囲の上限値に設定する。
これにより、PTCヒータ46で暖められた冷却水によっても燃料電池スタック1が暖機される。これに加えて循環ポンプ45及びPTCヒータ46で消費される電力が増加して燃料電池スタック1の発電電力が増加するため、燃料電池スタック1の自己発熱量も増加するので、燃料電池スタック1の暖機がより促進される。
このように暖機促進運転が実施されることによって、燃料電池システム100を起動してから燃料電池スタック1の暖機が完了するまでの暖機時間を短縮することができる。
また、コントローラ6は、燃料電池スタック1が起動されると、燃料電池スタック1の電流電圧(IV)特性を推定する演算処理(以下「IV推定」という。)を実行する。ここで、IV推定について図2を参照して簡単に説明する。
図2は、燃料電池スタック1のIV特性と、燃料電池スタック1の温度との関係を示す図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1の温度が低くなると、燃料電池スタック1のIV特性は、通常運転時のIV特性に基づいて規定される基準IV特性よりも悪くなり、燃料電池スタック1の発電電力も低下する。
図2の破線で示したIV特性では、駆動モータ53及びインバータ54が動作できる電圧範囲内に燃料電池スタック1の出力電圧を設定した状態で燃料電池スタック1から最小駆動電力を取り出すときの出力電流が電流Aであり、このときの出力電圧が電圧V1である。最小駆動電力とは、駆動モータ53によって車両を駆動させることが可能な電力の下限値である。
この場合には、燃料電池スタック1から駆動モータ53に最小駆動電力を供給することができるので、コントローラ6は、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を可能にするため、車両の走行を許可する。
一方、図2の一点鎖線で示したIV特性では、燃料電池スタック1から出力電流Aを取り出すときの出力電圧は電圧V2となる。このIV特性では、駆動モータ53及びインバータ54が動作できる電圧値に燃料電池スタック1の出力電圧が設定されると、燃料電池スタック1の出力電流が小さくなるので、燃料電池スタック1から取り出される発電電力は、駆動モータ53の最小駆動電力よりも小さくなる。
この場合には、燃料電池スタック1から駆動モータ53に最小駆動電力を供給することができないため、コントローラ6は、燃料電池スタック1から駆動モータ53への電力供給を禁止し、車両の走行を禁止する。
車両の走行を素早く許可するには、暖機によって駆動モータ53及びインバータ54が動作できる電圧範囲内に燃料電池スタック1の出力電圧を設定した状態で燃料電池スタック1の発電電力が、最小駆動電力以上となったことを正確に判定する必要がある。
ここで燃料電池スタック1のIV特性を推定する推定手法について簡単に説明する。
出力電流Iと、基準IV特性によって特定される基準電圧から実際の出力電圧(検出値)を減算した差分ΔVと、の関係は、濃度過電圧の影響が小さい条件において、式(1)に示すように一次関数で近似することができる。
ΔV=aI+b ・・・(1)
コントローラ6は、燃料電池スタック1の出力電流を所定の振幅で変化させる電流制御を実行し、出力電流を変化させている間に電流センサ51及び電圧センサ52を用いて燃料電池スタック1の出力電流、及び出力電圧を複数計測する。コントローラ6は、これらの出力電流、及び出力電圧から、式(1)のa及びbを算出する。
式(1)のa及びbが算出されると、燃料電池スタック1から駆動モータ53に最小駆動電力を供給できる出力電流Aに対応する出力電圧が算出され、その出力電圧が、電圧V1以上であれば、燃料電池スタック1が最小駆動電力を駆動モータ53に供給可能であることが推定できる。
コントローラ6は、IV推定を開始してから、燃料電池スタック1が駆動モータ53に最小駆動電力を供給可能になるまで、所定の周期(例えば5秒間隔)でIV推定を繰り返し実行する。
次にコントローラ6の機能構成について説明する。
図3は、コントローラ6を構成する制御部200の一例を示す機能ブロック図である。
制御部200は、燃料電池システム100に設けられた各種センサからの入力信号と、燃料電池システム100に設けられた各制御部品等に対する指令値とに基づいて、燃料電池スタック1を発電させる。
制御部200は、カソードコンプレッサ23、カソード調圧弁26、アノード調圧弁33、及びパージ弁37を制御して、発電に適した流量のアノードガス及びカソードガスを燃料電池スタック1に供給する。制御部200は、走行許可後にDC/DCコンバータ56を制御して補機類57に加えてインバータ54にも燃料電池スタック1で発電した発電電力を供給する。
また制御部200は、図1で述べた暖機促進運転を実施する。具体的には、制御部200は、燃料電池システム100が起動されると、燃料電池スタック1の温度が、所定の暖機閾値(例えば50℃)よりも低いか否かを判断する。なお、燃料電池スタック1の温度としては、例えば、スタック入口水温の値、又は、スタック入口水温及びスタック出口水温を平均した値が用いられる。
燃料電池スタック1の温度が、暖機閾値よりも低いと判断された場合には、制御部200は、暖機促進運転を開始し、補機類57で消費可能な電力を増やして燃料電池スタック1から暖機に必要な所定の電流(以下「暖機要求電流」という。)を取り出す。例えば、制御部200は、補機類57のうちカソードコンプレッサ23、循環ポンプ45及びPTCヒータ46の各消費電力を可変範囲の上限値に設定する。
暖機促進運転によって燃料電池スタック1の温度が暖機閾値まで上昇した場合には、制御部200は、燃料電池スタック1の暖機が完了したと判断し、暖機促進運転を終了する。そして駆動モータ53の要求電力に応じて燃料電池スタック1に供給されるアノードガス、及びカソードガスの流量を制御する通常運転が実施される。
例えば、制御部200は、補機類57及び駆動モータ53から要求される要求電力に基づいて、燃料電池スタック1から取り出す電流の目標値(以下「目標電流」という。)を算出する。なお、アクセルストロークセンサ62で検出された踏み込み量が大きくなるほど、目標電流は大きくなる。
制御部200は、目標電流を算出すると、その目標電流に基づいて燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力の目標値(以下「目標圧力」という。)を算出する。具体的には制御部200は、目標電流が大きくなるほど、アノードガスの目標圧力を高くする。これと共に制御部200は、目標電流に基づいて燃料電池スタック1に供給されるカソードガス圧力の目標値、及びカソードガス流量の目標値を算出する。
また制御部200は、目標電流を算出すると、燃料電池スタック1のIV特性を参照し、目標電流に対応する電圧値を目標電圧として算出する。そして制御部200は、DC/DCコンバータ56における燃料電池スタック1側の電圧端子を目標電圧に調整する。これにより、燃料電池スタック1から目標電流と同等の出力電流が出力される。
制御部200は、電流変化操作部210と、IV推定部220と、IV特性判定部230と、基準特性保持部231と、切替制御部240と、電流変化率保持部241と、を備える。
電流変化操作部210は、燃料電池スタック1が起動されると、燃料電池スタック1のIV特性を推定するために燃料電池スタック1の出力電流を振幅させる。
例えば暖機促進運転が実施されている状況では、電流変化操作部210は、暖機要求電流の設定値から目標電流を、所定の電流変化率でIV特性を推定するための所定の上限値まで大きくする。そして電流変化操作部210は、燃料電池スタック1のIV特性に従ってDC/DCコンバータ56の燃料電池スタック1側の電圧を低下させることにより、燃料電池スタック1の出力電流を所定の電流変化率で上昇させる。
なお、上昇時の電流変化率は、単位時間あたりの電流の上昇幅である。上昇時の電流変化率が大きいほど、燃料電池スタック1の出力電流が上限値まで早く到達する。また出力電流の上昇に応じてカソード調圧弁26及びアノード調圧弁33の開度が制御され、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス及びカソードガスの流量が増加する。
燃料電池スタック1の出力電流が上限値に達すると、電流変化操作部210は、目標電流を上限値から暖機要求電流の設定値まで、特定の電流変化率で小さくする。目標電流の低下に伴い電流変化操作部210は、DC/DCコンバータ56の燃料電池スタック1側の電圧を上昇させることにより、燃料電池スタック1の出力電流を特定の電流変化率で暖機要求電流まで低下させる。
なお、低下時の電流変化率は、単位時間あたりの電流の低下幅である。低下時の電流変化率が大きいほど、燃料電池スタック1の出力電流が上昇前の電流値に早く到達する。出力電流の低下時に燃料電池スタック1に供給されるアノードガス及びカソードガスの流量は減少する。
電流変化操作部210は、IV推定部220によって車両の走行が許可されるまで、所定周期で燃料電池スタック1の出力電流を振幅させる。
IV推定部220は、電流変化操作部210によって燃料電池スタック1の出力電流を低下させる電流低下期間に電流センサ51及び電圧センサ52から燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を共に所定のサンプリング周期で取得する。
IV推定部220は、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いて、図2で述べた式(1)を用いて近似される近似直線を演算する。これにより、燃料電池スタック1のIV特性を推定できる。
ここで、燃料電池スタック1の電流低期間に取得した電圧値及び電流値を用いて、燃料電池スタック1のIV特性を推定する理由について簡単に説明する。
図4は、燃料電池スタック1のIV特性を推定する推定精度に関する図である。
図4(A)は、図2で述べた式(1)によって推定した燃料電池スタック1のIV特性を示す図である。図4(A)の縦軸は、燃料電池スタック1の出力電圧Vを示し、横軸は、燃料電池スタック1の出力電流を示す。
図4(A)には、燃料電池スタック1の出力電流が低下しているときの電流値及び電圧値を用いて推定されたIV特性が、実線により示され、燃料電池スタック1の出力電流が上昇しているときの電流値及び電圧値を用いて推定されたIV特性が、破線により示されている。また図4(A)には、式(1)の演算に用いられる基準IV特性が点線により示されている。
図4(B)は、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いて求められた式(1)の近似直線を示す図である。図4(B)の縦軸が、出力電流の測定値に対して基準IV特性の電圧値から燃料電池スタック1の出力電圧を減算した電圧差ΔVを示し、横軸が、燃料電池スタック1の出力電流Iを示す。
図4(B)には、燃料電池スタック1の出力電流が低下しているときの電流値及び電圧値を用いて近似した近似直線が、実線により示され、燃料電池スタック1の出力電流が上昇しているときの電流値及び電圧値を用いて近似した近似直線が、破線により示されている。
さらに図4(B)には、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の測定を開始した時の特性と、燃料電池スタック1の測定を終了した時の特性とが共に点線により示されている。なお、上限電流Icは、電流変化操作部210によって出力電流を上昇させたときの最大値であり、燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧の測定可能範囲の上限値である。上限電流Icよりも上の電流範囲が、式(1)によって推定されるIV推定範囲である。
図4(B)の点線で示すように、燃料電池スタック1の測定を開始してから終了するまでの間に、暖機促進運転によって燃料電池スタック1のIV特性は回復する。
そのため、図4(B)の破線で示すように、燃料電池スタック1の出力電流を上昇させている間に燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する場合は、出力電流が上昇するにつれて、IV特性が回復して出力電圧が高くなるため、電圧差ΔVが小さくなる。
このため、式(1)の近似直線の傾きは、図4(B)の点線で示した測定終了時の実際の傾きに比べて小さくなる。その結果、燃料電池スタック1のIV特性は、実際のIV特性よりも良好な特性であると過大評価されてしまう。
一方、図4(B)の実線で示すように、燃料電池スタック1の出力電流を低下させている間に燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する場合は、出力電流が低下するにつれて、電圧差ΔVが小さくなる。
このため、式(1)の近似直線の傾きは、図4(B)の点線で示した測定終了時の実際の傾きに比べて大きくなる。したがって、燃料電池スタック1のIV特性は、実際のIV特性よりも悪目に推定されるので、燃料電池スタック1のIV特性が回復していない状況で走行許可が出されて燃料電池スタック1から過剰な電流が取り出されることを回避できる。
そのためIV推定を実行する場合には、一般的に、出力電流の低下時に燃料電池スタック1の電圧値及び電流値を取得し、これらの電流値及び電圧値を用いて燃料電池スタック1のIV特性を推定する。
しかしながら、燃料電池システム100では、IV推定に伴い燃料電池スタック1の出力電流を低下させるときにアノード調圧弁33から燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力を低下させる圧力制御が実行される。そのため、燃料電池スタック1内のアノードガス圧力が一時的にバッファタンク36の内圧よりも低くなり、バッファタンク36に蓄積された不純物が、燃料電池スタック1へ逆流する。その結果、燃料電池スタック1の発電領域における不純物の濃度が上昇して燃料電池スタック1の発電効率が低下する場合がある。
図5は、一般的な燃料電池システムにおいてIV推定時に燃料電池スタック1の発電効率が低下することを示す図である。なお、図5では、燃料電池スタック1内に形成されたアノードガス流路の下流側に滞留する生成水及び窒素ガスをバッファタンク36に押し出すために、アノード調圧弁33の開度を制御して、アノードガス圧力を脈動させる脈動運転が実施されている。
図5(A)は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力を示す図である。図5(A)には、脈動運転によるアノードガスの脈動圧力が実線により示され、アノードガスの脈動上限圧力、及び脈動下限圧力がそれぞれ破線により示されている。
図5(B)は、燃料電池スタック1から取り出される出力電流を示す図である。図5(C)は、燃料電池スタック1の出力電圧を示す図である。図5(A)から図5(C)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、暖機促進運転が実施されており、DC/DCコンバータ56の電圧制御によって燃料電池スタック1から補機類57のみに電流が供給されている。また、アノードガス圧力の脈動運転によって燃料電池スタック1に滞留する不純物が押し出されてバッファタンク36へ蓄積される。
時刻t51から時刻t53までのIV推定期間では、電流変化操作部210による電流制御が実行される。
時刻t51では、図5(B)に示すように、電流変化操作部210によって燃料電池スタック1の出力電流が、暖機要求電流から緩やかに所定の電流変化率で上昇する。燃料電池スタック1から急激に電流を取り出すと燃料電池スタック1のIV特性が極端に悪くなる場合があるため、上昇時の電流変化率は、燃料電池スタック1の極端な電圧低下を回避できる所定の値に設定される。
なお、燃料電池スタック1の出力電流が上昇した分は、DC/DCコンバータ56を介してバッテリ55へ供給される。また暖機要求電流とは、暖機促進運転時に燃料電池スタック1から取り出される電流値のことである。
時刻t51から時刻t52までの電流上昇期間Tuでは、燃料電池スタック1の出力電流の上昇に伴い、図5(A)に示すように、アノードガスの圧力制御によって脈動幅を一定にしながら、脈動下限圧力、及び脈動上限圧力が共に上昇する。また、燃料電池スタック1の出力電圧は、図5(C)に示すように、燃料電池スタック1のIV特性に従って低下する。
時刻t52では、燃料電池スタック1の出力電流は、電流変化操作部210によって設定された上限値に到達するため、図5(B)に示すように、燃料電池スタック1の出力電流は暖機要求電流まで下げられる。なお、出力電流の上限値は、バッテリ55に供給可能な電流量などによって設定されている。
燃料電池スタック1の出力電流を低下させるときは、IV推定部220は、電流センサ51及び電圧センサ52から、所定のサンプリング周期で検出される燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧を順次取得する。
燃料電池スタック1の出力電流の低下に伴い、図5(A)に示すように、脈動下限圧力、及び脈動上限圧力は、共に下げられる。この場合には、アノードガス供給流量が、燃料電池スタック1で消費されるアノードガス消費量よりも少なくなるようにアノード調圧弁33の開度が調整される。
このため、時刻t52から時刻t53までの電流低下期間Tdでは、アノードガスの脈動圧力を低下させている間に脈動下限圧力が低下する。その結果、アノードガスの脈動圧力が、所定の脈動幅よりも大きく低下することになる。
アノードガスの脈動圧力の低下幅が拡大すると、燃料電池スタック1内のアノードガス圧力がバッファタンク36内の圧力よりも一時的に低くなるため、バッファタンク36に蓄積された不純物が燃料電池スタック1へ逆流する。その結果、出力電流及び出力電圧の取得期間中に燃料電池スタック1内の不純物濃度が上昇し、燃料電池スタック1の発電効率も一時的に低下する。
そのため、図5(C)に示すように、破線で示された本来の電圧値よりも燃料電池スタック1の出力電圧が低くなる。この状況において電圧センサ52で検出される出力電圧と、電流センサ51で検出される出力電流とに基づいて燃料電池スタック1のIV特性が推定されるため、燃料電池スタック1のIV特性の推定精度が悪くなる。
このように燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間において、燃料電池スタック1の出力電圧が本来の電圧値よりも低下するため、燃料電池スタック1のIV特性を推定する精度が悪くなってしまう。
この対策として、燃料電池スタック1の出力電流が上昇するときに燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得してIV特性を推定させることも考えられる。しかしながら、図5(B)に示したように出力電流をゆっくり上昇させる必要があるため、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間中に燃料電池のIV特性が変わってしまい、図4で述べた通り、IV特性の推定精度が悪くなる。
仮に燃料電池スタック1の出力電流を早く上昇させると、IV特性の推定精度は確保されるものの、IV特性が悪い燃料電池スタック1から急激に電流をとり出すと、IV特性が著しく低下して燃料電池システム100が緊急停止する恐れがある。
そこで本実施形態の制御部200には、図3に示したように、IV特性判定部230、基準特性保持部231、切替制御部240、及び電流変化率保持部241が備えられている。
基準特性保持部231は、電流変化操作部210に設定される電流変化率を切り替えるための基準特性を保持する。基準特性は、電流上昇時に出力電流を早く上昇させることが可能な所定のIV特性である。例えば、基準特性は、図4に示した基準IV特性を超えない範囲で設定される。
基準特性保持部231には、基準特性として例えば、図2で述べた式(1)の定数a及びbが記憶される。あるいは、基準特性を示すマップを記憶するようにしてもよい。
IV特性判定部230は、IV推定部220によって推定されたIV特性が、基準特性よりも良いかを判定する。
例えば、IV特性判定部230は、IV推定部220で算出された式(1)のa及びbを用いて近似直線を演算し、所定の電流範囲においてその近似直線上の電圧差ΔVが、基準特性により設定された基準値よりも小さい場合には、IV特性が良いと判定する。
一方、IV特性判定部230は、IV推定部220で算出された近似直線上の電圧差ΔVが、基準特性により設定される基準値よりも大きい場合には、IV特性が悪いと判定する。
IV特性判定部230は、燃料電池スタック1のIV特性が良いと判定された場合には、IV特性が良好である旨を示すH(High)レベルの判定信号を切替制御部240に出力する。また燃料電池スタック1のIV特性が悪いと判定された場合には、IV特性判定部230は、IV特性が良好でない旨を示すL(Low)レベルの判定信号を切替制御部240に出力する。
電流変化率保持部241は、IV推定を開始するときの上昇時の電流変化率Cu1、及び低下時の電流変化率Cd1を保持する。さらに電流変化率保持部241は、燃料電池スタック1のIV特性が良好であるときの上昇時の電流変化率Cu2、及び低下時の電流変化率Cd2を保持する。
IV推定を開始するときの上昇時の電流変化率Cu1は、燃料電池スタック1のIV特性が極端に低下することを回避できる所定の値に設定される。
IV推定を開始するときの低下時の電流変化率Cd1は、IV特性の推定精度が確保できる特定の値に設定される。すなわち、電流変化率Cd1は、IV推定を開始するときの上昇時の電流変化率よりも大きな値に設定される。
IV特性が良好であるときの上昇時の電流変化率Cu2は、本実施形態ではIV推定を開始するときの低下時の電流変化率Cd1よりも大きな値に設定される。
IV特性が良好であるときの低下時の電流変化率Cd2は、IV特性が良好であるときの上昇時の電流変化率Cu2よりも大きな値に設定される。
電流変化率保持部241に保持された定数Cu1、Cd1、Cu2及びCd2は、それぞれ切替制御部240に入力される。
切替制御部240は、電流変化操作部210で設定された上昇時の電流変化率ΔIu、及び低下時の電流変化率ΔIdを変更すると共に、IV推定部220によって燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間を切り替える。
切替制御部240は、燃料電池システム100が起動されてIV推定が実施される場合には、上昇時の電流変化率ΔIuを定数Cu1に設定し、低下時の電流変化率ΔIdを定数Cd1に設定する。そして切替制御部240は、IV推定部220による電流値及び電圧値の取得期間を、IV推定期間内の電流低下期間Tdに設定する。
切替制御部240は、IV特性判定部230からIV特性が良好である旨を示すHレベルの判定信号を受けた場合には、上昇時の電流変化率ΔIuを定数Cu2に変更し、低下時の電流変化率ΔIdを定数Cd2に変更する。そして切替制御部240は、IV推定部220による電流値及び電圧値の取得期間を、IV推定期間内の電流上昇期間Tuに切り替える。
すなわち、切替制御部240は、IV特性判定部230によって燃料電池スタック1のIV特性が基準特性を超えると判定された場合には、上昇時の電流変化率ΔIuを定数Cd1よりも上昇させることにより、電流上昇期間を短縮する。切替制御部240は、その短縮した電流上昇期間に燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得させてIV特性を推定させる。
これにより、燃料電池スタック1を早く上昇させることに伴う燃料電池システム100の異常停止を回避しつつ、電流上昇期間の電流値及び電圧値によって推定されるIV特性の推定精度の低下を抑制することができる。
次に燃料電池システム100の動作の一例について説明する。
図6は、制御部200による燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間を切り替える切替方法を示すフローチャートである。
まず、制御部200は、キーセンサ61から始動要求を受けると、燃料電池システム100を起動する起動処理を開始する。
燃料電池システム100の起動処理が開始された場合には、ステップS901において制御部200は、第2水温センサ48からスタック入口水温Tsを取得する。
ステップS902において制御部200は、スタック入口水温Tsが、暖機閾値(50℃)よりも低いか否かを判断する。
ステップS903において制御部200は、スタック入口水温Tsが50℃よりも低いと判断された場合には、暖機促進運転を実施する。暖機促進運転時に制御部200は、補機類57のうちカソードコンプレッサ23及びPTCヒータ46のそれぞれに供給する電力を可変範囲の上限値まで上昇させる。
また、ステップS904において制御部200の電流変化操作部210及びIV推定部220は、所定周期(例えば5秒間隔)で燃料電池スタック1のIV特性を推定するIV推定処理を開始する。なお、ステップS902でスタック入口水温Tsが50℃以上である場合には、暖機促進運転を実施せずにIV推定を開始する。
ステップS905において制御部200の切替制御部240は、電流変化操作部210で出力電流を上昇させる上昇時の電流変化率ΔIuを、電流変化率保持部241に保持された定数Cu1に設定する。
そしてステップS906において切替制御部240は、電流変化操作部210で出力電流を低下させる低下時の電流変化率ΔIdを、電流変化率保持部241に保持された定数Cd1に設定する。
また、切替制御部240は、IV推定部220によって燃料電池スタック1の出力電流及び出力電圧を取得する取得期間を、IV推定期間のうち出力電流が低下する電流低下期間Tdに設定する。
その後ステップS907において、IV推定部220は、電流低下期間Tdに電流センサ51及び電圧センサ52から、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を所定のサンプリング周期で順次取得する。IV推定部220は、その電流低下期間Tdに取得した電流値及び電圧値を用いて、現在の燃料電池スタック1のIV特性を推定する。
次にステップS908において制御部200のIV特性判定部230は、IV推定部220で推定されたIV特性が所定の基準特性よりも大きいか否か、すなわちIV特性が基準特性よりも良いか否かを判断する。
例えば、IV特性判定部230は、図2で述べた式(1)を用いて、IV推定部220で算出された定数a及びbに基づいて近似直線を演算する。そしてIV特性判定部230は、燃料電池スタック1から取り出される所定の電流範囲の電流値Iごとに、近似直線上の電圧差ΔVが、基準特性保持部231に保持されたa及びbに基づく直線上の基準値よりも小さいか否かを判断する。
IV特性判定部230は、所定の電流範囲において近似直線上の電圧差ΔVが基準値よりも小さい場合には、現在のIV特性は基準特性を超えていると判定する。一方、IV特性判定部230は、所定の電流範囲において近似直線上の電圧差ΔVが基準値以上である場合には、現在のIV特性は基準特性を超えていないと判定する。
現在のIV特性が基準特性を超えていないと判定された場合には、ステップS905に戻り、燃料電池スタック1のIV特性が基準特性を超えていると判定されるまで、ステップS905からステップS908までの一連の処理を繰り返す。
一方、IV特性が基準特性を超えていると判定された場合には、ステップS909においてIV推定部220は、図2で述べたとおり、IV特性の推定結果を参照し、燃料電池スタック1が駆動モータ53に最小駆動電力を供給できるか否かを判断する。
そしてIV推定部220は、燃料電池スタック1が駆動モータ53に最小駆動電力を供給できると判断した場合には、車両の走行を許可し、IV推定の終了を切替制御部240に指示して切替方法を終了する。
一方、IV推定部220は、燃料電池スタック1が駆動モータ53に最小駆動電力を供給でないと判断した場合には車両の走行を禁止する。この場合には、IV特性判定部230は、IV推定を継続するために、燃料電池スタック1のIV特性が良好である旨を示すHレベルの判定信号を切替制御部240に供給する。
ステップS910において切替制御部240は、IV特性が良好である旨を示すHレベルの判定信号を受けた場合には、電流変化率保持部241から、定数Cd1よりも大きな定数Cu2を取得し、上昇時の電流変化率ΔIuを定数Cu2に変更する。これにより、電流変化操作部210によって電流変化率Cu1で出力電流を上昇させる場合に比べて電流上昇期間を短縮することができる。
ステップS911において切替制御部240は、電流変化率保持部241から、定数Cu2よりも大きな定数Cd2を取得し、低下時の電流変化率ΔIdを定数Cd2に変更する。これにより、電流変化操作部210によって電流変化率Cd1で出力電流を低下させる場合に比べて電流上昇期間Tuを短縮することができる。
さらに切替制御部240は、IV推定部220によって燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間を、電流低下期間Tdから電流上昇期間Tuに切り替える。切替後の電流上昇期間Tuは、切替前の電流低下期間Tdに比べて短いため、燃料電池スタック1のIV特性の推定精度を、切替前の推定精度と同程度に確保できる。
ステップS912において、IV推定部220は、電流上昇期間Tuに電流センサ51及び電圧センサ52から、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を所定のサンプリング周期で順次取得する。IV推定部220は、その電流上昇期間Tuに取得した電流値及び電圧値を用いて、現在の燃料電池スタック1のIV特性を推定する。これにより、図5で示したバッファタンク36に蓄積された不純物の逆流は電流上昇期間Tuには生じないので、IV特性の推定精度の低下を回避することができる。
このように、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間を電流低下期間Tdから電流上昇期間Tuに切り替えると共に、上昇時の電流変化率ΔIuを切替前の低下時の電流変化率Cd1よりも上昇させて電流上昇期間Tuを短縮する。これにより、IV特性の推定精度を確保しつつ、不純物の逆流による推定精度の低下を回避できる。
ステップS912で電流上昇期間Tu中に取得した燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いてIV特性を推定した後、ステップS908に戻り、車両の走行が許可されるまで、ステップS905からステップS912までの一連の処理を繰り返す。そして車両の走行が許可されると、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間の切替方法が終了する。
本発明の第1実施形態によれば、電流変化操作部210は、暖機促進運転中にDC/DCコンバータ56を制御して燃料電池スタック1の出力電流を所定の電流変化率Cu1でゆっくり上昇させた後、上昇時の電流変化率Cu1よりも早く出力電流を低下させる。出力電流が低下する電流低下期間TdにIV推定部220は、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得し、その取得した電流値及び電圧値に基づいて1回目のIV特性を推定する。
IV特性判定部230は、IV推定部220で推定されたIV特性が基準特性より良いか否かを判断する。これにより、燃料電池スタック1の出力電流を早く上昇させた場合であっても燃料電池スタック1の電圧低下によって燃料電池システム100が緊急停止しないことを予測することができる。
そしてIV特性が基準特性よりも良いと判定された場合には切替制御部240は、上昇時の電流変化率ΔIuを上昇させると共に、IV推定部220による燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間を電流上昇期間Tuに切り替える。これにより、電流上昇期間Tuが短くなるので燃料電池スタック1の回復による変化が小さいうちに、電流センサ51及び電圧センサ52から燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得できる。このため、IV特性の推定精度の低下を抑制することができる。
したがって、燃料電池スタック1の出力電流を上昇させることに伴う燃料電池システム100の異常を回避しつつ、燃料電池スタック1の電流上昇時の電流値及び電圧値を用いて推定されるIV特性の推定精度の低下を抑制することができる。
また本実施形態では、電流変化操作部210は、燃料電池スタック1の出力電流を所定の電流変化率Cu1で上昇させた後、所定の電流変化率Cu1よりも大きな特定の電流変化率Cd1で電流を低下させる。そして切替制御部240は、燃料電池スタック1のIV特性が基準特性を超えていると判定された場合には、上昇時の電流変化率ΔIuを特定の電流変化率Cd1よりも大きな値に変更する。
これにより、変更後の電流上昇期間Tuが、変更前の電流低下期間Tdよりも短くなるので、暖機促進運転によって回復する燃料電池スタック1のIV特性の変化量を小さくすることができる。したがって、変更後の電流上昇期間Tuに取得した燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いて推定されたIV特性の推定精度を向上させることができる。
また本実施形態では、IV特性が良好であるときの上昇時の電流変化率としては、予め定められた定数Cu2を用いる例について説明したが、IV推定部220によって推定されたIV特性に基づいて上昇時の電流変化率を変更してもよい。
例えば、IV推定部220によって推定されたIV特性が基準特性を超えていると判定された場合には、所定の電流値においてIV特性の電圧値と基準特性の電圧値との差分が大きくなるほど上昇時の電流変化率を定数Cu2よりも大きくする。
このようにIV特性の推定結果に応じて上昇時の電流変化率を段階的に大きくすることにより、燃料電池スタック1の出力電流をより早く上昇させることができるので、IV特性の推定精度が向上すると共に、IV推定期間を短縮することができる。
また本実施形態では、基準特性保持部231に保持される基準特性は、IV特性の推定精度を確保するための上昇時の電流変化率Cu2に基づいて設定される。これにより、IV特性が基準特性を超えている場合には、燃料電池スタック1の出力電流を電流変化率Cu2で上昇させた場合に、燃料電池システム100の異常を回避しつつ、IV特性の推定精度を確保することができる。
なお、本実施形態では燃料電池スタック1のIV特性が基準特性よりも悪いと判定された場合には、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間が、電流低下期間Tdに設定される。この場合には、図5に示したように、電流低下期間Tdにおいてバッファタンク36から不純物が逆流するため、IV特性の推定精度が低下してしまう。
そこで燃料電池スタック1のIV特性が基準特性よりも悪いと判定された場合にも、IV特性の推定精度の低下を抑制する実施態様について説明する。
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態におけるアノードガス制御部201の構成を示す図である。なお、本実施形態の燃料電池システムは、基本的に、図1及び図3に示した燃料電池システム100の構成と同じである。以下、燃料電池システム100と同じ構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
アノードガス制御部201は、図3に示した制御部200が有する機能のうち、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力を制御する機能を有する。アノードガス制御部201は、電流変化操作部210によって燃料電池スタック1の出力電流が低下するほど、アノード調圧弁33を制御して燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力を低下させる。
アノードガス制御部201は、脈動運転部250と逆流防止制限部260とを備える。
脈動運転部250は、脈動幅演算部251と、脈動上限圧力算出部252と、脈動波形演算部253とを備える。逆流防止制限部260は、逆流防止固定圧力保持部261と、目標圧力切替部262とを備える。
脈動運転部250は、発電に伴う生成水や窒素ガスなどの不純物を排出するのに必要な脈動幅に基づいてアノードガスの圧力を脈動させる脈動運転を実施する。脈動運転部250は、燃料電池スタック1の湿潤状態に応じて脈動幅を調整する。
燃料電池スタック1の湿潤状態は、燃料電池スタック1の内部抵抗(HFR:High Frequency Resistance)を測定することにより推定できる。例えば、燃料電池スタック1の内部抵抗が大きいほど、燃料電池スタック1の電解質膜が乾燥した状態であり、また燃料電池スタック1の内部抵抗が小さいほど、電解質膜が湿った状態であると推定できる。本実施形態では燃料電池スタック1の内部抵抗は、不図示の内部抵抗測定装置によって測定される。
内部抵抗測定装置は、アノード電極側出力端子11及びカソード電極側出力端子12の他に、燃料電池スタック1に設けられた中途端子にも接続される。中途端子からは、アノード電極側出力端子11の電位と、カソード電極側出力端子12の電位との中間の電位が出力される。
内部抵抗測定装置は、アノード電極側出力端子11及びカソード電極側出力端子12のそれぞれに高周波(例えば1kHz)の交流電流を供給する。そして内部抵抗測定装置は、アノード電極側出力端子11と中途端子との端子間に生じるアノード側の交流電圧を検出すると共に、カソード電極側出力端子12と中途端子との端子間に生じるカソード側の交流電圧を検出する。
内部抵抗測定装置は、アノード側の交流電圧とカソード側の交流電圧とが互いに等しくなるようにアノード電極側出力端子11及びカソード電極側出力端子12の交流電流の振幅を調整しつつ、交流電圧及び交流電流に基づいて内部抵抗値を算出する。
脈動幅演算部251は、燃料電池スタック1の目標電流に基づいて、発電に伴う生成水の排出に必要な脈動幅を演算する。脈動幅演算部251は、燃料電池スタック1の内部抵抗に応じて脈動幅を補正する。
脈動幅演算部251は、目標電流が大きくなるほど、発電に伴う生成水の量が多くなるため、脈動幅W1を大きくする。また、電解質膜の湿潤度が低下するほど、燃料電池スタック1の内部抵抗は大きくなる。そのため、脈動幅演算部251は、燃料電池スタック1の内部抵抗が大きくなるほど、脈動幅W1を小さくする。
脈動幅演算部251には、内部抵抗値ごとに、燃料電池スタック1の電流とアノードガスの脈動幅とを互いに対応付けた脈動幅演算マップが記憶されている。脈動幅演算部251は、燃料電池スタック1の目標電流及び内部抵抗値を取得すると、その内部抵抗値によって特定された脈動幅演算マップを参照し、目標電流に対応付けられた脈動幅を目標脈動幅W1として脈動上限圧力算出部252に出力する。
脈動上限圧力算出部252は、カソード圧力センサ24から出力されるカソードガスの検出圧力に目標脈動幅を加算し、その加算した値をアノードガスの脈動上限圧力として脈動波形演算部253に出力する。
脈動波形演算部253には、カソード圧力センサ24から出力されるカソードガスの検出圧力が、アノードガスの脈動下限圧力として入力される。制御部200は、目標電流が大きくなるほど、カソードガスの目標圧力を大きくするため、カソードガスの検出圧力は大きくなる。したがって、燃料電池スタック1の出力電流が大きくなるいほど、アノードガスの脈動下限圧力は大きくなり、燃料電池スタック1の出力電流が小さくなるほど、アノードガスの脈動下限圧力は小さくなる。
脈動波形演算部253は、アノードガスの脈動上限圧力と脈動下限圧力とを交互に選択して、アノードガス圧力が脈動する波形となるようにアノードガスの脈動圧力を演算する。
例えば、脈動波形演算部253は、脈動上限圧力を選択しているときは、脈動下限圧力から脈動上限圧力までアノードガス圧力が一定の上昇率で昇圧されるように脈動圧力を算出する。
一方、脈動波形演算部253は、脈動下限圧力を選択しているときは、脈動上限圧力から脈動下限圧力までアノードガス圧力が一定の低下率で降圧されるように脈動圧力を算出する。脈動波形演算部253は、算出されたアノードガスの脈動圧力を目標圧力として出力する。
逆流防止制限部260は、IV推定期間に燃料電池スタック1の出力電流を振幅させることに起因するアノードガス脈動圧力の低下幅の拡大を制限する。
逆流防止固定圧力保持部261は、IV推定期間中にアノードガスの脈動圧力を固定するために定められた固定値(以下「逆流防止固定圧力」という。)を保持する。
逆流防止固定圧力は、IV推定期間中に発電に必要なアノードガス圧力を燃料電池スタック1に供給しつつアノードガスの圧力低下を制限するために設定された圧力値である。逆流防止固定圧力は、逆流防止固定圧力保持部261から目標圧力切替部262へ出力される。
目標圧力切替部262は、IV推定フラグの設定値に基づいて、アノードガスの目標圧力を、脈動波形演算部253で演算された脈動圧力から、逆流防止固定圧力保持部261に保持された固定値に切り替える。
IV推定フラグは、図3に示した切替制御部240によって設定される。切替制御部240は、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得する取得期間を電流低下期間Tdに設定した場合において、電流変化操作部210によって出力電流を振幅させるIV推定期間のみIV推定フラグを「1」に設定する。
目標圧力切替部262は、IV推定フラグが「1」を示す場合には、逆流防止固定圧力保持部261から逆流防止固定圧力を取得してアノードガスの目標圧力として出力する。一方、目標圧力切替部262は、IV推定フラグが「0」を示す場合には、脈動波形演算部253で算出された脈動圧力を目標圧力として出力する。
このように電流変化操作部210が出力電流を振幅させているIV推定期間は、逆流防止制限部260によって、アノードガスの脈動圧力が逆流防止固定圧力により制限される。
図8は、アノードガス制御部201によるアノードガス圧力の制限手法を示す図である。
図8(A)は、脈動運転中のアノードガス脈動圧力の変動を示す図である。図8(A)には、アノードガスの脈動圧力が実線により示され、脈動上限圧力及び脈動下限圧力がそれぞれ破線により示されている。
図8(B)は、燃料電池スタック1から取り出される出力電流を示す図である。図8(C)は、燃料電池スタック1の出力電圧を示す図である。図8(A)から図8(C)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、図4と同様に暖機促進運転が実施されており、DC/DCコンバータ56の電圧制御によって燃料電池スタック1から補機類57のみに電流が供給されている。また、脈動運転によって燃料電池スタック1に滞留する窒素ガスや生成水が押し出されてバッファタンク36へ蓄積される。
時刻t81から時刻t83までのIV推定期間は、電流変化操作部210によって出力電流を振幅させる電流制御が実行される。ここでは上昇時の電流変化率ΔIuが定数Cu1に設定され、低下時の電流変化率ΔIdが定数Cd1に設定されている。これと共にIV推定部220による燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間が電流低下期間Tdに設定されている。したがって、IV推定フラグは、IV推定部220によって「1」に設定される。
時刻t81では、図8(B)に示すように、電流変化操作部210によって燃料電池スタック1の出力電流が、電流変化率Cu1で上昇すると共に、IV推定フラグが「0」から「1」に切り替えられる。
IV推定フラグが「1」に切り替えられると、目標圧力切替部262によって、アノードガスの目標圧力が、脈動波形演算部253で演算される脈動圧力から、アノードガスの圧力低下を制限するために定められた所定の逆流防止固定圧力に切り替えられる。
なお、逆流防止固定圧力は、IV推定期間に出力電流を上限値まで上昇させた時に最低限必要なアノードガス流量を供給できるアノードガス圧力値に設定される。したがって、IV推定期間中に出力電流の上限値を大きくするほど、逆流防止固定圧力は大きな値に設定される。
このように時刻t81から時刻t83までのIV推定期間中は、アノードガス圧力は逆流防止固定圧力に設定されるので、発電に必要な流量でアノードガスを供給しつつ、バッファタンク36から燃料電池スタック1へ窒素ガスが逆流することを防止できる。
そのため、時刻t82から時刻t83までの電流低下期間Tdに燃料電池スタック1の発電効率は低下せず、燃料電池スタック1の本来の出力電圧が、電圧センサ52で検出できるようになるので、燃料電池スタック1のIV特性を正確に推定することができる。
時刻t83では、IV推定フラグが「0」から「1」に切り替えられる。そしてIV推定部220は、時刻t82から時刻t83までの電流低下期間Tdに取得した燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いてIV特性を推定し、IV特性判定部230は、そのIV特性が基準特性よりも良いと判定する。
このため、切替制御部240は、上昇時の電流変化率ΔIuを定数Cu2まで上昇させると共に、低下時の電流変化率ΔIdを定数Cd2まで上昇させ、IV推定部220による取得期間を、電流低下期間Tdから電流上昇期間Tuに切り替える。
時刻t84では、図8(B)に示すように、電流変化操作部210によって燃料電池スタック1の出力電流が所定の電流変化率Cu2で上昇する。ここでは、IV推定部220による取得期間が電流上昇期間Tuに設定されており、IV推定フラグは「0」のままである。このため、出力電流の上昇に伴い、アノードガスの脈動上限圧力、及び脈動下限圧力が共に上昇する。
時刻t84から時刻t85までの電流上昇期間Tuは、IV推定部220は、電流センサ51及び電圧センサ52から燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を順次取得し、これらの電流値及び電圧値を用いてIV特性を推定する。
切替後の時刻t84から時刻t85までの電流上昇期間Tuは、切替前の時刻t82から時刻t83までの電流低下期間Tdよりも短いので、暖機促進運転によって回復してくるIV特性の変化量が小さくなる。このため、電流上昇期間Tuで取得した燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いて推定されるIV特性の推定精度を向上させることができる。
時刻t85では、図8(B)に示すように、燃料電池スタック1の出力電流は、燃料電池スタック1の出力電流は、所定の電流変化率Cu2よりも大きな特定の電流変化率Cd2で暖機要求電流まで低下する。これにより、IV推定期間を短縮することができる。
図9は、不純物の逆流に伴うIV特性の推定精度の低下に関する図である。
図9(A)は、図2で述べた式(1)によって推定された燃料電池スタック1のIV特性を示す図である。
図9(A)には、本実施形態における燃料電池スタック1のIV特性が実線で示され、バッファタンク36から不純物が逆流したときのIV特性が破線で示され、通常運転時の基準IV特性が点線で示されている。また縦軸が、燃料電池スタック1の出力電圧Vを示し、横軸が、燃料電池スタック1の出力電流Iを示す。
図9(B)は、燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を用いて求められた式(1)の近似直線を示す図である。
図9(B)には、本実施形態における燃料電池スタック1の特性が、実線で示され、バッファタンク36から不純物が逆流したときの燃料電池スタック1の特性が、破線で示されている。また縦軸が、基準IV特性の電圧値から出力電圧の検出値を減算した電圧差ΔVを示し、横軸が、燃料電池スタック1の出力電流Iを示す。
なお、上限電流Icは、IV推定期間中に出力電流を上昇させたときの最大値であり、出力電流の測定可能範囲の上限値である。上限電流Icよりも上の電流範囲が、式(1)によって推定されるIV推定範囲である。
図9(B)に示すように、燃料電池スタック1に不純物が逆流したときの近似直線の傾きは、本実施形態の近似直線の傾きよりも大きくなる。すなわち、不純物が逆流したときに求められた式(1)の係数aは、本実施形態で求められた係数aよりも小さくなる。
この理由は、図5(C)で示したようにIV推定期間が終わるころに不純物の逆流によって燃料電池スタック1の発電効率が低下して出力電圧が低下するため、出力電流が小さくなるにつれて、電圧差ΔVが大きくなってしまうからである。ここでは、左から1番目及び2番目の丸印で示された測定点の電圧差ΔVが、三角印で示された本実施形態の測定点の電圧差ΔVよりも大きくなっている。
したがって、図9(A)に示すように、不純物が逆流したときのIV特性は、実際の燃料電池スタック1のIV特性よりも良好な特性として推定されてしまう。そのため、走行を許可する閾値を高くしなければならず、走行を正確に許可することが困難になる。これに対して本実施形態のIV推定部220では、燃料電池スタック1のIV特性を、不純物が逆流した場合に比べて正確に推定することができる。
本発明の第2実施形態では、バッファタンク36を備える燃料電池システム100において、アノードガス制御部201は、電流変化操作部210による燃料電池スタック1の出力電流の低下に応じて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス圧力を低下させる。このため、電流低下期間Tdにおいてバッファタンク36から不純物が逆流して燃料電池スタック1の発電効率が一時的に低下する場合がある。この場合にはIV特性の推定精度が低下する。
第2実施形態によれば、IV推定部220は、燃料電池スタック1のIV特性が基準特性を超えていると判定された場合には、電流変化操作部210によって電流が上昇する電流上昇期間Tuに電流値及び電圧値を取得する。
このように電流上昇期間Tuに燃料電池スタック1の電流値及び電圧値を取得することにより、電流低下期間Tdにおいてバッファタンク36から燃料電池スタック1へ不純物が逆流することに伴うIV特性の推定精度の低下を回避できる。
また本実施形態では、IV特性判定部230によってIV特性が基準特性を超えていないと判定された場合には、切替制御部240は、アノードガス制御部201を制御してIV推定期間にアノードガス圧力を逆流防止固定圧力に制限する。
これにより、アノードガスの圧力低下が抑制されるので、IV特性が基準特性よりも悪く燃料電池スタック1の電流値及び電圧値の取得期間が電流低下期間Tuのままであっても、不純物の逆流に伴うIV特性の推定精度の低下を抑制できる。
なお、本実施形態では脈動下限圧力を基準に脈動上限圧力を算出する例について説明したが、本発明は、脈動上限圧力を基準に脈動下限圧力を算出する構成にも適用することが可能である。
また本実施形態では逆流防止固定圧力によってアノードガスの圧力低下を制限する例について説明したが、逆流防止固定圧力を基準に、バッファタンク36から不純物が逆流しないように窒素ガスのみ排出できる脈動幅でアノードガス圧力を脈動させてもよい。これにより、IV推定期間において不純物の逆流に伴うIV特性の推定精度の低下を抑制しつつ、窒素ガスの排出性を向上させることができる。
なお、本実施形態では燃料電池スタック1の出力電流を上昇させてから低下させるまでの間、逆流防止固定圧力を設定する例について説明したが、電流低下期間Tuのみ逆流防止固定圧力を設定するようにしてもよい。この場合であっても、バッファタンク36に蓄積された不純物の逆流に伴うIV特性の推定精度の低下を抑制することができる。この場合には、脈動幅W1を制限する時間を短くして脈動幅W1で脈動させる時間を長くすることができるので、燃料電池スタック1の排水性を向上させることもできる。
また本実施形態ではアノードガス圧力の脈動運転を実施する例について説明したが、脈動運転を実施しない場合であっても、電流変化操作部210による電流制御に伴いアノードガス圧力が低下するので、バッファタンク36から不純物が逆流する場合がある。この場合にはアノードガスの脈動運転を実施しない燃料電池システムに本発明を適用しても、本実施形態と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
また本発明は、カソードガス供給通路21に加湿器、例えば水分回収装置(Water Recovery Device;WRD」)を設けた燃料電池システムにも適用することができる。この場合には、加湿器よりも上流のカソードガス供給通路21にカソード圧力センサ24を設け、カソード圧力センサ24で検出された検出圧力が、アノードガスの脈動下限圧力として設定される。
また本実施形態では暖機促進運転中にIV推定を実施する例について説明したが、通常運転中にIV推定を実施してもよく、この場合に本発明を適用しても各実施形態と同様の効果が得られる。
また各実施形態ではアノードガス非循環型のデッドエンドシステムを例にして説明したが、本発明はアノードガス循環型の燃料電池システムにも適用できる。例えば、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔と、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32との間を結ぶ循環通路に、循環ポンプが設けられた燃料電池システムにも適用可能である。このようなシステムにおいても第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。