JP6142927B2 - 鋼板の打ち抜き用工具および打ち抜き方法 - Google Patents
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Description
鋼板は強度が上昇するにつれ、一般には成形性が犠牲にされ、プレス成形時に割れが生じやすくなる。そのため、高強度鋼板の適用に当たっては、そのプレス成形工程において、割れの防止を図る必要がある。特に、自動車用鋼板のプレス成形に当たっては、打ち抜いた端面を周方向に引き伸ばす「打ち抜き穴広げ成形」が多くみられ、そのような成形での割れの防止は重要である。
特許文献2においては、被加工材の端面の延性を改善するために、パンチ切刃から突起に引いた接線の角度が3°〜70°であることが要件となっている。
本発明は、800MPa級の高強度鋼板の打ち抜き加工において、打ち抜き穴広げ率90%以上を実現する打ち抜き加工工具および加工方法を具現化することを課題とする。
打ち抜き加工をする際、被加工材である高強度鋼板のパンチ側とダイ側では、力のかかり具合が異なることから、本来、パンチの切刃形状とダイの切刃形状のそれぞれに最適な形状が存在するはずである。従来技術は、パンチの切刃を主体に検討されており、ダイの切刃形状は、最適なものとはなっていない。そこで、本発明者らはダイの切刃形状に着目して詳細な検討を行った。
まず、ダイの肩R(ダイの曲率半径で切刃の形状に相当)が小さいと、被加工材である鋼板のダイ側が極端な圧縮応力を受ける。そのため、鋼板断面内の圧縮応力域が広くなる。圧縮応力を受けている部分はき裂伝播が抑制されるため、剪断破壊される。それにより、剪断面が増加し、加工硬化層が多くなる。
一方、ダイの肩Rが大き過ぎると、鋼板のダイ側も引張応力が働くため、き裂伝播が進み剪断破壊は限定的となる。このため、加工硬化層も減少するため、延性を確保することができる。しかし、肩Rが大きいため、切断後の鋼板の変形(パンチ下降方向へのダレ)が発生する可能性がある。
これらのことを考慮し、800MPa以上の高強度鋼板においては、ダイの肩Rを0.03mm〜0.2mmとすることが適していることを見出した。
さらに、本発明者らはダイ肩(切刃部分)を2つの曲率半径を有する形状(以下、2段Rと呼ぶ。)にすることにより、より圧縮応力を抑制しつつ、切断できることを見出した。
ダイ肩が一つの曲率半径を有する形状(以下、1段Rとよぶことがある。)であると、ダイ肩での鋼板の曲げにより、鋼板のダイ側に、圧縮応力が作用する領域が生じる。この曲げによる圧縮応力は、せっかく突起付パンチにより鋼板内に生じた引張応力が緩和される。その分、き裂伝播性が悪くなる。
そこで、ダイ肩Rを2段にすることにより、ダイ肩での鋼板の曲げを一部緩和し、この曲げによる圧縮応力が作用する領域を減少させ、き裂伝搬性を改善することができる。
また、打ち抜き工具の場合、パンチとダイのクリアランスも重要である。ダイ肩を2段肩Rにした場合、パンチ側の円弧部分の曲率半径R1を大きくすると、結果的にクリアランスが広くなり、切れ味が鈍くなる。このため、ダイ肩を2段肩Rにした場合、パンチ側の曲率半径R1を、パンチと逆側(板押さえ側)の曲率半径R2よりも小さくするとよいことを見出した。
さらに、鋼板が切断される際、パンチ側の曲率半径R1が効いてくるため、この曲率半径R1を前述した最適範囲にするとよいことを見出した。
これにより、鋼板に働く圧縮応力を減少することができ、より高い引張応力によるき裂伝播性が得られる。そして、剪断破壊による剪断面を減少させることができ、加工硬化層を減少させることができ、穴広げ性を改善することができる。
ただし、鋼板の弾性域内での変形に留めることが必要なため、ダイ肩部の鋼板落ち込み量を制限する必要がある。
一方、切断時に被加工材となる鋼板に効率的に引張応力を発生させることができる突起付パンチの形状についても詳細に検討した。その結果、パンチ切刃となる肩(パンチ切刃端部)から突起肩に引いた接線とパンチ移動方向と直角のなす角度(α)に最適範囲が存在することを見出した。すなわち、αが12°〜72°であるときに、引張応力が大きく発生し、き裂の伝播性を高めることが分かった。
(1)
少なくともダイ、板押さえ及び突起付きパンチで構成される鋼板の打ち抜き用工具であって、当該打ち抜き工具のパンチの移動方向に平行で、且つパンチまたはダイの切刃がなす稜線に垂直な断面において、ダイの切刃となる肩部の曲線が2つの曲率半径からなり、パンチに面する方の曲線の曲率半径をR1、もう一方の曲線の曲率半径をR2とし、
R1とR2による両曲線の交点およびR1の曲率中心を通る直線と、パンチの移動方向と直角方向とのなす角をβ、鋼板の板厚をtとしたとき、
0.03mm≦R1≦0.2mm
1<R2/R1
30°≦β≦90°
であり、
パンチの切刃となる肩から突起の肩に引いた直線とパンチの移動方向と直角方向のなす角度αが12°以上72°以下であることを特徴とする、鋼板の打ち抜き用工具。
ただし、R1、R2、tともに単位はmmとする。
(2)
さらに、前記2つの曲率半径R1,R2が
1<R2/R1≦7、および
R2(1−sinβ)≦3t
を満足することを特徴とする(1)に記載の鋼板の打ち抜き用工具。
(3)
少なくともダイ、板押さえ及び突起付きパンチで構成され、板押さえとダイで鋼板を挟持し、突起付パンチを移動させて鋼板を打ち抜き切断する鋼板の打ち抜き方法であって、当該打ち抜き工具のパンチの移動方向に平行でパンチまたはダイの切刃がなす稜線に垂直な断面において、ダイの切刃となる肩部の曲線が2つの曲率半径からなり、パンチに面する方の曲線の曲率半径をR1、もう一方の曲線の曲率半径をR2とし、
R1とR2による両曲線の交点およびR1の曲率中心を通る直線と、パンチの移動方向と直角方向とのなす角をβ、鋼板の板厚をtとしたとき、
0.03mm≦R1≦0.2mm
1<R2/R1
30°≦β≦90°
であり、
パンチの切刃となる肩から突起の肩に引いた直線とパンチの移動方向と直角方向のなす角度αが12°以上72°以下であることを特徴とする、鋼板の打ち抜き方法。
ただし、R1、R2、tともに単位はmmとする。
(4)
さらに、前記2つの曲率半径R1,R2が
1<R2/R1≦7、および
R2(1−sinβ)≦3t
を満足することを特徴とする(3)に記載の鋼板の打ち抜き方法。
但し、突起肩部の曲率半径Rpと突起肩部の角度θpに関する規定は、突起により素材がせん断されることを防ぐための規定であり、そのためにはどちらか一方が満たされていればよい。
この観点から、突起高さHpは高いほど好ましい。しかし、高すぎる場合、対象の被加工材料によっては、切刃Bと被加工材が接触する前に突起Aと切刃Bの間で被加工材料が破断し、効果が得られない場合もある。このため、そのような場合は突起高さHpを概ね10mm以下にすることが好ましい。
図8に2段肩Rを有するダイの肩部の断面図を示す。前述したように、この断面は、打ち抜き工具のパンチの移動方向に平行でパンチまたはダイの切刃がなす稜線に垂直な断面である。2段肩Rで二つある曲率半径のうち、前述したように、パンチ側の曲率半径R1は、パンチと反対側(板押さえ側)の曲率半径R2より小さくするとよい。これにより、パンチとダイス間のクリアランスを保ちつつ、被加工材となる鋼板のダイ側に生じる圧縮応力を緩和することができる。
以上のことから、曲率半径R1,R2とβを、
0.03mm≦R1≦0.2mm
1≦R2/R1
30°≦β≦90°
にするとよい。
R2(1−sinβ)≦3t (但し、30°≦β≦90°)
にするとよい。
1≦R2/R1≦7
にするとよい。
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明の実施態様は、ここに記載された態様に限定されることはない。
以下に、本発明の実施例について説明する。図7に示す平底パンチ(図7(a))、および突起付きパンチ(図7(b))を用いて打ち抜きを行った後、穴広げ試験を行った。供試鋼の機械的特性は、TS=820MPa、YP=591MPa、T.El=32%である。供試鋼の板厚は、研削により1.2〜5.0mmとした。用いた試験片のサイズは、幅150mm、長さ150mmとした。
打ち抜き穴広げ率(%)=(D(mm)−D0(mm))/D0(mm)×100 (%)
表1に、試験条件、および試験に供したパンチ形状、ダイ形状を記載する。表3中のクリアランス(%)はパンチとダイの間隔C/板厚t×100(%)で定義した数値である。
次に、図7(b)に示すダイの肩R(切刃部のR)を2段肩Rにした試験を行った。表2に試験条件、打ち抜きパンチおよびダイの形状を示す。実施例1の水準(8)をベースにし、R1=0.05mm(50μm)、R2=0.2mm(200μm)とした。β=30°、45°、75°にして試験を行った。供試鋼、穴広げ試験要領等は、実施例1と同じである。試験条件、および試験に供したパンチ形状トダイス形状、打ち抜き穴広げ率を表2に示す。
この結果、実施例1の水準(8)に比較して、打ち抜き穴広げ性が改善したことがわかる。
2 ダイ
3 板押さえ
4 被加工材
5 き裂
A パンチ突起
Ad ダイ穴内径
Ap パンチ径
B パンチ切刃(肩)
Bp 突起底面部
C パンチ-ダイの間隔
Dp PQ間の間隔
Hp 突起高さ
M 材料切断部
O1 2段肩RのR1の曲率中心
O2 2段肩RのR2の曲率中心
P パンチ切刃端部
Rp 突起肩部曲率半径
Rd ダイ肩部曲率半径
R1 2段肩Rのパンチ側の曲率半径
R2 2段肩Rのパンチと反対側の曲率半径
Q 突起立ち上がり部
T R1,R2の円弧の交点(接点)
Wp 突起縦壁部
t 被加工材の板厚
θp 突起縦壁角度
α パンチ切刃端部から突起肩に引いた接線とパンチ移動方向と直角方向のなす角度
β R1、R2の曲率中心を通る直線と、パンチの移動方向に直角方向とのなす角
Claims (4)
- 少なくともダイ、板押さえ及び突起付きパンチで構成される鋼板の打ち抜き用工具であって、当該打ち抜き工具のパンチの移動方向に平行で、且つパンチまたはダイの切刃がなす稜線に垂直な断面において、ダイの切刃となる肩部の曲線が2つの曲率半径からなり、パンチに面する方の曲線の曲率半径をR1、もう一方の曲線の曲率半径をR2とし、R1とR2による両曲線の交点およびR1の曲率中心を通る直線と、パンチの移動方向と直角方向とのなす角をβ、鋼板の板厚をtとしたとき、
0.03mm≦R1≦0.2mm
1<R2/R1
30°≦β≦90°
であり、パンチの切刃となる肩から突起の肩に引いた直線とパンチの移動方向と直角方向のなす角度αが12°以上72°以下であることを特徴とする、鋼板の打ち抜き用工具。
ただし、R1、R2、tともに単位はmmとする。 - さらに、前記2つの曲率半径R1,R2が
1<R2/R1≦7、および
R2(1−sinβ)≦3t
を満足することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の打ち抜き用工具。 - 少なくともダイ、板押さえ及び突起付きパンチで構成される打ち抜き用工具を用いる鋼板の打ち抜き方法であって、当該打ち抜き工具のパンチの移動方向に平行で、且つパンチまたはダイの切刃がなす稜線に垂直な断面において、ダイの切刃となる肩部の曲線が2つの曲率半径からなり、パンチに面する方の曲線の曲率半径をR1、もう一方の曲線の曲率半径をR2とし、R1とR2による両曲線の交点およびR1の曲率中心を通る直線と、パンチの移動方向と直角方向とのなす角をβ、鋼板の板厚をtとしたとき、
0.03mm≦R1≦0.2mm
1<R2/R1
30°≦β≦90°
であり、
パンチの切刃となる肩から突起の肩に引いた直線とパンチの移動方向と直角方向のなす角度αが12°以上72°以下であることを特徴とする、鋼板の打ち抜き方法。
ただし、R1、R2、tともに単位はmmとする。 - さらに、前記2つの曲率半径R1,R2が
1<R2/R1≦7、および
R2(1−sinβ)≦3t
を満足することを特徴とする請求項3に記載の鋼板の打ち抜き方法。
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