JP6784346B1 - プレス部品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
なお、プレス成形で縮みフランジ変形を伴うプレス加工では、離型後のスプリングバックによって、せん断端面に引張残留応力が付与されることが知られている。
従来、せん断端面の引張残留応力を低減するために、例えばせん断加工時の鋼板温度を上昇させる方法(非特許文献1、2)や、穴抜き加工時に段付きパンチを用いる方法(非特許文献3)、更に、シェービングによる方法(非特許文献4、特許文献1)など、せん断加工を工夫する方法が広く開発されている。
なお、特許文献2には、スプリングバックを低減し部品の寸法精度を高めることを目的として、縮みフランジ成形部位に複数の余肉ビードを形成して引張応力を与えると共に、伸びフランジ成形部位にエンボスを形成し該エンボスを潰して圧縮応力を与えることが記載されている。
また、特許文献2に記載の方法は、スプリングバックを低減するための技術であり、遅れ破壊対策技術ではない。更に、特許文献2に記載の余肉ビードは、縮みフランジ部の圧縮応力を低減させるために導入しており、遅れ破壊の原因となるせん断端面の引張残留応力の低減を目的としたものではない。
そして、課題を解決するために、本発明の一態様によれば、せん断端面を有する金属板をプレス成形してプレス部品を製造するプレス部品の製造方法であって、離型後に上記金属板のせん断端面の一部にせん断縁に沿った方向に引張残留応力が発生すると推定される第1のプレス成形工程を含み、上記第1のプレス成形工程の後工程として、少なくとも上記引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面の箇所を含む領域を、板厚方向に張出し成形する引張残留応力緩和工程を有することを要旨とする。
<金属板>
まず、プレス成形される金属板について説明する。
本実施形態で例示する金属板は、プレス成形後に有するせん断端面の引張り残留応力によって、プレス成形後に経時的に端部で遅れ破壊が起こる可能性のある高強度鋼板からなる。本発明は、金属板の引張強度が590MPa以上の高強度鋼板に好適に適用可能であるが、遅れ破壊が特に懸念される980MPa以上を有する高強度鋼板に効果的であり、1180MPa以上を有する高強度鋼板により効果的な技術である。
ここで、せん断端面の引張り残留応力は、端部のせん断の際にも入力される。
本実施形態では、図1に示すように、プレス成形の前工程としてのトリム工程2と、プレス工程3と、引張残留応力緩和工程5とを有する。また、本実施形態は、引張残留応力発生箇所特定部6を有する。
トリム工程2では、金属板1を、例えば、プレス部品4の部品形状に応じた輪郭形状に切断する。
プレス工程3では、トリム工程2後の金属板1を、上型と下型とを有するプレス金型を用いてプレス成形を行い、目的部品形状からなるプレス部品4を製造する。なお、プレス成形は、例えば、フォーム成形やドロー成形である。プレス工程3は、第1のプレス成形工程を構成する。
引張残留応力発生箇所特定部6は、プレス工程3の完了後の金属板におけるせん断端面に発生する、引張残留応力の発生箇所を特定する処理を行う。
引張残留応力の発生箇所を特定する第1の方法は、せん断加工した金属板1を実際にプレス成形し、プレス成形品の離形後の残留応力を直接測定する方法である。引張残留応力の発生箇所を特定する第2の方法は、成形解析により離形後の引張残留応力の発生箇所を推定する方法である。
このような観点から、本実施形態では、引張残留応力の発生箇所の特定を、次の第2の方法、つまり、成形解析により発生箇所を推定する方法で行う場合とする。
第2の方法としては、有限要素法に代表される成形解析を実施し、離型後の残留応力を推定する方法が好ましい。
また、引張残留応力発生箇所特定部6は、簡易的に、プレス成形で縮みフランジ成形する部分のせん断端面を、引張残留応力が発生すると推定される箇所として特定しても良い。
引張残留応力緩和工程5は、プレス工程3で目的部品形状にプレス成形されたプレス部品4に対し、引張残留応力発生箇所特定部6が特定した引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面の箇所Sを含む領域ARAを、板厚方向に張出し成形する(図2参照)。せん断縁に沿った方向において、引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面の箇所Sを含む領域を越えて、張出し成形する領域ARAを設定しても良い。
張出し成形する領域ARAは、張出し成形に伴って生じるせん断縁に沿った方向の引っ張り変形が、引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面の箇所の全域に及ぶように設定する。
張出し成形による張出し形状は、例えば、図2に示すように、せん断端面に対向する側からみた形状が、円弧形状(断面円弧状のビード形状など)となっている。張出し形状は、例えば、図3のような、ビード形状やせん断縁に沿った方向に延在する、円弧形状が連続した波型形状から構成されていても良い。
曲率半径Rは、5mm以上であれば上限に限定はない。曲率半径Rが無限大は断面が平坦であることを示す。
また、曲率半径Rは、張出し形状における、凸側の面又は凹側の面のどちらの面での曲率半径でも良いが、本実施形態では凸側の面での曲率半径とする。
張出し高さHの上限値は200mmである。これを超えるとプレス成形時にせん断縁に発生するひずみが大きくなり、伸びフランジが発生するおそれがある。また、プレス成形品内部に成形不良の一つであるしわが発生する可能性もある。より好ましくは、張出し高さHは100mm以下とするのが良い。
X1 > 1.03・X0 ・・・(A)
なお、張出し成形前後の線長差(X1-X2)の上限値は、張出し高さHと曲率半径Rとから自ずと規定される。
ここで、引張残留応力緩和工程5の後工程として、引張残留応力緩和工程5で形成した、端部の張出し形状の張出し高さHを小さくするプレス成形を実施しても良い。
また、引張残留応力緩和工程5で成形した張出し形状を有する部品形状を製品7の形状として設計し、プレス工程3で作製するプレス部品4では、その張出し形状を平坦にした形状に成形するように設計しても良い。
また、引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面に限定せず、せん断端面全域を対象として、引張残留応力緩和工程5による張出し成形を施しても良い。
(引張残留応力発生の様態)
ここで、プレス工程3で、角筒絞り成形を行い、プレス成形品のせん断端面に引張変形が発生する場合を例に説明する。
プレス工程3で、正方形の金属板1の中央部に角筒絞りをすると、絞りに伴う材料流入が生じつつ、金属板1の中央部は角筒状に変形する。このとき、角筒の外周のフランジ部におけるせん断縁の一部分は、せん断縁に沿った方向に縮みを伴う変形、つまり、縮みフランジ変形する。角筒絞りに伴い、せん断縁の部分には、縮みフランジ変形による圧縮応力が発生しており、一方で、縮みフランジ変形部近傍に、せん断縁の流入差や摩擦抵抗に伴う引張応力も発生している。このため、せん断縁に沿って不均一な応力分布が発生している。このように、金型に拘束されたプレス部品4には、プレス成形によって不均一な応力分布が生じている。この状態から、離型して不均一な応力分布を開放すると、プレス部品4には内部応力が残存し、これが残留応力となる。この残留応力のうち引張応力が、プレス成形後のプレス部品4での遅れ破壊発生の一要因となる。
発明者らは鋭意検討の結果、プレス成形後に上記のような引張残留応力が残存する部品の端部に張出し変形を加えることで、引張残留応力を低減できることを見出した。これについて、以下の通り説明する。
プレス成形品のせん断縁に引張残留応力が発生するのは、前述した通り成形中の引張と圧縮の不均一な応力分布が発生することが主要因である。本実施形態では、これを解消するために、引張残留応力緩和工程5にて、引張残留応力が発生する部分に均一な変形を加える。具体的には、引張残留応力緩和工程5にて、張出し成形による張出し形状によって引張残留応力発生部分のせん断縁の線長を増やし、圧縮を含まない引張変形を付与する。これによって、張出し成形の離型後に成形中の引張応力が解放されて、引張残留応力を低減することができる。
(1) せん断縁に、引張残留応力が発生している部分に対し、張出し変形により塑性変形を付与できること
(2) せん断縁に、引張残留応力が発生している領域より広い領域に張出し変形により引張変形を付与すること
(3) せん断縁に、張出し変形によって引張応力を付与した後、離形時にその引張応力が十分解放されること
(1)の条件が満たされない場合、離型後に元の形状に戻ってしまうため、引張応力はそのまま残存してしまう。
(2)の条件が満たされない場合、せん断縁に引張残留応力が大きい領域が残存してしまうおそれがあり、遅れ破壊発生を十分に抑制できないおそれがある。
(3)の条件が満たされない場合、ビード成形などの張出し成形によって新たに遅れ破壊発生懸念箇所を作るおそれがある。
発明者らが検討を重ねた結果、張出し高さHが10mm以上かつ張出し形状の頂点部の曲率半径Rが5mm以上であれば、上記の(1)〜(3)の条件を満足し、せん断縁に引張残留応力が発生している部分に張出し変形により塑性変形を付与することが可能であり、プレス成形後のせん断端面の引張残留応力を低減することができることが分かった。
張出し形状の頂点部の曲率半径Rが5mmより小さいと、張出し成形により頂点部に局所的に大きな変形を伴った形状がついてしまい、離形後にも引張応力が残存し、これが遅れ破壊の発生要因となってしまうおそれがある。
また、張出し高さHが10mmより小さいと、せん断縁に引張残留応力が発生している部分に十分に塑性変形が付与できずに、遅れ破壊抑制効果が期待できないおそれがある。より好ましくは、張出し高さHが20mm以上かつ張出し形状の頂点部の曲率半径Rが10mm以上とするのが良い。
なお、L1の上限は、張出し高さHや曲率半径Rから自ずと規定される。
ここでは、表1に示す機械的特性を有する1470MPa級冷延鋼板を対象に説明する。
パンチRは25mm、成形深さは25mmとした。
なお、ビード形状は、端部から内側に向けて高さが連続的に小さくなるように設定されている。
このとき、表2に示すように、成形された張出し形状の張出し高さ及び張出し頂部の曲率半径を変更して、複数の試験品を製造した。
浸漬試験の浸漬に使用した薬液は、0.1%濃度のNH4SCN溶液とMcILVAINE緩衝溶液とを合わせて構成し、pHが5.6の薬液とした。また、浸漬時間は24時間とした。
そして、浸漬後のせん断端面から発生する割れの有無を確認し、模擬的に遅れ破壊の割れ判定とした。
また、角筒絞り及び張出し成形による成形解析を実施し、せん断縁に発生した応力を算出した。成形解析は対称性を考慮して1/4モデルとした。材料モデルとしてはYoshida−Uemoriモデルを使用し、成形解析上で離型後の残留応力を評価した。
張出し形状を有した金型による試験品の浸漬試験及び残留応力測定の結果を、表2〜表4に示す。ここで、張出形状の幅L1は、図8に示す位置である。成形後の線長X1は図9に示す位置である。
また、せん断縁の残留応力低減効果も確認できた。頂点部の曲率半径については、張出し高さHが40mmにおいて、頂点部の曲率半径が5mm〜30mmでは、浸漬試験による割れが回避できた。一方で頂点部の曲率半径が3mmでは割れが発生した。
以上から、張出し形状の高さが10mm以上かつ張出し形状の頂点部の半径が5mm以上であることが適切であるといえる。
また、表4から分かるように、張出し高さが10mm、頂点部の曲率半径が104mmにおいて、X1とX0の比(X1/X0)が1.05と1.15だと浸漬試験による割れが発生せず、比(X1/X0)が1.02と1.03で割れが発生した。以上から、張出し成形の成形前の長さX0と成形後の長さX1の線長差について、X1> 1.03・X0が適切であるといえる。
2 トリム工程
3 プレス工程(第1のプレス成形工程)
4 プレス部品
5 引張残留応力緩和工程
6 引張残留応力発生箇所特定部
7 製品
Claims (5)
- せん断端面を有する金属板をプレス成形してプレス部品を製造するプレス部品の製造方法であって、
離型後に上記金属板のせん断端面の一部にせん断縁に沿った方向に引張残留応力が発生すると推定される第1のプレス成形工程を含み、
上記第1のプレス成形工程の後工程として、少なくとも上記引張残留応力が発生すると推定されるせん断端面の箇所を含む領域を、板厚方向に張出し成形する引張残留応力緩和工程を有し、
上記引張残留応力緩和工程での張出し成形で形成される張出し形状を、せん断端面から離れるほど、張出し高さが小さくなるように設定することを特徴とするプレス部品の製造方法。 - 上記引張残留応力が発生すると推定される箇所を、上記金属板の成形解析を実施し、離型後の成形解析結果から特定することを特徴とする請求項1に記載したプレス部品の製造方法。
- 上記引張残留応力緩和工程での張出し成形で、せん断端面を、張出し高さが10mm以上で且つ張出し頂点部でのせん断縁に沿った方向の曲率半径が5mm以上の張出し形状に成形することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したプレス部品の製造方法。
- 上記引張残留応力緩和工程での張出し成形で、上記せん断縁に沿った張出し成形される部分の張出し成形前の長さをX0とし、上記せん断縁に沿った張出し成形される部分の張出し成形後の長さをX1としたとき、下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したプレス部品の製造方法。
X1 > 1.03・X0 ・・・(1) - 上記金属板の引張強度が980MPa以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したプレス部品の製造方法。
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