JP6108336B2 - 耐震補強構造 - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリート架構面に耐震補強部材が設置されてなる耐震補強構造に関する。
従来から、ラーメン構造の既存建築物の耐震補強として、コンクリート架構面に耐震補強部材を設置する工法が知られている。このような耐震補強の1つとしては、例えば下記の特許文献1に示されているように、架構の内側に耐震補強壁が設置された耐震補強構造がある。上記した耐震補強壁を用いた耐震補強には、鉄筋コンクリート造の耐震壁を架構内増設する工法や、壁状に形成された鋼材を架構内に設置する工法などがある。
また、別の耐震補強としては、例えば下記の特許文献2に示されているように、コンクリート架構面に耐震補強枠を設置された耐震補強構造がある。上記した耐震補強枠は、一般的には、架構の内周面に沿って配置されて架構の躯体に接合された複数の鋼材からなる枠材と、その枠材の内側に取り付けられた鉄骨ブレース或いはダンパーブレースと、を備えた構成からなる。
特開2011−122399号公報 特開2009−235686号公報
しかしながら、上記した従来の技術では、地震時に、耐震補強部材によって架構の躯体にパンチングシアーが働くという問題がある。例えば、架構面に耐震補強壁や耐震補強枠が設置された構成では、引張を受ける柱のうちの床上−梁下間の区間、すなわち上側の梁と下側の梁との間の区間における上端部及び下端部にパンチングシアー破壊が生じる傾向があり、また、梁端部にもパンチングシアー破壊が生じる傾向がある。このような破壊が生じると、架構の躯体が崩壊してその形状が保持できなくなる場合がある。
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、耐震補強が施された架構の躯体が破壊されても架構の形状を維持することを目的としている。
本発明に係る耐震補強構造は、隣り合う柱と該柱間に架設された上下の梁とからなるコンクリート造の架構の構面に、該架構の躯体に接合された耐震補強部材が設置されてなる耐震補強構造において、前記躯体の表面に、3面以上に亘って樹脂製の補強塗膜が被覆されており、前記補強塗膜が、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、又はウレアウレタン樹脂からなり、前記躯体の表面に塗布された接着性を有するプライマーを介して2〜4mmの塗布厚で被覆されてなり、前記躯体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記躯体を元の形状に戻す力が働き、前記躯体の変形後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられ、前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持された状態をなすことを特徴としている。
また、本発明に係る耐震補強構造は、隣り合う柱と該柱間に架設された上下の梁とからなるコンクリート造の架構の構面に、該架構の躯体に接合された耐震補強部材が設置されてなる耐震補強構造において、前記躯体の表面に、3面以上に亘って樹脂製の補強塗膜が被覆されており、前記補強塗膜が、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、又はウレアウレタン樹脂からなり、前記躯体に凹凸部を介して2〜4mmの塗布厚で被覆されてなり、前記躯体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記躯体を元の形状に戻す力が働き、前記躯体の変形後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられ、前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持された状態をなすことを特徴としている。
本発明では、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、又はウレアウレタン樹脂からなる補強塗膜が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であり、例えば10〜25MPa程度の高強度と例えば200%以上の大きな破断伸び(伸び変形性能)を有する。このため、躯体の変形が塑性域に達しても、補強塗膜が躯体の大変形に追従して伸び変形するので、補強塗膜によって躯体の変形に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、架構が高い軸圧縮力や曲げ応力、せん断応力(パンチングシアー)に対応することが可能となる。
仮に、高い軸圧縮力や曲げ応力、せん断応力(パンチングシアー)を受けることにより躯体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、補強塗膜は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜によって躯体の表面が被覆された状態が維持される。これにより、躯体のコンクリート片の散逸が防止され、また、躯体が崩壊せずに自立した形状が保持される。例えば、巨大地震時に高軸圧縮力や曲げ応力、せん断応力(パンチングシアー)を受けることによって破壊が生じたコンクリート片が散乱して避難の障害となったり、そのコンクリート片が周囲に飛散したりするといった被害の増大を防止することができる。
しかも、補強塗膜は変形抵抗を有しているので、地震時に柱や梁の躯体が撓み変形したときに、補強塗膜の変形抵抗力によって躯体を元の形状に戻す力が働く。その結果、躯体は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられる。
また、本発明の耐震補強構造によれば、躯体に補強塗膜を吹き付けや塗布することによって形成されるので、容易に且つ安価に施工することができ、既設の躯体においても容易に施工できる。
また、本発明の耐震補強構造によれば、躯体の3面以上が補強塗膜によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
また、本発明の耐震補強構造は、前記耐震補強部材が、前記躯体に接合された枠体を備える耐震補強枠、又は、前記架構の構面に沿って配設された耐震補強壁であり、前記柱のうちの上側の前記梁と下側の前記梁との間の区間における上端部及び下端部に前記補強塗膜がそれぞれ設けられ、前記梁のうちの両側の梁端部に前記補強塗膜がそれぞれ設けられていることが好ましい。
これにより、架構の躯体のうち、耐震補強枠や耐震補強壁によるパンチングシアー破壊が生じ得る箇所に補強塗膜が設けられるので、パンチングシアー破壊が生じる躯体の形状保持効果を確実に発揮させることができる。
また、本発明の耐震補強構造は、前記補強塗膜と合わせて補強繊維シートが前記躯体の表面に貼り付けられていることが好ましい。
これにより、架構の耐力を向上させることができる。すなわち、架構の耐力を補強繊維シートで行い、変形に対する粘り強さを補強塗膜で行うことができる。
これにより、躯体の3面以上が補強塗膜によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
また、本発明の耐震補強構造は、前記耐震補強部材と前記柱の躯体とが接合された構成において、前記補強塗膜が、前記柱の躯体の全周に亘って設けられていることがより好ましい。
これにより、閉じられた形状(筒状)の補強塗膜の内側に柱の躯体が収容された状態となり、上記したラッピング効果が大きくなり、高い形状保持が発揮される。
また、本発明の耐震補強構造は、前記耐震補強部材と前記梁の躯体とが接合された構成において、前記補強塗膜が、前記梁の躯体の下面及び両側の側面にそれぞれ設けられて断面視略コ字状に形成されていることがより好ましい。
これにより、U字溝状に形成された補強塗膜の内側に梁の躯体が収容された状態となり、上記したラッピング効果が大きくなり、高い形状保持が発揮される。
本発明に係る耐震補強構造によれば、耐震補強が施された架構の躯体が破壊されても架構の形状を維持することができる。
本発明の実施の形態による耐震補強構造の概略構成を示す側面図である。 図1に示すA−A間の断面図である。 図1に示すB−B間の断面図である。 図1に示すC−C間の断面図である。 ポリウレア樹脂の力学的特性を示すためのグラフであり、各材料の応力ひずみ関係を示すグラフである。 躯体の一部分を拡大した断面図である。 実施例1による試験結果を示す図である。 実施例2による試験結果を示す図である。 実施例3による試験結果を示す図である。
以下、本発明に係る耐震補強構造の実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1から図4を参照して、本発明に係る耐震補強構造の実施の形態の構成を説明する。
図1に示す架構100は、ラーメン構造の建築物の架構であり、鉄筋コンクリート造である。この架構100は、隣り合う柱1,1と、それらの柱1,1間に架設された上下の梁10A,10Bと、で構成されている。また、この架構100の梁10A,10Bには、スラブ4,4がそれぞれ一体的に接合されている。
上記した架構100の構面には、耐震補強部材200が設置されている。この耐震補強部材200は、鋼材からなる耐震補強枠であり、その概略構成としては、枠体201と、その枠体201の内側に取り付けられた鉄骨ブレース202,202と、を備えている。枠体201は、架構100の内面に沿って組み立てられた矩形フレームであり、柱1,1に沿って延設されて柱1,1の躯体2に接合された2本の縦架材210,210と、梁10A,10Bに沿って延設されて梁10A,10Bの躯体20に接合された2本の横架材211,211と、で構成されている。鉄骨ブレース202,202は、枠体201の内側に架設された斜め架材であり、その両端が枠体201にそれぞれ接合されている。なお、本実施の形態では2本の鉄骨ブレース202,202がV字状に設けられているが、鉄骨ブレース202,202の本数や配置は適宜変更可能である。
図2は、図1に示す架構100を構成する柱1の横断面を示している。なお、図2では図面を簡略化するために鉄筋の図示を省略している。
図2に示すように、柱1の躯体2の表面には、補強繊維シート5が貼り付けられ、さらにその上に樹脂製の補強塗膜3が被覆されている。これら補強繊維シート5及び補強塗膜3は、躯体2の略全周に亘って(厳密に言えば、枠体201の縦架材210が接合された範囲は除いて)設けられている。つまり、本実施の形態における補強繊維シート5及び補強塗膜3は、断面視の形状が略環状(閉じられた形状、厳密に言えば縦架材210の部分が開いている)、すなわち筒形状に形成されている。また、図1に示すように、本実施の形態における補強繊維シート5及び補強塗膜3は、柱1のうちの上側の梁10Aと下側の梁10Bとの間の区間Hにおける上端部及び下端部にのみ設けられており、柱1の中間部分、及び、梁10A,10Bが接合される仕口部分には補強繊維シート5及び補強塗膜3が設けられていない。なお、補強繊維シート5及び補強塗膜3が設けられた区間の長さhは、柱幅W以上であることが好ましい。
図3は、図1に示す架構100を構成する上側の梁2Aの横断面を示している。なお、図3では図面を簡略化するために鉄筋の図示を省略している。
図3に示すように、上側の梁10Aの躯体20の表面には、補強繊維シート50が貼り付けられ、さらにその上に樹脂製の補強塗膜30が被覆されている。これら補強繊維シート50及び補強塗膜30は、躯体20の下面20a(ただし、枠体201の横架材211が接合された範囲は除く)及び両側の側面20b,20bにそれぞれ設けられている。つまり、上側の梁10Aの補強繊維シート50及び補強塗膜30は、断面視において2つの略L字形のものが線対称に配置された構成となっている。また、補強繊維シート50及び補強塗膜30の上端部はスラブ4の下面に沿って屈曲した形状となっており、補強繊維シート50及び補強塗膜30の端部はスラブ4の下面まで延びている。
図4は、図1に示す架構100を構成する下側の梁2Bの横断面を示している。なお、図4では図面を簡略化するために鉄筋の図示を省略している。
図4に示すように、下側の梁10Bの躯体20の表面には、補強繊維シート50が貼り付けられ、さらにその上に樹脂製の補強塗膜30が被覆されている。これら補強繊維シート50及び補強塗膜30は、躯体20の下面20a及び両側の側面20b,20bにそれぞれ設けられている。つまり、下側の梁10Bの補強繊維シート50及び補強塗膜30は、断面視の形状が略コ字状、すなわちU字溝状に形成されている。また、補強繊維シート50及び補強塗膜30の上端部はスラブ4の下面に沿って屈曲した形状となっており、補強繊維シート50及び補強塗膜30の端部はスラブ4の下面まで延びている。
また、図1に示すように、本実施の形態における補強繊維シート50及び補強塗膜30は、梁10A,10Bのうちの両側の梁端部にのみ設けられており、梁10A,10Bの中間部分には補強繊維シート50及び補強塗膜30が設けられていない。なお、補強繊維シート50及び補強塗膜30が設けられた梁端部の長さlは、梁成D以上であることが好ましい。
[補強繊維シート]
上記した補強繊維シート5,50は、躯体2,20の表面に巻き付けるように貼り付けられる可撓性を有するシートであり、例えば炭素繊維シートやアラミド繊維シートを使用することができる。この補強繊維シート5,50は、躯体2,20の表面に対してエポキシ樹脂を用いて補強繊維シート5,50に樹脂を含浸させながら接着し、CFRP(強化プラスチック)化され、構造体1の耐力を増強させるものである。なお、補強繊維シート5,50を2層以上重ねて貼り付けてもよい。
[補強塗膜]
上記した補強塗膜3,30は、補強繊維シート5,50の表面に吹き付けやローラーなどで塗布される樹脂製の塗膜であって、イソシアネートと、ポリオール及びアミンのうちの少なくとも一方からなる硬化剤との化学反応により形成された化合物からなる。例えば、補強塗膜3,30としては、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物であるポリウレア樹脂を用いることができる。
補強塗膜3,30は、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂からなり、例えばポリウレア樹脂の場合は、図5に示す応力ひずみ特性を有する。補強塗膜3,30を構成する合成樹脂としては、例えば引張強度が鉄筋の十分の一程度の20MPa程度(10〜25MPa)であって、破断伸びが200%以上の物性を有する樹脂からなる。ポリウレア樹脂としては、例えば「スワエールAR−100(登録商標:三井化学産資株式会社製)」が用いられる。なお、補強塗膜3,30の厚さ寸法Dは、2mm以上であることが好ましい。
ここで、躯体2,20に補強繊維シート5,50及び補強塗膜3,30を合わせて被覆する施工方法としては、塗布するコンクリート表面を十分に清掃して塵等を取り除いた後、そこにエポキシ樹脂を用いて補強繊維シート5,50を、補強繊維シート5,50に樹脂を含浸させながら接着する。その後、補強繊維シート5,50の表面にプライマーを塗布した後、そこに補強塗膜材料を所定厚さだけ塗布する。これにより、躯体2,20の表面に補強繊維シート5,50と補強塗膜3,30とからなる補強材が形成される。なお、プライマーの塗布は省略することも可能であり、或いは、補強繊維シート5,50の接着に用いるエポキシ樹脂と躯体2,20との付着性を高めるために躯体2,20の表面を斫って凸凹に加工してもよい。
次に、上記した構成からなる耐震補強構造の作用について、具体的に説明する。
上述したように、本実施の形態では、補強塗膜3,30が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であるため、躯体2,20の変形が塑性域に達しても、補強塗膜3,30が躯体2,20の大変形に追従して伸び変形するので、補強塗膜3,30によって躯体2,20の変形に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、架構100がパンチングシアーに対応することが可能となる。
仮に、高い軸圧縮力や曲げ応力、せん断応力(パンチングシアー)を受けることにより躯体2,20の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、補強塗膜3,30は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜3,30によって躯体2,20の表面が被覆された状態が維持される。これにより、躯体2,20のコンクリート片の散逸が防止され、また、躯体2,20が崩壊せずに自立した形状を保持される(形状保持)。例えば、巨大地震時に高軸圧縮力や曲げ応力、せん断応力(パンチングシアー)を受けることによって破壊が生じたコンクリート片が散乱して避難の障害となったり、そのコンクリート片が周囲に飛散したりするといった被害の増大を防止することができる。
また、補強塗膜3,30は変形抵抗を有しているので、地震時に柱1,1や梁10A,10Bの躯体2,20が撓み変形したときに、補強塗膜3,30の変形抵抗力によって躯体2,20を元の形状に戻す力が働く。その結果、躯体2,20は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられる。
また、補強塗膜3,30を躯体2,20の表面に吹き付けたり塗布したりするだけなので、容易に且つ安価に施工することができ、既設の躯体2,20に対しても容易に施工できる。
また、本実施の形態の耐震補強構造では、耐震補強部材200が、躯体2,20に接合された枠体201を備える耐震補強枠であり、柱1のうちの上側の梁10Aと下側の梁10Bとの間の区間Hにおける上端部及び下端部に補強塗膜3がそれぞれ設けられ、梁10A,10Bのうちの両側の梁端部に補強塗膜30がそれぞれ設けられているため、架構100の躯体2,20のうち、耐震補強部材200によるパンチングシアー破壊が生じ得る箇所が補強塗膜3,30で被覆されていることになる。その結果、パンチングシアー破壊が生じる躯体2,20の形状保持効果を確実に発揮させることができる。
また、本実施の形態の耐震補強構造では、補強塗膜3,30と合わせて補強繊維シート5,50が躯体2,20の表面に貼り付けられているので、架構100の耐力を向上させることができる。すなわち、架構100の耐力を補強繊維シート5,50で行い、変形に対する粘り強さを補強塗膜3,30で行うことができる。
また、図6に示すように、躯体2(20)及び補強繊維シート5(50)にクラックC(ひび割れ)が生じても、補強塗膜3(30)はその伸縮性によって破断しない。この場合、補強塗膜3(30)は伸び変形しているので、補強塗膜3(30)の弾性力によって戻る方向の力Eが作用する。この力は、クラックCの幅を拡げる力Sに抵抗する方向に作用するため、結果的に、クラックCの開き量dが小さく抑えられる。
また、本実施の形態の耐震補強構造では、補強塗膜3,30が躯体2,20のうち3面以上に設けられているので、躯体2,20が補強塗膜3,30によって包み込まれた状態となり、そのようなラッピング効果により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
特に、本実施の形態の耐震補強構造では、柱1の補強塗膜3が躯体2の全周に亘って設けられているので、閉じられた形状(筒状)の補強塗膜3の内側に躯体2が収容された状態となり、上記したラッピング効果が大きくなり、高い形状保持が発揮される。
また、特に、本実施の形態の耐震補強構造では、梁10A,10Bの補強塗膜30が躯体20の下面20a及び両側の側面20b,20bにそれぞれ設けられて断面視略コ字状に形成されているので、U字溝状に形成された補強塗膜30の内側に躯体20が収容された状態となり、上記したラッピング効果が大きくなり、高い形状保持が発揮される。
上述したように、本実施の形態の耐震補強構造によれば、耐震補強が施された架構100の躯体2,20が破壊されても架構100の形状を維持することができる。
次に、上述した実施の形態による耐震補強構造の効果を裏付けるために行った試験例(実施例1、2、3)について以下説明する。
(実施例1)
実施例1では、矩形断面の鉄筋コンクリート製の梁材を試験体に使用し、その梁材の表面にポリウレア樹脂を塗布した試験体1、2、3と、ポリウレア樹脂を塗布しない試験体4とに対して載荷装置を使用した衝撃曲げ試験を行い、ポリウレア樹脂の塗布状況を変えた試験体1〜4の変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
各試験体1〜4の梁材は、縦100mm×横120mmで長さ寸法が1200mmの6面を有する構造体であり、4週強度で25N/mm2のコンクリートを使用している。さらに、試験体1〜4の内部にD13(芯被り35mm)、せん断補強筋D6を使用している。そして、載荷条件としては、試験体1〜4を長さ方向を水平方向に向けて配置し、試験体1〜4の長さ方向の中心部に対して30kNの荷重を準静的な0.0001m/sの速度で載荷を付与した。
ここで、試験体1は梁材の6面に塗布厚4mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体2は梁材の6面に塗布厚2mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体3は梁材のうち長さ方向を水平方向に向けた状態で上面および下面の2面のみに塗布厚2mmのポリウレア樹脂を塗布したもの(4側面にポリウレア樹脂を塗布しない場合)であり、試験体4はポリウレア樹脂を施していないものである。
図7は、上記試験体1〜4において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図7に示すように、試験体4の場合には、変形量δが略40mmで破壊し、その破壊箇所においてコンクリート片が生じた。
上下2面にポリウレア樹脂2mmを塗布した試験体3の場合は、変形量δが略60mmで破壊しているが、ポリウレア樹脂を塗布しない試験体4の場合よりはじん性が高い、つまり拘束効果(ラッピング効果)を有し、一定の形状保持効果があることが確認された。
また、梁材の表面全周(6面)にポリウレア樹脂を塗布した試験体1、2においては、降伏後(図7の降伏点P1より右側)でも30kNの荷重が維持されていることが確認できることから、ラッピング効果が大きく、形状保持効果が高いことがわかる。
(実施例2)
次に、実施例2では、上記実施例1における梁材の6面に塗布厚2mmでポリウレア樹脂を塗布し、衝撃曲げ試験で載荷速度を変えた試験を行い、変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
第1試験T1は4m/s(高速)の載荷速度とし、第2試験T2は0.5〜1m/s(中速)の載荷速度とし、第3試験T3は0.1〜0.5m/s(低速)の載荷速度とし、第4試験T4は0.0001m/s(準静的速度)の載荷速度とした。
図8は、上記第1試験T1〜第4試験T4において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図8に示すように、各試験T1〜T4ともに降伏後でも準静的最大荷重が維持されていることがわかる。このことから、ポリウレア樹脂を梁材の6面全体にわたって塗布する場合には、載荷速度にかかわらず、準静的最大荷重が維持されることを確認することができる。このとき、梁材の試験体は大きく変形し、約5度程度の角度で屈曲していたが、コンクリート片が生じることもなく、梁材としての形状が保持されていた。このように、ポリウレア樹脂を塗布した梁材は、衝撃や持続的な加力に対して有効であり、コンクリート片の発生を防ぐことができることが確認できた。
(実施例3)
実施例3では、矩形断面の鉄筋コンクリート製の梁材を試験体に使用し、その梁材の表面にポリウレア樹脂を塗布した試験体1´、2´と、ポリウレア樹脂を塗布しない試験体3´とに対して載荷装置を使用した衝撃曲げ試験を行い、ポリウレア樹脂の塗布状況を変えた試験体1´〜3´の変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
各試験体1´〜3´の梁材は、縦150mm×横150mmで長さ寸法が450mmの6面を有する構造体であり、4週強度で25N/mm2のコンクリートを使用している。さらに、試験体1´〜3´の内部にD13(芯被り35mm)、せん断補強筋D6を使用している。そして、載荷条件としては、試験体1´〜3´を長さ方向を水平方向に向けて配置し、試験体1´〜3´の長さ方向の中心部に対して30kNの荷重を準静的な0.0001m/sの速度で載荷を付与した。
ここで、試験体1´は梁材の6面に塗布厚4mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体2´は梁材の上面以外の5面に塗布厚4mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体3´はポリウレア樹脂を施していないものである。
図9は、上記試験体1´〜3´において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図9に示すように、試験体3´の場合には、変形量δが略0.65mmで破壊し、その破壊箇所においてコンクリート片が生じた。
上面以外の5面にポリウレア樹脂4mmを塗布した試験体2´の場合は、変形量δが略9mmで破壊しているが、ポリウレア樹脂を塗布しない試験体3´の場合よりはじん性が高い、つまり拘束効果(ラッピング効果)を有し、一定の形状保持効果があることが確認された。
また、梁材の表面全周(6面)にポリウレア樹脂を塗布した試験体1´においては、変形量δが略30〜35mmで破壊しているが、5面にポリウレア樹脂を塗布した試験体2´の場合よりは更にじん性が高い、つまりラッピング効果が大きく、形状保持効果が高いことがわかる。
以上、本発明に係る構造体の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、架構100の内側に耐震補強部材200が設置された構成となっているが、本発明は、架構100の外面に耐震補強部材200が取り付けられた構成であってもよい。また、上記した実施の形態では、耐震補強部材200として、枠体201と鉄骨ブレース202,202とを備えた耐震補強枠が使用されているが、本発明は、鉄骨ブレース202,202に代えてダンパーブレースを設置することも可能であり、或いは、耐震補強枠に代えて、架構100の構面に沿って配設された耐震補強壁を設置することも可能である。なお、耐震補強壁の一例としては、鋼板の外縁にフランジが設けられた鋼製パネルを架構100の内側に複数並設させた構成などが考えられるが、耐震補強壁の構成は適宜変更可能である。
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3が柱1の躯体2の全周に亘って被覆されているが、本発明に係る耐震補強構造は、補強塗膜3が柱1の表面のうちの3面だけを被覆した構成であってもよく、この場合でも、上記したラッピング効果を発揮することができる。さらに、補強塗膜3が柱1の表面のうちの2面或いは1面だけを被覆している構成であってよく、この場合であっても、上記したラッピング効果が発揮されないが、上記した形状保持の効果を奏することができる。
また、上記した実施の形態では、補強塗膜30が梁10A,10Bの躯体20の下面20a及び両側の側面20b,20bに被覆されているが、本発明に係る耐震補強構造は、補強塗膜30が梁10A,10Bの躯体20の下面20a及び両側の側面20b,20bのうちの2面あるいは1面だけを被覆している構成であってよく、この場合であっても、上記したラッピング効果が発揮されないが、上記した形状保持の効果を奏することができる。
また、上記した実施の形態では、躯体2,20の表面に貼り付けられた補強繊維シート5,50の上を補強塗膜3,30が被覆しているが、本発明は、躯体2,20の表面に補強塗膜3,30が塗布され、その上に補強繊維シート5,50を貼り付けた構成であってもよい。この場合、躯体2,20のクラックC(図6に示す)が補強繊維シート5,50に直接伝わらないので、躯体2,20のクラックCに起因する補強繊維シート5,50の破断を防止することができ、その結果、補強繊維シート5,50による補強効果を高めることができる。さらに、本発明は、補強繊維シート5,50を省略することも可能である。
さらに、補強塗膜3,30において、例えばガラス片やガラス繊維、ガラスフリット等を分散させてなる不燃性を有する混入材を、ポリウレア樹脂に混入させることも可能である。あるいは混入材として、例えばコンクリート、煉瓦、瓦、石綿スレート、鉄鋼、アルミニウム、モルタル、漆喰等のガラス以外の不燃材料であっても良い。
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3,30として、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレア樹脂が用いられているが、本発明は、イソシアネートとポリオールとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレタン樹脂を補強塗膜として用いることも可能であり、また、イソシアネートとポリオールとアミンとの化学反応により形成された化合物からなる樹脂を補強塗膜として用いることも可能である。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
1・・・柱
2,20・・・躯体
3,30・・・補強塗膜
5,50・・・補強繊維シート
10A,10B・・・梁
100・・・架構
200・・・耐震補強部材

Claims (6)

  1. 隣り合う柱と該柱間に架設された上下の梁とからなるコンクリート造の架構の構面に、該架構の躯体に接合された耐震補強部材が設置されてなる耐震補強構造において、
    前記躯体の表面に、3面以上に亘って樹脂製の補強塗膜が被覆されており、
    前記補強塗膜が、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、又はウレアウレタン樹脂からなり、前記躯体の表面に塗布された接着性を有するプライマーを介して2〜4mmの塗布厚で被覆されてなり、
    前記躯体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記躯体を元の形状に戻す力が働き、前記躯体の変形後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられ、前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持された状態をなすことを特徴とする耐震補強構造。
  2. 隣り合う柱と該柱間に架設された上下の梁とからなるコンクリート造の架構の構面に、該架構の躯体に接合された耐震補強部材が設置されてなる耐震補強構造において、
    前記躯体の表面に、3面以上に亘って樹脂製の補強塗膜が被覆されており、
    前記補強塗膜が、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、又はウレアウレタン樹脂からなり、前記躯体に凹凸部を介して2〜4mmの塗布厚で被覆されてなり、
    前記躯体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記躯体を元の形状に戻す力が働き、前記躯体の変形後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられ、前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持された状態をなすことを特徴とする耐震補強構造。
  3. 前記耐震補強部材が、前記躯体に接合された枠体を備える耐震補強枠、又は、前記架構の構面に沿って配設された耐震補強壁であり、
    前記柱のうちの上側の前記梁と下側の前記梁との間の区間における上端部及び下端部に前記補強塗膜がそれぞれ設けられ、
    前記梁のうちの両側の梁端部に前記補強塗膜がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震補強構造。
  4. 前記補強塗膜と合わせて補強繊維シートが前記躯体の表面に貼り付けられていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の耐震補強構造。
  5. 前記耐震補強部材と前記柱の躯体とが接合されており、
    前記補強塗膜は、前記柱の躯体の全周に亘って設けられていることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の耐震補強構造。
  6. 前記耐震補強部材と前記梁の躯体とが接合されており、
    前記補強塗膜は、前記梁の躯体の下面及び両側の側面にそれぞれ設けられて断面視略コ字状に形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の耐震補強構造。
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