以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
まず、図1〜4を用いて、第1実施形態に係る制振装置10について説明する。制振装置(ダンパ)10は、設置面に置かれた任意の物体の振動を抑えるための器具である。制振装置10は、例えば地震による設置面上の物体の揺れを抑えるために用いられ、様々な場面において適用され得る。
例えば、制振装置10は床に置かれた家具や家電の揺れを抑えるために用いられてもよい。あるいは、制振装置10は、建物の揺れを抑えるために、建物の土台や基礎とその上に置かれる建築部材との間に設けられたり、上下の建築部材の間に設けられたりしてもよい。したがって、設置面の例としては、床や地面、土台、基礎、建築部材などが挙げられ、設置面上に置かれる物体(以下では「設置物」ともいう)の例としては、家具や家電、建築部材などが挙げられる。もちろん、設置面および設置物はこれらに限定されない。また、制振装置10の大きさは、適用場面に応じて任意に定めてよい。
図1に示すように、制振装置10は、設置面に接する下板11と、設置物に接する上板12と、これら二つの板の間に設けられた粘弾性体20と、上板12の略中央から上方に延びるように設けられたねじ30とを備えている。下板11及び上板12は、粘弾性体20自身が有する接着性により当該粘弾性体20に貼り付いている。なお、下板11及び上板12と粘弾性体20との接着をより強固にするために、これら二つの板に接する粘弾性体20の表面にプライマーが塗布されていてもよい。
本実施形態では、ねじ30を除いた制振装置10の本体部分は略円柱状を成しているが、制振装置10の形状は限定されない。例えば、下板11及び上板12を矩形とし、粘弾性体20を四角柱状とすることで、制振装置の本体を四角柱状としてもよい。また、本実施形態では、下板11及び上板12の大きさは同じであるが、これらの大きさが互いに異なっていてもよい。制振装置10の使い勝手を向上させるために、本実施形態のように、粘弾性体20の外側面を下板11及び上板12の外周部よりも内側に位置させるか、あるいは当該外側面と当該外周部とが一致するように、各構成要素を成形してもよい。
図2,3に更に示すように、ねじ30は、その下方において上下方向に延びるロッド40と一体成形されている。ねじ30及びロッド40は、上板12の略中央に形成された孔に通されて溶接や接着等の手法により固定されることで、上板12と一体化する。
ロッド40は、粘弾性体20が鉛直方向の荷重により変形するのを防止するための支持体である。ロッド40を下板11から上板12にかけての範囲に設けるために、粘弾性体20の略中央には貫通孔21が形成されており、したがって、粘弾性体20はドーナツ状であるとも言える。この貫通孔21に通されたロッド40は、粘弾性体20の上端(上面)から下端(下面)に亘って該粘弾性体20と並ぶように(あるいは、粘弾性体20の内側面と並行するように)設けられる。ロッド40の下端は下板11に接するが、この下板11には固着されない。
図3に示すように、本実施形態では貫通孔21の径をロッド40の径よりも大きくしているので、ロッド40と貫通孔21の側面との間に空間が存在する。このような空間を設けている理由は、粘弾性体20自身の接着性を考慮して、ロッド40を粘弾性体20に容易に通すためである。もっとも、このような空間を設けるか否かは任意に決めてよい。
粘弾性体20は、アクリル樹脂などの粘弾性材料によって作製される振動吸収体であり、その例としてスリーエム社のISD111が挙げられる。一方、下板11、上板12、ねじ30、及びロッド40は、鉄やアルミニウムなどの金属材料や、プラスチックなどにより作製される。制振装置10の各構成要素の材料はこれらに限定されるものではないが、少なくとも、ロッド40の剛性(弾性と言い換えることもできる)は粘弾性体20の剛性よりも高い必要がある。これは、設置物に振動エネルギが加わらない通常時に、粘弾性体20が該設置物からの鉛直方向の加重により変形することを防ぐためである。同様の理由から、下板11及び上板12の剛性も粘弾性体20の剛性より高くする。
制振装置10の設置例及び作用例を図4に示す。図4(a)は、床Bに家具Fを置く際に制振装置10を用いる例を模式的に示している。ねじ30は、家具Fに形成されたねじ穴(図示せず)と螺合している。弱い揺れが発生した場合には、図4(b)に示すように、一体化している上板12及びロッド40(更にはねじ30)が下板11に対して揺動し、粘弾性体20に垂直歪みが生じる。そして、このような粘弾性体20の変形により振動エネルギが粘弾性体20に吸収されるので、家具Fの揺れが低減される。強い揺れが発生した場合には、図4(c)に示すように、一体化している上板12及びロッド40(更にはねじ30)が横力により側方にずれて、粘弾性体20にせん断歪みが生じる。そして、ロッド40と下板11との間に摩擦力が生ずると共に、粘弾性体20の変形により振動エネルギが粘弾性体20に吸収されることで、家具Fの揺れが低減される。
このように、制振装置10は、主に粘弾性体20が振動エネルギを吸収することで設置物の揺れを抑えるのであるが、この粘弾性体20の性能は下記式(1)〜(3)により定義される。
Kd’=(A’/t’)・G’ …(1)
Cd=(η/2πf)・Kd’ …(2)
K’=(A’/t’)・E’ …(3)
ここで、Kd’は粘弾性体20のせん断剛性、A’は粘弾性体20の水平方向(上板12に平行な方向)の接着面積、t’は粘弾性体20の上下方向の厚み、G’は粘弾性体20の貯蔵せん断剛性率である。Cdは粘弾性体20の粘性係数であり、ηは粘弾性体20の損失係数であり、fは加振振動数である。K’は粘弾性体20の垂直剛性であり、E’は粘弾性体20の上下方向の貯蔵縦弾性率である。この貯蔵縦弾性率E’は、ポアソン比νを用いてE’=3G’(1+ν)で定義される。
上記(1)〜(3)から分かるように、粘弾性体20の性能はその断面積A’及び厚みt’に依存するので、当該断面積及び厚みが変化するということは、粘弾性体20の性能(せん断剛性、粘性係数、及び垂直剛性)が変わるということである。したがって、粘弾性体20の形状に関する設計時のパラメータA’,t’を維持できれば、当該粘弾性体20、ひいては制振装置10の制振性能を維持することができる。
本実施形態では、粘弾性体20よりもロッド40の方が剛性が高くなるように制振装置10が設計されている。ここで、ロッド40の垂直剛性Kは、ロッド40の水平方向の断面積A、ロッド40の高さt、ロッド40の縦弾性率Eを用いて下記式(4)により定義される。
K=(A/t)・E …(4)
そして、ロッド40の垂直剛性Kは、例えば粘弾性体20の垂直剛性K’の3倍以上であってもよい。すなわち、K≧3K’が成り立つように制振装置10を構成してもよい。
このように、粘弾性体20よりもロッド40の方が剛性が高いので、設置物から受ける鉛直方向の荷重がそのロッド40により受け止められる。これにより、その荷重による粘弾性体20の変形(潰れ)が抑えられるので(言い換えれば、断面積や厚みで表される当該粘弾性体20の形状が維持されるので)、設計された制振性能の低下を抑えることができる。
また、粘弾性体20の下面及び上面がそれぞれ、当該粘弾性体20よりも剛性が高い下板11及び上板12で覆われるので、鉛直方向の荷重による粘弾性体20の変形(潰れ)を更に抑えて、設計された制振性能の低下をより確実に抑えることができる。この下板11及び上板12の形状も、水平方向の断面積Aと、高さ(厚み)tとで定義できるので、ロッド40と同様に垂直剛性を求めることができる。下板11及び上板12の垂直剛性はそれぞれ、ロッド40と同様に、粘弾性体20の垂直剛性の3倍以上であってもよい。
なお、本実施形態におけるねじ30は省略可能である。
(第2実施形態)
次に、図5〜8を用いて、第2実施形態に係る制振装置10Aについて説明する。この制振装置10Aが第1実施形態における制振装置10と異なる点は、支持体の形状と、ねじを設けないこと(図5参照)の二つである。本実施形態における他の構成は第1実施形態と同じなのでその説明を省略し、以下では、本実施形態特有の構成を説明する。
図6,7に示すように、下板11及び上板12により挟まれているドーナツ状の粘弾性体20の貫通孔21には、第1実施形態におけるロッド40と同じ材料で作製された球体50が収容されている。この球体50の上端及び下端はそれぞれ上板12及び下板11に接しており、したがって、球体50の径は貫通孔21の高さと同じである。球体50の側端は貫通孔21の側面に接していてもよいし、当該側面から離れていてもよい。貫通孔21に収容する球体50の個数は、図7に示すように一つでもよいし、図8に示すように複数(例えば三つ)であってもよい。第1実施形態と同様に、球体50の垂直剛性は粘弾性体20の垂直剛性の3倍以上であってもよい。
制振装置10Aを介して設置面に物体を置いた場合には、揺れが発生すると、上板12が球体50との接点を中心に揺動して粘弾性体20に垂直歪みが生じるか、上板12が横力により側方にずれて粘弾性体20にせん断歪みが生じる。そして、このような粘弾性体20の変形により振動エネルギが粘弾性体20に吸収されることで、設置物の揺れが低減される。
本実施形態においても、粘弾性体20よりも球体50の方が剛性が高いので、設置物から受ける鉛直方向の荷重がその球体50により受け止められる。これにより、その荷重による粘弾性体20の変形が抑えられるので、設計された制振性能の低下を抑えることができる。また、鉛直方向の荷重による粘弾性体20の変形(潰れ)を下板11及び上板12により更に抑えて、設計された制振性能の低下をより確実に抑えることができる。
本実施形態では、球体50を支持体として用いることで、支持体と下板11及び上板12との間に摩擦がほとんど生じなくなるので、粘弾性体20のせん断歪みをその摩擦により阻害されることなく直ぐに引き出すことができる。その結果、より早い段階から振動エネルギが粘弾性体20に吸収させることになり、その分、設置物の揺れをより抑えることが可能になる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、以下に示す図9〜11は、図3,7,8に対応する横断面図である。
上記の各実施形態では粘弾性体の中央に貫通孔を形成してその中に支持体を収容したが、支持体の位置はこれに限定されない。例えば図9に示す制振装置10Bも本発明の範囲内である。この制振装置10Bでは、粘弾性体20の周縁部に近い方に4個の貫通孔21が形成され、各貫通孔に球体50が収容されている。なお、この場合において、支持体はロッドでもよい。また、粘弾性体の中央及びその外側の位置(例えば図9に示す4箇所)の双方に貫通孔21が形成されていてもよい。
上記の各実施形態では粘弾性体に貫通孔を形成してその中に支持体を収容したので、当該支持体の全側面が粘弾性体で覆われていたが、支持体と粘弾性体との位置関係はこれに限定されない。例えば図10に示す制振装置10Cも本発明の範囲内である。図10(a)では、互いに切り離された4個の粘弾性体20が下板11の四隅に設けられ、中央に一本のロッド40が設けられている。また、図10(b)では、相対する二つの粘弾性体20の間に一本ずつロッド40が設けられている。このように、互いに切り離された複数の粘弾性体を設置面に沿って並べて、その粘弾性体の間に支持体を設けてもよい。
あるいは、図11に示す制振装置10Dも本発明の範囲内である。この制振装置10Dでは、中央に粘弾性体20が設けられ、その外側に4本のロッド40が設けられている。
なお、第1及び第2実施形態のような略円柱状の制振装置についても、図10や図11のような変形例を適用し得る。また、これらの図で示される変形例において、各ロッドは上板12に固定されてもよいし、下板11に固定されてもよい。
支持体の形状はロッドや球体に限定されない。例えば、円錐や四角錐などのような錐体の形をした支持体を採用してもよい。この場合には、その支持体は上板もしくは下板に溶接や接着などにより固定される。
上記第1実施形態では、制振装置10を設置物に固定させるためにねじ30を用いたが、同様の目的を達成するために他の機構を用いてもよい。例えば、上板の周縁部に複数のねじ穴を設け、そのねじ穴と、設置物に設けたねじ穴とを合わせてねじ留めすることでも、制振装置を設置物に固定させることができる。
下板及び上板のどちらか一方、あるいはこれらの双方を省略してもよい。例えば、1以上の粘弾性体と1以上の支持体とから成る制振装置も本発明の範囲内である。下板を省略した場合には、粘弾性体の下面は設置面に接着し、支持体の下端は設置面と接する。上板を省略した場合には、粘弾性体の上面は設置物の下面に接着し、支持体の上端は設置物の下面と接する。このような制振装置によっても、粘弾性体よりも支持体の方が剛性が高いので、設置物から受ける鉛直方向の荷重がその支持体により受け止められる。これにより、その荷重による粘弾性体の変形(潰れ)が抑えられるので、設計された制振性能の低下を抑えることができる。
図12〜図17に示すような制振装置10の構造を採用してもよい。
図12に示す制振装置10Eは、設置面と、該設置面上に置かれた物体との間に設けられる粘弾性体20と、上下方向に延びて粘弾性体20と並ぶように設けられる球体50を備えている。球体50は、上述までの実施形態と同様に、粘弾性体20よりも高い剛性を有している。制振装置10Eは、粘弾性体20の上下方向(厚み方向)における中間位置に設けられた中間プレート60を更に備えている。また、中間プレート60には、上下方向に延びる貫通孔61が形成されており、球体50が当該貫通孔61の内側に配置される。この貫通孔61は、中間プレート60のうち、粘弾性体20が設けられていない箇所に形成されているため、当該貫通孔61の内側に配置された球体50は、水平方向において粘弾性体20と並ぶように設けられる。なお、以下の説明においては、X方向と、当該X方向と直交するY方向を水平面内に設定して説明を行う。
中間プレート60は、上下方向から見て、各辺がX方向またはY方向と平行となるような矩形状の形状を有している。中間プレート60は、鉄やアルミニウムなどの金属材料や、プラスチックなどにより作製される。中間プレート60の剛性は、粘弾性体20より高い。中間プレート60の剛性は、球体50よりも低くても高くても同じでもよい。中間プレート60には、Y方向における両端側の領域に、互いに切り離された一対の粘弾性体20がそれぞれ設けられている。当該粘弾性体20は、X方向の略全域に亘って延びるように長方形状に形成されている。中間プレート60のY方向における中央位置には、粘弾性体20が設けられていない領域Eが、X方向全域に亘って形成される。製造し易さのため、各粘弾性体20は、その外縁部が中間プレート60の外縁部よりも内側へ離間するように配置されている。ただし、離間することなく、一致していてもよい。一対の粘弾性体20は、中間プレート60の上面と下面の両方に設けられる。上面側の粘弾性体20と下面側の粘弾性体20は、上下方向から見たときに互いに重なるような形状・配置に設けられている。ただし、特性に影響しない限り、上面側の粘弾性体20と下面側の粘弾性体20は、上下方向から見たときに互いに重なっていなくともよく、それぞれ異なる形状・配置に設けられていてもよい。また、貫通孔61が設けられる部分が確保されている限り、粘弾性体60はどのような形状・配置としてもよく、互いに切り離された構成としても、貫通孔61に対応する位置に貫通孔が設けられる構成としてもよい。
上面側の粘弾性体20と下面側の粘弾性体20の厚み(上下方向の大きさ)は、略同一に設定されている。ただし、特性に影響しない限り、異なる厚みであってもよい。中間プレート60の上下方向における位置は特に限定されないが、制振装置10E上に物体が置かれたときに(図13に示す状態)、貫通孔61が球体50の上下方向における中央位置、または中央位置付近を支持できるように設定されてよい。なお、粘弾性体20の厚みは、上端に物体が置かれて圧縮される際に、当該物体の下面(または、上板が介在しているときは当該上板の下面)と球体50が接触する厚みに設定されている。
中間プレート60の貫通孔61は、粘弾性体20が設けられていない領域Eに形成されている。貫通孔61は、X方向に平行に延びる長円状の形状を有している。貫通孔61は、中間プレート60のX方向及びY方向における中央位置に配置されている。貫通孔61は、X方向に沿って並べられた複数の球体50を、内側に配置可能である。本実施形態では、球体50は5つ配置されているが、数は限定されない。また、両端部が半円状に形成された長円状の貫通孔61でなく、長方形状の貫通孔61であってもよい。
貫通孔61は、制振装置10Eが振動する際に、球体50の移動をガイド可能な程度の大きさに設定されていてよい。貫通孔61は、振動の際に球体50が所定の範囲内で転がり移動するように、球体50の移動範囲を規制可能な大きさに設定されていてよい。貫通孔61は、振動時に、中間プレート60の動きに追従して球体50が移動するような大きさに設定してもよい。貫通孔61が小さすぎる場合、内側に球体50を配置する作業が行い難くなると共に、球体50の転がりが阻害されるため、貫通孔61の内面と球体50の間には僅かにギャップが形成されていてよい。一方、当該ギャップが大きすぎる場合は、振動時に貫通孔61内の各球体50が散らばってしまうため、貫通孔61内での複数の球体50の配列が維持される程度の大きさのギャップに設定してよい。具体的には、貫通孔61の内面のうち、Y方向に対向する一対の内面61a、61b同士の離間距離は、球体50の直径より大きい。また、X方向の両端位置における内面61c、61d同士の離間距離は、全球体50の直径の合計より大きい。
粘弾性体20の球体50側の端部20aは、上下方向から見て、中間プレート60の貫通孔61の内面よりも球体50から離れている。すなわち、上下方向からみて、粘弾性体20の端部20aが貫通孔61の内側へ入り込んでおらず、粘弾性体20の端部20aが貫通孔61の内面と一致していない。これによって、球体50と粘弾性体20との接触がより確実に抑制される。本実施形態では、X方向においては、貫通孔61の内面61c、61dよりも外側には、粘弾性体20は配置されていない。Y方向においては、内面61a、61bよりも外側に、粘弾性体20の端部20aが配置されている。上下方向から見たときの貫通孔61の内面61a、61bと粘弾性体20の端部20aとの間の離間距離は、特に限定されないが、振動時に粘弾性体20が最も大きく変形した場合(更に、球体50が貫通孔61内において、最も粘弾性体20に近づいた場合)であっても、粘弾性体20と球体50が接触しない程度の大きさに設定してよい。なお、粘弾性体20を貫通孔61から大きく離してよい。
図13に示すように、制振装置10Eを介して設置面Bに物体Fを置いた場合には、揺れが発生すると、粘弾性体20の上端が側方にずれて粘弾性体20にせん断歪みが生じる。そして、このような粘弾性体20の変形により振動エネルギが粘弾性体20に吸収されることで、設置物Fの揺れが低減される。なお、物体Fが球体50との接点を中心に揺動して粘弾性体20に垂直歪みが生じる場合も、粘弾性体20は振動エネルギを吸収できる。
本実施形態においても、粘弾性体20よりも球体50の方が剛性が高いので、物体Fから受ける鉛直方向の荷重がその球体50により受け止められる。これにより、その荷重による粘弾性体20の変形が抑えられるので、設計された制振性能の低下を抑えることができる。
また、本実施形態では、球体50を支持体として用いることで、(例えば、支持体と下板11、上板12、物体F、設置面Bなどとの間に生じるような摩擦がないため)粘弾性体20のせん断歪みをその摩擦により阻害されることなく直ぐに引き出すことができる。その結果、より早い段階から振動エネルギが粘弾性体20に吸収させることになり、その分、設置物の揺れをより抑えることが可能になる。
また、本実施形態では、球体50がX方向に複数並べられているため、粘弾性体20は、X方向において広い範囲に亘って、剛性の高い球体50に支持される。また、支持体として複数のロッドをX方向に複数並べた場合は摩擦が大きくなるが、本実施形態では転がり可能な球体50を複数並べているため、摩擦も生じない。従って、図13に示すようなX方向の揺れが生じたときに、粘弾性体20のせん断歪みによる変形が安定する。これによって、制振装置10Eの安定した制振性能を維持することができる。
そして、本実施形態では、制振装置10Eが中間プレート60を備え、当該中間プレート60の貫通孔61の内側に球体50が配置されている。従って、球体50が散らばることなく、X方向に並べられた配列が維持された状態で転がることができる。このように中間プレート60の貫通孔61が、複数の球体50のガイドとして機能することにより、更に制振性能を維持することができる。
また、上下方向から見て、粘弾性体20の球体50側の端部は、中間プレート60の貫通孔61の内面よりも球体50から離れている(なお、本実施形態では、振動方向であるX方向には、貫通孔61より外側に粘弾性体20が存在していない)。球体50は、貫通孔61の内面によって移動範囲が規制されていると共に、粘弾性体20の端部は貫通孔61の内面よりも離れているため、球体50が粘弾性体20と接触することがより確実に抑制される。粘弾性体20の表面は粘着性を有するため、球体50と接触した場合は、粘弾性体20の変形動作に影響が及ぼされる場合があるが、本実施形態では、当該接触が抑制されることにより、粘弾性体20の変形動作をスムーズにすることができる。これによって、制振装置10Eの安定した制振性能を維持することができる。
また、中間プレート60は、厚み方向における中途位置で粘弾性体20を支持することができるため、粘弾性体20の中継板として機能することができる。従って、より大きな振動を抑制できるように粘弾性体20の厚みを大きくした場合でも、中間プレート60が当該粘弾性体20を支持することにより、安定した制振性能を維持することができる。
貫通孔61の形状や数は特に限定されない。図14(a)に示す制振装置10Fの貫通孔61は、複数の球体50を支持できる長円状のものではなく、一つ一つの球体50を個別に支持可能な複数の貫通孔によって構成されている。すなわち、中間プレート60には、円形の貫通孔61がX方向に沿って一定間隔で設けられている。なお、複数の球体50を支持する貫通孔61を複数設けてもよい。
また、中間プレート60の貫通孔61の内側に配置される支持体の形状も特に限定されない。支持体は、中間プレート60の貫通孔61に配置したときの配列方向(実施形態では、X方向)に転がることができる形状であってよい。例えば、図14(b)に示すように、支持体として、Y方向に延びる円柱体70を採用してもよい。円柱体70は、中心軸線がY方向に平行となるように、X方向に沿って複数並べられる。
また、粘弾性体20の配置や、球体50の配置は特に限定されない。図15に示す制振装置10Gの中間プレート60は、下板11及び上板12に挟まれた粘弾性体20を備え、当該粘弾性体20の上下方向における中間位置に中間プレート60を備えている。この制振装置10Gの中間プレート60は、Y方向に延びる長円状の貫通孔61Aと、当該貫通孔61Aに対してX方向の両側に隣り合うように形成された円形の貫通孔61Bを有している。これによって、制振装置10Hは、X方向に複数並べられた球体50を備えると共に、Y方向にも複数並べられた球体50を備えることができる。これによって、X方向及びY方向のいずれの方向に対する振動であっても、安定した制振性能を得ることができる。X方向及びY方向の両方に球体50が並べられるため、切り離された粘弾性体20同士の間の距離は大きくなり、中間プレート60の領域Eが広くなる。粘弾性体20同士の間の距離が大きくなっても、球体50は、貫通孔61A、61Bに支持されることによって散らばることなく、配列を維持した状態で、定められた移動範囲内で移動することができる。このように、粘弾性体20を設ける位置によらず、貫通孔61A、61Bで球体50を支持することが可能となるため、中間プレート60を採用することによって、粘弾性体20の配置設定の自由度が向上し、適用対象に応じて最適な制振装置の設計を行うことができる。
球体50は所定の方向に複数並べられていなくともよい。図16に示す制振装置10Hは、中心位置に円形の貫通孔21を有するドーナツ状の粘弾性体20を備え、当該粘弾性体20の上下方向の中間位置に、中間プレート60を備えている。当該中間プレート60は、中心位置に円形の貫通孔61を有するドーナツ状の形状を有している。粘弾性体20と中間プレート60とは、中心軸線が一致するように配置されている。球体50は、貫通孔21、61の内側に配置されている。粘弾性体20の貫通孔21よりも中間プレート60の貫通孔61の方が直径が小さい。これにより、上下方向から見て、粘弾性体20の球体50側の端部(すなわち貫通孔21の内面)は、中間プレート60の貫通孔61の内面よりも球体50から離れている。径方向における貫通孔61の内面と、貫通孔21との間の離間距離は、振動時に粘弾性体20が最も大きく変形した場合(例えば、図17(b)に示す状態)であっても、粘弾性体20と球体50が接触しない程度の大きさに設定してよい。
ここで、図17を参照して、中間プレート60を備える制振装置10Hと、中間プレート60を有さない制振装置10Aの比較を行う。なお、制振装置10A、10Hは、下板11及び上板12を有しているが、無くてもよい。図17(a)に示すように、中間プレート60を有さない制振装置10Aにおいては、粘弾性体20の貫通孔21の内面と、球体50との間のギャップを一定量確保することによって、振動時に粘弾性体20が変形すると共に球体50が貫通孔21内で移動しても、粘弾性体20が球体50と接触しないようにすることができる。これにより、粘弾性体20の変形動作をスムーズにすることができ、安定した制振性能を維持することができる。
図17(b)に示すように、制振装置10Hは、制振装置10Aに対して、中間プレート60を追加した構成を有している。制振装置10Hでは、球体50が中間プレート60の貫通孔61の内側に配置されているため、振動時に球体50が粘弾性体20の貫通孔21内で移動する際の移動範囲を一定範囲内に規制することができる。更に、粘弾性体20の変形に伴い、当該変形に追従するように中間プレート60が移動し、当該中間プレート60に追従するように球体50も移動する。すなわち、振動によって粘弾性体20の上端側が一の方向へ移動すると、中間プレート60も追従して同方向へ移動し、貫通孔61で支持される球体50も追従して同方向へ移動する。従って、粘弾性体20の貫通孔21の上端付近が球体50に近接するような変形が生じても、球体50は当該粘弾性体20の近接から逃げることができる。これによって、制振装置10Hでは、球体50と粘弾性体20の接触を、制振装置10Aよりも更に確実に抑制することが可能となる。また、制振装置10Hでは、制振装置10Aに比して、球体50と粘弾性体20の貫通孔21との間のギャップを小さく設定しても、球体50と粘弾性体20の接触を抑制することができる。
なお、上述の実施形態では中間プレート60は一枚のプレートから構成されており、貫通孔61は当該一枚のプレートに形成された孔によって構成されている。ただし、中間プレート60が複数のプレートを組み合わせて構成されていてよく、貫通孔61は当該複数のプレートで囲まれた領域に形成されていてもよい。例えば、図12に示す制振装置10Eにおいて、Y方向における一方の粘弾性体20が設けられるプレートと、他方の粘弾性体20が設けられるプレートとが別体のプレートであり、各プレートのX方向における両端側が、小さいプレートでそれぞれ連結されることにより(すなわち、図12(a)の領域Eに該当する部分が別体のプレート片で構成される)、一の中間プレート60が形成されてよい。4つのプレートで囲まれる領域を貫通孔61としてよい。また、中間プレート60は全領域で厚みが一定でなくともよい。例えば、貫通孔61の周辺だけ厚みが厚くても(または薄くしても)よい。
また、上述の実施形態では、厚み方向に一の中間プレート60が設けられている例について説明したが、中間プレート60が厚み方向に複数設けられていてもよい。例えば、図18に示すように、制振装置10Kは、粘弾性体20の中間位置に二つの中間プレート60を備えている。各中間プレート60は、厚さ方向に互いに平行に対向するように、同形状・同位置に配置されている。下側の中間プレート60の下面に一層目に係る粘弾性体20が設けられ、一対の中間プレート60の間に二層目に係る粘弾性体20が設けられ、上側の中間プレート60の上面に三層目に係る粘弾性体20が設けられる。各粘弾性20の厚みは、特に限定されないが、略同一であってよい。球体50は、上述で説明した実施形態で用いられているものよりも直径が大きく、二つの中間プレート60の貫通孔61で支持されている。このように、粘弾性体20が三層設けられていることにより、制振装置10Kの装置全体としての粘弾性体20の厚みを大きくすることができる。また、装置全体としての粘弾性体20の厚みを大きくする場合に、一層あたりの粘弾性体20の厚みを大きくし過ぎると、性能に影響が及ぼされる可能性がある。しかしながら、複数の中間プレート60で支持することにより、装置全体としての粘弾性体20の厚みは大きくしつつも、各層における粘弾性体20の厚みを好適な大きさとすることができる。以上により、安定した制振性能を維持することができる。なお、図18に示す制振装置10Kは、図16に示す制振装置10Hに対して、厚み方向に複数の中間プレート60を設けた変形例であるが、制振装置10E〜10Gの構成に対して複数の中間プレート60を設けてもよい。また、図18に示すように、粘弾性体20を三層として中間プレート60を二つ設ける構造に限らず、更に粘弾性体20の層数を増やして中間プレート60を増やしてもよい。
上述の実施形態では、減衰部材として粘弾性体を例示したが、これに限らず、ゴム材などを採用してもよい。なお、減衰部材とは、部材自身が変形することによって振動エネルギを吸収することができるものである。例えば、摩擦ダンパの摩擦材のように、他の部材との関わりによって振動を減衰させるものは、減衰部材に含まれない。また、スプリングのように、部材自身が変形するが、当該変形によって振動エネルギを吸収することを主たる目的としていないものも、減衰部材には含まれない。