JP6614197B2 - 高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法 - Google Patents
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自動車の車体構造部材は、一般にプレス成形によって製造されるが、例えば引張強度で980MPaを超える高強度の部材では、プレス成形後の残留応力と使用中の環境から侵入する水素に起因した遅れ破壊が懸念される。そのため、高張力鋼板を上述のような車体構造部材として適用するためには、その高張力鋼板が遅れ破壊特性に優れていることの評価が必要となる。
その理由としては、薄鋼板をプレス加工によって種々の形状に成形して使用することが一因として挙げられる。すなわち、薄鋼板は、プレス加工によるひずみや部品として使用される際の組み付けなどによる残留応力など、ボルト部材などの使用条件下では考慮しなくても良い遅れ破壊特性に影響を及ぼす因子がある。従って、ボルト部材などの遅れ破壊特性評価方法を薄鋼板にそのまま適用しても、十分に正しい評価が行えるとは言えない。
このような高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法として、特許文献1では、高張力鋼板をU字形状に曲げ加工して薄鋼板にひずみを導入し、この曲げ加工後に発生するスプリングバックした鋼板をボルトで締め込むことで応力を付加した試験片を作成し、電気チャージ法によって試験片中に水素を導入し、破壊が生じるまでの時間を測定する手法を提案している。
さらに特許文献3では、V曲げ成形した試験片にボルトによる締め込みを行う際に、ボルト周辺のたわみによって評価したい曲げ部の応力に影響を及ぼさないように、試験片の対向する板面に面接触する傾斜面を設けた治具を提案し、車体構造部材の遅れ破壊特性の評価を行うことが記載されている。
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、高張力鋼板を絞り加工などのプレス加工した際に、フランジ部などの材料端部に発生する遅れ破壊特性を評価することを目的としている。
上記フォーム成形若しくはフォームドロー成形における、成形高さ及び絞り比(試験片の対角線長さ/パンチ径)と、試験片端部に発生する最大引張残留応力との関係を予め求め、その求めた関係に基づき適切なプレス加工条件を検定する。
ここで、せん断加工によって試験片を所定の輪郭形状に成形した場合には、上記最大引張残留応力として、フランジ端部における稜線方向(周方向)に発生する最大引張残留応力を採用すればよい。
まず、本実施形態の前提とする、高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法は、図1に示すように、せん断加工による試験片作製の工程A、プレス成形の工程B、及び水素侵入環境下設置の工程Cを有する。そして、水素侵入環境下に置かれた試験片のフランジ端部(試験片端部)における亀裂の発生状況を評価することで、高張力鋼板の遅れ破壊特性を評価する。亀裂発生状況の評価方法自体は、従来の方法と同様に評価を行い、例えば、水素侵入環境下で予め設定した以上の亀裂が発生するまでの時間で評価する。
<試験片作製の工程A>
工程Aは、作製する製品と同じ材料及び厚さからなる鋼板、すなわち製品に使用する鋼板と同じ鋼板を用意し、その鋼板をせん断加工して、所定形状の試験片1を作製する工程である。試験片1の所定形状は、外周の輪郭形状が、辺(稜線)が4本以上の正多角形形状、つまり正四角形形状以上の角数の正多角形形状に設定する。
角数(稜線)を4以上としているのは、角数が3の正三角形形状の試験片1を採用した場合、フォーム成形もしくはフォームドロー成形によるプレス加工時のしわ抑えが不十分となる領域が発生しやすいためである。フランジ部に所定以上の高さのしわが発生すると、本発明の評価に適さない場合が多い。
せん断加工によって試験片1を作製した場合には、製品形状に成形される材料端部にせん断加工で負荷される塑性ひずみ(ダメージ)と同様な塑性ひずみを、試験片1の端部に付与出来る。
工程Bは、工程Aで作製した試験片1に対し、円形断面を有するパンチ10、ダイ11(上型)及びブランクホルダー12(シワ押さえ)を備えた金型(図4参照)によってプレス成形を施す工程である。
本実施形態の工程Bは、上記のプレス成形として、フォーム成形もしくはフォームドロー成形を採用する。ただし、使用する金型は、一般的な深絞り成形で使用される金型を使用すれば良く、パンチ10は、例えば図3のような円柱形状となっている。ここで、ブランクホルダー12に、材料の流入を制御するビードを付与しても良いが、本発明では材料端部(フランジ部1a)に応力を発生させることが重要なため、ブランクホルダー12にビードを付与しない方が好ましい。
次に、フォーム成形による工程Bの処理について、図4を参照して説明する。
まず、図4(a)のように、試験片1の外周であるフランジ部1aが上型であるダイ11とブランクホルダー12との間に位置するようにして、当該試験片を金型に設置する。このとき、上述の通り、ダイ11とブランクホルダー12の間に板厚+αのクリアランスを設けるように調整する。その状態で、パンチ10をプレス方向に移動させて、図4(b)のように、試験片1を所定の成形高さHにプレス成形する。
次に、フォームドロー成形による工程Bの処理について、図5を参照して説明する。
フォームドロー成形では、成形開始から成形途中まではフォーム成形でプレス成形を行い、その後、ドロー成形(絞り成形)を行う。
まず、図5(a)のように、試験片1の外周であるフランジ部1aが上型であるダイ11とブランクホルダー12との間に位置するようにして、当該試験片を金型に設置する。このとき、上述の通り、ダイ11とブランクホルダー12の間に板厚+αのクリアランスを設けるように調整する。その状態で、パンチ10をプレス方向に移動させて、図5(b)のように、試験片1を所定高さ(<H)にプレス成形する。
このとき、フォーム成形終了後、ブランクホルダー12を上昇させただけでもフランジ部1aのシワが平坦化されるため、フォーム成形後にブランクホルダー12を上昇させただけで成形した試験片1を用いて工程Cの遅れ破壊の評価をしても良い。すなわち、フォーム成形で所定の成形高さHまで成形した後に、フランジ部をダイ11とブランクホルダー12とで挟持することで、シワが平坦化させる処理を工程Bとしても良い。
ここで、成形後のフランジ端部に発生する引張応力は、試験片1の対角線長さD1とパンチ10の直径D0との比(D1/D0)である絞り比δによっても変化させることが可能である。絞り比δが小さいと成形終了時にフランジを残すことが困難となるおそれがあり、絞り比δが大きいと材料が流入しないため成形直後にパンチ肩で割れが発生する。よって、絞り比δは1.2以上2.0以下の範囲が好ましい。
工程Cでは、工程Bでプレス成形し離型した試験片1を水素侵入環境下(水素侵入雰囲気)に設置して、当該試験片1のフランジ端部における亀裂の発生状況(例えば発生までの時間)によって、上記高張力鋼板の遅れ破壊性を評価する。
試験片1の水素侵入環境下への設置は、例えば、図7(b)のように、塩酸やNH4SCN水溶液などの酸液20を収容した浴槽21内に、成形後の試験片1(図7(a)参照)を浸漬することで実施する。
次に、その成形条件決定工程Dについて説明する。
<成形条件決定工程D>
工程Dでは、遅れ破壊用の試験片1を作製するための工程Bで採用するプレス成形の成形条件を決定する。
まず、成形高さHおよび絞り比δと、金型から離型した試験片1のフランジ端部に発生する稜線方向の最大引張残留応力との関係を、使用する金型構成、工程Bで採用するフォーム成形もしくはフォームドロー成形で成形した試験片1の形状、試験片1の材料に応じて予め求める。なお、金型からの離型によって、試験片1にはスプリングバックが発生する。
工程Bでフォーム成形を採用した場合、上記の成形高さHおよび絞り比δと最大引張残留応力との関係は、例えば図8に示す関係となっている。また、所定高さH1までフォーム成形した後に、所定高さH2までドロー成形する場合の、ドロー成形高さH2および絞り比δと最大引張残留応力との関係は、例えば図9に示す関係となっている。なお、図9の場合、(H1+H2)が成形高さHに相当する。
ここで、図8及び図9に示す関係は、正八角形の試験片1(図2(a)参照)と、円柱状の円形断面のパンチ10(図3参照)を用いて、図4に示すような金型構成でフォーム成形若しくはフォームドロー成形(所定高さH1までフォーム成形後のドロー成形)した際の上記関係であって、シミュレーション解析で求めた例である。このとき、パンチ10の直径D0を50mmに設定した。図8では、試験片1を、引張強度1470MPa級の冷延鋼板(板厚1.4mm)から作製して、絞り比δを1.8に設定して、成形高さHとフランジ端部における稜線方向に発生する最大引張残留応力との関係を求めた。なお、シミュレーション解析は2次元のシェル要素を用いて実施した。
上記各シミュレーション解析は3次元ソリッドモデルを用いても構わない。また、実際のプレス成形実験後の試験片1を用いて最大引張残留応力を実際に計測することで、上記関係を求めても良い。
また、プレス加工した製品において、例えば、最大引張残留応力1000MPaが必要な場合、工程Bでフォームドロー成形を採用する場合、図8及び図9の関係から、絞り比δ=1.8では、成形高さH1=8mmまでフォーム成形し、その後H2=2〜6mmまでドロー成形をするように決定、すなわち、絞り比δ=1.8では成形高さH=10〜14mmと決定することができる。
パンチ10の直径D0は50mmとし、試験片1の寸法D1は90mmとし、絞り比δを1.8に設定した。図5のように、試験片1とパンチ10の中心が一致するようにして、試験片1を金型に設定して、成形高さH=14mmまで成形した。
図8のような成形高さH1および絞り比δと、金型から離型した試験片1のフランジ端部に発生する稜線方向の最大引張残留応力との関係は、上述の通りシミュレーション解析により求めた。このとき、解析には有限要素法ソフトウェアLS−DYNA ver.971を用いた。
上記プレス成形で作製した試験片1の遅れ破壊特性を評価するため、水素侵入条件下で試験片1を保持した。水素を試験片1に侵入させる条件としては種々あるが、今回はpH1の塩酸に試験片1を浸漬させ、試験片1に水素が十分侵入して飽和状態となると考えられる100時間保持した。
以上のことから、本発明によれば、プレス加工で製造される高張力鋼板を適用したセンターピラーやサイドシル等の自動車車体構造部材において、使用中に生じる遅れ破壊の可能性を部材の設計段階で適切に評価することが可能となり、自動車車体構造部材を効率的に設計、開発することができることが分かる。
1a フランジ部(試験片端部)
10 パンチ
11 ダイ
12 ブランクホルダー
20 酸液
21 浴槽
A 試験片作製の工程
B プレス成形の工程
C 水素侵入環境下設置の工程
D 成形条件決定工程
H 成形高さ
H1 フォームドロー成形でのフォーム成形高さ
H2 フォームドロー成形でのドロー成形高さ
δ 絞り比
Claims (5)
- 正四角形形状以上の角数の正多角形形状の高張力鋼板からなる試験片に対し、円形断面を有するパンチ、ダイ及びブランクホルダーを備えた金型によってフォーム成形若しくはフォームドロー成形を施し、成形後の上記試験片を水素侵入環境下に設置することによる当該試験片のフランジ部に発生する亀裂発生状況によって上記高張力鋼板の遅れ破壊性を評価し、
上記フォーム成形若しくはフォームドロー成形における、成形高さ及び絞り比(試験片の対角線長さ/パンチ径)と、上記成形後の試験片のフランジ部に発生する最大引張残留応力との関係を求め、その求めた関係に基づき、上記高張力鋼板と同じ材料及び厚さからなる鋼板を目的とする製品形状に成形することでその製品形状の材料端部に発生する残留応力の範囲内に、上記最大引張残留応力が存在する上記成形高さ及び絞り比の範囲を求め、
上記求めたフォーム成形若しくはフォームドロー成形の成形高さ及び絞り比の範囲内となるように上記成形条件を設定して、上記遅れ破壊性の評価を実施することを特徴とする高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。 - 正四角形形状以上の角数の正多角形形状の高張力鋼板からなる試験片に対し、円形断面を有するパンチ、ダイ及びブランクホルダーを備えた金型によってフォーム成形若しくはフォームドロー成形を施し、成形後の上記試験片を水素侵入環境下に設置することによる当該試験片のフランジ部に発生する亀裂発生状況によって上記高張力鋼板の遅れ破壊性を評価し、
上記フォーム成形若しくはフォームドロー成形における、成形高さ及び絞り比(試験片の対角線長さ/パンチ径)と、上記試験片のフランジ部に発生する最大引張残留応力との関係から、上記最大引張残留応力が上記高張力鋼板の0.2%耐力の50%以上150%以下の範囲に収まる上記最大引張残留応力が存在する上記成形高さ及び絞り比の範囲を求め、
上記求めたフォーム成形若しくはフォームドロー成形の成形高さ及び絞り比の範囲内となるように、上記成形条件を設定して、上記遅れ破壊性の評価を実施することを特徴とする高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。 - 上記最大引張残留応力と上記成形高さ及び絞り比との関係は、コンピュータによるシミュレーション解析によって求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
- 上記試験片は、高張力鋼板をせん断加工によって目的の形状に成形することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
- 上記高張力鋼板の引張強度が980MPa以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した高張力鋼板の遅れ破壊特性評価方法。
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