以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。
なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
また、以下の説明において、n+、n、n−及びp+、p、p−の表記は、各導電形における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわち、n+はnよりもn形の不純物濃度が相対的に高く、n−はnよりもn形の不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p+はpよりもp形の不純物濃度が相対的に高く、p−はpよりもp形の不純物濃度が相対的に低いことを示す。
本実施形態では、一例として、第1導電形をn形、第2導電形をp形とした具体例を挙げる。
(第1の実施形態)
図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る半導体装置の構成を例示する模式図である。
図1(a)には半導体装置110の模式的断面図が表され、図1(b)には図1(a)に示すA部を拡大した模式的断面図が表されている。
図1(a)に表したように、本実施形態に係る半導体装置110は、SiCを用いた例えばDiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。
半導体装置110は、構造体100と、絶縁膜60と、制御電極Gと、第1電極D1と、第2電極D2と、を含む。構造体100は、第1面100aを有する。構造体100は、第1半導体領域10と、第2半導体領域20と、第3半導体領域30と、を含む。
本実施形態では、第1面100aに沿った1つの方向(第1方向)をX方向、第1面100aに沿いX方向と直交する方向(第3方向)をY方向、X方向及びY方向と直交する方向(第2方向)をZ方向ということにする。
構造体100は、X方向に第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30がこの順に並ぶ部分を有する。構造体100は、Z方向に第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30がこの順に並ぶ部分を有する。
第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30は、この順にZ方向に積層される。第1半導体領域10の一部は第1面100aに露出する。第2半導体領域20の一部は第1面100aに露出する。第3半導体領域30の一部は第1面100aに露出する。構造体100の第1面100a側においては、第1半導体領域10の一部、第2半導体領域20の一部及び第3半導体領域30の一部がX方向に並ぶ。第2半導体領域20の一部は、第1半導体領域10の一部と、第3半導体領域30の一部と、の間に設けられる。
構造体100を製造する際には、第1半導体領域10の表面側の一部に第2半導体領域20が形成され、第2半導体領域30の表面側の一部に第3半導体領域30が形成される。
第2半導体領域20は、複数設けられていてもよい。複数の第2半導体領域20が設けられる場合、複数の第2半導体領域20は、X方向やY方向に互いに離間して配置される。第2半導体領域20は、Y方向に延在するライン状、Z方向からみて島状、Z方向からみてリング状など、様々な形状が採用される。
第3半導体領域30は、複数設けられていてもよい。複数の第3半導体領域30が設けられる場合、複数の第3半導体領域30は、X方向に互いに離間して配置される。第3半導体領域30は、例えば第2半導体領域20の形状に合わせてライン状、島状、リング状などに設けられる。
第1面100a側において第1半導体領域10の一部と、第3半導体領域30の一部との間に設けられた第2半導体領域20の一部は、DiMOSFETのチャネルとして機能する部分になる。
絶縁膜60は、構造体100の第1面100aの上に設けられる。絶縁膜60は、DiMOSFETのゲート絶縁膜として機能する。絶縁膜60は、第1面100aに沿って設けられる。絶縁膜60は、第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30の上に設けられる。
制御電極Gは、絶縁膜60の上に設けられる。制御電極Gは、DiMOSFETのゲート電極として機能する。第1電極D1は、第3半導体領域30と電気的に接続される。第2電極D2は、第1半導体領域10と電気的に接続される。
このような半導体装置110において、絶縁膜60は、電荷を捕獲する電荷トラップ領域60aを含む。図1(b)に表したように、絶縁膜60は、第1部分61と、第2部分62とを有する。第1部分61は、絶縁膜60のうち第1半導体領域10に近い側に設けられる。第2部分62は、絶縁膜60のうち制御電極Gに近い側に設けられる。
第2部分62は、電荷トラップ領域60aを含む。電荷は、制御電極Gに印加される電圧によって電荷トラップ領域60aを高速に出入りする。第2部分62は、制御電極Gと接していることが望ましい。これにより、電荷は制御電極Gと電荷トラップ領域60aとの間を高速に移動しやすくなる。また、電荷をより高速に移動させるため、制御電極Gの材料における仕事関数は、Siのミッドギャップと等しいことが望ましい。電荷トラップ領域60aに電荷が捕獲されることで、半導体装置110の閾値が安定化する。
半導体装置110では、制御電極D1に電圧供給部72から制御電圧が印加される。また、第1電極D1及び第2電極D2に電圧供給部70からバイアス電圧が印加される。バイアス電圧にはシフト電圧Vshiftが含まれる。シフト電圧Vshiftは基準電位調整部71によって調整される。電荷トラップ領域60aに電荷が捕獲されると、半導体装置110の閾値はシフト電圧Vshiftに向かい、かつ安定化する。
図2(a)及び図2(b)は、閾値の変化について例示する図である。
図2(a)には、第1オン閾値Vth(ON1)がシフト電圧Vshiftよりも小さい場合の閾値の変化が表され、図2(b)には、第1オン閾値Vth(ON1)がシフト電圧Vshiftよりも大きい場合の閾値の変化が表されている。
図2(a)及び図2(b)において、横軸は制御電極Gに印加される電圧Vを表し、縦軸は第2電極D2から第1電極D1に流れる電流Iを表している。
ここで、DiMOSFETである半導体装置110をオフ状態からオン状態にする際に電流Iが増加し始める電圧(オン閾値)をVth(ON)、オン状態からオフ状態にする際に電流Iが減少し始める電圧(オフ閾値)をVth(OFF)とする。シフト電圧Vshiftは、制御電極Gの基準電位をVa、第1電極D1及び第2電極D2の基準電位をVbとしたとき、基準電位Vaに対して基準電位Vbをシフトさせる外部電圧である。
第1オン閾値Vth(ON1)は、絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれていない場合のオン閾値である。第1オフ閾値Vth(OFF1)は、絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれていない場合のオフ閾値である。
第2オン閾値Vth(ON2)は、絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれている場合のオン閾値である。第2オフ閾値Vth(OFF2)は、絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれている場合のオフ閾値である。
先ず、図2(a)に表したように、第1オン閾値Vth(ON1)がシフト電圧Vshiftよりも小さい場合の閾値の変化について説明する。
絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれていると、オフ状態では、電荷トラップ領域60aに負の電荷が捕獲される。絶縁膜60に負の電荷が含まれることで、オン閾値Vth(ON)は第1オン閾値Vth(ON1)よりもシフト電圧Vshift側に上昇した第2オン閾値Vth(ON2)になる。第2オン閾値Vth(ON2)とシフト電圧Vshiftとの差は、第1オン閾値Vth(ON1)とシフト電圧Vshiftとの差よりも小さい。
オン状態では、電荷トラップ領域60aに正の電荷が捕獲される。絶縁膜60に正の電荷が含まれることで、オフ閾値Vth(OFF)は第1オフ閾値Vth(OFF1)よりもシフト電圧Vshift側に低下した第2オフ閾値Vth(OFF2)になる。第2オフ閾値Vth(OFF2)とシフト電圧Vshiftとの差は、第1オフ閾値Vth(OFF1)とシフト電圧Vshiftとの差よりも小さい。
次に、図2(b)に表したように、第1オン閾値Vth(ON1)がシフト電圧Vshiftよりも大きい場合の閾値の変化について説明する。
絶縁膜60に電荷トラップ領域60aが含まれていると、オフ状態では、電荷トラップ領域60aに正の電荷が捕獲される。絶縁膜60に正の電荷が含まれることで、オン閾値Vth(ON)は第1オン閾値Vth(ON1)よりもシフト電圧Vshift側に低下した第2オン閾値Vth(ON2)になる。第2オン閾値Vth(ON2)とシフト電圧Vshiftとの差は、第1オン閾値Vth(ON1)とシフト電圧Vshiftとの差よりも小さい。
オン状態では、電荷トラップ領域60aに正の電荷が捕獲される。絶縁膜60に正の電荷が含まれることで、オフ閾値Vth(OFF)は第1オフ閾値Vth(OFF1)よりもシフト電圧Vshift側に低下した第2オフ閾値Vth(OFF2)になる。第2オフ閾値Vth(OFF2)とシフト電圧Vshiftとの差は、第1オフ閾値Vth(OFF1)とシフト電圧Vshiftとの差よりも小さい。オン状態では、オフ状態に比べて多くの正の電荷が電荷トラップ領域60aに捕獲される。したがって、第1オフ閾値Vth(OFF1)と第2オフ閾値Vth(OFF2)との差は、第1オン閾値Vth(ON1)と第2オン閾値Vth(ON2)との差よりも大きい。
このように、電荷トラップ領域60aに電荷が捕獲されると、半導体装置110の閾値はシフト電圧Vshiftに近づく。電荷トラップ領域60aに十分な電荷が捕獲されると、半導体装置110の閾値はシフト電圧Vshiftとほぼ等しくなる。すなわち、半導体装置110の閾値は、シフト電圧Vshiftに向かい、安定化する。
ここで、シフト電圧Vshiftは基準電位調整部71から供給される電位によって設定される。したがって、半導体装置110の閾値は、基準電位調整部71から供給されるシフト電圧Vshiftによって調整される。半導体装置110の閾値はシフト電圧Vshiftによって任意に設定され、かつ安定化する。
次に、閾値のスロープについて説明する。
閾値のスロープとは、図2(a)及び図2(b)に表した電流I−電圧V特性において、オン閾値Vth(ON)とオフ閾値Vth(OFF)とを結ぶ線の傾斜のことをいう。第1の閾値のスロープSL1は、第1オン閾値Vth(ON1)と第1オフ閾値Vth(OFF1)とを結ぶ線の傾斜である。第2の閾値のスロープSL2は、第2オン閾値Vth(ON2)と第2オフ閾値Vth(OFF2)とを結ぶ線の傾斜である。
半導体装置110では、第2の閾値のスロープSL2を有する。第2の閾値のスロープSL2の角度は、第1の閾値のスロープSL1の角度よりも大きい。半導体装置110では、電荷トラップ領域60aを含まない半導体装置に比べて閾値のスロープが立ち上がることになる。閾値のスロープが立ち上がることで、オン/オフ切り替え特性(スイッチング特性)が向上し、無駄な電力消費が抑制される。
図3は、閾値の温度変化について例示する図である。
図3において、横軸は温度、縦軸は閾値を表している。図3には、本実施形態に係る半導体装置110、参考例1に係る半導体装置191及び参考例2に係る半導体装置192の閾値変化が表されている。
半導体装置191は、4H−SiCのSi面を窒素終端した基板に設けられたDiMOSFETである。半導体装置192は、4H−SiCのC面を窒素終端した基板に設けられたDiMOSFETである。半導体装置191及び192は、いずれも電荷トラップ領域60aを含まない。半導体装置191及び192では、温度上昇とともに閾値の低下が発生している。これは、高温ほどゲート絶縁膜から負の電荷が放出されやすいため、閾値の低下を招くと考えられる。
本実施形態に係る半導体装置110では、電荷トラップ領域60aに電荷が捕獲されるため、閾値が外部から導入したシフト電圧Vshiftに安定化する。すなわち、半導体装置110においては、大量の電荷トラップを導入するため、温度に依存することなく所望の閾値への安定化が実現される。したがって、半導体装置110では、温度の変化に伴う閾値の変動が少ない。半導体装置110の閾値は、高温でも安定している。
本実施形態に係る半導体装置110では、制御電極Gの基準電位Vaに対して第1電極D1及び第2電極D2の基準電位Vbをシフトさせるシフト電圧Vshiftをデバイスの回路の一部から印加している。
この場合、閾値電圧はこのシフト電圧Vshiftに向かって収束する。つまり、外部から閾値電圧を、所望の値(シフト電圧Vshift)に制御することができるようになる。また、デバイスの完成後にも、シフト電圧Vshiftを変えることで、閾値がシフトして信頼性が損なわれるという問題(閾値シフトの問題)が抑制される。
さらに、使われる場所、時間、またはタイミングによりシフト電圧Vshiftを変更したり、場合によっては時間的に制御してもよい。その場合、シフト電圧Vshiftを所望の値に変動させればよい。
また、閾値電圧を小さな値に制御した方が、制御回路の簡素化、低コスト化、安全性確保などの面からも有利である。その意味では、シフト電圧Vshiftを小さな値、例えば1ボルト(V)などに設定することで、低閾値化が実現される。例えば、高温動作では、閾値変動が発生しやすく、従来の構成では2V程度の低閾値化が下限であった。本実施形態の構成によれば、1V程度の低閾値化が達成される。
また、従来の構成では、デバイスの安定性の観点から、閾値電圧を5Vから7V程度に設計し、高温動作では3V程度になるように設計していた。しかし、閾値電圧が高いとリークが増加するため、5V程度に抑えたい。以上から、外部から与えるシフト電圧Vshiftを1V以上5V以下に設定することが適当である。
本実施形態の構成に対し、電荷トラップのみを導入して、シフト電圧Vshiftを導入しない場合について考える。つまり、基準電位Vaと基準電位Vbとが一致している場合(通常の構成)に電荷トラップを導入したとする。この場合、閾値電圧が限りなくゼロに近づき、温度に依存せず閾値電圧Vthがゼロになる。したがって、通常の構成では電荷トラップは導入されない。
また、シフト電圧Vshiftのみを導入して、電荷トラップを導入しない場合について考える。つまり、電荷トラップを導入しない通常の構成に、シフト電圧Vshiftのみを導入したとする。この場合、閾値電圧Vthは、図3に示す191、192に対して、シフト電圧Vshift分だけ平行に移動する。このような構成では、温度に対する閾値の安定化は達成されない。
このように、電荷トラップ及びシフト電圧Vshiftのいずれか一方のみを導入しただけでは、安定した所望の閾値を得ることはできない。本願発明者らは、電荷トラップ及びシフト電圧Vshiftの両方を導入することで、閾値電圧を図3に示す110のように安定化できることを見出した。
次に、半導体装置110の具体例について説明する。
第1半導体領域10は、高濃度n形(n+形)の炭化珪素(4H−SiC:シリコンカーバイド)を含む基板15の上に設けられる。第1半導体領域10は、例えば低濃度n形(n-形)の4H−SiC層である。
本実施形態では、基板15の上に第1半導体領域10を形成した構造を、デバイス形成用基板として用いる。第1半導体領域10(n-形SiC層)の不純物濃度は、基板15(n+形SiC基板)の不純物濃度よりも低い。第1半導体領域10は、半導体装置110の耐圧保持層となる。
SiCは多くの結晶多形(ポリタイプ)を取り得る。本実施形態では、SiCの結晶多形として4H構造が用いられる。4H構造のSiCを用いた半導体装置110では高い耐圧を得られる。また、バルク中の移動度が高いため、パワーデバイスの作製に適している。
基板15の裏面には、導電性材料を含む第2電極D2が形成される。第2電極D2は、DiMOSFETの例えばドレイン電極になる。第2電極D2は、例えばNi及びTiを蒸着などの積層構造を有する。第2電極D2は、例えば1000℃のアニールを行うことで、基板15の裏面にオーミック接続される。
第1半導体領域10の表面上の一部に、互いに間隔を隔て所定の膜厚の複数の第2半導体領域20が設けられる。第2半導体領域20は、低濃度p形(p-形)のSiC領域である。第2半導体領域20は、構造体100の第1面100aから内部途中の深さまで形成される。2つの第2半導体領域20の間には第1半導体領域10が配置される。第2半導体領域20は、Z方向にみてリング状や蜂の巣状などの形状を有していてもよい。
第2半導体領域20の表面上の一部に、構造体100の第1面100aから内部途中の深さまで所定の膜厚の第3半導体領域30が設けられる。第3半導体領域30は、高濃度n形(n+形)のSiC領域である。
第2半導体領域20の表面上の一部に、コンタクト領域25が設けられる。コンタクト領域25は、第3半導体領域30と並置される。コンタクト領域25は、p形(p+形)のSiC領域である。
このように、第2半導体領域20は、第1半導体領域10と第3半導体領域30との間に設けられる。第2半導体領域20は、第1半導体領域10及び第3半導体領域30のそれぞれと接する。第1半導体領域10と第3半導体領域30とで挟まれる第2半導体領域20にはチャネルが形成される。
絶縁膜60は、構造体100の第1面100aの上に設けられる。絶縁膜60は、第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30の上に連続的に設けられる。絶縁膜60には、例えばSiO2が用いられる。
絶縁膜60の上には、制御電極Gが形成される。制御電極Gは、第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30の一部の上に、絶縁膜60を介して設けられる。
第3半導体領域30及びコンタクト領域25の上には第1電極D1が設けられる。第1電極D1は、DiMOSFETの例えばソース電極になる。第1電極D1は、例えばAl及びNiなどによる積層構造を有する。第1電極D1は、例えば800℃程度の温度で形成され、コンタクト領域25にオーミック接続される。第3半導体領域30は、DiMOSFETのソース領域となる。
半導体装置110では、図1に表した構成が複数並列に配置される。半導体装置110では、並列に配置された構成の全体に電流を流し、制御電極Gへの電圧印加によりスイッチングが行われる。
ここで、絶縁膜60は電荷トラップ領域60aを含む。電荷トラップ領域60aには、例えばSiN膜が用いられる。絶縁膜60の第1部分61は例えばSiO2膜であり、第2部分62は例えばSiN膜である。第2部分62は電荷トラップ領域60aとして機能する。
SiN膜を電荷トラップ領域60aとして機能させるためには、SiN膜がSiリッチであることが必要である。SiN膜がSiリッチであれば、Siのダングリングボンドが多数存在し、電子・ホールともに捕獲しやすくなる。
SiNの組成比(元素の組成比を[元素記号]で表す。以下同様)として、[Si]/[N]=3/4=0.75の時に、ダングリングボンドが無くなり、電荷の捕獲はなくなる。そこから、Siリッチにするに従って、電荷の捕獲量が増加する。したがって、SiNの組成比は、[Si]/[N]>0.75を満たす必要がある。
電荷の捕獲量を多くするには、SiNにおいてSiがより多いほうが好ましく、[Si]/[N]が0.85以上であれば、十分な量の電荷が捕獲される。一方、[Si]/[N]が1.05を超えると、膜全体が金属になり、トラップ電荷による電位調整ができなくなる。つまり、Siの量が多すぎると、隣のダングリングボンドとの相互作用により、次第に、金属的な状態になっていく。金属的な電荷移動がない、Si量の限界は、[Si]/[N]=0.95である。以上のことから、SiNの組成比は、0.75<[Si]/[N]<1.05であり、好ましくは0.85≦[Si]/[N]≦0.95である。本実施形態では、上記範囲の中間量である0.9を適用している。
SiN膜を電荷トラップ領域60aとして機能させるためには、電荷トラップの面密度が重要である。SiN膜は薄い方が電荷の出入りは高速である。したがって、SiN膜の厚さは、8ナノメートル(nm)以下が好ましい。さらに、高速動作を行うためには、SiN膜の厚さは4nm以下が好ましい。
一方、十分に電荷を捕獲するためには、ある程度の厚さが必要である。したがって、SiN膜の厚さは、0.5nm以上必要である。さらに、膜の均一性を保つには、SiN膜の厚さは1nm以上が好ましい。以上のことから、SiN膜の厚さは、0.5nm以上8nm以下であり、1nm以上4nm以下がより好ましい。そして、最適量としては、2.5nm程度である。本実施形態では、SiN膜の厚さとして、2.5nmを適用している。
(第2の実施形態)
次に、本実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を例示するフローチャートである。
図5(a)〜図6(d)は、半導体装置の製造方法を例示する模式的断面図である。
以下、図4、図5(a)〜図6(d)に沿って半導体装置の製造方法の具体例を説明する。
先ず、図4のステップS100に表したように、第1半導体領域10の形成を行う。すなわち、図5(a)に表したように、n+形4H−SiCの基板15の表面上に、n−形4H−SiC層を含む第1半導体領域10を形成する。基板15としては、例えば固体単結晶SiC基板が用いられる。
基板15内の不純物濃度(ドーピング濃度)は、1×1016原子/cm3以上、1×1020原子/cm3未満が好適である。実施形態では、基板15の不純物濃度は、例えば、6×1017原子/cm3である。
基板15としては、(0001)面の六方晶系SiC基板(4H−SiC基板)が好適である。また、実施形態では(0001)面を用いているが、(000−1)面など他の面方位であっても、有効である。
第1半導体領域10は、基板15の表面上にn−形4H−SiC層をエピタキシャル成長することにより形成される。エピタキシャル層を形成する際、原料ガスとして、例えばSiH4ガス及びC3H8ガスが用いられる。また、不純物(ドーパント)としては、N
またはPを用いるとよい。第1半導体領域10は、耐圧保持層となる。
第1半導体領域10の膜厚としては、例えば5μm以上100μm以下が好適であり、高耐圧のデバイス程、厚くすることが望ましい。実施形態では、第1半導体領域10の膜厚は、例えば10μmである。また、第1半導体領域10の不純物濃度(ドーピング濃度)は、8×1014原子/cm3以上、3×1017原子/cm3未満が好適である。実施形態では、第1半導体領域10の不純物濃度は、例えば5×1015原子/cm3である。
次に、図4のステップS102に表したように、第2半導体領域20の形成を行う。第2半導体領域20は、p形不純物のイオン注入によって形成される。すなわち、図5(b)に表したように、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、導電形がp形の不純物を選択的に第1半導体領域10であるSiC層の表面領域に注入する。これにより、p−形4H−SiC領域を含む第2半導体領域20が形成される。
第2半導体領域20における導電性不純物の濃度は、例えば1×1016原子/cm3である。p形の不純物となるAlイオンの注入の条件としては、例えばドーズ量1×1015原子/cm2、エネルギー80keVである。実施形態では、例えば300℃に基板15を加熱して上記のイオン注入を行う。
次に、図4のステップS104に表したように、第3半導体領域30の形成を行う。第3半導体領域30は、n形不純物のイオン注入によって形成される。すなわち、図5(c)に表したように、第2半導体領域20の表面の一部に、選択的にn形の導電性不純物を注入する。これにより、n+形4H−SiC領域を含む第3半導体領域30が形成される。
具体的には、第2半導体領域20の形成に用いた酸化膜のマスクを除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜のマスク(図示せず)を、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成する。そして、新たなマスクの開口部を通して、n形の導電性不純物を注入する。これにより、第3半導体領域30が形成される。
第3半導体領域30における導電性不純物の濃度は、例えば2×1020原子/cm3である。n形の不純物となるNイオンの注入の条件としては、例えばドーズ量1×1015原子/cm2、エネルギー40keVである。実施形態では、300℃に基板15を加熱して上記のイオン注入を行う。第3半導体領域30における導電性不純物の濃度は、1×1014原子/cm3以上5×1020原子/cm3以下が好適である。より好ましくは、5×1015原子/cm3以上3×1020原子/cm3以下である。
次に、図4のステップS106に表したように、コンタクト領域25の形成を行う。コンタクト領域25は、p形不純物のイオン注入によって形成される。すなわち、図5(d)に表したように、第2半導体領域20の表面の他の一部に、第3半導体領域30と隣接するように選択的にp形の導電性不純物を注入する。これにより、p+形4H−SiC領域を含むコンタクト領域25が形成される。
具体的には、第3半導体領域30の形成に用いた酸化膜のマスクを除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜のマスク(図示せず)を、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成する。そして、新たなマスクの開口部を通して、p形の導電性不純物を注入する。これにより、コンタクト領域25が形成される。
コンタクト領域25における導電性不純物の濃度は、例えば2×1020原子/cm3である。p形の不純物となるAlイオンの注入の条件としては、例えばドーズ量1×1015原子/cm2、エネルギー40keVである。実施形態では、300℃に基板15を加熱して上記のイオン注入を行う。コンタクト領域25における導電性不純物の濃度は、1×1014原子/cm3以上5×1020原子/cm3以下が好適である。より好ましくは、5×1015原子/cm3以上3×1020原子/cm3以下である。
次に、図4のステップS108に表したように、アニールを行う。すなわち、上述したイオン注入工程の後、活性化アニール処理を行う。この活性化アニール処理としては、例えばアルゴン(Ar)ガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1600℃、加熱時間30分といった条件が用いられる。このようにして、図5(d)に示す構造を得る。このとき、SiC基板の内部に導入されたドーパントは活性化されるが、殆ど拡散はしない。
なお、第2半導体領域20、第3半導体領域30及びコンタクト領域25の形成に際し、炭素イオンを共ドープしてもよい。この際、ステップS108に表した高温アニールによって、余分な炭素イオンは、第1半導体領域10、基板15及び外部へと拡散してしまい、第2半導体領域20には残っていない。その結果、この段階での炭素イオンの共ドープの有無によるMOS界面の特性変化は観測できないレベルである。
次に、図4のステップS110に表したように、絶縁膜60の形成を行う。すなわち、図6(a)に表したように、第1半導体領域10、第2半導体領域20及び第3半導体領域30の表面全体を覆うように絶縁膜60を形成する。絶縁膜60には、例えばSiO2が用いられる。絶縁膜60には、SiNや高誘電率材料(high−k材料)を用いてもよい。絶縁膜60の形成方法としては、熱酸化法、ウェット酸化法及びCVDなどの堆積法が用いられる。
次に、図4のステップS112に表したように、不純物の導入を行う。実施形態では、不純物としてNが用いられる。図6(b)に表したように、絶縁膜60を介してプラズマ窒化を行う。これにより、絶縁膜60の表面部分にSiN膜による電荷トラップ領域60aが形成される。
次に、図4のステップS114に表したように、第1電極D1の形成を行う。第1電極D1は、例えばソース電極である。第1電極D1を形成するには、先ず、絶縁膜60の上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜(図示せず)を形成する。その後、当該レジスト膜をマスクとして用いて、コンタクト領域25の表面及び第3半導体領域30の表面の一部に位置する絶縁膜60の部分をエッチングにより除去する(図6(c)参照)。
続いて、かかるレジスト膜と絶縁膜60が除去されて形成された開口部によって露出されたコンタクト領域25の表面及び第3半導体領域30の表面の一部に、金属などの導電体膜を形成する。かかる導電体膜が、第1電極D1となる。
その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。また、絶縁膜60の幅をエッチバック等で狭くすれば絶縁膜60と第1電極D1とが接触しないように隙間が形成される。ここで、第1電極D1となる導電体としては、例えば、ニッケル(Ni)が好適である。
次に、図4のステップS116に表したように、アニールを行う。すなわち、アニール工程として、第1電極D1を形成した後に、例えば800℃での熱処理を行う。例えば、アルゴン(Ar)ガス中で加熱時間5分とする。
上記の熱処理により、Ni2Siを含む第1電極D1が形成される。第3半導体領域30には大量のNが導入されているので、このアニール処理によって低い接触抵抗の電極構造が得られる。また、コンタクト領域25には大量のAlが導入されているので、容易に低接触抵抗のコンタクトが得られる。
次に、図4のステップS118に表したように、制御電極Gの形成を行う。すなわち、図6(d)に表したように、絶縁膜60の上に制御電極Gを形成する。制御電極Gには、例えば、n形ポリシリコンが用いられる。
なお、第1電極D1もn形ポリシリコンとして、第1電極D1及び制御電極Gとも、更にNi膜を形成して熱処理を行うことで、NiSi、Ni2Si、NiSi2などのサリサイド膜を電極としてもよい。
次に、図4のステップS120に表したように、第2電極D2の形成を行う。第2電極D2は、例えばドレイン電極である。図6(d)に表したように、第2電極D2は、基板15の裏面上に形成される。第2電極D2としては、例えばNi及びTiの積層構造が用いられる。第2電極D2は、基板15の裏面の例えば全面に設けられる。
次に、図5のステップS122に表したように、アニールを行う。このアニール処理では、800℃程度の熱処理を行う。このアニール処理の条件としては、例えば、アルゴン(Ar)ガス中で加熱時間5分である。かかる熱処理により、第2電極D2と基板15との界面に例えばNi2Siが形成される。これにより、第2電極D2は基板15とオーミック接続される。
以上の工程により半導体装置110が完成する。
次に、電荷トラップ領域60aの他の例について説明する。
電荷トラップ領域60aは、SiN以外に、SiONを含んでいてもよい。この場合、絶縁膜60の第2部分62は、SiON膜である。
電荷トラップ領域60aに含まれるSiONのNの組成比に対するOの組成比は0.01未満である。この場合、SiONはSiNと見なせばよい。
上記の場合、電荷トラップ領域60aに含まれるSiONのNの組成比に対するSiの組成比は0.85以上0.95以下である。
電荷トラップ領域60aに含まれるSiONのNの組成比に対するOの組成比が0.01以上の場合は、電荷トラップ領域60aに含まれるSiONのSiの組成比は、1.13<[Si]/(1/2[O]+3/4[N])<1.27を満たす。
これにより、Siリッチとなって、Siのダングリングボンドが多数存在し、電子・ホールともに捕獲しやすくなる。
SiON膜を電荷トラップ領域60aとして機能させるためには、電荷トラップの面密度が重要である。SiN膜は薄い方が電荷の出入りは高速である。したがって、SiON膜の厚さは、8ナノメートル(nm)以下が好ましい。さらに、高速動作を行うためには、SiON膜の厚さは4nm以下が好ましい。
一方、十分に電荷を捕獲するためには、ある程度の厚さが必要である。したがって、SiON膜の厚さは、0.5nm以上必要である。さらに、膜の均一性を保つには、SiON膜の厚さは1nm以上が好ましい。以上のことから、SiON膜の厚さは、0.5nm以上8nm以下であり、1nm以上4nm以下がより好ましい。そして、最適量としては、2.5nm程度である。本実施形態では、SiON膜の厚さとして、2.5nmを適用している。
電荷トラップ領域60aとしてはSiN膜以外に、Tc、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Co、Ni、W、Mo、Cr、Mn、及びFeよりなる群から選択された少なくとも1つを添加したTi、Zr又はHfの酸化物誘電体を含んでいてもよい。
また、上記の酸化物誘電体は、N、C、B、Mg,Ca,Sr,Ba,Al,Sc,Y,La及びLaよりなる群から選択された少なくとも1つが添加されていてもよい。
図7(a)及び図7(b)は、クラスター状の酸化物誘電体について例示する模式的断面図である。
図7(a)には、クラスター状の酸化物誘電体63を含む絶縁膜60が表されている。図7(b)には、クラスター状の酸化物誘電体63を含む絶縁膜60の製造方法の一例が表されている。
図7(a)に表したように、絶縁膜60はクラスター状の酸化物誘電体63を含んでいてもよい。クラスター状の酸化物誘電体63は電荷トラップ領域60aになる。クラスター状の酸化物誘電体63としては、例えばRuが添加されたSrTiO3、Ruが添加されたHfSiON、Ruが添加されたHfO2である。
クラスター状の酸化物誘電体63を絶縁膜60に形成するには、図7(b)に表したように、絶縁膜60を形成した後、絶縁膜60の上に酸化物誘電体63を含む膜65を形成する。膜65としては、例えばRuが添加されたHfSiO4膜である。膜65を形成した後、アニールを行うことで、クラスター状の酸化物誘電体63が絶縁膜60内に形成される。電荷トラップ領域60aがクラスター状の酸化物誘電体63であると、電荷は、より高速に移動する。
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態に係る半導体装置を例示する模式的断面図である。
図8に表したように、第3の実施形態に係る半導体装置120は、特にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)に適用した例である。
半導体装置120が半導体装置110と異なる点は、n+形SiCによる基板15の代わりに、p+形4H−SiCによる基板17(第4半導体領域)を用いたこと、及び第1半導体領域10が、n+形4H−SiC層を含む第1層11と、n−形4H−SiC層を含む第2層12との積層構造になっていることである。第1半導体領域10は、基板17に接し、基板17の上に設けられる。第1層11及び第2層12は、耐圧保持層となる。
基板17の裏面(下面)には、第2電極D2が形成されている。この第2電極D2はコレクタ電極となる。本実施形態では、第2電極D2として、Ti及びAlの積層膜が用いられる。第2電極D2は、例えば、800℃、Ar中2分のアニール工程によりオーミック接続が得られる。
また、コンタクト領域25の上の第1電極D1は、本実施形態ではエミッタ電極となる。第1電極D1は、第3半導体領域30及びコンタクト領域25とオーミック接続される。
半導体装置120の製造方法は、基板17の上に第1層11及び第2層12を形成する以外は半導体装置110の製造方法と実質的に同じである。
このような本実施形態では、閾値の安定したIGBTが実現される。半導体装置120では、バイポーラ動作になるため、伝導度変調が起こり、オン抵抗が小さくなる。その結果、MOSFETに比べて、通電能力が大幅に高まる。
(変形例)
実施形態では、DiMOSFET又はIGBTに適用した例を説明したが、SiC領域(第1半導体領域10)の表面部にp形の4H−SiC領域(第2半導体領域20)を有し、p形型4H−SiC領域上にゲート絶縁膜(絶縁膜60)を介してゲート電極(制御電極G)を有する構造であれば適用可能である。
例えば、DiMOSFET及びIGBTなどのトランジスタにおいて、トレンチゲート構造を有するものにも適用可能である。また、本実施形態は、JFET(Junction Field Effect Transistor)、ダイオードなど半導体領域と、半導体領域の上に設けられた絶縁膜と、絶縁膜の上に設けられた電極を有するデバイスであれば適用可能である。
また、実施形態では、SiCを用いる例を説明したが、窒化ガリウム(GaN)等の化合物半導体、Si、ダイアモンド、カーボンなど、他の材料を用いてもよい。本実施形態では、例えば80℃を超えるような高温環境下での動作に適したSiC、GaN、ダイヤモンド、カーボンを用いた半導体装置に特に有効である。
以上説明したように、実施形態に係る半導体装置によれば、安定した閾値を得ることができる。
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、実施形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、実施形態の特徴を備えている限り、実施形態の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
例えば、前述の各実施の形態および各変形例においては、第1の導電形をn形、第2の導電形をp形として説明したが、本発明は第1の導電形をp形、第2の導電形をn形としても実施可能である。
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて複合させることができ、これらを組み合わせたものも実施形態の特徴を含む限り実施形態の範囲に包含される。その他、実施形態の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても実施形態の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。