A.実施形態:
A1.スパークプラグの構成:
図1は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグの製造方法により製造されたスパークプラグ100を示す部分断面図である。なお、図1において、スパークプラグ100の左側は、スパークプラグ100の軸線OLを通る断面形状を示し、スパークプラグ100の右側は、スパークプラグ100の外観形状を示している。以降では、軸線OLに沿った方向と平行な方向を軸線方向ODと呼ぶ。また、軸線方向ODを図面における上下方向として、下側(後述する接地電極30が配置されている側)を先端側と呼び、上側(後述する端子金具40が配置されている側)を基端側と呼ぶ。
スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、端子金具40と、主体金具50と、接地電極30と、を備えている。これらのうち、接地電極30を除く他の構成要素は、いずれもスパークプラグ100の軸線OLと同じ軸線を有する。
絶縁碍子10は、アルミナ等のセラミックス材料を焼成して形成された筒状の部材である。絶縁碍子10には、軸線方向ODに沿って延びる貫通孔12が形成されており、絶縁碍子10は、貫通孔12において中心電極20および端子金具40を保持する。絶縁碍子10において、軸線方向ODの中央部には外径が最も大きな鍔部19が形成されており、それより基端側には基端側胴部18が形成されている。鍔部19より先端側には、基端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成され、さらにその先端側胴部17よりも先端側に、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13は先端側ほど縮径され、スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には縮径部15が形成されている。縮径部15の外径は、軸線方向ODに沿って先端側に向かうにつれて小さくなる。
中心電極20は、軸線方向ODに延びる棒状の外観形状を有する。中心電極20は、先端部が絶縁碍子10から露出するように、絶縁碍子10の貫通孔12内に収容されている。中心電極20は、電極母材21の内部に芯材25を埋設した構造を有している。電極母材21は、インコネル(商標名)600または601等のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から形成されている。芯材25は、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金から形成されている。中心電極20の先端には、中心電極チップ90が接合されている。中心電極チップ90は、軸線方向ODに伸びた略円柱形状を有しており、耐火花消耗性を向上するため、比較的高融点の貴金属を含有する合金により形成されている。本実施形態では、中心電極チップ90は、白金(Pt)とニッケル(Ni)とからなる合金(白金合金)により形成されている。なお、白金合金に代えて、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、或いはこれらの貴金属のうち白金(Pt)を除く他の貴金属の合金によって形成してもよい。中心電極20は、シール体4およびセラミック抵抗3を経由して、端子金具40に電気的に接続されている。本実施形態では、シール体4は、導電性ガラス粉末により形成されている。かかる粉末としては、例えば、銅粉末とホウケイ酸カルシウムガラス粉末とを混合した粉末を採用することができる。端子金具40には、高圧ケーブル(図示せず)がプラグキャップ(図示せず)を介して接続され、高電圧が印加される。
主体金具50は、低炭素鋼材より形成された筒状の金具であり、スパークプラグ100を内燃機関のエンジンヘッド200に固定する。主体金具50には、軸線方向ODに沿って貫通孔65が形成されており、主体金具50は、貫通孔65において絶縁碍子10を保持する。主体金具50の表面全体には、耐食性を向上させるために、ニッケルめっき層が形成されている。
主体金具50は、工具係合部51と、取付ねじ部52とを備えている。工具係合部51は、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位である。主体金具50の取付ねじ部52は、ねじ山が形成された部位であり、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッド200の取付ねじ孔201に螺合する。
主体金具50の工具係合部51と取付ねじ部52との間には、鍔状のシール部54が形成されている。取付ねじ部52とシール部54との間のねじ首59には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けた際に、シール部54の座面55と取付ねじ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形により、スパークプラグ100とエンジンヘッド200間が封止され、取付ねじ孔201を介したエンジン内の気密漏れが防止される。
主体金具50の工具係合部51より基端側には、薄肉の加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に、薄肉の圧縮変形部58が設けられている。主体金具50の工具係合部51から加締部53にかけての内周面と、絶縁碍子10の基端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が介在されている。さらに両リング部材6,7間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53を内側に折り曲げるようにして加締めると、絶縁碍子10は、リング部材6,7およびタルク9を介して主体金具50内の先端側に向け押圧される。これにより、絶縁碍子10の縮径部15は、主体金具50の内周に形成された段部56に支持され、主体金具50と絶縁碍子10とは、一体となる。このとき、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性は、絶縁碍子10の縮径部15と主体金具50の段部56との間に介在された環状の板パッキン8によって保持され、燃焼ガスの流出が防止される。板パッキン8は、例えば、銅やアルミニウム等の熱伝導率の高い材料によって形成される。板パッキン8の熱伝導率が高いと、絶縁碍子10の熱が主体金具50の段部56に効率よく伝わるため、スパークプラグ100の熱引きがよくなり、耐熱性を向上させることができる。圧縮変形部58は、加締めの際に、圧縮力の付加に伴い外向きに撓み変形するように構成されており、タルク9の圧縮ストロークを稼いで主体金具50内の気密性を高めている。なお、主体金具50の段部56よりも先端側と絶縁碍子10との間には、所定寸法のクリアランスCLが設けられている。
接地電極30は、耐腐食性の高い金属から形成され、例えば、インコネル(商標名)600または601等のニッケル合金から形成されている。この接地電極30の基部32は、溶接によって、主体金具50の先端部57に接合されている。また、接地電極30は屈曲しており、接地電極30の先端部33には、接地電極チップ95が接合されている。本実施形態では、接地電極チップ95が溶接される部分の表面の最大高さRyは、8.4μm以上、かつ、100μm以下である。
接地電極チップ95は、中心電極チップ90と軸線方向ODに対向しており、接地電極チップ95と、中心電極チップ90との間には、火花放電ギャップGが形成されている。本実施形態では、接地電極チップ95は、中心電極チップ90と同じ材料(白金合金)により形成されている。本実施形態では、接地電極チップ95における白金(Pt)の含有率を60wt%以上、かつ、95wt%以下とする。なお、接地電極チップ95を、中心電極チップ90とは異なる材料により形成してもよい。この場合、接地電極チップ95を、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、或いはこれらの貴金属のうち白金(Pt)を除く他の貴金属の合金によって形成してもよい。接地電極30において、基部32および接地電極チップ95の接合部分を除く他の部分の表面には、ニッケルめっき層が形成されている。本実施形態では、接地電極チップ95において、接地電極30と溶接される面の面積は、0.13mm2以上、かつ、15.90mm2以下である。
A2.スパークプラグの製造方法:
図2は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100の製造処理の概略手順を示すフローチャートである。スパークプラグ100を製造する際には、まず、スパークプラグ100を構成するための各部材を準備する(ステップS105)。ステップS105で準備される主体金具50の表面には、ニッケルめっき層は形成されていない。また、ステップS105で準備される接地電極30は、主体金具50に接合されておらず、かつ、屈曲していない。加えて、接地電極30の表面には、ニッケルめっき層は形成されていない。すなわち、ステップS105において準備される接地電極30は、ニッケル合金により形成されている棒状の部材である。
絶縁碍子10と中心電極20とを組み付ける(ステップS110)。より具体的には、絶縁碍子10の貫通孔12に、中心電極20、シール体4、セラミック抵抗3、シール体4、および端子金具40をこの順序で挿入し、加熱しながら端子金具40を先端側に押圧して、絶縁碍子10と中心電極20とを組み付ける。
主体金具50に接地電極30を接合する(ステップS115)。本実施形態では、かかる接合は、抵抗溶接により実行される。次に、ステップS115により得られた部材(主体金具50に接地電極30が接合された部材)に、ニッケルめっき処理を行う(ステップS120)。この処理により、主体金具50および接地電極30の表面全体にニッケルめっき層が形成される。ステップS120におけるめっき処理は、公知の方法により実現できる。例えば、回転するバレルを用いた電解ニッケルめっき処理や、静止めっき法など任意の方法を用いることができる。また、ニッケルめっき処理後に、主体金具50および接地電極30の表面にクロメート層を形成する電解クロメート処理を行ってもよい。
ステップS120が完了すると、表面粗さ調整処理が実行される(ステップS125)。かかる処理は、接地電極30において、接地電極チップ95が接合される予定の部分を含む先端部33寄りの部分(以下、「対象部分」と呼ぶ)において、表面粗さを調整する処理を意味する。本実施形態において、「表面粗さ」とは、表面の凹凸具合を示し、最大高さRyにより特定される。最大高さRyは、JIS(日本工業規格) B0601:1994に規定されている表面粗さを示すパラメータであり、最大高さRyが大きいほど表面の粗さは大きい。
図3は、実施形態における対象部分を示す説明図である。図3に示すように、主体金具50の先端部57には、接地電極30(屈曲する前の棒状部材)が接合されている。図3に示すように、実施形態における対象部分tpは、接地電極30における基部32を除く部分であり、先端部33を含む部分である。換言すると、対象部分tpは、接地電極30のうち、主体金具50との接合部分から軸線方向ODに沿って先端側に所定の距離d1だけ離れた位置から、接地電極30の先端側の端面EFに至るまでの間の部分を意味する。本実施形態では、前述の所定の距離d1は、3mmであるが、3mmに限らず任意の長さに設定してもよい。
図4は、実施形態における表面粗さ調整処理の手順を示すフローチャートである。表面粗さ調整処理とは、対象部分におけるニッケルめっき層を剥離しつつ、表面粗さを調整する処理を意味する。まず、所定成分の剥離液を準備する(ステップS205)。本実施形態において、剥離液は、ニトロ化合物と、炭酸塩と、アミン化合物とを含むアルカリ性溶液である。本実施形態では、ニトロ化合物としてニトロベンゼンを用いるが、ニトロベンゼンに代えて、o−ジニトロベンゼンや、1,3,5−トリニトロベンゼンなどの任意のニトロ化合物を用いることができる。また、本実施形態では、炭酸塩として炭酸ナトリウムを用いるが、炭酸ナトリウムに代えて、炭酸カルシウムなどの任意の炭酸塩を用いることができる。また、本実施形態では、アミン化合物としてエチレンジアミンを用いるが、エチレンジアミンに代えて、ジエチレントリアミンなどの任意のアミン化合物を用いることができる。
本実施形態において、剥離液におけるニトロ化合物の含有量は、30〜250g/lである。剥離液における炭酸塩の含有量は、6〜50g/lである。剥離液におけるアミン化合物は、45〜300ml/lである。剥離液のPHは、9〜11であることが好ましい。本実施形態では、ニトロ化合物および炭酸塩の含有量を制御することにより、最大高さRyを調整する。ニトロ化合物および炭酸塩の含有量が高いほど、接地電極30(ニッケル合金)の溶融力が強くなるので、ニッケルめっき層を剥離すると共に、接地電極30の表面をより粗くできる。換言すると、最大高さRyをより大きくできる。接地電極30の表面粗さを大きくすることにより、接地電極チップ95と接地電極30とを接合する際に、接地電極チップ95と接地電極30との間の抵抗を大きくして発熱量が増大できる。このため、接地電極チップ95および接地電極30をより溶融し易くでき、接地電極チップ95と接地電極30との接合性を向上できる。但し、接地電極30の表面粗さが大き過ぎると、接地電極30とチップ95との間の隙間が大きくなり過ぎるため、接地電極30が酸化しやすくなり、電極チップの接合性が低下する。また、接地電極30の表面粗さが小さ過ぎる、換言すると、最大高さRyが8.4μmよりも小さいと、接地電極30の表面の凹凸が非常に小さいため、抵抗溶接の際の接地電極チップ95と接地電極30との間の抵抗が小さくなって発熱量が低下する。その結果、接地電極チップ95および対象部分tpが溶融しづらくなり接合性が低下する。このようなことから、本実施形態では、ニトロ化合物および炭酸塩の含有量を調整することにより、最大高さRyを、8.4〜100μm(8.4μm以上、かつ、100μm以下)の範囲とする。
また、本実施形態では、アミン化合物の含有量を制御することにより、接地電極30の表面における炭素(C)の濃度(含有率)と、酸素(O)の濃度(含有率)とを調整する。アミン化合物の含有量が大きいほど、接地電極30の表面においてより多量の炭素(C)および酸素(O)を除去できる。接地電極30の表面に多くの炭素(C)および酸素(O)が存在すると、接地電極チップ95と接地電極30との間を流れる電流が低下して、接地電極チップ95および接地電極30における発熱量が低くなる。このため、接地電極チップ95および接地電極30の溶融量が少なくなって接合性が低下する。そこで、本実施形態では、接地電極30の表面における炭素(C)および酸素(O)を除去することにより、接地電極チップ95の溶接強度を向上させる。本実施形態では、接地電極30(対象部分tp)の表面における炭素(C)と酸素(O)の合計濃度を、0.1wt%以上、かつ、14wt%以下とする。本実施形態において、「対象部分tpの表面」とは、走査型電子顕微鏡による電子線の走査対象となり得る部分を意味し、最外位置に存在する分子だけでなく電子線を受け得る分子を含む面、或いは領域(空間)を含む広い概念を意味する。
図4に示すように、ステップS205において準備された剥離液に対象部分tpを含浸させて、対象部分tpのニッケルめっき層を剥離すると共に、対象部分tpの表面粗さを調整する(ステップS210)。例えば、接地電極30が接合された主体金具50を、接地電極30の端面EFが鉛直下方に位置するように専用の治具で固定し、その状態のまま、剥離液の入った剥離液槽に接地電極30の対象部分tpが継続的に浸かるように、専用の治具を支持する。
本実施形態では、ステップS210を実行する際に、剥離液の温度を40℃から70℃とする。また、剥離液に対象部分tpを含浸させる時間を1分から120分とする。なお、剥離液に対象部分tpを含浸させている状態で、剥離液を攪拌することが好ましい。
次に、対象部分tpを水洗いする(ステップS215)。本実施形態では、市水を用いて常温で1分間、対象部分tpを洗浄する。かかる処理により、対象部分tpの表面に付着した剥離液が除去される。続いて、対象部分tpを乾燥させる(ステップS220)。本実施形態では、ステップS215完了後の主体金具50を、55℃に設定された恒温槽に5分間放置することにより、対象部分tpを乾燥させる。
図2に示すように、表面粗さ調整処理(ステップS125)が完了すると、各部材を組み付ける(ステップS130)。具体的には、ステップS110で組み付けられた絶縁碍子10および中心電極20と、表面粗さ調整後の主体金具50とを組み付ける。このとき、加締部53が内側に折り曲げるようにして先端側に押圧されることにより、圧縮変形部58が圧縮変形し、この圧縮変形部58の圧縮変形により、絶縁碍子10は、リング部材6,7およびタルク9を介して主体金具50内で先端側に向け押圧される。
ステップS125において表面粗さが調整された後の対象部分tpに、接地電極チップ95を溶接する(ステップS135)。前述のステップS125において、対象部分tpの表面粗さが適切な大きさとなるように調整されているため、本ステップS135により接地電極チップ95が対象部分tpに溶接されると、対象部分tp(接地電極30)と接地電極チップ95との接合性は向上する。
次に、接地電極30を内側に向かって屈曲させる(ステップS140)。このとき、火花放電ギャップGの寸法が所定の寸法となるように、接地電極30に対して曲げ加工を行なう。その後、主体金具50にガスケット5を取り付けて(ステップS145)、スパークプラグ100が完成する。
対象部分tpにおいて、最大高さRyが8.4μmよりも小さいと、対象部分tpの表面の凹凸が非常に小さいため、抵抗溶接の際の接地電極チップ95と対象部分tpとの間の抵抗が小さくなって発熱量が低下する。その結果、接地電極チップ95および対象部分tpが溶融しづらくなり接合性が低下してしまう。また、最大高さRyが100μmよりも大きいと、対象部分tpの表面の凹凸が非常に大きいために、接地電極チップ95と対象部分tpとの間に隙間が多量に存在してしまう。その結果、接合性が低下してしまう。これらに対し、本実施形態のスパークプラグ100の製造方法によれば、対象部分tpにおいて、最大高さRyが8.4〜100μmとなるように表面粗さを調整できるので、接地電極30と接地電極チップ95との接合性を向上できる。
加えて、対象部分tpの表面における炭素(C)および酸素(O)の合計濃度を適切な濃度(0.1wt%以上、かつ、14wt%以下)に調整するので、接地電極チップ95の溶接強度を向上できる。
また、対象部分tpにおけるニッケルめっき層の剥離、表面粗さの調整、および、対象部分tpの表面の炭素(C)と酸素(O)の合計濃度の調整を同時に行なう場合は、それぞれの処理を別々に実行する構成に比べて、スパークプラグ100の製造期間を短縮できる。
また、剥離液として、アルカリ性溶液を用いるので、酸性溶液を用いる構成に比べて、対象部分tpの表面粗さを過剰に大きくすることを抑制できる。したがって、例えば、接地電極30の構成として、ニッケルを主成分とする母材の内部に、銅または銅を主成分とする芯材が配置されている構成である場合に、芯材が露出する程度まで表面粗さを大きくしてしまうことを抑制できる。
また、接地電極チップ95において、接地電極30と溶接される面の面積は、0.13mm2以上、かつ、15.90mm2以下の大きさであるので、接地電極30と接地電極チップ95との接合性を向上できる。これは、以下の理由による。抵抗溶接の際に接地電極チップ95および対象部分tpに供給される熱は、対象部分tpにおいて接地電極チップ95と接する部分(すなわち、対象部分tp表面の凹凸のうちの凸部分)に供給され、かかる部分を溶融させる。したがって、接地電極チップ95において接地電極30(対象部分tp)と溶接される部分の面積が適切な大きさであると、比較的少ない凸部に熱を集中させることができ、凸部をより溶融させ易くできる。このため、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を高めることができる。これに対して、上記実施形態とは異なり、接地電極30と溶接される接地電極チップ95の面積が大きすぎる若しくは小さすぎると、溶接時に溶融部への熱供給が不十分となる(溶接時の放熱と受熱のバランスが悪くなる)。より具体的には、接地電極30と溶接される接地電極チップ95の面積が大きすぎると、接地電極チップ95において溶接の際に溶接用電極と接触しない部分が多くなり、かかる部分からの放熱量が多くなる。このため、溶融部への熱供給が不十分となる。他方、接地電極30と溶接される接地電極チップ95の面積が小さすぎると、溶接用電極において接地電極チップ95と接触しない部分が多くなり、かかる部分からの放熱量が多くなる。このため、溶融部への熱供給が不十分となる。このように、溶接時に溶融部への熱供給が不十分となると、接地電極チップ95と対象部分tpとの間に隙間が多量に存在することとなり、接合性が低下する。
また、接地電極チップ95を白金合金により形成すると共に、白金(Pt)の含有率を60wt%以上、かつ、95wt%以下とするので、接地電極チップ95の溶融温度が非常に高温となること若しくは非常に低温になることを抑制できる。このため、接地電極チップ95を溶融させ易くして、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できる。
B.第1実施例:
第1実施例では、上述のスパークプラグ100の製造方法のうち、剥離液におけるニトロ化合物(ニトロベンゼン)の含有量と、炭酸塩(炭酸ナトリウム)の含有量とを異ならせることにより、表面粗さが互いに異なる複数の試料を製造した。また、比較例として、剥離液におけるニトロ化合物(ニトロベンゼン)の含有量及び炭酸塩(炭酸ナトリウム)の含有量が、実施形態とは異なる比較例としての複数の試料を製造した。そして、各試料に対して、冷熱試験を行なった。
図5は、第1実施例における各試料の製造条件と、冷熱試験の結果とを示す説明図である。図5に示す5つの試料S1〜S5は、第1実施例のスパークプラグ100である。これら5つの試料S1〜S5の製造過程において、剥離液におけるニトロ化合物の含有量は、30〜250g/lであり、炭酸塩の含有量は、6〜50g/lであった。これに対して、比較例としての試料R1の製造工程において、剥離液におけるニトロ化合物の含有量は、20g/lであり、炭酸塩の含有量は、4g/lであった。また、比較例としての試料R2の製造工程において、剥離液におけるニトロ化合物の含有量は、300g/lであり、炭酸塩の含有量は、60g/lであった。
前述のように剥離液におけるニトロ化合物の含有量および炭酸塩の含有量を互いに異ならせることにより、各試料S1〜S5,R1,R2の表面粗さ(最大高さRy)は、互いに異なっている。すなわち、試料S1の最大高さRyは、8.4μmであった。また、試料S2の最大高さRyは10μm、試料S3の最大高さRyは20μm、試料S4の最大高さRyは60μm、試料S5の最大高さRyは100μm、試料R1の最大高さRyは7.0μm、試料R2の最大高さRyは120μmであった。図5から理解できるように、ニトロ化合物の含有量および炭酸塩の含有量がより大きくなるほど、表面粗さ(最大高さRy)がより大きくなっている。なお、各試料S1〜S5,R1,R2の最大高さRyは、非接触三次元測定装置(三鷹光器株式会社製 NH−3)により測定した。測定ピッチは5μmに、カットオフ値は0.8mmにそれぞれ設定した。
図5に示すように、第1実施例の5つの試料S1〜S5および比較例の2つの試料R1,R2の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量、剥離液のPH、剥離液の温度、および剥離液に対象部分tpを含浸させる時間は、いずれも同じであった。すなわち、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、60ml/lであった。剥離液のPHは、10であった。剥離液の温度は60℃であった。剥離液に対象部分tpを含浸させる時間は、10分間であった。
各試料S1〜S5,R1,R2の接地電極チップ95において、白金(Pt)の含有率は90%であり、ニッケル(Ni)の含有率は10%であった。また、各試料S1〜S5,R1,R2の製造過程において、ステップS135(接地電極チップ95の溶接)では、25kgの荷重を加えながら、0.70〜0.72(kA)の電流を加えて接地電極チップ95を接地電極30に抵抗溶接した。
本実施例における冷熱試験は、以下のように実行した。まず、接地電極チップ95が溶接された接地電極30の先端部33を切断し、かかる先端部33をバーナーにより加熱する。このとき、先端部33が1050℃プラスマイナス20℃となるように加熱を行なった。そして、加熱を2分間行ない、その後、徐冷を1分間行なうことを1サイクルとし、かかるサイクルを500回実行した。
図6は、冷熱試験後における先端部33の状態を模式的に示す断面図である。図6では、軸線OLを含み、かつ、接地電極チップ95を通る先端部33の断面を示している。図6を用いて冷熱試験の結果の評価方法について以下説明する。
図6に示すように、接地電極チップ95と接地電極30との接合部分の表面には、冷熱試験において雰囲気中の酸素により金属が酸化して、酸化部(酸化スケール)が生じている。具体的には、接地電極チップ95において、軸線方向ODと平行な側面部分に、第1の酸化部X1と、第2の酸化部X2とが生じている。また、接地電極チップ95において、先端側の端面に第3の酸化部X3が生じている。
酸化部では、接地電極チップ95と接地電極30との接合力が低下する。このため、酸化部が小さいほど接合性は高いと評価できる。そこで、本実施形態では、接地電極チップ95と接地電極30との接合箇所の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さに対する、各酸化部X1,X2,X3の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さの合計との比(以下、「酸化スケール比OXr」と呼ぶ)を求め、かかる酸化スケール比OXrが小さいほど、接合性が高いと評価した。図6の例では、第1の酸化部X1の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さをe1とし、第2の酸化部X2の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さをe2とし、第3の酸化部X3の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さをe3とし、接地電極チップ95と接地電極30との接合箇所の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さをEとすると、酸化スケール比OXrは下記式(1)により算出される。
OXr=(e1+e2+e3)/E×100% ・・・(1)
なお、各酸化部の軸線方向ODの垂直方向に沿った長さは、各試料S1〜S5,R1,R2の先端部33の断面において顕微鏡(オリンパス光学株式会社製:BX51M)を用いて特定した。
そして、酸化スケール比OXrが0%以上かつ25%未満である場合に、最も高い評価「◎」とし、酸化スケール比OXrが25%以上かつ50%未満である場合に、2番目に高い評価「○」とし、酸化スケール比OXrが50%以上である場合に、最も低い評価「×」とした。
図5に示すように、試料S1の冷熱試験結果は、「○」であった。また、第1実施例の他の4つの試料S2〜S5の冷熱試験結果は、いずれも「◎」であった。したがって、第1実施例の5つの試料S1〜S5では、いずれも酸化部が比較的小さく、接合性が比較的高いと評価された。
これに対して、比較例の2つの試料R1,R2の冷熱試験結果は、いずれも「×」であった。したがって、これらの2つの試料R1,R2では、いずれも酸化部は比較的大きく、接合性が比較的低いと評価された。試料R1では、最大高さRyは7.0μmと、第1実施例の5つの試料S1〜S5の最大高さRyに比べて小さい。このため、抵抗溶接時の接地電極チップ95と対象部分tpとの間の抵抗が小さくなって発熱量が低下したために、接合性が低下したものと推測される。試料R2の最大高さRyは120μmであり、第1実施例の5つの試料S1〜S5の最大高さRyに比べて大きい。このため、接地電極チップ95と対象部分tpとの間に多くの隙間が生じたために酸化が進み、接合性が低下したものと推測される。
以上説明した第1実施例によれば、接地電極30(対象部分tp)の表面粗さを、最大高さRyが8.4μm以上、かつ、100μm以下の範囲となるように調整することにより、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できる。より好ましくは、最大高さRyが10μm以上、かつ、100μm以下の範囲となるように調整することにより、接合性をより向上できる。
C.第2実施例:
第2実施例では、上述のスパークプラグ100の製造方法のうち、剥離液におけるアミン化合物(エチレンジアミン)の含有量を異ならせることにより、接地電極30(対象部分tp)表面における炭素(C)および酸素(O)の合計濃度が互いに異なる複数の試料を製造した。また、比較例として、接地電極30(対象部分tp)表面における炭素(C)および酸素(O)の合計濃度が、実施形態の濃度範囲(0.1wt%以上、かつ、14wt%以下)から外れた複数の試料を製造した。そして、各試料に対して、冷熱試験を行なった。
図7は、第2実施例における各試料の製造条件と、冷熱試験の結果とを示す説明図である。図7に示す10個の試料S6〜S15は、第2実施例のスパークプラグ100である。また、図7に示す2つの試料R3,R4は、第2実施例の比較例のスパークプラグである。これら10個の第2実施例の試料S6〜S15および2つの比較例の試料R3,R4の製造過程において、剥離液におけるニトロ化合物の含有量、剥離液における炭酸塩の含有量、剥離液のPH、剥離液の温度、剥離液に対象部分tpを含浸させる時間、および表面粗さ(最大高さRy)は、いずれも同じであった。すなわち、剥離液におけるニトロ化合物の含有量は、100g/lであった。剥離液における炭酸塩の含有量は、20g/lであった。剥離液の温度は60℃であった。剥離液のPHは、10であった。剥離液に対象部分tpを含浸させる時間は、10分間であった。表面粗さ(最大高さRy)は、20μmであった。
2つの試料S6,S7の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも45ml/lであった。また、2つの試料S8,S9の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも50ml/lであった。また、2つの試料S10,S11の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも60ml/lであった。また、2つの試料S12,S13の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも150ml/lであった。また、2つの試料S14,S15の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも300ml/lであった。また、2つの試料R3,R4の製造過程において、剥離液におけるアミン化合物の含有量は、いずれも30ml/lであった。
2つの試料S6,S7の製造過程において、対象部分tp表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、14wt%であった。2つの試料S8,S9の製造過程において、対象部分tp表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、10wt%であった。2つの試料S10,S11の製造過程において、対象部分tp表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、5wt%であった。2つの試料S12,S13の製造過程において、対象部分tp表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、1wt%であった。2つの試料S14,S15の製造過程において、対象部分tp表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、0.1wt%であった。比較例の2つの試料R3,R4の製造過程において、対象部分の表面の炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は、17wt%であった。
なお、図7に示すように、2つの試料S6,S7では、炭素(C)の濃度と、酸素(O)の濃度とが、互いに入れ替わっている。具体的には、試料S6の炭素(C)の濃度は9wt%であり、かつ、酸素(O)の濃度は5wt%であったのに対して、試料S7の炭素(C)の濃度は5wt%であり、かつ、酸素(O)の濃度は9wt%であった。同様に、2つの試料S8,S9、2つの試料S10,S11、2つの試料S12,S13、2つの試料S14,S15、および2つの試料R3,R4においてもそれぞれ、炭素(C)の濃度と、酸素(O)の濃度とが、互いに入れ替わっている。
図7に示すように、アミン化合物の含有量が異なることにより、炭素(C)および酸素(O)の合計濃度が異なっている。具体的には、アミン化合物の含有量が多いほど、炭素(C)および酸素(O)の合計濃度は小さくなっている。
第2実施例において、接地電極チップ95の構成、およびステップS135における抵抗溶接の条件は、第1実施例と同じであるので、説明を省略する。また、第2実施例における冷熱試験は、加熱および徐冷の実施サイクル数が1000回である点を除き、第1実施例の冷熱試験と同じであるので、詳細な説明を省略する。また、第2実施例における冷熱試験結果の評価方法は、第1実施例と同じであるので、詳細な説明を省略する。
接地電極30(対象部分tp)の表面における炭素(C)の濃度、および酸素(O)の濃度は、走査型電子顕微鏡(JEOL株式会社製:JSM−6490LA)を用いて、加速電圧を20kVに、スポット径を20μmにそれぞれ設定して、各位置について炭素および酸素の濃度を測定し、得られた結果の平均値を算出して求めた。
図7に示すように、試料S6,S7の冷熱試験結果は、「○」であった。また、第2実施例の他の8つの試料S8〜S15の冷熱試験結果は、いずれも「◎」であった。したがって、第2実施例の10個の試料S6〜S15では、いずれも酸化部が比較的小さく、接合性が比較的高いと評価された。
これに対して、比較例の2つの試料R3,R4の冷熱試験結果は、いずれも「×」であった。したがって、これらの2つの試料R3,R4では、いずれも酸化部は比較的大きく、接合性が比較的低いと評価された。これらの2つの試料R3,R4では、接地電極の表面における炭素(C)および酸素(O)の合計濃度が、第2実施例の試料S6〜S15に比べて大きい。このため、接地電極チップ95を接地電極30(対象部分tp)に溶接する際の接地電極チップ95および対象部分tpを通る電流量が低下して、接地電極チップ95および接地電極30の溶融量が低下したために、接合性が低下したものと推測される。
なお、図7に示すように、炭素(C)および酸素(O)の合計濃度が同じであって、炭素(C)濃度と酸素(O)濃度とが互いに入れ替わっている2つの試料では、互いに同じ結果となっている。このことからも理解できるように、炭素(C)および酸素(O)は、互いに同様に、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性の低下に寄与する。
以上説明した第2実施例によれば、対象部分tpの表面における、炭素(C)および酸素(O)の合計濃度を0.1wt%以上、かつ、14wt%以下とすることにより、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できる。より好ましくは、炭素(C)および酸素(O)の合計濃度を0.1wt%以上、かつ、10wt%以下とすることにより、接合性をより向上できる。
D.第3実施例:
第3実施例では、上述のスパークプラグ100の製造方法のうち、接地電極チップ95における接地電極30と溶接される面の面積が互いに異なる複数の試料を製造した。また、比較例として、接地電極チップにおける接地電極と溶接される面の面積が、実施形態の面積範囲(0.13mm2以上、かつ、15.90mm2以下)から外れた試料(スパークプラグ)を製造した。そして、各試料に対して冷熱試験を行なった。
図8は、第3実施例における各試料の接地電極チップの大きさと、冷熱試験の結果とを示す説明図である。図8に示す3つの試料S16〜S18は、第3実施例のスパークプラグ100である。また、図8に示す2つの試料R5,R6は、第3実施例の比較例のスパークプラグである。各試料S16〜S18,R5,R6の接地電極チップにおいて、対象部分tpを接する面は、略円形である。そして、試料S16の接地電極チップにおいて対象部分tpと接する面の直径は0.4mmであり、面積は、0.13mm2であった。試料S17の接地電極チップにおいて対象部分tpと接する面の直径は4mmであり、面積は、12.57mm2であった。試料S18の接地電極チップにおいて対象部分tpと接する面の直径は4.5mmであり、面積は、15.90mm2であった。試料R5の接地電極チップにおいて対象部分tpと接する面の直径は0.3mmであり、面積は、0.07mm2であった。試料R6の接地電極チップにおいて対象部分tpと接する面の直径は4.7mmであり、面積は、17.35mm2であった。
5つの試料S16〜S18,R5,R6の製造条件は、以下の通りである。
・剥離液におけるニトロ化合物の含有量・・・100g/l
・剥離液における炭酸塩の含有量・・・20g/l
・剥離液におけるアミン化合物の含有量・・・60ml/l
・剥離液のPH・・・10
・剥離液の温度・・・60℃
・剥離液に対象部分tpを含浸させる時間・・・10分間
・表面粗さ(最大高さRy)・・・20μm
第3実施例において、接地電極チップ95の構成、およびステップS135における抵抗溶接の条件は、第1実施例と同じであるので、説明を省略する。また、第3実施例における冷熱試験は、加熱および徐冷の実施サイクル数が1200回である点を除き、第1実施例の冷熱試験と同じであるので、詳細な説明を省略する。また、第3実施例における冷熱試験結果の評価方法は、第1実施例と同じであるので、詳細な説明を省略する。
図8に示すように、第3実施例の3つの試料S16〜S18の冷熱試験結果は、いずれも「○」であった。したがって、これら3つの試料S16〜S18では、いずれも酸化部は比較的小さく、接合性が比較的高いと評価された。これら3つの試料S16〜S18では、接地電極チップ95において対象部分tpと接する面の面積は、いずれも0.13mm2以上、かつ、15.90mm2以下と適切な大きさである。このため、接地電極チップ95と対象部分tpとを接合させる際に、対象部分tp表面の少ない凸部分に熱を集中させることができ、接地電極チップ95と対象部分tpとの接合性を向上させることができたと推測される。
これに対して、比較例の試料R5,R6の冷熱試験結果は、「×」であった。したがって、試料R5,R6では、いずれも酸化部は比較的大きく、接合性が比較的低いと評価された。試料R5では、接地電極チップ95において対象部分tpと接する面の面積は、0.07mm2と非常に小さい。また、試料R6では、接地電極チップ95において対象部分tpと接する面の面積は、17.35mm2と非常に大きい。このように、2つの試料R5,R6では、接地電極チップ95において対象部分tpと接する面の面積が小さすぎる又は大きすぎるために、溶接時の放熱と受熱とのバランスが悪化して溶接時における溶融部への熱供給が不十分となり、接地電極チップ95と対象部分tpとの間に多量の隙間が生じて、接合性が低下したものと推測される。
以上説明した第3実施例によれば、接地電極チップ95において対象部分tpと接する面の面積を0.13mm2以上、かつ、15.90mm2以下とすることにより、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できる。
E.第4実施例:
第4実施例では、上述のスパークプラグ100の製造方法のうち、接地電極チップ95の組成が異なる複数の試料を製造した。また、比較例として、接地電極チップ95の組成として、白金(Pt)の含有率が実施形態の含有率の範囲(60wt%以上、かつ、95wt%以下)から外れた試料(スパークプラグ)を製造した。そして、各試料に対して冷熱試験を行なった。
図9は、第4実施例における各試料の接地電極チップの組成と、冷熱試験の結果とを示す説明図である。図9に示す4つの試料S19〜S22は、第4実施例のスパークプラグ100である。また、図9に示す2つの試料R7,R8は、第4実施例の比較例のスパークプラグである。各試料S19〜S22,R7,R8の接地電極チップは、いずれも白金(Pt)とニッケル(Ni)との合金である。試料S19の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は95wt%であった。試料S20の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は85wt%であった。試料S21の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は70wt%であった。試料S22の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は60wt%であった。試料R7の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は97wt%であった。試料R8の接地電極チップ95において白金(Pt)の含有率は55wt%であった。
なお、各試料S19〜S22,R7,R8の接地電極チップの組成については、以下のようにして特定した。まず、接地電極チップを切断し、露出断面において所定数の任意位置を選択する。そして、選択された各々の位置において、電子線マイクロアナライザ(JEOL社製:JXA−8500F)を用いて質量測定を行い、各位置について得られた結果の平均値を算出して、接地電極チップの組成とした。なお、前述の電子線マイクロアナライザにおいて、加速電圧を20kVに、また、スポット径を100μmに設定して、WDS分析を行なうことにより、各接地電極チップの組成を特定することができる。
各試料S19〜S22,R7,R8の製造条件は、上述した第3実施例の5つの試料S16〜S18,R5,R6の製造条件と同じであるので、詳細な説明は省略する。また、第4実施例において、接地電極チップ95の構成、およびステップS135における抵抗溶接の条件は、第1実施例と同じであるので、説明を省略する。また、第4実施例における冷熱試験は、加熱および徐冷の実施サイクル数が1400回である点を除き、第1実施例の冷熱試験と同じであるので、詳細な説明を省略する。また、第4実施例における冷熱試験結果の評価方法は、第1実施例と同じであるので、詳細な説明を省略する。
図9に示すように、第4実施例の4つの試料S19〜S22の冷熱試験結果は、いずれも「○」であった。したがって、これら4つの試料S19〜S22では、いずれも酸化部は比較的大きく、接合性が比較的低いと評価された。これら4つの試料S19〜S22では、接地電極チップ95における白金(Pt)の含有率は、いずれも60wt%以上、かつ、95wt%以下である。このため、接地電極チップ95の溶融温度が適正化され、非常に高温となること若しくは非常に低温になることを抑制して、接地電極チップ95を溶融させ易くできるので、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できたものと推測される。
これに対して、比較例の試料R7の冷熱試験結果は、「×」であった。したがって、試料R7では、酸化部は比較的大きく、接合性が比較的低いと評価された。試料R7の接地電極チップにおける白金(Pt)の含有率は、97wt%と非常に高い。このため、接地電極チップの溶融温度が非常に高温となって接地電極チップを溶融させ難くなり、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性が低下したものと推測される。また、試料R8の白金(Pt)の含有率は、55wt%と非常に低い。このため、接地電極チップ95の溶融温度が非常に低くなって、冷熱の繰り返しによって接地電極チップ95の耐酸化性が低下し、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性が低下したものと推測される。
以上説明した第4実施例によれば、白金合金により形成された接地電極チップ95において、白金(Pt)の含有率を60wt%以上、かつ、95wt%以下とすることにより、接地電極チップ95と接地電極30(対象部分tp)との接合性を向上できる。
F.変形例:
F1.変形例1:
上述した実施形態および各実施例では、対象部分tpの表面粗さを調整する方法として、アルカリ性溶液である剥離液に含浸させていたが、本発明は、これに限定されるものではない。酸性溶液である剥離液に含浸させることにより対象部分tpの表面粗さを調整してもよい。また、やすりや砥石等の研削治具を用いて対象部分tpの表面粗さを調整してもよい。研削治具を用いて対象部分tpの表面粗さを調整する構成においては、最初に剥離液に含浸させてニッケルめっきを剥離し、その後、研削治具を用いて対象部分tpの表面粗さを調整する構成としてもよい。この構成では、ニッケルめっきを剥離した状態では、対象部分tpの表面の最大高さRyが8.4μmよりも小さい、或いは、100μmよりも大きくてもよく、その後の研削治具を用いた対象部分tpの表面粗さの調整により、最大高さRyを、8.4μm以上、かつ、100μm以下としてもよい。この構成、実施形態、および各実施例からも理解し得るように、本発明では、対象部分tpの表面のニッケルめっきを剥離する工程と、対象部分tpの表面粗さを調整する工程とを、同時に実行する構成と、それぞれ異なるタイミングで実行する構成とを、いずれも採用することができる。
F2.変形例2:
上述した実施形態および各実施例では、接地電極チップ95は、単一のチップにより形成されていたが、単一のチップに代えて、複数のチップにより形成してもよい。例えば、貴金属を含まない中間チップを対象部分tpに接合(溶接)し、かかる中間チップにおいて対象部分tpとの接合面とは反対の面に、貴金属を含む合金により形成された貴金属チップを接合(溶接)する構成を採用してもよい。このような中間チップとしては、例えば、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)等を含んだニッケル(Ni)合金により形成されたチップを用いることができる。なお、上記構成においては、中間チップおよび貴金属チップからなる複合チップが、請求項における電極チップに相当する。
F3.変形例3:
上述した実施形態および各実施例では、接地電極チップ95は、中心電極チップ90に対して軸線方向ODに対向していたが、本発明は、これに限定されるものではない。接地電極チップ95と中心電極チップ90とが、軸線方向ODと所定の角度をなす方向に対向する構成としてもよい。また、中心電極チップ90が省略され、接地電極チップ95と中心電極20とが軸線方向ODと垂直な方向に対向する、いわゆる横放電タイプのスパークプラグを、本発明を適用して製造してもよい。
本発明は、上述の実施形態や各実施例や各変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。