JP7318602B2 - 試験体の作製方法、及び高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法 - Google Patents
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Description
特許文献1には、高張力鋼板からなる試験片をV字形状に曲げ加工した後に更に締め込みによる曲げ応力が負荷された状況で、遅れ破壊の評価をする方法が記載されている。また、特許文献2、3には、高張力鋼板に深絞り、フォーム又はフォームドロー成形を施して圧縮変形後に引張残留応力が負荷された状況について、遅れ破壊の評価をする方法が記載されている。
しかし、上記従来の評価方法のみでは、実際に起こりうるプレス成形によるひずみ履歴や残留応力を十分に網羅して評価できないおそれがある。
例えば、特許文献2や特許文献3の方法では、試験片端面に与える圧縮ひずみ量と残留引張応力を独立に調整することが困難であった。更に、特許文献2や特許文献3の方法では、圧縮ひずみを受けた端面に、曲げ応力を負荷することが困難であった。
(本発明に関わる知見)
発明者は、評価する金属板からなる試験片に所定の圧縮変形を与えた圧縮端面(圧縮変形した端部の端面)を形成し、更にその圧縮端面に対し任意の曲げや引張応力を負荷して、遅れ破壊評価が出来るようにすることは、評価試験の自由度を高めて、より実際の部品での圧縮ひずみ量と残留応力の条件に近づけるために必要なことである。
ここで、高張力鋼板は、引張強度が高いため、曲げや引張力を付与するためには所定以上の外力を必要とすることを考慮すると、試験片は所定以上の寸法となっていることが好ましい。
発明者は、上記のような知見(課題)に対し、深絞り成形される試験片の形状などを検討し、簡易な方法によって、十分な圧縮ひずみを付与でき、かつ、曲げや引張の荷重を負荷できるサイズの試験片(切り出し片)を採取可能としたものである。
本実施形態の遅れ破壊特性評価方法は、高張力鋼板からなる金属板3の遅れ破壊特性を評価する方法である。評価対象となる金属板3は、プレス成形で目的のプレス部品に加工するための金属板である。すなわち、本実施形態は、プレス成形で加工されるプレス部品用の金属板に対する好適な技術である。特に、自動車のセンターピラーやAピラーロアなどの、プレス成形された車体構造部材におけるフランジ端部などとなる金属板における遅れ破壊特性の評価方法に好適な技術である。
評価する高張力鋼板は、例えば引張強度が980MPa以上とする。
本実施形態における、高張力鋼板の遅れ破壊特性の評価方法は、図1に示すように、試験体作製工程1と、評価試験工程2とを備える。
試験体作製工程1では、多角形形状(多辺形形状)の高張力鋼板からなる金属板3を、図2に示すような、円形断面を有するパンチ6、ダイ4及びブランクホルダー5を備えた金型によって深絞り成形を施して、試験体10を作製する。図2中、符号6aは、パンチ6の肩部を示す。なお、図2に記載された寸法は、実施例における寸法を記載したもので、なんら本発明を制限するものではない。
深絞り成形の工程は、通常、金属板3の中心(重心)がパンチ6の中心部となるように位置合わせをして、金属板3を金型に設定する。そして、ダイ4とブランクホルダー5(しわ押さえ)にて金属板3の外周を押さえた状態で、パンチ6を移動させて深絞り成形(深絞り加工)を実行する。
ここで、本実施形態では、深絞り成形の際に、成形される金属板3の面のうち、ダイ4とブランクホルダー5に挟圧されてしわ抑え力を受ける金属板3の領域を、しわ押さえ領域Sと記載する(図4参照)。なお、ダイ4とブランクホルダー5による挟圧は、成形開始前からの実行に限定されず、成形の途中で実行する場合であってもよい。
本実施形態では、深絞り成形する金属板3として、図4に示すように、不等辺多角形形状の高張力鋼板を例に挙げて説明する。この形状は、せん断工程(不図示)で切断して形成すればよい。図4に示す例では、金属板3の外周輪郭形状は、八角形形状であって、長辺3aと短辺3bとが周方向に沿って交互に配置された不等辺等角多角形形状となっている。図4から分かるように、しわ押さえ領域Sは、通常、無端環状の領域となっており、パンチ6で押圧される側が内周側の輪郭位置(境界Sa)となる。
最小値Daと最大値Dbの比(Db/Da)の上限は、特にない。比(Db/Da)が1.1以上であれば、周方向全周における流入抵抗位置及び材料流入位置を、長辺3aと短辺3bの比率や、配置の仕方で選択的に調整することが可能である。
また、金属板3の多角形形状は、等角多角形形状でなくてもよい。金属板3の多角形形状は、また、最小距離D0が最小値Daとなっている辺と、最小距離D0が最大値Dbとなっている辺が周方向に沿って交互に配置された多角形形状でなくてもよい。
ただし、金属板3の輪郭形状を不等辺等角多角形形状とし、長辺3aと短辺3bを周方向に沿って交互に配置した形状を採用した場合、周方向から中心に向けて、より均等に材料が流れ込み易くなる。更に、この場合、単純に金属板3の中心にパンチ6の中心部が位置するようにして金属板3を金型に設定すればよいので、不等辺多角形形状の金属板3を採用しても、金属板3の金型への設置が簡易となる。
また、例えば、金属板3の形状を不等辺等角多角形形状とする場合に、例えば、しわ押さえ領域Sに目的とする切り出し片が取れる形状の等辺等角多角形形状を想定し、その等辺多角形形状の一部の辺が長くなるように(しわ押さえ領域Sの内周側の境界Saへの金属板3の各辺からの最小距離D0が小さくなるように)して辺の長さを調整し、深絞り成形可能な不等辺等角多角形形状を求めても良い。
評価試験工程2では、試験体作製工程1で作製した試験体10を用いて、高張力鋼板からなる金属板3の遅れ破壊特性を評価する。評価の方法は、公知の評価の方法を採用してもよい。
このとき、評価試験工程2にて金属板3に深絞り成形を施した際に、圧縮変形を受ける端面のひずみ量と成形高さH(図3参照)との関係を、コンピューターによるシミュレーション解析によって求め、求めた上記端面のひずみ量と成形高さHとの関係を、遅れ破壊特性を評価する際の指標としてもよい。例えば、端面のひずみ量と成形高さHとの関係と、水素侵入環境下への設置により割れ発生までの時間とで、遅れ破壊特性を評価する。
遅れ破壊特性の評価は、例えば、上記の試験体10の全部若しく試験片を水素環境下に設置することによる、試験体10若しくは試験片に発生する亀裂発生状況によって、遅れ破壊特性を評価すると良い。水素侵入環境下への設置は、例えば、塩酸やNH4SCN水溶液などの酸液を収容した浴槽内に試験片を浸漬することで実施する。
また、遅れ破壊特性の評価に試験片を用いる場合、当該切り出した試験片に曲げや引張応力を負荷した状態で、水素環境下に設置するようにしても良い。この曲げや引張応力は、実部品に負荷される曲げや引張応力相当とすることが好ましい。
本実施形態では、多角形形状の高張力鋼板からなる金属板3に対し、円形断面を有するパンチ6、ダイ4及びブランクホルダー5を備えた金型によって深絞り成形を施す。その際に、金属板3として、金属板3の各辺からしわ押さえ領域Sの内周側の境界Saまでの距離のうちの、最小値Daと最大値Dbの比(Db/Da)が1.1以上となっている金属板を採用する。これによって、深絞り成形後の試験体10から得られる、試験片の作製に関する問題を解決することができる。
ここでは、金属板3の多角形形状が、八角形の等角多角形形状の場合を例示して説明する。
図6のような、金属板3の形状が等辺等角八角形形状の場合(比較例と記載する)には、各辺からしわ押さえ領域Sの内周側の境界Saまでの距離が均等であるため、深絞り成形の際に、全ての辺に均一な流入抵抗が発生し(図6(a)参照)、全ての辺から、中央側の深絞り部に向けて均一に材料の流入が発生する(図6(b)参照)。
このように、発明例では、比較例に対し金属板3全体でのしわ押さえ領域Sの面積を減少できると共に、長辺3a部分から選択的に材料が主に流入することで、比較例に比べ、深絞りの荷重を小さくできる。この結果、発明例では、パンチ6肩の応力を下げることで、パンチ6肩での破断を回避し深絞り加工が可能となる。
このとき、試験体10のフランジ部10aのうち、圧縮が集中した長辺3a部分を切り出した切り出し片を試験片として評価する場合には、任意の曲げや引張の応力を負荷した状態で遅れ破壊評価に供することができる。
ここで、本実施形態においては、ブランクホルダー5(しわ押さえ)での押さえを、成形開始時点ではなく成形途中で掛けるようにすることで、フォームドローの場合の評価も同様に行うことが可能である。この場合には、一度しわを発生させてからしわを潰した場合の評価が可能となる。
また、本実施形態では、シミュレーション解析(CAE)によって目的の圧縮ひずみを負荷するために必要な、深絞り成形での試験片高さを計算することができる。
(1)本実施形態は、外周輪郭が多角形形状の高張力鋼板からなる金属板3を、円形断面を有するパンチ6、ダイ4及びブランクホルダー5を備えた金型によって深絞り成形を施して作製される、遅れ破壊特性評価用の試験体10を作製する方法であって、上記深絞り成形の際に、上記ダイ4と上記ブランクホルダー5に挟圧されてしわ抑え力を受ける上記金属板3の領域を、しわ押さえ領域Sと記載したとき、上記金属板3の各辺から上記しわ押さえ領域Sの内周側の境界Saまでの、各辺での各最小距離D0のうちの最小値Daと最大値Dbの比(Db/Da)が1.1以上となるように設定する。
すなわち、この構成によれば、所定以上の圧縮変形が付与された所定以上の寸法の試験片を得ることが可能となる。このため、この構成によれば、圧縮端面に対してより自由度の高い曲げ、引張応力条件下での遅れ破壊評価が可能となる。その結果、本発明の態様によれば、高張力鋼板をより実際の部品に近い圧縮ひずみ、負荷応力の環境下で遅れ破壊評価することが可能となり、高張力鋼板の自動車車体への適用を容易とすることができる。
この構成によれば、深絞り成形による材料の流入を、周方向において部分的に入力させる際に、周方向全周においてより均一に流入可能とすることができる。
この構成によれば、簡易に、深絞り成形の際における、材料の選択的な流入の調整が容易となる。
この構成によれば、遅れ破壊が起きやすいせん断端面位置に所要の圧縮変形を入力でき、より効果的な遅れ破壊特性の評価が可能となる。
金属板3の引張強度が980MPa以上である場合に、本実施形態は、効果的に評価可能となる。
この構成によれば、所定以上の圧縮変形が付与された所定以上の寸法の試験片を用いて評価が可能となる。このため、この構成によれば、圧縮端面に対してより自由度の高い曲げ、引張応力条件下での遅れ破壊評価が可能となる。その結果、本発明の態様によれば、高張力鋼板をより実際の部品に近い圧縮ひずみ、負荷応力の環境下で遅れ破壊評価することが可能となり、高張力鋼板の自動車車体への適用を容易とすることができる。
この構成によれば、より効果的に遅れ破壊特性を評価可能となる。
この構成によれば、より具体的に遅れ破壊特性評価の試験が可能となる。
この構成によれば、所定以上の圧縮変形を付与され、且つ所定の曲げ又は引張応力を負荷した状態での、遅れ破壊特性を評価可能となる。
本実施例では、板厚1.4mmの金属板3を評価対象として説明する。なお、金属板3の引張強度は1520MPaとした。本実施例では、金属板3に対し、図2のような金型構成の深絞り型を用い、しわが発生しないようなしわ抑え力に設定して深絞り加工を行った。このとき、パンチ6の径は100mmΦとし、パンチ6とダイ4との間のクリアランスは4.4mmとし、ダイ4の金属板3に接触する部分の肩半径はR10mmとした。
金属板3を深絞りに供する際の金属板3形状として、図4に示すような、長さがaの長辺3aと長さがbの短辺3bを有する不等辺等角八角形形状を採用した。そして、金属板3の中心となる重心をパンチ6中心部に位置合わせし、深絞り加工を行った。
更に、遅れ破壊を評価するのに必要な切り出し片(試験片)を、図5のように、圧縮を受けた辺(長辺3a)の長さを70mm、評価面に垂直な辺の長さを16mmとして、当該試験片が採取可能な範囲で、なおかつパンチ6肩での破断が生じない最大の圧縮ひずみを求めた。
表1から分かるように、比(Db/Da)の値を増加させることで金属板3のしわ押さえ領域Sの面積が減少し、比(Db/Da)が1.14以上の場合に、目的とする寸法の試験片を深絞り成形後の試験体から採取が可能となった。特に比(Db/Da)が1.33の場合に最も圧縮変形の大きい試験片が採取可能であった。
また、表1から分かるように、短辺での導入圧縮ひずみ(短辺導入圧縮ひずみ)は0%であったことから、長辺とのひずみ量の差は10%以上であり、周方向に沿った選択的な材料流入による、長辺での圧縮変形の集中が確認された。
図8の計算結果に基づいて金属板3の深絞り成形を行い、長辺3a中心部の圧縮ひずみが5%、10%、20%の試験片を作製した。そして、圧縮を受けた長辺3aから切り出す切り出し片について、長さを70mm、評価面に垂直な辺の長さを16mmとして、圧縮を受けた部分を試験片中心となるように、レーザーカットにより遅れ破壊評価用の試験片として切り出しを行った。
2 評価試験工程
3 金属板
3a 長辺
3b 短辺
4 ダイ
5 ブランクホルダー
6 パンチ
10 試験体
10a フランジ部
S しわ押さえ領域
Sa 境界
Claims (9)
- 外周輪郭が多角形形状の高張力鋼板からなる金属板を、円形断面を有するパンチ、ダイ及びブランクホルダーを備えた金型によって深絞り成形を施して作製される、遅れ破壊特性評価用の試験体を作製する方法であって、
上記深絞り成形の際に、上記ダイと上記ブランクホルダーに挟圧されてしわ抑え力を受ける上記金属板の領域を、しわ押さえ領域と記載したとき、
上記金属板の各辺から上記しわ押さえ領域の内周側の境界までの、各辺での各最小距離のうちの最小値Daと最大値Dbの比(Db/Da)が1.1以上となるように設定することを特徴とする試験体の作製方法。 - 上記金属板の形状は、上記最小距離が上記最小値Daとなっている辺と、上記最小距離が上記最大値Dbとなっている辺が、周方向に沿って交互に配置された多角形形状であることを特徴とする請求項1に記載した試験体の作製方法。
- 上記金属板の多角形形状は、不等辺等角多角形形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した試験体の作製方法。
- 上記金属板における、上記深絞り成形で圧縮を受ける辺は、端面にせん断加工が施された辺であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載した試験体の作製方法。
- 上記金属板の引張強度が980MPa以上であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した試験体の作製方法。
- 請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の試験体の作製方法で作製された試験体を用いて、高張力鋼板の遅れ破壊特性を評価する、高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
- 上記金属板を上記深絞り成形を施した際に圧縮変形を受ける端面のひずみ量と成形高さとの関係を、コンピューターによるシミュレーション解析によって求め、求めた上記端面のひずみ量と成形高さとの関係を指標として、遅れ破壊特性の評価に供する試験片を選定することを特徴とする請求項6に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
- 請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の試験体の作製方法で作製された試験体、若しくは上記試験体のフランジ部から切り出した試験片を水素環境下に設置することによる、上記試験体若しくは試験片の亀裂発生状況によって、遅れ破壊特性を評価することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
- 請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の試験体の作製方法で作製された試験体から圧縮を受けた辺を部分的に切り出して試験片とし、その試験片に曲げ又は引張応力を負荷した状態で水素環境下に設置することによる、上記試験片の亀裂発生状況によって、遅れ破壊特性を評価することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
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